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「取締役の責任追及に関する法制度の概要」TNY Group Newsletter No.69

1.日本

(1) 取締役の責任

取締役と会社の関係は委任関係であり(会社法330条)、委任を受けた者(受任者)は委任者に対し、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を負います(民放660条)。

また、取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない義務を負っています(忠実義務)(会社法355条)。

善管注意義務と忠実義務の関係性は、学説上は様々な見解が見られますが、最高裁は、忠実義務とは善管注意義務を一層明確にしたにとどまり、善管注意義務とは別個の高度な義務ではないとしています。

そのため、善管注意義務と忠実義務は同質のものであると一般には理解されています。

(2) 取締役の任務懈怠責任

取締役が、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(任務懈怠責任)(会社法423条)。

取締役の任務懈怠には、法令・定款違反や善管注意義務・忠実義務違反が含まれます。

また、取締役が、会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図る、いわゆる利益相反取引において、当該利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、任務懈怠責任が推定されます。

なお、経営判断の失敗が善管注意義務違反として、任務懈怠責任を構成するかについてですが、これが常に善管注意義務違反になり得るとすると、取締役の経営判断が委縮することとなりかねません。

 この点、判例では、判断の過程や内容に著しく不合理な点がないかぎり、取締役としての善管注意義務に違反するものではないといった考え方が示されています。

(3) 取締役の任務懈怠責任の追及方法

 取締役が会社に損害を与えた場合、会社は当該取締役に対し、損害賠償請求をすることができます。

 提訴権者については、以下のとおりです。

 ・監査役会設置会社:監査役が会社を代表して提訴(会社法386条1項1号)

 ・監査役設置会社以外の会社:代表取締役が会社を代表して提訴(会社法349条4項)。会社が取締役に訴えを提起する場合には、株主総会又は取締役会は、当該訴えについて株式会社を代表する者を定めることもできます(会社法353条、364条)。

 なお、取締役と会社が馴れ合い、会社が取締役の責任を追及しない場合も考えられます。

 そこで、株主(公開会社の場合、6か月前から引き続き株式を有する者に限る。)は、会社に対し提訴請求を

行い、提訴請求の日から60日以内に提訴がないときには、当該株主が、当該取締役を被告として、会社に対

する賠償を求める訴訟を提起できる株主代表訴訟と呼ばれる制度が設けられています(会社法847条)。

(3) 取締役の責任の免除

 取締役の任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除できません(会社法424条)。

 

2.タイ

(1) 取締役の基本的義務

タイでは、民商法典(Civil and Commercial Code:以下「CCC」といいう)により、取締役の義務および責任が規定されています。CCC第1167条以下において、取締役、会社および第三者との関係、ならびに取締役の義務内容が定められています。

CCC第1167条により、取締役、会社および第三者との関係について、代理人の規定を適用すると定められています。すなわち、取締役または代表者がその権限の範囲内で行った行為は、第三者に対して、会社を法的に拘束することとなります。また、取締役の主な義務は、以下のとおりとなります。

  1.  善管注意義務

取締役は、定款に従い、株主総会の監督の下で会社の業務を管理し、善良な管理者として期待される注意義務をもって職務を遂行しなければなりません(CCC第1168条第1項)。

  1. 競業避止義務

取締役は、株主の承認がない限り、会社と競合する事業を行ってはなりません(CCC第1168条第3項)。

  1.  法定管理義務

取締役は、適正な帳簿および会計記録を備え付けること、財務諸表を作成し株主総会の承認に付すこと、ならびに引受済株式の全額が株主により払い込まれていることを確保する義務を負います(CCC第1168条第2項)。

(2) 取締役が会社に対して損害賠償義務を負う場合

取締役は、以下のような場合に、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

  1.  義務違反による損害発生

取締役が、定款違反、株主総会決議違反、法令違反、会社に対する契約上の義務違反、または経営における過失もしくは不正行為を行い、その結果、会社に損害が生じた場合には、当該損害について責任を負う可能性があります。

  1.  権限外行為による責任

取締役が権限を有しない行為、または権限の範囲を超えた行為を行った場合、当該行為は会社を法的に拘束せず、取締役が個人的に責任を負う可能性があります。

(3) 取締役責任の追及方法

取締役責任の追及方法としては、主に以下の方法が認められています。

  1.  会社による直接訴訟

取締役の違法または不当な行為もしくは不作為により会社に損害が生じた場合、会社は、他の取締役を通じて、当該取締役に対し損害賠償請求訴訟を提起することができます(CCC第1169条第1項)。

  1. 株主代表訴訟

会社が取締役に対する訴訟提起を行わない場合、株主は、会社に代わって取締役の責任を追及する株主代表訴訟を提起することができます(CCC第1169条第1項)。

ただし、株主は、事前に会社に対して訴訟提起を求める書面による請求を行う必要があり、会社が合理的期間内に応答しない場合、または訴訟提起を拒否した場合に限り、訴訟を提起することができます。なお、訴訟により認容された損害賠償金は、株主個人ではなく、会社に帰属します。

  1. 債権者による責任追及

会社の債務が未履行である場合には、債権者は、その未払債権額を限度として、取締役に対し直接損害賠償を請求することができます(CCC第1169条第2項)。

  1. 解散後の責任追及

会社が解散した後は、取締役に対する責任追及は、株主ではなく、指名された清算人のみが行う権限を有します。

3.マレーシア

(1) 概要

取締役は、単なる経営の意思決定者ではなく、会社法上、会社および株主に対して一定の行為基準を負う立場にあります。とりわけ重要なのが、会社の利益を最優先に考える信認義務(proper purpose and in good faith in the best interest of the Company)と、職務遂行にあたり合理的な注意・技量・勤勉さを尽くす義務(duty of reasonable care, skill, and diligence)です。これらは取締役の判断や行動の適法性を判断する際の中核となります。 

(2) 信認義務

取締役が常に会社法に従い、適切な目的のために、かつ会社の最善の利益のため誠実に行動しなければならないという義務です。会社の利益を最優先に考えていなかった場合、それだけで義務違反と評価される可能性があります。裁判所は、権限行使の性質や取締役の意図、複数の目的がある場合の支配的目的などを踏まえ、当該行為が会社の利益に資するものであったかを判断すると考えられています

(3) 合理的な注意・技量・勤勉さをもって職務を行う義務

さらに取締役には、合理的な注意・技量・勤勉さをもって職務を行う義務があります。具体的には、会社事業の基本的理解や、継続的な情報収集、業務や財務状況の監督が求められます。特に専門性を期待されて就任した取締役については、その分野に応じた高度な技量が要求されます。取締役会での審議に参加するだけでなく、日常的な経営の管理・監督に積極的に関与する姿勢が重要です。

(4) 責任追及の方法

上記義務等に取締役が違反した場合には、会社が当該取締役に対して損害賠償請求を行うことができます。加えて、株主その他の会社法によって原告適格を与えられた当事者は、裁判所の許可を得ることにより、会社を代表して訴えを提起(Derivative Action)することができます。

4.ミャンマー

(1) 取締役の基本的義務 

ミャンマーでは、2017年会社法(Myanmar Companies Law 2017(以下「会社法」という) により、取締役の義務および責任が明記されています。

会社法第165条以下では、取締役の義務が明確に規定されており、主な義務は以下のとおりです。

①善管注意義務・忠実義務

②権限の適正行使義務

③利益相反の回避・開示義務

④不正行為・違法行為の禁止

(2) 取締役が会社に対して損害賠償義務を負う場合

取締役は、以下のような場合に会社に対する損害賠償責任を負います。

① 義務違反による損害発生

② 利益の返還義務。損害が立証できない場合でも、取締役が義務違反により 個人的利益を得た場合には、その利益を 会社に返還 する義務を負います。

(3)取締役責任の追及方法

 取締役責任の追及方法としては主に以下の方法が考えられます。

①会社による直接訴訟

②株主代表訴訟(Derivative Action)

③差止請求

④ 行政・刑事責任の追及

5.メキシコ

(1) 取締役の責任

会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles)の規定によると、取締役はその職務に固有の責任を負うほか、法令及び定款に課せられた義務から生じる責任を負います。また、証券市場法(Ley del Mercado de Valores)では、取締役は、この法律および定款が当該法人に与える権能を誠実に行使するにあたり、会社およびその支配する法人のために最善の利益を確保するよう誠意をもって行動しなければならないとされており、公開株式会社の取締役は、会社に対する忠実義務を負っていると解されています。

(2) 取締役の責任追及

① 株主総会による責任追及

取締役の責任は、株主総会の決議により追及することが可能であり、株主総会は訴訟を提起する者を指定します。また、責任を果たしていないとして解任された取締役は、当該訴訟において請求に理由がないと判断された場合に限り、再任が可能とされています。なお、株主総会において責任追及の決議がなされた場合、当該取締役は直ちに職務の執行を停止しなければなりません。 

② 民事訴訟による責任追及 

資本金の少なくとも25%を保有する株主は、以下の要件を満たす場合、取締役に対して直接民事責任訴訟を提起することができます。

  1. 請求内容が原告の個人的利益にとどまらず、会社の利益となるものである場合
  2. 原告が、株主総会における「訴訟を提起しない」とする決議に賛成していない場合

なお、訴訟の結果得られた利益は原告ではなく会社が受領します。

(3) 取締役の損害賠償責任

商事破産法(Ley de Concursos Mercantiles)は、会社が同法の適用を受ける状況下の取締役の責任について特別の規定を設けています。取締役が以下のいずれかの行為を行った場合は、これらの規定に基づき損害賠償責任を負うとされています。

  1. 利益相反のある取締役会において議決権を行使し、または会社資産に関する決定を行った場合
  2. 他の株主の不利益となることを認識しつつ、特定の株主または株主グループに有利となる行為を故意に行った場合
  3. 正当な理由なく、雇用・地位・報酬を理由として自己のために経済的利益を得、または特定の株主・株主グループその他第三者の利益のためにそれを求めた場合
  4. 虚偽であることを認識しながら情報を生成・流布・公表・提供・要求した場合
  5. 財務諸表に影響を与える会社業務の記録を省略し、またはその本質を隠す目的で記録を変更、または変更を命じた場合
  6. 会社の会計に虚偽のデータを記録することを命じ、またはこれに同意した場合
  7. 法定保存期間前に、証拠隠滅を目的として会社の会計システムや記録等を破損・変更した場合
  8. 勘定科目や契約条件を不当に変更・命令し、実在しない取引・経費を記録するなど、違法行為または禁止行為を故意に行った場合
  9. 詐欺的行為、悪意ある行為、その他法令に基づく違法行為を行った場合 

ただし、いわゆる経営判断原則に相当する考え方として、以下のいずれかに該当する場合には免責が認められます。

  1. 取締役会の権限内の事項を承認するにあたり、関係法令または定款の要件を遵守した場合
  2. 合理的な疑義が生じない能力・信頼性を有する従業員、外部監査法人、独立専門家から提供された情報に基づいて意思決定・投票を行った場合
  3. 判断時に入手可能な情報に基づき最も適切な選択肢を選んだ場合、または会社の財産的損害の可能性を予見できなかった場合
  4. 法令に違反しない範囲で株主総会の決議に従った場合

6.バングラデシュ

(1) 責任の範囲

 バングラデシュでは、取締役は会社に対して受託義務(Fiduciary duty)、すなわち、誠実かつ会社の最善の利益のために行動する義務を負うと理解され、そして本義務に違反する場合、会社は民事上の責任追及ができます。

 バングラデシュは英米法体系でコモン・ローであり、同様の法体系を有して影響の強い英国やインドでは、会社法において本義務の定義があります(2006年英国会社法  171条乃至177条、2003年インド会社法166条)。しかし、バングラデシュ会社法では、このような定義がありません。

(2) 会社法上の責任

 会社法では、個別の制限について規定があります。

①売買・商品供給契約等の締結 (105条)

 取締役の承認を得た場合を除き、取締役は自らまたは自らがパートナー、株主または取締役である他の法人との間で、売買、商品および原材料の購入または供給契約を締結することはできません。

② 利益相反取引に関する情報開示(130条、131条)

 会社が締結する契約に直接的または間接的に利害関係がある取締役は、当該契約が承認される際に、取締役会にて、その利害について開示しなければいけません。ただし、取締役が他の特定会社の取締役または構成員であり、当該他の特定の会社との間で継続的に複数の取引が予定されている場合には、包括的な利害関係の開示を行った後は、個別の取引についての利害関係の開示は必要ありません。本義務違反の場合、取締役は5,000 タカ以下の罰金が科せられます。

 公開会社または公開会社の子会社である非公開会社の場合、取締役は、自身が直接または間接に利害関係を有する契約の承認については議決権を行使することはできず、定足数にも算入されません。本規定に違反した取締役は、1,000タカ以下の罰金が科せられます。

(3) 会社法以外の責任

 取締役の各行為によっては、刑法にて、背信・信託違反(405条、406条)、詐欺(415条)、偽造(463条など)に問われることがあります。

 また、税法や金融関連法などでも取締役の義務が定義されています。

(4) 責任の追及方法

 会社や株主が行う取締役の責任追及方法については、特別な規定はなく、一般的な訴訟手続きにて行うことになります。

7.フィリピン

(1) 取締役の責任に関する概要

 フィリピンにおいて、取締役が経営の過程で行った判断については、原則として個人責任を負いません。この考え方は、日本と同様に経営判断原則(Business Judgment Rule)として整理されています。

経営判断原則が認められる理由は、会社運営を委任された取締役が、事業上の判断を行ううえで最も適切な立場にあるためです。結果が思わしくなかったという理由だけで責任追及を受けることがないようにすることで、取締役が萎縮せず意思決定できる環境を確保しています。

もっとも、経営判断原則があるとしても、取締役が常に責任を免れるわけではありません。たとえば、判例(FILIPINAS PORT SERVICES, INC. v. Go, G.R. No. 161886, March 16, 2007)は、経営判断原則の適用について次のように示しています。

損失が生じたとしても、その原因が単なる判断ミスにとどまり、悪意(Bad Faith)や過失(Negligence)が認められない限り、取締役は責任を負わない。取締役の責任を追及するには、損失の発生に加え、問題となる行為が悪意(Bad Faith)または敵意(Malice)を伴って行われたことを示す必要がある。

つまり、単なる経営判断の誤りでは責任は生じない一方で、悪意などによる行為の場合には責任を負うという整理になります。

(2) 法律により取締役が責任を負う場合

判例に加え、フィリピン会社法第30条は、以下の行為を行った取締役について、会社や株主等に生じた損害に対して連帯して責任を負うと定めています。

(3) 責任追及を行う主体の例

(ⅰ) 会社による責任追及

取締役が会社に損害を与えた場合、会社は取締役に対して損害賠償請求を行うことができます。

(ⅱ) 株主代表訴訟(Shareholder Derivative Suit)

原則として、取締役に対する損害賠償請求は会社が行います。しかし、取締役の多数が損害に関与している場合など、会社による追及が困難となり得るケースもあります。

そこでフィリピンでも、日本と同様に株主代表訴訟(Derivative Suit)が認められています。株主代表訴訟とは、株主が会社の立場に立ち、取締役等の違法行為によって会社に生じた損害の回復を求めて訴えを提起する制度です。たとえば、取締役の自己取引により会社が損害を被った場合、株主は代表訴訟によって会社の損害回復を求めることができます。

もっとも、フィリピンにおいて、株主代表訴訟はあらゆる場合に認められるわけではありません。取締役会が適法に経営判断を行使できる限りは、経営判断原則(Business Judgment Rule)が優先されるためです。言い換えれば、株主代表訴訟は、取締役会が会社の利益を守るための判断を適法に行使できない場合に、例外的に機能する制度といえます。

(ⅲ) 株主による責任追及

株主が自身に直接損害が生じたことを理由として、取締役に対して責任追及を行うこともあります。この場合、株主代表訴訟と異なり、損害が会社ではなく株主に直接生じていることを主張する必要があります。

8.ベトナム

(1) 機関の種類及び役割

ベトナム企業法では、有限責任会社及び株式会社に共通して、社長又は総社長が会社の業務執行を担う経営責任者として設置されます。一方、取締役は株式会社にのみ設置される機関であり、株式会社の経営及び監督に関与する立場にあります。

(2) 責任内容 

 ベトナム企業法は、社長・総社長及び取締役(以下「社長ら」といいます。)に対し、主として以下の責任を課しています。

① 法令及び内部規定の遵守義務

 社長らは、法令、会社の定款及び株主総会又は会社所有者の決定を遵守し、付与された権限を適切に行使し、義務を履行する責任を負います。

②忠実義務及び善管注意義務

 社長らは、会社の利益を保護するため、誠実かつ慎重に職務を遂行する義務を負います。自己又は第三者の利益のために、その地位や権限を濫用し、会社の情報、秘密、事業機会又は資産を利用することは禁止されています。

③利益相反に関する通知義務

社長らは、自己が所有し、若しくは株式/持分を保有する会社、又は自己の関連者が所有し、共同所有し、若しくは個別に支配的持分/株式を有する会社について、会社(一人有限責任会社の場合には会社所有者)に対し、速やかかつ完全に通知する義務を負います。

これらの義務に違反した場合、社長らは、会社に生じた損害について、個人的又は共同して責任を負い、不当に取得した利益を返還するとともに、会社及び第三者に対し損害賠償責任を負います。

なお、複数社員有限責任会社では、会社が弁済期にある債務を支払うことができない場合には、社長又は総社長は、昇給又は賞与を受けることができないとされています。

(3) 法定代表者としての責任 

また、社長らが会社の法定代表者を兼ねる場合、当該社長らは、自己の違反行為に起因して会社に生じた損害につき、法令に基づき個人的に責任を負います。

(4) 社長らに対する責任追及の手続

① 有限責任会社の場合

有限責任会社においては、会社とその管理者との間の紛争として、民事訴訟法第30条4項に基づく訴訟手続が認められています。

複数社員有限責任会社では、社員が、単独又は会社を代表して、権限及び義務に違反した社長又は総社長に対し、損害賠償等を求める訴訟を提起することができます。

② 株式会社の場合

株式会社においては、普通株式総数の少なくとも1%を保有する株主又は株主グループが、自己の名義又は会社の名義で、社長らに対し、会社又は第三者のために損害賠償等を請求する訴えを提起することが認められています。

(5) 紛争解決機関及び訴訟費用

社長らに対する責任追及に関する紛争は、原則として会社の本店所在地を管轄する人民裁判所において解決されますが、当事者の合意がある場合には、商事仲裁センターによる解決も可能です。

 訴訟費用は原則として会社が負担しますが、複数社員有限会社及び株式会社では、訴えが却下された場合には、会社の費用として取り扱われず、各自の負担となります。

9.インド

(1) 取締役の義務

インドの会社法では、取締役の義務として以下のものを定めています(会社法166条)。

①会社法と会社の定款に従い行動する義務

②会社の目的を促進し、その構成員全体の利益のために、また、会社、従業員、株主、地域社会及び環

境の保護の観点から最善の利益を図るために誠実に行動する義務

③相当かつ合理的な注意、技能および勤勉さをもってその職務を遂行し、独立した判断を下すべき義務

④会社の利益と直接又は間接に相反する、または相反するおそれのある状況に関与してはならない義

⑤自身またはその親族、パートナー、関係者に対して、不当な利益や便宜を得たり、得ようとしてはなら

ない義務

⑥その役職を譲渡してはならない義務

(2) 利益相反取引

 利益相反取引とは、

 ①当該取締役が単独で、もしくは他の取締役と共同で、株式の2%以上を保有している法人、または、プロモーターやマネージャー、マネージャー、最高経営責任者である場合の当該法人と取引をする場合

  ②当該取締役が共同経営者、所有者、社員である会社や団体との取引

を意味します。

 取締役が直接、間接を問わず利益相反取引に何らかの形で関与する場合には、当該利益相反取引について議論される取締役会において、自身の利害関係について説明を行わなければならず、また、議決に加わってはなりません(184条2項)。

(3) 取締役に対する責任追及

 取締役がその義務に違反して会社に損害を与えた場合には、民事上の損害賠償責任を負うこととなります。

 また、インドの会社法にはクラス・アクション(Class Action)と呼ばれる制度があり、

①総株主数の少なくとも5パーセント、または

②株主100名

のいずれか少ない方、または。

④非上場会社の場合、発行済株式資本の5パーセント以上を保有する株主

⑤上場会社の場合、発行済株式資本の2パーセント以上を保有する株主

は、会社の運営が株主の利益を害する方法で行われていると考える場合、裁判所に以下の命令を出すことを求めることができます(会社法245条)。

①会社が基本定款または付属定款上の権限を越える行為を行うことの禁止

②会社が基本定款または付属定款に違反する行為を行うことの禁止

③基本定款または付属定款を変更する決議が重要な事実の隠蔽や虚偽の説明に基づきなされた場合、当該決議を無効とすること

④会社及び取締役が上記③にかかる決議に基づき行動することの禁止

⑤会社の法令違反の行為の禁止

⑥株主が決議した内容に反する行為を会社が行うことの禁止

⑦損害賠償請求またはその他の適切な措置

 また、民事上の責任とは別に、インドの会社法は、各種義務違反や手続き違反などに対し罰金を課している場合が多く、刑事罰の対象となり得ることにも注意が必要です。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

(1) 概要

アラブ首長国連邦(UAE)において設立される会社の形態は様々で、フリーゾーンで設立される会社については連邦法ではなく、各フリーゾーンで制定された規則が適用されます。本土において設立された会社の取締役(director, manager等)の責任については、会社法(2021年連邦令第32号)の他、民法(2015年連邦法第5号)、破産法(2023年連邦令第51号)等に規定されていて、刑罰も定められています。以下では、有限責任会社(Limited Liability Company)の取締役(manager)の責任の概要を述べます。

(2) 取締役の責任

 執行取締役(managing director)は、会社の目的に沿って、会社から与えられた権限内で、相当な注意をもって行動する責任を有しています(会社法第22条)。取締役(manager)は一般的にその権限外の行為により会社に生じさせた損害につき責任を有する(民法第665条3項)他、有限責任会社の取締役は、会社、パートナー及び第三者に対して、その詐欺的行為及び権限濫用または法令・定款・委任契約違反若しくは重過失により生じた損失・経費につき責任を有します(会社法第84条1項)。また、会社の総会決議による承認のない利益相反行為については、解職及び賠償を求められます(会社法第86条)。

破産宣告をされた会社の取締役は、管財人の請求に基づき、破産開始遅延を意図した廉価販売、不当な資産処分、破産債権者を害する意図を持った偏頗弁済につき、その責めを負う過失に比例した会社債務の支払を命じられる場合があり、会社資産が破産債権の20%以下で取締役が財務悪化に責任を有すると証明された場合も同様です(破産法第246条1項)。

 更に、法令・定款に反した利益配当、会計書類への虚偽記載、会社の機密の漏洩、故意による事業活動への損害を生じさせた取締役に対して、拘禁または罰金若しくはその併科が科せられます(会社法第348条、349条、354条)。破産に関連した会社書類の作成懈怠・虚偽記載・破毀、資産の隠匿・廉価処分、偏頗弁済、詐害行為、管財人への説明義務違反等をした場合、取締役が潜在的な損害を減少させるためにあらゆる予防手段をとったことを証明できないときには、5年以下の拘禁または100万UAEディルハム以下の罰金若しくはその併科とされます(破産法第269条)。

(3) 免責

 会社の役員(officer)の個人的責任を免除する会社の定款の規定は無効とされ(会社法第24条)、上記の有限会社の取締役の責任に関する規定に反する定款又は委任契約の規定も同様に無効とされます(会社法第84条1項)。

11.インドネシア

(1) 取締役の責任

会社法2007年第40号(以下、「会社法」といいます)では、取締役は会社の目的および目標達成のため、会社の利益のために会社を経営する義務を負い、会社経営において誠意をもって行動しなければならないとされており、取締役は会社に対し忠実義務を負っていると解されています(会社法第92、98条)。

 また、取締役会は、株主名簿、特別株主名簿、株主総会議事録および取締役会議事録ならびに年次報告書その他財務諸表を作成し、本店所在地に保管する義務があります(会社法第100条)。

(2) 取締役の利益相反

会社法上、取締役が会社と利益相反する行為は禁止されています(会社法第97条)。会社と取締役が利益相反の関係にある場合は、取締役は会社を代表することはできません(会社第99条)。この場合、以下に該当する者が会社を代表することになります(会社法第99条)。

  1. 会社との間で利益相反の関係にない他の取締役
  2. 全取締役が会社との間で利益相反の関係にある場合にはコミサリス会、または、
  3. 全取締役およびコミサリス会が会社との間で利益相反の関係にある場合には株主総会が指定した第三者

(3) 取締役の責任追及

取締役は、義務遂行における過失または故意により会社に損害が生じた場合には、当該損害について完全かつ個人的に責任を負うこととされており、取締役が2名以上で構成される場合には、連帯責任を負います。ただし、以下の事項が証明される場合、取締役は責任を負いません(会社法第97条)。

  1. 損害が当該取締役の故意または過失によるものではないこと。
  2. 会社の目的達成のために誠実かつ注意義務を尽くして経営を行ったこと。
  3. 当該損害発生につながる経営判断について、直接・間接を問わず利益相反が存在しなかったこと。
  4. 損害を回避するために必要な予防措置を講じていたこと。

また、取締役の故意または過失により会社に損害が生じた場合、議決権を有する株式の少なくとも 10%以上を保有する株主は、会社に代わり、地方裁判所に対して損害賠償請求を提起することができることが規定されています(会社法第97条)。