「各国における剰余金の配当に関する手続きや規制の概要」 TNY Group Newsletter No.57
1.日本
(1) 配当決定の手続き
株式会社が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、①配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額、②株主に対する配当財産の割当てに関する事項、③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日、をそれぞれ定めなければなりません(会社法454条)。
もっとも、㋐会計監査人設置会社であり、㋑取締役の任期が1年を超えず、㋒監査役会設置会社または委員会設置会社である場合には、取締役会の決議をもって剰余金の配当を行うことができる旨を定款で定めることができます(同法459条)。
また、 取締役会設置会社は、一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができます(同法454条5号)。
(2) 配当の支払に関する規制
まず、会社の純資産の額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当ができません(会社法458条)。
また、剰余金の配当は、株主に交付される財産の帳簿価額の総額が、当該行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(同法461条1項)。
分配可能額の計算方法としては、446条各号に従って分配時点での剰余金を算定し、当該剰余金の額を基に461条2項に従って、分配可能額を算出することとなります。
分配可能額を超えて配当が行われた場合、当該配当を提案した取締役および当該配当を受け取った株主は、会社に対し連帯して、当該配当額相当の金銭を支払う義務を負います(同法462条1項)。
|
2.タイ
(1) 配当決定の手続き
配当は、株主総会の決議に基づいて行われなければなりません(民商法1201条1項)。
ただし、取締役が、中間配当を行うための利益があることが明らかであると判断したときは、取締役の判断で中間配当を行うことができます(同条2項)。
また、配当の支払は、配当決定の決議から1か月以内に行われる必要があります(同条4項)。
(2) 配当の支払に関する規制
配当の原資は利益のみであり、また、会社に累積赤字がある場合には、当該累積赤字がなくなるまでは配当ができません(民商法1201条条3項)。
また、配当を実施する都度に会社は、会社の資本額の10分の1以上に達するまで、利益の20分の1を利益準備金として積み立てる必要があります(同法1202条1項)。
会社が、これらの規制に違反して配当を行った場合、会社の債権者は株主に対し、配当を受けた金額を会社へ返還するよう請求することができます。ただし、配当が規制に違反していることを知らなかった株主については、返還を強制されません(同法1203条)。
3.マレーシア
会社が株主に対して配当を実施するためには、会社が支払能力を有している必要があります(会社法131条⑴)。会社法によれば、少なくとも、会社が配当実行直後から12か月以内に支払期限が到来する債務を履行することができる状態にある場合には、その会社は支払能力があるとみなされます(同条⑶)。
加えて、会社による配当は、会社が得た利益からのみ実施できるとされています(同条⑴)。法律上、利益(profit)の内容について特段の定義は存在しませんが、裁判例によれば、ここにいう利益には子会社の利益は含まないことが確認されています。
利益が存在する時期について、会社法の文言上、その基準時は配当時であると考えられます。ただし、過去の裁判例には、その基準時について、配当宣言時に存在する必要があるものの、支払時に存在する必要はない旨判示したものが存在します。
(2) 配当規制違反の場合の効果
仮に、会社が支払能力要件を満たすことなく配当を実施し又は会社の利益以外から配当を実施した場合、会社は配当を受けた株主に対して、超過配当額相当の金額の返還を求めることができます(133条⑴)。ただし、株主が超過配当であることについて知らなかった場合や会社に支払能力がなかったことを知らなかった場合には、当該株主は、会社からの返還請求を拒絶することができます(同項(a)・(b))。
|
4.ミャンマー
会社法第107条及び第109条及び定款に従い、会社の取締役会は、その株主に対して配当を支払う旨を決議し、その金額、支払時期及び支払方法を定めることができます(会社法106条(a))。配当の支払方法は、現金、株式発行、オプション授与又は資産の譲渡によることができます(同条(b))。
会社は、以下の場合を除き、配当の支払を行うことはできません(会社法107条(a))。
- 配当支払の直後において会社が支払能力検査を充足すること
- 配当の内容が、株主に対して全体として公平かつ合理的であること、及び
- 配当金の支払が、債権者に対する会社の支払能力に重大な影響を与えないこと。
(2) 配当規制違反
会社が第107条の要件を遵守しなかった場合、会社は、50万チャットの罰金に処され、当該違反を認識しながら意図的に違反を許した全ての取締役又は役員も同じ罰金が科せられます(会社法108条(a))。
会社が配当の支払の後にそれと関連して支払い不能となった場合、第107条に違反していることを認識しながら意図的に配当の支払いを許した全ての取締役は、各債権者に対する弁済期が到来した負債の額が会社の責任財産を超過している限度において、会社の債権者に対しても責任を負います(同条(b))。
5.メキシコ
⑴ 配当の手続きについて
メキシコでは、配当金の支払いは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ行うことができるとされています(会社法第19条)。
配当は、株式の出資の履行の金額に比例して行われ(同法第117条1段落)、株式の発行日から3年を超えない期間は、年率9%を超えない配当を付す旨を定款で定めることができるとされています。定款で定められた場合、配当の額は一般経費に計上する必要があります(同法第123条)。
また、株券発行会社においては、株券に「クーポン」が添付されており、切り離して会社に示すことで配当をうけることができます(同法第127条)。
⑵ 違法配当について
前述のようにメキシコでは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ配当を行うことができます。
このような事情が無いにもかかわらず、会社が配当を行った場合、当該配当は法的効力を持たず、会社および債権者は、配当を受け取った者に対して訴訟を提起するか、支払った役員等に対して弁済を求めることができます。また、配当を受け取った者と支払った役員等は連帯して責任を負うことになります(会社法第19条)。
|
6.バングラデシュ
(1) 配当の方法
配当は、会社の利益から支払われ、利益の金額とは、会計年度の利益から減価償却を控除して算出されるものとされています。
会社は、定款で別段の定めがない限り、出席した株主の過半数の賛成で可決する普通決議(Ordinary Resolution)を行い、株式の配当を決定します。株主総会に提出される取締役会の貸借対照表には、i) 会社の状況、ii) 取締役が提案する貸借対照表に計上される準備金額(もしあれば)、iii) 取締役が推奨する配当金額(もしあれば)、iv) 貸借対照表が対象とする年度の最終日から報告日の間に生じた、会社の財務状況に影響する実質的な変化および義務に関する取締役会による報告書が添付されます(会社法184条1項)。
(2) 配当金の海外送金
配当金については、外国為替取引ガイドライン第10章「31.(a)非居住者の株主への配当金」により、海外送金する手続きが定められています。必要な書類を提出すれば、バングラデシュ銀行の事前の承認なしで送金することができます。また、配当金は、非居住者が管理する外貨口座に対する送金も可能です。
(3) 上場企業
上場企業は、配当に関して、バングラデシュ証券取引委員会(The Bangladesh Securities and Exchange Commission :BSEC) と、バングラデシュ中央銀行からの規制が定められています。
7.フィリピン
- 概要
フィリピンの会社法では、会社は留保利益(unrestricted retained earnings)から配当を行うことができます。支払額は、原則として株主が保有する発行済株式に基づいて決定されます。
配当の決定権は基本的に取締役会にあります。例外として、配当を株式で行う場合には、株主総会で発行済株式の3分の2以上の賛成を得る必要があります。さらに、取締役は、実務上、定時株主総会で配当方針や配当の有無を株主に説明し、配当を行わない場合にはその理由を説明することが求められます。
- 配当の要件
配当を行うための基本的な要件をまとめると以下のとおりです。
- 留保利益があること。
- 取締役会で配当の決議を行うこと(配当を株式で行う場合、発行済株式の3分の2以上の賛成を得ること。)
- SEC(証券取引委員会)が出すその他の要件を遵守すること。
- 株主の配当受領に関する制限
株主が配当を受け取る権利には制限があります。株式の払い込みが未払いの株主については、配当金は未払いの株式引受金額および関連費用に充当され、残額のみが配当金として支払われます。また、配当を株式で行う場合は、株主が未払いの引受金額を全額支払うまで配当が保留されます。
- 配当の義務
基本的に、配当を行うかは取締役会の裁量に委ねられています。そのため、留保利益があっても配当は会社の義務ではありません。ただし、例外として、保留利益が払込資本金を超える場合で、払込資本金を超える保留利益の保持が許可されない場合は、会社は配当を行う必要があります。
|
8.ベトナム
(1) ベトナムの企業規制における会社の種類
ベトナムの現行の企業規制では、複数の企業形態があり、それぞれ固有の法的特性と組織構造を持っています。その中で、国内および外国の企業家や投資家は、通常、有限責任会社(一人社員または複数社員で構成されます)または株式会社という企業形態を選択して、ベトナムで事業を立ち上げます。そこで、本ニュースレターでは、これらの種類の企業に関連する情報のみを取り上げます。
法律により、株式を発行し配当を受け取ることが認められているのは株式会社のみです。一方で、有限責任会社、特に複数社員で構成される有限責任会社は、対応する出資額に応じた割合で利益分配を受けなければなりません。
(2) 有限責任会社と利益分配
有限責任会社の社員の法定権利として認められ規制される利益分配を受ける権利は、現行の企業法に規定されています。有限責任会社の利益分配の計画は、社長または総社長が提案し、社員総会の承認を得る必要があります。有限責任会社に現金またはその他の財産で資本金を拠出した個人社員および組織社員の委任代表者全てが、事業の最高決定機関である社員総会を構成します。
有限責任会社が利益を分配するための条件には以下が含まれます。
- 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
- 利益分配を実施した後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。
上記の条件のいずれかが満たされない場合、有限責任会社の社員が利益分配として会社から受け取った金銭や財産は、違法な利益分配とみなされます。この場合、社員は受け取った全ての金額や財産の全額を返還しなければなりません。また、社員は、返還されていない現金や財産の割合に応じて、それらが全額返還されるまで、会社の債務や負債について共同で責任を負う義務があります。
(3) 株式会社と配当
現行の企業法では、配当とは、1株当たりの現金またはその他の財産に対する純利益と定義されています。株式会社の株式は普通株式と各種優先株式(配当優先株式、償還優先株式など)に分けられます。優先株式の配当は、それぞれの優先株式に記載された条件に従って支払われます。そこで、本ニュースレターでは、普通株式の配当に適用される条件のみを概説します。
普通株式の配当は、以下の条件を満たす場合に限り、法定の支払方法によるベトナムドン(現金)での支払い、または株式や株式会社の会社定款に規定されたその他の財産での支払いが可能です。
- 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
- 法律および当該会社の定款に従って、会社の資金への拠出を完了し、過去の損失を補填した後であること。
- 配当後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。
株式会社が株式による配当を選択する場合、株式の募集手続きではなく、定款資本を増加させる手続を行う必要があります。
定時株主総会終了後6か月以内に、配当は株主に支払われます。取締役会は、配当を受ける株主の名簿、株式ごとの配当額、配当の支払時期および支払方法を、毎回の配当支払日の遅くとも30日前までに作成する責任を負います。配当支払日の遅くとも15日前までには、株主の登録住所に配当支払通知書を速達で送付しなければならず、その通知には、最低でも法律で定められた5項目の情報が記載されている必要があります。また、株主名簿の作成日から配当支払日までの間に株式を譲渡した場合は、譲渡人が配当を受け取ります。なお、ベトナムの株式会社の取締役会は、例えば英国や米国の法律に基づいて設立された会社の取締役会と多くの点で類似しています。
配当が前述の要件や規制に違反する場合、配当は違法とみなされます。この場合、株主は受け取った金額や財産を全額返還する義務があります。もし返還が行われない場合、取締役会の全メンバーは、未回収の金銭または財産の価値に相当する会社の債務および負債について共同責任を負うことが求められます。
9.インド
⑴ 配当の手続きについて
インド会社法では、配当とは中間配当を含むとしています(会社法2条(35))。したがって、中間配当と期末の配当を行うことが可能です。
会社は減価償却後の利益から、若しくは減価償却後の未配当の過去の会計年度の利益から、又はその両方から適当と認められる配当率及び配当額を決定して配当の宣言を行うことができます(会社法123条(1)(a))。いずれかの会計年度において利益が不十分な会社については、配当の宣言及び支払に関する会社規則(Companies (Declaration and Payment of Dividend)Rules 2014)に規定する以下の条件従うことを条件として配当を行うことが可能です。
- 配当金の率が直前の3年間の平均を超えないこと
- 配当額が払込資本金及び準備金の合計額の10分の1を超えないこと
- 引き出された金額は、配当が宣言される前に配当を宣言する会計年度に発生した損失を相殺するために使用される
- 配当支払後の準備金が払込資本金の15%を下回ってはならない
取締役会で配当額や年次株主総会の日付等が決議され、配当の宣言は年次株主総会の普通決議の議題となります(会社法102条(2))。
中間配当については、取締役会は、会計年度中に、損益勘定の剰余金及び中間配当を宣言しようとする会計年度の利益から中間配当を宣言することができます。ただし、中間配当の宣言日の直前四半期末までの当会計年度に損失が発生した場合、当該中間配当は、直前3会計年度に会社が宣言した平均配当率を上回る率で宣言してはなりません(会社法123条3項)。
⑵ 配当期間の規制について
会社によって配当が宣言されたにもかかわらず、宣言の日から30日以内に配当が行われなかった場合、配当金の不支給について故意の取締役は2年以下の禁固刑、および違反が継続する期間につき1日当たり1,000ルピー以上の罰金に処せられ、会社は違反が継続する期間中、年18%の単利を支払う義務を負います(会社法127条)。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、株主総会において、法定準備金及び任意準備金を控除した後に、株主に配当する純利益の割合を定めるものとされています(会社法第243条1項)。通期、半期または四半期の利益に応じた配当について、社則で定めることができます(同第3項)。法定準備金を配当の原資とすることは原則できませんが、社則で定めた割合の純利益がなかった年には、法定準備金のうち資本の50%を超過した部分については、社則で定めた割合に従って配分することができます(会社法第241条1項、3項)。なお、毎年の純利益の10%は法定準備金とする必要があり、法定準備金の額が資本金の50%を超えたときには、株主総会決議によって純利益からの法定準備金の積み増しを中止することができます(会社法第241条2項)。
非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて(会社法第267条)、有限会社(Limited Liability Company)については、毎年の純利益の5%を法定準備金とする必要がある(会社法第103条)他、その性質に矛盾しない限り、証券商品庁を所管官庁と読み替えて(会社法第104条1項)、適用されます。
上記は本土で設立された会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、各フリーゾーンの規則によって規定されます
11. インドネシア
(1) 配当金の支払い
インドネシアにおける配当金について、株式会社は、各会計年度の純利益の一部を準備金として積み立てる義務があり、資本金額の20%を超えるまで積み立てる必要があります。純利益の配当は、定款で別段の定めがない限り、及び/又は、株主総会における配当額などに関する普通決議がない限り、準備金控除後の純利益を株主に配当金として支払わなければなりません(2007年第40号(以下、「会社法」といいます。)70条、71条)。
株主が受け取る配当金の金額は、保有する株式の割合に比例し、会社が利益残高を有する場合にのみ配当が可能です。なお、5年以上、未払いとなっている配当金は特別準備金(cadangan khusus)として保管され、10年間未払いのままである場合、それらの配当金は会社の収益の一部として引き継がれます(会社法73条)。
(2) 中間配当
インドネシアでは、中間配当の支払いも可能ですが、会社の定款に定める必要があります。また、中間配当は監査役会での承認を得た後、取締役会決議に基づき決定され、①会社の純資産額が発行済みおよび払込済みの資本金と準備金を下回らない場合、②債権者への義務や会社の活動の妨げにならない場合に限り配当が可能です。なお、会計年度の終了後に、会社が損失を被った場合、すでに分配された中間配当は、株主によって会社に返還されなければならない義務があり、返還できない場合には、取締役およびコミサリス(監査役)は会社が被った損失に対して連帯責任を負います(会社法72条)。
|
発行 TNY Group |
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所) ・佐賀(TNY国際法律事務所) URL: http://www.tny-legal.com/ ・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.) URL: http://www.tny-malaysia.com/ ・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.) ・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.) URL: http://estonia.tny-legal.com/ ・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh) URL: https://www.tny-bangladesh.com/ ・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.) URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines ・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.) URL: https://www.kt-vietnam.com/ ・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.) URL: https://uk.tny-legal.com/ ・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置) URL: https://dubai.tny-legal.com/ ・インド(TNY Services (India) Private Limited) ・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA) URL: https://www.tny-indonesia.com/ Newsletterの記載内容は2024年12月24日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。 |