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「COVID-19関連の規制状況及び入国規制並びに各国の遺言に関する法制度の概要」 TNY Group Newsletter No.19

第1.各国の国内のCOVID-19関連の規制状況及び入国規制

1.日本

1.1 COVID-19関連の規制状況

これまでに発出された緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は、9月30日にすべて解除されました。マスクの着用やこまめな換気、密を避けるなど、引き続き感染拡大防止対策が取られていますが、コロナ禍の前の生活や消費が戻りつつあります(新型コロナウイルス感染症対策(内閣官房HP))。

1.2 入国規制

(1) 検疫の強化

1 検査証明書の提示

海外から日本への全ての入国者は、国籍を問わず、検疫所へ「出国前72時間以内の検査証明書」の提出が必要です。有効な検体、検査方法等が記載された検査証明書のみ有効と取り扱われるため、事前に満たすべき要件を十分に確認する必要があります。要件を満たしている場合でも、検疫所が指定する様式でないと航空会社が搭乗を受け付けない又は日本到着後に拒否された等のトラブルが発生していますので、医療機関に対して、検疫所指定の様式での記載を依頼したほうがスムーズです。

2 誓約書の提出

検疫所へ「誓約書」の提出が必要です。14日間の公共交通機関の不使用、自宅等での待機、位置情報の保存、接触確認アプリの導入等について誓約することになります。また、誓約に違反した場合は、検疫法に基づく停留措置の対象となり得るほか、(a)日本人については、氏名や、感染拡大防止に資する情報が公開され得ること、(b)在留資格保持者については、氏名、国籍や感染拡大防止に資する情報が公開され得ること、また、在留資格取消手続及び退去強制手続等の対象となり得ることがあります。

3 スマートフォンの携行、必要なアプリの登録・利用

誓約書の誓約事項を実施するため、位置情報を提示するために必要なアプリ等を利用できるスマートフォンの所持が必要となります。検疫手続きの際に、必要なアプリを利用できるスマートフォンの所持を確認できない場合は、入国前に、空港内でスマートフォンを自己負担でレンタルしなければなりません。

4 質問票の提出

 入国後14日間の健康フォローアップのため、検疫時にメールアドレス、電話番号等の連絡の確認があります。

5 ワクチン接種証明書の「写し」の提出

 入国時・帰国時の検疫で、有効なワクチン接種証明書の「写し」を提出する場合、検疫所が確保する宿泊施設での3日間の待機の免除や、入国後14日間の待機期間の一部が短縮されます(ワクチン接種証明書の「写し」の提出について(厚生労働省))

6 新型コロナウイルス感染症に関する水際対策措置

検疫措置として、「水際対策上特に対応すべき変異株等に対する指定国・地域」及び「水際対策上特に対応すべき変異株以外の新型コロナウイルスに対する指定国・地域」からの入国者は、検疫所長の指定する場所での3日間又は6日間の待機が求められます。本Newsletterでご紹介する国のうち対象国は、フィリピン(6日間待機)、マレーシア及びバングラデシュ(ともに3日間待機)です(対象の国又は地域については、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について(外務省HP)に詳細)。

(2) 上陸の拒否

日本上陸前14日以内に上陸拒否の対象国・地域に滞在歴がある外国人は、当分の間、「特段の事情」がない限り、上陸を拒否されます。ただし、上陸拒否対象地域でない地域から、上陸拒否対象地域を給油や乗り継ぎ目的で経由(経由地で入国する場合は除く)した後に日本に到着する場合は、上陸拒否対象地域での滞在歴があるとはみなされません。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る上陸拒否等について(出入国在留管理庁HP)

水際対策に係る新たな措置について(厚生労働省HP)

 

2.タイ

2.1 COVID-19関連の規制状況

タイのCOVID-19の累計感染者数は1,893,941名です。この内、1,775,570名が回復し、累計死亡者数は19,070名となっています。また、非常事態宣言は、11月30日まで延長されています。

タイ政府は、10月21日、バンコク都と16県の観光地エリアについて夜間外出禁止令を撤廃することを発表しました。バンコク都の他、クラビ、チョンブリ、チェンマイ、プーケットなどの観光地が対象となります。この撤廃は、10月31日23:00より適用されます。

2.2 入国規制

タイ政府は、10月21日、タイへの入国者の隔離措置に関して、11月1日より、日本を含む46の国・地域からの飛行機での入国者について、隔離免除にて入国可能とすることを発表しました。主な条件は以下の通りです。

ワクチンの接種が完了していない者等については、10日間の隔離措置が適用されます。

この入国規制の変更については、随時最新の情報を確認する必要がありますので、在東京タイ王国大使館または、在タイ日本大使館のHPをご参照下さい。

 

3.マレーシア

3.1 COVID-19関連の規制状況

 10月28日の新規感染者数は、6,377人であり、ピーク時の3分の1以下に落ち着いています。

 マレーシアでは、新規感染者数やワクチン接種率等を基準に段階的(第一段階から第四段階まである)に規制を緩和するFMCO(完全ロックダウン)が施行されていますが、感染状況の改善により、第一段階、第二段階の規制が適用される州はなくなりました。現在は、ペルリス州、サラワク州、クランタン州、ペラ州、ペナン州、サバ州、ケダ州が第三段階、その他の州が第四段階にあります。規制緩和により、州内での地区間移動などが可能となっています。またワクチン接種完了者には、COVID-19感染拡大前に行うことができた社会活動の多くが認められるようになってきています。

3.2 入国規制

外国人渡航者の入国は原則禁止されています(注:出国は可能)。例外的に、以下1~5に該当する場合の入国を許可しています。

  1. MM2H(マレーシア・マイ・セカンド・ホーム)査証保有者の再入国
  2. 主要又は技術的ポストにある企業職員・技能労働者・知識労働者及びその扶養家族・使用人の入国(いずれも現地駐在者が対象。国籍は問わない。)
  3. 留学生(高等教育機関、インターナショナルスクール)及び医療ツーリズム目的の渡航者の入国
  4. 長期滞在ビザを保有していない外国人で、マレーシア人の配偶者及びその家族についての入国
  5. 永住者の入国

 すべての渡航者は、出発前72時間以内にPCR検査を受ける必要があり、マレーシアに入国するためのフライトに搭乗できるのは陰性の検査結果を有する者のみとなります。ワクチン接種完了者の隔離期間は7日間ですが、ワクチン接種未完了者の隔離期間は10日間となります。また、一定の要件をみたす者は自宅隔離を申請することができ、保健省のリスク評価次第で自宅隔離が認められる可能性があります。

 

4.ミャンマー

4.1 COVID-19 及びクーデターの規制状況

COVID-19 の陽性率は落ち着いており、7%前後で推移しています。ヤンゴン市内は車・人の往来も普段と変

わららず、日常化している印象を受けます。

またミャンマー保健省は、新型コロナウイルス対策としての自宅待機措置を、10月28日午前4時から一部地区で解除する旨を発表しました。

4.2 入国規制

10月は 8日、15日、22日、29日にANA 便が飛びました。11 月は 11 日、25 日に救援便が運航予定で

す。マレーシアやシンガポール等を経由する便が新型コロナウイルスの入国規制との関係で難しくなっていますが、シンガポール経由による帰国便が10月29日(金)から解禁され、その後水・金の週二便が運航される予定です。搭乗にあたっては48時間以内のPCR検査陰性証明書が必要となりますのでご留意ください。

ミャンマーへの入国は日本からの救援便以外に方法はない状況です。国際旅客便の着陸禁止措置も継続して

います。ミャンマー入国後のホテル隔離は、11日間となります。

 

5.メキシコ

5.1 COVID-19関連の規制状況

COVID-19感染者数の増加は落ち着きを見せ始め、メキシコのCOVID-19感染リスクを示す連邦政府の信号(赤、橙、黄、緑の4段階があり、赤が最も深刻)は、10月4日の更新で橙の州が1州になり、10月29日には、11月1日から2週間適用される信号色が、29の州で緑となることが発表されました。連邦政府による新たな規制は見られませんが、引き続き、予防措置の継続が呼びかけられています。各州においては、リスクレベルの引き下げに伴い、商業施設等に対する収容人数の制限などの要請、規制を緩和する傾向がみられますが、マスクの着用などの要請は引き続き継続されています。

5.2 入国規制

メキシコへの入国については、政府による外国人への入国制限等は行われていません。メキシコ国内の各空港では体調や渡航履歴に関するアンケートへの回答や検温によるスクリーニングが実施されています。

また、2020年3月21日より米国政府による米墨国境における不要不急の渡航制限が行われておりましたが、米国政府は11月よりワクチン接種を完了していることを条件に、不要不急ではない陸路・フェリーでの移動を段階的に認めていく方針を発表しました。

 

6.バングラデシュ

6.1 COVID-19関連の規制状況

バングラデシュにおけるCOVID-19の新規感染者数、死者数、陽性率は減少傾向にあり、政府による行動規制は緩和されています。

6.2 入国規制

 バングラデシュ民間航空局(CAAB)による、新型コロナウイルス感染症に関する新たな水際措置が、10月23日付で発表されました。規制が緩和されています。なお、詳細については、こちらをご参照ください。

  1. グループBに属する国(日本はグループBに該当)からの渡航者で、出発の14日前までにWHO認可COVID-19ワクチンの接種が完了している者は、バングラデシュ入国後の隔離が免除される。ワクチン接種証明を携帯すること。ワクチン接種が完了していない者は、14日間の自宅隔離が必要である。
  2. 入国に際し、12歳以上の渡航者は、搭乗72時間以内に行ったCOVID-19のRT-PCR検査の陰性証明を携帯すること。なお、トランジット先によっては「出発48時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明」の提示を求めている国もありますので、確認が必要です。
 

7.フィリピン

7.1 COVID-19関連の規制状況

 フィリピンの COVID-19 感染者は累計2,772,067人で、死者数は累計42,348人です(2021年10月27日現在)。新規感染者は9月初旬をピークとして減少傾向にあり、平均で1日4,625人の新規感染者が報告されています。これは、9月初旬のピーク時の約20%にあたります。

 マニラについては、「NCR における COVID-19 対応のための警戒レベル・システムのパイロット実施に関するガイドライン」に従う必要があります。11月14日まで、マニラ首都圏(NCR)における警戒レベルはレベル3であると発表されています。

また、コミュニティ隔離措置として、引き続き、地域ごとに、移動の制限や飲食店の営業制限等が課されています。

7.2 入国規制

 フィリピン政府は、各国(管轄区域・地域)を「グリーン」・「イエロー」・「レッド」に区分しており、日本は、「イエロー」国(管轄区域・地域)に該当します。

 「イエロー」国(管轄区域・地域)から入国する渡航者のプロトコルは以下のとおりです。

 1 「イエロー」国(管轄区域・地域)から入国する完全にワクチン接種をした渡航者は、到着日から5日目に行われるPCR検査の陰性結果を受けるまで施設における検疫を受ける必要があります。その後、到着日を初日として、10日目まで自宅での検疫を行う必要があります。施設の検疫中の症状の監視はフィリピン検疫局(BOQ)により厳密に行われます。

  なお、外国人は少なくとも6日間、宿泊施設を事前に予約する必要があります。

 2 ワクチン接種を受けていない、または部分的にワクチン接種を受けた、または「イエロー」国(管轄区域・地域)から入国するフィリピン当局が独自にワクチン接種状況についてその有効性、信憑性が検証・確認できない渡航者は、到着日から7日目に行われるPCR検査の陰性結果を受けるまで施設における検疫を受ける必要があります。その後、到着日を初日として、14日目まで自宅において検疫を行う必要があります。

  なお、外国人は少なくとも8日間、宿泊施設を事前に予約する必要があります。

第2.各国の遺言に関する法制度の概要

1.日本

遺言制度は、遺言者の生前の最終意思を尊重してその効力を認めるもので、生前にいつでも遺言を撤回し(民法第1022条)変更することができ、遺言者の死亡によって効力が生じます(民法第985条第1項)。

遺言の法的効力が認められる事項は、1 相続に関する事項(相続分の指定又は指定の委託(民法第902条)、遺産分割方法の指定又は委託(民法第908条前段)、推定相続人の廃除(民法第893条)とその取り消し(民法第894条))、2 財産処分に関する事項(包括遺贈及び特定遺贈(民法第964条)等)、3 身分に関する事項(認知(民法第781条1項2項)、未成年後見人(民法第839条)・未成年後見監督人の指定(民法第848条))、4 遺言執行に関する事項(遺言執行者の指定又はその委託(民法第1006条第1項)、特定財産の遺言執行に関する特別の定め(民法第1014条))などが挙げられ、主に民法によって定められています。

(1) 遺言書の種類及び作成要件

1 普通方式

(a) 自筆証書遺言

 遺言者が相続財産について、作成日付及び氏名を自書し押印する、簡単な方式の遺言です。一方で、方式の不備により無効となるおそれや紛失の可能性などがあります。作成要件は以下の通りです。

(b) 公正証書遺言

 公証人が内容を含めて作成に携わり、公証人役場で遺言を保管しますので、安全な作成方法と言えます。作成要件は以下の通りです。

(c) 秘密証書遺言

公証人や証人の前に封印した遺言書を提出し、その内容を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。作成要件は以下の通りです。

2 特別方式

遺言の特別方式として、死亡の危急に迫った者の遺言(民法第976条)、伝染病隔離者の遺言(民法第977条)、在船者の遺言(民法978条)、船舶遭難者の遺言(民法第979条)が定められており、証人の立会いをもって遺言書を作成することができます。

(2) 遺言の執行

1 遺言の検認手続き

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません、遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様です(民法第1004条第1項)。ただし、公正証書による遺言については、適用しません(同条第2項)。

2 遺言執行者

 遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に寄託することができます(民法第1006条第1項)。遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、選任することができます(民法第1010条)。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定められています(民法第1012条第1項)。

 

2.タイ

(1) 遺言の種類

タイの法律によると、遺言書には5つのタイプがあります。主に使用されているのは「普通遺言」です(タイ民商法典1656条)。その他の種類の遺言は、以下のとおりです。

  1. 「自筆証書遺言」(1657条):遺言者が自筆で遺言書を作成しなければなりません
  2. 「公正証書遺言」(1658条):遺言者が公証人の面前で遺言内容を口述し、公証人が作成します
  3. 「秘密証書遺言」(1660条):遺言者が遺言を封印し、遺言の内容を秘密にして保管することができます
  4. 「特別な方式の遺言」(1663条):伝染病や戦争など特別な状況下にある場合に行うことができます
  5. 自筆証書遺言は、遺言書について証言する証人がいない可能性が高く、遺言書に記載されている署名や筆跡が裁判所の専門家によって100%真正で正確であることが確認できないため、遺言書の真正性・正確性を理由に他の当事者から異議を申し立てられることがあるため注意が必要となります。

(2) 普通遺言の作成方法

普通遺言は、次のような内容で作成しなければなりません(1656条)。

  1. 遺言書の作成された年月日
  2. 遺言者が死亡した場合の財産の分配方法等についての意思表示
  3. 二人以上の証人による遺言書への署名
  4. 遺言者のために遺言書を書く/タイプする者は、遺言書に署名することが必要(1671条)

これらに従わない場合、遺言書は無効となります(1705条)。

タイの裁判所は、判例上、この要件を非常に重視していると思われます。遺言者が1人の証人の立会いのもとで遺言書に署名し、もう1人の証人はその5分程度後に立会った事案があります。この事案では、2人目の証人は遺言者が署名した瞬間には立ち会っていなかったため、当該遺言書は無効であると判断された判例があります。

(3) 注意点

  1. 遺言書を書いたり、タイプしたり、証人として遺言書に署名した者は、遺言書に記載された財産を受け取ることができません(1653条)。
  2. 遺言者が複数の遺言書を作成した場合で、両方の遺言書の記載内容が異なる場合には、古い方の遺言書は、最新の遺言書によって撤回されたものとみなされます(1697条)。

受遺者が遺言者より先に死亡した場合(1698条)、遺言書に記載された財産が遺言者の死亡前に他人に譲渡された場合(1696条)など、何らかの理由で遺言書のいずれかの条項が無効となった場合、当該財産は、遺言書が存在しなかったかものとして、相続人に相続されます(その割合は法律に記載されている通りとなります。1699条)。

 

 

3.マレーシア

(1) 概要

 マレーシアの遺言は、イスラム教徒の遺言と非イスラム教徒の遺言があります。イスラム教徒の遺言については州ごとの異なる法令により規定されています。一方、非イスラム教徒の遺言は、遺言法(Wills Act 1959)により定められています。

 そして、遺言とは、遺言者の財産その他の事項について、遺言者がその死後に効力を生じさせることを望む意図をもった宣言をいいます(遺言法2条)。被相続人の遺言が存在すれば、原則、遺言の内容に従い被相続人の財産が分配されます。

(2) 遺言の作成

 有効な遺言を作成するためには、遺言者は以下の要件・能力が必要となります。

  1. 遺言を書いた時点で18歳以上であること(遺言法4条)。
  2. 判断能力を有する健全な精神の持ち主であること(遺言法3条)。
  3. 遺言書を書面で残し、署名することができること(遺言法5条)。

 このほか、有効な遺言書を作成するためには、2人の証人(遺言者及び受益者を除く)が署名する必要があります。そして、署名中は、全ての当事者が立ち会う必要があり、個別に署名することはできません(遺言法5条)。

(3) 遺言の執行

 全ての遺言は、遺言によって反対の意思が示されない限り、遺言者の死亡直前に執行され効力が生じると解釈されます(遺言法18条)。遺言は、故意に撤回したり、結婚したり、イスラム教に改宗したりしない限り有効となります。

遺言者が死亡した場合、遺言執行者に指名された者は、遺言者が遺言書で述べた通りに遺産分配の手続を開始するため、裁判所に検認(Grant of Probate)を申請します。

なお、遺言執行者については、証人の要件とは異なり、受益者を指名することができます。

 

4.ミャンマー

ミャンマーにおいて遺言は、1925年相続法(The Succession Act(以下、「相続法」という))にて定められています。

遺言には、非特権遺言と特権遺言の2種類があり、非特権遺言とは、遠征に従事した又は実際の戦争に従事した兵士、又はそのように雇用された又は従事した空軍兵、又は海上での船員を除く遺言者が、以下の規則に従い遺言を実行することを意味します。

  1. 遺言者は、遺言に自身の署名又は押印を行う又は、遺言者の立会いの下、他の者が署名する。
  2. 遺言者の署名又は押印、遺言者の代わりに署名した者の署名は、遺言として書かれていることに影響を与えることを意図して見えるように配置する。
  3. 遺言は、2人又はそれ以上の証人により証明され、それぞれが、遺言者が遺言に署名又は押印すること、または遺言者の立会いの下他の者が遺言に署名することを見届ける、または遺言者の署名又は押印、または当該他の者の署名の個人的な承認を遺言者が受け取ったことを証明する。また各証人は、遺言者の面前で遺言に署名しなければならないが、同時に複数の証人が立ち会う必要はなく、特定の形式の証明は必要ない。(相続法第61条)

特権遺言とは、遠征に従事した又は実際の戦争に従事した兵士、又はそのように雇用された又は従事した空軍兵、又は海上での船員が未成年(18歳未満)ではない場合、第66条による規定に従い、遺言によって財産の処分をすることができると定められています。(相続法第65条)

しかし、相続法第4条にて、ヒンズー教徒、ムハンマダン教徒、仏教徒、シーク教徒、またはジャイナ教徒に関して遺言による継承は認められていません。また、ミャンマーの人口の半数以上を占める仏教徒を含む上記教徒は、法的に遺言を行うことは認められていないとの判例があります。したがって、ミャンマーにおいては遺言を活用することは実務上難しく、相続制度を理解した上で、事前に株式や不動産について契約書上適切な対応を行う必要があります。

 

5.メキシコ

メキシコの遺言に関する規定は民法に定められています。連邦民法(Código Civil Federal)のほか、各州の民法にも遺言の規定があり、原則、遺言者の所在するメキシコの各州の民法に従います。本ニュースレターにおいては紙幅の関係から、連邦民法に基づいた遺言書の形式のみをご紹介させていただきます。

メキシコでは遺言は、通常の状況下で作成される普通方式と特定の状況においてのみ作成を認められる特別方式の2種類に分類されます。 普通方式には、被封緘遺言、封緘遺言、簡易遺言、自筆証書遺言があり、特別方式の遺言には、私的遺言、軍人の遺言、海上遺言、外国で作成された遺言があります。以下では、軍人の遺言、海上遺言以外の各遺言の形式について解説いたします。

(1)非封緘遺言(Testamento Público Abierto)

非封緘遺言は、法律の規定に従い、公証人の面前で行う遺言です。遺言者は、公証人に明確かつ確実に遺言を述べなければなりません。公証人は、遺言書の条項を遺言者の意思に厳密に沿って書面に作成し、遺言者が同意しているかどうかを述べるために読み上げを行います。遺言書には、遺言者及び公証人のほか、必要に応じて証人及び通訳が署名し、場所、年月日、時間を記録しなければならないとされています。

遺言者がスペイン語を知らない場合には、遺言者は遺言書を書き、その遺言書は遺言作成のために読み上げに立ち会う通訳者によってスペイン語に翻訳されます。翻訳はそれぞれの公証原簿と原本に遺言として転記され、遺言者、通訳者、公証人によって署名され、行為に関与する公証人の対応する付録に保管されます。

この手続きは、遺言書の朗読から始まる単一の行為で行われ、公証人はそれらが完了したことを証明しなければならないとされています。

この厳格な形式に従わなかった場合、遺言書は無効となり、公証人は損害賠償責任を負うとともに、公証人の職を失うとされています。

(2)封緘遺言(Testamento Público Cerrado)

 封緘遺言は、遺言者又は遺言者の依頼を受けた他の人が書面に書く遺言で、遺言書は封緘され、証人3人の立会いの下に公証人に提示します。遺言者は、提示をするときは、その用紙に遺言書が記載されていることを宣言します。

この宣言の証明は、押印された遺言書の表紙に行われ、遺言者、証人及び公証人が署名し、公証人も押印をしなければなりません。形式を欠いた封緘遺言は効力を有さず、そのような遺言の宣言に携わった公証人は損害賠償責任を負うとともに、公証人の職を失うとされています。

遺言書が封緘され、承認されると、遺言者に交付され、公証人は遺言書が承認され交付された場所、時間、年月日を公証原簿に記録します。

遺言者は、遺言書を自分の手元に保管するか、自分が信頼する者に保管させるか、または司法記録保管所(archivo judical)に預けることができます。遺言者が自分の遺言書を司法記録保管所に預けるときは、遺言書を持って司法記録保管所の担当者の面前に出頭しなければいけません。担当者は、預かり又は引渡しをファイルに記録し、その記録には担当者と遺言者が署名し、遺言者には謄本が渡されます。

この封緘遺言は、公証人及び証人が裁判官の前で、遺言者又は遺言者のために署名した者の署名を確認し、自分の意思に基づき、引渡時と同様に封緘され、封印されているかどうかを宣言した後でなければ、開封することができません。

封緘遺言は、内容に不備がなくても、中紙が破られたり、表紙が開かれたり、それを承認する署名が消されたり、傷がついたり、修正されたりすると、無効になります。

(3)簡易遺言(Testamento público simplificado)

簡易遺言は住宅を目的とし、または目的としようとする不動産の取得の際に、同じ証書で相続人を確定するもので、公証人の面前で作成されます。不動産価格またはその評価額が、取得時に年額UMA(Unidad de Medida y Actualizaciónの略。2021年の年額は32,693.40ペソ)の25倍相当額を超えていないことなどの要件を満たす必要があります。

(4)自筆証書遺言(Testamento Ológrafo)

自筆証書遺言は、遺言者の自筆で書かれた遺言書であり、公証記録保管所(Archivo General de Notarías)に預けなければ、その効力を生じません。

他の形式の遺言は16歳以上であれば遺言を行いえますが、自筆証書遺言は、18歳に達している者のみが行うことができ、有効であるためには、遺言者が全文を書き、署名し、その年月日が記載されなければなりません。外国人の場合は、自国語での自筆遺言を作成することができます。

遺言者は、自筆証書遺言を2部作成し、それぞれに自分の指紋を捺印しなければなりません。原本については、遺言者は、遺言書の原本を入れた封筒に、「この封筒の中身は私の遺言書です。」と自筆し、預ける場所と日付を記入します。付記は、遺言者と公証記録保管所所の担当者によって署名され、身分証明の証人がいる場合は、その人も署名しなければなりません。そのうえで、封緘された封筒に入った原本は公証記録保管所に預けます。

封緘された封筒に入った副本は、公証事務所の担当者による「私は、….(遺言者)….. 氏が自筆証書遺言の原本が入っていると宣言した封緘された封筒を受け取った。また、同氏によれば、この封筒の中には複製が存在する。」 との表紙の注記とともに遺言者に返却されます。遺言者は、遺言書の入った封筒に、違反を防止するために必要と思われる署名などを付けることができます。

相続発生時、遺言書の複製を所持している者、または自筆証書遺言を預けていることを知っている者は、管轄の裁判官に通知しなければならず、裁判官は遺言書がある公証記録保管所の担当者に遺言書を送るよう要請しなければなりません。

遺言書が受理されると裁判官は遺言書が入っている表紙を調べて要件を満たしていることを確認し、その場所に居住する身元確認証人にその署名と遺言者の署名を認識させ、検察官、利害関係者として出頭した者及び前述の証人の立会いのもと、遺言書が入っている封筒を開封します。要件を満たし、遺言者が預けたものと同一であることが確認された場合には、遺言者の遺言は正式なものであると宣言されます。

(5)私的遺言(Testamento Privado)

私的遺言は、遺言者が非常に深刻な病気にかかり、公証人の面前で遺言書を作成する時間がない場合など、遺言者が自筆証書遺言を作成することができない限定的な場合にのみ認められます。

私的遺言をする場合になった遺言者は、原則5人の適当な証人の立会いのもとに、自分の遺言を宣言し、遺言者が文字を書くことができない場合には、そのうちの1人が書面を作成しなければなりません。

私的遺言を作成する場合には、非封緘遺言の手続を準用することとされていますので、遺言者は、証人に明確かつ確実に遺言を述べることを要求されます。証人は、遺言書の条項を遺言者の意思に厳密に沿って書面に作成し、遺言者が同意しているかどうかを述べるために読み上げを行います。遺言者及び証人のほか、必要に応じて通訳が署名し、場所、年月日、時間を記録しなければなりません。

私的遺言は、遺言者があった病気や危険な状態により死亡した場合、または私的遺言を認める原因が消滅した後1ヶ月以内に死亡した場合にのみ有効となります。

遺言者の死亡後に私的遺言が有効であるためには、申請を行うことが必要です。 この申請は、遺言者の死亡およびその処分の方法を知ったときに、利害関係者が直ちに請求するものとされています。私的遺言に立ち会った証人は、1遺言書が交付された場所・時間・年月日、2遺言者をはっきりと認識し、見て、聞いたかどうか、3処分の内容、4遺言者が健全な精神状態にあり、強制されていなかったかどうか、5私的遺言がなされた理由、⑥遺言者が病気で亡くなったことを知っているかどうか、危険な状態にあったことを知っているかどうかなどの事項を届申請なければなりません。

 これらの申請事項が確認された場合、裁判官は、正式な遺言であると宣言します。

(6)外国で作られた遺言

外国で作成された遺言書は、その遺言書が作成された国の法律に基づいて作成された場合、メキシコシティで効力を有します。公使の書記官、メキシコ領事および副領事は、遺言書がメキシコシティで執行されなければならない場合に、在外国民の遺言書の公証人または受取人を務めることができます。

なお、メキシコは、ハーグ条約のうち、「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を批准していません。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュにおいて、遺言は、1925年相続法(The Succession Act, 1925(以下、「相続法」という))にて定められていますが、イスラム法の影響を大きく受けます。

相続法第2条(h)にて、「遺言」は、遺言者が死後に効力をもつことを望む、財産に関する遺言者の意思の法的宣言を意味する、と定義されています。また、同法第59条にて、未成年(18歳未満)ではない健全な精神をもつ全ての者は、遺言によって財産の処分をすることができると定められています。

遺言には、特権遺言(遺言者が遠征に従事した又は実際の戦争に従事した兵士、又はそのように雇用された又は従事した空軍兵、又は海上での船員である場合)と非特権遺言(特権遺言以外)が規定されています。相続法第63条では非特権遺言について規定しており、遺言者が署名又は押印又は遺言者の立会いのもと他の者が署名するものとしています(相続法第63条(a))。また、少なくとも2人の証人が署名又は押印しなければならないと規定しています(同条(c))。特権遺言は相続法第66条にて、死亡の危急に迫った場合などを想定して定められています。遺言は、遺言者が任命する「遺言執行者」によって執行され(相続法第2条(c))、遺言執行者が任命されていない場合は、管轄機関が、遺言を執行する者を任命します(相続法第2条8(a))。遺言者の死後、検認によって遺言執行者の行為が有効となります(相続法第227条)。

 

7.フィリピン

(1) 遺言の形式

フィリピンでは遺言は例外なく文書でなければならず、厳格なフォーマットを要件とすることでその有効性を担保しています。動画や音声の形式をとった遺言は認められません。遺言には公証遺言と自筆遺言の二種類があります。

1 公証遺言

公証遺言には以下のとおり厳格な定めがあります。

  1. 文書の最末尾に遺言者本人が署名を行うか、遺言者同席のもと、遺言者の指示によって、かつ遺言者の名において、別の人物が署名すること。
  2. 最低3名の信頼できる証人が、遺言者および他の証人同席のもと、文書末尾で署名および宣誓を行うこと。
  3. 遺言者、または遺言者からの依頼により遺言者の名で署名を行う者、および証人が、最後のページを除く全てのページの左側余白に署名をすること。
  4. すべてのページの上部にアルファベット表記でページ番号を振ること(例: “Page ONE”)。
  5. 宣誓部分には、(i)遺言の全ページ数、(ii)証人同席のもと、遺言者が末尾および全ページに署名を行ったか、明確な指示のもとで他の者に署名を行わせた旨、および(c)遺言者と他の証人同席のもと、証人が末尾および全ページに署名を行った旨を含めること。宣誓部分が証人の理解できる言語で書かれていない場合は、これを翻訳すること。
  6. 公証人の前で、遺言者および証人によって承認されること。

2 自筆遺言

他方、自筆遺言には以下の要件があります。

  1. すべて手書きであること。
  2. 遺言者によって日付と署名が付されること。

自筆遺言はフィリピン国内で行われる必要はなく、証人も必要ありません。しかし、その有効性を証明するにあたっては、遺言者の筆跡および署名を知る者が最低1名、遺言とその署名が遺言者本人の手で書かれたものであることを明示的に宣言する必要があります。また、遺言の有効性が争われる場合には、上記の宣言は最低3名によってなされなければなりません。

自筆遺言の場合、署名より下の部分に書かれた遺産の譲渡については、あらためて日付および署名が伴われなければ有効な譲渡として扱われません。なお、すべての編集、追加、削除箇所には遺言者の署名と日付が付されなければなりません。

どちらの遺言形式をとる場合であっても、遺留分及び相続人廃除に関するフィリピン国内法の規定の適用を受けます。

(2) 海外で行われた遺言および外国人による遺言

海外で行われた遺言もフィリピン国内で法的効力を持つことがあります。原則として、遺言の方式は遺言がなされる国の法律の定めに従うことになります。なお、フィリピン共和国の外交官または領事官員同席のもとで、海外で遺言が行われる場合には、フィリピン法が定める方式が採用されます。

これと同様、外国人がフィリピン国内で実施した遺言についても、それが本国法に則った方式で行われ、かつ同国の法律によって認められうるものであるならば、フィリピン法に則って行われたのと同様の効力を持つことになります。

ただし、相続順位、相続分、遺言内容に関する実質的有効性については、遺産の性質や遺産が存在する国にかかわらず、遺産相続者となりうる者の本国法が適用されます。

(3) 遺言の検認

遺言内容の実行にあたってはまず、裁判所による検認手続が必要となります。この手続により、遺言が然るべき形式および要件を満たしており、したがって有効なものであるという事実が確認されます。裁判所による承認なしには、遺言に沿った動産および不動産の承継を行うことはできません。

 

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