「合併に関する法制度の概要」 TNY Group Newsletter No.41
1.日本
(1) 日本における合併の概要
日本の会社法上、合併には、吸収合併と新設合併の二種類があります。同法2条によれば、吸収合併とは『会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後承継する会社に承継させるものをいう。』(同条27号)と定義されており、新設合併とは『二以上の会社がする合併であって、合併により設立する会社に承継させるもの』(同条28号)とそれぞれ定義されています。
日本においては、新設合併は、吸収合併に比べ手続やコストがかかるため、実務上は吸収合併を選択することが多いと言われています。
(2) 合併の手続き
ア 吸収合併の場合
吸収合併において、会社を吸収して存続する会社を吸収合併存続会社(存続会社)、消滅する会社を吸収合併消滅会社(消滅会社)といいます。吸収合併の基本的な手続きは以下の通りです。
① 吸収合併契約の締結
存続会社と消滅会社の商号及び住所、吸収合併に関連する事項、吸収合併の効力発生日等を明記する必要があります(同法749条1項各号)。
② 株主総会における承認決議
存続会社と消滅会社はともに上記契約で定めた効力発生日までに合併契約を株主総会にて承認を受ける必要があります。同決議は株主総会の特別決議事項となるため、出席株主の3分の2以上の賛成が必要となります。
③ 反対株主の買取請求権と通知・公告
株主総会の承認決議に先立って反対する旨を通知し、かつ、株主総会においても反対した株主は、消滅会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。これに対応するため、消滅会社等は、合併契約の効力が発生する20日前までに、株主に吸収合併をする旨並びに存続会社の商号及び住所を通知しなければなりません。
④ 債権者に対する公告または催告
消滅会社等は債権者に対し、吸収合併を行う旨や存続会社等の商号及び住所、吸収合併に対し、異議を申し立てることができる旨とその期間(同期間は1ヶ月以上必要とされています)について、官報に公告し、かつ、知れている債権者には格別に催告する必要があるとしています。
債権者に異議を述べられた場合、異議を述べられた会社は同債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供する必要があります。
⑤ 効力発生日と登記
①にて定めた効力発生日に吸収合併の効力が発生し、同日の2週間以内に消滅会社の解散および存続会社の変更登記を行う必要があります。これにより、当該吸収合併に第三者対抗力を持たせることが可能となります。
イ 新設合併の場合
大まかな流れは吸収合併と同様ですが、①および⑤の部分が異なります。
新設合併の場合、新会社の商号及び住所はもちろんのこと、通常の新会社設立と同様に、発行可能株式総数や設立時取締役の氏名等も合併契約に定める必要があります。
また、新設合併においては、新設会社が登記された日に効力が生じる(同法49条)ため、効力発生日は合併契約の必要記載事項ではありません。
(3) 合併に伴う権利関係の承継について
新設合併では、新設会社が消滅会社の権利義務を包括的に引き継ぎます。もっとも、承継会社から免許や許認可等を引き継ぐことは基本的にはできません。他方、吸収合併の場合、権利義務については新設合併と同じく、包括的に承継することができ、かつ、免許や許認可等についても引き継ぐことが可能です。
なお、合併と契約上の地位の承継に関し注意すべき点として、既存の取引先との契約書内に経営権の移動等があった場合について言及した条項(チェンジオブコントロール条項)の有無が挙げられます。これは、合併等の組織変更があった場合には契約の解除事由となるまたは通知する義務を負うといった内容であり、このような条項の有無については充分注意する必要があります。
従業員との関係では、勤務内容は同一であるにも関わらず、存続会社と消滅会社のどちらの出身かによって雇用条件の不公正が生じることがあり、このような事態を防ぐためには、合併後の雇用条件を統一することが望ましいとされています。
また、オフィスや工場の所在地における不動産の契約などにも合併などに言及または関連した条項が存在する可能性があるため、この点にも注意する必要があります。
したがって、合併を行う際には事前の調査や会社間での交渉はもちろんのこと、合併後にどのようなリスクが生じるかについての調査も重要であると言えます。
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2.タイ
(1) タイにおける合併の種類
タイでは、以前まで吸収合併は認められておらず、新設合併のみ認められていました。もっとも、近年のタイ民商法改正により、法律上、吸収合併も認められることになりました。
以下ではタイにおける吸収合併の手続及びライセンス関係の承継の可否について、解説いたします。
(2) 吸収合併の手続
タイにおいては、二社間での合併の合意後、以下の2つのステップを経ることで、吸収合併の効力を発生させることができます。
(ア) ステップ1
① 存続会社と消滅会社の双方において、合併を承認する株主総会を開催し、承認を得る。
② 反対株主に対して、株式の買取りを行う。
③ 承認決議後、14日以内に以下を行う。
- DBD(商務省)での承認決議の登記
- 決議日に会社記録に名前が記載されているすべての債権者に、異議申し立て期間を1ヶ月以内とする本件承認決議の通知を送付する。
- 地元紙にて承認決議を行った旨の公告を行う。
④合併に反対する債権者がいる場合には、同債権者に対し、弁済または担保の提供を行う。
その後、ステップ1の完了により、ステップ2に進むことが可能となります。
(イ) ステップ2
① 合併会社の名称や目的、覚書、定款等を決定し、承認の決議を行う。
② 決議後、7日以内に、消滅会社および存続会社の取締役が合併会社の取締役に、事業、財産、会計に関する書類等の引継ぎをする。
③ 同株主総会の日から14日以内に合併を登記し、合併会社の覚書と定款をDBDに提出する。
(3) 許認可や従業員の承継
タイでは、吸収合併が近年まで認められなかったという事情から、吸収合併とライセンスの承継については不透明な部分も多く、同じライセンスであっても、品目等によって承継の可否が異なる場合があります。そのため、自身のライセンスの承継の可否についてはライセンスの所轄官庁に確認する必要があります。
また、従業員については、消滅会社から存続会社へ異動する場合、法律上、各従業員から個別の合意を得る必要があり、得られない場合には、当該従業員に対しては、解雇補償金の支払を行い雇用契約が終了することになります。
3.マレーシア
マレーシアでは、ラブアンに設立された会社に適用されるラブアン会社法(Labuan Companies Act 1990)においては吸収合併に関する規定は存在しますが、一般的な会社に適用される会社法(Companies Act 2016)においては合併に関する規定は存在しません。マレーシアにおける会社の組織再編の方法としては、一般的に以下の方法が挙げられます。
– 対象会社の株式取得
– 対象会社の事業譲渡
– 会社法366条に基づくスキーム・オブ・アレンジメント
(1) 株式取得
株式取得の方法としては、公開買付を行う場合及び既存株主から直接株式を取得する株式譲渡を行う場合があります。
株式取得を規制する法令としては、以下の法令等が挙げられます。
– Malaysian Code on Take-Over and Mergers 2016
– Rules on Take-Over and Mergers and Compulsory Acquisition 2016
– Capital Markets and Services Act 2007(CMSA)
また、マレーシア証券取引所(Bursa Malaysia Berhad)、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)、マレーシア証券委員会(Securities Commission Malaysia)、マレーシア会社委員会(Companies Commission of Malaysia)等の機関によって規制されます。
公開買付は、強制的公開買付及び任意的公開買付に分けられます。強制的公開買付は、一定の要件を満たした場合に実施する義務が生じるものをいい、任意的公開買付は強制的公開買付以外の公開買付をいいます。
強制的公開買付の義務が生じる要件としては、会社の支配権を獲得した場合(会社の議決権付株式の33%超を取得した場合)、Creeping Thresholdとなった場合(議決権付株式の33%超50%以下を保有しており、かつ6か月間に議決権付株式の2%超を取得した場合)等があります。
任意的公開買付は、強制的公開買付の要件を満たさない場合において、対象会社の発行済株式を100%取得する際に用いられ、任意的公開買付のうち、対象会社の発行済株式の100%未満を取得する場合には部分的公開買付と呼ばれます。
既存株主から直接株式を取得する株式譲渡を行う場合においても、一般法である会社法及び契約法を遵守する必要があります。
(2) 事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の全部又は一部の譲渡を行うことをいい、事業譲渡を行うには、譲渡会社において株主総会の普通決議が必要となります。
(3) スキーム・オブ・アレンジメント
スキーム・オブ・アレンジメントとは、一般的に会社再建において用いられる制度で、会社法366条に基づいて対象会社が裁判所の許可を得て行う、会社、株主及び債権者間の合意による手続をいいます。
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4.ミャンマー
ミャンマーでは、日本の会社法のような合併に関する規定はありません。したがって、当事者間で締結する契約書において詳細を規定する必要があります。
一般的には株式譲渡か事業譲渡の方法によることとなります。株式譲渡の場合には潜在的リスクも含めて全て承継することとなり、ミャンマーではデューデリジェンスによっても全てのリスク(特に財務)を洗い出すことは難しいため、慎重に対する必要があります。
5.メキシコ
(1) 定義
メキシコにおいて合併は「Fusión」として認識されていますが、その定義は明確に規定されていません。メキシコにおける会社法となるLey General de Sociedades Mercantilesにおいては、222条から226条において合併に関する規定が置かれており、これらから合併には次の2つの種類があると考えられています。
- Fusión por incorporación o absorción(吸収合併)
既存の一つ以上の会社を別の既存の会社に統合し、そこに権利義務を承継させることで構成される。統合された会社は消滅する。
- Fusión por integración o pura(新設合併)
2つ以上の会社が新会社を設立し、各々の権利義務のすべてを当該新設会社に承継させ、各会社は消滅することで構成される。
(2) 合併の流れ
合併は、会社の形態に応じた条件で、それぞれの会社において決定されなければならないとされており、株式会社においては、特別株主総会決議を要することとなります。
合併の合意は、商業登記簿(Registro Público de Comercio)に登記し、経済省(Secretaría de Economía)の電子システムにおいて公表しなければならず、また、合併の対象となる各会社は当該電子システムにおいて最新の貸借対照表を公表し、消滅会社は、債務を消滅するための方法も公表しなければならなりません。
合併の効力は、登記後3か月が経過した後でなければ生じないとされており、この期間中、合併する会社の債権者は、当該合併に対して異議を申し立てる司法手続きをとることができます。異議が申し立てられた場合、当該異議を却下する判決が確定するまで、合併は一時中断されることとなり、異議の申立てがないままにこの期間が経過したときは、合併が成立し、存続会社または合併により生じた会社が消滅会社の権利義務を承継することとなります。
なお、経済競争法(Ley Federal de Competencia Económica)の定めにより、企業再編等グループ企業間で行われる場合といった一部の例外を除き、次の基準に当てはまる合併は、連邦経済競争委員会(Comisión Federal de Competencia Económica: COFECE)に届出を行い事前に承認を得る必要があります。
- UMA*1日額の1,800万倍に相当する額以上の金額をメキシコに投資することを意味する行為又はその原因となる一連の行為
- メキシコでの年間売上高又はメキシコにおける資産が、UMA日額の1,800万倍に相当する額以上である経済主体の資産又は株式の35%以上を併合することを意味する行為又はその原因となる一連の行為
- UMA日額の840万倍を超える資産又は資本のメキシコでの併合で、メキシコで生じる年間売上又はメキシコ国内の資産が、共同又は個別にUMA日額の4,800万倍に相当する額以上で2つ以上の経済主体が関与する企業結合を意味する行為又はその原因となる一連の行為
*1 UMA日額は、2023年度(2023年2月から2024年1月)は103.74ペソ
(3) その他の手続
その他、合併後には、消滅会社の納税者登録(RFC)の抹消や、消滅会社が外資登録(RNIE)のある会社だった場合には、その登録の抹消など、各会社の事情に応じた手続きが必要となります。
また、労働者に係る手続としては、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)において、Sustitución Patronal(雇用主の交代)と呼ばれるものが規定されています。会社の資産等の譲渡と併せて、これまでの使用者に提供されていた労働が譲渡後も継続する場合に活用することができます。従って、消滅会社での経済活動が、存続会社や新設会社において継続される場合であって、同じ労働力が用いられる場合、この手続をとり、雇用関係を継続させることができます。
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6.バングラデシュ
バングラデシュには、合併について包括的に定める法律はなく、会社法、証券取引委員会法及びその関連法令、外国為替規定法、競争法などに部分的に規定されるほか、保険業や通信業など特定の業種の合併について、個別の法律で定められています。
会社法は、一般的にすべての会社のM&Aに適用される規定を定めていますが、その内容は限定的です。同法228条は、会社の解散について債権者および株主との妥結に対する裁判所の権限、229 条は、合併による解散を含む解散の取り決めと妥結を促進する裁判所の権限についてそれぞれ定めています。同法230条は、過半数によって承認されたスキームまたは契約に反対する株主から株式を取得する権限(通知や予告期間など)について規定しています。
合併を進める場合は、関連する複数の法令を確認したうえで、当事者間の契約にて詳細を定める必要があります。
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7.フィリピン
- フィリピンにおける合併の概要
フィリピンにおける合併は、フィリピンの会社法に準拠して手続が履践されます。大きく分けると2つの合併形態が存在します。一つ目は、吸収合併です。存続会社が対象会社を吸収し、合併します。対象会社の資産や負債を原則として全て引き受けることになります。二つ目は、新設合併です。これは、2社以上の会社が統合され、新たな会社(新設会社)を設立するタイプの合併形態です。新設会社は、原則として対象会社の資産や負債を全て引き受けることになります。
また、フィリピンでは、合併の方法として、対象会社の株式を取得する方法や事業や資産を譲受する方法があります。
選択すべき合併の種類は、各会社の状況によって異なりますので、合併を検討されている会社は、対象企業の規模、対象企業の資産負債状況、規制要件などの要素を考慮して適切な合併形態を選択する必要があります。
- フィリピンにおける合併に必要な手続
フィリピンにおける合併手続において、必要とされる主な手続としては、まず、取締役会決議及び株主総会特別決議(議決権の3分の2の賛成票が必要な決議)を経たうえで、合併計画の承認を得る手続が必要となります。また、この時点で合併に反対である株主については、正当な価格での買取を請求する権利が与えられているため、請求があった場合は買取対応をする必要があります。
さらに、合併に際しては、合併契約を締結する必要があります。その際に、フィリピンにおける証券取引委員会の承認が必要となる場合があるため、適法に締結された合併契約書を同委員会へ提出する手続が発生します。同委員会における承認には、審問が実施される場合もあります。
承認を取得し、必要な手続が全て履践された後、合併はクロージングとなります。これにより、対象会社から存続会社又は新設会社へ資産と負債が継承されます。
- 合併後の取引関係について
最後に、合併後の取引関係について、法的観点から述べます。合併成立後の従業員やサプライヤーとの契約当事者は、存続会社又は新設会社となります。これは、契約関係を含め、対象企業の資産及び負債の全てを存続会社又は新設会社が継承するためです。したがって、事業に必要な取引契約のみならず、従業員との雇用契約や不動産に関する契約についても、存続会社又は新設会社が契約当事者としての地位を承継します。
ただし、合併当事者間において、契約上、合併が生じた場合に契約関係を終了できる条項が存在する可能性に留意する必要があります。これには、合併前にデューデリジェンスを実施し、リスクとして抽出されることが多いため、合併を検討される場合は、対象会社のデューデリジェンスをしっかりと実施することが望ましいといえます。
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8.ベトナム
- ベトナムの法規制における「合併」の定義
会社の合併とは、1つまたは複数の会社(以下、「被合併会社」といいます)が、財産、権利、義務およびその他の合法的な利益をすべて別の企業(以下、「合併会社」といいいます)に移転させる行為であり、現行の企業法および競争法に定義されています(企業法第201条第1項及び競争法第29条第2項)。
被合併会社は、合併会社の登録手続が完了した後、その存続を終了します(企業法第201条第2項c)。なお、被合併会社の支店、駐在員事務所や事業拠点は、被合併会社が消滅する前に閉鎖手続をしなければなりません (政令01/2021/ND-CP第73.3条)。
- 被合併会社の権利義務の移転と継承
合併の手続が完了した後、合併会社は、被合併会社と合併会社の合意に基づき、債務、労働契約、その他の資産負債など、被合併会社が合法的に有するすべての権利と義務を承継します(企業法第201条第2項c)。
- 合併手続きの一般的なプロセス
ベトナムでは、多くの場合、以下の手順に従って合併が行われます(企業法第201条第2項)。
① 合併に関する必要書類(合併会社の定款および当事者間の合併契約書)の作成
② 被合併会社および合併会社の所有者や株主の承認
③ 上記②の承認を得た日から15日以内に、全債権者に当事者間の合併契約書を送付し、全従業員に合併について通知
④ 合併に関する登録手続の申請
- 合併手続について特例が適用される場合
以下のいずれかに該当する場合は、合併を行うために特別の手続が必要となります。
① 外国資本が含まれる場合:投資プロジェクトの統合、特定の事業分野に対する投資条件や要件の設定、合併会社の外国人所有比率の変更が伴う場合、投資法に規定する手続を遵守する必要があります。
② 専門業種に関する場合:銀行業、保険業、証券業における合併を行う場合、事前に、特別法による規制(信用機関法、保険業法、証券法など)が適用され、事前にそれぞれの専門当局(ベトナム国家銀行、ベトナム財務省、ベトナム国家証券委員会など)の承認を得る必要があります。
③ 経済集中度の届出基準に達した場合:競争法に基づき、国家競争委員会に経済集中度の届出書類を提出する必要がありますz(競争法第33条および政令35/2020/ND-CP第13条)。経済集中度の届出基準は、以下のいずれかをもとに決定されます。
(a) 合併を行う会社のベトナム市場における総資産
(b) 合併を行う会社のベトナム市場における総売上高
(c) 合併の取引金額
(d) 合併を行う会社の関連市場における合計市場シェア
ベトナム政府は、各時期の社会経済状況に合わせて、経済集中度の届出に関し、正確な基準を設定します。
9.インド
(1) インドにおける合併の概要
インドでは、合併については吸収合併と新設合併があります。吸収合併では、合併によって消滅する対象会社の権利義務を存続会社が包括的に承継することになります。新設合併では、合併によって消滅する会社の権利義務を合併によって新たに設立する会社に承継させるものとなります。
(2) 合併の手続について
合併については、会社法審判所(National Company Law Tribunal)による承認を得なければなりません。会社法審判所は、合併承認の申請に対して、株主総会や債権者集会の招集を命ずる場合があります。
会社法審判所に対して上記申請を行うものは会社の財務状況等を宣誓供述書により開示する必要があります。
上記手続により招集された株主総会及び債権者集会により4分の3以上の賛成(株主総会の場合議決権の4分の3以上、債権者集会の場合総債権額の4分の3以上)により会社法審判所が命令により合併を承認します。
会社は合併の命令を受領してから30日以内に登記官に当該命令を提出しなければなりません。
(3) その他
合併は会社登記所の命令を必要とし完了までに半年から一年程かかるため、当事者同士の合意で行われる事業譲渡の方が多く利用されていると思われます。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、様々な形態の会社が存在します。UAEの商事会社法は、フリーゾーンで設立された会社には、フリーゾーン外の内国(メインランド)での事業が認められているときを除き、適用されず、各フリーゾーンに関する法律および規則が適用されます。合併に関しては、合併しようとする会社の設立場所、根拠法規に基づき、適用される法令を確認することが必要です。
なお、外資規制が緩和された2021年6月以降、メインランドでも13セクター122業種については外資100%の会社が認められるようになりましたが、従前どおり51%以上の現地資本を求められる業種については、事業存続のためには合併後の資本比率に留意する必要があります。
また、UAEに設立された支店については、UAE外の本店が合併した場合に、合併の形態に応じて、支店の登録を抹消・変更する必要があります。
(1) メインランド設立の会社の合併
商事会社法(2021年連邦法第32号)で設立できる5つの会社形態(①合名会社(Joint Liability Company)、②合資会社(Simple Commandite Company)、③有限責任会社(Limited Liability Company)、④公開株式会社(Public Joint Stock Company)、⑤非公開株式会社(Private Joint Stock Company))のいずれも、総会またはそれに準じる機関の特別決議により合併を行うことができます。合併によって、新設される会社または合併後存続する会社に、合併する会社のあらゆる権利義務が承継されて、合併される会社が消滅します(第293条)。
合併の手続としては、まず、合併する会社間で合併契約を締結します。合併契約書には、合併後の会社の定款、取締役、支配人、株式の交換方法を規定します(第286条)。ただし、中央銀行により免許を受ける会社は、公開株式会社(Public Joint Stock Company)である場合を除き、中央銀行の規則に基づき経済相が合併の方法、手続、条件について決定を行い、公開株式会社ではこれらを取締役会で決定します(第285条第2項)。合併契約書案は、株主総会(またはそれに準じる機関)に提案し、定款変更に必要な多数決(特別決議)での決定を得なければなりません(第287条)。ただし、持株会社がその完全子会社を吸収合併する、または同一の持株会社の完全子会社間で合併する場合には、株主総会決議は必要とされません(第288条)。会社を所管する経済省または証券・商品庁が合併の総会決議を承認することにより、登記が変更されます(292条)。
合併に反対する株主等の保護としては、会社資本の20%以上を有する株主は、決議に反対した場合、決議後30日以内に裁判所に提訴することができます。株式会社(Joint Stock Company)以外の会社については、合併決議に反対した社員(partner)は、15営業日以内に書面で退社と持分の返還を求めることができます。持分の価値や退社の条件については、まず協議が行われ、協議がまとまらない場合には所管の当局が結成する委員会に付託され、最終的には裁判所へ提訴することができます(第289条)。
合併する会社の債権者の保護としては、合併を承認する総会決議後10日以内に知れたる債権者に対して文書で通知されるとともに、地元の日刊紙2紙(少なくとも1紙はアラビア語)に広告されます。合併に反対する債権者は通知から30日以内に、合併する会社の本社及び所管する経済省または証券・商品庁(Security and Commodities Authority)に異議を送付しなければなりません(第290条)。この異議を申し出た債権者が通知後30日以内に会社から弁済を受けなかった場合には、合併中断命令を求めて裁判所に提訴できます。申立債権者の利益を不法に害すると判断した場合は、裁判所は合併中断を命じ、申立債権者が取り下げするか、会社が債務を支払うか十分な担保を提供するまで、中断が継続します(第291条)。
(2) フリーゾーン設立の会社の合併
フリーゾーン(「FZ」)では、①フリーゾーン・エスタブリッシュメント(Free Zone Establishment)、②フリーゾーン会社(Free Zone Company「FZCo」)の他、有限責任会社(Limited Liability Company)、オフショア会社(Offshore Company)等を設立することができます。
FZで設立された会社については、各FZの規則で規律されますが、日本企業が進出している主要なジュベル・アリー・フリーゾーンの規定には合併の規定はなく、ドバイ・エアポート・フリーゾーン(DAFZA)には規定があります。
因みに、DAFZA規定による合併は、少なくとも1社のFZ内で設立された公開株式会社(Public Limited Company)もしくは定款または特別決議で合併可能とされるFZCoが関与する場合を対象としています。合併の種類は、新設合併と吸収合併があり、手続はほぼ商事会社法に準じます。ただし、反対株主の裁判所への提訴期限が株主総会決議後28日以内とされていること、債権者への通知は2万UAEディルハム以上の債権を有する債権者に対して合併承認決議後28日以内で行うことで足りること、合併に外国会社が関与する場合には、DAFZA登録者による同意が必要とされること等、差異がありますので注意が必要です。
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