「従業員が不正を行った場合の法的対応について」TNY Group Newsletter No.65
第1.【お知らせ】ウェビナーの開催について
ウェビナーの開催についてご案内いたします。
インド事務所の松下智宗弁護士が、インド進出をご検討中の日本企業様向けにインド法務ウェビナーを行います。
インドに進出する際のポイントについてインドの法令に基づき説明いたします。
参加は無料となっておりますので、奮ってお申込みください。
本ウェビナーがインドへの進出を検討中の日系企業様のビジネスに少しでも貢献できれば幸甚です。
【日程】
日時:2025年9月3日(水)
12時30分~13時30分(インド時間)、16時~17時(日本時間)
※申込締切は2025年9月2日(火)までとなっております。
開催方法:オンライン(Zoom)
参加費:無料
申込方法につきましては、下記URLからご確認ください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeW7LuWW_Yzun66i1evLzOe1d6S3aqznHsm5_Deap9YBT0N5A/viewform?usp=preview
第2.従業員が不正を行った場合の法的対応について
1.日本
従業員による不正行為が発覚した場合、まずは事実確認や証拠の収集等を行い、実態の把握をすることが重要です。
また、不正行為を働いた従業員への対応は、事案の性質や証拠の収集状況等によっても異なりますが、一般的には、不正の内容・程度に応じた懲戒処分を行うことが一般的です。
懲戒処分を行うにあたっては、判例上、あらかじめ、就業規則で懲戒の種別及び事由を定めておかなければならないとされています。また、当該就業規則の内容が従業員に周知されていなければなりません。
また、労働契約法15条は、懲戒処分が社会通念上相当であると認められない場合には無効であると定めています。
この点、懲戒処分が社会通念上相当であることを担保するために、懲戒処分を行うにあたっては、従業員に対し弁明の機会を付与することが通常です。仮に、弁明の機会を付与していなかった場合には、手続き面において相当性を欠くということで、懲戒処分が無効とされるリスクが高まります。
なお、相当性は手続き面だけでなく、処分の内容面にも求められますので、事案に対し不相当に重い処分は無効となる恐れがあります。
また、懲戒処分の他には、事案の悪質性や会社に生じた損害の程度、証拠の収集状況等個別の事情に応じて民事訴訟による損害賠償請求や刑事告訴等の対応も考えられます。
2.タイ
(1) 事実の調査及び証拠保全対応
まず社内での対応として、事実関係の正確な把握と証拠の保全を最優先で進めるべきです。事案に応じて、関係する会計記録や銀行取引明細、社内メール、監視カメラ映像などのデータを収集し、必要に応じて専門家の協力を得て不正の有無や損害額を明確にします。また不正に関与した可能性がある従業員には、システムアクセス制限などの措置を講じ、証拠隠滅や不正の拡大を防止する対策などが必要です。さらに当該従業員に対しては、就業規則や雇用契約書において調査のための停職の定めがあれば、停職を行うことができますが、その場合でも停職期間は7日以内とする必要があり、また就業規則によって定められた割合の賃金を支給する必要があります。
(2) 懲戒処分および刑事手続き対応
調査の結果、不正が事実と認められた場合には、法および就業規則に基づき懲戒処分を行うことになります。横領や背任など、会社に重大な損害を与えたといえるような事案については「懲戒解雇(解雇補償金不要)」に該当するとして、解雇手続きを進めることが可能です。いずれの懲戒処分を行う場合にも、不当な処分であると後になって従業員から労働裁判所に訴えられないように、慎重に手続を進める必要があります。
さらに、不正行為が詐欺や横領などの場合で従業員に対する刑事責任を追及する場合には期限についての注意が必要です。タイ刑法において横領罪や詐欺罪について、刑事告訴期間は「犯罪行為及び被害者が犯人を知った日から3か月以内」と定められています。このため横領事案などで刑事手続きを進めたい場合には、この期間内に刑事告訴を行う必要があり、内部調査を進める一方で、刑事告訴の要否を早急に判断し、期限内に行動できるように準備を進めることが不可欠です。
3.マレーシア
⑴ 不正発覚時の対応
従業員による不正行為が発覚した場合には、通常は懲戒処分の可否を検討します。懲戒処分の手続においては会社が不正行為の事実を調査し、処分対象となり得る従業員本人から弁明を受け付けるというステップを踏む必要があります。このような調査は法律上求められているのは勿論、会社が不正行為の実態を把握し、再発予防策を講じるためにも重要です。
⑵ 不正行為調査の際の注意点
裁判例によると、使用者が従業員に対して不正行為を追及する場合、労働者が追及されている不正行為の内容を認識し、防御できる程度にその不正行為が特定されている必要があり、具体的事実を特定せずに行った処分は無効となり得ます。使用者としては、少なくとも不正行為の内容、日時、場所等を可能な限り特定すべきであると考えます。
また、裁判例では、懲戒解雇に至るだけの重大な非違行為があったとしても、従業員に対して弁明の機会が形式的にしか行われていなかった、あるいは一切行われていなかったことを理由に、処分が無効とされるケースが多々あります。したがって、不正行為調査を行う際には、まずは客観的証拠等により事実を特定した後、処分対象とする従業員に反論の機会を与えなければならないことに注意が必要です。
4.ミャンマー
⑴ 不正発覚時の対応
従業員の不正が発覚した場合、まずは調査を行い、不正の全体像を把握し、証拠を保全することが重要です。もっとも、不正を行っていることが強く疑われるものの、証拠が残っていないこともあります。
(2) 証拠が十分な場合
証拠が十分な場合、告訴を行ったり、民事訴訟を行うことも可能です。もっとも、いずれも時間や費用を要することから、いきなりそのような手段を採るのではなく、まずは従業員にそのような証拠を示し、返金義務を含めた退職合意書等に署名を取得し、返済が滞った場合に法的措置を採る場合も多いです。また、不正を理由にした懲戒解雇も可能です。その場合には、解雇手当の支払いも不要です。
(2) 証拠が十分ではない場合
証拠が不十分な場合、不正を理由とする解雇は難しいことから、できる限り従業員と交渉して退職合意書に署名を取得し、退職してもらうこととなります。その際の条件については、どれだけ不正を示す関連証拠を事前に収集できるかによっても交渉力が異なります。
5.メキシコ
(1) 証拠保全の重要性と手法
従業員による不正の疑いが生じた場合、まず証拠の収集を行うことが優先事項となります。メキシコでは法的に内部調査の実施が義務付けられていませんが、不正を認知した段階で速やかに内部調査を開始し、関連する証拠を確保することが望ましいです。証拠収集の方法としては、主に以下のものが挙げられます。
- 聞き取り:不正に関与したと疑われる従業員や関係者に対するヒアリングを行います。調査は可能な限り、関係者のプライバシーに配慮する必要があります。
- 監視とログの確認:社内の監視カメラ映像や入退室記録、業務システムのログなど、不正行為の客観的証跡となり得るものを収集します。
- デジタル証拠の保全:不正の証拠が電子データとして存在する場合、専門的なデジタル鑑識手法で保全します。
収集した証拠は不正行為の事実関係を立証する基盤となる事が多いです。なお、調査過程で判明した法令違反行為について、必要に応じ所轄当局への報告や刑事告発を検討します。
(2) 懲戒処分の種類と適用基準
内部調査によって不正が確認できた場合、企業はその悪質性や重大さに応じて懲戒処分を検討します。以下は、労働実務で一般的に認められている懲戒処分の例です。
- 口頭注意:比較的軽微な違反行為や初回の不正行為に対しては、非公式な口頭での注意や指導が行われます。正式な処分記録には残りませんが、再発防止のための警告として位置付けられます。
- 書面注意:規律違反が再度発生した場合や、一定の重大性がある場合には、文書による譴責が行われます。この書面は、将来より重い処分を行う際の前提資料となり、会社が問題行為を把握し是正を指導した実績を示す証拠にもなります。
- 一時的な出勤停止:重大な規律違反や度重なる不正行為に対しては、一定期間就業を停止させる懲戒処分が科されます。なお、停職を命じる前には、従業員に弁明の機会を与え、事情を聴取する手続を踏まねばなりません。
各懲戒手段の適用にあたっては、不正行為の内容と深刻度、従業員の過失の程度、就業規則で定める処分基準などを総合考慮する必要があります。
(3) 解雇の可否と手続き
不正行為の内容が重大で、雇用関係の継続が困難な場合には、懲戒解雇を検討します。連邦労働法では、使用者が従業員を一方的に解雇できるのは法律で定められた正当理由がある場合に限られます。労働法第47条に列挙された正当理由には、「勤務中の不誠実な行為」「使用者や同僚・取引先に対する暴力、脅迫、侮辱」「業務上の重大な背信行為」などが含まれており、従業員による詐欺や横領等の不正行為は正当解雇事由に該当します。また、正当理由による解雇を行う場合、法律上定められた厳格な手続きを遵守しなければなりません。連邦労働法第47条は、正当理由で従業員を解雇する場合、使用者は「解雇の動機となった行為の具体的内容と日付を明記した書面」を作成し、従業員本人に渡すことを義務付けています。
解雇について従業員から労働訴訟が提起された場合、使用者は裁判所で従業員が正当解雇事由に該当する行為を行ったこと、そして先述の解雇通知書を適法に交付または届出したことについて、証拠をもって証明しなければなりません。証拠保全が求められるのは、この立証責任を果たすためでもあります。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、懲戒事由、懲戒処分の種類及び懲戒手続に関して、労働法、EPZ労働法が定めています。
労働法の懲戒手続の場合、会社は、不正行為の容疑を文書で記録し、従業員に対して当該通知書(文書の写し)を交付し、従業員に7日以上の釈明の期間と聴聞の機会を与える必要があります。
その後、使用者側及び従業員側の同数の代表者で構成される審査委員会にて不正行為の有無の審査を行います。審査は60日以内に行う必要があります。そこで不正行為が認められた場合は、会社は懲戒をし実施することができます。(労働法24条)
そのため、不正発覚時には、従業員に対して不正行為の容疑を通知できるよう、不正行為の事実を、日時、場所、具体的な行動で特定する必要があります。
不正行為を裏付ける証拠を確保することは言うまでもありませんが、懲戒手続きが労働法の要件を満たしていると担保する証拠も確保する必要があります。不正行為の内容が認められたとしても、手続きに問題があると懲戒処分が無効になるおそれがあるからです。そのため、文書を交付した際には従業員の署名した受領書を受け取る、聴聞の機会には録音をとる、審査委員会の構成員及び会議内容の記録を残すなど、慎重に進めていく必要があります。
7.フィリピン
フィリピン労働法上、労働者の責めに帰す事由に基づく解雇については、以下の5つに分類されています。
- 重大な不正行為または意図的不服従
- 相当かつ常習的な職務怠慢
- 意図的な詐取、使用者からの信用を損なう行為
- 雇用主に対する犯罪行為
- 上記に関連するそれ以外のケース
従業員が何らかの不正を行ったと想定する場合、1を事由に解雇を進めていくことがほとんどですが、経理や秘書、マネージャーなどの不正行為は3を解雇事由にすることがあります。1を解雇事由にする場合、不正行為であるだけでは十分ではありません。労働法に記されている通り、重大(Serious)な不正行為でなくてはいけません。重大(Serious)と認められないと、解雇権の濫用と判断されます。解雇権の濫用と判断された場合、不当解雇の時点からの未払い賃金、損害賠償や各種付加金の支払命令がくだされることがあり、従業員に非があるにも関わらず、雇用主のほうが不利益を被ってしまうことが往々にしてあるのです。
不正行為を総合的に考慮して重大であると判断した場合、会社としては解雇プロセスに進むことになりますが、フィリピンはDue Processを非常に重んじるので、解雇や停職にあたっては、二段階通知(Twin Notice)が必須となります。
まずは書面により実際に行われた不正行為と解雇事由、処分の内容(例えば解雇)について記された書面を本人に交付します。この書面には、必ず本人に(5日以内に書面によって)反証の機会が与えられている旨を記載されていなければなりません。本人の反証をもとに、弁明の機会(Opportunity to be heard)を行います。この際、従業員は必要であれば代理人(弁護士や家族)等を同席させることが可能です。
最初の通知とそれに対する従業員の反論、そして弁明の機会でのプロセスを経て、依然として解雇相当であると決定した場合、最終通知をし、解雇をします。
フィリピンでは従業員に非がある場合でも、解雇プロセスが不十分な場合、むしろ従業員側の利益となることがあります(金銭支払い・復職等)。だからといってどれだけ不当なことをしても解雇しないという決断を取り続けると、雇用主の姿勢をみて従業員が不当な行為をし続けるといった場合もあり、労働環境を正当に保てなくなりますので、不正行為の従業員への対応については専門家のアドバイスを求めつつ、毅然とした対応をとることを強くおすすめします。
8.ベトナム
(1) 概要
現行のベトナム2015年労働法によれば、従業員の法定義務の一つとして「労働規律および就業規則を遵守し、使用者の管理、運営および監督に従うこと」が規定されています。したがって、従業員による不正行為または違法行為があった場合、必要な要件および条件が完全に満たされることを前提に、労働規律違反処分、労働契約履行の一時的停止、または契約期間満了前の労働契約終了といった措置を適用することが可能です。
(2) 労働規律処分(懲戒処分)
規定されている懲戒処分は、① 譴責、② 最長6か月の昇給延期、③ 降格、④ 解雇の4つです。使用者は、従業員の不正または違法な行為や行動を明示的に記載し、それに対応する懲戒処分を定めた独自の就業規則を策定することが可能です。ただし、この就業規則は現行の労働関連規定に従う必要があります。
具体的には、使用者に10人以上の従業員がいる場合には、法定の必須事項を盛り込んだ就業規則を定め、これを所轄官庁へ就業規則を登録しなければなりません。その上で、解雇の懲戒処分は、以下の法定事由に該当する場合にのみ認められます。
- 職場において、窃盗、横領、賭博、故意の傷害、または薬物使用等の行為を行った場合。
- 技術上または営業上の秘密を開示した場合、使用者の知的財産権を侵害した場合、使用者の資産または利益に重大な損害を与える、またはその重大な損害のおそれを生じさせる行為を行った場合、または職場においてセクシャルハラスメントを行った場合。
- 上記①、②、③に記載された他の懲戒処分を受け、違反を赦免される前に「再犯」した場合。「再犯」とは、懲戒処分を受けた違反行為を、所定の赦免がされる前に再度行うことをいいます。
- 正当な理由なく、初めて出勤しなかった日から起算して、30日のうち合計5日、または365日のうち合計20日欠勤した場合。
(3) 労働契約の一時的停止
この措置は、違反した従業員が以下のいずれかに該当する場合にのみ適用されます。
- 刑事訴訟法に基づき身柄拘束または勾留されている場合。
- 更生保護施設、薬物リハビリセンター、矯正施設に送致された場合。
- その他、使用者と従業員が合意した場合。
(4) 契約期間満了前の労働契約の終了
使用者は、違反した従業員について、以下の場合には締結済みの労働契約を早期に終了させる権利を有します。
- 裁判所の確定判決または裁定により、執行猶予または釈放の対象とならない懲役刑を言い渡された場合、死刑を言い渡された場合、または労働契約で合意した業務の遂行を禁止された場合。
- 裁判所の確定判決や裁定、または管轄当局の決定により国外追放となった場合(ベトナムで勤務する外国人従業員にのみ適用)。
労働契約締結時に、採用に影響を及ぼす形で、規定に従った真実かつ正確な情報を提供しなかった場合。この場合、使用者は違反した従業員に事前に通知することが求められます。労働契約を一方的に早期終了する場合の事前通知期間についても、規定に従って通知しなければなりません。
9.インド
(1) 不正行為の調査
従業員による不正が発覚した場合、まずは、当該不正行為の調査が行い、不正の証拠を可能な限り収集を
することが重要です。
調査を行うことで不正の実態を把握することができ、不正を働いた従業員に対する今後の対応を適切に選択するための判断材料を得ることができます。また、再発防止等の観点からも、事実関係を可能な限り正確に把握しておくことが、実態を踏まえた予防策を検討することにもつながります。
(2) 不正行為を働いた従業員への対応
不正行為を働いた従業員への対応については、調査に基づいて得られた証拠及び事実関係に基づき、個別具体的に判断していくことになります。
一般的には、社内の規則に基づく懲戒処分が検討されるほか、事案によっては、民事訴訟を通じた損害賠償請求や刑事告訴といった対応も考えられます。
なお、懲戒処分の最たるものとして、懲戒解雇がありますが、100人以上の労働者(workman)を雇用する産業施設(工場等)の場合、産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)が適用され、①書面による不正行為の通知、②弁明の機会の付与、③社内調査の実施と結果の通知、が求められます。また、同法の適用対象とならない場合であっても、判例・実務上、懲戒解雇は、これに準じた手続きを踏むべきであるとされています。
懲戒解雇は法令上厳格な手続きが要求され、また、解雇の正当性を巡って従業員との間で紛争となるリスクも考えられます。そのため、可能な限り、懲戒解雇ではなく、合意退職等を促すことが望ましいです。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法の施行に関する内閣令(2022年内閣令第1号。以下「内閣令」と言います。)において、労働者の不正行為に対して雇用主が取りうる懲戒処分について規定されています。なお、連邦労働法は、Abu Dhabi Global MarketおよびDubai International Financial Centerを除くフリーゾーンを含む全域には適用されます。
労働者の不正行為が発覚し、懲戒処分を検討するにあたっては、まず、被疑不正行為に関する調査、当該労働者への書面による通知、弁明の機会の付与、弁明に対する調査、当該労働者への懲戒処分の内容および理由並びに再発時の処罰に関する書面の交付、という手続を踏む必要があります(内閣令第24条第3項)。また、不正発覚から30暦日以内でなければ当該不正に対する非難はできず、懲戒処分は調査終了から60暦日以内に行う必要があります(同4項)。調査実施に必要な場合には、30日を超えない期間、賃金の半額を支払って当該労働者を出勤停止にすることができますが、嫌疑なしまたは処分留保の判断をしたときには賃金全額を支払わなければなりません(連邦労働法第40条1項)。
懲戒処分には、書面通知、書面警告、減給(月5日以上)、無給・出勤停止(14日以内)、賞与剥奪(1年以内)、昇級禁止(2年以内)、解雇の種類があり(連邦法第39条1項)、会社は各懲戒処分の内容を予め定めておく必要があります(内閣令第24条2項)。懲戒処分は、守秘義務違反の程度、従業員の身体・安全への影響、会社に与える経済的影響、会社の信用・名誉棄損の程度、権限踰越の有無、再発性、刑罰的・道徳的性質の項目により判断される不正行為の重大性に鑑みて適切なものでなければなりません(同1項)。
これらの処分に先立つ手続に瑕疵があったときには、処分が無効とされるので、法令や内規に従って慎重に手続きを履行することが肝要です。
11. インドネシア
(1) 懲戒解雇
従業員による不正が発覚した場合、事前に十分な調査を行う必要があります。(労働法2003年第13号(以下「労働法」といいます)。そのうえで、a) 窃盗や横領、b) 会社に対する詐欺、脅迫、c) 秘密漏洩、d)会社の重大な資産の損壊、e) 就業中の飲酒や麻薬などの重大な過失(pelanggaran berat)があった場合には、解雇の過程で必要となる警告書を発行することなく即時解雇が可能と規定されています(労働法2003年第13号(以下「労働法」といいます)労働法第158条)。しかし、本規定は2004年に、最高裁判所により、「即時」に解雇することは違憲と判断されており、従業員に重大な過失があったとしても、労働裁判所の決定がなされた上でないと当該理由による解雇を行うことはできません(2004年10月28日付012/PUU-I/2003号)。また、労働裁判期間中は、従業員を解雇することはできず、休職扱い(skorsing)とすることは可能ですが、その場合にも6カ月間は給与を支払う必要があります(労働法第155条)。
(2) 合意退職
上記に記載の通り、不正行為があったとしても、労働裁判所での手続きを経る必要があり、時間とコストがかかること、労使紛争が解決するまでは従業員に給与を支払わなければならないことから、実務においては、会社と従業員間で、雇用関係の終了の合意とすることが多いです。合意を得られた場合には、当該合意を労働裁判所に登録することにより当該合意に基づき退職した従業員は雇用関係の終了について事後的に争うことが難しくなります。ただし、退職の際には、重大な過失として合意退職する場合にも、権利補償金と解雇金の支払いをする必要があると解されます(判例:9/Pdt.Sus-PHI/2023/PN.Palu)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。