「最低賃金規制の概要」 TNY Group Newsletter No.44
1.日本
(1) 最低賃金制度
日本の最低賃金額は、最低賃金法に基づき定められています。最低賃金には、47都道府県毎に定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業について定められる「特定最低賃金」の2種類が存在します。
「地域別最低賃金」は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して適用されます(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます)。
「特定最低賃金」は、関係労使の申出に基づき、最低賃金審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。特定地域内の特定の産業の基幹的労働者に適用されます(18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません)。
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。賞与や各種割増賃金、通勤手当等は最低賃金の対象とはなりません。
(2) 最低賃金額
各都道府県の地域別最低賃金額は、2023年10月以降、改定されています。令和5年度の地域別最低賃金額については、厚生労働省のホームページ(地域別最低賃金の全国一覧)をご参照下さい。
(3) 罰則等
最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。また、使用者が最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません(最低賃金法第4条)。
労働者に対して地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない使用者には、罰則として、50万円以下の罰金が科せられます(最低賃金法第40条)。
労働者に対して特定最低賃金額以上の賃金額を支払わない使用者には、罰則として、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第120条)。
「最低賃金制度の概要」(厚生労働省)をもとに作成
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2.タイ
(1) 最低賃金額
タイの最低賃金額は、労働省の賃金委員会が内閣の承認を得て決定します。2022年10月1日に発効した、最低賃金額に関する賃金委員会通達11号(Wage Committee Announcement on Minimum Wage Rate (No.11))により、地域毎の最低賃金額が以下のとおり定められています。バンコクの最低賃金額は、353THB/日となっています。
最低賃金額(THB/日) |
地域 |
354 |
Chonburi, Phuket, Rayong |
353 |
Bangkok, Nonthaburi, Nakhon Pathom, Pathum Thani, Samut Prakan, Samut Sakhon |
345 |
Chachoengsao |
343 |
Ayutthaya |
340 |
Chiang Mai, Khon Kaen, Krabi, Lopburi, Nakorn Ratchasima, Nong Khai, Phangna, Prachin Buri, Saraburi, Suphan Buri, Songkhla, Surat Thani, Trat, Ubon Rachathani |
338 |
Chanthaburi, Kalasin, Mukdahan, Nakhon Nayok, Sakon Nakhon, Samut Songkhram |
335 |
Ang Thong, Bung Kan, Buriram, Chai Nat, Kanchanaburi, Loei, Nakhon Phanom, Nakhon Sawan, Phattahalung, Phayao, Phetchabun, Petchburi, Phitsanulok, Prachuap Kiri Khan, Roe Et, Sa Kaeo, Surin, Uttaradut, Yasothon |
332 |
Amnat Charoen, Chaiyaphum, Chiang Rai, Chumphon, Trang, Sisaket, Nong Bua Lamphu, Lampang, Lamphun, Maha Sarakham, Mae Hong Son, Sing Buri, Satun, Phrae, Sukhothai, Kamphaeng Phet, Ratchaburi, Tak, Nakhon Si Thammarat, Ranong, Phichit, Uthai Thani |
328 |
Nan, Narathiwat, Pattani, Udon Thani, Yala |
(2) 賃金の定義
賃金とは、雇用契約に基づき使用者と労働者との間で合意された、通常の労働時間内の労働の対価として支払われる金銭をいいます(労働者保護法第5条)。使用者が労働者に対して支払う賃金は、定められた最低賃金を下回ってはならないとされています(同法第90条1項)。
(3)罰則
労働者に対して最低賃金額を支払わない使用者には、罰則として、6ヶ月以下の禁錮もしくは10万バーツ以下の罰金、またはその両方が科せられます(同法第144条1項1号)。
3.マレーシア
(1) 最低賃金額及び賃金の定義
マレーシアでは、2022年最低賃金令 (Minimum Wages Order 2022)により、最低賃金が月額1,500リンギットと定められています。また、日給、時給については以下のとおり定められています。同令が施行される以前は、主要都市及び地域都市とそれ以外と地域で最低賃金額が異なっていましたが、同令施行により一律の最低賃金額が定められました。
最低賃金レート |
||||
月給 |
日給 |
時給 |
||
RM1,500
|
1週間の勤務日数 |
RM7.21
|
||
6日 |
5日 |
4日 |
||
RM57.69 |
RM69.23 |
RM86.54 |
雇用法上、「賃金」とは、「雇用契約に基づき行われた労働に対して従業員に支払われる基本賃金およびその他すべての支払い」と定義されており、住居費、手当、チップ、賞与等は含まれません。
(2) 適用除外
2022年最低賃金令は、雇用法2条(1)、サバ州労働条例(Sabah Labour Ordinance) 2 条(1)、およびサラワク州労働条例(Sarawak Labour Ordinance) 2 条(1)に定義されている家事使用人には適用されないとされています。
(3) 罰則
最低賃金制度に違反した使用者に対しては、初犯の場合は労働者1人当たりRM10,000以下の罰金が科され、再犯の場合には RM20,000 以下の罰金又は 5 年以下の禁錮刑が科されることとなります。
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4.ミャンマー
(1) 最低賃金額
2023年10月9日に国家最低賃金決定委員会が最低賃金決定に関する通知 (国家最低賃金決定委員会2023年第2号通知。以下、「2号通知」という。)を発布しました。これにより、当該通知日より1日8時間で、追加手当1,000MMKを含め、5,800MMKという最低賃金が直ちに有効となりました。従来は、2018年5月14日に国家委員会より日給4,800MMKとされていたため約5年ぶりの改定となり、約2割上昇しました。
- 最低賃金の適用対象及び例外
最低賃金法は原則としていかなる事業において働く労働者に対しても適用されます。但し、家族による事業における家族、政府又は地方政府の公務員、船員は対象外です。また、10名未満の労働者の小規模事業にも適用されません。
最低賃金額未満の支払でも認められる例外的場合として、試用期間以前の必要な技術研修の期間については、3か月以内であれば、最低賃金額の50%を下回らない額を支払うことも認められます。また、試用期間中においては、3か月以内であれば、最低賃金額の75%を下回らない額を支払うことも認められます。
- 罰則及び賃金の定義
最低賃金法に基づき定められた最低賃金を支払わない使用者は、罰則として、1年以下の禁錮又は50万チャット以下の罰金、若しくはその両方が科せられます。なお、「賃金」の定義は、基本給与に加え、時間外労働手当及び賞与が含まれる旨規定されています。他方、交通手当、住居手当、食事手当、医療手当、チップ等は含まれません。
5.メキシコ
最低賃金は、労働者が一日の労務の提供に対して現金で受け取る最低額と定義されており、労働者、企業、政府の代表で構成される国家最低賃金委員会(Comisión Nacional de los Salarios Mínimos、通称CONASAMI)が、国内景気や労働者の家庭の生計費、労働市場の状況や賃金水準等の調査報告書をもとに毎年設定しています。最低賃金は、一般最低賃金(salarios mínimos generales)と61の特定の専門職に適用される最低賃金(salarios mínimos profesionales)とがあり、適用する地域を分けて設定することもできることから、2019年1月1日より、北部国境地域(Zona Libre de la Frontera Norte)とその他の地域に分けて、最低賃金額が定められています。設定された最低賃金額は、毎年12月31日までに連邦政府官報にて公表し、翌年の1月1日から適用されます。
2023年の一般最低賃金額は、北部国境地域は日額312.41ペソ、その他の地域は日額207.44ペソです。
北部国境地域
バハ・カリフォルニア州: |
エンセナダ、プラヤス・デ・ロサリト、メヒカリ、テカテ、ティファナ・サンキンティン、サンフェリペ |
ソノラ州: |
サン・ルイス・リオ・コロラド、プエルト・ペニャスコ、ヘネラル・プルタルコ・エリアス・カジェス、カボルカ、アルタル、サリック、ノガレス、サンタ・クルス、カナネア、ナコ、アグア・プリエタ |
チワワ州: |
ハノス、アセンシオン、フアレス、プラセディス・G・ゲレロ、グアダ・ルペ、コヤメ・デル・ソトル、オヒナガ、マヌエル・ベナビデス |
コアウイラ州: |
オカンポ、アクニャ、サラゴサ、ヒメネス、ピエドラス・ネグラ、ナバ、ゲレロ、イダルゴ |
ヌエボレオン州: |
アナウワク |
タマウリパス州: |
ヌエボ・ラレド、ゲレロ、ミエル、ミゲル・アレマン、カマルゴ、グスタボ・ディエス・オルダス、リオ・ブラボ、バジェ・エルモソ、レイノサ、マタモロス |
(2) 罰則
最低賃金以下の賃金を支払った場合には、次の罰則が科されます。
- 最低賃金額と実際に支払った額の差が対応する地域の一般最低賃金の1カ月の額を超えない場合、6カ月から3年の懲役及びUMAの800倍の額の罰金
- 最低賃金額と実際に支払った額の差がUMAの30倍を超え対応する地域の3カ月分の一般最低賃金額未満である場合、6カ月から3年の懲役及びUMAの1600倍の額の罰金
- 最低賃金額と実際に支払った額の差が対応する地域の一般最低賃金の3カ月を超える場合、6カ月から4年の懲役と、UMAの3200倍の額の罰金
なお、UMAとは、Unidad de Medida y Actualizaciónの略であり、罰金や制裁金、社会保障費の支払い額算出など様々に使用される単位であり、2023年度(2023年2月~2024年1月)の日額は103.74ペソです。
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6.バングラデシュ
- バングラデシュにおける最低賃金の概要
バングラデシュでは、「既製服」、「皮革産業」、「陸路輸送」、「プラスチック業」、「テキスタイル」など、産業ごとに最低賃金額が定められており、また、EPZ入居企業(縫製業)の労働者に適用される最低賃金額が定められています。一方、全ての産業にて最低賃金額が定められているわけではなく、高度な技術職、専門職、事務などオフィスワークの労働者を対象とする最低賃金額は定められていません。
- 最低賃金の改訂方法及び罰則
最低賃金の改訂は、2006年バングラデシュ労働法 (以下「労働法」といいます) 第11章の規定に従い、最低賃金委員会の枠組みを通して行われます (労働法、138条乃至149条)。政府が最低賃金を見直すべきと判断した場合、最低賃金委員会に見直しを指示します。指示を受けた最低賃金委員会は、6か月以内に提案を策定し、政府がその提案を官報にて発表し、必要に応じて見直した後、政府の承認を得て定められます。なお、政府が、提案を官報にて通知した後に、使用者や労働者にとって不公平な内容であると認めた場合は、45日以内に最低賃金委員会に是正を指示することができます。是正が必要な場合、最低賃金委員会はその提案を再検討し、政府に再提出します。是正された提案を受領した後、政府は、再び官報を通じて最低賃金率を通知します。
最低賃金委員会は、最低賃金額を検討する際、生活費、生活水準、生産コスト、生産性、製品の価格、インフレ、労働の性質、リスク、事業能力、国その他関連する地域の社会経済状況、その他関連する要素を考慮します(労働法140条)。最低賃金委員会は、これらの要素に変更が生じ、提案を見直す必要がある場合は、最低賃金額を見直して政府に提言しなければなりませんが、提言の後、1年未満または3年を過ぎた場合は除きます(労働法142条)。また、政府は、各分野について、約5年ごとに定期的な見直しを行うと定められています(労働法139条)。
労働法では、最低賃金の違反に対する罰則を設けています。使用者が支払う賃金が最低賃金を下回った場合、1年以下の禁固、5,000タカ以下の罰金、またはその両方が科せられます。同時に、労働裁判所は、最低賃金が守られなかった場合、給与差額の支払いを命じることができます。(労働法149条)。
- 最低賃金の額
2023年11月11日、既製服産業の最低賃金に関する提案が官報にて発表され、大きな注目を集めました。同最低賃金は、2023年12月1日から施行されます。最も低い階級の労働者の最低賃金は12,500TKとなり、2018年の8,000TKから56%引き上げられました。
以下の表は、各分野における最低賃金のうち、発効年、最高額の階級と最低額の階級(ただし、見習いは除く)を抜粋したものです。
分野 |
発効年 |
基本給 |
住居手当 |
医療手当 |
通勤手当 |
食事手当 |
総額 |
既製服産業 |
2023 |
10,900 |
5,450 |
750 |
450 |
1,250 |
18,800 |
|
6,700 |
3,350 |
750 |
450 |
1,250 |
12,500 |
|
革産業 |
2020 |
7,780 |
3,890 |
600 |
1,250 |
13,520 |
|
3,500 |
1,750 |
600 |
1,250 |
7,100 |
|||
ゴム産業 |
2023 |
7,900 |
2,765 |
1,500 |
1,500 |
1,000 |
14,665 |
|
6,600 |
2,310 |
1,500 |
1,500 |
1,000 |
12,910 |
|
エビ産業 |
2022 |
9,056 |
3,170 |
730 |
300 |
– |
13,256 |
|
4,300 |
1,470 |
730 |
300 |
– |
6,700 |
|
プラスチック産業 |
2020 |
8,500 |
3,400 |
500 |
500 |
12,900 |
|
|
5,000 |
2,000 |
500 |
500 |
8,000 |
||
建設業及び林業 |
2021 |
19,700 |
7,880 |
800 |
400 |
28,780 |
|
|
11,800 |
4,720 |
800 |
400 |
17,720 |
||
EPZ (縫製業) |
2018 |
9,000 |
4,500 |
1,450 |
支払義務あり |
14,950 |
|
4,500 |
2,250 |
1,450 |
支払義務あり |
8,200 |
DIFE(工場・事業所監督局)のウェブサイトより抜粋
7.フィリピン
- 最低賃金法令の概要
フィリピンでは、労働者の権利と福祉を保護するために、“The Republic Act No. 6727 ”通称” Minimum Wage Law”(以下「フィリピン最低賃金法」といいます。)が制定されています。
フィリピンにおける最低賃金に関する制度は、およそ日本における制度と類似しているといえます。
フィリピン最低賃金法は、フィリピンの全ての業種および雇用者に適用され、フィリピンの各エリアによって異なる金額が設定されています。また、最低賃金の決定は、労働市場の状況、物価の変動、および地域経済の能力を考慮して、“Regional Tripartite Wages and Productivity Boards”によって行われます。特徴としては、最低賃金は、エリア毎にさらに”Non -Agriculture“, “Agriculture-Plantation”, and “Agriculture-Non Plantation”に分けられて記載されていることが挙げられます。
- 最低賃金に関する企業のコンプライアンス
フィリピンの企業は、適用される地域の最低賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。労働者が所定の労働時間を超えて働いた場合の残業手当も、最低賃金に基づいて計算されていることが必要になるため注意が必要です。
- 主要エリアの最低賃金
フィリピンでは、地域によって最低賃金が異なります。例えば、首都圏であるメトロマニラのエリアでは、最低賃金が他の地域に比べて高く設定されている傾向が見られます。一方、農村地域や発展途上地域では、相対的に低い最低賃金が設定されています。これらの差は、各地域の生活費や経済活動の差を反映しています。
各エリアの最低賃金は“Department of Labor and Employment”通称“DOLE”と呼ばれるフィリピンの政府機関がウェブサイトにて提示しています。
Summary of Current Regional Daily Minimum Wage Rates by Region, Non-Agriculture, and Agriculture
(最終閲覧:2023年11月28日)
- フィリピン最低賃金法違反に関する罰則とリスク
フィリピン最低賃金法に違反した企業は、罰金や懲役刑が科される場合があります。具体的には、2万5,000ペソ以上10万ペソ以下の罰金、2年以上4年以下の懲役、または罰金と懲役の両方が科されます。なお、この法令に関して有罪判決を受けた者は、保護観察に付されることがないため注意が必要です。
また、企業は、労働者への未払給付金がある場合は、当該未払給付金の2倍に相当する額の支払いを命じられる場合があり、さらには企業活動の停止命令が下されるリスクもあります。
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8.ベトナム
(1) 最低賃金の定義
ベトナム労働法91条1項では、最低賃金とは「通常の労働条件で最も単純な仕事をする労働者の最低賃金であり、自分自身とその家族を養うために十分であり、かつ社会経済の発展にふさわしいものでなければならない」と規定されています。ベトナムでは、全国を4つの地域に区分し、それぞれの地域について、月単位及び時間単位の最低賃金が定められています。
なお、1つの企業がベトナム国内に複数の拠点を有している場合、拠点ごとにその地域の最低賃金が適用されます。
(2) 2023年12月時点の最低賃金
2023年12月時点の各地域の最低賃金額は次の表のとおりです。
地域 |
月単位の法定最低賃金 |
時間単位の法定最低賃金 |
||
ベトナムドン(VND) |
米ドル(USD) |
ベトナムドン(VND) |
米ドル(USD) |
|
地域Ⅰ |
4,680,000 |
193 |
22,500 |
0.93 |
地域Ⅱ |
4,160,000 |
172 |
20,000 |
0.82 |
地域Ⅲ |
3,640,000 |
150 |
17,500 |
0.72 |
地域Ⅳ |
3,250,000 |
134 |
15,600 |
0.64 |
※2023年11月17日時点の為替レート1USD=24,250VNDで計算しています。
地域Ⅰ:ハノイ市、ホーチミン市、ハイフォン市、ドンナイ省の一部など
地域Ⅱ:ダナン市、バクニン省など
地域Ⅲ:ハナム省など
地域Ⅳ:地域Ⅰ〜Ⅲには属さないその他の地域
9.インド
(1) 概要
インドでは、最低賃金の決定方法等に関しては、1948年最低賃金法(Minimum Wages Act,1948)で規定されています。そして、1948年最低賃金法は、各州の州政府に最低賃金額を定める権原を委譲しており、同法に基づきそれぞれの州が物価の変動やそれぞれの産業毎の労働者の技能レベル等を考慮してOrder等により最低賃金額を定めることになります。したがって、インドでは最低賃金はそれぞれの州及び職種ごとに設定されています。
なお、1948年最低賃金法を含め、賃金に関する法令(賃金支払法、賞与支払法、均等賃金法)は2019年に発布された賃金法典(Code on Wages 2019)に統合されています。同法典の最低賃金に関する規定は未施行です。
(2) 主要州の最低賃金
主要州の最低賃金(月額)は以下の通りです。
州 |
非熟練労働者 |
熟練労働者 |
高技能労働者 |
デリー |
INR17,494 |
INR21,215 |
NA |
ハリアナ州(グルガオン) |
INR10,532.84 |
INR12,802.69 |
INR13,442.82 |
カルナータカ州(バンガロール) |
INR14,424.64 |
INR16,858.07 |
INR18,260.20 |
タミルナドゥ州(チェンナイ) |
― |
― |
― |
ウッタル・プラデッシュ州(ノイダ) |
INR10,275 |
INR12,661 |
NA |
マハラシュトラ州(ムンバイ) |
INR12,669 |
INR14,310 |
NA |
*タミルナドゥ州は、より細かいカテゴリーに分類されており、全ての技能レベル含めてINR10,362~INR11,0472が最低賃金となっています。
*2023年11月28日現在、1INRはおよそ1.78円です。
(3) 罰則
1948年最低賃金法では、違反した場合はINR500以下の罰金を科すと定めています。もっとも、2019年賃金法典では、違反した場合は、INR20,000以下の罰金を科すと定めています。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、最低賃金が定められていません。私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)は、内閣が、所管大臣の提案に基づき、労働者またはその種別のいかなるものについても、最低賃金を決定する決議をすることができると規定します(連邦労働法第27条)が、具体的な最低賃金の決定は存在しません。
ただし、賃金は、被用者の基本的必要を満たすものでなければならないとされています。連邦労働法では、労働の対価として支払われる賃金はその労務を履行できるものでなければならず(第26条第1項)、雇用契約書で特定し(第22条第1項)、人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation)の承認した賃金保護システムを通じて支払うものとされています(連邦労働法の実施に関する2022年内閣決定第1号 第16条1項b号)。
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