「各国のトピック、最新の法令等の紹介」TNY Group Newsletter No.74
1.日本
(1) 改正民事訴訟法
2026年5月21日より、改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が施行されています。
同改正により、民事訴訟手続きの全面的なデジタル化が進められます。
(2) 主な改正点
改正により、オンラインでの訴訟提起が可能となります。また、弁護士等の訴訟代理人はオンラインでの申立てが義務となります。
また、手数料等の納付は、従来印紙の貼付によって行っていましたが、改正により、原則として、ペイジーを利用しての電子納付となります。
また、オンラインでの送達が可能となるほか、弁護士等の訴訟代理人については、オンラインでの送達が義務となっています。
更に、書証の写しに代わるデータのオンライン提出や、一定の要件の下でウェブ会議によって証人尋問を行うことができるようになる等、証拠調べの面でもオンライン化が進められます。
2.タイ
(1)タイの個人情報保護法第19条と第20条
タイの個人情報保護法(Personal Data Protection Act B.E. 2562 (2019)、以下「PDPA」といいます。)の第19条は、個人情報の収集等にあたっての個人情報の主体からの同意の取得について定めています。まとめると以下の通りです。
個人情報管理者は、原則として、事前又はその時点で、書面または電子的な手段によって個人情報の主体から明示的に同意を取得していない限り、個人情報を収集、使用、公開することはできません。
同意を要請する際には、書面または電子的手段によって明示的に行わなければならず、その同意の要請は、利用規約など他の内容と抱き合わせることは禁止されており、文言は誤解を招かない平易な表現を用いる必要があります。
同意は任意でなければならず、さらに同意はいつでも撤回できるものとされ、もし撤回が個人情報の主体本人に何らかの影響を及ぼす場合は、予め告知が必要とされています。そして、これらの規定に反して取得された同意の要請は法的拘束力を持たないと定められています。
(2)未成年者からの同意取得
このようにPDPAは同意の取得を厳格に求めていますが、さらに、個人情報の主体が未成年である場合、PDPA第20条第1項は、未成年者の年齢を区切ってさらに厳格な定めを置いています。具体的には、10歳以上20歳未満の場合は、民法上未成年者が単独で行うことができる行為(日常行為など)を除き、本人の同意に加え、親権者等法定代理人が同意を与える必要があります。また、未成年者が10歳未満の場合には、同意は、本人ではなく親権者等法定代理人から取得する必要があります。
近時、タイにおいても未成年者がオンラインゲーム等のサービスを利用することが多くなっていますが、その場合、オンラインゲーム提供会社は、これらの規定に則って対応する必要があります。PDPAのガイドラインでは、サービスの利用申請者である未成年者自身が、年齢を特定し、本人だけで同意を提供できるのか(10歳以上の場合)、又は、親権者による同意の提供が必要であるのかを指定できるような技術的措置またはサービス利用条件を備えることが必要であるとされ、未成年者向けにオンラインゲームサービスを提供する会社の運用として、例えば、親権者等の法定代理人のメールアドレスや電話番号を取得して記録すること、また取得して記録するだけにとどまらず、それらの連絡先を通じて本当に親権者等の法定代理人の意思を確認するものとされています。
未成年者へのサービス提供等、未成年者の個人情報を管理する場合は、より厳密な対応が求められるため、注意が必要です。
3.マレーシア
⑴マレーシア労働安全衛生法(OSHA)の概要
労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act 1994)は、職場における就労者の安全、衛生、および福利を確保するための基盤となる法律です。2022年に成立した改正法(Occupational Safety and Health (Amendment) Act 2022、以下「OSHA」という)は、2024年6月1日に施行され、マレーシア全土のほぼすべての職場に厳格な安全基準を課すものとなっています。以下、改正法について概説します。
⑵ 適用範囲
適用範囲については、公共サービスおよび法定機関を含むマレーシア全土のすべての職場へと拡大されました(OSHA1条⑵)。ただし、①家事従事者(domestic servant)としての家事雇用関係、②軍務(兵役)、③特定の海商規則の適用を受ける船舶上の業務については適用除外とされています(OSHA第1附則)。
⑶ 雇用主概念の再編と義務
(ⅰ) 雇用主概念の再編
改正により雇用主に関する概念が再編され、以下のとおり定義されました。
① Employer:他人を従業員として雇用する旨の役務契約(contract of service)を締結している者(OSHA 3条⑴(v))
② Principal:通商、事業、専門的職務若しくは自己が請け負った業務について、contractorとの間で、当該業務の全部又は一部を当該請負人又はその指揮下の者に実施させる旨の契約を締結している者(OSHA 3条⑴(xviii))。
③ Contractor:Principalの通商、事業等の目的のためにPrincipalが引き受けた業務の全部又は一部を遂行するためにPrincipalと契約する者(OSHA 3条⑴(iv))。
(ⅱ) 職場の安全等確保義務
Employerは、従業員の職場における安全、健康および福祉を確保する義務を負います(OSHA15条⑴⑵)。
Principalは、自己の指揮下で業務を行う請負人・下請人・間接下請人およびこれらに雇用される従業員の安全衛生を確保するため、実行可能な範囲で必要な措置を講じる義務を負います(OSHA18A条(1))。ただし、当該義務はPrincipalの指揮下で業務が行われる場合に限り適用されます(同条(2))。また、Principalは、上記対象者以外の第三者の安全衛生に配慮する義務も負います(同条(4))。
雇用主・自営業者・Principal(以下「雇用者等」)が講じるべき具体的措置には、安全な設備・作業システムの提供・維持や建設作業や設備・物質の取扱い等に関する安全確保などが含まれます(OSHA18A条(3))。
これらの義務に違反した場合、500,000リンギット以下の罰金もしくは2年以下の拘禁刑またはその両方が科せられます(OSHA19条)。
(ⅲ) リスクアセスメント実施義務
OSHA18B条が新設され、雇用者等はリスクアセスメント(就労場所における危険源に起因する安全衛生上のリスクの評価および適切なリスク管理措置の決定プロセス)の実施が法的義務とされました。また、リスク管理措置が必要と判断された場合には、当該措置を実施する義務を負います。
これに違反した場合、500,000リンギット以下の罰金もしくは2年以下の拘禁刑またはその両方が科せられます(OSHA19条)。
(ⅳ) 情報提供義務
雇用主等は設備や物質の設計・製造・輸入・供給者は、設備・物質の安全性確保および必要な情報の提供義務を負い、新たな安全衛生リスクが判明した場合には情報を改訂して供給先に提供する義務も負います(OSHA20条、21条)。また、従業員も、合理的な注意義務の履行、保護具の着用、雇用主の指示・措置への遵守および雇用主への協力義務を負います(OSHA24条)。従業員による義務違反に対しては2,000リンギット以下の罰金が科せられます(OSHA24条(2))。
⑷ 従業員の権利と組織体制
(ⅰ) 従業員の権利拡張
新設されたOSHA26A条において、従業員は、就労場所に差し迫った危険(imminent danger:設備・物質・状況・活動・工程・慣行・手順・就労場所の危険源に起因する死亡または重大な身体傷害の重大なリスク)が存在すると信じる合理的な理由があることを雇用主等またはその代理人に告知したにもかかわらず、雇用主等が当該危険を除去するための措置を講じない場合、当該危険または業務から離脱する権利を有します。この権利行使を理由とした不利益な取扱いは禁止され(OSHA26A条(2))、検査・調査への協力者も保護対象となっています(OSHA27条(1)(d))。差別行為に対しては100,000リンギット以下の罰金が科せられます(OSHA27条(3))。
(ⅱ) 安全衛生コーディネーターの任命義務
安全衛生担当者(Safety and Health Officer)の配置が義務付けられている就労場所以外において5人以上の従業員を雇用する雇用主は、従業員の中から労働安全衛生調整者(Occupational Safety and Health Coordinator)を1名任命し、就労場所における安全衛生上の問題を調整させなければなりません(OSHA29A条(1)、(2))。なお、既に安全衛生担当者を配置している雇用主は、本条を遵守しているものとみなされます(同条(3))。違反した場合、50,000リンギット以下の罰金もしくは6ヶ月以下の拘禁刑、またはその両方が科せられます(同条(4))。
(ⅲ) 安全衛生委員会の設置
40名以上の従業員を雇用する就労場所、または労働安全衛生局長の指示がある就労場所では、雇用主に安全衛生委員会の設置が義務付けられています(OSHA30条(1))。違反した場合には、100,000リンギット以下の罰金もしくは1年以下の拘禁刑、またはその両方が科せられます(OSHA30条(4))。
(ⅳ) 労働安全衛生講習の受講義務
担当大臣は、官報への命令掲載により、特定の種類または種別に属する者に対して、登録訓練提供者(Registered Training Provider)が実施する労働安全衛生訓練課程の受講を義務付けることができます(OSHA31A条(1))。雇用主は、当該訓練課程を修了していない従業員を、当該訓練が必要とされる業務に従事させることができません(同条(2))。同条(2)に違反した雇用主には、50,000リンギット以下の罰金もしくは6ヶ月以下の拘禁刑、またはその両方が科されます(同条(4))。
⑸ 設備の安全管理体系
工場機械法(Factories and Machinery Act 1967)が廃止され、その規定がOSHAに統合されました。具体的には、①就労場所の占有・使用に関する届出義務(OSHA27A条)、②設備の設置承認(OSHA27C条)、③適合証明書(Certificate of Fitness)の取得および定期検査(OSHA27D条、27E条)、④特別検査制度(OSHA27F条)等が盛り込まれました。
担当大臣が指定するクレーンや圧力容器等の規定設備(prescribed plant)を設置するには、労働安全衛生局長の書面による承認を取得しなければならず(OSHA27C条(1))、設置後は、適合証明書の発行を受けなければ、当該設備を操業することができません(OSHA27D条(1))。適合証明書なしに設備を操業した場合、職員は操業禁止の書面による通知を発することができ、当該通知に違反した場合は500,000リンギット以下の罰金もしくは2年以下の拘禁刑、またはその両方が科されます(同条(7))。
⑹ 実際の事例
2024年8月10日、リサイクル工場において、紙ロールの点検作業中に作業員が死亡する事故が発生しました。報道によれば、調査の結果、工場側が安全な作業システムを提供していなかったとして、職場の安全等確保義務(OSHA15条⑴)違反で起訴されました。工場側は有罪答弁を行い、同年10月8日、裁判所はRM100,000の罰金を言い渡しました。本件は改正されたOSHAのもとで起訴された初の事例であり、労働安全衛生局は本判決を機に業界全体に対して厳格な法令遵守を改めて求めています。
4.ミャンマー
(1)関税率の変更
2026 年3月30日、国家防衛安全保障評議会の下にある財務歳入省は、多数の農産品および工業製品に対する関税(輸入関税)率を引き上げる措置を発表しました。
本措置は2026年5月1日から施行されています。
また、同省は2026年3月18日付で、以下について関税率を引き下げました。
(i) 完成車輸入(CBU)、完全ノックダウン(CKD)またはセミノックダウン(SKD)方式により輸入される、リストに掲載されたバッテリー電気自動車(BEV)
(ii) 電気自動車用の充電器、スペアパーツおよびバッテリー(ただし、電力省からの技術的承認および工業省からの承認が付されている場合に限る)
これらの引下げ措置は、2026年4月1日から2027年3月31日まで適用されます。
5.メキシコ
(1) 連邦産業財産権保護法改正の概要
2026年4月3日、メキシコの連邦産業財産権保護法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)の改正が官報で公示され、翌4日に施行されました。今回の改正は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)との整合性も踏まえ、特許及びその他の登録手続の簡素化・効率化、各種手続における処理期間の短縮、技術移転の促進、並びに人工知能(AI)を用いた侵害行為に対する制裁措置等を内容とするものです。
(2) 主な改正内容
今回の改正では、まず特許制度において仮出願制度が新設されました。これにより、発明者名及び発明を特定するための明細書のみで出願日を確保することができ、仮出願が受理された日が特許出願日として認められます。この場合、出願人は仮出願の受理日から12か月以内に正式出願を行う必要があり、完全な特許出願が行われない場合には、却下されたものとみなされます。なお、仮特許出願は、公開又は審査の対象とはされません。
また、審査の迅速化を目的として、実体審査開始から原則として1年以内に最終判断を行う法定期限が導入されました。法定期限内に最終決定がなされない場合、出願人は、新設される専門技術委員会に対して決議の発出を求める手続を申し立てることができます。加えて、手続上の権利喪失を回避するため、優先権回復制度、手続上の権利回復制度、及び優先権書類の補完制度が導入されました。さらに、医薬品分野では、特許期間延長制度が設けられました。これは、医薬品の衛生登録の付与における不合理な遅延により生じる実質的な特許期間の短縮を補償する制度であり、期間は最長5年とされています。
商標制度については、保護対象が拡張されました。従来の文字や図形に加え、位置商標、動き商標、マルチメディア商標、及びこれらの標識の組合せが明文化されています。他方で、商標登録できない標章として、製品又はサービスの技術名又は一般名、それらを表す慣用名又は一般名称となっている語句、名称、句、比喩的要素、識別力を欠く語句、名称、句、音又は比喩的要素、並びに先住民族及びアフリカ系メキシコ人・コミュニティの団体知的財産を構成する要素と同一又は紛らわしいほど類似する商標等が追加されました。また、商標に関する審査期間の明確化も行われ、商標登録の可否については原則5か月以内、更新手続については3か月以内に処理されることが規定されています。
技術移転に関しては、本法の適用範囲が改正され、技術移転の促進及び育成が目的の一つとして明示されました。あわせて、メキシコ産業財産権庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial:IMPI)の権限も拡大され、ライセンス、譲渡、権利移転その他の技術移転契約締結のための手段に関する法的助言の提供、イノベーション、産業財産権の保護及び技術移転を支援するプログラムの設計・推進等が含められています。
侵害行為に関しては、人工知能(AI)による違反行為も行政制裁の対象となることが明示されました。また、特徴的な標識と大規模イベントとの間に、公式スポンサーシップがあるかのような虚偽の印象を与えるアンブッシュマーケティングについても、侵害行為として行政制裁の対象となることが明確化されました。
6.バングラデシュ
⑴ 2026年チッタゴン証券取引所(紛争解決)規則の概要
2026年3月2日、チッタゴン証券取引所(以下「CSE」という)は、2026年チッタゴン証券取引所(紛争解決)規則(Chittagong Stock Exchange (Settlement of Dispute) Regulations, 2026、以下「本規則」という)を官報にて公布・即日施行しました。本規則は、CSE上場証券に関して生じた投資家と証券会社(TREC保有者)または上場企業との間の紛争について、調停・仲裁を含む紛争解決手続の枠組みを整備するものです。
⑵ 適用範囲と時効
本規則はバングラデシュ全域に適用されます(本規則1条⑷)。対象となる「紛争」は広く定義されており、投資家と証券会社または上場企業との間の取引・契約・関係から生じる権利義務・履行・解釈に関するあらゆる不一致が含まれ、当該関係の終了後に生じたものも対象となります(本規則2条⑴(j))。CSE上場証券に関して証券会社や上場企業との間で紛争が生じた場合、紛争発生日から3年以内に請求を申し立てなければ時効消滅します(本規則3条⑸)。
⑶ 紛争解決手続の流れ
本規則は、調停と仲裁の二段階構造を採用しています。
① 申立
申立人がCSEの書記官(Registrar)に請求を申し立て(本規則3条⑴)、相手方は受領後 20日以内(最長30日)に回答を提出します(本規則4条2号)。相手方が回答を怠った場合、または回答に不満がある場合、申立人は30日以内に調停または仲裁を選択して申請できます(本規則4条⑸)。
② 調停
調停を選択した場合、調停会議が申請受理後10日以内に招集され、30日以内に終了します(本規則7条⑴、⑷)。調停成立の場合は解決書が作成されます(本規則8条)。不調に終わった場合は仲裁へ移行できます(本規則10条)。
③ 仲裁
調停不調の場合、申立人は書記官に仲裁を申請します(本規則10条)。仲裁廷は書面提出から全審問を45日以内に完了し、手続終結から21日以内に仲裁判断を下します。
⑷ 仲裁人候補者名簿と仲裁廷の構成
CSE取締役会の規制事務委員会は、官報掲載から 180日以内 に、バングラデシュ証券取引委員会の事前承認を得て仲裁人候補者名簿を作成します(本規則21条⑴)。
当事者は同名簿から仲裁人を選定し、選定から10日以内に仲裁廷が構成されます(本規則22条⑶)。
⑸ 費用・手数料
仲裁申立手数料は 総請求額の0.10%(最低5,000タカ、最高100,000タカ)であり、反訴にも同様の手数料構造が適用されます(本規則27条)。費用の負担は仲裁廷が仲裁判断において確定し、事案の実情を考慮して当事者間で分担させることができます。
7.フィリピン
フィリピンで設立した会社を閉鎖・清算する場合、主に以下の3つの方法があります。それぞれの手続きの概要とメリット・デメリット、BIRタックスクリアランスとの関係についてご紹介します。
- 定款による期間短縮(Dissolution by Shortening Corporate Term)
(1) 概要
株主総会の特別決議により定款を変更し、存続期間を短縮して会社を解散する方法です。短縮後の期間満了日が到来した時点で、法律上当然に精算の効力が生じます。
(2) メリット
•裁判所を介さず、手続きが比較的シンプル。
(3 )デメリット
•BIR閉鎖手続(閉鎖監査・タックスクリアランス取得)は必須であり、数年単位で長引くことがある(これは他の方法と同じ)。
•定款による期間短縮の場合、期間満了により解散は法律上自動的に効力が生じるため、SECから「解散証明書(Certificate of Dissolution)」は発行されません。第三者に対して清算・解散を証明する公的書類が残らない点に注意が必要です。
- 裁判所における清算手続き(Court-Supervised Dissolution)
(1) 概要
会社が解散後、残余財産の処分・債務の弁済などを裁判所の監督下で行う方法です。特に債権者が複数いる場合や財産の整理が複雑な場合に利用されます。
(2) BIRタックスクリアランスとの関係
裁判所の監督下で清算を進める場合も、最終的にBIRの閉鎖手続きおよびタックスクリアランスの取得が必要です。清算人が選任され、清算プロセスの一環としてBIRによる監査に対応します。
(3) メリット
•裁判所が清算人の選任・監督を行うため、公正性・透明性が高い。
•債権者や第三者との紛争リスクを軽減できる。
•清算完了後は裁判所の命令により解散が確定し、公的な記録として残る。
(4) デメリット
•手続に時間とコストがかかる(数年単位になることも)。
•BIR閉鎖手続き(閉鎖監査・タックスクリアランス取得)は必須(これは他の方法と同じ)。
- SECによる自発的解散(SEC Voluntary Dissolution)
(1) 概要
フィリピンのSECに申請して会社を閉鎖する方法です。債権者に影響がない場合は取締役会の過半数決議+株主の過半数決議、債権者に影響がある場合は裁判所への申立を経て手続きを行います。原則、債権者がいない場合、負債がない場合にしか使えません。
(2) BIRタックスクリアランスとの関係
SECへの申請書類としてBIRタックスクリアランス(税務クリアランス証明書)の提出が必須です。
(3) メリット
•SECから正式な「解散証明書(Certificate of Dissolution)」が発行される。清算・解散の事実を第三者に対して公的に証明できる。
•負債がなく財産整理が単純な場合は費用・時間を抑えやすい。
(4) デメリット
•BIRタックスクリアランスの取得がSEC申請の前提条件となるため、全体の手続き期間が長くなりやすい。
•年次報告(GIS・財務諸表)の未提出など法令違反があると手続きが複雑化する。
フィリピンでの会社清算は、会社の状況(負債の有無、株主構成、解散証明書の要否など)によって最適な方法が異なります。早期に専門家へ相談されることをお勧めします。
8.ベトナム
(1) 個人データ保護に関する規制の更新
個人データ保護法(法律第91/2025/QH15号)及び政令第356/2025/ND-CP号は、ベトナムの機関・組織・個人、ベトナムで活動する外国の機関・組織・個人、及び個人データ処理活動に直接従事し、又はこれに関連する外国の機関・組織・個人に適用されます。以下、ベトナムにおける個人データ保護規制に関して留意すべき主なポイントを記載します。
政令第356号は、データ統括者及びデータ統括・処理者に対し、データ主体の同意に関する記録を保存することを求めています。紛争が生じた場合、データ主体の同意に関する立証責任は、データ統括者やデータ統括・処理者が負います。
データ統括者及びデータ統括・処理者は、データ主体がデフォルトで同意したものとする仕組みを設けること、又はデータ主体が同意と不同意を混同するおそれのある曖昧若しくは誤解を招く指示を作成することを禁止されています。あらかじめ設定されるデフォルト設定は、個人データ保護の原則を遵守し、個人データ主体の権利を尊重するものでなければなりません。
(2) 禁止行為
同法は、以下の行為を厳格に禁止しています。
・国家、国家安全保障、社会秩序又は公共の安全を害する目的で個人データを処理すること
・法令により別段認められる場合を除き、いかなる形式であっても個人データを売買すること
・他人の個人データを不正に取得し、故意に開示し、又は消失させること
・個人データ保護活動を濫用して、法令に違反し、又は管轄当局の業務を妨害すること
(3) 個人データ保護法令違反に対する制裁
違反の性質及び重大性に応じて、違反者は、行政制裁、刑事責任及び損害賠償責任(該当する場合)を負う可能性があります。組織に適用される行政罰としての罰金額は、以下のとおりです。なお、個人が同一の違反行為を行った場合の罰金額は、組織に適用される上限額の2分の1となります。
・ 個人データの越境移転に関する違反:当該組織の直近前年度の売上の5%に相当する金額が30億ベトナムドン以上である場合、その5%に相当する罰金が科されます。直近前年度に売上があるものの、当該売上の5%に相当する金額が30億ベトナムドンを下回る場合、又は直近前年度に売上がない場合には、罰金額は30億ベトナムドンとなります。
・ 個人データの売買:違反により得た不正利益の10倍に相当する金額が30億ベトナムドン以上である場合、その10倍に相当する罰金が科されます。不正利益が発生しているものの、当該不正利益の10倍に相当する金額が30億ベトナムドンを下回る場合、又は不正利益が発生していない場合には、罰金額は30億ベトナムドンとなります。
(4) 個人データ越境移転影響評価が免除される場合
個人データ越境移転影響評価の実施義務の免除は、企業の事務負担を大幅に軽減するものです。免除対象となる場合には、以下が含まれます。
・ 適用法令に従って行われる報道及びメディア活動
・ 適法に公開された個人データの越境移転
・ 個人の生命、健康又は財産の安全を保護するため、又は法令に定められた任務及び義務を履行するために、個人データの越境移転が真に必要である緊急事態
・ 法令に定められた社内就業規則、規程及び労働協約に従った越境人事管理を目的とする個人データの越境移転
・ 契約の履行、又は越境輸送、物流、送金、決済、宿泊サービス、査証申請もしくは奨学金申請に関する手続の実施を目的とする個人データの越境移転
(5) 機関及び組織における個人データ保護部門並びに個人データ保護担当者
個人データ保護担当者に要求される要件は、以下のとおりです。個人データ保護部門のすべての人員も下記要件をすべて満たす必要があります。
・ 短期大学卒業以上の学歴を有していること
・ 卒業日から起算して、法務、情報技術、サイバーセキュリティ、データセキュリティ、リスク管理、コンプライアンス管理、人事管理、又は組織・人事管理のいずれかの分野において、2年以上の実務経験を有していること
・ 個人データ保護に関する法的知識及び専門技能について、研修及び専門的能力開発を受けていること
(6) 個人データ処理サービス
個人データ処理サービスを業として提供する場合、厳格な条件が適用され、個人データ処理サービス提供資格証明書の取得に関する所定の手続を完了しなければなりません。
個人データ処理サービスとは、信用スコアリングサービス、個人データ暗号化サービス、並びにビッグデータ技術、人工知能、ブロックチェーン及び仮想空間技術に基づく自動データ処理サービスなどが含まれますが、これらに限られません。
9.インド
(1) 改正労働法の施行規則について
インドでは、2025年11月より、既存の29の労働法を4つの法典(賃金法典、労使関係法典、社会保障法典、労働安全衛生法典)に整理統合した改正労働法が施行されています。
もっとも、改正労働法は、細部のルールや運用方法を中央政府や州政府が定める施行規則等に委ねているところ、こうした施行規則が未制定であり、実際の運用等について不明確な部分も多いです。
この点、インドの中央政府(労働雇用省)は2026年5月8日、以下の中央規則を施行しました。
① 賃金(中央)規則(Code on Wages (Central) Rules, 2026)
② 労使関係(中央)規則(Industrial Relations (Central) Rules, 2026)
③ 社会保障(中央)規則(Social Security (Central) Rules, 2026)
④ 労働安全衛生(中央)規則(Occupational Safety, Health and Working Conditions
(Central) Rules, 2026)
これらの中央規則は、主に中央政府によって運営されている施設や、中央法に基づいて設立された法人等(鉱山、油田、主要港、航空輸送サービス、電気通信サービス、銀行会社、保険会社等)を対象としています。
他方、その他の会社については、当該会社の事業所が存在する州の規則等の規律を受けます。
この点、州レベルでの規則の制定状況は州毎にまちまちであり、自社が関連する州の状況を個別に確認する必要があります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 地域情勢
2026年2月28日に勃発したアメリカ合衆国とイスラエルによるイラン・イスラム共和国に対する軍事攻撃は、(本稿執筆時点で)当事国間での早期の交渉妥結が期待される一方で、ペルシャ湾とインド洋を結ぶホルムズ海峡が事実上封鎖される状況が継続した状況が継続しています。
(2) 不可抗力
地域情勢によって生じるビジネス上の損害については、契約上の不可抗力条項でそのリスクを最小限に抑える対応が取られることが重要です。仮に、不記載等を理由として不可抗力条項で対応できない場合で、準拠法が現地法とされているときには、アラブ首長国連邦(UAE)の民法上の解釈によることとなります。
UAEでは、2026年6月1日から改正民法(2025年連邦令第25号)が施行されることとなっていますが、地域情勢の不安定化への対応に関して大きな改善が図られているとは言えません。
不可抗力について、現行民法(1985年連邦法第5号)では、両当事者を拘束する契約において義務の履行が不可能となった場合、対応する義務は消滅して、契約は自動的に解除され(第273条1項)、部分的な履行不能の場合には、その限りにおいて義務が消滅し、契約継続が一時的に不能となった部分についても同様とされ、債権者は債務者が認識しているときには契約を解除することができる(同第2項)と定められていました。これに対し、改正民法では、現行民法の規定内容に加えて、部分的な履行不能時または一時的な契約継続困難時には、裁判所に契約全体の解除を求めることができ(第236条第2項、3項)、一時的な契約継続困難時には、契約の変更も可能とされています(同3項)。このように、民法により契約当事者が享受できる救済は、当事者間での契約の変更および裁判所への契約解除の申立に拡張されていますが、契約上の義務の履行不能が条件とされているため、履行が困難であることや履行の遅滞といった事態には対応できません。
因みに、予見不可能な例外的事態に関して、現行民法第249条と同様に改正民法第224条は、義務履行が不可能ではないとしても、債務者に過大かつ重大な損害をもたらすときには、裁判所が各当事者の利益を比較考慮して、合理的なレベルにその義務を軽減することができるとし、これを強行規定としています。この規定は、契約時に予見不能であった例外的事態が前提となっているため、対イラン攻撃開始前の契約に対して適用可能とは考えられるものの、債務者への過大かつ重大な損害の発生の証明が必要となり、救済の範囲は当事者間の均衡を図る限度に留まることに注意しなければなりません。一方、2026年3月以降に締結される新たな契約に関しては、本条の適用による救済は難しいと考えられ、本条に反しない形でUAEへの軍事攻撃の可能性を念頭に不可抗力条項を作成することが肝要となります。
11. インドネシア
(1) アウトソーシングに関する新規則の概要
2026年4月30日、アウトソーシング業務に関する新たな規則として、労働大臣規則2026年第7号が制定されました(以下、「本規則」といいます)。
本規則は、発注会社が業務の一部をアウトソーシング会社に委託する場合の基本的な枠組みについて定めるもので、従来のオムニバス法後の枠組みにおいては、アウトソーシングに関して労働者保護や事業許可の側面が中心的に規定されていましたが、本規則では、アウトソーシング可能な業務の種類や契約登録手続がより具体的に整理されています。
(2) アウトソーシング業務
本規則では、アウトソーシング可能な業務が「補助業務」として具体的に列挙されており、対象業務として、清掃サービス、飲食の提供、警備、運転手および労働者の輸送、業務運営支援サービス、ならびに鉱業・石油・ガス・電力分野における補助業務が挙げられています(本規則第3条第2項)。
また、アウトソーシング契約には、少なくとも、委託される業務、契約期間、業務実施場所、アウトソーシング労働者の人数を記載することが明確化され、当該契約の締結日から3営業日以内に、登録申請を行う必要があります(本規則第4、5条)。アウトソーシング労働者の保護と権利は、アウトソーシング会社が負うものとされ、一方で発注会社はアウトソーシング労働者の保護および権利を法令に従って履行していることを確認する責任を負います(本規則第4条)。さらにアウトソーシング会社は、アウトソーシング分野の事業許可保有者として、労働安全衛生および環境に関する基準を適用する義務を負います(本規則第6条)。
(3) 行政制裁
発注会社がアウトソーシング対象業務に関する規定に違反した場合、書面による警告および事業活動の制限という行政制裁の対象となります。事業活動の制限には、一定期間における物品またはサービスの生産能力の制限や、複数拠点を有する会社に対する一部拠点での事業許可付与の延期などが含まれます(本規則第8条)。
なお、本規則の施行時点で既に存在するアウトソーシング契約は、当該契約期間が満了するまで引き続き有効とされます(本規則第10条)。ただし、アウトソーシング会社および発注会社において既に存在するアウトソーシング業務の種類および分野は、本規則の施行日から遅くとも2年以内に、本規則に適合させる必要があり(同条)、既存契約がある場合には、対象業務、契約内容、労働者保護および契約登録等の観点から、契約および実務運用を見直す必要があります。