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「各国における海外からの借入に関する規制の概要」 TNY Group Newsletter No.58

第1.各国における海外からの借入に関する規制の概要

1.日本

外国為替及び外国貿易法(「外為法」)は、対外取引が自由に行われることを基本としており(同法1条)、海外からの借入についても、原則は自由です。

ただし、貸付を行う側が規制を受ける場合があります。外為法上の「外国投資家」(同法 26 条 1 項)が、国内法人に対し、1年を超える金銭の貸付を行う場合で以下のいずれにも該当する場合には(外為法26条2項7号、対内直接投資等に関する政令2条14項)、財務大臣及び事業所管大臣に対し、当該取引前に届け出る(「事前届出」)か、当該取引後に報告する(「事後報告」)必要があります(同法 27 条 1 項、55 条の 5 第1 項)。事前届出や事後報告は当該外国投資家によって行われ、特定の書式にしたがって、貸付額や借入期間、金利、貸付金の使途等、所定の事項を記入しなければなりません。

(対象となる貸付)

1.当該貸付け後における貸付けの残高が1億円に相当する額を超えること

2.当該貸付け後における貸付けの残高と、当該外国投資家が所有する当該国内法人が発行した社債との残高の合計額が、当該貸付け後における当該国内法人の負債の額として省令が定める額の50%に相当する額を超えること

事前届出を要するものについては、政令や省令等で定めがあり、一定の国・地域の外国投資家からの借入や指定の業種を営む日本企業に対する貸付については、安全保障等の観点から事前届出の対象となります。事前届出を要するものに該当しない場合であっても、事後報告を行うこととなりますが、政令で事後報告が不要とされる例外が定められている場合もあります。

2.タイ

タイでは、海外からの借入を受ける場合に規制はなく、自由に行うことができます。

もっとも、日本の親会社がタイの会社に対して貸付を行う場合、日本の親会社が外国人事業法上の規制を受ける可能性があります。外国人事業法上、貸付行為が「その他サービス業」と判断された場合、外国人事業許可が必要となります。タイ国内の「グループ会社」への貸付については、「その他サービス業」には含まないとする商務省令がある一方、同省令に規定する「グループ会社」の定義に含まれない場合には、外国人事業法上の規制を受けることになります。

3.マレーシア

(1) 規制の概要

マレーシアでは、マレーシア中央銀行(Central Bank of Malaysia)が、市場で取引される通貨、証券、その他の金融商品に関連するデリバティブ市場の秩序ある状況または完全性を規制等することを目的として、規則その他ガイドラインを発行する権限を有しています(金融サービス法140条⑴、マレーシア中央銀行法43条⑴参照)。そして、マレーシア中央銀行は、以下に述べるとおり、一定の条件のもとで海外からの借入(オフショアローン)を認めています。

(2) 居住者と非居住者の別

後述⑶以下で述べるとおり、海外からの借入については、居住者とそうでない者(非居住者)とで、取扱いを別にしています。

「居住者」とは、次に掲げるいずれかに該当する者をいいます。

(a) マレーシア国民(マレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住する者を除く)

(b) マレーシアの永住権を所持し、定住する非マレーシア国民

(c) マレーシアで設立、登録、または認可された企業(法人・非法人、本社・支店を問わない)

「非居住者」とは次のいずれかに該当する者をいいます。

(a) 居住者以外の個人

(b) 居住者である会社の海外の支店、子会社、地域事務所、営業所、駐在員事務所

(c) 大使館、領事館、高等弁務官事務所、超国家機関、国際機関、またはマレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住するマレーシア国民

(3) 居住者に対する外貨建て信用供与

(a) 居住者である個人による借入れ

居住者である個人は、1,000万リンギを上限として、非居住者から外貨建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与には金額の制限はありません。

(b) 居住者である企業による借入れ

居住者である企業は、合計で1億リンギ相当額を上限として、非居住の金融機関または同一企業グループではない非居住者から、外貨建て信用供与を得ることができます。外貨建て借入れの元本および利息についても、認可額を超えない範囲で借換えが可能となっています。

(4) 居住者に対するリンギ建て信用供与

(a) 居住者である個人

居住者である個人は、マレーシア国内での使用を目的として、非居住者の企業(金融機関を除く)または個人から、100万リンギを上限とするリンギ建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与について、金額の制限はありません。

(b) 居住者である企業

居住者である企業は、マレーシア国内の実需に基づく活動のために、同一企業グループ内の非居住者の他社(非居住者金融機関を除く)または非居住者の直接株主から、金額の制限なく自由にリンギ建て信用供与を得ることができます。さらに、合計で100万リンギ相当額を上限として、マレーシア国内での使用を目的として、同一企業グループ以外の非居住者企業からリンギ建て信用供与を得ることができます。

4.ミャンマー

(1) 規制の概要

2020年はじめに、ミャンマー中央銀行よりオフショアローン承認申請に関する基準を変更する内容の告知が発布されました。ミャンマーでは、外国から借入れを行う場合、事前に中央銀行より当該借入れの承認を得なければならず、承認を得ずに送金を行うと、返済時に貸主への海外送金が認められません。

(2)  中央銀行の承認基準

ミャンマー中央銀行は、申請者から提出された所定の書類を基に以下の事実を検討及び精査し、申請を承認又は拒否します。

  1. 申請者がMIC許可会社の場合、資本金がUSD500,000を超えているか否か
  2. 申請者が投資企業管理局(DICA)で登記された会社の場合、資本金がUSD50,000を超えているか否か
  3. 申請者(借用人)の外国為替収入が一致しているかどうか
  4. 借用人が、ミャンマー国内事業から生じた通常収入から融資の返済が可能かどうか、及び、申請者が外国為替の収入を有する場合は、為替リスクを軽減する見通しがあるかどうか
  5. 借用人が既にMIC許可で約束された資本金の80%を送金しているか否か
  6. 申請者の企業がMIC許可会社の場合、負債比率が最大4対1以内か否か
  7. 申請者の企業がDICA登録会社の場合、負債比率が最大3対1以内か否か
  8. 融資契約及び書類に記載されている取引条件が正確に作成されているか否か
  9. 融資額保有期間が中期及び長期の場合も、返済計画が融資契約と一致しているか否か

5.メキシコ

メキシコでは、海外からの借入(オフショアローン)について、規制する法律はありません。

そのため、事前に特定のライセンスの取得や承認取得手続き等を経ることなく、現地法人が日本の親会社等から直接借入れを行うことも可能です。

6.バングラデシュ

(1) 法規制

バングラデシュにて海外からの借入(オフショアローン)を行う場合は、1947年外国為替規制法のほか、2018年外国為替取引ガイドラインにて規定されています。民間企業が海外からの借り入れを行う場合、原則として、バングラデシュ投資開発庁(BIDA)の許可とバングラデシュ中央銀行の許可の双方が必要となります。

以下の内容は、2018年外国為替取引ガイドラインに基づいておりますが、オフショアローンについては、運用や規定の変更が頻繁に行われますので、確認と調査が必要となります。

(2) 2018年外国為替取引ガイドラインの規制

(a) 外資系企業の海外の親会社、株主から無利子ローン

外資系企業は、次の要件を満たす場合、親会社、株主からの無利子ローンが認められます。

  • バングラデシュ内で運転資金の資金調達が準備されていない
  • 資材調達以外のビジネスニーズのために短期借入金が緊急に必要とされる

この場合、バングラデシュ銀行からの事前の承認なしに最大 1年間利用することができます。ただし、ローンを利用してから1週間以内に、公認為替取引銀行を通じてバングラデシュ銀行本部の外国為替運用部に事後報告することが必要になります。

(b) 輸出加工区・経済特区の工業企業の中長期の対外借入

輸出加工区などにある工業企業は、次の点を審査の上でオフショアローンが認められます。

  • プロジェクトの工業的実行可能性
  • 収益から提案された債務を返済するプロジェクトの能力
  • 国内外の市場におけるプロジェクトのアウトプットのコスト競争力
  • 借入提案のプロジェクトの潜在的な国内および外部需要
  • 銀行及びバングラデシュ銀行のCIB報告書によって裏付けられたプロジェクトスポンサーの債務状況

7.フィリピン

フィリピンにおける外国ローンや外国通貨建てローンに関する規制の概要を紹介します。外国ローンや外国通貨建てローンは、主にフィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas)によって規制されています。この規制の詳細は、フィリピン中央銀行が発行している「外国為替取引規制マニュアル」(Manual of Regulations for Foreign Exchange Transactions)で確認することができます。

「外国ローン」とは、フィリピン居住者がフィリピン非居住者に対して負うローンを指します。国内ローンか外国ローンかを判断する基準は、債権者がフィリピンに居住しているかによって決まります。そのため、フィリピン通貨でのローンであっても、債権者がフィリピン国外に居住している場合は「外国ローン」に該当します。

他方で、「外国通貨建てローン」とは、たとえば、フィリピン居住者またはフィリピン非居住者の民間セクターが、フィリピン国内で営業する銀行に対して負うローンを指します。

そして、企業などが借入れを受ける際に、政府機関などの公的セクターから保証を受ける場合には、ローン契約を締結する前にフィリピン中央銀行から事前の承認を受ける必要があります。また、ローンを外貨で返済する場合は、別途フィリピン中央銀行への登録が求められます。

公的セクターの保証がない場合でも、ローンや利息などを外貨で返済するためにフィリピン国内の銀行から外貨を購入する際には、原則としてフィリピン中央銀行への登録が必要となります。

8.ベトナム

ベトナムの法律によれば、「オフショアローン」または「外国ローン」とは、金銭消費貸借契約、後払い輸入契約、貸付信託契約、金融リース契約、または借主による国際市場での債務証書の発行を通じた、あらゆる形式の外国からの借入れにおいて、政府保証のない外国ローン(いわゆる「自己借入・自己返済ローン」)と、政府保証付きの外国ローンを総称する用語です。

外国ローンを実施できる対象は、ベトナム国内で設立・営業している企業、協同組合、協同組合連合会、金融機関等の信用機関、外国銀行の支店などです。外国からの借り入れや債務返済を行う場合、借主は、ベトナム国家銀行の規定に従って、借入れの登録、口座の開設と使用、資本金の引き出しおよび債務返済のための送金、借入れの実施に関する報告を行うなど、外国からの借り入れや債務返済に関する条件を遵守しなければなりません。

外国ローンの契約書は、貸主が借主に対し、一定の期間内に元本と利息(利息に関する合意がある場合)の両方を返済することを原則とし、特定の目的のために使用する金銭または資産(金融リース契約の形態の外国ローンの場合)を送金する、または送金することを約束する、当事者間の合意を記録した1つまたは一連の文書です。外国ローンの契約書は書面で作成する必要があり、電子データメッセージ形式の契約の場合は、電子取引に関する法律の規定を遵守しなければなりません。

外国ローンの通貨は外貨です。ベトナム・ドンによる外国ローンは、一定の場合にのみ可能です。

外国ローンの期間は以下のように分類されます。1年未満の短期ローン、5年未満の中期ローン、5年以上の長期ローンです。中長期ローンについては、国家銀行(SBV)への登録と定期報告書の提出が、短期ローンの場合は定期報告書が義務付けられています。

借主は、外国からの短期ローンを、借主の外国債務のリストラクチャリングおよび現金で支払う短期債務(国内ローンの主債務を除く)の支払いの目的でのみ、利用することができます。借主は、外国からの中期および長期ローンを、借主の投資プロジェクトの実施、借主の生産・事業計画その他のプロジェクトの実施、借主の外国債務のリストラクチャリングの目的でのみ、借り入れることができます。借主の外国ローン利用は、国家機関の認可を受けた書類の事業範囲と活動範囲に合致していなければなりません。

9.インド

⑴ 規制の概要について

インド法人が海外の銀行や企業などから借入を受けることは、「対外商業借入」(External Commercial Borrowing。以下「ECB」といいます。)と呼ばれます。ECBを実施するにあたっては、1999年外国為替管理法及びインド準備銀行が定めるECB規制に従う必要があります。

ECBには、「外貨建て」と「ルピー建て」の二つの枠組みがあり、借入人の資格、貸付人の資格、借入期間、金利等に関する要件が定められています。

借入が、所定の要件を満たす場合には、自動承認となり、口座を管理する銀行の審査のみで借入が可能です。他方で、借入が所定の要件を満たさない場合には、事前にインド準備銀行の承認を得なければなりません。

⑵ ECB規制の要件について

外貨建てECB ルピー建てECB
借入人 外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)を受け入れることができる事業体
貸付人 インド国外の親会社などの法人や銀行等
ただし、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)または
証券監督者国際機構(International Organisation of Securities Commission’s:IOSCO)
加盟国の居住者である必要がある。
*日本はいずれにも加盟している。
平均借入期間 原則3年
*製造業における1会計年度当たり5000万米ドル相当額までのECBの場合には1年等、
一定の場合には例外あり。
上限金利
・新規のECBの場合:ベンチマークレート+
500ベーシスポイント
・既存のECBの場合:ベンチマークレート+
550ベーシスポイント
ベンチマークレート+450ベーシスポイント
*ベンチマークレートとは、外貨建てECBの場合、借入通貨に適用されるインターバンク・レートまたは6か月間の
代替参照レートを指す。ルピー建てECBの場合、対応する期間の国債の金利を指す。
*ベーシスポイントとは、金利の表示単位で、1ベーシスポイント=0.01%を意味する。
資金使途 以下の使途には資金利用できない
1.不動産事業
2.資本市場への投資
3.運転資金(外国株主からの借入れの場合等は除く)
4.一般的な事業資金(外国株主からの借入れの場合等は除く)
5.ルピー建ての借入の返済
⑥上記1.~⑥を使途とする再融資

10. インドネシア

(1) 海外からの借り入れに関する規制

インドネシアでは海外からの借り入れ(オフショアローン)について、対象を➀銀行以外の法人と2.銀行に区分し、それぞれ規制されています。

(2) 銀行以外の法人による海外からの借り入れ

銀行以外の法人による海外からの借り入れについては、オフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2014年第16号(以下、「インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号」といいます。)において規制されています。

インドネシアにおいて海外からの借り入れを行う際には、➀四半期末から3か月以内および6カ月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、それぞれ25%以上の外貨建て資産を保有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第3条)、2.流動性比率に関して、四半期末から3か月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、70%以上の外貨建て資産を保有すること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第4条)、さらに、3.海外もしくは国内における格付け機関(Lembaga Pemeringkat)によって認定された、最低「BB」に相当する信用格付け(Peringkat Utang)を有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第5条)が義務付けられています。3.の信用格付けについては、債務残高の総額が増加しない、またはその増加が一定の限度内であるリファイナンスの場合や一定の要件を満たすインフラプロジェクトの資金調達の場合には、適用除外されます。さらに、(a) 親会社から外貨建て債務を借り入れる場合、(b) 親会社が外貨建て債務を保証している場合、(c) 商業活動開始後3年以内の会社の場合には親会社の信用格付けを利用することができます(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第7条)。また、上記3つの基準を満たしていることに関して、四半期ごとに、インドネシア中央銀行に報告する義務があり(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第8、9条)、遵守状況について、インドネシア中央銀行は監視および調査を実施する権限を有しています(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第10条)。

(3) 銀行による海外からの借り入れ

銀行による海外からの借り入れにおいては、上記(2)において記述した3つの規制が適用されることに加えて、1日あたりの短期負債の残高を資本の最大30%に制限する義務があり、長期負債の借り入れの際には、事前に、満期や借り入れ金額などの債務の条件や計画について、インドネシア中央銀行から承認を得る必要があります。また、長期負債の借り入れ取引後は、完了日から7営業日以内に取引内容をインドネシア中央銀行に、報告しなければなりません。(銀行によるオフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2019年第21号第4、5、9、14条)。

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Newsletterの記載内容は2025年1月27日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 配当決定の手続き

  株式会社が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、①配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額、②株主に対する配当財産の割当てに関する事項、③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日、をそれぞれ定めなければなりません(会社法454条)。

 もっとも、㋐会計監査人設置会社であり、㋑取締役の任期が1年を超えず、㋒監査役会設置会社または委員会設置会社である場合には、取締役会の決議をもって剰余金の配当を行うことができる旨を定款で定めることができます(同法459条)。

また、 取締役会設置会社は、一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができます(同法454条5号)。

(2) 配当の支払に関する規制

まず、会社の純資産の額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当ができません(会社法458条)。

  また、剰余金の配当は、株主に交付される財産の帳簿価額の総額が、当該行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(同法461条1項)。

 分配可能額の計算方法としては、446条各号に従って分配時点での剰余金を算定し、当該剰余金の額を基に461条2項に従って、分配可能額を算出することとなります。 

分配可能額を超えて配当が行われた場合、当該配当を提案した取締役および当該配当を受け取った株主は、会社に対し連帯して、当該配当額相当の金銭を支払う義務を負います(同法462条1項)。

 

2.タイ

(1) 配当決定の手続き

配当は、株主総会の決議に基づいて行われなければなりません(民商法1201条1項)。

ただし、取締役が、中間配当を行うための利益があることが明らかであると判断したときは、取締役の判断で中間配当を行うことができます(同条2項)。

  また、配当の支払は、配当決定の決議から1か月以内に行われる必要があります(同条4項)。

(2) 配当の支払に関する規制

配当の原資は利益のみであり、また、会社に累積赤字がある場合には、当該累積赤字がなくなるまでは配当ができません(民商法1201条条3項)。

また、配当を実施する都度に会社は、会社の資本額の10分の1以上に達するまで、利益の20分の1を利益準備金として積み立てる必要があります(同法1202条1項)。

会社が、これらの規制に違反して配当を行った場合、会社の債権者は株主に対し、配当を受けた金額を会社へ返還するよう請求することができます。ただし、配当が規制に違反していることを知らなかった株主については、返還を強制されません(同法1203条)。

 

3.マレーシア

(1) 会社が配当を実施するための要件

会社が株主に対して配当を実施するためには、会社が支払能力を有している必要があります(会社法131条⑴)。会社法によれば、少なくとも、会社が配当実行直後から12か月以内に支払期限が到来する債務を履行することができる状態にある場合には、その会社は支払能力があるとみなされます(同条⑶)。

加えて、会社による配当は、会社が得た利益からのみ実施できるとされています(同条⑴)。法律上、利益(profit)の内容について特段の定義は存在しませんが、裁判例によれば、ここにいう利益には子会社の利益は含まないことが確認されています。

利益が存在する時期について、会社法の文言上、その基準時は配当時であると考えられます。ただし、過去の裁判例には、その基準時について、配当宣言時に存在する必要があるものの、支払時に存在する必要はない旨判示したものが存在します。

(2) 配当規制違反の場合の効果

仮に、会社が支払能力要件を満たすことなく配当を実施し又は会社の利益以外から配当を実施した場合、会社は配当を受けた株主に対して、超過配当額相当の金額の返還を求めることができます(133条⑴)。ただし、株主が超過配当であることについて知らなかった場合や会社に支払能力がなかったことを知らなかった場合には、当該株主は、会社からの返還請求を拒絶することができます(同項(a)・(b))。

 

4.ミャンマー

⑴ 配当の決定及び要件

会社法第107条及び第109条及び定款に従い、会社の取締役会は、その株主に対して配当を支払う旨を決議し、その金額、支払時期及び支払方法を定めることができます(会社法106条(a))。配当の支払方法は、現金、株式発行、オプション授与又は資産の譲渡によることができます(同条(b))。

会社は、以下の場合を除き、配当の支払を行うことはできません(会社法107条(a))。

  1. 配当支払の直後において会社が支払能力検査を充足すること
  2. 配当の内容が、株主に対して全体として公平かつ合理的であること、及び
  3. 配当金の支払が、債権者に対する会社の支払能力に重大な影響を与えないこと。

(2)  配当規制違反

会社が第107条の要件を遵守しなかった場合、会社は、50万チャットの罰金に処され、当該違反を認識しながら意図的に違反を許した全ての取締役又は役員も同じ罰金が科せられます(会社法108条(a))。

会社が配当の支払の後にそれと関連して支払い不能となった場合、第107条に違反していることを認識しながら意図的に配当の支払いを許した全ての取締役は、各債権者に対する弁済期が到来した負債の額が会社の責任財産を超過している限度において、会社の債権者に対しても責任を負います(同条(b))。

 

5.メキシコ

⑴ 配当の手続きについて

メキシコでは、配当金の支払いは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ行うことができるとされています(会社法第19条)。

配当は、株式の出資の履行の金額に比例して行われ(同法第117条1段落)、株式の発行日から3年を超えない期間は、年率9%を超えない配当を付す旨を定款で定めることができるとされています。定款で定められた場合、配当の額は一般経費に計上する必要があります(同法第123条)。

また、株券発行会社においては、株券に「クーポン」が添付されており、切り離して会社に示すことで配当をうけることができます(同法第127条)。

⑵ 違法配当について

 前述のようにメキシコでは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ配当を行うことができます。

このような事情が無いにもかかわらず、会社が配当を行った場合、当該配当は法的効力を持たず、会社および債権者は、配当を受け取った者に対して訴訟を提起するか、支払った役員等に対して弁済を求めることができます。また、配当を受け取った者と支払った役員等は連帯して責任を負うことになります(会社法第19条)。

 

6.バングラデシュ

(1) 配当の方法

 配当は、会社の利益から支払われ、利益の金額とは、会計年度の利益から減価償却を控除して算出されるものとされています。

 会社は、定款で別段の定めがない限り、出席した株主の過半数の賛成で可決する普通決議(Ordinary Resolution)を行い、株式の配当を決定します。株主総会に提出される取締役会の貸借対照表には、i) 会社の状況、ii) 取締役が提案する貸借対照表に計上される準備金額(もしあれば)、iii) 取締役が推奨する配当金額(もしあれば)、iv) 貸借対照表が対象とする年度の最終日から報告日の間に生じた、会社の財務状況に影響する実質的な変化および義務に関する取締役会による報告書が添付されます(会社法184条1項)。

(2) 配当金の海外送金

 配当金については、外国為替取引ガイドライン第10章「31.(a)非居住者の株主への配当金」により、海外送金する手続きが定められています。必要な書類を提出すれば、バングラデシュ銀行の事前の承認なしで送金することができます。また、配当金は、非居住者が管理する外貨口座に対する送金も可能です。

(3) 上場企業

上場企業は、配当に関して、バングラデシュ証券取引委員会(The Bangladesh Securities and Exchange Commission :BSEC) と、バングラデシュ中央銀行からの規制が定められています。

 

7.フィリピン

  1. 概要

フィリピンの会社法では、会社は留保利益(unrestricted retained earnings)から配当を行うことができます。支払額は、原則として株主が保有する発行済株式に基づいて決定されます。

配当の決定権は基本的に取締役会にあります。例外として、配当を株式で行う場合には、株主総会で発行済株式の3分の2以上の賛成を得る必要があります。さらに、取締役は、実務上、定時株主総会で配当方針や配当の有無を株主に説明し、配当を行わない場合にはその理由を説明することが求められます。

    2. 配当の要件

配当を行うための基本的な要件をまとめると以下のとおりです。

  • 留保利益があること。
  • 取締役会で配当の決議を行うこと(配当を株式で行う場合、発行済株式の3分の2以上の賛成を得ること。)
  • SEC(証券取引委員会)が出すその他の要件を遵守すること。

     3.株主の配当受領に関する制限

株主が配当を受け取る権利には制限があります。株式の払い込みが未払いの株主については、配当金は未払いの株式引受金額および関連費用に充当され、残額のみが配当金として支払われます。また、配当を株式で行う場合は、株主が未払いの引受金額を全額支払うまで配当が保留されます。

      4. 配当の義務

基本的に、配当を行うかは取締役会の裁量に委ねられています。そのため、留保利益があっても配当は会社の義務ではありません。ただし、例外として、保留利益が払込資本金を超える場合で、払込資本金を超える保留利益の保持が許可されない場合は、会社は配当を行う必要があります。

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの企業規制における会社の種類

ベトナムの現行の企業規制では、複数の企業形態があり、それぞれ固有の法的特性と組織構造を持っています。その中で、国内および外国の企業家や投資家は、通常、有限責任会社(一人社員または複数社員で構成されます)または株式会社という企業形態を選択して、ベトナムで事業を立ち上げます。そこで、本ニュースレターでは、これらの種類の企業に関連する情報のみを取り上げます。

法律により、株式を発行し配当を受け取ることが認められているのは株式会社のみです。一方で、有限責任会社、特に複数社員で構成される有限責任会社は、対応する出資額に応じた割合で利益分配を受けなければなりません。

(2) 有限責任会社と利益分配

有限責任会社の社員の法定権利として認められ規制される利益分配を受ける権利は、現行の企業法に規定されています。有限責任会社の利益分配の計画は、社長または総社長が提案し、社員総会の承認を得る必要があります。有限責任会社に現金またはその他の財産で資本金を拠出した個人社員および組織社員の委任代表者全てが、事業の最高決定機関である社員総会を構成します。

有限責任会社が利益を分配するための条件には以下が含まれます。

  1. 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
  2. 利益分配を実施した後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。

上記の条件のいずれかが満たされない場合、有限責任会社の社員が利益分配として会社から受け取った金銭や財産は、違法な利益分配とみなされます。この場合、社員は受け取った全ての金額や財産の全額を返還しなければなりません。また、社員は、返還されていない現金や財産の割合に応じて、それらが全額返還されるまで、会社の債務や負債について共同で責任を負う義務があります。

(3) 株式会社と配当

現行の企業法では、配当とは、1株当たりの現金またはその他の財産に対する純利益と定義されています。株式会社の株式は普通株式と各種優先株式(配当優先株式、償還優先株式など)に分けられます。優先株式の配当は、それぞれの優先株式に記載された条件に従って支払われます。そこで、本ニュースレターでは、普通株式の配当に適用される条件のみを概説します。

普通株式の配当は、以下の条件を満たす場合に限り、法定の支払方法によるベトナムドン(現金)での支払い、または株式や株式会社の会社定款に規定されたその他の財産での支払いが可能です。

  1. 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
  2. 法律および当該会社の定款に従って、会社の資金への拠出を完了し、過去の損失を補填した後であること。
  3. 配当後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。

株式会社が株式による配当を選択する場合、株式の募集手続きではなく、定款資本を増加させる手続を行う必要があります。

定時株主総会終了後6か月以内に、配当は株主に支払われます。取締役会は、配当を受ける株主の名簿、株式ごとの配当額、配当の支払時期および支払方法を、毎回の配当支払日の遅くとも30日前までに作成する責任を負います。配当支払日の遅くとも15日前までには、株主の登録住所に配当支払通知書を速達で送付しなければならず、その通知には、最低でも法律で定められた5項目の情報が記載されている必要があります。また、株主名簿の作成日から配当支払日までの間に株式を譲渡した場合は、譲渡人が配当を受け取ります。なお、ベトナムの株式会社の取締役会は、例えば英国や米国の法律に基づいて設立された会社の取締役会と多くの点で類似しています。

配当が前述の要件や規制に違反する場合、配当は違法とみなされます。この場合、株主は受け取った金額や財産を全額返還する義務があります。もし返還が行われない場合、取締役会の全メンバーは、未回収の金銭または財産の価値に相当する会社の債務および負債について共同責任を負うことが求められます。

 

9.インド

⑴ 配当の手続きについて

 インド会社法では、配当とは中間配当を含むとしています(会社法2条(35))。したがって、中間配当と期末の配当を行うことが可能です。

 会社は減価償却後の利益から、若しくは減価償却後の未配当の過去の会計年度の利益から、又はその両方から適当と認められる配当率及び配当額を決定して配当の宣言を行うことができます(会社法123条(1)(a))。いずれかの会計年度において利益が不十分な会社については、配当の宣言及び支払に関する会社規則(Companies (Declaration and Payment of Dividend)Rules 2014)に規定する以下の条件従うことを条件として配当を行うことが可能です。

  • 配当金の率が直前の3年間の平均を超えないこと
  • 配当額が払込資本金及び準備金の合計額の10分の1を超えないこと
  • 引き出された金額は、配当が宣言される前に配当を宣言する会計年度に発生した損失を相殺するために使用される
  • 配当支払後の準備金が払込資本金の15%を下回ってはならない

 取締役会で配当額や年次株主総会の日付等が決議され、配当の宣言は年次株主総会の普通決議の議題となります(会社法102条(2))。

 中間配当については、取締役会は、会計年度中に、損益勘定の剰余金及び中間配当を宣言しようとする会計年度の利益から中間配当を宣言することができます。ただし、中間配当の宣言日の直前四半期末までの当会計年度に損失が発生した場合、当該中間配当は、直前3会計年度に会社が宣言した平均配当率を上回る率で宣言してはなりません(会社法123条3項)。

⑵ 配当期間の規制について

 会社によって配当が宣言されたにもかかわらず、宣言の日から30日以内に配当が行われなかった場合、配当金の不支給について故意の取締役は2年以下の禁固刑、および違反が継続する期間につき1日当たり1,000ルピー以上の罰金に処せられ、会社は違反が継続する期間中、年18%の単利を支払う義務を負います(会社法127条)。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、株主総会において、法定準備金及び任意準備金を控除した後に、株主に配当する純利益の割合を定めるものとされています(会社法第243条1項)。通期、半期または四半期の利益に応じた配当について、社則で定めることができます(同第3項)。法定準備金を配当の原資とすることは原則できませんが、社則で定めた割合の純利益がなかった年には、法定準備金のうち資本の50%を超過した部分については、社則で定めた割合に従って配分することができます(会社法第241条1項、3項)。なお、毎年の純利益の10%は法定準備金とする必要があり、法定準備金の額が資本金の50%を超えたときには、株主総会決議によって純利益からの法定準備金の積み増しを中止することができます(会社法第241条2項)。

非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて(会社法第267条)、有限会社(Limited Liability Company)については、毎年の純利益の5%を法定準備金とする必要がある(会社法第103条)他、その性質に矛盾しない限り、証券商品庁を所管官庁と読み替えて(会社法第104条1項)、適用されます。

上記は本土で設立された会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、各フリーゾーンの規則によって規定されます

 

11. インドネシア

(1) 配当金の支払い

 インドネシアにおける配当金について、株式会社は、各会計年度の純利益の一部を準備金として積み立てる義務があり、資本金額の20%を超えるまで積み立てる必要があります。純利益の配当は、定款で別段の定めがない限り、及び/又は、株主総会における配当額などに関する普通決議がない限り、準備金控除後の純利益を株主に配当金として支払わなければなりません(2007年第40号(以下、「会社法」といいます。)70条、71条)。

株主が受け取る配当金の金額は、保有する株式の割合に比例し、会社が利益残高を有する場合にのみ配当が可能です。なお、5年以上、未払いとなっている配当金は特別準備金(cadangan khusus)として保管され、10年間未払いのままである場合、それらの配当金は会社の収益の一部として引き継がれます(会社法73条)。

(2) 中間配当

 インドネシアでは、中間配当の支払いも可能ですが、会社の定款に定める必要があります。また、中間配当は監査役会での承認を得た後、取締役会決議に基づき決定され、①会社の純資産額が発行済みおよび払込済みの資本金と準備金を下回らない場合、②債権者への義務や会社の活動の妨げにならない場合に限り配当が可能です。なお、会計年度の終了後に、会社が損失を被った場合、すでに分配された中間配当は、株主によって会社に返還されなければならない義務があり、返還できない場合には、取締役およびコミサリス(監査役)は会社が被った損失に対して連帯責任を負います(会社法72条)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

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・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

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・佐賀(TNY国際法律事務所)
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・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

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・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

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・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

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・インド(TNY Services (India) Private Limited)

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・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

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Newsletterの記載内容は2024年12月24日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

 

1.日本

(1) 懲戒処分の種類

懲戒処分の種類は会社ごとに様々ですが、一般的には、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等が挙げられます。

(2) 懲戒処分に関する規制

懲戒処分にあたっては、あらかじめ、就業規則において懲戒処分の種類と懲戒事由を定めてくことが必要とされます(フジ興産事件。最高裁昭和平成15年10月10日)。なお、就業規則は、労働者への周知と内容の合理性を要件にその有効性が認められるため(労働契約法7条)、懲戒に関する就業規則の規定についても、その内容が合理的であることが求められます。

また、懲戒処分を行うにあたっては、対象となる労働者に対し懲戒事由を告知し弁明の機会を与える等適正な手続きが履践されていることが必要であり、そのような手続きを就業規則中に定めておくべきです。

なお、懲戒権の行使が権利の濫用とならないよう注意が必要です。この点、懲戒処分の内容が不相当に重い場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できず、権利の濫用と判断される可能性があります(ネスレ(日本)懲戒事件。最高裁平成18年10月6日)。

 

2.タイ

(1) 懲戒処分の種類

労働者の懲戒処分に関しては、労働者保護法に規定があります。同法には懲戒解雇等の規定はあるものの、懲戒処分の種類や手続き等に関して法令上の明確な定めはありません。そのため、タイの実務上は、懲戒処分の種類や手続きに関して、自社の就業規則において記載するケースが多く見られます。

タイの実務上、一般的に行われている懲戒処分として、口頭または書面による警告、停職、普通解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いを伴う解雇)、懲戒解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いなく行う解雇)が挙げられます。その他、会社内の就業規則において、懲戒処分としての減給を定めている会社も見受けられますが、減給処分については、労働者保護法に反するという見解もあり、注意が必要です。

(2) 懲戒処分の手続きについて

前述のように、労働者保護法上、懲戒処分の手続き等を定めた明文規定は存在しません。そのため、懲戒処分の手続きは、会社と労働者間の契約内容や就業規則の定めによることとなるため、就業規則中では、何が懲戒事由にあたるかを具体的に定め、懲戒を行う際の手続きも明確化しておくことが大切です。

(3) 懲戒解雇について

通常、労働者を解雇するにあたっては、事前の解雇予告(労働者保護法17条2項)と解雇補償金の支払い(同法118条)が必要です。もっとも、解雇理由が、労働者保護法119条1項所定のいずれかに該当する場合には、事前の解雇予告と解雇補償金は不要とされています。同条の定める非違行為は以下のとおりです。

① 職務上の不正または使用者に対する故意の犯罪行為。

② 故意に使用者に損害を与えた場合。

③ 過失により使用者に重大な損害を与えた場合。

④ 使用者が文書で警告したにもかかわらず就業規則、社内規定、使用者の合法的な命令に違反した場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。文書の有効期限は、労働者が違反行為を行った日から1年間である。

⑤ 正当な理由なく、間に休日を挟むか否かを問わず、三日間連続して職務を放棄した場合。

⑥ 最終判決で禁固刑を受けた場合。(ただし、過失犯や軽犯罪の場合は使用者に損害を与えた場合に限る。(同条2項))

なお、労働裁判においては、タイの裁判所は労働者側に有利に判断する傾向にあり、労働者側が不当解雇であると主張するケースは少なくありません。労働者側から、後に、不当解雇であると主張されるリスクを減らすためにも、懲戒解雇を行うにあたっては慎重に準備を進めておくことが必要です。

 

3.マレーシア

(1) 懲戒処分の種類

従業員の懲戒処分について規定する法令は雇用法(Employment Act 1955)です。同法14条によれば、従業員が非違行為(misconduct inconsistent)を行った場合、使用者は、当該非違行為の事実について適正な調査を行った上、当該従業員に対して、懲戒処分を行うことができます。

雇用法上想定されている懲戒処分には、①予告期間を設けない解雇、②降格、③2週間を超えない無給停職その他の適切な処分(ただし、解雇・降格より緩やかな処分)があります(雇用法14条⑴(a)~(c))。

(2) 適切な懲戒処分の選択

どのような懲戒処分が当該従業員にとって適切であるのか、使用者は慎重に検討する必要があります。とりわけ、懲戒解雇を選択するような場合には、より慎重な判断が必要となります。すなわち、マレーシアにおいても、従業員に対する解雇が有効となるためには、解雇することについて正当な事由(just cause or excuse)が必要であるとされています。

また、非違行為には、犯罪行為のほか、職務命令違反、常習的な遅刻・欠席、セクシュアルハラスメント等多岐にわたり、会社に対する不利益の程度も様々です。使用者としては、従業員の非違行為の内容、動機、当該非違行為により会社が被った不利益等事情を総合考慮した上、適切な懲戒処分を選択する必要があります。これらの事情に比して懲戒処分の内容が重すぎる場合、当該懲戒処分が無効となる可能性があります。

(3) 懲戒処分を行うために必要な手続

使用者が懲戒処分を実施するためには、当該処分の前に、due inquiryと呼ばれる社内審問手続を実施しなければなりません(雇用法14条⑴柱書)。ところが、会社がdue inquiryとして、具体的にどのような手続を実施すればよいかについては、雇用法上明確に規定されてはいません。

実務上は、当該非違行為の有無を調査のうえ、当該従業員に問題となっている非違行為の具体的内容を通知するとともに、理由提示命令書を送付する等により、当該従業員に対して弁明の機会を付与すべきとされています。

このような手続に瑕疵があると、懲戒処分自体が無効となる場合があります。裁判例には、懲戒解雇を正当化できるだけの重大な非違行為があったとしても、適切な時期に警告等を行わなかったことを理由として、または、due inquiryが適切に行われなかったことを理由として、当該解雇の効力を否定したものがあります。

(4) 解雇手当について

雇用法上、従業員を解雇する場合には、使用者は12か月以上継続して雇用した労働者との間の雇用契約を終了させる場合、原則として勤務年数に応じた解雇手当を支払う必要があります(雇用規則3条1項)。もっとも、適切なdue inquiryを行った上、雇用契約の明示又は黙示の条件に反する労働者の不正行為に基づき使用者が雇用契約を終了させた場合には、当該解雇手当の支払は免除されます(雇用規則4条以下)。

 

4.ミャンマー

⑴ 懲戒処分の種類・内容・手続きに関する法規制

ミャンマーでは、懲戒処分の種類・内容・手続きに関して法令上規定されておらず、各会社の就業規則等で詳細を定める運用となっております。懲戒解雇についても特段の法令上の規定は存在しません。

(2)  減給

労働者が引き起こした損害又は不履行を保証するために罰金として賃金から控除する場合、賃金支払法に基づき、控除額は月給の5%を超えてはならない旨規定されています。

 

5.メキシコ

⑴ 懲戒処分の種類

メキシコでは、連邦労働法に懲戒処分の規定があります。

同法によれば、懲戒処分としての停職は8日間を超えてはならない旨や、懲戒処分を受けようとする労働者は事前に意見を述べる権利を有する旨が規定されています(連邦労働法第423条)。

他方、使用者が労働者の給与を減額した場合、労働者は雇用契約を終了させることが可能であり、補償金を受け取る権利があるとされています(同法51条)。

⑵ 懲戒解雇について

使用者は、以下の正当な事由がある場合は、いつでも雇用関係を終了させることが可能とされています(同法47条)。

  1. 労働者が就労の際に虚偽を用いた場合(ただし、就労の開始から30日以内に限る)
  2. 自衛行為を除き、労働者が業務中に不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
  3. 労働者が同僚に対し職場の規律を乱すような不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
  4. 業務時間外において、労働者が使用者、顧客や取引先、またはその家族に対する正当な理由のない脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行い、その結果、雇用関係を維持することが困難となった場合
  5. 労働者が、業務中、故意に建物、機械、原材料等業務に関する物体に被害を与えた場合
  6. 労働者が重大な過失によって建物、機械、原材料等業務に関する物体に影響を与えた場合
  7. 労働者に不注意による職場の安全を脅かす行為があった場合
  8. 労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントやいじめ等の非道徳的行為を行った場合
  9. 労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合
  10. 労働者に30日間のうち4日以上の正当な理由のない欠勤があった場合
  11. 労働者が正当な理由なく業務命令に従わない場合
  12. 労働者が職場における安全規則に従わない場合
  13. 労働者に職場での酩酊または薬物の使用があった場合(ただし、薬物の使用について、労働者が事前に使用者に対して医師の診断書をもって使用を申請していた場合を除く)
  14. 労働者が懲役刑に処された場合
  15. 労働者に起因する事由によって、就労に必要な書類が欠如しており、使用者がこれを知ってから2か月を経過しても改善されない場合
  16. その他これらに類する重大な行為があった場合

使用者は当該労働者に対して、当該事由およびその事由が発生した日付や期間を記した書面によって解雇を即日かつ直接通知するか、解雇日から5営業日以内に管轄の労働裁判所に当該労働者の住所とあわせて届け出る必要があります。この場合、使用者に代わって当該労働裁判所が労働者に当該解雇通知を送達することとなり、労働者が通知を受け取った時にこの解雇の効果が生じることになります。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュ労働法及びEPZ労働法において、懲戒の種類、懲戒の理由、手続きが定められています。

(1) 懲戒処分の種類(労働法23条2項)

① 退職(懲戒解雇と異なり、勤務年数に応じた補償金が支払われます)

② 1年を超えない期間の降格・減給

③ 1年を超えない期間の昇進の保留

④ 1年を超えない期間の昇給の保留

⑤ 罰金

⑥ 7日を超えない期間の賃金または特別手当なしの停職

⑦ 厳重注意および警告

(2) 懲戒の理由(労働法23条1項、4項)

使用者は、労働法で定められた懲戒処分の対象となる不正行為が、労働法24条の手続きで認められた場合、懲戒理由とすることができます。また、懲戒解雇に限り、犯罪行為で有罪になった場合も懲戒理由とすることができます。

懲戒処分の対象となりうる不正行為は次のとおりです。(労働法23条4項)

① 上長からの適法又は正当な指示に対して、個人又は複数で故意に従わないこと

② 事業や使用者の資産に関連した窃盗、横領、詐欺、不正行為

③ 業務に関連した贈収賄

④ 常習的及び一度に10日を超える無断欠勤

⑤ 常習的な遅刻

⑥ 常習的なルール違反や規則違反

⑦ 事業所における無秩序、暴動、放火、破壊行為

⑧ 常習的な職務怠慢

⑨ DIFEから承認を受けた、業務遂行や規律を含む雇用に関するルールの常習的な違反

⑩ 使用者の公的な記録の改変、偽造、不当な変更、損傷、損害をもたらすこと

(3) 懲戒の手続き(労働法24条)

まず、使用者は、不正行為と思料される事実を記載した書面を作成します。(労働法24条1項a)。次に、労働者に対して同書面を交付して7日以上の釈明する期間を与えます(同項b)。その期間内に、労働者に聴聞の機会を与えます(同項c)。労働者の釈明により不正行為がないと使用者が判断した場合はその時点で手続きは終了し、本行為について以後不問とされます。釈明しても疑義が解消されない場合は、同数の使用者代表者及び労働者代表者で構成された調査委員会を立ち上げて、60日以内で調査を行います(労働法24条1項d、労働規則25条1項)。

調査委員会の調査の結果、不正行為が認められた場合、使用者は、懲戒処分の決定を行うことができ(労働法24条1項e)、懲戒処分の決定を労働者に対して書面にて通知します(労働法24条8項)。

(4) EPZ労働法及びEPZ労働規則

EPZ内で適用されるEPZ労働法及びEPZ労働規則においても、懲戒についてはおおむね同様の内容が定めらています(EPZ労働法21条、EPZ労働規則23条乃至26条)。

懲戒の対象となる不正行為には、(2)の①乃至⑩に加えて次の項目が追加され、より具体的かつ詳細になっている点が特徴です(EPZ労働規則23条j乃至r)。

① 使用者の公式記録を改ざん、不当に改変、損傷、または紛失させること

② 工場の禁止区域での喫煙

③ 会社、企業、工場、またはEPZ内で薬物を摂取または消費し、秩序を乱す行為

④ 性的嫌がらせまたは身体的暴行

⑤ 使用者の同意なしに、会社、企業、または工場の敷地内で何らかの目的で募金活動またはキャンペーンを行うこと

⑥ 氏名、年齢、学歴、前職について虚偽の情報を提供すること

⑦ 求人応募に虚偽の情報を提供し、証明書を偽造すること

⑧ 会社、企業、または工場の敷地内で金銭を貸し借りしたり、金融業務を行ったりすること

⑨ 適切な当局の承認なしに、会社、企業、または工場の敷地内でチラシ、パンフレット、またはポスターを配布または掲示すること

 

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける懲戒処分の概要

フィリピンでは、日本と同様に従業員に対して懲戒処分を行うことができます。処分の内容は基本的に会社の裁量に任されており、訓告、減給、降格、解雇など日本と類似の処分を下すことができます。

会社は就業規則などで懲戒処分について定めることができますが、処分の内容は合理的である必要があります。不合理に重い罰則は無効とされる可能性があります。特に解雇に関しては、適用条件や手続が労働法によって規定されており、会社はこれらの規定を遵守する必要があります。

従業員が会社からの懲戒に対して納得ができない場合、労働関係委員会(National Labor Relations Commission)などに対して異議を申し立てることができます。

(2) 懲戒に関する判例

懲戒に関する判例を紹介します。最高裁で問題になるケースの多くは、不適切な行為を行った従業員に対する解雇に関するものです。

・Perez v. Philippine Telegraph and Telephone Company, G.R. No. 152048, April 7, 2009

フィリピン法上、従業員は解雇される際に聴聞と弁明の機会を与えられる必要があります。この点について、判例は、解雇手続において必ずしも正式な聴聞会を実施する必要はないことを判示しています。従業員に対して聴聞および弁明の機会を提供することが必要ですが、これには正式な聴聞会を通じて行う場合だけではなく、解雇に関する通知後に書面で説明を提出する方法も認められています。

他方で、判例は、例えば以下の場合において正式な聴聞会が例外的に必要とされる場合があることも認めています。

・従業員が書面で要求した場合

・根拠に関して争いがある場合

・会社の規則や慣行で義務付けられている場合

・その他の状況で正当化される場合

・Malcaba, et al, v. ProHealth Pharma Philippines, Inc., G.R. No. 209085, June 06, 2018

この判例は、解雇が最後の手段であるべきであることから、会社は解雇を行う際は状況を十分に把握して評価したうえで、解雇の理由が事実かつ重大なものであることを確認する必要があることを判示しています。

 

8.ベトナム

ベトナムの労働法において、懲戒処分は、使用者が、法令で認められている範囲内で、就業規則において定めるべきものとされています。就業規則で定めることができる懲戒処分の内容としては、譴責、最長6か月の昇給猶予、降格、解雇の4つがありますが、1つの違反行為に対して複数の懲戒処分を課すことは禁止されています。懲戒処分の時効期間は、違反行為が行われた日から6か月、財務、資産、技術・営業秘密の漏洩に直接関係する違反の場合は12か月です。懲戒処分の手続の概要は次のとおりです。

  • 使用者は、従業員に対して懲戒処分を行う場合、労働規律処分会議を開催しなければなりません。
  • 労働規律処分会議には、懲戒処分を受ける従業員が所属する基礎レベル労働者代表組織を参加させなければなりません。
  • 使用者は、労働規律処分会議を開催する少なくとも5営業日前までに、その会議の内容、日時、場所、懲戒処分の対象となる者の氏名、懲戒処分の対象となる違反行為について、会議の参加者に通知し、会議開催前に参加者が確実にその通知を受け取ることができるようにしなければならなりません。
  • 従業員は、弁護士又は労働者代表組織に弁護を依頼する権利があります。
  • 労働規律処分会議の内容については議事録を作成し、会議終了前に確認された上で、出席者が署名しなければなりません。
 

9.インド

インド労働法は、懲戒処分の規定を設けていません。1947年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)(以下、「産業雇用(就業規則)法」)4条及び同法スケジュールでは、解雇、停職に関する懲戒処分及び当該懲戒処分の対象となる非違行為を構成する作為又は不作為を就業規則の必要的記載事項としています。したがって、懲戒処分は就業規則に記載された事由に基づいて行われる必要があります。懲戒処分は、使用者から労働者へ書面による非違行為の通知、労働者の防御のための聴聞の機会が与えられ、記録された証拠に基づいて処分の正当性が決定される必要があります。こうした手続は、判例法に基づく原則 (Principles of Natural Justice) からの要請であり、非違行為の存在を認識したからといって手続を経ずに懲戒処分を行った場合、当該懲戒処分が違法無効となる可能性があります。

もっとも、産業雇用(就業規則)法は、 100人以上のワークマンを雇用している事業場に適用されます(マハラシュトラ州、グジャラート州、カルナータカ州、ハリヤナ州では、州法により50人以上のワークマンが雇用されている産業施設に適用されます)。ワークマンとは、雇用又は報酬を得るため、肉体労働、非熟練労働、熟練労働、技術労働、作業労働、事務労働、又は監督労働を行うために雇用される者(見習いを含む)をいい、主に1万ルピー以上の賃金を得て管理・監督の立場で雇用されている者は含みません(1947年産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)2条)。

産業雇用(就業規則)法上、就業規則の作成が義務ではない事業場であっても非違行為を理由に労働者に不利益を科す処分については、判例法上の原則が適用されると考えられます。したがって、法令上の就業規則の作成義務に関わらず、全ての会社において、就業規則を策定し、懲戒処分に関する規定を定め、当該規定に従って懲戒処分を行うべきといえます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における懲戒については、労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および同施行規則(2022年内閣令第1号)が以下の通り規定しています。なお、2つのフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社には、連邦労働法の適用が除外されていますので、各フリーゾーンの規定によります。

(1)懲戒処分の種類

懲戒の種類は、①書面による通知、②書面による警告、③月5日以上の減給、④14日以内の出勤停止および停止期間の給与不支払、⑤1年以下の期間の定期賞与の剥奪(定期賞与システムがあり、雇用契約または会社内規で定期賞与の対象となる場合)、⑥2年以下の期間の昇級の剥奪(昇級システムがある場合)、⑦退職時手当の権利を温存しつつの雇用解除、とされます(連邦労働法第39条第1項)。

会社は、(i)業務関連情報の秘匿違反の程度、(ii)労働者の健康および安全への影響、(iii)財務上の影響、(iv)会社の評判およびその労働者への影響、(v) 労働者の権限濫用、(vi)再犯率、(vii)違反行為の刑事または道徳上の側面、の基準に基づき、違反行為の重大性を考慮して懲戒の種類を選択しなければならず(施行規則第24条1項)、各懲戒の内容を明らかとする表を作成しなければなりません(施行規則第24条第2項)。

(2) 懲戒対象

雇用者は、連邦労働法、同施行規則および決定に違反した労働者を懲戒に付すことができますが(連邦労働法第39条第1項)、業務に関連しない限り職場外での行為について懲戒することはできず、1つの違反行為に対しては、1つの懲戒しかできません(連邦労働法第41条)。

(3) 懲戒手続

懲戒を行うにあたって、まず、対象となる労働者に書面で対象となる行為を通知し、労働者を聴聞し、その申し開きについて調査し、これらを報告書にまとめて、最終的な処分とともに労働者のファイルに保管して、労働者に懲戒処分の種類と金額、その理由、再発時のありうべき懲戒につき書面で通知しなければなりません(施行規則第24条第3項)。発見されてから30日を経過した違反行為は懲戒対象にはできず、懲戒処分は、調査が終了して違反の認定後60日以内に課されなければなりません(同第4項)。

懲戒事由の調査のため必要がある場合、30日以内の範囲で労働者を暫定的な出勤停止、同期間中の給与半減にすることができます。ただし、調査が事件保存で終了、または違法性なしと判明、若しくは懲戒処分が警告となったときには、停止期間中の未払給与を支払わなければなりません(連邦労働法第40条第1項)。

(4) 不服申立

労働者は、懲戒処分に関し、労働審判を提起することの他、会社に不服申立をすることができ、会社はその結果を通知しなければならず、不服申立に対して不利益を与えてはなりません(施行規則第24条第5項)。

(5) 即時解雇

上記の懲戒処分の他、労働者が安全に関する会社の内規に違反する等の法定事由に該当した場合、会社は、労働者への書面調査の実施後に事前通知なく解雇することができます。即時解雇に当たっては、理由を付した解雇決定書を、雇用主またはその代理が労働者に手交しなければなりません(連邦労働法第44条)。

 
 

11.インドネシア

(1) 懲戒処分の種類

インドネシアの懲戒処分については、①警告、②減給、出勤停止、③懲戒解雇の種類があります。懲戒処分に関する法制には、労働法2003年第13号(2022年の雇用創出に関する政府規則に関する法律第2号を改正した労働法2003年第6号)、労使関係紛争解決法2004年第2号、および年政府規則2021年第35号(期間契約労働契約、アウトソーシング、労働時間および休憩時間、解雇に関する政府規則)、2023年法律第6号に定められており、規則と手順に従って実施しなければなりません。

(2) 懲戒処分のための手続き

警告書に関しては、労働法第161条第1項で規定されています。インドネシアでは、従業員が就業規則、雇用契約書などに違反したとしても、すぐに解雇することは難しく、警告書を3回発行する必要があります。3回目の警告書を発行してから6カ月以内に、再度従業員が違反した場合に、初めて解雇することができ、3回目までに発行された、それぞれの警告書の有効期間は6カ月間です。

3回目の警告書を発行した後に解雇となった場合、雇用主と従業員が支払額やその他の権利や義務について合意し、雇用主と従業員は合意契約書(Perjanjian Bersama)を作成する必要があります。その後、雇用主は合意契約と雇用契約解除の理由をインドネシアの労使関係裁判所(Pengadilan Hubungan Industrial Indonesia)に登録し、合意契約登録証明書(Akta Pendaftaran Perjanjian Bersama)を取得する必要があります。

(3) 解雇手当

会社が従業員を解雇することになると、①退職金、②功労金、③権利補償手当など、企業に対する特定の義務が生じます。解雇は雇用主と従業員の合意の下で決定され、規定としては以下があります。

①退職金は、勤続期間が1年未満で固定給の1ヶ月分、2年未満で2ヵ月分、3年未満 で3ヶ月分と勤続年数に比例して増えていき、8年以上からは9ヵ月分で一定です。 ②功労金は、3年以上6年未満で固定給の2ヵ月分、6年以上9年未満で3ヶ月分、9年以上12年未満で4ヵ月分と勤続年数に比例して増えていき、24年以上は10ヶ月分で一定です。 ③権利補償手当には、未消化分の有給休暇の買取など、勤務期間に受けられるはずだった権利を補償する義務を指します。

警告書を発行した懲戒解雇の場合、①退職金については計算した金額の0.5倍、②功労金、③権利補償手当は計算金額をそのまま支給する必要があります。(法律2023年第6号)

 

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1.日本

(1) 概要

日本では、株式の発行に関して、授権資本制度が採用されています。授権資本制度の下、会社は、将来発行する予定の株式の数を定款で定めておき、その「授権」の範囲内で会社が取締役会決議等により株式を発行することが認められています。

また、新株発行の方法には、第三者割当、株主割当、公募発行の3つがあります。

第三者割当とは、特定の第三者に対して株式の割り当てを行う方法をいいます。また、株主割当とは、全ての既存株主に対して各自の保有する株式数に応じて株式を割り当てる方法です。そして、公募発行とは、一般の投資家に対して広く出資を募集し、応募者に対して株式を割り当てる方法をいいます。

(2) 公開会社の場合

公開会社の場合、新株発行は取締役会の決議によって行うことができます(会社法201条1項)。ただし、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(有利発行)には、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法201条1項、199条3項、309条2項5号)。

また、既存株主に新株発行差止請求の機会を与えるために、募集事項を定めたときは、払込期日または払込期間初日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければなりません(会社法201条3項)。もっとも、金融商品取引法に基づき、払込期日の2週間前までに所定の届け出をする場合は、株主に対する通知公告は不要とされます(同条5項、金融商品取引法4条)。

(3) 非公開会社の場合

非公開会社の場合、新株発行の基本的な方法は、株主割当となります。非公開会社の場合、株主は、配当による経済的利益だけでなく、会社に対する支配権を維持する観点から持ち株比率の維持にも関心を有しているのが通常であると考えられるところ、株主割当ならば、持ち株比率に変動をきたさないからです。

株主割当による発行については、株主総会決議によって行うことができるほか(会社法199条1項)、定款で取締役会決議によって行うことができる旨を定めることも可能です(会社法202条3項)。

他方、第三者割当等、既存株主の持ち株比率に影響を与える方法で新株発行を行う場合には、既存株主の保護のため、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法199条2項、309条2項5号)。

また、公開会社の場合と同様、有利発行の場合にも株主総会特別決議が必要となります。

 

2.タイ

(1) 概要

タイでは、日本と異なり授権資本制度が採用されていません。そのため、新株発行にあたっては、その都度定款変更が必要となります。

新株発行手続きの具体的内容は、公開会社と非公開会社でそれぞれ異なりますが、いずれも、株主総会の特別決議に基づかなければならず、出席株主が有する議決権の4分の3以上の賛成が必要な点は共通です。

(2) 公開会社について

公開会社は、新株の全部または一部を、既存株主に対し、その持ち株数に応じて割り当てることができ(株主割当)、また、公募や特定の第三者への割り当て(第三者割当)も行うことができます(公開会社法137条)。また、新株発行にあたっては、株主総会の特別決議が必要です(同法136条)。

(3) 非公開会社について

非公開会社では、株式の公募や第三者割当を行うことはできません(民商法1102条、1222条)。非公開会社が新株を発行する場合には、まず、株主総会の特別決議を経た上で(同法1220条)、既存株主に対し、保有する株式数の割合に基づく割当てを申し出なければなりません(同法1222条1項)。なお、既存株主が新株を引き受けなかった場合には、これを取締役または他の株主が引き受けることができます(同条3項)。

このように、非公開会社では、原則として新株を既存株主にのみ割り当てることしかできませんが、以下の手順を踏むことで、事実上の第三者割当を実行することは可能であり、実務上も、事業拡大等にあたって第三者からの出資を受けたい場合等に活用されています。

すなわち、株主が事前に新株の割当て受ける権利を放棄することに同意している場合には、既存株主が第三者に対し株式の一部(1株でも可)を譲渡し、当該第三者を株主とすれば、新株発行の際に既存株主は新株の引受を放棄し、当該第三者にのみ新株を引き受けさせることが可能となります。

 

3.マレーシア

(1) 新株発行の手続

株式発行は原則として株主総会の承認が必要です(会社法75条1項)。取締役は、事前に株主総会決議による承認を得なければ、株式の割当て権限を行使できません。また、株主総会で株式発行の承認が得られた場合、会社は14日以内に会社登記所に通知する義務があります(会社法76条1項)。一方で、既存の株主に対して保有株式の割合に従った株式の割当を申し出る場合には、株主総会の承認は不要です(会社法75条⑵a)。また、発起人に対して株式を割り当てる場合や、財産の取得対価として株式を発行する場合も同様に承認不要とされています(会社法75条⑵c・d)。

(2) 手続上の瑕疵がある場合の株式発行の有効性等

手続に違反して株式が発行された場合、発行は無効となり、既に払込が行われていれば払込金の返還が必要です(会社法75条⑷)。また、違反に関与した取締役は、会社および株式引受人に対して生じた損害を賠償する義務を負います(会社法75条⑸)。ただし、会社、株主、債権者などの利害関係者は、裁判所に株式発行の有効性に関する申立てを行うことができ、裁判所は正当性や公平性を考慮して株式発行を有効とする命令を出すことが可能です(会社法108条)。

(3) 既存株主の株式引受権

既存株主の株式引受権について、会社法は既存株主の保護規定を設けています。新たに発行される株式の割当ては、まず既存株主に対し、保有割合に従って行わなければなりません(会社法85条⑴)。会社は、期限を定めて株式割当の申出通知を行い、株主が期限内に回答しなかった場合、取締役は最適な形で第三者に株式を割り当てることができます(会社法85条⑵⑶)。ただし、定款でこの規定の適用を排除することができます(会社法85条⑴)。

 

4.ミャンマー

⑴ 株式の発行

取締役会は、定款、本法及びその他の適用法に従い、任意の時期及び割当先に、取締役会が適切と考える条件及び数の株式を発行することができます(会社法63条(a))。株式は、会社の定款に従い、全部払込済又は部分的払込済で発行することができます。株式が部分的払込済で発行された場合、発行条件において、残額部分について請求が行われる時期を特定する必要があり、株主はかかる支払請求に応じて払込みを行う義務を負います(同条(b))。会社は、取締役が株式の追加発行による増資の決定をした場合、各株主が保有する既存株式数に応じて、種類に関係なく引き受けの申込みを行う義務を負う旨を定款で定めることができます(同条(c))。

(2)  株式の発行の対価

株式を発行する際の対価は、取締役会が定めたいかなる形式もとることができます(会社法64条(a))。 株式の発行の対価が現金以外である場合、取締役会は、対価を特定可能な程度に詳細に記録し株式発行の対価の妥当な現金価値を決定し、当該現在価値及びその算定の根拠を記録し、かつ、以下の意見を決議する必要があります。
(aa)株式発行の対価及び条件は、会社及び既存のすべての株主にとって公正でかつ合理的であること

(bb)当該対価の現金価値は、株式発行において充当される金額以上でなければならないこと

 

5.メキシコ

⑴ 新株発行について

新株発行を行うためには、株主総会の特別総会での決議が必要となります(会社法182条)。特別総会では、資本金の4分の3以上の株式を有する株主が出席したうえ、資本金の2分の1以上の株主による賛成が必要となります(190条)。

また、メキシコの会社法上、株式の有利発行は認められておらず、額面金額を下回る金額での発行は禁じられています(115条)。そのため、株式のプレミアム(売却価額と額面価額との差)、その他過去の出資の資本計上の結果、または利益剰余金や評価制引当金の資本組み入れとともに、株式の価値が完全に充足され、かつ、特別総会の決議に従って株主に交付される株式のみが発行済み株式となります(182条)。

なお、メキシコ会社法上、出資の履行については、金銭出資のほか、現物による出資や会社に対する役務の提供での出資も認められています(141条、114条)。出資の履行がなされない場合、一定の手続を経て株主となる権利は消滅します(118条、120条、121条)。

⑵ 株式発行の際の規制について

前述のようにメキシコの会社法上、株式の有利発行は認められていません(115条)。

また、定款に定めることによって複数の種類株式を発行することは可能ですが、配当がない株式の発行はできません(112条)。更に、会社は、既存株式の払込みが完了するまでは、新たに株式を発行することができません(133条)。

⑶ 既存株主の株式引受権

新規の株式発行について、既存株主は、発行される株式を、自身の有する株式数に応じて引き受ける優先権を持ちます。当該権利は、資本増加に関する株主総会における合意が経済省の電子システムに掲載されてから15日以内に行使されなければなりません(132条)。

 

6.バングラデシュ

(1) 追加の株式発行

バングラデシュの株式発行は、授権資本額の範囲内の場合、既存株主への割当増資(会社法155条1項)、または第三者割当(155条2項)によって行われます。

既存株主への割当増資の場合、新株発行を行う会社は、取締役会決議を行ったうえで、既存株主に対して割当株式数、新株発行の申込期限(当該通知日から15日目以降の日でなければならない)を通知します。かかる通知に対して、株主が申込期限内に申し込みを行った場合には、当該株主は、新株引受けの申込日において払込みを行い、当該新株の割当てを受けることができます。申込期限内に申し込みが行われない場合には、当該株主は、新株の引受けを辞退したものとみなされます(155条1項)。第三者割当(155条2項)の場合は、重要事項を取締役会で決議して行います。授権資本額を超えた増資の場合は、株主総会の承認が必要となります(53条2項)。

(2) 登記所への通知および株式証書の発行

会社が株式の割当てを決議した場合、60日以内に商業登記所に以下の内容を通知します(151条1項)。

①割当の利益、割当に含まれる株式の数および額面価格、割当先の氏名、住所、国籍等、株式の払込み済みまたは未払いおよび支払予定の金額(該当する場合)

②割り当てられた株式が現金以外で払込みされた場合、

(a) 割当先が権利を有することについて合意した株式割当証、

(b) 売買またはサービス契約もしくは割当がなされたことに関するその他の事項について、規定に従って印紙を貼付し検証された合意書の写し

③ ②の割当株式の数および額面価格

④ ②の株式割当について、不動産の譲渡により払込みがなされる場合の不動産の売買証書

新株発行を行った会社は、株式の割当後90日以内に株式証書を発行します(158条1項)。

 

7.フィリピン

(1) 新株発行に関わる主な規制

フィリピンでは、新株発行は主に会社法で規制されています。

新株発行をするには、①取締役会の過半数、および②総株式(株主数ではない)の3分の2以上の賛成が必要です。なお、通常は議決権のない株式を保有する株主でも、この決議では決議に参加することができます。

また、資本金の変更には証券取引委員会(SEC)の事前承認が必要であり、場合によってはフィリピン競争委員会(Philippine Competition Commission)の承認も必要となります。さらに、株式発行に伴い定款の変更も必要となるため、定款変更の手続も行う必要があります。

(2) 新株発行に関わる主な規制

上記のとおり、新株発行にはSECの承認と定款変更の手続が必要となります。これらの手続はオンラインで行うことができます。この手続は、必要書類の作成等の作業を踏まえると、数か月かかると考えられます。

おおまかなステップは以下のとおりです。

① 申請書のオンライン提出

② SECによる事前承認(場合によっては補正する必要があります)

③ 申請料の支払い

④ 必要書類の原本の提出

⑤ 再審査

⑥ 承認に関する証明書の発行

(3) 必要書類

必要書類は以下のとおりです。

ⅰ) 株式発行に関する証明書(取締役の過半数が署名し、株主総会の議長および秘書役が署名した書類)

ⅱ) 財務役の宣誓書

ⅲ) 金額の支払いを証明するもの。

ⅳ) 株主名簿

ⅴ) 改訂した定款

ⅵ) 会社内紛争が未決でないことを証明書(秘書役が作成する)

ⅶ) 株主の先買権放棄に関する証明書(秘書役が作成する)

ⅷ) 取締役証明書(取締役の過半数および会社秘書が署名する)

ⅸ) SECによる監査要件を遵守するための宣誓書。

ⅹ) その他必要となる書類

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの企業法制における企業形態

ベトナムの一般的な企業法制の下では、複数の企業形態があり、それぞれ異なる特性、組織構造を有しています。外国人、外国企業がベトナムで事業を立ち上げる際には、通常、有限責任会社(会社所有者である社員の人数によって、1人社員有限責任会社か2人以上社員有限責任会社があります。)または株式会社のいずれかの企業形態が選択されます。そこで、以下、これらの企業形態に関連する情報のみをご紹介します。

なお、株式の発行が認められているのは株式会社のみであり、有限責任会社では株式の発行が認められていません。したがって、会社が資金を調達して増資するためには、対応する企業形態の規定に応じた手続を行う必要があります。

(2) 有限責任会社の増資手続

① 1人社員有限責任会社の場合

1人社員有限責任会社とは、その名称のとおり、個人または組織1名だけの社員(会社所有者)を有する会社です。1人社員有限責任会社の場合、以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することができます。

  1. 単独所有者が追加出資する方法
  2. 他の個人または組織から資本を調達する方法

この方法によると、企業は、その企業形態を2人以上社員有限責任会社または株式会社のいずれかに組織変更する必要があります。

② 2人以上社員有限責任会社の場合

以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することが可能です。

  1. 現社員の出資比率に応じて拠出資本を増額する方法

増資額は、現在の出資比率に応じて現社員が出資しますが、追加出資する権利は、他の社員又は第三者に譲渡することができます。現社員が別途合意した場合を除き、増資分が全額出資されない場合、出資比率に応じて他の社員が出資しなければなりません。

      2. 他の個人または組織から資本を調達する方法

現社員の決定が承認された場合にのみ実施されます。

(3) 株式会社の増資手続

株式会社の場合、以下のいずれかの方法で、株式の数や種類を増やすことによって資金を調達することができます。

  1. 既存株主への株式提供
  2. 第三者割当増資
  3. 株式の公募

具体的には、i) 既存株主への株式提供を行うために、株式会社は、株式引受期限の15日前までに、全ての既存株主に書面で通知する必要があります。既存株主は、株式を購入する権利を他人に譲渡することができます。株主総会で別段の合意がない限り、取締役会は残りの株式を、既存株主に最初に提示した条件よりも有利でない条件で、他の株主やその他の第三者に売却することができます。

また、ii) の第三者割当増資を行うためには、マスメディアを通じて行わないこと、100名未満の投資家(プロの証券投資家を除く、またはプロの証券投資家のみを対象とする)に提供されること、という2つの条件を満たす必要があります。具体的には、株式会社が第三者割当増資に関する合意がない限り、株主は、既存株主に提示した条件よりも有利でない条件で、残りの株式を第る決定書を発行し、既存株主がi)の新株優先引受権を享受することが必要です。株主総会で別の三者に売却することができます。なお、第三者が外国人投資家である場合には、株式の買取りについて所轄官庁の投資認可を取得する手続きが必要となります。

公開会社(上場会社および非上場会社を含む)および株式発行の第三の選択肢(株式の公募)は複雑であるため、これらの事項については本ニュースレターの内容から除外しています。これらの詳細については、証券法をご参照ください。

 

9.インド

会社が既存の株式の保有者に対して、持ち株比率に応じて株式を割り当てる場合は、取締役会の決議により決定することができます(会社法63条1項、179条3項)。インドでは定款にて授権資本枠が設定されるため、授権資本枠を超える増資を行う場合は、増資に先立って授権資本枠を変更(拡大)する手続を行わなければなりません。授権資本枠の変更には、定款変更を伴うため、株主総会特別決議が必要となります(会社法61条、14条)。

株式の価格については、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999)の価格ガイドライン(pricing guideline)に基づく価格規制が適用されます。ガイドラインに基づいた基準価格以上の価格で株式が発行される必要があります。

資本金着金後の手続として、インド準備銀行(RBI)へ届け出が必要となります。資本金着金後、30日以内にRBIへ届出なければなりません。資本金着金後、60日以内に株式の割り当てを行わなければならず、割当後30日以内に登記局(ROC)へ届出を行う必要があります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、新株発行は、発行する株式の数と価格を明らかにして、株主総会の特別決議により承認されなければなりません(会社法(2021年連邦令第32号)第196条1項、3項)。発行株式は、原則、原株式の額面価値と同額でなければなりませんが、特別決議及び監督当局(Securities and Commodities Authority)の承認を受けた場合に限り、株式の市場価値が額面価値を上回るときにはプレミアムを上乗せして、下回る場合には割引して、発行することが可能です(第198条1項)。株主は新株予約権を有し(第199条1項)、新株割当は原株式の割当の規則に則って行われ(第200条1項)、取締役会は当局が認容した新株予約権発行の概要を2紙の地元新聞に広告掲載します(第200条2項)。新株は、予約権を行使した株主に対しその保有株式数に応じて割当され(201条1項)、次にその保有数を超えて申込をした株主に配分され、残余は監督当局が定めた条件に基づき公募されます(第201条2項)。

非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて、適用されます(会社法第267条)が、会社法第195条乃至200条の増資に関する規定については、新株発行にかかる取締役会の同意と株主総会の特別決議により原株式の各面価値と同額での株式発行をすることに読み替えられ(2024年経済省令第137号第34条第1項)、会作法第198条のプレミアム発行については、それまでの会社の業績及び株式の簿価を考慮した株主総会の特別決議並びにプレミアムの計算に関する会計監査人の資料を提出した上での経済省の承認を受けた場合に行うことができると読み替える(同省令第35条)とされます。

上記は本土で設立された株式会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、新株発行は各フリーゾーンの規則によって規定されます。

 

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1.日本

(1) 概要

憲法は、「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と定めており(憲法76条1項)、これを受けて、高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所及び簡易裁判所の4種類の下級裁判所が裁判所法によって設置されています。

(2) 取扱事件について

日本は三審制の国であり、通常、第一審を簡易裁判所または地方裁判所、控訴審を地方裁判所または高等裁判所、上告審を高等裁判所または最高裁判所が担当します。より具体的には、訴額が140万円を超える場合には地方裁判所、140万円以下の場合には簡易裁判所がそれぞれ第一審を管轄します。ただし、当事者の合意があれば、140万円以下の場合でも地方裁判所を第一審とすることができます。

また、家庭裁判所では、離婚や相続等に関連する家事事件や、未成年者による犯罪等の少年事件を取り扱っています。

なお、事件によっては、特定の裁判所のみが第一審を管轄する専属管轄が法定されている場合があります。専属管轄が法定されている場合、当事者の意思によって管轄裁判所を定めることはできません。例えば、特許権等に関する訴えは、東日本については東京地裁が、西日本については大阪地裁が、それぞれ専属管轄を有しています。このほか、会社関連の訴訟で、株主が株主代表訴訟を提起する場合は、当該株式会社の本店の所在地の地方裁判所が専属管轄を有しています。

 

2.タイ

(1) 概要

タイの裁判所には4種類あり、司法裁判所(The court of Justice)、憲法裁判所(The Constitutional Court)、行政裁判所(The Administrative Court)、軍事裁判所(The Military Court)に分けられます。このうち、通常の民事訴訟・刑事訴訟は司法裁判所で取り扱われます。

以下では、司法裁判所を念頭にタイの司法制度について概観していきます。

(2) 司法裁判所について

司法裁判所は、一般の民事・刑事事件を扱う一般裁判所と特定の専門事件を取り扱う専門裁判所の二つに分けられます。

知的財産・国際通商、労働、租税、破産、少年・家庭といった専門事件については、各専門裁判所が第一審の管轄権を有しており、第二審を専門控訴裁判所、上告審を最高裁判所がそれぞれ担当します。

① 知的財産・国際通商裁判所

知的財産・国際通商裁判所は、知的財産権および国際通商に関する民事事件・刑事事件を取り扱っています。知的財産・国際通商裁判所は、現状、バンコクに所在する中央知的財産・国際通商裁判所のみが設置されており、バンコクを含む周辺6県を管轄しています。

また、地方には未だ知的財産・国際通商裁判所が設置されていないため、上記6件以外の地域についても、地方知的財産・国際通商裁判所までは、中央知的財産・国際通商裁判所が管轄権を有するものとされています。

② 労働裁判所

労働裁判所は、雇用や労働組合に関係する事件等、労働関連の事案を取り扱っています。労働裁判所については、バンコクに所在する中央労働裁判所のほか、全国の9地域に地方労働裁判所が設置されています。

③ 租税裁判所

租税裁判所は、税金関係の事件を取り扱っています。現状、バンコクに所在する中央租税裁判所が唯一の租税裁判所であり、バンコク及び周辺5県を管轄しているほか、地方租税裁判所が設置されるまでは、前記地域以外の地域に対しても管轄権を有するものとされています。

④ 破産裁判所

破産裁判所は、破産および事業再生に関する民事事件・刑事事件を取り扱っています。現状、バンコクに所在する中央破産裁判所が唯一の破産裁判所であり、バンコクを管轄しているほか、地方破産裁判所が設置されるまでは、前記地域以外の地域に対しても管轄権を有するものとされています。

⑤ 少年・家庭裁判所

少年・家庭裁判所は、未成年者に関する刑事事件や、家庭に関する民事事件等を取り扱っています。少年・家庭裁判所はバンコクをはじめ全国各地に設置されています。

 

3.マレーシア

(1) 概要

マレーシアには普通裁判所として、①連邦裁判所(Federal Court)、②控訴裁判所(Court of Appeal)、③高等裁判所(High Court)、④初級裁判所(Session Court)、⑤治安判事裁判所(Magistrates Court)が設置されています。①ないし③は上級裁判所(Superior Court)、④及び⑤は下級裁判所(Subordinate Court)と呼称されます。

これらの裁判所の他、労使裁判所(Industrial Court)のように、高度の専門性が要求される分野を管轄する特別裁判所も設置されています。

(2) 連邦裁判所(Federal Court)

連邦裁判所は、マレーシアにおける最高位の司法機関であり、民事、刑事、憲法問題についての終審裁判所です。民事事件に関しては、同裁判所の許可を条件として、高等裁判所が第一審として行った判決に対する控訴裁判所の判決の当否及び憲法解釈にかかる事件について審理し、裁判を行います。刑事事件に関しては、高等裁判所が第一審としてした判決に対する控訴裁判所の判決の当否及び憲法解釈にかかる事件を審理し、裁判を行います。

(3) 控訴裁判所(Court of Appeal)

控訴裁判所では、高等裁判所又は初級裁判所が第一審として行った判決または命令の当否及び下級裁判所が第一審として行った判決に対してなされた高等裁判所の判決又は命令の当否を審理し、裁判を行います。

もっとも、民事事件については、以下の場合には高等裁判所の判決に対する上訴は認められておらず、結果として控訴裁判所が取り扱う上訴の範囲は限定されています。

① 訴訟物の価額がRM250,000以下の事件(ただし、控訴裁判所の許可がある場合を除きます。)

② 合意判決等

③ 裁判所の裁量に基づき決定された費用にのみ関連する判決等(ただし、控訴裁判所の許可がある場合を除きます。)

④ 書面法により終局的なものであることが明言されている判決等

(4) 高等裁判所(High Court)

民事事件に関しては、高等裁判所は、憲法に規定する制限の範囲内において、全ての民事訴訟を審理する管轄権を有するものとされています。

加えて、以下のような特殊な民事事件についても管轄権を有します。

① 婚姻又は離婚に関する事件

② 破産又は会社に関する事件

③ 乳幼児の保護者の選任・監督等に関する事件

④ 精神障害者の保護者の選任・監督等に関する事件

⑤ 遺言状及びその検認に関する事件

また刑事事件については、下級裁判所において審理することができない法定刑に死刑を含むすべての刑事事件を審理し、裁判を行います。上訴裁判所としての高等裁判所は、下級裁判所の判決に対する当否を審理し、裁判を行います。ただし、民事事件については、法律問題に関するものを除き、訴額がRM10,000以下の請求については、高等裁判所に控訴することはできないこととなっています。

(5) 初級裁判所(Sessions Court)

初級裁判所はマレーシアに155か所設置されています。初級裁判所においては、民事事件に関して、すべての交通事故事件、訴訟物の価額がRM1,000,000を超えない事件並びに契約の履行、取消し、解除及び修正に関する事件について第1審として審理し、裁判を行います。また、刑事事件に関しては、死刑判決の対象となる罪を除きすべての犯罪事件を審理し、死刑以外のいかなる判決をも言い渡すことができます。なお、初級裁判所は、上訴審としての管轄を有していません。

(6) 治安判事裁判所(Magistrate Court)

治安判事裁判所には、第1級治安判事裁判所と第2級治安判事裁判所の2種類が存在します。

ア 第1級治安判事裁判所

第1級治安判事裁判所においては、民事事件に関して、訴訟物の価額がRM100,000以下の事件について審理し、裁判を行います。また刑事事件に関しては、罰金刑又は長期10年以下の拘禁刑を科し得る犯罪事件について審理し、裁判を行います。

イ 第2級治安判事裁判所

第2級治安判事裁判所においては、民事事件に関して、訴訟物の価額がRM10,000を超えない債権回収に関する事件について審理し、裁判を行います。また、刑事事件に関しては、罰金又は長期12か月以内の拘禁刑を科し得る犯罪事件について審理し、裁判を行います。ただし、同裁判所は、6か月を超える拘禁刑、RM1,000以下の罰金刑又はこれらを併せて科する判決のみ言い渡すことができます。

(7) 労使裁判所(特別裁判所)

マレーシアでは、高度の専門性が要求される又は事件数が多い等の理由により、これらの事件を専門的に扱う裁判所として、特別裁判所が設置されています。

労使裁判所は、労使関係法に基づき設立された裁判所であり、労使関係から生じた個別紛争、使用者と労働者との間に生じた紛争及び労使関係法上の権利義務に関する事件を取り扱います。ただし、労使裁判所における手続では、法律問題に関しては、高等裁判所に付託し、判断を求めることが義務付けられています。

 

4.ミャンマー

⑴ 裁判所の種類

2008年憲法下では、連邦の裁判所は、①連邦最 高裁判所(Supreme Court of the Union)、管区高等裁判所(High Court of the Region)、 州高等裁判所(High Court of the State)、自己管理管区裁判所(Courts of the Self-Administered Division)、自己管理区域裁判所(Courts of the Self-Administered Zone)、 県裁判所(District Courts)、郡裁判所(Township Courts)及び法律によって設置されるその他の裁判所、②軍法会議、③連邦憲法裁判所とされています(憲法293条)。法律によって設置されるその他の裁判所は、少年裁判所、都市犯罪を審理する裁判所、交通犯罪を審理する裁判所等が存在します。

(2) 各裁判所が取り扱う対象

郡裁判所は、1,000万チャットより小さい訴額の事件を取扱います。

自己管理管区裁判所、自己管理区域裁判所、及び県裁判所は、1,000万チャット以上5億チャット未満の訴額の事件を取扱います。

管区高等裁判所及び州高等裁判所は、5億チャット以上の訴額の事件を取扱います。

連邦最高裁判所は、連邦が締結した二国間条約に起因する事案等、一定の事項に ついての第一審管轄権を有するほか、連邦の最上位の裁判所として、上告裁判所となります(憲法295条)。

憲法裁判所の役割は、憲法規定の解釈、法律の憲法に適合審査等です。

軍法会議は、憲法及びその他の法律によって設置され、国軍の軍人に対する裁判を行います。

 

5.メキシコ

⑴ 概要

メキシコは連邦制を採用しており、メキシコ国内の裁判所には、連邦裁判所と州裁判所があります。当該州内のみで生じた事件については当該州の裁判所が、複数の州にまたがる事案や連邦が関係する事案については連邦裁判所が担当しています。連邦裁判所と州裁判所は、基本的には二審制を採用していますが、裁判所の判決が人権を侵害している場合や、判決の基となった法律が憲法違反であり、これによって人権が侵害されたような場合には、さらにアンパロ裁判(連邦裁判所管轄)に訴えることができ、その場合は合計4回まで審議を受けることが可能です。

① 連邦レベルの司法機関

連邦司法機関としては、最高裁判所、巡回合議裁判所、控訴合議裁判所、地区裁判所、連邦選挙裁判所といった裁判所があります。

このうち、連邦レベルの第一審裁判所としては地区裁判所があり、民事・刑事・行政または国際条約における連邦法の適用に関する訴訟等を取り扱っています。地区裁判所に対する控訴は、控訴合議裁判所が取り扱っています。

② 州レベルの司法機関

州レベルの裁判所としては、上級司法裁判所、第一審裁判所、下級裁判所・少額裁判所・治安裁判所・地方裁判所・郡裁判所があります。

第一審裁判所(Juzgados de Primera Instancia)は、州レベルの第一審裁判所であり、民事・商事・刑事・不動産賃貸・家族等の案件を取り扱っています。 その他、下級裁判所・少額裁判所・治安裁判所・地方裁判所・郡裁判所は、州により管轄や名称が異なっており、一般には、一定の金額を超えない民事・商事事件、懲役刑に該当しない刑事事件を取り扱っています。

上級司法裁判所は、州における控訴裁判所であり、刑事、民事、商取引、家族、少年司法、刑事罰の執行、制裁の執行を取り扱っています。

⑵ その他の司法機関・行政司法機関

⑴で述べたもののほか、メキシコには特殊な事件を取り扱う裁判所等があります。主なものとして、労働裁判所・労働調停登録センター、連邦行政裁判所、行政審裁判所、高等農事裁判所・単独農事裁判所が挙げられます。

このうち、労働裁判所・労働調停登録センターは、労働者と使用者間に発生する労働紛争解決を担う機関であり、メキシコにおいて労働紛争は⑴の裁判所とは異なる裁判所や紛争解決機関にて解決されます。税務や行政訴訟に関しては行政裁判所である連邦行政裁判所が取り扱っており、地方の行政機関と私人との紛争に関しては行政審裁判所が取り扱っています。その他、土地などの境界や保有権、承継、返還、利用に関する紛争等に関しては単独農業裁判所が担当し、その上訴審として高等農事裁判所が存在します。

 

6.バングラデシュ

(1) バングラデシュの裁判制度

バングラデシュには、最高裁判所、民事裁判を扱う下級裁判所、刑事裁判を扱う下級裁判所、そして法令に基づく裁判所があります。

(2) 最高裁判所

最高裁判所には、「上訴部」と「高等裁判所部」が設置されています。高等裁判所部は、いかなる事項でも下級裁判所の判決に対する上訴を審理する権限を持ちます。上訴部は、高等裁判所部の判決や命令に関する上訴を受け付け、憲法に関連する重要な事項や死刑または終身刑が判決に含まれる場合に管轄権を有します。

(3) 民事裁判を扱う下級裁判所

民事事件を取り扱う下級裁判所として、地方判事裁判所、追加地方判事裁判所、共同地方判事裁判所などがあり、各裁判所の管轄権は民事裁判所法によって規定されています。訴額に応じて、第一審の裁判所が決まります。

(4) 刑事裁判を扱う下級裁判所

刑事事件を取り扱う裁判所には、セッション判事裁判所と治安判事裁判所があります。それぞれの管轄は刑事訴訟法によって定められており、地域や量刑によって第一審裁判所が決まります。

(5) 法律による特別な裁判所

労働上訴審判所(Labour Appellate Tribunal)、労働裁判所(Labour Court)は、2006年労働法(Bangladesh Labour Act 2006)に基づいて、同法が定めた労働に関する事件を扱います。

行政審判所(Administrative Tribunal)、行政上訴審判所(Administrative Appellate Tribunal)は、憲法第117条と1980年行政審判所法(Administrative Tribunals Act 1980)を根拠に、同法が定めた行政法の事件を扱います。

その他、特定の法令に基づき、租税控訴審判所(Tax Appellate Tribunal)、関税、物品税及びVAT上訴審判所(Customs, Excise and VAT Appellate Tribunal)、家庭裁判所(Family Court)、海事裁判所(Admiralty Court)、村落裁判所(Village Court)、少額原因裁判所(Small Causes Court)、貸金裁判所(Money Loan Court)、倒産裁判所(Bankruptcy Court)が設置されています。

 

7.フィリピン

(1) 基本

フィリピンの裁判所の基本構造はおおまかに以下のとおりです。基本的にはフィリピンも日本と同じように三審制を採用しています。

  1. 簡易裁判所(First Level Courts):略式手続や少額訴訟を扱う裁判所。
  2. 地方裁判所(Regional Trial Courts):基本的に第一審として事実審を行う。また、第一審裁判所の判決に対する上訴裁判所としても機能する。
  3. 高等裁判所(Court of Tax Appeals):地裁等からの上訴を扱う。
  4. 最高裁判所(Court of Appeals):高裁からの上訴を扱う、最上位の裁判所

(2) その他の裁判所

フィリピンには他にも以下のような裁判所があります。フィリピンでビジネスを行う企業にとっては、労働問題を扱う中央労使関係委員会(The National Labor Relations Commission)が最も重要であると思われます。

  1. 中央労使関係委員会(The National Labor Relations Commission):労働問題に関する紛争を扱う。厳密には裁判所ではなく労働雇用省 (DOLE)の一部門であるが、裁判所と同様の機能を果たしている。
  2. 税務裁判所: 税務関連の決定に関する控訴を扱う控訴裁判所。
  3. サンディガンバヤン(Sandiganbayan): 公務員や職員による汚職や腐敗事件等を扱う特別裁判所。
  4. シャリーア(Shari’ah)裁判所:ムスリム身分法(the Code of Muslim Personal Laws)が適用される事案で、一方または両方の当事者がイスラム教徒である場合に管轄権を持つ(非イスラム教徒が当事者になる場合、その当事者はシャリーア裁判所で裁判することを承諾する必要がある。)。

簡易裁判所に相当するシャリーア巡回裁判所(Shari’ah Circuit Courts)、地方裁判所に相当するシャリーア区裁判所(Shari’ah District Courts)、高等裁判所に相当するシャリーア高等裁判所(Shari’ah High Court)がある。

 

8.ベトナム

⑴ 組織体制

ベトナムの司法機関は人民裁判所と呼ばれ、憲法に基づき司法権を行使します。人民裁判所には、最高人民裁判所および法律で定められたその他の裁判所が含まれます。人民裁判所組織法(2025年1月1日に施行される2024年人民裁判所組織法)第3条によると、人民裁判所の組織は以下の通りです。

  • 最高人民裁判所:ベトナムの最高司法機関です。
  • 高級人民裁判所:省級人民裁判所および専門第一審人民裁判所からの上訴を扱います。
  • 省級人民裁判所(中央直轄都市人民裁判所を含みます):県級人民裁判所からの上訴および特定の第一審を扱います。省級人民裁判所は中級裁判所とみなされます。
  • 県級人民裁判所:主に、第一審を扱います。県級人民裁判所は地方裁判所とみなされます。
  • 専門第一審人民裁判所(2025年1月1日以降に施行):行政、知的財産、破産事件の第一審のみを扱います。
  • 軍事裁判所(中央軍事裁判所、軍事区域および同等の軍事裁判所、地域軍事裁判所を含みます):ベトナム人民軍に組織され、被告人が現役の軍人である刑事事件およびその他規定された事件を審理する裁判所制度を指します。

(2) 紛争の種類

2015年民事訴訟法の規定に基づき、紛争は民事紛争、家庭紛争、商業・ビジネス紛争、労働紛争に分類されます。これに応じて、紛争の具体的な内容に基づき、人民裁判所の管轄レベルが決定されます。しかし、裁判所の管轄レベルを適用する前に、当事者は裁判所の管轄区域を考慮しなければなりません(2015年民事訴訟法第39条)。紛争の対象が不動産である場合、不動産が所在する地域の裁判所のみが紛争を解決する管轄権を有します。また、当事者は、書面により、原告の居住地または原告会社の本店所在地の裁判所に紛争解決を依頼することに合意する権利を有します。合意がない場合は、被告の居住地または被告会社の本店所在地の裁判所が民事事件を解決する管轄裁判所となります。

 

9.インド

⑴ 裁判制度について

インドの裁判制度は、最高裁判所(Supreme Court)、および最高裁判所の下に位置づけられる裁判所で構成されており、日本と同様に三審制を採用しています。最高裁判所の下には、高等裁判所(High Court)があり(基本的に高等裁判所は各州に設置される)、その下に下級裁判所(Subordinate Court)があります。下級裁判所は、地方裁判所(District Court)と刑事事件のみを取り扱うSessions Courtからなります。

その他、商事事件(INR30万以上の事件)のみを取り扱う商事裁判所や、労働事件のみを取り扱う労働裁判所などの特別な事件のみを取り扱う裁判所があります。

(2) 管轄について

基本的には、被告の住所若しくは被告が事業を営み利益を得る場所、または請求原因が発生した場所に裁判管轄が生じます。もっとも、不動産に関して生じた紛争についての裁判は、当該不動産が所在する管轄区域内の裁判所に提起されなければなりません。

(3) 準司法機関について

他にも準司法機関である会社法審判所(NCLT : National Company Law Tribunal)、労働審判所(Industrial Tribunal)、直接税審判所(ITAT : Income Tax Appellate Tribunal)、間接税審判所(CESTAT : Customs Excise and Service Tax Appellate Tribunal)等があります。これらの準司法機関である審判所は、事件の性質により使い分けられ、例えば会社法に関する紛争であれば会社法審判所が利用されることになります。

準司法機関の判断に対する不服申立てとして高等裁判所への上訴が認められます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦では、各首長国は、連邦憲法の下で連邦裁判所の所管とされる事項以外について司法権を有する(連邦憲法第104条)一方で、各首長国の希望によって、連邦法を制定して、その司法権に属する事項を連邦裁判所の管轄に服することができます(連邦憲法第105条)。そのため、7つある首長国のうちアブダビ、ドバイ及びラアスルハイマは、各首長国独自の司法システムを構築して首長国裁判所を有しますが、後者を選択したその他の4首長国(シャルジャ、アジュマン、フジャイラ及びウンムアルカイワイン)には、首長国裁判所はなく、あらゆる事項が連邦裁判所において審理されます。

連邦裁判所は、一審裁判所、控訴裁判所、最高裁判所(Supreme Court)の三審制となっています。このうち、連邦最高裁判所は、各首長国間の紛争、首長国と連邦政府との紛争、連邦法の合憲性、首長国法の連邦憲法または連邦法適合性、連邦裁判所と首長国裁判所の管轄争い、連邦の公益を直接害する犯罪等(連邦憲法第99条)を所管し、連邦一審裁判所は、連邦が原告または被告となる連邦と個人間の民事・商事・行政紛争(連邦憲法第102条)等を所管し、上記のとおり首長国裁判所を設置していない4首長国にかかる首長国内の紛争も所管します。

ドバイにおける首長国裁判所は、一審裁判所、控訴裁判所、破毀院(Court of Cassation)の三審制となっていて、これらとは独立した特別裁判所である遺産裁判所が設置されています。首長国破棄院は法令違背の有無のみを判断する法律審で、連邦一審裁判所では、首長国が管轄を持つ司法権に属する事項(民事、商事、家事、労働、刑事等)が審理されます。

フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)については、それぞれ独自に制定された法律によって独自の裁判所が設置されています。ドバイに所在するDIFC裁判所は、一審裁判所と控訴裁判所の二審制で、DIFCで制定された法律に基づき英語で審理されるという特色がある他、所管事項は、当初DIFC内で生じた紛争に限定されていましたが、DIFCと関連のない事件についても拡大されています。アブダビに所在するADGM裁判所も二審制の構造を持ち、英国法(English common law)が直接適用されるという特色を有しています。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年9月25現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 法令上保存義務のある文書及びその保存期間

会社が保存すべき文書及びその保存期間については 各種法令によって定められており、主な例としては、以下の表のとおりのものがあります。

文書 保存期間
総務
定款
保存期間の定めはないが、その性質上、永久保存すべきと解される。
株主名簿
株主総会議事録(本店備置き分) 10年間。なお、支店備置き分は5年間(会社法318条)。
取締役会議事録(本店備置き分のみ) 10年間(会社法371条1項)。
事業報告(本店備置き分) 5年間。なお、支店備置き分は3年間(会社法442条)。
経理
計算書類 (貸借対照表・損益計算書等) 10年間(会社法435条4項)
会計帳簿(総勘定元帳、仕訳帳等) 10年間(会社法432条2項)
給与所得者の扶養控除等申告書等 7年間(所得税法施行規則73条の3)
人事
労働者名簿
5年間(労働基準法109条)
雇入れ・解雇・退職に関する書類
労働関係の重要書類(出勤簿・タイムカード・残業報告書等)

(2) 保存方法

会社における文書の保存については、電子帳簿保存法やe-文書法によって、電磁的方法での保存が認められている場合があります。

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿を対象としたもので、総勘定元帳や仕訳帳等の会計帳簿について、一定の要件の下で電磁的方法での保存を認めています。

また、e-文書法は、民間事業者等が保存すべき文書について広く対象としたものであり、国税関係の帳簿等も適用対象に含まれるほか、会社法等各種法令に基づき保存義務のある文書についても、その多くが、同法によって電磁的方法での保存が認められています。もっとも、e-文書法は、電磁的保存の方法の具体的な要件等については、各府省の省令に委ねているため、電磁的方法での保存にあたっては、当該文書の保存義務の根拠となる法令や関連する省令等の定めに適合していなければなりません。

 

2.タイ

(1) 会社の会計帳簿等の保存について

会計法(Accounting Act)では、会計責任者は、会計帳簿および会計帳簿への記入に使用した裏付け書類を、決算日から5年以上保存しなければならないと定めています(会計法14条)。

他方で、同条は、歳入局の判断により、5年以上7年以下の範囲で、会計帳簿等の保存期間の延長が命じられる場合があるとも規定しています。また、歳入局との間で税務関係の紛争が生じる場合も考えられるところ、国の租税債権の消滅時効は10年となっています(民商法193/31条)。

これらのことも踏まえると、会計帳簿等については、最大10年間保存しておくという運用が考えられます。

(2) 労務関係の文書の保存について

使用者は従業員の雇用が終了してからも、雇用関係終了日から2年以上は従業員名簿を保管しておかなければなりません。また、賃金、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当の支払に関する台帳についても、支払いがあった日から2年以上保管することが求められます(労働者保護法115条1項)。

なお、労務関係についても従業員との間で何らかの紛争が生じることが考えられます。この点、民事上の請求については、消滅時効が原則として10年となっています(民商法193/30条)。

そのため、労務関係の文書についても、証拠を保全しておく観点から、最大10年間保存しておくという運用が考えられます。

 

3.マレーシア

会社は、株主総会に関し、①株主総会以外で行われた、株主によるすべての決議(書面による決議を含む。)、②株主総会、➂会社法344条に従い会社に提供された事項(会社の単独社員が株主総会において、会社が決定しかつ承諾したものとする旨決定した場合において会社に提供すべき当該決定事項の詳細)を記した書面を記録し、保管する必要があります(会社法341条⑴(a)~(c))。これらの文書については、決議がなされた日又は株主総会の開催日から起算して7年間保管する必要があります(同条⑵)。

また、上記文書のほか、会社は、定款、株主名簿、会計帳簿、取締役会決議書・議事録等を記録・保管する必要があります(同47条⑴)。

なお、マレーシアにおいては、これらの会社運営に関する文書については、会社秘書役にて保管されることが一般的です。

 

4.ミャンマー

⑴ 法令上の文書の保存に関する規定

2019年10月に施行された「Tax Administration Law」により定められています。保存すべき書類については、「sales and purchase invoices, costing documents, bookings, diaries, purchase orders, delivery notes, bank statements, con -tracts, and other documents which relate to an element of a transaction」と規定されています。保存期間については、取引が行われた日から7年間。7年を超える場合は、その記録が関連する課税期間の課税期限満了まで。と定められています。

(2) 実務上の留意点

近時、ミャンマーにおいては税務調査が増加しています。その際、紙ベースによる証憑のチェックが行われるため、税務調査が来るまでは7年を超えていたとしても、文書を保管していた方が実務上安全と解されます。

 

5.メキシコ

⑴ 法令上の文書の保存期間に関する規定

文書の保存義務については、商法にその規定があります。

メキシコの商法上、会社も商人に該当するところ、商人は、権利と義務を生じさせる契約、合意、もしくは約束が記録された手紙、電報、電磁的記録、またはその他の文書の原本を最低10年間保管する義務があります(商法46条、47条)。電磁的記録で保存する場合、原本の保存または提示の目的のためには、情報が最初に最終的な形で生成された時点から完全かつ変更されておらず、その後の参照のためにアクセス可能であることが要求され(商法48条)、経済省が定める電磁的記録の保存のために遵守すべき要件を定めた公式メキシコ規格に従わなければなりません(商法49条)。

⑵ 会社解散後の文書保存義務

会社解散後について、清算人となった者は、会社の帳簿および書類を清算結了の日から10年間保管しなければなりません。清算人は、会社の帳簿や書類を、紙媒体で保管するか、電子・光学的、その他の技術で保管するかを選択することが可能です(会社法245条2段落)。

 

6.バングラデシュ

(1) 法令上の文書の保存期間に関する規定

1994年会社法181条では、財務諸表の保管を義務付けており、12 年間保存することとしています。その他、同法89条にて、取締役会議事録の保管を義務づけていますが、その保存期間については特に定めていません。実務においては、7~12 年間保存すべきであるとされています。また、年次会計報告についても、同様に、保存期間は規定されていませんが、実務では、7~12 年間保存することが推奨されています。

会社法では、文書の保存形式について、記録を電子媒体と紙媒体のどちらで保存するかについては規定していません。

会社法以外にも、2012年付加価値税及び補足税法では、発注および販売明細書、納税証明書、通関書類、その他の財務記録などの詳細な記録を 5 年間保存することを義務付けています。

2006年バングラデシュ労働法及び2019年EPZ労働法では、労働者名簿や安全記録簿の保管について定めていますが、保存期間については特に定めていません。

 

7.フィリピン

(1) 文書の保存義務

フィリピンの法律は、企業に対して文書の保存義務を課しています。以下は、保存義務がある文書の一例です。

文書 保存期間
設立に関する文書(定款等)
期間の定めなし
株主リスト
株主総会議事録
取締役の名前と住所
取締役会議事録
商取引の記録
会計帳簿 以下から起算して5年(一部例外あり)
①記録の提出期限の翌日
②提出期限を過ぎて提出された場合は、実際の提出日の翌日

(2) 電子での書類の保存

会社法によって保存が義務付けられている文書は、保存方法が指定されていないため、基本的には電子で保存することができます。他方で、公証人によるノータライズが必要な定款等の書類は、その性質上ハードコピーを作成する必要があります。また、会計帳簿も基本的には電子で保存することができます。

(3) 保存規定に違反した場合の罰則

保存規定に違反した場合、フィリピンの法律では罰則規定が設けられています。たとえば、会社法では、会社が記録を適切に保存していなかった場合、10万PHPから40万PHPの罰金が科されます。

 

8.ベトナム

(1) 保存が義務付けられている企業文書の種類

現行企業法には、会社の種類に応じて、以下の文書を保存することが規定されています。

  1. 会社の定款、内部管理規定、株主・出資者名簿。
  2. 知的財産権の証明書、製品・商品・サービスの品質登録証明書、その他の許認可証および証明書。
  3. 会社の資産所有を証明する文書。
  4. 社員総会、株主総会、取締役会の会合の議決権、議決権調査簿、議事録。会社の決定または決議書類。
  5. 有価証券の募集または上場のための目論見書。
  6. 監査役会の報告書、検査当局および監査組織の判断。
  7. 会計帳簿、会計記録、年次財務諸表。

また、現行の会計規則では、前項vii)で示された文書の種類についても詳細に記載されており(政令No. 174/2016/ND-CP第8条参照)、これによると、上記vii)の文書に加え、会社は、予算明細書、および契約、利益の資本化に関する決定、資金や資本書類の受領と使用など経理業務に関連するその他の文書も保存しなければならないとされています。

また、労働災害が発生した場合、会社は、政令No. 39/2016/ND-CPに基づき、労働災害調査記録、検死または傷害検査記録などの労働災害に関する文書を保存しなければなりません。

さらに、会社が行う事業内容や運営活動の種類によっては、特別の文書保存に関する法的義務が生じる場合があります。例えば、信用機関に分類される会社は、信用機関法(法律No. 32/2024/QH15)に規定される信用記録に関する文書も保管しなければなりません。また別の例として、取引商品の原産地証明書(C/O)を申請する企業は、政令No. 31/2018/ND-CPに基づき、申請書類およびその目的に関連する適切な補助文書も保管する必要があります。

(2) 文書保存に関するその他の重要事項

文書を保管する場所については、会社が自由に決定することができます。現行の法令では、電子形式での文書の保管については、e-VATインボイスを除き、特に規定はありません。したがって、e-VATインボイス以外の文書については、会社は、電子文書として保存するかどうかを選択することが可能であると解されています。

文書の保存期間には、永久保存と一定期間保存の2種類があります。一定期間保存の文書について、保存期間は、法令により年単位で決定されますが、対応する業務が完了してから70年を上回ることはありません。各種文書に適用される保存期間の詳細は、通達10/2022/TT-BNVに添付された別表や専門規則に規定されています。

 

9.インド

⑴ 会社法に基づく文書の保存義務について

インド会社法及び会社の下位規範である複数の規則において、以下の文書について保存義務が定められています。文書の種類、保存期間などについて把握しておくことが重要です。これらの文書は基本的に会社登記所に登録された登録事務所において保管しなければなりません。

文書 保存期間
設立に関する文書及び情報の写し(定款、取締役等のDeclaration、犯罪歴がないことの宣誓供述書、株主の基本情報、取締役の基本情報、取締役の他の会社との利害関係に関する情報) 会社が解散するまで永久に
株券 30年間
株主総会議事録 会社が解散するまで永久に
取締役会議事録 会社が解散するまで永久に
担保の付与又は変更に関する文書 会社により請求が履行された日から8年間
年次報告書の写し 登記官へのファイリングから8年間
取締役の利害関係の開示に関するフォーム 関連する会計年度の終了から8年間
取締役会の出席簿 最終記入日から8会計年度、その後取締役会の承認で破棄可能
取締役会招集通知、議題、その他関連文書の写し 8会計年度、その後取締役会の承認で破棄可能
株主総会招集通知、監査報告書、その他関連文書の写し 8会計年度
会計帳簿 8会計年度
その他法令で要求される文書 8会計年度

⑵ 保管方法

上記の文書は、原本だけでなく電磁的記録により保存することも認められています。もっとも、紛争が生じた場合等は、紙の原本があることが望ましいので原本を保存しておくことが望ましいといえます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

会社の企業活動に関連して作成される文書の保管について、会社法(2021年連邦令第32号)では、会計帳簿を該当事業期末から5年間、本店で保管しなければならないと規定するのみです(第26条第2項)。商業取引法(2022年連邦令第50号)では、商人はその事業取引に関して発した交信・電報及び請求書の謄本並びに受領した交信・請求書及びその他の書類を発行または受領から最低5年間、商業帳簿及びその証拠書類をその完了から最低5年間、保管しなければならないとしています(第29条第1項・第2項)。

税手続法(2017年連邦令第7号)施行規則(2023年内閣令第74号)は、保管すべき会計記録の詳細を規定していて、貸借対照表、収益計算書、給与支払簿、固定資産管理簿、期末在庫表、を含む税法等で要求される支払・売買等の事業に関する記録、及び事業上のやりとり、請求書、免許、契約、並びに事業決定や計算の根拠を含む会計記録の根拠資料について(第2条)、課税事業者は当該課税期間後の5年間、非課税事業者は資料が作成された暦年末から5年間、ただし、土地登記に関連する資料については作成された暦年末から7年間、保管するものとしています(第3条第1項)。これらの期間は、課税当局との紛争があるときや税務調査中である等の場合には更に4年間延長されます(第3条第2項)。法人事業税法(2022年連邦令第47号)第56条では、課税事業者は税申告書類及びその証拠書類並びに課税対象所得を把握させる書類の全てを、非課税事業者は免税の地位を証明する記録の全てを、該当課税期間後7年間保管しなければならないとします。付加価値税法施行規則(2017年内閣令第52条)では、付加価値税法(2017年連邦令第8号)が保管を規定する文書の保管期間・方法等は税手続法施行規則の規定によるとしていますが、不動産に関する文書については15年と定めています(第71条2項)。

以上の通り、法令によって保管する書類の範囲や期間が異なる他、フリーゾーンで設立された会社については会社法の適用が除外される(第5条1項)等、会社の設立形態によっては適用される法令が異なり、また、事業内容に応じて適用を受けるその他の業法によって異なる文書保管期間の定めがある場合がありますので、留意が必要です。

発行

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1.日本

⑴ 配転に関する規制

配転については、判例上、業務上の必要性と本人の職業上・生活上の不利益の両方の観点を考慮して行われるべきものとされています。

この点、最高裁は、業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、配転命令権の行使が権利の濫用となる旨の判断枠組みを示しています(最高裁昭和61年7月14日)。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向命令が有効であるといえるためには、就業規則等で出向命令権が定められていることの他に、配転命令と同様、権利濫用にならないようにしなければなりません。労働契約法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」として、権利濫用について明文規定を設けています。

転籍命令については、単に転籍を命じ得ることを就業規則などで包括的に定めておくだけでは足りず、転籍先企業が明示され、一定期間後の復帰が予定される等、労働者に不利益がないようしておかなければ、命令が無効とされる可能性があります。

 

2.タイ

(1) 配転に関する規制

タイの法律上、配転に関する見解は一様ではないものの、勤務地の変更や職務の変更の有効性について、①使用者の命令が適法、正当かつ公正であると認められること、②降格ではなく、かつ、賃金、福利厚生が現在のものを下回らないことである場合には、会社は従業員に対する配転を命じることができると、判示した判決があります。

配転命令が違法であると判断されないためには、配転命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

(2) 出向・転籍に関する規制

民商法典577条1項は、「使用者は、労働者の同意を得て、その権利を第三者に譲渡することができる。」と規定しています。

出向や転籍命令については、配転命令と同様に、その有効性が問題とならないよう、出向や転籍命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

 

3.マレーシア

1. 配転に関する規制

配転については、使用者が本来的に当該命令を発する権利を有するものとして、原則として労働者に対して有効に命令を発することができるとされています。ただし、紛争予防のためにも、労働契約書や就業規則において、配転命令に関する条項を明記することが望ましいとされています。

他方、当該配転命令について、不当な目的・理由をもってなされたことが認められる場合には、実質的には降格処分(これにより労働者が退職したような場合には、解雇処分)とみなされ、当該処分において本来的に充足すべき要件が充足しておらず無効とされることがあります。

  2. 出向・転籍に関する規制

異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、原則として労働者の同意が必要となります。

裁判例には、グループ会社のさらに子会社への異動命令の有効性について、①労働契約上、労働者がグループ内の別会社への異動命令を承諾する旨の条項は存在しないこと、②元所属会社と当該グループ会社とが機能的・財政的な統一性を有しているとはいえないこと及び③所属会社と異動先の子会社とでは事業内容が異なっていること等の理由から、当該異動命令は無効である旨を判示しているものがあります。

当該裁判例によれば、グループ会社が所属会社との関係で機能的・財政的な統一性を有している場合又は異動先の事業内容が元所属会社と同一の場合には、当該異動命令が有効と判断される余地も残されてはいます。しかしながら、紛争防止の観点からは、雇用契約中に異動を可能にする条項を盛り込み、さらに異動の際にも改めて労働者の同意を得ることが望ましいと考えられます。

 

4.ミャンマー

⑴ 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法規制はありません。もっとも、労働及び技術向上法に基づくと、雇用契約書に業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています。そのため、これらを変更するためには、雇用契約書内に、使用者の配転命令により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておく必要があります。

(2) 出向・転籍に関する規制

労働法上、出向や転籍に関する明文上の法規制はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく出向や転籍を行うことは無効と解されます。

 

5.メキシコ

⑴ 配転に関する規制

連邦労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、同法では、業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています(25条)。後の紛争を防止するためには、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。

⑵ 出向・転籍に関する規制

出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、同法12条による規制を受ける可能性があります。

同法は、労働者派遣について、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、または提供すること」と示し、原則禁止としています(12条)。

上記の例外として、派遣された労働者が、派遣先企業の事業目的又は主要な経済活動に含まれる業務を行わない場合で、派遣元企業が労働社会保障省への登録を行っている場合には、派遣することも認められています。また、同一企業グループ間で実施される補完的業務の提供についても、この条件が適用されます(12条、13条、15条)。

現在の使用者との労働契約を維持したまま、他の使用者の業務に従事させることは、「自身の労働者を他者のために提供すること」に該当し、同法の規制を受ける可能性があります。

 

6.バングラデシュ

(1) 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、労働規則第19条(4)では、雇用契約書(Appointment Letter)に、所属や職種を明記しなければならない旨が規定されています。後の紛争を防止するためには、配転の可能性がある場合は、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、労働者派遣として、労働法3A条が適用される可能性があります。他方、「派遣会社」とは、労働のための契約に基づき、労働者を供給することを事業目的として登録された会社であると定義されており(労働規則第2条(f))、「出向」は想定していないとも解されます。

なお、2013年労働法改正にて、派遣会社の政府への登録が義務付けられ(労働法第3A条(1))、派遣会社によって派遣される労働者は派遣会社の労働者として同法の規定が適用されると定められています(同条(3))。また、2022年の労働規則の改正により、派遣会社を通じて派遣される労働者の賃金は、正社員として同等の業務に従事する(派遣先の)労働者の賃金を下回ってはならず、その基本給は、派遣会社が(派遣先へ)請求する賃金額の50%を下回ってはならないと規定されました(労働規則第16条)。更に、全ての派遣会社は、「労働者社会保障基金」の名称で銀行口座を開設し、積み立てなければならないと定められています(労働規則第17条)。なお、EPZ労働法において、派遣会社に関する規定は存在しません。

転籍(現在の使用者との労働契約関係を終了させ、他の使用者との間で労働契約関係を成立させてそこでの業務に従事させること)について定めた法令はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく転籍を行うことは無効と解されます。

 

7.フィリピン

(1) 異動・配置転換

フィリピンにおいて、法的には、従業員の異動(Transfer)と配置転換(Reassignment)は同じものとして考えられています。そして、会社による、適法な異動及び配置転換の要件は以下のとおりです。

・勤務を中断することなく、階級や給与が同じ別の職位に移ること

・正当な事業目的のために行われること。異動が差別等に基づいている場合、または十分な理由なく降格等のために行われる場合は、違法となる

・異動が合理的で、従業員にとって不利益でないことを示すこと

(2) 出向

出向とは、従業員が一時的に別の会社で働くことをいいます。フィリピンにおいては、出向元が出向社員の給与や出向に関連するその他の費用を負担することが一般的です。

出向では、出向元との契約が継続しつつ、出向先で勤務することになるため、出向元との契約の継続性が問題なることがあります。判例(Intel Technology Philippines, Inc. v. NLRC G.R. No. 200575, 05 February 2014.)は、この点について、「出向契約等における会社と従業員の関係の継続、または終了は、以下の基準によって判断」するとして、以下の4つの要素を挙げています。

・従業員の選任と採用に対する権限がどちらにあるか

・賃金の支払いをどちらが行うか

・解雇の権限がどちらにあるか

・従業員の行動を管理する会社の権限がどちらにあるか

(3) 人事異動が違法であると判断された場合

配置転換などの人事異動に関して、裁判所は、その異動が合理的で、従業員にとって不利益ではないことを証明する責任が会社にあると判断しています。仮に会社がこの点を証明できなかった場合、その人事異動は退職強要(Constructive Dismissal)であると裁判所によって判断されます。退職強要(Constructive Dismissal)とは、会社が従業員の労働条件を不利なものなどにして、従業員が退職せざるを得ない状況を作り出すことを指します。

会社の人事異動が退職強要に該当した場合、解雇された従業員を同等の職位に復職させるか、復職が不可能な場合は代わりに退職金を支払うことを命じられます。それだけではなく、会社は、違法な解雇に対する損害賠償や弁護士費用に対しても支払いを命じられる可能性があります。

 

8.ベトナム

(1) 配置転換ができる場合

使用者は、以下4つのいずれかの場合に限り、従業員を一時的に他の職種や業務に就かせることができます。

  • 自然災害、火災、危険な伝染病による予期せぬ困難
  • 労働災害または職業性疾病の予防措置および改善措置の実施
  • 電気や水道の不通
  • 業務上および生産上の要求(就業規則に規定する必要があります)

配置転換は、従業員の健康状態や性別の適性を考慮して決定されなければなりません。

(2) 配置転換期間および配置転換通知期間

① 配置転換日数:1年間に最大で60日。

配置転換日数が60日を超える場合、使用者は労働者から書面による同意を得なければなりません。また、労働者は、配置転換日数60日を超える場合、配置転換を拒否することができます。

② 事前の配置転換通知:3営業日以上前。

配置転換通知には、配置転換期間を記載する必要があります。

⑶ 給与および補償

① 配置転換後の職位/職務/業務における新給与

  • 新給与は、配置転換先の職位/職務/業務に基づくものとします。ただし、旧給与の85%以上の額とし、最低賃金を下回らないものとします。
  • 新給与が旧給与を下回る場合、30営業日は旧給与が維持されます。

② 1年間の累積労働日数が60日を超える配置転換を拒否し、休業を余儀なくされた従業員に対して使用者が支払う補償金

使用者は従業員に対して、休業手当を支払う必要があります(労働法第99条)。

 

9.インド

⑴ 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。労働者を配転する使用者の権利は、雇用契約や就業規則に定められた条件から生じると考えられます。裁判所は、使用者による配転の決定が誠実な管理上の理由と業務の緊急性からなされたものである限り、不当なものとは判断しないと考えられています。

⑵ 出向・転籍に関する規制

労働法上、出向・転籍を規制する明文上の法令はありません。異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、新たな雇用主の下での雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

⑴ 配転に関する規制

労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)第12条は、労働者の経験と学歴資格に鑑みて雇用契約で合意した仕事と根本的に異なる仕事を労働者に割り当てることを原則として禁止し、労働者が書面で合意した場合には転配は可能ではあるが、そのために転居を余儀なくされる等のときは、転居や家賃等のあらゆる経費を使用者が負担しなければならないと規定しています。なお、例外的に根本的に異なる仕事への配転が認められるのは、事故防止又は労働者が生じさせた損害の修復のために必要と考えられるもので、年間90日を超えない期間に留まります(連邦労働法施行規則第13条第1項)。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向・転籍については、連邦労働法に規定はありません。雇用契約終了後に労働者は他の使用者と雇用契約を締結できる(連邦労働法第49条)ので、労働者が同意すれば、雇用期間の満了または法定解除事由である双方の書面による合意(第42条第1項)若しくは約定の通知期間を経た解除(同条第3項)または労働者に帰責事由のない解雇(施行規則第27条第1項c号)による雇用契約の終了後に、転籍させることは可能です。他方、使用者には雇用する外国人労働者の就労許可の取得義務があり(連邦労働法第6条第1項)、労働者が元の使用者との雇用契約に基づく労働許可のままで、他の使用者の下で稼働することは原則としてできないため、アラブ首長国内での出向は困難です。ただし、元の使用者で稼働しつつ、他の使用者でも稼働するダブルワークの形態や、本土の使用者の下で働く労働者がフリーゾーン内で稼働する一時的な労働許可をとる等、複数の使用者の下で雇用されることが可能となる場合もあります。

 

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1.日本

(1) 通貨払いの原則

賃金は、「通貨」によって支払わなければなりません(労働基準法24条)。ここにいう「通貨」とは、「通貨の単位及び貨幣の発行に関する法律」に定義されているものをいい、日本円の紙幣(日本銀行券)及び貨幣がこれにあたる一方、外国通貨は含まれません。ただし、「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払方法で厚生労働省令で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い」をすることができると規定されています(同条ただし書き)。

近年、日本では、賃金をデジタルマネー(電子マネー)で支払うことが解禁され、使用者が、労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができることとしました。

(2) 賃金の支払期間に関する規制

支払時期については、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないことが原則とされています(労働基準法24条2項)。ただし賞与等についてはこの限りではありません。

(3) 賃金の控除に関する規制

賃金は、その全額を支払わなければならないことを原則としています。控除が例外的に認められるのは、所得税や社会保険料などの法令で定められているものや、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と労使協定を結んでいる場合に限られます(労働基準法24条1項)。

 

2.タイ

(1) 通貨払いの原則

使用者は、労働者の合意がある場合を除き、賃金をタイの通貨(バーツおよびサタン)で支払わなければなりません(労働者保護法54条)。

(2) 賃金の支払期間に関する規制

賃金計算が、月単位、日単位、時間単位またはその他1 か月を超えない期間単位の場合、または出来高による場合、賃金は、少なくとも月に1 回以上支払わなければなりません。ただし、労働者に利益となるその他の方法について合意がある場合はその限りではありません(労働者保護法70条1項)。

(3) 賃金の控除に関する規制

使用者は、控除が法律上認められているものを除き、賃金から控除を行ってはいけません(労働者保護法76条)。控除が認められるものについては、労働者保護法76条各号に定めがあります。

 

3.マレーシア

1.賃金の支払方法に関する規制

賃金(雇用契約に基づき労働者に対して労働の対価として支払われる基本給及びその他手当ての内、福利厚生、旅費交通費その他雇用法により定められた金銭の支払を除いたものをいいます。)は、原則として労働者が有する銀行口座に振り込む方法により支払われる必要があります(雇用法25条1項)。 例外として、使用者と従業員との間で書面による合意がある場合又は主務大臣の許可がある場合に限り、現金又は小切手による支払が可能となっています(雇用法25条A)。

 2. 賃金の支払期間に関する規制

雇用法は、賃金期間(賃金の支払の対象となる期間をいいます。)は1か月を超えてはならず(雇用法18条1項)、また、賃金は賃金期間の最終日から7日以内に支払わなければならないとされています(雇用法19条)。その結果、使用者は労働者に対し、毎月最低1回は賃金を支払わなければなりません。

また、使用者が労働者に対して賃金を貸金として事前に支払ういわゆる賃金の前借についても、雇用法上一定の規制が存在しています。すなわち、雇用法によれば、不動産の購入費用に充てる目的がある場合その他一定の場合を除き、1カ月分の賃金額を超える額の前借金の提供を行うことはできません(雇用法22条)。

 3. 賃金の控除に関する規制

雇用法によれば、同法で定める場合を除き、相殺等の方法により賃金控除を行うことはできません(雇用法24条1項)。 同法において認められる場合とは、控除を行おうとする日から遡って3か月の間に行われた賃金の過払いが存在する場合、雇用法13条1項に基づき労働者が使用者に対して予告通知なしで雇用契約を終了させる際に発生する補償金を支払う場合、前借金の返済を行う義務がある場合及びその他法令で認められる場合をいいます(雇用法24条2項各号)。

ただし、上記のように賃金控除が認められる場合であっても、原則として1か月間に支払われる賃金の50%を超えて控除を行うことはできないとされています(雇用法24条8項)。当該賃金控除額規制の例外としては、例えば、雇用法13条1項に基づき労働者が使用者に対して予告通知なしで雇用契約を終了させる際に発生する補償金を支払う場合、前借金の返済を行う義務がある場合があります(雇用法24条9項(a)(b))。

 

4.ミャンマー

⑴ 現金払いの原則

賃金は、ミャンマーチャット又は中央銀行が認めている外貨で支払うことが規定されています((賃金支払法3条(a)))。 しかし、例外として、 貿易、製造、顧客サービス、農業などに従事する労働者に対して、指定された利益および機会があった場合は、現金若しくは一部の特定の商品を、従業員の希望する現地価格と同等にして支払うことができる旨規定されています(同条(b))。

⑵ 賃金の支払期間に関する規制

支払いのための合意された期間は、1月を超えることはできません(賃金支払法4条(b))。

従業員100人未満の場合は、締め日の支払い、100人以上の場合は、締め後5日以内の支払いとされています(同条(c))。なお、店舗及び商業施設法が適用される店舗、商業施設の場合は、同法で別途規定されています。労働者が解雇された場合、解雇日から2営業日以内に賃金を支払う必要があります(同条(d))。

⑶ 賃金の控除に関する規制

賃金支払法で規定された事項に関する控除以外の賃金からの控除は禁止されています(賃金支払法8条)。したがって、賃金から控除を行う場合、法律上規定された事項に該当するか確認した上で行う必要があります。

 

5.メキシコ

⑴ 現金払いの原則

賃金の支払いは、現金が原則となり、商品やバウチャー、その他の支払いは禁止されています。また、支払方法は労働者との合意を前提に、銀行振込みやその他電子的方法による支払いが認められていますが、これに伴う手数料の費用は使用者が負担しなければなりません(連邦労働法84条・101条・108条・109条)。

⑵ 賃金の支払い期間に関する規制

賃金の支払いは、工場の工員や現場作業員といった労働者(trabajo material)の場合は1週間ごとに、その他の労働者の場合は15日ごとに行わなければなりません(連邦労働法88条)。したがって、メキシコの給料日は原則として月に2回となり、現場作業に従事する労働者を抱える企業では月に4回となります。賃金の支払いは、労働者が労働を提供する場所で、勤務時間中または勤務終了後直ちに行わなければなりません。

⑶ 賃金の控除に関する規制

賃金からの控除は以下の場合を除き、禁止されています。

・使用者が支払うべき予想賃金の残高の払い戻しをする場合。

・計算ミスが発生し、使用者が過払いをした場合。

・使用者が商品を購入した場合。

・結果として生じた残高が、手違いや、備品の置き忘れ、ミスの結果である場合。

・組合への支払い、扶養費、養育費など、裁判所の判決等により支払いが義務付けられている場合。

賃金を控除するすべての場合において、賃金の控除は書面で保証されなければなりません。

また、いかなる場合も、1カ月分以上の給与を控除することはできません(連邦労働法110条)。

 

6.バングラデシュ

賃金の支払いに関する規定は、バングラデシュ労働法(以下「労働法」という)及び輸出加工区労働法(以下「EPZ労働法」という)にて定められており、大きな違いはありません。以下の記載は、特に断りがない限り、労働法及びEPZ労働法に共通する規定です。

1.現金払いの原則

労働法及びEPZ労働法では、すべての賃金はバングラデシュ通貨タカの現金又は銀行小切手によって支払われるものと規定し、労働者から要請があれば、銀行振込みによる支払いを認めていますが、2023年所得税法にて、賃金の支払いは、銀行振込などの電子決済によるものと義務づけられました。

 2. 賃金の支払い期間

賃金計算期間は1ヶ月を超えてはならず、賃金は、締め日から7日営業日以内に支払われなければなりません。

 3. 賃金控除

労働法では、同法にて定められる項目以外を賃金から控除することはできません。基本給からの控除ができる項目として、罰金(制限あり)、無断欠勤、労働者の怠慢による損失、使用者により支給されている住居、政府が認める使用者が支給する設備、前払いや賃金の過払いの調整、所得税、裁判所による命令、積立基金の積立金、労働組合費等が挙げられています。

EPZ労働法では、基本給からの控除が可能な項目として、積立基金への積立金又は前借りの返済、労働組合費、無断欠勤による控除が定められています。

 

7.フィリピン

(1) 賃金の現金払いの原則

労働法は、たとえ従業員が現金以外での賃金の支払いを明示的に要求していたとしても、会社による現金以外での賃金の支払いを基本的に禁止しています。例外的に、一定の条件に下では小切手等での支払いも認められています。この規定に違反した場合、会社は賃金を支払っていたと認められないことになります。

(2) 賃金の支払い期間

労働法上、会社による賃金の支払いは16日を超えない間隔で支払い必要があります。つまり、会社は月に2回以上賃金を支給する必要があります。不可抗力等の事情により、会社はこの期間に賃金を支払うことができない場合は、そのような事情が解決した後、直ちに賃金を支払う必要があります。

(3) 賃金の控除

労働法は、会社による賃金の控除を基本的に禁止していますが、例外的に以下の場合において会社は賃金の控除を行うことができます。

・会社が従業員の同意を得て保険に加入しており、その保険料を補償するために控除する場合。

・以下の場合における組合費の控除。会社がチェックオフの権利を認められている場合。チェックオフとは、労働組合との協定に基づき使用者が組合員の賃金から組合費を控除して、それらを一括して組合に引き渡すことをいいます。また、従業員が組合費の控除を書面で同意している場合もこの控除が認められます。

・法律や規則により控除が認められている場合。この例としては、withholding taxの控除や相殺が挙げられます。日本では、会社が従業員に債権を有していても賃金を相殺することはできません。他方で、フィリピンの法律では、会社は従業員に対して有する債権を賃金と相殺することができます。

(4) その他の規制

賃金に関する行為で、労働法が明確に認めていないものとしては、例えば以下の行為が挙げられます。

・賃金の支払いの全部または一部の差止め

・賃金の一部または全部を放棄するよう従業員に迫ること

・雇用の約束または雇用維持の対価として、会社等の利益ために賃金を控除すること

 

8.ベトナム

賃金は、労働者にとって最も基本的な給付であり、現行の労働法における重要ポイントの1つでもあります。以下に、賃金支払いに関するいくつかの重要な規定を記載します。

(1)賃金支払いの原則

現行の労働規定では、使用者は労働者に対し、給与を直接、全額かつ適時に支払うことが義務付けられています。例外的に労働者が直接給与を受け取ることができない状況においては、使用者は法的に認可された者に相当額を支払うことができます。労働者の給与の使い道に干渉したり制限を加えたりすることは禁じられています。

労働者の報酬は、契約、労働者の職務遂行能力、および遂行された職務の質によって決定されます。労働者と使用者は、現金支払いか銀行振り込みか、給与の支払い形態は時間給、出来高給(出来高払い)、固定給かを決定することができます。なお、外国為替管理規制により、ベトナム国内で支払われる給与はベトナムドン(VND)で支払わなければなりません。ただし、労働者がベトナムで合法的に雇用されている外国人の場合、彼らに支払われる給与は外貨で支払うことができます。

(2)賃金支払期間に関する規定

賃金支払期間に関しては、以下の状況に分けられます。

・時間給、日給、週給を受け取る労働者:賃金支払期間は、それぞれ労働時間、日、週の終了後ごと、または労働者と使用者の合意により合計額が15日以内に支払われます。

・月給または隔週給を受け取る労働者:賃金支払期間は、それぞれ月ごとまたは隔週ごとです。支払時期は定期的であり、労働者と使用者が合意します。

・出来高払いの給与を受け取る労働者:賃金支払期間については、製品の量と質、生産性基準、および製品単価に応じて、労働者と使用者が合意します。ただし、1ヶ月以内に仕事を完了できない場合、労働者は、その月の作業量に基づき、毎月前払金を受け取る権利があります。

・固定給を受け取る労働者:賃金支払期間については、仕事の量と質、および仕事の完了に必要な時間に応じて、労働者と使用者が合意します。ただし、1カ月以内に仕事を完了できない場合、労働者はその月の作業量に基づき、毎月前払金を受け取る権利があります。

賃金が全額または期限内に支払われない場合、労働者に事前通告なしに一方的に労働契約を解除する権利を有します。不可抗力により使用者が給与の全額を期限内に支払うことができない場合、使用者は当初の支払日から30日以内に賃金支払義務を履行する権利を有します。さらに、賃金支払いの遅延が15日を超えた場合、使用者は労働者に未払い賃金の利息を支払う必要があります。

(3)賃金控除に関する規制

使用者は、賃金の支払い前に、労働者の給与から以下の金額を源泉徴収することができます。

・個人所得税:この金額は、労働者に代わって所轄税務当局に納付されます。

・強制社会保険:管轄社会保険機関に提出される定期保険料は、法定比率に従って労働者と使用者が拠出します。これは、管轄社会保険機関に対する労働者負担割合といわれています。

・労働組合費:労働組合員である労働者に代わり、主要な労働組合または直上の労働組合に支払われます。

・使用者の財産(設備および/または資産を含む)に対する損害賠償((i)使用者の財産に損害を与えた労働者、(ii)使用者の財産を紛失した労働者、(iii)許容限度を超えて材料を消費した労働者にのみ適用される):控除額の上限は、強制社会保険および個人所得税を支払った後の労働者の純月給の30%とされています。

したがって、使用者は、賃金支払いの詳細(基本給、時間外手当など)や控除額を記載した給与明細を労働者に渡すことが法的に義務付けられています。

 

9.インド

賃金の支払方法については、賃金支払法(The Payment of Wages Act, 1936)に規定されます。

⑴ 現金払いの原則

全ての賃金は、現行の硬貨若しくは紙幣で支払われるか、又は小切手若しくは労働者の銀行口座への送金により支払われなければなりません(賃金支払法6条)。

⑵ 賃金の支払い期間

賃金支払の責任を負う使用者等は、賃金を支払う機関を定めなければならず、賃金支払期間は1カ月を超えてはなりません(賃金支払法4条(1))。賃金が支払われる期間の末日から1,000人未満の労働者が雇用される施設では7日以内、それ以外の施設では10日以内に賃金が支払われなければなりません(賃金支払法5条)。

⑶ 賃金控除

賃金支払法において認められたものを除き、賃金からはいかなる種類の控除も認められません(賃金支払法7条(1))。罰金、欠勤による控除、保管を委託されたものを債務不履行により損失した費用、社宅費用、所得税、年金、裁判所の命令に基づく控除、積立基金、労働組合費などが認められています(賃金支払法7条(2)。原則、控除は、賃金の50%が上限となります(賃金支払法7条(3))。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

⑴ 賃金の支払方法

人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」といいます。)に登録する私企業は、賃金を、賃金保護システム(Wage Protection System。以下「WPS」といいます。)またはMoHREが承認したその他のシステムを通じて支払わらなければなりません(2021年連邦令第33号(以下「連邦労働法」といいます。)第22条第2項、連邦労働法施行規則第16条第1項)。

WPSはUAE中央銀行によって運営されていて、労働者は、WPSを通じて、雇用契約で特定された賃金支払対象期間が終了した翌月1日に(特定されていない場合、最低月に1度)、UAE中央銀行により認められた金融機関の口座で、賃金を受け取ります(賃金保護システムに関する2022年省令第598号(以下「WPS省令」といいます。)第1条1項)。

ただし、労働者のうち、賃金関係の労働争訟が係属している者、行方不明が報告されている者、支払期限から30日経過していない新規採用者、無給休暇中の者、航海中の船員、外国企業・支店の従業員で賃金を国外で受け取ることに同意した外国人労働者は、WPSの対象とはならず(WPS省令第5条)、使用者のうち、UAE国民により所有されている漁船及び公共タクシー、銀行、宗教機関についてもWPSから除外されます(WPS省令第6条)。

支払通貨はUAEディルハムとされますが、労使間で雇用契約においてその他の通過での支払いに合意することができます(連邦労働法第22条第3項)。

支払期限から15日以内に賃金を支払わなかった場合、遅延とされます(WPS省令第1条2項)。賃金未払いが継続する場合、使用者につき、延滞17日目には新たな就労許可の発行が中断される他、50人以上を雇用する企業については、警告や法的措置が取られることとなります(WPS省令第2条)。6月以内に2度違反した場合には、労働者1名あたり1000UAEディルハム(最大2万UAEディルハム)の過料に科せられます(2020年内閣令第21条)。ただし、賃金受領可能従業員の総賃金の80%が支払われたときは、賃金支払義務を遵守したものとみなされます(WPS省令第3条第1項)。

⑵ 賃金からの控除

賃金から控除することができるのは、①社内貸付の無利子返済、②月給の20%を超えない範囲の過払金、③法定の退職年金及び保険掛金、④社内積立基金への貯蓄または返済、⑤労働者が書面で同意し、MoHREが承認した使用者が提供するその他の恩恵、⑥賃金の5%を超えない範囲での、MoHREが承認した社内罰則規定に基づく労働者の違反に対する罰金、⑦賃金の4分の1を超えない範囲の判決に基づく債務(扶養料については4分の1以上も可)、⑧1月当たり5日分の賃金を超えない範囲での、使用者の指図に反し、または労働者の過失により、損壊した使用者の道具等の修繕費、と規定されています(連邦労働法第25条第1項)。賃金から控除または源泉される複数の事由がある場合には、控除及び源泉は、賃金の50%を超えてはなりません(同第2項)。また、連邦労働法・同施行規則等の規定への労働者の違反に対する懲罰の一環として、使用者は月に5日分を超えない範囲で給与を減額することができます(連邦労働法第39条1項c号)。

 

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1.日本

退職後の競業行為の禁止は、退職者の職業選択の自由を制限する措置であるため、合理的な範囲内に限って有効性が認められると解されています。

合理性の判断基準としては、「退職後の秘密保持義務が合理性を有することを前提として……期間、区域、職種、使用者の利益の程度、労働者の不利益の程度、労働者への代償の有無等の諸般の事情を総合して合理的な制限の範囲にとどまっていると認められるときは、その限りで、公序良俗に反せず無効とはいえない」とした裁判例があります(東京地判平成15年9月19日。ダイオサーズサービシズ事件)。

競業避止義務の合理性については様々な要素を総合的に考慮して判断されるため、その有効性が認められるかはケースバイケースとなりますが、制限される職種や期間・地理的範囲等を最小限のものにとどめておくことや、一定の代償措置を設けておくこと等が重要であるといえます。

 

2.タイ

労働者保護法14/1条は使用者と労働者との間の雇用契約、就業規則等について、裁判所は、公平かつ適切な場合に限って有効とするよう命ずる権限を有する旨を定めています。

また、不公正契約法5条は、職業を営む上での権利・自由等を制限する合意は無効ではないが、権利・自由を制限される者が通常予期される以上の拘束を受ける場合には、正当で適当な部分に限って有効性が認められる旨を定めています。そして同条は、通常予期される以上の拘束といえるかを判断するにあたっての考慮要素として、①権利・自由の制限の場所及び期間の範囲、②権利または自由の制限を受ける者が、他の形で職業に就くまたは契約を締結する能力及び機会を有しているか等を掲げています。

これらのことから、競業避止義務については、その制約が合理的なものにとどまっていなければ無効とされる可能性があります。より具体的には、就業が制限される業務範囲や、制限される業務の地理的範囲・期間が明確で合理的であることや対象者の就業機会が確保されていることが重要です。

どのような内容であれば合理的であるといえるかはケースバイケースですが、最高裁の判例では、競業避止義務が課される期間について、2~5年の期間の有効性が認められた例が見られます。

 

3.マレーシア

マレーシアでは、契約法(Contract Act 1950)第28条により、合法的な職業、商取引その他のあらゆる種類のビジネスの行使を拘束する合意については原則として無効であるとされています。

このことから、雇用契約終了後に、従業員に対して競合他社と働くことを禁止する旨の競業避止義務条項についても、同条により無効であると解されています。なお、競業避止義務条項には、会社の事業戦略や営業秘密が競合他社に流出することを防ぐという会社利益保護の要素がありますが、マレーシアでは当該利益については、従業員に対して退職後に会社情報に関する守秘義務を課すことにより、その保護が図られるべきであるという考え方が一般的です。

もっとも、従業員に対して、雇用契約が継続している間の競業避止義務を負わせることは有効であると解されています(Sdn Bhd v Hillary Ang & Ors (collectively known as “The Search”) &Anor [1994] 3 CLJ 806)。

 

4.ミャンマー

1.競業避止義務の法規制

ミャンマーにおいては、競業避止義務の有効性について明記した法令は存在しません。関連する法令としては、ミャンマーの契約法において、合意の約因又は目的は、法令上に規定する場合を除いて、合法とされる旨の契約自由の原則が規定されています(契約法23条)。合意が無効とされる場合として、「合法的な専門性の行使、取引の実施または事業の運営を制限する合意」が規定されています(契約法27条)。競業避止義務はここで規定されている「合法的な専門性の行使、取引の実施または事業の運営を制限する合意」に該当する可能性があります。なお、競業避止義務の有効性に関する判例等は確認できません。

  2. 実務

実務上は、全従業員に対して競業避止義務を課すというのは一般的ではありません。マネージャー等の一定程度会社の守秘情報を知ることができる職位の者に対してのみ課す会社が多いと思われます。また、その場合も、無制限に競業避止義務を課す場合には前述した合意が無効とされる場合に該当する可能性が高いため、期間やエリア等の制限を明確化し、かつ、それに伴う代償措置等を含めて規定することが多いです。

 

5.メキシコ

メキシコにおいて、会社と取締役や従業員の関係における競業避止については、明示的に規定する法律はありません。

メキシコにおいては、就業および職業選択の自由はメキシコ合衆国憲法(Constitucón Política de los Eestados Unidos Mexicano)5条に保障される基本的人権と考えられていることから、競業避止義務を課すことはできないとの考えが一般的のようですが、雇用契約書や退職合意書において、退職後の競業避止義務を規定するものも見受けられるのが現状です。ただし、競業避止義務の規定には配慮が必要と考えます。当事者が合意できれば、単に抑止力として規定を設けることも考えられますが、違反時に制裁金を科す規定を設けるなど、真の意味で労働者に競業避止義務を課すような場合は、相当の対価を求められることも予想され、その支払についても検討する必要がると考えます。

なお、秘密保持の観点からは、連邦産業財産権保護法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)において、「営業秘密」が定義され、その漏えい等の侵害行為が行政違反や犯罪として規定されています。また、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)においては、機密事項の厳重管理が労働者の義務として規定されており、機密事項が漏えいされた場合は、使用者が責任を負うことなく当該労働者を解雇できることとされています。更に、一般商事会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles)においては、取締役(Administradores)に対して、会社の機密事項についての守秘義務を任期中および任期終了後1年間課しています。このように法による保護が図られている観点から、競業避止義務を課すことが不当と主張される場合もあるようです。

 

6.バングラデシュ

1. 法的枠組み

競業避止義務の有効性は、契約法(Contract Act 1872)第27条の例外規定に該当するか否か、という点で判断されます。

同条は、合法的な職業、取引、またはビジネスを行使することを制限する合意、条項は、その範囲で無効である、と規定しています。本条文により、貿易又は事業活動を妨げる契約は法的強制力がないと解釈されます。本条には例外が定められており、設定された制限が、事業の性質および関連要因を考慮して、裁判所によって合理的であると見なされる場合は、有効で執行力がある契約と扱われます。

同条は営業権を対象としていますが、雇用契約における競業避止義務も対象になると解釈されています。

 2. 競業避止義務の有効性の判断要素

競業避止義務の合理性に関する判断要素は、期間(特段の事情がなければ6から12か月程度が目安です)、地理的範囲、同様の事業活動に従事する従業員の能力に課せられる制限の範囲に関する条項の合理性、雇用主のビジネス上の正当性、そして、その制限の対価として従業員が適切な報酬又は対価を受け取っているか否かなどの要素が挙げられます。

従業員に対する報酬は、金銭的または非金銭的な性質を持つことができますが、その額は、市場原理からみてある程度合理的なものでなければなりません。

競業避止義務は、契約条件の明確さ、相互理解を確保するため、両当事者が署名した書面による契約で明示的に記載しなければなりません。

バングラデシュでは、労働者保護の意識が強く、競業避止義務の規定の有効性が否定される可能性は低くありません。そのため、同規定が無効と判断される場合に備え、機密情報や企業秘密の保護を目的とした別途秘密保持契約を締結する必要があります。

 

7.フィリピン

⑴ はじめに

競業避止義務は、基本的には当事者が自由に条件を定めることができます。したがって、競業避止が課される期間、競業避止義務の対象となる事業の範囲や、違反した場合の罰則等は当事者間で自由に決定することができます。

⑵ 重要な判例

他方、公序良俗に反すると判断される内容の義務を設定した場合、裁判所が効力を否定する場合があります。裁判所は、①競業避止義務の期間②地理的範囲③競業避止義務の対象となる事業の範囲④競業避止義務を負う従業員が有する情報や知見といった要素を勘案して判断しているものと考えられています。

ⅰ) G. MARTINI (LTD.) v. J. M. GLAISERMAN, G.R. No. L-13699 November 12, 1918

この事件において、従業員の競業避止義務の期間は退職後1年間とそう長くありませんでしたが、競業避止義務の対象は会社が行っていた事業全部と設定されていました。当該会社は広く複数の事業を行っていましたが、従業員は、会社の一部の事業のためのみに雇用されていました。結果として、裁判所は、制限の範囲が広範すぎるとして競業避止条項の全体の効力を否定しました。

ⅱ)ALFONSO DEL CASTILLO v. SHANNON RICHMOND G.R. No.L-21127 February 9, 1924

この事件において、裁判所は、競業避止義務の範囲に、時間または場所のどちらかに制限が付されている場合で、従業員に課す義務が会社の利益保護のために必要な範囲を超えない合理的な内容である場合には、競業避止義務の規定は有効であると判示しました。この判例は、競業避止義務の有効性の判断基準を示したものであると考えられます。

ⅲ)Tiu v. Platinum Plans Phil., Inc., G.R. No. 163512, February 28, 2007

他の裁判例と同じく、競業避止義務は時間、範囲等に関して合理的な制限であれば有効であると判示しました。本件での競業避止義務条項は、その期間を2年間に限定していました。また、競業避止の対象となる取引に関しても、会社が行っている特定の事業に限定していました。

さらに、裁判所は、重要な事実として、従業員は部長という重要な役職であり、当該事業における機密性の高い情報を有していると認定しました。そして、裁判所は、当該従業員が退職後すぐに当該事業に従事することを認めれば、会社の企業秘密が危険にさらされると判断しました。

結果として、裁判所は、当該事業への参画を制限することは合理的であると判示しました。

 

8.ベトナム

ベトナム憲法には、全ての市民は職業、仕事、および勤務場所を選択する権利を有する(35条1項)と規定されています。この原則に基づき、労働法1条10項では、労働者は自由に職業を選択する権利をもち、法律で禁止されていない限り、あらゆる場所において自由に仕事と雇用主を選択する権利があると明記されています。同様に、雇用法6条9項でも、労働者の合法的な権利や利益を妨害したり、困難に陥れたり、損なったりする行為を厳しく禁じています。したがって、使用者は労働者に対し、競合企業で働くことを禁止することはできないと考えられています。

ただし、労働者が使用者の営業秘密や技術秘密に直接関係する業務に従事する場合、使用者はその労働者との間で、営業秘密や技術秘密の保持やこれに違反した場合の賠償義務について書面で合意することは可能とされています(労働法21条2項)。

なお、ベトナムでは、競業避止義務契約(Non-Competition Agreement、以下「NCA」)に関する具体的な規定がなく、ベトナムの法律実務におけるNCAの有効性については多くの意見が対立しています。また、ベトナムの法令には、ある企業と企業が競合関係にあるか否かを判断するための具体的な基準もありません。

したがって、使用者と労働者の間でNCAを締結する場合、少なくとも以下の点に留意する必要があります。

i) 使用者と労働者との間で、労働契約とは別にNCAを締結すること。

ii) NCAの有効期間と適用範囲を合理的な水準に設定すること。

iii) NCAの内容は、使用者と労働者の権利と義務のバランスを考慮した合理的なものになるようにすること。

iv) NCA違反に対する制裁規定については、労働者が競合企業で働くことを完全に禁止するようなものとはしないこと。

 

9.インド

インドでは、1872年契約法(THE INDIAN CONTRACT ACT, 1872)27条に競業避止義務に関する規定があります。

契約法27条は、「ある者が合法的な職業、取引、又はあらゆる種類の事業を行うことを拘束されるあらゆる合意は、その限りにおいて無効である。」と規定しています。同条に基づき、裁判例では、契約期間中の競業避止義務は有効であるが、契約期間終了後の競業避止義務は原則として無効であると解釈されています。したがって、雇用契約終了後に従業員に対して競合他社において働くことを禁止する旨の条項は無効であると解されます。

また契約法27条は、あらゆる種類の取引を制限する合意を無効とするものであり、その対象は雇用契約に限られません。そのため、代理店契約における競業避止義務についても、代理店との契約終了後に競合他社との間での取引を制限する旨の合意は同条に基づき無効と解されます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

1.競業避止に関する規制

民事取引及び手続法(1985年連邦法第5号)第909条が一般規定として、労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法施行規則(2022年内閣決定第1号。以下「施行規則」といいます。)が競業避止の規制の詳細につき規定しています。

使用者は、顧客情報または営業秘密を知りうる労働者に対して、雇用契約終了後に、使用者と競業し、または同一分野での競業する案件に従事しないように求めることができますが、競業避止規定は、使用者の適法な事業利益を保護するために必要な範囲において、地理的範囲、雇用契約終了後2年以内の期間、適法な事業利益に甚大な損害を与えうる事業の性質を制限的に特定したものでなけれればなりません(連邦労働法第10条第1項。施行規則第12条第1項)。また、契約違反等使用者が責めを負う事由により労働契約が解除された場合には、競業避止規定は無効となり(連邦労働法第10条第3項、施行規則第12条第3項)、出訴期間は、競業避止義務違反を発見してから1年に限定されます(連邦労働法第10条第2項)。更に、契約終了時に競業避止義務規定を適用しないことにつき、労使間が書面で合意することが可能で(施行規則第12条第4項)、①労働者またはその新たな雇用者が従前の使用者に対して最後の契約で合意された労働者の3か月分を越えない金額を支払い、従前の使用者が書面で同意した場合、②試用期間中に雇用契約が解除された場合、③労働相決定によって定められた国家労働市場において需要がある専門職種の場合には、競業避止義務を負いません(施行規則第12条第5条)。

  2. 競業避止義務の履行

労働者が書面で同意する場合には、契約解除時に競業避止義務について合意することも可能ですが、基本的に雇用契約において競業避止事務を規定しておくことが肝要です。営業秘密等に接することのできる従業員しか対象になりません、また、競業の範囲や期間等を特定する必要があること、義務違反および損害の立証責任は使用者側が負うことから、事業利益への損害発生を念頭に競業避止義務を抑制的かつ限定的に規定していなければ、無効と判断され、履行が認められない可能性があります。特に、労働争議となった場合には時間と費用を要することとなり、仮差し止めの処分による損害の拡大防止を図ることも困難で、損害賠償が認められることも容易ではありません。

 

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1.日本

(1) 賞与の法的性格

賞与については、その支払いの有無や金額が、まったく使用者の裁量に委ねられているものは、単なる恩恵的給付であり賃金には当たらないと解されています。

他方で、就業規則等において、支給基準等が定められている場合には、労働の対償としての賃金であり、所定の支払基準等の下で使用者に支給義務があるとされます。この点、労働基準法11条も、賃金の定義について「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」としているところです。

賞与については、ほとんどの企業において給与規定等に賞与制度が定められていることが通常であり、恩給的給付として解し得る賞与は実際には稀であると考えられます。

(2) 賞与の支給日在籍要件について

賞与については、査定対象期間の一部または全部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱い(支給日在籍要件)をする例も珍しくありません。通常の賃金であればこのような取扱いは許されないところ、賞与が賃金であるならば、賞与の支給日在籍要件は有効といえるのでしょうか。

この点、裁判例では、支給日在籍要件を有効とする例が複数見られます。退職日を自ら選択できる自主的退職の事案で支給日在籍要件を有効としたものとしては、最高裁昭和57年10月7日判決(大和銀行事件)等があります。また、退職日を自ら選択できない定年退職の事案で有効性を認めた東京地裁平成8年10月29日判決(カツデン事件)等の例もあります。現実にも多くの企業では、就業規則等に支給日在籍要件を定めています。

 

2.タイ

(1) 賞与に関する規制

日本では賞与が賃金としての性格を有するのに対し、タイでは、賃金を、時間、日、週、月その他の「通常の労働時間」の労働の対価と定義しており(タイ労働者保護法5条)、賞与は「通常の労働時間」の労働の対価ではないため、賃金には含まれないとされます。

また、タイの労働者保護法には、賞与に関する明文規定はありません。

ただし、実際には、雇用契約や就業規則等で賞与について定めている企業は珍しくなく、雇用契約や就業規則の内容は労働条件となる以上、賞与について定めた場合には、それに従わなければなりません。

(2) 賞与制度の運用

先述のとおり、賞与について具体的な法的規制等はないため、支給時期や支給額の定め方等は企業によって様々であると考えられます。支給時期については12月とするものが多いほか、年に2回支給する例もあります。支給額については企業や業種、年度等によって様々であり、業績変動型の仕組みを取り入れている例もあります。

 

3.マレーシア

1.賞与に関する規制

マレーシアには賞与に関する法的規制は存在せず、当事者間での合意がない限り、使用者が賞与の支払が義務付けられることはありません。雇用契約又は就業規則において賞与の支払を明示した場合には使用者に契約上の支払義務が生じます。

 2. 賞与の一例

賞与を支払う旨の取り決めがある場合、一般的に、「〇か月分」等の形で金額を明示することは行わず、雇用契約又は就業規則には「業績・成績に応じて支払う」旨の記載に留めることが多いと思われます。

 

4.ミャンマー

1.賞与の法規制

ミャンマーにおいては賞与の法的規制は存在しません。したがって、支給するか否かは会社次第となります。もっとも、雇用契約書または就業規則等で賞与を支払う旨を規定している場合には、会社としては支払い義務が存在することとなります。

 2. 賞与の支給時期

賞与の法的規制は存在しないため、支給時期に関する法規制も存在しません。しかし、支給する場合には、一般的には、会計年度が4月1日~3月31日であることや4月上旬に水かけ祭りという長期の祝日(現地の正月)があることから、3月末頃に支給する会社が多いと思われます。

 

5.メキシコ

(1) 概要

賞与を「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるも」とすると、メキシコにはこれに該当する規定はありません。しかしながら、労働者の勤務成績に関係なく、月々の給与とは別に年に一度支給しなければならない「Aguinaldo(アギナルド)」という制度が、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に規定されています。アギナルドはクリスマスボーナスや法定ボーナスと翻訳されています。このほか、賞与を「給与とは別に支給される一時金」と考えると、会社の業績が良く、利益が生じた場合にその一部を従業員で分配する制度「PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)」という制度も規定されています。

(2) アギナルド(Aguinaldo)

アギナルドは、出費の重なる12月の祝祭のシーズンに労働者の支出を賄えるよう支給されることを目的とされ、最低15日分の賃金相当額が支給されなければなりません。その支給時期は、毎年12月20日までとされています。会社の業績や労働者のパフォーマンスなどに関係なく、至急が義務付けられています。

労働者の勤務期間が1年に満たない場合は、勤務期間に応じた割合の額を支払うこととなります。また、労働者が支払日より前に退職した場合は、その退職時に勤務日数に応じた割合の金額を支払わなければなりません。

(3) PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)

PTUは、労働者に対して一定の割合により会社の利益を分配する制度です。この割合は2024年時点では10%となります。つまり、単一課税年度所得に一定の調整を加えた額の10%を当該事業年度に在籍した労働者に分配することとなります。なお、当該労働者には、取締役や執行役、支配人といった業務全般を管理する役員は含まれず分配の対象とはなりません。また、労働者が受け取るPTUの額が、当該労働者の3カ月分の給与額又は過去3年間に受け取ったPTUの額の平均額のいずれか高い額を超えたときは、これが上限となります。

 

6.バングラデシュ

1.法規制の有無

バングラデシュには、2015年バングラデシュ労働規則(以下「労働規則」という)、2019年EPZ労働法及び2022年EPZ労働規則(以下、それぞれ「EPZ労働法」「EPZ労働規則」という)において、賞与に関する規定があります。

①法規制の内容

1.労働規則

 労働規則第111条(5)によると、1年間勤続した労働者には、年に2回のフェスティバルボーナス(festival bonus)を支給しなければならず、かかるボーナスは基本給月額を超えてはならないと規定されています。ただし、金額については、労働者側が基本給月額以上を要求してはならないと解釈されており、企業側がその金額を超えることは認められます。また、3回以上のボーナスを支給することも認められます。

 2. EPZ労働法、EPZ労働規則

EPZ労働法第53条(4)によると、雇用主または雇用主が承認した者は、無期雇用労働者に対して、暦年あたり、基本給2か月分に相当するフェスティバルボーナスを、宗教的祭りの期間に支払うと規定されています。EPZ労働規則第166条では、イスラム教徒の労働者に対して、イード・ウル・フィトル(Eid-ul-Fitr いわゆる「断食明けの祝祭日」 2024年の場合4月11日)の際に1回支払われ、イード・ウル・アズハ(Eid ul-Adha いわゆる「犠牲祭」。イード・ウル・フィトルの2,3カ月後)の際に、2回目のフェスティバルボーナスが支払われるものとしています(第166条(2))。イスラム教以外の宗教またはコミュニティの労働者は、雇用主または工場経営者に対し、宗教祝祭について書面にて通知しなければならず、それに応じて、暦年で2回の主要な宗教祝祭の際に、フェスティバルボーナスが支払われるものとされています。ただし、労働者が宗教祝祭を指定しなかった場合、第166条(2)に従って、イード・ウル・フィトルとイード・ウル・アズハの宗教祝祭に、フェスティバルボーナスが支払われることとされています(第166条(3))。各フェスティバルボーナスは、基本給の1か月分に相当するものとします(第166条(4))。

  3. 運用の実情

各フェスティバルボーナスはイスラム教の祝祭である、イード・ウル・フィトル、イード・ウル・アズハの前に支払われることが一般的です。ただし、上述の通り、労働者が別の宗教の場合で、他の宗教祝祭を指定した場合には、別日を祝祭日に指定することもできるとされておりますので、その配慮も必要となります。支払日は祝祭日の10日~15日ほど前、支払額は労働者の基本給1か月分とするのが一般的な運用です。

いわゆる日本で想定される賞与とは性質が異なり、フェスティバルボーナスは、業績や各人の功績に応じて支払われるものではなく、労働者に一律に一定額が支払われるものとして受け入れられています。

 

7.フィリピン

第1 会社は原則としてボーナスを支給する義務を負わない

フィリピンにおいて、ボーナスの支給に関するルールはありません。そのため、ボーナスを支給するかどうか、支給する条件、金額については会社が決定することができます。したがって、会社は原則としてボーナスを支給する義務を負いません

第2 会社がボーナスを支払う必要がある場合

上記の通り、会社は基本的にボーナスを支払う必要がありませんが、例外的に、たとえば判例は以下の場合にはボーナスを支払わなければならないと判示しています。

1. ボーナスが従業員の賃金の一部である場合

ボーナスが従業員の賃金等の一部である場合には、会社はこれを支払う義務があります。そして、ボーナスが賃金等の一部であるかについて、判例は、その支払いの状況と条件によって異なると判示しています。

さらに、判例は、ボーナスが賃金等の一部となる場合について、たとえば、会社が事業の成功や生産量の増加など条件を課すことなく支給することを認めた報酬である場合は、このような報酬は賃金等の一部であるとしています。他方で、これらの条件が達成された場合にのみ支払われる場合には、それは賃金等の一部とみなされない、つまりボーナスに該当するとしています。

2. ボーナスが会社と従業員を代表する労働組合との間の団体協約(Collective Bargaining Agreement)に組み込まれている場合。

団体協約は会社と労働組合の間の契約上の取り決めです。ボーナスが団体協約に組み込まれている場合、これは会社が遵守しなければならない契約上の義務となります。

3. ボーナスが会社の慣行として定着したとき。

会社の慣行として定着している場合、ボーナスは従業員への福利厚生となります。そして。そして、福利厚生を減らすには労働法の条件を遵守する必要があるため、ボーナスが福利厚生となった場合には労働法に従って支給する必要が生じます。

そして、以下の場合においてボーナスは慣行であると認められます。

①長期間にわたって支給されていること。たとえば判例は2年間を「長期間」であると判断しています。

②会社によって継続的(consistently)かつ意図的(deliberately)に与えられていること。なお、ボーナスの提供がいかなる法律や規制によっても義務付けられていないことを会社が認識していることを示す必要があります。

 

8.ベトナム

現行法では、一般労働者については労働法第104条に、公営企業で働く労働者については政令51/2016/ND-CPに、芸術、スポーツ、海上運送、航空輸送分野の労働者については労働法第166条に、それぞれ賞与に関する規定が置かれています。このうち、一般労働者の賞与に関する労働法104条には、

1. 賞与とは、使用者が、労働者に対し、生産・経営の結果、労働者の業務の完遂の程度に 基づき支給する金員、財物その他の形式のものをいう。

2. 賞与規程は、使用者が、基礎レベル労働者代表組織がある場合は基礎レベル労働者代表 組織の意見を参考にしたうえで決定し、職場において公開、周知するものとする。

と規定されています。この規定を前提として、一般労働者の賞与に関しては、次のとおり取り扱われるものとされています。

  • 賞与支給義務の有無:法律で使用者に義務付けられているものではありません。
  • 賞与規定の要否:賞与を支払うこととする場合、使用者は、どのような方針、基準で支払うかについて文書化し、全労働者に周知する必要があります。但し、「賞与規定」のような特別の規定を作成する必要はなく、例えば、労働契約書に定めることも可能です。
  • 賞与の形態:現金だけでなく、会社が製造・加工・生産する製品や商品、有価証券(ESOPプログラム)、買い物券、クーポン券などの現物支給も可能です。
  • 賞与支給時期:使用者が決定することができますが、実務上は、 (i) テト休暇の直前に「13か月目の給与」として年に1回支給する場合と、(ii) 賞与の一部を(i)の時期に、残りを第1四半期末に支給する場合が多いです。
  • 個人所得税及び社会保険:賞与は、個人所得税(PIT)の課税対象となりますが、各種社会保険料の算定基礎には算入されません。
 

9.インド

(1) 賞与に関する法規制について

インドでは、賞与については賞与支給法(The Payment of Bonus Act, 1965)(以下、「本法」)に規定されています。

本法は、全ての事業所に適用されるのではなく、以下の事業所に適用されます(本法1条3項)。

  • 工場法(The Factories Act, 1948)に規定される工場
  • 営利を目的として従業員20人以上を雇用する事業所

(2) 賞与の受給資格について

1会計年度に30日以上就労した「労働者」は本法に基づき雇用主から賞与が支払われる権利を有します(本法8条)。本法上、労働者とは、熟練若しくは非熟練作業、監督作業、技術作業、又は事務作業を行う者で、月給INR21,000以下の者をいいます(本法2条13項)。

したがって、上記(1)の工場や営利を目的として20人以上の従業員を雇用する事業所において、上記に該当する労働者は賞与を受給する権利を有します。

もっとも、不正行為、事業所内での暴行行為、又は事業所の財産の窃盗等の理由で解雇された労働者は賞与の受給資格を失います(本法9条)。

(3) 賞与の額について

賞与の最低額として、1会計年度において雇用主に余剰金があるかどうかに関わらず、会計年度に労働者が得る給与の8.33%又はINR100のいずれか高い方と規定しています(本法10条)。そして、1会計年度において余剰金が労働者に支払われる最低賞与額を超える場合、雇用主は当該会計年度に関して、全ての労働者に対して、労働者が当該会計年度で得た給与の20%を上限として、当該会計年度に労働者が得た給与に比例した賞与を支払わなければなりません(本法11条)。

(4) 賞与の支払方法について

賞与は会計年度終了後8カ月以内に現金で支払われなければなりません(本法19条)。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

1.賞与に関する規制

アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法が適用除外される2つのフリーゾーンの労働関連法規のいずれにおいても、賞与についての規定はありません。そのため、賞与を付与するか否かについては、使用者の裁量事項となります。ただし、50名以上を雇用する使用者は、昇進及び報酬に関しての特別の基準及び規則を定めた規程を定めなければなりません(連邦労働法施行規則第14条4項)。

 2. 賞与を定める際の留意点

賞与を付与する場合には、支給額の算定方法や支給時期等の基準を明確にするため、賃金規程を定め、または雇用契約で明示的に合意することが望まれます。特に労働者の辞職により雇用契約が解除されるときに賞与が支給されるか、退職金算定の基準とされる基本給に賞与が含まれるか、休業時の支給の有無等、様々な事態を想定して明確になるようにすることが肝要です。規程や基準を定めない場合でも、労働者間で賞与の支給に不合理な差別が生じないようにすることが求められます。

 

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