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「COVID-19関連の規制状況及び入国規制並びに電子署名の法的整備状況と活用における課題」 TNY Group Newsletter No.29

第1.各国の国内のCOVID-19関連の規制状況及び入国規制

1.日本

1.1 COVID-19関連の規制状況

 8月25日、全国で296人の死亡、22万955人の感染が発表されています。特に行動制限は出されておらず、基本的な感染拡大防止対策(「三つの密」の回避、「人と人との距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗い等の手指衛生」、「換気」等)が求められ、ワクチンのブースター接種が推奨されています(新型コロナウイルス感染症対策(内閣官房HP))。

1.2 入国規制

(1) 外国人の入国制限について

外国人の入国について、下記(a)(b)又は(c)の新規入国を申請する外国人については、日本国内に所在する受入責任者が、入国者健康確認システム(ERFS)における所定の申請を完了した場合、「特段の事情」があるものとして、新規入国を原則として認めています。

(a) 商用・就労等の目的の短期間の滞在(3月以下)の新規入国

(b) 長期間の滞在の新規入国

(c) 観光目的の短期間の滞在の新規入国(旅行代理店等を受入責任者とする場合)

厚生労働省HP 外国人の新規入国制限の見直しについて

(2) 日本入国時の検疫措置について

 厚生労働省は、滞在していた国・地域を3区分(青・黄・赤)に分け、入国時の検疫措置を定めています。なお、これまで滞在していた国・地域にかかわらず提出が必須とされていた出国前72時間以内の陰性証明書は、9月7日午前0時(日本時間)以降のオミクロン株が支配的となっている国・地域からの全ての入国者について、提出が求められなくなります。

滞在していた国・地域の区分
有効なワクチン
接種証明
入国時の検疫措置
出国前検査
(全員必須)
到着時検査 待機

(タイ、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、メキシコほか)
問わない × ×

(ベトナム、インドほか)
あり × ×
なし 自宅3日間 ※1

(なし)
あり 自宅3日間 ※1
なし 施設3日間 ※2

厚生労働省HP 水際対策

※1 待機3日目に検査を受検し陰性を確認した場合。検査を受検しない場合は5日間。

※2 施設待機3日目に検査を受検し陰性であれば、待機解除。

 

2.タイ

2.1 COVID-19関連の規制状況

タイのCOVID-19の累計感染者数は4,641,263名です。この内、4,591,063名が回復し、累計死亡者数は32,141名となっています。現在、1日の感染者数の週平均は1,800人程度で推移しています(8月25日現在)。

2.2 入国規制

7月1日以降は、入国時に、ワクチン接種証明書(規定回数接種済みの場合)または渡航前72時間以内に受検した陰性証明書(英文)の提示をすれば、隔離措置等もなく入国ができるようになっています。

ワクチン未接種・未完了および陰性証明書を保有していない場合であっても入国はできますが、入国後、担当官の指示に従う必要があり、検査を求められる場合があります。

2.3 日本入国規制

 5月26日に、日本政府は、6月1日以降の日本入国時の水際措置の変更を発表いたしました。

 タイは「赤」、「黄」、「青」の区分の内、一番リスクの低い「青」区分に指定されています。日本への入国時に必要とされていた、入国時検査およびワクチン3回未接種者の入国後原則7日間の自宅等待機期間は廃止されております。

 ただ、日本入国時の渡航前72時間以内の有効な検査証明書の提示は引き続き必要とされますので、ご注意下さい。

詳細については以下をご参照下さい。

外務省海外安全ホームページ

 

3.マレーシア

3.1 COVID-19関連規制

 8月24日の新規感染者数は、2,636人でした。直近7日間(18日~24日)の平均は2,894人であり先月よりも減少しています。マレーシア政府は、現在はエンデミックの段階にあるとして、以前のMCO(新型コロナウイルス流行に伴い設けられた活動制限令)下で導入されていた厳格な活動制限等の規制は撤廃されています。現在は、屋内や公共交通機関等でのマスクの着用義務や店舗入店時のMySejahteraアプリ(マレーシア政府開発の新型コロナウイルス対策アプリ)の提示、ソーシャルディスタンスの要請などに留まります。

3.2 入国規制

 3月までは、労働ビザを持つ者や永住者等一部の外国人に入国を認めていましたが、4月1日からは観光目的の入国が可能となっています。

 これまで、ワクチン接種未完了者には、渡航前の陰性証明書の取得及び入国後検査及び隔離が必要とされていましたが、8月1日からはこれらの手続が不要となりました。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、MySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力が引き続き要請されています。また、ショッピングモール等施設によっては、ワクチン接種歴を確認されることがあるため、MySejahteraアプリへワクチン接種証明を反映させておくことが推奨されます。

 

4.ミャンマー

4.1 COVID-19 及びクーデターの規制状況

  COVID-19 の陽性率は低くなり、感染状況は落ち着いております。また、夜間外出禁止令について、22時以降が禁止されていた規制が24時以降の外出禁止となり、緩和されました。

4.2 入国規制

国際旅客便の着陸禁止措置が4月17日で解除され、タイやマレーシア等の周辺国からのフライトの運航が再開されています。日本からの直行便のANA便は直行便が廃止になり、6月よりタイ経由便が再開されました。

e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。入国後の隔離措置について、2回以上のワクチン接種を行っている場合には入国48時間前の陰性証明書が不要となっていましたが、8月1日より再度必要になりました。空港到着時の迅速抗原検査(RDT 検査)も必要です。もっとも、指定の施設等での隔離は陽性にならない限りは不要となっています。

 

5.メキシコ

5.1 COVID-19関連の規制状況

7月後半よりCOVID-19新規感染者数は減少傾向に転じ、懸念された第5波は落ち着きを見せています。連邦政府による新たな規制はありません。

5.2 入国規制

メキシコへの入国について、政府による外国人への入国制限等は行われていません。

 

6.バングラデシュ

6.1 COVID-19関連の規制状況

 バングラデシュでは、8月26日時点で、24時間以内に報告されたCOVID-19による死亡は1名、陽性者は196名で、陽性率は4.15%です。

6.2 入国規制

 WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。

 また、バングラデシュに入国するすべての者は、渡航出発前3日以内にオンライン上(https://healthdeclaration.dghs.gov.bd/)で必要事項を入力し、QRコード付きの健康申告書(Health Declaration Form)の画像データ又は印刷したコピーを、入国後にイミグレーションで提示する必要があります。

 また、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い停止していた到着時ビザ(オンアライバルビザ)は、全面再開されています。

 

7.フィリピン

7.1 COVID-19関連の規制状況

 フィリピンの COVID-19 感染者は累計386万7071人で、死者数は累計61,519人です(2022年8月25日現在)。新規感染者は2021年の年末以降急激に増加し、2022年1月中旬をピークとしてその後減少傾向にあるものの、最近はやや増加傾向にあります。現在は1日約3,000~4,000人程度の新規感染者が報告されています。

7.2 入国規制

 ワクチン接種等の要件を満たす外国人の、商用・観光目的の査証免除による入国及び既存の有効な査証による入国が認められています(日本は査証免除対象国です)。出発国出発日時から14日間以上前に、2回接種するワクチンを2回接種済みであること、あるいは1回接種するワクチンを接種済みであることが必要です。また、フィリピン到着時、出発国出発前48時間以内の陰性のポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査結果、または検査室における24時間以内に陰性の抗原検査を提示することが必要です。

さらに、4月1日00時01分以降、海外から入国する外国人は入国免除文書(EED)を必要とせずにフィリピンに入国することができます。

 

8.ベトナム

8.1 COVID-19関連の規制状況

 ベトナムにおける2022年8月26日午前9時の時点での累計感染者数は1139万2859人で、1か月前の7月26日の時点より62万4015人増加しました。6月25日から7月26日までの間の感染者数の増加は2万5953人だったことから、数字の上ではこの1か月で大幅に増加したことになりますが、これは、一部地域においてこれまで計上していなかった人数をまとめて計上したことが原因であると考えられます。このような要因を除けば、ベトナムにおける新規感染者数は大幅に減少しています。ただ、今年6月頃の時点では多くの日で1000人を下回っていましたが、7月下旬頃からはやや増加傾向にあり、8月に入ってからは、多い日で3000人を超えることもあります。

 ベトナムでは、4月頃から社会・経済活動や市民生活における新型コロナに関連する規制はほぼ撤廃されています。日常生活におけるマスクの着用は一応推奨されていることから、多くの市民は外出時にマスクを着用していますが、着用していない者も少しずつ増えているように思われます。

8.2 入国規制

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(すなわち観光目的であっても)、

・ ベトナム滞在期間が15日以内であること

 ・ ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること

 ・ ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと

という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。

 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。

 また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。

8.3 ベトナムから日本への帰国者・入国者に対する規制

 日本では、8月26日現在、国籍を問わず外国からの入国者に対する水際対策措置が実施されており、ベトナムは「黄」区分に指定されています。したがって、ワクチン3回目接種者については、入国時検査を実施せず、入国後の自宅等待機も不要となっています。ワクチン3回目接種者でない場合は、入国時検査を実施した上で、原則、7日間の自宅等待機を求めることとし、入国後3日目以降に自主的に受けた検査の結果が陰性であれば、その後の自宅等待機の継続を求めないこととされていいます。

 なお、現在は、ベトナム出国前72時間以内の陰性証明書の取得、提示が必須ですが(陰性証明書がない場合、航空機への搭乗が認められません。)、9月7日午前0時(日本時間)より、ワクチン3回接種者については陰性証明書の取得、提示が不要となります。

第2.各国の電子署名制度と活用における課題

1.日本

  1. 法制度

      (a)電子署名を規律する法律

電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)(以下、「電子署名法」といいます。)が2001年4月に施行されました。

      (b)電子署名の定義

電子署名は、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識できない方式で作られる記録であって、電子計算機による処理の用に供されるものをいう。)に記録することができる情報について行われる措置で、次の2つの要件を充たすものと定義しています(電子署名法2条1項)。

電子署名法では、電子署名を行う特定の方法を指定していないため、この要件に合致するものは全て電子署名となります。

     (c)電子署名が可能な文書

基本的に契約の方式は自由なので、法律に特別の規定がない限り(民法522条2項)、契約書を電子的に作成して、それに電子署名することができます。しかし、法律で「書面」による作成、交付、保存すること等が求められている場合には、「書面」に代えて「電磁的記録」によることが可能であるとの規定(例えば保証契約に関する民法446条3項)がない限り、物理的な書面が求められているため、電子署名もできません。 

      (d)文書の成立の真正の判断基準

文書に作成者の署名または押印があることでその文書が作成者の意思に基づき作成したことが推定されます(民事訴訟法228条1項)が、電子文書に関しては、上記の①②を充たす電子署名が以下の要件を充足した場合に、文書の成立の真正が推定されます(電子署名法3条)。

              a. 当該電磁記録に記録された情報について本人による電子署名が行われていること

              b. 電子署名を行うために必要な符号及び物件を管理することにより、本人だけが行うことができるもの

因みに、電子署名法2条3項の規定する「特定認証業務」による認証を受けた電子署名は、国の定める一定の技術水準を充たすものですが、③④の要件を充たすことを認証するものではいため、その電子署名が付された文書が真正に成立したものとの推定を直ちに受けるものではありません。

     (2)課題

     (a)推定の及ぶ電子署名

電子署名は、そのサービスを提供する業者(ベンダー)を通じて行うこととなり、主に「当事者署名型」と「事業者(立会人)署名型」と称されるサービスがあります。当事者署名型とは、公開鍵等からなる技術的な仕組みの下、第三者である電子認証局が本人確認を行った上で発行した電子証明書を用いて各利用者が電子署名を行うものです。これは、電子署名法制定当時に想定されていた方式で、上記①②の要件を備える電子署名に該当し、一般的に③④の要件も備えているものと考えられます。一方、事業者署名型は、利用者自身の電子署名を使用しない方法で、例えばベンダー自身の署名鍵を用いて、電子文書の暗号化等を行った上で、そのシステム上で契約を締結するものです。

電子署名は、物理的な契約書の印刷・送付・保管等の経費や押印手続等の事務作業にかかる人件費の削減に貢献しますが、当事者署名型の利用には、契約当事者双方が電子証明書を入手する必要性、本人確認の手間、電子証明書の有効期間の短さ等の負担があり、利用者に簡便な事業者署名型は、上記①の本人性が認められず、電子署名法3条の推定も受けないと解釈されてきたために普及が遅れていました。

しかし、2020年に発表された総務省、法務省、経済省連名による政府見解(「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵よりより暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」)により、ベンダーの意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合で、付随情報が確認できる等の電子文書に付された情報を含めた全体を一つの措置として利用者の意思に基づいていることが明らかな場合には、上記①の要件を充たす電子署名法2条1項の電子署名に該当すること(2020年7月17日付Q&A Q2)、更に、利用者とベンダー間で行われるプロセスで二要素認証等が行われ、かつ、利用者の行為を受けてベンダー内部で行われるプロセスで暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕込みがとられる等によって、いずれのプロセスにおいても十分な水準の固有性が充たされる場合には電子署名法3条にも該当すること(2020年9月4日付Q&A問2)が明らかにされました。

この政府見解によって、事業者署名型への信頼が高まり、電子署名を用いる障壁は相当程度軽減されました。しかし、ベンダーの提供するサービスは様々で、成立の真正の推定を受けるかは個別的判断が必要で、利用者にその確認・証明することが求められるため、推定を受ける電子署名の技術的な基準やその認証についての法制化が望まれています。

      (b)その他の懸念

電子署名といえども、ハンコの冒用と同様になりすましや無権代理の危険はあり、秘密鍵やその利用のためのパスワード等の管理に留意する必要があります。

また、電磁的情報の利用に特有な、技術的な進展に応じた非改竄性を確保するための恒常的な改良、不正なアクセスによる情報漏洩や消滅等のリスクへの対応等の最新の情報セキュリティを確保していくことが課題とされています。

 

2.タイ

タイにおける電子署名を規律する法律としては、2001年電子取引法(Electronic Transactions Act, B.E. 2544(2001))があります。また、2019年電子取引法(Electronic Transactions Act (NO.3), B.E.2562(2019))によりその規定の一部が改正されています。タイでは、法律上の要件を満たせば電子署名は有効とされています。

(1) 電子署名の定義

電子署名は、「署名をした特定の人物がそのデータメッセージに含まれる情報を承認したことを示すことを目的とした、電子形式で作成された、文字、数字、音、またはその他の記号であり、署名者とデータメッセージの関連性を確立するものである」と定義されています(2001年電子取引法4条)。

(2) 電子署名の有効性

電子署名の有効性については、2001年電子取引法9条および26条に定められており、規定の要件を満たした場合に電子署名が有効であると解されます。

以下の場合に、電子署名がなされたとみなされます(同法9条(2019年電子取引法7条))。

i 署名者を識別し、データメッセージに含まれる情報に関する署名者の意図を示すことができる方法が使用されていること

ii 以下のいずれかの方法が使用されていること

(a)関連する合意を含む周辺状況を考慮して、データメッセージが生成または送信された目的のために適切であると信頼できる方法

(b)署名者を特定し、iに基づいて署名者の意図を示すことが、それ自体で、または追加の証拠とともにできるその他の方法

以下の要件を満たす電子署名は、信頼できる電子署名であるとみなされます(同法26条)。

ⅰ 作成された電子署名が、その使用された文脈において、他者に紐づけられることなく、署名者本人に紐づけられていること

ii 作成された電子署名が、電子署名の作成時において、他者の管理下になく、署名者本人の管理下に置かれていたこと

iii 電子署名の作成後に生じた変更を検出できること

iv 法律上の要件として、電子署名が情報の完全性を保証するものであることを定めている場合において、電子署名作成時以降の情報の変更が検証できること

    (3)電子署名が認められる文書の範囲

一般的には、電子署名は幅広い範囲で認められています。

2001年電子取引法では、法律上、書面が求められる場合であっても、情報が、その意味を変更することなく後で参照するためにアクセス可能で使用可能なデータメッセージの形式で生成された場合には、法律で要求される書面で作成されたとみなされる旨規定されています(同法8条(2019年電子取引法6条))。

もっとも、いくつか例外があり、法律上書面が要求される文書、たとえば、不動産売買契約、3年を超える賃貸期間の不動産賃貸借契約、抵当権設定契約等については、電子署名を使用することができません。

また、一部の大規模な民間企業や歳入庁などの政府機関は、サービスプロバイダー(2001年電子取引法28条)によって認証された電子署名のみ認められているため注意が必要です。

(4) その他の電子署名の使用の注意点

電子署名の署名者は、電子署名作成に使用したデータが許可なく使用されないよう合理的な注意を払うこと、電子署名作成に使用したデータが消失、損壊、変更、不正に公開された、または漏洩した場合には、電子署名によって何らかの行為を行う者に対して通知すること等の義務が課されるため注意が必要です(同法27条)。

 

3.マレーシア

 マレーシアにおいては、電子署名を規定する法令として、Electronic Commerce Act 2006(以下、「ECA」という)及びDigital Signatureは、Digital Signature Act1997が存在します。本稿では、より利用者が多いと考えられるECAに基づく電子署名について紹介します。

(1) 電子署名の定義

 ECAにおいては、electronic signature(以下「eSignature」という)は、人が署名として採用する電子的な形式で作成された文字、記号、数字、音、その他の符号、又はそれらの組み合わせと定義しています(ECA5条)。

(2) 電子署名の有効性

 ECA9条1項では、法的に文書に署名を要求する場合、当該文書が電子文書の形式であれば、以下の要件を満たす場合にeSignatureが有効となると規定しています。

  1. 電子文書に添付されるか、又は論理的に関連付けられている
  2. 署名者個人を適切に識別し、かつ、署名に関連する情報に対する署名者個人の承認を適切に示していること
  3. eSignatureが必要とされる目的及び状況を考慮して適切に信頼できるものであること

 また、ECA9条2項では、上記③のeSignatureが信頼性を有する場合の要件を以下の通り規定しています。

  1. eSignatureの作成手段が署名する人物にのみ関連付けられ、その者の管理下にあること
  2. 署名後に加えられた当該署名に対するいかなる修正も検知可能であること
  3. 署名後に加えられた文書に対するいかなる修正も検知可能であること

 9条2項②③の署名後の署名又は電子文書に対する修正(偽造)への検知可能性の要件については、どのような制度を設ければよいのか法令上明確ではありません。この点についての行政の正確な解釈を確認することは難しく、マレーシアローカルの法律事務所が執筆したECAに関する記事によると、署名後の偽造防止機能を有するソフトを導入している場合は、当該要件を満たすのではないかと記載するものがあります。また、同記事では、電子文書にPDFの署名を添付するだけでは不十分ではないかとも記載しています。ECAの要請に基づき署名の信頼性を担保するため、偽造防止又は署名後の修正を検知できる機能を有するソフトを導入することが望ましいといえます。

(3) eSignatureを使用できない文書

 ECA2条及びScheduleにて、委任状、遺言、信託、有価証券には適用されないと規定しています。

 

4.ミャンマー

(1) 電子署名に関する法律

ミャンマーにおける電子署名を規律する法律としては、電子取引法 (Electronic transaction law 2004/5)および改正証拠法(Amending Law on Evidence Act (73/2015))があります。ミャンマーでは、電子署名は法的に有効ですが、政府機関に対しては、特定の取引を除き、電子署名の使用が認められておらず、実質的に使用が制限されています。

(2) 電子署名の定義

電子署名とは、「電子記録の情報源の真実性および修正または差し替えがないことを確認するための、電子技術またはその他の類似の技術によって個人または代理人により作成された記号またはマーク」と定義されます(電子取引法2条(f)項)。

また、電子記録とは、「電子的、磁気的、光学的、その他の同様の技術によって、生成、送信、受信、または保存された情報システム内の記録」と定義されます(同法2条(c)項)。

(3) 電子署名の有効性等

電子署名は、法律上の要件を満たせば有効であるとされます(電子取引法19条(a)項および(b)項)。また、裁判所において法的に有効な証拠とされます(改正証拠法67A条)。

電子署名が有効とされるためには、発信者および受信者は、規定された手段または両者の間に別段の合意がある場合にはその合意の手段に従って、電子記録、電子データメッセージまたは電子署名を送信、受信または保存をしなければならないとされています(電子取引法20条)。

また、署名者は、電子署名と電子データメッセージの関係を識別する証明書を取得するために認証機関に申請する必要があります(同法16条)。

なお、署名者は、電子署名の復号化により有効な署名を用いる場合に、他人によって違法に使用されないように注意する、付与された期間中に電子署名のために発行された証明書を使用する際に、署名者に関連する事実または差し込まれた事実が完全に正確であるように注意する義務が課されています(同法17条(a)、(b)))。そして、署名者は、これらの義務に違反したことにより生じた損害および損害の結果について責任を負うとされています(同法18条)。

(4) 真実性の判断

電子署名の真実性の判断は、電子取引法により設置された電子取引管理委員会によって行われます。

 

5.メキシコ

(1) 電子署名の根拠法および定義

商法(Código de Comercio)によると、電子署名とは、電磁的記録に含まれ、添付され、または論理的に関連付けられた電子形式のデータで、電磁的記録に関連して署名者を特定し、署名者が電磁的記録に含まれる情報を承認することを示すために用いられ、手書きの署名と同じ法的効果を生じ、法廷での証拠としても認められるものと定義されています。

電子署名のうち、後述(3)記載の要件を満たす電子署名は「高度または信用性がある電子署名(Firma Electrónica Avanzada o Fiable)」として区別されています。

さらに、高度電子署名法(Ley de Firma Electrónica Avanzada)において、署名者を識別することができるデータと文字の組み合わせで、署名者の排他的な支配下で電子的手段により作成され、本人および参照するデータのみにリンクされ、その後のこれらの変更が検出可能で、自筆の署名と同様の法的効果をもたらす署名が「高度な電子署名(Firma Electrónica Avanzada)」として定義されています。メキシコ国税庁(Servicio de Administración Tributaria)が発行する電子署名e.firmaは、同法の適用を受ける高度な電子署名になります。

(2) 電子署名の有効性

電子署名の有効性に関しては、当該電子署名を含む電磁的記録が商法の規定等に準拠していることを条件に、その電磁的記録は、紙面上作成署名された文書と同じ法的効果を持つとされていることから、電子署名は自筆の署名と同等の効果を有すると考えられます。また、同様に、高度電子署名法においても、高度な電子署名が付された電子文書および電磁的記録は、自筆の署名が付されたものと同じ効果を有するとされています。

商法においては、電子署名による署名者の義務として、電子署名を作成するために使用する秘密鍵等データの不正利用を防止するために真摯に行動し、合理的な手段を確立することや、署名者と秘密鍵のつながりを確認する証明書の有効性や内容の正確性を確保するために、合理的な注意を払って行動することなどが求められています。

(3) 高度または信用性がある電子署名

次の要件を満たした電子署名は、上述の高度または信用性がある電子署名とみなされます。

ただし、当該電子署名の信用性が争われた場合、以上の要件にかかわらず、当該電子署名に信用性が認められる他の事情を明らかにすることによって、電子署名の信用性があることを証明することもできます。また、上記要件を満たす場合であっても、署名者の承諾の意思表示が表れていないとして、当該電子署名の信用性を争う証拠を提供することも可能とされています。

さらに、メキシコ以外の国で作成または使用された電子署名については、同等の信用性があれば、メキシコで作成または使用された電子署名と同様の法的効果をメキシコにおいても有するとされています。

(4) 活用における課題

メキシコでは、民間の商取引等において電子署名が用いられる例は、まだまだ少ないと感じています。メキシコ企業が電子署名の採用を見送る要因としては、従前紙面上で自筆により行われた署名からの変化に対する抵抗や電子署名の利点を認識できていないなどといった理由が多いと言われています。

しかし、COVID-19のパンデミック以降、電子署名を採用する企業も増えてきており、メキシコでの電子署名の活用の流れは進むものと思われます。

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでは、電子署名について、情報通信技術法(Information & Communication Technology Act 2006 (以下「ICT法」という)、情報技術規則(認証機関)(Information Technology (Certifying Authority) Rules 2010)、国家情報通信技術政策(National Information and Communication Technology Policy 2018)、認証機関向けの電子署名ガイドライン(E-Sign Guidelines for the Certifying Authority 2020)等にて規定しています。

  1. 電子署名の定義

 ICT法の2条(1)では、電子署名は、署名者に独自性を加え、署名及びその後データに加えられた変更を識別することができる電子形式のデータであると定義しています。

      2. 電子署名の登録 

 バングラデシュで電子署名を使用するには、ICT法36条に従って、認証機関から電子署名証明書を取得する必要があります。電子署名サービスの利用を希望する者は、パスポート サイズのカラー写真2枚、IDカードまたはパスポートの認証済みの写し、および住所を証明する書類を認証機関に提出し、アカウントを開設しなければなりません。申請内容を確認した後、認証機関は5~7営業日以内にアカウントを開設し、署名者に暗号トークンとソフトウェアアクセスを提供します。アカウントを設定した後、署名者はソフトウェアをダウンロードして PIN を受け取ります。

      3. 手書き署名が求められる場合

 バングラデシュでは、法律により電子的に署名または締結できない文書や契約があり、署名する者が政府職員に対面することや、手書きの署名とともに拇印が求められる文書として、i) 遺書、ii) 委任状(Power of Attorney)、iii) 不動産に関連する売買契約、iv) 印紙税が支払われる契約、v) 公証人の前で署名および/または立会いが必要な書類、vi) 宣誓供述書コミッショナーの前で宣誓する必要がある法的手続きに関する文書が挙げられます。

     4. 実務における電子署名の利用状況

 バングラデシュでの会社設立や事業を管理する政府機関である商業登記所(RJSC)は、電子署名を受け入れており、ウェブサイトに情報が提供されています。しかしながら、実務において、電子署名の普及は限定的で、多くの場合、電子署名は「スキャンした署名」という意味で解釈されています。

 

7.フィリピン

  1. 電子署名制度の概要

フィリピンでは、電子商取引法(the E-Commerce ACT)に基づき、電子署名制度は、従来の手書きの署名制度と同等のものとして認識されています。

電子署名は、以下の要件を満たす場合、手書きの署名と同等の効力を有します。

(a)利害関係者が当該文書を改ざんできない所定の手続に基づくこと(電子商取引法第8条)。

(b)契約当事者を特定することができ、かつ、当該当事者が電子署名を通じてされる同意または承認についての電子文書にアクセスできることを示された方法に基づくこと(電子商取引法第8条[a])

(c)(b)に記載された方法が、関連する合意を含む全ての状況に照らして、電子文書の作成目的に応じた信頼性があり適切であること(電子商取引法第8条[b])

(d)契約当事者が、電子署名を実行すること(電子商取引法第8条[c])。

(e)相手方が、電子署名を検証し取引を進める決定をしたこと(電子商取引法第8条[a])

なお、電子署名とは「変換されていない最初の電子文書と署名者の公開鍵を持つ人が正確に判断できるような、非対称暗号システムまたは公開暗号システムを用いた電子文書または電子データメッセージの変換からなる電子署名」と定義されています。

    2. 電子署名による契約の有効性

電子署名による契約は、電子文書として、電子商取引法のもとで法的に有効とされています。また、電子文書は、書面により作成された文書と機能的に同等であるとされています(RCBC Bankard Services Corp. v. Oracion, Jr., G.R. No. 223274, 19 June 2019)。

電子署名による契約が有効であることを証明するためには、以下の手段が考えられます。また、電子証拠法に関する規則に基づき、陳述書を提出する必要があるとされています(電子証拠規則第9条1項)。

(a)当事者が使用し、検証した電子署名に関する証拠を提出すること(同規則第6条第2項)。

(b)その他法律で定められた証拠を提出すること(同規則第2条[b])

(c)電子署名の真正性を立証するその他の証拠を提出すること(第2条[c])

 

8.ベトナム

(1) 電子署名の法的位置付け

 紙媒体を使用しない電子的な取引について、ベトナム民法には、「電子取引に関する法令の規定に基づくデータ通信の形式による電子的手段を通じた民事取引は、文書による取引とみなされる」と規定されています。この規定を受けて、電子取引法や電子署名及び電子署名認証に関する政令が制定されており、その中で、電子署名に関する種々の要件(公開鍵方式を採用していること、当局からのライセンスを受けた認証局運営事業者が発行する電子署名についての電子証明書が発行されることなど)が定められています。

 したがって、例えば契約書を紙媒体を使用せずに電子的に作成した場合において、契約当事者双方が契約のデジタルデータに法令の要件を満たす電子署名を付したときは、有効な署名が付された契約書が作成されたものとみなされ、将来、仮にその契約に関する紛争が生じたとしても、裁判手続などにおいて契約の成立自体が否定されることはありませんし(もちろん、契約書の作成や署名の存否以外の要因により契約の効力が争われることはあり得ます。)、税務上も、有効な契約が存在することを前提として処理されます(したがって、その電子契約に基づいて法人の事業に関する支出がなされたのであれば、その支出は法人の損金として計上されることになります。)。

(2) 電子署名活用における課題

 このように、ベトナムにおいても、法令上は電子署名や電子取引に関する法制度が整備されていますが、有効な電子署名とされるためには、ライセンスを受けた認証局運営事業者との間で電子署名、電子証明書発行に関する契約を締結する必要があるため、電子署名は必ずしも広く普及しているとは言い難い状況です。また、法令の要件を満たす電子署名を付さずに作成された電子的な契約書(印刷した契約書に署名押印し、これをスキャナで読み取ってPDF化しただけのものや、契約書データの署名押印欄に画像化した署名押印を貼り付けただけのものなど)の法的な位置付けについては曖昧な状況であり、裁判手続などで契約書が存在しないものとして契約の成立自体が否定される可能性もないわけではなく、また、税務上も、上記のような法人の損金算入が認められるかどうかについても明確ではありません。

 したがって、ベトナムでは、多くの取引において、契約書に関してはまだまだ紙で作成される場合が圧倒的に多いという状況です。

 

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