「各国における基本定款の必要的記載事項及びその変更方法」TNY Group Newsletter No.63
1.日本
日本の会社法上、定款の記載事項には、記載しなければ定款自体が無効となるもの(絶対的記載事項)、記載しなくとも定款の効力に影響はしないが記載がなければ当該事項について効力が生じないもの(相対的記載事項)、記載するか否かが当事者に委ねられているもの(任意的記載事項)の三種類があります。
このうち、絶対的記載事項については、定款の有効性に直接かかわるため、必ず記載しなければなりません。絶対的記載事項は以下のとおりです。
①会社の事業目的
②商号
③本店の所在地
④資本金額
⑤発起人の氏名又及び住所
なお、相対的記載事項の例としては、取締役会、会計参与、監査役等の設置等、任意的記載事項の例としては、株主名簿の基準日や事業年度等が含まれます。
会社が定款を変更するにあたっては、株主総会の特別決議を要し(会社法466条、309条2項11号)、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。
2.タイ
(1) 基本定款の必要的記載事項
タイの実務上、会社は非公開会社の形態をとることが多いところ、非公開会社については民商法典にその規定がなされています。民商法典によれば、基本定款には以下の事項を記載する必要があります(民商法典第1098条)。
・ 会社の名称。(ただし、名称の末尾に必ず「limited」が付いていること。)
・ 会社のタイ国内の所在地。
・ 会社の事業目的。
・ 株主の責任を限定する旨の宣言。
・ 登録される予定の株式資本額、及び、これより分割される株式の額。
・ 全ての発起人の氏名、住所、職業、署名、及び、各発起人が引き受けた株式の数。
(2) 基本定款の変更方法
民商法典上、非公開会社の基本定款を変更するためには、株主総会による特別決議が必要とされています(民商法典第1145条)。
株主総会の特別決議には、株主総会開催日の14日前までに株主に対して招集通知を発送する必要があり(同法1175条1項)、出席株主の議決権の総数の4分の3以上の賛成を得る必要があります(同法1194条)。
3.マレーシア
(1) 概要
株式会社においては、定款の作成は完全に任意とされています(会社法第31条⑴)。定款を作成しない場合には、会社・取締役・株主の権利義務を含む会社運営に関する事項については、会社法の規定に従うこととなります(会社法第31条⑶)。一方で、定款を作成することにより、これらの事項について会社法の規定と異なる定めを置き、独自の会社運営を行うことが可能となります(同第31条⑵)。
また、種類株式の発行など、定款に規定しなければ導入できない制度も存在します。定款により導入可能な独自ルールの例は、以下のとおりです。
① 種類株式の発行(会社法第90条⑴)
② 株券の発行(会社法第97条⑴)
③ 株主総会の決議要件の普通決議から特別決議への加重(会社法第291条⑷)
④ 株主総会の決議方法(会社法第293条⑴)
(2) 定款の導入・変更
定款を作成する場合、株主総会の特別決議を必要とします(会社法第32条⑴)。同様に、定款の変更も株主総会の特別決議によって行うことができますが、定款により変更が禁止されている場合には、変更することはできません(会社法第36条⑴)。
また、取締役または株主の申立てにより、裁判所が必要と認めたときは、裁判所が定款変更を命じることができます(会社法第37条⑴))。定款の導入または変更がなされた場合には、株主総会の決議または裁判所の命令があった日から30日以内に、会社登記所に対して通知を行う必要があります(会社法第32条⑷、第36条⑶、第37条⑵)。
4.ミャンマー
⑴ 基本定款の必要的記載事項
ミャンマーでは、旧会社法(Myanmar Companies Act, 1914)上は、定款は基本定款(memorandum of association)と附属定款(articles of association)の2つに分けられていました。しかし、新会社法(Myanmar Companies Law, 2017)上は、定款(constitution)に一本化されました。新会社法下では、DICAから発表されているモデル定款は165条で構成されており、様々な事項が規定されています。
(2) 定款の変更方法
定款の変更は株主総会の特別決議による必要があります。 特別決議は、議決権を有する株主の75%が賛成することにより可決されると規定されています。
5.メキシコ
(1) 基本定款の必要的記載事項
メキシコの会社設立については、商事会社一般法(Ley General de Sociedades Mercantiles。以下「会社法」)に規定されており、定款に関する事項も同法に定められています。
すべての会社形態で必要となる定款の記載事項は、会社を設立する者の氏名・国籍・住所、会社が営む事業の目的、商号、存続期間(無期限と記載することも可能)、資本金の金額、各出資者(株主または社員)の出資内容(金銭出資または現物出資/その評価額および評価基準)、会社の所在地、会社の管理運営の方法、取締役の権限、取締役の選任および会社の署名権者の指定、株主間の利益および損失の分配の方法、準備金額、会社が存続期間満了前に解散する場合に関する条項、会社の清算を行う基準および清算人を事前に定めていない場合の選任方法です(会社法第6条)。
また、株式会社の定款においては、株式の数、額面価額、分割された株式の性質、監査役の選任、通常総会の権限およびその審議の有効性のための条件、株式の条件(無議決権・拒否権付き等の種類株)、取締役の限定責任等の記載が要求されます(会社法第91条)。
さらに、外資系企業の場合はいわゆるカルボ条項を定款に含めることを要求されます。カルボ条項とは、当該会社の外国人株主等はその出資およびそれから派生する権利一切に関して内国民と同等の扱いを受けること、それに関して自国政府の保護を求めないこと、これに違反した場合には当該権利等をメキシコ国に没収されることに同意するという条項です。
(2) 定款の変更
定款の変更には、社内の決議手続と公的手続の二段階が必要です。
株式会社(S.A.)では、定款の変更は特別株主総会の決議事項とされています(会社法第182条)。臨時総会で定款変更を決議するには、定足数として第1回招集で発行済株式総数の少なくとも75%以上の出資に相当する株主の出席が必要で、議決要件は総株主の株式数の50%以上による承認です。ただし、定款でそれ以上の多数を要求することも可能です。第1回総会が流会した場合、第2回招集では定足数の要件は適用されませんが、総株式数の50%以上の賛成が必要です。
合同会社(S. de R.L.)では、定款の変更は、会社の最高機関である社員総会の決議事項とされています。定足数は資本金の半分に相当する持分の出席で、決議は出席社員の過半数で成立します。第1回総会で可決に至らない場合は再招集ができ、第2回以降の総会では出資額にかかわらず、出席社員の過半数による決議が可能です。ただし、定款で、より厳格な要件を定めることも認められています。
社内で定款変更が決議された後は、その内容を公的に認証する必要があります。設立時と同様に、定款変更も公証人の立ち会いのもとで記録されます(会社法第5条)。
6.バングラデシュ
⑴ 会社の基本定款の必要的記載事項
バングラデシュでは、会社法で、会社設立にあたり基本定款と付属定款を定めることが求められています。
基本定款は所定のひな形に基づいて、次の事項を記載する必要があります。
・ 商号
・ 事務所の登録住所
・ 事業目的
・ 構成員の責任(有限会社の場合は責任が有限であることを記載)
・ 授権資本額および株式の単位
(2) 基本定款の変更
基本定款の内容は、会社法で特に定められている場合を除き、継続して施行されている内容を変更することはできません(同法10条1項)。それ以外の内容は、取締役、支配人などの任命を含めて、付属定款と同様に特別決議で変更することができます。
特別決議は、特別決議であることを記載した招集通知により、開催日の21日前までに通知し、総株主の4分の3以上の賛成を得ることが必要となります(87条1項)。
事業目的に関する基本定款を変更する場合は、特別決議により、以下の理由で変更することができますが、裁判所による承認が必要です。(同法12条1項)
・ 事業をより経済的または効率的に実施するため
・ 新規または改善された方法により主な目的を達成するため
・ 経営の地域の拡大または変更
・ 現状のもとで、会社の事業と便宜上または有利に調和することができる事業の運営
・ 定款に記載されている規定の制限または撤回
・ 会社の全部または一部の売却または処分
・ 他社との合併
7.フィリピン
(1) 定款(Article of Incorporation)に記載すべき事項
会社を設立する際には、以下の項目を定款(Article of Incorporation)に記載する必要があります。
・会社名
・会社の目的(事業内容)
・本社所在地
・存続期間(永久することも可能)
・設立者(発起人)の氏名、国籍及び住所
・取締役の人数
・設立時の取締役の氏名、国籍及び住所
・株式数、1株当たりの金額、払込金額
・その他
(2) 定款(Article of Incorporation)変更手続の概要
定款(Article of Incorporation)の変更を行うためには、基本的に以下の手続が必要となります。
①取締役会の承認
取締役会において、取締役の過半数による承認が求められます。
②株主総会決議
発行済株式の議決権の3分の2以上を有する株主の同意が必要です。
③定款の認証
変更内容を反映した定款の写しを作成し、秘書役および取締役の過半数によって正式に認証します。
④SEC(Securities and Exchange Commission)への申請
SECに定款変更の申請を行います。
8.ベトナム
(1) 概要
定款は、よく会社の「憲法」や「憲章」と呼ばれ、ベトナムの現行の企業法制下では、企業設立登録時に許認可当局に提出する初版と、企業運営中に作成される改定版を含みます。
企業の個人社員/株主や組織社員/株主は、以下の基本原則を満たすことを条件として、自らの定款を作成または改定することが認められています。
- 法律の規定に反したり、第三者の権利や利益を侵害しないこと。
- 自由意思と相互合意に基づき、法律の枠組みの中で行われること。
- 法律で要求される主要な内容が全て含まれていること。
- 企業設立登録の場合には全ての社員/株主の承認があり、定款の改定の場合には法定の比率の持分または株式による承認があること。
(2) 定款の主要な記載事項
ベトナムの現行「企業法」第24.2条の規定により、定款には以下の主要事項が記載されなければなりません。
- 企業の名称、本社、支店、駐在員事務所(該当する場合)の所在地。
- 企業の事業内容。
- 資本金の額、株式会社の場合は発行株式総数、株式の種類および各株式の額面金額。
- 合名会社における無限責任社員、有限責任会社の出資者または社員、株式会社の設立時株主の氏名、連絡先住所、国籍。有限責任会社または合名会社における各社員の出資比率および出資額、株式会社の設立時株主の保有株式数、株式の種類および各株式の額面金額。
- 有限責任会社または合名会社の社員の権利義務、株式会社の株主の権利義務。
- 組織構造。
- 企業の法定代表者の人数、役職、権利および義務。
- 企業の意思決定手続および社内紛争解決の原則。
- 役員および監査役の給与・賞与の決定基準および方法。
- 社員または株主が会社に対して出資持分(有限責任会社の場合)または株式(株式会社の場合)の買取請求ができる事由。
- 税引後利益の分配および事業損失処理の規則。
- 解散事由、解散および資産清算の手続。
- 定款の改定手続。
特に公開会社については、ベトナム財務省が作成・発行したモデル定款のひな型を参照することができます。モデル定款は現行の企業法に抵触しない内容となっています。
(3) 定款変更手続
定款を変更する場合、企業は現行の「企業法」および現行定款に基づき、社員/株主総会の招集および社員/株主による関連決議に関する規定(例えば、正当な社員/株主総会を開催するための社員/株主の比率に関する規定)を遵守しなければなりません。初版の定款とは異なり、変更後の定款については以下の者の署名のみが求められます。
- 合名会社の場合:社員総会の議長。
- 一人有限責任会社の場合:会社の所有者、所有者の法定代表者、または会社の法定代表者。
- 複数社員の有限責任会社および株式会社の場合:会社の法定代表者。
さらに、定款は企業登録証明書の記載内容の一部とは見なされません。したがって、会社は定款の変更を許認可当局に届け出る必要はありません。
9.インド
インドでは、基本定款(Memorandum of Association)に会社の基本的な情報を記載し、付属定款(Articles of Association)で会社内部の運営に関する詳細な規則を定めることとなっています。
このうち、基本定款(Memorandum of Association)には以下の事項を記載する必要があります(会社法4条(1))。
①会社名(非公開会社の場合は末尾にPrivate Limited、公開会社の場合は末尾にLimitedをそれぞれ付す必要がある)
②登録住所の州
③会社の事業目的
④社員の責任の範囲(有限責任か無限責任か等)
⑤授権資本金
基本定款や付属定款を変更するためには、株主総会の特別決議を要し(会社法13条1項)、出席株主の4分の3以上の賛成が求められます(会社法114条2項(c))。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、商業会社に関する連邦令2021年第32号(以下「会社法」といいます。)が各種商業会社について規定します。ただし、フリーゾーンで設立された会社には会社法は適用されず(第5条第1項)、各フリーゾーンで制定された規定によります。
(1) 必要的記載事項
基本定款(Memorandum of Association)の必要的記載事項は会社の形態により異なり、合同責任会社(Joint Liability Company)では、(a)各パートナーの氏名、国籍、生年月日及び居住地、(b)会社の名称、所在地、商号及び目的、(c)本店及び支店、(d)資本及び各パートナーの持分とその価額、その評価方法と日付、(e)設立日及び廃業日、(f)経営方法及び署名権限者の氏名とその権限、(g)会計年度の始期と終期、(h)損益の配分比率、(i)所有権の譲渡条件、とされています(第32条1項)。有限責任パートナーシップ会社(Limited Partnership Company)については、有限責任を負うパートナーを区別する他は、合同責任会社に準じ(第65条1項)、有限責任会社(Limited Liability Company)については、会社の業務に関して生じる会社とマネージャーとの間またはパートナー間の紛争の解決方法も定めなければなりません(第73条2項)。公開株式会社(Public Joint Stock Company)については、(a)会社の名称と本店、(b)会社の目的、(c)各発起人の氏名、国籍、生年月日及び居住地、(d)資本金額、株式数、1株当たりの名目額、各株式により支払われた金額、(e) 設立手続における発起人の履行事項、設立時に要する経費等の見積及び会社によるその支払見積、(g)現物支給の内容とその提供者の氏名、当初の評価額、それに付随する担保等とされ(第110条1項)、非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、公開株式会社に準じます(第267条)。
なお、基本定款は、アラビア語で起草され、管轄官庁による証明を受けて登記されなければ有効とはならず、外国語で起草された場合でもアラビア語が優先されます(第14条1項)。
(2) 変更
会社の名称、住所、資本金、株主または組織等の特定事項について基本定款に変更を行ったときには、15営業日以内に管轄官庁に通知して、登記する必要があります(第15条3項)。
基本定款を変更するには、有限パートナーシップ会社では、全ての合同責任及び有限責任パートナーの同意(第66条)、有限責任会社では、総会において4分の3以上の持分を有するパートナーの賛成(第101条1項)、公開株式会社では、特別決議(4分の3以上の株式を保有する株主が出席した株主総会での過半数の賛成)を経た上で、証券商品委員会からの承認を受ける必要があります(第139条)
11. インドネシア
(1) 基本定款の必要的記載事項
インドネシアにおける定款への必須記載事項は、会社法2007年第40号(以下「会社法」といいます)に規定されており、以下の内容を記載する必要があります(会社法第15条第1項)。
a. 会社の名称および住所
b. 会社の事業目的および事業内容
c. 会社の設立期間
d. 授権資本、発行済資本、および払込資本の額
e. 株式数、株式の種類(存在する場合)、各種類ごとの株式数、各株式に付随する権利、および各株式の額面価額
f. 取締役および監査役の役職名、およびその構成員の人数
g. 株主総会の開催場所および開催方法
h. 取締役および監査役の任命、交代、解任の手続
i. 利益の使途および配当の分配手続
上記の規定に加えて、定款には他の法律に抵触しない限り、その他の規定を含めることが可能です(会社法第15条第2項)。また、固定利息の受領に関する規定と、設立者や会社の関係者など、特定の者に対して、個人的利益を供与する内容の規定を設けることは禁止されています(会社法第15条第3項)。
(2) 基本定款の変更方法
(a) 会社の名称や住所、(b) 事業目的および事業内容、(c)設立期間、授権資本、発行済資本および払込資本の減額、ならびに(d) 非公開会社から上場会社への移行またはその逆の変更には、株主総会の特別決議(議決権のうち3分の2以上の出席および出席者のうち4分の3以上の賛成)を経たうえで、法務人権大臣(Menteri Hukum dan HAM)の承認を取得する必要があります(会社法第21条第2項、第88条)。一方、これらに該当しない変更については、大臣への通知のみで足ります(会社法第21条第3項)。
いずれの場合も、変更内容は公証人によりインドネシア語で記載された公正証書(akta notaris)として作成されなければなりません(会社法第21条第4項)。株主総会決議の日から30日以内にこの公正証書を作成し、さらにその作成日から30日以内に承認申請または通知をオンラインで提出する必要があります(会社法第21条第4、5項)。