「各国のトピック、最新の法令等の紹介」TNY Group Newsletter No.77
1.日本
(1) AI生成物の著作物性
前回のニュースレターでは、生成AIの出力が他人の著作権を侵害しないかという侵害の観点を取り上げました。今回は逆に、生成AIを用いて作成した文章・画像等それ自体が著作物として著作権法上保護されるか、という権利取得の観点をご紹介します。商用利用する自社コンテンツについて著作権が発生していなければ、第三者による模倣・無断利用を差し止められない可能性があり、実務上重要な視点であるといえます。
(2) 著作物性の判断基準
文化庁が令和6年3月15日に公表した「AIと著作権に関する考え方について」では、AI生成物が著作物として認められるには、人がAIを道具として利用しつつ、創作意図及び創作的寄与が認められることが必要とされています。具体的には、①創作的表現を具体的に示す詳細な指示・入力を行った場合、②生成物を確認しながら指示・入力を修正して試行を繰り返した場合、③生成後の成果物に人が創作的表現といえる加筆・修正を加えた場合には、その部分について著作物性が認められやすいとされます。他方、抽象的なアイデアを示すにとどまる指示、複数の生成物から選ぶだけの行為、単なる試行回数の多さは、それ自体では創作的寄与を基礎づけないとされている点に注意が必要です。
(3)実務上の注意点
自社の生成AI成果物について著作権による保護を確保したい場合、簡単なプロンプトを一度入力して得られた結果をそのまま利用するのではなく、具体的な表現方針を示す指示を行い、結果を確認しながら指示を修正して試行を繰り返し、さらに人の手による創作的な加筆・修正を加えるプロセスを経ることが望ましいといえます。また、後日の著作物性の立証に備え、指示内容の変遷や加筆・修正の過程を記録・保存しておくことも有用といえるでしょう。
2.タイ
(1)タイの個人情報保護法に違反した場合の刑事罰について
タイの個人情報保護法(以下「PDPA」といいます。)は、違反時のペナルティが多様です。「行政罰」「刑事罰」「懲罰的損害賠償制度」が定められていますが、場合によっては多層的に責任を負う場合があります。このうち、「刑事罰」についてはPDPAの第79条から第81条にかけて規定されており、今回は、第81条についてご紹介します。
(2)第81条の構成要件と実務上の意味
ア PDPA第81条は、法人がPDPA上の違反行為を行った場合において、①当該違反行為が取締役、マネージャー又はその行為につき履行責任を負うべき者の指示もしくは行為に起因するとき、または、②これらの者が指示もしくは是正の義務を負いながらこれを怠ったために当該法人が違反行為を行ったときは、当該個人も、当該違反行為について定められた刑罰と同一の刑に処せられる旨を定めています。作為(指示・関与)だけでなく、不作為(監督義務の懈怠)のみでも役員個人が処罰対象となりうる点が特徴といえるいでしょう。そして、科される刑の重さは、法人が実際に違反した条文によって定まることになると解されます。
イ 日本の個人情報保護法と比較すると、日本法は、違反行為を行った従業員等の行為者本人を処罰した上で、その所属法人にも別途罰金刑を科す構造になっており、日本法とタイ法とは構造が異なっていることが分かります。
ウ これらをふまえると、実務上は、タイ現地法人に出向・駐在する日本人役員個人が、法人の違反行為について直接に刑事責任を問われるリスクがある点に留意が必要であるといえるでしょう。指示・是正の実施状況を記録に残すこと、報告ラインを明確にすることなど、平時からの体制整備が重要と考えられます。
3.マレーシア
⑴ 2026年競争法改正法案の概要
2026年6月23日、競争法改正法案(COMPETITION (AMENDMENT) BILL 2026)が議会に提出されました。適用範囲の拡大、マレーシア競争委員会(MyCC:Malaysia Competition Commission)の調査・執行権限の強化、手続き規定の整備などが主な目的です。以下では、現在施行されている競争法を「現行法」、改正法案については「改正法案」と表記します。
⑵ 適用範囲の拡大
改正法案により、競争法の適用対象となる活動は、「商業的活動(commercial activities)」から「商業的又は経済的活動(any commercial or economic activity)」へと拡大されます(改正法案2条(現行法2条(g)(ⅱ)[新設]))。ただし、一定の除外事由が定められています(改正法案3条⑷(現行法3条[改正]))。
また、マレーシア国外で行われた活動であっても、マレーシア国内市場の競争に影響を及ぼすものであれば、適用対象となり得ます(改正法案3条⑵(現行法3条[改正]))。
⑶ 規制対象となる合意の一元化
現行法では、反競争的合意(Anti-competitive agreement)を規制しています。
規制対象となる反競争的合意は、水平的合意または協定垂直的合意であることが要件となっていました。しかし、改正法案4条(現行法4条[改正])において、この区別が削除され規制対象となる合意は単に「合意(agreement)」として一元化されました。これにより、いかなる合意であっても、法4条2項に該当する取引は反競争的合意とみなされます。また、いわゆるハブ・アンド・スポーク型の合意も、より明確に反競争的合意として捕捉される可能性があることに注意が必要です。
⑷ 企業結合規制の見送り
これまでの競争法改正の議論の中、企業結合に対し何等かの規制を設けるべきだという議論が存在しました。しかしながら、今回の改正法案では、それに関する規制の導入は見送られることになりました。もっとも、この議論は引き続きなされていくものと思われるので、企業としては引き続き動向を注視する必要があります。
4.ミャンマー
第3.解雇
1.手続き及び理由
解雇手続き及び理由について、ミャンマー法上は明確な法令上の規定は解雇補償金を除き存在しません。また、日本では整理解雇に関する要件が存在しますが、ミャンマーにおいては基本的には通常の解雇と同様の手続きとなります。したがって、基本的には、解雇補償金を支払えば、日本のように厳格な解雇の合理的理由は必要とされないと解されています。
2.解雇補償金
会社の清算や業績悪化に伴う解雇は従業員の都合ではなく会社都合による解雇となるため、従業員に対して法定の補償を支払う必要があると解されます。補償額は雇用期間に応じて異なり、2015年通知第84号に記載されている以下の額に準じます。
(a) 雇用期間が6ヶ月以上1年未満の場合、給与の0.5ヶ月分
(b) 雇用期間が1年以上2年未満の場合、給与の1ヶ月分
(c) 雇用期間が2年以上3年未満の場合、給与の1.5ヵ月分
(d) 雇用期間が3年以上4年未満の場合、給与の3ヶ月分
(e) 雇用期間が4年以上6年未満の場合、給与の4ヶ月分
(f) 雇用期間が6年以上8年未満の場合、給与の5ヶ月分
(g) 雇用期間が8年以上10年未満の場合、給与の6ヶ月分
(h) 雇用期間が10年以上20年未満の場合、給与の8ヶ月分
(i) 雇用期間が20年以上25年未満の場合、給与の10ヶ月分
(j) 雇用期間が25年以上の場合、給与の13ヶ月分
3.事前の通知
解雇を行う際には1か月前の通知またはそれに代わる1か月分の補償が必要となることから、少なくとも1か月前に労働者に対して通知する必要があります。さらに、その後の紛争を避けるため、残された債権債務が存在しない旨等を含んだ退職に関する誓約書または合意書にサインを得ることが望ましいです。
5.メキシコ
(1) 産業財産権保護法規則の概要
2026年4月28日、メキシコの連邦官報において、産業財産権保護法の新たな施行規則(Reglamento de la Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)が公布され、一部の規定を除き、2026年7月23日に施行されました。なお、新規則の施行時に係属中の案件については、原則として、その申請時に有効であった規定に従って手続が継続されます。旧規則が全79条でであったのに対し、新規則は全202条となり、全10章で構成されています。
(2) 新規則で新設された章の概要
① オンラインによる行政上の侵害認定手続(第184条~第189条)
規則では、行政上の侵害認定手続について、法律上の利益を有する者の申立てにより、メキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial:IMPI)の電子サービスを通じてオンラインで行うことができる旨が定められています。当事者は、電子署名を用いて電子ファイルにアクセスし、文書を提出することができます。電子署名付きの電子文書等は、自筆署名のある文書と同一の効力及び証拠価値を有します。電子サービスは1年を通じて毎日24時間稼働し、休日に提出された文書は翌営業日に提出されたものとして取り扱われます。なお、本手続に関する規定は、実施のための合意(Acuerdo)が連邦官報に掲載された日の翌日に施行されることとされており、2026年8月20日現在、まだ施行されていません。
② 特許・登録の決定を求める手続(第190条~第192条)
特許又は登録の手続について、所定の期間内にIMPIが最終決定を行っていない場合、IMPIに決定の発出を求める手続を申請することができます。申請には、対象となる申請等の提出日、事件番号及び決定の発出が認められるべき理由を記載する必要があります。最終決定までの期間を算定する際には、申請人に起因する遅延、法律及び規則に定める追加期間、IMPIの作為若しくは不作為に起因しない期間又はIMPIの管理が及ばない期間、休日、不可抗力等は算入されません。
③ 技術移転登録簿(第193条~第196条)
IMPIが管理する技術移転登録簿が設けられ、ライセンス契約、知的財産権の譲渡、秘密保持契約、共同研究契約など、技術又は知識の移転を伴う契約等のうち、当事者が第三者に対する効力を求めるものが登録されます。登録は契約自体の有効要件ではありませんが、第三者に対抗するための要件とされ、登録されていない場合でも当事者間における効力には影響しません。登録された契約等については、当事者、関係する産業財産権、有効期間、適用地域などを記載した公開版が作成されます。公開に際しては、営業秘密や当事者の競争上の地位を損なうおそれのある情報は保護されます。
④ 裁判外紛争解決手段(第197条~第202条)
行政上の侵害認定手続において、IMPIは、代替的紛争解決手段により、産業財産に関する紛争の和解による解決を促進することができます。和解手続は任意性、秘密保持、公平性等の原則に従い、対面のほか、ビデオ会議等のオンライン方式でも実施できます。和解は、IMPIによる最終決定が出される前であれば、第三者の権利を害さず、公序に反しない限り、手続のいずれの段階でも行うことができます。和解により成立した合意は書面又は電子形式で作成され、権限を有する当局の承認後は、当事者を拘束する効力を有します。
6.バングラデシュ
⑴ 2026年越境デジタル商取引政策の概要
2026年7月22日、バングラデシュ商務省(Ministry of Commerce)は、2026年越境デジタル商取引政策」(Cross-Border Digital Commerce Policy, 2026、以下「本政策案」といいます)の草案を同省ウェブサイト上で公表しました。本政策案は、デジタルプラットフォームを通じた越境での商品・サービスの輸出入を包括的に規律するとともに、決済プロセス、広告、消費者保護をはじめとする関連する事業活動についても規律するものです。本政策案の内容は、今後、意見募集・関係機関協議を経て内容が修正される可能性がある点にご留意ください。
⑵ デジタルビジネスID(DBID)登録義務
本政策案は、越境デジタル商取引活動を行う事業者に対し、デジタルビジネスID(DBID)の取得を義務付けています。特に、バングラデシュ国内において企業を設立せず、海外から現地消費者向けにオンライン小売販売を行う外国事業者についても、バングラデシュでのDBID登録が求められていることに注意が必要です(本政策案3.7項、5.3項)。
⑶ 現地でのオンライン広告出稿に関する規制強化
外国企業がバングラデシュ国内に会社を設立することなく、国内向けにオンライン広告を出稿することが禁止されます(本政策案8.3項)。GoogleやFacebook、YouTube等のプラットフォームを通じて現地消費者向けにデジタル広告を展開している場合は、現地法人の設立、または国内に拠点を持つ主体を通じた出稿体制への切り替えが必要となる可能性があります。
⑷ 輸出入時の通関書類へのプラットフォーム名明記義務
オンラインマーケットプレイスまたはデジタル商取引プラットフォームを通じて輸入・輸出される商品について、輸入申告書(Bill of Entry)、船荷証券(Bill of Lading)またはインボイスに、購入者名に加えて当該マーケットプレイス・プラットフォームの名称を記載することを義務付けられました(本政策案6.5項、9.2項)。あわせて、税関当局の自動化システム(ASYCUDA World)およびバングラデシュ・シングルウィンドウ(BSW)と、当該プラットフォームとの間でAPI連携を確立することが求められています(本政策案9.2項)。
⑸ 外貨送金・決済に関する規律(エスクロー制度・外国為替規制法との関係)
越境デジタル商取引における決済の信頼性確保のため、バングラデシュ銀行と連携した越境エスクローサービスの導入を義務付けています (本政策案6.2項)。
現地法人を通じて越境取引を行っている場合は、既存の外貨送金実務(信用状ベースの決済等)に加え、エスクロー経由での決済フローへの対応や、送金期限の遵守がより厳格に求められる可能性がある点に留意が必要です。
⑹ 返品・返金に関する消費者保護規定
代金引換方式における返品・返金について購入者・販売者双方が契約に従う義務を負う旨が規定されています(本政策案17.1項)。前払い商品について品質不適合があった場合、販売者は契約に従って返品を受け入れ、支払われた全額を条件なく返金する義務を負い(本政策案17.2項)、欠陥品・期限切れ品・偽造品を提供した場合、返金の際に顧客が支払った全額を、原則として顧客が支払いに用いたのと同一の手段(またはエスクロー制度に従った方法)で返金することが義務付けられています(本政策案17.3項)。表示された商品説明と実際の商品特性が異なる場合の返品・返金についても別途規定されています(本政策案17.4項)。
⑺ 知的財産権侵害品の取扱いに関する規定
知的財産権に関連する商品・サービスの輸出入について、バングラデシュ著作権法、商標法、知的財産権行使(輸出入)規則、特許法等が適用されます(本政策案12.1項)。あわせて、知的財産権を侵害する偽造品をデジタルプラットフォーム・SNS・オンライン上で展示・販売することを禁止されます(本政策案12.2項)。
7.フィリピン
フィリピンの60-40規制:「株数では60%、出資額では1.5%」は許されるか
フィリピンで土地を保有する現地法人は、憲法上、株式の60%以上をフィリピン国民が保有していなければなりません。現地法人でよく見かけるのが、額面の低いA種株式をフィリピン人に、額面の高いB種株式を日本側に割り当てる設計です。株数では60対40、しかし出資額では日本側が98%超という構造です。
この適否は、SECが定める2段階テストで判定されます。第1段は「議決権のある発行済株式」の60%以上がフィリピン国民保有か、第2段は「議決権の有無を問わない全発行済株式」の60%以上がフィリピン国民保有か。両方を満たす必要があります。
重要なのは、いずれも「株数」で数える点です。払込金額は考慮されません。したがって上記の構造は、額面差にかかわらず形式的にはテストを通過します。
なお「A種・B種それぞれに60%要件がかかるのでは」という疑問をいただくことがありますが、最高裁はクラス別の適用を明確に否定しています。
もっとも、テストを通ることと安全であることは同義ではありません。フィリピン人株主の出資が名目的な場合、Anti-Dummy Law上の問題が残ります。
実務上の確認ポイントは①定款のA種・B種の配当・残余財産分配条項(株数比例か額面比例か)、②フィリピン人株主の出資原資となります。
8.ベトナム
(1) ベトナムにおける法定有給祝日
ベトナムで勤務する従業員は、ベトナム人従業員及び外国人従業員のいずれも、以下の祝日について、全額有給の休暇を取得する権利があります。
| 番号 | 祝日 | 有給休日日数 | グレゴリオ暦上の日付 | 備考 |
| 1 | 元日 (グレゴリオ暦) | 1日 | 1月1日 | |
| 2 | 旧正月休暇 | 5日 | 旧暦に基づく | 旧暦1月1日から5日までです。グレゴリオ暦では、この期間は通常、1月中旬から2月中旬までの間に該当します。 具体的な有給休暇日程は、政府が毎年発表します。 |
| 3 | フン王記念日 | 1日 | 旧暦に基づく | 旧暦3月10日であり、グレゴリオ暦では通常、3月下旬から4月までの間に該当します。 |
| 4 | 南部統一記念日 | 1日 | 4月30日 | |
| 5 | 国際メーデー | 1日 | 5月1日 | |
| 6 | 建国記念日 | 2日 | 9月2日及びその直前又は直後の1日 | 使用者は、建国記念日の追加の有給休暇日を、9月2日の前日又は翌日のいずれかに指定することができます。 しかし、実務上は、政府が発表する年次祝日日程に従い、建国記念日の2日目の有給休暇についても当該日程に合わせて設定することが一般的です。 |
| 7 | ベトナム文化の日 | 1日 | 11月24日 | 2026年7月1日施行の国会決議により新設されました。 |
(2) 外国人従業員に対する追加の有給祝日
上記の祝日に加えて、ベトナムで勤務する外国人従業員は、自国の伝統的な新年について追加で1日の有給休暇を取得する権利があります。また、その国籍国の建国記念日についても、追加で1日の有給休暇を取得する権利があります。
(3) 現行ベトナム法令に基づく有給祝日に関する主な留意事項
有給祝日の取扱いについては、上記の休暇日数に加え、実務上、以下の点にも留意する必要があります。
① 有給祝日における勤務
有給祝日に時間外労働を行った従業員は、適用される賃金の少なくとも300%に相当する賃金を受け取る権利があります。なお、日給制の従業員については、当該300%の賃金とは別に、祝日分の賃金が支払われます。
また、当該時間外労働が夜間に行われた場合、従業員は、法定の夜間労働に対する30%の割増賃金に加え、有給祝日の昼間勤務に対して適用される賃金の20%に相当する追加賃金を受け取る権利があります。
② 振替休日
法定有給祝日が従業員の週休日と重なる場合、従業員には、その次の勤務日に振替休日が付与されます。
③ 祝日に関する賞与
現行のベトナム労働法上、従業員が有給祝日を取得する権利を有することのみを理由として、又は当該祝日を記念若しくは祝うことのみを目的として、使用者に対して賞与の支払が一般的に義務付けられているわけではありません。賞与の支給については、使用者が定める賞与規程等に従うことになります。
④ 有給祝日に関する規定の不遵守に対する罰則
現行規則に基づき、有給祝日に関する要件に違反した場合、最大4,000万ベトナムドンの行政罰金の対象となる可能性があります。なお、個別の事案に適用される具体的な罰金額は、行政処分が科される時点で有効な法令に応じて異なる場合があります。
9.インド
前号に引き続き、2026年改正倒産・破産法典(Insolvency and Bankruptcy Code (Amendment) Act, 2026、以下「本改正法」といいます)について解説いたします。なお、2016年に制定された倒産・破産法(以下「IBC」といいます)は廃止されず、引き続き効力を有します。
⑺ 解決計画に関する改正
(a) 解決計画に反対した金融債権者に対する支払保護基準の変更
解決計画に反対した金融債権者に対する支払保護基準が改定され、以下の①・②のうちいずれか低い方の金額を下回らない金額を支払わなければならないこととされました(本改正法18条(IBC30条(2)(ba)〔新設〕))。
①清算(IBC53条)により当該債権者が受領する金額
② 解決計画に基づく分配が同条(1)の優先順位に従って行われた場合に当該債権者が受
領したであろう金額
ただし、この基準は、本改正法の施行前にすでに債権者委員会が解決計画を承認した事案、清算命令が発せられた事案、または清算への移行が承認された事案には遡及適用されません(本改正法18条(IBC30条(2)Explanation II〔新設〕))。
(b) 二段階承認制度の導入
債権者委員会の議決権の66%以上の承認を条件として、裁定機関がまず解決計画の実施を承認し、その実施承認日から30日以内に、当該計画に定められた分配方法を別途承認するという二段階承認制度が新たに導入されました(本改正法19条(IBC31条(1)第2但書〔新設〕))。
(c) 「クリーン・スレート」原則の明文化
解決計画に別段の定めがない限り、解決計画の承認前に生じた企業債務者またはその資産に対する請求は消滅し、当該請求に基づく手続は継続または新たに提起することができない、といういわゆる「クリーン・スレート」原則が明文化されました(本改正法19条(IBC31条(6)〔新設〕))。ただし、これはプロモーター、経営に携わる者、保証人または連帯責任を負う者には影響を及ぼさない旨が明記されています(本改正法19条(IBC31条(6)Explanation I〔新設〕))。
(d) モラトリアムまたは解決計画違反の非刑事罰化
モラトリアムおよび承認された解決計画の違反が非刑事罰となりました。これにより、これらの違反は刑事責任を生じさせず、金銭的制裁という民事上の効果のみを受けることとなります。
⑻ 清算手続における柔軟性の拡大
(a) 企業倒産処理手続(CIRP)への復帰
債権者委員会が解決計画を提出できなかった場合、またはCIRP期間が満了した場合であっても、裁定機関は、債権者委員会の議決権の66%以上の賛成による申立てにより、最大120日間、手続をCIRPに復帰させることができます。ただし、かかる復帰が認められるのは一度限りです(本改正法20条(IBC33条(1A)、(1B)〔新設〕))。
(b) 清算によらない解散
債権者委員会が、清算に代えて解散を選択することを認める制度が導入されました。裁定機関は、残余資産の処分方法を決定した上で、解散命令を発することができます(本改正法20条(IBC33条(2A)〔新設〕)、本改正法33条(IBC54条(2A)、(2B)〔新設〕))。
(c) 清算人の交代
清算人については、従来は裁定機関による選任のみが認められていましたが、債権者委員会が議決権の66%以上の議決により、別の倒産専門家に交代させることが可能となりました(本改正法22条(IBC34A条〔新設〕))。
(d) 担保権実行を求める担保付債権者の期限
担保権を実行しようとする担保付債権者は、清算開始日から14日以内にその旨を清算人に通知しなければならず、これを怠った場合、当該担保権は清算財団に放棄されたものとみなされます。さらに、同一資産について複数の担保付債権者が権利を有する場合、債権額の66%以上を代表する担保付債権者の同意がない限り、実行は認められません(本改正法31条(IBC52条(2)〔改正〕))。
⑼ 債権者主導型倒産処理手続(Creditor-Initiated Insolvency Resolution Process)の導入
債権者主導型倒産処理手続(CIIRP)が新たに導入されました。これは、未払金融債務の51%以上を保有する届出済みの金融債権者が、企業債務者に意見陳述のための30日間の猶予を与えた後、倒産手続を開始することを認めるものです。金融債権者は、企業債務者からの回答を踏まえた上で、その回答から30日以内に届出済み債権者クラスの51%の承認を得て、解決専門家を選任することができます(本改正法40条(IBC58A条~58K条〔新設〕))。
⑽ グループ倒産
中央政府が、既に倒産手続が開始されている同一企業グループに属する2以上の企業債務者について、その解決のための包括的な仕組みを定めることを可能にする、グループ倒産に関する授権的枠組みが導入されました。この枠組みは、相互に関連する企業構造が関わる事案において統合的な倒産処理アプローチを促進し、価値の毀損を軽減するとともに、断片化された事業体ごとの個別手続に伴う非効率性に対処することを企図しています。
運用の詳細は規則により中央政府が定めることとされていますが、本改正法は、裁定機関の共通ベンチの構成、並行する倒産手続の調整、共通の解決専門家の選任、および必要に応じた共通の債権者委員会の構成といった措置を想定しています。グループ倒産の枠組みは、倒産手続に付されている企業債務者にのみ適用され、支払能力のあるグループ企業には及びません(本改正法42条(IBC59A条〔新設〕))。
⑾ クロスボーダー倒産
本改正法は、インド国外で登録された企業に関連する債務者の区分について、倒産手続の承認、救済の付与、司法協力、支援および調整を含む、国境を越える倒産手続の運用および実施に関する規則を中央政府が定めることを規定しています。これには、国境を越える倒産事案を扱うための特別な審理体制の指定が含まれます。規則の内容は今後定められる予定です(本改正法71条(IBC240C条〔新設〕))。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦では、旧民法(1985年連邦法第5号)を改正した新民法(2025年連邦令第25号)が2026年6月1日に施行されました。
新民法は、別段の規定がない限り、遡及的に適用されません(第4条1項)。その他の新旧法の適用に関する規定に変更はありません(第4条2項から第9条)。
法源と抵触法に関する改正点は次の通りです。
(1) 法源
旧民法と同様に、明確な規定についてイジュティハード(イスラム法学者による解釈)は認められず、法の規定がないときにはシャリーア(イスラム法)に従って判断され、シャリーアがないときには、公序良俗に反しない限りウルフ(慣習)に従うと規定しますが、慣習がないときには自然法と正義の原則に基づき判断することが付加されました(第1条)。法規定の理解・解釈・構成はウゥール・アル・フィクフ(イスラム法学)の理論と原則に従うこと(第2条)に変更はありません。
公序に関しては、公序に関する事項を列挙する方式に変更され、シャリーアの確定的な判断、統治の仕組み、婚姻・相続等のムスリムの身分事項に加えてUAEの成文法の強行規定が含まれるとされた(第3条)一方、旧民法で例示されていた取引の自由、財産の移転、私有財産の原則等の社会生活の基礎をなす事項は除外されています。
(2)抵触法
第1章3節(第10条から第30条まで)では、旧民法(第10条から第28条)と同様に国際的な法律行為に関して適用する法律(準拠法)が規定されていています。
婚姻・相続等の身分事項の準拠法に変更があります(第12条~14条、第17条)。
契約に関しては、契約当事者の明示の合意が優先されることとされ、合意がない場合に共通の住所地の法により、共通の住所地がないときには、その他の法の適用が意図されていたことが状況により明白でない限り、主たる契約義務を履行される国の法律が準拠法とされることに変更されました(第19条)。ただし、民法の規定で準拠法とされた外国法がUAEの公序良俗に反するときは、適用されないとの規定が存続している(第29条(旧第27条))ので注意が必要です。
11. インドネシア
(1)インドネシアにおける輸出入規制の概要
インドネシアにおける輸出入において着目すべき法規制は多岐にわたります。その中でも重要であり、常に最新の改正状況を確認すべきものとして、貿易法(2014年第7号法律、2023年第6号法律による改正等)、輸出入の一般規制に関する商業大臣規則、および輸出入禁止品目に関する商業大臣規則などが挙げられます。
インドネシアは、国内需給や産業政策等の観点から輸入を厳しく規制する傾向があり、輸出に関しても、ニッケルなどの未加工鉱石や原木などの輸出禁止規制に加え、品目に応じて輸出数量の制限や国内供給義務(DMO)等が課される場合があります。
貿易規制に関する法改正は極めて頻繁であり、輸出入禁止・制限品目の見直しや申請システムの変更など、常に最新の規則を確認することが重要です。
(2)インドネシアへの輸入時における主な規格規制・認証制度
自国産業保護の傾向が強いインドネシアでは、非関税障壁の意味合いを持つ規制も多く、輸出入時の手続負担は大きいといえます。
・SNI(インドネシア国家規格):強制適用対象品目(一部の家電、特定の鋼材、玩具、一部の食品・飲料など)はSNIマークの表示が必須です。
・BPOM関係手続(食品医薬品監督庁):加工食品、医薬品等について、品目に応じて流通許可・登録等が必要です。
・ハラル認証(BPJPH):国民の約90%がイスラム教徒であり、ハラル製品保証法に基づき、食品・飲料、化粧品、医薬品などで段階的な義務化が進行中です。
・通信機器認証(DJID所管、旧SDPPI):通信機器・通信設備等に該当する製品について、原則として所定の認証が必要です。
(3)輸出入手続に利用される主な政府システム
インドネシアの貿易手続では、主に4つの政府システムが相互にデータ連携されています。
- 【事業登録】 OSSシステム
輸入を行う事業者は、「NIB(事業識別番号)」を取得し、当該NIBを輸入業者登録番号(API-UまたはAPI-P)として機能させます。
API-U(一般輸入番号)は、輸入した商品を販売または第三者に移転する事業者向けの番号であり、API-P(製造業者輸入番号)は、自社の生産活動等に使用する資本財、原材料、補助材料等の輸入に用いられます。事業者は1社につきいずれか片方のみ取得が可能です。
- 【商業省の許認可処理】 INATRADE(商業省システム)
SINSWを通じて申請された「輸入承認(PI)」や「輸出承認(PE)」等について、商業省側で審査・発行等の処理を行い、その結果をSINSWに連携するシステムです。
- 【国家統合ハブ】 SINSW / INSW(National Single Window)
商業省(INATRADE)、税関(CEISA)、BPOM(食品医薬品監督庁)、インドネシア検疫庁など数多くの行政機関のシステム・情報を連携・統合するシステムです。
- 【通関手続】 CEISA 4.0(財務省関税・物品税総局〔DJBC〕ポータル)
輸入者・輸出者または通関業者(PPJK)が「輸入申告書(PIB)」や「輸出申告書(PEB)」を提出し、関税等の計算・納付、審査・検査等の通関手続を行うポータルです。輸入申告については、赤レーン/緑レーン等の審査区分の判定が行われます。
(4)実務上のポイント
インドネシアの貿易規制(商業大臣規則など)は頻繁に改正され、HSコード単位での対象指定や、申請システム(INSW)の仕様変更が度々発生します。取り扱い品目の最新の適用条文については、商業省、インドネシア税関(DJBC)またはINSWの最新情報を都度確認することが重要です。
- INSW(National Single Window)内の「INTR」-輸入規制・HSコード検索
インドネシア関税および輸出入規制が確認できる公式データベースです。ページ上部の「INTR」メニューから、HSコードごとの規制内容や品目に関する根拠法令が確認できます。
・サイト名:Indonesia National Single Window (INSW) ・URL:https://www.insw.go.id/