「COVID-19関連の規制状況及び入国規制並びにセクシャル・ハラスメントに関する法制度の概要」 TNY Group Newsletter No.27
第1.各国の国内のCOVID-19関連の規制状況及び入国規制 |
1.日本
基本的な感染拡大防止対策(「三つの密」の回避、「人と人との距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗い等の手指衛生」、「換気」等)が求められ、ワクチンのブースター接種が推奨されています(新型コロナウイルス感染症対策(内閣官房HP))。
1.2 入国規制
(1) 外国人の入国制限について
外国人の入国について、下記(a)(b)又は(c)の新規入国を申請する外国人については、日本国内に所在する受入責任者が、入国者健康確認システム(ERFS)における所定の申請を完了した場合、「特段の事情」があるものとして、新規入国を原則として認めています。
(a) 商用・就労等の目的の短期間の滞在(3月以下)の新規入国
(b) 長期間の滞在の新規入国
(c) 観光目的の短期間の滞在の新規入国(旅行代理店等を受入責任者とする場合に限る)
厚生労働省HP 外国人の新規入国制限の見直しについて
(2) 日本入国時の検疫措置について
厚生労働省は、滞在していた国・地域を3区分(青・黄・赤)に分け、入国時の検疫措置を定めています。なお、出国前72時間以内の陰性証明書は、滞在していた国・地域にかかわらず全員が提出必要です。
滞在していた国・地域の区分
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有効なワクチン
接種証明 |
入国時の検疫措置 | ||
出国前検査 (全員必須) |
到着時検査 | 待機 | ||
青 (タイ、バングラデシュ、フィリピン、 マレーシア、ミャンマー、メキシコほか) |
問わない | 〇 | × | × |
黄
(ベトナム、インドほか) |
あり | 〇 | × | × |
なし | 〇 | 〇 | 自宅3日間 ※1 | |
赤
(パキスタンほか) |
あり | 〇 | 〇 | 自宅3日間 ※1 |
なし | 〇 | 〇 | 施設3日間 ※2 |
※1 待機3日目に検査を受検し陰性を確認した場合。検査を受検しない場合は7日間。
※2 施設待機3日目に検査を受検し陰性であれば、待機解除。
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2.タイ
2.1 COVID-19関連の規制状況
タイのCOVID-19の累計感染者数は4,515,890名です。この内、4,462,388名が回復し、累計死亡者数は30,610名となっています。現在、1日の感染者数の週平均は2,000人程度で推移しており、減少傾向にあります。
2.2 入国規制
6月1日より以下のとおり入国規制が緩和されました。
- ワクチン規定回数接種済の者
下記について準備した上で、Thailand Passにて事前申請が必要。
- 規定回数のワクチン接種を証明するワクチン接種証明書
- COVID-19の治療費等を含む1万USドル以上を補償する医療保険
タイ渡航前および入国後のPCR検査については免除。隔離措置も免除。
2. ワクチン規定回数未了、ワクチン未接種者
下記について準備した上で、Thailand Passにて事前申請が必要。
- 渡航前72時間以内に実施したRT-PCR検査または専門機関による抗原検査 (Professional-ATK)による陰性証明書
- COVID-19の治療費等を含む1万USドル以上を補償する医療保険
タイ入国後のPCR検査については免除。隔離措置も免除。
7月1日より、さらに入国規制が緩和されます。Thailand Passが撤廃され、COVID-19の治療費等を含む医療保険が不要となります。ただし、入国時に、ワクチン接種証明書または渡航前72時間以内に受検した陰性証明書の提示は引き続き必要です。
2.3 日本入国規制
5月26日に、日本政府は、6月1日以降の日本入国時の水際措置の変更を発表いたしました。
タイは「赤」、「黄」、「青」の区分の内、一番リスクの低い「青」区分に指定されています。日本への入国時に必要とされていた、入国時検査およびワクチン3回未接種者の入国後原則7日間の自宅等待機期間は廃止されております。
ただ、日本入国時の渡航前72時間以内の有効な検査証明書の提示は引き続き必要とされますので、ご注意下さい。
詳細については以下をご参照下さい。
3.マレーシア
3.1 COVID-19関連規制
6月26日の新規感染者数は、2,003人でした。直近7日間(20日~26日)の平均も2,293人であり先月に比べれば微増しており、保健省はさらなる増加に警戒を強めています。
もっとも、現在はエンデミックの段階にあるとして、以前のMCO(新型コロナウイルス流行に伴い設けられた活動制限令)下で導入されていた厳格な活動制限等の規制は撤廃されています。現在は、屋内や公共交通機関等でのマスクの着用義務や店舗入店時のMySejahteraアプリ(マレーシア政府開発の新型コロナウイルス対策アプリ)の提示、ソーシャルディスタンスの要請などに留まります。
3.2 入国規制
3月までは、労働ビザを持つ者や永住者等一部の外国人に入国を認めていましたが、4月1日からは観光目的の入国が可能となっています。
渡航前には、英文での陰性証明書の取得、及びMySejahteraアプリをダウンロードし、健康情報やワクチン接種状況等の必要事項を入力しておくことが必要となります。ワクチン接種完了者には、同アプリ上でデジタルトラベラーズカード(青)が発行され、ワクチン接種未完了者には、デジタルトラベラーズカード(赤)が発行されます。デジタルトラベラーズカード(青)が発行された場合(ワクチン接種完了者)は、渡航前の陰性証明の取得及び入国後の隔離が不要となりますが、デジタルトラベラーズカード(赤)が発行された場合は、渡航前の陰性証明書の取得及び入国後検査及び隔離が必要となります。なお、ワクチン接種完了者に加えて、17歳以下の者、COVID-19に感染し回復から6~60日以内の者は、渡航前の陰性証明書の取得及び渡航後の入国時検査が不要となります。
4.ミャンマー
4.1 COVID-19 及びクーデターの規制状況
COVID-19 の陽性率は低くなり、感染状況は落ち着いております。また、夜間外出禁止令について、22時以降が禁止されていた規制が24時以降の外出禁止となり、緩和されました。
4.2 入国規制
国際旅客便の着陸禁止措置が4月17日で解除され、タイやマレーシア等の周辺国からのフライトの運航が再開されています。日本からの直行便のANA便は直行便が廃止になり、6月よりタイ経由便が再開されました。
e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。入国後の隔離措置について、6月17日より空港到着時の迅速抗原検査(RDT 検査)が不要となり、指定の施設等での隔離は不要なりました。
5.メキシコ
6月に入りCOVID-19新規感染者数は増加の傾向を見せ、第5波の到来と注意が呼びかけられていますが、新たな規制はありません。
5.2 入国規制
メキシコへの入国について、政府による外国人への入国制限等は行われていません。
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6.バングラデシュ
バングラデシュでは、感染者が増加しており、6月21日に20日ぶりにCOVID-19による死亡が報告されました。6月27日、24時間以内に報告されたCOVID-19による死亡は2名、陽性者は2,101名で、陽性率は15.20%となりました。
6.2 入国規制
WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。
また、バングラデシュに入国するすべての者は、渡航出発前3日以内にオンライン上(https://healthdeclaration.dghs.gov.bd/)で必要事項を入力し、QRコード付きの健康申告書(Health Declaration Form)の画像データ又は印刷したコピーを、入国後にイミグレーションで提示する必要があります。
また、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い停止していた到着時ビザ(オンアライバルビザ)が、5月17日から全面再開されています。
7.フィリピン
7.1 COVID-19関連の規制状況
フィリピンの COVID-19 感染者は累計370万1743人で、死者数は累計60,518人です(2022年6月27日現在)。新規感染者は2021年の年末以降急激に増加し、2022年1月中旬をピークとしてその後減少傾向にあります。現在は1日約500~1000人程度の新規感染者が報告されています。
また、5月31日まで、マニラ首都圏は、警戒レベル「レベル1」とされています。
7.2 入国規制
ワクチン接種等の要件を満たす外国人の、商用・観光目的の査証免除による入国及び既存の有効な査証による入国が認められています(日本は査証免除対象国です)。出発国出発日時から14日間以上前に、2回接種するワクチンを2回接種済みであること、あるいは1回接種するワクチンを接種済みであることが必要です。また、フィリピン到着時、出発国出発前48時間以内の陰性のポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査結果、または検査室における24時間以内に陰性の抗原検査を提示することが必要です。
さらに、4月1日00時01分以降、海外から入国する外国人は入国免除文書(EED)を必要とせずにフィリピンに入国することができます。
7.3 フィリピンから日本への入国者及び帰国者に対する規制
日本においては、6月1日以降、以下のとおり新たな水際対策措置が実施されます。水際対策措置の見直しにより、「赤」・「黄」・「青」の区分が決定され、フィリピンは「青」に指定されることとなりました。したがいまして、フィリピン出国前72時間以内に受けた検査結果証明書を提出することにより、入国時検査を実施せず、入国後の自宅等待機を求めないこととなります。ワクチン接種の有無は問いません。
8.ベトナム
8.1 COVID-19関連の規制状況
ベトナムにおける2022年6月27日時点での累計感染者数は1074万3448人で、1か月前の5月27日の時点より2万8201人増加しました。3月末から4月末の1か月間では100万人以上増加していたことに比べると、ベトナムにおける新規感染者数は大幅に減少しており、6月に入ってからは、ほとんどの日で1000人を下回っています。
ベトナムでは、4月頃から社会・経済活動や市民生活における新型コロナに関連する規制はほぼ撤廃されています。日常生活におけるマスクの着用は一応推奨されており、多くの市民は、商業施設や商店などではマスクを着用していますが、着用していない者も少しずつですが増えているように思われます。
8.2 入国規制
新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(すなわち観光目的であっても)、
・ ベトナム滞在期間が15日以内であること
・ ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
・ ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと
という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。
なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は2020年7月1日から撤廃されています。
また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。
8.3 ベトナムから日本への帰国者・入国者に対する規制
日本では、6月28日現在、国籍を問わず外国からの入国者に対する水際対策措置が実施されており、ベトナムは「黄」区分に指定されています。したがって、ワクチン3回目接種者については、入国時検査を実施せず、入国後の自宅等待機も不要となっています。ワクチン3回目接種者でない場合は、入国時検査を実施した上で、原則、7日間の自宅等待機を求めることとし、入国後3日目以降に自主的に受けた検査の結果が陰性であれば、その後の自宅等待機の継続を求めないこととされていいます。
第2.各国のセクシュアル・ハラスメントに関する法規制の概要 |
1.日本
「職場におけるセクシャルハラスメント」とは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け(例:事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること)、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること(例:事務所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと)とされています(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針1条)。
(1) 事業主の講ずべき措置等(男女雇用機会均等法)
男女雇用機会均等法11条では、職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等として、事業主は、i) 職場におけるセクシャルハラスメントに関し、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(1項)、ii) 労働者がセクシャルハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該労働者に対して不利益な取扱いをしてはならない(2項)、iii) 他の事業主から当該事業主の講ずる措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない(3項)と規定しています。また、男女雇用機会均等法第11条の2では、職場におけるセクシャルハラスメントに関する事業主の責務として、i) 性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる措置に協力するように努めなければならない(2項)、ii) 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、性的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない(3項)と規定しています。
(2) 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)
本指針では、男女雇用機会均等法11条に規定されている事業主が講ずべき措置について、具体的に示しています。
(a) 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発(同指針4条1項)
- 職場におけるセクシャルハラスメントの内容・セクシャルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
- セクシャルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
(b) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(同指針4条2項)
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に、広く相談に対応すること
(c) 職場におけるセクシャルハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応(同指針4条3項)
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
- 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も同様)
(d) (a)から(c)までの措置を併せて講ずべき措置(同指針4条4項)
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
(3) セクシャルハラスメント被害の相談を受けたときの対処法
上記(2)(c)にある通り、まず、事実関係の確認が必要です。被害者からだけではなく、行為者(加害者)や職場の同僚などから話を聞き、事実関係を正確に把握することが重要です。その際に、被害者や行為者のプライバシーが守られるようにしなければなりません。また、被害者の精神的ダメージが大きい場合などは、本人の希望を踏まえて、専門医への相談も考えられます。また、被害者が、相談したことを理由として不利益な扱いをされないようフォローすることも必要です。行為者に対する措置については、事実確認の結果に基づき、席の移動などの対応から、配置転換、重大なケースの場合は懲戒処分も考えられます。更に、再発防止に向けた措置の見直しや強化が求められます。
2.タイ
(1) 労働保護法による罰則
タイでは、会社に対してセクシュアル・ハラスメントへの対策を講じる義務を定めた法律やガイドラインなどはありません。ただし、労働保護法(The Labour Protection Act)において、職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関する規定があります。
タイでは、一定の地位を有する者に罰則を科す形で、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを規制しています。同法第16条は、「雇用主、上司、管理者、または監督者は、従業員に対して性的虐待、ハラスメント、または迷惑行為を行うことを禁じる。」と規定しています。また、同法 第147条は、「第16条に違反した者は、2万バーツ以下の罰金に処する。」と規定しています。
(2) 刑法による罰則
セクシュアル・ハラスメントは、刑法上の処罰の対象となる場合もあります。刑法第397条により、セクシュアル・ハラスメントの可能性を示す態様で、他人に迷惑をかけたり、いじめたり、脅迫したり、恥辱、トラブルおよび迷惑により苦しませたりする行為をした者は、1年以下の懲役もしくは1万バーツ以下の罰金、またはその両方が科されます。また、司令官、雇用主その他優位な権限を有する者が、その権限を利用して前記行為を行った場合には、1年以下の懲役および1万バーツ以下の罰金の両方が科されます。
さらに、より重い態様であるわいせつ行為については、同法第278から279条に規定されています。15歳以上の者に対して暴行、脅迫等の手段を用いてわいせつな行為をした者は、10年以下の懲役もしくは20万バーツ以下の罰金またはその両方が科されます。その上、被害者の年齢、行為態様によって刑罰が加重されます。
3.マレーシア
マレーシアにおけるセクシュアル・ハラスメントに関する法規制は、雇用法(Employment Act 1955)によって規律されます。
(1) 定義
雇用法は、「セクシュアル・ハラスメント」(以下「セクハラ」という)を、「言葉的か否か、視覚的か否か、身振り又は物理的接触のいずれかを問わず、勤務の過程にある 人物に向けられた、攻撃的若しくは屈辱的若しくはその人物の幸福を脅かす、その人物の望まない性的なふるまいをいう。」と定義しています(雇用法2条)。そして、セクハラの申立てには、①労働者から他の労働者に対して、②労働者から使用者に対して、③使用者から労働者に対するものの3類型が含まれます(雇用法81A条)。
(2) 使用者の義務等
セクハラの申立てがあった場合、使用者又はこれに準ずる者は、大臣が定める方法によって当該申立てについて調査しなければならない(雇用法81B条)。
調査の結果、セクハラの存在が証明されたと考えるときは、使用者は①セクハラを行なった者が労働者であるときは、予告期間を設けない解雇、降格又は解雇・降格よりも軽い処分(無給の自宅待機処分の場合にはその期間は2週間を超えてはならない。)のいずれかの懲戒処分を、②セクハラを行なった者が労働者以外の者である場合にはその人物が所属する適切な懲戒主体に処分を委ねるものとされています(雇用法81C条)。
(3) 被害者への救済
使用者が調査を拒否した場合、申立てを行なった者は労働局長に対して申立てをすることができ、労働局長に対して申立てがなされた場合、労働局長は使用者に対し調査を命じることができます(雇用法81D条)。また、セクハラを行なった者が個人事業主たる使用者であった場合、労働局長は人的資源大臣が定める方法により自ら調査を行います(同条)。
また、連邦裁判所は2016年にセクハラを理由とする損害賠償請求を肯定しているため、被害を受けた労働者は加害者に対し直接損害賠償を求める訴訟を起こすことにより救済を受けられる可能性があります。
(4) セクハラに関する掲示
2022年改正雇用法(Employment (Amendment)Act 2022)により、使用者は、常時、セクハラ防止に関する啓発のための掲示物を就業場所の見やすい場所に掲示しなければなりません。
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4.ミャンマー
(1) 法規制の有無
ミャンマーにおいてはセクシュアル・ハラスメントに関して法令は存在しません。
(2) 一般法との関係
セクシュアル・ハラスメントに関する規定はないものの、当該行為が不法行為に該当する場合には、コモンローに基づく損害賠償請求の対象となり得ます。また、使用者は労働者に対して健康で安全な職場環境を維持する義務を負うため、セクシュアル・ハラスメントを予防する環境整備が求められます。
5.メキシコ
(1) セクシュアル・ハラスメントの概念
メキシコの法令において、いわゆるセクシュアル・ハラスメントと呼ばれるものについて、hostigamiento sexual とacoso sexual という2つの概念が使用されています。
暴力のない生活に対する女性の権利に関する基本法(Ley General de Acceso de las Mujeres a una Vida Libre de Violencia)においては、hostigamiento sexualとは、職場や学校において、被害者が加害者に実質的に従属する関係のもと、権力が行使されることであり、淫らな意味合いを持つ性的な行為に関連する口頭や身体的な行為、またはその両方で表現されるものを指すとされています。他方、acoso sexualとは、被害者と加害者の間に従属関係はないものの、行使の回数を問わず、被害者が無防備で危険な状態に陥るような乱暴な権力行使が行われる暴力の一形態であるとされています。
連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)では、hostigamiento sexualの定義はないものの、ハラスメント(hostigamiento)が、仕事上の従属関係下における権力の行使であって、口頭や身体的な行為、またはその両方で表現されると定義されていることから、上記暴力のない生活に対する女性の権利に関する基本法とほぼ同義で使用されていると考えられます。ただし、行為の場所は職場に限定されます。acoso sexualについては、上記暴力のない生活に対する女性の権利に関する基本法と同様の定義がなされています。
以上から、hostigamiento sexualは加害者と被害者の間に上司と部下などの従属関係が求められる一方、acoso sexualにはそのような従属関係が求められません。なお、本稿では、hostigamiento sexual、acoso sexual、あるいは、その両方を指して「セクシュアル・ハラスメント」と記します。
(2) セクシュアル・ハラスメントに関する労働法上の権利義務関係
連邦労働法は、使用者らが、職場において、セクシュアル・ハラスメントを行うこと、セクシュアル・ハラスメントを許容することを禁止しています。また、労働者も、職場において、セクシュアル・ハラスメントを行うことが禁止されています。
労働者が職場において、セクシュアル・ハラスメントを行った場合、使用者は、当該労働者を、責任を負わずに解雇することができます。また、使用者らが、労働者らに対してセクシュアル・ハラスメントを行った場合、当該労働者は責任を負うことなく雇用関係を終了させることができます。
さらに、使用者は、性別に基づく差別を防止し、暴力やセクシュアル・ハラスメントの事例に対処するためのプロトコルを労働者との合意のもと策定し、実施することが求められています。これに関連し、労働社会福祉省(Secretaría del Trabajo y Previsión Social)は、「職場での暴力を防止、対応、根絶するためのモデルプロトコル(Modelo de Protocolo para prevenir, attender y erradicar la violencia laboral en los centros de trabajo)」を発行*しており、この中には、ハラスメント事例の対応手順やハラスメント発見のためのモデル質問票なども用意されています。企業は、このモデルプロトコルを参考にプロトコルを作成することが推奨されます。
(3) セクシュアル・ハラスメントと刑法上の犯罪
連邦刑法(Código Penal Federal)は、仕事、教育、家庭、その他従属を示す上下関係に乗じて、性別を問わず人に対して、淫らな目的で嫌がらせを繰り返した者は、UMA日額(2022年度は96.22ペソ)の800倍以下の罰金に処すると規定するものの、セクシュアル・ハラスメント(hostigamiento sexual)については、損失や損害が生じた場合にのみ処罰の対象とすると限定されています。
また、メキシコ市刑法(Código Penal para el Distrito Federal)は、自己若しくは第三者のために性的な好意を要求し、または性的な性質を有する行為で、受ける者にとって望まない性的な行為を行い、その者の尊厳を傷つける精神的・感情的な苦痛を与えた者は、1年以上3年以下の懲役に処すると規定しています。加害者と被害者の間に、仕事、教育、家庭、その他の従属関係から生じる上下関係がある場合には、この刑の3分の1が加重されます。
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6.バングラデシュ
(1) セクシャルハラスメントの関連法令
バングラデシュでは、セクシャルハラスメントについて規定する法令はありませんが、関連するものとして、以下が挙げられます。
法 令 | 規 定 |
刑法1860年第509条 | 「女性の謙虚さを侵害する」ことを目的とした行為、 言葉、態度を犯罪とし、1年以下の懲役及び罰金が科せられます |
Nari-O-Shishu Nirjatan Daman Ain 2000 (女性及び子供の抑圧防止法)第10条 |
「Jounopiron」(一般に「性的抑圧」と訳される) と呼ばれる行為を犯罪とし、女性又は子供(身体の一部又は対象物) に触れる行為又は性的欲求を不法に満たすために女性の謙虚さを 侵害する行為を犯罪としています |
バングラデシュ労働法2006年第332条 | いかなる事業場のいかなる者も、雇用されている女性に対して、 下品又は無礼に見える可能性のある行為、その女性の謙虚さ又 は名誉を害する行為をしてはならないと規定しています。 しかし、この規定は、女性が職場で直面する嫌がらせや暴力に ついて具体的に言及しておらず、罰則も25,000タカの罰金と限定的です |
その他、2009年に、高等裁判所は、大学のキャンパスや職場において女性に対するセクシャルハラスメントが蔓延していることに異議を唱えるバングラデシュ全国女性弁護士協会(BNWLA)による請願書を受け、職場及び教育機関におけるセクシャルハラスメントの禁止、防止及び是正に関する11ポイントの指令(以下「ガイドライン」)を発行しました(29 BLD HCD 415)。
(2) ガイドラインの概要
セクシャルハラスメントに関する啓発を目的とし、バングラデシュ国内の全ての職場及び教育機関を対象として発行されました。憲法は男女平等を保障しており、使用者の義務として、性的虐待及びハラスメントの犯罪を防止又は阻止するために有効なメカニズムを維持し、セクシャルハラスメントの犯罪の訴追のための効果的な措置を提供しなければならないとしています。
セクシャルハラスメントの定義には、性的な理由に基づく身体的接触、性的な意味合いをもつ言葉などによる表現、権限の濫用により性的な性質を伴う身体的関係を持つことを試みること、ストーカー行為、愛のプロポーズの拒否を理由として脅迫すること、脅迫によって性的関係をもつこと等、幅広い行為が含まれています。
全ての使用者、職場の責任者、教育機関は、セクシャルハラスメントを防止するための効果的な対策を講じなければならないとされ、i) セクシャルハラスメント禁止の効果的な周知、ii) ジェンダー差別及びセクシャルハラスメントに対する憲法の規定及び罰則規定についての周知、iii) 職場や教育機関が女性に対して敵対的な環境でないことを保証し、女性の労働者や学生が男性の同僚や学生と比較して不利な立場に置かれていないという自信と信頼を生み出すこと、が定められています。
また、セクシャルハラスメントに関する調査及び提言を行う5名以上で構成される苦情処理委員会を設置することとされています。同委員会の委員の過半数は女性で、適任者がいれば女性を委員長とするとしています。セクシャルハラスメントの被害者は、その事実が生じた日から30日以内に同委員会に訴えることができ、委員会は、苦情を受けてから原則として30日以内に、各組織の担当部署に調査報告書を提出しなければなりません。
7.フィリピン
職場におけるセクシャルハラスメントは、主に1995年反セクシャルハラスメント法によって規制されます。
反セクシャルハラスメント法では、被害者の行為への同意は重要ではなく、重要なのは、その行為が上司等権限や影響力のある立場の者によって行われたことである点には注意が必要です。被害者の同意があったからといって直ちに免責されません。
同法においてセクシャルハラスメントとされる行為には、以下のようなものがあります。
-
- 雇用の条件、または利益や特権の付与の前提条件となり得る性的要求、あるいは要求を拒否することで従業員や学生に悪影響を及ぼすような性的要求をすること
- 従業員に対して不快感、敵意または脅迫を感じる職場環境を作り出すような性的な行為
加害者を教唆、誘導、幇助した者は、その行為を行った者と同等の責任を負い、被害者からハラスメントについて知らされていたにもかかわらず、直ちに改善等の対応をしなかった場合、雇用主も責任を負う点には注意が必要です。
同法に基づくすべての行為は、1ヶ月から6ヶ月の禁固刑、または1万ペソから2万ペソの罰金、もしくはその両方で処罰されます。また、被害者は独自に損害賠償請求訴訟を起こすことができます。
なお、2019年Safe Spaces法が、より広く公共の場での性別に基づくセクシャルハラスメントを、加害者の意図に関係なく、「いかなる人に対しても望まれない性的な行為や発言」と定義し規制しています。これらは、職場においてなされる場合を含みます。
Safe Spaces法のよる罰則は反セクシャルハラスメント法に基づくものと比較して一般に軽いものとされていますが、Safe Spaces法に規定されるセクシャルハラスメントは、加害者が、権限や影響力がある者である必要がなく、より広範で一般的な定義となっていることには注意が必要です。Safe Spaces法ではオンラインでのセクシャルハラスメントも明記されています。
Safe Spaces法においても、雇用主は、性別を理由とするセクシャルハラスメント行為を行った場合の責任に加え、報告されたセクシャルハラスメントに対処しないことによる責任を負う可能性があります。
8.ベトナム
(1) 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等の措置
使用者は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの予防策及び対応策を策定しなければならないとされています(労働法6条2.d)。また、10人以上の従業員を使用する場合、就業規則を書面で作成し、かつ、各地方の労働局に登録しなければならないとされていますが(労働法118条1.、119条1.)、その就業規則の中で、「職場におけるセクシュアル・ハラスメントの予防・対応、職場におけるセクシュアル・ハラスメント行為の処分の手順、手続」について定めなければならないとされています(労働法118条2.d)。そして、使用者は、就業規則に違反してセクシュアル・ハラスメントを行った従業員を解雇することができます(労働法125条2.)。
一方、セクシュアル・ハラスメントの被害を受けた従業員は、事前に通知することなく雇用契約を一方的に解除することが可能です(労働法35条2.d)。
(2) 職場におけるセクシュアル・ハラスメント行為に対する制裁
職場でセクシュアル・ハラスメントを行った者については、政府より1500万〜3000万ベトナムドンの罰金が科されます。一方、家事代行業者(メイドサービス)や、家事代行業者を通すことなく直接メイドと契約して家事代行を依託している者がメイドに対してセクシュアル・ハラスメントを行った場合の罰金額は、5000万〜7500万ベトナムドンとなっています。
なお、これらの制裁が科されるのは、セクシュアル・ハラスメント行為が刑事訴追の対象とはならなかった場合です。刑事訴追の対象となった場合、最高で5年間の懲役刑が科される可能性があります。
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