TNY国際法律事務所グループ TNY国際法律事務所グループ

「各国における倒産法制度に関する法令の概要」 TNY Group Newsletter No.60 

第1. 各国における倒産法制度に関する法令の概要

1.日本

(1) 会社倒産制度の概要

 会社の倒産手続きには、法人破産、特別清算、民事再生、会社更生があります。このうち、法人破産と特別清算では法人を消滅させますが、民事再生と会社更生では法人を存続させたまま再建を図っていきます。

(2) 法人破産

 法人破産の申立ての要件は、法人が支払不能(支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)または債務超過(債務者がその債務につき、その財産をもって完済することができない状態のこと)であることです(破産法15条1項、16条1項)。また、法人破産の申立権者は、債権者または債務者です(同法18条1項)。なお、債権者が申立てを行うにあたっては、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければなりません(同条2項)。

 裁判所が申立てを受理し、破産開始決定をする際には、破産管財人が選任されます(同法31条1項)。破産管財人は、法人の資産を調査し、財産を換価処分する等の役割を担い、破産開始決定がされると、破産者の財産、相続財産、信託財産の管理・処分をする権利は、破産管財人に専属することとなり、破産者は管理・処分権を失います(同法2条14項、78条1項)。

 換価処分によって配当できる財産がある場合には、債権者に対し配当が行われます。

 配当手続きが終了し、または、配当できる財産がないことが確定した場合には、破産手続きの終結決定がなされます。破産手続きの終結決定をもって、法人は消滅し、債務も消滅します。

(3) 特別清算

 特別清算は、会社が債務超過に陥っている場合等に利用される手続きで、法人破産同様、法人の消滅を伴います。特別清算は会社法に定められる手続きであり、特別清算の対象となるのは株式会社のみです。特別清算の申立権者は債権者、清算人、監査役または株主です(会社法511条)。

 法人破産の場合、手続きは、裁判所が選任した破産管財人によって進められますが、特別清算の場合、株主総会で選任された清算人によって手続きが進められます。

 特別清算は、法人破産に比べて、簡易迅速な手続きであることがメリットとされています。他方、対象となるのが株式会社に限定されていることや、特別清算に先立って、株主総会で会社の解散を決議しなければならず、当該決議は株主の議決権数の3分の2以上の賛成が必要となる特別決議でなければならない(同法309条2項11号)といったデメリットもあります。

(4) 民事再生

 民事再生は、法人を消滅させることなく、存続させながら、再建を図っていく手続きです。

 破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき、債務者または債権者は民事再生の申立てをすることができます(民事再生法21条1項、2項)。また、債務者については、事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときも申立てができます(同条1項)。

 民事再生においては、債権者によって可決され、裁判所によって認可された再生計画案に基づき、債務が圧縮され、同計画に基づく弁済が行われることとなります。

(5) 会社更生

 会社更生は、民事再生と同様、法人を消滅させることなく、存続させながら、再建を図っていく手続きで、更生計画に基づき債務が圧縮され、同計画に基づき弁済が行われます。

 民事再生との違いとしては、会社更生は、多数の債権者や多額の債務を抱える大規模な会社を想定した制度であり、対象は株式会社に限られています。また、民事再生では、経営陣は引き続き経営を行うことが可能ですが、会社更生の場合、経営陣は退任し、管財人に経営権や会社財産の処分権が専属する(会社更生法72条1項)等、民事再生よりも厳格な手続きとなっています。

2.タイ

(1) 倒産法の概要

 タイでは、債務超過にある個人や法人を清算するための手続き(破産手続き)と、債務者である法人の事業の再建・更生を目的とする手続き(事業更生手続き)が存在します。

 タイにおける倒産制度の特徴として、破産手続きにおいては、債務者自身からの破産宣告の申立てが認められていない点や、管財人が民事執行局という公務員から選任されるという点が挙げられます。

(2) 倒産手続きの主な流れ

ア 破産手続きについて

 タイの破産手続きついては、破産法にその定めがあり、主に以下のような流れを経て、破産手続きが進行します。

 まず、同法においては、債務者が、①債務超過であること、②債権者に対する債務の合計額が、債務者が自然人の場合は100万バーツ超、法人の場合は200万バーツ以上であること、③債務額を確定できることが破産宣告原因と規定されています(破産法9条)。

 その後、裁判所において破産宣告の原因が存在すると判断された場合、裁判所は財産保全命令を発令し(同法14条)、管財人を選任します。選任を受けた管財人は、速やかに債権者集会を招集し(同法31条1項)、同集会において、裁判所に対して破産の申立てを行うか否かを検討します。同集会において、破産宣告を求める決議がなされれば(同法61条)、その結果を踏まえ、裁判所が破産宣告をします。

 破産宣告後、管財人は、債権者への配当を行い(破産法124条)、債権者は破産手続き内で弁済請求を行ったうえ破産配当を受けることになります。

イ  事業更生手続きについて

 事業更生手続きについても、破産法に定めがあり、主に以下のような流れを経て、事業更生手続きが進行します。

 まず、同法においては、債務者(非公開会社、公開会社およびその他規則により規定された法人)が、①債務超過であること、②債権者に対する債務の合計額が、1,000万バーツ以上であること、③事業更生の合理的な見込みがあることの要件を満たす場合には、債権者、債務者または監督庁が、裁判所に対して、事業更生の申立てを行うことが可能です。(破産法90/4条)。この点、事業更生手続きにおいては、破産手続きと異なり、債務者自身による申立ても可能とされています。

 裁判所が申立てを受理した後、裁判所は、事業更生手続開始の要件が充足されているか審理し、理由があると認められる場合には、事業手続開始決定を行います(破産法90/10条)。開始決定時または開始決定後の一定の手続を経たのち、裁判所は更生計画作成者を選任し(破産法90/17条)、更生計画の提出を受けた管財人が更生計画の承認を判断するため債権者集会を招集することになります(破産法第90/44条)。債権者集会の承認を受けた更生計画は、裁判所が当該計画を承認するか否かを決定し、更生計画を実行することになります。更生計画の遂行予定期間が経過し、計画が遂行されたと判断された場合には、更生手続廃止決定がなされることになり(破産法90/70条)、これにより更生手続きが終了します。

3.マレーシア

(1) 清算型の倒産手続

 マレーシアでは、会社が事業を閉鎖し、かつ債務の弁済が不可能な場合、清算型の倒産手続が適用されます。この手続には、裁判所の関与なしに清算を進める①債権者による自主清算手続(Creditor’s Voluntary Winding Up)と、裁判所の命令により清算を行う②強制清算手続(Compulsory Winding Up)の2種類があります。手続の進行中は、支払不能の状況下で行われた取引の一部を無効とすることで債権者の保護が図られ、債権者平等の原則に基づき債権者への配当が実施されます。

(2) 再建型の倒産手続

 会社の事業継続が可能な場合、再建型の倒産手続が適用されます。これには、以下の方法があります。

(a) スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement: SOA)

 申立人が提案する再生計画案をもとに会社再建を図る手続きであり、返済猶予を内容とするもの(Moratorium Scheme of Arrangement)と、債権カット等の和議を内容とするものがあります(Compromise Scheme of Arrangement)。提案されたスキーム・オブ・アレンジメントは、債権者集会に出席した債権者の債権合計額の75%以上の同意を得た場合、裁判所の許可を条件に債権変更の効果が生じます。

(b) ジュディシャル・マネジメント手続(Judicial Management)

 裁判所の命令によりジュディシャル・マネージャー(Judicial Manager)を選任し、その管理のもとで会社再建を進める手続です。ジュディシャル・マネージャーが作成した再建案について、承認された債権額ベースで75%以上の債権者が同意した場合、当該再建案に基づき債権変更の効果が生じます。

(c) 会社任意整理手続(Corporate Voluntary Arrangement: CVA)

 以上のほか、裁判所を経由せず、専門家(Insolvency Practitioner)の監督のもとで実施される会社任意整理手続(Corporate Voluntary Arrangement: CVA)もあります。この手続では、提案された会社任意整理案が、株主の過半数の賛成および債権額ベースで75%の債権者の同意を得た場合、当該整理案に基づき債権変更の効果が生じます。

4.ミャンマー

⑴ 倒産法の運用状況

 倒産法は2020年2月14日に公布され、同年3月25日に施行されました。倒産法施行規則は最高裁判所より2020年4月に公布されました。しかし、倒産法の施行後も、倒産法に基づく手続きを進めるための倒産実務家の登録ができず、倒産法の実務的運用がなされていない状況が続いていました。その後、最高裁判所は2024年1月31日に倒産実務家の登録に関する通知が発布されました。

 もっとも、現時点においても倒産法に基づく更生手続き等は運用されていない状況です。

5.メキシコ

⑴ 倒産に関する法律と制度の概要

 メキシコの倒産制度は主に商業倒産法(Ley de Concursos Mercantiles:LCM)によって規定されており、企業の財務的困難や倒産に対応するための法的枠組みを提供しています。LCMは、財政的に困難な状況にある企業の存続を図りながら、債権者の公平な取り扱いを確保することを目的としています。

 メキシコシティには、倒産事件を管轄する特別連邦裁判所が2か所あり、LCMに基づき手続きを監督します。また、連邦商業倒産専門機関(Instituto Federal de Especialistas en Concursos Mercantiles:IFECOM)は、倒産手続の円滑な運営を支援するため、専門家の認定や技術的監督を行い、公正な倒産手続きを促進します。

⑵ 倒産手続の段階

 企業は、支払い義務を履行できなくなった場合、倒産状態にあるとみなされます。LCMの規定では、企業が以下の条件を満たした場合、倒産状態(concursos mercantiles)であると判断されます。

・ 企業が支払不能の状態にあり、総債務の35%以上について30日以上の延滞がある場合。

・ 申請時点で、負債の80%以上を支払うのに十分な資産を有していない場合。

LCMでは、倒産手続について、2つの主要な段階を定めています。

① 再生手続(Conciliación)段階

 この段階の主な目的は、企業の債務を再構築し、債務者と債権者の間で合意を交渉して財政的安定を回復することです。裁判所に任命された調停人が債権者と債務者の交渉を仲介します。交渉が成功し、裁判所の承認を得られた場合、企業は倒産手続から抜け出すことが可能です。和解手続の期間は通常185日間ですが、最大365日まで2回の90日延長が認められています。

② 清算手続(Quiebra)段階

 和解が成立しない場合、裁判所は企業を倒産と宣告し、清算手続が開始されます。裁判所が任命した管財人が資産の売却を監督し、法律で定められた優先順位に基づいて債権者への分配を行います。企業の資産は清算され、労働債権(従業員への賃金や福利厚生の未払い分)、担保付債権者(抵当権や質権を有する債権者)、無担保債権者の順に返済されます。

⑶ 倒産手続の影響

 倒産が宣言されると、債務者に対するすべての司法執行や債権回収行為が一時的に停止されます。また、和解手続き中は、企業の経営陣はそのまま存続できますが、財務運営については調停人の監督下に置かれることがあります。進行中の契約は、裁判所の承認を得て再交渉、解除、または継続される場合があります。

6.バングラデシュ

 バングラデシュの企業の倒産は、1994年会社法によって定められており、1997年倒産法は個人に適用されます。清算は、商業登記所(RJSC)が会社名を登記簿から削除し、会社の法的存在を終了させたときに確定します。会社の清算は、裁判所による清算、任意清算、裁判所の監督下での清算の3つの方法が規定されています。

⑴ 裁判所による清算

 裁判所による清算は、バングラデシュ最高裁判所高等裁判所部への申立てから始まります。申立書は、会社自身、債権者、株主、場合によっては商業登記所の登記官によって提出されます。裁判所は、会社が支払い不能で債務を返済できないと判断した場合又は清算が正義と公平の利益のために必要であると判断した場合に、会社の解散を命じ、清算人を任命してその手続きを監督することができるとされています。清算命令は、法的承認を受けるために30日以内に商業登記所に提出する必要があり、通知は官報に掲載されます。裁判所による清算は、1994年会社法第241条に規定されており、法定報告書の提出又は法定会議の開催の不履行、債務の返済不能、清算特別決議の可決、設立後 1 年以内に事業を開始しないこと、1年間の事業停止、法定最小人数を下回る株主数の減少(非公開会社の場合は 2人未満、その他の会社の場合は7人未満)、及び裁判所が、会社を解散することが公正かつ公平であると判断した状況などが含まれます。

⑵ 任意清算

 任意清算は、会社が株主の決議により清算を決定した場合、通常、会社が事業目的を達成した場合、財政的に存続不可能になった場合又は再編を希望する場合に行われます。清算手続きは決議の日から開始され、清算を管理するために清算人が任命され、残りの資産を株主に分配する前にすべての負債が確実に清算されるようにします。任意清算は一般に内部手続きですが、特に債権者の権利を保護するために、必要に応じて裁判所が介入して裁判所の監督下に置くことがあります。

⑶ 裁判所の監督下での清算

 会社がすでに任意清算を行っているが、公正で透明な手続きを確実に行うために司法の監督が必要な場合に裁判所の監督下での清算が必要になることがあります。裁判所は、利害関係者の利益を保護するために条件を課し、指示を出すことがあります。これにより、法令の遵守が確保され、清算手続きにおける不正行為の可能性が防止されます。

⑷ 株主の責任

 清算手続き中、会社の株主及び元株主は、未払いの債務、清算費用及びその他の義務を果たすために資金を拠出することが求められる場合があります。ただし、有限責任会社の場合、財務面の責任は、株式の未払い額に限定されます。株主が亡くなった場合、その法定代理人および相続人が未払いの義務の責任を負います。株主が破産宣告を受けた場合、その譲受人が財務の責任を引き継ぎ、当該株主に代わって支払われた金額は破産者の財産から差し引かれます。

7.フィリピン

(1) 倒産制度の概要

フィリピンにおける倒産・再生制度は、以下の法令・規則に基づいています。

・企業倒産法(Financial Rehabilitation and Insolvency Act)

・大統領令第902-A号(Presidential Decree No. 902-A)

・金融再生手続規則(Financial Rehabilitation Rules of Procedure)

企業が財政的に困難な状況に陥った場合、対応としては主に次の2つの方法があります。

企業再生(Rehabilitation):会社を存続させることを目的とした手続です。債務を再構築し、経営を立て直します。

清算(Liquidation):会社の資産を処分し、債務の返済に充てたうえで、会社を終了させる手続です。

(2) 再生手続

再生にはいくつかの方法がありますが、ここで裁判所を通じた再生手続(judicial rehabilitation)について説明します。再生手続は、以下のいずれかの方法で始まります。

①会社からの申立て(任意的再生)

 会社から再生を申し立てる場合には、取締役会における過半数の同意に加え、発行済株式の3分の2以上を有する株主の賛成が必要です。申立てには、債務者が破産状態であり再生の見込みがあることを示すために、支払不能の事実や再生計画案などを提出する必要があります。

②債権者からの申立て(強制的再生) 

 債権者も、一定の条件を満たせば、会社に対して再生手続の開始を裁判所に申し立てることができます。会社からの申立てと同様に、再生計画案などを提出する必要があります。

【申立てが可能な債権者の条件】

(ⅰ)100万ペソ以上、(ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上相当する金額のうち、いずれか高い方の債権を有していること

【申立てが認められる条件】

・債務者が支払期日から60日以上にわたり支払を行っておらず、その債務について法律上の実質的な争いがない

・他の債権者によって差押え等の手続が始まり、その影響で債務者が支払不能になる可能性がある

 債権者や裁判所によって再生計画が承認されると、会社はその計画に従って債務の支払いや業務の再構築を進めていきます。ただし、再生が難しいと判断された場合には、裁判所の判断により清算手続に移行することもあります。

(3) 清算

 再生手続と同様に、清算にも2つの申立方法があります。

①会社からの申立て(任意的清算)

②債権者からの申立て(強制的清算)

一定の条件を満たす債権者は、裁判所に対して債務者の清算を申し立てることができます。

【申立条件】

 以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります:

・債権者が3人以上であること

・債権者の会社に対する債権の合計額が、(ⅰ)100万ペソ以上、または (ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上に相当する金額のいずれか高い方に相当していること

【申立の根拠となる事情】

 申立ての際には、債務者が支払期日から180日以上にわたり債務を履行していないことや、債務者に再生の見込みがないことなどを示す必要があります。

8.ベトナム

(1) 倒産法および制度の概要

 「企業法」第59/2020/QH14号の第214条では、企業の倒産は倒産に関する法律の規定に従って行われると規定しています。2014年「破産法」第4条第2項によると、倒産とは、企業が支払い不能に陥り、人民裁判所によって破産を宣告された状態を指します。倒産状態にある企業とは、支払期日から3か月以内に債務を履行できない企業であることに注意が必要です。

⑵  倒産手続開始の申立をする権利および義務を有する者

 倒産手続開始の申立をする権利および義務を有する者には、以下が含まれます。

  • 無担保債権者、支払期日から3ヶ月経過後の一部有担保債権者
  • 従業員、労働組合
  • 企業の法定代理人
  • 個人事業主、株式会社の取締役会長、2名以上の有限責任会社の社員総会会長など
  • 普通株式の20%以上を連続して6か月以上所有する株主または株主グループなど

⑶ 管轄機関

 地区レベルの人民裁判所は、その省または市の地区に本社を置く企業の倒産処理を行う権限を有します。省レベルの人民裁判所は、その省で事業登録をし、以下のいずれかに該当する企業の倒産処理を行う権限を有します。

  • 海外に資産がある、または倒産手続に参加する者が海外にいる場合
  • 企業が複数の地区、町、市に支店や代表事務所を持つ場合
  • 企業が複数の地区、町、市に不動産を所有している場合
  • 事件が複雑であるため、省レベルの人民裁判所が処理を引き受ける場合

⑷ 手続

①倒産手続開始の申立:倒産手続開始の申立を行うことができるのは、上記の関連権利および義務を持つ者に限られます。

②裁判所による申立の受領:倒産手続開始の申立を受領後、裁判所は申立内容を審査します。申立が有効であれば、申立者に対し、手数料の支払いおよび倒産手数料の前払いを通知します。

③裁判所による申立の正式受理:人民裁判所は、倒産手数料の支払いの受領および倒産費用の前払いの受領後、倒産手続開始の申立を正式に受理します。その後、裁判所は倒産手続を開始するか否かの決定を下します。

④倒産手続の開始:倒産手続の開始または不開始についての裁判所の決定は、関係者に通知しなければなりません。

⑤債権者会議:債権者会議は、倒産手続の中止、事業再建策の提案、破産宣告の提案のうち、いずれかの結論を下す権利があります。

⑥企業の破産を宣告する決定書の発行:企業が事業再建計画を実施できない場合、または事業再建計画の実施期限が過ぎても支払い不能状態が続く場合、裁判官は企業の破産を宣告する決定書を発行します。⑦倒産処理の執行:倒産処理には、倒産資産の清算、企業資産の売却による収益の対象者への分配(資産分配の優先順位に従う)が含まれます。

9.インド

⑴ 倒産手続き申立ての要件

 インドでは、破産倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)が倒産手続きについて定めています。

 同法上、倒産手続き申立ての要件として、債務者が10万ルピー以上の支払不履行(デフォルト)に陥っていることが必要とされています。

 申立てができるのは、①金融債権者(Financial Creditor)、②取引債権者(Operational Creditor)、③債務者自身であり、会社法審判所(National Company Law Tribunal)に対し申立てを行います。

(2) 倒産手続きの流れ 

 会社法審判所は、手続きを開始する場合、モラトリアムを発令します。モラトリアム発令中は、債務者の資産を保全するために、債務者に対する訴訟手続き、担保権の実行、債務者による資産の処分等が禁止されます。

 また、会社法審判所は、手続開始決定から14日以内に暫定再建専門家(Interim Resolution Professional)を選任します。暫定再建専門家の役割は会社資産の保全であり、その任期は30日間とされています。暫定再建専門家が選任されると、債務者である会社の取締役会の権限は停止され、暫定再建専門家が経営権を獲得します。暫定再建専門家は、債権者からの債権届を受理し、債権者リストを作成し、債権者委員会を組成します。

 債権者委員会は、全ての金融債権者を構成員とし、最初の会議で、暫定再建専門家の職務を引き継ぐ再建専門家を選任し、再建専門家は、債務者の債権債務関係等の情報をまとめたインフォーメーション・メモランダムを作成し、これに基づき再建計画が策定されます。

 債権者委員会が再建計画を承認した場合、同計画に基づいて会社再建が行われます。他方、債権者委員会が再建計画を承認しなかった場合は、清算手続きに移行します。

(3) 清算手続き 

 会社を清算する場合、以下の債権については優先弁済を受けられます。具体的な優先順位は以下のとおりです。

 ①清算費用

 ②清算手続開始日から24か月前までのワークマンに対する債務、担保権を放棄した担保付債権者に対する債務

 ③清算手続開始日から12か月前までの従業員(ワークマンを除く)に対する債務

 ④金融債権者の無担保債務

 ⑤清算手続開始日から2年前までの中央政府または州政府に対する債務、担保権を有する債権者に対する担保権実行後の残債務

 ⑥その他の債務

 ⑦優先株主に対する残余財産配分債務

 ⑧株主及び共同経営者に対する残余財産配分債務

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

(1) 倒産に関する法律と対象

 アラブ首長国連邦(UAE)では、財務再編および倒産法(2023年連邦令第51号)によって、財務再編手続(Financial Restructuring)および倒産手続(Bankruptcy)が規定されています。

 適用となるのは、会社法の対象となる法人および事業者としての自然人です。独自の倒産手続の規定を有する連邦若しくは地方政府が全部または一部を所有する会社または中央銀行により許可を受けている銀行、保険会社等の金融機関は除外される他、生活費に関する債務等債務者の個人または家庭の目的のために生じた債務も対象外とされます(第3条)。また、フリーゾーンで設立された会社に関しては、各フリーゾーンの倒産手続に関する規則によるため、同法の対象とはなりません。

(2) 手続

 財務再編手続は、予防的和解(Preventive Settlement)の計画に基づき、業務を遂行しつつ債務の支払を行うもので、会社更生または民事再生に類似するものです。破産裁判所の監督の下、債務者の和解計画は、債務総額の過半数を有する債権者が出席する債権者集会において、当該債務の3分の2以上を有する債権者の賛成によって承認された後に(第72条)、破産裁判所により法定の要件の具備が確認されて認可されなければなりません(第75条)。債権者集会で否決された場合は、手続終了が決定されますが、破産裁判所の裁量により破産手続の開始を決定することもあります(第74条5項、6項)。

 破産手続は、債務者の財産と事業を清算することを通じて債権者に対して債務を弁済するものです。債務者について、債務の履行不能、財務状況の債務超過および事業の存続不能が確認されれば、破産裁判所は破産手続開始を決定し(第120条)、管財人が破産者の財産を掌握し、法定の要件に従って管財人が立案し、債権者集会で承認された清算および配当計画に基づき、財産の換価と配当が行われます。

 いずれの手続も、債務者、債権者または監督官庁が申立てることができます。債務者申立は、支払停止または債務者が支払期限に弁済することができないことを確知した日から60日以内にしなければなりません(第16条1項)。なお、支払停止とは、債務者が支払期限の到来した債務について10日経過後も弁済していないことを指し、債務者が弁済するに十分な財産を有していることや当該債務に十分な価値の担保が付されていることは問いません。

11. インドネシア

 インドネシアの会社に対する倒産手続きは、破産及び債務の支払い停止に関する法律2004年第37号(以下「破産法」といいます)において規定されています。破産法において、清算型の破産手続きと、再生型の支払い猶予手続きが規定されています。以下の手続きにおいて、➀和議案が提示されなかった場合、②提案された和議案が受理されなかった場合、③和議案の承認が判決に基づき拒否された場合に、破産財産(Harta Pailit)は法的に倒産状態(keadaan insolvensi)にあると判断されます(破産法第178条)。

(1) 清算型の破産手続き

 2名以上の債権者を有する債務者が、期限が到来した債務を履行することができない場合、債務者、債権者、公益を代表する検察官などは破産申立を行うことができます(破産法第2条)。破産申立は債務者の居住地を管轄する商事裁判所に対して行われます(破産法第3条)。 裁判所は破産申立の受理から60日以内に、破産宣告をするか否かの決定をします(破産法第8条)。2名以上の債権者が存在しており、支払い期日が到来している債権の1つが不履行で、裁判所が、当該債務者に対して、破産を宣告した場合には、破産管財人及び監督裁判官を指名し、また、債権者3名を選任して債権者委員会を組織することができます(破産法第13条)。

 破産宣告がされた場合に、30日以内に債権者集会を開催する必要があります(破産法第15条)。集会では債務者は和議案を作成し、集会に出席した無担保債権者の過半数及び総債権額の3分の2以上の債権を有する者の同意によって、和議案の承認を得ることができ、破産手続きを終了させ、和議案の履行へと移行することが可能です(破産法第281条)。和議案が取り消された場合には、破産手続きが再開され、再提出は認められておりません(破産法291、292条)。

(2) 再生型の破産手続き

 債務者及び債権者は、裁判所に債務者によるその全債務の支払いに関する支払猶予(PKPU: Penundaan Kewajiban Pembayaran Utang)を申し立てることができます(破産法222条)。支払猶予の決定がなされると、債務者及び債権者は、裁判所に和議案を提出することができます(破産法228条)。和議案が債権者集会の同意を得て裁判所によって承認された場合、和議案は全債権者を拘束します(破産法第286条)。和議案が債権者集会での同意を270日以内に得られなかった場合、裁判所が和議案を承認しなかった場合、また債務者が和議案を履行しなかった場合、裁判所は債務者に対して破産を宣告します(破産法第228、285、291条)。ただし、2021年の憲法裁判所の決定に基づき、➀PKPUが債権者によって開始された場合、②債務者の提案が却下された場合の二つを満たす決定については、債務者は最高裁判所に異議申し立てをすることが可能です(破産法に関する決定2021年第23号)。

発行 TNY Group

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
 URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

 URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

 URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

 URL:  https://www.tny-indonesia.com/

Newsletterの記載内容は2025年3月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国における内部通報者保護制度の概要

1.日本

(1) 公益通報者保護法の概要

公益通報者保護法は、国民生活の安全や社会経済の健全な発展の観点から、公益のために事業者の法令違反行為を通報した当該事業者内の労働者、退職者、役員の保護を図っています。

労働者、退職者、役員は、不正の目的でなく、自身の勤務先における不正行為を、一定の要件の下で通報することができます。また、同法は、公益通報をしたことを理由とした解雇の無効、降格・減給等の不利益取扱いの禁止する等して、通報者を保護しています。

 公益通報者保護法上の通報先と要件は以下のとおりです(同法3条1項)。

通報先 要件
事業者(内部通報) 通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合
行政機関 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合、もしくは、まさに生じようとしていると思料し、かつ、当該通報対象事実の内容等の所定の事項を記載した書面を提出する場合
報道機関 通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、内部通報では解雇や不利益取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある場合等の一定の事由に該当する場合

また、公益通報者保護法は、事業者に対し、公益通報を受け、当該通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(次条においてに従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めることや公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を義務付けています(同法11条1項、2項)。なお、この義務は、常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については努力義務とされています(同条3号)。

(2) 会社法上の内部統制システム構築義務

また、上記内部通報者保護法の規定のほかに、会社法上、大会社(資本金が5億円以上または負債の額が200億円以上の会社)の取締役設置会社については、内部統制システム構築義務があり、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備が求められます(会社法362条4項6号、5項)。

 取締役が内部統制システムの構築を怠るなどした場合には、任務懈怠として会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

 

2.タイ

(1) 内部通報者保護法の有無

 タイにおいて、民間企業や公的機関による不正行為等について内部通報者を保護することを目的とした法律はありません。他方、贈収賄の疑いがある場合に通報を推奨する旨のガイドラインは存在します。

(2) 内部通報者の保護

タイでは、内部通報したことを理由に従業員を解雇した場合には、不当解雇とみなされる可能性が高く、労働法など個別の規定によって内部通報者の保護が図られているといえます。また、多くのタイ企業において、自主的に内部通報制度を設けているケースが見受けられます。

 

3.マレーシア

(1) 内部通報者保護法の概要

マレーシアには、内部通報者保護法(Whistleblower Protection Act 2010[Act 711]、以下「法」といいます。)が制定されており、内部通報者の保護を図っています。この法律は、公益通報者を保護することで、不正行為の報告を促し、腐敗や不正を防止することを目的としており、内部通報者からの情報非開示義務や法的責任の免責措置により、内部通報者の保護を図っています。

(2) 内部通報者保護法による内部通報者保護の内容

内部通報者の情報は、「秘密情報(confidential information)」として保護されます。具体的には、内部通報者の身元や通報内容に関する情報は秘密情報とされ(法2条)、いかなる者もその情報を他人に開示することは禁止されています(法7条第1項(a)、8条1項)。これに違反した場合、RM50,000以下の罰金や最大10年の拘禁刑が科される可能性があります。また、民事訴訟や刑事訴訟においても、原則として秘密情報は開示されることはありません(法8条2項)。

さらに、内部通報者は、原則として、懲戒処分、その他民事的責任および刑事的責任からも免責されます(法7条1項(b)、9条)。

報復としての不利益取扱いの禁止(protection against detrimental action)も禁止されています(法10条)。不利益取扱いには、身体的・財産的侵害行為、威圧的行為、ハラスメント行為、さらには雇用に関連する差別、解雇、降格、停職、その他内部通報者の生計に対する干渉が含まれます(法第2条)。また、これらのいずれかの行為を行う旨の害悪告知も禁止されています。

(3) 会社による内部通報者保護制度の構築について

マレーシアの内部通報者保護法は、会社に対して正式な内部告発者保護制度の確立を明確に義務付けてはいません。そのため、すべての会社において内部告発者保護制度が構築されているわけではないのが現状です。他方で、不正行為の早期発見の観点からは、会社が独自に内部通報者保護制度を構築することには大きな意義があります。そのため、マレーシアにおいては、会社が内部通報者保護制度を整備することが一般的になりつつあると思われます。

 

4.ミャンマー

⑴ 内部通報者保護法の概要

ミャンマーでは、内部通報者保護法または類似の法令は制定されていません。もっとも、腐敗や不正行為の防止または早期発見の観点から、独自の内部通報者保護制度を構築している会社は存在します。

 

5.メキシコ

⑴ 内部通報者保護の概要

メキシコでは、公的部門においては内部通報者を保護するための法制度が整備されていますが、民間部門には十分な法的枠組みが存在していません。

公的部門については、2017年7月に施行された行政責任一般法(Ley General de Responsabilidades Administrativas)が、公務員による不正行為の取り締まりを目的としており、内部通報者の保護措置を含んでいます。同法では、内部通報者の匿名性を確保し、通報の調査過程においてその身元を守ることが規定されています。また、善意で不正を報告した通報者に対する報復行為を禁止する規定も設けられています。

さらに、2019年9月には、汚職に対する内部・外部通報システムの運用と推奨に関するガイドラインが制定されました。これにより、贈収賄や公金の不正使用に関する通報を受け付けるプラットフォームの運営が確立されました。このガイドラインでは、汚職、人権侵害、ハラスメントなどの違反行為を報告する通報者の保護を目的とした施策を推進しています。2020年10月には、汚職通報者保護に関するプロトコルが策定され、通報者を保護する体制が強化されています。

⑵ 民間企業での内部通報者保護制度の構築について

 現時点では、メキシコには民間企業向けの包括的な内部通報者保護法は存在しません。しかし、企業が自主的に内部通報制度を設けることは可能であり、行政責任一般法においても、企業に対し、内部統制およびコンプライアンスプログラムの一環として、内部通報制度の導入を勧めています。内部通報制度の設置は義務ではありませんが、企業の倫理的行動を促進し、不正行為を防ぐために推奨されています。

 

6.バングラデシュ

(1) 公的機関に対する通報制度

公的機関に対する内部通報者の権利利益保護については、2011年6月22日、2011年公益情報開・保護法(Public Interest Information Disclosure (Provide Protection) Act)が制定されています。

この法律は、公的機関の職員が、公的資金の不正利用や不適切管理、権力の濫用、犯罪行為、汚職などを行っている場合、所属する所轄官庁に対して通報しても、通報した者は法的保護を受けられると定めています。(2条)

適切な公益通報を行った場合、本人の同意なく身元が明かされることはなく、公益通報を行ったことによる民事・刑事責任を免れるほか、降格・ハラスメント・差別的な扱いが禁止されています。(5条)

公益通報者の身元を開示したり、差別的に扱うなど、通報者の権利を侵害した場合、2年以上5年以下の懲役または罰金が科されます。(9条)

ただし、通報者が、通報内容が虚偽であること、真実性が確認されていないこと、公益に反する根拠がないことなどを認識した上で通報した場合、虚偽の通報とみなされ、処罰される可能性があります。(11条)

 もっとも、この法律は、保護を受ける対象の範囲が限定されており、公益通報者に対する保護も十分ではなく、運用においても多くの問題が指摘されています。バングラデシュは、2024年の腐敗認識指数(トランスペアレンシー・インターナショナル)で180か国・地域のうち151位に位置しており、汚職対策は十分に機能していると言えません。

(2) 民間企業に関する通報制度

 民間企業における内部通報者の権利や利益の保護を定める法律はありません。しかし、進出されている日本企業では、日本のコンプライアンス基準に合わせて内部通報窓口を設ける例が見受けられます。

 

7.フィリピン

(1) 内部通報者保護に関する法律

フィリピンの法律において、内部通報者に関する規定は、会社法(Revised Corporation Code)とマハルリカ投資ファンド法(Maharlika Investment Fund Act)に定められています。

これらの法律では、内部通報者とは、その法律違反に関する情報を提供する者と定義されています。そして、これらの法律は、内部通報者に対する解雇などの報復行為を故意に行った者に対し、以下の罰則を定めています。

・会社法:罰金10万ペソ~100万ペソ

・マハルリカ投資ファンド法:罰金100万ペソ~200万ペソ、最長6年の禁錮刑

(2) 内部通報者保護ポリシー

フィリピンの会社法は、上記の罰則を除き、企業に対して内部通報者保護に関する義務を課していません。他方で、企業は裁量の範囲内で、独自の内部通報者保護ポリシーを策定することが可能です。

以下の企業は、内部通報者保護に関する独自のポリシーを策定・公開しています。

・San Miguel Corporation

https://sanmiguel.com.ph/storage/page-assets/30/2/gFjGxIj1o3ruIv2riiZkw09gdj61Q9IfHijAbOM5mkNsGLgxj5jWJckeZQ2Z/orig/SMC_Amended_Whistleblowing_Policy_Final.pdf

・Del Monte Philippines

https://www.delmontephil.com/hubfs/corporate-governance/Whistle_blower.pdf

・Metro Pacific Investments

https://www.mpic.com.ph/wp-content/uploads/2023/07/MPIC-Revised-Whistleblowing-Policy-approved-04-Aug-2021.pdf

 

8.ベトナム

内部通報及びそれに関連する規定は、ベトナムの法制度の下で、刑法、告発法、腐敗防止法、その他政府の専門的な政令(労働規則違反における苦情及び通報の解決に関する政令No. 24/2018/ND-CPなど)を含む多くの法的文書に概説されています。しかし、内部通報の規定に関連する重要な法的文書は、2018年6月12日に国会によって制定され、2019年1月1日に施行された、告発法という名称の法律No. 25/2018/QH14です。(以下、「告発法」といいます。)

国家機関は、内部通報には以下の2種類の状況があると認識しています。

(1)国家利益・組織や個人の正当な権益に損害を与え、又は与える恐れのある組織や個人の違反行為を、所轄組織や個人(通常は国の機関)に通報・通知・苦情を通じて内部通報すること。このような状況は告発法の規定により、正式に定義されています。

(2)企業の規則、規定、方針に違反する企業関係者の違反行為を、企業の内部通報・告発・苦情処理制度を通じて内部通報すること。現行の告発法は、このような状況を具体的に取り上げていませんが、企業は通常、告発法及びその法的指針文書に定められている規定を利用して、内部通報の手順及び方針を構築及び策定しています。

通報者及びその関係者(配偶者、実親、養親、継父、継母、実子、養子を含む)の地位、職務、生命、健康、財産、名誉、尊厳が侵害されている、又は直ちに侵害されるおそれがあると信じるに足りる根拠がある場合には、告発法上の保護対象者となります。その判断は、通報者本人又は通報を解決・処理する権限を有する組織や個人が行うことができます。それに伴い、適用される通報者保護のための措置は以下の通りです。(告発法第56条、第57条、第58条)

(ⅰ)情報の機密性を保護するための措置

・通報者から提供された情報や文書を使用する際、通報者の氏名、住所、自筆の署名、その他の個人情報を秘密にすること。

・通報者の氏名、住所、直筆サイン、その他の個人情報を、通報書類やその他の同封書類、証拠書類から削除や検閲した上で、他部署に転送し、検証すること。

・通報者、関連組織、 個人と協働する際は、時間と場所を調整し、適切な方法で通報者の情報を保護すること。

・その他法令に定める措置を実施すること。

・通報者の情報を保護するために必要な措置を講じるよう、関係機関及び個人に要請すること。

(ⅱ)労働者の地位と雇用を保護するための措置

労働契約の下で働く保護対象者の雇用を保護するための措置には、以下のものが含まれます。

・雇用主に違反行為の停止を要求し、保護対象者に職位、収入、その他の雇用による合法的な利益を回復させること。

・法律に従って違反行為を処理するために、権限に従って処理するか、権限を有する機関、組織、個人を提案すること。

(ⅲ)生命、健康、財産、名誉及び尊厳を保護するための措置

・保護対象者を安全な場所に連れて行くこと。

・必要な場所において、保護対象者の生命、健康、財産、名誉及び尊厳の安全を直接保護するための力、手段及び用具を手配すること。

・保護対象者の生命、健康、財産、名誉、尊厳を侵害する行為、又は侵害するおそれのある行為を防止し、対処するために、法令に基づき必要な措置を講じること。

・保護対象者の生命、健康、財産、名誉及び尊厳を侵害する行為を行う者、又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止を求めること。

・その他法令に定める措置。

 

9.インド

 インド会社法上、全ての上場会社、銀行等からの借入額が5億ルピー以上である会社、公衆からの預託(預金、貸付、その他の形式で金銭を受け取ること)を受け入れている会社については、内部通報制度(vigil mechanism)を構築する義務があります(会社法177条9項)。

 内部通報制度を構築するにあたっては、当該制度を利用する従業員等が不利益を被らないよう十分な保護策を講じ、監査委員会(Audit Committee)の委員長に直接連絡できるようにしなければなりません(同条10項)。

 なお、インド会社法上の内部通報制度構築義務がない会社であっても、不正の防止や発見のため自主的に内部通報制度を導入する例も見られ、日本企業のインド子会社の場合にも、現地から日本本社の統一窓口に対し直接通報することができるグローバルな通報制度をインド子会社内に構築する例があります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)では、内部通報者保護に関する特別法は制定されていません。

UAEで内部通報者を保護する機能がある法律としては、ドバイ首長国における、ドバイ経済安全保障センター(DESC)設立に関する2016年法律第4号が、ドバイ首長国の経済安全保障を脅かす事項につきDESCに通報する者に対して、住居の保護、通報者の特定や所在に関する情報の非開示、職場での保護と差別や虐待の対象とならないことを確保することを含む必要な保護を提供し、通報が通報者の就業先又は取引先の秘密情報保護義務に関する法律および私的契約の違反とみなされることないことを明示し、虚偽の通報でない限り、通報者の首長国内での自由、安全および保護が保証されると規定しています(第19条)。

連邦法の適用外で独自の法体系を持つ2つのフリーゾーンについては、Dubai International Financial Center(DIFC)では2022年に運営法の改正によって、Abu Dhabi Global Market(ADGM)では2024年に内部通報者保護規則の制定によって、両フリーゾーン内で設立された企業または同企業との取引に関する通報について、内部通報者保護が図られています。UAEの政府機関の一部でも、文化省(Ministry of Culture)や中央銀行(Central Bank)等、内部通報ポリシーを策定して、自己組織内での不正等についての通報制度を設けて、通報者への保護措置について規定しているように、UAEでは内部通報制度の整備が拡充してきています。このような状況を背景として、DIFCおよびADGMにおいて設立された会社に限らず、内部通報制度を設ける会社が増加傾向にあります。

 

11. インドネシア

(1) 内部通報者保護の概要

 インドネシアでは、内部通報者保護に関して、民間部門においては、法的枠組みは存在しておりませんが、公的部門において、関係する法制度が存在します。

内部通報者に関する定義においては、最高裁判所通達2011年第4号では、通報者(whistleblower)とは、組織または個人によって行われた特定の犯罪行為に関する活動について、自発的に情報を提供する個人を指すとされています。

(2) 内部通報者保護

 証人および被害者の保護に関する法律2014年第31号(以下、「証人および被害者の保護に関する法律」といいます。)第5条の下、通報者は以下の権利が保証されています。

・証言を行う、または行ったことに関連する脅迫に対して、個人、家族、および財産の安全を確保するための保護を受ける権利

・保護および安全支援の形式の選択、決定する権利

・いかなる圧力も受けずに情報を提供する権利

・通訳を得る権利

・誤解を招くような質問を受けない権利

・裁判手続きの進捗について知らされる権利

・裁判の判決について知らされる権利

・被告人の釈放について知らされる権利

・身元を秘密にする権利

・新しい身元を取得する権利

・一時的な移転を受ける権利

・新たな居住地への移転を受ける権利

・必要に応じた交通費の補償を受ける権利

・法律相談を受ける権利

・保護が終了するまでの間、一時的な生活費を受ける権利

 また、通報者を保護する権限を持つ機関としてLPSK(Lembaga Perlindungan Saksi dan Korban)が設置されており、LPSKは、a. )法律および規制に従い、保護対象者の身元を変更する、b.) 安全な避難施設を管理する、c.) 保護対象者をより安全な場所へ移動または再配置する、d.) 警備および護衛サービスを提供する、e.)裁判手続きにおいて証人及び/又は被害者を支援する権限を有しています(証人および被害者に関する法律第11条)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

 URL:  https://www.tny-indonesia.com/

Newsletterの記載内容は2025年3月3日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国における海外からの借入に関する規制の概要

1.日本

外国為替及び外国貿易法(「外為法」)は、対外取引が自由に行われることを基本としており(同法1条)、海外からの借入についても、原則は自由です。

ただし、貸付を行う側が規制を受ける場合があります。外為法上の「外国投資家」(同法 26 条 1 項)が、国内法人に対し、1年を超える金銭の貸付を行う場合で以下のいずれにも該当する場合には(外為法26条2項7号、対内直接投資等に関する政令2条14項)、財務大臣及び事業所管大臣に対し、当該取引前に届け出る(「事前届出」)か、当該取引後に報告する(「事後報告」)必要があります(同法 27 条 1 項、55 条の 5 第1 項)。事前届出や事後報告は当該外国投資家によって行われ、特定の書式にしたがって、貸付額や借入期間、金利、貸付金の使途等、所定の事項を記入しなければなりません。

(対象となる貸付)

1.当該貸付け後における貸付けの残高が1億円に相当する額を超えること

2.当該貸付け後における貸付けの残高と、当該外国投資家が所有する当該国内法人が発行した社債との残高の合計額が、当該貸付け後における当該国内法人の負債の額として省令が定める額の50%に相当する額を超えること

事前届出を要するものについては、政令や省令等で定めがあり、一定の国・地域の外国投資家からの借入や指定の業種を営む日本企業に対する貸付については、安全保障等の観点から事前届出の対象となります。事前届出を要するものに該当しない場合であっても、事後報告を行うこととなりますが、政令で事後報告が不要とされる例外が定められている場合もあります。

2.タイ

タイでは、海外からの借入を受ける場合に規制はなく、自由に行うことができます。

もっとも、日本の親会社がタイの会社に対して貸付を行う場合、日本の親会社が外国人事業法上の規制を受ける可能性があります。外国人事業法上、貸付行為が「その他サービス業」と判断された場合、外国人事業許可が必要となります。タイ国内の「グループ会社」への貸付については、「その他サービス業」には含まないとする商務省令がある一方、同省令に規定する「グループ会社」の定義に含まれない場合には、外国人事業法上の規制を受けることになります。

3.マレーシア

(1) 規制の概要

マレーシアでは、マレーシア中央銀行(Central Bank of Malaysia)が、市場で取引される通貨、証券、その他の金融商品に関連するデリバティブ市場の秩序ある状況または完全性を規制等することを目的として、規則その他ガイドラインを発行する権限を有しています(金融サービス法140条⑴、マレーシア中央銀行法43条⑴参照)。そして、マレーシア中央銀行は、以下に述べるとおり、一定の条件のもとで海外からの借入(オフショアローン)を認めています。

(2) 居住者と非居住者の別

後述⑶以下で述べるとおり、海外からの借入については、居住者とそうでない者(非居住者)とで、取扱いを別にしています。

「居住者」とは、次に掲げるいずれかに該当する者をいいます。

(a) マレーシア国民(マレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住する者を除く)

(b) マレーシアの永住権を所持し、定住する非マレーシア国民

(c) マレーシアで設立、登録、または認可された企業(法人・非法人、本社・支店を問わない)

「非居住者」とは次のいずれかに該当する者をいいます。

(a) 居住者以外の個人

(b) 居住者である会社の海外の支店、子会社、地域事務所、営業所、駐在員事務所

(c) 大使館、領事館、高等弁務官事務所、超国家機関、国際機関、またはマレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住するマレーシア国民

(3) 居住者に対する外貨建て信用供与

(a) 居住者である個人による借入れ

居住者である個人は、1,000万リンギを上限として、非居住者から外貨建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与には金額の制限はありません。

(b) 居住者である企業による借入れ

居住者である企業は、合計で1億リンギ相当額を上限として、非居住の金融機関または同一企業グループではない非居住者から、外貨建て信用供与を得ることができます。外貨建て借入れの元本および利息についても、認可額を超えない範囲で借換えが可能となっています。

(4) 居住者に対するリンギ建て信用供与

(a) 居住者である個人

居住者である個人は、マレーシア国内での使用を目的として、非居住者の企業(金融機関を除く)または個人から、100万リンギを上限とするリンギ建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与について、金額の制限はありません。

(b) 居住者である企業

居住者である企業は、マレーシア国内の実需に基づく活動のために、同一企業グループ内の非居住者の他社(非居住者金融機関を除く)または非居住者の直接株主から、金額の制限なく自由にリンギ建て信用供与を得ることができます。さらに、合計で100万リンギ相当額を上限として、マレーシア国内での使用を目的として、同一企業グループ以外の非居住者企業からリンギ建て信用供与を得ることができます。

4.ミャンマー

(1) 規制の概要

2020年はじめに、ミャンマー中央銀行よりオフショアローン承認申請に関する基準を変更する内容の告知が発布されました。ミャンマーでは、外国から借入れを行う場合、事前に中央銀行より当該借入れの承認を得なければならず、承認を得ずに送金を行うと、返済時に貸主への海外送金が認められません。

(2)  中央銀行の承認基準

ミャンマー中央銀行は、申請者から提出された所定の書類を基に以下の事実を検討及び精査し、申請を承認又は拒否します。

  1. 申請者がMIC許可会社の場合、資本金がUSD500,000を超えているか否か
  2. 申請者が投資企業管理局(DICA)で登記された会社の場合、資本金がUSD50,000を超えているか否か
  3. 申請者(借用人)の外国為替収入が一致しているかどうか
  4. 借用人が、ミャンマー国内事業から生じた通常収入から融資の返済が可能かどうか、及び、申請者が外国為替の収入を有する場合は、為替リスクを軽減する見通しがあるかどうか
  5. 借用人が既にMIC許可で約束された資本金の80%を送金しているか否か
  6. 申請者の企業がMIC許可会社の場合、負債比率が最大4対1以内か否か
  7. 申請者の企業がDICA登録会社の場合、負債比率が最大3対1以内か否か
  8. 融資契約及び書類に記載されている取引条件が正確に作成されているか否か
  9. 融資額保有期間が中期及び長期の場合も、返済計画が融資契約と一致しているか否か

5.メキシコ

メキシコでは、海外からの借入(オフショアローン)について、規制する法律はありません。

そのため、事前に特定のライセンスの取得や承認取得手続き等を経ることなく、現地法人が日本の親会社等から直接借入れを行うことも可能です。

6.バングラデシュ

(1) 法規制

バングラデシュにて海外からの借入(オフショアローン)を行う場合は、1947年外国為替規制法のほか、2018年外国為替取引ガイドラインにて規定されています。民間企業が海外からの借り入れを行う場合、原則として、バングラデシュ投資開発庁(BIDA)の許可とバングラデシュ中央銀行の許可の双方が必要となります。

以下の内容は、2018年外国為替取引ガイドラインに基づいておりますが、オフショアローンについては、運用や規定の変更が頻繁に行われますので、確認と調査が必要となります。

(2) 2018年外国為替取引ガイドラインの規制

(a) 外資系企業の海外の親会社、株主から無利子ローン

外資系企業は、次の要件を満たす場合、親会社、株主からの無利子ローンが認められます。

  • バングラデシュ内で運転資金の資金調達が準備されていない
  • 資材調達以外のビジネスニーズのために短期借入金が緊急に必要とされる

この場合、バングラデシュ銀行からの事前の承認なしに最大 1年間利用することができます。ただし、ローンを利用してから1週間以内に、公認為替取引銀行を通じてバングラデシュ銀行本部の外国為替運用部に事後報告することが必要になります。

(b) 輸出加工区・経済特区の工業企業の中長期の対外借入

輸出加工区などにある工業企業は、次の点を審査の上でオフショアローンが認められます。

  • プロジェクトの工業的実行可能性
  • 収益から提案された債務を返済するプロジェクトの能力
  • 国内外の市場におけるプロジェクトのアウトプットのコスト競争力
  • 借入提案のプロジェクトの潜在的な国内および外部需要
  • 銀行及びバングラデシュ銀行のCIB報告書によって裏付けられたプロジェクトスポンサーの債務状況

7.フィリピン

フィリピンにおける外国ローンや外国通貨建てローンに関する規制の概要を紹介します。外国ローンや外国通貨建てローンは、主にフィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas)によって規制されています。この規制の詳細は、フィリピン中央銀行が発行している「外国為替取引規制マニュアル」(Manual of Regulations for Foreign Exchange Transactions)で確認することができます。

「外国ローン」とは、フィリピン居住者がフィリピン非居住者に対して負うローンを指します。国内ローンか外国ローンかを判断する基準は、債権者がフィリピンに居住しているかによって決まります。そのため、フィリピン通貨でのローンであっても、債権者がフィリピン国外に居住している場合は「外国ローン」に該当します。

他方で、「外国通貨建てローン」とは、たとえば、フィリピン居住者またはフィリピン非居住者の民間セクターが、フィリピン国内で営業する銀行に対して負うローンを指します。

そして、企業などが借入れを受ける際に、政府機関などの公的セクターから保証を受ける場合には、ローン契約を締結する前にフィリピン中央銀行から事前の承認を受ける必要があります。また、ローンを外貨で返済する場合は、別途フィリピン中央銀行への登録が求められます。

公的セクターの保証がない場合でも、ローンや利息などを外貨で返済するためにフィリピン国内の銀行から外貨を購入する際には、原則としてフィリピン中央銀行への登録が必要となります。

8.ベトナム

ベトナムの法律によれば、「オフショアローン」または「外国ローン」とは、金銭消費貸借契約、後払い輸入契約、貸付信託契約、金融リース契約、または借主による国際市場での債務証書の発行を通じた、あらゆる形式の外国からの借入れにおいて、政府保証のない外国ローン(いわゆる「自己借入・自己返済ローン」)と、政府保証付きの外国ローンを総称する用語です。

外国ローンを実施できる対象は、ベトナム国内で設立・営業している企業、協同組合、協同組合連合会、金融機関等の信用機関、外国銀行の支店などです。外国からの借り入れや債務返済を行う場合、借主は、ベトナム国家銀行の規定に従って、借入れの登録、口座の開設と使用、資本金の引き出しおよび債務返済のための送金、借入れの実施に関する報告を行うなど、外国からの借り入れや債務返済に関する条件を遵守しなければなりません。

外国ローンの契約書は、貸主が借主に対し、一定の期間内に元本と利息(利息に関する合意がある場合)の両方を返済することを原則とし、特定の目的のために使用する金銭または資産(金融リース契約の形態の外国ローンの場合)を送金する、または送金することを約束する、当事者間の合意を記録した1つまたは一連の文書です。外国ローンの契約書は書面で作成する必要があり、電子データメッセージ形式の契約の場合は、電子取引に関する法律の規定を遵守しなければなりません。

外国ローンの通貨は外貨です。ベトナム・ドンによる外国ローンは、一定の場合にのみ可能です。

外国ローンの期間は以下のように分類されます。1年未満の短期ローン、5年未満の中期ローン、5年以上の長期ローンです。中長期ローンについては、国家銀行(SBV)への登録と定期報告書の提出が、短期ローンの場合は定期報告書が義務付けられています。

借主は、外国からの短期ローンを、借主の外国債務のリストラクチャリングおよび現金で支払う短期債務(国内ローンの主債務を除く)の支払いの目的でのみ、利用することができます。借主は、外国からの中期および長期ローンを、借主の投資プロジェクトの実施、借主の生産・事業計画その他のプロジェクトの実施、借主の外国債務のリストラクチャリングの目的でのみ、借り入れることができます。借主の外国ローン利用は、国家機関の認可を受けた書類の事業範囲と活動範囲に合致していなければなりません。

9.インド

⑴ 規制の概要について

インド法人が海外の銀行や企業などから借入を受けることは、「対外商業借入」(External Commercial Borrowing。以下「ECB」といいます。)と呼ばれます。ECBを実施するにあたっては、1999年外国為替管理法及びインド準備銀行が定めるECB規制に従う必要があります。

ECBには、「外貨建て」と「ルピー建て」の二つの枠組みがあり、借入人の資格、貸付人の資格、借入期間、金利等に関する要件が定められています。

借入が、所定の要件を満たす場合には、自動承認となり、口座を管理する銀行の審査のみで借入が可能です。他方で、借入が所定の要件を満たさない場合には、事前にインド準備銀行の承認を得なければなりません。

⑵ ECB規制の要件について

外貨建てECB ルピー建てECB
借入人 外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)を受け入れることができる事業体
貸付人 インド国外の親会社などの法人や銀行等
ただし、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)または
証券監督者国際機構(International Organisation of Securities Commission’s:IOSCO)
加盟国の居住者である必要がある。
*日本はいずれにも加盟している。
平均借入期間 原則3年
*製造業における1会計年度当たり5000万米ドル相当額までのECBの場合には1年等、
一定の場合には例外あり。
上限金利
・新規のECBの場合:ベンチマークレート+
500ベーシスポイント
・既存のECBの場合:ベンチマークレート+
550ベーシスポイント
ベンチマークレート+450ベーシスポイント
*ベンチマークレートとは、外貨建てECBの場合、借入通貨に適用されるインターバンク・レートまたは6か月間の
代替参照レートを指す。ルピー建てECBの場合、対応する期間の国債の金利を指す。
*ベーシスポイントとは、金利の表示単位で、1ベーシスポイント=0.01%を意味する。
資金使途 以下の使途には資金利用できない
1.不動産事業
2.資本市場への投資
3.運転資金(外国株主からの借入れの場合等は除く)
4.一般的な事業資金(外国株主からの借入れの場合等は除く)
5.ルピー建ての借入の返済
⑥上記1.~⑥を使途とする再融資

10. インドネシア

(1) 海外からの借り入れに関する規制

インドネシアでは海外からの借り入れ(オフショアローン)について、対象を➀銀行以外の法人と2.銀行に区分し、それぞれ規制されています。

(2) 銀行以外の法人による海外からの借り入れ

銀行以外の法人による海外からの借り入れについては、オフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2014年第16号(以下、「インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号」といいます。)において規制されています。

インドネシアにおいて海外からの借り入れを行う際には、➀四半期末から3か月以内および6カ月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、それぞれ25%以上の外貨建て資産を保有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第3条)、2.流動性比率に関して、四半期末から3か月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、70%以上の外貨建て資産を保有すること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第4条)、さらに、3.海外もしくは国内における格付け機関(Lembaga Pemeringkat)によって認定された、最低「BB」に相当する信用格付け(Peringkat Utang)を有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第5条)が義務付けられています。3.の信用格付けについては、債務残高の総額が増加しない、またはその増加が一定の限度内であるリファイナンスの場合や一定の要件を満たすインフラプロジェクトの資金調達の場合には、適用除外されます。さらに、(a) 親会社から外貨建て債務を借り入れる場合、(b) 親会社が外貨建て債務を保証している場合、(c) 商業活動開始後3年以内の会社の場合には親会社の信用格付けを利用することができます(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第7条)。また、上記3つの基準を満たしていることに関して、四半期ごとに、インドネシア中央銀行に報告する義務があり(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第8、9条)、遵守状況について、インドネシア中央銀行は監視および調査を実施する権限を有しています(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第10条)。

(3) 銀行による海外からの借り入れ

銀行による海外からの借り入れにおいては、上記(2)において記述した3つの規制が適用されることに加えて、1日あたりの短期負債の残高を資本の最大30%に制限する義務があり、長期負債の借り入れの際には、事前に、満期や借り入れ金額などの債務の条件や計画について、インドネシア中央銀行から承認を得る必要があります。また、長期負債の借り入れ取引後は、完了日から7営業日以内に取引内容をインドネシア中央銀行に、報告しなければなりません。(銀行によるオフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2019年第21号第4、5、9、14条)。

発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】 ・TNY Group

URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

URL:  https://tny-india.com/

・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

URL:  https://www.tny-indonesia.com/

Newsletterの記載内容は2025年1月27日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 配当決定の手続き

  株式会社が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、①配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額、②株主に対する配当財産の割当てに関する事項、③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日、をそれぞれ定めなければなりません(会社法454条)。

 もっとも、㋐会計監査人設置会社であり、㋑取締役の任期が1年を超えず、㋒監査役会設置会社または委員会設置会社である場合には、取締役会の決議をもって剰余金の配当を行うことができる旨を定款で定めることができます(同法459条)。

また、 取締役会設置会社は、一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができます(同法454条5号)。

(2) 配当の支払に関する規制

まず、会社の純資産の額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当ができません(会社法458条)。

  また、剰余金の配当は、株主に交付される財産の帳簿価額の総額が、当該行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(同法461条1項)。

 分配可能額の計算方法としては、446条各号に従って分配時点での剰余金を算定し、当該剰余金の額を基に461条2項に従って、分配可能額を算出することとなります。 

分配可能額を超えて配当が行われた場合、当該配当を提案した取締役および当該配当を受け取った株主は、会社に対し連帯して、当該配当額相当の金銭を支払う義務を負います(同法462条1項)。

 

2.タイ

(1) 配当決定の手続き

配当は、株主総会の決議に基づいて行われなければなりません(民商法1201条1項)。

ただし、取締役が、中間配当を行うための利益があることが明らかであると判断したときは、取締役の判断で中間配当を行うことができます(同条2項)。

  また、配当の支払は、配当決定の決議から1か月以内に行われる必要があります(同条4項)。

(2) 配当の支払に関する規制

配当の原資は利益のみであり、また、会社に累積赤字がある場合には、当該累積赤字がなくなるまでは配当ができません(民商法1201条条3項)。

また、配当を実施する都度に会社は、会社の資本額の10分の1以上に達するまで、利益の20分の1を利益準備金として積み立てる必要があります(同法1202条1項)。

会社が、これらの規制に違反して配当を行った場合、会社の債権者は株主に対し、配当を受けた金額を会社へ返還するよう請求することができます。ただし、配当が規制に違反していることを知らなかった株主については、返還を強制されません(同法1203条)。

 

3.マレーシア

(1) 会社が配当を実施するための要件

会社が株主に対して配当を実施するためには、会社が支払能力を有している必要があります(会社法131条⑴)。会社法によれば、少なくとも、会社が配当実行直後から12か月以内に支払期限が到来する債務を履行することができる状態にある場合には、その会社は支払能力があるとみなされます(同条⑶)。

加えて、会社による配当は、会社が得た利益からのみ実施できるとされています(同条⑴)。法律上、利益(profit)の内容について特段の定義は存在しませんが、裁判例によれば、ここにいう利益には子会社の利益は含まないことが確認されています。

利益が存在する時期について、会社法の文言上、その基準時は配当時であると考えられます。ただし、過去の裁判例には、その基準時について、配当宣言時に存在する必要があるものの、支払時に存在する必要はない旨判示したものが存在します。

(2) 配当規制違反の場合の効果

仮に、会社が支払能力要件を満たすことなく配当を実施し又は会社の利益以外から配当を実施した場合、会社は配当を受けた株主に対して、超過配当額相当の金額の返還を求めることができます(133条⑴)。ただし、株主が超過配当であることについて知らなかった場合や会社に支払能力がなかったことを知らなかった場合には、当該株主は、会社からの返還請求を拒絶することができます(同項(a)・(b))。

 

4.ミャンマー

⑴ 配当の決定及び要件

会社法第107条及び第109条及び定款に従い、会社の取締役会は、その株主に対して配当を支払う旨を決議し、その金額、支払時期及び支払方法を定めることができます(会社法106条(a))。配当の支払方法は、現金、株式発行、オプション授与又は資産の譲渡によることができます(同条(b))。

会社は、以下の場合を除き、配当の支払を行うことはできません(会社法107条(a))。

  1. 配当支払の直後において会社が支払能力検査を充足すること
  2. 配当の内容が、株主に対して全体として公平かつ合理的であること、及び
  3. 配当金の支払が、債権者に対する会社の支払能力に重大な影響を与えないこと。

(2)  配当規制違反

会社が第107条の要件を遵守しなかった場合、会社は、50万チャットの罰金に処され、当該違反を認識しながら意図的に違反を許した全ての取締役又は役員も同じ罰金が科せられます(会社法108条(a))。

会社が配当の支払の後にそれと関連して支払い不能となった場合、第107条に違反していることを認識しながら意図的に配当の支払いを許した全ての取締役は、各債権者に対する弁済期が到来した負債の額が会社の責任財産を超過している限度において、会社の債権者に対しても責任を負います(同条(b))。

 

5.メキシコ

⑴ 配当の手続きについて

メキシコでは、配当金の支払いは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ行うことができるとされています(会社法第19条)。

配当は、株式の出資の履行の金額に比例して行われ(同法第117条1段落)、株式の発行日から3年を超えない期間は、年率9%を超えない配当を付す旨を定款で定めることができるとされています。定款で定められた場合、配当の額は一般経費に計上する必要があります(同法第123条)。

また、株券発行会社においては、株券に「クーポン」が添付されており、切り離して会社に示すことで配当をうけることができます(同法第127条)。

⑵ 違法配当について

 前述のようにメキシコでは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ配当を行うことができます。

このような事情が無いにもかかわらず、会社が配当を行った場合、当該配当は法的効力を持たず、会社および債権者は、配当を受け取った者に対して訴訟を提起するか、支払った役員等に対して弁済を求めることができます。また、配当を受け取った者と支払った役員等は連帯して責任を負うことになります(会社法第19条)。

 

6.バングラデシュ

(1) 配当の方法

 配当は、会社の利益から支払われ、利益の金額とは、会計年度の利益から減価償却を控除して算出されるものとされています。

 会社は、定款で別段の定めがない限り、出席した株主の過半数の賛成で可決する普通決議(Ordinary Resolution)を行い、株式の配当を決定します。株主総会に提出される取締役会の貸借対照表には、i) 会社の状況、ii) 取締役が提案する貸借対照表に計上される準備金額(もしあれば)、iii) 取締役が推奨する配当金額(もしあれば)、iv) 貸借対照表が対象とする年度の最終日から報告日の間に生じた、会社の財務状況に影響する実質的な変化および義務に関する取締役会による報告書が添付されます(会社法184条1項)。

(2) 配当金の海外送金

 配当金については、外国為替取引ガイドライン第10章「31.(a)非居住者の株主への配当金」により、海外送金する手続きが定められています。必要な書類を提出すれば、バングラデシュ銀行の事前の承認なしで送金することができます。また、配当金は、非居住者が管理する外貨口座に対する送金も可能です。

(3) 上場企業

上場企業は、配当に関して、バングラデシュ証券取引委員会(The Bangladesh Securities and Exchange Commission :BSEC) と、バングラデシュ中央銀行からの規制が定められています。

 

7.フィリピン

  1. 概要

フィリピンの会社法では、会社は留保利益(unrestricted retained earnings)から配当を行うことができます。支払額は、原則として株主が保有する発行済株式に基づいて決定されます。

配当の決定権は基本的に取締役会にあります。例外として、配当を株式で行う場合には、株主総会で発行済株式の3分の2以上の賛成を得る必要があります。さらに、取締役は、実務上、定時株主総会で配当方針や配当の有無を株主に説明し、配当を行わない場合にはその理由を説明することが求められます。

    2. 配当の要件

配当を行うための基本的な要件をまとめると以下のとおりです。

  • 留保利益があること。
  • 取締役会で配当の決議を行うこと(配当を株式で行う場合、発行済株式の3分の2以上の賛成を得ること。)
  • SEC(証券取引委員会)が出すその他の要件を遵守すること。

     3.株主の配当受領に関する制限

株主が配当を受け取る権利には制限があります。株式の払い込みが未払いの株主については、配当金は未払いの株式引受金額および関連費用に充当され、残額のみが配当金として支払われます。また、配当を株式で行う場合は、株主が未払いの引受金額を全額支払うまで配当が保留されます。

      4. 配当の義務

基本的に、配当を行うかは取締役会の裁量に委ねられています。そのため、留保利益があっても配当は会社の義務ではありません。ただし、例外として、保留利益が払込資本金を超える場合で、払込資本金を超える保留利益の保持が許可されない場合は、会社は配当を行う必要があります。

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの企業規制における会社の種類

ベトナムの現行の企業規制では、複数の企業形態があり、それぞれ固有の法的特性と組織構造を持っています。その中で、国内および外国の企業家や投資家は、通常、有限責任会社(一人社員または複数社員で構成されます)または株式会社という企業形態を選択して、ベトナムで事業を立ち上げます。そこで、本ニュースレターでは、これらの種類の企業に関連する情報のみを取り上げます。

法律により、株式を発行し配当を受け取ることが認められているのは株式会社のみです。一方で、有限責任会社、特に複数社員で構成される有限責任会社は、対応する出資額に応じた割合で利益分配を受けなければなりません。

(2) 有限責任会社と利益分配

有限責任会社の社員の法定権利として認められ規制される利益分配を受ける権利は、現行の企業法に規定されています。有限責任会社の利益分配の計画は、社長または総社長が提案し、社員総会の承認を得る必要があります。有限責任会社に現金またはその他の財産で資本金を拠出した個人社員および組織社員の委任代表者全てが、事業の最高決定機関である社員総会を構成します。

有限責任会社が利益を分配するための条件には以下が含まれます。

  1. 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
  2. 利益分配を実施した後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。

上記の条件のいずれかが満たされない場合、有限責任会社の社員が利益分配として会社から受け取った金銭や財産は、違法な利益分配とみなされます。この場合、社員は受け取った全ての金額や財産の全額を返還しなければなりません。また、社員は、返還されていない現金や財産の割合に応じて、それらが全額返還されるまで、会社の債務や負債について共同で責任を負う義務があります。

(3) 株式会社と配当

現行の企業法では、配当とは、1株当たりの現金またはその他の財産に対する純利益と定義されています。株式会社の株式は普通株式と各種優先株式(配当優先株式、償還優先株式など)に分けられます。優先株式の配当は、それぞれの優先株式に記載された条件に従って支払われます。そこで、本ニュースレターでは、普通株式の配当に適用される条件のみを概説します。

普通株式の配当は、以下の条件を満たす場合に限り、法定の支払方法によるベトナムドン(現金)での支払い、または株式や株式会社の会社定款に規定されたその他の財産での支払いが可能です。

  1. 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
  2. 法律および当該会社の定款に従って、会社の資金への拠出を完了し、過去の損失を補填した後であること。
  3. 配当後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。

株式会社が株式による配当を選択する場合、株式の募集手続きではなく、定款資本を増加させる手続を行う必要があります。

定時株主総会終了後6か月以内に、配当は株主に支払われます。取締役会は、配当を受ける株主の名簿、株式ごとの配当額、配当の支払時期および支払方法を、毎回の配当支払日の遅くとも30日前までに作成する責任を負います。配当支払日の遅くとも15日前までには、株主の登録住所に配当支払通知書を速達で送付しなければならず、その通知には、最低でも法律で定められた5項目の情報が記載されている必要があります。また、株主名簿の作成日から配当支払日までの間に株式を譲渡した場合は、譲渡人が配当を受け取ります。なお、ベトナムの株式会社の取締役会は、例えば英国や米国の法律に基づいて設立された会社の取締役会と多くの点で類似しています。

配当が前述の要件や規制に違反する場合、配当は違法とみなされます。この場合、株主は受け取った金額や財産を全額返還する義務があります。もし返還が行われない場合、取締役会の全メンバーは、未回収の金銭または財産の価値に相当する会社の債務および負債について共同責任を負うことが求められます。

 

9.インド

⑴ 配当の手続きについて

 インド会社法では、配当とは中間配当を含むとしています(会社法2条(35))。したがって、中間配当と期末の配当を行うことが可能です。

 会社は減価償却後の利益から、若しくは減価償却後の未配当の過去の会計年度の利益から、又はその両方から適当と認められる配当率及び配当額を決定して配当の宣言を行うことができます(会社法123条(1)(a))。いずれかの会計年度において利益が不十分な会社については、配当の宣言及び支払に関する会社規則(Companies (Declaration and Payment of Dividend)Rules 2014)に規定する以下の条件従うことを条件として配当を行うことが可能です。

  • 配当金の率が直前の3年間の平均を超えないこと
  • 配当額が払込資本金及び準備金の合計額の10分の1を超えないこと
  • 引き出された金額は、配当が宣言される前に配当を宣言する会計年度に発生した損失を相殺するために使用される
  • 配当支払後の準備金が払込資本金の15%を下回ってはならない

 取締役会で配当額や年次株主総会の日付等が決議され、配当の宣言は年次株主総会の普通決議の議題となります(会社法102条(2))。

 中間配当については、取締役会は、会計年度中に、損益勘定の剰余金及び中間配当を宣言しようとする会計年度の利益から中間配当を宣言することができます。ただし、中間配当の宣言日の直前四半期末までの当会計年度に損失が発生した場合、当該中間配当は、直前3会計年度に会社が宣言した平均配当率を上回る率で宣言してはなりません(会社法123条3項)。

⑵ 配当期間の規制について

 会社によって配当が宣言されたにもかかわらず、宣言の日から30日以内に配当が行われなかった場合、配当金の不支給について故意の取締役は2年以下の禁固刑、および違反が継続する期間につき1日当たり1,000ルピー以上の罰金に処せられ、会社は違反が継続する期間中、年18%の単利を支払う義務を負います(会社法127条)。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、株主総会において、法定準備金及び任意準備金を控除した後に、株主に配当する純利益の割合を定めるものとされています(会社法第243条1項)。通期、半期または四半期の利益に応じた配当について、社則で定めることができます(同第3項)。法定準備金を配当の原資とすることは原則できませんが、社則で定めた割合の純利益がなかった年には、法定準備金のうち資本の50%を超過した部分については、社則で定めた割合に従って配分することができます(会社法第241条1項、3項)。なお、毎年の純利益の10%は法定準備金とする必要があり、法定準備金の額が資本金の50%を超えたときには、株主総会決議によって純利益からの法定準備金の積み増しを中止することができます(会社法第241条2項)。

非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて(会社法第267条)、有限会社(Limited Liability Company)については、毎年の純利益の5%を法定準備金とする必要がある(会社法第103条)他、その性質に矛盾しない限り、証券商品庁を所管官庁と読み替えて(会社法第104条1項)、適用されます。

上記は本土で設立された会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、各フリーゾーンの規則によって規定されます

 

11. インドネシア

(1) 配当金の支払い

 インドネシアにおける配当金について、株式会社は、各会計年度の純利益の一部を準備金として積み立てる義務があり、資本金額の20%を超えるまで積み立てる必要があります。純利益の配当は、定款で別段の定めがない限り、及び/又は、株主総会における配当額などに関する普通決議がない限り、準備金控除後の純利益を株主に配当金として支払わなければなりません(2007年第40号(以下、「会社法」といいます。)70条、71条)。

株主が受け取る配当金の金額は、保有する株式の割合に比例し、会社が利益残高を有する場合にのみ配当が可能です。なお、5年以上、未払いとなっている配当金は特別準備金(cadangan khusus)として保管され、10年間未払いのままである場合、それらの配当金は会社の収益の一部として引き継がれます(会社法73条)。

(2) 中間配当

 インドネシアでは、中間配当の支払いも可能ですが、会社の定款に定める必要があります。また、中間配当は監査役会での承認を得た後、取締役会決議に基づき決定され、①会社の純資産額が発行済みおよび払込済みの資本金と準備金を下回らない場合、②債権者への義務や会社の活動の妨げにならない場合に限り配当が可能です。なお、会計年度の終了後に、会社が損失を被った場合、すでに分配された中間配当は、株主によって会社に返還されなければならない義務があり、返還できない場合には、取締役およびコミサリス(監査役)は会社が被った損失に対して連帯責任を負います(会社法72条)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

 URL:  https://www.tny-indonesia.com/

Newsletterの記載内容は2024年12月24日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

 

1.日本

(1) 懲戒処分の種類

懲戒処分の種類は会社ごとに様々ですが、一般的には、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等が挙げられます。

(2) 懲戒処分に関する規制

懲戒処分にあたっては、あらかじめ、就業規則において懲戒処分の種類と懲戒事由を定めてくことが必要とされます(フジ興産事件。最高裁昭和平成15年10月10日)。なお、就業規則は、労働者への周知と内容の合理性を要件にその有効性が認められるため(労働契約法7条)、懲戒に関する就業規則の規定についても、その内容が合理的であることが求められます。

また、懲戒処分を行うにあたっては、対象となる労働者に対し懲戒事由を告知し弁明の機会を与える等適正な手続きが履践されていることが必要であり、そのような手続きを就業規則中に定めておくべきです。

なお、懲戒権の行使が権利の濫用とならないよう注意が必要です。この点、懲戒処分の内容が不相当に重い場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できず、権利の濫用と判断される可能性があります(ネスレ(日本)懲戒事件。最高裁平成18年10月6日)。

 

2.タイ

(1) 懲戒処分の種類

労働者の懲戒処分に関しては、労働者保護法に規定があります。同法には懲戒解雇等の規定はあるものの、懲戒処分の種類や手続き等に関して法令上の明確な定めはありません。そのため、タイの実務上は、懲戒処分の種類や手続きに関して、自社の就業規則において記載するケースが多く見られます。

タイの実務上、一般的に行われている懲戒処分として、口頭または書面による警告、停職、普通解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いを伴う解雇)、懲戒解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いなく行う解雇)が挙げられます。その他、会社内の就業規則において、懲戒処分としての減給を定めている会社も見受けられますが、減給処分については、労働者保護法に反するという見解もあり、注意が必要です。

(2) 懲戒処分の手続きについて

前述のように、労働者保護法上、懲戒処分の手続き等を定めた明文規定は存在しません。そのため、懲戒処分の手続きは、会社と労働者間の契約内容や就業規則の定めによることとなるため、就業規則中では、何が懲戒事由にあたるかを具体的に定め、懲戒を行う際の手続きも明確化しておくことが大切です。

(3) 懲戒解雇について

通常、労働者を解雇するにあたっては、事前の解雇予告(労働者保護法17条2項)と解雇補償金の支払い(同法118条)が必要です。もっとも、解雇理由が、労働者保護法119条1項所定のいずれかに該当する場合には、事前の解雇予告と解雇補償金は不要とされています。同条の定める非違行為は以下のとおりです。

① 職務上の不正または使用者に対する故意の犯罪行為。

② 故意に使用者に損害を与えた場合。

③ 過失により使用者に重大な損害を与えた場合。

④ 使用者が文書で警告したにもかかわらず就業規則、社内規定、使用者の合法的な命令に違反した場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。文書の有効期限は、労働者が違反行為を行った日から1年間である。

⑤ 正当な理由なく、間に休日を挟むか否かを問わず、三日間連続して職務を放棄した場合。

⑥ 最終判決で禁固刑を受けた場合。(ただし、過失犯や軽犯罪の場合は使用者に損害を与えた場合に限る。(同条2項))

なお、労働裁判においては、タイの裁判所は労働者側に有利に判断する傾向にあり、労働者側が不当解雇であると主張するケースは少なくありません。労働者側から、後に、不当解雇であると主張されるリスクを減らすためにも、懲戒解雇を行うにあたっては慎重に準備を進めておくことが必要です。

 

3.マレーシア

(1) 懲戒処分の種類

従業員の懲戒処分について規定する法令は雇用法(Employment Act 1955)です。同法14条によれば、従業員が非違行為(misconduct inconsistent)を行った場合、使用者は、当該非違行為の事実について適正な調査を行った上、当該従業員に対して、懲戒処分を行うことができます。

雇用法上想定されている懲戒処分には、①予告期間を設けない解雇、②降格、③2週間を超えない無給停職その他の適切な処分(ただし、解雇・降格より緩やかな処分)があります(雇用法14条⑴(a)~(c))。

(2) 適切な懲戒処分の選択

どのような懲戒処分が当該従業員にとって適切であるのか、使用者は慎重に検討する必要があります。とりわけ、懲戒解雇を選択するような場合には、より慎重な判断が必要となります。すなわち、マレーシアにおいても、従業員に対する解雇が有効となるためには、解雇することについて正当な事由(just cause or excuse)が必要であるとされています。

また、非違行為には、犯罪行為のほか、職務命令違反、常習的な遅刻・欠席、セクシュアルハラスメント等多岐にわたり、会社に対する不利益の程度も様々です。使用者としては、従業員の非違行為の内容、動機、当該非違行為により会社が被った不利益等事情を総合考慮した上、適切な懲戒処分を選択する必要があります。これらの事情に比して懲戒処分の内容が重すぎる場合、当該懲戒処分が無効となる可能性があります。

(3) 懲戒処分を行うために必要な手続

使用者が懲戒処分を実施するためには、当該処分の前に、due inquiryと呼ばれる社内審問手続を実施しなければなりません(雇用法14条⑴柱書)。ところが、会社がdue inquiryとして、具体的にどのような手続を実施すればよいかについては、雇用法上明確に規定されてはいません。

実務上は、当該非違行為の有無を調査のうえ、当該従業員に問題となっている非違行為の具体的内容を通知するとともに、理由提示命令書を送付する等により、当該従業員に対して弁明の機会を付与すべきとされています。

このような手続に瑕疵があると、懲戒処分自体が無効となる場合があります。裁判例には、懲戒解雇を正当化できるだけの重大な非違行為があったとしても、適切な時期に警告等を行わなかったことを理由として、または、due inquiryが適切に行われなかったことを理由として、当該解雇の効力を否定したものがあります。

(4) 解雇手当について

雇用法上、従業員を解雇する場合には、使用者は12か月以上継続して雇用した労働者との間の雇用契約を終了させる場合、原則として勤務年数に応じた解雇手当を支払う必要があります(雇用規則3条1項)。もっとも、適切なdue inquiryを行った上、雇用契約の明示又は黙示の条件に反する労働者の不正行為に基づき使用者が雇用契約を終了させた場合には、当該解雇手当の支払は免除されます(雇用規則4条以下)。

 

4.ミャンマー

⑴ 懲戒処分の種類・内容・手続きに関する法規制

ミャンマーでは、懲戒処分の種類・内容・手続きに関して法令上規定されておらず、各会社の就業規則等で詳細を定める運用となっております。懲戒解雇についても特段の法令上の規定は存在しません。

(2)  減給

労働者が引き起こした損害又は不履行を保証するために罰金として賃金から控除する場合、賃金支払法に基づき、控除額は月給の5%を超えてはならない旨規定されています。

 

5.メキシコ

⑴ 懲戒処分の種類

メキシコでは、連邦労働法に懲戒処分の規定があります。

同法によれば、懲戒処分としての停職は8日間を超えてはならない旨や、懲戒処分を受けようとする労働者は事前に意見を述べる権利を有する旨が規定されています(連邦労働法第423条)。

他方、使用者が労働者の給与を減額した場合、労働者は雇用契約を終了させることが可能であり、補償金を受け取る権利があるとされています(同法51条)。

⑵ 懲戒解雇について

使用者は、以下の正当な事由がある場合は、いつでも雇用関係を終了させることが可能とされています(同法47条)。

  1. 労働者が就労の際に虚偽を用いた場合(ただし、就労の開始から30日以内に限る)
  2. 自衛行為を除き、労働者が業務中に不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
  3. 労働者が同僚に対し職場の規律を乱すような不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
  4. 業務時間外において、労働者が使用者、顧客や取引先、またはその家族に対する正当な理由のない脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行い、その結果、雇用関係を維持することが困難となった場合
  5. 労働者が、業務中、故意に建物、機械、原材料等業務に関する物体に被害を与えた場合
  6. 労働者が重大な過失によって建物、機械、原材料等業務に関する物体に影響を与えた場合
  7. 労働者に不注意による職場の安全を脅かす行為があった場合
  8. 労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントやいじめ等の非道徳的行為を行った場合
  9. 労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合
  10. 労働者に30日間のうち4日以上の正当な理由のない欠勤があった場合
  11. 労働者が正当な理由なく業務命令に従わない場合
  12. 労働者が職場における安全規則に従わない場合
  13. 労働者に職場での酩酊または薬物の使用があった場合(ただし、薬物の使用について、労働者が事前に使用者に対して医師の診断書をもって使用を申請していた場合を除く)
  14. 労働者が懲役刑に処された場合
  15. 労働者に起因する事由によって、就労に必要な書類が欠如しており、使用者がこれを知ってから2か月を経過しても改善されない場合
  16. その他これらに類する重大な行為があった場合

使用者は当該労働者に対して、当該事由およびその事由が発生した日付や期間を記した書面によって解雇を即日かつ直接通知するか、解雇日から5営業日以内に管轄の労働裁判所に当該労働者の住所とあわせて届け出る必要があります。この場合、使用者に代わって当該労働裁判所が労働者に当該解雇通知を送達することとなり、労働者が通知を受け取った時にこの解雇の効果が生じることになります。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュ労働法及びEPZ労働法において、懲戒の種類、懲戒の理由、手続きが定められています。

(1) 懲戒処分の種類(労働法23条2項)

① 退職(懲戒解雇と異なり、勤務年数に応じた補償金が支払われます)

② 1年を超えない期間の降格・減給

③ 1年を超えない期間の昇進の保留

④ 1年を超えない期間の昇給の保留

⑤ 罰金

⑥ 7日を超えない期間の賃金または特別手当なしの停職

⑦ 厳重注意および警告

(2) 懲戒の理由(労働法23条1項、4項)

使用者は、労働法で定められた懲戒処分の対象となる不正行為が、労働法24条の手続きで認められた場合、懲戒理由とすることができます。また、懲戒解雇に限り、犯罪行為で有罪になった場合も懲戒理由とすることができます。

懲戒処分の対象となりうる不正行為は次のとおりです。(労働法23条4項)

① 上長からの適法又は正当な指示に対して、個人又は複数で故意に従わないこと

② 事業や使用者の資産に関連した窃盗、横領、詐欺、不正行為

③ 業務に関連した贈収賄

④ 常習的及び一度に10日を超える無断欠勤

⑤ 常習的な遅刻

⑥ 常習的なルール違反や規則違反

⑦ 事業所における無秩序、暴動、放火、破壊行為

⑧ 常習的な職務怠慢

⑨ DIFEから承認を受けた、業務遂行や規律を含む雇用に関するルールの常習的な違反

⑩ 使用者の公的な記録の改変、偽造、不当な変更、損傷、損害をもたらすこと

(3) 懲戒の手続き(労働法24条)

まず、使用者は、不正行為と思料される事実を記載した書面を作成します。(労働法24条1項a)。次に、労働者に対して同書面を交付して7日以上の釈明する期間を与えます(同項b)。その期間内に、労働者に聴聞の機会を与えます(同項c)。労働者の釈明により不正行為がないと使用者が判断した場合はその時点で手続きは終了し、本行為について以後不問とされます。釈明しても疑義が解消されない場合は、同数の使用者代表者及び労働者代表者で構成された調査委員会を立ち上げて、60日以内で調査を行います(労働法24条1項d、労働規則25条1項)。

調査委員会の調査の結果、不正行為が認められた場合、使用者は、懲戒処分の決定を行うことができ(労働法24条1項e)、懲戒処分の決定を労働者に対して書面にて通知します(労働法24条8項)。

(4) EPZ労働法及びEPZ労働規則

EPZ内で適用されるEPZ労働法及びEPZ労働規則においても、懲戒についてはおおむね同様の内容が定めらています(EPZ労働法21条、EPZ労働規則23条乃至26条)。

懲戒の対象となる不正行為には、(2)の①乃至⑩に加えて次の項目が追加され、より具体的かつ詳細になっている点が特徴です(EPZ労働規則23条j乃至r)。

① 使用者の公式記録を改ざん、不当に改変、損傷、または紛失させること

② 工場の禁止区域での喫煙

③ 会社、企業、工場、またはEPZ内で薬物を摂取または消費し、秩序を乱す行為

④ 性的嫌がらせまたは身体的暴行

⑤ 使用者の同意なしに、会社、企業、または工場の敷地内で何らかの目的で募金活動またはキャンペーンを行うこと

⑥ 氏名、年齢、学歴、前職について虚偽の情報を提供すること

⑦ 求人応募に虚偽の情報を提供し、証明書を偽造すること

⑧ 会社、企業、または工場の敷地内で金銭を貸し借りしたり、金融業務を行ったりすること

⑨ 適切な当局の承認なしに、会社、企業、または工場の敷地内でチラシ、パンフレット、またはポスターを配布または掲示すること

 

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける懲戒処分の概要

フィリピンでは、日本と同様に従業員に対して懲戒処分を行うことができます。処分の内容は基本的に会社の裁量に任されており、訓告、減給、降格、解雇など日本と類似の処分を下すことができます。

会社は就業規則などで懲戒処分について定めることができますが、処分の内容は合理的である必要があります。不合理に重い罰則は無効とされる可能性があります。特に解雇に関しては、適用条件や手続が労働法によって規定されており、会社はこれらの規定を遵守する必要があります。

従業員が会社からの懲戒に対して納得ができない場合、労働関係委員会(National Labor Relations Commission)などに対して異議を申し立てることができます。

(2) 懲戒に関する判例

懲戒に関する判例を紹介します。最高裁で問題になるケースの多くは、不適切な行為を行った従業員に対する解雇に関するものです。

・Perez v. Philippine Telegraph and Telephone Company, G.R. No. 152048, April 7, 2009

フィリピン法上、従業員は解雇される際に聴聞と弁明の機会を与えられる必要があります。この点について、判例は、解雇手続において必ずしも正式な聴聞会を実施する必要はないことを判示しています。従業員に対して聴聞および弁明の機会を提供することが必要ですが、これには正式な聴聞会を通じて行う場合だけではなく、解雇に関する通知後に書面で説明を提出する方法も認められています。

他方で、判例は、例えば以下の場合において正式な聴聞会が例外的に必要とされる場合があることも認めています。

・従業員が書面で要求した場合

・根拠に関して争いがある場合

・会社の規則や慣行で義務付けられている場合

・その他の状況で正当化される場合

・Malcaba, et al, v. ProHealth Pharma Philippines, Inc., G.R. No. 209085, June 06, 2018

この判例は、解雇が最後の手段であるべきであることから、会社は解雇を行う際は状況を十分に把握して評価したうえで、解雇の理由が事実かつ重大なものであることを確認する必要があることを判示しています。

 

8.ベトナム

ベトナムの労働法において、懲戒処分は、使用者が、法令で認められている範囲内で、就業規則において定めるべきものとされています。就業規則で定めることができる懲戒処分の内容としては、譴責、最長6か月の昇給猶予、降格、解雇の4つがありますが、1つの違反行為に対して複数の懲戒処分を課すことは禁止されています。懲戒処分の時効期間は、違反行為が行われた日から6か月、財務、資産、技術・営業秘密の漏洩に直接関係する違反の場合は12か月です。懲戒処分の手続の概要は次のとおりです。

  • 使用者は、従業員に対して懲戒処分を行う場合、労働規律処分会議を開催しなければなりません。
  • 労働規律処分会議には、懲戒処分を受ける従業員が所属する基礎レベル労働者代表組織を参加させなければなりません。
  • 使用者は、労働規律処分会議を開催する少なくとも5営業日前までに、その会議の内容、日時、場所、懲戒処分の対象となる者の氏名、懲戒処分の対象となる違反行為について、会議の参加者に通知し、会議開催前に参加者が確実にその通知を受け取ることができるようにしなければならなりません。
  • 従業員は、弁護士又は労働者代表組織に弁護を依頼する権利があります。
  • 労働規律処分会議の内容については議事録を作成し、会議終了前に確認された上で、出席者が署名しなければなりません。
 

9.インド

インド労働法は、懲戒処分の規定を設けていません。1947年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)(以下、「産業雇用(就業規則)法」)4条及び同法スケジュールでは、解雇、停職に関する懲戒処分及び当該懲戒処分の対象となる非違行為を構成する作為又は不作為を就業規則の必要的記載事項としています。したがって、懲戒処分は就業規則に記載された事由に基づいて行われる必要があります。懲戒処分は、使用者から労働者へ書面による非違行為の通知、労働者の防御のための聴聞の機会が与えられ、記録された証拠に基づいて処分の正当性が決定される必要があります。こうした手続は、判例法に基づく原則 (Principles of Natural Justice) からの要請であり、非違行為の存在を認識したからといって手続を経ずに懲戒処分を行った場合、当該懲戒処分が違法無効となる可能性があります。

もっとも、産業雇用(就業規則)法は、 100人以上のワークマンを雇用している事業場に適用されます(マハラシュトラ州、グジャラート州、カルナータカ州、ハリヤナ州では、州法により50人以上のワークマンが雇用されている産業施設に適用されます)。ワークマンとは、雇用又は報酬を得るため、肉体労働、非熟練労働、熟練労働、技術労働、作業労働、事務労働、又は監督労働を行うために雇用される者(見習いを含む)をいい、主に1万ルピー以上の賃金を得て管理・監督の立場で雇用されている者は含みません(1947年産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)2条)。

産業雇用(就業規則)法上、就業規則の作成が義務ではない事業場であっても非違行為を理由に労働者に不利益を科す処分については、判例法上の原則が適用されると考えられます。したがって、法令上の就業規則の作成義務に関わらず、全ての会社において、就業規則を策定し、懲戒処分に関する規定を定め、当該規定に従って懲戒処分を行うべきといえます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における懲戒については、労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および同施行規則(2022年内閣令第1号)が以下の通り規定しています。なお、2つのフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社には、連邦労働法の適用が除外されていますので、各フリーゾーンの規定によります。

(1)懲戒処分の種類

懲戒の種類は、①書面による通知、②書面による警告、③月5日以上の減給、④14日以内の出勤停止および停止期間の給与不支払、⑤1年以下の期間の定期賞与の剥奪(定期賞与システムがあり、雇用契約または会社内規で定期賞与の対象となる場合)、⑥2年以下の期間の昇級の剥奪(昇級システムがある場合)、⑦退職時手当の権利を温存しつつの雇用解除、とされます(連邦労働法第39条第1項)。

会社は、(i)業務関連情報の秘匿違反の程度、(ii)労働者の健康および安全への影響、(iii)財務上の影響、(iv)会社の評判およびその労働者への影響、(v) 労働者の権限濫用、(vi)再犯率、(vii)違反行為の刑事または道徳上の側面、の基準に基づき、違反行為の重大性を考慮して懲戒の種類を選択しなければならず(施行規則第24条1項)、各懲戒の内容を明らかとする表を作成しなければなりません(施行規則第24条第2項)。

(2) 懲戒対象

雇用者は、連邦労働法、同施行規則および決定に違反した労働者を懲戒に付すことができますが(連邦労働法第39条第1項)、業務に関連しない限り職場外での行為について懲戒することはできず、1つの違反行為に対しては、1つの懲戒しかできません(連邦労働法第41条)。

(3) 懲戒手続

懲戒を行うにあたって、まず、対象となる労働者に書面で対象となる行為を通知し、労働者を聴聞し、その申し開きについて調査し、これらを報告書にまとめて、最終的な処分とともに労働者のファイルに保管して、労働者に懲戒処分の種類と金額、その理由、再発時のありうべき懲戒につき書面で通知しなければなりません(施行規則第24条第3項)。発見されてから30日を経過した違反行為は懲戒対象にはできず、懲戒処分は、調査が終了して違反の認定後60日以内に課されなければなりません(同第4項)。

懲戒事由の調査のため必要がある場合、30日以内の範囲で労働者を暫定的な出勤停止、同期間中の給与半減にすることができます。ただし、調査が事件保存で終了、または違法性なしと判明、若しくは懲戒処分が警告となったときには、停止期間中の未払給与を支払わなければなりません(連邦労働法第40条第1項)。

(4) 不服申立

労働者は、懲戒処分に関し、労働審判を提起することの他、会社に不服申立をすることができ、会社はその結果を通知しなければならず、不服申立に対して不利益を与えてはなりません(施行規則第24条第5項)。

(5) 即時解雇

上記の懲戒処分の他、労働者が安全に関する会社の内規に違反する等の法定事由に該当した場合、会社は、労働者への書面調査の実施後に事前通知なく解雇することができます。即時解雇に当たっては、理由を付した解雇決定書を、雇用主またはその代理が労働者に手交しなければなりません(連邦労働法第44条)。

 
 

11.インドネシア

(1) 懲戒処分の種類

インドネシアの懲戒処分については、①警告、②減給、出勤停止、③懲戒解雇の種類があります。懲戒処分に関する法制には、労働法2003年第13号(2022年の雇用創出に関する政府規則に関する法律第2号を改正した労働法2003年第6号)、労使関係紛争解決法2004年第2号、および年政府規則2021年第35号(期間契約労働契約、アウトソーシング、労働時間および休憩時間、解雇に関する政府規則)、2023年法律第6号に定められており、規則と手順に従って実施しなければなりません。

(2) 懲戒処分のための手続き

警告書に関しては、労働法第161条第1項で規定されています。インドネシアでは、従業員が就業規則、雇用契約書などに違反したとしても、すぐに解雇することは難しく、警告書を3回発行する必要があります。3回目の警告書を発行してから6カ月以内に、再度従業員が違反した場合に、初めて解雇することができ、3回目までに発行された、それぞれの警告書の有効期間は6カ月間です。

3回目の警告書を発行した後に解雇となった場合、雇用主と従業員が支払額やその他の権利や義務について合意し、雇用主と従業員は合意契約書(Perjanjian Bersama)を作成する必要があります。その後、雇用主は合意契約と雇用契約解除の理由をインドネシアの労使関係裁判所(Pengadilan Hubungan Industrial Indonesia)に登録し、合意契約登録証明書(Akta Pendaftaran Perjanjian Bersama)を取得する必要があります。

(3) 解雇手当

会社が従業員を解雇することになると、①退職金、②功労金、③権利補償手当など、企業に対する特定の義務が生じます。解雇は雇用主と従業員の合意の下で決定され、規定としては以下があります。

①退職金は、勤続期間が1年未満で固定給の1ヶ月分、2年未満で2ヵ月分、3年未満 で3ヶ月分と勤続年数に比例して増えていき、8年以上からは9ヵ月分で一定です。 ②功労金は、3年以上6年未満で固定給の2ヵ月分、6年以上9年未満で3ヶ月分、9年以上12年未満で4ヵ月分と勤続年数に比例して増えていき、24年以上は10ヶ月分で一定です。 ③権利補償手当には、未消化分の有給休暇の買取など、勤務期間に受けられるはずだった権利を補償する義務を指します。

警告書を発行した懲戒解雇の場合、①退職金については計算した金額の0.5倍、②功労金、③権利補償手当は計算金額をそのまま支給する必要があります。(法律2023年第6号)

 

 発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪),永田国際特許事務所)

URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

URL:  https://tny-india.com/

・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

URL:  https://www.tny-indonesia.com/

Newsletterの記載内容は2024年11月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 概要

日本では、株式の発行に関して、授権資本制度が採用されています。授権資本制度の下、会社は、将来発行する予定の株式の数を定款で定めておき、その「授権」の範囲内で会社が取締役会決議等により株式を発行することが認められています。

また、新株発行の方法には、第三者割当、株主割当、公募発行の3つがあります。

第三者割当とは、特定の第三者に対して株式の割り当てを行う方法をいいます。また、株主割当とは、全ての既存株主に対して各自の保有する株式数に応じて株式を割り当てる方法です。そして、公募発行とは、一般の投資家に対して広く出資を募集し、応募者に対して株式を割り当てる方法をいいます。

(2) 公開会社の場合

公開会社の場合、新株発行は取締役会の決議によって行うことができます(会社法201条1項)。ただし、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(有利発行)には、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法201条1項、199条3項、309条2項5号)。

また、既存株主に新株発行差止請求の機会を与えるために、募集事項を定めたときは、払込期日または払込期間初日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければなりません(会社法201条3項)。もっとも、金融商品取引法に基づき、払込期日の2週間前までに所定の届け出をする場合は、株主に対する通知公告は不要とされます(同条5項、金融商品取引法4条)。

(3) 非公開会社の場合

非公開会社の場合、新株発行の基本的な方法は、株主割当となります。非公開会社の場合、株主は、配当による経済的利益だけでなく、会社に対する支配権を維持する観点から持ち株比率の維持にも関心を有しているのが通常であると考えられるところ、株主割当ならば、持ち株比率に変動をきたさないからです。

株主割当による発行については、株主総会決議によって行うことができるほか(会社法199条1項)、定款で取締役会決議によって行うことができる旨を定めることも可能です(会社法202条3項)。

他方、第三者割当等、既存株主の持ち株比率に影響を与える方法で新株発行を行う場合には、既存株主の保護のため、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法199条2項、309条2項5号)。

また、公開会社の場合と同様、有利発行の場合にも株主総会特別決議が必要となります。

 

2.タイ

(1) 概要

タイでは、日本と異なり授権資本制度が採用されていません。そのため、新株発行にあたっては、その都度定款変更が必要となります。

新株発行手続きの具体的内容は、公開会社と非公開会社でそれぞれ異なりますが、いずれも、株主総会の特別決議に基づかなければならず、出席株主が有する議決権の4分の3以上の賛成が必要な点は共通です。

(2) 公開会社について

公開会社は、新株の全部または一部を、既存株主に対し、その持ち株数に応じて割り当てることができ(株主割当)、また、公募や特定の第三者への割り当て(第三者割当)も行うことができます(公開会社法137条)。また、新株発行にあたっては、株主総会の特別決議が必要です(同法136条)。

(3) 非公開会社について

非公開会社では、株式の公募や第三者割当を行うことはできません(民商法1102条、1222条)。非公開会社が新株を発行する場合には、まず、株主総会の特別決議を経た上で(同法1220条)、既存株主に対し、保有する株式数の割合に基づく割当てを申し出なければなりません(同法1222条1項)。なお、既存株主が新株を引き受けなかった場合には、これを取締役または他の株主が引き受けることができます(同条3項)。

このように、非公開会社では、原則として新株を既存株主にのみ割り当てることしかできませんが、以下の手順を踏むことで、事実上の第三者割当を実行することは可能であり、実務上も、事業拡大等にあたって第三者からの出資を受けたい場合等に活用されています。

すなわち、株主が事前に新株の割当て受ける権利を放棄することに同意している場合には、既存株主が第三者に対し株式の一部(1株でも可)を譲渡し、当該第三者を株主とすれば、新株発行の際に既存株主は新株の引受を放棄し、当該第三者にのみ新株を引き受けさせることが可能となります。

 

3.マレーシア

(1) 新株発行の手続

株式発行は原則として株主総会の承認が必要です(会社法75条1項)。取締役は、事前に株主総会決議による承認を得なければ、株式の割当て権限を行使できません。また、株主総会で株式発行の承認が得られた場合、会社は14日以内に会社登記所に通知する義務があります(会社法76条1項)。一方で、既存の株主に対して保有株式の割合に従った株式の割当を申し出る場合には、株主総会の承認は不要です(会社法75条⑵a)。また、発起人に対して株式を割り当てる場合や、財産の取得対価として株式を発行する場合も同様に承認不要とされています(会社法75条⑵c・d)。

(2) 手続上の瑕疵がある場合の株式発行の有効性等

手続に違反して株式が発行された場合、発行は無効となり、既に払込が行われていれば払込金の返還が必要です(会社法75条⑷)。また、違反に関与した取締役は、会社および株式引受人に対して生じた損害を賠償する義務を負います(会社法75条⑸)。ただし、会社、株主、債権者などの利害関係者は、裁判所に株式発行の有効性に関する申立てを行うことができ、裁判所は正当性や公平性を考慮して株式発行を有効とする命令を出すことが可能です(会社法108条)。

(3) 既存株主の株式引受権

既存株主の株式引受権について、会社法は既存株主の保護規定を設けています。新たに発行される株式の割当ては、まず既存株主に対し、保有割合に従って行わなければなりません(会社法85条⑴)。会社は、期限を定めて株式割当の申出通知を行い、株主が期限内に回答しなかった場合、取締役は最適な形で第三者に株式を割り当てることができます(会社法85条⑵⑶)。ただし、定款でこの規定の適用を排除することができます(会社法85条⑴)。

 

4.ミャンマー

⑴ 株式の発行

取締役会は、定款、本法及びその他の適用法に従い、任意の時期及び割当先に、取締役会が適切と考える条件及び数の株式を発行することができます(会社法63条(a))。株式は、会社の定款に従い、全部払込済又は部分的払込済で発行することができます。株式が部分的払込済で発行された場合、発行条件において、残額部分について請求が行われる時期を特定する必要があり、株主はかかる支払請求に応じて払込みを行う義務を負います(同条(b))。会社は、取締役が株式の追加発行による増資の決定をした場合、各株主が保有する既存株式数に応じて、種類に関係なく引き受けの申込みを行う義務を負う旨を定款で定めることができます(同条(c))。

(2)  株式の発行の対価

株式を発行する際の対価は、取締役会が定めたいかなる形式もとることができます(会社法64条(a))。 株式の発行の対価が現金以外である場合、取締役会は、対価を特定可能な程度に詳細に記録し株式発行の対価の妥当な現金価値を決定し、当該現在価値及びその算定の根拠を記録し、かつ、以下の意見を決議する必要があります。
(aa)株式発行の対価及び条件は、会社及び既存のすべての株主にとって公正でかつ合理的であること

(bb)当該対価の現金価値は、株式発行において充当される金額以上でなければならないこと

 

5.メキシコ

⑴ 新株発行について

新株発行を行うためには、株主総会の特別総会での決議が必要となります(会社法182条)。特別総会では、資本金の4分の3以上の株式を有する株主が出席したうえ、資本金の2分の1以上の株主による賛成が必要となります(190条)。

また、メキシコの会社法上、株式の有利発行は認められておらず、額面金額を下回る金額での発行は禁じられています(115条)。そのため、株式のプレミアム(売却価額と額面価額との差)、その他過去の出資の資本計上の結果、または利益剰余金や評価制引当金の資本組み入れとともに、株式の価値が完全に充足され、かつ、特別総会の決議に従って株主に交付される株式のみが発行済み株式となります(182条)。

なお、メキシコ会社法上、出資の履行については、金銭出資のほか、現物による出資や会社に対する役務の提供での出資も認められています(141条、114条)。出資の履行がなされない場合、一定の手続を経て株主となる権利は消滅します(118条、120条、121条)。

⑵ 株式発行の際の規制について

前述のようにメキシコの会社法上、株式の有利発行は認められていません(115条)。

また、定款に定めることによって複数の種類株式を発行することは可能ですが、配当がない株式の発行はできません(112条)。更に、会社は、既存株式の払込みが完了するまでは、新たに株式を発行することができません(133条)。

⑶ 既存株主の株式引受権

新規の株式発行について、既存株主は、発行される株式を、自身の有する株式数に応じて引き受ける優先権を持ちます。当該権利は、資本増加に関する株主総会における合意が経済省の電子システムに掲載されてから15日以内に行使されなければなりません(132条)。

 

6.バングラデシュ

(1) 追加の株式発行

バングラデシュの株式発行は、授権資本額の範囲内の場合、既存株主への割当増資(会社法155条1項)、または第三者割当(155条2項)によって行われます。

既存株主への割当増資の場合、新株発行を行う会社は、取締役会決議を行ったうえで、既存株主に対して割当株式数、新株発行の申込期限(当該通知日から15日目以降の日でなければならない)を通知します。かかる通知に対して、株主が申込期限内に申し込みを行った場合には、当該株主は、新株引受けの申込日において払込みを行い、当該新株の割当てを受けることができます。申込期限内に申し込みが行われない場合には、当該株主は、新株の引受けを辞退したものとみなされます(155条1項)。第三者割当(155条2項)の場合は、重要事項を取締役会で決議して行います。授権資本額を超えた増資の場合は、株主総会の承認が必要となります(53条2項)。

(2) 登記所への通知および株式証書の発行

会社が株式の割当てを決議した場合、60日以内に商業登記所に以下の内容を通知します(151条1項)。

①割当の利益、割当に含まれる株式の数および額面価格、割当先の氏名、住所、国籍等、株式の払込み済みまたは未払いおよび支払予定の金額(該当する場合)

②割り当てられた株式が現金以外で払込みされた場合、

(a) 割当先が権利を有することについて合意した株式割当証、

(b) 売買またはサービス契約もしくは割当がなされたことに関するその他の事項について、規定に従って印紙を貼付し検証された合意書の写し

③ ②の割当株式の数および額面価格

④ ②の株式割当について、不動産の譲渡により払込みがなされる場合の不動産の売買証書

新株発行を行った会社は、株式の割当後90日以内に株式証書を発行します(158条1項)。

 

7.フィリピン

(1) 新株発行に関わる主な規制

フィリピンでは、新株発行は主に会社法で規制されています。

新株発行をするには、①取締役会の過半数、および②総株式(株主数ではない)の3分の2以上の賛成が必要です。なお、通常は議決権のない株式を保有する株主でも、この決議では決議に参加することができます。

また、資本金の変更には証券取引委員会(SEC)の事前承認が必要であり、場合によってはフィリピン競争委員会(Philippine Competition Commission)の承認も必要となります。さらに、株式発行に伴い定款の変更も必要となるため、定款変更の手続も行う必要があります。

(2) 新株発行に関わる主な規制

上記のとおり、新株発行にはSECの承認と定款変更の手続が必要となります。これらの手続はオンラインで行うことができます。この手続は、必要書類の作成等の作業を踏まえると、数か月かかると考えられます。

おおまかなステップは以下のとおりです。

① 申請書のオンライン提出

② SECによる事前承認(場合によっては補正する必要があります)

③ 申請料の支払い

④ 必要書類の原本の提出

⑤ 再審査

⑥ 承認に関する証明書の発行

(3) 必要書類

必要書類は以下のとおりです。

ⅰ) 株式発行に関する証明書(取締役の過半数が署名し、株主総会の議長および秘書役が署名した書類)

ⅱ) 財務役の宣誓書

ⅲ) 金額の支払いを証明するもの。

ⅳ) 株主名簿

ⅴ) 改訂した定款

ⅵ) 会社内紛争が未決でないことを証明書(秘書役が作成する)

ⅶ) 株主の先買権放棄に関する証明書(秘書役が作成する)

ⅷ) 取締役証明書(取締役の過半数および会社秘書が署名する)

ⅸ) SECによる監査要件を遵守するための宣誓書。

ⅹ) その他必要となる書類

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの企業法制における企業形態

ベトナムの一般的な企業法制の下では、複数の企業形態があり、それぞれ異なる特性、組織構造を有しています。外国人、外国企業がベトナムで事業を立ち上げる際には、通常、有限責任会社(会社所有者である社員の人数によって、1人社員有限責任会社か2人以上社員有限責任会社があります。)または株式会社のいずれかの企業形態が選択されます。そこで、以下、これらの企業形態に関連する情報のみをご紹介します。

なお、株式の発行が認められているのは株式会社のみであり、有限責任会社では株式の発行が認められていません。したがって、会社が資金を調達して増資するためには、対応する企業形態の規定に応じた手続を行う必要があります。

(2) 有限責任会社の増資手続

① 1人社員有限責任会社の場合

1人社員有限責任会社とは、その名称のとおり、個人または組織1名だけの社員(会社所有者)を有する会社です。1人社員有限責任会社の場合、以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することができます。

  1. 単独所有者が追加出資する方法
  2. 他の個人または組織から資本を調達する方法

この方法によると、企業は、その企業形態を2人以上社員有限責任会社または株式会社のいずれかに組織変更する必要があります。

② 2人以上社員有限責任会社の場合

以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することが可能です。

  1. 現社員の出資比率に応じて拠出資本を増額する方法

増資額は、現在の出資比率に応じて現社員が出資しますが、追加出資する権利は、他の社員又は第三者に譲渡することができます。現社員が別途合意した場合を除き、増資分が全額出資されない場合、出資比率に応じて他の社員が出資しなければなりません。

      2. 他の個人または組織から資本を調達する方法

現社員の決定が承認された場合にのみ実施されます。

(3) 株式会社の増資手続

株式会社の場合、以下のいずれかの方法で、株式の数や種類を増やすことによって資金を調達することができます。

  1. 既存株主への株式提供
  2. 第三者割当増資
  3. 株式の公募

具体的には、i) 既存株主への株式提供を行うために、株式会社は、株式引受期限の15日前までに、全ての既存株主に書面で通知する必要があります。既存株主は、株式を購入する権利を他人に譲渡することができます。株主総会で別段の合意がない限り、取締役会は残りの株式を、既存株主に最初に提示した条件よりも有利でない条件で、他の株主やその他の第三者に売却することができます。

また、ii) の第三者割当増資を行うためには、マスメディアを通じて行わないこと、100名未満の投資家(プロの証券投資家を除く、またはプロの証券投資家のみを対象とする)に提供されること、という2つの条件を満たす必要があります。具体的には、株式会社が第三者割当増資に関する合意がない限り、株主は、既存株主に提示した条件よりも有利でない条件で、残りの株式を第る決定書を発行し、既存株主がi)の新株優先引受権を享受することが必要です。株主総会で別の三者に売却することができます。なお、第三者が外国人投資家である場合には、株式の買取りについて所轄官庁の投資認可を取得する手続きが必要となります。

公開会社(上場会社および非上場会社を含む)および株式発行の第三の選択肢(株式の公募)は複雑であるため、これらの事項については本ニュースレターの内容から除外しています。これらの詳細については、証券法をご参照ください。

 

9.インド

会社が既存の株式の保有者に対して、持ち株比率に応じて株式を割り当てる場合は、取締役会の決議により決定することができます(会社法63条1項、179条3項)。インドでは定款にて授権資本枠が設定されるため、授権資本枠を超える増資を行う場合は、増資に先立って授権資本枠を変更(拡大)する手続を行わなければなりません。授権資本枠の変更には、定款変更を伴うため、株主総会特別決議が必要となります(会社法61条、14条)。

株式の価格については、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999)の価格ガイドライン(pricing guideline)に基づく価格規制が適用されます。ガイドラインに基づいた基準価格以上の価格で株式が発行される必要があります。

資本金着金後の手続として、インド準備銀行(RBI)へ届け出が必要となります。資本金着金後、30日以内にRBIへ届出なければなりません。資本金着金後、60日以内に株式の割り当てを行わなければならず、割当後30日以内に登記局(ROC)へ届出を行う必要があります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、新株発行は、発行する株式の数と価格を明らかにして、株主総会の特別決議により承認されなければなりません(会社法(2021年連邦令第32号)第196条1項、3項)。発行株式は、原則、原株式の額面価値と同額でなければなりませんが、特別決議及び監督当局(Securities and Commodities Authority)の承認を受けた場合に限り、株式の市場価値が額面価値を上回るときにはプレミアムを上乗せして、下回る場合には割引して、発行することが可能です(第198条1項)。株主は新株予約権を有し(第199条1項)、新株割当は原株式の割当の規則に則って行われ(第200条1項)、取締役会は当局が認容した新株予約権発行の概要を2紙の地元新聞に広告掲載します(第200条2項)。新株は、予約権を行使した株主に対しその保有株式数に応じて割当され(201条1項)、次にその保有数を超えて申込をした株主に配分され、残余は監督当局が定めた条件に基づき公募されます(第201条2項)。

非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて、適用されます(会社法第267条)が、会社法第195条乃至200条の増資に関する規定については、新株発行にかかる取締役会の同意と株主総会の特別決議により原株式の各面価値と同額での株式発行をすることに読み替えられ(2024年経済省令第137号第34条第1項)、会作法第198条のプレミアム発行については、それまでの会社の業績及び株式の簿価を考慮した株主総会の特別決議並びにプレミアムの計算に関する会計監査人の資料を提出した上での経済省の承認を受けた場合に行うことができると読み替える(同省令第35条)とされます。

上記は本土で設立された株式会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、新株発行は各フリーゾーンの規則によって規定されます。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年10月25現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 概要

憲法は、「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と定めており(憲法76条1項)、これを受けて、高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所及び簡易裁判所の4種類の下級裁判所が裁判所法によって設置されています。

(2) 取扱事件について

日本は三審制の国であり、通常、第一審を簡易裁判所または地方裁判所、控訴審を地方裁判所または高等裁判所、上告審を高等裁判所または最高裁判所が担当します。より具体的には、訴額が140万円を超える場合には地方裁判所、140万円以下の場合には簡易裁判所がそれぞれ第一審を管轄します。ただし、当事者の合意があれば、140万円以下の場合でも地方裁判所を第一審とすることができます。

また、家庭裁判所では、離婚や相続等に関連する家事事件や、未成年者による犯罪等の少年事件を取り扱っています。

なお、事件によっては、特定の裁判所のみが第一審を管轄する専属管轄が法定されている場合があります。専属管轄が法定されている場合、当事者の意思によって管轄裁判所を定めることはできません。例えば、特許権等に関する訴えは、東日本については東京地裁が、西日本については大阪地裁が、それぞれ専属管轄を有しています。このほか、会社関連の訴訟で、株主が株主代表訴訟を提起する場合は、当該株式会社の本店の所在地の地方裁判所が専属管轄を有しています。

 

2.タイ

(1) 概要

タイの裁判所には4種類あり、司法裁判所(The court of Justice)、憲法裁判所(The Constitutional Court)、行政裁判所(The Administrative Court)、軍事裁判所(The Military Court)に分けられます。このうち、通常の民事訴訟・刑事訴訟は司法裁判所で取り扱われます。

以下では、司法裁判所を念頭にタイの司法制度について概観していきます。

(2) 司法裁判所について

司法裁判所は、一般の民事・刑事事件を扱う一般裁判所と特定の専門事件を取り扱う専門裁判所の二つに分けられます。

知的財産・国際通商、労働、租税、破産、少年・家庭といった専門事件については、各専門裁判所が第一審の管轄権を有しており、第二審を専門控訴裁判所、上告審を最高裁判所がそれぞれ担当します。

① 知的財産・国際通商裁判所

知的財産・国際通商裁判所は、知的財産権および国際通商に関する民事事件・刑事事件を取り扱っています。知的財産・国際通商裁判所は、現状、バンコクに所在する中央知的財産・国際通商裁判所のみが設置されており、バンコクを含む周辺6県を管轄しています。

また、地方には未だ知的財産・国際通商裁判所が設置されていないため、上記6件以外の地域についても、地方知的財産・国際通商裁判所までは、中央知的財産・国際通商裁判所が管轄権を有するものとされています。

② 労働裁判所

労働裁判所は、雇用や労働組合に関係する事件等、労働関連の事案を取り扱っています。労働裁判所については、バンコクに所在する中央労働裁判所のほか、全国の9地域に地方労働裁判所が設置されています。

③ 租税裁判所

租税裁判所は、税金関係の事件を取り扱っています。現状、バンコクに所在する中央租税裁判所が唯一の租税裁判所であり、バンコク及び周辺5県を管轄しているほか、地方租税裁判所が設置されるまでは、前記地域以外の地域に対しても管轄権を有するものとされています。

④ 破産裁判所

破産裁判所は、破産および事業再生に関する民事事件・刑事事件を取り扱っています。現状、バンコクに所在する中央破産裁判所が唯一の破産裁判所であり、バンコクを管轄しているほか、地方破産裁判所が設置されるまでは、前記地域以外の地域に対しても管轄権を有するものとされています。

⑤ 少年・家庭裁判所

少年・家庭裁判所は、未成年者に関する刑事事件や、家庭に関する民事事件等を取り扱っています。少年・家庭裁判所はバンコクをはじめ全国各地に設置されています。

 

3.マレーシア

(1) 概要

マレーシアには普通裁判所として、①連邦裁判所(Federal Court)、②控訴裁判所(Court of Appeal)、③高等裁判所(High Court)、④初級裁判所(Session Court)、⑤治安判事裁判所(Magistrates Court)が設置されています。①ないし③は上級裁判所(Superior Court)、④及び⑤は下級裁判所(Subordinate Court)と呼称されます。

これらの裁判所の他、労使裁判所(Industrial Court)のように、高度の専門性が要求される分野を管轄する特別裁判所も設置されています。

(2) 連邦裁判所(Federal Court)

連邦裁判所は、マレーシアにおける最高位の司法機関であり、民事、刑事、憲法問題についての終審裁判所です。民事事件に関しては、同裁判所の許可を条件として、高等裁判所が第一審として行った判決に対する控訴裁判所の判決の当否及び憲法解釈にかかる事件について審理し、裁判を行います。刑事事件に関しては、高等裁判所が第一審としてした判決に対する控訴裁判所の判決の当否及び憲法解釈にかかる事件を審理し、裁判を行います。

(3) 控訴裁判所(Court of Appeal)

控訴裁判所では、高等裁判所又は初級裁判所が第一審として行った判決または命令の当否及び下級裁判所が第一審として行った判決に対してなされた高等裁判所の判決又は命令の当否を審理し、裁判を行います。

もっとも、民事事件については、以下の場合には高等裁判所の判決に対する上訴は認められておらず、結果として控訴裁判所が取り扱う上訴の範囲は限定されています。

① 訴訟物の価額がRM250,000以下の事件(ただし、控訴裁判所の許可がある場合を除きます。)

② 合意判決等

③ 裁判所の裁量に基づき決定された費用にのみ関連する判決等(ただし、控訴裁判所の許可がある場合を除きます。)

④ 書面法により終局的なものであることが明言されている判決等

(4) 高等裁判所(High Court)

民事事件に関しては、高等裁判所は、憲法に規定する制限の範囲内において、全ての民事訴訟を審理する管轄権を有するものとされています。

加えて、以下のような特殊な民事事件についても管轄権を有します。

① 婚姻又は離婚に関する事件

② 破産又は会社に関する事件

③ 乳幼児の保護者の選任・監督等に関する事件

④ 精神障害者の保護者の選任・監督等に関する事件

⑤ 遺言状及びその検認に関する事件

また刑事事件については、下級裁判所において審理することができない法定刑に死刑を含むすべての刑事事件を審理し、裁判を行います。上訴裁判所としての高等裁判所は、下級裁判所の判決に対する当否を審理し、裁判を行います。ただし、民事事件については、法律問題に関するものを除き、訴額がRM10,000以下の請求については、高等裁判所に控訴することはできないこととなっています。

(5) 初級裁判所(Sessions Court)

初級裁判所はマレーシアに155か所設置されています。初級裁判所においては、民事事件に関して、すべての交通事故事件、訴訟物の価額がRM1,000,000を超えない事件並びに契約の履行、取消し、解除及び修正に関する事件について第1審として審理し、裁判を行います。また、刑事事件に関しては、死刑判決の対象となる罪を除きすべての犯罪事件を審理し、死刑以外のいかなる判決をも言い渡すことができます。なお、初級裁判所は、上訴審としての管轄を有していません。

(6) 治安判事裁判所(Magistrate Court)

治安判事裁判所には、第1級治安判事裁判所と第2級治安判事裁判所の2種類が存在します。

ア 第1級治安判事裁判所

第1級治安判事裁判所においては、民事事件に関して、訴訟物の価額がRM100,000以下の事件について審理し、裁判を行います。また刑事事件に関しては、罰金刑又は長期10年以下の拘禁刑を科し得る犯罪事件について審理し、裁判を行います。

イ 第2級治安判事裁判所

第2級治安判事裁判所においては、民事事件に関して、訴訟物の価額がRM10,000を超えない債権回収に関する事件について審理し、裁判を行います。また、刑事事件に関しては、罰金又は長期12か月以内の拘禁刑を科し得る犯罪事件について審理し、裁判を行います。ただし、同裁判所は、6か月を超える拘禁刑、RM1,000以下の罰金刑又はこれらを併せて科する判決のみ言い渡すことができます。

(7) 労使裁判所(特別裁判所)

マレーシアでは、高度の専門性が要求される又は事件数が多い等の理由により、これらの事件を専門的に扱う裁判所として、特別裁判所が設置されています。

労使裁判所は、労使関係法に基づき設立された裁判所であり、労使関係から生じた個別紛争、使用者と労働者との間に生じた紛争及び労使関係法上の権利義務に関する事件を取り扱います。ただし、労使裁判所における手続では、法律問題に関しては、高等裁判所に付託し、判断を求めることが義務付けられています。

 

4.ミャンマー

⑴ 裁判所の種類

2008年憲法下では、連邦の裁判所は、①連邦最 高裁判所(Supreme Court of the Union)、管区高等裁判所(High Court of the Region)、 州高等裁判所(High Court of the State)、自己管理管区裁判所(Courts of the Self-Administered Division)、自己管理区域裁判所(Courts of the Self-Administered Zone)、 県裁判所(District Courts)、郡裁判所(Township Courts)及び法律によって設置されるその他の裁判所、②軍法会議、③連邦憲法裁判所とされています(憲法293条)。法律によって設置されるその他の裁判所は、少年裁判所、都市犯罪を審理する裁判所、交通犯罪を審理する裁判所等が存在します。

(2) 各裁判所が取り扱う対象

郡裁判所は、1,000万チャットより小さい訴額の事件を取扱います。

自己管理管区裁判所、自己管理区域裁判所、及び県裁判所は、1,000万チャット以上5億チャット未満の訴額の事件を取扱います。

管区高等裁判所及び州高等裁判所は、5億チャット以上の訴額の事件を取扱います。

連邦最高裁判所は、連邦が締結した二国間条約に起因する事案等、一定の事項に ついての第一審管轄権を有するほか、連邦の最上位の裁判所として、上告裁判所となります(憲法295条)。

憲法裁判所の役割は、憲法規定の解釈、法律の憲法に適合審査等です。

軍法会議は、憲法及びその他の法律によって設置され、国軍の軍人に対する裁判を行います。

 

5.メキシコ

⑴ 概要

メキシコは連邦制を採用しており、メキシコ国内の裁判所には、連邦裁判所と州裁判所があります。当該州内のみで生じた事件については当該州の裁判所が、複数の州にまたがる事案や連邦が関係する事案については連邦裁判所が担当しています。連邦裁判所と州裁判所は、基本的には二審制を採用していますが、裁判所の判決が人権を侵害している場合や、判決の基となった法律が憲法違反であり、これによって人権が侵害されたような場合には、さらにアンパロ裁判(連邦裁判所管轄)に訴えることができ、その場合は合計4回まで審議を受けることが可能です。

① 連邦レベルの司法機関

連邦司法機関としては、最高裁判所、巡回合議裁判所、控訴合議裁判所、地区裁判所、連邦選挙裁判所といった裁判所があります。

このうち、連邦レベルの第一審裁判所としては地区裁判所があり、民事・刑事・行政または国際条約における連邦法の適用に関する訴訟等を取り扱っています。地区裁判所に対する控訴は、控訴合議裁判所が取り扱っています。

② 州レベルの司法機関

州レベルの裁判所としては、上級司法裁判所、第一審裁判所、下級裁判所・少額裁判所・治安裁判所・地方裁判所・郡裁判所があります。

第一審裁判所(Juzgados de Primera Instancia)は、州レベルの第一審裁判所であり、民事・商事・刑事・不動産賃貸・家族等の案件を取り扱っています。 その他、下級裁判所・少額裁判所・治安裁判所・地方裁判所・郡裁判所は、州により管轄や名称が異なっており、一般には、一定の金額を超えない民事・商事事件、懲役刑に該当しない刑事事件を取り扱っています。

上級司法裁判所は、州における控訴裁判所であり、刑事、民事、商取引、家族、少年司法、刑事罰の執行、制裁の執行を取り扱っています。

⑵ その他の司法機関・行政司法機関

⑴で述べたもののほか、メキシコには特殊な事件を取り扱う裁判所等があります。主なものとして、労働裁判所・労働調停登録センター、連邦行政裁判所、行政審裁判所、高等農事裁判所・単独農事裁判所が挙げられます。

このうち、労働裁判所・労働調停登録センターは、労働者と使用者間に発生する労働紛争解決を担う機関であり、メキシコにおいて労働紛争は⑴の裁判所とは異なる裁判所や紛争解決機関にて解決されます。税務や行政訴訟に関しては行政裁判所である連邦行政裁判所が取り扱っており、地方の行政機関と私人との紛争に関しては行政審裁判所が取り扱っています。その他、土地などの境界や保有権、承継、返還、利用に関する紛争等に関しては単独農業裁判所が担当し、その上訴審として高等農事裁判所が存在します。

 

6.バングラデシュ

(1) バングラデシュの裁判制度

バングラデシュには、最高裁判所、民事裁判を扱う下級裁判所、刑事裁判を扱う下級裁判所、そして法令に基づく裁判所があります。

(2) 最高裁判所

最高裁判所には、「上訴部」と「高等裁判所部」が設置されています。高等裁判所部は、いかなる事項でも下級裁判所の判決に対する上訴を審理する権限を持ちます。上訴部は、高等裁判所部の判決や命令に関する上訴を受け付け、憲法に関連する重要な事項や死刑または終身刑が判決に含まれる場合に管轄権を有します。

(3) 民事裁判を扱う下級裁判所

民事事件を取り扱う下級裁判所として、地方判事裁判所、追加地方判事裁判所、共同地方判事裁判所などがあり、各裁判所の管轄権は民事裁判所法によって規定されています。訴額に応じて、第一審の裁判所が決まります。

(4) 刑事裁判を扱う下級裁判所

刑事事件を取り扱う裁判所には、セッション判事裁判所と治安判事裁判所があります。それぞれの管轄は刑事訴訟法によって定められており、地域や量刑によって第一審裁判所が決まります。

(5) 法律による特別な裁判所

労働上訴審判所(Labour Appellate Tribunal)、労働裁判所(Labour Court)は、2006年労働法(Bangladesh Labour Act 2006)に基づいて、同法が定めた労働に関する事件を扱います。

行政審判所(Administrative Tribunal)、行政上訴審判所(Administrative Appellate Tribunal)は、憲法第117条と1980年行政審判所法(Administrative Tribunals Act 1980)を根拠に、同法が定めた行政法の事件を扱います。

その他、特定の法令に基づき、租税控訴審判所(Tax Appellate Tribunal)、関税、物品税及びVAT上訴審判所(Customs, Excise and VAT Appellate Tribunal)、家庭裁判所(Family Court)、海事裁判所(Admiralty Court)、村落裁判所(Village Court)、少額原因裁判所(Small Causes Court)、貸金裁判所(Money Loan Court)、倒産裁判所(Bankruptcy Court)が設置されています。

 

7.フィリピン

(1) 基本

フィリピンの裁判所の基本構造はおおまかに以下のとおりです。基本的にはフィリピンも日本と同じように三審制を採用しています。

  1. 簡易裁判所(First Level Courts):略式手続や少額訴訟を扱う裁判所。
  2. 地方裁判所(Regional Trial Courts):基本的に第一審として事実審を行う。また、第一審裁判所の判決に対する上訴裁判所としても機能する。
  3. 高等裁判所(Court of Tax Appeals):地裁等からの上訴を扱う。
  4. 最高裁判所(Court of Appeals):高裁からの上訴を扱う、最上位の裁判所

(2) その他の裁判所

フィリピンには他にも以下のような裁判所があります。フィリピンでビジネスを行う企業にとっては、労働問題を扱う中央労使関係委員会(The National Labor Relations Commission)が最も重要であると思われます。

  1. 中央労使関係委員会(The National Labor Relations Commission):労働問題に関する紛争を扱う。厳密には裁判所ではなく労働雇用省 (DOLE)の一部門であるが、裁判所と同様の機能を果たしている。
  2. 税務裁判所: 税務関連の決定に関する控訴を扱う控訴裁判所。
  3. サンディガンバヤン(Sandiganbayan): 公務員や職員による汚職や腐敗事件等を扱う特別裁判所。
  4. シャリーア(Shari’ah)裁判所:ムスリム身分法(the Code of Muslim Personal Laws)が適用される事案で、一方または両方の当事者がイスラム教徒である場合に管轄権を持つ(非イスラム教徒が当事者になる場合、その当事者はシャリーア裁判所で裁判することを承諾する必要がある。)。

簡易裁判所に相当するシャリーア巡回裁判所(Shari’ah Circuit Courts)、地方裁判所に相当するシャリーア区裁判所(Shari’ah District Courts)、高等裁判所に相当するシャリーア高等裁判所(Shari’ah High Court)がある。

 

8.ベトナム

⑴ 組織体制

ベトナムの司法機関は人民裁判所と呼ばれ、憲法に基づき司法権を行使します。人民裁判所には、最高人民裁判所および法律で定められたその他の裁判所が含まれます。人民裁判所組織法(2025年1月1日に施行される2024年人民裁判所組織法)第3条によると、人民裁判所の組織は以下の通りです。

  • 最高人民裁判所:ベトナムの最高司法機関です。
  • 高級人民裁判所:省級人民裁判所および専門第一審人民裁判所からの上訴を扱います。
  • 省級人民裁判所(中央直轄都市人民裁判所を含みます):県級人民裁判所からの上訴および特定の第一審を扱います。省級人民裁判所は中級裁判所とみなされます。
  • 県級人民裁判所:主に、第一審を扱います。県級人民裁判所は地方裁判所とみなされます。
  • 専門第一審人民裁判所(2025年1月1日以降に施行):行政、知的財産、破産事件の第一審のみを扱います。
  • 軍事裁判所(中央軍事裁判所、軍事区域および同等の軍事裁判所、地域軍事裁判所を含みます):ベトナム人民軍に組織され、被告人が現役の軍人である刑事事件およびその他規定された事件を審理する裁判所制度を指します。

(2) 紛争の種類

2015年民事訴訟法の規定に基づき、紛争は民事紛争、家庭紛争、商業・ビジネス紛争、労働紛争に分類されます。これに応じて、紛争の具体的な内容に基づき、人民裁判所の管轄レベルが決定されます。しかし、裁判所の管轄レベルを適用する前に、当事者は裁判所の管轄区域を考慮しなければなりません(2015年民事訴訟法第39条)。紛争の対象が不動産である場合、不動産が所在する地域の裁判所のみが紛争を解決する管轄権を有します。また、当事者は、書面により、原告の居住地または原告会社の本店所在地の裁判所に紛争解決を依頼することに合意する権利を有します。合意がない場合は、被告の居住地または被告会社の本店所在地の裁判所が民事事件を解決する管轄裁判所となります。

 

9.インド

⑴ 裁判制度について

インドの裁判制度は、最高裁判所(Supreme Court)、および最高裁判所の下に位置づけられる裁判所で構成されており、日本と同様に三審制を採用しています。最高裁判所の下には、高等裁判所(High Court)があり(基本的に高等裁判所は各州に設置される)、その下に下級裁判所(Subordinate Court)があります。下級裁判所は、地方裁判所(District Court)と刑事事件のみを取り扱うSessions Courtからなります。

その他、商事事件(INR30万以上の事件)のみを取り扱う商事裁判所や、労働事件のみを取り扱う労働裁判所などの特別な事件のみを取り扱う裁判所があります。

(2) 管轄について

基本的には、被告の住所若しくは被告が事業を営み利益を得る場所、または請求原因が発生した場所に裁判管轄が生じます。もっとも、不動産に関して生じた紛争についての裁判は、当該不動産が所在する管轄区域内の裁判所に提起されなければなりません。

(3) 準司法機関について

他にも準司法機関である会社法審判所(NCLT : National Company Law Tribunal)、労働審判所(Industrial Tribunal)、直接税審判所(ITAT : Income Tax Appellate Tribunal)、間接税審判所(CESTAT : Customs Excise and Service Tax Appellate Tribunal)等があります。これらの準司法機関である審判所は、事件の性質により使い分けられ、例えば会社法に関する紛争であれば会社法審判所が利用されることになります。

準司法機関の判断に対する不服申立てとして高等裁判所への上訴が認められます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦では、各首長国は、連邦憲法の下で連邦裁判所の所管とされる事項以外について司法権を有する(連邦憲法第104条)一方で、各首長国の希望によって、連邦法を制定して、その司法権に属する事項を連邦裁判所の管轄に服することができます(連邦憲法第105条)。そのため、7つある首長国のうちアブダビ、ドバイ及びラアスルハイマは、各首長国独自の司法システムを構築して首長国裁判所を有しますが、後者を選択したその他の4首長国(シャルジャ、アジュマン、フジャイラ及びウンムアルカイワイン)には、首長国裁判所はなく、あらゆる事項が連邦裁判所において審理されます。

連邦裁判所は、一審裁判所、控訴裁判所、最高裁判所(Supreme Court)の三審制となっています。このうち、連邦最高裁判所は、各首長国間の紛争、首長国と連邦政府との紛争、連邦法の合憲性、首長国法の連邦憲法または連邦法適合性、連邦裁判所と首長国裁判所の管轄争い、連邦の公益を直接害する犯罪等(連邦憲法第99条)を所管し、連邦一審裁判所は、連邦が原告または被告となる連邦と個人間の民事・商事・行政紛争(連邦憲法第102条)等を所管し、上記のとおり首長国裁判所を設置していない4首長国にかかる首長国内の紛争も所管します。

ドバイにおける首長国裁判所は、一審裁判所、控訴裁判所、破毀院(Court of Cassation)の三審制となっていて、これらとは独立した特別裁判所である遺産裁判所が設置されています。首長国破棄院は法令違背の有無のみを判断する法律審で、連邦一審裁判所では、首長国が管轄を持つ司法権に属する事項(民事、商事、家事、労働、刑事等)が審理されます。

フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)については、それぞれ独自に制定された法律によって独自の裁判所が設置されています。ドバイに所在するDIFC裁判所は、一審裁判所と控訴裁判所の二審制で、DIFCで制定された法律に基づき英語で審理されるという特色がある他、所管事項は、当初DIFC内で生じた紛争に限定されていましたが、DIFCと関連のない事件についても拡大されています。アブダビに所在するADGM裁判所も二審制の構造を持ち、英国法(English common law)が直接適用されるという特色を有しています。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年9月25現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 法令上保存義務のある文書及びその保存期間

会社が保存すべき文書及びその保存期間については 各種法令によって定められており、主な例としては、以下の表のとおりのものがあります。

文書 保存期間
総務
定款
保存期間の定めはないが、その性質上、永久保存すべきと解される。
株主名簿
株主総会議事録(本店備置き分) 10年間。なお、支店備置き分は5年間(会社法318条)。
取締役会議事録(本店備置き分のみ) 10年間(会社法371条1項)。
事業報告(本店備置き分) 5年間。なお、支店備置き分は3年間(会社法442条)。
経理
計算書類 (貸借対照表・損益計算書等) 10年間(会社法435条4項)
会計帳簿(総勘定元帳、仕訳帳等) 10年間(会社法432条2項)
給与所得者の扶養控除等申告書等 7年間(所得税法施行規則73条の3)
人事
労働者名簿
5年間(労働基準法109条)
雇入れ・解雇・退職に関する書類
労働関係の重要書類(出勤簿・タイムカード・残業報告書等)

(2) 保存方法

会社における文書の保存については、電子帳簿保存法やe-文書法によって、電磁的方法での保存が認められている場合があります。

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿を対象としたもので、総勘定元帳や仕訳帳等の会計帳簿について、一定の要件の下で電磁的方法での保存を認めています。

また、e-文書法は、民間事業者等が保存すべき文書について広く対象としたものであり、国税関係の帳簿等も適用対象に含まれるほか、会社法等各種法令に基づき保存義務のある文書についても、その多くが、同法によって電磁的方法での保存が認められています。もっとも、e-文書法は、電磁的保存の方法の具体的な要件等については、各府省の省令に委ねているため、電磁的方法での保存にあたっては、当該文書の保存義務の根拠となる法令や関連する省令等の定めに適合していなければなりません。

 

2.タイ

(1) 会社の会計帳簿等の保存について

会計法(Accounting Act)では、会計責任者は、会計帳簿および会計帳簿への記入に使用した裏付け書類を、決算日から5年以上保存しなければならないと定めています(会計法14条)。

他方で、同条は、歳入局の判断により、5年以上7年以下の範囲で、会計帳簿等の保存期間の延長が命じられる場合があるとも規定しています。また、歳入局との間で税務関係の紛争が生じる場合も考えられるところ、国の租税債権の消滅時効は10年となっています(民商法193/31条)。

これらのことも踏まえると、会計帳簿等については、最大10年間保存しておくという運用が考えられます。

(2) 労務関係の文書の保存について

使用者は従業員の雇用が終了してからも、雇用関係終了日から2年以上は従業員名簿を保管しておかなければなりません。また、賃金、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当の支払に関する台帳についても、支払いがあった日から2年以上保管することが求められます(労働者保護法115条1項)。

なお、労務関係についても従業員との間で何らかの紛争が生じることが考えられます。この点、民事上の請求については、消滅時効が原則として10年となっています(民商法193/30条)。

そのため、労務関係の文書についても、証拠を保全しておく観点から、最大10年間保存しておくという運用が考えられます。

 

3.マレーシア

会社は、株主総会に関し、①株主総会以外で行われた、株主によるすべての決議(書面による決議を含む。)、②株主総会、➂会社法344条に従い会社に提供された事項(会社の単独社員が株主総会において、会社が決定しかつ承諾したものとする旨決定した場合において会社に提供すべき当該決定事項の詳細)を記した書面を記録し、保管する必要があります(会社法341条⑴(a)~(c))。これらの文書については、決議がなされた日又は株主総会の開催日から起算して7年間保管する必要があります(同条⑵)。

また、上記文書のほか、会社は、定款、株主名簿、会計帳簿、取締役会決議書・議事録等を記録・保管する必要があります(同47条⑴)。

なお、マレーシアにおいては、これらの会社運営に関する文書については、会社秘書役にて保管されることが一般的です。

 

4.ミャンマー

⑴ 法令上の文書の保存に関する規定

2019年10月に施行された「Tax Administration Law」により定められています。保存すべき書類については、「sales and purchase invoices, costing documents, bookings, diaries, purchase orders, delivery notes, bank statements, con -tracts, and other documents which relate to an element of a transaction」と規定されています。保存期間については、取引が行われた日から7年間。7年を超える場合は、その記録が関連する課税期間の課税期限満了まで。と定められています。

(2) 実務上の留意点

近時、ミャンマーにおいては税務調査が増加しています。その際、紙ベースによる証憑のチェックが行われるため、税務調査が来るまでは7年を超えていたとしても、文書を保管していた方が実務上安全と解されます。

 

5.メキシコ

⑴ 法令上の文書の保存期間に関する規定

文書の保存義務については、商法にその規定があります。

メキシコの商法上、会社も商人に該当するところ、商人は、権利と義務を生じさせる契約、合意、もしくは約束が記録された手紙、電報、電磁的記録、またはその他の文書の原本を最低10年間保管する義務があります(商法46条、47条)。電磁的記録で保存する場合、原本の保存または提示の目的のためには、情報が最初に最終的な形で生成された時点から完全かつ変更されておらず、その後の参照のためにアクセス可能であることが要求され(商法48条)、経済省が定める電磁的記録の保存のために遵守すべき要件を定めた公式メキシコ規格に従わなければなりません(商法49条)。

⑵ 会社解散後の文書保存義務

会社解散後について、清算人となった者は、会社の帳簿および書類を清算結了の日から10年間保管しなければなりません。清算人は、会社の帳簿や書類を、紙媒体で保管するか、電子・光学的、その他の技術で保管するかを選択することが可能です(会社法245条2段落)。

 

6.バングラデシュ

(1) 法令上の文書の保存期間に関する規定

1994年会社法181条では、財務諸表の保管を義務付けており、12 年間保存することとしています。その他、同法89条にて、取締役会議事録の保管を義務づけていますが、その保存期間については特に定めていません。実務においては、7~12 年間保存すべきであるとされています。また、年次会計報告についても、同様に、保存期間は規定されていませんが、実務では、7~12 年間保存することが推奨されています。

会社法では、文書の保存形式について、記録を電子媒体と紙媒体のどちらで保存するかについては規定していません。

会社法以外にも、2012年付加価値税及び補足税法では、発注および販売明細書、納税証明書、通関書類、その他の財務記録などの詳細な記録を 5 年間保存することを義務付けています。

2006年バングラデシュ労働法及び2019年EPZ労働法では、労働者名簿や安全記録簿の保管について定めていますが、保存期間については特に定めていません。

 

7.フィリピン

(1) 文書の保存義務

フィリピンの法律は、企業に対して文書の保存義務を課しています。以下は、保存義務がある文書の一例です。

文書 保存期間
設立に関する文書(定款等)
期間の定めなし
株主リスト
株主総会議事録
取締役の名前と住所
取締役会議事録
商取引の記録
会計帳簿 以下から起算して5年(一部例外あり)
①記録の提出期限の翌日
②提出期限を過ぎて提出された場合は、実際の提出日の翌日

(2) 電子での書類の保存

会社法によって保存が義務付けられている文書は、保存方法が指定されていないため、基本的には電子で保存することができます。他方で、公証人によるノータライズが必要な定款等の書類は、その性質上ハードコピーを作成する必要があります。また、会計帳簿も基本的には電子で保存することができます。

(3) 保存規定に違反した場合の罰則

保存規定に違反した場合、フィリピンの法律では罰則規定が設けられています。たとえば、会社法では、会社が記録を適切に保存していなかった場合、10万PHPから40万PHPの罰金が科されます。

 

8.ベトナム

(1) 保存が義務付けられている企業文書の種類

現行企業法には、会社の種類に応じて、以下の文書を保存することが規定されています。

  1. 会社の定款、内部管理規定、株主・出資者名簿。
  2. 知的財産権の証明書、製品・商品・サービスの品質登録証明書、その他の許認可証および証明書。
  3. 会社の資産所有を証明する文書。
  4. 社員総会、株主総会、取締役会の会合の議決権、議決権調査簿、議事録。会社の決定または決議書類。
  5. 有価証券の募集または上場のための目論見書。
  6. 監査役会の報告書、検査当局および監査組織の判断。
  7. 会計帳簿、会計記録、年次財務諸表。

また、現行の会計規則では、前項vii)で示された文書の種類についても詳細に記載されており(政令No. 174/2016/ND-CP第8条参照)、これによると、上記vii)の文書に加え、会社は、予算明細書、および契約、利益の資本化に関する決定、資金や資本書類の受領と使用など経理業務に関連するその他の文書も保存しなければならないとされています。

また、労働災害が発生した場合、会社は、政令No. 39/2016/ND-CPに基づき、労働災害調査記録、検死または傷害検査記録などの労働災害に関する文書を保存しなければなりません。

さらに、会社が行う事業内容や運営活動の種類によっては、特別の文書保存に関する法的義務が生じる場合があります。例えば、信用機関に分類される会社は、信用機関法(法律No. 32/2024/QH15)に規定される信用記録に関する文書も保管しなければなりません。また別の例として、取引商品の原産地証明書(C/O)を申請する企業は、政令No. 31/2018/ND-CPに基づき、申請書類およびその目的に関連する適切な補助文書も保管する必要があります。

(2) 文書保存に関するその他の重要事項

文書を保管する場所については、会社が自由に決定することができます。現行の法令では、電子形式での文書の保管については、e-VATインボイスを除き、特に規定はありません。したがって、e-VATインボイス以外の文書については、会社は、電子文書として保存するかどうかを選択することが可能であると解されています。

文書の保存期間には、永久保存と一定期間保存の2種類があります。一定期間保存の文書について、保存期間は、法令により年単位で決定されますが、対応する業務が完了してから70年を上回ることはありません。各種文書に適用される保存期間の詳細は、通達10/2022/TT-BNVに添付された別表や専門規則に規定されています。

 

9.インド

⑴ 会社法に基づく文書の保存義務について

インド会社法及び会社の下位規範である複数の規則において、以下の文書について保存義務が定められています。文書の種類、保存期間などについて把握しておくことが重要です。これらの文書は基本的に会社登記所に登録された登録事務所において保管しなければなりません。

文書 保存期間
設立に関する文書及び情報の写し(定款、取締役等のDeclaration、犯罪歴がないことの宣誓供述書、株主の基本情報、取締役の基本情報、取締役の他の会社との利害関係に関する情報) 会社が解散するまで永久に
株券 30年間
株主総会議事録 会社が解散するまで永久に
取締役会議事録 会社が解散するまで永久に
担保の付与又は変更に関する文書 会社により請求が履行された日から8年間
年次報告書の写し 登記官へのファイリングから8年間
取締役の利害関係の開示に関するフォーム 関連する会計年度の終了から8年間
取締役会の出席簿 最終記入日から8会計年度、その後取締役会の承認で破棄可能
取締役会招集通知、議題、その他関連文書の写し 8会計年度、その後取締役会の承認で破棄可能
株主総会招集通知、監査報告書、その他関連文書の写し 8会計年度
会計帳簿 8会計年度
その他法令で要求される文書 8会計年度

⑵ 保管方法

上記の文書は、原本だけでなく電磁的記録により保存することも認められています。もっとも、紛争が生じた場合等は、紙の原本があることが望ましいので原本を保存しておくことが望ましいといえます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

会社の企業活動に関連して作成される文書の保管について、会社法(2021年連邦令第32号)では、会計帳簿を該当事業期末から5年間、本店で保管しなければならないと規定するのみです(第26条第2項)。商業取引法(2022年連邦令第50号)では、商人はその事業取引に関して発した交信・電報及び請求書の謄本並びに受領した交信・請求書及びその他の書類を発行または受領から最低5年間、商業帳簿及びその証拠書類をその完了から最低5年間、保管しなければならないとしています(第29条第1項・第2項)。

税手続法(2017年連邦令第7号)施行規則(2023年内閣令第74号)は、保管すべき会計記録の詳細を規定していて、貸借対照表、収益計算書、給与支払簿、固定資産管理簿、期末在庫表、を含む税法等で要求される支払・売買等の事業に関する記録、及び事業上のやりとり、請求書、免許、契約、並びに事業決定や計算の根拠を含む会計記録の根拠資料について(第2条)、課税事業者は当該課税期間後の5年間、非課税事業者は資料が作成された暦年末から5年間、ただし、土地登記に関連する資料については作成された暦年末から7年間、保管するものとしています(第3条第1項)。これらの期間は、課税当局との紛争があるときや税務調査中である等の場合には更に4年間延長されます(第3条第2項)。法人事業税法(2022年連邦令第47号)第56条では、課税事業者は税申告書類及びその証拠書類並びに課税対象所得を把握させる書類の全てを、非課税事業者は免税の地位を証明する記録の全てを、該当課税期間後7年間保管しなければならないとします。付加価値税法施行規則(2017年内閣令第52条)では、付加価値税法(2017年連邦令第8号)が保管を規定する文書の保管期間・方法等は税手続法施行規則の規定によるとしていますが、不動産に関する文書については15年と定めています(第71条2項)。

以上の通り、法令によって保管する書類の範囲や期間が異なる他、フリーゾーンで設立された会社については会社法の適用が除外される(第5条1項)等、会社の設立形態によっては適用される法令が異なり、また、事業内容に応じて適用を受けるその他の業法によって異なる文書保管期間の定めがある場合がありますので、留意が必要です。

発行

TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年8月26日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

⑴ 配転に関する規制

配転については、判例上、業務上の必要性と本人の職業上・生活上の不利益の両方の観点を考慮して行われるべきものとされています。

この点、最高裁は、業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、配転命令権の行使が権利の濫用となる旨の判断枠組みを示しています(最高裁昭和61年7月14日)。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向命令が有効であるといえるためには、就業規則等で出向命令権が定められていることの他に、配転命令と同様、権利濫用にならないようにしなければなりません。労働契約法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」として、権利濫用について明文規定を設けています。

転籍命令については、単に転籍を命じ得ることを就業規則などで包括的に定めておくだけでは足りず、転籍先企業が明示され、一定期間後の復帰が予定される等、労働者に不利益がないようしておかなければ、命令が無効とされる可能性があります。

 

2.タイ

(1) 配転に関する規制

タイの法律上、配転に関する見解は一様ではないものの、勤務地の変更や職務の変更の有効性について、①使用者の命令が適法、正当かつ公正であると認められること、②降格ではなく、かつ、賃金、福利厚生が現在のものを下回らないことである場合には、会社は従業員に対する配転を命じることができると、判示した判決があります。

配転命令が違法であると判断されないためには、配転命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

(2) 出向・転籍に関する規制

民商法典577条1項は、「使用者は、労働者の同意を得て、その権利を第三者に譲渡することができる。」と規定しています。

出向や転籍命令については、配転命令と同様に、その有効性が問題とならないよう、出向や転籍命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

 

3.マレーシア

1. 配転に関する規制

配転については、使用者が本来的に当該命令を発する権利を有するものとして、原則として労働者に対して有効に命令を発することができるとされています。ただし、紛争予防のためにも、労働契約書や就業規則において、配転命令に関する条項を明記することが望ましいとされています。

他方、当該配転命令について、不当な目的・理由をもってなされたことが認められる場合には、実質的には降格処分(これにより労働者が退職したような場合には、解雇処分)とみなされ、当該処分において本来的に充足すべき要件が充足しておらず無効とされることがあります。

  2. 出向・転籍に関する規制

異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、原則として労働者の同意が必要となります。

裁判例には、グループ会社のさらに子会社への異動命令の有効性について、①労働契約上、労働者がグループ内の別会社への異動命令を承諾する旨の条項は存在しないこと、②元所属会社と当該グループ会社とが機能的・財政的な統一性を有しているとはいえないこと及び③所属会社と異動先の子会社とでは事業内容が異なっていること等の理由から、当該異動命令は無効である旨を判示しているものがあります。

当該裁判例によれば、グループ会社が所属会社との関係で機能的・財政的な統一性を有している場合又は異動先の事業内容が元所属会社と同一の場合には、当該異動命令が有効と判断される余地も残されてはいます。しかしながら、紛争防止の観点からは、雇用契約中に異動を可能にする条項を盛り込み、さらに異動の際にも改めて労働者の同意を得ることが望ましいと考えられます。

 

4.ミャンマー

⑴ 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法規制はありません。もっとも、労働及び技術向上法に基づくと、雇用契約書に業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています。そのため、これらを変更するためには、雇用契約書内に、使用者の配転命令により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておく必要があります。

(2) 出向・転籍に関する規制

労働法上、出向や転籍に関する明文上の法規制はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく出向や転籍を行うことは無効と解されます。

 

5.メキシコ

⑴ 配転に関する規制

連邦労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、同法では、業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています(25条)。後の紛争を防止するためには、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。

⑵ 出向・転籍に関する規制

出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、同法12条による規制を受ける可能性があります。

同法は、労働者派遣について、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、または提供すること」と示し、原則禁止としています(12条)。

上記の例外として、派遣された労働者が、派遣先企業の事業目的又は主要な経済活動に含まれる業務を行わない場合で、派遣元企業が労働社会保障省への登録を行っている場合には、派遣することも認められています。また、同一企業グループ間で実施される補完的業務の提供についても、この条件が適用されます(12条、13条、15条)。

現在の使用者との労働契約を維持したまま、他の使用者の業務に従事させることは、「自身の労働者を他者のために提供すること」に該当し、同法の規制を受ける可能性があります。

 

6.バングラデシュ

(1) 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、労働規則第19条(4)では、雇用契約書(Appointment Letter)に、所属や職種を明記しなければならない旨が規定されています。後の紛争を防止するためには、配転の可能性がある場合は、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、労働者派遣として、労働法3A条が適用される可能性があります。他方、「派遣会社」とは、労働のための契約に基づき、労働者を供給することを事業目的として登録された会社であると定義されており(労働規則第2条(f))、「出向」は想定していないとも解されます。

なお、2013年労働法改正にて、派遣会社の政府への登録が義務付けられ(労働法第3A条(1))、派遣会社によって派遣される労働者は派遣会社の労働者として同法の規定が適用されると定められています(同条(3))。また、2022年の労働規則の改正により、派遣会社を通じて派遣される労働者の賃金は、正社員として同等の業務に従事する(派遣先の)労働者の賃金を下回ってはならず、その基本給は、派遣会社が(派遣先へ)請求する賃金額の50%を下回ってはならないと規定されました(労働規則第16条)。更に、全ての派遣会社は、「労働者社会保障基金」の名称で銀行口座を開設し、積み立てなければならないと定められています(労働規則第17条)。なお、EPZ労働法において、派遣会社に関する規定は存在しません。

転籍(現在の使用者との労働契約関係を終了させ、他の使用者との間で労働契約関係を成立させてそこでの業務に従事させること)について定めた法令はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく転籍を行うことは無効と解されます。

 

7.フィリピン

(1) 異動・配置転換

フィリピンにおいて、法的には、従業員の異動(Transfer)と配置転換(Reassignment)は同じものとして考えられています。そして、会社による、適法な異動及び配置転換の要件は以下のとおりです。

・勤務を中断することなく、階級や給与が同じ別の職位に移ること

・正当な事業目的のために行われること。異動が差別等に基づいている場合、または十分な理由なく降格等のために行われる場合は、違法となる

・異動が合理的で、従業員にとって不利益でないことを示すこと

(2) 出向

出向とは、従業員が一時的に別の会社で働くことをいいます。フィリピンにおいては、出向元が出向社員の給与や出向に関連するその他の費用を負担することが一般的です。

出向では、出向元との契約が継続しつつ、出向先で勤務することになるため、出向元との契約の継続性が問題なることがあります。判例(Intel Technology Philippines, Inc. v. NLRC G.R. No. 200575, 05 February 2014.)は、この点について、「出向契約等における会社と従業員の関係の継続、または終了は、以下の基準によって判断」するとして、以下の4つの要素を挙げています。

・従業員の選任と採用に対する権限がどちらにあるか

・賃金の支払いをどちらが行うか

・解雇の権限がどちらにあるか

・従業員の行動を管理する会社の権限がどちらにあるか

(3) 人事異動が違法であると判断された場合

配置転換などの人事異動に関して、裁判所は、その異動が合理的で、従業員にとって不利益ではないことを証明する責任が会社にあると判断しています。仮に会社がこの点を証明できなかった場合、その人事異動は退職強要(Constructive Dismissal)であると裁判所によって判断されます。退職強要(Constructive Dismissal)とは、会社が従業員の労働条件を不利なものなどにして、従業員が退職せざるを得ない状況を作り出すことを指します。

会社の人事異動が退職強要に該当した場合、解雇された従業員を同等の職位に復職させるか、復職が不可能な場合は代わりに退職金を支払うことを命じられます。それだけではなく、会社は、違法な解雇に対する損害賠償や弁護士費用に対しても支払いを命じられる可能性があります。

 

8.ベトナム

(1) 配置転換ができる場合

使用者は、以下4つのいずれかの場合に限り、従業員を一時的に他の職種や業務に就かせることができます。

  • 自然災害、火災、危険な伝染病による予期せぬ困難
  • 労働災害または職業性疾病の予防措置および改善措置の実施
  • 電気や水道の不通
  • 業務上および生産上の要求(就業規則に規定する必要があります)

配置転換は、従業員の健康状態や性別の適性を考慮して決定されなければなりません。

(2) 配置転換期間および配置転換通知期間

① 配置転換日数:1年間に最大で60日。

配置転換日数が60日を超える場合、使用者は労働者から書面による同意を得なければなりません。また、労働者は、配置転換日数60日を超える場合、配置転換を拒否することができます。

② 事前の配置転換通知:3営業日以上前。

配置転換通知には、配置転換期間を記載する必要があります。

⑶ 給与および補償

① 配置転換後の職位/職務/業務における新給与

  • 新給与は、配置転換先の職位/職務/業務に基づくものとします。ただし、旧給与の85%以上の額とし、最低賃金を下回らないものとします。
  • 新給与が旧給与を下回る場合、30営業日は旧給与が維持されます。

② 1年間の累積労働日数が60日を超える配置転換を拒否し、休業を余儀なくされた従業員に対して使用者が支払う補償金

使用者は従業員に対して、休業手当を支払う必要があります(労働法第99条)。

 

9.インド

⑴ 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。労働者を配転する使用者の権利は、雇用契約や就業規則に定められた条件から生じると考えられます。裁判所は、使用者による配転の決定が誠実な管理上の理由と業務の緊急性からなされたものである限り、不当なものとは判断しないと考えられています。

⑵ 出向・転籍に関する規制

労働法上、出向・転籍を規制する明文上の法令はありません。異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、新たな雇用主の下での雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

⑴ 配転に関する規制

労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)第12条は、労働者の経験と学歴資格に鑑みて雇用契約で合意した仕事と根本的に異なる仕事を労働者に割り当てることを原則として禁止し、労働者が書面で合意した場合には転配は可能ではあるが、そのために転居を余儀なくされる等のときは、転居や家賃等のあらゆる経費を使用者が負担しなければならないと規定しています。なお、例外的に根本的に異なる仕事への配転が認められるのは、事故防止又は労働者が生じさせた損害の修復のために必要と考えられるもので、年間90日を超えない期間に留まります(連邦労働法施行規則第13条第1項)。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向・転籍については、連邦労働法に規定はありません。雇用契約終了後に労働者は他の使用者と雇用契約を締結できる(連邦労働法第49条)ので、労働者が同意すれば、雇用期間の満了または法定解除事由である双方の書面による合意(第42条第1項)若しくは約定の通知期間を経た解除(同条第3項)または労働者に帰責事由のない解雇(施行規則第27条第1項c号)による雇用契約の終了後に、転籍させることは可能です。他方、使用者には雇用する外国人労働者の就労許可の取得義務があり(連邦労働法第6条第1項)、労働者が元の使用者との雇用契約に基づく労働許可のままで、他の使用者の下で稼働することは原則としてできないため、アラブ首長国内での出向は困難です。ただし、元の使用者で稼働しつつ、他の使用者でも稼働するダブルワークの形態や、本土の使用者の下で働く労働者がフリーゾーン内で稼働する一時的な労働許可をとる等、複数の使用者の下で雇用されることが可能となる場合もあります。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年7月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 通貨払いの原則

賃金は、「通貨」によって支払わなければなりません(労働基準法24条)。ここにいう「通貨」とは、「通貨の単位及び貨幣の発行に関する法律」に定義されているものをいい、日本円の紙幣(日本銀行券)及び貨幣がこれにあたる一方、外国通貨は含まれません。ただし、「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払方法で厚生労働省令で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い」をすることができると規定されています(同条ただし書き)。

近年、日本では、賃金をデジタルマネー(電子マネー)で支払うことが解禁され、使用者が、労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができることとしました。

(2) 賃金の支払期間に関する規制

支払時期については、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないことが原則とされています(労働基準法24条2項)。ただし賞与等についてはこの限りではありません。

(3) 賃金の控除に関する規制

賃金は、その全額を支払わなければならないことを原則としています。控除が例外的に認められるのは、所得税や社会保険料などの法令で定められているものや、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と労使協定を結んでいる場合に限られます(労働基準法24条1項)。

 

2.タイ

(1) 通貨払いの原則

使用者は、労働者の合意がある場合を除き、賃金をタイの通貨(バーツおよびサタン)で支払わなければなりません(労働者保護法54条)。

(2) 賃金の支払期間に関する規制

賃金計算が、月単位、日単位、時間単位またはその他1 か月を超えない期間単位の場合、または出来高による場合、賃金は、少なくとも月に1 回以上支払わなければなりません。ただし、労働者に利益となるその他の方法について合意がある場合はその限りではありません(労働者保護法70条1項)。

(3) 賃金の控除に関する規制

使用者は、控除が法律上認められているものを除き、賃金から控除を行ってはいけません(労働者保護法76条)。控除が認められるものについては、労働者保護法76条各号に定めがあります。

 

3.マレーシア

1.賃金の支払方法に関する規制

賃金(雇用契約に基づき労働者に対して労働の対価として支払われる基本給及びその他手当ての内、福利厚生、旅費交通費その他雇用法により定められた金銭の支払を除いたものをいいます。)は、原則として労働者が有する銀行口座に振り込む方法により支払われる必要があります(雇用法25条1項)。 例外として、使用者と従業員との間で書面による合意がある場合又は主務大臣の許可がある場合に限り、現金又は小切手による支払が可能となっています(雇用法25条A)。

 2. 賃金の支払期間に関する規制

雇用法は、賃金期間(賃金の支払の対象となる期間をいいます。)は1か月を超えてはならず(雇用法18条1項)、また、賃金は賃金期間の最終日から7日以内に支払わなければならないとされています(雇用法19条)。その結果、使用者は労働者に対し、毎月最低1回は賃金を支払わなければなりません。

また、使用者が労働者に対して賃金を貸金として事前に支払ういわゆる賃金の前借についても、雇用法上一定の規制が存在しています。すなわち、雇用法によれば、不動産の購入費用に充てる目的がある場合その他一定の場合を除き、1カ月分の賃金額を超える額の前借金の提供を行うことはできません(雇用法22条)。

 3. 賃金の控除に関する規制

雇用法によれば、同法で定める場合を除き、相殺等の方法により賃金控除を行うことはできません(雇用法24条1項)。 同法において認められる場合とは、控除を行おうとする日から遡って3か月の間に行われた賃金の過払いが存在する場合、雇用法13条1項に基づき労働者が使用者に対して予告通知なしで雇用契約を終了させる際に発生する補償金を支払う場合、前借金の返済を行う義務がある場合及びその他法令で認められる場合をいいます(雇用法24条2項各号)。

ただし、上記のように賃金控除が認められる場合であっても、原則として1か月間に支払われる賃金の50%を超えて控除を行うことはできないとされています(雇用法24条8項)。当該賃金控除額規制の例外としては、例えば、雇用法13条1項に基づき労働者が使用者に対して予告通知なしで雇用契約を終了させる際に発生する補償金を支払う場合、前借金の返済を行う義務がある場合があります(雇用法24条9項(a)(b))。

 

4.ミャンマー

⑴ 現金払いの原則

賃金は、ミャンマーチャット又は中央銀行が認めている外貨で支払うことが規定されています((賃金支払法3条(a)))。 しかし、例外として、 貿易、製造、顧客サービス、農業などに従事する労働者に対して、指定された利益および機会があった場合は、現金若しくは一部の特定の商品を、従業員の希望する現地価格と同等にして支払うことができる旨規定されています(同条(b))。

⑵ 賃金の支払期間に関する規制

支払いのための合意された期間は、1月を超えることはできません(賃金支払法4条(b))。

従業員100人未満の場合は、締め日の支払い、100人以上の場合は、締め後5日以内の支払いとされています(同条(c))。なお、店舗及び商業施設法が適用される店舗、商業施設の場合は、同法で別途規定されています。労働者が解雇された場合、解雇日から2営業日以内に賃金を支払う必要があります(同条(d))。

⑶ 賃金の控除に関する規制

賃金支払法で規定された事項に関する控除以外の賃金からの控除は禁止されています(賃金支払法8条)。したがって、賃金から控除を行う場合、法律上規定された事項に該当するか確認した上で行う必要があります。

 

5.メキシコ

⑴ 現金払いの原則

賃金の支払いは、現金が原則となり、商品やバウチャー、その他の支払いは禁止されています。また、支払方法は労働者との合意を前提に、銀行振込みやその他電子的方法による支払いが認められていますが、これに伴う手数料の費用は使用者が負担しなければなりません(連邦労働法84条・101条・108条・109条)。

⑵ 賃金の支払い期間に関する規制

賃金の支払いは、工場の工員や現場作業員といった労働者(trabajo material)の場合は1週間ごとに、その他の労働者の場合は15日ごとに行わなければなりません(連邦労働法88条)。したがって、メキシコの給料日は原則として月に2回となり、現場作業に従事する労働者を抱える企業では月に4回となります。賃金の支払いは、労働者が労働を提供する場所で、勤務時間中または勤務終了後直ちに行わなければなりません。

⑶ 賃金の控除に関する規制

賃金からの控除は以下の場合を除き、禁止されています。

・使用者が支払うべき予想賃金の残高の払い戻しをする場合。

・計算ミスが発生し、使用者が過払いをした場合。

・使用者が商品を購入した場合。

・結果として生じた残高が、手違いや、備品の置き忘れ、ミスの結果である場合。

・組合への支払い、扶養費、養育費など、裁判所の判決等により支払いが義務付けられている場合。

賃金を控除するすべての場合において、賃金の控除は書面で保証されなければなりません。

また、いかなる場合も、1カ月分以上の給与を控除することはできません(連邦労働法110条)。

 

6.バングラデシュ

賃金の支払いに関する規定は、バングラデシュ労働法(以下「労働法」という)及び輸出加工区労働法(以下「EPZ労働法」という)にて定められており、大きな違いはありません。以下の記載は、特に断りがない限り、労働法及びEPZ労働法に共通する規定です。

1.現金払いの原則

労働法及びEPZ労働法では、すべての賃金はバングラデシュ通貨タカの現金又は銀行小切手によって支払われるものと規定し、労働者から要請があれば、銀行振込みによる支払いを認めていますが、2023年所得税法にて、賃金の支払いは、銀行振込などの電子決済によるものと義務づけられました。

 2. 賃金の支払い期間

賃金計算期間は1ヶ月を超えてはならず、賃金は、締め日から7日営業日以内に支払われなければなりません。

 3. 賃金控除

労働法では、同法にて定められる項目以外を賃金から控除することはできません。基本給からの控除ができる項目として、罰金(制限あり)、無断欠勤、労働者の怠慢による損失、使用者により支給されている住居、政府が認める使用者が支給する設備、前払いや賃金の過払いの調整、所得税、裁判所による命令、積立基金の積立金、労働組合費等が挙げられています。

EPZ労働法では、基本給からの控除が可能な項目として、積立基金への積立金又は前借りの返済、労働組合費、無断欠勤による控除が定められています。

 

7.フィリピン

(1) 賃金の現金払いの原則

労働法は、たとえ従業員が現金以外での賃金の支払いを明示的に要求していたとしても、会社による現金以外での賃金の支払いを基本的に禁止しています。例外的に、一定の条件に下では小切手等での支払いも認められています。この規定に違反した場合、会社は賃金を支払っていたと認められないことになります。

(2) 賃金の支払い期間

労働法上、会社による賃金の支払いは16日を超えない間隔で支払い必要があります。つまり、会社は月に2回以上賃金を支給する必要があります。不可抗力等の事情により、会社はこの期間に賃金を支払うことができない場合は、そのような事情が解決した後、直ちに賃金を支払う必要があります。

(3) 賃金の控除

労働法は、会社による賃金の控除を基本的に禁止していますが、例外的に以下の場合において会社は賃金の控除を行うことができます。

・会社が従業員の同意を得て保険に加入しており、その保険料を補償するために控除する場合。

・以下の場合における組合費の控除。会社がチェックオフの権利を認められている場合。チェックオフとは、労働組合との協定に基づき使用者が組合員の賃金から組合費を控除して、それらを一括して組合に引き渡すことをいいます。また、従業員が組合費の控除を書面で同意している場合もこの控除が認められます。

・法律や規則により控除が認められている場合。この例としては、withholding taxの控除や相殺が挙げられます。日本では、会社が従業員に債権を有していても賃金を相殺することはできません。他方で、フィリピンの法律では、会社は従業員に対して有する債権を賃金と相殺することができます。

(4) その他の規制

賃金に関する行為で、労働法が明確に認めていないものとしては、例えば以下の行為が挙げられます。

・賃金の支払いの全部または一部の差止め

・賃金の一部または全部を放棄するよう従業員に迫ること

・雇用の約束または雇用維持の対価として、会社等の利益ために賃金を控除すること

 

8.ベトナム

賃金は、労働者にとって最も基本的な給付であり、現行の労働法における重要ポイントの1つでもあります。以下に、賃金支払いに関するいくつかの重要な規定を記載します。

(1)賃金支払いの原則

現行の労働規定では、使用者は労働者に対し、給与を直接、全額かつ適時に支払うことが義務付けられています。例外的に労働者が直接給与を受け取ることができない状況においては、使用者は法的に認可された者に相当額を支払うことができます。労働者の給与の使い道に干渉したり制限を加えたりすることは禁じられています。

労働者の報酬は、契約、労働者の職務遂行能力、および遂行された職務の質によって決定されます。労働者と使用者は、現金支払いか銀行振り込みか、給与の支払い形態は時間給、出来高給(出来高払い)、固定給かを決定することができます。なお、外国為替管理規制により、ベトナム国内で支払われる給与はベトナムドン(VND)で支払わなければなりません。ただし、労働者がベトナムで合法的に雇用されている外国人の場合、彼らに支払われる給与は外貨で支払うことができます。

(2)賃金支払期間に関する規定

賃金支払期間に関しては、以下の状況に分けられます。

・時間給、日給、週給を受け取る労働者:賃金支払期間は、それぞれ労働時間、日、週の終了後ごと、または労働者と使用者の合意により合計額が15日以内に支払われます。

・月給または隔週給を受け取る労働者:賃金支払期間は、それぞれ月ごとまたは隔週ごとです。支払時期は定期的であり、労働者と使用者が合意します。

・出来高払いの給与を受け取る労働者:賃金支払期間については、製品の量と質、生産性基準、および製品単価に応じて、労働者と使用者が合意します。ただし、1ヶ月以内に仕事を完了できない場合、労働者は、その月の作業量に基づき、毎月前払金を受け取る権利があります。

・固定給を受け取る労働者:賃金支払期間については、仕事の量と質、および仕事の完了に必要な時間に応じて、労働者と使用者が合意します。ただし、1カ月以内に仕事を完了できない場合、労働者はその月の作業量に基づき、毎月前払金を受け取る権利があります。

賃金が全額または期限内に支払われない場合、労働者に事前通告なしに一方的に労働契約を解除する権利を有します。不可抗力により使用者が給与の全額を期限内に支払うことができない場合、使用者は当初の支払日から30日以内に賃金支払義務を履行する権利を有します。さらに、賃金支払いの遅延が15日を超えた場合、使用者は労働者に未払い賃金の利息を支払う必要があります。

(3)賃金控除に関する規制

使用者は、賃金の支払い前に、労働者の給与から以下の金額を源泉徴収することができます。

・個人所得税:この金額は、労働者に代わって所轄税務当局に納付されます。

・強制社会保険:管轄社会保険機関に提出される定期保険料は、法定比率に従って労働者と使用者が拠出します。これは、管轄社会保険機関に対する労働者負担割合といわれています。

・労働組合費:労働組合員である労働者に代わり、主要な労働組合または直上の労働組合に支払われます。

・使用者の財産(設備および/または資産を含む)に対する損害賠償((i)使用者の財産に損害を与えた労働者、(ii)使用者の財産を紛失した労働者、(iii)許容限度を超えて材料を消費した労働者にのみ適用される):控除額の上限は、強制社会保険および個人所得税を支払った後の労働者の純月給の30%とされています。

したがって、使用者は、賃金支払いの詳細(基本給、時間外手当など)や控除額を記載した給与明細を労働者に渡すことが法的に義務付けられています。

 

9.インド

賃金の支払方法については、賃金支払法(The Payment of Wages Act, 1936)に規定されます。

⑴ 現金払いの原則

全ての賃金は、現行の硬貨若しくは紙幣で支払われるか、又は小切手若しくは労働者の銀行口座への送金により支払われなければなりません(賃金支払法6条)。

⑵ 賃金の支払い期間

賃金支払の責任を負う使用者等は、賃金を支払う機関を定めなければならず、賃金支払期間は1カ月を超えてはなりません(賃金支払法4条(1))。賃金が支払われる期間の末日から1,000人未満の労働者が雇用される施設では7日以内、それ以外の施設では10日以内に賃金が支払われなければなりません(賃金支払法5条)。

⑶ 賃金控除

賃金支払法において認められたものを除き、賃金からはいかなる種類の控除も認められません(賃金支払法7条(1))。罰金、欠勤による控除、保管を委託されたものを債務不履行により損失した費用、社宅費用、所得税、年金、裁判所の命令に基づく控除、積立基金、労働組合費などが認められています(賃金支払法7条(2)。原則、控除は、賃金の50%が上限となります(賃金支払法7条(3))。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

⑴ 賃金の支払方法

人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」といいます。)に登録する私企業は、賃金を、賃金保護システム(Wage Protection System。以下「WPS」といいます。)またはMoHREが承認したその他のシステムを通じて支払わらなければなりません(2021年連邦令第33号(以下「連邦労働法」といいます。)第22条第2項、連邦労働法施行規則第16条第1項)。

WPSはUAE中央銀行によって運営されていて、労働者は、WPSを通じて、雇用契約で特定された賃金支払対象期間が終了した翌月1日に(特定されていない場合、最低月に1度)、UAE中央銀行により認められた金融機関の口座で、賃金を受け取ります(賃金保護システムに関する2022年省令第598号(以下「WPS省令」といいます。)第1条1項)。

ただし、労働者のうち、賃金関係の労働争訟が係属している者、行方不明が報告されている者、支払期限から30日経過していない新規採用者、無給休暇中の者、航海中の船員、外国企業・支店の従業員で賃金を国外で受け取ることに同意した外国人労働者は、WPSの対象とはならず(WPS省令第5条)、使用者のうち、UAE国民により所有されている漁船及び公共タクシー、銀行、宗教機関についてもWPSから除外されます(WPS省令第6条)。

支払通貨はUAEディルハムとされますが、労使間で雇用契約においてその他の通過での支払いに合意することができます(連邦労働法第22条第3項)。

支払期限から15日以内に賃金を支払わなかった場合、遅延とされます(WPS省令第1条2項)。賃金未払いが継続する場合、使用者につき、延滞17日目には新たな就労許可の発行が中断される他、50人以上を雇用する企業については、警告や法的措置が取られることとなります(WPS省令第2条)。6月以内に2度違反した場合には、労働者1名あたり1000UAEディルハム(最大2万UAEディルハム)の過料に科せられます(2020年内閣令第21条)。ただし、賃金受領可能従業員の総賃金の80%が支払われたときは、賃金支払義務を遵守したものとみなされます(WPS省令第3条第1項)。

⑵ 賃金からの控除

賃金から控除することができるのは、①社内貸付の無利子返済、②月給の20%を超えない範囲の過払金、③法定の退職年金及び保険掛金、④社内積立基金への貯蓄または返済、⑤労働者が書面で同意し、MoHREが承認した使用者が提供するその他の恩恵、⑥賃金の5%を超えない範囲での、MoHREが承認した社内罰則規定に基づく労働者の違反に対する罰金、⑦賃金の4分の1を超えない範囲の判決に基づく債務(扶養料については4分の1以上も可)、⑧1月当たり5日分の賃金を超えない範囲での、使用者の指図に反し、または労働者の過失により、損壊した使用者の道具等の修繕費、と規定されています(連邦労働法第25条第1項)。賃金から控除または源泉される複数の事由がある場合には、控除及び源泉は、賃金の50%を超えてはなりません(同第2項)。また、連邦労働法・同施行規則等の規定への労働者の違反に対する懲罰の一環として、使用者は月に5日分を超えない範囲で給与を減額することができます(連邦労働法第39条1項c号)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年6月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

退職後の競業行為の禁止は、退職者の職業選択の自由を制限する措置であるため、合理的な範囲内に限って有効性が認められると解されています。

合理性の判断基準としては、「退職後の秘密保持義務が合理性を有することを前提として……期間、区域、職種、使用者の利益の程度、労働者の不利益の程度、労働者への代償の有無等の諸般の事情を総合して合理的な制限の範囲にとどまっていると認められるときは、その限りで、公序良俗に反せず無効とはいえない」とした裁判例があります(東京地判平成15年9月19日。ダイオサーズサービシズ事件)。

競業避止義務の合理性については様々な要素を総合的に考慮して判断されるため、その有効性が認められるかはケースバイケースとなりますが、制限される職種や期間・地理的範囲等を最小限のものにとどめておくことや、一定の代償措置を設けておくこと等が重要であるといえます。

 

2.タイ

労働者保護法14/1条は使用者と労働者との間の雇用契約、就業規則等について、裁判所は、公平かつ適切な場合に限って有効とするよう命ずる権限を有する旨を定めています。

また、不公正契約法5条は、職業を営む上での権利・自由等を制限する合意は無効ではないが、権利・自由を制限される者が通常予期される以上の拘束を受ける場合には、正当で適当な部分に限って有効性が認められる旨を定めています。そして同条は、通常予期される以上の拘束といえるかを判断するにあたっての考慮要素として、①権利・自由の制限の場所及び期間の範囲、②権利または自由の制限を受ける者が、他の形で職業に就くまたは契約を締結する能力及び機会を有しているか等を掲げています。

これらのことから、競業避止義務については、その制約が合理的なものにとどまっていなければ無効とされる可能性があります。より具体的には、就業が制限される業務範囲や、制限される業務の地理的範囲・期間が明確で合理的であることや対象者の就業機会が確保されていることが重要です。

どのような内容であれば合理的であるといえるかはケースバイケースですが、最高裁の判例では、競業避止義務が課される期間について、2~5年の期間の有効性が認められた例が見られます。

 

3.マレーシア

マレーシアでは、契約法(Contract Act 1950)第28条により、合法的な職業、商取引その他のあらゆる種類のビジネスの行使を拘束する合意については原則として無効であるとされています。

このことから、雇用契約終了後に、従業員に対して競合他社と働くことを禁止する旨の競業避止義務条項についても、同条により無効であると解されています。なお、競業避止義務条項には、会社の事業戦略や営業秘密が競合他社に流出することを防ぐという会社利益保護の要素がありますが、マレーシアでは当該利益については、従業員に対して退職後に会社情報に関する守秘義務を課すことにより、その保護が図られるべきであるという考え方が一般的です。

もっとも、従業員に対して、雇用契約が継続している間の競業避止義務を負わせることは有効であると解されています(Sdn Bhd v Hillary Ang & Ors (collectively known as “The Search”) &Anor [1994] 3 CLJ 806)。

 

4.ミャンマー

1.競業避止義務の法規制

ミャンマーにおいては、競業避止義務の有効性について明記した法令は存在しません。関連する法令としては、ミャンマーの契約法において、合意の約因又は目的は、法令上に規定する場合を除いて、合法とされる旨の契約自由の原則が規定されています(契約法23条)。合意が無効とされる場合として、「合法的な専門性の行使、取引の実施または事業の運営を制限する合意」が規定されています(契約法27条)。競業避止義務はここで規定されている「合法的な専門性の行使、取引の実施または事業の運営を制限する合意」に該当する可能性があります。なお、競業避止義務の有効性に関する判例等は確認できません。

  2. 実務

実務上は、全従業員に対して競業避止義務を課すというのは一般的ではありません。マネージャー等の一定程度会社の守秘情報を知ることができる職位の者に対してのみ課す会社が多いと思われます。また、その場合も、無制限に競業避止義務を課す場合には前述した合意が無効とされる場合に該当する可能性が高いため、期間やエリア等の制限を明確化し、かつ、それに伴う代償措置等を含めて規定することが多いです。

 

5.メキシコ

メキシコにおいて、会社と取締役や従業員の関係における競業避止については、明示的に規定する法律はありません。

メキシコにおいては、就業および職業選択の自由はメキシコ合衆国憲法(Constitucón Política de los Eestados Unidos Mexicano)5条に保障される基本的人権と考えられていることから、競業避止義務を課すことはできないとの考えが一般的のようですが、雇用契約書や退職合意書において、退職後の競業避止義務を規定するものも見受けられるのが現状です。ただし、競業避止義務の規定には配慮が必要と考えます。当事者が合意できれば、単に抑止力として規定を設けることも考えられますが、違反時に制裁金を科す規定を設けるなど、真の意味で労働者に競業避止義務を課すような場合は、相当の対価を求められることも予想され、その支払についても検討する必要がると考えます。

なお、秘密保持の観点からは、連邦産業財産権保護法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)において、「営業秘密」が定義され、その漏えい等の侵害行為が行政違反や犯罪として規定されています。また、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)においては、機密事項の厳重管理が労働者の義務として規定されており、機密事項が漏えいされた場合は、使用者が責任を負うことなく当該労働者を解雇できることとされています。更に、一般商事会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles)においては、取締役(Administradores)に対して、会社の機密事項についての守秘義務を任期中および任期終了後1年間課しています。このように法による保護が図られている観点から、競業避止義務を課すことが不当と主張される場合もあるようです。

 

6.バングラデシュ

1. 法的枠組み

競業避止義務の有効性は、契約法(Contract Act 1872)第27条の例外規定に該当するか否か、という点で判断されます。

同条は、合法的な職業、取引、またはビジネスを行使することを制限する合意、条項は、その範囲で無効である、と規定しています。本条文により、貿易又は事業活動を妨げる契約は法的強制力がないと解釈されます。本条には例外が定められており、設定された制限が、事業の性質および関連要因を考慮して、裁判所によって合理的であると見なされる場合は、有効で執行力がある契約と扱われます。

同条は営業権を対象としていますが、雇用契約における競業避止義務も対象になると解釈されています。

 2. 競業避止義務の有効性の判断要素

競業避止義務の合理性に関する判断要素は、期間(特段の事情がなければ6から12か月程度が目安です)、地理的範囲、同様の事業活動に従事する従業員の能力に課せられる制限の範囲に関する条項の合理性、雇用主のビジネス上の正当性、そして、その制限の対価として従業員が適切な報酬又は対価を受け取っているか否かなどの要素が挙げられます。

従業員に対する報酬は、金銭的または非金銭的な性質を持つことができますが、その額は、市場原理からみてある程度合理的なものでなければなりません。

競業避止義務は、契約条件の明確さ、相互理解を確保するため、両当事者が署名した書面による契約で明示的に記載しなければなりません。

バングラデシュでは、労働者保護の意識が強く、競業避止義務の規定の有効性が否定される可能性は低くありません。そのため、同規定が無効と判断される場合に備え、機密情報や企業秘密の保護を目的とした別途秘密保持契約を締結する必要があります。

 

7.フィリピン

⑴ はじめに

競業避止義務は、基本的には当事者が自由に条件を定めることができます。したがって、競業避止が課される期間、競業避止義務の対象となる事業の範囲や、違反した場合の罰則等は当事者間で自由に決定することができます。

⑵ 重要な判例

他方、公序良俗に反すると判断される内容の義務を設定した場合、裁判所が効力を否定する場合があります。裁判所は、①競業避止義務の期間②地理的範囲③競業避止義務の対象となる事業の範囲④競業避止義務を負う従業員が有する情報や知見といった要素を勘案して判断しているものと考えられています。

ⅰ) G. MARTINI (LTD.) v. J. M. GLAISERMAN, G.R. No. L-13699 November 12, 1918

この事件において、従業員の競業避止義務の期間は退職後1年間とそう長くありませんでしたが、競業避止義務の対象は会社が行っていた事業全部と設定されていました。当該会社は広く複数の事業を行っていましたが、従業員は、会社の一部の事業のためのみに雇用されていました。結果として、裁判所は、制限の範囲が広範すぎるとして競業避止条項の全体の効力を否定しました。

ⅱ)ALFONSO DEL CASTILLO v. SHANNON RICHMOND G.R. No.L-21127 February 9, 1924

この事件において、裁判所は、競業避止義務の範囲に、時間または場所のどちらかに制限が付されている場合で、従業員に課す義務が会社の利益保護のために必要な範囲を超えない合理的な内容である場合には、競業避止義務の規定は有効であると判示しました。この判例は、競業避止義務の有効性の判断基準を示したものであると考えられます。

ⅲ)Tiu v. Platinum Plans Phil., Inc., G.R. No. 163512, February 28, 2007

他の裁判例と同じく、競業避止義務は時間、範囲等に関して合理的な制限であれば有効であると判示しました。本件での競業避止義務条項は、その期間を2年間に限定していました。また、競業避止の対象となる取引に関しても、会社が行っている特定の事業に限定していました。

さらに、裁判所は、重要な事実として、従業員は部長という重要な役職であり、当該事業における機密性の高い情報を有していると認定しました。そして、裁判所は、当該従業員が退職後すぐに当該事業に従事することを認めれば、会社の企業秘密が危険にさらされると判断しました。

結果として、裁判所は、当該事業への参画を制限することは合理的であると判示しました。

 

8.ベトナム

ベトナム憲法には、全ての市民は職業、仕事、および勤務場所を選択する権利を有する(35条1項)と規定されています。この原則に基づき、労働法1条10項では、労働者は自由に職業を選択する権利をもち、法律で禁止されていない限り、あらゆる場所において自由に仕事と雇用主を選択する権利があると明記されています。同様に、雇用法6条9項でも、労働者の合法的な権利や利益を妨害したり、困難に陥れたり、損なったりする行為を厳しく禁じています。したがって、使用者は労働者に対し、競合企業で働くことを禁止することはできないと考えられています。

ただし、労働者が使用者の営業秘密や技術秘密に直接関係する業務に従事する場合、使用者はその労働者との間で、営業秘密や技術秘密の保持やこれに違反した場合の賠償義務について書面で合意することは可能とされています(労働法21条2項)。

なお、ベトナムでは、競業避止義務契約(Non-Competition Agreement、以下「NCA」)に関する具体的な規定がなく、ベトナムの法律実務におけるNCAの有効性については多くの意見が対立しています。また、ベトナムの法令には、ある企業と企業が競合関係にあるか否かを判断するための具体的な基準もありません。

したがって、使用者と労働者の間でNCAを締結する場合、少なくとも以下の点に留意する必要があります。

i) 使用者と労働者との間で、労働契約とは別にNCAを締結すること。

ii) NCAの有効期間と適用範囲を合理的な水準に設定すること。

iii) NCAの内容は、使用者と労働者の権利と義務のバランスを考慮した合理的なものになるようにすること。

iv) NCA違反に対する制裁規定については、労働者が競合企業で働くことを完全に禁止するようなものとはしないこと。

 

9.インド

インドでは、1872年契約法(THE INDIAN CONTRACT ACT, 1872)27条に競業避止義務に関する規定があります。

契約法27条は、「ある者が合法的な職業、取引、又はあらゆる種類の事業を行うことを拘束されるあらゆる合意は、その限りにおいて無効である。」と規定しています。同条に基づき、裁判例では、契約期間中の競業避止義務は有効であるが、契約期間終了後の競業避止義務は原則として無効であると解釈されています。したがって、雇用契約終了後に従業員に対して競合他社において働くことを禁止する旨の条項は無効であると解されます。

また契約法27条は、あらゆる種類の取引を制限する合意を無効とするものであり、その対象は雇用契約に限られません。そのため、代理店契約における競業避止義務についても、代理店との契約終了後に競合他社との間での取引を制限する旨の合意は同条に基づき無効と解されます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

1.競業避止に関する規制

民事取引及び手続法(1985年連邦法第5号)第909条が一般規定として、労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法施行規則(2022年内閣決定第1号。以下「施行規則」といいます。)が競業避止の規制の詳細につき規定しています。

使用者は、顧客情報または営業秘密を知りうる労働者に対して、雇用契約終了後に、使用者と競業し、または同一分野での競業する案件に従事しないように求めることができますが、競業避止規定は、使用者の適法な事業利益を保護するために必要な範囲において、地理的範囲、雇用契約終了後2年以内の期間、適法な事業利益に甚大な損害を与えうる事業の性質を制限的に特定したものでなけれればなりません(連邦労働法第10条第1項。施行規則第12条第1項)。また、契約違反等使用者が責めを負う事由により労働契約が解除された場合には、競業避止規定は無効となり(連邦労働法第10条第3項、施行規則第12条第3項)、出訴期間は、競業避止義務違反を発見してから1年に限定されます(連邦労働法第10条第2項)。更に、契約終了時に競業避止義務規定を適用しないことにつき、労使間が書面で合意することが可能で(施行規則第12条第4項)、①労働者またはその新たな雇用者が従前の使用者に対して最後の契約で合意された労働者の3か月分を越えない金額を支払い、従前の使用者が書面で同意した場合、②試用期間中に雇用契約が解除された場合、③労働相決定によって定められた国家労働市場において需要がある専門職種の場合には、競業避止義務を負いません(施行規則第12条第5条)。

  2. 競業避止義務の履行

労働者が書面で同意する場合には、契約解除時に競業避止義務について合意することも可能ですが、基本的に雇用契約において競業避止事務を規定しておくことが肝要です。営業秘密等に接することのできる従業員しか対象になりません、また、競業の範囲や期間等を特定する必要があること、義務違反および損害の立証責任は使用者側が負うことから、事業利益への損害発生を念頭に競業避止義務を抑制的かつ限定的に規定していなければ、無効と判断され、履行が認められない可能性があります。特に、労働争議となった場合には時間と費用を要することとなり、仮差し止めの処分による損害の拡大防止を図ることも困難で、損害賠償が認められることも容易ではありません。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年5月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 賞与の法的性格

賞与については、その支払いの有無や金額が、まったく使用者の裁量に委ねられているものは、単なる恩恵的給付であり賃金には当たらないと解されています。

他方で、就業規則等において、支給基準等が定められている場合には、労働の対償としての賃金であり、所定の支払基準等の下で使用者に支給義務があるとされます。この点、労働基準法11条も、賃金の定義について「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」としているところです。

賞与については、ほとんどの企業において給与規定等に賞与制度が定められていることが通常であり、恩給的給付として解し得る賞与は実際には稀であると考えられます。

(2) 賞与の支給日在籍要件について

賞与については、査定対象期間の一部または全部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱い(支給日在籍要件)をする例も珍しくありません。通常の賃金であればこのような取扱いは許されないところ、賞与が賃金であるならば、賞与の支給日在籍要件は有効といえるのでしょうか。

この点、裁判例では、支給日在籍要件を有効とする例が複数見られます。退職日を自ら選択できる自主的退職の事案で支給日在籍要件を有効としたものとしては、最高裁昭和57年10月7日判決(大和銀行事件)等があります。また、退職日を自ら選択できない定年退職の事案で有効性を認めた東京地裁平成8年10月29日判決(カツデン事件)等の例もあります。現実にも多くの企業では、就業規則等に支給日在籍要件を定めています。

 

2.タイ

(1) 賞与に関する規制

日本では賞与が賃金としての性格を有するのに対し、タイでは、賃金を、時間、日、週、月その他の「通常の労働時間」の労働の対価と定義しており(タイ労働者保護法5条)、賞与は「通常の労働時間」の労働の対価ではないため、賃金には含まれないとされます。

また、タイの労働者保護法には、賞与に関する明文規定はありません。

ただし、実際には、雇用契約や就業規則等で賞与について定めている企業は珍しくなく、雇用契約や就業規則の内容は労働条件となる以上、賞与について定めた場合には、それに従わなければなりません。

(2) 賞与制度の運用

先述のとおり、賞与について具体的な法的規制等はないため、支給時期や支給額の定め方等は企業によって様々であると考えられます。支給時期については12月とするものが多いほか、年に2回支給する例もあります。支給額については企業や業種、年度等によって様々であり、業績変動型の仕組みを取り入れている例もあります。

 

3.マレーシア

1.賞与に関する規制

マレーシアには賞与に関する法的規制は存在せず、当事者間での合意がない限り、使用者が賞与の支払が義務付けられることはありません。雇用契約又は就業規則において賞与の支払を明示した場合には使用者に契約上の支払義務が生じます。

 2. 賞与の一例

賞与を支払う旨の取り決めがある場合、一般的に、「〇か月分」等の形で金額を明示することは行わず、雇用契約又は就業規則には「業績・成績に応じて支払う」旨の記載に留めることが多いと思われます。

 

4.ミャンマー

1.賞与の法規制

ミャンマーにおいては賞与の法的規制は存在しません。したがって、支給するか否かは会社次第となります。もっとも、雇用契約書または就業規則等で賞与を支払う旨を規定している場合には、会社としては支払い義務が存在することとなります。

 2. 賞与の支給時期

賞与の法的規制は存在しないため、支給時期に関する法規制も存在しません。しかし、支給する場合には、一般的には、会計年度が4月1日~3月31日であることや4月上旬に水かけ祭りという長期の祝日(現地の正月)があることから、3月末頃に支給する会社が多いと思われます。

 

5.メキシコ

(1) 概要

賞与を「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるも」とすると、メキシコにはこれに該当する規定はありません。しかしながら、労働者の勤務成績に関係なく、月々の給与とは別に年に一度支給しなければならない「Aguinaldo(アギナルド)」という制度が、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に規定されています。アギナルドはクリスマスボーナスや法定ボーナスと翻訳されています。このほか、賞与を「給与とは別に支給される一時金」と考えると、会社の業績が良く、利益が生じた場合にその一部を従業員で分配する制度「PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)」という制度も規定されています。

(2) アギナルド(Aguinaldo)

アギナルドは、出費の重なる12月の祝祭のシーズンに労働者の支出を賄えるよう支給されることを目的とされ、最低15日分の賃金相当額が支給されなければなりません。その支給時期は、毎年12月20日までとされています。会社の業績や労働者のパフォーマンスなどに関係なく、至急が義務付けられています。

労働者の勤務期間が1年に満たない場合は、勤務期間に応じた割合の額を支払うこととなります。また、労働者が支払日より前に退職した場合は、その退職時に勤務日数に応じた割合の金額を支払わなければなりません。

(3) PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)

PTUは、労働者に対して一定の割合により会社の利益を分配する制度です。この割合は2024年時点では10%となります。つまり、単一課税年度所得に一定の調整を加えた額の10%を当該事業年度に在籍した労働者に分配することとなります。なお、当該労働者には、取締役や執行役、支配人といった業務全般を管理する役員は含まれず分配の対象とはなりません。また、労働者が受け取るPTUの額が、当該労働者の3カ月分の給与額又は過去3年間に受け取ったPTUの額の平均額のいずれか高い額を超えたときは、これが上限となります。

 

6.バングラデシュ

1.法規制の有無

バングラデシュには、2015年バングラデシュ労働規則(以下「労働規則」という)、2019年EPZ労働法及び2022年EPZ労働規則(以下、それぞれ「EPZ労働法」「EPZ労働規則」という)において、賞与に関する規定があります。

①法規制の内容

1.労働規則

 労働規則第111条(5)によると、1年間勤続した労働者には、年に2回のフェスティバルボーナス(festival bonus)を支給しなければならず、かかるボーナスは基本給月額を超えてはならないと規定されています。ただし、金額については、労働者側が基本給月額以上を要求してはならないと解釈されており、企業側がその金額を超えることは認められます。また、3回以上のボーナスを支給することも認められます。

 2. EPZ労働法、EPZ労働規則

EPZ労働法第53条(4)によると、雇用主または雇用主が承認した者は、無期雇用労働者に対して、暦年あたり、基本給2か月分に相当するフェスティバルボーナスを、宗教的祭りの期間に支払うと規定されています。EPZ労働規則第166条では、イスラム教徒の労働者に対して、イード・ウル・フィトル(Eid-ul-Fitr いわゆる「断食明けの祝祭日」 2024年の場合4月11日)の際に1回支払われ、イード・ウル・アズハ(Eid ul-Adha いわゆる「犠牲祭」。イード・ウル・フィトルの2,3カ月後)の際に、2回目のフェスティバルボーナスが支払われるものとしています(第166条(2))。イスラム教以外の宗教またはコミュニティの労働者は、雇用主または工場経営者に対し、宗教祝祭について書面にて通知しなければならず、それに応じて、暦年で2回の主要な宗教祝祭の際に、フェスティバルボーナスが支払われるものとされています。ただし、労働者が宗教祝祭を指定しなかった場合、第166条(2)に従って、イード・ウル・フィトルとイード・ウル・アズハの宗教祝祭に、フェスティバルボーナスが支払われることとされています(第166条(3))。各フェスティバルボーナスは、基本給の1か月分に相当するものとします(第166条(4))。

  3. 運用の実情

各フェスティバルボーナスはイスラム教の祝祭である、イード・ウル・フィトル、イード・ウル・アズハの前に支払われることが一般的です。ただし、上述の通り、労働者が別の宗教の場合で、他の宗教祝祭を指定した場合には、別日を祝祭日に指定することもできるとされておりますので、その配慮も必要となります。支払日は祝祭日の10日~15日ほど前、支払額は労働者の基本給1か月分とするのが一般的な運用です。

いわゆる日本で想定される賞与とは性質が異なり、フェスティバルボーナスは、業績や各人の功績に応じて支払われるものではなく、労働者に一律に一定額が支払われるものとして受け入れられています。

 

7.フィリピン

第1 会社は原則としてボーナスを支給する義務を負わない

フィリピンにおいて、ボーナスの支給に関するルールはありません。そのため、ボーナスを支給するかどうか、支給する条件、金額については会社が決定することができます。したがって、会社は原則としてボーナスを支給する義務を負いません

第2 会社がボーナスを支払う必要がある場合

上記の通り、会社は基本的にボーナスを支払う必要がありませんが、例外的に、たとえば判例は以下の場合にはボーナスを支払わなければならないと判示しています。

1. ボーナスが従業員の賃金の一部である場合

ボーナスが従業員の賃金等の一部である場合には、会社はこれを支払う義務があります。そして、ボーナスが賃金等の一部であるかについて、判例は、その支払いの状況と条件によって異なると判示しています。

さらに、判例は、ボーナスが賃金等の一部となる場合について、たとえば、会社が事業の成功や生産量の増加など条件を課すことなく支給することを認めた報酬である場合は、このような報酬は賃金等の一部であるとしています。他方で、これらの条件が達成された場合にのみ支払われる場合には、それは賃金等の一部とみなされない、つまりボーナスに該当するとしています。

2. ボーナスが会社と従業員を代表する労働組合との間の団体協約(Collective Bargaining Agreement)に組み込まれている場合。

団体協約は会社と労働組合の間の契約上の取り決めです。ボーナスが団体協約に組み込まれている場合、これは会社が遵守しなければならない契約上の義務となります。

3. ボーナスが会社の慣行として定着したとき。

会社の慣行として定着している場合、ボーナスは従業員への福利厚生となります。そして。そして、福利厚生を減らすには労働法の条件を遵守する必要があるため、ボーナスが福利厚生となった場合には労働法に従って支給する必要が生じます。

そして、以下の場合においてボーナスは慣行であると認められます。

①長期間にわたって支給されていること。たとえば判例は2年間を「長期間」であると判断しています。

②会社によって継続的(consistently)かつ意図的(deliberately)に与えられていること。なお、ボーナスの提供がいかなる法律や規制によっても義務付けられていないことを会社が認識していることを示す必要があります。

 

8.ベトナム

現行法では、一般労働者については労働法第104条に、公営企業で働く労働者については政令51/2016/ND-CPに、芸術、スポーツ、海上運送、航空輸送分野の労働者については労働法第166条に、それぞれ賞与に関する規定が置かれています。このうち、一般労働者の賞与に関する労働法104条には、

1. 賞与とは、使用者が、労働者に対し、生産・経営の結果、労働者の業務の完遂の程度に 基づき支給する金員、財物その他の形式のものをいう。

2. 賞与規程は、使用者が、基礎レベル労働者代表組織がある場合は基礎レベル労働者代表 組織の意見を参考にしたうえで決定し、職場において公開、周知するものとする。

と規定されています。この規定を前提として、一般労働者の賞与に関しては、次のとおり取り扱われるものとされています。

  • 賞与支給義務の有無:法律で使用者に義務付けられているものではありません。
  • 賞与規定の要否:賞与を支払うこととする場合、使用者は、どのような方針、基準で支払うかについて文書化し、全労働者に周知する必要があります。但し、「賞与規定」のような特別の規定を作成する必要はなく、例えば、労働契約書に定めることも可能です。
  • 賞与の形態:現金だけでなく、会社が製造・加工・生産する製品や商品、有価証券(ESOPプログラム)、買い物券、クーポン券などの現物支給も可能です。
  • 賞与支給時期:使用者が決定することができますが、実務上は、 (i) テト休暇の直前に「13か月目の給与」として年に1回支給する場合と、(ii) 賞与の一部を(i)の時期に、残りを第1四半期末に支給する場合が多いです。
  • 個人所得税及び社会保険:賞与は、個人所得税(PIT)の課税対象となりますが、各種社会保険料の算定基礎には算入されません。
 

9.インド

(1) 賞与に関する法規制について

インドでは、賞与については賞与支給法(The Payment of Bonus Act, 1965)(以下、「本法」)に規定されています。

本法は、全ての事業所に適用されるのではなく、以下の事業所に適用されます(本法1条3項)。

  • 工場法(The Factories Act, 1948)に規定される工場
  • 営利を目的として従業員20人以上を雇用する事業所

(2) 賞与の受給資格について

1会計年度に30日以上就労した「労働者」は本法に基づき雇用主から賞与が支払われる権利を有します(本法8条)。本法上、労働者とは、熟練若しくは非熟練作業、監督作業、技術作業、又は事務作業を行う者で、月給INR21,000以下の者をいいます(本法2条13項)。

したがって、上記(1)の工場や営利を目的として20人以上の従業員を雇用する事業所において、上記に該当する労働者は賞与を受給する権利を有します。

もっとも、不正行為、事業所内での暴行行為、又は事業所の財産の窃盗等の理由で解雇された労働者は賞与の受給資格を失います(本法9条)。

(3) 賞与の額について

賞与の最低額として、1会計年度において雇用主に余剰金があるかどうかに関わらず、会計年度に労働者が得る給与の8.33%又はINR100のいずれか高い方と規定しています(本法10条)。そして、1会計年度において余剰金が労働者に支払われる最低賞与額を超える場合、雇用主は当該会計年度に関して、全ての労働者に対して、労働者が当該会計年度で得た給与の20%を上限として、当該会計年度に労働者が得た給与に比例した賞与を支払わなければなりません(本法11条)。

(4) 賞与の支払方法について

賞与は会計年度終了後8カ月以内に現金で支払われなければなりません(本法19条)。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

1.賞与に関する規制

アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法が適用除外される2つのフリーゾーンの労働関連法規のいずれにおいても、賞与についての規定はありません。そのため、賞与を付与するか否かについては、使用者の裁量事項となります。ただし、50名以上を雇用する使用者は、昇進及び報酬に関しての特別の基準及び規則を定めた規程を定めなければなりません(連邦労働法施行規則第14条4項)。

 2. 賞与を定める際の留意点

賞与を付与する場合には、支給額の算定方法や支給時期等の基準を明確にするため、賃金規程を定め、または雇用契約で明示的に合意することが望まれます。特に労働者の辞職により雇用契約が解除されるときに賞与が支給されるか、退職金算定の基準とされる基本給に賞与が含まれるか、休業時の支給の有無等、様々な事態を想定して明確になるようにすることが肝要です。規程や基準を定めない場合でも、労働者間で賞与の支給に不合理な差別が生じないようにすることが求められます。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年4月26日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 試用期間中の法律関係

判例は、試用期間中の法律関係について、解約権留保付の雇用契約であると解してきました(最高裁昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。そのため、たとえ試用期間中であったとしても、雇用契約自体は成立しているため、本採用を拒否することは解雇にあたります。

採否決定の当初においてはその者の適格性の判定資料が十分にそろっていないため、後日における調査や観察に基づき本採用を拒否することができるよう、試用期間中は、雇用契約の解約権が留保された状態となっています。

(2) 留保解約権行使の限界

先述のとおり、留保解約権を行使して本採用を拒否することは解雇にあたります。この点、試用期間中は解約権が留保されているため、その性質上、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められます。しかし、まったくの自由ではなく、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合でなければなりません(上記三菱樹脂事件)。

同判例は、留保解約権の行使が許される場合の基準を次のとおり具体化しています。すなわち、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合に、そのような事実に照らしその者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的からして、客観的に相当であると認められる場合には、留保解約権を行使することができるとしています。

(3) 試用期間の長さ

試用期間の長さについて格別の制限はありませんが、一般的には3か月としている例が多いようです。ただし、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるため、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間については、公序良俗に反し、その限りにおいて無効となる可能性もあります(名古屋地裁昭和59年3月23日)。

 

2.タイ

(1) 概要

試用期間は期間の定めのない雇用契約とみなされます(タイ労働者保護法17条2項)。

この点、期間の定めのない雇用契約とは、雇用期間の終了時期が明確に定まっていない雇用契約をいい、解雇にあたっては、原則として、解雇予告、解雇補償金の支払い、有給休暇の買取り(未消化の有給休暇がある場合)、及び解雇が不公正でないことが求められます。

勤続期間の計算は試用期間も含めて雇用開始時点から通算され、試用期間中又は満了時に本採用をしない場合、これは解雇と同様と解され、期間の定めのない雇用契約としての通常の解雇手続きが求められることになります。

なお、不公正解雇との関係では、試用期間中の勤務成績が不十分であることを理由とする解雇について、不公正解雇にはあたらないとされた判例があります(2002年タイ最高裁判決2364号等)。

(2) 試用期間の日数

試用期間の日数については、法律上、特に定められていませんが、実務上、119日以内に設定している会社が多いとされます。

タイでは、勤続期間が120日以上の労働者を解雇する場合には、使用者が労働者に対し、解雇補償金を支払わなければならず(タイ労働者保護法118条)、試用期間従業員の解雇時に解雇補償金の支払が発生することを防ぐために、そのような設定がなされていることが多いです。

 

3.マレーシア

1.概要

マレーシアでは、試用期間に関する法律上の定めは存在しません。なお、実務では、試用期間は雇用開始日から3か月間ないし6か月間として定めることが一般的な取り扱いとなっています。また、後述のとおり、判例法理により、試用期間中の従業員を解雇する場合には、正当な理由が求められます。

 2. 試用期間中の従業員に対する解雇規制

会社が試用期間中の従業員を解雇することの当否については、単に試用期間の満了を理由とするのみでは当該解雇は認められず、会社が当該従業員を本採用しないと判断したことについて合理的な理由が存在する等の正当な理由(cause and excuse)が認められない限り、当該解雇は無効と解されています(the Court of Appeal in Khaliah bte Abbas v. Pesaka Capital Corp Sdn Bhd [1997] 3 CLJ 827.)。

もっとも、正当な理由については、本採用された従業員に対するものよりも緩やかに判断され、本採用しないことについて合理的な理由の有無の判断にあたっては、当該従業員の成績だけではなく、性格や勤務態度等についても、考慮要素となると考えられています。

裁判例には、会社が従業員に対する評価基準として定めていた7項目のうち、当該従業員が達成したのは3項目であったという点に着目し、解雇を有効と判断したものがあります(Industrial court of Malaysia, Hari Bala R Parasuraman v Johnson Controls(M)Sdn Bhd[CASE NO: 3/4-1299/06])。

ただし、本採用をしない場合においても、会社は従業員に対して、同人の評価が基準以下である旨注意喚起をした上、同人に対して改善の機会を与えることが求められると考えられます。

 

4.ミャンマー

1.試用期間の規制

試用期間自体の法的規制は存在しません。しかし、試用期間中の賃金について最低賃金額よりも低い金額(75%を下回らない額)を設定する場合、3か月を超えてはならない旨規定されています(最低賃金法施行細則43条 (l))。当該規定及び労働省が発布しているモデル雇用契約書上も試用期間は3か月を超えないと規定されていることから、ミャンマーにおいては試用期間は3か月間が上限と解されており、雇用開始時から3か月間の試用期間を設けることが一般的です。

2. 試用期間中の解雇、退職

試用期間中の解雇であっても、使用者は1か月前に通知する必要があります。他方、労働者が退職する場合、モデル雇用契約書上は、7日前の通知で退職可能とされています。

 

5.メキシコ

(1) 概要

無期雇用又は180日以上の雇用期間となる雇用の場合、試用期間(periodo a prueba)や初期研修期間(relación de trabajo para capacitación inicial)を設けることができます。試用期間や初期研修期間を設ける場合、その旨を契約書に記載しなければなりません。また、無期雇用契約において初期研修期間を設けた場合に、使用者は労働者に対して契約期間終了日を通知する義務がないとした裁判所の判断もあり、具体的な期間を明記することが重要です。

(2) 試用期間(periodo a prueba)

180日を超える期間の雇用契約又は期限の定めのない雇用契約の場合に限り、労働者が業務の遂行に必要な要件と知識を要しているかどうかを確認する目的で、30日を超えない範囲で設定することができます。労働者が経営執行機関や管理を行う立場の役職付の場合や、特別な技術者や専門職である場合は、試用期間を180日とすることが可能です。期間終了時に、Comisión Mixtaと呼ばれる委員会の意見を考慮したうえで使用者が、当該労働者が必要な要件や知識を満たしていないと判断した場合は、使用者はその責任を負うことなく、雇用契約を終了させることができます。試用期間終了後も雇用関係が継続する場合は、無期限の雇用とみなされ、当該試用期間は勤務期間に含められることとなります。

(3) 初期研修期間(capacitación inicial)

労働者が業務を遂行するために必要とされる知識や技能等を獲得するため、最長3カ月を初期研修期間として雇用契約を結ぶことができます。なお、労働者が経営執行機関や管理知る立場の役職付の場合や、専門職である場合、この初期研修期間を最大6カ月と設定することが可能です。研修期間終了時、Comisión Mixtaと呼ばれる委員会の意見と職務を考慮したうえで、労働者が必要レベルに達していないと判断される場合は、使用者は責任を負うことなく雇用契約を終了させることができます。初期研修期間終了後も雇用関係が継続する場合は、無期限の雇用とみなされ、当該初期研修期間は勤務期間に含められることとなります。

(4) 留意点

試用期間及び初期研修期間の延長は認めらません。また、同じ労働者に対して連続してこれらを適用したり、併用したり、たとえ職種や担当業務が異なっている場合においても、複数回適用したりすることは禁止されています。

また、試用期間や初期研修期間中であっても、使用者は、当該労働者が享受すべき法定の社会保障の費用を負担しなければなりません。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュは試用期間について労働法とEPZ労働法にて定められています。バングラデシュ労働法では、事務職の労働者の試用期間は6ヶ月で、他の労働者は3ヶ月とされています。労働法では、熟練労働者については、労働者の技能を最初の3ヶ月の試用期間で正しく把握することができないと判断された場合は、試用期間をさらに3ヶ月延長することが可能とされています(労働法第4条(8))。

EPZ労働法では、同様の試用期間を定めていますが、職種問わず、当初の試用期間を3ヶ月延長することが認められています(EPZ労働法5条(7))。

試用期間を終了した労働者は、終了証明が発行されなくても、無期雇用労働者とみなされます(労働法第4条(8)、EPZ労働規則8条(2))。

その他、試用期間中の病気休暇の取得や解雇に関する規定は明示的には定められていません。

 

7.フィリピン

(1) はじめに

従業員を雇用する際、まずは試用期間で働きぶりを見たうえで本採用を決めるということがあります。しかし、フィリピンの労働法(以下、単に「労働法」といいます。)は試用期間に関する定めを置いており、会社はこれを遵守する必要があります。今回は、試用期間に関する概要を紹介します。

1.試用期間の概要

労働法において、「試用期間」とは、会社が試用期間として一定期間を設け、さらに雇用時に従業員に対して本採用における合理的な基準を知らせたうえで、当該期間中に本採用の可否を判断することを指します。

 2. 一定期間について

労働法では、試用期間中の雇用は、原則として従業員の就労開始日から6カ月を超えてはならないとされています。判例(Mariwasa Mfg. v. Leogardo GR No. 74246, 1989-01-26)による例外として、試用期間を延長させて6か月を超えた場合でも、当初の期間内で従業員が本採用の基準を満たしていなかったときに、会社が当該従業員に二度目の機会を与えるために試用期間を延長させるという、会社側の寛大な行為(act of liberality)であった場合は、このような延長は有効であるとされています。

3. 合理的な基準について

会社は、従業員に対して本採用の基準を雇用時に周知する必要があります。仮に周知していなかった場合には、本採用しなければなりません。当然ではありますが、試用期間の存在とその期間についても周知する必要があります。この要件の例外として、職務の性質が”Self-descriptive”(例:運転手、家政婦)である場合には周知の必要がありません。

4. 試用期間中の解雇

試用期間で従業員を本採用せずに解雇することもあると思います。会社が試用期間内で従業員を解雇するには、以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている必要があります。

     ①雇用開始時に周知した合理的な基準を満たさなかった場合

  ②正当な理由がある場合

解雇する際には、適切な手続を経る必要があります。たとえば、「合理的な基準を満たさないこと」を理由に解雇する場合には、会社は解雇する旨の書面を従業員に対して示すだけではなく、どの基準がどのように適用されたかまで示す必要があります。

 

8.ベトナム

(1) ベトナム労働法では、使用者と労働者との間の合意により試用期間を設定できるとされています。試用期間は、「業務の性質と複雑さの程度」に応じて合意により定めることとされていますが、1つの業務に対して試用期間を設定できるのは1回のみであり、試用期間を更新することはできません。また、試用期間の上限日数は次のとおりとされています。

  1. 管理職の場合 180日以内
  2. 短期大学以上の専門・技術水準を要する業務の場合 60日以内
  3. 中級職業資格、中級専門学校、技術者、熟練労働者の場合 30日以内
  4. その他の業務の場合 6営業日以内

なお、試用期間を日数で設定している場合、期間の初日は試用期間に算入されず、翌日から日数をカウントすることになります。

(2) 試用期間が満了した場合、使用者は労働者に試用結果を通知しなければなりません。正式雇用には適さないと判断した場合、使用者は雇用契約又は試用契約を解除することができます。また、試用期間中、各当事者は、いつでも雇用契約又は試用契約を解約することができます。この場合、事前に通知する必要はなく、また、補償金、賠償金などを支払う必要もありません。

 

9.インド

(1) 試用期間に関する法規制について

インドには、連邦法及び州法併せて多くの労働関係法令が存在しますが、試用期間について規定しているものは1946年就業規則に関する産業雇用規則(以下、「本規則」)のみとなります。

本規則では、試用期間中の者(probationer)とは、常用ポストの欠員を埋めるために暫定的に雇用され、試用期間が延長されない限り、そのポストで 3カ月の勤務を完了していない人のことをいいます。そして、試用期間中の者は、契約終了について事前の通知や通知に代わる賃金を受領する権利はないと規定されています。3カ月の試用期間が経過していた場合に雇用契約終了するためには、2週間前の通知又はそれに代わる賃金の支払が必要となります。

もっとも、本規則は、100人以上のワークマンを雇用する事業場について適用されます。ワークマンとは、手作業、非熟練・熟練、技術的、運営管理的又は事務管理的作業のために雇用されている者をいいます。

したがって、100人以上のワークマンを雇用する事業場においては、本規則が適用されるため試用期間は3カ月となり、試用期間中であれば契約終了時の事前通知や通知に代わる賃金の支払は必要ありません。

(2) その他、本規則が適用されない場合の試用期間の取り扱い

本規則が適用されない場面の労使間の雇用契約においても試用期間を設定することは裁判例において認められています。そして、インドではオファーレターや雇用契約書において試用期間が設定されることが一般的といえます。試用期間についての規制はないですが、それぞれの州に適用される店舗施設法において、何カ月以上雇用した場合、契約の終了には何カ月前の事前通知が必要である旨定めているため当該店舗施設法の規定を参考にすることが一般的である。

デリー準州の店舗施設法、ハリアナ州が適用されるパンジャブ州の店舗施設法では、3カ月以上勤務している従業員に対しては、少なくとも30日前の事前通知又は通知に代わる給与が必要であるとしています。また、カルナータカ州及びタミルナドゥ州の店舗施設法では、合理的な理由がなければ6か月以上勤務した従業員を解雇することはできず、1カ月前の事前通知も必要であると規定しています。したがって、試用期間は、一般的に3~6カ月で設定されることが多いとされています。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されていて、フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、規定されています。

1.試用期間の規制

試用期間について、連邦労働法第9条に以下の通り規定されています。

試用期間は、勤務開始日から6ヵ月を超えてはなりません(第1項)。同じ使用者の下では試用期間は1度しか定めてはならず、試用期間が満了して勤務を継続するときは、雇用契約は有効となり、試用期間は労働期間に算入されます(第2項)

使用者が労働者を試用期間中に解雇する場合には、解雇日の14日前までに書面でその旨を通知しなければなりません(第1項)。他方、労働者が試用期間中に辞職する場合、UAE内の他社で働くためのときは、辞職希望日の1月以上前に書面で使用者に通知しなければならず、労働者の新たな使用者は、元の使用者に対して、求人または労働者との契約に要した費用を賠償しなければなりません(第3項)。外国人労働者がUAE国外に移動することを理由として試用期間中に辞職する場合には、辞職希望日の14日前までに書面で通知しなければならず、出国日から3月以内にUAEに再入国して就労許可を得ようとするときは、元の使用者と労働者の間で別段の定めがない限り、新たな使用者は第3項規定の賠償を支払う必要があります(第4項)。使用者または労働者が、これらの規定に反して、契約を解除したときは、通知期間または通知期間の残余の日数の労働者の賃金と同額を他方に支払わなければなりません(第5項)。外国人労働者が規定に反して出国したときには、出国日から1年間は就労許可を付与されません(第6項)。なお、外国人労働者のうち①需要のある必須の技能・職能・知識を有する、②家族がスポンサーする居住ビザを有する、③ゴールデン・ビザを有する、④内閣が承認する労働者の分類に基づき、国内労働市場の必要に従って労働相が決定する職能を有する者については、上記の就労許可に関する規定からは除外されます(第7項、施行規則第11条)。

 2. 試用期間中の休暇

試用期間中の有給休暇ついて、労使間で合意することができ、試用期間満了による契約終了の場合は、未使用の有給休暇の残数について労働者は補償されます(第29条第3項)。

試用期間中の病気休暇は、原則、認められませんが、その必要があることを記載した診断書が提出された場合には、使用者は無給での病気休暇を認めることができます(第31条第2項)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年3月27日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 取締役会の招集、開催方法

取締役会は各取締役が招集することとなっていますが、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集します(日本会社法366条1項)。

招集通知は、取締役会の日の一週間前までに各取締役に対し招集通知を発しなければなりませんが、これを下回る期間を定款で定めることも可能です(日本会社法368条1項)。

取締役会では業務執行に関するあらゆる事項が付議されることが当然の前提となっているので、招集通知に議題等を示す必要はありません。

(2) 定足数、決議

取締役会の定足数としては、議決に加わることのできる取締役の過半数の出席が求められます(日本会社法369条1項)。また、決議要件については、出席した取締役の過半数による決議が必要です(同条項)。

なお、定足数や決議要件について、これらを上回る割合の定足数を定款で定めることもできます(同条項)。

(3) 書面決議等

定款で定めた場合には書面決議も可能です。取締役が取締役会の決議の目的である事項につき提案した場合において、当該事項について議決に加わることのできる取締役全員が書面(電磁的記録も可)による同意の意思表示を示したときは、その提案を可決した旨の取締役会決議があったものとみなすことができます(日本会社法370条)。

また、取締役会の開催にあたって、取締役が特定の場所に物理的に出席していることを求める条文は存在しないため、オンラインによる取締役会の開催も可能と解されています。

 

2.タイ

(1) 非公開会社における取締役会

非公開会社において、取締役会は必置ではありませんが、設置することは可能です。非公開会社における取締役会の開催手続きについては以下のとおりとなります。

① 取締役会の招集、開催方法

どの取締役も、いつでも取締役会を招集することができます(タイ民商法1162条)。招集通知を出すにあたっての時期、方法等について法令上の定めも基本的には存在しません。ただし、電子的方法によって取締役会を開催する場合には、議長が招集通知を書面又は電磁的方法によって保管することが求められます(2020年4月19日付緊急勅令)。

② 定足数、決議

取締役は、取締役会の定足数を定めることができます。そのような定めがない場合、かつ取締役の人数が3人より多い場合の定足数は3人となります(タイ民商法1160条)。

決議要件は出席取締役の過半数の賛成となっていますが(タイ民商法1161条)、付属定款でこれと異なる定めをすることもできます。また、賛否が同数の場合には議長に決定権があります(同条)。

③ 書面決議等

商務省の告示により、書面決議は認められていません。他方で、電子的方法によって取締役会を開催することは可能です(タイ民商法1162/1条)。

(2) 公開会社における取締役会

公開会社において、取締役会は必置であり、取締役の人数は5人以上、うち半数以上はタイ国内居住者でなければなりません(タイ公開会社法67条)。公開会社における取締役会の開催手続きについては以下のとおりとなります。

① 取締役会の招集、開催方法

公開会社においては、少なくとも3か月に1度は、付属定款に別段の定めのない限り、公開会社の本社所在地又はその近隣において取締役会を開催しなければなりません(タイ公開会社法79条)。

取締役会の招集は議長が行うこととなっており、公開会社の利益のため必要な場合又は緊急の場合を除き、開催日3日前までには取締役全員に対し、書面による招集通知を送付しなければなりません(公開会社法7/1条、82条)。また、取締役2名以上の請求がある場合には、議長は、当該請求を受領した日から14日以内に取締役会の開催日を決定しなければならないとされています(タイ公開会社法81条)。

② 定足数、決議

公開会社における取締役会の充足数としては、全取締役の半数以上の出席が求められます(公開会社法80条1項)。決議要件については、非公開会社と同様、出席取締役の過半数の賛成となっており、賛否が同数の場合には議長に決定権があります(タイ公開会社法80条2項・3項)。

③ 書面決議等

非公開会社と同様、書面決議を行うことは認められていません。他方で、電子的方法によって取締役会を開催することは可能です(タイ民商法1162/1条)。

 

3.マレーシア

1.概要

取締役会は、自らその手続を定め又は規程を設けることができますが、以下に述べる事項については、会社法上の規制が存在し、これを遵守する必要があります。

 2. 取締役会の開催方法

取締役会の招集権は、取締役又は取締役より要請を受けた会社秘書役(secretary)が有しており、各取締役に対し、取締役会の招集通知(Notice of meeting)を発することにより、取締役会を招集することができます(会社法212条、第3附則第第3条、4条)。

招集通知には、取締役会開催の日時、場所及び議題を記載した上、マレーシア国内に存するすべての取締役に対して通知する必要があります。もっとも、仮に招集通知に瑕疵がある場合であっても、招集通知を受領する権限を有する取締役全員が、当該招集通知に異議を述べることなく取締役会に出席した場合には、当該瑕疵は治癒され、適法となります(会社法212条、第3附則第5条)。

取締役会は、招集通知において指定された日時・場所において開催しますが、対面による開催は必要ではなく、出席取締役同士が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によっても開催することができます(会社法212条、第3附則第6条)。

取締役会の定足数は、取締役の過半数(又は取締役会で定めるその他の数)であり、定足数に満たない場合には、取締役会において議事を処理することはできません(会社法212条、第3附則第7条、8条)。

 3.  決議・書面決議

取締役会の決議は、同会に出席した取締役の全員が賛成し又は投票総数の過半数が賛成した場合に可決します(会社法212条、第3附則第11条)。また、取締役会の通知を受け取る権利を有する取締役全員が署名または同意した書面によって決議した場合も、当該決議は有効となります(会社法212条、第3附則第15条)。

 4. 議長

議長は、取締役のうちから1名選出されます。議長は取締役の議事進行を行います。また議長は決定票(casting vote)を有しており、取締役らの票数が割れた場合に、議長票により可否が決まることになります(会社法212条、第3附則第1条)。

 5. 議事録

取締役会における議事手続について、取締役会は議事録を作成しなければなりません(会社法212条、第3附則第13条)。

 

4.ミャンマー

1.取締役会の招集、開催方法

現在の会社法上は、取締役は1名のみでも法的に問題ないため、取締役が1名のみの場合には取締役会は存在しません。その上で、取締役が2名以上の場合には、取締役会に関する規定が適用されることになります。

取締役が他のすべての取締役に合理的な通知を与えることで、取締役会を招集できます (145条(a)(i))。 すべての取締役が同意し又は定款によって定められた技術を使用して、取締役会を招集し又は開催することができます(145条(a)(ii))。開催頻度及び取締役会決議事項については会社法上規定されていません。

 2. 定足数、決議

取締役会の定足数は、2名の取締役(又は定款で定められているその他の数)であり、取締役会の開催中常に定足数がいなければなりません(145条(a)(ii))。決議は、決議に参加できる取締役の投票総数の過半数によって可決されなければなりません(145条(a)(ii))。

 3. 書面決議

当該決議に投票する権利を有するすべての取締役が、その文書に記載されている議案につき賛成する旨の陳述を含む文書に署名した場合、取締役会を開催することなく、取締役会の 決議を可決することができます。同じ形式の書類の別個の写しに署名することができ、その場合、最後の取締役が署名するときに決議が成立します(156条(c))。 取締役1名のみの会社は、取締役会を開催する必要はなく、書面で記録し署名することに より、必要な決議を行うことができます(156条(a))。

4. 議長

取締役は、取締役会及び株主総会の議長を務める議長を選任しなければなりません(145条 (b))。定款に従い、議長は、取締役会において決定投票権を有します(145条(c))。

 5. 議事録

株主総会と場合と同様に、会社は、取締役会及び書面決議の全ての手続きについて議事録を準備しなければなりません。当該議事録又は決議は取締役会の開催又は書面決議による決議から21日以内に記録されなければならず、議長又はその他の権限のある取締役により署名されなければなりません(157条(a))。

 

5.メキシコ

(1) 概要

非上場の株式会社(Sociedad Anónima)を前提とすると、その取締役会については、メキシコにおける会社法となる商事会社一般法(Ley General de Sociedades Mercantiles、以下、「会社法」という。)の規定や各会社が定める定款の規定に従うこととなりますが、会社法には多くが規定されていません。従って、詳細なルールを定める場合は定款に規定することとなります。

なお、メキシコにおいては、一人取締役も認められており、取締役が2名以上任命された場合に取締役会が設置されます。この場合、一般に、取締役会議長(Presidente)と書記としての機能を持つ秘書役(Secretario)を選任することとなります。

(2) 取締役会の開催

取締役会の開催頻度や招集の方法は会社法には規定されていません。

会社法には、「取締役会の決議は、少なくとも半数の出席が要求され、その出席者の過半数をもって行われる。」との規定があることから、定款において特段の定めがない場合は、その開催には、取締役の半数の出席が求められることとなります。

(3) 書面決議

会社法には、「取締役会の会合外でその取締役の全会一致によって行われた決議については、書面で確認されていることを条件に、取締役会で採択された場合と同様の法的効力を有するものとすることを定款で規定することができる」との規定があることから、この旨を定款に定めた場合には、書面決議が認められることとなります。

(4) オンライン開催

2023年10月の会社法改正により、定款に規定することにより、取締役会のバーチャル開催やオンラインと対面を組み合わせたハイブリッド開催が可能となりました。この場合、対面・オンラインを問わず、出席者は同等に扱われ、決議は対面開催と同じように効果をもつこととなります。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、会社法95条により、取締役全員に対して開催通知を送らなければならないと定められています。一般的に、開催通知は、取締役又は秘書役(Company Secretary)が、すべての取締役の住所に送付し、同通知には、会場、日付、時間、議題などの重要な詳細を記載するものとされています。

通知期間は法律では定められていませんが、附属定款に定めた場合はその期間に従います。商業登記所(RJSC)は、14日間を目安としています。取締役への取締役会開催の通知を省略した場合は、正当に招集されたとみなされず、取締役会の議決が無効となるとの裁判例があります[Tahmid Ahmed vs Jalaluddin Jaffar AH Hussain (2000) 52 DLR 141]。

取締役会は、出席取締役が定足数を満たしていることを確認し、出席者として署名をすることで、開催することができます。定足数について、法律では過半数とされていますが、附属定款に定めることで、より厳しい条件に定めることができます。議事録は、議長又は次の取締役会の議長が署名した場合に有効なものとなり、反証がない限りは、取締役会が適切に開催されたこと、議事録の内容の決議があったことの証拠となります(会社法89条)。なお、取締役会は3か月に1回、年4回以上開催されなければいけません(会社法96条)。

いわゆる取締役会に代わる稟議決議(Resolutions By Circulation)については、Institute of Chartered Secretaries of Bangladesh (ICSB) バングラデシュ公認秘書役協会が、上場企業を対象に定めている、Bangladesh Secretarial Standardにて、容認しうる一定の基準を示しています。

 

7.フィリピン

フィリピンで会社を経営するにあたって、取締役会の手続について知っておく必要があります。そこで、今回は取締役会の手続について、①法定されている手続の概要や招集通知に記載すべき事項、②リモートでの取締役会の参加、③取締役会を省略できる場合の順にご説明していきます。

1.取締役会の手続

取締役会の手続については、フィリピンの会社法(以下、単に「会社法」といいます。)において規定されており、以下はその例となります。付属定款により異なる要件を定めることも可能です。

  • 通知期間 :2日以上前
  • 定時役会の開催頻度 :毎月開催
  • 定足数:過半数以上 

なお、取締役会はフィリピン国外でも行うことができます。また、招集通知に記載すべき内容もいくつかご紹介します。

  • 日時と場所
  • 議題
  • 秘書役等の連絡先
  • 会議の録画、録音が行われること。
  • リモートでの参加できること
  • その他、リモートによる会議への参加を容易にするための指示
  • リモートでの取締役会への参加 

また、フィリピンでは一定の条件のもとでリモートでの取締役会の参加を認めています。取締役会にリモートで参加するためには、取締役はその意思を議長と秘書役に通知する必要があり、さらに秘書役はその旨を議事録に記載する必要があります。

また、リモートで参加する取締役がいる場合、秘書役は例えば以下の業務を行う必要があります。

  • リモートでの会議の実施に適切な機器や設備が利用可能であることの確認
  • 会議中、参加者が、他の参加者の声を聞くこと、さらには他の参加者の姿をはっきりと見ることができるようにすること
  • 録音、録画が確保されていることの確認
  • 映像および音声の記録を安全に保管すること
  • リモートでの参加者に対し、取締役会終了後合理的な時間内に、署名が実行可能な場合、議事録に署名することを義務付けること
  • 取締役会の省略方法

基本的に取締役会を省略することはできません。他方で、例外的にClose corporationsという日本における非公開会社に近い会社形態の場合には、全取締役が書面により同意する場合など、一定の条件により取締役会を省略することができます。

 

8.ベトナム

(1) 外資がベトナムにおいて設立する会社の主要な形態は、i) 有限責任会社と ii) 株式会社がありますが、法律が要求する会社運営、企業統治の内容のシンプルさから、ほとんどの外資企業は i) 有限責任会社を選択しています。有限責任会社に関しては、「社長」(Director)あるいは「総社長」(General Director)が日本の株式会社における取締役に相当する役員として規定されていますが、これらが複数選任されている場合における会議体の構成方法や意思決定方法などについては規定されていません。したがって、「取締役会」に相当する会議体を設置するかどうかや、設置するとしてその開催方法や決議方法などについては、定款や社長・総社長の決定により定めることになります。

(2) 一方、株式会社の場合、3人以上11人以下の取締役を選任し、取締役会を構成するとともに、取締役の中から取締役会会長を選任することになります。取締役会会長は、少なくとも四半期に1回、取締役会を招集しなければなりません。また、取締役会会長は、i) 監査役会又は独立取締役からの請求があった場合、ii) 社長若しくは総社長又は5人以上の企業管理者(会長、取締役、社長若しくは総社長、及び定款が規定するその他の管理職)からの請求があった場合、iii) 2名以上の取締役からの請求があった場合、iv) 定款に規定する場合には、取締役会を招集しなければなりません。このうち、 i) から iii) の請求があった場合には、取締役会会長は、請求があった日から7営業日以内に取締役会を招集しなければならないとされています。もし、請求があったにもかかわらず取締役会を招集しなかった場合、取締役会会長は、これにより会社に生じた損害を賠償しなければならず、また、請求者は、取締役会会長に代わって取締役会を招集することができるとされています。

取締役会の招集通知は、定款に異なる定めがある場合を除き、遅くとも開催日の3営業日前までに送付しなければなりません。

取締役会は、取締役総数の4分の3以上が出席しなければ成立しないとされていますが、これに満たない場合、本来の招集日から7日以内(定款により短縮可)に再度に2回目の招集を行い、この2回目の招集に対して過半数の取締役が出席すれば、取締役会は有効に成立します。

 

9.インド

(1) 定足数について

取締役会の数は、公開会社であれば3人以上、非公開会社であれば2人以上、一人会社であれば1人となります(会社法149条1項a)。取締役の員数の上限は、公開会社、非公開会社に関わらず、いずれの会社も15人までとなります(同項b)。

取締役会を有効に開催するための定足数は、取締役総数の3分の1又は取締役2名のいずれか多い方となります(会社法174条1項)。ビデオ会議やその他の視聴覚設備による参加者も定足数に算入することができます(同項)。

(2) 招集方法について

取締役は会社秘書役等へ要請することによりいつでも取締役会を招集することができます(会社法スケジュールテーブルF67条2項)。招集通知は、取締役会決議開催日の少なくとも7日前に会社に登録された各取締役の住所宛てに書面で送付されなければなりません(会社法173条3項)。この招集通知は、手渡し、郵送、又は電子メールの形で送付することができます(同項)。

(3) 開催地及び開催方法について

開催地は、法令の特段の規制はなく、ビデオ会議でも可能であり、インド国外での開催も可能となります。年次財務諸表の承認等一部の議題については、物理的な取締役会での決議が必要とされていましたが、2021年改正取締役会及びその権限に関する規則により、そのような規制もなくなりました。現在は、全ての議題がビデオ会議で行うことが可能となっています。

また、取締役会決議の草案を各取締役の登録された住所宛てに手渡し、郵送、又は電子メールの形で送付し、過半数の賛成を得た場合は有効な書面決議となります(会社法175条1項)。ただし、以下の事項については書面決議で行うことができません。

  • 株主への未払株式の払込請求
  • 有価証券の買戻しの承認
  • 社債を含む有価証券の発行
  • 借入
  • 会社資金の投資
  • 融資、融資の保証又は担保の提供
  • 財務諸表及び取締役会報告書の承認
  • 事業の多角化
  • 合併等の組織再編
  • 会社の買収又は支配権の取得
  • その他規定される事項

(4) 開催頻度について

会社は1年に4回以上取締役会を開催しなければならず、前の取締役会から120日以上の期間を空けることができません(会社法173条1項)。

また、第一回取締役会は、会社設立登記後30日以内に開催する必要があります(同項)。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)における公開株式会社(public joint stock company)の取締役会の開催方法については、会社法(2021年連邦令第32号)で以下の通り規定されています。この公開株式会社の規定は、非公開株式会社(private joint stock company)に適用されます(第267条)。UAEで主流な会社形態である有限会社(limited liability company)では、経営を行う支配人(manager)が複数選任される場合には、支配人会(board of managers)が設置され、その権能は設立約款で規定されます(第83条第1項)が、別段の規定がない限り、支配人には株式会社の取締役の規定が適用されます(第84条第2項)。他方、会社法はフリーゾーンで設立された会社には適用されず(第5条第1項)、各フリーゾーンで制定された規定によります。

1.概要

取締役会の構成、取締役の数、任期等について、会社定款で定めることができますが、人数は3名以上11名以下で、任期は3年を超えないものとされています(第143条第1項)。

 2. 取締役会の招集・開催方法

議長の招集により、最低年4回の取締役会が開催されなければなりません。また、取締役2名以上の要請がある場合には、議長は取締役会を招集しなければなりません(第156条第1項)。取締役全員に招集通知がされなければならず、取締役会は、本社において開催されます(同第2項)。ただし、証券・商品庁(Securities and Commodities Authority)により決定された条件に従って、書面での決議をすることができます(第157条2項)。

  3. 定足数・決議方法

取締役の過半数が出席する必要があります(第156条第2項)。決議は、出席取締役の過半数により、同数の場合には、議長により決せられます(第157条第1項)。

 4. 議長

議長は、取締役から秘密投票によって選出され、議長不在等のときに代わる副議長も同様に選出され(第143条第2項)、証券・商品庁に通知されるとともに、中央銀行の承認を得る必要があります(同第3項)。

 5. 議事録

取締役以外から選任される書記によって、議事録が作成され、出席取締役及び書記によって署名されねばならず、決議に反対した取締役は、議事録にその異議を記載します(第159条)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年2月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 労働者該当性

労働基準法(以下「労基法」といいます)は、「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所…に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています(労基法9条)。

この定義から、労基法上の労働者性を判断する上では、「使用される=使用者の指揮監督下での労働であること」及び「賃金を支払われる=労働の対償として報酬を得ていること」の2点が重要とされます。

また、労働契約法(以下「労契法」といいます)は「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義しているところ(労契法2条1項)、これは労基法上の「労働者」と同趣旨であると解されています。

しかし、労働者の実態は多種多様であるため、労働者性の判断は必ずしも容易ではありません。そこで、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告はそれまでの判例・学説の動向を踏まえたうえで、次の判断基準を提示しました。同報告は労働者性の判断について、契約形式の如何にかかわらず実質的に判断するとして、①「指揮監督下の労働」にあたるかは、業務の指示に対する諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、勤務場所・勤務時間に関する拘束性、他人による労務の代替性の有無等を考慮することとし、②「賃金を支払われる者」については、労務の対償性のある報酬を受け取る者をいうとしています。更に①②のみでは判断できない場合には特定の企業との専属性の有無等も考慮されます。

(2) 労働者が受けられる保護

労働者に該当する者は労働法の各種規制の対象となる者であり、法令上様々な保護が与えられています。以下では、その中から代表的なものをいくつか簡単にご紹介します。

1.賃金

賃金は原則として、①通貨で、②直接労働者に、③その全額を、④毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています(労基法24条)。「通貨」とは、日本国で強制通用力のある貨幣を意味し、外国通貨や小切手等は含まれませんが、労働協約に別段の定めがある場合等には「通貨」以外での支払いも認められます。また、全額払いについても、給与所得の源泉徴収や社会保険料の控除等の例外があります。

2.労働時間及び休憩

原則として、使用者は労働者に、1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはなりません(労基法32条1項、2項)。また、労働時間が6時間を超える場合においては45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を与えなければなりません(労基法34条1項)。

3.休日

原則として、使用者は労働者に対し、週に1日以上の休日を与えなければなりません。ただし、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合には、この原則は適用されません(労基法35条1項・2項)。

4.休暇

法定の休暇・休業としては、年次有給休暇(労基法39条)、産前産後の休業(同法65条)、生理日の休暇(同法68条)、育児休業(育児介護休業法5条以下)、介護休業(育児介護休業法11条以下)、子の看護休暇(育児介護休業法16条の2以下)があります。年次有給休暇について、使用者は、6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日以上の有給休暇を与えなければならず、勤続年数を増すにしたがってその休暇日数は加算されていきます(労基法39条1項・2項)。

5.解雇

使用者は労働者を解雇するにあたっては、少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金(直前3か月間の賃金を基に算定されます)を支払わなければなりません。また、解雇理由については法令によって一定の理由による解雇が禁止されている場合があります。更に、判例上、正当な理由のない解雇は権利の濫用であり無効であるとする解雇権濫用法理が定着しており、この法理は労契法に明文化されるに至っています(労契法16条)。

 

2.タイ

(1) 労働者該当性

労働者とは、その名称のいかんにかかわらず、賃金を受け取り使用者のために労働することに同意した者をいうと定義されています(労働者保護法第5条、労働関係法第5条)。そのため、形式的な契約形態にかかわらず実態として当該定義にあてはまる場合には労働者に該当するものと解されます。

(2) 労働者が受けられる保護

1.賃金

賃金については、①男女平等の原則(労働者保護法53条)、②通貨(=タイバーツ)払いの原則(労働者保護法54条)、③直接払いの原則(労働者保護法55条)、④全額払いの原則(労働者保護法76条)、⑤毎月払い、一定期日払いの原則(労働者保護法70条)といった諸原則が定められています。

②については、労働者の承諾があれば手形又は外国通貨での支払いも認められています。③について、賃金は労働者の勤務場所で支払わなければなりませんが、労働者の承諾があればこの限りではなく、銀行振込による支払についても事前の承諾が必要であると解されています。

2.労働時間及び休憩

労働時間は原則として1日8時間以下、週48時間以下でなければなりません。ただし、労働者の健康と安全を害する可能性がある仕事として労働社会福祉省令で定められているものに関しては1日7時間以下、週42時間以下でなければなりません(労働者保護法23条)。休憩については1日あたりの連続労働時間が5時間を超える前に、1時間以上の休憩時間を与えなければなりません。労働者と使用者との間で1回の休憩時間を1時間未満とする合意もできますが、その場合も1日の休憩時間の合計は1時間以上でなければなりません(労働者保護法27条)。

3.休日

休日は原則として週に1日以上、週休日と次の週休日の間の間隔は6日以内でなければなりません(労働者保護法28条)。使用者は原則として休日に労働者に労働をさせてはなりませんが、労働の性質上継続して行なわなければ業務に支障をきたす場合や緊急の業務の場合等は、使用者は必要範囲内で労働者に休日労働を命じることができます(労働者保護法25条)。 

4.休暇

1年間勤続した労働者については、年6日以上の年次有給休暇を取得する権利を有します。勤続年数に応じて年次有給休暇の日数が増加するような法定の制度はありませんが、年6日を超えて休暇を与えること自体は可能です。また、労働者と使用者との事前合意により、未使用の年次有給休暇を次年度に繰り越すことも可能なほか、勤続1年未満の労働者については、使用者が勤務期間に比例して年次有給休暇を決定することもできます(労働者保護法30条)。年次有給休暇のほかには、病気休暇、出産休暇、不妊手術休暇、用事休暇、兵役休暇、研修休暇等が法定されています。

5.解雇

使用者が労働者を解雇する場合には原則として、①1給与期間前までに解雇予告をおこなったこと(期限の定めのない雇用の場合)(労働者保護法17条)、②法定の解雇補償金を支払ったこと(労働者保護法118条)、③年次有給休暇の買取り(労働者保護法67条)を要するほか、④解雇禁止事由(明文規定による個別の解雇禁止事由または不公正解雇)に当たらないことが求められます。

 

3.マレーシア

1.概要

マレーシアでは、2022年3月に、46条からなる雇用法(The Employment Act 1955)改正案が連邦議会で可決(以下「改正雇用法」といいます。)、2023年1月1日に施行されました。これにより、雇用法の適用対象となる労働者(Employee)の範囲が拡充されています。

そこで企業としては、既存の雇用契約や従業規則が改正雇用法に準拠しているかどうかを確認することが重要です。

2.雇用法(The Employment Act 1955)の適用対象

従前、適用対象となる労働者は、賃金が一定額以下(月額RM2,000以下)の労働者及び肉体労働者等に限定されていましたが、改正雇用法施行により、同法の適用対象者は、月給にかかわらず、雇用契約に基づき役務提供を行う全ての者に拡張されることになりました。なお、当該役務提供契約が雇用契約であるか否かは別途検討する必要となります。そして、当該契約が雇用契約であるか否かは、指揮命令関係の有無や報酬体系等の実質的な要素を考慮して判断されることになります。

3.雇用法による労働者保護の内容

雇用法は、雇用契約の条件及び使用者と労働者の法律関係を規律し、残業や休暇、懲戒についての規定も含まれています。雇用法による労働者保護の内容としては、例えば、同法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、当該無効部分は、雇用法で定める基準によることになります。さらに、改正雇用法には、週の労働時間上限48時間から45時間への短縮や、月の一部のみ勤務した労働者の給与計算方法、産休の延長、既婚男性労働者に対する育児休暇の付与、フレックス制度の運用、雇用法違反に課する罰金の引き上げ等が盛り込まれました。他方、月給4,000リンギを超える労働者には、原則として残業代を支給する必要はないとされている等、労働者の属性によりその適用が除外される条項も存在します。

4.東マレーシアにおける特例

東マレーシアにおいては、前記(2)の「労働者」であっても、雇用法の適用はなく、代わりにサバ州労働令(Labour Ordinance(Sabah)Cap.67)又はサラワク州労働令(Labour Ordinance(Sarawak)Cap.76)が適用されることになります。

 

4.ミャンマー

1.労働者該当性の判断と労働関係法令の適用範囲

ミャンマーにおいては、統一された1つの労働法が存在するわけではないため、法律ごとに労働者の規定が少しずつ異なります。例えば、最低賃金法においては、「労働者」とは、あらゆる営利事業、製造及びサービス、農業並びに畜産業で働くことを使用者と雇用契約で合意することにより、身体的又は知的能力を利用して無期限雇用若しくは臨時雇用としての労働によって得られる賃金によって生計を立てている者を意味する。この表現は、見習い及び研修員、事務職員、外部の労働者、家政婦並びに運転手、警備員、門番並びに清掃作業員並びに職員を含むと規定されています。

したがって、適用可能性のある法律ごとに労働者該当性を判断することとなります。

 

5.メキシコ

(1) 労働者該当性

メキシコでは、労使関係を規定する法律として、連邦労働法(Ley Fedral del Trabajo)が挙げられる。連邦労働法によると、労働者(Tranajador)は、「他者(法人か自然人かを問わない)に対して、従属的で個人的な仕事を提供する自然人である。この場合、「仕事」とは、専門職や職種に必要とされる技術的水準に関わらず、人的な、知的な、あるいは肉体的な活動と解される」と定義されています。従って、雇用の形態に関わらず、使用者との間に従属的な関係があり、労働を提供している人は労働者と考えられ、連邦労働法の規定が適用されます。

(2) 労働者の保護

連邦労働法には、雇用期間に関する規定、雇用関係の終了に関する規定、賃金や労働時間、休日や有給休暇などの労働条件に関する規定、労働者の権利や義務に関する規定などが定められており、労働者はこれらの規定に保護されることとなります。

なお、労働者のうち、管理や監査、監督などの職責を担う人や事業所内における使用者自身の業務を担う人は、「信任労働者(trabajador de confianza)」と定義されており、労働組合の組合員になれないなど、一定の制限を受けます。

その他、船員(Trabajadores de los buques)、航空機乗務員(Trabajadores de las tripulaciones aeronáuticas)、鉄道乗務員(Trabajadores ferrocarrileros)、自動車輸送乗務員(Trabajadores de autotransportes)、農・畜・水産業労働者(Trabajadores del campo)、俳優・音楽家(Trabajadores actores y a los músicos)、家事労働者(代行者)(Trabajadoras del hogar)、鉱山労働者(Trabajadores de mina)、ホテル・レストラン・バー等の労働者(Trabajadores en hoteles, restaurantes, bares y otros establecimientos análogos)、専門医科研修中の研修医(Médicos residentes en período de adiestramiento en una especialidad)、テレワーク労働者(Trabajadores bajo la modalidad de teletrabajo)などの労働者に対し、例えば労働時間や休日の取得について柔軟な取得を認める、他の労働者との平等が保てるよう使用者に義務を課すなど、特別な配慮を行う規定が設けられています。

最低賃金についても、専門職62種それぞれに一般最低賃金とは異なる額の最低賃金額が定められています。

(3) 使用者の責任

使用者が自身の労働者に対して、使用者としての責任を負うことは当然ですが、メキシコにおいては、労働者派遣(subcontratación de personal、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、もしくは提供すること」)を利用する場合、派遣先企業も、派遣元企業と連帯し責任を負うことと規定されていることから、派遣元企業に不遵守があった場合、派遣先企業は、自身の労働者と同様に派遣労働者に対しても責任を負う場合が生じ得ます。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュで、労務に関する主な法令は、2006年バングラデシュ労働法、2015年バングラデシュ労働規則、2019年EPZ労働法、2022年EPZ労働規則であり、これらの法令の適用対象となる労働者(worker)は労働法に基づき、その権利が保護され、適用対象とならない労働者は、当事者間の契約にて労働条件が定められます。

1.労働法における「労働者」の定義

労働者の定義は労働法の適用性の判断において重要な基準になります。

労働法2条(65)によれば、労働者は、「雇用条件が明示または黙示されており、雇用または報酬のために熟練、非熟練、マニュアル作業、技術的、売買、事務の業務をするために直接または間接的に事業所または産業に雇用された者で見習いを含む。なお、主に管理、経営、監督の業務に雇用された者は含まない」とされています。

輸出加工区内の企業にのみ適用されるEPZ労働法も同様に定義しており、同法2条(48)では、労働者は、「工業の雇用者を除き、輸出加工区内で直接またはその他の方法で雇用されている、雇用条件が明示または黙示されており、雇用または報酬のために熟練、非熟練、マニュアル作業、技術的、事務の業務をするために事業所または工業に雇用された成人(見習いを含む)である。なお、最高経営責任者、事業の執行、管理の業務のために雇用された者、工業の監督及び管理について責任を負う者は含まない。」とされています。

労働法は、その適用対象として、工場などの産業に従事する労働者を想定しており、経営(administrative)、管理(management)、監督(supervisory)の地位にある者は適用しないと規定していますが、これらの経営、管理、監督の職位体を具体的または明確に定義していません。たとえ経営者という地位であっても、その労働者の業務、義務、その他の要素を考慮して、労働法が適用される労働者か否かが判断されます。また、労働者側が、自身を労働者であるとして労働法に規定される権利を求めて訴訟に発展した場合、労働者側の権利が認められる傾向にあります。

2.労働者に該当しない者に対する規制

労働法の適用対象となる「労働者(worker)」に該当しない者の勤務条件などは、明示的か黙示的かを問わず、雇用契約書または任命書によって決定されます。

企業は、雇用を管理する独自の就業規則(Service rule)を設けることができますが、独自の就業規則は労働法に基づいて規定されている基準よりも労働者の不利にしてはならず、工場・事業所検査局(DIFE)の承認がなければ法的効力は発生しないと解されます。

 

7.フィリピン

1.フィリピン労働法における「労働者」の定義

フィリピンにおいては、Labor. Code of The Philippines(以下「フィリピン労働法」といいます。)という日本における労働法に位置付けられる法令が定められており、労働者の健康や福祉を守りつつ、使用者との間における公平な立場を保護するための条項が規定されています。

フィリピン労働法においては、労働者に位置付けられる“Employee”(より広義の“Worker”とは異なります。)が定義されており、「使用者に雇用されている者」と説明されています。本稿においては、使用者に雇用されている者を「労働者」といい、以下では労働者該当性について解説いたします。

2.フィリピン労働法における労働者該当性の判断

労働者に該当する場合は、フィリピン労働法における労働者保護の規定が適用されるため、労働者に該当するかどうかは、企業が事業運営のために人員を確保する場面において重要な事項といえます。この労働者該当性については、フィリピンの裁判所は一貫して “four-fold test” と呼ばれる基準を適用しており、以下の4つの要素を基準に判断しているとされています(Parayday v. Shogun Shipping Co., Inc., G.R. No. 204555, July 6, 2020)。

  1. 使用者が対象者の選考及び採用を行ったかどうか
  2. 使用者から賃金の支払いがあるかどうか
  3. 使用者が対象者を解雇する権限を有しているかどうか
  4. 使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか

これらのうち、④の「使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか」が最も重要な要素であるとされており、使用者が、仕事の結果だけではなく、結果を出すための手段や過程においても管理する権限を有していたかどうかが検討されます。

3.労働者該当性に関して企業が注意すべき点

企業が事業運営のため、人員を確保する際に、注意すべき事項について説明します。

労働者該当性は、先に述べた要素からも分かるように、形式的な面のみならず、実質的な面についても判断されます。仮に対象者との契約書において「労働者」という文言が使用されていない場合であっても、“four-fold test”の基準に照らして検討した場合に、労働者に該当すると判断される場合があります。労働者に当たらない典型例としては、取締役等の役員が挙げられますが、肩書きが役員である場合であっても、“four-fold test”に照らして労働者としての実態がある場合には、労働者に該当し、労働法の保護が適用される余地があることに注意が必要です。

 

8.ベトナム

ベトナムの現行労働法第2条によると、労働法の適用対象は、i) 全ての労働者、職業学習生、職業実習生、労使関係を持たずに働く者、ii) 使用者、iii) ベトナム国内で働く外国人労働者、iv) 労使関係に直接関係するその他の機関、組織、個人とされています。このうち、労働者とは、使用者のために合意に基づいて働き、賃金の支払いを受け、使用者によって管理、指揮、監督される者をいうとされています(労働法3条1項)。労働者の最低就労年齢は、原則として15歳以上とされています。 また、「職業学習生」とは、職場で職業訓練を行うために使用者が採用する個人のこと、「職業実習生」とは、職場で特定の職務上の地位に応じた業務の実習や専門的な実践を行うために使用者が採用する個人のことをいうとされ、いずれも原則として14歳以上でなければならず、職業学習、職業実習を受けるために適した健康状態を有していなければなりません。

また、労働法は「ベトナム国内で働く外国人労働者」も適用対象とされていますが、ベトナム人と異なり、年齢は18歳以上でなければならないこと、一定の専門・技術水準、技能、実務経験を有すること、一定の健康状態を有すること、原則として労働許可証を取得しなければないことなど、さまざまな条件が課されています。

 

9.インド

インドでは産業分野ごとや規制内容ごとに多くの連邦法及び州法が存在し、全ての労働関係法令において労働者該当性の判断基準が統一されているわけではありません。なかでも解雇規制など労使関係において重要な規制を設ける産業紛争法(Industrial Disputes Act,1947)の労働者該当性の判断基準について確認しておくことが重要となります。なお、産業紛争法及び後述する産業雇用就業規則法は、労使関係法典(未施行)に統廃合されますが、労働者(Workman)の判断基準は基本的に変わりません。

(1) 労働者該当性の判断について

産業紛争法では、「労働者(Workman)」とは、雇用条件が明示的であるか黙示的であるかを問わず、賃金又は報酬のために、手作業、非熟練労働、熟練労働、技術的、作業的、事務的、又は監督的業務を行うためにあらゆる産業で雇用される者(見習いを含む)と定義されています(産業紛争法2条(s))。また、同条は、監督的立場で雇用され月額INR1万以上を超える賃金を受け取る者で、かつ、職務の性質上、又は与えられた権限により、主に管理的な性質を持つ職務を遂行する者は、労働者に該当しないと規定しています。

また、裁判例では、賃金か報酬かにかかわらず、直接又は代理機関を通じて、雇用されている人を意味し、主人(Master)と使用人(Servant)の関係が存在し、主人は使用人が行う仕事を監督し、管理するものとし、使用人がどのような仕事をするかを指示するだけでなく、使用人がどのように行うかについても監督しなければならないとの判断基準を示しています。

したがって、インドにおいては労働者該当性の判断は、雇用契約書に記載される業務内容など形式的な肩書等だけでなく実際に問題となる従業員が行う業務や監督的立場の有無又は業務遂行についてどのように監督されるか等の事情を総合的に判断する必要があります。そして、当該従業員が使用者から業務遂行方法についてまで指示がなされている場合は労働者に該当する可能性が高くなります。

(2) 労働関係法令の適用範囲について

産業紛争法上の労働者(Workman)に該当する者については、産業紛争法の解雇規制が適用され、法令の規制に基づき解雇手続を進める必要があります。また、解雇について紛争が生じた場合には、調停官による調停や労働裁判といった産業紛争法で規定される手続に従うことになります。

また、産業雇用就業規則法では、産業紛争法の労働者と同じ判断基準を利用しているため前記労働者に該当する者の事業場については、産業雇用就業規則法に基づき就業規則を策定運用する必要があります。もっとも、産業紛争法の解雇規制は労働者が50人以上いる事業場に適用され、産業雇用就業規則法の就業規則に関する規定は一部の州を除き労働者が100人以上いる事業場に適用されます。

労働者に該当しないノン・ワークマン(Non-Workman)については、契約解除の方法等の労働条件については、州ごとの店舗施設法の規定に反しない限り労使間の雇用契約に従うことになります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されていて、フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、規定されています。

(1) 労働者該当性

「労働者」とは、雇用者の監督および指示の下で、UAE内で人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」と言います。)からライセンスを取得した企業の1つのために働くことを認められた自然人、「雇用者」とは、賃金を対価として1人以上の労働者を雇用する自然人または法人、と定義されています(連邦労働法第1条)。

連邦労働法第6条第1項は、労働行為並びに雇用者による労働者の採用及び雇用には、連邦労働法及びその施行規則に基づきMoHREからの就労許可(work permit)を取得しなければならない、と規定しています。このように、労働のためには就労許可が必要とされ、企業が労働者を雇用するには、労働者がUAE国民か外国人であるかを問わず、原則として、雇用者が就労許可を取得しなければなりません。 

ただし、就労許可の1種であるフリーランス許可については、特定の企業・団体をスポンサーとせず、有効な労働契約の締結を前提とせず、企業又は個人に対して、限定された期間、ある任務の遂行、または特定の業務について、その役務を提供することで報酬を得る独立した自営業を営む個人に対して発給されます(施行規則第6条)。フリーランスで役務を提供する自然人は、役務提供相手たる企業または個人の労働者ではありません(施行規則第6条及び8条)。

(2) 労働者保護規定からの除外

連邦労働法は、雇用契約の締結(第8条)、就労時間(第17~19条)、休祝日(第21、28条)、年次有給休暇(第29条)、出産等各種休業(第30~32条)、労働争議にかかる訴訟費用の免除(第55条)等の労働者を保護する規定を置いています。ただし、就労時間に関しては、労働者が、①取締役会の議長及びその構成員、②雇用者の権限を与えられている監督的地位を占める者、③その労働の性質上特別な条件を享受している艦艇乗組員及び船員、の場合には適用除外されます(施行規則第15条第4項)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

Newsletterの記載内容は2024年1月30日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 労働時間

労働時間は、原則として1日8時間、1週間に40時間を超えてはなりません。1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与える必要があります。

(2) 時間外労働

労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定において、時間外・休日労働について定め、行政官庁に届け出た場合には、法定の労働時間を超える時間外労働、法定の休日における休日労働が認められます。ただし、時間外労働時間には限度が設けられており、原則として1か月45時間、1年360時間を超えないものとしなければなりません。

(3) 時間外、休日、深夜の割増賃金

法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた場合、割増率25%以上の時間外労働手当を支払う必要があります。時間外労働が1か月60時間を超えた場合には、割増率50%以上の時間外労働手当を支払う必要があります。

法定休日(週1日)に労働者を勤務させた場合、割増率35%以上の休日労働手当を支払う必要があります。22時から5時までの間に労働者を勤務させた場合、割増率25%以上の深夜手当を支払う必要があります。

(4) 変形労働時間制

変形労働時間制は、労使協定または就業規則等において定めることにより、一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定の労働時間を超えない範囲内において、特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させることができます。「変形労働時間制」には、(1)1ヶ月単位、(2)1年単位、(3)1週間単位のものがあります。

(5) フレックスタイム制

フレックスタイム制は、就業規則等により制度を導入することを定めた上で、労使協定により、一定期間(1ヶ月以内)を平均し1週間当たりの労働時間が法定の労働時間を超えない範囲内において、その期間における総労働時間を定めた場合に、その範囲内で始業・終業時刻を労働者がそれぞれ自主的に決定することができる制度です。

出典:厚生労働省ホームページ 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html

 

2.タイ

(1) 就業時間

労働時間は、原則として1日8時間を超えてはなりません。ただし、就業日のいずれかの日の労働時間を8時間より短い時間とし、8時間に満たない残り時間を他の就業日の労働時間に加えることについて、会社と従業員は合意することができます。ただし、この場合でも、1日の労働時間は9時間を超えてはならないとされています。また、1週間の総労働時間は48時間を超えてはならないとされています(労働者保護法第23条)。

休憩時間は、1労働日の労働時間中、労働を開始してから連続労働時間が5時間を超えない間に、1時間以上付与する必要があります。この休憩時間は1時間より短い時間に分割することが可能ですが、1労働日における休憩時間が、合計1時間を下回ってはならないとされています。また、通常の労働時間に続く時間外労働時間が2時間以上ある場合は、時間外労働の開始前に、20分以上の休憩時間を付与する必要があります。ます(同法第27条)。

(2) 時間外労働

会社が従業員に対して時間外・休日労働を行わせる場合、原則として、従業員からその都度、個別の同意を得ることが必要となります。ただし、業務の性質・形態により連続して行うことが求められ、中止した場合に損害が生じる業務、緊急の業務、または省令により定められたその他の業務については、必要な範囲内で、会社は従業員に対して、時間外・休日労働を行わせることができます(同法第24条)。

時間外・休日労働の合計時間は、週36時間を超えてはならないとされています(同法第26条)。

(3) 時間外労働手当

労働日の通常の労働時間外に、従業員に時間外労働をさせた場合、会社は従業員に対して、労働した時間数に応じて、労働日の時間当たりの賃金の1.5倍以上の時間外労働手当を支払う必要があります(同法第61条)。労働日の時間当たりの賃金とは、月額賃金を30で割り、それを通常の労働日における一日の平均労働時間数で割った額とされています(月給で賃金を受領している場合)(同法第68条)。

(4) 休日労働手当

休日に賃金を受領する権利を有する従業員に、休日労働をさせた場合、会社は従業員に対して、労働日の時間当たりの賃金の1倍以上の休日労働手当を支払う必要があります。

休日に賃金を受領する権利を有しない従業員に、休日労働をさせた場合には、労働日の時間当たりの賃金の2倍以上の休日労働手当を支払う必要があります(同法第62条)。

(5) 休日時間外労働手当

休日の労働時間外に、従業員に休日時間外労働をさせた場合、会社は従業員に対して、労働日の時間当たりの賃金の3倍以上の休日時間外労働手当を支払う必要があります(同法第63条)。

 

3.マレーシア

1.就業時間

マレーシアでは、雇用法(Employment Act 1955)により、原則として、1日の労働時間の上限を8時間まで、1週間の労働時間の上限を45時間までと定めています。また、8時間未満の労働時間の日が生じる場合には雇用契約において同じ週の他の日について8時間以上の労働時間を設定することができるとされていますが、この場合でも1日9時間、1週間45時間を超える労働時間を設定することはできません。

さらに、雇用法は、休憩時間に関し、30分以上の休憩時間を挟むことなく5時間以上の勤務をさせてはならないと規定する他、全体の拘束時間に関し、休憩時間を含めた1日の拘束時間が10時間を超えてはらないと規定しています(雇用法60A条(1))。

 2. 時間外労働

マレーシアでは1980年雇用(時間外労働の制限)規則(Employment (Limitation of Overtime Work) Regulations 1980)により、月104時間に規制されています。また、原則として、1日12時間以上の労働は禁止されています(雇用法60A条(7))。

 3. 時間外労働手当

所定労働時間を超えて労働をした場合には、時間給の1.5倍の額の時間外労働手当を支給しなければなりません(雇用法60A条(3))。時間外労働手当の計算にあたっては、拘束時間が10時間を超えた場合にはその後の拘束時間が休憩時間を含めすべて時間外労働時間と見做されてしまうことに注意が必要です(雇用法60A条(1))、2条)。なお、時間外労働手当に関する規定は、原則として月給4,000リンギット超の従業員には適用されません。

 4. フレキシブル勤務形態の導入

マレーシアでは、書面で雇用主に対して就業時間・就業日・就業場所についてフレキシブルな勤務形態の導入を求める申請することができるとされています。雇用主は、申請から60日以内に承認又は拒否する必要があります。雇用主が申請を拒否する場合には、その理由を付す必要があります(雇用法60P条、60Q条)。

 

4.ミャンマー

1.就業時間

ミャンマーにおいては、業種ごとに労働時間について異なる規制が異なる法律において規定されています。すなわち、店舗、商業施設、公共娯楽施設における労働者に関しては店舗及び商業施設法、工場における労働者に関しては工場法、油田における労働者に関しては油田(労働及び福利厚生)法が規定しています。具体的には、店舗、商業施設又は公共娯楽施設における労働者の労働時間は、1 日 8 時間、かつ、1 週間 48 時間以内です(店舗及び商業施設法 11 条(a))。工場における労働者の労働時間は、原則として 1 週間で 44 時間以内、かつ、1 日 8 時間以内です(工場法 59 条及び 62 条)。但し、技術的理由により労働を継続しなければならない場合、週 48 時間まで認められます(工場法 59 条)。また、労働時間及び休憩時間の合計時間についても規制が存在します。工場の労働者の労働時間及び休憩時間の合計時間は、原則として 10 時間を超えることはできません(工場法 64 条)。 店舗、貿易施設、公共娯楽施設の労働者については 11 時間を超えることはできません(店舗及び 商業施設法 12 条(a))。

2. 時間外労働

店舗及び商業施設法の適用対象労働者について、時間外労働が一週間で 12 時間を超えることは認められません。但し、必要な場合、特別なケースとして、16 時間を超えない範囲で認められます。しかし、深夜 12 時を過ぎることはできません(店舗及び商業施 設法 11 条(b))。工場法においては時間外労働時間に関する規定は存在しません。

3. 時間外労働手当

使用者は、労働者を法律上規定された労働時間以上働かせた場合、時間外労働手当として、平均賃金の 2 倍以上の額を支払わなければなりません(工場法 73 条)。休日に働かせた場合も同様に平均賃金の 2 倍以上の額を支払わなければなりません(休暇及び休日法 3 条 2 項)。休日に時間外労働をさせた場合においても、割増率は変わらず、平均賃金の2 倍以上とされています。日本と異なり、深夜労働手当は存在しません。また、日本では管理監督者に対して時間外労働手当及び休日手当の支払いは不要ですが、休暇及び休日法においては適用除外事由にマネージャーは含まれていないため、休日手当はマネージャーに対しても支払う必要があると解されます。

 4. フレキシブル勤務形態の有無

ミャンマーでは、日本のような裁量労働時間制や変形労働時間制は法律上規定されていません。

 

5.メキシコ

(1) 就業時間

連邦労働法(Ley Fedral del Trabajo)は、1日当たりの最大労働時間を日勤(6時から20時)の場合8時間、夜勤(20時から翌6時)の場合7時間、日勤から夜勤にわたる場合7.5時間(ただし、20時以降の勤務時間は3.5時間未満に限られる。)と規定しています。また、休日は、6就業日ごとに1日設ける必要があると定められていることから、週の最大勤務時間は、それぞれ48時間、42時間、45時間となります。

なお、土曜日の午後を休業にするといった目的であれば、1週間の労働時間を分配することが認められており、雇入れ時に労働者と使用者との書面による合意がある場合において、例えば、日勤の場合において、月曜日から金曜日を就業日、土曜日と日曜日を休業日とした場合に、週の労働時間45時間とした場合、各就業日の労働時間を9時間とすることができます。

休憩時間については、連邦労働法にもとづけば、連続する勤務中に少なくとも30分付与する必要があり、この休憩時間に勤務場所から離れられない環境にある場合は、休憩時間も勤務時間に含めとされています。しかし、連邦労働法が定める30分の休息は、労働者に認められる最低限の権利であり、労務提供場所に留まるか否かに関わらず、勤務時間とすべきとの最高裁判所の判断が示されており、また、休憩時間を就業時間に含めないために必要となる概念「中断のある勤務(jornada discontinua)」が認められる場合として、休憩時間が最低1時間あり労働者の仕事を中断させるものであって、これにより労働者は当該時間を使用者の指揮命令を受けることなく自由に過ごすことができ、労務の提供が完全に停止される場合と判示されています。従って、1時間未満の休憩時間とする場合は、例え労働者がその時間を自由に享受することができる場合であっても、勤務時間に含めることが推奨されます。

(2) 時間外労働

時間外労働は1日当たり最大3時間、週に3日まで、週に3回9時間までと連邦労働法に規定されています。

(3) 時間外労働手当

1日当たりの勤務時間を超えた場合の割増賃金率は100%となり、超過時間については、通常の賃金と併せて通常の2倍の賃金を支払わなければなりません。万一、週の1日の時間外勤務が3時間を超えた場合や週の時間外勤務の時間が9時間を越えた場合、その超過時間に対しては通常の3倍の賃金を支払わなければなりません。

(4) 休日労働手当

前述の通り、休日は6就業日ごとに1日設けることが義務付けられており、その休日は、原則として日曜日としなければなりません。ただし、事業の性質上必要である場合は、使用者と労働者の合意によって休日を別に定めることができるとされており、日曜日の就業については少なくとも通常の給与の25%の額の手当を支給する必要があります。

もっとも、使用者と労働者とで合意した労働者の休日に労働させる場合は、割増賃金率は200%となり、通常の賃金と併せて通常の3倍の賃金を支払わなければなりません。

 

6.バングラデシュ

1.就業時間・休憩時間

バングラデシュ労働法では、1日当たりの最大労働時間は8時間、週当たりで48時間と規定されています。(労働法第100条、第102条、EPZ労働法第38条)。

休憩時間は、1日当たりの労働時間が5時間を超える労働者は、30分の休憩(食事休憩含む)、6時間を超える労働者は、1時間の休憩、8時間を超える労働者は1時間の休憩または30分の休憩を2回取得させなければならない(労働法第101条、EPZ労働法第40条)とされています。

女性の労働者は、本人の書面による同意がない限り、午後10時から午前6時までの時間帯に勤務させることはできません(労働法第109条)。EPZの女性労働者は、本人及び検査官の同意がない限り、午後8時から午前6時まで勤務させてはならないと規定されています(EPZ労働法第46条)。

  2. 時間外労働

時間外労働手当が支給される場合は、1日当たり10時間までの労働が認められ(労働法第100条、EPZ労働法第38条)、週当たり60時間までの労働が認められます。しかし、年間で週当たりの平均労働時間が56時間を超えてはいけません(労働法第102条、EPZ労働法第40条)。また、労働者の拘束時間は、政府による特別の承認がない限り、休憩を含めて10時間を超えてはならない(労働法第105条)とされております。

規定の労働時間を超過した場合の時間外労働手当は、基本給(+物価上昇手当+一時又は中間手当(ある場合))の2倍です(労働規則第102条(1)、EPZ労働法第45条)。

 3. 深夜労働

深夜労働に対する手当についての規定は定められておりません。夜間シフトが深夜12:00を過ぎる場合、週休は夜間シフトの終了時間から連続した24時間となります。また、翌日とは、シフトの終了時間から連続した24時間をいい、深夜を過ぎてからの勤務時間は前日の勤務時間として計算されます(労働法第106条、EPZ労働法第43条)。

 

7.フィリピン

1.フィリピン労働法における労働時間規制概要

フィリピンにおいては、Labor. Code of The Philippines(以下「フィリピン労働法」といいます。)という日本における労働法に位置付けられる法令が定められており、労働者の健康や福祉を守りつつ、使用者との間における公平な立場を保護する観点から労働時間に関する規制が設計されています。

原則として、フィリピン労働法においては、1日あたり8時間の労働時間が上限とされています。日本の労働時間規制の制度と同様に、この労働時間には休憩時間を含みません。フィリピン労働法においては、1日あたり1時間の休憩時間を労働者に与える必要があります。また、1週間あたりの労働時間は48時間が上限として設定されています。

なお、医療従事者などの緊急性の高い職業については、1日8時間以上の労働が例外的に認められる場合があります。

 2. フィリピン労働法における時間外労働に対する追加的な賃金支払義務

フィリピン労働法においては、使用者が労働者に時間外労働を求める場合は、追加的な賃金の支払いが必要となります。具体的には、1日8時間の労働時間を超過した場合は、超過した労働時間に対して25%増の金額が時間外労働の対価として追加的に支払われることになります。また、22時から翌6時までの夜間労働においては、10%の夜間割増賃金の支払いも必要となります。さらに、休日や祝日に労働した場合は、30%の休日割増賃金が支払われます。ただし、元日など法律に定められたRegular Holidayについては100%を割り増し、合計200%の賃金を支払う必要があります。フィリピンにおいては、毎年政府から休日や祝日のスケジュールが提示されますので、確認することも必要になってきます。

これらの追加的な支払義務は、労働者の過剰な労働を防ぐ目的で設計されているため、労働者に対して別日に休日を与えたからといって免除される義務ではないことに留意する必要があります。

  3. フィリピン労働法における時間外労働規制に違反した場合のリスク

それでは、労働者を雇う企業が万が一労働時間規制に違反した場合はどのようなリスクがあるのでしょうか。

割増賃金を含む賃金について、未払賃金がある場合には労働者への支払義務があり、重大な違反と認定された場合は、業務停止や取得したライセンスの取消しリスクが存在します。未払賃金がある場合は、労働者との間で紛争に発展するリスクがあります。紛争に発展した場合は、Department of Labor and Employment(以下「DOLE」といいます。)において紛争解決を試みることになり、時間や費用がかかるおそれがあります。

 4. DOLEが提示する時間外労働規制に関するガイドライン

DOLEは、時間外労働に関する詳細なガイドラインを提供しています。このガイドラインは、労働法の解釈に大きな影響を与えうるため、できる限りガイドラインに沿った運用実態を構築することが重要です。労働時間の計算方法、時間外手当の支払方法、休日及び夜間労働に関する指針などが具体例とともに提示されています。

 

8.ベトナム

(1) 労働時間に関する規定

① 日中の労働時間

使用者は、労働者に通知することを条件に、労働者に適用する労働時間について、下記の所定労働時間の範囲内において日または週単位で自由に規則を定めることができます。

  • 日単位で定める場合、1日あたり8時間、1週間あたり48時間以下
  • 週単位で定める場合、1日あたり10時間、1週間あたり48時間以下

但し、1935年の国際労働機関(ILO)第47号条約に基づき、ベトナムの現行労働法は、使用者に対し、週40時間労働とすることを奨励しています。

また、以下の特別な場合には、所定労働時間が短縮されます。

  • 妊娠している女性労働者が、過酷、有害、危険な業務、または非常に過酷、有害、危険な業務、または母性に悪影響を及ぼす可能性のある業務に従事する場合、賃金およびその他の手当を減額することなく、労働時間を1日あたり1時間短縮しなければなりません。この規定は、子供の出産後、生後12か月に達するまで適用されます。
  • 15歳未満の労働者の所定労働時間は、1日あたり4時間、1週間あたり20時間以下とし、15歳以上18歳未満の労働者の所定労働時間は、1日あたり8時間、1週間あたり40時間以下とされています。

② 深夜労働

22:00から翌日の6:00までの労働時間を深夜労働時間と定義され、通常、この深夜労働時間は、シフト制で労働者を使用する使用者に適用されます。そのため、深夜労働時間も所定労働時間とみなされますが、最低賃金やその他の処遇(労働時間中の休憩など)は、日中の労働時間よりも優遇されます。

しかし、すべての労働者に深夜労働時間制を適用できるわけではありません。使用者は、以下の労働者を深夜労働時間に勤務させることができません。

  • 高地、遠隔地、国境地域、島しょ地域に勤務する妊娠6か月目以降の女性労働者
  • 高地、遠隔地、国境地域、島しょ地域以外のその他の場所で勤務する妊娠7か月目以降の女性労働者
  • 生後12ヶ月未満の子を養育する女性労働者(当該女性労働者の同意がある場合を除きます)
  • 15歳未満の労働者
  • 15歳以上18歳未満の労働者(労働傷病兵社会省の大臣がリストアップした複数の特定職種および業務は除きます)
  • 労働能力が51%以上低下した障害者、重度または極めて重度の障害者(当該労働者の同意がある場合を除きます)

③ 特殊業務を行う労働者に適用される労働時間

特殊業務には、運輸(道路、鉄道、水上、航空)、海洋での石油・ガス探査・採掘、海洋業務、芸術、放射線・原子力工学の利用、高周波の応用、情報技術、技術の研究・応用、工業デザイン、潜水業務、鉱業業務、季節的生産業務および受注商品加工業務、24時間勤務を要する業務、自然災害・火災・疫病への対応、スポーツ・フィットネス関連業務、医薬品・生物学的製剤の製造業務、ガス配給管・ガス工事の運転・保守・修理業務が含まれています。

これらの特殊業務に従事する労働者に課される労働時間に関しては、労働傷病兵社会省および特定の管轄省が決定します。ただし、労働時間の決定に際し、労働時間中の休憩に関する規定の遵守は義務とされています。

(2) 時間外労働に関する規定

法律、労働協約、または就業規則に規定されている所定労働時間以外に行われる労働を時間外労働といい、使用者は、労働者に対して時間外労働を命じる場合には、労働者の同意を得なければなりません。ただし、深夜労働時間に勤務させることが禁止されている労働者に時間外労働をさせることは禁止されています。

労働者に適用される時間外労働の上限は以下のとおりです。

i) 原則として、年間200時間までです。また、1か月あたり40時間を超えてはならず、所定労働時間と時間外労働時間の合計が1日あたり12時間を超えてはならないとされています。

ii) 以下の場合は、年間300時間までとされていますが、使用者は当局に書面で届け出ることが義務付けられています。また、i)と同様に、1か月あたり40時間を超えてはならず、所定労働時間と時間外労働時間の合計が1日あたり12時間を超えてはならないとされています。

  • 繊維、衣料、履物、電気、電子製品の製造および加工、農林水産物の加工、製塩
  • 発電および電力供給、電気通信、製油所操業、給水および排水
  • その時点で労働市場に出回っていない高度な技能を持つ労働者を必要とする仕事
  • 季節的な理由、材料や製品の入手可能性、または予期せぬ原因、悪天候、自然災害、火災、敵対行為、電力や原材料の不足、生産ラインの技術的な問題により、延期できない緊急の仕事
  • その他政府の定める場合

iii) 以下の場合は、時間外労働の上限はありません。また、原則として、労働者の同意を得る必要もありません。

  • 国家安全保障または国防のため、法律に定められた徴兵制度の命令を執行する場合
  • 自然災害、火災、伝染病、災害の予防およびそれらからの復旧において、特定の組織または個人の生命や財産を保護するために必要な業務を遂行する場合(ただし、その業務が労働安全衛生法に規定される労働者の健康や生命を脅かす場合を除く)。
 

9.インド

(1) 概要

 インドでは、就業時間や時間外労働等に関する規制は、それぞれの州の店舗・施設法において規定されています。

 なお、2020年に就業時間や時間外労働を定めた連邦法である労働基準法典(THE OCCUPATIONAL SAFETY, HEALTH AND WORKING CONDITIONS CODE, 2020)が公布されています。労働基準法典は未施行ですが、施行後は当該法典の規定に従うことになります。

(2) デリーの規制

デリーの就業時間や時間外労働に関する規制は、1954年デリー店舗及び施設法において規定されています。

1.就業時間について

いかなる労働者も施設の業務に関して1日に9時間を超えて、又は週に48時間を超えて働くことは許されず、使用者は当該就業時間の上限規定に合わせて1日の労働時間を固定しなければなりません(デリー店舗及び施設法8条)。労働時間は、連続労働時間が5時間を超えないように定めなければならず、また、いかなる労働者も、少なくとも30分の休憩又は食事の間隔を置かず5時間を超えて労働することを要求され、又は許可されてはなりません(デリー店舗及び施設法10条)。また、休憩又は食事の時間を含めて商業施設では10時間30分を超えないように労働時間を定めなければなりません(デリー店舗及び施設法11条)。

2. 時間外労働について

労働者は、上記時間を超えて働くことを許可又は要求される場合がありますが、週に 54 時間を超えないようにする必要があります(デリー店舗及び施設法8条)。また、年間の時間外労働の合計時間は150時間を超えることはできません(同条)。時間外労働に対しては、時間単位で計算される通常の賃金の2倍の賃金を支払う必要があります(同条)。

(3) その他の州の規制

 その他の主要な州の規制は以下の通りです。

就業時間(上限) 休憩 時間外労働(上限) 時間外手当
デリー 1日9時間
週48時間
休憩を含めて
10時間30分まで
少なくとも30分間の休憩なしに5時間連続労働させることができない 通常の労働時間を含めて週54時間まで
1年間で150時間を超えることができない
通常の賃金の2倍
ハリアナ州(グルガオン) 1日9時間
週48時間
休憩を含めて10時間まで
少なくとも30分間の休憩なしに5時間連続労働させることができない 四半期に50時間を超えることができない
通常の賃金の2倍
カルナータカ州(バンガロール) 1日9時間
週48時間
休憩を含めて12時間まで
少なくとも1時間の休憩なしに5時間連続労働させることができない 時間外労働を含めて労働時間が1日10時間を超えることができない
3カ月で50時間を超えることができない
通常の賃金の2倍
タミルナドゥ州(チェンナイ) 1日8時間
週48時間
休憩を含めて12時間まで
少なくとも1時間の休憩なしに4時間連続労働させることができない 時間外労働を含めて労働時間が1日10時間を超えることができない
通常の労働時間を含めて週54時間まで
通常の賃金の2倍
マハラシュトラ州(ムンバイ) 1日9時間
週48時間
休憩を含めて10時間30分まで
少なくとも30分間の休憩なしに5時間連続労働させることができない 時間外労働を含めて1日の拘束時間が12時間を超えることはできない
3カ月で125時間を超えることができない
通常の賃金の2倍
 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されています。

連邦政府機関は、月曜から木曜日は午前7時30分から午後3時30分まで、金曜日は正午までの週4.5日の労働とされています。

フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、以下の通り規定されています。

(1) 労働時間

労働時間は、1日8時間または週48時間と定められています(連邦労働法第17条第1項)。1時間以上の休憩を挟むことなく、連続5時間以上の労働は認められません(連邦労働法第18条)。

労働時間の規定は、特定の産業や労働者の種類に応じ、内閣の決定によって伸長・短縮することができ(連邦労働法第17条第2項)、この規定の適用から除外される職種は施行規則で定められています。

なお、ムスリムが断食をするラマダーン月には、通常労働時間は、2時間短縮されます(連邦労働法第17条第4項、施行規則第15条第2項)。

(2) 時間外労働

フルタイム勤務従業員以外は、書面の同意がない限り、時間外労働を求めることはできません(連邦労働法第17条第5項)。

時間外労働は、1日当たり2時間を限度とし、3週毎の合計労働時間は144時間を超えてはなりません(連邦労働法第19条第1項)。ただし、深刻な損失や事故の発生を防止するために必要とされる場合はその限りではありません(施行規則第15条第3項)。

(3) 時間外労働手当

時間外労働に対しては、通常勤務時間の時給に25%以上を上乗せした手当が支払われ(連邦労働法第19条第2項)、午後10時から午前4時までの間の時間外労働については、50%以上を上乗せする必要がありますが、シフト制で勤務する労働者についてはその限りではありません(連邦労働法第19条第3項)。

休日労働に関しては、代休を取得するか、通常勤務時間の時給に50%以上を上乗せした賃金を得ることができます(連邦労働法第19条第4項)。ただし、日雇い労働者を除き、2日以上連続して休日労働を求めることはできません(連邦労働法第19条第5項)。

発行

TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://india.tny-legal.com

Newsletterの記載内容は2023年12月26日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 最低賃金制度

日本の最低賃金額は、最低賃金法に基づき定められています。最低賃金には、47都道府県毎に定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業について定められる「特定最低賃金」の2種類が存在します。

「地域別最低賃金」は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して適用されます(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます)。

「特定最低賃金」は、関係労使の申出に基づき、最低賃金審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。特定地域内の特定の産業の基幹的労働者に適用されます(18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません)。

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。賞与や各種割増賃金、通勤手当等は最低賃金の対象とはなりません。

(2) 最低賃金額

 各都道府県の地域別最低賃金額は、2023年10月以降、改定されています。令和5年度の地域別最低賃金額については、厚生労働省のホームページ(地域別最低賃金の全国一覧)をご参照下さい。

(3) 罰則等

最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。また、使用者が最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません(最低賃金法第4条)。

労働者に対して地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない使用者には、罰則として、50万円以下の罰金が科せられます(最低賃金法第40条)。

労働者に対して特定最低賃金額以上の賃金額を支払わない使用者には、罰則として、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第120条)。

最低賃金制度の概要」(厚生労働省)をもとに作成

 

2.タイ

(1) 最低賃金額

 タイの最低賃金額は、労働省の賃金委員会が内閣の承認を得て決定します。2022年10月1日に発効した、最低賃金額に関する賃金委員会通達11号(Wage Committee Announcement on Minimum Wage Rate (No.11))により、地域毎の最低賃金額が以下のとおり定められています。バンコクの最低賃金額は、353THB/日となっています。

(2) 賃金の定義

 賃金とは、雇用契約に基づき使用者と労働者との間で合意された、通常の労働時間内の労働の対価として支払われる金銭をいいます(労働者保護法第5条)。使用者が労働者に対して支払う賃金は、定められた最低賃金を下回ってはならないとされています(同法第90条1項)。

(3)罰則

 労働者に対して最低賃金額を支払わない使用者には、罰則として、6ヶ月以下の禁錮もしくは10万バーツ以下の罰金、またはその両方が科せられます(同法第144条1項1号)。

 

3.マレーシア

(1) 最低賃金額及び賃金の定義

マレーシアでは、2022年最低賃金令 (Minimum Wages Order 2022)により、最低賃金が月額1,500リンギットと定められています。また、日給、時給については以下のとおり定められています。同令が施行される以前は、主要都市及び地域都市とそれ以外と地域で最低賃金額が異なっていましたが、同令施行により一律の最低賃金額が定められました。

雇用法上、「賃金」とは、「雇用契約に基づき行われた労働に対して従業員に支払われる基本賃金およびその他すべての支払い」と定義されており、住居費、手当、チップ、賞与等は含まれません。

(2) 適用除外

2022年最低賃金令は、雇用法2条(1)、サバ州労働条例(Sabah Labour Ordinance) 2 条(1)、およびサラワク州労働条例(Sarawak Labour Ordinance) 2 条(1)に定義されている家事使用人には適用されないとされています。

(3)  罰則

最低賃金制度に違反した使用者に対しては、初犯の場合は労働者1人当たりRM10,000以下の罰金が科され、再犯の場合には RM20,000 以下の罰金又は 5 年以下の禁錮刑が科されることとなります。

 

4.ミャンマー

(1) 最低賃金額

2023年10月9日に国家最低賃金決定委員会が最低賃金決定に関する通知 (国家最低賃金決定委員会2023年第2号通知。以下、「2号通知」という。)を発布しました。これにより、当該通知日より1日8時間で、追加手当1,000MMKを含め、5,800MMKという最低賃金が直ちに有効となりました。従来は、2018年5月14日に国家委員会より日給4,800MMKとされていたため約5年ぶりの改定となり、約2割上昇しました。

  1. 最低賃金の適用対象及び例外

最低賃金法は原則としていかなる事業において働く労働者に対しても適用されます。但し、家族による事業における家族、政府又は地方政府の公務員、船員は対象外です。また、10名未満の労働者の小規模事業にも適用されません。

最低賃金額未満の支払でも認められる例外的場合として、試用期間以前の必要な技術研修の期間については、3か月以内であれば、最低賃金額の50%を下回らない額を支払うことも認められます。また、試用期間中においては、3か月以内であれば、最低賃金額の75%を下回らない額を支払うことも認められます。

  1.  罰則及び賃金の定義

最低賃金法に基づき定められた最低賃金を支払わない使用者は、罰則として、1年以下の禁錮又は50万チャット以下の罰金、若しくはその両方が科せられます。なお、「賃金」の定義は、基本給与に加え、時間外労働手当及び賞与が含まれる旨規定されています。他方、交通手当、住居手当、食事手当、医療手当、チップ等は含まれません。

 

5.メキシコ

(1) 最低賃金額

最低賃金は、労働者が一日の労務の提供に対して現金で受け取る最低額と定義されており、労働者、企業、政府の代表で構成される国家最低賃金委員会(Comisión Nacional de los Salarios Mínimos、通称CONASAMI)が、国内景気や労働者の家庭の生計費、労働市場の状況や賃金水準等の調査報告書をもとに毎年設定しています。最低賃金は、一般最低賃金(salarios mínimos generales)と61の特定の専門職に適用される最低賃金(salarios mínimos profesionales)とがあり、適用する地域を分けて設定することもできることから、2019年1月1日より、北部国境地域(Zona Libre de la Frontera Norte)とその他の地域に分けて、最低賃金額が定められています。設定された最低賃金額は、毎年12月31日までに連邦政府官報にて公表し、翌年の1月1日から適用されます。

2023年の一般最低賃金額は、北部国境地域は日額312.41ペソ、その他の地域は日額207.44ペソです。

北部国境地域

バハ・カリフォルニア州:

エンセナダ、プラヤス・デ・ロサリト、メヒカリ、テカテ、ティファナ・サンキンティン、サンフェリペ

ソノラ州:

サン・ルイス・リオ・コロラド、プエルト・ペニャスコ、ヘネラル・プルタルコ・エリアス・カジェス、カボルカ、アルタル、サリック、ノガレス、サンタ・クルス、カナネア、ナコ、アグア・プリエタ

チワワ州:

ハノス、アセンシオン、フアレス、プラセディス・G・ゲレロ、グアダ・ルペ、コヤメ・デル・ソトル、オヒナガ、マヌエル・ベナビデス

コアウイラ州:

オカンポ、アクニャ、サラゴサ、ヒメネス、ピエドラス・ネグラ、ナバ、ゲレロ、イダルゴ

ヌエボレオン州:

アナウワク

タマウリパス州:

ヌエボ・ラレド、ゲレロ、ミエル、ミゲル・アレマン、カマルゴ、グスタボ・ディエス・オルダス、リオ・ブラボ、バジェ・エルモソ、レイノサ、マタモロス

(2) 罰則

最低賃金以下の賃金を支払った場合には、次の罰則が科されます。

  1. 最低賃金額と実際に支払った額の差が対応する地域の一般最低賃金の1カ月の額を超えない場合、6カ月から3年の懲役及びUMAの800倍の額の罰金
  2. 最低賃金額と実際に支払った額の差がUMAの30倍を超え対応する地域の3カ月分の一般最低賃金額未満である場合、6カ月から3年の懲役及びUMAの1600倍の額の罰金
  3. 最低賃金額と実際に支払った額の差が対応する地域の一般最低賃金の3カ月を超える場合、6カ月から4年の懲役と、UMAの3200倍の額の罰金

なお、UMAとは、Unidad de Medida y Actualizaciónの略であり、罰金や制裁金、社会保障費の支払い額算出など様々に使用される単位であり、2023年度(2023年2月~2024年1月)の日額は103.74ペソです。

 

6.バングラデシュ

  1. バングラデシュにおける最低賃金の概要

 バングラデシュでは、「既製服」、「皮革産業」、「陸路輸送」、「プラスチック業」、「テキスタイル」など、産業ごとに最低賃金額が定められており、また、EPZ入居企業(縫製業)の労働者に適用される最低賃金額が定められています。一方、全ての産業にて最低賃金額が定められているわけではなく、高度な技術職、専門職、事務などオフィスワークの労働者を対象とする最低賃金額は定められていません。

  1. 最低賃金の改訂方法及び罰則

 最低賃金の改訂は、2006年バングラデシュ労働法 (以下「労働法」といいます) 第11章の規定に従い、最低賃金委員会の枠組みを通して行われます (労働法、138条乃至149条)。政府が最低賃金を見直すべきと判断した場合、最低賃金委員会に見直しを指示します。指示を受けた最低賃金委員会は、6か月以内に提案を策定し、政府がその提案を官報にて発表し、必要に応じて見直した後、政府の承認を得て定められます。なお、政府が、提案を官報にて通知した後に、使用者や労働者にとって不公平な内容であると認めた場合は、45日以内に最低賃金委員会に是正を指示することができます。是正が必要な場合、最低賃金委員会はその提案を再検討し、政府に再提出します。是正された提案を受領した後、政府は、再び官報を通じて最低賃金率を通知します。

 最低賃金委員会は、最低賃金額を検討する際、生活費、生活水準、生産コスト、生産性、製品の価格、インフレ、労働の性質、リスク、事業能力、国その他関連する地域の社会経済状況、その他関連する要素を考慮します(労働法140条)。最低賃金委員会は、これらの要素に変更が生じ、提案を見直す必要がある場合は、最低賃金額を見直して政府に提言しなければなりませんが、提言の後、1年未満または3年を過ぎた場合は除きます(労働法142条)。また、政府は、各分野について、約5年ごとに定期的な見直しを行うと定められています(労働法139条)。

 労働法では、最低賃金の違反に対する罰則を設けています。使用者が支払う賃金が最低賃金を下回った場合、1年以下の禁固、5,000タカ以下の罰金、またはその両方が科せられます。同時に、労働裁判所は、最低賃金が守られなかった場合、給与差額の支払いを命じることができます。(労働法149条)。

  1. 最低賃金の額

 2023年11月11日、既製服産業の最低賃金に関する提案が官報にて発表され、大きな注目を集めました。同最低賃金は、2023年12月1日から施行されます。最も低い階級の労働者の最低賃金は12,500TKとなり、2018年の8,000TKから56%引き上げられました。

 以下の表は、各分野における最低賃金のうち、発効年、最高額の階級と最低額の階級(ただし、見習いは除く)を抜粋したものです。

DIFE(工場・事業所監督局)のウェブサイトより抜粋

 

7.フィリピン

  1. 最低賃金法令の概要

 フィリピンでは、労働者の権利と福祉を保護するために、“The Republic Act No. 6727 ”通称” Minimum Wage Law”(以下「フィリピン最低賃金法」といいます。)が制定されています。

 フィリピンにおける最低賃金に関する制度は、およそ日本における制度と類似しているといえます。

 フィリピン最低賃金法は、フィリピンの全ての業種および雇用者に適用され、フィリピンの各エリアによって異なる金額が設定されています。また、最低賃金の決定は、労働市場の状況、物価の変動、および地域経済の能力を考慮して、“Regional Tripartite Wages and Productivity Boards”によって行われます。特徴としては、最低賃金は、エリア毎にさらに”Non -Agriculture“, “Agriculture-Plantation”, and “Agriculture-Non Plantation”に分けられて記載されていることが挙げられます。

  1. 最低賃金に関する企業のコンプライアンス

 フィリピンの企業は、適用される地域の最低賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。労働者が所定の労働時間を超えて働いた場合の残業手当も、最低賃金に基づいて計算されていることが必要になるため注意が必要です。

  1. 主要エリアの最低賃金

 フィリピンでは、地域によって最低賃金が異なります。例えば、首都圏であるメトロマニラのエリアでは、最低賃金が他の地域に比べて高く設定されている傾向が見られます。一方、農村地域や発展途上地域では、相対的に低い最低賃金が設定されています。これらの差は、各地域の生活費や経済活動の差を反映しています。

 各エリアの最低賃金は“Department of Labor and Employment”通称“DOLE”と呼ばれるフィリピンの政府機関がウェブサイトにて提示しています。

Summary of Current Regional Daily Minimum Wage Rates by Region, Non-Agriculture, and Agriculture

(最終閲覧:2023年11月28日)

  1. フィリピン最低賃金法違反に関する罰則とリスク

 フィリピン最低賃金法に違反した企業は、罰金や懲役刑が科される場合があります。具体的には、2万5,000ペソ以上10万ペソ以下の罰金、2年以上4年以下の懲役、または罰金と懲役の両方が科されます。なお、この法令に関して有罪判決を受けた者は、保護観察に付されることがないため注意が必要です。

 また、企業は、労働者への未払給付金がある場合は、当該未払給付金の2倍に相当する額の支払いを命じられる場合があり、さらには企業活動の停止命令が下されるリスクもあります。

 

8.ベトナム

(1) 最低賃金の定義

 ベトナム労働法91条1項では、最低賃金とは「通常の労働条件で最も単純な仕事をする労働者の最低賃金であり、自分自身とその家族を養うために十分であり、かつ社会経済の発展にふさわしいものでなければならない」と規定されています。ベトナムでは、全国を4つの地域に区分し、それぞれの地域について、月単位及び時間単位の最低賃金が定められています。

 なお、1つの企業がベトナム国内に複数の拠点を有している場合、拠点ごとにその地域の最低賃金が適用されます。

(2) 2023年12月時点の最低賃金

 2023年12月時点の各地域の最低賃金額は次の表のとおりです。

地域
月単位の法定最低賃金 時間単位の法定最低賃金
ベトナムドン(VND) 米ドル(USD) ベトナムドン(VND)
米ドル(USD)
地域Ⅰ 4,680,000 193 22,500 0.93
地域Ⅱ 4,160,000 172 20,000 0.82
地域Ⅲ 3,640,000 150 17,500 0.72
地域Ⅳ 3,250,000 134 15,600 0.64

※2023年11月17日時点の為替レート1USD=24,250VNDで計算しています。

地域Ⅰ:ハノイ市、ホーチミン市、ハイフォン市、ドンナイ省の一部など

地域Ⅱ:ダナン市、バクニン省など

地域Ⅲ:ハナム省など

地域Ⅳ:地域Ⅰ〜Ⅲには属さないその他の地域

 

9.インド

(1) 概要

 インドでは、最低賃金の決定方法等に関しては、1948年最低賃金法(Minimum Wages Act,1948)で規定されています。そして、1948年最低賃金法は、各州の州政府に最低賃金額を定める権原を委譲しており、同法に基づきそれぞれの州が物価の変動やそれぞれの産業毎の労働者の技能レベル等を考慮してOrder等により最低賃金額を定めることになります。したがって、インドでは最低賃金はそれぞれの州及び職種ごとに設定されています。

 なお、1948年最低賃金法を含め、賃金に関する法令(賃金支払法、賞与支払法、均等賃金法)は2019年に発布された賃金法典(Code on Wages 2019)に統合されています。同法典の最低賃金に関する規定は未施行です。

(2) 主要州の最低賃金

 主要州の最低賃金(月額)は以下の通りです。

非熟練労働者 熟練労働者 高技能労働者
デリー INR17,494 INR21,215 NA
ハリアナ州(グルガオン) INR10,532.84 INR12,802.69 INR13,442.82
カルナータカ州(バンガロール) INR14,424.64 INR16,858.07 INR18,260.20
タミルナドゥ州(チェンナイ)
ウッタル・プラデッシュ州(ノイダ) INR10,275 INR12,661 NA
マハラシュトラ州(ムンバイ) INR12,669 INR14,310 NA

*タミルナドゥ州は、より細かいカテゴリーに分類されており、全ての技能レベル含めてINR10,362~INR11,0472が最低賃金となっています。

*2023年11月28日現在、1INRはおよそ1.78円です。

(3) 罰則

 1948年最低賃金法では、違反した場合はINR500以下の罰金を科すと定めています。もっとも、2019年賃金法典では、違反した場合は、INR20,000以下の罰金を科すと定めています。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

 アラブ首長国連邦(UAE)では、最低賃金が定められていません。私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)は、内閣が、所管大臣の提案に基づき、労働者またはその種別のいかなるものについても、最低賃金を決定する決議をすることができると規定します(連邦労働法第27条)が、具体的な最低賃金の決定は存在しません。

ただし、賃金は、被用者の基本的必要を満たすものでなければならないとされています。連邦労働法では、労働の対価として支払われる賃金はその労務を履行できるものでなければならず(第26条第1項)、雇用契約書で特定し(第22条第1項)、人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation)の承認した賃金保護システムを通じて支払うものとされています(連邦労働法の実施に関する2022年内閣決定第1号 第16条1項b号)。

発行

TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://india.tny-legal.com

Newsletterの記載内容は2023年11月29日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 労働紛争解決手段について

日本において、労働紛争が発生した場合、同紛争の解決のためには、主に、裁判外での交渉(行政機関によるあっせん手続きを含む)、労働審判、民事訴訟の手続きを採ることが考えられます。

 

(2) 各手続きの概要 ア 行政機関によるあっせん手続きについて

紛争調整委員1名により実施され、事業主と労働者の双方が話し合いによる合意を目指します。もっとも、同話し合いはあくまで当事者の任意によるものであり、片方当事者が不参加の場合には、同手続きは終了することになります。

仮に双方で合意がなされた場合、同合意は法的には民事上の和解契約と位置付けられ、同合意のみを理由に強制執行等を行うことはできません。

 

  1. 労働審判について

労働審判とは、労働審判委員会(労働審判官(裁判官)1名、労働審判員(労使)2 名)により実施され、事業主と労働者の双方が、主張・立証をしつつも、話合いによる合意を目指して、3 回以内の期日で終結することを想定した手続きです。民事訴訟に比べて、早期かつ柔軟な解決ができるため、労働者や事業者双方にとって重要な手続きであるといえます。 また、合意内容は裁判上の和解と同じ効力を持ち、強制執行を行うことも可能です。

労働審判手続中に調停が成立しない場合には、労働審判が下されることになり、当事者のどちらかから異議が出される場合には訴訟手続きに移行します。

 

  1. 民事訴訟について

労働紛争を最終的に解決する手段として、民事訴訟を提起することが考えられます。

行政機関によるあっせん手続きや労働審判と異なり、両当事者の主張・立証を踏まえて、裁判官による最終的な結論が出されることが大きな特徴といえます。

民事訴訟においては、両当事者が期日までに、準備書面や反論の書面を提出し、場合によっては証人尋問を行うこともあるため、紛争解決が長期化するケースも多いです。

なお、民事訴訟に移行した後であっても、必ずしも判決まで行われるわけではなく、裁判の進行中に裁判から和解勧告を受けることもあります。そのため、この段階に至った場合であっても、当事者間で和解を行うことは可能です。

 

(3) その他の手続きについて

その他、労働紛争においては、仮処分の申し立てが考えられます。具体例として、労働者から従業員として賃金を受けとることができる地位の申し立てを行うこと、事業主からは元従業員が、競業避止義務に違反して競業行為を行っている場合に、同競業行為を止めるよう仮処分の申し立てを行うこと等が考えられます。

また、労働組合による団体交渉手続きも考えられます。労働組合による団体交渉は、労働者の労働条件の向上を目指して行われることが多く、事業主が正当な理由なく団体交渉を拒否、または不誠実な対応をした

場合には、違法とされます。

 

 

2.タイ

(1) 労働紛争解決手段について

タイの労働紛争解決手段のうち、労働者が労働問題に関する申立てを行う手段としては、労働監督官への申立て、労働関係委員会への申立て、労働裁判所への提訴の 3 つが考えられます。

 

(2) 各手続きの概要

  1. 労働監督官への申立て

使用者が労働者保護法に定める金銭の受領にかかる権利について違反または履行しなかった場合において、労働者は、労働者の就業場所または使用者の居住地の労働監督官に対し、申し立てを行うことができます。同申立てが行われた後、労働監督官による事実調査が行われ、労働者に金銭を受領する権利があると判断した場合には、監督官は使用者に対し、当該金銭を支払うよう命じることになります。 使用者が同命令に不服がある場合には、命令を知った日から 30 日以内に労働裁判所に訴訟を提起することが可能です。

 

  1. 労働関係委員会への申立て

使用者が労働者の労働組合員としての活動を不当に妨害した場合において、労働者は当該行為があった日から 60 日以内に労働関係委員会に申し立てを行うことができます。当該申立てを行った後、労働関係委員会は審理を行い、使用者に命令を下すことになります。

同命令に対し、不服がある場合には、同委員会に異議申し立てを行うことができ、同異議に対する委員会の決定に不服がある場合に、労働裁判所への異議申し立てを行うことが可能です。

 

  1. 労働裁判所への提訴

タイでは、一般民事を取り扱う裁判所は別に労働裁判所が設置されています。タイの労働裁判は、裁判官

と補助官によって実施されます。補助官とは、裁判官とともに職務を遂行するため特別に選任された者であり、日本の労働審判員と似た制度です。補助官は使用者側、従業員側に区別され、必ず同数とされます。

したがって、タイの労働裁判は、通常、裁判官 1 名、補助官 2 名(使用者側 1 名、従業員側 1 名)合計 3 名という構成で実施されることが一般的です。訴訟提起後、第 1 回期日では、和解の機会が持たれることが通常であり、和解がまとまりそうであれば、その後、第 3 回期日までは、和解期日として設定されることが一般的です。

なお、タイでは、労働裁判所への提起が無料であり、かつ法律の知識が無い者に対しては、裁判所の職員が訴状作成の手助けをしてくれるため、労働者にとっては労働裁判を提起することへのハードルは低く、使用者にとっては訴訟を提起されるリスクは日本に比べて高いといえます。

 

(3)その他の手段

その他の労働者が取りうる手段として、団体交渉があります。

同手続きは、労働者または使用者が相手方に対し、要求書を提出することから開始します。その後、3 日以内に交渉が合意に達しなかった場合には、労働争議が発生したとみなされ、労働争議調停官への通知を行います。労働争議調停官は 5 日以内に合意のために調停を行い、調停が成立しない場合には、労働争議仲裁

やストライキやロックアウト等の争議行為に移行することになります。

 

 

3.マレーシア

マレーシアにおいて、労務紛争を扱う手続としては、主に、1955 年雇用法(Employment Act 1955)に基づく労働裁判所(Labour Court)、1967 年労使関係法(Industrial Relations Act 1967)に基づく人的資源省労使関係局の斡旋及び産業裁判所(Industrial Court)があります。

 

(1) 労働裁判所

労働裁判所は、雇用法に基づき、労働者に対する賃金の支払い等を取り扱う、人的資源省労働局が所管する準司法機関です(雇用法 69 条)。労働者は、労働裁判所において、職場における差別に関する請求を行うこともできます(同法 69F 条)。労働裁判所では、労働局担当官が裁判官の役割を果たします。労働裁判所は、労働組合による苦情処理制度を持たない労働者の権利を保護する役割を担っています。

 

(2) 人的資源省労使関係事務局の斡旋

使用者又は労働組合は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、解決されない場合には労使関係事務局長に報告することができます(労使関係法 18 条(1))。また、労使関係局長は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、公共の利益のために必要と判断した場合には、紛争解決のための必要な手続きをとることができます(同法 18 条(3))。労働関係局長は、紛争が解決できないと思料する場合は、人的資源省相に通知します(同法 18 条(5))。人的資源省相は、適切であると思料する場合には、案件を産業裁判所に付託します(同法 20 条(3))。

 

(3) 産業裁判所

産業裁判所は、労使関係法 21 条に基づいて設置された、労使間の紛争、労働組合と使用者間の紛争及び同法に基づく権利義務関係違反に関する紛争等の労働紛争を扱う特別裁判所です。産業裁判所の審理においては、個別の案件ごとに、裁判官と労使委員 2 名で構成されます(同法 22 条(1))。

産業裁判所は、下級裁判所としての機能を有しているため、産業裁判所の判決に不服の場合には、高等裁

判所に上訴することができます(同法 33A 条(1))。

 

 

4.ミャンマー

(1) 労働紛争解決法の概要

労働紛争法(The Trade Disputes Act, 1929)を改定する形で、2012 年 3 月 28 日に労働紛争解決法が制定されました。その後、2019 年 6 月 3 日、労働紛争解決法第 2 次改正法(以下、「改正法」という。)が成立しました。同法は労働紛争の解決方法や職場調整委員会などについて規定しています。

 

(2) 労働紛争解決の流れ

30 人以上の労働者がいる事業所の場合、使用者は職場調整委員会を設置しなければなりません。職場調整委員会の構成は労働組合の有無によって異なります。

労働組合が設置されている場合には、組合から 3 名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要があります。

労働組合が設置されていない場合、労働者が選出した労働者代表 3 名及び使用者代表 3 名を選出する必要があります。

労働者が、30 名未満であるために職場調整委員会が設置されていない場合、使用者が労働者の苦情について対応しなければなりません。労働者が、使用者に対し、苦情を申し立てた場合、使用者は 7 日以内に解決しなければなりません。

職場調整委員会において解決できない場合、紛争解決の流れは以下のとおりです(図1参照)。

 

労働紛争解決法に基づく団体紛争解決の流れ

 

職場調整委員会設置者:使用者

設置単位:30 人以上の労働者がいる事業場

調停機関設置者:管区または州政府

設置単位:管区または州内のタウンシップ

紛争解決仲裁機関設置者:労働省

設置単位:管区または州

紛争解決仲裁評議会設置者:労働省設置単位:国

 

当事者は、本法に基づく機関において審理中であっても、刑事または民事裁判を提起することを妨げられま

せん。

 

 

5.メキシコ

(1) 概要

メキシコの労働紛争は、原則、連邦労働調停登録センター(Centro Federal de Conciliación y

Registro Laboral; CFCRL)または州の調停センターによる調停を行い、それでも解決できない場合に、労働裁判所にて審判を図り解決します。ただし、以下に関連する事案は、調停を経ることなく、労働裁判所での裁判による解決を図ることとなります。

‧ 妊娠を理由とした雇用や就業に関する差別、性別、性的指向、人種、宗教、民族的出身等による差別や嫌がらせ

‧ 労働者が死亡した場合の受益者の指名

‧ 労災、出産、病気、障害、育児に関する社会保障の利益

‧ 団結の自由、団体交渉権の保障、労働者の人身売買や強制労働、児童労働に関連する基本的権利と公共の自由の保護

‧ 労働協約の所有権をめぐる紛争

‧ 労働組合規約やその修正への異議申立

なお、調停センターには CFCRL と州調停センターがあり、労働裁判所も連邦労働裁判所と州労働裁判所あります。連邦機関が管轄する産業は次のとおりです。

繊維業、電気産業、映画産業、ゴム産業、製糖産業、鉱業、冶金及び鉄鋼業、炭化水素産業、石油化学産業、セメント産業、石灰産業、電子・機械部品を含む自動車産業、製薬化学・医薬品を含む化学産業、紙パルプ産業、植物油脂産業、食品製造・加工業、飲料水製造業、鉄道、製材・合板・集成材の製造を含む伐採産業、鍛造ガラス版やガラス容器製造に係る焼き付けガラス産業、たばこ産業、銀行業、貸付業

このほか、連邦政府が管理する企業や、連邦政府調達先企業等における紛争、上述以外の産業にかかる事案であって 2 つ以上の州にまたがる事案や労働者に対する教育訓練、安全衛生に関する事案は、連邦機関の管轄となります。

 

(2) 調停

調停は、CFCRLまたは州調停センターへの書面または電子的方法による申立によって開始されます。調停センターは申立の受理から 15 営業日以内に調停を実施しなければならず、調停期日は使用者に対して 5 営業日前までに通知されます。なお、調停が、両当事者によって調停センターに直接申し立てられた場合、調停は即日行われるか、または申立から 5 営業日以内に調停期日が定められ通知されることとなります。

調停では、調停人によって、和解合意案が提案され、これに両者が合意した場合は、和解合意書が作成され、両当事者には認証謄本が渡されます。また、調停議事録の認証謄本も提供されます。両者が合意に至らない場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行されます。

調停期日に当事者の一方または両方が正当な理由によって出席しない場合は、期日はその日から 5 営業日以内の間で延期され、新たな期日が通知されます。正当な理由なく被申立人が欠席した場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行され、正当な理由なく申立人が欠席した場合は、手続が中止されます。いずれの場合も、労働者は再度調停を申し立てる権利を有します。

 

(3) 労働裁判

労働裁判は、大きく通常手続と特別手続に分けられ、以下に関する紛争は特別手続が、それ以外の紛争は通常手続が取られます。

‧ 非人道的で過度な長時間労働

‧ メキシコ国外での労務の提供においてメキシコ国内で締結された雇用契約書の承認

‧ 使用者が労働者に賃貸する住居、使用者が労働者に提供する教育・訓練、労働者の勤続年数や勤続手当

‧ 船員における予め定めた場所への移送、船舶の押収や毀損等による雇用関係の終了の際の船員の

権利や補償、船舶の残骸や貨物の回収を船員が行う場合の給与等

‧ 航空機乗務員の異動に伴う費用負担や航空機が使用できなくなった場合の移動にかかる賃金や費用

‧ 労働災害による障がいや死亡への補償や産業医の選任に起因する紛争

‧ 給与 3 カ月分を超えない額の給付や福利厚生に関する紛争

‧ 死亡または失踪時の給与等の受取人に関する紛争

‧ 社会保障に関する紛争通常手続は、次の流れで進められます。

  1. 提起

原告は、原告や被告に関する情報、要求の内容、要求の根拠となる事実等を記した書面を提出します。

なお、一部の例外を除き、当該書面には、調停センターが発行した「十分な調停が尽くされたとする証明書」を添付する必要があります。

  1. 答弁及び反訴

労働裁判所は、当該書面の受理から 5 営業日以内に被告を召喚し、書面や添付された証拠の写しを提供します。被告は、写しの受領から 15 営業日以内に正確に事実を押さえ原告の主張に全て答える内容の答弁書と十分な証拠を提出しなければなりません。また、被告は、この時、反訴を提起することもでき、労働裁判所は、反訴を認める場合、15 営業日以内に原告を召喚し、反訴原告の反訴状や証拠の写しを提供します。この場合、原告は、15 営業日以内に答弁書と証拠を提出しなければなりません。

  1. 異議等の申立

提出された答弁書や証拠の写しは、原告に提出され、原告は 8 営業日以内に、これに対する異議やその証拠を書面で提出しなければなりません。提出された異議等は、その写しが被告に提出されます。

被告は、5 営業日以内にこれに対する異議やその証拠を書面で提出します。反訴が提起された場合、その反訴についても同様となります。

  1. 予備審理

異議や証拠の提出期間を経過すると、10 営業日以内に予備審理の期日が設けられます。予備審理では、手続の正当性の検証や証拠の確定、争いのない事実の確定、審問期日の決定等が行われ、合意書が作成されます。

  1. 審理

合意書の作成から 20 営業日以内に審理の期日が設けられます。審理では、証拠の開示と確定、当事者の弁論を行い、判決が下されます。

なお、被告が原告の主張を認める場合、その日から 10 営業日以内に審理の期日が設けられ、判決が下されます。

特別手続の流れも、通常手続と同様ですが、答弁書の提出期間は 10 営業日、被告の答弁書に対する原告の異議等の提出は、答弁書等の写しの受領から 3 営業日以内に設定されています。労働裁判所は、異議や証拠の提出期間経過後 15 営業日以内に、証拠や論点を確定するための命令を出します。また、必要がある場合には、10 営業日以内に予備審査を設定することができます。

 

(4) 経済的性質の集団紛争

労働協約(contrato colectivo や contrato-ley)における新しい労働条件の実施や労働条件の変更(正当化する経済的要因がある場合や、生活費の上昇が収入と労働に不均衡をもたらす場合に認められ)、集団的労働関係の中断や終了(不可抗力や使用者の死亡に起因する場合、使用者に帰責事由のない原材料の不足、資金不足や破産等の事由がある場合に認められる)を目的とする紛争は経済的性質の集団紛争として扱われ、労働協約を締結している労働組合、労働者の過半数または使用者が提起することができます。

この場合の労働裁判は、ⅰ)書面による提起、ⅱ)被告による答弁(15 営業日以内)、ⅲ)原告による応答(答弁から 5 日営業日以内)、ⅳ)審問(25 営業日以内)期日より 10 日前までに専門家による証拠や意見を提出

させることができる。ⅴ)判決(30 営業日以内)と進められます。

 

 

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、2006 年バングラデシュ労働法(以下「労働法」という)と、EPZ に適用される EPZ 労働法にて、労務紛争解決について定められています。

 

(1) 2006 年バングラデシュ労働法

労働者・使用者は、労働法に基づく権利について争いがある場合、書面において相手に通知しなければなりません(210条1項)。本通知を受領して15日以内に、使用者と労働者との間で会議を開く必要があります。

(a) 調停・仲裁手続

会議が開かれない場合、又は、最初の会議から1か月経過しても和解に至らない場合は、調停手続きを申し立てることができます(210 条 4 項)。調停に付された場合、10 日以内に調停が開始されます(同条 6 項)。調停による和解が 30 日以内に成立しない場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停を仲裁に付するよう請求します(同条 9 項,同条 12 項)。

仲裁に付された場合は、30 日以内に、仲裁人が裁定を下さなければなりません(同条 14 項)。裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条 16 項)。

 

(b) 労働裁判所による手続き

各当事者は、労働裁判所に権利の執行を求めて訴えることができます(213 条)。労働裁判所は、訴訟が提起されてから 10 日以内に、相手方に供述書または反論書を提出するよう指示します(216 条 3 項)。相手方が、定められた又は延長された期間内に供述書または反論書を申し立てなかった場合、当事者の一方だけで審問し、処理されます(同条5項)。相手方が審理に欠席した場合も同様です(同条8項)。労働裁判所は、当事者が書面にて延長に合意しない限り、訴訟が提起されてから 60 日以内に判決、決定または裁定をします(同条 12 項)。

労働裁判所の判決に異議がある場合は、60 日以内に労働上訴審判所に訴訟を提起することができ、労働上訴審判所の決定が最終判決となります(217 条)。審理については、民事訴訟法の規定に従います(218 条 7 項)。労働上訴審判所は、申し立てに基づき、労働裁判所の決定を確定、変更、棄却または再審理のために労働裁判所に差し戻すことができます(同条 10 項)。労働上訴審判所は、訴訟が提起されてから 60 日以内に判決を下します(同条 11 項)。

 

(2) EPZ 労働法

(a) 調停・仲裁手続き

調停・仲裁手続きまで、労働法と同様ですが(124 条 1 項、2 項)、15 日以内に使用者と労働者で和解に至らなかった場合、調停を依頼することができます(126条)。15日以内に調停人による和解が成立しなかった場合、使用者又は団体交渉人は、30 日の事前通知にて、ストライキ又はロックアウトを実施することができます(127 条 1 項)。同通知は、調停人にも送付されるものとし(128 条 1 項)、調停人は、ストライキまたはロックアウトを実施が、法律が定める要件を満たしていると判断した場合(同条(2))、調停を開始します(129 条 1 項)。ストライキ又はロックアウトに記載した期間内に調停による和解に至らなかった場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停人と当事者が仲裁を請求します(130 条 1 項、 2 項)。労働法と同様に、仲裁に付された場合は、30 日以内に、仲裁人が裁定を下さなければならず(同条 3 項)、裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条 5 項)。

 

(b) EPZ 労働裁判所による手続き

労働法にて、政府は、EPZ の労使紛争に対応する EPZ 労働裁判所を設立することが出来ると規定されていますが(133 条 1 項)、現時点で設立されておらず、EPZ での労使紛争も、上記の労働裁判所と同様の手続きになると解されます。なお、EPZ 裁判所では、申立てが提起されてから、25 日以内の決定、異議がある場合は、

30 日以内に EPZ 労働上訴審判所に訴訟を提起することができます(135 条 2 項、3 項)。

 

実務では、労働者が、調停・仲裁手続きを経ずに、労働裁判所に訴える例は少なく、基本的に労働雇用省の傘下の工場・事業所監督局(Department of Inspection for Factories and Establishments(DIFE))に相談し、同局による調停手続の通知が来ることになります。なお、通知が発行されてから会社による受領まで数日要することが多く、通知が来てから、必要書類の提出や聴聞の期日まで準備の余裕がない場合が多くみられます。 労働訴訟は非常に件数が多いにもかかわらず裁判所が少ないこと、当事者の欠席、労働裁判所への出席者の欠席で期日が遅延することから、労働法で定められた期間では終わらないことが課題となっています。

 

 

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける労務紛争解決手段の概要

フィリピンにおいて使用者と労働者の間で紛争が生じた場合は、まず、フィリピン労働雇用省(Department

of Labor and Employment 以下「DOLE」といいます。)における解決を試み、DOLE において解決できない場合は、フィリピンの裁判所で労働裁判を実施するという流れで解決するのが一般的です。以下では、DOLE 及び裁判所における労務紛争の解決手続きについて解説いたします。

 

(2) DOLE における紛争解決手続

DOLE は、フィリピンにおける雇用関係について規制や監督を行う官庁組織に位置づけられます。DOLE の主要な役割のひとつとして、労働者保護が挙げられており、フィリピンの労働者が権利侵害を主張する窓口としても機能しています。

 

DOLE においては、シングルエントリーアプローチ(the Single Entry Approach 以下「SEnA」といいます。)と呼ばれる手続から開始されます。SEnA は、労働問題が本格的な紛争に発展するのを防ぐことを目的として、効率的、迅速、安価、かつアクセスしやすい方法で労働問題を解決する仕組みです。 労働者は、最初に SEnAプログラムの目的と手順について面接を受け、必要なRFAフォームに記入します。フォームが提出された後、シングルエントリーアシスタンスデスクオフィサーと呼ばれる職員(以下「SEADO」といいます。)が、論点を整理します。SEADO は、和解合意を促進するために、必須の 30 日以内に必要な数の会議を開催することができ、この 30 日間の期間は、当事者の相互の合意により最大 7 日間延長することが可能となっています。 SEnAにおいて紛争が解決できなかった場合は、次の手段として、労働仲裁人選任を申し立て、解決を図りま

す。仲裁人は、すでに提出された証拠や当事者の主張に基づいて、決定を下すことができます。

 

労働仲裁人の決定は、受領から 10 日以内に、全国労働関係委員会(National Labor Relations Commission 以下「NLRC」といいます。)に不服申立てをすることができます。不服申立てを行わない場合は、労働仲裁人の決定が確定し、執行力をもつ場合があります。

 

(3) 裁判手続による紛争解決

DOLEでの判断に不服がある当事者は、訴訟へ移行して紛争解決を図ります。フィリピンにおける裁判所に対して訴えを提起し、高等裁判所において審理されます。通常の訴訟手続と同様に、不服がある場合は上級

審への申立てを行います。

 

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの法規制における「労働紛争」の定義と分類

労働紛争とは、労働関係の成立、履行又は終了の際に生じる各当事者間の権利、義務、利益に関する紛争や、各労働者代表組織間の紛争、そして労働関係に直接関連する事態に関わる紛争をいいます。ベトナムの労働法規において、労働紛争は以下の 3 つの類型に分類されています。

  1. 個人労働紛争労働者と使用者、契約により海外へ派遣される労働者と派遣団体、派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争
  2. 権利に関する集団的労働紛争

労働者代表組織と使用者、又は労働者代表組織同士の間での、(a)集団労働協約、就業規則、その他使用者と労働者間の合意の解釈や履行に関する意見の相違がある場合、(b)労働法規の解釈や運用に関する意見の相違がある場合、又は(c)使用者の労働者に対する差別、労働者代表組織への干渉や影響、交渉の誠実な遂行に対する違反といった違法行為に起因する場合における紛争

  1. 利益に関する集団的労働紛争

団体交渉の過程で生じる紛争、又は、一方の当事者が交渉を拒否した場合や法定期限内に交渉を行わなかった場合に生じる紛争

 

(2) 労働紛争の解決手段

① 省レベル人民委員会主席が任命する労働調停人による調停

労働紛争を法的手続により解決しようとする場合、当事者は、まず、労働調停人による調停手続を申し立てなければなりません。但し、以下に該当する場合は、調停手続を申し立てる必要はありません。

・ 懲戒解雇、雇用契約の一方的解除に関する紛争

・ 雇用契約終了時の損害賠償および手当に関する紛争

・ 家事従事者と使用者との間の紛争

なお、家事従事者とは、1 世帯または複数の世帯のために、定期的に仕事(料理、家事、ベビーシッター、

看護、年長者の介護、運転、園芸、その他の家庭のための仕事であって、商業活動に関連しないもの)を行う人のことをいいます。

・ 社会保険、健康保険、失業保険、労働災害保険、職業性疾病保険に関する規定に関する紛争

・ 契約に基づいて海外に派遣された労働者と派遣団体との損害賠償に関する紛争

・ 派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争

  1. 省レベル人民委員会主席の決定による多数の委員(最少 15 名)からなる労働仲裁評議会への申立て 労働調停人による調停手続を行なっても関係当事者が紛争に関して相互に合意に達することができない場合、又は労働調停人が調停を行うよう要請を受けた日から 5 営業日以内に調停を開始することができない場合には、労働仲裁評議会による決定を求めることができます。
  2. 人民裁判所を通じた解決

利益に関する集団的労働紛争の場合を除き、当事者は、労働仲裁評議会による解決の代わりとして、又は労働仲裁評議会が定められた期間内に紛争を解決できない場合に、労働紛争について裁判所に訴えを提起することができます。

  1. ストライキの実施

利益に関する集団的労働紛争が、労働調停人又は労働仲裁評議会によっても解決できない場合、労働者はストライキを行うことができます。合法的なストライキは、労働者代表組織によって組織及び主導され、法定の手続に従う必要があります。

 

 

9.インド

(1) 概要

インドにおいて労働紛争手続は、産業紛争法(The Industrial Disputes Act,1947)に規定しています。労働争議(産業紛争)(Industrial dispute)とは、使用者同士、使用者と労働者(ワークマン)、労働者(ワークマン)同士の間での雇用条件等についての争議をいいます(産業紛争法 2 条)。産業紛争法では、解決手段として調停、仲裁、労働審判、労働裁判を規定しています。

なお、経営や監督を行うポジション等のノンワークマンについては、産業紛争法の労働者には該当せず、同法に基づく紛争解決手続は適用されません。

 

(2) 仲裁手続について

使用者及び労働者は書面での合意により労働争議を仲裁廷に付託することができます(産業紛争法10A条 1 項)。ただし、労働審判又は労働裁判が申立てられた後は、仲裁を行うことができません。一般的に、労働審判や労働裁判は、労働者側に有利な判断がなされやすいといわれており、使用者側としては、これら審判や裁判を避けるために仲裁を選択することも考えられます。

仲裁人は、仲裁において法律上の問題を労働審判所に付託し当該法律上の問題について判断を得ること

ができ、この場合、仲裁廷は当該労働審判所の判断に従う必要があります(産業紛争法 10E 条)。

 

(3) 労働審判・労働裁判の申立てについて

労働争議の当事者は、共同又は個別に所定の方法で当該紛争を労働裁判所(Labour Court)、労働審判所(Tribunal)又は全国労働審判所(National Tribunal)に申立てることができます(産業紛争法 10 条 2 項)。労働審判の場合、当事者や事業場等が複数の施設にまたがる場合等は、全国労働審判所が利用されます。 労働裁判は、関係当局によって任命される 1 名の裁判官により構成されます(産業紛争法 7 条 2 項)。労働

審判も関係当局により任命される 1 名の審判官により構成されます(産業紛争法 7A 条 2 項)。

 

(4) 調停について

産業紛争法では、労働争議の解決手段として調停手続における和解を規定しています。調停委員は、委員長 1 名と関係当局が適当と考える員数 2 名又は 4 名で構成されます(産業紛争 5 条 2 項)。

 

(5) 調停官・労働審判官・労働裁判官の権限について

調停官、労働審判所の審判官、労働裁判所の裁判官は、労働争議に関する調査のために、合理的な通知を行った後に、当該労働争議が関係する事業場に立ち入ることができます(産業紛争法 11 条2 項)。また、調停官、審判官及び裁判官は、民事訴訟法に基づき文書の提出の強制や証人尋問等を行うことができます(産業紛争法 11 条 3 項)。

 

 

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)では、労働争議に関して、私企業における労働関係に関する規則(2021 年連邦令第 33 号。以下、「連邦労働法」といいます。)第 54 条乃至第 56 条、連邦労働法の施行に関する内閣令(2022 年内閣令第 1 号。以下「内閣令」と言います。)第 31 条及び 32 条、並びに労働争議及び申立の解決手続きに関する人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」と言います。)令(2022 年 MoHRE 省令第 47 号。以下「省令」といいます。)によって、個別と集団に分けて、概略以下のような紛争解決枠組みが規定されています。なお、連邦労働法は、アブダビ首長国の Abu Dhabi

Global Market 及びドバイ首長国の Dubai International Financial Center を除き、フリーゾーンを含める全域には適用されます。

 

(1) 個別争議

労働者または雇用者はいずれも、雇用契約または労働法にかかる違反行為につき、その解決のため MoHRE に申立をすることができます。申立は、違反行為から 30 日以内に行われなければなりません。

MoHRE は、申立から 14 日以内に両者の協議を進めて、和解を促進します。

MoHRE による協議で和解が成立しない場合、MoHRE から事件記録一式が MoHRE の意見とともに管轄の労働裁判所に移送されます。労働者の申立が移送された場合、労働者は、移送から14日以内に裁判所に審理の申立をする必要があります(省令第 47 号 3 条)。申立後 3 日以内に期日が設定され、当事者に通知されます。ただし、違反行為から 1 年経過した問題については審理を受け付けられません。

なお、連邦労働法第 54 条の改正(2023 年連邦令第 20 号)の 2024 年 1 月 1 日の施行に伴い、MoHRE は、請求が 5 万 UAE ディルハム以下、または訴額にかかわらず従前に同省が決定した和解の不履行に関する申立について、最終決定することができることとなります(修正第 54 条第 2 項)。この MoHRE の決定は執行力を有するものとされますが、不服の当事者は、通知を受けてから 15 日以内に控訴裁判所に抗告することができ、抗告によって MoHRE の決定の執行は停止され、控訴裁判所は 3 営業日以内に期日を定め、抗告から

15 日以内に決定を行い、この決定が最終となります(修正第 54 条第 3 項)。

 

(2) 集団争議

労働者の全部またはその一部の集団(100 人以上(省令第 9 条))との間での争議の場合、労働者及び雇用者は、MoHRE に申立ができます(労働法第 58 条)。申立は争議の発生から 2 週間以内にしなければなりません(内閣令第 32 条)。労働者側は、3 人以上 5 人以下の代表を選出して協議に参加し、MoHRE は申立から 30 日以内に和解を促進します(省令第 10 条)。和解が成立した場合には、労働者代表と雇用者代表が署名した議事録が作成されなければならず、和解内容は、議事録の日から 90 日以内に履行されなければなりません(省令第 10 条)。

MoHRE における協議が不調となった場合、または当事者の一方が MoHRE での和解協議に出頭しない場合、集団労働争議委員会が内閣決定によって組織され、事件を審理します。MoHRE での協議の記録は同省の意見とともに同委員会に移送されます(省令第 11 条)。

 

 

発行 TNY Group

 

 

【TNY グループ及び TNY グループ各社】

・TNY Group

URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY 国際法律事務所(東

京及び大阪)、永田国際特許事務所)

URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY 国際法律事務所)

URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associates ジャパンデスク設置)

URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

URL: https://india.tny-legal.com

 

Newsletter の記載内容は2023 年 10 月 30 日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

 

 

1.日本

(1) 名誉毀損の要件について

日本では、名誉毀損(きそん)罪について、刑法230条に規定があります。

同条第1項は「公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万以下の罰金に処する。」と規定しています。そのため、名誉毀損罪が成立するためには、①公然と、②事実を適示して、③人の名誉を毀損することが必要となります。

ア、①公然と

  適示した事実について、不特定多数の者が認識できる状態に置くことをいいます。

  もっとも、不特定多数でない場合であっても、適示した事実が転々として多数人が了知するに至るおそれがある場合(伝播可能性がある)には、①公然性の要件が認められます。

イ、②事実を適示して

  同条にいう「事実」とは、他人の社会的評価を害するに足りる事実をいいます。

  また、ここに言う「事実」とは、具体的な事実内容を示す必要があり、事実が真実であるか否かは問いません。

ウ、③人の名誉を毀損すること

  名誉とは、世間の評価や名声といった外部的評価を指し、プライドや自尊心などの名誉感情は含まれません。毀損とは社会的評価を低下させるおそれのある行為を指し、実際に社会的評価が低下することまでは求められていません。

また、同条の対象である「人」には法人も含めると解されています。

なお、ブログやネット掲示板などにおける書き込み、X(旧Twitter)やFacebook、Instagram、その他のSNSでの投稿など、不特定または多数が知り得る環境下への発信は、閲覧数が少なくとも、伝播可能性があることを理由に、①の要件を満たすと考えられています。

(2) 名誉毀損の例外について

仮に①~③の要件を満たしたとしても、名誉毀損行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」と規定しており、この場合には例外的に名誉毀損罪として罰せられることはありません。

 また、最高裁判決によれば、「たとえ真実性の証明がない場合であっても、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪は成立しない。」とされています。

(3) 名誉毀損の刑事告訴について

名誉毀損罪は、親告罪であり(刑法232条1項)、「告訴がなければ公訴を提起することができない。」と規定されています。

 また、「親告罪の告訴は、犯人を知った日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。」(刑事訴訟法235条)と規定されていることから、名誉毀損罪の告訴期限も六箇月となります。

なお、最高裁判決によれば、「犯人を知った」とは、犯人が誰かを知ることをいい、犯人の氏名や住所等の詳細を知る必要はありません。また、「犯人を知った日」とは、犯罪行為終了後の日を指し、告訴権者が犯罪の継続中に犯人を知ったとしても、その日を親告罪の告訴期間の起算日とすることはできません。

 

2.タイ

(1) 名誉毀損の規定について

 タイの刑法典では、名誉毀損罪は326条から333条に規定されています。

 326条では、「第三者に対して他人に関する事実の適示をして、人の名誉を傷つけ、憎悪や侮蔑の対象となる可能性を生じさせた者には、名誉毀損罪が成立し、1年以下の懲役若しくは20,000バーツ以下の罰金、又はその両方に処する。」と規定されており、327条では死者への名誉毀損行為についても処罰の対象となりうる旨が規定されています。

(2) SNSでの名誉毀損行為

 刑法328条では、「可視化された文書、図面、絵画、映画、画像若しくは文字、音声記録、映像記録又は文字記録を出版することによって、名誉を毀損する行為を行った場合、2年以下の懲役及び20万バーツの罰金に処する」としています。すなわち、タイではメディアを通じて行った名誉毀損行為については、通常の名誉毀損行為よりも厳しく罰せられることになります。

 この「可視化された文書、図面、絵画、映画、画像若しくは文字、音声記録、映像記録又は文字記録」にはSNSも含むと考えられており、SNSへの誹謗中傷の投稿も同条により処罰の対象となります。

(3) 名誉毀損の刑事告訴について

  タイでは、名誉毀損罪は親告罪であるとされており(刑法333条)、同罪の告訴時効は、被害者が犯行を知り、加害者を知ることができた日から3ヶ月以内とされています(96条)。

また、警察への告訴を行う場合、タイ警察が理解できるように、重要な証拠等についてはタイ語への翻訳を行う必要があるため、注意が必要です。

 

3.マレーシア

(1) 刑法上の規定等

 マレーシアでは、名誉棄損(Defamation)は、刑法(Penal Code)21章、499条~502条に規定されています。刑法499条は、話し言葉若しくは読まれることを意図した言葉、又は標識や目視できる表現によって、その誹謗中傷が人の名誉を傷つけることを意図して、又はその誹謗中傷が人の名誉を傷つけることを知りながら、若しくはそう信じる理由がある者が、誹謗中傷を行い、若しくは公表した者は、原則として、名誉棄損をした者として罰せられる旨規定しています。

 また、同条は、故人に対する名誉棄損については、その故人が存命中であったならばその名誉を傷つけ、その家族又は近親者の感情を傷つけることを意図する場合、会社、団体又は個人の集合に対する誹謗中傷、代替案又は皮肉を込めた表現での誹謗中傷は名誉棄損に該当しうる等と規定しています。

 名誉棄損を行った者は、2年以下の懲役若しくは罰金、又はその両方が科せられます(刑法500条)。

 また、人の名誉を毀損する内容であると知りながら、またはそう信じるに足りる十分な理由がありながら、印刷又は刻印した者は、2年以下の懲役若しくは罰金、又はその両方が科せられます(刑法501条)。

 さらに、人の名誉を毀損する内容であると知りながら、その内容が印刷又は刻印された物を販売又は販売のために提供した者は、2年以下の懲役若しくは罰金、又はその両方が科せられます(刑法502条)。

 オンライン上のコメントに関する犯罪としては、通信・マルチメディア法(Communications and Multimedia Act 1998)233条が卑猥、虚偽、脅迫的又は攻撃的なコメント等をオンライン上で行った場合には、5万リンギット以下の罰金若しくは1年以下の懲役又はその両方及び判決確定後違反が1日継続するごとに1000リンギットの罰金が科されると規定しています。

(2)刑事訴訟法上の規定

警察署に対する情報提供については、刑事訴訟法(Criminal Procedure Code)107条に規定されています。同条(1)は、犯罪の実行に関するすべての情報は、警察署の担当官に対して口頭で提供された場合、その担当官またはその指示により書面に起こし、情報提供者に読み上げるとされています。作成された報告書には、情報提供者の氏名、住所及び情報を受け取った日時が記録され、情報提供者がこれに署名します。

また、同法107条に基づき、情報を提供した者は、情報を提供した警察署の担当官に対し、捜査状況の報告を求めることができます(同法107A条(1))。

 警察官は、不必要な遅滞なく捜査を完了する義務があり、捜査を行った警察官は、検察官が報告する必要がないと指示した犯罪ではない限り、同法107条に基づいて情報が提供された日から3か月が満了した日から1週間以内に、当該捜査に関する捜査書類とともに捜査報告書を提出する義務があります(同法120条(1))。

 刑事訴訟手続を開始する条件として、名誉棄損は、被害者又は検察官による申立て(Complaint)が必要であるとされています(同法131条)。申立てを受けた裁判官は、申立人を尋問し、尋問の結果、訴訟手続を行う十分な根拠がないと判断する場合には、その申立てを却下することができるとされています(同法135条(1))。

 

 

4.ミャンマー

(1) 刑法上の規定

 ミャンマーでは、名誉棄損について刑法21章において規定されており、以下の条文が存在します。

「499. Whoever, by words either spoken or intended to be read, or by signs or by visible representations, makes or publishes any imputation concerning any person, intending to harm, or knowing or having reason to believe that such imputation will harm, the reputation of such person, is said, except in the cases hereinafter excepted, to defame that person.

500. Whoever defames another shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to two years, or with fine, or with both.

501. Whoever prints or engraves any matter, knowing or having good reason to believe that such matter is defamatory of any person, shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to two years, or with fine, or with both. –

502. Whoever sells or offers for sale any printed or engraved substance containing defamatory matter, knowing that it contains such matter, shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to two years, or with fine, or with both. 」

(2) 刑事告訴

 刑事告訴について法令上は手続きなどの詳細は規定されていません。警察署に行って犯罪事実を記載した報告書を警察に作成してもらうことになります。しかし、通常は名誉棄損についてミャンマーの警察が積極的に捜査を行うことはないため、告訴する側において十分な証拠を集めた上で警察に行く必要があります。

警察は、証拠が十分にあり、罪を犯したと合理的に認められる場合、この事案を裁判所に起訴します。

裁判所に起訴された後の手続きについて、名誉棄損は法定刑が6か月を超えるため、Warrant Trialとなります。

Warrant TrialにはFraming Chargeがあり、裁判官は、Framing Chargeの前に、被害者の証言を求めたり、原告側からの証拠を採用します。

 

5.メキシコ

連邦法を前提とすると、かつては、連邦刑法(Código Penal Federal)において、侮辱(Injurias)、名誉棄損(difamación)、中傷(Calumnia)といった規定が設けられていましたが、2007年4月13日に官報公示された連邦刑法改正において、これらが削除されました。従って、連邦法に基づいた刑事告訴は出来ません。

一方、同連邦刑法改正時に、連邦民法(Código Civil Federal)1969条、1969条Bisが改正されました。これにより、i) 真偽、確実・不確実に関わらず、他者の不名誉となる、信用を傷つけ、損害を与え、軽蔑にさらす可能性のある、情報について、1人以上の人々に伝達すること、ii) 虚偽により、他者を犯罪者と訴え、または、そのような告発をされた人が無罪であった場合、iii) 特定の人物に対して、無罪であるか犯罪が行われていないことを知りながら、犯罪者であると理解される中傷的な通報を行う場合、iv) 他者の名誉を傷つけ、また、その私生活やイメージを攻撃する場合、を違反行為とし、道徳的損害(daño moral)の対象と規定されました。

従って、名誉棄損等の行為については、民事措置において解決を図ることとなります。

 

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでは、2023年8月、デジタルセキュリティ法(DSA法)を廃止し、サイバーセキュリティ法(CSA法)を議決し、同法は、特にインターネット、SNSにおける名誉毀損について定めています。

(1)要件・量刑

 CSA法の2(1)(s) によると、「名誉毀損」とは、刑法第499条(1860年法律第XLV) に定義されている名誉毀損を意味します。

 刑法第499条において、名誉毀損は、口頭による又は読まれることを意図した言葉、サイン、視覚的な表現により、他人の評価を害する又は害することを知りながら又は害することになると信じる理由がありながら、事実の適示又は公開することと定義されます。公益のための真実の公表、公務員の批判、司法手続きの公表などの、いくつかの除外規定があります。

 CSA法に規定される名誉棄損は、250万タカ以下の罰金が科せられます。刑法では、第500条に基づき、2年以下の禁固、罰金、またはその両方で罰せられます。

(2) 手続

 刑事告訴について、一般的な手続きは次のとおりです。刑法に基づく名誉棄損は、被害者の告訴が必要な親告罪です。

① 犯罪の特定

 表現が、CSA法などのバングラデシュの法律に基づく名誉毀損に該当するかどうかを判断します。名誉毀損には、他人の評判を傷つける虚偽の表現が含まれます。

② 証拠の収集

 スクリーンショットやソーシャルメディアの投稿へのリンクなど、名誉棄損の証拠を収集し、名誉毀損によって引き起こされた損害を文書化します。

③ 弁護士への相談

 名誉毀損事件を専門とするバングラデシュの弁護士に法的助言を求めます。

④ 告訴状の準備

 名誉毀損の疑いに対する正式な刑事告訴状を作成します。名誉棄損に該当する行為が行われた日付、時刻、場所、被疑者の身元、および名誉棄損にあたる虚偽の情報などの詳細を記載します。名誉毀損によって引き起こされた損害の性質と程度も行います。

⑤ 告訴状の提出

  バングラデシュの警察署に告訴状を提出します。名誉毀損事件は通常、犯罪が発生した場所または被疑者が住んでいる警察署で提起されます。刑法に基づき、裁判所に申し立てることも可能です。

⑥ First Information Report(FIR) の作成

 警察が十分な証拠を見つけた場合、被疑者に対してFIRを登録します。FIRは、申し立てられた犯罪の詳細を記録する正式な文書です。

⑦ 警察の捜査

⑧ 裁判・審議・判決・控訴

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおけるインターネット上での名誉毀損

フィリピンにおける刑法において、名誉毀損行為は刑罰の対象として規定されています。刑法上は、印刷物や書面を用いた名誉毀損行為が対象とされていますが、フィリピンでは2012年に可決されたサイバー犯罪に関する法律によって、オンラインの手段を通じて行われる名誉毀損行為も罰則の対象となると明記されました。したがって、インターネットを通じて他人の名誉を毀損するようなコンテンツやコメント等を投稿する行為についても、刑事責任に問われる可能性があります。インターネットを通じた名誉毀損行為を構成する要素は以下のとおりです。

① 犯罪、悪徳または瑕疵に関する発信行為であること

② 公然となされた行為であること

③ 悪意のある行為であること

④ 自然人、法人または死亡した人に向けられた行為であること

⑤ 対象者の名誉を毀損し、信用を失墜させる行為であること

⑥ コンピュータシステムやこれに類する手段で行われたこと

  1. フィリピンにおける名誉毀損の刑事告訴

フィリピンにおいて名誉毀損の被害に遭った場合、被害者はフィリピンの刑事機関に対して、刑事告訴を行うことが可能とされています。フィリピンにおいては、現行犯逮捕等の場合を除き、被害が報告されてから捜査が開始されることが一般的です。告訴のために必要な証拠を確保することが重要視されています。

また、フィリピンの刑法においては、名誉毀損罪について、懲役、罰金またはその両方が科せられるとされています。さらに、サイバー犯罪に関する法律は、より重い刑罰を定めており、懲役に関しては上限が拡張されています。

 

 

8.ベトナム

(1) 名誉毀損罪の概要

ベトナム刑法156条では、名誉毀損に関連する犯罪として、以下の行為を処罰対象としています。

  • 情報を捏造したり虚偽の情報を流布して他人の名誉を傷つけたり他人の法的な権利や利益を侵害する行為
  • 犯罪を捏造して当局に告訴・告発する行為

このような犯罪に課される刑は、次のとおりです。

i) 通常の場合:1,000万ドン以上5,000万ドン以下の罰金、2年以下の社会内刑罰(刑務所に収容せず社会内で労働等の活動を行わせ、収入の一部を国に納付させる刑罰)または3か月以上1年以下の懲役(刑法156条1項)

ii) 組織化されたグループによる犯罪、2人以上に対する犯罪、コンピュータネットワークや通信ネットワークを利用した場合など:1年以上3年以下の懲役(刑法156条2項)

iii) 卑劣な動機による場合、または被害者が自殺した場合など:3年以上7年以下の懲役(刑法156条3項)

なお、これらの犯罪は、特定の個人に対して行なった場合に成立し、法人や集団を対象とする場合には成立しません。

(2) 被害者による刑事告訴

上記ii)及びiii)に該当しない名誉毀損の場合、被害者による刑事告訴(立件の要請)があった場合のみ刑事事件の立件が行われると規定されています(刑事訴訟法155条1項)。

 

9.インド

(1) インド刑法における名誉棄損罪

 インド刑法(The Indian Penal Code, 1860)第21章499条に名誉棄損罪(Defamation)が規定されています。

 同条では、「話し言葉若しくは読まれることを意図した言葉によって、又は標識や目に見える表示によって、人の名誉を傷つけることを意図して、若しくはそのような評判がその人の名誉を傷つけることを知りながら、又はそう信じる理由があるにもかかわらず、そのような評判を作ったり、公表したりした者は、例外とされる場合を除き、その者の名誉を傷つけるものとされる。」と規定しています。また、同条は、会社や組織に対する非難であっても名誉棄損に該当し得ると規定しております。したがって、個人に対してではなく会社等の団体に対する行為であっても名誉棄損が成立する場合があります。例外的に、公表されることが公共の利益のためになる真実の適示であれば、その人物の名誉・評判を傷つけるものであっても名誉棄損とはなりません。

 名誉棄損罪が成立する場合、2年以下の禁固若しくは罰金、又はこれら両方が科されます(インド刑法500条)。

 また、名誉棄損であると知りながら若しくは名誉棄損と信ずるに足りる相当な理由がありながらそのような事実が記載された文書を印刷等複製した者や当該印刷物を販売した者も同様に2年以下の禁固若しくは罰金、又はこれら両方が科されます(インド刑法501条、同502条)。

(2) 名誉棄損罪の告訴手続

 インド刑事訴訟法(The Code of Criminal Procedure, 1973)第14章199条に名誉棄損に対する訴追に関する規定があります。

 同条では、インド刑法21章の名誉棄損に関する犯罪については、被害を被った者の告訴によらなければ裁判所は認知してはいけないと規定しています。そのため、基本的には名誉棄損の被害者から告訴することが必要となります。例外的に、被害者が18歳未満の場合、精神病等で告訴できない場合、又は地域の慣習やマナーにより公の場所に出頭することを強制すべきでない女性の場合には、他の者が当該被害者に代わり裁判所に許可を得て告訴することができます(インド刑事訴訟法199条1項)。

 

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

 アラブ首長国連邦(UAE)では、名誉棄損については刑法(2021年連邦法第31号)により処罰の対象とされ、コンピューターネットワークやITを用いた場合には、風説及び電子犯罪に対する法(サイバー犯罪法。2021年連邦令第34号)によって、法人も処罰対象となり得ます。それぞれの刑罰規程は以下の通りです。

 名誉棄損は親告罪であり、その事実と犯人を知ったときから3か月以内に告訴しなければ、刑罰を問うことはできません。告訴の方法は、以下の通りです。

(1) 刑法(2021年連邦法第31号)

 公の手段を用いて他人が処罰または侮蔑の対象となりうる事実を適示した場合(以下「名誉棄損」といいます。)、公の手段を用いて特定の事実を適示することなく他人の名誉または評判を毀損した場合(以下「侮辱」といいます。)に2年または1年以下の拘禁刑または2万UAEディルハム以下の罰金の刑に処すると規定します(第425条、第426条)。公の手段を用いない場合でも、電話、第三者の面前で名誉棄損または侮辱をした場合には、6月以下の拘禁刑または5000UAEディルハムの罰金に、第三者が不在または手紙による場合でも5000UAEディルハム以下の罰金が処せられます(第427条)。

公務員または公務にかかわる者に対するその公務に関する事項、家族の名誉に影響を与える事項、または不法な目的をもつ場合には、名誉棄損については拘禁刑(1月以上3年未満)及び罰金(10万UAEディルハム以下)の両方またはその一方で(第425条後段)、侮辱については、2年以下の拘禁刑及び2万UAEディルハム以上5万UAEディルハム以下の罰金の両方またはその一方となり(第426条後段)、刑が重く定められています。しかし、公務員または公務にかかわる者に対する名誉棄損の場合、事実の真実性を証明し、その事実が公務に関連することであれば、処罰されません。ただし、その事実の発生から5年以上が経過している場合、その事実である犯罪につき消滅事由が生じまたは下された判決が時効により免除されている場合には、その限りではありません(第428条)。

裁判または捜査当局での争訟において、口頭または文書により、防御の範囲で行われた名誉棄損および侮辱は、処罰されません(第429条)。著作者の責任を問う、司法または行政当局に対する善意の通報は、処罰されません(第430条)。

(2) サイバー犯罪法(2021年連邦令第34号)

情報通信網、IT、情報システムを用いて、他人を侮辱し、または他人を処罰若しくは侮蔑の対象とする事実を開示した者は、拘禁刑(1月以上3年未満)及び25万UAEディルハム以上50万UAEディルハム以下の罰金またはその一方に処せられます(第43条)。公務員または公務にかかわる者の公務に関する場合には、より悪い犯行態様とみなされます。

違法なコンテンツを保管、利用可能にし、もしくは公開し、本法律に規定され、発出された命令の期間中にそれを削除またはアクセス不能にする行為を取らなかった者、または、正当な理由なく、本法律に規定され、発出された命令の全部または一部を遵守しなかった者は、30万UAEディルハム以上1000万UAEディルハム以下の罰金に処せられます(第53条)。

法人の実際の管理責任者である自然人は、違法行為を認識し、その任務違反が犯罪行為に寄与したと証明された場合、同じ規定で処罰され、法人は、その従業員が違法行為をし、または法人の名称を用いて法人の利益のために違法行為が行われた場合、罰金または賠償金の支払につき連帯責任を負うものとされます(第58条)。

(3) 刑事告訴(刑事訴訟法(2022年連邦令第38号))

名誉棄損は親告罪です(第11条第4号)。特別の規定がない限り、告訴は、被害者が犯罪の事実及び犯人を知った日から3ヵ月を経過した後では受理されません(11条後段)。 

現行犯は現場に存在する公務員に対して告訴できますが、その場合を除き、告訴は検察または司法執行員(管轄の検察官、司法警察員、国境警備隊員、市民防衛隊員等(第35条))にします(第12条)。

 被害者が複数いる場合には、そのうちの1人が告訴することで足り、被疑者が複数いる場合でその1人に対して告訴されたときには残りの全員にその告訴の効力が及びます(13条)。

 告訴は、被害者本人、その代理人若しくは特別代理人によって行う必要があります(第11条柱書)。15歳未満の未成年や事理弁識を欠く者については、その後見人によって告訴することができ(第14条第1項)、被害者と代理人との間に利害対立がある場合または代理人が不在の場合には、検察が代理します(第15条)。被害者の死亡とともに告訴の権利は消滅しますが、死亡前に行った告訴については、司法手続きが進行します(第16条)。告訴者が死亡した場合には、告訴の取り下げ権はその相続人全員に承継されます(第17条第4項)。

 告訴は、それに関する裁判の最終判決が下されるまでは取り下げることができ、取り下げによって刑事事件は終結します(第17条第1項)。被害者が複数いる場合には、告訴した全員が取り下げしなければその効果は生じません(第17条第2項)が、被疑者(被告人)が複数いる場合には、その一人に対する取り下げは全員に及びます(第17条第3項)。判決確定後に告訴が取り下げられた場合には、検察は刑の執行を停止して、受刑者を釈放しなければなりません(第17条第5号)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://india.tny-legal.com

Newsletterの記載内容は2023年10月30日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

(1) 日本における合併の概要

 日本の会社法上、合併には、吸収合併と新設合併の二種類があります。同法2条によれば、吸収合併とは『会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後承継する会社に承継させるものをいう。』(同条27号)と定義されており、新設合併とは『二以上の会社がする合併であって、合併により設立する会社に承継させるもの』(同条28号)とそれぞれ定義されています。

日本においては、新設合併は、吸収合併に比べ手続やコストがかかるため、実務上は吸収合併を選択することが多いと言われています。

(2) 合併の手続き

 ア 吸収合併の場合

  吸収合併において、会社を吸収して存続する会社を吸収合併存続会社(存続会社)、消滅する会社を吸収合併消滅会社(消滅会社)といいます。吸収合併の基本的な手続きは以下の通りです。

 ① 吸収合併契約の締結

   存続会社と消滅会社の商号及び住所、吸収合併に関連する事項、吸収合併の効力発生日等を明記する必要があります(同法749条1項各号)。

 ②  株主総会における承認決議

   存続会社と消滅会社はともに上記契約で定めた効力発生日までに合併契約を株主総会にて承認を受ける必要があります。同決議は株主総会の特別決議事項となるため、出席株主の3分の2以上の賛成が必要となります。

 ③ 反対株主の買取請求権と通知・公告

   株主総会の承認決議に先立って反対する旨を通知し、かつ、株主総会においても反対した株主は、消滅会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。これに対応するため、消滅会社等は、合併契約の効力が発生する20日前までに、株主に吸収合併をする旨並びに存続会社の商号及び住所を通知しなければなりません。

 ④ 債権者に対する公告または催告

   消滅会社等は債権者に対し、吸収合併を行う旨や存続会社等の商号及び住所、吸収合併に対し、異議を申し立てることができる旨とその期間(同期間は1ヶ月以上必要とされています)について、官報に公告し、かつ、知れている債権者には格別に催告する必要があるとしています。

   債権者に異議を述べられた場合、異議を述べられた会社は同債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供する必要があります。

⑤ 効力発生日と登記

   ①にて定めた効力発生日に吸収合併の効力が発生し、同日の2週間以内に消滅会社の解散および存続会社の変更登記を行う必要があります。これにより、当該吸収合併に第三者対抗力を持たせることが可能となります。

 イ 新設合併の場合

  大まかな流れは吸収合併と同様ですが、①および⑤の部分が異なります。

  新設合併の場合、新会社の商号及び住所はもちろんのこと、通常の新会社設立と同様に、発行可能株式総数や設立時取締役の氏名等も合併契約に定める必要があります。

  また、新設合併においては、新設会社が登記された日に効力が生じる(同法49条)ため、効力発生日は合併契約の必要記載事項ではありません。

(3) 合併に伴う権利関係の承継について

  新設合併では、新設会社が消滅会社の権利義務を包括的に引き継ぎます。もっとも、承継会社から免許や許認可等を引き継ぐことは基本的にはできません。他方、吸収合併の場合、権利義務については新設合併と同じく、包括的に承継することができ、かつ、免許や許認可等についても引き継ぐことが可能です。

なお、合併と契約上の地位の承継に関し注意すべき点として、既存の取引先との契約書内に経営権の移動等があった場合について言及した条項(チェンジオブコントロール条項)の有無が挙げられます。これは、合併等の組織変更があった場合には契約の解除事由となるまたは通知する義務を負うといった内容であり、このような条項の有無については充分注意する必要があります。

従業員との関係では、勤務内容は同一であるにも関わらず、存続会社と消滅会社のどちらの出身かによって雇用条件の不公正が生じることがあり、このような事態を防ぐためには、合併後の雇用条件を統一することが望ましいとされています。

また、オフィスや工場の所在地における不動産の契約などにも合併などに言及または関連した条項が存在する可能性があるため、この点にも注意する必要があります。

したがって、合併を行う際には事前の調査や会社間での交渉はもちろんのこと、合併後にどのようなリスクが生じるかについての調査も重要であると言えます。

 

2.タイ

(1) タイにおける合併の種類

タイでは、以前まで吸収合併は認められておらず、新設合併のみ認められていました。もっとも、近年のタイ民商法改正により、法律上、吸収合併も認められることになりました。

 以下ではタイにおける吸収合併の手続及びライセンス関係の承継の可否について、解説いたします。

(2) 吸収合併の手続

 タイにおいては、二社間での合併の合意後、以下の2つのステップを経ることで、吸収合併の効力を発生させることができます。

(ア) ステップ1

① 存続会社と消滅会社の双方において、合併を承認する株主総会を開催し、承認を得る。

② 反対株主に対して、株式の買取りを行う。

③ 承認決議後、14日以内に以下を行う。

  • DBD(商務省)での承認決議の登記
  • 決議日に会社記録に名前が記載されているすべての債権者に、異議申し立て期間を1ヶ月以内とする本件承認決議の通知を送付する。
  • 地元紙にて承認決議を行った旨の公告を行う。

④合併に反対する債権者がいる場合には、同債権者に対し、弁済または担保の提供を行う。

その後、ステップ1の完了により、ステップ2に進むことが可能となります。

(イ) ステップ2

① 合併会社の名称や目的、覚書、定款等を決定し、承認の決議を行う。

② 決議後、7日以内に、消滅会社および存続会社の取締役が合併会社の取締役に、事業、財産、会計に関する書類等の引継ぎをする。

③ 同株主総会の日から14日以内に合併を登記し、合併会社の覚書と定款をDBDに提出する。

(3) 許認可や従業員の承継

 タイでは、吸収合併が近年まで認められなかったという事情から、吸収合併とライセンスの承継については不透明な部分も多く、同じライセンスであっても、品目等によって承継の可否が異なる場合があります。そのため、自身のライセンスの承継の可否についてはライセンスの所轄官庁に確認する必要があります。

 また、従業員については、消滅会社から存続会社へ異動する場合、法律上、各従業員から個別の合意を得る必要があり、得られない場合には、当該従業員に対しては、解雇補償金の支払を行い雇用契約が終了することになります。

 

3.マレーシア

 マレーシアでは、ラブアンに設立された会社に適用されるラブアン会社法(Labuan Companies Act 1990)においては吸収合併に関する規定は存在しますが、一般的な会社に適用される会社法(Companies Act 2016)においては合併に関する規定は存在しません。マレーシアにおける会社の組織再編の方法としては、一般的に以下の方法が挙げられます。

– 対象会社の株式取得

– 対象会社の事業譲渡

– 会社法366条に基づくスキーム・オブ・アレンジメント

(1) 株式取得

株式取得の方法としては、公開買付を行う場合及び既存株主から直接株式を取得する株式譲渡を行う場合があります。

株式取得を規制する法令としては、以下の法令等が挙げられます。

– Malaysian Code on Take-Over and Mergers 2016

– Rules on Take-Over and Mergers and Compulsory Acquisition 2016

– Capital Markets and Services Act 2007(CMSA)

 また、マレーシア証券取引所(Bursa Malaysia Berhad)、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)、マレーシア証券委員会(Securities Commission Malaysia)、マレーシア会社委員会(Companies Commission of Malaysia)等の機関によって規制されます。

 公開買付は、強制的公開買付及び任意的公開買付に分けられます。強制的公開買付は、一定の要件を満たした場合に実施する義務が生じるものをいい、任意的公開買付は強制的公開買付以外の公開買付をいいます。

 強制的公開買付の義務が生じる要件としては、会社の支配権を獲得した場合(会社の議決権付株式の33%超を取得した場合)、Creeping Thresholdとなった場合(議決権付株式の33%超50%以下を保有しており、かつ6か月間に議決権付株式の2%超を取得した場合)等があります。

 任意的公開買付は、強制的公開買付の要件を満たさない場合において、対象会社の発行済株式を100%取得する際に用いられ、任意的公開買付のうち、対象会社の発行済株式の100%未満を取得する場合には部分的公開買付と呼ばれます。

既存株主から直接株式を取得する株式譲渡を行う場合においても、一般法である会社法及び契約法を遵守する必要があります。

(2) 事業譲渡

 事業譲渡とは、会社の事業の全部又は一部の譲渡を行うことをいい、事業譲渡を行うには、譲渡会社において株主総会の普通決議が必要となります。

(3) スキーム・オブ・アレンジメント

 スキーム・オブ・アレンジメントとは、一般的に会社再建において用いられる制度で、会社法366条に基づいて対象会社が裁判所の許可を得て行う、会社、株主及び債権者間の合意による手続をいいます。

 

 

4.ミャンマー

 ミャンマーでは、日本の会社法のような合併に関する規定はありません。したがって、当事者間で締結する契約書において詳細を規定する必要があります。

一般的には株式譲渡か事業譲渡の方法によることとなります。株式譲渡の場合には潜在的リスクも含めて全て承継することとなり、ミャンマーではデューデリジェンスによっても全てのリスク(特に財務)を洗い出すことは難しいため、慎重に対する必要があります。

 

5.メキシコ

(1) 定義

メキシコにおいて合併は「Fusión」として認識されていますが、その定義は明確に規定されていません。メキシコにおける会社法となるLey General de Sociedades Mercantilesにおいては、222条から226条において合併に関する規定が置かれており、これらから合併には次の2つの種類があると考えられています。

  1. Fusión por incorporación o absorción(吸収合併)

既存の一つ以上の会社を別の既存の会社に統合し、そこに権利義務を承継させることで構成される。統合された会社は消滅する。

  1. Fusión por integración o pura(新設合併)

2つ以上の会社が新会社を設立し、各々の権利義務のすべてを当該新設会社に承継させ、各会社は消滅することで構成される。

(2) 合併の流れ

合併は、会社の形態に応じた条件で、それぞれの会社において決定されなければならないとされており、株式会社においては、特別株主総会決議を要することとなります。

合併の合意は、商業登記簿(Registro Público de Comercio)に登記し、経済省(Secretaría de Economía)の電子システムにおいて公表しなければならず、また、合併の対象となる各会社は当該電子システムにおいて最新の貸借対照表を公表し、消滅会社は、債務を消滅するための方法も公表しなければならなりません。

合併の効力は、登記後3か月が経過した後でなければ生じないとされており、この期間中、合併する会社の債権者は、当該合併に対して異議を申し立てる司法手続きをとることができます。異議が申し立てられた場合、当該異議を却下する判決が確定するまで、合併は一時中断されることとなり、異議の申立てがないままにこの期間が経過したときは、合併が成立し、存続会社または合併により生じた会社が消滅会社の権利義務を承継することとなります。

なお、経済競争法(Ley Federal de Competencia Económica)の定めにより、企業再編等グループ企業間で行われる場合といった一部の例外を除き、次の基準に当てはまる合併は、連邦経済競争委員会(Comisión Federal de Competencia Económica: COFECE)に届出を行い事前に承認を得る必要があります。

  1. UMA*1日額の1,800万倍に相当する額以上の金額をメキシコに投資することを意味する行為又はその原因となる一連の行為
  2. メキシコでの年間売上高又はメキシコにおける資産が、UMA日額の1,800万倍に相当する額以上である経済主体の資産又は株式の35%以上を併合することを意味する行為又はその原因となる一連の行為
  3. UMA日額の840万倍を超える資産又は資本のメキシコでの併合で、メキシコで生じる年間売上又はメキシコ国内の資産が、共同又は個別にUMA日額の4,800万倍に相当する額以上で2つ以上の経済主体が関与する企業結合を意味する行為又はその原因となる一連の行為

*1 UMA日額は、2023年度(2023年2月から2024年1月)は103.74ペソ

(3) その他の手続

その他、合併後には、消滅会社の納税者登録(RFC)の抹消や、消滅会社が外資登録(RNIE)のある会社だった場合には、その登録の抹消など、各会社の事情に応じた手続きが必要となります。

また、労働者に係る手続としては、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)において、Sustitución Patronal(雇用主の交代)と呼ばれるものが規定されています。会社の資産等の譲渡と併せて、これまでの使用者に提供されていた労働が譲渡後も継続する場合に活用することができます。従って、消滅会社での経済活動が、存続会社や新設会社において継続される場合であって、同じ労働力が用いられる場合、この手続をとり、雇用関係を継続させることができます。

 

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュには、合併について包括的に定める法律はなく、会社法、証券取引委員会法及びその関連法令、外国為替規定法、競争法などに部分的に規定されるほか、保険業や通信業など特定の業種の合併について、個別の法律で定められています。

 会社法は、一般的にすべての会社のM&Aに適用される規定を定めていますが、その内容は限定的です。同法228条は、会社の解散について債権者および株主との妥結に対する裁判所の権限、229 条は、合併による解散を含む解散の取り決めと妥結を促進する裁判所の権限についてそれぞれ定めています。同法230条は、過半数によって承認されたスキームまたは契約に反対する株主から株式を取得する権限(通知や予告期間など)について規定しています。

 合併を進める場合は、関連する複数の法令を確認したうえで、当事者間の契約にて詳細を定める必要があります。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける合併の概要

フィリピンにおける合併は、フィリピンの会社法に準拠して手続が履践されます。大きく分けると2つの合併形態が存在します。一つ目は、吸収合併です。存続会社が対象会社を吸収し、合併します。対象会社の資産や負債を原則として全て引き受けることになります。二つ目は、新設合併です。これは、2社以上の会社が統合され、新たな会社(新設会社)を設立するタイプの合併形態です。新設会社は、原則として対象会社の資産や負債を全て引き受けることになります。

また、フィリピンでは、合併の方法として、対象会社の株式を取得する方法や事業や資産を譲受する方法があります。

選択すべき合併の種類は、各会社の状況によって異なりますので、合併を検討されている会社は、対象企業の規模、対象企業の資産負債状況、規制要件などの要素を考慮して適切な合併形態を選択する必要があります。

  1. フィリピンにおける合併に必要な手続

フィリピンにおける合併手続において、必要とされる主な手続としては、まず、取締役会決議及び株主総会特別決議(議決権の3分の2の賛成票が必要な決議)を経たうえで、合併計画の承認を得る手続が必要となります。また、この時点で合併に反対である株主については、正当な価格での買取を請求する権利が与えられているため、請求があった場合は買取対応をする必要があります。

さらに、合併に際しては、合併契約を締結する必要があります。その際に、フィリピンにおける証券取引委員会の承認が必要となる場合があるため、適法に締結された合併契約書を同委員会へ提出する手続が発生します。同委員会における承認には、審問が実施される場合もあります。

承認を取得し、必要な手続が全て履践された後、合併はクロージングとなります。これにより、対象会社から存続会社又は新設会社へ資産と負債が継承されます。

  1. 合併後の取引関係について

最後に、合併後の取引関係について、法的観点から述べます。合併成立後の従業員やサプライヤーとの契約当事者は、存続会社又は新設会社となります。これは、契約関係を含め、対象企業の資産及び負債の全てを存続会社又は新設会社が継承するためです。したがって、事業に必要な取引契約のみならず、従業員との雇用契約や不動産に関する契約についても、存続会社又は新設会社が契約当事者としての地位を承継します。

ただし、合併当事者間において、契約上、合併が生じた場合に契約関係を終了できる条項が存在する可能性に留意する必要があります。これには、合併前にデューデリジェンスを実施し、リスクとして抽出されることが多いため、合併を検討される場合は、対象会社のデューデリジェンスをしっかりと実施することが望ましいといえます。

 

 

8.ベトナム

  1. ベトナムの法規制における「合併」の定義

会社の合併とは、1つまたは複数の会社(以下、「被合併会社」といいます)が、財産、権利、義務およびその他の合法的な利益をすべて別の企業(以下、「合併会社」といいいます)に移転させる行為であり、現行の企業法および競争法に定義されています(企業法第201条第1項及び競争法第29条第2項)。

被合併会社は、合併会社の登録手続が完了した後、その存続を終了します(企業法第201条第2項c)。なお、被合併会社の支店、駐在員事務所や事業拠点は、被合併会社が消滅する前に閉鎖手続をしなければなりません (政令01/2021/ND-CP第73.3条)。

  1. 被合併会社の権利義務の移転と継承

合併の手続が完了した後、合併会社は、被合併会社と合併会社の合意に基づき、債務、労働契約、その他の資産負債など、被合併会社が合法的に有するすべての権利と義務を承継します(企業法第201条第2項c)。

  1. 合併手続きの一般的なプロセス

ベトナムでは、多くの場合、以下の手順に従って合併が行われます(企業法第201条第2項)。

① 合併に関する必要書類(合併会社の定款および当事者間の合併契約書)の作成

② 被合併会社および合併会社の所有者や株主の承認

③ 上記②の承認を得た日から15日以内に、全債権者に当事者間の合併契約書を送付し、全従業員に合併について通知

④ 合併に関する登録手続の申請

  1. 合併手続について特例が適用される場合

以下のいずれかに該当する場合は、合併を行うために特別の手続が必要となります。

① 外国資本が含まれる場合:投資プロジェクトの統合、特定の事業分野に対する投資条件や要件の設定、合併会社の外国人所有比率の変更が伴う場合、投資法に規定する手続を遵守する必要があります。

② 専門業種に関する場合:銀行業、保険業、証券業における合併を行う場合、事前に、特別法による規制(信用機関法、保険業法、証券法など)が適用され、事前にそれぞれの専門当局(ベトナム国家銀行、ベトナム財務省、ベトナム国家証券委員会など)の承認を得る必要があります。

③ 経済集中度の届出基準に達した場合:競争法に基づき、国家競争委員会に経済集中度の届出書類を提出する必要がありますz(競争法第33条および政令35/2020/ND-CP第13条)。経済集中度の届出基準は、以下のいずれかをもとに決定されます。

(a) 合併を行う会社のベトナム市場における総資産

(b) 合併を行う会社のベトナム市場における総売上高

(c) 合併の取引金額

(d) 合併を行う会社の関連市場における合計市場シェア

ベトナム政府は、各時期の社会経済状況に合わせて、経済集中度の届出に関し、正確な基準を設定します。

 

9.インド

(1) インドにおける合併の概要

 インドでは、合併については吸収合併と新設合併があります。吸収合併では、合併によって消滅する対象会社の権利義務を存続会社が包括的に承継することになります。新設合併では、合併によって消滅する会社の権利義務を合併によって新たに設立する会社に承継させるものとなります。

(2) 合併の手続について

 合併については、会社法審判所(National Company Law Tribunal)による承認を得なければなりません。会社法審判所は、合併承認の申請に対して、株主総会や債権者集会の招集を命ずる場合があります。

 会社法審判所に対して上記申請を行うものは会社の財務状況等を宣誓供述書により開示する必要があります。

 上記手続により招集された株主総会及び債権者集会により4分の3以上の賛成(株主総会の場合議決権の4分の3以上、債権者集会の場合総債権額の4分の3以上)により会社法審判所が命令により合併を承認します。

 会社は合併の命令を受領してから30日以内に登記官に当該命令を提出しなければなりません。

(3) その他

 合併は会社登記所の命令を必要とし完了までに半年から一年程かかるため、当事者同士の合意で行われる事業譲渡の方が多く利用されていると思われます。

 

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

 アラブ首長国連邦(UAE)では、様々な形態の会社が存在します。UAEの商事会社法は、フリーゾーンで設立された会社には、フリーゾーン外の内国(メインランド)での事業が認められているときを除き、適用されず、各フリーゾーンに関する法律および規則が適用されます。合併に関しては、合併しようとする会社の設立場所、根拠法規に基づき、適用される法令を確認することが必要です。

 なお、外資規制が緩和された2021年6月以降、メインランドでも13セクター122業種については外資100%の会社が認められるようになりましたが、従前どおり51%以上の現地資本を求められる業種については、事業存続のためには合併後の資本比率に留意する必要があります。

 また、UAEに設立された支店については、UAE外の本店が合併した場合に、合併の形態に応じて、支店の登録を抹消・変更する必要があります。

(1) メインランド設立の会社の合併

 商事会社法(2021年連邦法第32号)で設立できる5つの会社形態(①合名会社(Joint Liability Company)、②合資会社(Simple Commandite Company)、③有限責任会社(Limited Liability Company)、④公開株式会社(Public Joint Stock Company)、⑤非公開株式会社(Private Joint Stock Company))のいずれも、総会またはそれに準じる機関の特別決議により合併を行うことができます。合併によって、新設される会社または合併後存続する会社に、合併する会社のあらゆる権利義務が承継されて、合併される会社が消滅します(第293条)。

合併の手続としては、まず、合併する会社間で合併契約を締結します。合併契約書には、合併後の会社の定款、取締役、支配人、株式の交換方法を規定します(第286条)。ただし、中央銀行により免許を受ける会社は、公開株式会社(Public Joint Stock Company)である場合を除き、中央銀行の規則に基づき経済相が合併の方法、手続、条件について決定を行い、公開株式会社ではこれらを取締役会で決定します(第285条第2項)。合併契約書案は、株主総会(またはそれに準じる機関)に提案し、定款変更に必要な多数決(特別決議)での決定を得なければなりません(第287条)。ただし、持株会社がその完全子会社を吸収合併する、または同一の持株会社の完全子会社間で合併する場合には、株主総会決議は必要とされません(第288条)。会社を所管する経済省または証券・商品庁が合併の総会決議を承認することにより、登記が変更されます(292条)。

合併に反対する株主等の保護としては、会社資本の20%以上を有する株主は、決議に反対した場合、決議後30日以内に裁判所に提訴することができます。株式会社(Joint Stock Company)以外の会社については、合併決議に反対した社員(partner)は、15営業日以内に書面で退社と持分の返還を求めることができます。持分の価値や退社の条件については、まず協議が行われ、協議がまとまらない場合には所管の当局が結成する委員会に付託され、最終的には裁判所へ提訴することができます(第289条)。

合併する会社の債権者の保護としては、合併を承認する総会決議後10日以内に知れたる債権者に対して文書で通知されるとともに、地元の日刊紙2紙(少なくとも1紙はアラビア語)に広告されます。合併に反対する債権者は通知から30日以内に、合併する会社の本社及び所管する経済省または証券・商品庁(Security and Commodities Authority)に異議を送付しなければなりません(第290条)。この異議を申し出た債権者が通知後30日以内に会社から弁済を受けなかった場合には、合併中断命令を求めて裁判所に提訴できます。申立債権者の利益を不法に害すると判断した場合は、裁判所は合併中断を命じ、申立債権者が取り下げするか、会社が債務を支払うか十分な担保を提供するまで、中断が継続します(第291条)。

(2) フリーゾーン設立の会社の合併

 フリーゾーン(「FZ」)では、①フリーゾーン・エスタブリッシュメント(Free Zone Establishment)、②フリーゾーン会社(Free Zone Company「FZCo」)の他、有限責任会社(Limited Liability Company)、オフショア会社(Offshore Company)等を設立することができます。

FZで設立された会社については、各FZの規則で規律されますが、日本企業が進出している主要なジュベル・アリー・フリーゾーンの規定には合併の規定はなく、ドバイ・エアポート・フリーゾーン(DAFZA)には規定があります。

因みに、DAFZA規定による合併は、少なくとも1社のFZ内で設立された公開株式会社(Public Limited Company)もしくは定款または特別決議で合併可能とされるFZCoが関与する場合を対象としています。合併の種類は、新設合併と吸収合併があり、手続はほぼ商事会社法に準じます。ただし、反対株主の裁判所への提訴期限が株主総会決議後28日以内とされていること、債権者への通知は2万UAEディルハム以上の債権を有する債権者に対して合併承認決議後28日以内で行うことで足りること、合併に外国会社が関与する場合には、DAFZA登録者による同意が必要とされること等、差異がありますので注意が必要です。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://hlootahlaw.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://india.tny-legal.com/index.html

Newsletterの記載内容は2023年8月29日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

  日本の営業秘密については、不正競争防止法に規定があります。

同法2条6項は、営業秘密について、「この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の秘密であって、公然と知られていないものをいう。」と定義しています。

(1) 営業秘密の3要件

「営業秘密」に該当するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

 ① 秘密管理性

 ② 有用性

 ③ 非公知性

まず、①要件を満たすためには、企業が当該情報を秘密裏に管理しようとする意思が、何らかの措置によって従業員や取引先に対して明確に示されており、かつ、当該意思について従業員等が認識できるような状態にしていなければなりません。

  経済産業省の営業秘密指針によれば、具体的に必要な秘密管理措置の内容や程度については、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なり、営業秘密の管理単位(営業秘密の共有をしている企業単位のこと。支店レベルであるか、関連会社も含むのかが異なる。)における従業員がそれを一般的に、かつ容易に認識できる程度のものである必要があるとしています。

秘密管理措置の具体例としては、表紙に「マル秘」や「社外秘」といった文字を明記しておくこと、金庫や施錠可能な容器に保管すること、扉に「関係者以外立ち入り禁止」といった張り紙をしておくことなどが考えられます。

次に、②要件を満たすためには、当該情報が客観的にみて、事業活動に有用であることが必要となります。この点、同要件の趣旨は公序良俗に反する内容の情報(脱税や不正の情報等)を除き、商業的価値が認められる情報を広く保護することに目的があります。同目的からは、①③要件を満たす情報については、有用性が認められることが通常であり、過去に事業活動に使用していた情報や、実験失敗のデータや製品の欠陥情報など間接的な価値が認められる情報についても有用性が認められることになります。

最後に③要件を満たすためには、当該情報が、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要となります。

非公知性が認められる状態とは、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない、公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析されない等、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることをいいます。仮に当該情報が海外の刊行物に掲載されていたとしても、その刊行物の取得に多大な時間やコストを要する場合には、合理的な努力の範囲を超えるものとして公知性が認められることになります。また、当該営業秘密が様々な知見を組み合わせて一つの情報を構成している場合、構成する各情報が様々な刊行物に掲載されており、それらを集めた結果、当該営業秘密に近い情報が得られたとしても、どの情報をどのように組み合わせるか自体に価値が認められる場合には、公知性は否定されません。

(2) 営業秘密が侵害された場合の措置

 営業秘密に該当した場合、当該秘密を不正に取得、使用、開示する行為については「不正競争」行為に該当し、民事上、刑事上の措置の対象となりえます。また、当該営業秘密を取得者から得た者についての取得、使用、開示する行為についても一定の要件のもと民事上、刑事上の責任を負うこととなります。

具体的には、営業秘密の漏洩が発覚した場合、会社は、営業秘密の不正開示や利用の停止・予防、侵害に関する物品の破棄等を求めることができます。また、営業秘密の漏洩によって会社に損害が発生した場合には、侵害者に対して損害賠償を請求することができます。なお、損害賠償額については同法に損害額推定規定が設けられています。加えて、同漏洩によって、会社の信用が損なわれた場合には、信用を害した者に対して信用回復措置を取るように請求することも可能です。

 

2.タイ

タイの営業秘密については、営業秘密法に規定があります。

 同法3条は営業秘密について、「営業秘密とは、まだ一般に公表されていない営業情報、またはその情報に通常触れられる者にまだ届いていない営業情報をいう。また、当該情報が秘密であることにより商業的価値をもたらし、営業秘密管理者が機密を保持するために適当な手段を採用していなければならない。」と定義しています。

(1) 営業秘密の要件

 タイの営業秘密に該当するためには、以下の3つの要件に該当する必要があります。

 ① 秘匿性

 ② 有用性

 ③ 秘密管理性

まず、①要件を満たすためには、当該情報が一般に知られていないまたは情報を入手できる状況になっていないことが必要であり、日本の営業秘密の要件の一つである「非公知性」に似た概念であるといえます。

  次に、②要件を満たすためには、当該情報を秘密に保つことで商業的価値をもたらしていることが必要であり、こちらも日本の有用性要件に似た概念であるといえます。

もっとも、日本においては秘密管理性および非公知性が認められれば、公序良俗に違反する情報等でない限り、有用性要件が認められる一方、タイの裁判においては、当該情報を秘密にしておくことで商業的価値が生じるかどうかを実質的に考慮するなどして、その判断基準に違いがあります。Googleマップの店舗情報について、有用性が認められるかという最高裁判例においては、店舗情報とはむしろ公開されることにより、商業的価値が生じるものであるとして、有用性要件について否定しています。

  最後に、③要件を満たすためには、当該営業秘密を保護するために、充分な秘密保護措置が取られている必要があります。タイで裁判の争点になることが多いのは同要件であり、保護したい情報については、社内規定や就業規則などによって事前にルールを作成しておく必要があります。また、ルールを作成しておくだけではなく、従業員への研修や監査を通じてそのルールの運用が正確になされている必要があります。この点については、就業規則に一般的な守秘義務を規定していたとしても、同要件を満たすことにはならないとした最高裁判決も存在しています。

なお、充分な秘密保護措置が取られているか否かについて、絶対的な基準はなく、会社の規模や職種等を総合的に考慮し、相対的に決定されます。

以上のように、営業秘密該当性については、日本とタイは非常に類似した構成をとっています。もっとも、各要件の判断基準については、異なる点も多いため、その取扱いについては注意する必要があります。

(2) 営業秘密侵害行為

  営業秘密侵害行為について同法6条は「営業秘密の侵害行為とは、営業秘密を保有する者の許可なく、秘密を開示し、使用する行為であって、不当な商業手法であるものをいう。ただし、侵害者において不当な商業手法であるとの認識または認識することが相当であると認められる事情がなければならない。」と定義しています。

  また、同法6条では、契約違反、秘密保持の違反またはその教唆、贈収賄、脅迫、詐欺、窃盗、盗品の譲受、電子その他の手法を使った諜報活動を「不当な商業手法」として、例示列挙しています。

(3) 侵害行為に対する措置

  上記のような営業秘密の侵害行為があった場合または現に行われようとしており、かつ明確な証拠がある場合には、差し止め請求や損害賠償請求をすることができます。同請求の中では、侵害組成品の破棄または所有権の移転を求めることができます。

  また、侵害者に対しては両罰規定も含む刑事罰も存在しています。

 

3.マレーシア

 マレーシアでは、営業秘密の保護に関する一般的な法は存在せず、営業秘密はコモンロー及びエクイティによって保護されます。営業秘密が不法に開示された場合には、守秘義務違反として民事救済を図ることができます。営業秘密の漏洩に関する直接的な刑事責任を定めた法令等は特段存在せず、救済手段としては基本的には民事救済によることになります。営業秘密には、製法、方法、技術、製造費用、顧客リスト、事業計画等が含まれるとされています。保護の対象となる営業秘密は、原則として秘密となっている情報のみであり、公共財となっている一般的な情報については保護されないものとされています。

(1)守秘義務違反が認められる要件

マレーシアでは、判例上、従業員には使用者に対する忠実及び誠実の義務があるとされており、この義務には、使用者の同意なしに、雇用の過程で得た機密情報を使用または開示しない義務(守秘義務)が含まれています。

 次の3つの要件が満たされている場合に、守秘義務違反が認められることがイギリスの判例(Coco 対 AN Clark (Engineers) Ltd事件等)で明示されており、これはマレーシアでも適用されています。

  1. 機密性のある情報であること
  2. 守秘義務を負う状況下で情報が伝達されたこと(情報の機密性が従業員に明確に示されている必要があります。)
  3. 情報の無断使用があったか、それが予期されること

守秘義務は、通常、雇用関係において発生し、この義務は暗示であっても、明示であってもよいとされ、その雇用終了後にまで及ぶとされています。

しかし、使用者は従業員に対し、当該従業員の技術及び知識の一部となったものの使用を禁止できないとされています。

マレーシアの判例により、当該情報が企業秘密であるか又は一般知識及び技術であるかは、以下の要素により判断されます。

  1. 雇用の性質
  2. 情報の性質
  3. 使用者がその情報の機密性を強調したか
  4. 当該企業秘密が一般知識及び技術と区別できるものであるのか

(2)守秘義務違反が認められる場合の救済方法

 守秘義務違反が認められる場合には、損害賠償請求(Damages)(懲罰的損害賠償請求を含む)、差止命令(Injunction)、清算による償還(Account of profit)等が考えられます。

なお、差止命令が認められるためには、回復不能な損害があること、及び損害賠償請求のみでは救済として不十分であることを立証しなければなりません。

 

 

4.ミャンマー

 ミャンマーでは、営業秘密の保護に関する一般的な法は存在しません。そのため、守秘義務契約等の営業秘密を守る義務を含む契約を締結している場合には、営業秘密が不法に開示された場合には、守秘義務違反として民事救済を図ることができます。営業秘密の漏洩に関する直接的な刑事責任を定めた法令等は特段存在せず、救済手段としては基本的には民事救済によることになります。

したがって、営業秘密を共有する相手方との間でその秘密を保護するための契約を締結することが重要となります。

 

5.メキシコ

(1) 概要

日本でいう「営業秘密」に近い概念として、メキシコでは連邦産業財産権保護法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial、以下、「産業財産権保護法」という。)に規定される「Secreto Industrial」が挙げられます。その定義や違反行為、罰則等の規定はあるものの、特許や商標といった産業財産権のように、登録制度等はありません。

(2) 定義

産業財産権保護法において、Secreto Industrial(以下、「営業秘密」という。)は、「その法的管理を行使する人が秘密に保つ産業又は商業用途の全ての情報であって、経済活動の遂行において第三者に対して競争的又は経済的優位性をもち、機密性を維持し、アクセスを制限するのに十分な手段又はシステムを採用されている情報」と定義されています。

なお、公知の情報や法令等により開示しなければならない情報は営業秘密に該当しません。また、営業秘密の保有管理者より、ライセンス、許可、承認、登録、又はその他の権限を付与する目的で当該情報が提供された場合には、公知になったとはみなされません。

(3) 営業秘密の保護

先述の定義より、情報が営業秘密とみなされるには、①商業的価値があること、②機密性の維持、③情報に対し機密に保つための合理的措置が施されていることが条件となります。

従って、例えば、競合他社に対して経済的優位性を持つ技術情報がある場合、限られた数の人々だけがその情報を知っていること、そしてそれを知っている人々がその情報が機密情報であることを認識していることが重要となります。更に、そのような情報へのアクセスを制限する措置が取られなければなりません。

また、情報の保有管理者は営業秘密の使用を第三者に許可することができ、この場合は、使用を許可された第三者は、この営業機密を開示してはならない義務を負います。技術提供等の契約書において守秘義務条項を設けることも可能であり、当事者が当該情報を機密であると確認する条項を含める必要があります。更に、雇用や業務委託等の関係において、又は職務に関連し、企業の情報を知り得る者は、秘密である旨を通知された情報については、その保有管理者等の同意を得ずに開示してはならない義務を負います。

従って、営業秘密を機密として保護するためには、機密であることの明示や各種契約書内への秘密保持条項の設定や秘密保持契約書の締結、職場においては、これらに加え就業規則の整備や教育の実施といった措置が必要となります。

(4) 情報漏洩時の措置

営業秘密に関し漏洩が生じた場合、民事的、行政的、刑事的措置をとることができます。

行政的措置については、経済的優位性を獲得するため、又は商慣習に反する行為として、営業秘密を不正に取得することなどについて、利害関係者はメキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial: IMPI)に対し調査を要請でき、違反と判断された場合は、最大25,935,000ペソの制裁金(2023年の場合)、最大90営業日の施設の一時閉鎖や恒久的閉鎖といった制裁が科される恐れがあります。

刑事的措置については、自身又は第三者のために経済的利益を得る目的又は営業秘密の保有者に対し損害を与える目的で、不当に営業秘密を開示し、無権限に秘密情報を取得、使用、流用等行った場合、犯罪となり得え、利害関係者がIMPIに対し申し立てることにより起訴されます。犯罪が確定した場合は、2年から6年の懲役、103,740ペソから31,122,000ペソの罰金(2023年の場合)が科される恐れがあります。

このほか、刑法211条に依れば、専門的・技術的サービスを提供する者や公務員によって営業秘密が開示された場合、1年から5年の懲役や罰金、該当する場合は、2カ月から1年の職務停止処分が科される恐れがあります。

民事的措置として損害賠償請求を行うことも可能です。先述の各事項のほか産業財産権保護法167条は、企業秘密を取得する目的で、その秘密を保有する他者の従業員又は元従業員、当該他者にサービスを提供する、又は過去に提供したことのあるコンサルタント等を雇用し又は業務を委託する者は、法的責任を負うと規定することから、情報漏洩を行った本人のほか、企業秘密を取得する目的で雇用等を行った者に対しても損害の賠償を請求できる可能性があります。

更に、雇用関係において、労働者による情報漏洩が生じた場合、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に基づき、処遇を検討できます。労働者は、技術的秘密や営業上の秘密、製造に直接的又は間接的に関与する場合のその製品の秘密情報、その他業務の遂行上知り得る情報について、その開示が会社に損害を与える可能性がある場合、その情報を機密に保持する義務を負うため、労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合には、使用者は責任を負うことなく、当該労働者を解雇することが可能となります。

 

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでは、営業秘密の保護を直接規定する法律や政策は制定されておらず、営業秘密侵害に対する苦情を管轄する政府機関も設立されていません。

 しかし、営業秘密の法的保護は、いくつかの法律において、例えば、特許意匠法、契約法、競争法、刑法において規定されています。例えば、特許意匠法第49条によれば、意匠に関する情報の悪意の開示を防ぐことができます。ただし、当該規定はすべての営業秘密の場合に適用されるわけではなく対象は限定的です。また、契約法第73条では、機密保持契約を締結した場合、当事者は、契約上の義務違反に対する救済を求めることができます。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける「営業秘密」の定義

まず、フィリピンにおいて、「営業秘密」を直接定義する法令は見当たらず、非公開情報の一部が、知的財産権に関する法令において、部分的な保護を受けるに留まっています。

他方で、法令において直接定義はされていないものの、フィリピンの最高裁判例には、「営業秘密」に対して保護を与える旨判示したと読めるものが存在します。同判決によれば、「営業秘密」とは、“plan or process, tool, mechanism or compound known only to its owner and those of his employees to whom it is necessary to confide it”であるとされています。これを日本語に訳すると「計画、工程、道具、メカニズム、又は化合物に関する情報であって、所有者又はその従業員のうち、当該情報を開示する必要のある者のみが知っているもの」となります(*筆者訳)が、日本法と比較すれば、やや抽象的な概念に留まっていると考えられます。

もっとも、「所有者又はその従業員のうち、当該情報を開示する必要のある者のみが知っているもの」という部分が示すとおり、当該情報が社内において秘密として扱われている、いわゆる「秘密管理性」の要件については、フィリピン法においても求められていると考えられます。

  1. 「営業秘密」が侵害された場合の救済措置と対応

次に、「営業秘密」が侵害された場合、どのような救済措置や対応方法が考えられるかについて言及します。

まず、契約上で「営業秘密」について言及がある場合は、同契約の文言に基づき、侵害行為を行なっている相手方に損害賠償請求を行うことが考えられます。加えて、⑴で述べた「営業秘密」の定義に該当するような場合は、知的財産に関する法令に基づき権利侵害を主張したうえで、差止請求の手続をとることも検討できます。

また、従業員が「営業秘密」を漏洩したケースに限定されますが、雇用契約関係がある場合は、従業員に対して情報漏洩行為を指摘し、懲戒処分や懲戒解雇を行うことも考えられます。

  1. 「営業秘密」の侵害に備えた予防的法務

最後に、「営業秘密」の侵害に備えて企業がとりうる予防的法務対応について述べます。

フィリピンにおいて「営業秘密」を適切に守るためには、情報のやり取り前にNDAを締結すること、取引に関する契約書に営業秘密侵害の場面を想定した条項が入っているか確認すること、従業員との雇用契約に営業秘密についての条項が入っているか確認すること等の対応が挙げられます。また、牽制的な位置付けにはなりますが、従業員の営業秘密漏洩行為は犯罪行為として規定されていますので、この旨を企業内で周知することも予防法務の観点から一定程度効果があるものと考えられます。

 

 

8.ベトナム

  1. 概要

ベトナムの営業秘密については、2005 年に制定され、2009 年、2019 年、2022 年に改正された知的財産法に規定されています。知的財産法によれば、営業秘密とは、金融活動または知的投資活動から得られた情報のうち、未公表で、かつビジネスで利用可能なものをいうとされています(知的財産法第4条第23項) 。

営業秘密とみなされるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

  • 財政的、知的、研究的、創造的な投資活動の結果であること。
  • 同業他社、公衆、一般消費者に開示されていないこと。
  • ビジネスで使用することができ、所有者に経済的利益をもたらすこと。
  1. 営業秘密の所有者

営業秘密を合法的に取得し、その機密性を保持する組織または個人が営業秘密の所有者になることができます。企業の従業員が業務の一環として営業秘密を取得した場合には、企業と従業員との間で別段の合意がない限り、営業秘密は企業が所有することになります(知的財産法第121条第3項)。

  1. 営業秘密が保護されるための要件

営業秘密が法的に保護されるための要件は、次のとおりです(知的財産法第84条)。特許などと異なり登録制度はなく、要件を満たせば自動的に保護されることになります。

  • 一般的な知識ではなく、容易に入手できないもの。
  • 事業活動で使用される場合、その所有または使用しない者よりも、所有者に対して有利性をもたらす者であること。
  • 所有者により秘密が保持され、開示されず、容易に入手できないよう必要な措置が講じられているもの。

なお、上記要件を満たすものであっても、以下に挙げるものは営業秘密として保護されません(知的財産法第85条)。

  • 個人を識別するための秘密
  • 国家管理の秘密
  • 国防および安全保障上の秘密
  • 業務に関係のないその他の機密情報
  1. 営業秘密の所有者の権利制限

営業秘密の所有者の権利は無制限ではありません。以下の場合には、営業秘密の所有者は権利行使することができません(知的財産法第125条3項)。

  • 第三者が、不正に取得されたことを知らず、または知る理由がなく、取得した営業秘密を開示または使用する場合。
  • 公衆を保護するために営業秘密を開示する場合。
  • 非営利目的での秘密データを使用する場合。
  • 独自に作成した営業秘密を開示または使用する場合。
  • 合法的に販売された製品の分析または評価によって生じた営業秘密を開示または使用する場合。ただし、分析者または評価者と営業秘密の所有者または製品の販売者との間で別段の合意がある場合を除く。
 

9.インド

インドには、営業秘密の保護に関する法律はありません。したがって、営業秘密の漏洩について、刑事責任を定める特別の法令も存在しません。

 営業秘密を保護するための手段として、秘密保持契約、雇用契約、研究開発契約等のそれぞれの契約において秘密保持条項を定めることが重要です。契約に規定された秘密保持条項に反して第三者に営業秘密を開示した場合は、契約法(Contract Act of 1872)に基づいて損害賠償請求をすることが可能です。裁判例では、営業秘密に該当するかどうかの判断において、当該情報が秘密であること(既に公知となっている等の事情がないこと)、情報の開示により損害が生じる又は競争相手が利益を得ること等の事情を考慮しています。

 また、裁判例では、営業秘密の漏洩の差止めについても認められています。裁判所は、侵害の事実の有無、回復不能な損害、原告被告間の利益の比較衡量等の事情を考慮して差止を命じるかどうかを判断します。

 なお、インド契約法においては、「ある者が合法的な職業、取引、又はあらゆる種類の事業を行うことを拘束されるあらゆる合意は、その限りにおいて無効である。」と規定しており、同法に基づき、原則、雇用契約期間中の競業避止義務は有効であるが雇用契約期間終了後の競業避止義務は原則として無効であると解釈されています。一方、雇用契約期間終了後に元従業員に顧客への連絡を禁ずる条項について適法であると判断した裁判例があることから、雇用契約期間終了後の秘密保持条項については合理的な範囲で認められると考えられます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

 アラブ首長国連邦(UAE)では、営業秘密を規定する法律がありませんでしたが、産業財産権の規制と保護に関する法(2021年法律第11号)の第6章において保護の対象となる秘密や不公正な事業行為が定義されることにより保護が図られることとなりました。同法は、2021年12月に施行したばかりであり、これまでと同様、営業秘密の保護のためには、秘密管理規定や秘密保持契約の整備が重要となります。

(1) 産業財産権の規制と保護に関する法(「産業財産法」)

(a) 秘密の定義と保持者の義務

 産業財産法及びその規則で保護される対象とするUndisclosed Information(非開示情報)とは、①その情報が、全体として、その詳細な構成によって、またはその構成要素の組み立て方によって、その属する産業技術界において一般的に知られまたは共有されてはいないという秘匿性を有し、②その秘匿性ゆえに商業的価値がある情報で、かつ③その情報の法的保管者が講じる有効な保管手続にその秘匿性が依存しているもの、と定義されます(産業財産法第61条)。この要件を充足する非開示情報である限り、その秘匿性及びそれに関連する第三者からの侵害防止にかかる権利は存続します(第63条第4条)。

 非開示情報の法的保管者には、①情報の安全確保および専門家以外に共有されない防止措置をとる義務があり、②自社内での情報の共有方法を統制し、情報共有を関連専門家に制限して、第三者への不法な漏洩を防止しなければならず、③十分かつ合理的な情報保護に努めたことの立証責任が課せられています(第63条第1~3項)。

(b) 不公正な事業行為(Action conflicting with fair business practices)

 更に、産業財産法第64条は、次の行為を公正な事業に反する不正競争を含有する行為として挙げ、これらの行為の結果は、法的保管者から権限を付与されていない第三者による情報の漏洩、所持、使用を含め、非開示情報への侵害とみなします。

  1. 情報を得るための他社従業員への贈賄
  2. 任務上、情報を知る従業員に開示を働きかけること
  3. 秘密保持契約の当事者による対象秘密の開示
  4. 盗み、スパイ行為等の違法な手段を用いた保管場所からの情報の入手
  5. 詐欺的手法を用いた情報の取得
  6. 情報の秘匿性と前号までの行為により情報が取得されたことを知る第三者による情報の使用

ただし、㋐公的に利用可能な情報源からの情報の取得、㋑非開示情報を含有する市場で取引される製品の分析、試験等の独立した努力の結果としての情報の取得、㋒非開示情報の保有者に関する独立した調査による独立した調査、発案、発見、発展、改良または変更による情報の取得、㋓その情報の属する産業技術界で共有され、周知、取得可能な情報の所有または使用は、不公正な営業行為ではないと規定します(第65条)。

(c) 罰則

 上記の法的保有者の権利を故意に侵害した者に対しては、禁固または10万UAEディルハム以上100万UAEディルハム以下の罰金若しくはこれらが併科されます(第69条)。

(2) その他の救済手段

上記の産業財産法第69条の罰則は、より厳しい他の法律の規定がある場合には、それを妨げないと規定しています。因みに、産業財産法で非開示情報の保護が規定されるまでに営業秘密の保護のために活用されていた規定には、主に以下のUAE連邦法の規定があります。

(a) 会社法(2015年法律第2号)

 会社の秘密を利用または漏洩若しくは会社の事業に故意に損害を与えようとした会社の会長、取締役または従業員に対して、6月以下の禁固または5万UAEディルハム以上50万UAEディルハム以下の罰金若しくはその併科を課す罰則規定(第369条第2項)。

(b) 刑法(1987年法律第3号)

 その職業や地位に基づいて託された秘密を、寄託者から開示または使用の権限を得ることなく、法律上の理由に基づかずに漏洩し、または自己または第三者のために使用した者につき、1年以上の禁固または2万UAEディルハム以上の罰金を課す規定(第379条)。

(c) 民法(1985年法律第5号)

 民法の雇用関係の規定では、従業員の義務として、仕事の産業的商業的秘密を、雇用契約終了後も、合意または慣習により求められる限り、保護しなければならない(第905条第5項)としています。この義務違反に対して、雇用者は損害賠償請求を行うことが可能です。

 

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://hlootahlaw.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://india.tny-legal.com/index.html

Newsletterの記載内容は2023年7月26日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

日本

 日本の就労ビザには、様々な種類があります。就労ビザ取得に関しては、申請者の国籍や就労目的、滞在期間等によって手続きや要件が異なります。そのため、以下では日本の就労ビザのうち、代表的なものを取り上げ、その取得条件について述べます。

(1) ビザの種類

 日本の就労ビザは大まかに分けると16種類あります。

a . 教授(大学教授など)

b . 芸術(音楽家や画家など)

c . 宗教(僧侶や宣教師など)

d . 報道(記者やカメラマンなど)

e . 経営・管理(会社社長や役員など)

f . 法律・会計業務(日本の資格を有する弁護士、公認会計士など)

g . 医療(医師、看護師など)

h . 研究(研究所の研究員など)

I . 教育(小・中・高の教員など)

j . 技術・人文知識・国際業務(技術者、外国語教師、通訳、デザイナーなど)

k . 企業内転勤(同一企業の日本支店に転勤する者など)

l . 介護(介護士など)

m . 興行(演奏家、俳優、歌手、ダンサー、スポーツ選手など)

n . 技能(調理師、パイロット、スポーツトレーナー、ソムリエなど)

o . 特定技能(特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能/熟練した技能を要する産業に従事するもの)

p . 技能実習(海外の子会社等から受け入れる技能実習生、監理団体を通じて受け入れる技能実習生)

(外務省ホームページより引用:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/chouki/index.html)

その他、就労目的での滞在については、高度専門職ビザがあり、学術、技術、経営分野において、高度かつ専門的な活動を行う者に対し、付与されます。同ビザは、申請者の経歴や仕事の内容、年収などをポイント制にして評価し、一定のポイントに達した場合にのみ付与されます。

上記a~pのうち、もっとも代表的なものは、技術・人文知識・国際業務ビザであり、日本で就労する多くの外国人が同ビザを取得しています。

(2) 技術・人文知識・国際業務ビザの取得方法

同ビザの取得要件については、実際に従事する業務によって、学歴・職歴要件が異なります。主に以下の要件が必要となってきます。

① 学歴・職歴要件

a. 技術職 : 従事する予定の業務に関連する専門分野を専攻して大学等を卒業していること、10年以上の実務経験があること、情報処理技術に関する試験の合格または資格を有していることのうち、いずれかの要件を満たしていること。

b. 人文知識 : 従事する予定の業務に関連する専門分野を専攻して大学等を卒業していること、10年以上の実務経験があることのうち、いずれかの要件を満たしていること。

c. 国際業務 : 大学等を卒業していること(選考や専門は問わない)、3年以上の実務経験があることのうち、いずれかの要件を満たしていること。

② 同業界で働く日本人と同等以上の報酬があること

③ 勤務先の経営が安定していること

④ その他要件(仕事内容や職場の環境、申請者の素行などが適当なものであるか)

日本の就労ビザについては様々な種類があり、その手続きや条件は様々です。日本の出入国管理局や日本の外交使節機関(大使館や領事館)に問い合わせすることが確実かと思われます。

 

 

2.タイ

(1) タイのビザの概要

 タイにおいては、労働者であるかどうかを問わず、外国人が職業的行為を行うためには、就労ビザが必要となります。

そのため、たとえ1日の滞在であっても、ビジネス、教師、スポーツ指導、芸術関連のパフォーマンスまたは興行、インターンシップ(教育機関のプログラム以外(有償))などの目的で入国するためには就労ビザが必要となります。就労ビザは入国日から90日間滞在が可能なシングルビザと、ビザ発行から1年間複数回の出入国が可能なマルチブルビザの2種類があります。通常マルチブルビザの方が取得要件は厳しいとされています。

(2) 就労ビザの取得要件(更新の要件)

タイでは学歴・職歴要件などは特にありませんが、最低給与については申請者の国籍ごとに定められています。申請者が日本人の場合、最低月額5万バーツ以上の給与が当該日本人に支払われている必要があります。

また、タイで就労ビザを取得後、入国管理局で更新するためには、使用者は原則として外国人1人に対してタイ人4人以上を雇用している必要があります(1:4ルール)。この点、2017年3月の日タイ経済連携協定において、日本人である企業内研修生やインターン生については1:4ルールの適用はなく、タイ人の雇用義務を負わないとして、ルールの緩和がなされました。ただし、この場合のビザ延長手続に関して、在タイ日本大使館等が発行したレターをビザ延長申請者が入国管理局に提出することなど所定の手続が必要です。

(3) 就労ビザが不要な場合

2015年にタイ労働省が発表した通達によれば、討論会や講演会、学術講義等への出席、企業視察や商談への出席、会社取締役会への出席等の行為などについては、「就労」行為に該当せず、就労ビザは不要であるとされています。

 もっとも、行為者の立場やこれらの行為への関わり方によっては、「就労」行為に該当し就労ビザが要求される可能性があるため、注意が必要です。

 

3.マレーシア

 就労を目的としてマレーシアに来る場合、たとえ短期間でも就労ビザの取得が必要です。就労ビザは、雇用パス、プロフェッショナル・パス、外国人労働者(ワーカー)に対するワークパーミットなどが主なものとして存在します。雇用パス取得後、帯同する家族は、滞在ビザ(ディペンデントパス)を申請し発給を受け、マレーシア滞在が可能になります。当該パスの有効期間は、駐在員の雇用パスの有効期間と一致します。

(1) 雇用パスを取得するための要件

マレーシアで就労する場合に一般的に取得するビザは雇用パス(Employment Pass)です。雇用パスは、通常マレーシアの使用者に雇用される管理職・専門職の外国人に発給されます。

外国人の雇用パスの発給に要する最低月額給与は以下のとおり定められています。

雇用パスを取得するための最低資本金は以下のとおりです。

(2) 雇用パスの申請手続き

オンラインでの申請が導入されており、雇用パス申請は新規、更新のいずれの場合においてもオンラインでの申請が必須です。まず、入国管理局の外国人サービス部門(ESD:Expatriate Service Division)にオンラインで会社を登録し、登録完了後、申請者の雇用パス申請をオンラインで行うことになります。

また、2023年1月より改正雇用法が施行されたことにより、駐在員を含む外国人労働者を雇用する場合には、労働局の事前の承認を得る必要があります。

(3) 雇用パス申請のための必要書類

一般的には以下の書類が必要になります。

  1. パスポート写真(ライトブルーの背景、サイズは3.5×5.0cmまたは99×142 pixel)
  2. パスポートのコピー(全ページ、少なくとも6ページの空白のページが必要、有効期限12か月以上)
  3. 最終学歴の英文卒業証明書
  4. 履歴書
  5. 雇用契約書(給与額及び雇用年数の記載が必要であり、申請するカテゴリーの所定の要件を満たす必要があります。)

 

 

4.ミャンマー

(1) ビザの概要

日本人がミャンマーに入国する場合、たとえ観光目的であっても観光ビザが必要となります。

ミャンマーで就労する場合には、ビジネスビザが必要となります。通常のビジネスビザは70日間有効であり、当該ビザで入国後、ビジネスビザの延長やstay permitの申請手続きを行います。2022年9月に投資企業管理局(DICA)よりビジネスビザの延長要件が発表されており、内容は以下のとおりです。

(2) ビジネスビザの取得要件

a.外国人ビザの延長のための推薦状を申請する企業は登記期間が1年経過していなければならない。

b.会社法を順守していないことにより、「Suspended」及び「Struck-Off」となっている会社は、是正日から1年経過後でなければビザの延長のための推薦状申請が受理されない。

c.外国人ビザの延長のための推薦状の取得を希望する企業は、満期の90日から120日前に申請しなければならない。外国人のパスポートは少なくとも6か月間有効期間が残っていなければならない。

d.外国人ビザの延長のための推薦状の申請に当たり、会社は以下の書類を提出しなければならない。

e. 最新のCompany Extract

d. 現在の会社運営の証拠(ライセンス/許可/政府機関からの証拠、他の関連機関とのビジネス契約書(もしあれば))

e. 外国人に関する取締役会の宣言書

f. 会社のtax returnまたは監査報告書等

g. 関連する外国人の履歴書(2”×1.5”サイズの6か月以内に撮影された写真、学歴、職歴、外国の居住住所、国内の住所を含む)

h. 外国人労働者の職位及び義務に関する委任事項並びに職務概要

i. 雇用契約書及び学歴または資格証明書

j. 勤務期間中の所得税の支払いの証拠

k. 従業員数(外国人/ミャンマー人)

l. 家族構成の証拠

 

5.メキシコ

(1) 概要

就労(メキシコにおいて報酬を得ること)を目的としてメキシコに滞在する場合、たとえ短期間でも就労許可を伴う査証(ビザ)の取得が必要となります。180日以内のメキシコ滞在の場合は、報酬を得る場合の訪問者用査証、180日から4年の場合は、報酬を得る場合の一時居住者用査証となります。

(2) 報酬を得る場合の一時居住者用査証

メキシコでの就労を目的とする場合、180日超の滞在となることが多く、報酬を得る場合の一時居住者用査証を取得する場合が一般的です。その査証取得までの流れは次のとおりです。

  1. メキシコにおいて外国人を雇用する企業等の登録(Constancia de Inscripción de Empleador)

外国人を雇用する(外国人に対して報酬を支払う場合を含む)法人又は自然人は、税務上の住所を管轄する移民庁(Instituto Nacional de Migración:INM)に外国人を雇用する者として登録します。

  1. INMに対する就労許可を伴う査証の承認申請(Autorización de Visa por Oferta de Empleo)

外国人を雇用しようとするメキシコ人(法人・自然人)は、INMより当該外国人の雇用に際し、就労許可付査証申請の承認を受けなければなりません。

なお、INMは、この申請を受領した場合、当該雇用の信憑性や雇用主の存在、その他提出された情報を確認する目的で、当該雇用主に対して立入調査を実施することがあります。

  1. 承認の取得(NUTの発行)

ii)の申請が承認されるとNUTと呼ばれる手続管理番号が発行されます。

  1. 在外メキシコ大使館・領事館での面接・査証の発給

査証を申請する本人は、iii)のNUTを用いて、最寄りのメキシコ大使館又は領事館に予約を入れ、面接を受けなければなりません。面接時には、ii)において提出された査証申請者の情報が確認され、領事の判断により査証が発給されます。

なお、面接において、査証申請者の渡航理由に異常がみられる場合、提出資料が不正に入手されたもの、又は改ざんされたものである場合、査証申請者がメキシコに入国することに支障がある場合には、領事はINMに対し、ii)の承認を再検討するように要求し、INMは7営業日以内に承認の是非を判断することになります。

(3) 査証取得後の手続

報酬を得る場合の一時居住者用査証を取得した外国人は、メキシコ入国後30日以内に、INMに対し一時居住者カード(Tarjeta de Residente Temporal)を申請しなければなりません。

 

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでの就労ビザ(Eビザ)及び労働許可証(ワークパーミット)の概要について紹介します。なお、政府プロジェクトに従事する駐在員(Aビザ)は個別の規定に従います。経済特区又は輸出加工区の入居企業にて就労する駐在員は、一般的な手続きと同様ですが、担当省庁がそれぞれBEZA、BEPZAとなります。

(1) ビザの概要

 バングラデシュでビジネスに従事する場合は、ビジネスビザ(Bビザ)、就労ビザ(Eビザ)、投資家ビザ(PIビザ)のいずれかを取得する必要があります。このうち、ビジネスビザは、現地での情報収集や会議への出席などの目的で、対価があるなしにかかわらず、就労は認められておりません。

(2)  労働許可証発行の要件

 BIDAが労働許可証を発行する要件は以下の通りです。

  • 就労先が適切な当局によって認可/登録されている産業/事業所であること
  • 現地の専門家や技術者が不足している職種は優先される(バングラデシュ国内で人材募集を行ったが、適切な人材が確保できなかったことの証明が必要)
  • 18歳以上であること
  • 新規採用・雇用延長について当該企業の取締役会の決議があること
  • 就労先の支店・駐在員事務所・現地法人が存在すること
  • 外国人従業員数が従業員の総数に対して、次の割合を超えないこと(製造業の場合は5%、非製造業の場合は20%) 
  • 支店・駐在員事務所の場合、初期設立費用として5万ドルの振込及び現金化証明があること
  • 労働許可証を付与する外国人の最低給与額が規定額を満たしていること
  • 内務省からのセキュリティクリアランスが完了していること

(3) 就労ビザ及び労働許可証の申請手続き

 一般的な手続きは、以下の通りです。

  1. バングラデシュに支店・ 駐在員事務所、現地法人を設立し、BIDAにEビザの推薦状発行を依頼する
  2. 日本のバングラデシュ大使館にて、Eビザを申請する
  3. バングラデシュにEビザで入国後、15日以内に労働許可証を申請する
  4. セキュリティクリアランスが開始される(セキュリティクリアランスには数ヶ月かかるため、完了前に労働許可証は発行されます)
  5. バングラデシュ国内にてEビザを更新する(セキュリティクリアランスの進捗状況で、当局により、更新されるEビザの有効期限が決められます)

 

(4) 注意事項

 最近、Bビザでの滞在に関し、トラブルとなるケースが増えていますので、ビザの手続きを依頼しているエージェントに確認が必要です。また、必要書類、要件などは随時変わることがあり、在日バングラデシュ大使館や各行政庁の情報に留意する必要があります。一般的にビザ発行に時間がかかることが多く、特に、ラマダン中やイード前は更に時間を要しますので、余裕をもって手続きを行う必要があります。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける就労ビザの概要

フィリピンで就労を希望する外国人は、「9(G)VISA」や「Pre-arranged Employment VISA」と呼ばれるビザ(以下「フィリピン就労ビザ」といいます。)を取得する必要があります。フィリピン就労ビザを取得すると、ビザ取得の際に申請した企業で働く間は、原則としていつでも出入国する権利が与えられます。 フィリピン就労ビザの最初の有効期間は、1年、2年または3年間となります。その後は雇用契約の期間に応じて、一度の更新で3年まで延長することができます。

  1. フィリピン就労ビザ取得の流れ

フィリピン就労ビザ取得のためには、大まかに分けて以下の3つのステップを経ることが必要です。

    1. フィリピンで適法に設立している現地企業または現地に拠点をもつ企業において仕事を確保する。
    2. フィリピン労働雇用省(以下「DOLE」といいます。)から、フィリピン外国人雇用許可証(以下「AEP」といいます。)を取得する。
    3. 雇用する会社が、フィリピン就労ビザ取得のための必要書類を提出する

②で述べたAEPは、フィリピンで有給の雇用に従事しようとする外国人に必要な最も一般的な就労関係の証明になります。6ヶ月以内の短期就労を希望する場合は、入国管理局に特別就労許可を申請することができる場合があります。

  1. フィリピン就労ビザ取得に必要な提出書類

フィリピン就労ビザの取得に必要な提出書類は、以下のとおりです。

    1. 申請書提出
    2. AEP
    3. コミッショナー宛のジョイントレター
    4. 入国管理局からの証明書
    5. 委任状
    6. 従業員数についての証明書
    7. 保証書
    8. 申請者のパスポート
    9. 外国人の登録証明書
    10. 雇用契約書のコピー
  1. フィリピン就労ビザ取得にかかる時間

フィリピン就労ビザの取得には、2~3ヶ月かかると言われています。フィリピン就労ビザの承認を待っている間にフィリピンに入国を希望する外国人は、観光ビザを申請し承認前に入国することも可能です。また、一定の条件のもとではフィリピン就労ビザの申請中に暫定的な就労許可を申請することにより、直ちに就労を開始することができる場合があります。

 

8.インド

外国人がインドで就労するためには雇用ビザ(Employment Visa)を取得する必要があります。その他の在留資格としては、インド到着時に空港で取得することも可能な観光ビザ(Tourist Visa)や拠点設立の準備等の目的で取得するビジネスビザ(Business Visa)等があります。以下では、雇用ビザの取得手続等について説明します。

(1) 雇用ビザ取得の要件

以下が雇用ビザ取得のための要件となります。

  1. 高度な技能や資格を有する専門家でありインド国内の会社等に雇用されている者であること
  2. ルーティーンワーク、一般的業務、秘書業務等の適任のインド人がいる業務ではないこと
  3. インド国内の会社で雇用される又はインド国内で実施されるプロジェクトに従事する外国企業に雇用されることを目的とした入国であること
  4. 一部の業種を除き、年間の給与が25,000米ドルを超えていること
  5. 納税義務等の全ての法律上の義務を遵守していること
  6. 出身国のインド大使館(領事館)又は2年以上居住する国のインド大使館(領事館)から雇用ビザが発給されること
  7. 会社の登記等の就労に関する書類は、徹底的に確認されビザの種類を判断される
  8. 使用者の名称はビザのシールに印字される

(2) 雇用ビザを申請できるその他の資格

上記(1)の要件を充足した上で、以下に該当する外国人も雇用ビザを申請することができます。

  1. 月給ではない固定の報酬をインド企業から得る契約に基づきコンサルタントとして入国する者
  2. ホテルやクラブ等で定期的にパフォーマンスを行うことを目的とした外国人アーティスト
  3. 国/州レベルのチーム又は著名なスポーツクラブでコーチとして雇用されることを目的として入国する者
  4. インドのクラブ/組織と特定の期間の契約がある外国人スポーツ選手
  5. 独立したコンサルタントとしてエンジニアリング、医療、会計、法律のサービスを提供するために入国する自営業の外国人
  6. 外国語講師/通訳
  7. 外国の専門シェフ
  8. 設備や機械等の設置のための契約で設備や機械の設置等のために入国した外国のエンジニアや技師
  9. 外国企業に手数料やロイヤルティを支払うインド企業にテクニカルサービス、ノウハウの移転等の提供を行うために委任された外国人

(3) 雇用ビザ申請のための必要書類

以下が雇用ビザ申請のための必要書類となります。

  1. 履歴書
  2. 日本の会社からの推薦状(無職の場合は自己推薦状)
  3. インドの雇用会社からのアポイントメントレター
  4. インドの雇用会社のプロフィール
  5. 雇用契約書
  6. インドでは得ることのできない技能を有することの証明書
  7. インドの雇用会社の登記証明書
  8. 申請者の住居(ホテル可)が確保されていることを示す書類

(4) 雇用ビザの申請手続

申請者は、オンラインシステム(Indianvisaonline.gov.in)を通じて申請書を作成し提出します。また、申請者は印刷した申請書と必要書類をインド大使館に提出する必要があります。申請が承認された後、申請者は大使館でビザを受領するか、大使館が申請者に郵送で送付します。就労ビザを得てインドに入国した後、14日以内に外国人地域登録局(FRRO)、外国人登録事務所(FRO)に登録する必要があります。

 

9.アラブ首長国連邦(ドバイ)

 アラブ首長国連邦(UAE)では、労務を提供する場合、人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation(「MoHRE」))から労働許可を取得しなければならず、入国後、各首長国の保健当局で健康診断を受け、連邦アイデンティティ・市民権庁(Federal Authority for Identity and Citizenship)から身分証明書(Emirates ID)を取得した後に、各首長国の居住外事総局(General Directorate of Residency and Foreigners Affairs(「GDRFA」))から居住ビザを取得する必要があります。

(1) 入国

 UAEでの就労先が決まっている場合は、MoHREから発行された就業先のオファーレターに署名後、雇用者(UAE国民、有効な居住許可を有する外国人滞在者、民間又はフリーゾーンの企業等)を通じて就労入国許可(employment visa/entry permit)を取得し、入国から60日以内に、居住ビザと就労許可を取得しなければなりません。訪問ビザや観光ビザで入国した場合、就労は認められません。

 就労先が未定の場合、身元保証人(sponsor)なしで求職者訪問ビザ(jobseeker visit visa)を取得することもできます。申請要件は、職歴(MoHREの規定する第1(議員、経営者、会社役員)、第2(科学、技術または人的分野の専門家)または第3(科学、技術または人的分野の技術者))もしくは学歴(教育省が承認した世界優良500大学を卒業後2年以内で、学士またはそれと同等以上)および経済的保証を有していることです。

(2) 就労許可

 就労許可は、有効な営業許可を有する雇用者が、従業員の有効な旅券、写真、Emirate ID及び健康診断の結果、雇用契約書等を添えて、申請して取得することとなります。

(3) 居住ビザ

UAEで就労する者に対する居住ビザには、通常就労ビザ(standard work visa)、グリーンビザ(green visa for skilled worker)及び家事使用人ビザ(domestic worker visa)の3種類があります。

通常就労ビザは、通常2年有効で、雇用者を通じて、民間業者で雇用される者については民間企業就労者用居住ビザを、政府またはフリーゾーンで雇用される者についてはフリーゾーン内個人居住ビザを該当首長国のGDRFAに申請することで取得できます。

グリーンビザは、自営業者または技能労働者が申請でき、雇用者または身元保証人なしで、5年間の居住が認められます。自営業者・フリーランサーについては、MoHREからの自営許可、学歴証明(学士または専門的免状)、収入証明(過去2年間の自営収入が36万UAEディルハム以上またはUAE滞在期間中の経済的自立)を有すること、技能就労者については、MoHREの規定する第1、第2または第3の職種に属し、学歴証明(学士またはそれと同等以上)、有効な雇用契約と給与証明(月15,000UAEディルハム以上)を有することが要件とされています。

 この他、投資家、起業家、専門家等の一定の基準を満たす外国人は、身元保証人なしで5年または10年有効なゴールデンビザ(golden visa)を取得することができます。申請には、投資家の場合は200万UAEディルハム以上の資本証明等、専門家の場合は医師、AI等特定分野の科学者、発明家等で管轄官庁からの承認等が要件とされています。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://hlootahlaw.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://india.tny-legal.com/index.html

Newsletterの記載内容は2023年6月30日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1. 日本

日本では、報酬を得る目的で法律業務全般を行うことができるのは弁護士に限定されます。外国法事務弁護士という資格がありますが、日本法についての法律事務を行うことはできません。国籍要件はありませんので、外国籍の弁護士もいれば、日本籍の外国法事務弁護士もいます。

(1) 弁護士資格

弁護士の資格については、弁護士法(昭和 24 年法律 205 号)に規定されています。

(a) 一般規定

弁護士になるには、司法修習を終え(第4条)、各都道府県にある弁護士会(ただし、東京都については、東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会の 3 会があります。以下「単位会」といいます。)に入会して、日本弁護士連合会の弁護士名簿に登録する必要があります(第 8 及び 9 条)。

司法修習を終えるには、まず、大学卒業後に 2 年または 3 年の法科大学院を修了するか在学中で学長の認定を受け、または司法試験予備試験に合格することで、司法試験の受験資格を得る必要があります。司法試験に合格した者は、司法修習を希望することができます。司法修習では、1 年間にわたり、司法研修所、裁判所、検察庁、弁護士事務所等で修習を行い、最後に実施される司法修習生考査(いわゆる「二回試験」)に合格することで、司法修習を終えることとなります。

(b) 特別規定

司法修習を終えることなく弁護士になれる特別な場合として、司法試験合格後に裁判所調査官、裁判所事務官、国会議員等の特定の法律に関係する職または法律学の教授・准教授として 5 年以上働いた経験を有する者(第1号)、司法試験合格後に民間企業または公務員として法律に関する専門知識として規定される職務に 7 年以上従事する者(第 2 号)、若しくは 5 年以上特任検事の職にあった者(第 3 号)で、日本弁護士連合会の研修課程を修了したと法務大臣が認定した者(第 5 条)、並びに最高裁判所の裁判官経験者は、弁護士になる資格を有します(第 6 条)。

資格を得た者は、単位会に入会をして、単位会を通じて日本弁護士連合会に登録することで、弁護士として活動することができます(第 8 条、9 条)。

(c) 欠格事由

①禁固以上の刑に処せられた者、②弾劾裁判所で罷免の裁判を受けた者、③懲戒処分により、弁護士会を除名される等し、処分から 3 年を経過しない者、④破産手続開始決定を受けて復権していない者は、弁護士となる資格を有しません(第 7 条)。

(2) 外国法事務弁護士

外国法事務弁護士になる資格は、「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する法律」(昭和61年法律第

66 号、以下「外弁法」といいます。)に規定されています。

外国において日本の弁護士に相当する法律事務を行う資格を有し、かつ資格を得た外国において資格取得後 3 年以上の実務経験を有し(第 12 条第 1 号)、日本または外国において上記(c)の欠格要件に該当しない(第 10 条、第 12 条第 2 号)等の要件を満たす者が、法務大臣の承認を得ることで、外国法事務弁護士となる資格が取得できます。その上で、単位会を通じて日本弁護士連合会に登録請求をし、審査を経た上で登録されること(第 25 条、第 26 条第 1 項)により、そもそも資格を取得した国及びそれ以外の指定を受けた外国の法(第 17 条)についての事務を日本国内で取り扱うことができます。

外国法事務弁護士は、日本で行われる国際仲裁事件では当事者を代理することができますが、弁護士のように日本の裁判所で訴訟代理や行政庁への申立の代理業務を行うことはできません。

2.タイ

(1) タイの弁護士について

タイで弁護士として業務を行うためには、試験に合格することは必要不可欠ではなく、また資格取得までの手順も複数あります。

法的なアドバイスを行うのみであれば、タイ弁護士会が承認する機関(通常は大学の法学部)で学位(学士)を取得していれば足りるとされています。他方、弁護士として裁判業務を行うためには、弁護士資格が必要となり、試験に合格した後、一定期間の研修を受けていること等が要件となっています。

(2) タイの弁護士資格を得るまでの過程

タイで弁護士資格を得るための一般的な手続きは以下の通りです。

①タイで法学の学士を取得する

通常、4年間の学部課程を修了することを意味します。

②弁護士資格のための試験に合格する

民事裁判や刑事裁判の書面、契約書の作成などの筆記試験が行われます。

③研修を受ける

弁護士資格取得後7年以上経過し、タイ弁護士会から認証を受けた弁護士のいる法律事務所で実務研修を行います。通常、研修期間は 6 ヶ月であり、この間に実務経験を積みます。

④実技試験に合格する

実際に裁判で使用される書式にしたがって、指定の時間内に訴状や陳述書などを作成します。

⑤口述試験に合格する 口述試験は2~3人の試験委員により行われます。口述試験では、法的知識の他に実務知識に関する質問などがなされます。

⑥弁護士倫理の研修プログラムを修了する

弁護士としての職業倫理や職務上の責任についての研修が行われます。

⑦タイ弁護士会に会員の申請をする

タイ弁護士会に申請を行い、要件や欠格事由の有無が判断されます。欠格事由は、禁固刑以上に処せられたことや、破産宣告を受けたこと、政治以外の公務員や地方公務員でないこと等があげられます。

⑧弁護士登録が完了する

なお、②③については、弁護士資格の試験合格前に、弁護士資格取得後7年以上経過し、タイ弁護士会から認証を受けた弁護士のいる法律事務所で1年間の研修を受け、その後試験に合格することも認められています。この場合、④実技試験は免除されることになります。

(3) 外国人弁護士

タイの弁護士法では、弁護士資格の申請者は、タイ国籍を有する者でなければならないとしています。そのため、外国人がタイで弁護士資格を得ることはできません。もっとも、タイでは外国人が法律コンサルタントとし

て、法的助言を中心に活動することについては弁護士法上、特に制限はありません。

3.マレーシア

マレーシアにおいて弁護士になるには、学位の取得、実務研修及び試験合格が必要です。弁護士資格は、マレーシアの弁護士会によって規制されており、1976 年法律専門家法(Legal Profession Act 1976)に資格要件等が定められています。弁護士になるためには通常3年~5年かかると言われています。また、マレーシアでは弁護士会は強制加入とされています。

マレーシアの弁護士統計データによると、2011年から2023年までの間に、マレーシアの弁護士数は13,672

人から 21,570 人に増加しており、この 21,570 人のうち、9,508 人が男性で、12,062 人が女性です。

(1) 弁護士になるまでの過程

マレーシアで弁護士になるには、以下のステップを踏む必要があります。

  1. 法学の学位を取得する

マレーシアの法律専門家資格認定委員会(Legal Profession Qualifying Board Malaysia)が認定する法学の学位を取得する必要があります。マレーシアには、マラヤ大学やマラ工科大学等の認められた法学の学位を提供する大学がいくつかあります。また、英国、オーストラリア、ニュージーランドの特定の大学の法学の学位取得者にも後述の CLP の受講を認めています。

マレーシアの特定の大学では、後述の CLP を免除できるプロフェッショナル・イヤーを含む学位を取得することができます。

  1. マレーシアの CLP(Certificate in Legal Practice)又は英国の BPTC(Bar Professional Training Course)を修了する

マレーシアの法律専門家資格認定委員会が実施する 9 ヶ月間のフルタイムの研修を修了する必要があります。マレーシアの司法試験として知られる CLP の試験は厳しく、合格率は毎年 10%から 20%程度と低くなっています。また、英国の職業訓練コースである BPTC を修了する方法を選択することもできます。

  1. Pupillage を修了する

CLP 又は BPTC を修了した後、法律事務所や法務部門で実務研修を行う Pupillage を受ける必要があります。Pupillage は、半島マレーシアでは 9 ヶ月間行われ、この間に、資格を持つ弁護士の監督のもとで働き、法律実務の実践的な経験を積みます。

  1. マレーシア弁護士会へ入会する

Pupillage 修了後、マレーシアの弁護士資格を申請することができます。マレーシア弁護士会が定める人物評価や適性評価等の要件を満たした上で、継続的専門能力開発(CPD)要件を遵守する必要があります。

(2) 外国人弁護士の業務範囲

外国人弁護士は、法律専門家法 28A 条に基づき、マレーシアにおいて法律業務を行うための資格を取得することができます。

外国人弁護士は、マレーシアで外国人弁護士として登録し、国際パートナーシップ、適格外国法律事務所(QFLF)又はマレーシアの法律事務所に雇用されることを条件に、許可された業務領域で業務を行うことができます。国際パートナーシップや QFLF で働く登録外国人弁護士は、1 暦年中に 182 日以上マレーシアに居住しなければならないとされています。また、外国人弁護士は、許可された業務分野において、関連する法的専門知識と経験を有していることを証明できなければならず、選考委員会による推薦、弁護士会が適切と考え

る条件、登録料の支払いといった要件を満たす必要があります。

4.ミャンマー

(1) 弁護士の種類

ミャンマーの弁護士は、法廷弁護人と上級抗弁人の2種類に分けられます。両者の差異は、法定弁護人は最高裁判所を含めた全ての裁判所での立会いを認められているのに対し、上級抗弁人は最高裁判所におけ

る立会いが認められていません。しかし、それ以外には両者の権限に原則として差異はありません。

(2) 弁護士になる要件

上級抗弁人になるためには、法学士を取得後、1 年間のインターンを経験する必要があります。インターンの時代には、10 年以上のキャリアを有する法廷弁護人の下で、155 回以上の裁判に立ち会った上、その1回毎に裁判官からの推薦状をもらい、155枚以上の推薦状を添付した申請書を最高裁判所に提出し、上級抗弁人の資格を取得します。

法廷弁護人になるためには、上級抗弁人の資格を取得後、3 年間かけて、タウンシップ裁判所 5 ヶ所の裁判官、地区裁判所 1 ヶ所の裁判官、州・管区高等裁判所 1 ヶ所の裁判官から、合計 7 枚の推薦状を取得した上で、最高裁判所に法廷弁護人への昇格を申請する。最高裁判所から法廷弁護人への昇格について認可されれば、すべての裁判所で立会いが可能となります。最高裁判所は、各弁護士に対し、顔写真入りの身分証明書を交付しており、それぞれ資格を取得した順に番号が付されています。ミャンマー国内の弁護士数は、法廷弁護人が約 8,000 名、上級抗弁人が約 30,000 名とされています1

上記のとおり、立ち合い等のみが要件であり、日本のような資格試験はないことから、弁護士であっても知識の有無に大きな差があります。

また、日本のような弁護士自治は存在せず、最高裁判所がライセンスの発行についても権限を有しており、国を相手とする訴訟は一般的ではありません。

なお、日本と異なり、外国法弁護士制度も存在しません。

5.メキシコ

(1) 弁護士の要件

メキシコでは、弁護士として活動するための特別な資格は存在せず、法学位を取得し、「Cédula Profesional」と呼ばれる登録証をもって弁護士として活動できることとなります。法学位を取得するための要件は各教育機関によって異なり、連邦行政機関における 480 時間の奉仕活動と一定以上のスコアを有することの他、論文やインターンシップが課される場合もあるようです。

「Cédula Profesional」は、公教育省(Secretaría de Educación Pública)が発行する、専門的学習の修了と職業を実践するための知識を有することを証する証明書となります。また、同時に国家専門家登録簿(Registro

Nacional de Profesionistas)に登録されていることが証されます。

法学位の付与が決定されると、教育機関はこれを公教育省に通知し、国家専門家登録簿へ登録します。「Cédula Profesional」は、教育機関から当該学生に渡されることが多いようですが、本人自身の申請により公教育省から取得することもできます。

国家専門家登録簿は一部公開されており、氏名を用いて「Cédula Profesional」の有無を検索することも可能です。(Registro Nacional de Profesionistas)

なお、国籍による制限もなく、外国人であっても、メキシコの法学位及び「Cédula Profesional」を取得すれば、メキシコの弁護士として活動することができます。

(2) 法廷に立つための要件

前述のとおり、「Cédula Profesional」を有していれば、弁護士として活動できますが、法廷に立つ場合は、別途登録が必要となります。連邦管轄の裁判の場合、連邦司法府(Poder Judicial de la Federaciòn)の裁判所に登録を申請し、弁護士単一登録システム(Sistema Computarizado para el Registro Único de Profesionales del Derecho)に登録されることとなります。一度登録されれば、連邦管轄のいずれの裁判所でも弁護士として法廷

1 國井弘樹「ミャンマー現地調査報告」ICD news 52 号、8 頁(2012 年)に立つことができます。また同様に、州の裁判所での裁判の場合は、州の定めに従い裁判所に登録を行うことで、弁護士として法廷に立つことができます。

(3) 弁護士会

日本と異なり、メキシコでは弁護士会の設置は義務付けられていません。任意の弁護士協会(Barra de Abogados や Colegio de Abogados)が複数存在します。弁護士にも、これらの団体への所属は義務付けられ

ていません。

6.バングラデシュ

(1) 弁護士(Advocate)資格の取得要件

バングラデシュにおける弁護士資格を取得するための要件は、大きく 3 つのカテゴリー(下級裁判所の弁護士と最高裁判所(高等裁判所部及び上訴部)で活動できる弁護士)に分けられます。

弁護士資格を取得するための要件は、「バングラデシュ弁護士会(Bangladesh Bar Council)(以下、「弁護士

会」という)」(法律実務家および弁護士会条例1972年「Bangladesh Legal Practitioners and Bar Council Order」に基づいて設立された弁護士会)が定めており、同会が弁護士資格を付与しています。

取得要件は以下の通り。

  1. バングラデシュ国籍を有すること
  2. 21 歳以上であること
  3. 法学部を卒業していること

法学部学士(LL.B(Hons.)の学位(高等学校を卒業後に大学 4 年間で取得する学位)または法学部学士(LL.B)の学位(法学部以外の学部を卒業後に 2 年間の法律の学習で取得される学位)の取得

(後者は将来的に廃止される予定)

  1. 経験豊かな弁護士(Advocate)の指導のもとでの6ヶ月のPupillageと呼ばれるインターンシップ(当該

Advocate は弁護士会に登録し、10 年以上の経験を積んだ者であること)

  1. インターンシップの後、弁護士会が実施する弁護士登録試験(選択式試験、筆記試験、口頭試験)に合格すること。

最高裁判所・高等裁判所部で活動できる弁護士の資格を取得するためには、更に、以下の要件が必要です:

  1. 法学部修士(LL.M)取得者は、最高裁判所登録の弁護士(Advocate)の下で 1 年以上の実務経験

(法学部学士(LL.B)の場合は、2 年以上の実務経験)

  1. 弁護士会の同意書
  2. 筆記および口頭試験に合格すること

また、最高裁判所・高等裁判所部で 10 年以上の実務経験を積むと、最高裁判所・上訴部の弁護士資格

(Senior Advocate)を取得することができます。

(2) 弁護士会

弁護士会は、原則、最高裁判所弁護士会(Supreme Court Bar Association)と地域弁護士会の 2 つの主要な組織で構成されています。地域弁護士会は原則県(District)ごととなっていますが、その枠を超えて活動しているものもあり、その総数は県(District)の数を超えています。弁護士として活動する場合、弁護士会に所

属する必要があります。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける弁護士資格の概要

フィリピンでは、弁護士資格を有する者でなければ、実際に法律行為を行うことができません。フィリピンで

弁護士として活動するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 学歴要件

・ フィリピン政府公認の法科大学院を卒業していること

・ 公認の大学またはカレッジで学士号を取得していること

  1. 学業以外の要件

・ フィリピンの市民であること

・ 21 歳以上であること

・ 道徳的な人格を備えていること

・ 道徳的に問題のある罪を犯していないこと

・ フィリピン司法試験に合格すること

(2) フィリピン人弁護士の資格確認

フィリピン人弁護士に依頼を行う際、その人物が適法な資格を有しているかを確認する方法についてご紹介します。

確認方法の一つは、弁護士名簿を確認する方法です。フィリピンの最高裁判所は、弁護士のオンラインリスト(https://sc.judiciary.gov.ph/lawyers-list-2/)を管理しており、氏名等を入力することで検索ができ、その人が実際に適法な弁護士資格を有しているかを確認することができます。

もう一つの方法は、弁護士証の提示を求める方法です。フィリピンの弁護士資格を持つ者は、フィリピン統合弁護士会から弁護士証が発行されます。このカードには、弁護士の氏名、弁護士番号、名簿番号、IBP 支部、顔写真が記載されています。

(3) フィリピン人弁護士の独占業務

フィリピンにおける弁護士業務は、フィリピン最高裁判所によって規定されています。フィリピンの弁護士資

格を有する者のみが行うことができる代表的な業務は、以下のとおりです。

①裁判所への出廷

フィリピン人弁護士のみが、クライアントの代理人として法廷に出廷することができます。刑事事件、民事事

件、行政事件においてクライアントを代理することが含まれます。

②政府機関への出頭

フィリピン人弁護士のみが、クライアントの代理として政府機関に出頭する権限を有します。証券取引委員

会、司法省、内国歳入庁への出頭が含まれます。

8.ベトナム

(1) ベトナム弁護士資格

ベトナムで弁護士資格を取得するためには、ベトナム国民であること、大学の法学部を卒業して法学士資格を取得すること、所定の研修(研修施設における弁護士業務研修及び法律事務所等における実務修習)を修了することが必要です。

(2) 弁護士業務研修・実務修習

法学部を卒業して弁護士になろうとする者は、まずは、司法省が設置している弁護士業務研修施設において、12か月間の研修を受けることになります。研修施設はハノイとホーチミンにあります(法律上は12か月と規定されていますが、カリキュラム上、実際には18か月程度の期間となることもあるようです。)。

業務研修を修了すると、弁護士修習生資格が与えられ、法律事務所において弁護士の指導の下で、実際

の弁護士業務を行いながら実務修習を受けることになります。実務修習の期間は12か月です。

(3) 弁護士実務修習結果評価試験・弁護士免許交付

実務修習を修了した者は、ベトナム弁護士連合会が実施する「弁護士実務修習結果評価試験」を受けることになります。この評価試験に合格した者に評価試験証明書が交付されます。合格率は、およそ 40%から 50% 程度です。

弁護士実務修習結果評価試験に合格した者は、地方弁護士会に弁護士免許交付申請書を提出します。地方弁護士会は申請書類を審査した上で地方の司法局へ申請書類を送付し、最終的には中央の司法省での審査を経て弁護士免許が交付されることになります。

(4) 外国の弁護士資格を有している場合

上記のとおり、ベトナムで弁護士になるためにはベトナム国籍を有している必要がありますが、外国において弁護士資格を取得している者については、「外国弁護士」資格を取得することも可能です。外国弁護士資格を取得するためには、

・外国の権限のある機関・組織によって交付された有効な弁護士免許を保有すること ・外国の法律、国際法に関する助言を行った経験があること

・ベトナム社会主義共和国の憲法、法律及びベトナム弁護士職務倫理規定の遵守を約束することが必要とされています。

なお、外国弁護士は、ベトナムの裁判所において、当事者の代理人、弁護人として訴訟に参加することは認められていません。

(5) 外国法律事務所の支店又は外国法律会社の設立

ベトナムでは、弁護士が個人として法律事務所を開設する他に、法律会社(日本の弁護士法人に相当)を設立して弁護士業務を行うことが可能ですが、外国の法律事務所は、ベトナム国内に支店を開設したり、100% 外資の法律会社(外国法律会社)を設立することも可能です。

  発行 TNY Group
 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2023年5月29日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1.日本

 日本の不法行為にかかる法規定は、民法(明治29年法律89号)第3編第5章に一般的に規定されるとともに、個別の不法行為の類型によって特別法での規定が設けられるという構造を有しています。以下では、民法の規定と、事業者に関連する主な特別法における規定について紹介します。

  1. 民法

(a) 一般規定

 民法第709条は、不法行為について、故意または過失により他人の権利または法律上保護さる利益を侵害することとし、それによって損害が生じた場合に、賠償責任を課すことを規定しています。

 損害の対象は、財産以外の身体、自由、名誉等にも及び(第710条)、生命の侵害については、被害者の父母、配偶者及び子に対しても損害賠償を負い(第711条)ます。また、胎児にも損害賠償の権利が認められています(第721条)。

 加害者は、事理弁識能力を有していることが要件とされます(第712条、第713条)。

 正当防衛及び緊急避難による物の損傷に関しては、損害賠償を免除されます(第720条)。

(b) 特別規定

 実際の加害者の他に、責任無能力者の監督義務者(第714条)、事業従事者の使用者及び監督者(第715条)、請負人への指図に過失のある注文者(第716条)、土地の工作物の占有者及び所有者(第717条)、動物の占有者(第718条)に対して、損害賠償義務が課されます。

 また、不法行為が共同で行われた場合には、加害者各自が連帯責任を負い、教唆者や幇助者も共同行為者とみなされます(第719条)。

(c) 消滅時効

 不法行為による損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年間(ただし、生命または身体への侵害に関する損害については5年間)、不法行為時から20年間で時効により消滅します(第724条、第724条の2)。

(2) 特別法

(a) 自動車損賠賠償保障法(昭和30年法律第97号)

 加害者である自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)に対して、民法とは異なり、自ら及び運転者の注意義務違反の不存在やその他の免責事由の立証責任を転嫁しています(第3条)。

(b) 製造物責任法(平成6年法律第85号)

 民法とは異なり、故意や過失を要件とせずに、製造物の欠陥によって生命・身体・財産に損害が生じた場合に、製造業者・輸入業者・製造業者であるとの表示をした者等に賠償責任を課し(第3条)、開発危険の抗弁(第4条第1号)や欠陥が製造者の指示に従ったことにより生じ、その欠陥の発生に過失がない場合にのみ免責される規定となっています。ただし、製造物引渡から10年で消滅時効が成立する点については、民法よりも軽減されています。

(c) 鉱物法(昭和25年法律第289号)

 鉱物の採掘のための土地の掘削、坑水若しくは廃水の放流、捨石若しくは鉱滓の堆積または鉱煙の排出によって、人に損害を与えた場合に、損害発生時の鉱業権者に対して、無過失責任を課しています(第109条第1項)。ただし、被害の発生や拡大に関して、被害者に帰責性が認められる場合や天災その他の不可抗力が競合したときには、賠償責任の有無及びその範囲を定めるにつき斟酌することができるとされています(第113条)。また、鉱業に従事する者の業務上の負傷、疾病及び死亡には適用されません(第25条の5)。

(d) 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)

 工場または事業場における事業活動に伴う、ばい煙、特定物質または粉塵等の健康被害物質により、生命または身体に損害を生じた場合、事業者に対して無過失責任を課しています(第25条第1項)。ただし、不可抗力の斟酌(第25条の3)、事業従事者への不適用(第25条の5)の規定があります。

(e) 水質汚濁防止法(昭和45年法律第138条)

 工場または事業所における事業活動に伴う有害物質の汚水または廃液に含まれた状態での排出または地下への浸透により、生命または身体に損害を生じた場合、事業者に対して無過失責任を課しています(第19条第1項)。不可抗力の斟酌(第20条の2)や事業従事者への不適用(第20条の5)の規定があります。

(f)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)

 独占禁止法に違反する私的独占、不当な取引制限または不公正な取引方法を行った事業者は、被害者に対し、損害賠償責任を負い、故意や過失の不存在の証明により免責されません(第25条)。ただし、被害者は、公正取引委員会による排除措置命令または納付命令の確定後にしか、裁判上の主張をすることができず、その確定日から3年で請求権は消滅時効にかかります(第26条)。

 

2.タイ

(1) 不法行為法の概要

 タイ民商法典(Civil and Commercial Code(以下、CCC))では、420条に不法行為の規定が存在します。

同条は、「故意又は過失により、他人の生命、身体、健康、自由、財産又は何らかの権利を違法に侵害した者は、不法行為を犯したものとみなし、不法行為によって生じた損害を賠償する義務を負う。」としており、日本の不法行為の規定とほぼ同じ内容となっています。また、その他の不法行為法の規定についても日本法と類似点が多く、比較的日本人に馴染みやすいものになっています。

 以下はタイ法と日本法の不法行為法の相違点に焦点を当て、紹介いたします。

(2) 賠償の方法と相殺の可否

 損害賠償の方法や範囲について、CCCでは、不法行為の状況や重大性に応じて、裁判所が合理的に決定し、不法行為により奪われた財産の返還又はその財産の価額賠償、不法行為によって生じた損害賠償を行うとしています(CCC438条)。

 また、CCC345条によると、不法行為によって債務が発生した場合、債務者は債権者に対して相殺を対抗することはできないとしています。日本法では、不法行為によって生じた債権について相殺が可能である場合がありますが、タイ法にこのような限定はなく、文言上は、不法行為に基づく債務であれば、損害の内容を問わず、債権者に対して相殺を対抗することができないと解されます。

(3) 不法行為の時効

 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が不法行為及び賠償義務者を知った時から1年が経過した場合、又は、不法行為日から10年が経過した時と規定されています。ただし、刑罰で処罰される行為を原因とし、かつその行為の刑事手続き上の時効期間が10年よりも長期である場合、その長期の時効期間を適用することになります(CCC448条)。

(4) 使用者責任と委託者の責任について

 タイでは、使用者の責任について「使用者は、被用者が職務の過程で犯した不法行為について、被用者と共同して責任を負う」(CCC425条)としています。日本法では、使用者が被用者の選任や事業の監督について相当の注意を払ったとき、又は相当の注意をしても損害が生じたであろう場合には使用者の責任が免責されるとの規定がありますが、タイ法にはこのような規定が存在しません。そのため、文言上は、例えば被用者が交通事故を起こし、相手方にけが等を負わせた場合、使用者の監督責任の違反に関わらず、使用者は不法行為責任を負うと解されます。もっとも、被用者の不法行為に対して、使用者が第三者に損害を賠償した場合、その費用を被用者に求償することができるとされています(CCC426条)。

他方、委託者の責任については、請負人が委託された仕事の過程で第三者に与えた損害について、委託者による注文、指示、請負業者の選定に関して落ち度が無い限り、責任を負わないこととされています(CCC428条)。

 

3.マレーシア

マレーシアにおける不法行為の成立要件等については明文がなく、コモンローに基づいており、以下のとおり整理することができます。

(1)不法行為が成立するための要素

(a) 注意義務の存在

注意義務の存在を判断するために、neighborhood principleが適用されます。これは、加害者と同様の状況にある合理的な者が、加害者の行為が被害者に対して被害を与えることを予見することができたといえる場合には、注意義務を負うと判断されるというものです。

(b) 注意義務違反

加害者が、最低限必要な基準を下回る行為を行い、加害者と同様の状況にある合理的な者が加害者と同様の行動をするとはいえない場合には、注意義務に違反したと判断されます。

(c) 因果関係

裁判所は、注意義務違反と被害者が被った損害との間に因果関係があるかどうかを判断します。裁判所がこれを判断する際には、注意義務違反行為に関連する原因、及び被害者が注意義務違反に寄与したかどうかが問題となります。

(2) 立証責任

1950年マレーシア証拠法(Evidence Act 1950)101条に基づき、立証責任は請求者である原告(被害者)にあります。しかし、原告がすべてを詳細に証明することは困難な場合があります。そのような場合には、「Res Ipsa Loquitor(物事はそれ自体を語る)」に基づいて判断されることがあります。これは、被告(加害者)がどのように行動したかについて証拠が十分にない場合には、裁判所は、事故又は傷害の性質から被告の過失を推認することができるというものです。

(3) 救済方法

不法行為法の目的は、不法行為が発生する前と同じ状態に戻すために、証明された損害に対して完全な補償又は救済を被害者に対して提供することです。そこで、被害者には、救済方法として以下のものが認められています。

(a) 損害賠償

不法行為が発生する前の状態に戻すために被害者に支払われる金銭は、損害賠償として知られています。不法行為に対しては、通常、損害賠償が主な救済策とされています。

(b) 差止命令

裁判所は、不法行為に対する衡平法上の救済方法である差止命令を行うことができます。被害者に生じた損害を取り戻すために、裁判所は不法行為者に対して当該不法行為を止めるか、又は、他の適切な行動をとるよう命じることができます。

(c) 特定の財産の返還

被害者は、財産が不法に奪われた場合には、財産を回復する権利があります。

(4) 抗弁

加害者が主張することが考えられる抗弁は、注意義務の存在又は同義務の違反に関して異議を唱えること、又は因果関係の断絶を指摘することです。

また、加害者は、制限、同意、免責条項(1977年不公正契約条項法の原則(principles of the Unfair Contract terms Act 1977))、正当防衛、請求者(被害者)自身の不正行為(exturpi causa)及び寄与過失等に基づいて、請求された損害を軽減するための抗弁を主張することが考えられます。

 

4.ミャンマー

(1) 不法行為に関連する法令

ミャンマーではビルマ法典第 9 巻第 10 編は死亡事故法を所収しています。死亡事故法は 4 条からなる法律で、人を死亡させる不法行為があった場合に遺族に訴権を与える規定等が置かれています。

ビルマ法典及びそれ以外の明文の法令には、その他の不法行為一般に関して規定した特別の法典は確認できません。

(2) 実務上の取り扱い

不法行為に関し、当該事案・事実を裁判所に提示し、裁判所が損害賠償その他の必要な救済を命じることがあり得ると実務上されています。しかし、この点の法的根拠については必ずしも明確な確認をできません。一般的には、この分野においては裁判所によるコモンロー又はエクイティ的な救済が行われていると解されています。

 

5.メキシコ

(1) 関連する法令

メキシコでは、不法行為に関するルールは民法に規定されています。メキシコにおける民法には、連邦民法(Código Civil Federal)と、各州が独自に定める民法があります。本ニュースレターでは、連邦民法に基づいて不法行為の概要を説明しますが、実際の事案においては、連邦民法や各州の民法などの中から適用される民法を確定する必要があります。

(2) 不法行為

連邦民法1910条は不法行為に基づく請求の根拠となる条文であり、不法に又は公序良俗に反して行動し、他人に損害を与えた者は、その損害が被害者の重過失の結果として生じたことを証明しない限り、それを回復する義務がある、と規定しています。同条の損害には、財産的損害と精神的損害が含まれます。

以上が、不法行為の原則的な規定ですが、賠償責任の範囲を加害者本人から拡げる規定も設けられています。たとえば、法人は、法人代表者(representante legal)がその職務を行うことによって生じた損害を賠償する責任を負うものとされています。その他、連邦民法には、使用者責任、動物の占有者の責任や共同不法行為について規定が設けられています。

メキシコでは、日本の製造物責任法のような特則はなく、製造物から生じた損害賠償を請求するには、加害者の過失の立証が必要になります。

不法行為に基づく損害賠償の訴えは、損害が発生した日から2年をもって効力を失うとされています。日本の民法と比べ時効消滅の期間が短いため、よりタイトな債権回収が求められます。

(3) 懲罰的損害賠償

米国の一部の州などでは、いわゆる懲罰的損害賠償が認められています。メキシコにおいては、懲罰的損害賠償を直接定めた規定はありません。しかし、裁判所は、将来、同様の行為を防止するために、有害な行為の抑止効果を賠償に加えるものとして、懲罰的損害賠償の概念を認めています。ただし、不法行為責任が発生するすべての場合に懲罰的損害賠償が加味されるわけではなく、裁判所は、行為の重大性が懲罰的損害賠償の制裁を正当化するほどに高度の社会的非難に値する場合にのみ懲罰的損害賠償を含めることができるとしています。

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュはコモンローに基づいており、不法行為を規定する特定の法令はありません。不法行為に関して、裁判所の考え方を示した例は多くありませんが、最高裁判所の判例では、「代位責任」と「過失」の2つの要素を示しています。

(1) 代位責任

 代位責任(使用者責任)とは、「主従関係」から生じるもので、使用者は、従業員の不法行為によって損害を受けた第三者の損失または損害に対して責任を負います。バス運転手の過失による交通事故の被害者に対して、バス会社の使用者責任を認めた判例があります(Catherine Masud v. Md. Kashed Miah and Others)。

(2) 過失

 過失は、注意を払う法的義務の違反であり、被告が、原告を保護する義務に違反したことが前提となります。原告が受けた被害は、被告によって直接的に引き起こされた実際の損害でなければなりません。

 判例では、Res Ipsa Loquitur(事実推定則)が適用されています。Res Ipsa Loquiturとは、「事実がすべてを物語っている」ことを意味し、ある種の事故が発生したという事実が、過失を示唆するのに十分であるという考え方です。 原告は、管理者が適切な注意義務を果たしていれば、通常起こるような事故ではないことを立証しなければなりません。Res Ipsa Loquiturに基づき、使用者の過失を認めた判例があります(CCB Foundation v. Government of Bangladesh)。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける不法行為論

フィリピンにおいて、「不法行為」という概念は明確に定義されておらず、“quasi-delict”という概念が規定されています。以下“quasi-delict”を便宜上「不法行為」といいます。

フィリピンの法令において、「不法行為」は、請求主体が、被った損害について救済を受けることができるものとされています。

  1. 不法行為の構成要件

ある行為が不法行為を構成する要件として、民法第 20 条に基づき、以下の要素が挙げられています。

  1. 法的な権利および義務
  2. 主体の義務違反行為
  3. 損害行為
  4. 因果関係
  5. 損害の発生

義務違反行為については、作為的な行為のみならず、不作為による義務違反行為も含まれる場合があります。 また、不法行為に基づき損害賠償請求されるケースとしては、使用者による責任を追及される場合もあるため注意が必要です。

  1. 賠償の範囲

フィリピンにおいて、損害賠償の範囲は、民法典において以下の6種類の損害賠償が定義されています。

  1. Actual or Compensatory Damages

証明された金銭的損失の補償として与えられる損害賠償を指します。

  1. Moral Damages

肉体的苦痛、精神的苦痛、傷ついた感情、道徳的ショック等によって与えられる損害を指します。

  1. Nominal Damages

原告の権利の侵害または侵害を認識するために裁判所が認定する損害を指します。

  1. Temperate Damages

何らかの金銭的損失が生じたと認められるが、正確な損失額を証明できない場合に認められる損害を指します。

  1. Liquidated Damages

契約の当事者によって合意され、違反した場合に支払われる損害を指します。

  1. Exemplary or Corrective Damages

行動を是正するために課される損害賠償を指します。

 なお、弁護士費用と訴訟費用については、フィリピンにおいては一般的に、裁判費用を除き、特に懲罰的損害賠償が認められる場合、または、原告に対する法的根拠が明らかにない場合には、これらを回収することはできないとされています。もっとも、裁判所が正当かつ公平であると判断した場合には、弁護士費用や訴訟費用の支給を認めている場合もあります。

 

8.ベトナム

(1) ベトナム民法の不法行為規定の概要

 2015年に制定されたベトナム民法第20章(584条〜608条)には、「契約外の損害賠償責任」として、不法行為に関する規定を置いています。「他人の生命、健康、名誉、人格、威信、財産、権利、その他の合法的な利益を侵害して損害を加えた」場合に損害賠償責任が生じるとされています(民法584条1項本文)。

 また「いくつかの具体的な場合における損害賠償」に関する規定として、

  • 正当防衛の場合
  • 緊急事態の場合
  • 飲酒又はその他の刺激物を用いて行為認識制御能力を失った状態で不法行為を行なった場合の責任
  • 法人の従業員が加害者である場合の法人の責任
  • 公務執行者が加害者である場合の国家の責任
  • 15歳未満の者、民事行為能力喪失者が加害者である場合の管理者の責任
  • 個人、法人の被用者、実習生が加害者である場合の個人・法人の責任
  • 交通輸送手段、送電システム、製造工場、武器、爆発物、可燃物、毒物、放射物、猛獣等の高度危険源の所有者、占有者、使用者の責任
  • 環境汚染を発生させた者の責任
  • 動物の所有者、占有者、使用者の責任
  • 樹木の所有者、占有者、管理者の責任
  • 住居その他の建築物の所有者、占有者、管理者、使用者の責任
  • 死体を侵害した個人、法人の責任
  • 墓を侵害した個人、法人の責任
  • 消費者の権利を侵害した個人、法人の責任

といった規定をおいています(民法594条〜608条)。

(2) 無過失責任の原則

 日本民法における不法行為責任は過失責任の原則(故意過失がなければ不法行為責任を負わないという原則)が採用され、また、加害者に故意過失があることの立証責任は被害者側にあるとされています。しかし、ベトナム民法では、加害者に故意過失がない場合であっても損害賠償責任を負うとされ(584条1項本文)、生じた損害が不可抗力による場合又は完全に被害者の故意過失による場合には損害賠償責任は負わないとされています(民法584条2項本文)。すなわち、ベトナム民法の不法行為責任は無過失責任の原則が採用され、自己に故意過失がない場合であっても、損害が不可抗力によって生じたものであること、又は完全に被害者の故意過失によって生じたものであることを立証できなければ、損害賠償義務を負うことになります。

発行 TNY Group

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2023年4月26日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

1. 日本

 ドローンについては、航空法(昭和27年法律第231号)第11章(第132条以下)において、「無人航空機」に関する登録、飛行等が規定されていて、その概要は以下の通りです。

 ただし、実際に飛行させるにあたっては、重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成28年法律第9号)やその他の飛行制限を規定する道路交通法、自然公園法等の法令や条例での制限が課されていないかを確認する必要があります。また、無線設備の搭載に関しては総務省の免許等の取得が必要とされる場合がある他、映像撮影についての総務省ガイドラインが発表されています。2022年12月5日に「無人航空機総合窓口サイト」(https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)が開設され、これらのドローンに関する情報が一元的に紹介されています。

  1. 飛行許可の必要な空域

航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれや、落下した場合に地上の人等に危害を及ぼすおそれが高い以下の空域においてドローンを飛行させるには、予め国土交通大臣の許可を受ける必要があります(法132条の85第1項)。

(A)空港等の周辺(進入表面等)の上空の空域

(B)緊急用無空域

(C)150m以上の高さの空域

(D)人口集中地区の空域

上記(A)および(D)については、国土地理院のホームページに地図が掲載されていて、(B)については、災害時等に国土交通大臣によって指定され、国土交通省のホームページで公示されます。

      2. 飛行の方法

ドローンの飛行にあたっては、以下①~④を遵守することが必要とされ、⑤~⑩に該当しない飛行(「特定飛行」)は技能証明を受けた者による機体認証を受けたドローンの操縦に限り認められます(法第132条の86第1項、第2項)。

①アルコールまたは薬物等の影響下で飛行させないこと

②飛行前確認を行うこと

③航空機又は他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること

④他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと

⑤日中(日出から日没まで)に飛行させること

⑥目視(直接肉眼による)範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること

⑦人(第三者)または物件(第三者の建物、自動車等)との間に30m以上の距離を保って飛行させること

⑧祭礼、縁日等多数の人が集まる催しの上空で飛行させないこと

⑨爆発物等危険物を輸送しないこと

⑩無人航空機から物を投下しないこと

     3. 国土交通大臣の承認等

     (a)機体の登録

ドローンを飛行させる前には、必ず機体の登録をして(法第132条の2)、登録記号を機体に表示して、リモートIDを機体に掲載することが求められます(法第132条の5)。

      (b)機体証明・技能証明

上記(2)⑤~⑩に該当しない特定飛行については、ドローンの第二種以上の機体認証と操縦者の二種以上の操縦技能証明の取得が必要とされます(法第132条の86第2項)。

      (c)飛行許可・承認

上記(1)で指定された空域でドローンを飛行させるには、ドローンの最大離陸重量が25㎏未満で一定の条件に該当し、飛行マニュアルの作成等無飛行の安全を確保するための必要な措置を講じる等により許可・承認を不要とすることができる場合を除き、予め申請して該当する飛行許可・承認を受ける必要があります(法第132条の85第2項)。

     (d)飛行計画の通報と飛行日誌の記録

上記(2)に該当する飛行を除き、特定飛行を実施する場合には、予め飛行計画を通報し(法第132条の88第1項)、飛行日誌を備置して、必要事項を記載しなければなりません(法第132条の89)。

 

2.タイ

(1) ドローン規制の概要

  タイでは、2015年に遠隔操縦航空機のカテゴリーにおける無人航空機操縦・発信の許可申請規則および条件に関する運輸省の通達(2015)が発表され、ドローンの規制が開始されました。

現在では、上記発表に加え、航空法改正第14号(2019)、放送委員会テレビ事業及び電気通信員会の一般用無人航空機の周波数免許の基準及び条件に関する発表(2020)にもドローン規制の規定があり、タイ民間航空局(The Civil Aviation Authority of Thailand (“CAAT”))とタイ国家放送電気通信委員会(The National Broadcasting and Telecommunications Commission (“NBTC”))が管轄しています。

(2) ドローン登録の規制

  タイでドローンを使用するためには、まずNBTCにて登録を行う必要があります。

また、以下の機体についてはCATTにて別途登録を行う必要があり、同登録にはドローン保険の加入が必須となっています。

  • 録画用カメラを搭載したドローン
  • 重量が2kgを超え25kg以下のドローン
  • 重量が25kgを超えるドローン(当該機体に関しては、飛行の都度、運輸大臣からの飛行許可も必要となります。)

 

(3) ドローン飛行の規制

  タイのドローン飛行の規制は、機体の重量(2kg以下/2kg超25kg以下/25kg超の3つに区分されています)や使用目的(娯楽・スポーツ目的/その他の目的)によって細かく分かれています。以下は、ビジネスやイベントでドローンを使用する際の主な規制です。

(a) 飛行前における規制

  • 土地所有者の許諾を得ること
  • 登録証またはその写しや消火器を携帯すること
  • 身体生命に関する損害のため、別途保険(最低1回100万バーツ以上)に加入していること
  • 事故時の対応、医療処置、ドローンが制御不能になった場合の解決策等、緊急時の対応策を備えること

 (b)飛行時の規制

  • 制限区域や限定区域、危険区域、官公庁の建物や病院の敷地内では、許可なく飛行してはならない
  • 空港または臨時飛行場から9km以内は許可なく飛行してはならない
  • 日の出から日没までの間で、機体を明確に視認できること
  • 雲の中や近くを飛行してはならない
  • 地上90メートルを超えて飛行してはならない
  • 有人飛行機の近くを飛行してはならない
  • 他人のプライバシーを侵害してはならない
  • 飛行業務に関係のない人、車両、建物に50メートル以上接近して水平飛行してはならない
  • 事故が発生した場合、操縦者または発射者は、ただちに所轄の官公庁に連絡しなければならない

  上記の他にも、細かな規制があり、ドローンの重量や使用目的によっては更なる規制がなされる場合があります。また、各イベントやビジネスの種類や規模によって使用可能な周波数帯が異なるため、ドローンを操縦する際にはこの点にも注意することが必要です。

(4) 罰則規定と今後の動向

上記のように、タイでドローンを使用する際には、機体の登録や様々な規制の遵守が必要です。

運輸大臣の許可を得ずにドローンを使用したり、許可条件に反した場合には、「1年以下の懲役若しくは4万バーツ以下の罰金又はその両方に科す」(航空法改正第14号第78条)との罰則もあります。

また、現在タイではドローン使用の許可申請にあたって、申請者に試験を課す等の改正が検討されているとの情報もあります。今後のドローン規制の動向も含めて逐次確認しておくことが推奨されます。

 

3.マレーシア

マレーシアにおけるドローンに関する法令として、1969年民間航空法(Civil Aviation Act 1969)、2016年民間航空施行細則(The Civil Aviation Regulations 2016)及び1998年通信マルチメディア法(Communications and Multimedia Act 1998)があります。

(1)1969年民間航空法

民間航空法はマレーシアにおける民間航空機の運航について規定している主要な法律です。本法に基づき、担当大臣には空港及び航空サービスを提供する目的のためのライセンスの発行権限が付与されています。ライセンス(省庁により付与された空港事業の運営のためのライセンス以外のライセンス)の申請手続きは民間航空局長官による承認を得た上で民間航空局(Department of Civil Aviation)により手続きが進められます。

(2) 2016年民間航空施行細則

民間航空施行細則は、民間航空法に基づき、下位法令として2016年3月31日に施行されました。航空機の登録、運行責任者、乗務員及びエンジニアのライセンス付与、航空機の販売、航空事故の調査、航空機の運航並びに航空機の担保について規定しています。

本施行細則Part XVIにおいて、無人航空機(ドローン)は、3種類規定されています。すなわち、①小型無人航空機(Small unmanned aircraft)、②小型無人偵察機(Small unmanned surveillance aircraft)、③無人航空機システム(Unmanned aircraft system)の3つです。

①小型無人航空機について、気球又は凧以外で、飛行するための設備を設置した、航空機を含む燃料を除いて重量が20Kg以下の無人航空システムを意味します。

小型無人航空機の責任者は飛行させるための許可は不要であるが、安全に飛行させなければならないとされています。また、衝突を回避する目的で、他の航空機、人、車両、船舶及び構造物との関係で飛行経路を監視するのに十分な小型無人機との直接的かつ肉眼的な接触を維持しなければならないとされています(施行細則142条)。

②小型無人偵察機は、いかなる形式の監視又はデータ取得を行うために装備された小型の無人航空機を意味します。

小型無人偵察機は、飛行前に民間航空局長官より許可を得ない限り、以下のいずれかの状況において、小規模な無人監視航空機を飛行してはならない旨規定されています(施行細則143条)。

  • 任意の指定区域上の場合
  • 指定区域から150メートル以内の場合
  • 1,000人を超える人が集まっている上空の場合
  • 1,000人を超える人が集まっている上空の150メートル以内の場合
  • 航空機の責任者の管理下にない任意の船舶、車両又は構造物から50メートル以内の場合
  • 人が50メートル以内にいる場合
  • 離陸又は着陸中に30メートル以内に人がいる場合

③無人航空機システムは、パイロットなしで運航されている航空機及びその関連要素を意味します。

以下の場合における人による航空機の飛行を禁止しています(施行細則140条)。

  • 航空交通サービス(ATS)ルート、ターミナルコントロールエリア(TMA)、コントロールゾーン(CTR)(通常は特定のエリア(空港など)の表面から上限まで)を含むクラスA、B、C又はGの空域)、航空管制措置が要求される場所、継続的な双方向無線通信が必要な場所
  • 飛行場交通ゾーン(飛行場(水上滑走路を含む)やヘリポートなどの飛行機の到着、出発又は移動に使用される地域の指定された寸法を意味する)
  • 地球表面から400フィート以上の高さ
  • 民間航空局長官の許可を得ない場合

いかなる者も民間航空局長官の許可を得ない限り、航空事業目的のための無人航空機システムの飛行は禁止されています(施行細則141条)。

航空機が燃料を含まずに20kgを超える場合、民間航空局長から航空機を飛行させる許可を事前に申請する必要があります(施行細則144条)。

(3) 1998年通信マルチメディア法

 通信マルチメディア法は、担当大臣がライセンスに関連する通達を発布できる旨規定しています。当該規定に基づき、マレーシアの通信マルチメディア委員会(Malaysian Communications and Multimedia Commission)は、無人航空機システムを使用する場合には、特定の技術パラメーターを遵守しなければならない旨の通達を発布しています。

 

 

4.ミャンマー

(1) ドローンの法規制

ミャンマーではドローンに関して規定した法令は現時点では存在しません。

(2) 事実上の規制

ドローンについて管轄する政府機関であるミャンマー民間航空局(Department of Civil Aviation)によれば、ドローンについては以下の制限が課されるとのことです。また、実際にドローンをミャンマーに持ち込む場合及び使用する場合には事前にミャンマー民間航空局に確認する必要があります。

  1. 空港から半径 8km(5 mile)以内でドローンを飛行させてはならない。
  2. ドローンは操縦者の視界の範囲内で飛行させなければならない。
  3. 高度 120m(400 feet)を超えてドローンを飛行させてはならない。
  4. 夜間にドローンを飛行させてはならない。
  5. 速度 160km/h(100 mph)以上でドローンを飛行させてはならない。
  6. 人の上空を飛行させてはならない。
  7. 人口が少ないエリアを除き、走行中の車両からドローンを飛行させてはならない。
 

5.メキシコ

(1) 関連する法令

ドローンの使用に関して、民間航空法(Ley de Aviacion Civil)、メキシコ航空登録規則(Reglamento del Registro Aeronáutico Mexicano)、メキシコ公式規格「メキシコの空域で遠隔操縦航空機システム(RPAS)を運用するための条件NOM-107-SCT3-2019(以下、「本NOM」といいます。)」などを遵守する必要があります。なお、メキシコ公式規格(Norma Oficial Mexicana)とは通称「NOM」と呼ばれ、法的強制力のある規格基準です。

ドローンは、本NOM上の遠隔操縦飛行システム(Remotely Piloted Aircraft System-Sistema de Aeronave Pilotada a Distancia、以下「RPAS」といいます。)に該当します。RPASは、固定翼機、ヘリコプター、マルチコプター又は飛行船などの遠隔操縦航空機とそれに付随する遠隔操縦ステーション、必要な制御装置その他の付属品と定義されています。ただし、建造物内で運用されるRPASについては、本NOMは適用されません。

(2) RPASの分類

本NOMにおいて、RPASは、その用途に従い次の3つに分けられ、下表のように分類されています。RPASの分類によって、守らなければならない基準が異なります。

  • レクリエーション用RPAS (RPAS de uso Recreativo):RPASオペレーターがレクリエーション用に使用する遠隔操縦飛行システム
  • 商用RPAS (RPAS de uso Comercial):RPASオペレーターが営利目的に使用する遠隔操縦飛行システム
  • 非営利かつ個人的使用RPAS (RPAS de uso Privado No comercial):RPASオペレーターが非営利目的に使用する遠隔操縦飛行システム

(3) 共通の規制

 RPASの分類に関わらず、主に以下のような事項については共通して遵守する必要があります。

  • パイロットは、飛行場から9.2km超かつ、ヘリポートから900m超離れた場所で飛行させなければなりません。なお、飛行場やヘリポートは運輸通信省(Secretaría de Comunicaciones y Transportes)の連邦民間航空局(Dirección General de Aeronáutica Civil)がウェブサイトで公表する「飛行場及びヘリポートデータベース(Base de Datos de Aeródromos y Helipuertos)」に掲載されているものを指します。
  • 連邦民間航空局から夜間飛行の許可を得ていない限り、日の出から日没の間に飛行しなければなりません。
  • 航空路誌(Publicación de Información Aeronáutica)で指定されている禁止区域、制限区域、危険区域で飛行してはいけません。
  • 科学研究用のRPASは、連邦民間航空局からの許可、国立地理統計情報院(Instituto Nacional de Información Estadística y Geográfica:INEGI)からの許可及び国防省(Secretaría de la Defensa Nacional)からの許可を得る必要があります。

(4) 分類に応じた規制

本NOMにおいては、上記(2)の分類に応じた規制が設けられています。その詳細を紹介することは紙幅の関係上できませんが、以下、主な規制について紹介いたします。

  • RPASの登録

レクリエーション用RPAS Microで最大離陸重量が0.250kgを超える場合、レクレーション用以外のRPAS Microの場合、RPAS Pequeñoの場合、その所有権、占有権、その他の権利を取得、譲渡、変更、担保、消滅させるための文書を連邦民間航空局のウェブサイトにおいて登録し、RPAS登録番号(Folio)を取得する必要があります。

PRAS Grandeの場合、航空機の国籍を特定するための書類である登録証明書(Certificado de Matrícula)を取得しなければなりません。登録証明書の取得は、RPASの所有権、占有権、その他の権利を取得、譲渡、変更、担保、消滅させるための文書の取得を通じて行われます。

  • 民事賠償責任保険

レクレーション用以外のRPAS Microの場合、第三者への損害賠償を目的とした民事賠償責任保険に加入していることを要します。

レクレーション用以外のRPAS Pequeño及びRPAS Grandeの場合、有効な第三者賠償責任保険契約の承認文書(Oficio de Aprobación de la Póliza de Seguro de Responsabilidad Civil por daños a terceros)を得ていることを要します。

  • 運航許可

レクレーション用以外のRPAS Pequeño及びRPAS Grandeの場合、連邦民間航空局より運航許可を取得する必要があります。

  • パイロットの許可又は免許

レクレーション用以外のPRAS Pequeñoの場合はRPASを操作する者がRPASパイロット許可(Autorización de Piloto del RPAS Pequeño)を得ていること、レクレーション用以外のPRAS Grandeの場合はRPASを操作する者がRPASパイロット免許(Licencia de Piloto del RPAS Grande)を受けていることをそれぞれ要します。パイロットの許可及び免許は、18歳以上であること、生来のメキシコ人であること、講習を受けることなどの要件が定められています。

なお、レクレーション用以外のRPAS Microであって夜間飛行などの特別運行許可を受ける場合は、RPASパイロット許可を有する操作者が操作することが求められるなどの例外もあります。

 

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュにおけるドローンの使用については、「ドローン登録及び飛行ポリシー2020年」に基づき、航空局が規制しています。同ポリシーでは、ドローン飛行が認められる条件、場所、許可が必要なドローンのタイプ等について定めています。

(1) ドローンの種類

 以下の種類に基づき、許可が発行されます。

カテゴリA: レクレーション目的の使用

カテゴリB: 教育や調査等の非商業目的のために、公的・民間の団体又は個人による使用

カテゴリC: 調査、映像、映画、運搬等、商業的及び専門的な目的による使用

カテゴリD: 政府又は軍隊による使用

(2) ドローンの使用地域

 バングラデシュ国内を重要性及び安全性の観点で3種類の地域に区分し、ドローンの飛行を認めています。

(a) グリーンゾーン

  • 空港又は制限区域から3~5キロ以内の地上50フィート(15.24m)まで
  • 空港又は制限区域から5キロ以上離れた場所で、地上100フィート(30.48m)まで

グリーンゾーンでのドローン飛行について許可は不要です。

(b) イエローゾーン

 制限地域、軍隊管轄区域、人口密度が高い地域、混雑地域はイエローゾーンとされ、管轄当局からの許可が必要です。

(c) レッドゾーン

 危険地域、禁止地域、空港はレッドゾーンに区分され、ドローン飛行について特別許可が必要です。

(3) ドローン登録

 以下の手続きにて、航空局よりドローン登録及び登録番号を取得することができます。

  1. カテゴリB及びCの場合、Air Navigation Orderに基づき、ドローン登録及び登録番号を申請します
  2. カテゴリAに該当し、ドローンが高度100フィート(30.48m)以上の飛行が可能又は重量5㎏以上(積載量含む)の場合は、登録が義務づけられています。
  3. 登録に必要な書類は以下の通り
  • ドローンの使用目的
  • 仕様の写し
  • ドローン領収書
  • BTRC(Bangladesh Telecommunication Regulatory Commission)の認証(通信システムに影響を与えないこと)
  • 申請者の写真及び身分証明書
  • 携帯電話番号
  • 飛行中に生じる緊急時対応計画(ドローンのバッテリー切れ、制御不能等の場合の対応)
  • 国防省からの異議なしレター
  • その他、航空局が求める書類や情報

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおけるドローン法規制概要

フィリピンでは、航空局の管轄において、ドローンの使用について監督及び規制がなされています。フィリピンにおいては、ドローンの使用を規制するため、「PCAR」と呼ばれる規則が定められており、ドローンは、遠隔操縦される無人航空機であるとの定義がなされています。また、航空交通安全を目的とした登録と運用に関するガイドラインが定められています。

     2. 一般的な規制

フィリピンにおけるドローン規制法令によると、ドローンの使用は非商業的な使用と商業的な使用のいずれの場合においても、以下の一般的な規制を受けるとされています。なお、以下の規制は一例となります。

  1. 人口密集地の上空においては、ドローンが故障した場合にその地域を回避することができない高さで飛行させてはならない。
  2. ドローンを操作する者は、ドローンが飛行中、着陸もしくは離陸中、ドローン操作に直接関係のない者から少なくとも30メートル離れていることを確認しなければならない。
  3. 航空局の事前承認がない限り、以下の範囲内でRPAを操作することはできない。

(a)地上高400フィート

(b)飛行場基準点から半径10キロメートル

     3. ドローンの商業的運用における規制

ドローンを商業的に運用する場合においては、業務運用については、「Operator Certificate」を取得する必要があり、以下の書類を提出が求められる場合があります。

  1. 製造元が発行する取扱説明書
  2. ドローン保険/第三者賠償責任保険に関する書類
  3. 耐空特別証明書(該当する場合に限る。)
  4. 航空局が発行するドローン登録証明書

また、「Operator Certificate」の保有者として認められるための要件が定められており、これらを満たす必要があります。

  1. ドローンを安全に運用するために適切な組織・体制を有していること
  2. 提案された業務を安全に実施するために、十分な資格と経験を有する人員を有していること
  3. 使用するタイプのドローンを使用して提案された業務を遂行するのに適切な施設・設備を有していること
  4. 操作を行うための適切な慣行と手順が確認されていること

さらに、操縦者としての証明書の取得も必要であるとされています。取得には、以下のような申請者の資格が必要とされています。

  1. ドローンメーカーが実施するトレーニングコースを、操縦しようとするタイプのドローンの操作について修了した者
  2. 管制空域外でドローンを操作した経験が5時間以上あること
  3. 指定された試験に合格していること
  4. 航空局の正規職員が実施するデモフライトに合格していること
  5. ドローンに関する違反行為についての罰則

フィリピンの航空局は、ドローンに関連する規則や規制に違反した場合、違反1件につき2万ペソから10万ペソの罰金で処罰すると定めています。 また、違反した場合は、操縦者としての資格停止又は抹消事由に該当する場合があります。

 

8.ベトナム

(1) ドローン飛行の許可制

 ベトナムでは、2008年に制定され2011年に改正された無人航空機及び超軽量航空機の管理に関する政令、2020年に制定された無人航空機と超軽量航空機の飛行禁止空域及び飛行制限区域の設定に関する首相決定などにより、ドローンに関する規制が行われています。

 ドローンを飛行させるためには、飛行予定日の7営業日前までに、国防省に対し、飛行許可証を申請しなければなりません。

(2) ドローン飛行禁止区域

 以下の区域では、ドローンの飛行が禁止されています。

  • 国防省が直接管理・管轄する特に重要な軍事区域及び国防建設区域

これらの区域から500m以内は飛行が禁止されます。

  • ベトナム共産党、ベトナム政府機関、地方機関、ベトナム国内にある外国の大使館、領事館などの区域

これらの区域から200m以内は飛行が禁止されます。

  • 国家防衛区域(軍事キャンプ、戦闘訓練区域、刑務所など)

これらの区域から500m以内は飛行が禁止されます。

  • 民間機及び軍用機が使用する空港内
  • ベトナムの空域に設定された航空路内
  • その他、国防、国家安全、社会秩序の維持のために当局の裁量で設定される区域

(3) ドローン飛行制限区域

 以下の区域では、飛行許可にあたって当局が指定する条件に従ってドローンを飛行させる必要があります。

  • 高度120m以上の空域
  • 混雑している場所の上空
  • ベトナムと中国の国境からベトナム側に25,000mの区域
  • ベトナムとラオス、ベトナムとカンボジアの国境からベトナム側に10,000mの区域
  • 空港の飛行禁止区域の隣接区域であり、無人航空機と超軽量航空機の飛行禁止空域及び飛行制限区域の設定に関する首相決定の附属図に記載されている区域
 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2023年3月29日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国のCOVID-19関連の入国規制

1.日本

(1) 外国人の入国制限について

2022年10月11日以降、全ての外国人の新規入国について、日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請は求められなくなり、68の国・地域に対する査証免除措が再開されました。以下の国・地域に対するAPEC・ビジネス・トラベル・カード取り決めに基づく査証免除も再開されました。

地域 国・地域
アジア インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、台湾
大洋州 オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド
中南米 チリ、ペルー、メキシコ
欧州 ロシア

外務省HP新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省 (mofa.go.jp)

(2) 日本入国時の検疫措置について

 2022年10月11日から、日本入国時の検疫措置は原則として実施せず、入国後の待機等を求めないこととなりました。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書または出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要とされています。

なお、2023 年 3月 1 日以降、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については、ワク チン接種証明書の有無にかかわらず、出国前検査証明書が必要とされますが、入国時の検査はサンプル検査となり、空港では検体接種のみの実施に緩和されます。

有効なワクチン接種証明 陰性証明書
(出国前検査)
質問票 入国時検査 入国後の待機期間
あり 不要
必要
なし
なし
なし 必要

厚生労働省HP 水際対策

 

2.タイ

タイでは、2022年10月1日から入国規制等が以下のとおり緩和されています。

(1)タイ入国時の規制緩和

  • タイ入国時のワクチン接種証明書又は陰性証明書の提示は不要。
  • 日本を含むビザ免除国/地域からの渡航者の滞在可能期間を30日から45日に延長(2023年3月末までの措置)。

(2) タイ国内における感染対策緩和

  • マスク着用は混雑した場所や換気の悪い場所において推奨されるが、義務ではなくなる。
  • 新型コロナ感染者のうち、軽症又は無症状の人は自己隔離不要で外出可能。ただし、5日間はDMHT対策(Distancing:距離の確保、Mask Wearing:マスク着用、Hand Washing:手洗い、Testing:検査(症状が表れた場合))が推奨される。
  • 高齢者や特定の疾患を有する高リスクの感染者は、10日間、自身による健康観察(5日目と10日目にATKによる検査)が推奨される。
  • 企業・団体は、定期的に従業員を観察することが推奨される(感染者数が大きく増加する場合は、直ちに関係当局に報告)。
  • 引き続きワクチン接種は推奨される。
 

3.マレーシア

 2022年8月1日以降、ワクチン接種完了の有無に関係なく渡航前の陰性証明書の取得、入国後検査、及び隔離が不要となっています。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、マレーシア政府開発のMySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力しアクティベートさせておくことが要請されています。

 

4.ミャンマー

2022年12月1日より、ミャンマー入国の条件となっている「到着 14 日以上前に接種した承認済み ワクチンの(2 回)接種証明書」又は「到着前 48 時間以内に発行された RT-PCR 陰性証明書」を所持している方は、5 月 1 日より求められていた、 ミャンマー到着後の空港における RDT 検査の受検が不要となりました。(ただ し、入国時のスクリーニング(検温)で新型コロナウイルス感染症の症状 がある場合は、引き続き、RDT 検査が実施されます。)

e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。2023年2月18日より、これまで加入が求められていた国営保険会社Myanma Insuranceの保険について、商用ビザで入国する場合は、Myanma Insuranceの保険に代えて、日本等の保険会社の保険(新型コロナウイルスを補償対象に含むもの)に加入した証明(英語又はミャンマー語)を提示することで差し支えないこととなりました。もっとも、在京ミャンマー大使館に直接申請する場合のみ当該条件が適用されますが、Eビザを申請する場合は引き続きMyanma Insuranceへの加入が必要とされています。

 

5.メキシコ

メキシコへの入国について、政府による入国制限等は行われていません。

 

6.バングラデシュ

 WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。

 

7.フィリピン

フィリピン検疫局は、改定されたフィリピン入国ガイドラインを発表しました。

(1) 完全にワクチンを接種した者(Fully vaccinated)

以下の条件を両方満たす場合は、完全にワクチンを接種した者と見なされ、出発国出発前の検査を免除されます。

  1. 出発国からの出発日時から遡って14日以上前に、ファイザーなど2回接種する種類のワクチンを2回接種済み、またはヤンセンなど1回接種する種類のワクチンを接種済みのこと。
  2. 以下のいずれかで発行したワクチン接種の証明書を携帯/所持していること。

 ア 世界保健機関(WHO)が発行した国際ワクチン接種証明書(ICV)

 イ VaxCertPH

 ウ 外国政府の国または州の紙面/デジタルの接種証明書

 エ その他のワクチン接種証明書

(2) ワクチン未接種、一部ワクチン未接種、ワクチン接種状況を検証できない者

  1. 15歳以上の者および同伴者のいない15歳未満の未成年者

 ア フィリピン到着時に、出発国の出発日時から遡って24時間以内(経由便利用者は乗り継ぎ空港の敷地外ないし乗り継ぎ国に入域・入国していないことが条件)の陰性の抗原検査結果を提示することが必要です。

 イ 上記アの抗原検査で陰性の証明を提示できない者は、空港到着時に医療施設、研究所、診療所、薬局、又はその他の同様の施設で医療専門家によって実施および認定された検査室の抗原検査を受ける必要があります。

 ウ 上記イの抗原検査で陽性となった場合には、フィリピン保健省(DOH)の検疫、隔離規則に従うことになります。

      2. 同伴者のいる15歳未満の未成年者

同伴する成人又は保護者の検疫規則に従うとされています。

 

8.ベトナム

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(観光目的、ビジネス目的いずれであっても)、

  • ベトナム滞在期間が15日以内であること
  • ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
  • ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと

という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。

 また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。

第2.各国の証券市場の構造と上場基準の概要

1. 日本

 日本の証券市場は、市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダードとグロース)の各市場に分かれていましたが、2022年4月4日から、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに再編されました。この再編は、各市場のコンセプトが曖昧で、投資家にとっての利便性が低く、上場廃止基準が緩く上場会社の企業価値向上が十分に図られていないことを理由としています。

  1. 各市場のコンセプト
  2. プライム市場:多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場。
  3. スタンダード市場:公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場。
  4. グロース市場:高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場。
  5. 新規上場基準

  上場審査にかかる主な形式的要件は、以下の通りです。

  プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
株式売買代金等 時価総額250億円以上(※1) ×
(※2)
×
(※2)(※3)
純資産の額 連結純資産50億円以上(※4)
単体純資産が負でない
連結純資産額が正 ×
利益又は売上高 最近2年間の利益の総額が25億円以上
又は
最近1年間の売上高100億円以上かつ時価総額が1,000億円以上になるみこみ
最近1年間の利益が1億円以上 ×
事業継続年数 3か年以上前から取締役会設置して継続的に事業活動 1か年以上前から取締役会設置して継続的に事業活動
上場会社監査事務所による監査等 最近2年間の財務諸表等について
上場会社監査事務所の監査等を受けていること
新規上場申請のための有価証券報告書の財務諸表等について
単元株式数 100株となる見込み

(上場維持基準として、※1:平均売買代金2,000万円以上、※2:売買高月平均10単位以上、※3:上場10年後の時価総額40億円以上、※4:純資産額が正)

  グロース市場上場のためには、形式的要件に加えて、高い成長可能性を実現する事業計画が合理的に策定されていること、高い成長可能性を有しているとの判断根拠に関する主幹事証券会社の見解が提出されていること、 事業計画及び成長可能性に関する事項(ビジネスモデル、市場規模、競争力の源泉、事業上のリスク等)が適切に開示され、上場後も継続的に進捗状況が開示される見込みがあること、が要件とされています。

     6. 経過措置の終了

 市場再編にあたっての経過措置として、再編前の上場会社には緩和された基準による市場選択が認められていましたが、2023年1月に、経過措置が2025年3月1日以降に順次終了することが決定されました。

 これに伴い、経過措置の適用を受けている会社については、2025年3月1日以降に到来する上場維持基準の判定に関する基準日に本来の上場基準に適合していない場合には、原則として1年間(売買高基準は6か月間)の改善期間に入り、その間に上場基準に適合しないときは、改善期間終了後に監理銘柄に指定され、基準日の翌日から起算して6か月を経過した日(基準日から起算して1年6月後)に上場廃止となります(ただし、経過措置に関する適合計画の終了が2026年3月1日以降最初に到来する基準日以降とされている場合には、監理銘柄の指定期間は同計画終了まで継続し、指定期間中に上場基準に適合しないときは、指定期間終了後1か月の整理銘柄指定を経て、上場廃止となります)。

 なお、経過措置を用いたプライム市場上場会社については、2023年4月1日から9月29日までの間に限り、スタンダード市場への上場を選択でき、2023年10月20日にスタンダード市場に移行することが可能となっています。

 

2.タイ

(1) 上場市場の概要

  タイ証券取引所(The Stock Exchange of Thailand : SET)には、SET市場(メイン市場)、mai(Market for Alternative Investment)市場(代替投資市場)、LiVEx(LiVE Exchange)市場という3つの市場が存在しており、それぞれメインターゲットとしている企業が異なります。

  • SET市場は、大規模で安定した企業をメインターゲットにしています。
  • mai市場は、中小企業向けの市場で、成長性のある企業をメインターゲットにしています。
  • LiVEx市場は、2022年9月9日から取引が開始された市場であり、スタートアップ企業や成長を目指す中小企業をメインターゲットとしています。

(2) SET市場について

SET市場は大企業をメインターゲットとしており、払込資本金額が3億THB以上であることが条件として定められています。SET市場への上場には、安定した経営基盤を有していることを示す必要があり、主に以下の条件が定められています。

  1. 払込資本金額が3億THB以上で上場申請前の払込資本金額が0以上であること
  2. 過去3年間の営業純利益の合計が5000万THB以上であること
  3. 時価総額が75億THB以上であり、収益の多くが投資委員会の推進する産業に依ること
  4. 上場申請以前に3年以上の事業実績があること(少なくとも1年間同一経営陣下での事業活動実績があること)
  5. 公募後の株式について、1000名以上の少数株主がいること
  6. 浮動株比率が全株式数の25%以上(払込資本金が30億THB以上の場合は20%以上)であること
  7. 販売株式数が払込資本金の15%以上であること(払込資本金が5億バーツ以上、または普通株式の価値が7,500万THB以上の場合は払込資本金の10%以上)
  8. 取締役等が資本市場監督委員会やSET規則の禁止する特性を有していないこと
  9. 監査委員会がSETの定める基準を満たすこと
  10. 資本市場監督委員会の定義する利益相反関係がないこと
  11. 資本市場監督委員会の定めに従った財務諸表があること
  12. プロビデントファンドが登録済であること
  13. 上場後1年以内に、SETのガイドラインに従って事業および業績に関する情報を提示すること

(3) mai市場について

mai市場の上場条件はSET市場のものより緩和されており、払込資本金額は5000万THB以上であることが条件として定められています。mai市場では、主に以下の条件が定められています。

  1. 払込資本金額が5000万THB以上であること
  2. 直近1年間の営業純利益の合計が1000万THB以上であること
  3. 上場申請以前に2年以上の事業実績があること(少なくとも1年間同一経営陣下での事業活動実績があること)
  4. 公募後の株式について、300名以上の少数株主がいること
  5. 浮動株比率が全株式数の25%以上(払込資本金が30億THB以上の場合は20%以上)であること
  6. 販売株式数が払込資本金の15%以上であること

その他、SET市場と同様に上記⑧~⑬の条件等が必要となります。

(4) LiVEx市場について

LiVEx市場は、上記の2つの市場とは異なり、最低払込資本金額の制限や、直近年の事業実績基準は定められておりません。LiVEx市場では、主に以下の条件が定められています。

  1. 中小企業振興庁(the Office of Small and Medium Enterprises Promotion:OSMEP)の定義に基づく中規模企業以上であること
  2. スタートアップ企業の場合はVC(Venture Capital)またはPE(Private Equity)が共同出資をしていること
  3. 資金調達額は1~5億THBで、設定した資金調達額の80%以上でなければならないこと
  4. LiVExの戦略的株主は、全株式の55%分の株式の売却が3年間禁止され、その他の株式について、1年経過及びその後半年毎に20%ずつ売却が可能となる
 

3.マレーシア

(1) 証券市場の概要

マレーシア証券取引所(Bursa Malaysia)には、メインマーケット(Main Market)、ACEマーケット(ACE Market)、LEAPマーケット(LEAP Market)の3つの証券市場があります。3つの証券市場には、それぞれ異なる上場基準が定められています。

  • メインマーケットは、質、規模、及び運用の面で基準を満たしている主に大企業が対象となる市場です。対象となる会社は通常、長期にわたって優れた営業実績と収益性を示しています。メインマーケットにおいて上場するには、一定の利益実績又は規模に達していることを証明する必要があります。
  • ACEマーケットは、高い成長見通しを持つ主に中小企業を対象としたスポンサー主導の市場です。以前はMESDAQ市場として知られていた同市場では、スポンサーにより、事業の見通し、企業行動、内部統制の妥当性等の様々な側面を考慮して、上場における適合性を評価します。
  • LEAPマーケットは、主に新興企業を対象としたアドバイザー主導の市場です。同市場は、資本市場を通じて資金調達へのアクセスと可視性を高めることを目的としています。同市場に上場するために、営業実績又は財務実績を証明する必要はありません。

(2) メインマーケットの上場基準

証券市場によってそれぞれ上場基準が異なるため、以下では、主にメインマーケットの基本的な上場形態であるプライマリー上場の基準に絞って解説します。上場基準としては、定量的及び定性的基準の2種類の基準があります。また、外国企業及び鉱物石油ガス(MOG)会社は、追加の基準を満たす必要があります。

なお、セカンダリー上場を希望する外国企業は、特定の定性的基準を満たすだけでよく、定量的基準を満たす必要はありません。セカンダリー上場とは、マレーシア証券委員会によって指定された外国証券取引所の主要市場に既にプライマリー上場している外国企業に認められたプライマリー上場以外の方法により上場する形態をいいます。

(3) 定量的基準(Quantitative criteria)

コア事業がインフラ事業に関係しない会社は、利益又は時価総額基準のいずれかを満たす必要があります。インフラ事業を行う会社は、インフラ事業会社基準を満たさなければなりません。

プライマリー上場を希望する企業は、公開スプレッド要件を満たす必要があります。公開スプレッド要件は、流通株式数が当該会社の総株式数の25%以上及び100株以上を保有する1,000人以上の一般株主を要するとされています。

2021年3月1日以降、マレーシア証券取引所は、以下の定量的及び定性的基準を満たしている場合は、メインマーケットの公開スプレッド要件を緩和することを検討する場合があります。

定量的基準
時価総額 公開スプレッド要件
10億リンギット以上30億リンギット未満 20%
30億リンギット以上 15%
定性的基準 a. 十分に流動性のある市場
b. 秩序ある公正な取引
c. 十分なコーポレートガバナンスの実施とコンプライアンス
d. 公開スプレッド要件緩和に対する合理性

また、公開スプレッド要件の株式の50%は、ブミプトラの投資家へ割り当てられる必要があります。もっとも、MSCステータス、BioNexusステータスを持つ会社及び主に外国を拠点とする事業を行う会社は、この要件が免除されます。

(4) 定性的基準(Qualitative Criteria)

プライマリー上場を求める国内外の会社は、スポンサーシップ、コア事業、経営の継続性と能力、株式のモラトリアム、関連当事者との取引及び財務状況と流動性に関する定性的基準を遵守する必要があります。

(5) 外国企業のプライマリー上場の追加基準

上場を希望する外国企業は、特にコーポレートガバナンス、株主の保護、買収及び合併の規制に関して、会社法及びその他の法律がマレーシアの法律と同等の法域に設立されなければなりません。当該法域が同等の基準を有していない場合、会社の定款を変更することによって基準を満たすことは可能です。また、目論見書を発行する前に、必要に応じて、コア事業を行う法域のすべての関連規制当局の事前承認が必要です。その他にも、2016年会社法に基づいて外国企業として登録されている必要がある等の基準があります。

 

 

4.ミャンマー

(1) 証券取引所の概要

ミャンマーでは2013年7月31日に証券取引法が公布され、2015年7月27日に証券取引法施行細則が施行されました。

これに従い、日本取引所、大和総研及びミャンマー経済銀行が共に、ミャンマー初の証券取引所であるヤンゴン証券取引所を2016年12月に設立し、2016年3月に取引を開始しました。現時点(2023年2月27日時点)において、7社の株式が上場されています。現時点では市場は1つのみであり、上場準備市場の設立が承認されたものの、まだ運用はされていない状況です。

(2) 上場基準

ヤンゴン証券取引所は上場規則(Securities Listing Business Regulations)を設けており、上場基準は以下の通りです。

定量基準(Formal Criteria)

  1. 上場日時点において浮動株が5000株以上、または浮動株時価総額が5億チャット以上となることが見込まれること
  2. 上場日時点において株主数が100名以上となること
  3. 直近2期間の利益合計がプラスであること
  4. 上場申請時点における払込資本が5億チャット以上であること
  5. 事業開始から上場申請日までの期間が2年以上経過していること
  6. 公開会社(Public Company)であること
  7. ミャンマー会計基準(MFRS)に準拠した決算書を作成していること
  8. 上場申請時点において株式の譲渡制限が撤廃されていること
  9. ヤンゴン証券取引所に対して株主管理業務を委託することにつき同意すること
  10. ヤンゴン証券取引所が株式振替業務を行うことにつき同意すること
  11. 事業の継続性と収益性が保たれていること
  12. 企業経営の健全性・公平性が保たれていること
  13. コーポレートガバナンス及び内部統制が有効に機能していること
  14. 企業情報が適正に開示されていること
  15. その他ヤンゴン証券取引所が公益及び投資家保護の観点から必要と判断する事項
 

5.メキシコ

(1) 証券市場の構造

メキシコには、メキシコ証券取引所(Bolsa Mexicana de Valores)と、証券機関取引所(Bolsa Institucional de Valores)の2つの証券市場が存在します。

メキシコ証券取引所は、ラテンアメリカで2番目に大きな証券市場であり、時価総額は2021年末日時点で9407兆 ペソです。メキシコ証券取引所においては、ボルサ指数(メキシコ証券取引所に上場する代表的な35銘柄で構成される時価総額加重平均型の株価指数、Indice de Precios y Cotizaciones (IPC))という指標が用いられています。

証券機関取引所においては、FTSEという指標が用いられています。

(2) 上場基準

上場のためには、株式を国家証券登録所(Registro Nacional de Valores)へ登録する必要があります。この登録のための一定の基準が、有価証券の発行者及びその他の証券市場参加者に適用される一般規定(Disposiciones de Carácter General Aplicables a las Emisoras de Valores y a Otros Participantes del Mercado de Valores)において設けられています。

同規定は、以下のような基準を設けています。

・ 上場にあたっては、1,200万投資単位(2023年2月22日現在1投資単位当たり7.73092ペソ)以上の株式発行。

・ 一般投資家に提供される株式の割合が発行者の株式の15%以上であること、又は9億5000万投資単位以上であること。

・ 募集が行われた時点で、大口一般投資家とみなされる株主等の最低人数は、100人を下回ってはならないこと。

・ コーポレートガバナンス・コードへの準拠度合いについて報告すること。

また、上場する法人はその形態に合わせて、適用を受ける法の規準を満たさなければなりません。

例えば、証券市場法(Ley del Mercado de Valores)に規定される投資促進会社(Sociedades Anónimas Promotoras de Inversión)が上場する場合、次の規準を満たす必要があります。

・ 証券の登録に先立ち、以下について株主総会の承認決議を得ていること。

ⅰ) 既存の商号に 「Bursátil」という表現又はその略称「B」を加える商号の変更。

ⅱ) 国家証券登録所への登録が効力を生じた日から起算して10年を超えない範囲内で、事業年度の末日における当該投資促進公開会社の資本金が、各年、監査済み又は意見書付財務諸表に基づきの2億5,000万投資単位のペソ換算額を超える場合には、公開株式会社の形態を採用すること。

ⅲ) 前ⅱ)の期間内に公開株式会社に適用される制度を段階的に導入することを規定するプログラム。

ⅳ) 資本構成を公開株式会社に適用される制度に適合させるため、及び国家証券登録所への登録の取消の事由及び効果を規定するために必要な定款変更。

これらの事項に関する承認決議に加え、株主総会は、会社を支配している個人又はグループを特定し、その個人又はグループは株主総会議事録に署名して同意を表明すること。

・ 取締役会は、国家証券登録所への登録時に、独立取締役(Consejero Independiente)を1名以上置くこと。

・ 会社は、公開株式会社に設置されているものに準じて、企業実務に関し取締役会を補佐するための委員会を設置すること。当該委員会は、取締役のみで構成され、独立取締役が委員長を務めること。

・ 取締役会の秘書役は、各株主の保有株式数を認証すること。

その他、公開株式会社(Sociedad Anonima Bursátil:SAB)の場合は、経営を担うのは、取締役会(Consejo de Administración)及び社長(Director General)となり、取締役会は、21名以内の取締役で構成し、そのうち25%以上が独立取締役でなければならないと規定されています。

補助的信用機関の組織と活動に関する一般法(Ley General de Organizaciones y Actividades Auxiliares del Crédito)に定める金融機関等も国家証券登録所に株式を登録することにより上場が可能となりますが、証券市場法に基づく株式の登録のほか、国家銀行証券委員会(Comisión Nacional Bancaria y de Valores)の規定や同法の規定を遵守しなければなりません。

 

 

6.バングラデシュ

(1) 証券取引所の概要

 バングラデシュでは、ダッカとチッタゴンに証券取引所が存在します。バングラデシュ証券取引委員会法1993年(Bangladesh Securities and Exchange Commission Act, 1993)に基づき、同年6月に、バングラデシュ証券取引委員会が設立されました。同委員会の目的は、証券における投資家の利益の保護、証券市場の発展、それに関連する事項またはそれに付随する事項について規則を制定することです。委員会は、政府によって任命された常任委員長と4人の委員で構成されます。委員会は、財務省の付属機関です。

(2) 上場基準

(a) ダッカ証券取引所

 主な要件は以下の通りです。

  • 目論見書に含まれる監査済み財務諸表の日付以降、払込資本金の調達を含む重要な変更を行っていないこと
  • 証券取引規則1987年の要件、バングラデシュで採用されているIFRS/IASの規定に従って財務諸表を作成し、バングラデシュ監査基準(BSA)、会社法及びその他の法的要件に従って監査していること
  • 年次株主総会を定期的に開催していること
  • 委員会が随時発行するコーポレート ガバナンス ガイドラインの条項を遵守していること
  • 目論見書を作成する際に、規則のすべての要件を遵守していること
  • 申請時に累積留保損失がないこと
  • 委員会が随時公表する、資産の評価に関するガイドラインの規定に準拠していること
  • バングラデシュ銀行の最新のCIBレポートにより、発行者または10%以上の株式を保有するその取締役および株主が、融資の不履行者でないこと
  • これまで資本発行を通じて調達された資金の少なくとも80%が利用されていること
  • マネージングディレクターまたは最高経営責任者によって正式に証明された、払込資本に相当する金額の預金を示す銀行取引明細書とともに銀行証明書を提出しなければならない
  • 公募申込日から過去 2 年以内に、ボーナス株式の発行を除き、払込資本金を調達していないこと
  • 株式公開後の払込資本金が以下の通りに増加するように、公募を行わなければならない
    • IPO後の払込資本金が 7.5億タカ以下の場合、30%以上
    • IPO 後の払込資本金が 7.5億タカを超え、15億タカを超えない場合、20%以上
    • IPO 後の払込資本金が15億タカを超える場合は、10%以上

(b) チッタゴン証券取引所

 最低払込資本金が 1 億タカの公開有限会社は、以下の条件を満たせば上場することができます。

  • 累積損失がないこと
  • 年次株主総会を定期的に開催していること
  • 少なくとも過去 5 年間は操業していること
  • 直近5年間の会計年度のうち3年間は黒字であり、安定して成長していること

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける証券取引所の概要

フィリピンには、フィリピン証券取引所(The Philippine Stock Exchangeと呼ばれる証券取引所で、以下「PSE」といいます。)が存在します。PSEは、1927年に設立されたマニラ証券取引所と1963年に設立されたマカティ証券取引所が合併してできた証券市場であり、現時点でフィリピン唯一の証券取引所となります。

 なお、2023年2月時点では、PSEに288の上場企業が存在するとされています。

     2. PSEにおける2つの分類市場

PSEには、2種類の市場が存在します。1つ目は、Main Boardと呼ばれる市場で、2つ目は、SME Boardと呼ばれる市場です。後者のSME Boardは、「Small, Medium, Emerging」の略であり、Main Boardの方がSME Boardよりも上場のための基準が高く設定されています。

     3. PSEにおける上場基準

PSEにおいては、Main Boardに上場するための条件が定められています。主な基準は、以下のとおりです。

    1. 同一の事業を3年間継続していること
    2. 取締役の人数要件を満たし、各取締役が少なくとも1株を自分の名義で所有していること
    3. 株主資本として、直近の会計年度において少なくとも5億フィリピンペソの価値があること

一方、SME Boardへ上場するためには、同一の事業を2年間継続していることや2,500万フィリピンペソの資本が必要であること等、Main Boardにおいて要求される基準よりも、緩やかな基準が設定されている場合があります。

また、上場のためには開示手続が必要となり、開示に関する基準はPSEが定める「CONSOLIDATED LISTING AND DISCLOSURE RULES」に記載されています。

      4. 審査機関について

 上場審査については、フィリピンにおける証券取引委員会の監督下にあるPSEが行います。

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの証券市場

 ベトナムには、ホーチミン証券取引所(HOSE)とハノイ証券取引所(HNX)の2つの証券取引所があり、異なる上場基準(ホーチミン証券取引所の方が上場基準が厳しく、大企業中心)で運営されてきましたが、現在、2つの証券取引所の統合が進められており、ハノイ証券取引所は2023年7月1日から新規上場の受付けを停止し、2025年6月30日に両者が統合される予定となっています。

 また、これらの上場基準を満たさない、または公開会社であるものの上場していない会社を対象とする未上場公開株取引市場(UPCoM)もあります。

(2) ホーチミン証券取引所(HOSE)の上場基準

  • 上場申請時点での払込済資本金1200億VND以上
  • 上場申請時点で株式会社として設立されてから2年以上経過していること
  • 直近2年連続で黒字を計上していること
  • 直近年度の株主資本利益率(ROE)が5.0%以上であること
  • 返済期限を1年以上超過した債務がないこと
  • 上場申請時点で累積赤字を計上していないこと
  • 議決権付き株式の20%以上を大口株主ではない株主300人以上が保有していること

(3) ハノイ証券取引所(HNX)の上場基準

  • 上場申請時点での払込済資本金300億VND以上
  • 上場申請時点で株式会社として設立されてから1年以上経過していること
  • 直近1年で黒字を計上していること
  • 直近年度の株主資本利益率(ROE)が5.0%以上であること
  • 返済期限を1年以上超過した債務がないこと
  • 上場申請時点で累積赤字を計上していないこと
  • 議決権付き株式の15%以上を大口株主ではない株主100人以上が保有していること

(4) 未上場公開株取引市場(UPCoM)の上場基準

  • 上場申請時点での払込済資本金100億VND以上
  • 証券保管センター(VSD)に株券を登録していること

発行 TNY Group

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2023年2月27日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国のCOVID-19関連の入国規制

1.日本

(1) 外国人の入国制限について

2022年10月11日以降、全ての外国人の新規入国について、日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請は求められなくなり、68の国・地域に対する査証免除措が再開されました。以下の国・地域に対するAPEC・ビジネス・トラベル・カード取り決めに基づく査証免除も再開されました。

地域 国・地域
アジア インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、台湾
大洋州 オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド
中南米 チリ、ペルー、メキシコ
欧州 ロシア

外務省HP新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省 (mofa.go.jp)

(2) 日本入国時の検疫措置について

 2022年10月11日から、日本入国時の検疫措置は原則として実施せず、入国後の待機等を求めないこととなりました。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書または出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要とされています。

 また、2023年1月12日以降、中国(マカオを含む、香港を除く)からの直行便での入国者については、ワクチン接種証明書の有無にかかわらず、出国前検査証明書が必要とされ、入国時の検査も行われる臨時的な水際措置が講じられています。

有効なワクチン接種証明 陰性証明書
(出国前検査)
質問票 入国時検査 入国後の待機期間
あり 不要
必要
なし
なし
なし 必要

厚生労働省HP 水際対策

 

2.タイ

タイでは、2022年10月1日から入国規制等が以下のとおり緩和されています。

(1) タイ入国時の規制緩和

  • タイ入国時のワクチン接種証明書又は陰性証明書の提示は不要。
  • 日本を含むビザ免除国/地域からの渡航者の滞在可能期間を30日から45日に延長(2023年3月末までの措置)。

(2) タイ国内における感染対策緩和

  • マスク着用は混雑した場所や換気の悪い場所において推奨されるが、義務ではなくなる。
  • 新型コロナ感染者のうち、軽症又は無症状の人は自己隔離不要で外出可能。ただし、5日間はDMHT対策(Distancing:距離の確保、Mask Wearing:マスク着用、Hand Washing:手洗い、Testing:検査(症状が表れた場合))が推奨される。
  • 高齢者や特定の疾患を有する高リスクの感染者は、10日間、自身による健康観察(5日目と10日目にATKによる検査)が推奨される。
  • 企業・団体は、定期的に従業員を観察することが推奨される(感染者数が大きく増加する場合は、直ちに関係当局に報告)。
  • 引き続きワクチン接種は推奨される。
 

3.マレーシア

 2022年8月1日以降、ワクチン接種完了の有無に関係なく渡航前の陰性証明書の取得、入国後検査、及び隔離が不要となっています。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、マレーシア政府開発のMySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力しアクティベートさせておくことが要請されています。

 

4.ミャンマー

2022年12月1日より、ミャンマー入国の条件となっている「到着 14 日以上前に接種した承認済み ワクチンの(2 回)接種証明書」又は「到着前 48 時間以内に発行された RT-PCR 陰性証明書」を所持している方は、5 月 1 日より求められていた、 ミャンマー到着後の空港における RDT 検査の受検が不要となりました。(ただ し、入国時のスクリーニング(検温)で新型コロナウイルス感染症の症状 がある場合は、引き続き、RDT 検査が実施されます。)

e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。

 

5.メキシコ

メキシコへの入国について、政府による入国制限等は行われていません。

 

6.バングラデシュ

 WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。なお、1月にVOA(アライバルビザ)による入国者全員を対象に空港で抗原検査が実施されました。抗原検査の対象者や対象期間について政府による通知は出されていませんが、アライバルビザで入国する出張者などは注意が必要です。

 

7.フィリピン

 フィリピン検疫局は、改定されたフィリピン入国ガイドラインを発表しました。

(1) 完全にワクチンを接種した者(Fully vaccinated)

以下の条件を両方満たす場合は、完全にワクチンを接種した者と見なされ、出発国出発前の検査を免除されます。

  1. 出発国からの出発日時から遡って14日以上前に、ファイザーなど2回接種する種類のワクチンを2回接種済み、またはヤンセンなど1回接種する種類のワクチンを接種済みのこと。
  2. 以下のいずれかで発行したワクチン接種の証明書を携帯/所持していること。

 ア 世界保健機関(WHO)が発行した国際ワクチン接種証明書(ICV)

 イ VaxCertPH

 ウ 外国政府の国または州の紙面/デジタルの接種証明書

 エ その他のワクチン接種証明書

(2) ワクチン未接種、一部ワクチン未接種、ワクチン接種状況を検証できない者

  1. 15歳以上の者および同伴者のいない15歳未満の未成年者

 ア フィリピン到着時に、出発国の出発日時から遡って24時間以内(経由便利用者は乗り継ぎ空港の敷地外ないし乗り継ぎ国に入域・入国していないことが条件)の陰性の抗原検査結果を提示することが必要です。

 イ 上記アの抗原検査で陰性の証明を提示できない者は、空港到着時に医療施設、研究所、診療所、薬局、又はその他の同様の施設で医療専門家によって実施および認定された検査室の抗原検査を受ける必要があります。

 ウ 上記イの抗原検査で陽性となった場合には、フィリピン保健省(DOH)の検疫、隔離規則に従うことになります。

      2. 同伴者のいる15歳未満の未成年者

同伴する成人又は保護者の検疫規則に従うとされています。

 

8.ベトナム

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(観光目的、ビジネス目的いずれであっても)、

  • ベトナム滞在期間が15日以内であること
  • ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
  • ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと

という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。

 また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。

第2.各国の労働災害に関する法制度の概要

1. 日本

 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)は、業務上または通勤による労働者の負傷、疾病、傷害、死亡等に対して保険給付を行うことを目的としています(第1条)。

  1. 労災事故

労災保険給付の対象となる事故は、事業の遂行においての事故や事業に起因する疾病です。そのため、身体的な傷害だけではなく、心理的な要因による精神障害やいわゆる「過労死」等も労働災害と判断される場合があります。

労働災害は、その傷害、疾病、傷害、死亡が生じた場面に応じて業務災害と通勤災害に分けられます。

業務災害は、事業所内での作業に起因するものにとどまらず、出張や社外業務中に遭遇した事故も含み、一般的に、労働者に発症した疾病で、①労働の場に有害因子が存在し、②健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされ、③発症の経過及び医学的にみて妥当である場合には、業務上疾病と認められます。

通勤災害は、就業に関し、㋐住居と就業場所の往復、㋑就業場所から他の就業場所への移動、または㋒単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動時に生じた事故を指し、合理的な経路及び方法で行った通勤であることが要件とされます(ただし、業務の性質を有する移動は、業務災害となります)。そのため、通常と異なる通勤路を使用したり、立ち寄りをしていた場合には、個別具体的な事情を考慮して、通勤災害と認められるかが判断されます。

 2. 事業者の義務

 労災事故が発生した場合、事業者は、労働基準法により賠償責任を負いますが、労災保険に加入している場合、労災保険による補償がなされます。ただし、休業1~3日目については、休業補償の対象外となるため、事業者が平均賃金の60%を直接被災労働者に支払う必要があります。

労災保険は強制加入であり、業種や規模にかかわらず、常時1人でも従業員(パートを含む)を雇用している事業者すべてに適用されます。事業者は、事業の種類により定められた割合の保険料を全額負担しなければなりません。故意または重大な過失によって労災保険の加入を懈怠していた場合には、発生した労災事故について支給された保険給付の全額または40%を徴収されることがあります。

 事業者には、労災事故が発生した際に労働基準監督署に労働者死傷病報告をする義務もあります。

      3. 労災給付

 労災事故により、負傷・疾病があったときの給付は大きく分けて、療養に関する給付と休業に関する給付があります。

 療養(補償)給付は、治療に関する費用の補償で、労災保険指定医療機関以外で療養を受けるときは被災労働者が支払った医療費が支払われます。労災指定医療機関で受診するときには療養費を支払う必要はなく、直接医療機関に給付請求書を提出することで足ります。療養の結果、後遺障害が残る場合には、その等級によって一時金または年金の形で障害(補償)等給付がされます。

 傷病の療養のために労働できず、賃金を受けていない期間について、休業4日目以降は、それに先立つ3月間の平均賃金(日額)の80%(60%が休業補償、20%が休業特別支給金)に休業した日数を乗じて給付が保証されます。療養開始後1年6月を超えても治癒せず、傷害の程度が傷病等級に該当する場合には傷病(補償)等年金が給付され、障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金の受給者で介護を要する場合には介護(補償)等給付もされます。

 被災労働者が死亡した場合には、葬祭料の他、遺族に対して遺族補償給付として年金と一時金が給付されます。年金の額は遺族の人数に応じて変動しますが、遺族補償給付は最も優先順位の高い人に対して支給されます。

 労災保険の給付には、指定の請求書に事業者及び医療機関から証明を受けて、労働基準監督署に提出する必要があります。事業者が証明を拒否した場合でも、被災労働者がその旨を告げて請求書を提出すれば、労働基準監督署が事業者に対して事実調査を行い、その結果、労災認定が下りれば、給付を受けることができます。労災認定に不服がある場合には、行政手続である審査請求をすることができます。

 

2.タイ

(1) 労働災害に関する法制度について

労働災害が発生した際の法律として、労働安全衛生環境法(Occupational Health and Safety and Environment Act, B.E2554(A.D.2011))および労働者災害補償法 (Workmen’s Compensation Act, B.E. 2537 (A.D.1994))があります。労働安全衛生環境法では、労災事故後の使用者の義務を定め、労働者災害補償法では、労災基金や労災補償金の支給について定めており、業務に起因した死亡事故や傷害が発生した場合または病気に罹患した場合に、従業員が受け取ることのできる補償金等について規定されています。

(2) 労働災害として対応が必要となる場合

使用者は、業務に起因した従業員の死亡事故や傷害が発生した場合または病気に罹患した場合の他、火災等により事業所が危険な状態に陥った場合や、それにより負傷者等が発生した場合に、以下の責任を負うこととされています。

(3) 労災事故が発生した場合の使用者の義務

使用者は、労働災害により従業員が死亡した場合、直ちに安全検査官に電話、FAX、またはその他の手段で通知をし、従業員が死亡した日から7日以内に労働災害の内容及び原因を書面で報告しなければなりません(労働安全衛生環境法34条1項)。

火災や爆発、流出物の発生やその他の重大な事故の発生の結果、事業所が損害を受けたり、生産を停止しなければならない場合、または人がいる事業所内が危険な状態に陥った場合や、負傷者等が発生した場合、使用者は直ちに安全検査官に電話、FAX、またはその他の手段で当該事実を通知しなければなりません。また、事故発生から7日以内に、当該事故等の原因及び再発防止措置を書面で報告しなければなりません(同条2項)。

従業員が労働災害補償法所定の危機に直面し、または病気に罹患した場合、使用者は7日以内に社会保険事務所に通知し、その写しを安全検査官に送付しなければなりません(同条3項)。

(4) 労働災害が発生した場合の給付

従業員が生命の危険または疾病に罹患した場合、使用者は直ちに従業員の治療を手配する必要があります。また、省令規定の範囲内で医療費やリハビリ代、葬祭費を使用者が負担することとなり(労働者災害補償法13条、15条、16条、17条)、労働災害に遭った従業員または当該従業員の親族に対して、毎月補償金を支払わなければならないとされています(同法18条)。

一般的に、使用者は補償基金の規定に従って従業員に補償金を支払う必要がありますが、従業員が酩酊物質やその他の中毒性物質(アルコールや大麻等)を摂取したため意識をコントロールできない場合、または従業員が自ら労働災害を招いた場合や第三者に発生させるよう仕向けた場合には、使用者は補償金を支払う必要はありません。

 

3.マレーシア

 マレーシアでは、労働災害に関する法令として労災給付制度を定めた労働者社会保障法(The Employees’ Social Security Act 1969)があります。

(1) 概要

労働者社会保障法は、怪我等の理由で就労ができなくなった場合の収入の填補について規定しています。同法に基づく労働者社会保障制度はSOCSO(Social Security Organization)によって運用されています(同法58条)。

同法は、以下の2つの制度を提供しています。

    1. 雇用傷害(Employment Injury)保険制度:業務上の負傷及び疾病に対する給付
    2. 障害年金(Invalidity Pension)制度:業務と関係のない負傷及び疾病に対する給付

(2) 加入義務者

使用者は同法に基づき自身とその労働者(雇用契約又は見習契約に基づき就労する全ての者)の登録を行わなければなりません(同法4条、5条)。家事労働者を除く外国人労働者も加入義務の対象です。

本制度の対象者は2つのカテゴリーに分けられます(同法6条2項)。

  1. 第一カテゴリー:雇用傷害保険制度及び障害年金の被保険者たる労働者
  2. 第二カテゴリー:雇用傷害保険制度の被保険者たる労働者

(3) 給付内容

同法では以下のとおり給付内容が定められています(同法15条)。

 ア 障害年金(Invalidity Pension)

医療委員会から(永続的な)就労不能との認定を受けた被保険者に対する定期給付です。

 イ 障害手当(Disablement Benefit)

業務上の負傷に起因する障害(Disable)を受けた被保険者に対する定期給付です。

この手当には、以下の種類があります。

  1. 一時障害手当
  2. 永続的部分障害手当
  3. 永続的全部障害手当

使用者は、労働者が一時障害手当を受給している期間中は、労働者を解雇又は罰することができず、同期間中になされた解雇、減給に関する通知は無効であり効力を有しないとされています(同法53条)。

 ウ 遺族手当(Dependants’ Benefit)

業務上の負傷の結果死亡した被保険者の遺族に対する定期給付です。

    エ 葬儀手当(Funeral Benefit)

業務上の負傷により被保険者が死亡した場合、受給権を有する近親者に支払われます。

 オ 継続看護手当(Constant-Attendance Allowance)

障害年金又は永続的全部障害手当の受給権を有する労働者は、その不能の程度が著しく他の人間の継続的な看護を必要とする場合、それぞれの給付の40%に相当する継続看護手当を受給することができます。

 カ 医療手当(Medical Benefit)

業務上負傷した労働者の治療費等の給付です。

 キ 遺族年金(Survivors’ Pension))

障害年金の受給中に亡くなった労働者等の遺族に対して支払われる定期給付です。

(4) 使用者の責任

一般的に、使用者が職場における安全性の確保に関する義務を怠り、その結果労働者が負傷し損害を負った場合、労働者は使用者に対して損害の賠償を求めることができますが、同法31条本文は、労働者は同法に基づき補償される雇用契約上の受傷については使用者から損害の賠償を受ける権利を有しない旨を定めています。したがって、職場における事故を理由に労働者が使用者に対して損害の賠償を求める事例は多くはないと考えられます。

ただし、同条ただし書は、同条本文の例外として、道路輸送法(Road Transport Act 1987)により使用者に第三者賠償保険加入が義務付けられている自動車の事故に起因する請求については同条本文を適用しない旨を定めているため、この場合には、労働者は使用者に対して損害の賠償を求めることができるとされています。

 

 

4.ミャンマー

(1) 社会保障法及び労働者災害補償法

労働災害に関して、社会保障法(The Social Security Law, 2012)及び労働者災害補償法が規定しています。社会保障に加入している労働者は社会保障法のみ適用され、労働者災害補償法は適用されません(社会保障法49条)。

(2) 社会保障法における労災の内容

社会保障に加入している労働者は、労災時の治療(社会保障法52条(a))、一時的に就労不能となった場合の無料の治療及び労災前4ヶ月の平均賃金の70%の一時就労不能給付(社会保障法55条)を最長12か月間受給できます(社会保障法施行細則180条、181条)。また、永久的に一部障害が生じた場合、障害により失った能力の程度に応じて平均賃金の70%を一定期間受給できます(社会保障法57条、58条)。

労災により死亡した場合、負担金を支払った期間に応じて、指定された遺族に対して給付が支払われます(社会保障法62条)。

(3) 労働者災害補償法の内容

本法は、労働者が就業中に負傷した場合は、使用者が補償しなければならない旨規定しています。具体的には、①死亡した場合、②全面的身体障害になった場合、③永久的部分的身体障害になった場合、④一時的身体障害になった場合、⑤他者の介助が常時必要になった場合、の各補償について規定しています。但し、例外として、負傷の原因が次のような事由に起因する場合には補償義務を負いません。すなわち、(a)負傷時に飲酒、薬物使用により精神喪失状態にあった場合、(b)安全管理の観点から明示的に与えられた業務命令や規則に対し負傷者が故意に従わなかった場合、(c)安全管理のために設けられたことが明らかな予防手段を負傷者が故意に取り除いたり、無視した場合です。なお、労働者が特定の業種において、少なくとも6か月以上継続的に雇用され、その職業に固有の職業病に罹患した場合は、雇用者がその反証を提示できない限り、当該疾患も就業上の負傷の場合と同様の取扱いとなります。

 (1)で述べた通り、社会保障法に加入していない労働者の労災についてのみ本法が適用されるため、現在では本法が適用される場面は極めて限られた場面となります。

 

5.メキシコ

(1) 関連する法令等

 労働災害については、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)および社会保険法(Ley Seguro Social)に規定されています。基本的には、連邦労働法で規定されている内容について社会保険法にも規定され、社会保険で補償されることになります。

 なお、使用者は、労働者を雇用した場合、当該労働者を社会保障に加入させなければなりません。

(2) どのような場合に労働災害としての対応が必要となるか

 労働災害(Riesgos de trabajos)とは、業務の過程でまたは業務に関連して発生する事故および疾病をいい、業務上の事故と業務上の疾病に分けらます。

業務上の事故(Accidente de trabajo)とは、業務の過程または業務に関連して突然発生した、即時又は事後の器質的損傷又は機能障害、死亡又は誘拐など第三者の法に反する行為に起因する失踪をいい、事故の発生場所及び時間帯は問われません。労働者が自宅・職場間、職場から他の職場へ直接移動する際に発生した事故は、この業務上の事故に含まれます。

業務上の疾病(Enfermedad de trabajo)とは、労働者がその労務を提供する義務を負う業務または環境において、業務に由来しまたは関連する要因の継続的作用により生じる病的状態をいいます。

 以上のような、業務上の事故や業務上の疾病が生じた場合には、労働災害として対応が必要となります。

(3) 労災事故が発生した場合の使用者の義務

使用者は、応急処置を施し、労働者の自宅または病院への移送の手配をする義務を負います。

使用者は、労働災害が発生した場合は、その発生から72時間以内に労働社会保障省(Secretaría del Trabajo y Previsión Social)に書面もしくは電子的方法により届出なければならず、労働災害によって労働者が死亡した場合には、直ちに通知しなければなりません。ただし、当該労働者が社会保障機関に自ら提出した場合はその必要はありません。

また、労働者の死亡や後遺障害に至る労働災害が発生した場合は、各事業所に設置された労働安全衛生委員会はその発生から30日以内に原因の調査を行わなければなりません。

(4) 労働災害が発生した場合の給付

① 労働災害によって生じうる結果

労働災害により生じた結果は以下のように分類され、これに応じた社会保障給付等がなされます。

  • 一時的な障害(Incapacidad temporal):能力または適性の喪失により、部分的または全面的に一定期間、仕事をすることができなくなること
  • 部分的な後遺障害(Incapacidad permanente parcial):その人の労働能力または適性が低下すること
  • 全面的な後遺障害(Incapacidad permanente total):能力または適性を喪失し、終身にわたり一切の業務に従事することができない状態
  • 死亡(Muerte)
  • 第三者の法に反する行為に起因する失踪(Desaparición derivada de un acto delincuencial)

② 給付の種類

  • 療養補償給付:医療・手術の補助、リハビリテーション、入院等のサービス
  • 休業補償給付:労働者が一時的な障害を負った場合、補償は、労働不能となってから、当該労働者が就労可能と診断されるか、部分的な後遺障害や全面的な後遺障害と認定されるまでの間、労働者の基準給与(給与額に福利厚生費等を加算し求められる社会保障費等の計算基準給与)の全額分の給付がなされます。
  • 障害補償給付:全面的な後遺障害の場合、労働者は、災害発生時の基準給与の70%に相当する額の確定月例年金を受け取ることができます。

部分的な後遺障害の場合も、障害年金を得ることができます。

  • 葬儀費用 
  • 遺族補償年金:死亡又は第三者の法に反する行為に起因する失踪の場合には、寡婦又は寡夫、孤児、尊属等は遺族補償年金を受ける権利を有します。

③ 使用者による補償

 使用者は、労働災害により生じた労働者の障害等に対し社会保障による補償を受けさせることができない場合、当該労働者に対し、次の補償を行わなければなりません。

  • 一時的な障害:就労不能期間中の賃金相当額の金員
  • 部分的な後遺障害:障害が全面的な障害であった場合に支払われるべき金額に基づき、障害評価表で定められた割合の金員
  • 全面的な後遺障害:1,095日分の賃金に相当する金員
  • 死亡又は失踪:葬式費用(2か月分の給与額)と5000日分の賃金に相当する金員。寡婦又は寡夫、孤児、尊属等がこれを受ける権利を有します。

 

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでは、労働法および労働規則にて、労働災害補償について規定しています。輸出加工区(EPZ)および経済特区(EZ)については、EPZ労働法およびEPZ労働規則が適用されます。

(1) 労災の対象範囲

全ての一般労働者が対象となる日本の労災補償制度と異なり、バングラデシュでは、労災の対象となる労働者が限定されており、鉄道法3条に定義されている鉄道員又は労働法/EPZ労働法別表4に列挙されている業務に従事する者で、一般的なサービス業の労働者や事務員は含まれていません。労災補償の対象となる31項目(EPZ労働法では11項目)の職種は、a) 5人以上が雇用されている職場で、蒸気、水または他の機械的動力または電力が使用される製造工程、付随する業務、製造工程に関する業務に従事する者(製造工程が行われていない場所で事務作業のみに従事しているものは除く)、b) 5人以上が雇用されている職場で、建物または敷地内で、物品の使用、輸送または販売のために、製造、改造、修理、装飾、仕上げ、改良する業務に従事する者、c) 10人以上が雇用されている職場で、爆発物の製造または取扱いに従事している者、d) 建物等の建設、保守、修理または取り壊しに従事する者、e) 運転手、f) 倉庫で雇用されている又は10人以上雇用されている倉庫もしくはその他の場所で勤務している者、又は、100人以上が雇用されている市場もしくは場所で物品の取り扱いもしくは輸送に従事している者、g) 警備員、などが挙げられています(労働法150条(8)、EPZ労働法73条(8))。

労災補償の対象となる職種の労働者が、勤務中に生じた事故により、身体を負傷した場合、以下の場合を除き、使用者は補償金を支払う義務があります(労働法第150条(1)(2))(EPZ労働法第73条(1)(2))。

  1. 負傷による全体または部分的な労働能力の損失が3日を超えない場合
  2. 労働者の飲酒または薬物使用に起因する事故、労働者が安全確保を目的とした明確な指示または規則に故意に従わなかった場合、労働者の安全確保を目的として支給されていることを知りながら、労働者が故意に安全装備を外したり、無視した場合に直接起因する事故による負傷の場合

労働法/EPZ労働法により特定された業務により指定の職業病に罹患、特定された業務に6か月以上継続的に勤務し、指定の職業病に罹患した労働者は、労災とみなされ、使用者が反証しない限り、勤務中に生じたとみなされます(労働法第150条(3))(EPZ労働法第73条(3))。

(2) 補償金額

労働不能の程度に応じた補償金額が定められています。永久一部労働不能について、労働法/EPZ労働法別表1にて、負傷の程度に対する労働不能の割合が記載されています。一時労働不能の場合、労働不能となった日から4日の待機期間後の支払い月の初日に1か月の補償金が支払われ、労働不能の期間または別表5に指定される期間(1年、長期に亘る疾病の場合は2年)の短い方の期間支給されます(労働法151条(1)、EPZ労働法74条(1))。同一の事故により複数の負傷があった場合は、永久全労働不能による補償金額を超えない範囲で増額されます(同条(2))。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける労働災害に関する法制度の概要

労働安全衛生法に位置づけられる、共和国法第11058号the Occupational Health and Safety Law(以下「OSH法」といいます。)は、「安全で健康な労働力」に対する国の方針を表した法律になります。2018年8月17日に成立したこの法律は、フィリピン経済特区庁(Philippine Economic Zone Authority)圏内の企業も含むすべての民間企業を対象とした法律です。また、フィリピンにおける労働法は、その規定がOSH法と矛盾しない限り、労働安全衛生が問題となる場面で適用されることがあります。

  1. OSH法の概要

OSH法においては、労働安全を確保するため、使用者と労働者間の義務及び責任が定められています。OSH法において、一般的に、使用者は、従業員に安全な労働環境を提供する義務があり、労働者は、使用者が課す安全衛生に関する規則等を遵守する義務があります。

     2. フィリピンにおける労働災害に関する使用者の義務等

労働者は、使用者の過失、重過失又は悪意の有無に関わらず、業務上生じた障害や死亡に対する補償請求を行うことができるとされています。最高裁判所も、職場で負傷した労働者は、労働法に基づく損害賠償請求ができる旨を判示しています。なお、使用者の過失に起因する労働災害が生じた場合には、民法に基づく訴えを申し立てることができるとされています。労働災害が生じる前に、労働者に安全な労働環境を提供し、万が一事故が発生した場合は、必要に応じて応急処置を行うなどの体制を整えておく必要があります。

      3. フィリピンにおける労働災害に関するその他の制度

フィリピンにおいては、労働法に基づき、国家保険基金の制度が存在します。 この国家保険基金は、労働者が、業務に関連した障害の発生や死亡の場面において請求できる補償基金として創設されたものです。民間企業従業員(SSS)及び公共企業体従業員(GSIS)は加入が必須とされており、補償金の請求があった場合は、使用者の労働者に対する賠償金の支払義務が免除される可能性があります 。

 

8.ベトナム

 ベトナムでは、2016年7月から労働安全衛生法が施行され、その中で労働災害についても規定されています。

(1) 適用対象

 労働安全衛生法45条には、次の要件を満たす場合を労働災害と規定しています。

 ① 以下のいずれかに該当する事故に遭うこと

  ・ 職場において勤務時間内に発生した事故

  ・ 雇用主の指示に従い、職場以外の場所又は勤務時間以外において発生した事故

  ・ 適切な時間に適切なルートで通勤している途中で発生した事故

 ② 事故により、5%以上、労働能力を喪失したこと

 ③ 事故が次のいずれかの原因により発生したものではないこと

  ・ 労働者と事故の原因となった者との間で、業務に関係なく紛争が発生した場合

  ・ 労働者が故意に健康を害した場合

  ・ 労働者が法律で禁止されている薬物などを使用した場合

(2) 労働災害が発生した場合における使用者の責任

 労働災害が起こった場合における使用者の責任については、次のとおり規定されています。

 ・ 被災者の応急処置や救急搬送を速やかに行うこと

 ・ 労働災害を所轄官庁に届け出ること

 ・ 死亡労働災害や重大な労働災害の現場をそのまま保全すること

 ・ 応急処置を含む以下の治療費を負担すること

・ 健康保険加入者の場合

   自己負担分の医療費及び健康保険適用外の医療費

   医学鑑定評議会において労働能力喪失率が5%未満とされた場合における労働能力喪失率検査の費用

・健康保険未加入者の場合

   医療費全額

 ・ 治療やリハビリのために欠勤した被災者に対し、欠勤期間の給与を全額支払うこと

 ・ 労働者本人の過失によらない労働災害の場合、次のとおり補償金を支払うこと

・ 労働能力喪失率が5%〜10%の場合 月給の1.5倍以上の金額

・ 労働能力喪失率が11%〜80%の場合 月給の1.5倍以上の金額+喪失率1%あたり月給の0.4倍の金額

・ 労働能力喪失率が81%以上の場合 月給の30倍以上の金額

・ 労働者が死亡した場合 遺族に対し月給の30倍以上の金額

 ・ 労働者本人に過失がある場合、上記過失がない場合の40%以上の金額の補償金を支払うこと

 ・ その他、労働災害調査チームの設置や調査に対する情報提供、労働災害記録の作成、保管、従業員への労働災害に関する情報の提供など

発行 TNY Group

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2023年1月30日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国のCOVID-19関連の入国規制

1.日本

(1) 外国人の入国制限について

2022年10月11日以降、全ての外国人の新規入国について、日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請は求められなくなり、68の国・地域に対する査証免除措が再開されました。以下の国・地域に対するAPEC・ビジネス・トラベル・カード取り決めに基づく査証免除も再開されました。

地域 国・地域
アジア インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、台湾
大洋州 オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド
中南米 チリ、ペルー、メキシコ
欧州 ロシア

外務省HP新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省 (mofa.go.jp)

(2) 日本入国時の検疫措置について

 2022年10月11日から、日本入国時の検疫措置は原則として実施せず、入国後の待機等を求めないこととなりました。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書または出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要とされています。

有効なワクチン接種証明 陰性証明書
(出国前検査)
質問票 入国時検査 入国後の待機期間
あり 不要
必要
なし
なし
なし 必要

厚生労働省HP 水際対策

 

2.タイ

タイでは、2022年10月1日から入国規制等が以下のとおり緩和されています。

(1)タイ入国時の規制緩和

  • タイ入国時のワクチン接種証明書又は陰性証明書の提示は不要。
  • 日本を含むビザ免除国/地域からの渡航者の滞在可能期間を30日から45日に延長(2023年3月末までの措置)。

(2)タイ国内における感染対策緩和

  • マスク着用は混雑した場所や換気の悪い場所において推奨されるが、義務ではなくなる。
  • 新型コロナ感染者のうち、軽症又は無症状の人は自己隔離不要で外出可能。ただし、5日間はDMHT対策(Distancing:距離の確保、Mask Wearing:マスク着用、Hand Washing:手洗い、Testing:検査(症状が表れた場合))が推奨される。
  • 高齢者や特定の疾患を有する高リスクの感染者は、10日間、自身による健康観察(5日目と10日目にATKによる検査)が推奨される。
  • 企業・団体は、定期的に従業員を観察することが推奨される(感染者数が大きく増加する場合は、直ちに関係当局に報告)。
  • 引き続きワクチン接種は推奨される。
 

3.マレーシア

 2022年8月1日以降、ワクチン接種完了の有無に関係なく渡航前の陰性証明書の取得、入国後検査、及び隔離が不要となっています。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、マレーシア政府開発のMySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力しアクティベートさせておくことが要請されています。

 

4.ミャンマー

2022年12月1日より、ミャンマー入国の条件となっている「到着 14 日以上前に接種した承認済み ワクチンの(2 回)接種証明書」又は「到着前 48 時間以内に発行された RT-PCR 陰性証明書」を所持している方は、5 月 1 日より求められていた、 ミャンマー到着後の空港における RDT 検査の受検が不要となりました。(ただ し、入国時のスクリーニング(検温)で新型コロナウイルス感染症の症状 がある場合は、引き続き、RDT 検査が実施されます。)

e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。

 

5.メキシコ

メキシコへの入国について、政府による入国制限等は行われていません。

 

6.バングラデシュ

 WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。

 

7.フィリピン

フィリピン検疫局は、改定されたフィリピン入国ガイドラインを発表しました。

(1)完全にワクチンを接種した者(Fully vaccinated)

以下の条件を両方満たす場合は、完全にワクチンを接種した者と見なされ、出発国出発前の検査を免除されます。

(a) 出発国からの出発日時から遡って14日以上前に、ファイザーなど2回接種する種類のワクチンを2回接種済み、またはヤンセンなど1回接種する種類のワクチンを接種済みのこと。

(b) 以下のいずれかで発行したワクチン接種の証明書を携帯/所持していること。

 ア 世界保健機関(WHO)が発行した国際ワクチン接種証明書(ICV)

 イ VaxCertPH

 ウ 外国政府の国または州の紙面/デジタルの接種証明書

 エ その他のワクチン接種証明書

(2) ワクチン未接種、一部ワクチン未接種、ワクチン接種状況を検証できない者

(a) 15歳以上の者および同伴者のいない15歳未満の未成年者

 ア フィリピン到着時に、出発国の出発日時から遡って24時間以内(経由便利用者は乗り継ぎ空港の敷地外ないし乗り継ぎ国に入域・入国していないことが条件)の陰性の抗原検査結果を提示することが必要です。

 イ 上記アの抗原検査で陰性の証明を提示できない者は、空港到着時に医療施設、研究所、診療所、薬局、又はその他の同様の施設で医療専門家によって実施および認定された検査室の抗原検査を受ける必要があります。

 ウ 上記イの抗原検査で陽性となった場合には、フィリピン保健省(DOH)の検疫、隔離規則に従うことになります。

(b) 同伴者のいる15歳未満の未成年者

同伴する成人又は保護者の検疫規則に従うとされています。

 

8.ベトナム

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(観光目的、ビジネス目的いずれであっても)、

  • ベトナム滞在期間が15日以内であること
  • ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
  • ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと

という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。

 また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。

第2.各国の職場の労働安全衛生に関する法制度の概要

1.日本

 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)は、労働基準法(第22年法律第49号)と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています(第1条)。この目的を達成するための施策として、事業者対して労働災害防止計画の立案と安全衛生管理体制の確立を義務付けるとともに、労働者の健康保持推進のための措置の実施を求め、労働者への危険や健康被害を最小化するために特定の機械等・危険物・有害物を規制し、免許取得者のみが取り扱うこととし、違反事業者への罰則が規定されています。以下では、これらのうち、事業者の義務として規定されている主な項目を紹介します。

  1. 安全衛生管理体制

 作業内容や現場の規模によって、総括安全衛生管理者、産業医、安全管理者・衛生管理者・安全衛生推進者、衛生推進者、作業主任者等の人員と安全委員会・衛生委員会の設置が義務付けられています。

労働者に対する安全衛生教育として、労働災害防止業務従事者能力向上教育(第19条の2第1項)、雇入時及び作業内容変更時の安全衛生教育(第59条第1、2項)、新任職長等に対する安全衛生教育(第60条)、危険有害業務に対する特別教育及び安全衛生教育(第59条第3項、第60条の2第1項)を事業者は実施する義務があります。

 また、仕事の一部を請負に出している場合、業種にかかわりなく、最初に注文者から仕事を引き受けた元方事業者には、関係する請負人や請負人の労働者が関係法令に違反しないように指導し、違反する場合には是正のため必要な指示を行うことが義務付けられ(第29条)、更に、建設業及び造船業の元方事業者には、協議組織の設置・運営、作業間の連絡・調整、作業場の巡視、請負人への労働者の安全・衛生のための教育に対する指導・援助等、労働災害を防止するために必要な措置をとること(第30条第1項)、下請に対する注文者として、請負人に使用させる設備等の災害防止のための措置をとること(第31条第1項)等、が義務付けられています。

 2.労働者の健康保持推進

 作業環境測定を実施し(第65条第1項)、その結果の評価に基づいて必要な場合には設備の整備等の適切な措置を講じて記録化(第65条の2)することが事業者には義務付けられています。

 また、潜水業務等の健康障害のおそれがある業務に従事する労働者については法定の作業時間を超えて稼働させることは禁じられています(第65条の4)。

 常用雇用者の雇入時と年1回の健康診断、特定業務従事者や海外派遣労働者に対する定期的な健康診断の実施(第66条第1~3項)、心理的な負担に関するストレスチェックの実施(第66条の10第1項)、健康診断やストレスチェックの結果を受けて従業員の健康保持に必要な措置の実施(第66条の5、第66条の10第6項)、等が事業者に義務付けられています。また、省令で指定される伝染病等に罹患した労働者の就業を禁止しなければならず(第68条)、受動禁煙の防止のための必要な措置については努力義務が課されています(第68条の2)。

   3.危険防止・健康障害防止

 事業者には、機械、爆発性・引火性のある物、電気・熱等による危険の防止(第20条)、採掘・砕石等の作業方法から生じる危険や墜落・土砂等の崩壊のおそれがある場所等に関連する危険の防止(第21条)、原材料、ガス、放射線、騒音、計器監視等の作業、廃棄・残滓物等による健康障害の防止(第22条)ための必要な措置を講じる義務があります。例えば、ボイラーやクレーン等の特定の機械については、使用に際しての検査が義務付けられる他、検査証のない機械の譲渡・貸与が禁止されています。黄燐マッチ等政令で定められる重度の健康障害のおそれがある有害物の製造・輸入・使用等が禁じられる(第55条)他、爆発性・発火性のある危険有害物質については内容の表示等が義務付けられています。更に、労働災害防止のため、特定の機械の設置や大規模な建設作業等の一定の業務や工事等は監督官庁への届出が義務付けられています(第88条第1~3項)。

 また、労働者の就業場所の保全・清潔等の健康保持のための措置(第23条)等を講じることが事業者に義務付けられています。

   4.罰則

 労働安全衛生法違反の罰則としては、懲役(最高7年)、罰金(最高300万円)、過料(最高50万円)が定められており、その一部については事業者である法人への両罰規定も設けられています(第122条)。

 具体的には、労働災害の発生等を端緒として、労働基準監督機関の調査が行われ、労働安全衛生法違反の疑いがある場合には、被疑事件として捜査が開始され、両罰規定が適用されるときは法人代表等の事情聴取も行われて、検察庁へ事件が送致され、捜査結果を踏まえて公訴提起に進み、裁判所で判断されます。

 

2.タイ

(1) 労働安全衛生環境法

タイでは、職場における労働安全衛生に関する法律として、労働安全衛生環境法(Occupational Safety, Health and Environment ACT, B.E. 2554 (A.D. 2011))があります。同法では、使用者の労働安全衛生環境に関する管理・運営等の義務、職場における安全衛生基準、安全管理者の任命等について規定されています。

(2) 使用者の義務

使用者は、被雇用者の生命、身体、精神及び健康に危害が及ばないように、被雇用者の業務を支援し、促進することを含め、会社及び被雇用者を安全で衛生的な労働条件及び環境を提供し、維持する義務があります(同法6条1項)。具体的には下記のほか、使用者は、被雇用者に対する業務の危険を知らせる通知、マニュアルの配付(同法14条)労働安全衛生環境に関する研修の実施(同法16条)、危険を警告する表示の掲示(同法17条)等を行う必要があります。

(3) 安全衛生基準に関する省令

使用者は、省令で定める基準に従って、労働安全、健康及び環境を管理及び運営しなければならないとされています(同法8条1項)。同項に基づく省令は、職種によって安全衛生基準を定めており、安全装置の設置、従業員の安全服の着用、作業機器の基準等が定められています。同条に基づく省令の例として、機械、クレーン及びボイラーに関連する省令、電離放射線に関連する省令、建設作業に関連する省令、潜水作業に関連する省令、熱、光及び騒音に関連する省令、有害な化学物質に関連する省令等があります。

(4) 安全管理者の任命

使用者は、省令で定める基準、方法及び条件に従って、事業所内の安全を運用するために、被雇用者から任命した安全管理者、人員・作業ユニット又は人員のグループを定めなければならないとされています(同法13条1項)。

 

3.マレーシア

 マレーシアでは、労働安全衛生に関する法令として労働安全健康法(Occupational Safety and Health Act 1994)があります。

(1) 概要

 労働安全健康法は、職場における人の安全、健康、福祉の確保を目的とする法律です。同法は、Schedule1が定める以下の事業に対して適用されます(労働安全健康法1条2項)。

  1. 製造業
  2. 採掘・採石業
  3. 建設業
  4. 農業、林業、漁業
  5. 公益事業(電気、ガス、水、衛生サービス)
  6. 運送業、倉庫業、通信事業
  7. 卸売・小売
  8. ホテル・レストラン
  9. 金融、保険、不動産、事業サービス
  10. 公的サービス・法定機関

(2) 適用対象

 使用者が直接雇用している労働者のほか、その使用者が監督する職場で働く下請業者の労働者等も労働者に含まれます(労働安全健康法3条)。 

(3) 使用者の義務

 労働安全衛生法15条は、全ての使用者は雇用する全ての労働者に対し、職場の安全、健康及び福祉を確実なものとしなければならないと規定しています。この使用者の義務には、以下のような内容が含まれます(労働安全健康法15条2項)。

  1. 安全であるように職場における設備又はシステムを提供・維持する
  2. 設備及び物資の使用、運用、取扱い、貯蔵及び輸送の安全性を確保する
  3. 安全性を確保するために必要な情報、指示、訓練及び監督を提供する
  4. 職場及び職場への出退勤の方法を安全なものとする
  5. 労働者の福祉のために適切な設備を確保する

 5名以上の労働者を有する使用者は、労働者の職場における安全及び健康に関する一般指針を作成し、労働者に対し周知しなければなりません(労働安全健康法16条)。

 また、いかなる使用者も、以下の理由によってその労働者に対する解雇や役職の不利益変更等の行為をとることはできません(労働安全健康法27条1項)。

  1. 安全性を欠く又は健康を害すると考える問題について苦情を申し立てた
  2. 安全・健康委員会の構成員である
  3. 安全・健康委員会としての役割を果たした

 同条に違反した使用者は、RM1万を超えない若しくは1年を超えない禁固又はその両方が科される可能性があります(同条3項)。

 使用者は、職場で発生した又は発生する可能性のある事故、危険な出来事、職務上の中毒又は職務上の疾病を最寄りの労働安全健康局に通知しなければなりません(労働安全健康法32条1項)。

 

4.ミャンマー

(1) 労働安全衛生法

2019年3月に労働安全衛生法が公布されました。本法は全ての職場に労働安全衛生に関する事柄を効果的に推進すること等を目的としています。

(2) 労働安全衛生法上の使用者の義務

労働安全衛生法上、使用者は以下の義務を負います(労働安全衛生法26条)。

  1. 職場、作業過程、使用されている機械及び物質の危険性を評価しなければならない。
  2. 職場で起こりうる危険の状況を必要に応じて評価しなければならない。
  3. 規定により労働者が職業病であるか否かを認定医に調べさせなければならない。
  4. (a)(b)(c)項による調査を元に、健康で安全な状況に達するまで職場を管理しなければならない。
  5. 労働省から指定され許可された適当な個人用の防護服、物及び信頼性のある設備を支給し、着用及び使用を確認しなければならない。
  6. 危険のある場合、防止する対策を立てなければならない。
  7. 省が決めた労働者人数より労働者数が多い職場では診療所を置き、登録医及び看護師を雇い、必要な薬及び信頼性のある設備を設置しなければならない。
  8. 使用者を含め、各部局の経営者及び労働者は省が決めた労働安全衛生の講座に出席しなければならない。
  9. 労働者が労働災害又は生命と健康に被害を及ぼしうる状況に遭遇した場合、労働安全衛生の担当者又は管理者に通知する計画を立てなければならない。
  10. 労働者が職場の機器、機械、廃棄物または作業過程により健康を害さないよう、職場の安全を管理しなければならない。
  11. 労働災害が起こった場合、即座に作業を終了し、労働者を安全な所に移動させ、救助する計画を立てなければならない。可能ならば使用者は労働者を安全な所で働かせなければならない。
  12. 労働安全衛生による教育啓発活動のため、掲示、ポスター、案内看板などを条項の通り置かなければならない。
  13. 危険が起こりうる禁止区域に出入りする場合、注意に従うよう管理しなければならない。
  14. 教育、知識、技術を満たすよう、関連省から出版された、労働安全衛生に関する指令を関連する労働者に伝え、啓発して管理しなければならない。
  15. 火事安全の計画を立て、実際に消火器使用の訓練を行わなければならない。
  16. 監査役の観察、書類依頼、証拠の収集を許可しなければならない。
  17. 労働者は危険な労働及び職場で働く場合、指定時間内で働かせなければならない。
  18. 労働安全衛生の費用を払わなければならない。

使用者は次に述べた条件で労働者を解雇する又は役職を下げることはできません(労働安全衛生法27条)。

    1. 職場上の被害による登録医による医療登録又は職業病で認定医による医療登録が受理されていない場合。
    2. 危険又は健康上の問題について苦情を言う場合。
    3. 労働安全衛生委員会の義務を果たす場合。
    4. 職場での災害又は職業病が起こりうる際に継続して作業していない場合。

使用者は、以下の義務も負います(労働安全衛生法29条)。

  1. 登録医の健康診断のもと、企業が必要とする健康レベルを満たしていない労働者を制限し禁止しなければならない。
  2. (a)項により、禁止された労働者が健康である証拠を申告してきた場合、遅延なく元の職場又は適当な職場で再び働くことを許可しなければならない。
  3. 妊婦又は育児中の女性の健康を害さないよう作業及び管理しなければならない。
 

5.メキシコ

(1) 労働安全衛生に関する法規制

労働安全衛生に関して、憲法( Constitución Política de los Estados Unidos Mexicanos)は、使用者は、その事業の性質に応じて、その事業所における安全衛生に関する法令上の規定を遵守し、機械、器具および用具の使用における事故を防止するための適切な措置を採用するとともに、労働者の健康および生命を最大限に保障することと規定しています。また、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)においても、業務上の事故や疾病を防ぐために、安全、健康、労働環境に関する規則や公式メキシコ規格に従って、工場、作業場、事務所、敷地、その他業務を行う場所を設置、運営し、労働当局が定める予防・是正措置を採用することと、使用者の義務が規定されています。

詳細な労働安全衛生規制に関しては、労働安全衛生に関する規則(Reglamento Federal de Seguridad, Higiene y Medio Ambiente de Trabajo、以下、「規則」といいます。)および公式メキシコ規格(Norma Oficial Mexicana、以下、「NOM」といいます。)において定められています。紙幅の関係上、各規制の詳細については割愛しますので、個別の事業所に適用される労働安全衛生の法規制に関しては、弊事務所にご相談ください。

(2) 労働安全衛生に関する規則の概要

労働安全衛生に関する規則において、使用者は、以下の義務を負うとされています。

  • 労働安全衛生診断、ならびに規則およびNOMで要求されるリスクの調査・分析を行うこと。
  • 労働安全衛生診断に基づく労働安全衛生プログラムを作成すること。
  • 平常時および緊急時の活動や作業工程の実施のための特有のプログラム、マニュアル、手順を作成すること。
  • 安全衛生委員会(Comisión de Seguridad e Higiene)を設置し、その運営を円滑にすること。
  • 予防的労働安全衛生サービスを提供し、また法律に従い産業医サービスを提供すること。
  • 職場の見やすい場所に通知や標識を設置し、労働災害リスクを知らせ、警告し、防止すること。
  • 事業所の設置に際しては、規則およびNOMに示された労働安全衛生対策を、作業内容や作業工程の性質に応じて適用すること。
  • 職場の環境条件を暴露限界値以内に維持するために、職場環境における汚染物質に対する認識、評価、制御を行うこと。
  • 規則およびNOMにより必要とされる業務上の被曝者に対する健康診断の実施を命じること。
  • 作業者がさらされる労働災害リスクに応じて、個人用保護具を提供すること。
  • 業務に関連する労働災害リスクについて、労働者に知らせること。
  • 労働者が行う活動に応じて、危険防止や緊急時の対応について教育・指導を行うこと。
  • 安全衛生委員会のメンバーおよび予防的労働安全衛生サービスを提供する労働者を訓練し、必要に応じて社内の産業医学予防サービスの責任者の交代を支援すること。
  • 規則およびNOMの定めに従い、危険が伴う活動または作業に対してその実施を許可すること。
  • 規則およびNOMで定められた管理記録を、紙または電子媒体で保管すること。
  • 発生した労働災害について、労働福祉省(Secretaría del Trabajo y Previsión Social)または社会保障機関に通知すること。
  • 業務上の事故および疾病による死亡を労働福祉省に通知すること。
  • 圧力容器、超低温容器、蒸気発生器またはボイラーの取扱いに関する届出を行うこと。
  • 労働安全衛生に関する規則およびNOMの遵守に関する意見、結果報告、適合証明書を取得すること。
  • 請負業者がその施設内で作業を行う際に、規則およびNOMに定められた労働安全衛生対策を遵守するよう監督すること。
  • 労働安全衛生に関する規則の遵守を徹底するため、労働当局による監査を許可し、協力すること。
  • その他、法律の規定に従うこと。

また、規則は、次の個別的な場合における使用者の義務も定めています。

  • 職場の建物等
  • 火災の予防
  • 機械や設備等の使用
  • 材料の取り扱い・輸送・保管
  • 危険な化学物質の取扱い・輸送・保管
  • 自動車の運転
  • 高所作業
  • 閉鎖的空間における就業
  • ボイラー等の取扱い
  • 静電気の管理および大気放電の影響の防止
  • 溶接および切断の作業
  • 電気設備の保守
  • 職場での騒音
  • 職場での振動
  • 職場の照明
  • 電離放射線源の使用・取扱い・保管・輸送
  • 非電離性電磁波を発生させる職場
  • 極端な高温または低温の熱条件にさらされる場合
  • 異常な気圧・水圧にさらされる場合
  • 健康に影響を及ぼす可能性のある化学物質にさらされる場合
  • 健康に影響を及ぼす可能性のある生物学的物質にさらされる場合
  • 職場の人間工学的危険因子
  • 職場における心理社会的リスク要因、など

(3) NOMによる規制

NOM-001-STPS-2008 職場の建物、構内、施設、敷地における安全基準
NOM-002-STPS-2010 職場の火災予防に関する安全基準
NOM-003-STPS-1999 農作業における農薬や肥料の使用に関する労働安全衛生基準
NOM-004-STPS-1999 職場で使用される機器の安全装置及び保護システム
NOM-005-STPS-1998 職場における危険な化学物質の取り扱い、輸送、および保管における安全および衛生基準
NOM-006-STPS-2014 職場における危険な化学物質の取り扱い、輸送、および保管における安全および衛生基準
NOM-007-STPS-2000 農業における施設、機械、設備、工具に関する安全基準
NOM-008-STPS-2013 木材の保管や加工を含む木材の取扱いに関する安全衛生基準
NOM-009-STPS-2011 高所作業における安全基準
NOM-010-STPS-2014 作業環境を汚染する化学物質の特定、評価、および管理に関する基準
NOM-011-STPS-2001 騒音が伴う職場の安全衛生基準
NOM-012-STPS-2012 電離放射線源を扱う職場の安全衛生基準
NOM-013-STPS-1993 非電離放射線が発生する職場の安全衛生基準
NOM-014-STPS-2000 異常な環境圧力下での労働安全衛生基準
NOM-015-STPS-2001 高温もしくは低温下の労働安全衛生基準
NOM-016-STPS-2001 鉄道の運営管理における安全衛生基準
NOM-017-STPS-2008 職場における個人用保護具の選択、使用、および取り扱い基準
NOM-018-STPS-2015 職場の危険な化学物質によるリスクの識別と伝達のための統一システム
NOM-019-STPS-2011 安全衛生委員会の組成、構成、運営に関する基準
NOM-020-STPS-2011 圧力容器、低温容器、蒸気発生器またはボイラーの取扱いに関する安全基準
NOM-022-STPS-2015 職場における静電気に関する安全基準
NOM-023-STPS-2012 地下鉱山及び露天掘鉱山における労働安全衛生基準
NOM-024-STPS-2001 振動に関する労働安全衛生基準
NOM-025-STPS-2008 職場の照明に関する基準
NOM-026-STPS-2008 安全衛生における色及び標識、並びに導管内流動体に関するリスクの特定
NOM-027-STPS-2008 溶接及び切断作業における労働安全衛生基準

NOMとは人々の安全や健康、動植物、環境の保護、安全な作業環境の確保などを目的とする法的強制力のある規格基準です。現在、労働安全衛生に関して有効なNOMは以下の通りです。

また、2021年1月12日、テレワークに関する規制の追加等、労働法の改正が施行されました。これに基づき、2022年7月15日にテレワークにおける安全衛生に関する基準を定めるNOMの草案であるPROY-NOM-037-STPS-2022が公表され、これに対するパブリックコメントの募集が行われました。今後、寄せられたパブリックコメントの内容を踏まえ、最終的なNOMが発行される予定です。

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでは、労働法および労働規則にて、職場の労働安全衛生について規定されています。輸出加工区(EPZ)および経済特区(EZ)については、EPZ労働法およびEPZ労働規則が適用されます。

(1) 職場の健康、衛生、安全

(a) 労働法および労働規則

 労働者の健康と衛生を保つため、使用者は職場環境を適切に整えなければならないと規定されています。労働法51条から60条に亘り、清掃、換気、温度調整、粉塵、煙、廃棄物処理、排水処理、清潔な水での加湿、過密の解消、照明、水の供給、トイレと洗面所、ゴミ箱の設置について、使用者がとるべき措置が定められており、労働規則40条から52条にて、具体的な数値などが補足されています。

 また、職場での安全確保のために、労働法61条から78A条に亘り、建物と機械の安全性、火災への対策(避難経路の確保、50人以上労働者を雇用している事業所は6か月に1回以上火災避難訓練を実施しなければならない等)、機械の囲い、動力機械の取り扱い、電力を切るための装置、自動機械、クレーンなどリフト機、巻き上げ機、加圧器、フロアや階段、ピットや汚水槽、目の保護、有害ガスに対する予防措置、爆発または可燃性ガスや粉塵の適切な取り扱いや対応について定められています。労働規則53条から67条にて、具体的な措置が補足されています。事故や特定の疾病が発生した場合は、速やかに検査官へ報告しなければならないと規定されており、労働規則にて、報告書の様式が提供されています。

(b) EPZ労働法およびEPZ労働規則

 EPZ労働法35条では、安全管理のための措置(危険物の取扱、労働者への教育、安全委員会の設置、安全管理簿の保管等)及び健康管理(産業廃棄物の処理、換気や温度管理、危険作業に対する措置等)について定めています。また、2022年9月に制定されたEPZ労働規則では、第4章(39条から105条)に「保健、衛生、安全な職場環境、福祉」について規定しています。45条では、消防機器の管理、48条では男女別のトイレの設置、49条では、飲料水の提供を義務づけています。50条では、全ての事業場において、危険性のある化学物質および機材のリスト、消防機材等を含む安全記録簿を管理し、51条にて、安全委員会の設立が義務づけられています。58条から63条では、事業場の食堂および食料の管理、67条は職場の衛生、91条には、職場で発生した事故について、発生から2日以内に使用者への報告を義務づけています。101条では、女性従業員に従事させてはならない危険性のある業務が特定されています。

(2) 医療サービス

(a) 労働法および労働規則

 事業所は救急箱を備え付け、300人以上の労働者を雇用している場合は医師および看護師を配置した医務室を設置しなければなりません(労働法84条)。また、5,000人以上の労働者を雇用している事業所は、ヘルスセンターを設置しなければならず(労働法89条(6))、労働者の人数ごとに、配置すべき医療従事者の人数やベッド数等の設備について定められています(労働規則78条(1))。労働規則にて、労働者の人数ごとに、事業所が備え付けるべき救急箱の内容を定めており(労働規則76条(1)(2)(3)(4))、医務室に備え付けるべき備品が挙げられています(労働規則77条)。

(b) EPZ労働法およびEPZ労働規則

 EPZ労働法では、各輸出加工区では、医療センターを設置し、入居企業は医療センターの会費を支払わなければならないと定められています(EPZ労働法第37条)。また、EPZ労働規則43条では、事業場の全てのフロアまたは部署に、または150人の労働者に対し、1個の救急箱を設置しなければならないと規定しており、救急箱に備えるべき医療器材が挙げられています。なお、労働者が300人以上の工場では「医療室」をもうけ、医師および1人以上の看護師の配置が義務づけられています。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける労働安全衛生に関する法令概要

フィリピンの労働安全衛生に関連する主要な法律は、「労働安全衛生基準法」に位置づけられる共和国法第11058号において規定されています。この法律は、フィリピンの職場での怪我や病気の症例数を減らし、国内労働法の規定と労働安全衛生に関する国際的に認められた基準を遵守するために、2018年8月に可決されました。また、労働雇用省は、省令第198.18号を通じて法律の実施規則および規則を公布しています。

   2. フィリピンにおける労働安全衛生基準法の概要

フィリピンにおいて「労働安全衛生基準法」に位置づけられる法令においては、主に以下の義務や基準を定めています。

①雇用主、労働者、およびその他の人の義務

②対象職場が遵守すべき基準

③労働者の権利

④雇用主の責任の性質

⑤労働安全衛生基準の実施方法

⑥禁止行為及び罰則

   3.フィリピンにおける労働安全衛生に関する雇用主の義務等

労働安全衛生に関する法令において、雇用者は、労働者に対し、死亡、病気又は身体的被害を引き起こす危険性がない雇用場所を提供する義務があるとされています。

また、同法令において、補償請求に対する労働者の権利が規定され、雇用主は、従業員から適法な申請があった場合には、必要な支援を提供することを義務づけられています。雇用主の義務違反に対しては、罰則が規定されています。

さらに、フィリピン最高裁判所における近時の判決では、負傷または死亡した労働者の相続人は、労働法に基づく補償請求又は民法に基づく損害賠償訴訟で雇用主に対する提訴を選択できると判示しました。

 

8.ベトナム

 ベトナムでは、2016年7月から労働安全衛生法が施行されています。以下、同法の概要についてご説明します。

(1) 適用対象

 労働安全衛生法は、広く、労働者及び雇用者に適用され、雇用者については業種を問いませんし、労働者については、正規雇用されているものだけでなく、試用期間中や研修期間中であっても、労働者である限り適用対象となります(2条)。

(2) 雇用者の義務(一般的義務)

 労働安全衛生法では、一般的な雇用者の義務として、次のとおり規定しています(7条2項)。

  • 労働安全衛生確保体制の構築、運用、労災保険の加入
  • 労働安全衛生確保に関する訓練、研修会の実施、労働安全衛生確保のための用具整備、健康管理及び職業病検査の実施
  • 労働災害発生の恐れがある場合における業務継続や職場復帰の指示の禁止
  • 労働安全衛生確保状況をモニタリングする担当者の配置
  • 労働安全衛生の事務担当者又は担当部署の設置
  • 労災事故の深刻、調査、統計、報告義務
  • 労働安全衛生確保の計画、規則、手順、対応策を立案する際の労働組合への意見照会

(3) 雇用者の義務(職場における義務)

 職場における労働安全衛生確保に関する雇用者の義務として、次のとおり規定しています(16条)。

  • 通気性、微粒子、蒸気、有毒ガス、放射性物質、電磁波、高温、湿度、振動、その他の関連技術基準に定める危険要素、有害要素に関する要件を満たし、かつそれらの項目の定期的な検査・測定
  • 機械、設備、材料、物質が労働安全衛生に関する技術基準や標準規格等に則って使用、運転、保持、保管されていること
  • 労働者を危険要素、有害要素を持つ業務に従事させる場合、保護具を十分に用意する
  • 毎年又は必要に応じて職場における危険要素、有害要素を検査、評価する
  • 機械、設備、材料、物質、施設、倉庫を定期的に検査、メンテナンスする
  • 職場、保管管理場所、使用場所において、労働安全衛生の要件を満たすための機械、設備、材料、物質について、分かりやすく読みやすい場所にベトナム語による警告、案内表示を掲げる
  • 労働者に対し、その業務、職務に関する労働安全衛生の規則、規定等について、周知又は訓練を実施する
  • 職場の異常対応、緊急対応計画を作成、制定する

(4) 健康診断実施義務

 雇用者は、毎年少なくとも1回、労働者の健康診断を実施しなければならないとされています。重労働、有害、危険な業務を担当する労働者や障害を持つ労働者、未成年労働者、高齢労働者については、半年に1回、健康診断を実施しなければなりません。

(5) 労働安全衛生の事務担当者又は担当部署の主な事務

 上記(2)の雇用者の一般的義務として、労働安全衛生の事務担当者又は担当部署の設置が義務付けられていますが、この事務担当者・担当部署の主な事務は次のとおりです。

 ① 労働安全衛生確保の規定等の構築、年次労働安全衛生計画の作成、労働安全衛生の点検の実施、事  故の調査、その他の労働安全衛生確保に関する事務を実施する

 ② 労働災害の危険がある場合、緊急時の作業中止や一時的な作業停止を指示し、労働安全衛生の確保に努めるよう製造部門の責任者に要請し、使用者に報告する

 ③ 安全が確保されていない機械設備、使用期限が経過した機械設備の稼働を停止させる

 ④ 労働安全衛生業務向上のための訓練、養成研修へ参加する

発行 TNY Group

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2022年12月26日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国の国内のCOVID-19関連の規制状況及び入国規制

1.日本

1.1 COVID-19関連の規制状況

 11月29日、全国で153人の死亡、12万7422人の感染が発表されています。特に行動制限は出されておらず、基本的な感染拡大防止対策(「三つの密」の回避、「人と人との距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗い等の手指衛生」、「換気」等)が求められ、マスクの着用については、①屋内において他者と2メートル以上の身体的距離が取れない場合、②屋内で他者と会話を行う場合、③屋外で他者と身体的距離が取れず会話を行う場合にマスクの着用が推奨されています(新型コロナウイルス感染症対策(内閣官房HP))。

1.2 入国規制

(1) 外国人の入国制限について

2022年10月11日以降、全ての外国人の新規入国について、日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請は求められなくなり、68の国・地域に対する査証免除措が再開されました。以下の国・地域に対するAPEC・ビジネス・トラベル・カード取り決めに基づく査証免除も再開されました。

地域 国・地域
アジア インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、台湾
大洋州 オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド
中南米 チリ、ペルー、メキシコ
欧州 ロシア

外務省HP新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省 (mofa.go.jp)

(2) 日本入国時の検疫措置について

 2022年10月11日から、日本入国時の検疫措置は原則として実施せず、入国後の待機等を求めないこととなりました。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書または出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要とされています。

有効なワクチン接種証明 陰性証明書
(出国前検査)
質問票 入国時検査 入国後の待機期間
あり 不要
必要
なし
なし
なし 必要

厚生労働省HP 水際対策

 

2.タイ

2.1 COVID-19関連の規制状況

タイのCOVID-19の累計感染者数は4,707,244名です。この内、4,649,509名が回復し、累計死亡者数は33,180名となっています。直近1週間の感染者数は4,914名、死亡者数は74名です。

2.2 入国規制

タイ政府は、10月1日からタイ入国規制等を以下のとおり緩和する旨発表しました。

(1)タイ入国時の規制緩和

  • タイ入国時のワクチン接種証明書又は陰性証明書の提示は不要。
  • 日本を含むビザ免除国/地域からの渡航者の滞在可能期間を30日から45日に延長(2023年3月末までの措置)。

(2)タイ国内における感染対策緩和

  • マスク着用は混雑した場所や換気の悪い場所において推奨されるが、義務ではなくなる。
  • 新型コロナ感染者のうち、軽症又は無症状の人は自己隔離不要で外出可能。ただし、5日間はDMHT対策(Distancing:距離の確保、Mask Wearing:マスク着用、Hand Washing:手洗い、Testing:検査(症状が表れた場合))が推奨される。
  • 高齢者や特定の疾患を有する高リスクの感染者は、10日間、自身による健康観察(5日目と10日目にATKによる検査)が推奨される。
  • 企業・団体は、定期的に従業員を観察することが推奨される(感染者数が大きく増加する場合は、直ちに関係当局に報告)。
  • 引き続きワクチン接種は推奨される。
 

3.マレーシア

3.1 COVID-19関連規制

 11月27日の新規感染者数は、2,022人でした。直近7日間(20日~26日)の平均は2,714人であり先月よりは少し増えていますが、感染状況は落ち着いています。マレーシア政府は、現在はエンデミックの段階にあるとして、以前のMCO(新型コロナウイルス流行に伴い設けられた活動制限令)下で導入されていた厳格な活動制限等の規制は撤廃されています。また、これまでは屋内でのマスク着用義務がありましたが、9月7日より電車・バス・タクシー等の公共交通機関や医療機関等一部を除き撤廃されました。

3.2 入国規制

 3月までは、労働ビザを持つ者や永住者等一部の外国人に入国を認めていましたが、4月1日からは観光目的の入国が可能となっています。

 これまで、ワクチン接種未完了者には、渡航前の陰性証明書の取得及び入国後検査及び隔離が必要とされていましたが、8月1日からはこれらの手続が不要となりました。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、MySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力が引き続き要請されています。また、ショッピングモール等施設によっては、ワクチン接種歴を確認されることがあるため、MySejahteraアプリへワクチン接種証明を反映させておくことが推奨されます。

 

4.ミャンマー

4.1 COVID-19 及びクーデターの規制状況

 爆発的な感染拡大状況にはありませんが、感染者数は 9 月上旬から 3 桁で継続推移し、新型コロナ による死者も断続的に確認されています。

4.2 入国規制

国際旅客便の着陸禁止措置が4月17日で解除され、タイやマレーシア等の周辺国からのフライトの運航が再開されています。日本からの直行便のANA便は直行便が廃止になり、6月よりタイ経由便が再開されました。

e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。入国後の隔離措置について、10月8日より、到着14日以上前に接種した承認済みワクチンの(2回)接種証明書を所持している方は、8月1日から求められていたミャンマー到着前48時間以内に発行された新型コロナ RDT(迅速抗原検査)陰性証明書(又はRT-PCR陰性証明書)の提示が不要となりました。

 

5.メキシコ

5.1 COVID-19関連の規制状況

連邦政府による新たな規制は見られません。COVID-19の感染状況については、新規感染者数やアクティブ患者数が増加傾向を見せる州もありますが、目立った拡大傾向はありません。メキシコシティの市中では、マスクを着用していない人も多くみられるようになりました。

5.2 入国規制

メキシコへの入国について、政府による外国人への入国制限等は行われていません。

 

6.バングラデシュ

6.1 COVID-19関連の規制状況

 バングラデシュでは、11月27日の時点で、24時間以内に報告されたCOVID-19の陽性者は16名で、陽性率は0.67%です。

6.2 入国規制

 WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。これまで求められていた健康申告書の提出は不要となりました。

 

7.フィリピン

7.1 COVID-19関連の規制状況

 フィリピンの COVID-19 感染者は累計402万9201人で、死者数は累計64,524人です(2022年11月25日現在)。新規感染者は2021年の年末以降急激に増加し、2022年1月中旬をピークとしてその後減少傾向にあるものの、最近はやや増加傾向にあります。現在は1日約700~1,500人程度の新規感染者が報告されています。

7.2 入国規制

  フィリピン検疫局は、改定されたフィリピン入国ガイドラインを発表しました。

 これまでワクチン未接種の外国人は、入国できませんでしたが、到着後隔離施設での隔離(5日目以降に陰性のRT-PCR検査結果がでるまで)により入国できることとなりました。

 

8.ベトナム

8.1 COVID-19関連の規制状況

 ベトナムにおける2022年11月28日午前9時の時点での累計感染者数は1151万4532人で、約1か月前の10月27日の時点より1万5659人増加しました。11月に入ってからは、毎日の新規感染者数は400人前後に落ち着いています。

 ベトナムでは、4月頃から社会・経済活動や市民生活における新型コロナに関連する規制はほぼ撤廃されています。また、ベトナム保健省は、9月6日、マスク着用に関する規制を緩和するガイダンスを決定しました(2447/QD-BYT)。これによると、これまで公共の場ではマスク着用が必須とされていましたが、急性呼吸器感染症の症状がある者、新型コロナ感染者・感染の疑いのある者、飛行機、バス、タクシーなどの公共交通機関を利用する場合などを除き、公共の場でマスク着用は不要とされました。

8.2 入国規制

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(観光目的、ビジネス目的いずれであっても)、

  • ベトナム滞在期間が15日以内であること
  • ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
  • ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと

という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。

 また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。

第2.各国の社会保障に関する法制度の概要

1.日本

 社会保障制度は、(1)医療保険、年金、介護保険、雇用保険及び労災保険からなる社会保険、(2)社会的弱者に対する公的支援である児童福祉を含む社会福祉、(3)生活困窮者に対する生活保護制度を軸とする公的扶助、(4)予防衛生に主眼を置いた保健医療・公衆衛生からなります。1958年の国民健康保険法(昭和33年法律第192号)改正と1959年の国民年金法(昭和34年法律第141号)制定により、国民皆保険・皆年金が導入されていること、社会保険方式をとるものの、その財源の約3割を公費で賄っていること、被用者と自営業者等で別個の健康保険と年金の制度が用意されていること等に特徴があります。以下では、介護保険を除く社会保険について、概観します。

(1)医療保険制度

医療保険は、その職種によって、①公務員が加入する共済組合保険、②大企業の被用者が加入する健康保険組合、③中小企業の被用者の加入する協会けんぽ、④その他の自営業者や非正規雇用者が加入する国民健康保険の4つのグループに分かれます。保険料は、①~③の被用者保険では、毎月の給与と賞与に保険料率を掛けて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担しますが、④の国民健康保険では、世帯毎に賦課される平等割、世帯の被保険者数に応じた均等割り、被保険者の所得に応じる所得割と固定資産税額に応じる資産割から計算して世帯単位で定められます。少子高齢化に対応すべく、75歳以上の高齢者を対象とする後期高齢者医療制度が2008年に制定され、高齢者からも保険料が徴収されています。

被用者保険は、常時1名以上使用される者がいる法人事業所及び常時5名以上使用される者がいる法定16業種に該当する個人の事業所について強制適用され、これら以外については労使合意により任意に適用事業所となることができます。

2020年に被用者保険の適用を拡大する各法律改正がなされました。具体的には、2022年10月以降は、弁護士・税理士等の法律・会計事務を取り扱う士業が被用者保険の強制適用対象となりました。また、保険対象は所定労働時間週30時間以上ですが、2016年10月に従業員500人超の企業に義務化された、①週20時間以上で、②月額賃金8.8万円以上、③1年以上の勤務の見込みがある短時間労働者に対する被用者保険の適用の義務化が、2022年10月からは100人超、2024年10月からは50人超の企業まで段階的に拡大されることとなり、同時に、被用者の勤務期間の要件③が撤廃されました。 

(2)年金制度

 全員が国民年金の被保険者となり、20歳から60歳まで保険料を納付する義務があります。一定の被用者と公務員については、保険料を雇用者とで折半する厚生年金保険にも加入することとなり、年金受給時には、報酬比例年金が基礎年金に上乗せされます。また、公的年金の他に、国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)等に任意で加入することで上乗せした年金を受給することも可能です。

 年金の受給は、60歳から75歳の間で自由に選択することができ、65歳よりも早く繰上げ受給するときは年金額が1月当たり0.4%減額(最大30%減)され、65歳以降に繰下げ受給するときには1月当たり0.7%増額(最大84%増)となります。

(3)雇用保険制度

 雇用保険制度では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業したときに生活を支える基本手当や就業に資する教育訓練を受けた際の就業促進手当を含む失業等給付及び子の養育のために休業した場合の育児休業給付がなされます。

1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込がある場合、雇用形態や労使の希望の有無にかかわらず、雇用者に加入が義務付けられます。雇用保険料は、原則として、労働者に支払う賃金総額に保険料率を乗じて計算され、被保険者負担額が控除される形で、雇用者と労働者で負担します。

 失業した場合の雇用保険(基本手当)の受給には要件があり、就業を希望しているにもかかわらず失業状況にある場合で、離職時の年齢、雇用期間の加入期間(原則、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上)、離職の理由等により、給付期間が90日~360日と異なる他、給付開始が自己都合退職の時には届出から数か月後になる等、失業者の状況に応じて差異があります。給付される基本手当は給与の総支給額に基づき定められます。

(4)労災保険制度

労災保険制度は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の疾病等に対して必要な保険給付を行い、被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。原則として、雇用形態に関係なく賃金を支給される労働者を一人でも使用する事業は、その規模を問わずすべてに適用され、雇用者が事業の種類により定められた保険率によって算出される労働保険料を全額負担します。被災労働者に対しての給付は、療養(補償)給付、介護(補償)給付、休業(補償)給付、傷害(補償)給付、遺族(補償)給付があり、それぞれの給付金額が定められています。

 

2.タイ

(1) 社会保障法に基づく被保険者

タイでは、社会保障を規定する法令として、社会保障法(Social Security Act B.E. 2533 (1990))があります。

同法に基づき、15歳以上60歳未満の被雇用者は被保険者として、社会保障制度の強制加入の対象となります。また、60歳に達した後も引き続き被雇用者である場合は被保険者となります(社会保障法33条)。なお、この被保険者は外国人も対象となります。また、同法33条に基づく被保険者が被雇用者ではなくなり被保険者の資格を喪失した場合でも、12か月以上保険料を納付している者は、被保険者の資格喪失日(退職日)から6か月以内に社会保障事務所において手続きを行うことにより引き続き被保険者となることができます(同法39条)。

さらに、同法33条に基づく被雇用者でない者であっても、社会保障事務所において手続きを行うことにより被保険者となることができます(同法40条)。

(2) 社会保障料

社会保障料は、毎月の給与を基準として算出され、以下のとおり被保険者本人、使用者および政府がそれぞれ負担します。基準となる給与額は最低1,650バーツから最高15,000バーツで、現在は被保険者本人及び使用者の保険料負担率が5%となっています。

 なお、新型コロナの影響による生活費の上昇に対応するため、2022年10月から同年12月までの期間について、本人および使用者の負担率がそれぞれ3%(保険料は450バーツ未満)となっています。

(3) 使用者の義務

15歳以上60歳未満の被雇用者が1人以上いる会社は、被雇用者が被保険者となった日から30日以内に、定められた様式による申請書を社会保障事務所に提出しなければなりません(同法34条)。

また、提出した内容に関する事実に変更があった場合には、使用者は変更があった月の翌月の15日までに書面により申請しなければなりません(同法44条)。

使用者は、賃金の支払いごとに被保険者の負担分の保険料を控除し、被保険者および使用者の負担分を翌月の15日までに社会保障事務所に支払わなければなりません(同法47条)。

(4) 社会保障の内容

社会保障制度の内容としては、①傷病手当(injury or sickness benefits)、②出産手当(maternity benefits)、③障害給付(invalidity benefits)、④死亡給付(death benefits)、⑤児童手当(child benefits)、⑥老齢給付(old-age benefits)、⑦失業手当(unemployment benefits)があります(同法54条)。

給付内容 保険料負担率
  本人 使用者 政府
傷病、障害、出産、死亡に関する給付 1.5 1.5 1.5
児童手当、老齢給付に関する給付 3 3 1
失業に関する給付 0.5 0.5 0.25
(合計) 5 5 2.75
 

3.マレーシア

 マレーシアでは、労働者に対する社会保障制度として、以下の制度が設けられています。

  • 従業員積立基金(EPF:Employees Provident Fund)
  • 従業員社会保障制度(SOCSO:Social Security Organization)
  • 雇用保険制度(EIS:Employment Insurance System)

(1) 従業員積立基金(EPF:Employees Provident Fund)

 EPFは労働者の老後の生活資金の確保等を目的とした強制貯蓄制度であり、同制度は、従業員積立基金法(Employees Provident Fund Act 1991)に基づき運用されます。

 ① 加入対象者

 全ての使用者及び労働者は労働者の月々の給与額に応じた年金保険料を納付しなければなりません(従業員積立基金法45条)。「労働者」とは、使用者のために就労するため雇用契約又は見習契約に基づき雇用された者をいいます(同条)。期間の定めの有無や勤務時間は問われませんが、家事労働者や外国人労働者等は除外されています。もっとも、家事労働者や外国人労働者も加入を選択することはできます。

 ② 年金保険料

 年金保険料の額は、労働者の賃金額に基づいて決定されます。ここにいう賃金には、基本給だけでなく、賞与、報酬又は手当等も含まれます(従業員積立基金法2条)。60歳未満のマレーシア人、永住者、又は1998年8月1日より前から任意加入を選択している者には、従業員積立基金法Third ScheduleのPart Aの表が適用され、使用者の負担分は賃金の12%(賃金がRM5,000以下の場合13%)、労働者の負担分は11%となります。前記以外の者の負担率についてもScheduleで細かく定められています。

(2) 従業員社会保障制度(SOCSO:Social Security Organization)

 従業員社会保障法は、怪我等の理由で就労ができなくなった場合の収入の填補について規定しています。同法に基づく従業員社会保障制度は、SOCSO(Social Security Organisation)によって運用されています。

 同法は、以下の2つの制度を提供しています。

  • 雇用傷害(Employment Injury)保険制度:業務上の負傷及び疾病に対する給付
  • 障害年金(Invalidity Pension)制度:業務と関係のない負傷及び疾病に対する給付

 ① 加入対象者

 使用者は同法に基づき自身とその労働者(雇用契約又は見習契約に基づき就労する全ての者)の登録を行わなければなりません(従業員社会保障法11条)。外国人労働者も加入義務の対象となります。

 ② 社会保険料

 社会保険料は従業員社会保障法Third Scheduleが定めるところに従い、労働者の賃金に応じて定められます(従業員社会保障法6条3項)。賃金には、基本給のほか、時間外手当、報酬、食事手当、住宅手当、シフト手当、妊娠手当、病気休暇中の賃金、年次有給休暇中の賃金及び休日手当を含みます(従業員社会保障法2条24項)。

 使用者は、EPFの場合同様、労働者の負担分を賃金から徴収し(第一カテゴリーの場合)、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付しなければなりません(従業員社会保障法7条、8条、9条、10条)。

(3) 雇用保険制度(EIS:Employment Insurance System)

 2017年に雇用保険法(Employment Insurance System Act 2017)が制定され、雇用保険制度が導入されています。雇用保険法は、求職手当、早期再雇用手当、賃金減少手当、及び訓練手当の労働者への給付を定めています。

 ① 加入義務者

 この法律は1名以上の労働者を雇用している全ての事業について適用されます(雇用保険法2条1項)。雇用保険法が適用される全ての労働者は、使用者によって登録され、保険に加入するものとされます(雇用保険法16条1項)。日雇労働者、家事労働者、外国人労働者(永住権を保有しない者)等は除外されています。

 ② 雇用保険料

 使用者及び労働者の双方が、労働者の月給額に応じて雇用保険法のSchedule2で定められた保険料率に従い拠出することになります(雇用保険法18条2項)。使用者は、労働者の負担分を賃金から徴収し、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付しなければなりません。 

 

4.ミャンマー

(1) 社会保障法の加入対象

2012年に新たな社会保障法(The Social Security Law, 2012)が制定されました。同法は2014年4月1日に施行され、同月2日に施行細則が制定されました。施設において5名以上の労働者を雇用している会社は社会保障制度に加入しなければなりません。強制加入の対象外の業種は非営利組織等に限定されており、使用者の家族以外の労働者は原則として社会保障制度の強制加入の対象となります。日本と同様に、強制加入義務のない業種の使用者及び労働者であっても、任意に社会保保障制度に加入することは可能です。

(2) 社会保障料

社会保障に関する使用者及び労働者の社会保障料は以下のとおりであり、いずれの負担率も対象労働者の月給に基づきます。但し、現在は月給の上限を30万チャットとして運用されており、30万チャット以上の月給労働者は一律30万チャットを基準として社会保障料の計算がなされることとなります。

  基金の種類 負担率
健康及び社会医療基金 加入時に労働者の年齢が60歳以内の場合:使用者:2%、労働者:2%
加入時に労働者の年齢が60歳を超えている場合:使用者:2.5%、労働者:2.5%
障害給付、老齢年金、遺族給付基金 使用者:3%、労働者:3%
失業給付金基金 使用者:1%、労働者:1%
社会保障住宅基金 労働者:25%以上
労災保険基金 使用者:1%
     
     
     
     
     
     

使用者は、労働者が負担する社会保障料を労働者の給与から控除し、使用者が負担する社会保障料とともに、社会保障事務所に対して支払わなければなりません。上記のうち、②乃至④については、現時点においては運用されていません。

支払期限について、使用者は、当該月の終了後15日以内に負担を支払わなければなりません。支払を遅延した場合、使用者は、保障料の10%(継続して保障料を支払わなかった場合には、未払い保障料総額の10%)を制裁金として支払わなければなりません。

(3) 使用者の義務

使用者は、社会保障料や給付金の支払記録を、規定に従って保管しなければなりません。また、使用者は、規定に従い、①労働者の出勤記録、②新規雇用者、労働者の労務の変更、雇用の停止・退職・解雇、③報酬の増額及び支払、④労働者、支配人、代表者及びそれらの変更についての記録を正確に保管し、所定のタウンシップ社会保障事務所に提出しなければなりません。当該届出は、いずれも各事由が生じた日から10日以内に行う必要があります。

(4) 社会保障の内容

社会保障制度の内容としては、主に①健康社会医療制度、②障害給付、老齢退職年金、遺族年金保険制度、③失業保険制度、④労災保険が存在します。なお、労災保険に加入している労働者は社会保障法のみ適用され、労働者災害補償法は適用されません。

 

5.メキシコ

(1) 社会保障に関する法律

メキシコにおける社会保障を規律する法律としては、社会保障法(Ley del Seguro Social)、国立労働者住宅基金機構に関する法律(Ley del Instituto del Fondo Nacional de La Vivienda para Los Trabajadores)、退職積立金制度に関する法律(Ley de Los Sistemas de Ahorro para el Retiro)が挙げられます。

(2) 管轄機関

社会保険については社会保険庁(IMSS、Instituto Mexicano del Seguro Social)が、労働者住宅基金については労働者住宅基金機構(INFONAVIT、Instituto del Fondo Nacional de La Vivienda para Los Trabajadores)が、年金については全国退職積立金制度委員会(Comisión Nacional del Sistema de Ahorro para el Retiro)が管理を行っています。

ただし、運用においてはIMSSが一括管理を行っているため、社会保障費の支払先はIMSSのみとなります。

(3) 社会保険の加入義務

労働者を雇用した場合、使用者は労働者をこれらの社会保障に加入させる義務を負い、その雇用から5営業日以内に使用者は当該労働者をIMSSに登録しなければならず、その労働者の給与額やその他登録情報の変更等も5営業日以内に行わなければならないとされています。

なお、労働者はIMSSに登録されると、INFONAVITおよび年金にも登録されることとなります。

(4) 社会保障の種類および負担率

以下の表は、社会保障ごとに本ニュースレター発行時点の使用者および労働者の負担の割合をまとめた表となります。SBCとは、Salario Base de Cotizaciónの略称であり、給与、賞与、休暇手当、食事手当、住居手当等の諸手当、現物給付、およびその他労働者に対して支払われるその他の金額を含めた額から算出される日額の算定基準給与額を指します。UMAとはUnidad de Medida y Actualizaciónの略称であり、罰金や制裁金、社会保障費の支払い額算出など様々に使用される単位であり、2022年度の日額は96.22ペソです。

区分
給付
負担率
算出基準
使用者 労働者
労働災害保険 現物および現金 0.50%から15%
(労災事故発生率などに応じ)
0.00% SBC
医療保険および出産手当
現物
固定負担 20. 40% 0.00% UMA
追加負担
(SBCがUMAの3倍超の場合)
1.10% 0.40% SBCからUMAの3倍を引いた差額
医療費 1.05% 0.38% SBC
現金 0.70% 0.25% SBC
障害および死亡保険 現物および現金 1.75% 0.63% SBC
退職積立金
退職年金 2.00% 0.00% SBC
老齢失業保険 3.15% 1.13% SBC
公的扶助 現物 1.00% 0.00% SBC
労働者住宅基金 住宅のための債権や優遇利率で借入できる権利 5.00% 0.00% SBC

なお、上記老齢失業保険の使用者負担率は、2020年の社会保障法改正に基づき、2023年より労働者の給与額に応じた負担に変更されます。使用者負担率は、2023年から2030年にかけて段階的に引き上げられることとなり、最終的には、労働者の給与額に応じ3.15%~11.875%の負担となります。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、労働法および労働規則にて、社会保障について規定されています。

  1. 民間企業の労働者のための積立基金(Provident Fund)

 労働法264条に積立基金について定められています。民間セクターの企業は、労働者の利益のために、積立基金を設立することができます。積立基金の設立は、使用者の義務でないものの、全労働者の4分の3以上の書面による要望を受けた場合は、設立しなければなりません。また、要望を受けた日から6か月以内に同基金の規約を定め、開始しなければならないと規定されており、会社独自の規約を定めることが出来ますが、法律より労働者に不利な規定は定めることができません。

 積立基金が設立されている場合、別段の合意がない限り、勤務期間が1年以上の無期雇用労働者は加入しなければならず、同基金への積立金は、労働者の基本給月額の7~8%相当額と規定されており、使用者は、労働者と同額を積み立てるほか、同基金の維持管理費を負担しなければなりません(同条(13))。積立基金に加入している労働者は、退職の理由に関わらず、使用者の負担分を含む給付金を受け取る権利があり(労働法第29条)、使用者の義務である同基金の積立金の支払いや手数料のために、労働者の賃金や手当を減額することはできません(労働法第272条)。

  1. 労働者企業利益参加基金(Workers Participation Fund)および労働者福祉基金(Workers Welfare Fund)
  2. 概要 

 労働法234条に労働者企業利益参加基金および労働者福祉基金(以下、両基金をあわせて「基金」という)について定められています。同基金は、会社の利益を労働者に還元するために設置されるもので、労働法にて定められる要件を満たした会社は、基金の設置義務が生じます(労働法234 条(1)(a))。基金の設置義務がある会社は、前年度の純利益(net profit)の5%を、基金に支払わなければなりません。

  1. 適用範囲(労働法232 条)

 a) 会計年度最終日に払込資本額が1,000 万タカ以上、または、b) 会計年度最終日に固定資産価値が2,000 万タカ以上のいずれかを満たす会社または事業場に適用されます。

 なお、政府は規則にて、100%輸出志向産業及び100%外資企業について、基金の規約、基金管理委員会の規約、助成金額の決定、集金の方法、基金の利用及び関連するその他の付随事項に必要な規定を定めなければならないとされています。

  1. 経済特区

 経済特区では、バングラデシュ経済特区(労働者福祉基金)政策((Bangladesh Economic (Workers Welfare Fund)Policies, 2017)にて、経済特区庁は、同区の労働者の福祉のために福祉基金を設立しなければならない旨が規定されています。掛金は、雇用人数によって異なり、企業が支払います。

  1. 特別社会保障基金(Special Security Fund)の設置

 2022年の労働規則の改正で、請負業者(派遣会社)に「特別社会保障基金」の設置が義務付けられました(17条)。すべての請負業者は、ライセンスを取得してから 6 か月以内に、会社名で銀行口座を開設し「労働者社会保障基金」の名称で、全労働者の基本給 1 か月分に相当する額を当該銀行に預金しなければなりません。翌年からは、毎年、2年目以降の労働者は基本給の15%、新規採用の労働者は基本給1か月分を預金します。

  1. 団体保険

 現行の保険法に従い、100人以上の無期雇用労働者を雇用している事業所は、団体保険に加入しなければなりません。団体保険は永久労働不能および死亡の場合に給付金が支払われます(労働規則98条(1))。保険料は使用者が支払う必要があり、労働者の賃金から控除することはできません(同条(4))。労働者が死亡した場合は、会社が保険金受給の手続きを行い、受取人に直接支払われるよう手配しなければならないと規定されています(労働法99条(2))。なお、中央基金が設立されている場合は、団体保険の設置義務はない。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける社会保障制度の概要

フィリピンにおいては、通称「Philhealth (フィルヘルス)」と呼ばれる政府機関において提供される国民皆保険制度が存在します。また、民間企業の全従業員と自営業者を対象とした保険制度として社会保障制度(SSS)が整えられており、公務員にあたるフィリピン政府職員のための社会保険制度として政府職員保険制度(GSIS)が存在します。

  1. 国民健康保険制度

フィリピンの国民健康保険制度は、Philhealtによって運営されています。共和国法第11223号に基づいて、フィリピンのすべての国民がこの制度を利用することができる仕組みとなっています。

フィリピンにおける国民健康保険制度は、制度を利用するすべての国民に、医療サービスを経済的に利用できる仕組みを提供することを目的としています。また、この制度は、原則として強制加入の制度になっています。

国民健康保険制度の具体的な内容としては、入院医療(部屋代、食事代、医療専門家のサービス、処方薬、生物学的製剤など)に関するサービス、外来医療(診断、検査、診察など)に関するサービス、救急搬送のサービスなどが盛り込まれています。

国民健康保険制度の利用には、登録を行ったうえで保険料を支払う必要があります。保険料を支払う能力のある者、有給で雇用関係にある者、自営業者、専門職、移住労働者などに分類される加入者は、法令において規定された料率に従って保険料を支払うことになります。保険料を支払うことが困難な者については、政府からの援助制度が適用される場合があります。

  1. 国民年金保険制度

国民年金制度は、民間従業員を対象とする制度(以下「SSS」といいます。)と、公務員を対象とする制度(以下「GSIS」といいます。)の2種類が存在します。

SSSへの加入は、60歳を超えないすべての被雇用者とその雇用者に義務付けられています。また、共同経営者や個人事業主、俳優、監督、脚本家、報道関係者、プロのスポーツ選手、個人農家や漁師などの自営業者にも加入が義務付けられています。一方、家事や育児に専念している労働者の配偶者や別居しているSSS加入者は任意加入とされています。雇用主は、従業員のために、雇用期間中は毎月SSSの制度利用のために拠出金を支払う必要があります。また、一般的に、従業員の月給から保険料を差し引く運用がなされています。SSSが提供する給付は、病気給付、出産給付、障害給付、退職給付、死亡給付、葬儀給付、失業給付の7種類です。

一部の例外を除き、政府から報酬を受けるすべての職員には、GSISへの加入が義務付けられています。

GSISの給付には、生命保険、退職金、その他すべての社会保障給付(障害給付、遺族給付、離職給付、失業給付など)が含まれます。加入者は、政府職員の月給から保険料を差し引かれる運用がなされています。

 

8.ベトナム

(1) 社会保障制度の概要

 ベトナムでは、強制加入の社会保障制度として、①疾病手当、産休手当、労災・職業病手当、退職年金、遺族給付などを保障する社会保険、②医療費を保障する健康保険、③失業時の生活保障、職業訓練を保障する失業保険という3つの制度があります。これらに加え、退職・遺族保険を別途追加する任意加入の社会保険もあります。

 対象となる労働者は、ベトナム人については、無期雇用又は1か月以上の有期雇用の労働者は全て強制加入保険の対象となります。一方、外国人労働者については、ベトナムにおいて発行された労働許可証、実務証明書又は実務許可書に基づき、ベトナムでの就労期間が1年以上の労働契約を締結している外国人が強制加入の対象となります。但し、外国人労働者については、失業保険は対象外です。

(2) 各保険の料率

 各保険の料率は、次のとおりです。

 ① ベトナム人労働者の場合

  社会保険 健康保険 失業保険 合計
労働者負担分 8% 1.50% 1% 10.50%
雇用主負担分 17.50% 3% 1% 21.50%
合計 25.50% 4.50% 2% 32%

 ② 外国人労働者の場合

  社会保険 健康保険 失業保険 合計
労働者負担分 8% 1.50% 9.50%
雇用主負担分 17.50% 3% 20.50%
合計 25.50% 4.50% 30%

(3) 強制加入の例外となる外国人労働者

 企業内異動者(日本の親会社からベトナムの子会社へ出向している日本人駐在員の多くはこの企業内異動者に該当するかと思います。)と、ベトナムの法令に規定する定年退職年齢に達した外国人労働者は、強制加入の対象外となります。ベトナムの定年退職年齢は、男性は60歳、女性は55歳でしたが、2019年に改正された労働法により、男性については2021年から2028年まで毎年3か月ずつ、女性については2021年から2035年まで毎年4か月ずつ延長されます。2022年時点での定年退職年齢は、男性60歳6か月、女性55歳8か月です。

発行 TNY Group

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html

Newsletterの記載内容は2022年11月29日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国の国内のCOVID-19関連の規制状況及び入国規制

1.日本

1.1 COVID-19関連の規制状況

 10月28日、全国で51人の死亡、3万9254人の感染が発表されています。特に行動制限は出されておらず、基本的な感染拡大防止対策(「三つの密」の回避、「人と人との距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗い等の手指衛生」、「換気」等)が求められ、マスクの着用については、①屋内において他者と2メートル以上の身体的距離が取れない場合、②屋内で他者と会話を行う場合、③屋外で他者と身体的距離が取れず会話を行う場合にマスクの着用が推奨されています(新型コロナウイルス感染症対策(内閣官房HP))。

1.2 入国規制

(1) 外国人の入国制限について

2022年10月11日以降、全ての外国人の新規入国について、日本国内に所在する受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請は求められなくなり、68の国・地域に対する査証免除措が再開されました。以下の国・地域に対するAPEC・ビジネス・トラベル・カード取り決めに基づく査証免除も再開されました。

地域 国・地域
アジア
インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレーシア、台湾
大洋州 オーストラリア、パプアニューギニア、ニュージーランド
中南米 チリ、ペルー、メキシコ
欧州 ロシア

外務省HP新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省 (mofa.go.jp)

(2) 日本入国時の検疫措置について

 2022年10月11日から、日本入国時の検疫措置は原則として実施せず、入国後の待機等を求めないこととなりました。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書または出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要とされています。

有効なワクチン接種証明 陰性証明書
(出国前検査)
質問票 入国時検査
入国後の待機期間
あり 不要
必要
なし
なし
なし 必要

厚生労働省HP 水際対策

 

2.タイ

2.1 COVID-19関連の規制状況

タイのCOVID-19の累計感染者数は4,689,897名です。この内、4,649,509名が回復し、累計死亡者数は32,922名となっています。直近1週間の感染者数は2,616名、死亡者数は40名です。

2.2 入国規制

タイ政府は、10月1日からタイ入国規制等を以下のとおり緩和する旨発表しました。

(1)タイ入国時の規制緩和

  • タイ入国時のワクチン接種証明書又は陰性証明書の提示は不要。
  • 日本を含むビザ免除国/地域からの渡航者の滞在可能期間を30日から45日に延長(2023年3月末までの措置)。

(2)タイ国内における感染対策緩和

  • マスク着用は混雑した場所や換気の悪い場所において推奨されるが、義務ではなくなる。
  • 新型コロナ感染者のうち、軽症又は無症状の人は自己隔離不要で外出可能。ただし、5日間はDMHT対策(Distancing:距離の確保、Mask Wearing:マスク着用、Hand Washing:手洗い、Testing:検査(症状が表れた場合))が推奨される。
  • 高齢者や特定の疾患を有する高リスクの感染者は、10日間、自身による健康観察(5日目と10日目にATKによる検査)が推奨される。
  • 企業・団体は、定期的に従業員を観察することが推奨される(感染者数が大きく増加する場合は、直ちに関係当局に報告)。
  • 引き続きワクチン接種は推奨される。
 

3.マレーシア

3.1 COVID-19関連規制

  10月26日の新規感染者数は、2,136人でした。直近7日間(19日~25日)の平均は2,158人であり先月よりは少し増えていますが、感染状況は落ち着いています。マレーシア政府は、現在はエンデミックの段階にあるとして、以前のMCO(新型コロナウイルス流行に伴い設けられた活動制限令)下で導入されていた厳格な活動制限等の規制は撤廃されています。また、これまでは屋内でのマスク着用義務がありましたが、9月7日より電車・バス・タクシー等の公共交通機関や医療機関等一部を除き撤廃されました。

3.2 入国規制

  3月までは、労働ビザを持つ者や永住者等一部の外国人に入国を認めていましたが、4月1日からは観光目的の入国が可能となっています。

 これまで、ワクチン接種未完了者には、渡航前の陰性証明書の取得及び入国後検査及び隔離が必要とされていましたが、8月1日からはこれらの手続が不要となりました。もっとも、ワクチン接種の有無に関わらず、MySejahteraアプリをダウンロードの上、同アプリへの氏名・パスポート番号等の必要事項の入力が引き続き要請されています。また、ショッピングモール等施設によっては、ワクチン接種歴を確認されることがあるため、MySejahteraアプリへワクチン接種証明を反映させておくことが推奨されます。

 

4.ミャンマー

4.1 COVID-19 及びクーデターの規制状況

  COVID-19 の陽性率は低くなり、感染状況は落ち着いております。

4.2 入国規制

国際旅客便の着陸禁止措置が4月17日で解除され、タイやマレーシア等の周辺国からのフライトの運航が再開されています。日本からの直行便のANA便は直行便が廃止になり、6月よりタイ経由便が再開されました。

e-visa申請も4月1日から再開されています。取得に当たり、ミャンマー国営保険会社の保険の購入が必須となっています。もっとも、申請から取得までに数週間を要する場合もあり、早めの申請が望ましいと解されます。入国後の隔離措置について、10月8日より、到着14日以上前に接種した承認済みワクチンの(2回)接種証明書を所持している方は、8月1日から求められていたミャンマー到着前48時間以内に発行された新型コロナ RDT(迅速抗原検査)陰性証明書(又はRT-PCR陰性証明書)の提示が不要となりました。

 

5.メキシコ

5.1 COVID-19関連の規制状況

10月もCOVID-19新規感染者は増加をみせず、9月26日以降の4週間の間に報告された全国の新規感染者数は合計24,464人でした。10月7日、保健省(Secretaría de Salud)は、事業活動を安全に継続するため措置を定めるCovid-19下での経済活動の持続のためのガイドライン(LINEAMMIENTOS PARA LA CONTINUIDAD SALUDABLE DE LAS ACTIVIDADESECONÓMICAS ANTE COVID-19)を策定し、同省ウェブサイトで公表することを発表し、10日に当該ガイドラインが公表されました。

同ガイドラインには、主に次の事項が記されています。

  • 1.5mの距離の確保、60%以上のアルコールによる消毒、咳エチケットの実施、感染拡大防止のための教育
  • 職場で抗原検査やPCR検査を実施する場合は、労働者の事前の同意を要する
  • 感染者の職場復帰においては、抗原検査やPCR検査を義務付けてはならない
  • マスクの使用は義務付けられないが、ソーシャルディスタンスを保てない場所では、その使用が推奨される(換気ができない場所や、一つの部屋で複数の労働者が働く場合、ワクチンを接種していない場合などは、マスクの使用が推奨される)

5.2 入国規制

メキシコへの入国について、政府による外国人への入国制限等は行われていません。

 

6.バングラデシュ

6.1 COVID-19関連の規制状況

 バングラデシュでは、10月27日午前8時の時点で、24時間以内に報告されたCOVID-19による死亡は0名、陽性者は137名で、陽性率は3.62%です。

6.2 入国規制

 WHOが承認したCOVID-19ワクチン接種を完了した者は、公式なワクチン接種証明書を持参することでバングラデシュ入国が認められ、PCR検査の陰性証明書は必要とされません。3回目のブースター接種まで完了している必要はないとされています。ワクチン接種を完了していない者は、出発72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を持参していれば、入国が認められます。

 また、バングラデシュに入国するすべての者は、渡航出発前3日以内にオンライン上(https://healthdeclaration.dghs.gov.bd/)で必要事項を入力し、QRコード付きの健康申告書(Health Declaration Form)の画像データ又は印刷したコピーを、入国後にイミグレーションで提示する必要があります。

 

7.フィリピン

7.1 COVID-19関連の規制状況

 フィリピンの COVID-19 感染者は累計399万6818人で、死者数は累計63,846人です(2022年10月26日現在)。新規感染者は2021年の年末以降急激に増加し、2022年1月中旬をピークとしてその後減少傾向にあるものの、最近はやや増加傾向にあります。現在は1日約1,500~2,200人程度の新規感染者が報告されています。

7.2 入国規制

 フィリピン検疫局は、改定されたフィリピン入国ガイドラインを発表しました。

 これまでワクチン未接種の外国人は、入国できませんでしたが、到着後隔離施設での隔離(5日目以降に陰性のRT-PCR検査結果がでるまで)をにより入国できることとなりました。

 

8.ベトナム

8.1 COVID-19関連の規制状況

 ベトナムにおける2022年10月27日午前9時の時点での累計感染者数は1149万8873人で、1か月前の9月27日の時点より2万5140人増加しました。先月の時点では、毎日の新規感染者数は2000〜3000人前後で推移していたのですが、ここ最近は1000人を下回る日が多くなりました。

 ベトナムでは、4月頃から社会・経済活動や市民生活における新型コロナに関連する規制はほぼ撤廃されています。また、ベトナム保健省は、9月6日、マスク着用に関する規制を緩和するガイダンスを決定しました(2447/QD-BYT)。これによると、これまで公共の場ではマスク着用が必須とされていましたが、急性呼吸器感染症の症状がある者、新型コロナ感染者・感染の疑いのある者、飛行機、バス、タクシーなどの公共交通機関を利用する場合などを除き、公共の場でマスク着用は不要とされました。

8.2 入国規制

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されていた外国からの入国制限はすべて撤廃され、コロナ前の入国手続に戻っています。日本国籍者の入国については、入国の目的にかかわらず(観光目的、ビジネス目的いずれであっても)、

  • ベトナム滞在期間が15日以内であること
  • ベトナム入国の時点でパスポートの有効期間が6か月以上あること
  • ベトナムの法令の規定により入国禁止措置の対象となっていないこと

という要件を満たせば、ビザなしでベトナムへの入国が認められます。また、以前は必要とされていた陰性証明書の取得、ワクチン接種証明書の提示、入国前のオンライン医療申告も不要で、入国後の隔離もありません。

 なお、従前、ビザなし入国については「前回のベトナム出国時から30日以上経過していること」という条件が付されていましたが、この条件は撤廃されています。

 また、APECビジネストラベルカード(ABTC)の所持者についてはビザ免除で最大90日目まで滞在できる措置についても復活しています。

第2.各国の消費者保護に関する法規制の概要

1.   日本

 消費者保護関連法は多岐にわたり、消費生活に関する基本的な政策や環境づくりを行う消費者庁が所管する法律だけでも37に上ります。このうち代表的な法律の概要を以下に紹介します。

  1. 消費者の生命・身体の安全に関する法律

損害の発生の予防として、一般消費者の生活の用に用いられる製品の製造及び販売を規制する消費生活用製品安全法(昭和48年法律第31号)、飲食による健康被害の発生を防止する食品衛生法(昭和22年法律第233号)等、対象品目に応じた法律が整備されています。

発生した損害について、製造物責任法(平成6年法律第85号)が、製造物の欠陥を原因とする生命・身体・財産への被害に対する製造業者等への損害賠償を規定しています。

  2. 消費者との取引に関する法律

 消費者契約法(平成12年法律第61号)は、消費者が事業者と契約をする際にある両者間の情報の質・量や交渉力の格差から消費者の利益を守ることを目的として、不当な勧誘のあった契約の取消し、不当な契約条項の無効等を規定しています。

消費者保護を目的とした業者に対する規制として、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号「特定商取引法」)が、トラブルが生じやすい、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供勧誘販売取引、訪問購入、の7取引類型について、事業者が遵守すべき規定と、クーリングオフ等の消費者を保護する規定を定め、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号「景品表示法」)が、偽装表示や誇大広告等、商品やサービスについての不当な表示を規制し、過大な景品類の提供を防止する制限を設けています。

取引に伴い事業者に開示される消費者の個人情報については、個人情報保護法(平成15年法律第57号)(ただし、所管は2016年に消費者庁から総務省個人情報保護委員会に移管)が規制しています。

     3. 消費者団体訴訟制度

個々の消費者による個別救済の限界に対処するため、消費者の損害の発生や拡大の防止するための適格消費者団体による差止請求が、平成18年以降、法改正によって、消費者契約法、景品表示法、特定商取引法、食品表示法に順次導入され、消費者の財産的被害の集団的な回復のための裁判手続きの特例に関する法律(平成25年法律第96号)の制定によって、平成28年からは、適格消費者団体による集団的な損害回復の手続が設けられています。

 

2.タイ

タイ消費者保護法は、消費者・事業者間の商品・サービスの広告、安全性、表示(ラベル)及び契約に関する規定を設けています。

(1)消費者の基本的権利

 以下の消費者の基本的権利を規定しています(同法4 条)。

  • 商品またはサービスの品質に関する正確かつ適切な情報及び説明を受ける権利
  • 商品またはサービスの選択の自由を享受する権利
  • 商品の使用またはサービスを利用するにあたって安全性が与えられる権利
  • 公正に契約を締結する権利
  • 損害に対する補償を受ける権利

 ただし、特定の法律に特別の規定がある場合には、その事項に関する法律の規定に準拠するものとされます(同法21条)。例えば、食品医薬品法、保険法などが挙げられます。

(2)広告に関する規制

 広告には、①消費者にとって不公平な内容、または②社会全体に悪影響を与える可能性のある内容を含めてはならないことが規定されています(同法22条)。

 また、以下の表現については、①または②に該当する広告とみなされ禁止されます。

  • 虚偽又は誇張した表現
  • 商品またはサービスに関する重要な部分について誤解を生じさせる表現
  • 法律または道徳に反する行為を直接的または間接的に支持する、または国家の文化的価値の低下を助長する表現
  • 不和を生じさせたり、民衆の団結を阻害させたりする表現
  • その他省令に定める表現

(3)安全性に関する規制

事業者が販売、生産、輸入、宣伝する商品は、リスクを防止または排除する措置を講じた安全な商品でなければならないと規定されています(同法29条の2)。また、危険な商品(別に法律に定める場合を除き、生命、身体、健康、精神状態および財産に危害を与えるまたは与えるおそれのあるものをいう。)を販売するためにタイ国内において生産、注文、または輸入してはならず、そのような危険な商品を推奨または宣伝してはならないと規定されています(同法29条の3)。

(4)表示(ラベル)に関する規制

工場に関する法律に基づいて工場が製造した販売用の商品、および販売用にタイ国内において注文または輸入された商品、または表示委員会が官報において指定した商品は、表示(ラベル)が規制されます(同法30条)。表示(ラベル)が規制された商品は、表示委員会が定める規則等に基づき表示(ラベル)をしなければならないとされています(同法31条)。

(5)契約に関する規制

契約委員会は、法律により契約が書面で作成される必要がある場合、または慣習上、契約が書面で作成される必要がある場合には、契約管理業種として指定する権限を有します。

契約管理業種に指定された事業を営むにあたっては、必ず書面により契約を締結しなければなりません。契約には、消費者に不利益を生じさせることを避けるために必要な契約条件が規定されていなければならず、消費者にとって不公平な契約条件を規定してはならないとされています(同法35条の 2)。

(6)救済手続きに関する規定

消費者保護委員会は、消費者の権利を侵害する紛争を解決するために、訴訟を追行する権限があります。同委員会が適切と判断した場合、または同法39条に基づいて申立てがなされた場合には、消費者の権利の侵害に対して訴訟手続を行う権限が定められています(同法10条7号) 。

 

3.マレーシア

 マレーシアにおいては、消費者保護を規定する法令として、消費者保護法(Consumer Protection Act 1999)が存在します。消費者保護法では、第2部で誤解を招く、不実・虚偽等の表示に関する規制、第3部で製品及びサービスの安全性に関する規制、第3a部で不当な契約条件に関する規制、第3b部でクレジットでの販売取引に関する規制、第4部でこれら規制の違反に対する罰則を定めています。以下では、消費者保護法の規定を一部紹介します。

(1) 表示規制

 消費者保護法9条は、商品に関して商品の性質、製造プロセス、特性、目的への適合性、有効性、又は数量に関して誤解を招く若しくは欺く、又は誤解を招く若しくは欺く可能性のある表示を行ってはならないと規定しています。

 そして、同法10条では、以下のような虚偽又は誤解を招く表示を行ってはならないと規定しています。

  1. 商品が特定の種類、基準、品質、等級、数量、構成、スタイル、又はモデルであること
  2. 商品に特定の履歴又は使用歴があったこと
  3. サービスが特定の種類、標準、品質、又は数量のものであること
  4. サービスが、特定の人物又は特定の職業、資格、又は技術スキルを持つ人物によって提供されること
  5. 特定の人物が商品又はサービスを取得することに同意したこと
  6. 商品が新品又は再生品であること
  7. 商品が特定の時期に製造、生産、処理、又は再調整されたこと
  8. 商品又はサービスに、スポンサーシップ、認証、推奨、性能特性、付属品、効用、又は利点があること
  9. その者がスポンサー、承認、支持、又は提携を持っていること
  10. 商品又はサービスの需要について
  11. 条件、保証、権利、又は救済の存在、免責、又は効果について
  12. 商品の原産地について

 また、同法8条では、虚偽、誤解を招く、又は欺瞞的な表現等には、消費者を誤解させる可能性のある表現等が含まれるものと定めています。

 上記に加えて、上記表示規制以外にも土地に関する虚偽表示(消費者保護法11条)、価格に関する誤解を招く表示(同12条)、ギフト・賞品・無料提供の表示に関する規制(同14条)等が設けられています。

(2) 安全性に関する規制

 消費者保護法19条では、大臣が商品やサービスに関しての安全基準を定めることができると規定しています。大臣が定めた安全基準が存在しない商品やサービスについては、当該商品やサービスの性質を考慮して、合理的な消費者が期待する合理的な安全基準を採用して遵守しなければならないと規定しています。

(3) 不当な契約条件に関する規制

 消費者保護法24a条では、全ての状況に照らして、契約に基づいて発生する当事者の権利と義務に重大な不均衡をもたらし、消費者に非利益をもたらす消費者契約を不当な条件と規定しています。

 そして、同法24c上では、供給者の行為や契約の条件により供給者に不当に利益又は消費者に不当に不利益をもたらす場合、契約の締結手続が不当であると規定しています。この手続上不当かどうかの判断には、消費者の知識、契約当事者の交渉力の比較等の様々な事情を基に判断します。また、同法24d条では、契約条件又は契約期間が厳しい、抑圧的である、良心的でない、過失責任を除外する等の事情がある場合は実質的に不公平な契約と規定しています。

 契約の手続が不当である場合や実質的に不公平である契約と判断された場合、裁判所は契約の条件を執行不能又は無効と宣言することができます。

 

4.ミャンマー

(1) 消費者保護法の概要

 消費者保護法は2014年3月14日に公布されました。この中で、「消費者」とは、取引目的でなく、商品やサービスを受け取る人を意味すると定義されています。本法のうち、特に企業の義務規定を紹介します。

(2) 企業家の責務

企業家の責務は以下のとおりです。

  1. ビジネス倫理に基づきビジネスを行うこと
  2. 商品やサービスに関し明確かつ適切な情報を提供すること
  3. 消費者に対し、差別なく忠実かつ適切に対応すること
  4. 規定された基準及び品質に基づき、商品、サービスが取引、生産されることを保証すること
  5. 購買前の品質検査を必要とする商品又はサービスに対し検査する機会を提供すること
  6. 保証期間中に商品の消費又はサービスの使用による損害に関して保証された責任を負うこと
  7. 消費者によって受け取られ使用された商品が合意と一致するものだった場合、合意されている内容及び条件に従って責任を負うこと
  8. 合意された合意又はサービス事業を行う上での合意の約束に正確に従うこと
  9. 関係者が消費者紛争を解決している間に、メディア又は他の手段によって関係する消費者に不利益な言動、執筆を控えること

(3)企業家に対する禁止事項

① 企業家は、以下の生産及び取引を行うことが禁止されています。

  1. ラベルに記載されている情報、条件、関連商品の保証、特長、効果、重量、総量、品質、グレード、位置、モード、スタイルに適合しない商品
  2. ラベル又は広告及び販売促進の成分に含まれる表記に適合しない商品
  3. 名称、サイズ、重量、総量、組成、指示、製造日及びバッチナンバー、有効期限、副作用、有毒な材料、製造会社の名前、住所、流通名、商標が記載されていない商品
  4. ミャンマー語で、又はミャンマーと他の言語で共同して記載されていない商品、又は、中央委員会によって決められた日付からの使用に際する、情報や取扱説明がない商品
  5. 産出場所、生産場所に関して不適切に言及された商品
  6. 内外の承認された部門又は組織の勧告又は、規定の基準に適合しない商品
  7. 権威ある組織の科学的研究結果を参照することなく、健康や栄養についての保証が記載されている商品
  8. 規定された基準及び規範に準拠していない商品
  9. 該当するサービスの記載された条件、保証、特長、期間、効果に適合しないサービス
  10. 広告及び販売プロ―モーションに含まれる内容に準拠していないサービス

② 企業家は、以下の条件にある購入者や使用者の誤解を意図的に招く販売、販売促進又は宣伝を行うことが禁止されています。

  1. 参照された品質基準、スタイル又はモード、明確な特性、用途に適合しない、割引された又は、固定特別価格の商品であること
  2. 新鮮、良好な状態ではない商品であること
  3. 他の企業の商品やサービスに対するスポンサー及び承認になること
  4. 有用でなく利用不可能な商品又はサービスであること
  5. 欠陥や必要性が隠されている商品やサービスであること
  6. 他の商品やサービスを直接的又は間接的に誹謗すること
  7. 完全な情報によって認められていない誇張を使用すること
  8. 不確実な約束によって売却又は提供された商品又はサービス

③ 企業家は、売買に際し、以下のいずれかの条件で消費者を欺いたり誤解させることを禁止されています。

  1. 商品又はサービスが所定の基準、品質を満たしていると誤って述べていること
  2. 商品やサービスの必要性を隠して述べていること
  3. 提案されている商品ではなく他の商品を代替して販売すること
  4. 商品、サービスの販売プロモーションの前に、商品、サービスの価格を引き上げること
  5. 期限切れの商品を改装、混合した上で販売すること
  6. 類似した、品質が低い商品、異なった消費するのが安全でない商品を混合して販売すること

④ その他の企業家の禁止事項

企業家は、指定期間内に、又は提供、販売促進、宣伝された金額に基づいて、商品又はサービスを販売するための手配なしに、一定期間内に特別価格で販売を販売し、宣伝することを禁止されています。

また、企業家は、以下の種類の広告を宣伝することは認められません。

  1. 商品の品質、数量、商品中の成分、商品への使用形態、価格、物品、サービスの速度、及びサービスが可能な時間に関し、消費者を欺いた広告
  2. 商品又はサービスの補償に関し欺かれた広告
  3. 商品又はサービスに関する虚偽の情報を含む広告
  4. 商品又はサービスを使用するリスクを知らせていない広告
  5. 許可なしに、人物又は出来事を使用した広告
  6. 法律又は倫理規定に違反する広告

5.メキシコ

連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)は、メキシコにおける消費者を保護するための規制を定めています。連邦消費者保護法上、保護の対象となる「消費者」は、個人に限らず法人を含む点に特徴があります。

連邦消費者保護法には、消費者とサプライヤー(習慣的または定期的に商品、製品、およびサービスの利用や享受を提供、配布、販売、リース等行う連邦民法(Código Civil Federal)上の自然人または法人と定義されており、日本の消費者契約法における事業者に相当する概念となります。)間の取引に関する通則的な規定のほか、情報・広告、プロモーション、訪問販売、サービス提供、信用業務、不動産取引、製品保証、約款など個別的な場面における規制が設けられています。広告・情報に関する規制については、2021年6月1日付の本ニュースレターにおいて紹介しています。そのため、今回は、広告・情報規制以外の消費者保護に関する規制のうち主要なものを紹介します。

(1) 通則的な規制

サプライヤーは以下の事項を遵守しなければなりません。

  • 商品、製品またはサービスの価格、料金、保証、数量、品質、寸法、利息、料金、条件、制限、期限、日付、形式、予約およびその他の条件を通知し、その情報を提供すること。
  • 消費者に提供される商品、製品またはサービスに対して支払われるべき合計金額を、見やすい方法で通知すること。合計金額には、税金、手数料、利息、保険料、その他、消費者が負担しなければならない費用等が含まれること。
  • 商品またはサービスの提供において、強制的で不公正な商取引方法や慣行、不当な条項や条件を適用しないこと。同様に、消費者が書面または電子的手段により明示的に要求または承諾をしていない追加サービスを当初の契約に基づいて提供したり、消費者の事前の承諾なしに、契約に基づかない料金を適用したりしないこと。
  • 自然現象、気象現象、衛生上の不測の事態を理由として、不当に価格を引き上げてはならない。
  • 販売、提供されたサービスまたは実施された業務の具体的な内容を記載した請求書、領収書または証票を消費者に提供すること。

(2) 訪問販売等に関する規制

サプライヤーの店舗または営業所以外で提案または実施されるものであり、動産の賃貸およびサービスの提供を含むものとして、訪問販売、販売仲介、間接的販売(いわゆる通信販売)(以下、まとめて「訪問販売等」といいます。)が規定されています。

訪問販売等にあたっては、サプライヤーの名前と住所、取引と対象となる商品・サービスの識別情報、および製品保証に関する事項が記された書面が作成され、消費者に写しが提供される必要があります。通信販売のように、消費者と接触することなく売買が成立したときに書面を提供できない場合は、サプライヤーは、消費者を確実に認識し、商品やサービスの提供が消費者の住所で行われたことを確認し、販売時と同様の手段で、クレームや返品を受け付けなければなりません。なお、この場合の返品や修理に要する商品の輸送費は、別段の合意がない限り、サプライヤーの負担となります。

訪問販売等による取引や消費者の記録は、サプライヤーによって保持され、また、消費者に通知されなければなりません。

また、訪問販売等における契約は、商品の引渡しまたは契約書の締結のいずれか遅い方から5営業日後に正式に成立することになります。この期間中、消費者はいかなる責任も負うことなく契約を取り消すことができます。

(3) サービス提供に関する規制

すべてのサービス提供施設では、提供される主なサービスの料金表を、見える場所に、はっきりと読みやすい文字で表示しなければなりません。

サプライヤーは、サービスを提供する前に、見積書を交付する義務があります。

(4) 製品保証に関する規制

製品保証書は、少なくとも保証の範囲、期間、条件、保証を受けるための仕組み、請求先、サービス拠点等を記載の上、明確かつ正確な方法で、サプライヤーから書面で発行されなければなりません。

(5) 約款に関する規制

定款とは、製品の取得またはサービスの提供に適用される条件を統一的な形式で定めるためにサプライヤーが一方的に作成する文書を指します。メキシコ国内で締結された定款が有効であるためには、スペイン語で書かれ、その文字は肉眼で読み取れるものでなければならず、大きさやフォントも統一されていなければなりません。また、消費者に不利益、不公平または不当な義務、ならびに連邦消費者保護法に違反する条項を含んではなりません。

(6) 通報・リコール等

何人も連邦消費者保護法等の規定違反について、PROFECO(Procuraduría Federal del Consumidor:連邦消費者保護局)に通報をすることができます。

また、PROFECOは、消費者の生命、健康、安全または経済に影響を与える製品、商品またはサービスに関して、消費者への周知ための警告を発し、または商品回収を命じ、サプライヤーからの届出に応じてリコールを命じることができます。

(7) 紛争解決

連邦消費者保護法が適用される取引等に関する紛争については、民事訴訟を提起するほか、連邦消費者保護法に規定される紛争解決手段を活用することができます。

消費者は、PROFECOに対し、申立てを行うことができます。申し立てられた紛争は、明らかに不適切であるとして却下されない限り、PROFECOによる調停手続きまたは仲裁手続きにおいて解決が図られることとなります。

また、消費者の集団の権利・利益を侵害があった場合には、PROFECOや30名以上の利益を代表する者は、集団訴訟を提起することもできます。

 

6.バングラデシュ

 バングラデシュでは、消費者保護を規定する法令として、消費者権利保護法(Consumer Rights Protection Act, 2009)及び消費者権利保護規則(Consumer Rights Protection Rules, 2020)が存在します。消費者権利保護法は、消費者の権利の保護及び権利侵害の防止を目的としており、同法に基づき設置される管轄機関の体制及び機能、権利侵害に対する申し立て及び罰則を定めています。消費者権利保護規則では、消費者権利保護法の規定を行使するための手続きを規定しており、申し立てに関する各種様式、申し立てや調査等の手続きを定めています。以下では、消費者権利保護法の規定を一部紹介します。

  1. 消費者権利保護の管轄機関

 商務大臣を議長とする国家消費者権利保護委員会(以下「委員会」という)が設置され、その主な役割は、消費者保護に関する政策の策定、政策実施機関への指示とされています。委員会の上位機関として、国家消費者権利保護局の設置も規定されており、委員会の機能を支援し、委員会の決定の行使に対して責任を負います。消費者保護に対する違反行為が確認された場合、かかる店舗や商業施設の一時的な閉鎖命令を出すことができるほか、消費者の権利侵害があった場合、同局に申し立てをすることができ、違反行為に対して、聴聞、調査を通じて必要な決定を下します。

     2. 違反行為及び罰則 

 商品の容量、数量、原材料その他の項目の包装への記載について、法令により課された義務に違反した場合は、1年以下の禁固もしくは50,000タカ以下の罰金またはその両方が科せられます。サービスの価格表の保管や表示を怠った場合も、同様の罰則が科せられます。また、食品への禁止物質の混入、虚偽の申し立て又は訴権濫用その他の違反に対する罰則が定められています。

 消費者権利保護法に基づき、消費者は行政措置を要求することができます。一方、国家消費者権利保護局長の承認がなければ、裁判所が申し立てを受理することはできないとされており、消費者は、消費者権利保護法に基づいて、裁判所に直接申し立てる権利が認められていないため、管轄機関が裁判所に訴訟を提起することとなります。

 

7.フィリピン

  1. フィリピンにおける消費者保護に関する法制概要

 フィリピンにおいて、消費者保護の分野は、非常に重要な分野だと位置づけられており、憲法においても、国家は取引上の不正行為および規格外または危険な製品から消費者を保護しなければならない旨が規定されています。これをうけ、フィリピン消費者法(the Consumer Act of the Philippines, approved on 13 Apr 1992)が制定されています。この法律は、基準や罰則を課すことにより、消費者を保護するための主要な法律として位置づけられています。

     2. フィリピン政府の政策勧告

 消費者保護について、フィリピン政府の消費者保護グループは、政策勧告第 22-01 号を発表し、以下の8つの権利を消費者基本権として列挙し、各権利の法根拠も併せて示しています。

  • 基本的ニーズを満たす権利
    1. 安全への権利
    2. 情報を得る権利
    3. 選択する権利
    4. 表示に関する権利
    5. 救済を受ける権利
    6. 消費者教育を受ける権利
    7. 健康状態を守る権利

 消費者の権利が侵害された場合、消費者は、その侵害について、管轄する司法機関に民事訴訟を起こすことができます。

     3. 行政措置

 フィリピン消費者保護法について、違反事由があると判断された場合、政府は、違反者に対して行政措置を開始することができるとされています。行政措置に関する調査に先立ち、消費者仲裁人が選定され、和解することを試みる場合もあります。当事者が、行政措置の決定を不服とする場合は、法令の手続を経たうえで、最終的には、裁判所へ訴えを提起する場合もあります。

 なお、苦情の申立て方法としては、ウェブサイト上で、苦情申立てフォームが開設されており、消費者がこれを利用することで、消費者保護法違反発見の端緒となる可能性があります。

 

8.ベトナム

消費者権利保護法の概要

 ベトナムでは、消費者の権利を保護する基本法として、2020年に消費者権利保護法(59/2010/QH12)が制定され、2021年7月から施行されています。この法律の特徴として、次のような条項が置かれていることが挙げられます。

  • 消費者とは、消費・生活目的で商品・サービスを購入・利用する「個人・家族・組織」であると定義され、保護の対象は個人に限定さない(3条1.)
  • 消費者の権利保護は政府及び社会全体の共同責任であるとされている(4条1.)
  • 消費者が取引、商品・サービスの購入・利用をする際の消費者の情報(消費者情報)が保護され、事業者は、消費者情報の収集・使用目的を事前に明確に通知しなければならず、目的外利用が禁止され、消費者情報保護の安全性や正確性の確保義務が課されているなどしている(6条)
  • 消費者と書面で契約をする場合、明確で分かりやすい契約書を作成しなければならない(14条2.)
  • 紛争が起こった場合において契約書の内容の解釈に争いがあるときは、消費者を優先して解釈される(15条)
  • 契約書の条項のうち、消費者側に不利となる一定の条項については無効となる(16条)
  • 欠陥商品を製造・輸入した業者は、欠陥商品の流通を停止させるためにあらゆる可能な限りの方法を即時に実施しなければならず、回収していることを、最低限、新聞において連続5回、ラジオ・放送局において5日連続で公告しなければならない(22条)
  • 消費者が原告、消費者へ商品・サービスを直接提供した事業者が被告となる民事訴訟で、事件の状況が単純明快で証拠が明確であり、取引価格が1億ドン以下のときは、簡易迅速な手続で処理される(41条)
  • 消費者は、民事訴訟において事業者側の過失を証明する義務がなく、事業者側は、自らが消費者に損害を与えていないことを証明する義務がある(42条)

 なお、消費者権利保護法が施行されて10年以上が経過し、その間、電子商取引の利用が拡大するなど消費者が当事者となる取引の環境は大きく変化しています。そこで、現在、消費者権利保護法の改正が検討されています。改正法の成立や施行時期は未定ですが、消費者保護に関する事業者の責任が厳格化されたり、事業者による禁止行為が拡大されるなどの改正が予定されており(日本でも規制が議論されているステマ(ステルスマーケティング)に関する規制も盛り込まれる予定です。)、今後の動向に注意する必要があります。

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

 URL: http://www.tnygroup.biz/

・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

 URL: https://tny-lawfirm.com/index.html

・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

 URL: http://www.tny-malaysia.com/

・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.)

 URL: http://www.tny-israel.com/

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

 URL: https://www.kt-vietnam.com/

Newsletterの記載内容は2022年10月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。