「COVID-19関連の入国規制および職場の労働安全衛生に関する法制度の概要」 TNY Group Newsletter No.33
第1.各国のCOVID-19関連の入国規制 |
1.日本
(1) 外国人の入国制限について
2022年10月11日以降、全ての外国人の新規入国について、日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請は求められなくなり、68の国・地域に対する査証免除措が再開されました。以下の国・地域に対するAPEC・ビジネス・トラベル・カード取り決めに基づく査証免除も再開されました。
地域 | 国・地域 | ||||||
アジア | インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、台湾 | ||||||
大洋州 | オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド | ||||||
中南米 | チリ、ペルー、メキシコ | ||||||
欧州 | ロシア |
外務省HP新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省 (mofa.go.jp)
(2) 日本入国時の検疫措置について
2022年10月11日から、日本入国時の検疫措置は原則として実施せず、入国後の待機等を求めないこととなりました。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書または出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要とされています。
有効なワクチン接種証明 | 陰性証明書 (出国前検査) |
質問票 | 入国時検査 | 入国後の待機期間 |
あり | 不要 |
必要
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なし
|
なし
|
なし | 必要 |
2.タイ
タイでは、2022年10月1日から入国規制等が以下のとおり緩和されています。
(1)タイ入国時の規制緩和
- タイ入国時のワクチン接種証明書又は陰性証明書の提示は不要。
- 日本を含むビザ免除国/地域からの渡航者の滞在可能期間を30日から45日に延長(2023年3月末までの措置)。
(2)タイ国内における感染対策緩和
- マスク着用は混雑した場所や換気の悪い場所において推奨されるが、義務ではなくなる。
- 新型コロナ感染者のうち、軽症又は無症状の人は自己隔離不要で外出可能。ただし、5日間はDMHT対策(Distancing:距離の確保、Mask Wearing:マスク着用、Hand Washing:手洗い、Testing:検査(症状が表れた場合))が推奨される。
- 高齢者や特定の疾患を有する高リスクの感染者は、10日間、自身による健康観察(5日目と10日目にATKによる検査)が推奨される。
- 企業・団体は、定期的に従業員を観察することが推奨される(感染者数が大きく増加する場合は、直ちに関係当局に報告)。
- 引き続きワクチン接種は推奨される。
3.マレーシア
2022年8月1日以降、ワクチン接種完了の有無に関係なく渡航前の陰性証明書の取得、入国後検査、及び隔離が不要となっています。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、マレーシア政府開発のMySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力しアクティベートさせておくことが要請されています。
4.ミャンマー
2022年12月1日より、ミャンマー入国の条件となっている「到着 14 日以上前に接種した承認済み ワクチンの(2 回)接種証明書」又は「到着前 48 時間以内に発行された RT-PCR 陰性証明書」を所持している方は、5 月 1 日より求められていた、 ミャンマー到着後の空港における RDT 検査の受検が不要となりました。(ただ し、入国時のスクリーニング(検温)で新型コロナウイルス感染症の症状 がある場合は、引き続き、RDT 検査が実施されます。)
e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。
5.メキシコ
メキシコへの入国について、政府による入国制限等は行われていません。
6.バングラデシュ
WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。
7.フィリピン
フィリピン検疫局は、改定されたフィリピン入国ガイドラインを発表しました。
(1)完全にワクチンを接種した者(Fully vaccinated)
以下の条件を両方満たす場合は、完全にワクチンを接種した者と見なされ、出発国出発前の検査を免除されます。
(a) 出発国からの出発日時から遡って14日以上前に、ファイザーなど2回接種する種類のワクチンを2回接種済み、またはヤンセンなど1回接種する種類のワクチンを接種済みのこと。
(b) 以下のいずれかで発行したワクチン接種の証明書を携帯/所持していること。
ア 世界保健機関(WHO)が発行した国際ワクチン接種証明書(ICV)
イ VaxCertPH
ウ 外国政府の国または州の紙面/デジタルの接種証明書
エ その他のワクチン接種証明書
(2) ワクチン未接種、一部ワクチン未接種、ワクチン接種状況を検証できない者
(a) 15歳以上の者および同伴者のいない15歳未満の未成年者
ア フィリピン到着時に、出発国の出発日時から遡って24時間以内(経由便利用者は乗り継ぎ空港の敷地外ないし乗り継ぎ国に入域・入国していないことが条件)の陰性の抗原検査結果を提示することが必要です。
イ 上記アの抗原検査で陰性の証明を提示できない者は、空港到着時に医療施設、研究所、診療所、薬局、又はその他の同様の施設で医療専門家によって実施および認定された検査室の抗原検査を受ける必要があります。
ウ 上記イの抗原検査で陽性となった場合には、フィリピン保健省(DOH)の検疫、隔離規則に従うことになります。
(b) 同伴者のいる15歳未満の未成年者
同伴する成人又は保護者の検疫規則に従うとされています。
8.ベトナム
新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(観光目的、ビジネス目的いずれであっても)、
- ベトナム滞在期間が15日以内であること
- ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
- ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと
という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。
また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。
第2.各国の職場の労働安全衛生に関する法制度の概要 |
1.日本
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)は、労働基準法(第22年法律第49号)と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています(第1条)。この目的を達成するための施策として、事業者対して労働災害防止計画の立案と安全衛生管理体制の確立を義務付けるとともに、労働者の健康保持推進のための措置の実施を求め、労働者への危険や健康被害を最小化するために特定の機械等・危険物・有害物を規制し、免許取得者のみが取り扱うこととし、違反事業者への罰則が規定されています。以下では、これらのうち、事業者の義務として規定されている主な項目を紹介します。
- 安全衛生管理体制
作業内容や現場の規模によって、総括安全衛生管理者、産業医、安全管理者・衛生管理者・安全衛生推進者、衛生推進者、作業主任者等の人員と安全委員会・衛生委員会の設置が義務付けられています。
労働者に対する安全衛生教育として、労働災害防止業務従事者能力向上教育(第19条の2第1項)、雇入時及び作業内容変更時の安全衛生教育(第59条第1、2項)、新任職長等に対する安全衛生教育(第60条)、危険有害業務に対する特別教育及び安全衛生教育(第59条第3項、第60条の2第1項)を事業者は実施する義務があります。
また、仕事の一部を請負に出している場合、業種にかかわりなく、最初に注文者から仕事を引き受けた元方事業者には、関係する請負人や請負人の労働者が関係法令に違反しないように指導し、違反する場合には是正のため必要な指示を行うことが義務付けられ(第29条)、更に、建設業及び造船業の元方事業者には、協議組織の設置・運営、作業間の連絡・調整、作業場の巡視、請負人への労働者の安全・衛生のための教育に対する指導・援助等、労働災害を防止するために必要な措置をとること(第30条第1項)、下請に対する注文者として、請負人に使用させる設備等の災害防止のための措置をとること(第31条第1項)等、が義務付けられています。
2.労働者の健康保持推進
作業環境測定を実施し(第65条第1項)、その結果の評価に基づいて必要な場合には設備の整備等の適切な措置を講じて記録化(第65条の2)することが事業者には義務付けられています。
また、潜水業務等の健康障害のおそれがある業務に従事する労働者については法定の作業時間を超えて稼働させることは禁じられています(第65条の4)。
常用雇用者の雇入時と年1回の健康診断、特定業務従事者や海外派遣労働者に対する定期的な健康診断の実施(第66条第1~3項)、心理的な負担に関するストレスチェックの実施(第66条の10第1項)、健康診断やストレスチェックの結果を受けて従業員の健康保持に必要な措置の実施(第66条の5、第66条の10第6項)、等が事業者に義務付けられています。また、省令で指定される伝染病等に罹患した労働者の就業を禁止しなければならず(第68条)、受動禁煙の防止のための必要な措置については努力義務が課されています(第68条の2)。
3.危険防止・健康障害防止
事業者には、機械、爆発性・引火性のある物、電気・熱等による危険の防止(第20条)、採掘・砕石等の作業方法から生じる危険や墜落・土砂等の崩壊のおそれがある場所等に関連する危険の防止(第21条)、原材料、ガス、放射線、騒音、計器監視等の作業、廃棄・残滓物等による健康障害の防止(第22条)ための必要な措置を講じる義務があります。例えば、ボイラーやクレーン等の特定の機械については、使用に際しての検査が義務付けられる他、検査証のない機械の譲渡・貸与が禁止されています。黄燐マッチ等政令で定められる重度の健康障害のおそれがある有害物の製造・輸入・使用等が禁じられる(第55条)他、爆発性・発火性のある危険有害物質については内容の表示等が義務付けられています。更に、労働災害防止のため、特定の機械の設置や大規模な建設作業等の一定の業務や工事等は監督官庁への届出が義務付けられています(第88条第1~3項)。
また、労働者の就業場所の保全・清潔等の健康保持のための措置(第23条)等を講じることが事業者に義務付けられています。
4.罰則
労働安全衛生法違反の罰則としては、懲役(最高7年)、罰金(最高300万円)、過料(最高50万円)が定められており、その一部については事業者である法人への両罰規定も設けられています(第122条)。
具体的には、労働災害の発生等を端緒として、労働基準監督機関の調査が行われ、労働安全衛生法違反の疑いがある場合には、被疑事件として捜査が開始され、両罰規定が適用されるときは法人代表等の事情聴取も行われて、検察庁へ事件が送致され、捜査結果を踏まえて公訴提起に進み、裁判所で判断されます。
2.タイ
(1) 労働安全衛生環境法
タイでは、職場における労働安全衛生に関する法律として、労働安全衛生環境法(Occupational Safety, Health and Environment ACT, B.E. 2554 (A.D. 2011))があります。同法では、使用者の労働安全衛生環境に関する管理・運営等の義務、職場における安全衛生基準、安全管理者の任命等について規定されています。
(2) 使用者の義務
使用者は、被雇用者の生命、身体、精神及び健康に危害が及ばないように、被雇用者の業務を支援し、促進することを含め、会社及び被雇用者を安全で衛生的な労働条件及び環境を提供し、維持する義務があります(同法6条1項)。具体的には下記のほか、使用者は、被雇用者に対する業務の危険を知らせる通知、マニュアルの配付(同法14条)労働安全衛生環境に関する研修の実施(同法16条)、危険を警告する表示の掲示(同法17条)等を行う必要があります。
(3) 安全衛生基準に関する省令
使用者は、省令で定める基準に従って、労働安全、健康及び環境を管理及び運営しなければならないとされています(同法8条1項)。同項に基づく省令は、職種によって安全衛生基準を定めており、安全装置の設置、従業員の安全服の着用、作業機器の基準等が定められています。同条に基づく省令の例として、機械、クレーン及びボイラーに関連する省令、電離放射線に関連する省令、建設作業に関連する省令、潜水作業に関連する省令、熱、光及び騒音に関連する省令、有害な化学物質に関連する省令等があります。
(4) 安全管理者の任命
使用者は、省令で定める基準、方法及び条件に従って、事業所内の安全を運用するために、被雇用者から任命した安全管理者、人員・作業ユニット又は人員のグループを定めなければならないとされています(同法13条1項)。
3.マレーシア
マレーシアでは、労働安全衛生に関する法令として労働安全健康法(Occupational Safety and Health Act 1994)があります。
(1) 概要
労働安全健康法は、職場における人の安全、健康、福祉の確保を目的とする法律です。同法は、Schedule1が定める以下の事業に対して適用されます(労働安全健康法1条2項)。
- 製造業
- 採掘・採石業
- 建設業
- 農業、林業、漁業
- 公益事業(電気、ガス、水、衛生サービス)
- 運送業、倉庫業、通信事業
- 卸売・小売
- ホテル・レストラン
- 金融、保険、不動産、事業サービス
- 公的サービス・法定機関
(2) 適用対象
使用者が直接雇用している労働者のほか、その使用者が監督する職場で働く下請業者の労働者等も労働者に含まれます(労働安全健康法3条)。
(3) 使用者の義務
労働安全衛生法15条は、全ての使用者は雇用する全ての労働者に対し、職場の安全、健康及び福祉を確実なものとしなければならないと規定しています。この使用者の義務には、以下のような内容が含まれます(労働安全健康法15条2項)。
- 安全であるように職場における設備又はシステムを提供・維持する
- 設備及び物資の使用、運用、取扱い、貯蔵及び輸送の安全性を確保する
- 安全性を確保するために必要な情報、指示、訓練及び監督を提供する
- 職場及び職場への出退勤の方法を安全なものとする
- 労働者の福祉のために適切な設備を確保する
5名以上の労働者を有する使用者は、労働者の職場における安全及び健康に関する一般指針を作成し、労働者に対し周知しなければなりません(労働安全健康法16条)。
また、いかなる使用者も、以下の理由によってその労働者に対する解雇や役職の不利益変更等の行為をとることはできません(労働安全健康法27条1項)。
- 安全性を欠く又は健康を害すると考える問題について苦情を申し立てた
- 安全・健康委員会の構成員である
- 安全・健康委員会としての役割を果たした
同条に違反した使用者は、RM1万を超えない若しくは1年を超えない禁固又はその両方が科される可能性があります(同条3項)。
使用者は、職場で発生した又は発生する可能性のある事故、危険な出来事、職務上の中毒又は職務上の疾病を最寄りの労働安全健康局に通知しなければなりません(労働安全健康法32条1項)。
4.ミャンマー
(1) 労働安全衛生法
2019年3月に労働安全衛生法が公布されました。本法は全ての職場に労働安全衛生に関する事柄を効果的に推進すること等を目的としています。
(2) 労働安全衛生法上の使用者の義務
労働安全衛生法上、使用者は以下の義務を負います(労働安全衛生法26条)。
- 職場、作業過程、使用されている機械及び物質の危険性を評価しなければならない。
- 職場で起こりうる危険の状況を必要に応じて評価しなければならない。
- 規定により労働者が職業病であるか否かを認定医に調べさせなければならない。
- (a)(b)(c)項による調査を元に、健康で安全な状況に達するまで職場を管理しなければならない。
- 労働省から指定され許可された適当な個人用の防護服、物及び信頼性のある設備を支給し、着用及び使用を確認しなければならない。
- 危険のある場合、防止する対策を立てなければならない。
- 省が決めた労働者人数より労働者数が多い職場では診療所を置き、登録医及び看護師を雇い、必要な薬及び信頼性のある設備を設置しなければならない。
- 使用者を含め、各部局の経営者及び労働者は省が決めた労働安全衛生の講座に出席しなければならない。
- 労働者が労働災害又は生命と健康に被害を及ぼしうる状況に遭遇した場合、労働安全衛生の担当者又は管理者に通知する計画を立てなければならない。
- 労働者が職場の機器、機械、廃棄物または作業過程により健康を害さないよう、職場の安全を管理しなければならない。
- 労働災害が起こった場合、即座に作業を終了し、労働者を安全な所に移動させ、救助する計画を立てなければならない。可能ならば使用者は労働者を安全な所で働かせなければならない。
- 労働安全衛生による教育啓発活動のため、掲示、ポスター、案内看板などを条項の通り置かなければならない。
- 危険が起こりうる禁止区域に出入りする場合、注意に従うよう管理しなければならない。
- 教育、知識、技術を満たすよう、関連省から出版された、労働安全衛生に関する指令を関連する労働者に伝え、啓発して管理しなければならない。
- 火事安全の計画を立て、実際に消火器使用の訓練を行わなければならない。
- 監査役の観察、書類依頼、証拠の収集を許可しなければならない。
- 労働者は危険な労働及び職場で働く場合、指定時間内で働かせなければならない。
- 労働安全衛生の費用を払わなければならない。
使用者は次に述べた条件で労働者を解雇する又は役職を下げることはできません(労働安全衛生法27条)。
-
- 職場上の被害による登録医による医療登録又は職業病で認定医による医療登録が受理されていない場合。
- 危険又は健康上の問題について苦情を言う場合。
- 労働安全衛生委員会の義務を果たす場合。
- 職場での災害又は職業病が起こりうる際に継続して作業していない場合。
使用者は、以下の義務も負います(労働安全衛生法29条)。
- 登録医の健康診断のもと、企業が必要とする健康レベルを満たしていない労働者を制限し禁止しなければならない。
- (a)項により、禁止された労働者が健康である証拠を申告してきた場合、遅延なく元の職場又は適当な職場で再び働くことを許可しなければならない。
- 妊婦又は育児中の女性の健康を害さないよう作業及び管理しなければならない。
5.メキシコ
(1) 労働安全衛生に関する法規制
労働安全衛生に関して、憲法( Constitución Política de los Estados Unidos Mexicanos)は、使用者は、その事業の性質に応じて、その事業所における安全衛生に関する法令上の規定を遵守し、機械、器具および用具の使用における事故を防止するための適切な措置を採用するとともに、労働者の健康および生命を最大限に保障することと規定しています。また、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)においても、業務上の事故や疾病を防ぐために、安全、健康、労働環境に関する規則や公式メキシコ規格に従って、工場、作業場、事務所、敷地、その他業務を行う場所を設置、運営し、労働当局が定める予防・是正措置を採用することと、使用者の義務が規定されています。
詳細な労働安全衛生規制に関しては、労働安全衛生に関する規則(Reglamento Federal de Seguridad, Higiene y Medio Ambiente de Trabajo、以下、「規則」といいます。)および公式メキシコ規格(Norma Oficial Mexicana、以下、「NOM」といいます。)において定められています。紙幅の関係上、各規制の詳細については割愛しますので、個別の事業所に適用される労働安全衛生の法規制に関しては、弊事務所にご相談ください。
(2) 労働安全衛生に関する規則の概要
労働安全衛生に関する規則において、使用者は、以下の義務を負うとされています。
- 労働安全衛生診断、ならびに規則およびNOMで要求されるリスクの調査・分析を行うこと。
- 労働安全衛生診断に基づく労働安全衛生プログラムを作成すること。
- 平常時および緊急時の活動や作業工程の実施のための特有のプログラム、マニュアル、手順を作成すること。
- 安全衛生委員会(Comisión de Seguridad e Higiene)を設置し、その運営を円滑にすること。
- 予防的労働安全衛生サービスを提供し、また法律に従い産業医サービスを提供すること。
- 職場の見やすい場所に通知や標識を設置し、労働災害リスクを知らせ、警告し、防止すること。
- 事業所の設置に際しては、規則およびNOMに示された労働安全衛生対策を、作業内容や作業工程の性質に応じて適用すること。
- 職場の環境条件を暴露限界値以内に維持するために、職場環境における汚染物質に対する認識、評価、制御を行うこと。
- 規則およびNOMにより必要とされる業務上の被曝者に対する健康診断の実施を命じること。
- 作業者がさらされる労働災害リスクに応じて、個人用保護具を提供すること。
- 業務に関連する労働災害リスクについて、労働者に知らせること。
- 労働者が行う活動に応じて、危険防止や緊急時の対応について教育・指導を行うこと。
- 安全衛生委員会のメンバーおよび予防的労働安全衛生サービスを提供する労働者を訓練し、必要に応じて社内の産業医学予防サービスの責任者の交代を支援すること。
- 規則およびNOMの定めに従い、危険が伴う活動または作業に対してその実施を許可すること。
- 規則およびNOMで定められた管理記録を、紙または電子媒体で保管すること。
- 発生した労働災害について、労働福祉省(Secretaría del Trabajo y Previsión Social)または社会保障機関に通知すること。
- 業務上の事故および疾病による死亡を労働福祉省に通知すること。
- 圧力容器、超低温容器、蒸気発生器またはボイラーの取扱いに関する届出を行うこと。
- 労働安全衛生に関する規則およびNOMの遵守に関する意見、結果報告、適合証明書を取得すること。
- 請負業者がその施設内で作業を行う際に、規則およびNOMに定められた労働安全衛生対策を遵守するよう監督すること。
- 労働安全衛生に関する規則の遵守を徹底するため、労働当局による監査を許可し、協力すること。
- その他、法律の規定に従うこと。
また、規則は、次の個別的な場合における使用者の義務も定めています。
- 職場の建物等
- 火災の予防
- 機械や設備等の使用
- 材料の取り扱い・輸送・保管
- 危険な化学物質の取扱い・輸送・保管
- 自動車の運転
- 高所作業
- 閉鎖的空間における就業
- ボイラー等の取扱い
- 静電気の管理および大気放電の影響の防止
- 溶接および切断の作業
- 電気設備の保守
- 職場での騒音
- 職場での振動
- 職場の照明
- 電離放射線源の使用・取扱い・保管・輸送
- 非電離性電磁波を発生させる職場
- 極端な高温または低温の熱条件にさらされる場合
- 異常な気圧・水圧にさらされる場合
- 健康に影響を及ぼす可能性のある化学物質にさらされる場合
- 健康に影響を及ぼす可能性のある生物学的物質にさらされる場合
- 職場の人間工学的危険因子
- 職場における心理社会的リスク要因、など
(3) NOMによる規制
NOM-001-STPS-2008 | 職場の建物、構内、施設、敷地における安全基準 |
NOM-002-STPS-2010 | 職場の火災予防に関する安全基準 |
NOM-003-STPS-1999 | 農作業における農薬や肥料の使用に関する労働安全衛生基準 |
NOM-004-STPS-1999 | 職場で使用される機器の安全装置及び保護システム |
NOM-005-STPS-1998 | 職場における危険な化学物質の取り扱い、輸送、および保管における安全および衛生基準 |
NOM-006-STPS-2014 | 職場における危険な化学物質の取り扱い、輸送、および保管における安全および衛生基準 |
NOM-007-STPS-2000 | 農業における施設、機械、設備、工具に関する安全基準 |
NOM-008-STPS-2013 | 木材の保管や加工を含む木材の取扱いに関する安全衛生基準 |
NOM-009-STPS-2011 | 高所作業における安全基準 |
NOM-010-STPS-2014 | 作業環境を汚染する化学物質の特定、評価、および管理に関する基準 |
NOM-011-STPS-2001 | 騒音が伴う職場の安全衛生基準 |
NOM-012-STPS-2012 | 電離放射線源を扱う職場の安全衛生基準 |
NOM-013-STPS-1993 | 非電離放射線が発生する職場の安全衛生基準 |
NOM-014-STPS-2000 | 異常な環境圧力下での労働安全衛生基準 |
NOM-015-STPS-2001 | 高温もしくは低温下の労働安全衛生基準 |
NOM-016-STPS-2001 | 鉄道の運営管理における安全衛生基準 |
NOM-017-STPS-2008 | 職場における個人用保護具の選択、使用、および取り扱い基準 |
NOM-018-STPS-2015 | 職場の危険な化学物質によるリスクの識別と伝達のための統一システム |
NOM-019-STPS-2011 | 安全衛生委員会の組成、構成、運営に関する基準 |
NOM-020-STPS-2011 | 圧力容器、低温容器、蒸気発生器またはボイラーの取扱いに関する安全基準 |
NOM-022-STPS-2015 | 職場における静電気に関する安全基準 |
NOM-023-STPS-2012 | 地下鉱山及び露天掘鉱山における労働安全衛生基準 |
NOM-024-STPS-2001 | 振動に関する労働安全衛生基準 |
NOM-025-STPS-2008 | 職場の照明に関する基準 |
NOM-026-STPS-2008 | 安全衛生における色及び標識、並びに導管内流動体に関するリスクの特定 |
NOM-027-STPS-2008 | 溶接及び切断作業における労働安全衛生基準 |
NOMとは人々の安全や健康、動植物、環境の保護、安全な作業環境の確保などを目的とする法的強制力のある規格基準です。現在、労働安全衛生に関して有効なNOMは以下の通りです。
また、2021年1月12日、テレワークに関する規制の追加等、労働法の改正が施行されました。これに基づき、2022年7月15日にテレワークにおける安全衛生に関する基準を定めるNOMの草案であるPROY-NOM-037-STPS-2022が公表され、これに対するパブリックコメントの募集が行われました。今後、寄せられたパブリックコメントの内容を踏まえ、最終的なNOMが発行される予定です。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、労働法および労働規則にて、職場の労働安全衛生について規定されています。輸出加工区(EPZ)および経済特区(EZ)については、EPZ労働法およびEPZ労働規則が適用されます。
(1) 職場の健康、衛生、安全
(a) 労働法および労働規則
労働者の健康と衛生を保つため、使用者は職場環境を適切に整えなければならないと規定されています。労働法51条から60条に亘り、清掃、換気、温度調整、粉塵、煙、廃棄物処理、排水処理、清潔な水での加湿、過密の解消、照明、水の供給、トイレと洗面所、ゴミ箱の設置について、使用者がとるべき措置が定められており、労働規則40条から52条にて、具体的な数値などが補足されています。
また、職場での安全確保のために、労働法61条から78A条に亘り、建物と機械の安全性、火災への対策(避難経路の確保、50人以上労働者を雇用している事業所は6か月に1回以上火災避難訓練を実施しなければならない等)、機械の囲い、動力機械の取り扱い、電力を切るための装置、自動機械、クレーンなどリフト機、巻き上げ機、加圧器、フロアや階段、ピットや汚水槽、目の保護、有害ガスに対する予防措置、爆発または可燃性ガスや粉塵の適切な取り扱いや対応について定められています。労働規則53条から67条にて、具体的な措置が補足されています。事故や特定の疾病が発生した場合は、速やかに検査官へ報告しなければならないと規定されており、労働規則にて、報告書の様式が提供されています。
(b) EPZ労働法およびEPZ労働規則
EPZ労働法35条では、安全管理のための措置(危険物の取扱、労働者への教育、安全委員会の設置、安全管理簿の保管等)及び健康管理(産業廃棄物の処理、換気や温度管理、危険作業に対する措置等)について定めています。また、2022年9月に制定されたEPZ労働規則では、第4章(39条から105条)に「保健、衛生、安全な職場環境、福祉」について規定しています。45条では、消防機器の管理、48条では男女別のトイレの設置、49条では、飲料水の提供を義務づけています。50条では、全ての事業場において、危険性のある化学物質および機材のリスト、消防機材等を含む安全記録簿を管理し、51条にて、安全委員会の設立が義務づけられています。58条から63条では、事業場の食堂および食料の管理、67条は職場の衛生、91条には、職場で発生した事故について、発生から2日以内に使用者への報告を義務づけています。101条では、女性従業員に従事させてはならない危険性のある業務が特定されています。
(2) 医療サービス
(a) 労働法および労働規則
事業所は救急箱を備え付け、300人以上の労働者を雇用している場合は医師および看護師を配置した医務室を設置しなければなりません(労働法84条)。また、5,000人以上の労働者を雇用している事業所は、ヘルスセンターを設置しなければならず(労働法89条(6))、労働者の人数ごとに、配置すべき医療従事者の人数やベッド数等の設備について定められています(労働規則78条(1))。労働規則にて、労働者の人数ごとに、事業所が備え付けるべき救急箱の内容を定めており(労働規則76条(1)(2)(3)(4))、医務室に備え付けるべき備品が挙げられています(労働規則77条)。
(b) EPZ労働法およびEPZ労働規則
EPZ労働法では、各輸出加工区では、医療センターを設置し、入居企業は医療センターの会費を支払わなければならないと定められています(EPZ労働法第37条)。また、EPZ労働規則43条では、事業場の全てのフロアまたは部署に、または150人の労働者に対し、1個の救急箱を設置しなければならないと規定しており、救急箱に備えるべき医療器材が挙げられています。なお、労働者が300人以上の工場では「医療室」をもうけ、医師および1人以上の看護師の配置が義務づけられています。
7.フィリピン
- フィリピンにおける労働安全衛生に関する法令概要
フィリピンの労働安全衛生に関連する主要な法律は、「労働安全衛生基準法」に位置づけられる共和国法第11058号において規定されています。この法律は、フィリピンの職場での怪我や病気の症例数を減らし、国内労働法の規定と労働安全衛生に関する国際的に認められた基準を遵守するために、2018年8月に可決されました。また、労働雇用省は、省令第198.18号を通じて法律の実施規則および規則を公布しています。
2. フィリピンにおける労働安全衛生基準法の概要
フィリピンにおいて「労働安全衛生基準法」に位置づけられる法令においては、主に以下の義務や基準を定めています。
①雇用主、労働者、およびその他の人の義務
②対象職場が遵守すべき基準
③労働者の権利
④雇用主の責任の性質
⑤労働安全衛生基準の実施方法
⑥禁止行為及び罰則
3.フィリピンにおける労働安全衛生に関する雇用主の義務等
労働安全衛生に関する法令において、雇用者は、労働者に対し、死亡、病気又は身体的被害を引き起こす危険性がない雇用場所を提供する義務があるとされています。
また、同法令において、補償請求に対する労働者の権利が規定され、雇用主は、従業員から適法な申請があった場合には、必要な支援を提供することを義務づけられています。雇用主の義務違反に対しては、罰則が規定されています。
さらに、フィリピン最高裁判所における近時の判決では、負傷または死亡した労働者の相続人は、労働法に基づく補償請求又は民法に基づく損害賠償訴訟で雇用主に対する提訴を選択できると判示しました。
8.ベトナム
ベトナムでは、2016年7月から労働安全衛生法が施行されています。以下、同法の概要についてご説明します。
労働安全衛生法は、広く、労働者及び雇用者に適用され、雇用者については業種を問いませんし、労働者については、正規雇用されているものだけでなく、試用期間中や研修期間中であっても、労働者である限り適用対象となります(2条)。
(2) 雇用者の義務(一般的義務)
労働安全衛生法では、一般的な雇用者の義務として、次のとおり規定しています(7条2項)。
- 労働安全衛生確保体制の構築、運用、労災保険の加入
- 労働安全衛生確保に関する訓練、研修会の実施、労働安全衛生確保のための用具整備、健康管理及び職業病検査の実施
- 労働災害発生の恐れがある場合における業務継続や職場復帰の指示の禁止
- 労働安全衛生確保状況をモニタリングする担当者の配置
- 労働安全衛生の事務担当者又は担当部署の設置
- 労災事故の深刻、調査、統計、報告義務
- 労働安全衛生確保の計画、規則、手順、対応策を立案する際の労働組合への意見照会
(3) 雇用者の義務(職場における義務)
職場における労働安全衛生確保に関する雇用者の義務として、次のとおり規定しています(16条)。
- 通気性、微粒子、蒸気、有毒ガス、放射性物質、電磁波、高温、湿度、振動、その他の関連技術基準に定める危険要素、有害要素に関する要件を満たし、かつそれらの項目の定期的な検査・測定
- 機械、設備、材料、物質が労働安全衛生に関する技術基準や標準規格等に則って使用、運転、保持、保管されていること
- 労働者を危険要素、有害要素を持つ業務に従事させる場合、保護具を十分に用意する
- 毎年又は必要に応じて職場における危険要素、有害要素を検査、評価する
- 機械、設備、材料、物質、施設、倉庫を定期的に検査、メンテナンスする
- 職場、保管管理場所、使用場所において、労働安全衛生の要件を満たすための機械、設備、材料、物質について、分かりやすく読みやすい場所にベトナム語による警告、案内表示を掲げる
- 労働者に対し、その業務、職務に関する労働安全衛生の規則、規定等について、周知又は訓練を実施する
- 職場の異常対応、緊急対応計画を作成、制定する
(4) 健康診断実施義務
雇用者は、毎年少なくとも1回、労働者の健康診断を実施しなければならないとされています。重労働、有害、危険な業務を担当する労働者や障害を持つ労働者、未成年労働者、高齢労働者については、半年に1回、健康診断を実施しなければなりません。
(5) 労働安全衛生の事務担当者又は担当部署の主な事務
上記(2)の雇用者の一般的義務として、労働安全衛生の事務担当者又は担当部署の設置が義務付けられていますが、この事務担当者・担当部署の主な事務は次のとおりです。
① 労働安全衛生確保の規定等の構築、年次労働安全衛生計画の作成、労働安全衛生の点検の実施、事 故の調査、その他の労働安全衛生確保に関する事務を実施する
② 労働災害の危険がある場合、緊急時の作業中止や一時的な作業停止を指示し、労働安全衛生の確保に努めるよう製造部門の責任者に要請し、使用者に報告する
③ 安全が確保されていない機械設備、使用期限が経過した機械設備の稼働を停止させる
④ 労働安全衛生業務向上のための訓練、養成研修へ参加する
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