「各国のトピック、最新の法令等の紹介」TNY Group Newsletter No.71
1.日本
(1) 改正下請法の施行開始
2026年1月1日より、下請法が改正され、名称を新たに中小受託取引適正化法(以下「取適法」といいます)として施行されています。
原材料費や労務費の高騰の中、中小の事業者が賃上げの原資を確保するための適切な価格転嫁の実現を図ることが今回の改正の意図となっています。
(1) 改正点
ア 用語の変更
「下請け」という言葉は、委託者と受託者の間に上下関係があるというイメージにつながるという考慮から「下請事業者」は「中小受託事業者」という用語に変更されます。また、「親事業者」は「委託事業者」に、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されます。
イ 適用対象の拡大
(ア)対象取引
従来の下請法が対象としていた製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに特定運送委託が対象取引に追加されました。
特定運送委託とは、事業者が販売、製造、修理をする物品等を、取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引をいいます。
(イ)対象事業者
また、適用対象となる事業者についても、従来は委託事業者(親事業者)と中小受託事業者(下請事業者)の資本金規模によって定めていましたが、新しい取適法では、これに加えて従業員の人数規模の基準も導入されます。
取適法の適用対象となる事業者は以下のとおりです。
| ・製造委託・修理委託・特定運送委託 ・情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る) | |
| 委託事業者側 | 中小受託事業者側 |
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 資本金1000万円超3億円以下 | 資本金1000万円以下 |
| 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託(ログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く) | |
| 委託事業者側 | 中小受託事業者側 |
| 資本金5000万円超 | 資本金5000万円以下 |
| 資本金1000万円超5000万円以下 | 資本金1000万円以下 |
| 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下 |
ウ 禁止行為の追加
取適法では、新たに、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」と「手形払等の禁止」が定められています。
まず、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」について、材料費や労務費等の費用が高騰した場合に、中小受託事業者が製造等委託代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定することは禁止されます。
また、中小受託事業者の資金繰りの安定のために、手形支払いは禁止となります。
2.タイ
(1) 会社設立登記に関する法令の施行
事業開発局(DBD)は、外国人株主が関与する事業、または外国人がサイン権者に任命される事業におけるパートナーシップまたは非公開会社の登記の規則と手続きを強化するため、本規則を施行しました
(2) 概要及び留意点
会社設立登記時、申請者は、以下の状況において、タイ人株主全員について追加の証明書類を提出する必要があります。
- 外国人株主が登録資本金の50%未満を保有するパートナーシップまたは非公開会社
- 外国人株主はいないが、外国人がサイン権者に任命されている非公開会社
各タイ人株主は、株式払込または出資日以前3か月分の銀行取引明細書を提出する必要があります。当該明細書には、引受株式の価値に相当する金額の引き出しまたは送金、および当該支払いが行われた日付が明記されていることが求められます。
3.マレーシア
(1) 概要
Ministry of Home Affairs (MOHA)が2026年1月14日付で発出したプレスリリースによれば、外国人駐在員(Expatriate)に関する最低給与要件および雇用期間の枠組みが改定され、2026年6月1日より施行されます。就労パス(Employment Pass:EP)には、カテゴリーI、II、IIIがあり、それぞれの取得要件が異なっています。今回の改訂によりいずれカテゴリーにおいても最低給与基準が改定され、あわせて雇用期間の枠組みが導入されます。2026年6月1日以降に提出される、すべての新規申請および更新(renewal)申請は、当該改訂後の要件に従って審査されることになります。MOHAは、今後詳細なガイドラインを公表するとしていますので、今後の動向を注視する必要があります。
(2) 各カテゴリーの改訂内容
(ア)カテゴリーⅠ
従来の給与基準はRM10,000~RM19,999でしたが、RM20,000以上に変更されます。期間は最長10年です。
(イ)カテゴリーⅡ
従来の給与基準はRM5,000~RM9,999でしたが、RM10,000~RM19,999に変更されます。期間は最長10年です。また、現地ローカルへの職務承継計画書の提出が求められます。
(ウ)カテゴリーⅢ
従来の給与基準はRM3,000~RM4,999でしたが、RM5,000~RM9,999に変更されます。期間は最長5年です。また、Ⅱと同様、現地ローカルへの職務承継計画書の提出が求められます。扶養家族の同伴については、これまでカテゴリーⅢについては原則認められていませんでしたが、改定後は、これが認められることとなりました。ただしFAQによれば、駐在員の給与基準、保険付与状況、法令遵守等を考慮して可否判断が行われるようです。
4.ミャンマー
(1) サイバーセキュリティ法の施行
2025年1月、ミャンマーにおいて新たなサイバー規制の枠組みとしてサイバーセキュリティ法(Cybersecurity Law)が施行されました。本法は、国家安全や社会秩序の維持を目的として、オンライン通信、デジタルプラットフォーム及びデータ管理に対する統制を大幅に強化する内容となっています。
(2) 概要及び留意点
通信事業者やオンラインサービス提供者に対して、利用者情報や通信ログの一定期間保存義務が課されるほか、当局からの要請に基づく情報提供やコンテンツ削除への対応義務が明記されており、企業のITガバナンス体制への影響は小さくありません。また、無許可のVPN利用や禁止コンテンツの流通に関する規制も強化されており、従業員の通信手段や社内システムの運用についても慎重な管理が求められます。さらに、当局はウェブサイトやオンラインサービスへのアクセス制限措置を講じる権限を有するとされ、クラウドサービスや越境データ移転の実務にも影響が及ぶ可能性があります。日系企業にとっては、個人情報管理、内部通報制度、データ保管場所、ITセキュリティポリシーの見直しが重要な対応課題となり、現地法令と本社ポリシーとの整合性確保が一層求められる点に留意が必要です。
5.メキシコ
(1) 連邦経済競争法の概要
昨年改正のあった連邦経済競争法(Ley Federal de Competencia Económica:LFCE)について、その概要を記載します。同法は、憲法第28条に基づく競争法制として、自由競争・自由参入及び経済上の競争を確保するための規律を定めた法律です。対象としては、競争制限的な行為(反競争的な協定・カルテルを含む)、市場における排除や支配につながる行為などの絶対的及び相対的な独占的行為のほか、違法な企業結合に及びます。そしてそれらの行為について、調査、審理・決定、是正措置、制裁、情報の取扱いの枠組みが規定されています。違反に対しては、行為の中止・排除や是正、結合の解消等の措置に加え、罰金等の制裁が規定されています。
(2) 2025年連邦経済競争法の改正点
①執行機関の再編
従来の競争当局である連邦経済競争委員会(Comisión Federal de Competencia Económica:COFECE)に代わり、国家反独占委員会(Comisión Nacional Antimonopolio:CNA)へ移行する制度が整備されました。CNAは、連邦行政組織に属する分権的公的機関として、経済省(Secretaría de Economía)の所管の下に置かれつつ、法的主体性と独自の財産を有し、意思決定・組織・運営に関して技術的及び運用上の独立性を備えるものとされています。
統治機関として合議体が置かれ、委員長を含む5名の委員で構成され、連邦行政府による指名と上院による承認を段階的に行う仕組み、委員の任期(7年)及び委員長の任期(3年、1回に限り延長可)等が規定されています。
②主な追加及び改正条項
2025年改正では、実体及び手続面でも複数の追加や改定が行われました。企業結合の審査に関し、事前許可が必要となる取引類型の金額基準が定められています。また、予防や検知を目的とするコンプライアンス・プログラムを当局が認証する制度や、反競争的行為について、個別又は集団の損害賠償請求を当局決定後に提起できる制度が盛り込まれました。
さらに、同法に第4編「通信・放送分野」が新設され、全国シェアが50%超であること等を基準に「優越的経済主体」の該当性を判断するための枠組みが規定されています。加えて、周波数の集中、新たな免許の付与、放送・通信間のクロスオーナーシップについて、一定の場合に制限を課す規定が設けられました。
6.バングラデシュ
(1)最近の政情
バングラデシュでは、2024年8月の政変後、ムハマド・ユヌス氏が率いる暫定政権が続いていましたが、2026年2月12日に総選挙(定数350、うち直接選出300)が実施され、憲法に基づく正式政権へ移行しました。選挙監視団も派遣され、投票前日の11日から開票終了まで大きな混乱は確認されませんでした。
選挙の結果、バングラデシュ民族主義党(BNP)が単独で209議席(連合で212議席)を獲得し、3分の2を超える多数を確保して新政権を主導することとなりました。
(2)最新法令の紹介
2025年の労働法改正に続き、2026年2月16日には2015年労働規則も改正されました。主な内容は、石油・ガス業界の基金に関する規定の追加です。
また、生物多様性と野生生物保護の強化を目的として、2026年1月6日に森林・樹木保全条例、1月7日に野生動物(保全および保護)条例が制定されました。これらは環境・森林・気候変動省が所管し、同時に2012年野生生物(保護および保護)法は廃止されています。新条例では、野生動物の保護・管理や森林開発に関する制度を整備するとともに、違反行為に対する罰則が強化されています。
7.フィリピン
(1) はじめに
フィリピン進出を検討する企業にとって、外資規制は最初に確認すべき点です。特に、以下の点に留意する必要があります。
・業種によっては100%外資が認められない
・株主構成に応じて取締役の国籍割合を調整する必要がある
・主要役職に特有の国籍・居住要件がある
(2) 外資規制下での役員構成ルール
①取締役に関する要件
外資規制対象会社では、株主の出資比率と取締役の国籍割合を一致させる必要があります。たとえば、フィリピン人が60%株式を保有している場合、取締役の60%以上をフィリピン人とする必要があります。
なお、取締役の主な要件は以下のとおりです。
・原則2名以上(1名の場合はOPCという異なる会社形態になります。)
・外国人でも就任可能
・フィリピン居住は不要
・株式を保有していることが必要
②主要役職者に関する要件
取締役以外にも、President(社長)、Secretary(秘書役)、Treasurer(財務役)について特有のルールがあります。秘書役・財務役は日本には無いポジションですが、フィリピンでは会社設立時に必須の役職です。
特に重要なのは以下の点です。
・Secretaryはフィリピン国籍・居住者であることが必要
・外資規制下ではPresidentに国籍制限がかかる
・兼任禁止ルールが存在する
(3) 外資規制(ネガティブリスト)
フィリピンの外資規制は、Foreign Investment Negative List(ネガティブリスト)により整理されています。具体的には、以下が整理されています。
・外資が完全に禁止される業種
・外資比率に上限がある業種
外資規制を踏まえて、進出検討時の基本ステップは以下の流れになります。
ⅰ事業内容の整理
ⅱネガティブリストとの照合
ⅲ出資上限の確認
JETROが日本語訳を公開していますが、英語の正式版と併せて確認することが重要です。
(4) 特に注意が必要な業種
①小売業
外国人が小売業(飲食業を含む)の株式を40%超保有する場合、2,500万ペソ以上の資本金が必要です。
② 国内向けビジネス
輸出事業ではなく、国内市場を対象とする事業については、原則として20万米ドル以上の資本金が必要です。
(5) 実務上の留意点
外資規制の難しさとして、以下のような問題があり、「条文を読めば明確」とは限りません。
・事業内容の解釈によって結論が変わり得る
・行政庁の明確なガイドラインが存在しない場合がある
そのため、出資比率の設計段階から専門的な検討が不可欠です。
8.ベトナム
(1) ベトナム投資法の改正に伴う新規制
2025年の投資法である法律第143/2025/QH15号(以下「2025年投資法」といいます。)が2026年3月1日から施行されます。以下は、本改正法のポイントです。
(2) 条件付投資分野の大幅な削減・縮小
2025年投資法では、以下のような事業が条件付投資分野から除外されます。この除外に関する規定は、2026年7月1日から施行されます。
- 税務手続業、通関手続サービス業、保険補助サービス業、労働者派遣サービス業、保管サービス業
- 留学コンサルティングサービス業、美容整形サービス業
- 商業検査サービス業、冷凍食品の一時輸入・再輸出業、使用済み物品リストに属する物品等の一時輸入・再輸出業 など
(3) 外国投資家は、法人設立前に投資プロジェクトを有する必要がなくなりました
2025年投資法第19条第2項は、外国投資家が、事前の投資プロジェクトを要することなく法人を設立できることを認めましたが、市場アクセス条件を満たさなければなりません。具体的には、次の通り規定されています。「外国投資家は、投資登録証明書の交付又は調整の手続を行う前に、投資プロジェクトを実施するための経済組織を設立することができ、経済組織の設立手続を行う際には、本法第8条に定める外国投資家に対する市場アクセス条件を満たさなければなりません。」
したがって、法人設立前に投資プロジェクトを要するとしていた旧規定と比較すると、取扱いが異なります。
(4) 海外投資手続の簡素化
2025年投資法では、海外投資政策の承認手続を廃止し、海外投資登録証明書を必要とするプロジェクトの範囲を縮小しました。政府は、許認可手続が免除されるプロジェクトについて詳細規定を定める一方、外国為替管理及び国家の財政安全保障に関する監督措置を追加します。
(5) 投資プロジェクトの運営期間に関する規定の調整
2025年投資法は、経済特区以外のプロジェクトについて最長50年、同区内のプロジェクトについて最長70年という上限を引き続き維持します。もっとも、本法は、70年の期間が適用される範囲を、ハイテクパーク、集中型デジタル技術パーク、及び特別投資優遇の対象となるプロジェクトにまで拡大します。また、2025年投資法は、プロジェクトの期間満了時に、運営期間を延長する仕組みを設けています。すなわち、投資家が法令上の条件を満たし、かつ、当該プロジェクトが旧式技術を使用しておらず、環境汚染のリスクを生じさせず、また、国家への無償資産移転を要する類型に該当しない場合、投資家は延長を申請することができ、各延長期間は上記の最長期間を超えないものとされます。
(6) 投資方針承認の対象となるプロジェクトの範囲の明確化
2020年投資法では、投資方針承認を要するプロジェクト群を直接定義しておらず、各機関の権限に応じて規定するにとどまっていましたが、2025年投資法第24条は、同プロジェクトの類型を20種類、具体的に列挙しています。例えば、以下の通りです。
- 大規模又は配慮を要する土地・資源を使用するプロジェクト:大面積の森林用地(特用林・保護林・生産林)の転用、500ヘクタール以上の稲作地の転用、大規模な再定住を伴うプロジェクト、国防・治安に影響する地域のプロジェクト、海域の割当を求めるプロジェクト。
- 特別かつ配慮を要する分野に属するプロジェクト:原子力発電、カジノ及び賭博、石油・ガス加工、航空運送、ネットワークインフラを伴う電気通信、再植林、外国投資家による出版・報道。
- 文化遺産及び特別級の都市区域に関連するプロジェクト:国家記念物又は世界遺産として保護される区域のプロジェクト、特別級の都市の開発制限区域又は歴史的中心区域のプロジェクト。
- 大規模インフラ及び不動産プロジェクト:住宅建設、都市区域(投資家が既に土地使用権を有する場合)、ゴルフ場、工業団地・輸出加工区・デジタル技術区、大規模港湾、空港及び重要航空インフラ。
- 特別要件を伴うプロジェクト:土地の割当・賃貸又は土地使用目的変更許可の申請(一定の除外事由を除きます)、法令に定めのない特定の制度・政策の適用を要するプロジェクト、法令により首相の承認権限に属すると定められるその他のプロジェクト。
9.インド
(1) 労働法の改正
2025年11月21日、インド政府は突如、改正労働法の施行を発表しました。
インド憲法は、労働に関する事項を連邦政府と州政府の共同管轄事項として定めています(インド憲法 Schedule 7, list III)。
そのため、連邦法から州法にいたるまで無数の労働法令が存在しており、その全体像の把握が難しく、どの場合に、どの法令が適用されるかも分かり辛い等、非常に複雑な構造となっています。
このような複雑な労働法体系を整理するために、モディ政権の下で29の労働法(連邦法)を4つの法典に整理統合することが行われました。
4法典は、それぞれ
(a) 2019年賃金法 (Code on Wages, 2019)(以下、「賃金法」という)
(b) 2020年労使関係法 (Industrial Relations Code, 2020) (以下、「労使関係法」という)
(c) 2020年社会保障法(Code on Social Security, 2020) (以下、「社会保障法」という)
(d) 2020年労働安全衛生法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)(以下、「労働安全衛生法という」)
といい、いずれも2020年9月頃までには成立して、インド官報で公表されていましたが、これまで施行スケジュールが明らかでなく、いつ施行されるのか不明のままでした。しかし、今般、インド政府は2025年11月21日に、同日付でこれら4法典を施行することを発表しております。
(2) 改正労働法の施行状況
新しく施行される4法典は、細部のルール等を施行規則や州が定める州法に委ねている部分がありますが、こうした施行規則や州法は未だ未整備です。
報道等によると、インド政府は、新年度である2026年4月1日を目途に施行規則を整備する方針で検討をしているようです。そのため、施行が発表されたといえども、実質的にはまだ旧法から新法への移行期間であるといえます。
この点、移行期間中は、新しい労働法典と矛盾しない範囲で旧来の法令が引き続き有効であるとの政府の見解も出ております。
しかし、法令の施行スケジュールが不透明なインドでは、この移行期間がいつまで続くのか定かでない部分もあります。
そのため、可能な限り早めに社内の雇用条件の見直し等を進めておく必要があります。
(3) 主な改正点
新しい労働法の改正点は多岐にわたりますが、以下では主なものを簡単に紹介いたします。
ア 賃金法
従来、賃金(Wages)の定義は法令ごとに異なっていましたが、賃金法典により定義が統一されました。給与や手当など支払いの名目にかかわらず、金銭あるいは金銭と同視できる報酬を意味し、基本給、物価調整手当、残留手当を含むものとされています。住居手当や家賃手当等の一定のものについては、賃金の定義から除外されていますが、報酬総額の2分の1、または中央政府が通知するその他のパーセントを超える場合、当該超過額分は報酬とみなされ、賃金に加算されるので注意が必要です。
また、これまで一定の範囲の従業員のみに最低賃金が定められていましたが、賃金法典では中央政府がすべての従業員に適用される最低賃金を定めることとされています。
イ 労使関係法
労使関係法では、ワーカー(worker)の定義が拡大されました。
インドの労働法は労働者をワーカーとノンワーカーに区別しており、ノンワーカーは雇用主と対等に近い関
係としてその労働条件は主に当事者間の雇用契約によって規律される一方、ワーカーは法令上手厚い保護
が与えられます。
この点、従来の法令ではワーカーは、雇用条件が、明示的か黙示的かを問わず、あらゆる産業において、有償又は報酬を得て、未熟練・熟練、技術的、作業的、事務的、監督的業務を行うために雇用されている者と定義されており、監督的(supervisory capacity)な立場として雇用され、月額10,000ルピーまたは中央政府が定める額を超える賃金を得ている者はワーカーに含まれないとされてきました。
しかし、新しい労使関係法では、ワーカーに含まれない者の範囲が監督的な立場として雇用される者のうちで、賃金が月額10,000を超える者から18,000ルピーを超える者に変更され、ワーカーの定義が拡大されました。
ウ 社会保障法
従来、社会保障制度であるEPF(従業員積立基金)への加入義務は、法令で定める一定の産業に属する事業所等に課されていましたが、新しい社会保障法では、20名以上の従業員を雇用するすべての事業所に、加入義務があります。
エ 労働安全衛生法
従来、雇用契約は口頭の成立でも認められ、特定の書面の作成までは求められていませんでしたが、新しい労働安全衛生法では、雇用の際にアポイントメントレターと呼ばれる雇用契約書の作成義務があります。
また、従来、労働時間等の条件は、工場かそれ以外の店舗・オフィス等の施設かによって、適用される法令が異なっていましたが、新しい労働安全衛生法では就労場所の区別なく、1日の労働時間を8時間と定めています。
また、これまで、女性の午前6時前及び午後7時以降の時間の勤務は認められていませんでしたが、新たに、本人の同意があればこの時間帯での勤務も可能となります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)については、2022年12月にジャパンデスクを開設して業務を行っていましたが、この度、フリーゾーンにコンサルタント会社を設立しましたので、お知らせします。
これまでと同様、必要に応じて、複数の現地法律事務所の協力を得つつ、ドバイをはじめとする中東各国に関してのご相談に対応していきます。
会 社 名: TNYKOKUSAI CONSULTING – FZCO
所 在: IFZA Business Park, Dubai Silicon Oasis
お問い合わせ窓口: info@tnygroup.biz
11. インドネシア
(1) 宗教手当(THR)の概要
インドネシアでは、年に1回宗教手当(THR:Tunjagangan)と呼ばれる賞与を付与することが規定されています(従業員のための宗教手当に関する労働大臣令2016年第6号(以下、「THRに関する規則」といいます)。付与する時期は宗教休暇の最低7日前までに支給する必要があると規定されており(THRに関する規則第9条)、従業員が信仰する宗教に応じて、宗教休暇は異なります。法令上においては、ムスリムはイドゥル・フィトリ(レバラン)、カトリック・プロテスタントにはクリスマス、ヒンドゥー教徒にはニュピ、仏教徒にはワイサック(ウェーサーカ)、儒教を信仰する従業員には、旧正月がそれぞれの宗教休暇に当たります(THRに関する規則第2条)。ただし、人口の80%以上がイスラム教徒であるインドネシアでは宗教に関係なくTHRをイドルフィトリ(レバラン)を基準に支給するのが慣行です。今年は、イドゥル・フィトリが2026年3月20日頃と予測されており、法令に基づき、遅くともその7日前までにTHRを支給する必要があります。もっとも、正式なイドリフィトリの日にちは、インドネシア政府により、直前に決定されるため、期限が変動する可能性があり、余裕をもった支給計画を策定することが重要です。
(2) THRの受給
THRの受給資格を持つのは、最低1ヶ月以上連続して勤務しているa) 正社員(Perjanjian Kerja Waktu Tidak Tertentu – PKWTT)及び、b) 有期雇用契約社員(Perjanjian Kerja Waktu Tertetu-PKWT)が該当します(THRに関する規則第2条)。また、宗教休暇前の30日以内に退職した従業員に対しても、支給義務があります(THRに関する規則第7条)。THRの金額は1年以上連続して勤務している従業員には、1ヶ月の固定給分を支給する必要があり、1カ月以上連続して勤務していない従業員には支払いの義務はありません。しかし、1年未満の勤務の場合、勤務月数に応じて、月割計算を行う必要があります。具体的な計算方式としては法令上、下記が規定されています(THRに関する規則第3、5条)。
”THR”=”勤続月数/12 “×”月の固定給”
また、勤続期間は1ヶ月単位とし、1ヶ月に満たない期間は法令上において規定はありませんが、切り捨てて計算するのが慣行です。例えば、2ヵ月10日勤務した従業員の場合は、10日分は切り捨てられ、2ヵ月分の給料に対する割合でTHRが支給されます。
(3) 罰則 使用者が従業員へのTHRの支払いを怠った場合、支払い期限日、つまり宗教休暇の7日前から換算して支払い額の5%の支払い義務が課されます(THRに関する規則第10条)。さらに、THRを支払わなかった場合には、a) 書面による警告、b) 事業活動の制裁、c) 生産設備の一部または全部の一時的な停止、d) 事業活動の停止(営業許可の凍結)のような行政制裁が下される可能性があります(賃金に関する規則2015年第78号)。