「各国のトピック、最新の法令等の紹介」TNY Group Newsletter No.79
1.日本
(1) 公益通報者保護法改正の施行(2026年12月1日)
公益通報者保護法の改正法(令和7年法律第62号)が2025年6月に成立・公布され、2026年12月1日から施行されます。内部通報制度の実効性を高めるため、保護対象の拡大、不利益取扱いの抑止や救済の強化、公益通報を阻害する要因への対処、事業者の体制整備等について、見直しが行われています。
(2)主な改正内容
改正法は、①フリーランス(特定受託業務従事者及び契約終了後1年以内の者)を公益通報者として保護対象に追加し、②公益通報を理由とする解雇・懲戒は無効とするとともに、通報から1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とするものと推定する規定を新設し、これに違反した場合の刑事罰(個人:拘禁刑6か月以下又は罰金30万円以下、法人:罰金3,000万円以下)を新設しました。また、③正当な理由なく通報をしない旨の合意等を無効とすること、及び④正当な理由なく通報者を特定することを目的とする行為を禁止することが新たに定められています。さらに、⑤常時使用する労働者が300人を超える事業者が従事者指定義務等に違反した場合には、勧告・命令・立入検査が可能となり、命令違反や検査拒否には刑事罰が科されます。
(3)実務上の留意点 退職合意書・就業規則上の守秘義務条項が通報妨害と評価されないか、解雇・懲戒を行う際に通報と無関係であることを示す記録を整備できているか、フリーランスも通報対応の対象に含める体制となっているか等、施行に向けて点検しておくことが望ましいと考えられます。
2.タイ
(1)外国人ノミニー(名義貸し)事業の取り締まりの強化
前回ご紹介した中央パートナーシップ・会社登記所命令No.2/2569(名義株主防止のための設立・変更登記基準の厳格化)は、単独の措置ではなく、今年に入ってタイ政府が推進している外国人ノミニー(名義貸し)事業の取り締まり強化の一環であるといえます。
(2)外国人事業法上の規制と取り締まり強化の動き
ア 外国人事業法第36条は、規制業種に投資しようとする外国人のために、タイ人が名義上の株主・取締役となる等の方法で協力する行為を禁止し、罰則として、名義を貸したタイ人及び実質的支配者である外国人の双方に対し、3年以下の懲役若しくは10万バーツ以上100万バーツ以下の罰金又はこれらの併科を定めています。違反状態が継続する場合には1日当たり1万〜5万バーツの追加罰金が科され、裁判所は事業停止や会社解散を命じることもできます。
イ 実際の摘発例をご紹介します。2024年にプーケットで名義貸しによる会社設立を斡旋していた法律・会計事務所が特別捜査局(DSI)の捜査を受け、約60社に名義上の取締役・株主を提供し、うち不動産関連会社の資産総額が4億4,000万バーツに上るとして23人が有罪判決を受けています(当初の懲役10年は、被告人らの自白により5年に減刑、2年間執行猶予)。また、サムットプラーカーン県でも、中国人投資家のためにタイ人名義で会社を設立したとして、会計事務所関係者を含むタイ人・外国人合計72人が摘発されています。
(3)実務上の留意点
タイ人株主を含む会社においては、出資金の原資や実際の意思決定権限について、形式面だけでなく実態面からの点検を進めておくことが望ましいと考えられます。
3.マレーシア
⑴ 汚職防止委員会法の概要
マレーシアでは、汚職防止規定として、2009年汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009)が制定されています。同法は2018年に改正法(Malaysian Anti-Corruption Commission[Amendment] Act 2018)が制定され、同改正法(以下「MACC法」といいます。)は2020年6月に施行されました。MACC法は汚職防止委員会等の設置を通じて、公共部門及び民間部門の運営における廉潔性の向上及び説明責任を拡大させることなどを目的としています(MACC法2条)。
⑵ 賄賂の定義
MACC法の規制対象となる行為は、不正な便益(gratification/bribery、以下では「賄賂」という表現を用います。)の収受、あるいは供与を行うことです。賄賂とは、職務の対価として受け取る不正な報酬としての利益をいい、金銭や動産、不動産などの有形のものに限らず、職のあっせん、刑事罰の免除などの無形のものも含まれます(MACC法3条)。
⑶ 賄賂の要求・収受・供与等
MACC法は、汚職行為の規制を受ける主体を公務員(officer of public body)に限定していません。すなわち、何人も、自己又は第三者のために、自己が何等かの事項に関して、何等かの行為を行い又は行わないことについて、あるいは、公務員が公共団体が関与する何等かの事項に関し、何等かの行為を行い又は行わないことについて、不正に賄賂を要求し、収受しもしくは約束した場合には、犯罪行為として罰則の対象となります(MACC法16条)。
また、他人が何等かの行為を行いまたは行わないことについて、自己又は第三者のために、その他人又は第三者に対して、不正に賄賂を申し出、供与しもしくは約束した場合にも、犯罪行為として罰則の対象となります(同条)。
⑷ 公務員・外国公務員の特定の行為に関する汚職行為
MACC法は、一般的・包括的な汚職行為に加えて、公務員に関する汚職行為についても規制しています。すなわち、何人も、自己又は第三者のために、公務員に対して、公務員として一定の職務に関する行為を行い又は行わないことについて不正に賄賂を供与(以下「供与等」といいます。)し、申し出、もしくは約束すること、及び公務員が一定の行為を行い又は行わないことについて、不正に賄賂を要求し、収受しもしくは約束すること(以下「収受等」といいます。)は、犯罪行為として罰則の対象となります(MACC法21条(a)~(d))。
外国公務員の場合も同様に、自己もしくは第三者を通じて、または共同して、外国公務員に対して、外国公務員として一定の職務に関する行為を行い又は行わないことについて不正に賄賂を供与等すること、及び外国公務員が一定の行為を行い又は行わないことについて、不正に賄賂を収受等することは、犯罪行為として罰則の対象となります(MACC法22条(a)~(c))。
⑸ 入札の撤回に関する汚職行為
公共団体と民間の間の請負契約や売買契約について入札を行う者との間で、公共団体との契約のために入札を行った者に対して入札を撤回するための誘引または見返りとして利益を供与すること及び契約の入札を撤回することの誘引または見返りとして利益を要求し、もしくは収受することは、犯罪行為として処罰対象となります(MACC法20条(a)・(b))。
⑹ 偽造文書に関する汚職行為
ある者が、本人(雇用主、所属団体)を誤解させる意図をもって虚偽、もしくは重要な点での誤りがある領収書もしくは帳簿、その他本人が関心のある文書を代理人や所属団体の職員に交付する行為、または代理人が本人を欺くためにそれらの文書を利用することは、犯罪行為として処罰対象となります(MACC法18条)。
⑺ 商業団体関係者の汚職及び商業団体の抗弁
MACC法17A条は、商業団体関係者が、他人に対して、当該商業団体のために事業の獲得もしくは維持する目的で、または当該商業団体のために事業を遂行するうえでの便益を獲得し、もしくは維持する目的で、不正な利益を供与等した場合、当該商業団体自体を処罰することを定めています(同条⑴)。
規制の対象となる商業団体としては、マレーシア会社法又は外国法に基づき設立され、マレーシア若しくは他国で事業を営む会社などが(同条⑻)、商業団体関係者としては、商業団体の取締役、共同経営者(パートナー)・従業員、商業団体のために業務を行う者・商業団体の代理人などが挙げられています(同条⑹)。
⑻ 商業団体等が汚職行為を行った場合の取締役等の責任
商業団体に違反が認められた場合、違反行為時点において役員または共同経営者であった者、商業団体の業務管理に関与する地位にあった者は、当該行為がその者の同意または黙認なく行われたこと、かつその者の地位における職責と状況に鑑みて、当該行為を防止するための適切な措置(due diligence)を講じたことを証明しない限り、その者も違反したものとみなされます(MACC法17条A⑶(a)(b))。
⑼ 商業団体の抗弁
商業団体関係による汚職行為について、当該商業団体は、商業団体関係者による汚職行為を防止するための適切な手続(adequate procedures、以下「適切な手続」といいます。)を講じていたことを証明することにより、当該商業団体の犯罪成立を回避することができます(同条⑷)。
⑽ 適切な手続きに関するガイドライン
首相府は、MACC法17A条⑸に基づく適切な手続に関するガイドライン(guidelines on adequate procedures pursuant to subsection(5) of section 17A under the Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009)を発行しています。
本ガイドラインでは、商業団体が同条⑴により罪に問われる可能性がある場合において、その犯罪成立を回避するための具体的な防御策を提供しています。 他方で本ガイドラインに記載されている具体的防御策は、商業団体の規模や業種に応じて柔軟に適用されるべきとされています。したがって、本ガイドラインに記載されている事項の一部を遵守・履践していなかったとしても、商業団体の規模や業種によっては、適切な手続を講じていたと判断され得ます。
4.ミャンマー
第1.ミャンマーにおける問題社員への対応と雇用終了時の留意点
ミャンマーで事業を運営する日系企業にとって、無断欠勤、業務命令違反、勤務態度不良、業務成績不良などの問題を抱える従業員への対応は、人事労務管理上の重要な課題です。対応を誤ると、労使紛争や解雇の有効性をめぐる争いに発展するおそれがあるため、問題が発生した段階から適切な手順を踏むことが重要です。
1.問題行為の記録と事実確認
問題社員への対応では、まず、問題となる行為の日時、具体的な内容、会社への影響などを記録し、客観的な証拠を確保することが重要です。例えば、無断欠勤であれば勤怠記録や本人への連絡履歴、業務命令違反であれば指示内容や本人の対応状況を保存します。
また、上司や同僚の報告だけで判断せず、本人から事情を聴取し、正当な理由の有無を確認することが望まれます。業務成績不良の場合には、求められる業務水準や具体的な未達事項を明確にし、本人に改善の機会を与えた記録を残すことも有益です。
2.警告と段階的な懲戒対応
ミャンマーの標準雇用契約書の規定・運用上、通常の違反行為については、原則として段階的な警告手続が重要となります。一般的には、最初の違反に対する口頭警告、2回目の書面警告、3回目の誓約書への署名という段階を経て、その後12か月以内に違反が繰り返された場合に、退職手当を支払わずに解雇できる可能性があります。ただし、実際の手続や警告の形式については、適用される雇用契約書の内容を確認する必要があります。
したがって、問題行為があったからといって、直ちに解雇することは避けるべきです。警告書には、違反行為の内容、改善すべき事項、再発した場合の措置などを具体的に記載し、本人への交付や受領確認の記録を残すことが望まれます。
3.重大な違反行為と即時解雇
横領、重大な不正行為その他の重大な違反行為(grave misconduct)については、通常の違反行為とは異なり、即時解雇が認められる場合があります。ただし、会社が重大な違反行為に該当すると判断しただけで、当然に即時解雇が適法となるわけではありません。適用される雇用契約書上の規定、違反行為の具体的内容、証拠の有無などを慎重に確認する必要があります。
特に、調査が不十分なまま解雇を通知した場合や、会社の主張を裏付ける証拠が不足している場合には、後日の紛争で会社側に不利となるおそれがあります。重大な違反行為が疑われる場合には、関係資料を保全した上で、本人への事情聴取を含む適切な調査を実施することが重要です。
4.解雇通知と退職手当の確認
通常の違反行為に関する段階的な警告手続を経ていない場合や、業務成績不良など、懲戒解雇とは異なる理由で雇用を終了する場合には、解雇予告期間や退職手当の支払いが問題となります。一般に、会社都合による雇用終了では、適用される法令・雇用契約書に従い、原則1か月前の通知および所定の退職手当の支払いが必要となる場合があります。
また、解雇に際しては、理由を記載した書面を作成し、権限のある者が署名した通知を交付するとともに、未払賃金、未消化の年次有給休暇その他の精算項目を確認することが重要です。 さらに、紛争の蒸し返しや秘密情報の漏えい防止の観点から退職合意書に必要な事項を盛り込んで署名を得ることも重要です。
5.メキシコ
(1)エネルギー多消費事業者に関する行政規定の概要
2026年9月30日、メキシコの連邦官報において、エネルギー多消費事業者の登録及びエネルギー管理システムの導入に関する一般行政規定が公布され、翌10月1日に施行されました。本規定は、国家エネルギー効率利用委員会(Comisión Nacional para el Uso Eficiente de la Energía: CONUEE)が定めたもので、対象者の判定基準、登録手続、年次報告及びエネルギー管理システムの要件等を規定しています。本規定の施行に伴い、従前の2018年11月15日公布の一般行政規定は廃止されました。
(2) 対象となる事業者及び登録義務
対象となるエネルギー多消費事業者(Personas Usuarias de Patrón de Alto Consumo: UPAC)は、メキシコ国内に施設を有する個人又は法人で、前年の暦年における施設の年間電力消費量が45ギガワット時(GWh)を超えるか、又は年間燃料消費量が原油換算7万バレルを超える者です。なお、燃料消費量の算定に当たっては、輸送に使用されるエネルギーは除外されます。
対象者は、前年の消費量が上記基準を超えたことを認識した場合には直ちに、又はCONUEEからUPACとして特定された旨の通知を受けた場合には通知後15営業日以内に、登録を行う必要があります。登録は無料で、電子システムを通じて行います。法人の場合は設立文書、該当する場合は法定代理人の権限を証する文書等を提出し、登録する施設ごとに所在地及び事業内容を入力します。
(3) 年次報告及びエネルギー管理システム
UPACは、毎年3月1日から5月31日までの間に、前年の情報を施設ごとに報告する必要があります。報告事項には、エネルギーの種類別の月間消費量、生産した物品又はサービスの月間数量、省エネルギー及び脱炭素化のために実施した措置、そのエネルギー面及び経済面での成果、エネルギー管理システムの導入状況が含まれます。
また、登録施設は、現行の国際規格ISO 50001又は該当する同等のメキシコ公式規格に基づくエネルギー管理システムを導入し、維持する必要があります。同システムは、施設の総エネルギー消費量の少なくとも80%を対象としなければなりません。このほか、3年以内に実施されたエネルギーレビューに基づく目標の設定、エネルギー性能指標及び改善のための行動計画の策定、運用・保守管理、必要な情報の文書化、施設ごとのエネルギー管理責任者の指定等が求められます。
(4) 認証取得期限及び経過措置
UPAC登録簿に初めて登録する施設は、登録日から1年以内に、エネルギー管理システムの認証取得を証明する必要があります。この期間は延長できないとされています。一方、既にUPACとして特定されている者は、遅くとも2028年1月までに、現行のISO 50001に従って認証されたエネルギー管理システムを備える必要があります。当該認証の有効な証明書は、品質インフラ法に基づき国内で認定された認証機関が発行し、UPAC登録簿を通じてCONUEEに提出するものとされています。
CONUEEによるエネルギー管理システムの導入状況の検証は、2027年6月から開始されます。また、新たな電子システムが利用可能となるまでの間は、従来のCONUEEのウェブサイトを通じて情報の受付等が継続されます。
6.バングラデシュ
⑴ 特定の業種を対象にVAT申告書のオンライン申告が義務化
2026年9月20日、バングラデシュ国家歳入庁(NBR:National Board of Revenue)は、一般命令12号(General Order No. 12)により、特定の物品の製造業者および特定のサービスの提供者に対し、NBRの電子VAT申告システム(eVAT)を通じたVAT申告書のオンライン提出を義務付けました。
ア 対象となる物品
対象となる物品は、①紙巻たばこ、②携帯電話、③MS製品(鉄鋼関連製品)、④医薬品、⑤飲料、⑥セメント、⑦タイル、⑧塗料およびワニスの8品目です。
イ 対象となるサービス
対象となるサービスは、①保険、②銀行・ノンバンク金融サービス、③モバイルバンキングサービスの3種類です。
ウ その他の留意点
対象物品・サービスの詳細は、同命令に定めるHSコードおよびサービスコードによって特定されています。
同命令は、対象物品・サービスに加えて、それ以外の物品・サービスも取り扱う登録事業者にも適用されます。また、NBRは、対象となる物品・サービスを追加または削除する権限を留保しています。
⑵ VAT申告手続の電子化と申告制度の見直し
2026–27年度予算演説(National Budget Speech FY2026-27)では、VAT申告手続のデジタル化をさらに進める方針が示されています。具体的には、次年度の開始時から、所得税の電子申告制度と同様に、eVATを通じたVAT申告書のオンライン提出を義務化するとしています。これにより、納税者は自宅や職場から、所得税申告書とVAT申告書の双方をオンラインで提出できるようになることが想定されています(同演説305段落)。
また、小規模納税者向けに、必要最小限の情報を入力することでオンライン提出が可能となる簡易なVAT申告書を導入する方針も示されました。さらに、eVATを通じて申請した場合に事業者識別番号(BIN)を即時発行できるよう、必要な法改正を提案しています。このほか、現行の月次申告を四半期申告に変更することや、自社のERPシステムを利用する納税者が、当該システムからワンクリックでVAT申告書を直接提出できる仕組みも提案されています(同演説305段落)。 今後、これらの施策に関する法令改正やNBRの命令等を通じた具体化が進むか、引き続き注視する必要があります。
7.フィリピン
フィリピン法人への無議決権株式による出資――持分法を避けたい日本企業の留意点
フィリピン企業との提携にあたり、日本企業が20〜30%程度の少数出資を行う例が増えています。本稿では、無議決権株式の発行要件と、それでも残る議決権および外資規制との関係を整理します。
1. 無議決権株式を発行できる場合(改正会社法6条)
改正会社法6条は、定款で株式の種類を定めることを認める一方、議決権を奪うことができる株式を「優先株(preferred shares)」または「償還株(redeemable shares)」として分類・発行されたものに限定しています。普通株を無議決権とすることはできず、会社には常に完全な議決権を持つ種類の株式が存在していなければなりません。
優先株は額面株式としてのみ発行でき、定款に優先株の定めがない会社では、発行前に定款変更が必要になります。配当や残余財産分配における優先権の内容は定款で任意に設計できますが、投資家保護の観点から配当優先と清算時優先を付けるのが通常です。
2. それでも残る8つの議決事項
もっとも、無議決権株式であっても、次の8つの事項については議決権が法律上保障されています。(a) 定款の変更、(b) 付属定款の制定・変更、(c) 全部または実質的に全部の会社財産の処分、(d) 社債等の負担・増加、(e) 授権資本の増減、(f) 合併・統合、(g) 他の会社・事業への会社資金の投資、(h) 解散です。これらは会社法が定めるものであり、定款や株主間契約で排除することはできません。
3. 外資規制との関係
外資規制の対象業種では、無議決権株式にすれば外資比率の制限を回避できるのではないか、というご質問もいただきます。しかし、別の号でご紹介したSECの2段階テストは、「議決権のある発行済株式」と「議決権の有無を問わない発行済株式総数」の両方について外資比率を判定するものであり、無議決権株式も後者には数えられます。無議決権株式は外資規制の制限を緩める手段にはなりません。
8.ベトナム
(1) 小売店舗の経済需要審査(ENT)の見直し
2026年9月3日、ベトナム政府は、従来の政令第09/2018/ND-CP号に代わる政令第342/2026/ND-CP号(以下「新政令」といいます。)を公布し、同年10月18日に施行しました。新政令では、外資系企業が2店舗目以降の小売店舗を設立する際の経済需要審査(Economic Needs Test、以下「ENT」といいます。)に関する規定が見直されています。
ENTとは、出店予定地域の市場や既存の小売業者への影響、地域の社会・経済への貢献、治安・安全保障上の観点などについて、当局が審査を行う制度です。従来は、店舗面積が500m²未満で、ショッピングモール内に所在し、かつ、コンビニエンスストア又はミニスーパーに該当しない場合を除き、2店舗目以降の出店には原則としてENT が必要とされていました。
(2) CPTPP に基づくENTの免除
新政令第22条1項では、ENTの対象を、ベトナムが国際条約でENT 撤廃を約束していな
い国・地域の投資家による追加出店に限定しています。日本とベトナムは、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の締約国であり、ベトナムはCPTPP においてENT の撤廃を約束しています。そのため、CPTPPの適用対象となる日本の投資家については、原則としてENT が免除されます。
これにより、店舗面積や出店場所にかかわらず、コンビニエンスストアやミニスーパーマーケットを含めてENT免除の対象となり得るため、日系企業の出店場所や店舗形態の選択肢が広がることが期待されます。
(3)既存の日系企業における留意事項
もっとも、過去にCPTPP以外の国際条約に基づく市場参入条件の適用を受けていた日系企業については、ENT免除の適用に留意が必要です。
新政令第22条1項は、ENT免除の根拠となる条約が従前の市場参入時に選択した条約と同一であることを要件としていません。一方、政令第96/2026/ND-CP号第17条第9項では、複数の国際条約において市場参入条件が異なる場合、外国投資家は、全ての事業分野について、いずれか一つの条約を選択し、その規定全体に従うこととされています。
そのため、従前の条約に基づく市場参入条件を維持したまま、CPTPPに基づくENT免除を受けられるかについては、両規定の関係が明確ではなく、個別に検討する必要があります。
(4)ENT免除後も必要な手続及び留意点
ENTが免除される場合でも、小売店舗設立許可の取得は引き続き必要です。また、出店予定地についても、土地利用、都市計画、建築、消防、交通安全、環境衛生等に関する法令上の要件を満たす必要があります(新政令第21条1項b号、2項a号)。
さらに、保有する小売店舗数や規模が一定の基準に達する場合には、許可当局から公安省及び国防省に対し、意見照会が行われます(新政令第8条3項c号)。また、新政令の施行前に受理された申請については、原則として従前の規定に基づいて処理される経過措置が設けられています(新政令第44条5項)。
今回の改正により、日系企業の多店舗展開に伴う負担の軽減が期待されますが、実際に出店に際しては、ENT免除の適用可否に加え、必要となる許認可や出店予定地の条件、適用される手続等について、事前に確認することが重要です。
9.インド
⑴ 経済安全保障協力に関する日印共同宣言の概要
2026年7月2日、日本とインドは、インドで開催された日印年次首脳会談において、経済安全保障分野における二国間協力の強化に向け、「経済安全保障協力に関する日印共同宣言」を発表しました。本宣言は、経済安全保障を日印特別戦略的グローバル・パートナーシップの根幹となる柱の一つと位置付け、サプライチェーンの強靱化や重要技術分野などでの協力を一層推進するための、戦略的かつ実践的な方針を示すものです。
⑵ 経済安全保障協力の強化
本宣言では、サプライチェーンの混乱につながり得る経済的威圧や非市場的政策・慣行(NMPPs)、重要鉱物等に対する恣意的な輸出制限や価格操作を含む経済的威圧や非市場的政策・慣行(NMPPs)への深刻な懸念が示されています。その上で、両国は、公正な競争環境の維持と、志を同じくするパートナー間での強靱で信頼できるサプライチェーンの構築・確保の重要性で一致しました。
また、政府間の日印経済安全保障対話(GtoG)に加え、経団連及びインド工業連盟との連携による初の民間対話を通じて、関連法令、投資審査ツール及び政策課題に関する情報交換が可能となりました。さらに、政府、産業界及び専門家による対話の枠組みの構築や、進行中の協力事業についてフォローアップする仕組みの整備も目指しています。
⑶ 5つの優先分野における協力
本宣言では、次の5分野を優先分野として、プロジェクトベースの協力や官民連携を推進する方針が示されています。
①半導体:製造に関するサプライチェーンの強化・多角化、人材育成、研究開発及び設計分野
での協力を進めます。また、インドの半導体産業への日本企業の参画拡大を歓迎しています。
②重要鉱物:インド地質調査所とエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との技術協力・情
報交換を促進するとともに、電子廃棄物の収集・リサイクルを通じた重要鉱物の回収体制の構
築を目指します。
③情報通信技術(ICT):5G高度化技術、オール光ネットワーク(APN)、データセンター、高度
道路交通システム、海底ケーブル、5GオープンRAN製品などの分野で企業間協力を促進し
ます。また、AIの安全性・信頼性の確保、AI基盤モデルの開発、人材交流及びAIガバナン
スに関する国際協力も進めます。
④クリーンエネルギー:クリーン水素・アンモニアに関する共同研究や投資を促進し、オディシャ
州での日印協力によるクリーンアンモニア事業の実現を目指します。さらに、蓄電池、太陽電
池モジュール、バイオガスなどの分野でも協力を拡大します。
⑤医薬品:原薬(API)及び主要出発原料(KSM)の代替調達先やサプライチェーンの脆弱性を
分析し、両国への安定供給に向けた協力を検討します。また、バイオ医薬品やバイオシミラー
に関する研究協力も促進します。
⑷ 重要新興技術及びインド太平洋地域での協力
上記の5分野に加え、AI、量子技術、宇宙科学、スーパーコンピューティング、先端材料及び海底ケーブルなどの重要新興技術についても、政府、民間企業及び学術機関の連携を進める方針です。研究開発基盤へのアクセスや人材交流を促進し、イノベーションの加速と技術的依存の低減を目指します。
また、G7、G20及び日米豪印などの取り組みとの整合性を保ちながら、インド太平洋地域全体の経済的強靱性を高めることも掲げられています。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦では、旧民法(1985年連邦法第5号)を改正した新民法(2025年連邦令第25号)が2026年6月1日に施行されました。
導入編第四章および第五章の改正点は次の通りです。
(1) 第四章
第四章は、物と財物に関して、物の種類やその定義を規定するもので、旧民法からの大きな変更はありません。
(2) 第五章
第五章は、権利に関する規定です。
「権利の証明」との標題がつけられた旧民法の第五章第4節(第112条から第123条)では、証拠の種類、立証責任、証拠能力、宣誓等について手続規定に関する規定がありましたが、全部削除されています。
その他の規定については、基本的に旧民法と同一ですが、第105条が新民法では第47条に移動した他、シャリーア(イスラム法)に反する権利行使が権利の濫用(第106条)から、ワクフ(イスラムでの寄進財産)が物権(第110条1項)から除外され、イスラム色が軽減されています。
11. インドネシア
(1)労働監督の手続に関する2026年労働大臣規則第11号
2026年7月3日、労働監督の手続に関する2026年労働大臣規則第11号(以下「本規則」という)が施行された。本規則は、従来の2016年労働大臣規則第33号及びその改正規則である2020年第1号を廃止し、労働監督官の権限、検査、違反への是正措置、賃金等の不足額認定、刑事事件の捜査、労働安全衛生(K3)の検査・試験手続等を規定する(本規則第4条~第9条、第13条、第55条)。
また、2026年10月12日施行の労働大臣規則第15号により、検査の実施主体、労働者の権利不足額の認定・再認定、K3証明書の発行手続等が改正された。企業は、監督官による立入検査への対応、関連資料の整備及び是正期限の管理に留意する必要がある。
以下、特段の記載がない限り、条文番号は本規則の条文を指す。
(2)本規則の概要
労働監督の目的は、企業や職場における労働関係法令・基準の遵守を確保することである。その役割は、①労働法令の執行、②使用者・管理者・労働者への指導、③労働関係や労働状況に関する情報の収集及び法令整備への活用である(第3条)。本規則は、監督の実施に当たり、透明性、説明責任、比例性、関係機関との協力等の原則を掲げる(第2条第2項)。
(3)労働監督官の権限
①事業所等への立入り
監督官は、使用者や管理者の同伴の有無にかかわらず、企業、職場又は業務が行われていると疑われる場所に立ち入ることができる。立入りを拒否された場合には警察の協力を求めることもできる(第4条a号、第7条第3項)。
②資料の提出要求・関係者からの聴取
監督官は、使用者、従業員、労働組合等の関係者を呼び出し、違反の疑いに関する情報、資料及び説明を求めることができる(第4条b号)。関係者には必要な情報等を口頭又は書面で提供する義務があり、聴取や資料の授受は所定の調書に記録し、関係者が署名する(第5条、第6条)。
③設備の封印・作業停止
監督官は、作業設備の運転を封印し、作業を禁止又は停止する等の措置を講じることができる(第7条1項)。労働安全衛生(K3)に関する検査・試験は設備、作業方法、作業者及び職場環境等を対象とし、労災発生時の特別検査では事故現場等を封鎖できる(第39条、第42条4項・5項)。
K3基準不適合により作業停止となった場合、適合証明書が発行されるまで作業を再開できないため、製造業等では機械設備の点検記録や事故対応手順の管理が重要である(第45条第4項~第6項)。
また、改正後は、企業の申請により州労働局長がK3証明書を発行する手続も定められた(改正後の本規則第46A条)。
④外国人を職場から退出させること・就労禁止
法令に適合しない形で雇用されている外国人について、監督官は職場等から退出させ、使用者に当該外国人の雇用を禁止できる(第7条第1項e号・第2項)。これは国外退去処分そのものを意味しない。日本人駐在員については、RPTKAの承認職位や就労場所と実態の整合性を確認しておくべきである。
⑤重大違反への直接的な司法的措置
労働監督は、予防的・教育的措置、非司法的措置、司法的措置に分類される(第8条)。しかし、死亡・一定の重大な障害を伴う労災、違法な児童労働、その他刑事罰の対象となる労働法令違反については、予防的・教育的措置及び非司法的措置を経ず、直接刑事法執行に向けた措置を講じることができる(第9条)。刑事事件の捜査は、捜査権限を付与された労働監督官(PPNS)が実施する(第47条)。
(4)検査と是正命令
①検査の種類
検査は初回検査、定期検査、特別検査及び再検査に分かれ、原則として従業員の勤務地を管轄する州労働局の監督官が、監督部門の責任者による命令書に基づき実施する(第17条、第18条)。定期検査は前回検査から最短3年経過後に実施され(第21条)、特別検査は従業員等からの通報、メディア報道、監督部門責任者の指示等により開始される(第22条)。検査期間は最長60労働日であり、オンラインでの事情聴取や書類確認も含まれる(第19条)。
②是正命令と期限
違反が確認されると、監督官は検査指摘書Ⅰ(Nota Pemeriksaan I)を発行し、是正内容と期限を示す(第26条第5項)。使用者は受領後最長30労働日の指定期限内に是正し、証拠資料を添えて報告しなければならない(第27条)。期限までに是正されない場合、監督官は期限経過後3労働日以内に検査指摘書Ⅱを発行し、受領後最長14労働日の期限を設定する(第28条)。再度未対応の場合は、刑事捜査や行政制裁に関する勧告等につながる(第29条)。
(5)残業代・最低賃金等の不足額認定
監督官は、残業代、最低賃金、労災・職業病に関する給付の不足額を算定・認定する。必要な資料や説明の提出を求める場合、各書面に最長5労働日の期限が定められ、3回の要求にも応じないときは、入手済み資料を基に認定できる(第30条、第31条第1項~第8項)。
2026年10月の改正後の条文では、不足額の認定は最長120日以内に行われ、企業は認定を受領してから14労働日以内に履行することとされている。不服がある場合には、認定受領後14労働日以内に理由を添えて再認定を申請できる(改正後の本規則第31条第11項、第33条第2項、第34条第1項・第3項)。勤怠記録、給与台帳、残業計算の根拠等を日常的に保管しておくことが重要である。
(6)自主点検と企業の対応
企業はSIAPkerja上で使用者側と労働者代表が電子チェックリストを記入する自主点検を行うことができる(第49条1項)。ただし、監督官による正式検査が免除されるわけではない(同条4項)。
企業は雇用契約書、就業規則、勤怠・賃金記録、BPJS、外国人就労関連書類及びK3関係資料を整理し、監督官からの要求に速やかに対応できる体制を整える必要がある。とりわけ指摘書を受領した場合には、日本人管理者も進捗を把握し、期限内に是正・報告を完了することが重要である(第5条、第27条~第29条)。
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