「各国のトピック、最新の法令等の紹介」TNY Group Newsletter No.71
1.日本
(1) 改正下請法の施行開始
2026年1月1日より、下請法が改正され、名称を新たに中小受託取引適正化法(以下「取適法」といいます)として施行されています。
原材料費や労務費の高騰の中、中小の事業者が賃上げの原資を確保するための適切な価格転嫁の実現を図ることが今回の改正の意図となっています。
(1) 改正点
ア 用語の変更
「下請け」という言葉は、委託者と受託者の間に上下関係があるというイメージにつながるという考慮から「下請事業者」は「中小受託事業者」という用語に変更されます。また、「親事業者」は「委託事業者」に、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されます。
イ 適用対象の拡大
(ア)対象取引
従来の下請法が対象としていた製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに特定運送委託が対象取引に追加されました。
特定運送委託とは、事業者が販売、製造、修理をする物品等を、取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引をいいます。
(イ)対象事業者
また、適用対象となる事業者についても、従来は委託事業者(親事業者)と中小受託事業者(下請事業者)の資本金規模によって定めていましたが、新しい取適法では、これに加えて従業員の人数規模の基準も導入されます。
取適法の適用対象となる事業者は以下のとおりです。
| ・製造委託・修理委託・特定運送委託 ・情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る) | |
| 委託事業者側 | 中小受託事業者側 |
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 資本金1000万円超3億円以下 | 資本金1000万円以下 |
| 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託(ログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く) | |
| 委託事業者側 | 中小受託事業者側 |
| 資本金5000万円超 | 資本金5000万円以下 |
| 資本金1000万円超5000万円以下 | 資本金1000万円以下 |
| 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下 |
ウ 禁止行為の追加
取適法では、新たに、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」と「手形払等の禁止」が定められています。
まず、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」について、材料費や労務費等の費用が高騰した場合に、中小受託事業者が製造等委託代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定することは禁止されます。
また、中小受託事業者の資金繰りの安定のために、手形支払いは禁止となります。
2.タイ
(1) 会社設立登記に関する法令の施行
事業開発局(DBD)は、外国人株主が関与する事業、または外国人がサイン権者に任命される事業におけるパートナーシップまたは非公開会社の登記の規則と手続きを強化するため、本規則を施行しました
(2) 概要及び留意点
会社設立登記時、申請者は、以下の状況において、タイ人株主全員について追加の証明書類を提出する必要があります。
- 外国人株主が登録資本金の50%未満を保有するパートナーシップまたは非公開会社
- 外国人株主はいないが、外国人がサイン権者に任命されている非公開会社
各タイ人株主は、株式払込または出資日以前3か月分の銀行取引明細書を提出する必要があります。当該明細書には、引受株式の価値に相当する金額の引き出しまたは送金、および当該支払いが行われた日付が明記されていることが求められます。
3.マレーシア
(1) 概要
Ministry of Home Affairs (MOHA)が2026年1月14日付で発出したプレスリリースによれば、外国人駐在員(Expatriate)に関する最低給与要件および雇用期間の枠組みが改定され、2026年6月1日より施行されます。就労パス(Employment Pass:EP)には、カテゴリーI、II、IIIがあり、それぞれの取得要件が異なっています。今回の改訂によりいずれカテゴリーにおいても最低給与基準が改定され、あわせて雇用期間の枠組みが導入されます。2026年6月1日以降に提出される、すべての新規申請および更新(renewal)申請は、当該改訂後の要件に従って審査されることになります。MOHAは、今後詳細なガイドラインを公表するとしていますので、今後の動向を注視する必要があります。
(2) 各カテゴリーの改訂内容
(ア)カテゴリーⅠ
従来の給与基準はRM10,000~RM19,999でしたが、RM20,000以上に変更されます。期間は最長10年です。
(イ)カテゴリーⅡ
従来の給与基準はRM5,000~RM9,999でしたが、RM10,000~RM19,999に変更されます。期間は最長10年です。また、現地ローカルへの職務承継計画書の提出が求められます。
(ウ)カテゴリーⅢ
従来の給与基準はRM3,000~RM4,999でしたが、RM5,000~RM9,999に変更されます。期間は最長5年です。また、Ⅱと同様、現地ローカルへの職務承継計画書の提出が求められます。扶養家族の同伴については、これまでカテゴリーⅢについては原則認められていませんでしたが、改定後は、これが認められることとなりました。ただしFAQによれば、駐在員の給与基準、保険付与状況、法令遵守等を考慮して可否判断が行われるようです。
4.ミャンマー
(1) サイバーセキュリティ法の施行
2025年1月、ミャンマーにおいて新たなサイバー規制の枠組みとしてサイバーセキュリティ法(Cybersecurity Law)が施行されました。本法は、国家安全や社会秩序の維持を目的として、オンライン通信、デジタルプラットフォーム及びデータ管理に対する統制を大幅に強化する内容となっています。
(2) 概要及び留意点
通信事業者やオンラインサービス提供者に対して、利用者情報や通信ログの一定期間保存義務が課されるほか、当局からの要請に基づく情報提供やコンテンツ削除への対応義務が明記されており、企業のITガバナンス体制への影響は小さくありません。また、無許可のVPN利用や禁止コンテンツの流通に関する規制も強化されており、従業員の通信手段や社内システムの運用についても慎重な管理が求められます。さらに、当局はウェブサイトやオンラインサービスへのアクセス制限措置を講じる権限を有するとされ、クラウドサービスや越境データ移転の実務にも影響が及ぶ可能性があります。日系企業にとっては、個人情報管理、内部通報制度、データ保管場所、ITセキュリティポリシーの見直しが重要な対応課題となり、現地法令と本社ポリシーとの整合性確保が一層求められる点に留意が必要です。
5.メキシコ
(1) 連邦経済競争法の概要
昨年改正のあった連邦経済競争法(Ley Federal de Competencia Económica:LFCE)について、その概要を記載します。同法は、憲法第28条に基づく競争法制として、自由競争・自由参入及び経済上の競争を確保するための規律を定めた法律です。対象としては、競争制限的な行為(反競争的な協定・カルテルを含む)、市場における排除や支配につながる行為などの絶対的及び相対的な独占的行為のほか、違法な企業結合に及びます。そしてそれらの行為について、調査、審理・決定、是正措置、制裁、情報の取扱いの枠組みが規定されています。違反に対しては、行為の中止・排除や是正、結合の解消等の措置に加え、罰金等の制裁が規定されています。
(2) 2025年連邦経済競争法の改正点
①執行機関の再編
従来の競争当局である連邦経済競争委員会(Comisión Federal de Competencia Económica:COFECE)に代わり、国家反独占委員会(Comisión Nacional Antimonopolio:CNA)へ移行する制度が整備されました。CNAは、連邦行政組織に属する分権的公的機関として、経済省(Secretaría de Economía)の所管の下に置かれつつ、法的主体性と独自の財産を有し、意思決定・組織・運営に関して技術的及び運用上の独立性を備えるものとされています。
統治機関として合議体が置かれ、委員長を含む5名の委員で構成され、連邦行政府による指名と上院による承認を段階的に行う仕組み、委員の任期(7年)及び委員長の任期(3年、1回に限り延長可)等が規定されています。
②主な追加及び改正条項
2025年改正では、実体及び手続面でも複数の追加や改定が行われました。企業結合の審査に関し、事前許可が必要となる取引類型の金額基準が定められています。また、予防や検知を目的とするコンプライアンス・プログラムを当局が認証する制度や、反競争的行為について、個別又は集団の損害賠償請求を当局決定後に提起できる制度が盛り込まれました。
さらに、同法に第4編「通信・放送分野」が新設され、全国シェアが50%超であること等を基準に「優越的経済主体」の該当性を判断するための枠組みが規定されています。加えて、周波数の集中、新たな免許の付与、放送・通信間のクロスオーナーシップについて、一定の場合に制限を課す規定が設けられました。
6.バングラデシュ
(1)最近の政情
バングラデシュでは、2024年8月の政変後、ムハマド・ユヌス氏が率いる暫定政権が続いていましたが、2026年2月12日に総選挙(定数350、うち直接選出300)が実施され、憲法に基づく正式政権へ移行しました。選挙監視団も派遣され、投票前日の11日から開票終了まで大きな混乱は確認されませんでした。
選挙の結果、バングラデシュ民族主義党(BNP)が単独で209議席(連合で212議席)を獲得し、3分の2を超える多数を確保して新政権を主導することとなりました。
(2)最新法令の紹介
2025年の労働法改正に続き、2026年2月16日には2015年労働規則も改正されました。主な内容は、石油・ガス業界の基金に関する規定の追加です。
また、生物多様性と野生生物保護の強化を目的として、2026年1月6日に森林・樹木保全条例、1月7日に野生動物(保全および保護)条例が制定されました。これらは環境・森林・気候変動省が所管し、同時に2012年野生生物(保護および保護)法は廃止されています。新条例では、野生動物の保護・管理や森林開発に関する制度を整備するとともに、違反行為に対する罰則が強化されています。
7.フィリピン
(1) はじめに
フィリピン進出を検討する企業にとって、外資規制は最初に確認すべき点です。特に、以下の点に留意する必要があります。
・業種によっては100%外資が認められない
・株主構成に応じて取締役の国籍割合を調整する必要がある
・主要役職に特有の国籍・居住要件がある
(2) 外資規制下での役員構成ルール
①取締役に関する要件
外資規制対象会社では、株主の出資比率と取締役の国籍割合を一致させる必要があります。たとえば、フィリピン人が60%株式を保有している場合、取締役の60%以上をフィリピン人とする必要があります。
なお、取締役の主な要件は以下のとおりです。
・原則2名以上(1名の場合はOPCという異なる会社形態になります。)
・外国人でも就任可能
・フィリピン居住は不要
・株式を保有していることが必要
②主要役職者に関する要件
取締役以外にも、President(社長)、Secretary(秘書役)、Treasurer(財務役)について特有のルールがあります。秘書役・財務役は日本には無いポジションですが、フィリピンでは会社設立時に必須の役職です。
特に重要なのは以下の点です。
・Secretaryはフィリピン国籍・居住者であることが必要
・外資規制下ではPresidentに国籍制限がかかる
・兼任禁止ルールが存在する
(3) 外資規制(ネガティブリスト)
フィリピンの外資規制は、Foreign Investment Negative List(ネガティブリスト)により整理されています。具体的には、以下が整理されています。
・外資が完全に禁止される業種
・外資比率に上限がある業種
外資規制を踏まえて、進出検討時の基本ステップは以下の流れになります。
ⅰ事業内容の整理
ⅱネガティブリストとの照合
ⅲ出資上限の確認
JETROが日本語訳を公開していますが、英語の正式版と併せて確認することが重要です。
(4) 特に注意が必要な業種
①小売業
外国人が小売業(飲食業を含む)の株式を40%超保有する場合、2,500万ペソ以上の資本金が必要です。
② 国内向けビジネス
輸出事業ではなく、国内市場を対象とする事業については、原則として20万米ドル以上の資本金が必要です。
(5) 実務上の留意点
外資規制の難しさとして、以下のような問題があり、「条文を読めば明確」とは限りません。
・事業内容の解釈によって結論が変わり得る
・行政庁の明確なガイドラインが存在しない場合がある
そのため、出資比率の設計段階から専門的な検討が不可欠です。
8.ベトナム
(1) ベトナム投資法の改正に伴う新規制
2025年の投資法である法律第143/2025/QH15号(以下「2025年投資法」といいます。)が2026年3月1日から施行されます。以下は、本改正法のポイントです。
(2) 条件付投資分野の大幅な削減・縮小
2025年投資法では、以下のような事業が条件付投資分野から除外されます。この除外に関する規定は、2026年7月1日から施行されます。
- 税務手続業、通関手続サービス業、保険補助サービス業、労働者派遣サービス業、保管サービス業
- 留学コンサルティングサービス業、美容整形サービス業
- 商業検査サービス業、冷凍食品の一時輸入・再輸出業、使用済み物品リストに属する物品等の一時輸入・再輸出業 など
(3) 外国投資家は、法人設立前に投資プロジェクトを有する必要がなくなりました
2025年投資法第19条第2項は、外国投資家が、事前の投資プロジェクトを要することなく法人を設立できることを認めましたが、市場アクセス条件を満たさなければなりません。具体的には、次の通り規定されています。「外国投資家は、投資登録証明書の交付又は調整の手続を行う前に、投資プロジェクトを実施するための経済組織を設立することができ、経済組織の設立手続を行う際には、本法第8条に定める外国投資家に対する市場アクセス条件を満たさなければなりません。」
したがって、法人設立前に投資プロジェクトを要するとしていた旧規定と比較すると、取扱いが異なります。
(4) 海外投資手続の簡素化
2025年投資法では、海外投資政策の承認手続を廃止し、海外投資登録証明書を必要とするプロジェクトの範囲を縮小しました。政府は、許認可手続が免除されるプロジェクトについて詳細規定を定める一方、外国為替管理及び国家の財政安全保障に関する監督措置を追加します。
(5) 投資プロジェクトの運営期間に関する規定の調整
2025年投資法は、経済特区以外のプロジェクトについて最長50年、同区内のプロジェクトについて最長70年という上限を引き続き維持します。もっとも、本法は、70年の期間が適用される範囲を、ハイテクパーク、集中型デジタル技術パーク、及び特別投資優遇の対象となるプロジェクトにまで拡大します。また、2025年投資法は、プロジェクトの期間満了時に、運営期間を延長する仕組みを設けています。すなわち、投資家が法令上の条件を満たし、かつ、当該プロジェクトが旧式技術を使用しておらず、環境汚染のリスクを生じさせず、また、国家への無償資産移転を要する類型に該当しない場合、投資家は延長を申請することができ、各延長期間は上記の最長期間を超えないものとされます。
(6) 投資方針承認の対象となるプロジェクトの範囲の明確化
2020年投資法では、投資方針承認を要するプロジェクト群を直接定義しておらず、各機関の権限に応じて規定するにとどまっていましたが、2025年投資法第24条は、同プロジェクトの類型を20種類、具体的に列挙しています。例えば、以下の通りです。
- 大規模又は配慮を要する土地・資源を使用するプロジェクト:大面積の森林用地(特用林・保護林・生産林)の転用、500ヘクタール以上の稲作地の転用、大規模な再定住を伴うプロジェクト、国防・治安に影響する地域のプロジェクト、海域の割当を求めるプロジェクト。
- 特別かつ配慮を要する分野に属するプロジェクト:原子力発電、カジノ及び賭博、石油・ガス加工、航空運送、ネットワークインフラを伴う電気通信、再植林、外国投資家による出版・報道。
- 文化遺産及び特別級の都市区域に関連するプロジェクト:国家記念物又は世界遺産として保護される区域のプロジェクト、特別級の都市の開発制限区域又は歴史的中心区域のプロジェクト。
- 大規模インフラ及び不動産プロジェクト:住宅建設、都市区域(投資家が既に土地使用権を有する場合)、ゴルフ場、工業団地・輸出加工区・デジタル技術区、大規模港湾、空港及び重要航空インフラ。
- 特別要件を伴うプロジェクト:土地の割当・賃貸又は土地使用目的変更許可の申請(一定の除外事由を除きます)、法令に定めのない特定の制度・政策の適用を要するプロジェクト、法令により首相の承認権限に属すると定められるその他のプロジェクト。
9.インド
(1) 労働法の改正
2025年11月21日、インド政府は突如、改正労働法の施行を発表しました。
インド憲法は、労働に関する事項を連邦政府と州政府の共同管轄事項として定めています(インド憲法 Schedule 7, list III)。
そのため、連邦法から州法にいたるまで無数の労働法令が存在しており、その全体像の把握が難しく、どの場合に、どの法令が適用されるかも分かり辛い等、非常に複雑な構造となっています。
このような複雑な労働法体系を整理するために、モディ政権の下で29の労働法(連邦法)を4つの法典に整理統合することが行われました。
4法典は、それぞれ
(a) 2019年賃金法 (Code on Wages, 2019)(以下、「賃金法」という)
(b) 2020年労使関係法 (Industrial Relations Code, 2020) (以下、「労使関係法」という)
(c) 2020年社会保障法(Code on Social Security, 2020) (以下、「社会保障法」という)
(d) 2020年労働安全衛生法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)(以下、「労働安全衛生法という」)
といい、いずれも2020年9月頃までには成立して、インド官報で公表されていましたが、これまで施行スケジュールが明らかでなく、いつ施行されるのか不明のままでした。しかし、今般、インド政府は2025年11月21日に、同日付でこれら4法典を施行することを発表しております。
(2) 改正労働法の施行状況
新しく施行される4法典は、細部のルール等を施行規則や州が定める州法に委ねている部分がありますが、こうした施行規則や州法は未だ未整備です。
報道等によると、インド政府は、新年度である2026年4月1日を目途に施行規則を整備する方針で検討をしているようです。そのため、施行が発表されたといえども、実質的にはまだ旧法から新法への移行期間であるといえます。
この点、移行期間中は、新しい労働法典と矛盾しない範囲で旧来の法令が引き続き有効であるとの政府の見解も出ております。
しかし、法令の施行スケジュールが不透明なインドでは、この移行期間がいつまで続くのか定かでない部分もあります。
そのため、可能な限り早めに社内の雇用条件の見直し等を進めておく必要があります。
(3) 主な改正点
新しい労働法の改正点は多岐にわたりますが、以下では主なものを簡単に紹介いたします。
ア 賃金法
従来、賃金(Wages)の定義は法令ごとに異なっていましたが、賃金法典により定義が統一されました。給与や手当など支払いの名目にかかわらず、金銭あるいは金銭と同視できる報酬を意味し、基本給、物価調整手当、残留手当を含むものとされています。住居手当や家賃手当等の一定のものについては、賃金の定義から除外されていますが、報酬総額の2分の1、または中央政府が通知するその他のパーセントを超える場合、当該超過額分は報酬とみなされ、賃金に加算されるので注意が必要です。
また、これまで一定の範囲の従業員のみに最低賃金が定められていましたが、賃金法典では中央政府がすべての従業員に適用される最低賃金を定めることとされています。
イ 労使関係法
労使関係法では、ワーカー(worker)の定義が拡大されました。
インドの労働法は労働者をワーカーとノンワーカーに区別しており、ノンワーカーは雇用主と対等に近い関
係としてその労働条件は主に当事者間の雇用契約によって規律される一方、ワーカーは法令上手厚い保護
が与えられます。
この点、従来の法令ではワーカーは、雇用条件が、明示的か黙示的かを問わず、あらゆる産業において、有償又は報酬を得て、未熟練・熟練、技術的、作業的、事務的、監督的業務を行うために雇用されている者と定義されており、監督的(supervisory capacity)な立場として雇用され、月額10,000ルピーまたは中央政府が定める額を超える賃金を得ている者はワーカーに含まれないとされてきました。
しかし、新しい労使関係法では、ワーカーに含まれない者の範囲が監督的な立場として雇用される者のうちで、賃金が月額10,000を超える者から18,000ルピーを超える者に変更され、ワーカーの定義が拡大されました。
ウ 社会保障法
従来、社会保障制度であるEPF(従業員積立基金)への加入義務は、法令で定める一定の産業に属する事業所等に課されていましたが、新しい社会保障法では、20名以上の従業員を雇用するすべての事業所に、加入義務があります。
エ 労働安全衛生法
従来、雇用契約は口頭の成立でも認められ、特定の書面の作成までは求められていませんでしたが、新しい労働安全衛生法では、雇用の際にアポイントメントレターと呼ばれる雇用契約書の作成義務があります。
また、従来、労働時間等の条件は、工場かそれ以外の店舗・オフィス等の施設かによって、適用される法令が異なっていましたが、新しい労働安全衛生法では就労場所の区別なく、1日の労働時間を8時間と定めています。
また、これまで、女性の午前6時前及び午後7時以降の時間の勤務は認められていませんでしたが、新たに、本人の同意があればこの時間帯での勤務も可能となります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)については、2022年12月にジャパンデスクを開設して業務を行っていましたが、この度、フリーゾーンにコンサルタント会社を設立しましたので、お知らせします。
これまでと同様、必要に応じて、複数の現地法律事務所の協力を得つつ、ドバイをはじめとする中東各国に関してのご相談に対応していきます。
会 社 名: TNYKOKUSAI CONSULTING – FZCO
所 在: IFZA Business Park, Dubai Silicon Oasis
お問い合わせ窓口: info@tnygroup.biz
11. インドネシア
(1) 宗教手当(THR)の概要
インドネシアでは、年に1回宗教手当(THR:Tunjagangan)と呼ばれる賞与を付与することが規定されています(従業員のための宗教手当に関する労働大臣令2016年第6号(以下、「THRに関する規則」といいます)。付与する時期は宗教休暇の最低7日前までに支給する必要があると規定されており(THRに関する規則第9条)、従業員が信仰する宗教に応じて、宗教休暇は異なります。法令上においては、ムスリムはイドゥル・フィトリ(レバラン)、カトリック・プロテスタントにはクリスマス、ヒンドゥー教徒にはニュピ、仏教徒にはワイサック(ウェーサーカ)、儒教を信仰する従業員には、旧正月がそれぞれの宗教休暇に当たります(THRに関する規則第2条)。ただし、人口の80%以上がイスラム教徒であるインドネシアでは宗教に関係なくTHRをイドルフィトリ(レバラン)を基準に支給するのが慣行です。今年は、イドゥル・フィトリが2026年3月20日頃と予測されており、法令に基づき、遅くともその7日前までにTHRを支給する必要があります。もっとも、正式なイドリフィトリの日にちは、インドネシア政府により、直前に決定されるため、期限が変動する可能性があり、余裕をもった支給計画を策定することが重要です。
(2) THRの受給
THRの受給資格を持つのは、最低1ヶ月以上連続して勤務しているa) 正社員(Perjanjian Kerja Waktu Tidak Tertentu – PKWTT)及び、b) 有期雇用契約社員(Perjanjian Kerja Waktu Tertetu-PKWT)が該当します(THRに関する規則第2条)。また、宗教休暇前の30日以内に退職した従業員に対しても、支給義務があります(THRに関する規則第7条)。THRの金額は1年以上連続して勤務している従業員には、1ヶ月の固定給分を支給する必要があり、1カ月以上連続して勤務していない従業員には支払いの義務はありません。しかし、1年未満の勤務の場合、勤務月数に応じて、月割計算を行う必要があります。具体的な計算方式としては法令上、下記が規定されています(THRに関する規則第3、5条)。
”THR”=”勤続月数/12 “×”月の固定給”
また、勤続期間は1ヶ月単位とし、1ヶ月に満たない期間は法令上において規定はありませんが、切り捨てて計算するのが慣行です。例えば、2ヵ月10日勤務した従業員の場合は、10日分は切り捨てられ、2ヵ月分の給料に対する割合でTHRが支給されます。
(3) 罰則 使用者が従業員へのTHRの支払いを怠った場合、支払い期限日、つまり宗教休暇の7日前から換算して支払い額の5%の支払い義務が課されます(THRに関する規則第10条)。さらに、THRを支払わなかった場合には、a) 書面による警告、b) 事業活動の制裁、c) 生産設備の一部または全部の一時的な停止、d) 事業活動の停止(営業許可の凍結)のような行政制裁が下される可能性があります(賃金に関する規則2015年第78号)。
1.日本
会社法上、株主総会には定時株主総会と臨時株主総会の2種類があります。
定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければなりません(会社法296条1項)。開催時期は会社の定款で定められますが、一般的に事業年度の終了後3か月後の時期としている会社が多いです。
臨時株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができます(会社法296条2項)。
(2) 株主総会の招集手続き
株主総会の招集手続きは以下のとおりです。
まず、取締役会で、株主総会の日時・場所・目的事項等を決定し(会社法298条)、招集通知を株主に発送します(会社法299条1項)。
招集通知は、公開会社の場合、株主総会の2週間前までに、非公開会社の場合は1週間前までに発しなければなりません(会社法299条1項)。
(3) 株主総会の運用
決議には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があります。
このうち、普通決議は、行使可能な議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行われます(会社法309条1項)。
また、特別決議には、行使可能な議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行われます(会社法309条2項)。
特別決議は、定款変更や組織再編等、会社の重要な問題を決議する際に求められます。
そして、特殊決議とは、特別決議より更に厳しい決議要件が定められているものをいい、例えば、発行株式の全部に譲渡制限を付すためには、議決権を行使することのできる株主の半数以上が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって決議しなければなりません(会社法309条3項)。また、非公開会社において、剰余金の配当を受ける権利等の一定の権利について、株主ごとに異なる内容を定める旨の定款変更をする場合には、総株主の半数以上が出席し、総株主の4分の3以上の多数をもって決議しなければなりません(会社法309条4項)。
2.タイ
(1) 株主総会
民商法典第1171条によると、タイにおける株主総会として、「定時株主総会」と「臨時株主総会」の2種類の総会が定められています。会社設立登記の日から6ヶ月以内に開催する総会及び、その後少なくとも12ヶ月に1度は開催する年次株主総会を「定時株主総会」と呼び、それ以外の総会を、「臨時株主総会」と呼びます。
(2) 決議事項
株主総会において民商法典上決議が必要とされている事項は、以下の通りです。
- 普通決議事項
取締役の選任及び解任(第1151条)、取締役の報酬決定(第1150条)、決算報告書の承認(第1197条)、配当の決定(第1201条)、監査人の選任(第1209条)、監査人の報酬決定(第1210条)
- 特別決議事項
基本定款、附属定款の変更(第1145条)、新株の発行による増資(第1220条)、金銭払込以外の方法による新株発行(第1221条)、減資(第1224条)、解散(第1236条第4号)、合併(第1238条)
上記以外にも、附属定款において株主総会の決議が必要と定められている事項については、当該定めに従い、株主総会における決議が必要となります。
(3) 招集通知
普通決議事項のみの株主総会の場合、総会開催日の7日前までに、株主名簿に記載されている全株主に、配達記録付き郵便により招集通知を郵送する必要があります。
特別決議事項が含まれる株主総会の場合、総会開催日の14日前までに、株主名簿に記載されている全株主に、配達記録付き郵便により招集通知を郵送する必要があります(第1175条)。
(4) 決議方法
株主総会における議決権は、附属定款に別途定めがある場合を除き、原則として、1株主につき1議決権とされ、挙手制による決議方法が定められています(第1190条、第1182条)。ただし、株主総会において少なくとも2名の株主から秘密投票が要求された場合は、秘密投票によることができます(第1190条)。この秘密投票の場合、1株につき1議決権が付与されます(第1182条)。
また、議決権の行使は、代理人により行うことも可能です。しかし、代理人への委任については書面でなされる必要があります(第1187条)。また当該書面は、少なくとも代理を予定する株主総会開催時までに、議長に提出される必要があります(第1189条)。
(5) 定足数・決議要件
定足数としては、少なくとも2名の株主(代理人による出席を含む)の出席、かつ会社資本の4分の1以上を有する株主の出席が必要とされています(第1178条)。
決議要件に関して、普通決議事項については、出席株主の有する議決権の過半数の賛成により可決されます。特別決議事項については、出席株主の有する議決権の4分の3以上の賛成により可決されます(第1194条)。
票数が同数であった場合には、株主総会の議長が決定票を投じることになります(第1193条)。
3.マレーシア
(1) 概要
会社法上、年次株主総会の開催義務があるのは公開会社のみであり(会社法340条⑴)、非公開会社は、定款に特段の記載がない限り、年次株主総会の開催義務はありません。
(2) 株主総会の運用方法
(ア) 招集通知
株主総会を開催する場合、非公開会社においては、普通決議事項については総会開催日の14日前(定款でより長期間の日数を定めた場合はその日数)(会社法316条⑴)、特別決議事項については21日前に招集通知を送付する必要があります(会社法292条⑴)。また、次の事項については、28日前に招集通知を送付する必要があります。
・ 取締役の解任(会社法206条⑶)
・ 会計監査人の解任又は退任する会計監査人に代わる別の会計監査人の選任(会社法277条⑴、280条⑵)
・ 清算人の解任(445条⑶)(イ) 開催方法(物理的・電子的)
(イ) 通知の方法
招集通知は、ハードコピー、電子的方式、又はそれらの併用の形で、文書により行います(会社法319条⑴)。ハードコピーの招集通知については、直接の交付又は株主が指定した住所への郵送により行います。電子的方式の招集通知については、株主が指定した電子メールアドレスへの送信又はウェブサイトへの掲載により行います(会社法319条⑵)。招集通知をウェブサイトへ掲載する方法により行う場合、あらかじめ、株主に対して、ハードコピー又は電子的方式による文書で、招集通知をウェブサイトへ掲載する方法により行う旨を通知しておく必要があります(会社法320条)。
(ウ) 定足数
株主が1名のみの場合:その株主の出席により充足します。それ以外の場合、2名の株主またはその代理人の出席により充足します。ただし、定款で別途の定めを置くことも可能です(会社法328条⑵)
(3) 株主総会の決議要件の種類
(ア) 普通決議
普通決議事項は、議決権を有する株主の過半数が賛成することにより可決されます。書面決議による場合、普通決議事項については議決権割合で過半数以上の株主が賛成の署名を行った場合に、可決されることになります(会社法291条⑴)。普通決議事項は主に次のとおりです。
・ 取締役の選任(会社法202条⑵)、解任(会社法206条⑴)
・ 役員報酬の決定(定款の定めがある場合は取締役会承認で可。会社法230条⑵)
・ 会計監査人の選任(会社法267条⑷)、解任(276条)
・ 新株発行(会社法75条⑴)、増資(会社法84条)
・ 取締役等への会社貸付け(会社法224条⑶)
・ その他株主総会決議事項のうち、会社法において決議の種類が定められていない場合(会社法290条(3))。
ただし、定款で別段の定めが存在する場合は定款に従うこととなります。
(イ) 特別決議(Special resolution)
特別決議事項については議決権割合で75%を超える株主が賛成の署名を行った場合に可決されることになります。特別決議を経る必要がある事項は主に次のとおりです。
・減資(会社法115条等)
・社名の変更(会社法28条)
・定款の作成、変更(会社法32条⑴、36条⑴)
・会社形態(公開会社・非公開会社)の変更(会社法41条)
・株主による任意清算(会社法439条⑵)
(ウ) 書面決議(Written Resolution)
会社法には、株主総会で決議すべきものとして定めた事項(以下「株主総会決議事項」といいます。)が存在します。非公開会社の場合、株主総会決議事項について、株主総会を開催した上での決議ではなく、書面による決議により意思決定を行うことが通常です(会社法297条⑴)。ただし、次の事項については、書面による決議を用いることはできず、株主総会を開催の上で決議を得る必要があります(会社法297条⑵)。
・取締役の解任
・会計監査人の解任
4.ミャンマー
(1) 株主総会の種類
ミャンマー会社法上、株主総会は以下の2種類に大別されます。
(ア) 定時株主総会(Annual General Meeting:AGM)
会社法第146条に基づき、原則としてすべての会社は毎事業年度ごとに1回、定時株主総会を開催しなければなりません。初回の提示株主総会は会社設立後18か月以内、2回目以降は前回の提示株主総会から15か月以内に開催しなければなりません。
(イ) 臨時株主総会(Extraordinary General Meeting:EGM)
提示株主総会以外に、必要に応じて開催される株主総会です。
開催事由は取締役会の決議または議決権の10%以上を有する株主の請求です。
(2) 株主総会の運用方法
(ア) 招集通知
原則として21日前までに書面で通知する必要があります。ただし、全株主の同意がある場合、短縮通知も可能です。
(イ) 開催方法(物理的・電子的)
電子的手段による開催(テレビ会議、ビデオ会議等)が明示的に認められています。
(ウ) 定足数
原則は議決権を有する株主2名以上であり、定款により別途定めることが可能です。
(3)株主総会の決議要件の種類
株主総会の決議は主に以下の3種類に分類されます。
(ア) 普通決議(Ordinary Resolution)
要件は出席株主の過半数(50%超)の賛成です。
(イ) 特別決議(Special Resolution)
要件は出席株主の75%以上の賛成です。招集通知で「特別決議」である旨の明示が必要です。
(ウ) 書面決議(Written Resolution)
株主総会を開催せずに書面または電子的方法で決議することが可能です。要件は、原則として全株主の同意が必要です。
5.メキシコ
(1) 株主総会の運用方法
メキシコの株式会社においては、株主総会は株主によって構成される会社の最高意思決定機関であり、会社の全ての行為および業務について決議の対象とすることができます。株主総会には、通常総会(Asamblea Ordinaria)と特別総会(Asamblea Extraordinaria)が存在し、決議事項により区分され、決議要件等に違いが表れます。
株主総会の招集は、原則として取締役もしくは取締役会または監査役が行います。監査役が欠けた場合は取締役会が3日以内に監査役選任のための株主総会を招集し、期間内に招集しない場合には株主は裁判所に対し招集を請求できます。また、資本金の33%以上に相当する株式を有する株主は、書面により株主総会の招集を取締役会または監査役に請求できます。さらに、2年連続で総会が開催されていない場合等には、1株の株主でも招集を請求できます。総会は、定款に定められた方法による事前通知をもって、経済省の電子システムに公告することにより招集されます。定款に記載がない場合は、総会の15日前までに通知を行います。
株主は代理人(株主であるかを問わない)により議決権を行使でき、代理権は定款所定の方法、定めがない場合は書面で与えられます。取締役および監査役はいずれも代理人になることはできません。株主の種類が複数ある場合は、特定の種類株主の権利を害する可能性のある議案につき、影響を受ける種類株主による特別総会での事前承認が必要となります。自己または他人のために会社の利益に反する利益を有する株主は、その取引についての審議を棄権しなければならず、違反した株主は、その株主の議決権行使がなければ決定に必要な過半数を得られなかった場合には、損害賠償責任を負います。議決権拘束契約も認められますが、裁判所の判決がある場合を除き会社に対して対抗力を有しません。株主総会によって適法に採択された決議は、会社法の規定に基づく異議を申し立てる権利を行使した場合を除き、欠席または反対した者に対しても、拘束力が及びます。
(2)株主総会の決議要件
通常総会の決議事項は、会社法182条に定める特別総会決議事項に該当しない事項です。そのほか、(i) 会社法172条に定める取締役の事業報告について監査役の報告を考慮して審議し、承認または修正し、適切と思われる措置を講じること、(ii) 取締役、取締役会および監査役の選任、(iii) 定款で定められていない場合は、取締役および監査役の報酬の決定が、通常総会決議事項と特に定められています。通常総会における定足数は資本金の2分の1以上に相当する株式を有する株主の出席であり、決議要件は出席した議決権の過半数です。通常総会は、会計年度終了後4か月以内に開催されることが規定されています。
特別総会の決議事項は、会社の存続期間の延長、存続期間前の解散、資本金の増減(ただし可変資本制の場合は不要)、会社の事業目的の変更、会社の国籍変更、会社の組織変更、合併、優先株式の発行、自己株式の消却と享受株式の発行、社債発行、定款の変更、法律または定款で特別定足数を必要とする全ての事項です。特別総会はいつでも開催可能であり、定足数は、定款で別の定めがない限り資本金の4分の3以上に相当する株式を有する株主の出席、決議要件は資本金の2分の1以上に相当する議決権です。
6.バングラデシュ
(1)株主総会の種類
① 定時株主総会
すべての会社は、暦年に一度、かつ前回の定時株主総会から15か月以内に、定時株主総会を開催しなければなりません。初回の定時株主総会は、会社設立日から18か月以内に開催する必要があります。やむを得ない事情がある場合には、所定の手続きを経ることで、一定期間の延期が認められます。規定通り開催されない場合は、株主の申し立てにより裁判所が招集または招集命令をだすことができます。(82条)
② 臨時株主総会
発行済株式総数または議決権の10分の1以上を有する株主から請求があった場合、取締役は臨時株主総会を招集しなければなりません。請求は、目的を明記した書面により行う必要があります。取締役が期限内に対応しない場合には、株主自らが総会を招集することができます。(84条)
(2)株主総会の運用方法
① 招集通知
株主総会の招集通知は、原則として21日前までに、書面により行わなければなりません。ただし、定時株主総会については、議決権を有するすべての株主の同意がある場合、通知期間を短縮することができます。(85条(1))
② 定足数
付属定款に別段の定めがない場合、非公開会社で株主が6名以下の場合は2名、7名以上の場合は3名、その他の会社では5名が定足数となります。(85条)
(3)株主総会の決議要件の種類
① 普通決議(Ordinary Resolution)
取締役の選任、取締役の報酬、配当、監査人の選任、監査人の報酬、決算書の承認等を決議内容とする場合です。出席した株主の過半数の賛成が必要となります。
② 特別決議(Special Resolution)
定款変更、商号の変更、減資、検査役の選任、監査人の解任、会社の解散等が決議内容となる場合です。株主の4分の3以上の賛成により議決し、かつ、特別決議であることを知らせる招集通知を開催日の21日までに通知する必要があります。
③ 特殊決議(Extraordinary Resolution)
株主である取締役の解任、会社清算に伴う債権者と会社間の合意事項の決定等が決議内容となる場合です。株主の4分の3以上の賛成が必要となります。
7.フィリピン
(1) 株主総会の通常決議
①定足数
原則として、株主総会が成立するためには、発行済株式総数(Outstanding Capital Stock)の過半数を有する株主の出席が必要です。もっとも、定款で別途定めることも可能です。
②承認に必要な賛成数
通常決議は、出席している株主が有する株式数の過半数の賛成により可決されます。
つまり、
- 定足数:発行済株式総数ベース
- 決議要件:出席株主の株式数ベース
という2段階構造になっています。
③通常決議で足りる事項の例
- 取締役やその他の役員の選任
- 配当の宣言
- その他、会社運営上の一般的な議題
(2) 株主総会の特別決議
会社の基本的な構造やガバナンスに重大な影響を与える事項については、通常決議よりも厳しい決議要件が課されます。
特別決議の具体例は以下のとおりです。
①発行済株式総数の過半数の賛成が必要なもの
- by lawsの変更
②発行済株式総数の3分の2以上の賛成が必要なもの
- 取締役の解任
- Articles of Incorporation(定款)の変更
- 株式配当の宣言
- 増資・減資
- 合併
※決議事項によっては、「議決権のある株式のみをカウントする」など、賛成数の算定方法が異なる場合があります。
(3) 株主総会の手続があった場合の効果
株主総会で定足数や決議要件などに違反があっても、基本的にその決議は自動的に無効にはなりません。そのため、会社はその決議を前提に動くことが出来ます。決議の無効を主張したい株主等は、無効確認や差止め請求などの法的手続を通じて争う必要があります。
8.ベトナム
(1) 会社形態
ベトナムの現行企業法の下では、設立時に選択可能な企業形態が複数あり、そのうち国内外の投資家により最も一般的に選択されているのは、以下の2つです。
- 有限責任会社(LLC):これには、一人有限責任会社(個人が所有者である一人有限責任会社及び組織が所有者である一人有限責任会社)及び二人以上有限責任会社が含まれます。
- 株式会社(JSC)
企業の最高意思決定機関の有効な会合を招集し、対応する決議を採択するための条件に関しては、企業形態に応じて異なる規定が適用されます。企業は、定款/会社規程(以下「定款等」といいます。)において、会合の招集及び決議の採択に関する独自の条件及び要件を定めることができますが、当該条件及び要件は、適用される法定要件のものより緩やかであってはなりません。なお、各企業形態における最高意思決定機関は、一人有限責任会社の場合は所有者(なお、組織が所有者である一人有限責任会社においては、当該組織がその代理として行動するために代表者のグループを任命することができ、当該グループは社員総会と称されます。)、二人以上有限責任会社の場合は社員総会、株式会社の場合は株主です。
詳細については、以下の法定規定をご参照ください。
(2) 有限責任会社(LLC)という企業形態に関して
① 個人が所有者である一人有限責任会社の場合
個人所有者は、自身の決議の発行を通じて、企業の全ての事項を決定する排他的権限を有します。
② 組織が所有者である一人有限責任会社の場合
現行規定により、組織所有者は、以下を含む2つの組織構造モデルのうちいずれかを適用することが認められています。
(a) 会長及び社長/総社長
会長は、社長/総社長の権利及び義務を除き、決議の発行を通じて、所有者の代理で、所有者のために、全ての事項を決定する排他的権限を有します。
(b) 社員総会及び社長/総社長
3~7名の代表者のグループが社員総会を構成することができます。社員総会の会合は、その構成員の3分の2以上が出席した場合に有効とみなされます。
社員総会は、書面で意見を聴取する方式により、決議及び決定を承認することができます。ただし、当該決議又は決定は、次のとおり承認されることを条件とします。(i) 定款等の改正、会社の再編、又は会社の定款資本の全部又は一部の譲渡の場合には、出席構成員の75%以上又は総議決権の75%を超える議決権を有する出席構成員数による承認。(ii) その他の事項の場合には、出席構成員の50%以上又は総議決権の50%を超える議決権を有する出席構成員数による承認。社員総会のいかなる決議又は決定も、その承認日から、又はそこに定める別の効力発生日から有効になります。
③ 2人以上有限責任会社の場合
社員総会は、少なくとも年1回招集されるものとし、社員総会の会長の要請により、又は定められたとおり社員もしくは社員のグループの要請により招集され得ます。社員総会の会合は、(i) 1回目の会合の場合、定款資本の65%以上を有する社員が出席したとき、(ii) 1回目の会合が招集できなかった場合の2回目の会合において、定款資本の50%以上を有する社員が出席したとき(iii) 2回目の会合が招集できなかった場合の3回目の会合において、定款資本の任意の割合を有する社員が出席したときに、有効とみなされます。
社員総会は、会合での決議、書面で意見を聴取する方式、又は定款等に定める他の方法により、決議及び決定を承認することができます。ただし、当該決議又は決定は、次のとおり承認されることを条件とします。
- 総会での決議による場合:(1) 最新の財務諸表に記載された総資産の50%以上に相当する資産(又は定款等に定められたそれ以下の比率又は価値)の売却、定款等の改正、会社の再編、又は会社の解散の場合には、出席社員全員のうち出資持分の75%以上を有する出席社員数による承認、(2) その他の事項の場合には、出席社員全員の総出資持分の65%以上を有する出席社員数による承認。
- 書面で意見を聴取する方式による場合:定款資本の65%以上を有する出席社員数による承認。
社員総会のいかなる決議又は決定も、その承認日から、又はそこに定める別の効力発生日から有効になります。
(2) 株式会社(JSC)という企業形態に関して
株主総会(GMS)は、少なくとも年1回招集されるものとし、取締役会若しくは監査役会の要請により、又は定められたとおり株主又は株主のグループの要請により招集され得ます。株主総会は、(i) 1回目の会合の場合、50%以上の議決権を有する株主が出席したとき、(ii) 1回目の会合が招集できなかった場合の2回目の会合において、33%以上の議決権を有する株主が出席したとき、(iii) 2回目の会合が招集できなかった場合の3回目の会合において、任意の割合の議決権を有する株主が出席したときに、有効とみなされます。
株主総会は、その決議及び決定を、議決又は書面で意見を聴取する方式により、承認することができます。当該決議又は決定は、以下のとおり承認された場合に、適法に採択されたものとみなされます。
- 累積議決による採択:取締役会及び監査役会の構成員の選任に関する決議及び決定にのみ適用されます。
- 総会での議決による採択:(i) 会社の事業分野の変更、会社の組織構造の変更、最新の財務諸表に記載された総資産の35%以上に相当する資産の投資又は売却、会社の再編又は解散、株式の種類及び各種類の数量、並びに定款等の規定に関する場合には、出席株主全員の議決権総数の65%以上を有する出席株主数による承認、(ii) 優先株主の権利及び義務の変更の場合には、総会に出席し同一種類の優先株式の75%以上を有する優先株主数による承認、(iii) その他の事項の場合には、出席株主全員の議決権総数の50%以上を有する出席株主数による承認。
- 書面で意見を聴取する方式による採択:(i) 優先株主の権利及び義務の変更の場合には、同一種類の優先株式の75%以上を有する優先株主数による承認、(ii) その他の事項の場合には、議決権を有する株主全員の議決権総数の50%以上を有する出席株主数による承認。
9.インド
(1) 株主総会の種類
インドの会社法上、株主総会には定時株主総会(AGM: Annual General Meeting)と臨時株主総会(EGM: Extra-ordinary General Meeting)の2種類があります。
定時株主総会は年1回開催され、前回の株主総会から15か月以内かつ会計年度末から6か月以内に開催する必要があります(インド会社法96条1項)。
また、臨時株主総会は取締役会によって招集され、開催日の21日前までに招集通知を出す必要があります。ただし、株主の頭数の過半数かつ議決権の95%以上の同意があれば、招集期間を短縮できます(インド会社法100条(1))。
(2) 株主総会の運用
株主総会の定足数は非公開会社の場合2名以上です。公開会社の場合、定足数は株主数によって変わり、例えば、株主数が1000人以下であれば、定足数は5名です(インド会社法103条1項)。
決議には、普通決議と特別決議の2種類があります。このうち、普通決議は出席株主の過半数、特別決議は出席株主の4分の3以上の賛成が決議要件となります。
特別決議は定款変更や自己株式の取得等、法令で定められた一定の場合に求められます。
決議方法には、挙手、電磁的方法、投票があります(インド会社法114条)。このうち、挙手は頭数によって行われ、保有株式数に応じて議決権が割り当てられるわけではないので注意が必要です。非公開会社の場合、定款で別段の定めを置くことで、挙手を排除し、決議は投票のみによる旨を定めることも可能です。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)において設立される会社の形態は様々で、有限責任会社(Limited Liability Company)が利用されることが多いですが、以下では、UAE本土の公開株式会社(Public Joint Stock Company)の株主総会の概要を述べます。なお、非公開会社(Private Joint Stock Company)については、上場関連を除き、公開株式会社の規定が準用され(会社法(2021年連邦令第32号)267条)、フリーゾーンで設立された会社については連邦法ではなく、各フリーゾーンで制定された規則が適用されます。
因みに、有限責任会社に関しては、資本持分を有するパートナーによる総会があり、定例総会および臨時総会の招集時期・請求要件(92条)、招集通知発出の期限(93条1項)、定足数の定め(96条1、2項)は、公開株式会社と同様です。決議は、定款に別段の定めがない限り、出席者の持分権の過半数により決せられます(96条3項)が、定款の変更、増資及び減資(増減はパートナーの持分割合による)については、出席したパートナーの持分権の4分の3以上を要し、いずれの場合でもパートナーの財政的義務は全員一致によらなければ増加できません(101条1項)。
(2) 運用方法
株主総会は、少なくとも年に1度、事業会計年度の末日から4か月以内に開催されなければなりません(173条1項)。 株主総会は、取締役会が招集し、株式総数の10%以上を保有する株主(176条1項)および監査役(177条)も株主総会の招集を取締役会に請求することができ、取締役会が株主の請求に応じず株主総会を招集しなかったとき等法定事由がある場合には、証券商品庁が招集を請求することができます(178条1項)。
招集通知は開催日の21日以上前に発出されなければなりません(174条1項)。
定足数は、会社定款で別段の定めがない限り、会社資本の50%以上の株主の出席(委任状を含む)ですが、定足数に満たなかった場合には、最初に招集された総会日から5日以上15日以内に総会が再度開催され、2度目の総会は出席株主数の数に関わらず有効とされます(185条)。
(3) 決議要件
株主総会の決議は、会社定款で別の定めがない限り、出席株式数の過半数によります(190条1項)。
特別決議は、出席した株式の4分の3以上を保有する株主の過半数の賛成によります(1条)。特別決議を要する事項は、商号の変更(12条2項)、会社存続期間の変更(108条)、会社定款の変更(139条)、定款に規定されている又は会社の目的ではない3年超の長期債務、会社財産への抵当権設定等(154条)の他、新株発行(196条1項)、減資(204条)等の資本金関連事項、会社併合(285条1項、288条1項)等の会社組織変更等が挙げられます。ただし、非公開化には、出席した会社資本90%以上の株主による過半数の賛成を要します(276条1項)。
11. インドネシア
(1) 株主総会の種類
会社法上、株主総会は年次株主総会と臨時株主総会に分類されます(会社法第78条)。年次株主総会は会計年度の終了後6カ月以内に、開催しなければならず、臨時株主総会は会社の利益のために必要とみなされる場合には、(2)株主総会の運用方法にて記載しているような法令に定める手続きを経て、年次株主総会の時期に関わらず開催することができます(同条)。
(2) 株主総会の運用方法
株主総会の開催は、議決権付株式総数の10分の1以上を保有する1名以上の株主、もしくは監査役会(Dewan Komisaris)の請求に基づいて行います(会社法第79条)。取締役会は当該請求を受領した日から15日以内、および開催日の14日前までに、書留郵便および/または新聞への公告掲載により通知する必要があります。取締役会が当該期日までに通知を行わない場合には、監査役会が自ら株主総会を招集することが可能です。さらに、取締役会および監査役会が当該期日までに、招集を行わない場合には、株主総会を請求した株主が、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の長に対し、自ら株主総会を招集することについての許可を求める申立てを行うことができます(同条、会社法第80、82条)。申し立てに対し、地方裁判所の長は、申立人ならびに取締役会および/または監査役会から意見を聴取したうえで、株主総会の形式、議題、招集期間、定足数および決議要件等を定めます。また、地方裁判所の長は、必要と認める場合には、取締役会および/または監査役会に対し、当該株主総会への出席を命ずることができます(会社法第80条)。
初回の株主総会にて定足数が満たされなかった場合には、2回目の株主総会を開催することができます(会社法第86条)。2回目の株主総会でも定足数が満たされなかった場合、会社は本店所在地を管轄する地方裁判所の長に対して3回目の株主総会の定足数を定めるよう求めることができます(同条)。
また、株主総会は、電話会議、テレビ会議またはその他の全参加者が直接お互いを見聞きでき会議に参加できるその他の方法によっても開催することが可能です(会社法第77条)。
(3) 決議要件
会社法上、決議要件は普通決議、特別決議、特殊決議の合計3種類に分類されます。
普通決議は、取締役、コミサリスの選任・解任や利益処分の承認等に要求されるものであり、定足数は全議決権株式の過半数を有する株主の出席であり、初回の決議における定足数が満たされなかった場合に開催することができる2回目の普通決議の定足数は、全議決権付株式の3分の1以上を有する株主の出席です(会社法第86条)。株主総会で投票された全議決権の過半数の賛成により可決されます(会社法第87条)。
特別決議は、定款変更等に要求されるものであり、定足数は全議決権付株式の3分の2以上を有する株主の出席であり、初回の決議における定足数が満たされなかった場合に開催することができる2回目の決議の定足数は、全議決権付株式の5分の3以上を有する株主の出席です(会社法第88条)。株主総会で投票された全議決権の3分の2以上の賛成により可決されます(同条)。
特殊決議は、会社の全純資産の50%超を構成する資産の譲渡もしくは担保権、吸収合併、支配権取得、清算の承認などに要求されるものであり、定足数は、全議決権付株式の4分の3以上を有する株主の出席であり、初回の決議における定足数が満たされなかった場合に開催することができる2回目の決議の定足数は全議決権付株式の3分の2以上を有する株主の出席です。特殊決議の株主総会で投票された全議決権の4分の3以上の賛成により可決されます(会社法第89、102条)。
第1.【お知らせ】ウェビナーのご案内
ウェビナーの開催についてご案内いたします。
インド事務所の松下智宗弁護士、Medhiyaa Ramesh弁護士が、インド進出をご検討中の日本企業様向けにインド法務ウェビナーを行います。
今回のウェビナーでは、インドの労務について現地の法令に基づき説明いたします。
参加は無料となっておりますので、奮ってお申込みください。
本ウェビナーがインドへの進出を検討中の日系企業様のビジネスに少しでも貢献できれば幸甚です。
【日程】
日時:2025年11月26日(水)
12時30分~13時30分(インド時間)、16時~17時(日本時間)
※申込締切は2025年11月19日(水)までとなっております。
※開催方法:オンライン(Zoom)
※ 参加費:無料
申込方法につきましては、下記URLからご確認ください。
第2.製造物責任に関する法制度の概要
1.日本
(1) 製造物責任法
日本における製造物責任については、製造物責任法が規定しています。
同法は、製造物の欠陥が原因で、生命・身体・財産に関する損害が生じた場合における製造業者等の損害賠償責任について定めるものであり、不法行為責任(民法709条)の特則として位置づけられています。
通常、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合には、加害者の過失を立証することが求められますが、製造物責任法では、このような過失の立証を不要とし(無過失責任)、消費者の保護を強化しています。
製造物責任法上、「製造物」とは、「製造又は加工された動産」と定義されています(製造物責任法2条1項)。
また、「欠陥」とは、「製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます(同法2条2項)。
製造物責任に基づく損害賠償を請求する場合には、かかる製造物の欠陥を立証する必要があります。
(2) 責任主体
製造物責任法上、製造物責任を負う者は以下のとおりです(製造物責任法2条3項)。
①当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者
②自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者又は当該
製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
③上記②のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造
物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者
(3) 免責事由
製造物責任法上、製造物責任を負う場合であっても、以下の事由を立証することができる場合には、倍賞
責任は免責されます(製造物責任法4条)。
①当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
②当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。
2.タイ
タイでは、製造物責任に関し、Liability for Damages Arising from Unsafe Products Act B.E. 2551が制定されています。
(1) 対象物
「製造物」とは、販売のために製造または輸入されたあらゆる種類の動産をいい、農作物を含みます。「製造」には、製作、混合、調理、装飾、組立、発明、変形、改造、選別、再包装、冷凍、放射線照射その他これに類する行為が含まれます。また、「農作物」とは、農業(耕作、園芸、畜産、水産、養蚕、きのこの栽培など)によって生産された製品(ただし、天然作物は除く)をいうとされています(同法第4条)。
(2) 責任主体
全ての事業者は、消費者に販売された危険な製造物によって損害が生じた場合、故意または過失の有無を問わず、連帯してその損害を賠償する責任を負うとされています(同法第5条)。「事業者」とは、次のいずれかに該当する者をいうとされています(同法第4条)。
- 製造者または製造を請け負った者
- 輸入者
- 製造者、請負者または輸入者が特定できない製品の販売者
- 自らの名称、商号、商標、表示、またはその他の方法により、製造者、請負者または輸入者であると示している者
このように、単なる販売者であっても、製造者を特定できない場合や、自らを製造者と見せかけるような表示を行っている場合には、責任を問われる可能性があります。
(3) 消費者の立証責任
事業者に対して責任を問うためには、被害を受けた消費者または第10条に定める代理人は、当該製造物を通常の方法で使用・保存していたにもかかわらず損害が生じたことを証明すれば足り、どの事業者によって損害が生じたかを証明する必要はないとされており(同法第6条)、消費者の立証責任が比較的軽減されています。
(4) 免責規定
事業者は、次のいずれかを証明した場合には、責任を免れることができるとされています(同法第7条)。
- 当該製造物が危険な製造物ではないこと
- 被害を受けた消費者が製造物の危険性を認識していたこと
- 製造物に正確かつ明確な使用方法、保存方法、警告または関連情報が表示されているにもかかわらず、不適切な使用または保存によって損害が生じたこと
(5) 懲罰的損害賠償
事業者が製造物の危険性を認識しながら製造・輸入・販売した場合、または重大な過失により認識しなかった場合、または危険性を認識した後に適切な措置を講じなかった場合には、裁判所は懲罰的損害賠償を命ずることができるとされており、注意が必要です。この懲罰的損害賠償は、実際の損害額の2倍を超えないものとされています(同法第11条2項)。
3.マレーシア
⑴ 概要
製造物責任は、1999年消費者保護法(Consumer Protection Act 1999、以下「CPA」といいます。)によって規律されており、同法の第X部(第66条から第72条)がこれを定めています。この部分において、欠陥製品に対する無過失責任(strict liability)制度が導入されています。その中心的な原則は、CPA第68条⑴において「製品の欠陥により損害が全部または一部生じた場合には、責任が課される」と規定されている点にあります。すなわち、請求者が立証すべき事項は、以下の3点のみで、加害者の過失を立証する必要はありません。
- 製品に欠陥があること
- 損害が生じたこと
- 欠陥と損害との間に因果関係があること
なお、ここにいう「損害」とは、CPA第66条⑴において「死亡または人身傷害、または土地を含む財産の喪失または損害」と定義されています。さらに、CPAに基づく責任は、通知や契約によって免除または制限することはできません(CPA第71条)。
⑵ 責任の主体
CPAの下では、次の者が損害に対して責任を負う可能性があります(CPA第68条⑴)。
- 製品の製造業者
- 自己の氏名または商標その他の標章を製品に付することにより、当該製品の製造業業者であることを表示した者
- 業として製品を流通させるために当該製品を輸入した者
この包括的な規定により、いずれの流通段階にある者も責任を免れることができない仕組みとなっています。
4.ミャンマー
(1) 製造物責任の枠組み
ミャンマー法には、製造物責任を独立に定める特別法は存在せず、当該責任は主としてコモンローに基づく不法行為責任等に基づくものです。契約当事者間においては契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。
また、2019年 消費者保護法に基づき、製造者・販売者・輸入業者などが、保証期間内の欠陥商品に対して責任を負い、回収義務・表示義務・補償権などが認められています。
(2) 消費者救済
消費者保護法上は、保証された商品が保証期間内に品質を満たさないまたは商品情報が完全でない場合、消費者は、修理、交換または返品、商品価格の返還、もしくは当該商品と同等の品質の商品との代替を請求できます。また、損害が商品情報の不提供・誤表示による場合は、損害賠償を請求する権利が認められています。
5.メキシコ
(1) 製造物責任の枠組み
メキシコ法には、製造物責任を独立に定める特別法は存在せず、当該責任は主として民法上の不法行為責任等の規定に基づくものです。契約当事者間においては契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。メキシコは連邦制を採用しており、各州において、製品の欠陥に起因する損害について製造者等の民事責任が定められています。
また、連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)には供給者が消費者に対して責任を負う旨の規定が含まれており、消費者と供給者との関係を規律する枠組みを提供しています。同法は消費者の生命・健康・安全の保護や、財産的・精神的損害の防止および救済を基本原則として掲げており、これに基づき連邦消費者保護庁(Procuraduría Federal del Consumidor:PROFECO)が製品安全に関する監督や違反行為への是正措置を担っています。
(2) 責任主体
メーカーのみならず、流通経路に関与した複数の当事者が責任主体となり得ます。製品の製造・流通に関わる者は、その行為または不作為が欠陥や損害の発生につながった場合には責任を問われる可能性が否定できません。例えば部品サプライヤーが提供した部品の欠陥に起因して損害が生じた場合には当該サプライヤーが、流通業者の不適切な表示や指示欠如によって事故が生じた場合には当該業者が、それぞれ責任主体とみなされるのが相当です。なお、行政上は消費者保護法により供給者全般に対し安全な製品を提供する義務が課されており、違反行為は行政処分や制裁の対象ともなります。
(3) 消費者救済
消費者保護法上は、製品またはサービスに、通常の使用目的に適さない隠れた欠陥・瑕疵があり、品質または使用可能性を低下させる、あるいはその性質上期待される安全性を欠く場合に、消費者は、契約物の返還、契約の解除、価格の減額を選択できるとされています。そして、いずれを選んだ場合でも、割増金または補償を請求することが可能です。なお、これらの規定は、損害が発生している場合の損害賠償請求を妨げるものではありません。
また、PROFECOは検査等により、法令違反や危険性が認められた商品・サービスについて消費者に警告を発し、他の当局が発した警告を公表するほか、供給者に対してリコールを命じることがあります。製品等が消費者の生命または健康を脅かすおそれがある場合には、修理や交換を命じ、必要に応じて市場からの撤退や廃棄を指示します。
さらに、集団訴訟(クラスアクション)による救済制度が設けられており、共通の被害を受けた消費者のグループが代表者を通じて訴訟を提起することが可能です。被害者グループ自身による集団訴訟提起のほかに、PROFECO等の行政機関も原告として集団訴訟を提起または支援する仕組みが整えられています。
6.バングラデシュ
(1) 製造物責任の枠組み
バングラデシュでは、製造物責任を独立に定める特別法は存在なく、主としてコモンローに基づく不法行為責任等に基づくものとなります。契約当事者間において生じた場合は、契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。
2009年消費者保護法や2023年医薬品・化粧品法のように、特定の商品又は役務について、消費者が金銭、健康又は生命に損害を受けた場合に、製造者の責任を規定する法律があります。販売に直接起因する製造物責任の請求については、売買取引法(Sale of Goods Act, 1930)および契約法(Contract Act, 1872)が関連します。
(2) 責任主体
2009年消費者保護法では、製造者、販売者、提供者の責任を定め、行政上、刑事上の責任を負うことが定められています。
消費者にとって有害で倫理基準にも反する行為を反消費者的行為として定義しており(2条20項各号)、同行為には次のような行為が例として挙げられます。
- 商品、医薬品、またはサービスを、関連法規で定められた定価を超える価格で販売ないし提供すること
- 不純物が混入した商品や医薬品について、人の健康に極めて有害であり、既存の法によって禁止されている成分が含まれていることを知りながら販売ないし提供すること
- 商品やサービスを販売する目的で虚偽の広告を流すこと
- 合意した価格で商品やサービスの提供をしないこと
- 当初表示した数量または重量より少ない数量または重量で販売すること
- 商取引において計量器を操作して不正確な重量を表示すること
同法4章以下において、反消費者的行為に該当する各違法行為について、罰則が定められています。その中には、過失等により、サービスの利用者の財産、健康、生命等に損害を与える行為(同法53条)もあります。
(3) 消費者救済
2009年消費者保護法では、同一の係争事項について既に刑事訴訟が進行しており、地方管轄権を有する地方裁判所に対し、同法に基づく適切な提訴を行える場合、民事訴訟を提起する権利が認められています。
7.フィリピン
フィリピンでは、消費者法(The Consumer Act of the Philippines)によって、製品の欠陥により消費者(商品を購入する個人等)が損害を受けた場合の製造者等の責任(製造物責任)が定められています。
(1) 責任の主体(消費者法97条)
消費者法により、製造者(manufacturer)や輸入者(importer)等は、製品の欠陥によって消費者に生じた損害について責任を負います。また、製造者や輸入者を特定できない等の場合には、販売者(tradesman or seller)も同様の責任を負います(以下、「製造者等」といいます)。
(2) 過失の必要性(消費者法97条)
この責任は過失の有無に関係なく発生する無過失責任であり、消費者は製造者等の過失を立証する必要がありません。
(3) 欠陥の判断基準(消費者法97条)
製品が「正当に期待される安全性を備えていない」(the safety rightfully expected of it)とき、その製品は欠陥があると判断されます。判断にあたっては、通常想定される使用方法および危険性などが考慮されます。
(4) 免責事由(消費者法97条)
製造者・輸入者等は、「消費者または第三者のみに過失があること」等を証明した場合には、製造物責任を免れることができます。
(5) 消費者が選択できる救済手段(消費者法100条)
製品の品質に欠陥がある場合、製造者等は消費者の請求を受けてから原則として30日以内に欠陥を修理する必要があります。この期間内に修理が行われないときは、消費者は製品の交換や代金返還等を請求することができます。
(6) 免責の禁止(消費者法104条、106条)
消費者法は、製造者等が欠陥を知らなかったことを理由に責任を免れることを認めていません。また、契約書において製造者等の責任を免除・軽減する条項を定めても無効とされます。
(7) 時効(消費者法169条)
製造物責任に関する請求は、取引が完結した日から2年以内に行う必要があります。ただし、隠れた欠陥(hidden defects)がある場合は、欠陥を発見した時点から2年以内に請求することができます。
また、時効の起算点について例外を認めた判例があります(MAZDA Quezon Avenue v. Alexander Caruncho)。この判例では、契約に3年間の保証期間が設けられていたことなどを考慮し、時効の起算点を取引完了時ではなく、保証期間の満了時とする判断が示されました。
8.ベトナム
(1) 商品によって生じた損害に対する責任
2007年製品および商品の品質に関する法律第60条に基づき、定められた品質基準を満たさない商品により生じた損害については、賠償が行われるものとされています。これに該当する損害には、以下のものが含まれます。
- 当該商品の価値に関する損失、およびそれによって損傷または破壊された財産の価値に関する損失
- 人命または健康に対する損害
- 当該商品または関連する財産の使用または利用に関連する利益の喪失
- 損害の防止、軽減、または回復のために要した合理的な費用
一般原則として、製品および商品の品質に関する規制に違反して生じた損害は、十分かつ適時に賠償されなければなりません。損害賠償は、当事者間の合意によって、または管轄権を有する裁判所または仲裁機関の決定に基づいて行われます。
さらに、2023年消費者権利保護法は、事業体または個人が提供した欠陥のある製品または商品によって消費者の生命、健康または財産に損害が生じた場合には、当該事業者または個人がその欠陥の存在を知らなかった場合や、過失がなかった場合であっても、損害を賠償する責任を負うことを規定しています。ただし、(3)③に示されている場合を除きます。
(2) 損害賠償責任を負う主体
製造業者および輸入業者は、当該製造業者または輸入業者の過失により、申告された適用基準または対応する技術規格に適合しない欠陥商品のために損害が生じた場合には、販売業者または消費者に対して損害を賠償する責任を負います。ただし、(3)①に示されている場合を除きます。
販売業者は、商品が申告された基準または適用される技術規格に適合していることを確保しなかった過失により損害が生じた場合には、購入者または消費者に対して損害を賠償する責任を負います。ただし、(3)②に示されている場合を除きます。
消費者権利保護法に基づく事業体および個人は、製品または商品に欠陥がある場合に損害を賠償する責任を負います。この事業体および個人には、製造行為、輸入行為、製品または商品に商号を付す行為、製品および商品の製造業者または輸入業者として識別可能となる商標その他の商業上の標識を使用する行為、製品および商品の商業上の仲介活動を行う行為、消費者に対して製品および商品を直接提供する行為、その他関連法令の規定により製品および商品に関して責任を負うとされる事業体および個人が含まれます。
(3) 損害賠償責任の免除
① 製造業者および輸入業者
製品または商品の製造業者および輸入業者は、損害が次のいずれかの事由に該当することを立証できる場合には、損害賠償責任を負いません。
- 消費者が、有効期限を過ぎた製品または商品を故意に使用した場合、または潜在的なリスクに対する明示的な警告があったにもかかわらず使用したことにより損害が発生した場合
- 苦情の申立てまたは訴訟提起の法定期間が経過している場合
- 損害発生時点における科学技術の水準からみて、当該製品または商品の欠陥を発見することが不可能であり、かつ消費者がその欠陥について十分な情報提供を受けたうえで故意に使用した場合
- 損害が専ら販売業者または消費者の過失により生じた場合
② 販売業者
販売業者は、以下の場合には損害賠償責任を負いません。
- 消費者が、有効期限を過ぎた商品を故意に使用した場合、または既に欠陥があることを認識しながら使用した場合に損害が発生した場合
- 苦情の申立てまたは訴訟提起の法定期間が経過している場合
- 当該商品の欠陥が、製造時または輸入時において、権限を有する国家機関が定めた強制的要件を製造業者または輸入業者が遵守したことにより生じた場合
- 損害が専ら消費者の過失により生じた場合
③ 事業体および個人
事業体および個人は、次の場合には損害賠償責任を免除されます。
- 製品または商品の欠陥が、当該製品または商品によって損害が発生する時点までの世界的な科学技術水準に照らして発見不可能であることが証明された場合
事業体または個人が法令に定める措置をすべて講じ、消費者が十分な情報提供を受けたにもかかわらず、欠陥のある製品または商品を故意に使用して損害を生じさせた場合
9.インド
インドにおける製造物責任については、2019年消費者保護法(Consumer Protection Act, 2019。以下「消費者保護法」といいます)が定めています。
消費者保護法は、製造物責任(product liability)を、製造物またはサービスの製造者または販売者が、製造または販売された製造物またはサービスの欠陥(defect)によって消費者に生じた損害を賠償する責任であると定義しています(消費者保護法2条(34))。
この点、欠陥(defect)とは、法律または(明示・黙示を問わず)契約に基づき維持することが求められている、または、当該製造物について事業者が主張している品質、数量、効力、純度、基準等に関する不備をいいます(消費者保護法2条(10))。
| 製造物製造者 (product manufacturer) | 製造物に関連するサービス の提供者 (product service provider:) | 製造物販売業者 (product seller) |
| ① 製造物に製造上の欠陥がある場合 ② 製造物に設計上の欠陥がある場合 ③ 製造仕様からの逸脱がある場合 ④ 製造物が明示的な保証に適合していない場合 ⑤ 製造物に損害を防止するための適切な使用方法の説明または不適切な使用や誤った使用に関する警告が含まれていない場合 | ① 提供したサービスが、現行法、契約、その他の規定に基づき求められる品質、性質、履行方法において、欠陥等があった場合 ② 作為・不作為、または、故意・過失による情報隠蔽により損害が発生した場合 ③ 損害を防止するための適切な指示または警告を発しなかった場合 ④ サービスが明示的な保証または契約条件に適合していなかった場合 | ① 損害を引き起こした製造物の設計、試験、製造、包装、またはラベル表示について実質的な支配力を行使していた場合 ② 製造物を変更または修正し、当該変更または修正が損害を引き起こす実質的な要因となった場合 ③ 製造物製造者による明示的な保証とは独立して、製造物について明示的な保証を行ったが、当該製造物が製造物販売業者の明示的な保証に適合していなかった場合 ④ 当該製造物の製造物製造者が不明であるか、または判明していても、通知、訴状、令状の送達が当該製造物製造業者に対して実施できないか、またはインドで施行されている法律の対象とならないか、または制定された、または制定される予定の命令が当該製造物製造業者に対して執行できない場合 ⑤ 当該製造物の組み立て、検査、または保守において合理的な注意を払わなかった、もしくは、当該製造物の販売中に、製造物に関連する危険性または適切な使用に関する製造物製造業者の警告または指示を伝えず、かつ、当該不履行が損害の直接の原因であった場合 |
同法のもと、各事業者は、以下の場合に賠償責任を負うことになります(消費者保護法84~86条)。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)では、製造物責任を独立に定める特別法は存在しません。製造物の安全や消費者保護について、製造物安全法(2018年連邦法第10号)、消費者保護法(2020年連邦法第15号)及びこれらの施行令によって規定されています。
(2) 消費者救済
消費者保護法第4条は、購入・使用した商品・役務について正しい情報を得ること、紛争について公正かつ迅速な解決を得ること、商品・役務の購入・使用の結果生じた人的物的損害に対して公正な賠償を得ること等を消費者の権利として規定しています。その上で、商品または役務の利用の結果生じた人的および物的損害について、消費者が既存の法律に従って損害賠償を請求する権利を有する旨を確認するとともに、これに反する合意は無効であることを定めています(第24条第1項)。
(3) 製造者等の責任
消費者保護法は、消費者の行為に起因しない、仕様、製造、供給上の誤りの結果、消費者に損害を与え又はその使用を妨げる、商品・役務の品質、数量、効果、外観の違い、寸法又は構成を欠くことを欠陥(defect)、製造又は提供後に消費者に損害を与え又はその使用を妨げる商品・役務に生じるものを不備(flaw)、と定義し(第1条)、フリーゾーンを含むUAE内のあらゆる商品および役務並びにそれに関連した供給者、広告主、代理店(UAEに登録するeコマース提供者を含む)の行為に対して適用され(第3条)、供給者等には、販売した商品につき特定期間のあらゆる保証を、提供した役務につきその性質に相応した期間中に欠陥・不備がないことの保証を行う義務(第10条)、欠陥・不備が発見されたときには無償で修繕、交換、返金等の救済行為をとる義務(第12条)等が課され、違反者には、2年以下の拘禁刑および1万以上200万UAEディルハム(AED)以下の罰金が課され、再犯の場合にはその2倍とする(第29条)等の罰則が定められています。
また、製造物安全法は、製品の安全性につき定義し(第1条)、フリーゾーンを含むUAE全域で流通するあらゆる物品(医薬品、芸術作品、補修等を要する中古品を除く)に適用され(第3条)、物品の製造者、代理店、輸入者、および物品の安全に責任を有する物品流通に関与する者に、それぞれの物品に適用される法令、安全に関する基準を遵守する義務(第4条)、安全でない物品の国内流入を阻止し、物品が通常の使用において安全であることを保証し、安全でないことが発見された際には予防・是正措置を行う義務(第6条)等を課し、安全性を欠く物品を流通させた場合等には拘禁刑または50万以上300万AED以下の罰金とする(第8条)等の罰則を定めています。
11. インドネシア
(1) 製造物責任の枠組み
インドネシアでの製造物責任は、消費者保護に関する法律1999年第8号(以下「消費者保護法」といいます)によって規定されています。
消費者保護法において、事業者が製造または販売した商品や提供したサービスによって、消費者に対する損害が生じた場合、事業者はその損害を賠償する責任を負います(消費者保護法第19条)。
(2) 責任主体
責任主体は、商品・サービスの製造・販売をする事業者、商品・サービスの輸入者です。ただし、損害が消費者の過失による場合には、免責されますが、事業者が消費者の過失を立証する必要があります(消費者保護法第22条)。
責任主体のうち、他の事業者に販売する者は、①販売先の他の事業者がいかなる変更を加えることもなく、商品および/またはサービスを消費者に販売した場合や、②販売先の他の事業者が、販売者により改編が加えられたことを知らずに、見本と不一致があることや、品質・成分に不一致があるような契約に適合しない、相当でない商品、サービスを消費者に提供し、損害が発生した場合にも、責任を負います(消費者保護法第24条)。
一方、製造事業者は、①商品の流通が意図されていなかった場合、②製品の欠陥が製造事業者の管理を離れた後、新たに生じた場合、③欠陥が品質基準に関する法令を遵守した結果である場合、④商品の購入から4年または、事業者と消費者で合意した期間を経過した場合には、免責されます(消費者保護法第27条)。
(3) 消費者救済
消費者は、受領した商品またはサービスが契約に適合しない、または相当でない場合に、修理、交換または返品、商品価格の返還、もしくは当該商品と同等の品質の商品との代替を請求できます。(消費者保護法第4、7条)。 また、損害が生じた場合には、取引日から7日以内に販売者による返金、交換等の対応が必要となり、本規定に応じない場合、消費者は、地方判所および消費者紛争解決機関(BPSK)に提訴できます(消費者保護法第19、45条)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
2025/10/01
1.日本
日本に住む20歳以上60歳未満の者は全て、国籍を問わず、日本の公的年金制度に加入しなければなり
ません。
公的年金制度には主に、国民年金と厚生年金保険の二つがあり、国民年金は、日本に住む20歳以上60
歳未満での全ての者が加入する年金であり、厚生年金は、会社員や公務員等が国民年金に上乗せして加入
する年金となっています。
もっとも、日本に住む外国人にとっては、日本の年金制度に加入すると、自身の母国における年金などの
社会保障と合わせて二重の負担になる可能性があります。
そこで、日本は、韓国、中国、フィリピン、インド等23か国との間で、社会保障協定を締結しています。
社会保障協定では、①二重負担を防止するために二国間で調整を行う制度、②年金受給資格を確保する
ために、両国の年金制度への加入期間を通算する制度が設けられます。ただし、韓国、中国等、一部の国と
の協定については、①二重負担防止のみが定められており、②加入期間の通算が定められていない、といっ
たパターンもあるので注意が必要です。
また、外国人が本国に帰国する際には、脱退一時金という制度もあります。
外国人が、国民年金または厚生年金の被保険者資格を失って、日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金と呼ばれる一定の額を請求することができます。
ただし、脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金の計算の基礎となった期間は年金の加入期間ではなくなり、当該期間を通算することができなくなり、日本や本国で年金を受給できなくなる可能性も生じ得ますの
で、脱退一時金の請求をするか否かは慎重に判断するべきです。
2.タイ
⑴ 概要
タイの社会保障制度は、社会保険法に基づき、社会保険への加入と保険料納付が義務付けられています。保険料は月給の5%を、労働者と使用者がそれぞれ拠出します(合計10%)。算定対象となる月給の上限は15,000バーツであるため、保険料の上限は労使それぞれ750バーツ(合計1,500バーツ)となります。
この制度では、疾病治療、心身障害、死亡、出産、児童手当、老齢年金、失業給付などがカバーされています。また、過去15か月のうち3か月以上保険料を納付していれば、全国の提携病院の中から1か所を指定し、登録病院で診療・治療等の医療サービスを無料で受けることが可能です。
⑵ 外国人(駐在員)の加入義務の有無
駐在員についても、タイ法人と雇用契約を結び、労働者としてタイ法人から給与を受け取る場合は、社会保険への加入が義務付けられています。多くの企業では、この形式を採用して駐在員を社会保険に加入させているものと思われます。
一方、原則として取締役は社会保険に加入できません。そのため、日本本社雇用のままタイに赴任し、タイ法人の取締役に就任した場合(従業員としての給与を受け取っていない場合)には、社会保険への加入対象外となります。
⑶ 社会保障協定の有無
日本とタイとの間には社会保障協定は存在しておらず、日本人駐在員についていわゆる二重加入の問題が生じ得ます。
3.マレーシア
⑴ 概要
マレーシアには、日本の年金に相当する社会保障制度として、EPF(Employees’ Provident Fund)制度が存在しています。EPFに加入する従業員については、雇用者・従業員がそれぞれ拠出を行い、当該労働者が55歳に達した場合、EPFからの承認を得た場合等に引き出しが可能となります。なお、駐在員については当地から離任する場合には、離任の2カ月前から拠出を停止することができ、その後引き出しも可能です。
⑵ 外国人(駐在員)の加入義務の有無
従来、永住権保有者を除く外国人の加入は現行では任意とされていましたが、「1991年従業員積立基金(EPF)法(法律第452号)」が昨今改正され、2025年10月からは、このような外国人であっても、加入及び同月分の給与からの従業員・雇用者双方からの拠出が義務化されることとなりました。
なお、最低拠出率は、雇用主と従業員とでそれぞれ、月額賃金の2%です。
⑶ 社会保障協定の有無
日本とマレーシアとの間には社会保障協定は存在しません。したがって、日本人駐在員について、いわゆる二重加入の問題が生じ得ます。
4.ミャンマー
⑴ 概要
2012年社会保障法に基づき、5名以上の労働者を雇用している会社は原則として社会保障制度に加入する必要があります。社会保障の種類としては、①健康及び社会医療基金、②障害給付、老齢年金、遺族給付基金、③失業給付金基金、④社会保障住宅基金、⑤労災保険基金があります。このうち、②乃至④については運用されていません。
⑵ 外国人(駐在員)の加入義務の有無
外国人も労働者に該当する場合には加入義務があります。
⑶ 社会保障協定の有無
日本とミャンマーとの間には社会保障協定は存在しません。したがって、日本人駐在員について、いわゆる二重加入の問題が生じ得ます。
5.メキシコ
(1) 社会保障制度の概要
メキシコでは、民間部門の労働者に対して、メキシコ社会保険庁(Instituto Mexicano de Seguro Social:IMSS)が社会保障制度を運営しています。この制度は、日本の厚生年金や健康保険に相当する公的保険を包含しており、医療保険、労働災害保険、障害・遺族年金、老齢年金などの給付が提供されます。
メキシコの年金制度は1997年、年金の財政的持続可能性を確保するために、賦課方式から個人積立方式(確定給付〔DB〕から確定拠出〔DC〕)へと移行しました。民間労働者の老齢年金については、民間の退職年金基金運用機関(Administradoras de Fondos para el Retiro:AFORE)が各労働者の個人口座を管理し、企業、従業員および政府が拠出する保険料が積み立てられます。
(2) 外国人(駐在員)の加入義務
メキシコの法律上、国籍に関わらず国内で雇用関係にある労働者は、IMSSの社会保障制度に加入させることが義務付けられています。メキシコ連邦社会保障法(Ley del Seguro Social)第15条は、全ての雇用主に対し、被用者となる者を入社日から5営業日以内にIMSSへ登録し、社会保険料を納付することを規定しています。この「被用者」には外国籍労働者も含まれるため、現地採用された外国人労働者はもちろん、日本からの駐在員であっても、メキシコ国内で企業の指揮命令の下に労務提供を行う場合には、IMSSに加入しなければなりません。仮に民間の海外旅行保険や日本国内の健康保険に加入していても、メキシコで就労する以上は法定の社会保険料の支払いと加入手続きが求められます。
もっとも、社会保障制度への加入は労働者にとって医療サービスや年金給付の受給権を得る重要な権利でもあります。IMSSに加入し保険料を納付することで、労働者本人およびその扶養家族は医療機関での診療を無料または低額で受けられるほか、疾病や労災で働けなくなった場合の所得補償、将来の老齢年金などの保障を受けることができます。外国人労働者であっても、IMSSへの加入によりこれらの社会保障給付を利用する権利が保障されます。
(3) 社会保障協定の有無
現時点で日本とメキシコの間に社会保障協定は締結されていません。社会保障協定とは、二国間で公的年金等の保険料の二重負担防止や加入期間の通算を行うことを目的に締結される協定ですが、日本とメキシコは協議を行っているものの、未だ締結には至っていません。このため、日本人駐在員の場合、一定期間を超えてメキシコで就労する際には日本の社会保険料も引き続き納めつつ、メキシコのIMSS年金への加入と保険料納付義務も生じることになります。結果として、企業と従業員双方に二重の社会保険料負担が発生する点には留意が必要です。
6.バングラデシュ
バングラデシュには、社会保障制度はありません。労働災害保険については、国際労働機関(ILO)との共同事業により、パイロットプランとして輸出加工区などの繊維製造業の一部の工場や事業所が導入している状況です。
年金制度は、2023年設立した国家年金庁(NPA)がユニバーサル年金制度を導入しています。これは、外国人労働者も加入することができます。
そのため、外国人労働者に対する加入義務、日本との間の社会保障協定はいずれもありません。
7.フィリピン
(1) 概要
フィリピンも一般国民向けの社会保険があり、退職年金や障害年金、失業手当、出産休暇手当などの給付を行っています。今回の記事ではフィリピンの社会保障制度についてご説明いたします。
フィリピンの社会保障は以下の3つです。
1.1 Social Security System (SSSと呼ばれる社会保障)
2.2 Philhealth (フィリピン版の国民健康保険)
3.3 Home Development Mutual Fund (通称Pag-IBIG、持家促進相互基金)
Pag-IBIG(持家促進相互基金)については、外国人はフィリピンの土地所有ができないため持家を購入することがほとんどなく、2019年に外国人はPag-IBIGへの納付は免除となりました。
(2) SSS
SSSは退職年金、障害年金、失業手当、労働災害補償、出産休暇手当、葬祭料などを給付する包括的な社会保障です。民間企業の労働者は外国人も含め、SSSへの加入が義務付けられており、毎月、標準月額報酬から算出された保険料を労使間で負担します。通算して120か月の納付期間があればフィリピンで退職年金の受給対象になります。標準月額報酬額は34750ペソが上限として設定されており、賃金が34750ペソを超える場合、労使で負担する保険料は5280ペソとなります。
※2025年時点
駐在員も当然SSS・PhilHealth加入対象となるため、原則、保険料の納付が必要となります。駐在員の場合、通常は日本でも国民年金・厚生年金に加入していますので、日本とフィリピンで二重で保険料を負担することになってしまいます。そこで保険料の二重負担を解消する目的で、2018年に日比社会保障協定が発効されました。この協定により、日本で国民年金・厚生年金に加入している駐在員については、フィリピンにおけるSSSの保険料納付を免除することができます。ただし自動的に免除が適用されるわけではなく、まずは日本の年金機構から「適用証明書」を取得し、それをフィリピンのSSSに提出し受理されることで、免除が適用されます。
(3) Philhealth
フィリピン版の国民健康保険で、入院医療費と特定の外来治療費の一部をカバーします(一般外来や健康診断は適用外)。Philhealthは外国人含め全労働者は加入しなければなりません。
保険料は賃金の5%分(PHP5,000が上限)を労使折半して納付します。例えば、賃金が10,0000PHPの場合、その5%がPHP5,000ですので、これを労使折半するとPHP2,500が労働者側の納税額となります。現状、Philhealthの適用範囲は限られており給付金も少額のため、外国人労働者がその恩恵を受けることはほとんどありません。ほとんどの外国人労働者や民間企業の従業員はHMO(Health Maitenance Organization)という民間保険に加入し、提携先のクリニックで治療や健康診断を受けることが一般的となっています。また、労働市場においてもHMO加入有無が入社企業選択の重要ファクターにもなっています。
(4) おわりに
本記事で説明した社会保険への毎月の保険料納付は必須となります。そのため、これらの制度の概要を知っておくことが重要です。企業によっては、外国人の賃金から社会保障が全く控除されていないケースもあります。
また、納税額は毎年少しずつ引き上げられることが予想されますので最新の情報は各機関のホームページを確認するか、専門家にご相談ください。
8.ベトナム
(1) 制度の概要
ベトナムにおいては、労働者に対して二種類の年金制度が存在しており、i) 国家が提供する強制社会保険制度に基づく年金制度、及び ii) 国家の方針に基づき社会保険当局が実施する補足退職保険(市場原理に基づく任意加入の保険制度であり、その基金は国家予算とは独立した金融基金)に基づく年金制度から構成されています。
本ニュースレターの範囲においては、国家が提供する強制社会保険制度に基づく年金制度に関する規定に限定して取り上げます。
(2) 外国人労働者の加入要件
① ベトナムの強制社会保険制度への加入が義務付けられる外国人労働者
ベトナムにおいて就労する外国人労働者(以下「外国人労働者」といいます。)は、以下の要件を満たす場合、ベトナムの強制社会保険制度に加入しなければなりません(社会保険法〔Law No. 41/2024/QH14〕第2条第2項及び政令〔Decree 158/2025/ND-CP〕第3条第1項)。
- 契約期間が12か月以上の労働契約に基づいて就労していること、及び
- 以下の免除事由に該当しないこと
- 規定された企業内人事異動プログラムに基づく場合
- 労働契約締結時に既に定年に達している場合
- ベトナムが締結国となっている国際条約または二国間協定に基づく場合
上記要件を満たす者を、以下「外国人加入者」といいます。
なお、外国人労働者が、国内外を問わず勉学、研修または就労のために派遣され、その間ベトナムにおいて給与の支払いを受けている場合も、外国人加入者として扱われます。
② 毎月の強制社会保険料の拠出
現行の規定に基づき、外国人加入者に係る退職及び遺族基金の拠出率はベトナム人労働者に適用されるものと同一であり、労働者と使用者との間で以下のとおり分担されます。
- 外国人加入者による毎月の拠出率: 強制社会保険料算定基礎となる給与の8%(社会保険法〔Law No. 41/2024/QH14〕第33条第1項)
- 使用者による外国人加入者に対する毎月の拠出率: 強制社会保険料算定基礎となる給与の14%
(3) 日本との二国間社会保障協定の有無
ベトナムと日本は、2018年以来5回にわたり情報交換及び社会保障協定の内容準備を行ってきました。具体的には、2024年8月に開催された日越協力委員会の会合において、両国は二国間社会保障協定の交渉を開始することを決定しました。本ニュースレターの発行日時点においては、当該二国間社会保障協定に関する最新の進展は公表されておりません。しかし、近い将来、ベトナムと日本との間で社会保障協定が締結されるのではないかと思われます。
9.インド
(1) インドにおけるEPFの概要
インドには、従業員積立基金(EPF:Employee’s Provident Funds)と呼ばれる社会保障制度があります。
20名以上を雇用する組織、及び、当該組織の中で月給15,000ルピー以下の従業員については、それぞれEPFへの加入が必須です(Employees’ Provident Funds Act, 1952(以下「EPF法」といいます)1条(3)、Employees’ Provident Funds Scheme,1952(以下、「EPFスキーム」といいます)2条(f))。
なお、加入義務のない組織及び従業員であっても任意加入が可能です(EPF法1条(4))。
積立金の払戻しについては、58歳に達した場合や職務に復帰できない程度の障害を有した場合等に、申請をすることができます。
(2) 外国人とEPF
外国人については、全ての者にEPFへの加入義務が原則としてあります(EPFスキーム26条)。
もっとも、インドとの間で社会保障協定を締結している国の者については、インド赴任後も母国の社会保障制度に引き続き加入している場合、当該社会保障協定の枠内でEPFへの加入義務が免除されます(EPFスキーム83条)。
この点、日本はインドとの間で日印社会保障協定(India–Japan Social Security Agreement 2016)を締結しており、最大60か月(5年間)にわたりEPFへの加入義務が免除されます。免除を受けるためには、日本年金機構から「適用証明書」の発行を受ける必要があります。
なお、予見できない事情により5年を超えて派遣期間が延長される場合については、申請に基づき、両国で個別に判断の上合意した上で3年まではEPFの加入が引き続き免除されます。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)では、年金及び社会保障に関する1999年連邦法第7号により、政府及び私的企業で働く18歳以上60歳未満のUAE国民は、年金・社会保険局(General Pension and Social Security Authority (GPSSA))に雇用の初月に登録することが義務付けられています。2023年10月31日以降に初めて加入する者については、年金及び社会保障に関する2023年連邦令第57号による改正事項が適用されます。但し、アブダビの私企業で雇用される者については、連邦法の適用は受けずアブダビ首長国の法令に基づくアブダビ年金基金が適用されます。
健康保険については、雇用者による被雇用者の加入が、アブダビ首長国及びドバイ首長国では義務付けられていましたが、2025年1月1日よりUAE全体で強制となり、滞在許可の申請または更新の条件となりました。
(2) 外国人の年金加入義務の有無
上記の社会保障については、湾岸協力会議(「GCC」)構成国(サウジアラビア、クウェート、バハレーン、カタール、オマーン)の国民は加入できますが、保険料はそれぞれの母国の基準によります。GCC以外の国民は、加入することができません。
(3) 社会保障協定の有無
日本との間に社会保障協定はありません。
11.インドネシア
(1) 社会保障制度の概要
インドネシアでの社会保障制度は医療保険と労働者社会保障の2つに区分されており、それぞれBPJS KesehatanとBPJS Ketenagakerjaanという機関が運用しており、この運営機関の名称から2つの社会保障制度を総称して一般的にBPJS(Badan Penyelenggara Jaminan Sosial)と呼びます。
BPJS Kesehatanは医療保険制度であり、加入することで、BPJS Kesehatanと協定を提携している医療機関で診察、治療、医薬品の提供などのサービスを受けることができます(国民健康保障に関する大統領令2018年第82号第67、68条)。一方、BPJS Ketenagakerjaanは労働者社会保障制度であり、①労災補償(JKK:Jaminan Kecelakaan Kerja)、②死亡保障(JKM:Jaminan Kematian)、③老齢保障(JHT:Jaminan Hari Tua)、④年金保障(JP:Jaminan Pensiun)、⑤失業保障(JKP:Jaminan Kehilangan Pekerjaan)の5つで構成され(社会保障に関する法律2011年(以下、「社会保障法令」といいます)第5条)、就労中の事故による疾病や死亡、積み立てた年金、失業後の手当等を受けることができます。
(2) 外国人の加入義務
法令上において、6カ月以上、インドネシアで働く現地採用のスタッフや駐在員などの外国人はBPJSの分類のうち、BPJS KesehatanおよびBPJS Keteagakerjaanにおける①労災補償、②死亡保障、③老齢保障の対象となります(社会保障法令第5、14条)。一方、BPJS Ketenagakerjaanにおける④年金保障、⑤失業保障は外国人には登録資格がないため加入できません(失業保障の実施に関する政令2025年第37号第4条)。なお、より具体的な取り扱いについては、BPJSに問い合わせて確認する必要があります。
(3) 社会保障協定の有無
現時点で日本とインドネシアの間に社会保障協定は締結されていません。このため、日本人駐在員の場合、一定期間を超えてインドネシアで就労する際には日本の社会保険料も引き続き納めつつ、インドネシアのBPJSへの加入と納付義務も生じることになります。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
第1.【お知らせ】ウェビナーの開催について
ウェビナーの開催についてご案内いたします。
インド事務所の松下智宗弁護士が、インド進出をご検討中の日本企業様向けにインド法務ウェビナーを行います。
インドに進出する際のポイントについてインドの法令に基づき説明いたします。
参加は無料となっておりますので、奮ってお申込みください。
本ウェビナーがインドへの進出を検討中の日系企業様のビジネスに少しでも貢献できれば幸甚です。
【日程】
日時:2025年9月3日(水)
12時30分~13時30分(インド時間)、16時~17時(日本時間)
※申込締切は2025年9月2日(火)までとなっております。
開催方法:オンライン(Zoom)
参加費:無料
申込方法につきましては、下記URLからご確認ください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeW7LuWW_Yzun66i1evLzOe1d6S3aqznHsm5_Deap9YBT0N5A/viewform?usp=preview
第2.従業員が不正を行った場合の法的対応について
1.日本
従業員による不正行為が発覚した場合、まずは事実確認や証拠の収集等を行い、実態の把握をすることが重要です。
また、不正行為を働いた従業員への対応は、事案の性質や証拠の収集状況等によっても異なりますが、一般的には、不正の内容・程度に応じた懲戒処分を行うことが一般的です。
懲戒処分を行うにあたっては、判例上、あらかじめ、就業規則で懲戒の種別及び事由を定めておかなければならないとされています。また、当該就業規則の内容が従業員に周知されていなければなりません。
また、労働契約法15条は、懲戒処分が社会通念上相当であると認められない場合には無効であると定めています。
この点、懲戒処分が社会通念上相当であることを担保するために、懲戒処分を行うにあたっては、従業員に対し弁明の機会を付与することが通常です。仮に、弁明の機会を付与していなかった場合には、手続き面において相当性を欠くということで、懲戒処分が無効とされるリスクが高まります。
なお、相当性は手続き面だけでなく、処分の内容面にも求められますので、事案に対し不相当に重い処分は無効となる恐れがあります。
また、懲戒処分の他には、事案の悪質性や会社に生じた損害の程度、証拠の収集状況等個別の事情に応じて民事訴訟による損害賠償請求や刑事告訴等の対応も考えられます。
2.タイ
(1) 事実の調査及び証拠保全対応
まず社内での対応として、事実関係の正確な把握と証拠の保全を最優先で進めるべきです。事案に応じて、関係する会計記録や銀行取引明細、社内メール、監視カメラ映像などのデータを収集し、必要に応じて専門家の協力を得て不正の有無や損害額を明確にします。また不正に関与した可能性がある従業員には、システムアクセス制限などの措置を講じ、証拠隠滅や不正の拡大を防止する対策などが必要です。さらに当該従業員に対しては、就業規則や雇用契約書において調査のための停職の定めがあれば、停職を行うことができますが、その場合でも停職期間は7日以内とする必要があり、また就業規則によって定められた割合の賃金を支給する必要があります。
(2) 懲戒処分および刑事手続き対応
調査の結果、不正が事実と認められた場合には、法および就業規則に基づき懲戒処分を行うことになります。横領や背任など、会社に重大な損害を与えたといえるような事案については「懲戒解雇(解雇補償金不要)」に該当するとして、解雇手続きを進めることが可能です。いずれの懲戒処分を行う場合にも、不当な処分であると後になって従業員から労働裁判所に訴えられないように、慎重に手続を進める必要があります。
さらに、不正行為が詐欺や横領などの場合で従業員に対する刑事責任を追及する場合には期限についての注意が必要です。タイ刑法において横領罪や詐欺罪について、刑事告訴期間は「犯罪行為及び被害者が犯人を知った日から3か月以内」と定められています。このため横領事案などで刑事手続きを進めたい場合には、この期間内に刑事告訴を行う必要があり、内部調査を進める一方で、刑事告訴の要否を早急に判断し、期限内に行動できるように準備を進めることが不可欠です。
3.マレーシア
⑴ 不正発覚時の対応
従業員による不正行為が発覚した場合には、通常は懲戒処分の可否を検討します。懲戒処分の手続においては会社が不正行為の事実を調査し、処分対象となり得る従業員本人から弁明を受け付けるというステップを踏む必要があります。このような調査は法律上求められているのは勿論、会社が不正行為の実態を把握し、再発予防策を講じるためにも重要です。
⑵ 不正行為調査の際の注意点
裁判例によると、使用者が従業員に対して不正行為を追及する場合、労働者が追及されている不正行為の内容を認識し、防御できる程度にその不正行為が特定されている必要があり、具体的事実を特定せずに行った処分は無効となり得ます。使用者としては、少なくとも不正行為の内容、日時、場所等を可能な限り特定すべきであると考えます。
また、裁判例では、懲戒解雇に至るだけの重大な非違行為があったとしても、従業員に対して弁明の機会が形式的にしか行われていなかった、あるいは一切行われていなかったことを理由に、処分が無効とされるケースが多々あります。したがって、不正行為調査を行う際には、まずは客観的証拠等により事実を特定した後、処分対象とする従業員に反論の機会を与えなければならないことに注意が必要です。
4.ミャンマー
⑴ 不正発覚時の対応
従業員の不正が発覚した場合、まずは調査を行い、不正の全体像を把握し、証拠を保全することが重要です。もっとも、不正を行っていることが強く疑われるものの、証拠が残っていないこともあります。
(2) 証拠が十分な場合
証拠が十分な場合、告訴を行ったり、民事訴訟を行うことも可能です。もっとも、いずれも時間や費用を要することから、いきなりそのような手段を採るのではなく、まずは従業員にそのような証拠を示し、返金義務を含めた退職合意書等に署名を取得し、返済が滞った場合に法的措置を採る場合も多いです。また、不正を理由にした懲戒解雇も可能です。その場合には、解雇手当の支払いも不要です。
(2) 証拠が十分ではない場合
証拠が不十分な場合、不正を理由とする解雇は難しいことから、できる限り従業員と交渉して退職合意書に署名を取得し、退職してもらうこととなります。その際の条件については、どれだけ不正を示す関連証拠を事前に収集できるかによっても交渉力が異なります。
5.メキシコ
(1) 証拠保全の重要性と手法
従業員による不正の疑いが生じた場合、まず証拠の収集を行うことが優先事項となります。メキシコでは法的に内部調査の実施が義務付けられていませんが、不正を認知した段階で速やかに内部調査を開始し、関連する証拠を確保することが望ましいです。証拠収集の方法としては、主に以下のものが挙げられます。
- 聞き取り:不正に関与したと疑われる従業員や関係者に対するヒアリングを行います。調査は可能な限り、関係者のプライバシーに配慮する必要があります。
- 監視とログの確認:社内の監視カメラ映像や入退室記録、業務システムのログなど、不正行為の客観的証跡となり得るものを収集します。
- デジタル証拠の保全:不正の証拠が電子データとして存在する場合、専門的なデジタル鑑識手法で保全します。
収集した証拠は不正行為の事実関係を立証する基盤となる事が多いです。なお、調査過程で判明した法令違反行為について、必要に応じ所轄当局への報告や刑事告発を検討します。
(2) 懲戒処分の種類と適用基準
内部調査によって不正が確認できた場合、企業はその悪質性や重大さに応じて懲戒処分を検討します。以下は、労働実務で一般的に認められている懲戒処分の例です。
- 口頭注意:比較的軽微な違反行為や初回の不正行為に対しては、非公式な口頭での注意や指導が行われます。正式な処分記録には残りませんが、再発防止のための警告として位置付けられます。
- 書面注意:規律違反が再度発生した場合や、一定の重大性がある場合には、文書による譴責が行われます。この書面は、将来より重い処分を行う際の前提資料となり、会社が問題行為を把握し是正を指導した実績を示す証拠にもなります。
- 一時的な出勤停止:重大な規律違反や度重なる不正行為に対しては、一定期間就業を停止させる懲戒処分が科されます。なお、停職を命じる前には、従業員に弁明の機会を与え、事情を聴取する手続を踏まねばなりません。
各懲戒手段の適用にあたっては、不正行為の内容と深刻度、従業員の過失の程度、就業規則で定める処分基準などを総合考慮する必要があります。
(3) 解雇の可否と手続き
不正行為の内容が重大で、雇用関係の継続が困難な場合には、懲戒解雇を検討します。連邦労働法では、使用者が従業員を一方的に解雇できるのは法律で定められた正当理由がある場合に限られます。労働法第47条に列挙された正当理由には、「勤務中の不誠実な行為」「使用者や同僚・取引先に対する暴力、脅迫、侮辱」「業務上の重大な背信行為」などが含まれており、従業員による詐欺や横領等の不正行為は正当解雇事由に該当します。また、正当理由による解雇を行う場合、法律上定められた厳格な手続きを遵守しなければなりません。連邦労働法第47条は、正当理由で従業員を解雇する場合、使用者は「解雇の動機となった行為の具体的内容と日付を明記した書面」を作成し、従業員本人に渡すことを義務付けています。
解雇について従業員から労働訴訟が提起された場合、使用者は裁判所で従業員が正当解雇事由に該当する行為を行ったこと、そして先述の解雇通知書を適法に交付または届出したことについて、証拠をもって証明しなければなりません。証拠保全が求められるのは、この立証責任を果たすためでもあります。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、懲戒事由、懲戒処分の種類及び懲戒手続に関して、労働法、EPZ労働法が定めています。
労働法の懲戒手続の場合、会社は、不正行為の容疑を文書で記録し、従業員に対して当該通知書(文書の写し)を交付し、従業員に7日以上の釈明の期間と聴聞の機会を与える必要があります。
その後、使用者側及び従業員側の同数の代表者で構成される審査委員会にて不正行為の有無の審査を行います。審査は60日以内に行う必要があります。そこで不正行為が認められた場合は、会社は懲戒をし実施することができます。(労働法24条)
そのため、不正発覚時には、従業員に対して不正行為の容疑を通知できるよう、不正行為の事実を、日時、場所、具体的な行動で特定する必要があります。
不正行為を裏付ける証拠を確保することは言うまでもありませんが、懲戒手続きが労働法の要件を満たしていると担保する証拠も確保する必要があります。不正行為の内容が認められたとしても、手続きに問題があると懲戒処分が無効になるおそれがあるからです。そのため、文書を交付した際には従業員の署名した受領書を受け取る、聴聞の機会には録音をとる、審査委員会の構成員及び会議内容の記録を残すなど、慎重に進めていく必要があります。
7.フィリピン
フィリピン労働法上、労働者の責めに帰す事由に基づく解雇については、以下の5つに分類されています。
- 重大な不正行為または意図的不服従
- 相当かつ常習的な職務怠慢
- 意図的な詐取、使用者からの信用を損なう行為
- 雇用主に対する犯罪行為
- 上記に関連するそれ以外のケース
従業員が何らかの不正を行ったと想定する場合、1を事由に解雇を進めていくことがほとんどですが、経理や秘書、マネージャーなどの不正行為は3を解雇事由にすることがあります。1を解雇事由にする場合、不正行為であるだけでは十分ではありません。労働法に記されている通り、重大(Serious)な不正行為でなくてはいけません。重大(Serious)と認められないと、解雇権の濫用と判断されます。解雇権の濫用と判断された場合、不当解雇の時点からの未払い賃金、損害賠償や各種付加金の支払命令がくだされることがあり、従業員に非があるにも関わらず、雇用主のほうが不利益を被ってしまうことが往々にしてあるのです。
不正行為を総合的に考慮して重大であると判断した場合、会社としては解雇プロセスに進むことになりますが、フィリピンはDue Processを非常に重んじるので、解雇や停職にあたっては、二段階通知(Twin Notice)が必須となります。
まずは書面により実際に行われた不正行為と解雇事由、処分の内容(例えば解雇)について記された書面を本人に交付します。この書面には、必ず本人に(5日以内に書面によって)反証の機会が与えられている旨を記載されていなければなりません。本人の反証をもとに、弁明の機会(Opportunity to be heard)を行います。この際、従業員は必要であれば代理人(弁護士や家族)等を同席させることが可能です。
最初の通知とそれに対する従業員の反論、そして弁明の機会でのプロセスを経て、依然として解雇相当であると決定した場合、最終通知をし、解雇をします。
フィリピンでは従業員に非がある場合でも、解雇プロセスが不十分な場合、むしろ従業員側の利益となることがあります(金銭支払い・復職等)。だからといってどれだけ不当なことをしても解雇しないという決断を取り続けると、雇用主の姿勢をみて従業員が不当な行為をし続けるといった場合もあり、労働環境を正当に保てなくなりますので、不正行為の従業員への対応については専門家のアドバイスを求めつつ、毅然とした対応をとることを強くおすすめします。
8.ベトナム
(1) 概要
現行のベトナム2015年労働法によれば、従業員の法定義務の一つとして「労働規律および就業規則を遵守し、使用者の管理、運営および監督に従うこと」が規定されています。したがって、従業員による不正行為または違法行為があった場合、必要な要件および条件が完全に満たされることを前提に、労働規律違反処分、労働契約履行の一時的停止、または契約期間満了前の労働契約終了といった措置を適用することが可能です。
(2) 労働規律処分(懲戒処分)
規定されている懲戒処分は、① 譴責、② 最長6か月の昇給延期、③ 降格、④ 解雇の4つです。使用者は、従業員の不正または違法な行為や行動を明示的に記載し、それに対応する懲戒処分を定めた独自の就業規則を策定することが可能です。ただし、この就業規則は現行の労働関連規定に従う必要があります。
具体的には、使用者に10人以上の従業員がいる場合には、法定の必須事項を盛り込んだ就業規則を定め、これを所轄官庁へ就業規則を登録しなければなりません。その上で、解雇の懲戒処分は、以下の法定事由に該当する場合にのみ認められます。
- 職場において、窃盗、横領、賭博、故意の傷害、または薬物使用等の行為を行った場合。
- 技術上または営業上の秘密を開示した場合、使用者の知的財産権を侵害した場合、使用者の資産または利益に重大な損害を与える、またはその重大な損害のおそれを生じさせる行為を行った場合、または職場においてセクシャルハラスメントを行った場合。
- 上記①、②、③に記載された他の懲戒処分を受け、違反を赦免される前に「再犯」した場合。「再犯」とは、懲戒処分を受けた違反行為を、所定の赦免がされる前に再度行うことをいいます。
- 正当な理由なく、初めて出勤しなかった日から起算して、30日のうち合計5日、または365日のうち合計20日欠勤した場合。
(3) 労働契約の一時的停止
この措置は、違反した従業員が以下のいずれかに該当する場合にのみ適用されます。
- 刑事訴訟法に基づき身柄拘束または勾留されている場合。
- 更生保護施設、薬物リハビリセンター、矯正施設に送致された場合。
- その他、使用者と従業員が合意した場合。
(4) 契約期間満了前の労働契約の終了
使用者は、違反した従業員について、以下の場合には締結済みの労働契約を早期に終了させる権利を有します。
- 裁判所の確定判決または裁定により、執行猶予または釈放の対象とならない懲役刑を言い渡された場合、死刑を言い渡された場合、または労働契約で合意した業務の遂行を禁止された場合。
- 裁判所の確定判決や裁定、または管轄当局の決定により国外追放となった場合(ベトナムで勤務する外国人従業員にのみ適用)。
労働契約締結時に、採用に影響を及ぼす形で、規定に従った真実かつ正確な情報を提供しなかった場合。この場合、使用者は違反した従業員に事前に通知することが求められます。労働契約を一方的に早期終了する場合の事前通知期間についても、規定に従って通知しなければなりません。
9.インド
(1) 不正行為の調査
従業員による不正が発覚した場合、まずは、当該不正行為の調査が行い、不正の証拠を可能な限り収集を
することが重要です。
調査を行うことで不正の実態を把握することができ、不正を働いた従業員に対する今後の対応を適切に選択するための判断材料を得ることができます。また、再発防止等の観点からも、事実関係を可能な限り正確に把握しておくことが、実態を踏まえた予防策を検討することにもつながります。
(2) 不正行為を働いた従業員への対応
不正行為を働いた従業員への対応については、調査に基づいて得られた証拠及び事実関係に基づき、個別具体的に判断していくことになります。
一般的には、社内の規則に基づく懲戒処分が検討されるほか、事案によっては、民事訴訟を通じた損害賠償請求や刑事告訴といった対応も考えられます。
なお、懲戒処分の最たるものとして、懲戒解雇がありますが、100人以上の労働者(workman)を雇用する産業施設(工場等)の場合、産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)が適用され、①書面による不正行為の通知、②弁明の機会の付与、③社内調査の実施と結果の通知、が求められます。また、同法の適用対象とならない場合であっても、判例・実務上、懲戒解雇は、これに準じた手続きを踏むべきであるとされています。
懲戒解雇は法令上厳格な手続きが要求され、また、解雇の正当性を巡って従業員との間で紛争となるリスクも考えられます。そのため、可能な限り、懲戒解雇ではなく、合意退職等を促すことが望ましいです。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法の施行に関する内閣令(2022年内閣令第1号。以下「内閣令」と言います。)において、労働者の不正行為に対して雇用主が取りうる懲戒処分について規定されています。なお、連邦労働法は、Abu Dhabi Global MarketおよびDubai International Financial Centerを除くフリーゾーンを含む全域には適用されます。
労働者の不正行為が発覚し、懲戒処分を検討するにあたっては、まず、被疑不正行為に関する調査、当該労働者への書面による通知、弁明の機会の付与、弁明に対する調査、当該労働者への懲戒処分の内容および理由並びに再発時の処罰に関する書面の交付、という手続を踏む必要があります(内閣令第24条第3項)。また、不正発覚から30暦日以内でなければ当該不正に対する非難はできず、懲戒処分は調査終了から60暦日以内に行う必要があります(同4項)。調査実施に必要な場合には、30日を超えない期間、賃金の半額を支払って当該労働者を出勤停止にすることができますが、嫌疑なしまたは処分留保の判断をしたときには賃金全額を支払わなければなりません(連邦労働法第40条1項)。
懲戒処分には、書面通知、書面警告、減給(月5日以上)、無給・出勤停止(14日以内)、賞与剥奪(1年以内)、昇級禁止(2年以内)、解雇の種類があり(連邦法第39条1項)、会社は各懲戒処分の内容を予め定めておく必要があります(内閣令第24条2項)。懲戒処分は、守秘義務違反の程度、従業員の身体・安全への影響、会社に与える経済的影響、会社の信用・名誉棄損の程度、権限踰越の有無、再発性、刑罰的・道徳的性質の項目により判断される不正行為の重大性に鑑みて適切なものでなければなりません(同1項)。
これらの処分に先立つ手続に瑕疵があったときには、処分が無効とされるので、法令や内規に従って慎重に手続きを履行することが肝要です。
11. インドネシア
(1) 懲戒解雇
従業員による不正が発覚した場合、事前に十分な調査を行う必要があります。(労働法2003年第13号(以下「労働法」といいます)。そのうえで、a) 窃盗や横領、b) 会社に対する詐欺、脅迫、c) 秘密漏洩、d)会社の重大な資産の損壊、e) 就業中の飲酒や麻薬などの重大な過失(pelanggaran berat)があった場合には、解雇の過程で必要となる警告書を発行することなく即時解雇が可能と規定されています(労働法2003年第13号(以下「労働法」といいます)労働法第158条)。しかし、本規定は2004年に、最高裁判所により、「即時」に解雇することは違憲と判断されており、従業員に重大な過失があったとしても、労働裁判所の決定がなされた上でないと当該理由による解雇を行うことはできません(2004年10月28日付012/PUU-I/2003号)。また、労働裁判期間中は、従業員を解雇することはできず、休職扱い(skorsing)とすることは可能ですが、その場合にも6カ月間は給与を支払う必要があります(労働法第155条)。
(2) 合意退職
上記に記載の通り、不正行為があったとしても、労働裁判所での手続きを経る必要があり、時間とコストがかかること、労使紛争が解決するまでは従業員に給与を支払わなければならないことから、実務においては、会社と従業員間で、雇用関係の終了の合意とすることが多いです。合意を得られた場合には、当該合意を労働裁判所に登録することにより当該合意に基づき退職した従業員は雇用関係の終了について事後的に争うことが難しくなります。ただし、退職の際には、重大な過失として合意退職する場合にも、権利補償金と解雇金の支払いをする必要があると解されます(判例:9/Pdt.Sus-PHI/2023/PN.Palu)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
1.日本
取締役の交代は取締役の任期満了や解任の際に生じ得ます。
株式会社における取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとされています(会社法332条1項。定款又は株主総会の決議によって任期の短縮も可能)。また、公開会社でない株式会社の場合、取締役の任期を、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終了時まで伸長することも可能です(会社法332条2項、336条2項)。
任期満了の際に、取締役を交代したり、当該取締役を重任させる際には、株主総会の普通決議による取締役の選任手続きが必要です(会社法362条2項3号、3項)。
解任の場合についても同様に、株主総会の普通決議によって、取締役の解任及び選任をそれぞれ行うことができます。なお、取締役の解任自体は正当な理由がなくとも可能ですが、正当な理由なく解任した場合には、当該取締役は会社に対し損害賠償請求をすることができるとされています(会社法339条2項)。一般的に、心身の故障や法令違反等については正当な理由ありと認められやすいですが、解任には損害賠償請求のリスクがあるため、注意して行う必要があります。
なお、取締役の変更事由が生じた場合には、当該事由が生じた日から2週間以内に役員変更の手続きが必要となります(会社法915条)。
2.タイ
(1) 定時株主総会での取締役の任免
タイ民商法典(以下、「CCC」)上、取締役の任免は株主総会においてのみすることができるとされています(CCC第1151条)。また、毎年の定時株主総会では、全取締役の3分の1の取締役が退任しなければならないとされています。3分の1に分割できない場合は3分の1に最も近い数の取締役(全取締役が5人であれば2人、全取締役が2人であれば1人)が退任する必要があります(CCC第1152条)。
一般的に、毎年の定時株主総会にて3分の1の取締役が退任し、退任した取締役と同人数の取締役を新たに選任するという手続きが繰り返されることになります。この際、退任した取締役が再任することは可能です。
(2) 任期途中での取締役の解任、新たな取締役の選任
取締役の任期途中で取締役を解任し、新たに取締役を選任する場合には、以下の手続きを行う必要があります。
(a)取締役会決議
CCC上、取締役の選任、解任については、取締役会決議事項とは定められていません。したがって、原則、取締役会決議は不要です。しかし、会社の附属定款において、取締役の選任、解任について取締役会決議事項と定められている場合には、当該附属定款の定めに従い、取締役会決議を経る必要があります。したがって、会社の附属定款の内容を確認する必要があります。
(b)株主総会決議
上述のとおり、取締役の任免は株主総会においてのみすることができるとされており、株主総会の普通決議事項として定められています。したがって、臨時株主総会を開催し、取締役の任免について株主総会決議を経る必要があります。
(c)商務省における登記手続き
取締役に関する情報は会社の登記事項とされ、株主総会で選任された新たな取締役の情報については、商務省事業開発局(DBD)にて登記手続きを行う必要があります。この登記手続きは、当該取締役が選任された日から14日以内に行う必要があります(CCC第1157条)。
DBDにおける登記手続きについては、DBD申請書類に必要事項(新任・前任の取締役の氏名、新任取締役の住所情報等)を記載の上、DBDに提出する必要があります。また、新任取締役のパスポートコピーも提出する必要があります。申請書類は全てタイ語での記載となり、DBDへの申請手続きを代行する会社に申請手続き委任をする場合には、委任状(POA)の作成も必要となります。
(3) 選任された取締役の任期
株主総会において、取締役を任期満了前に解任し、その代わりに別の取締役を選任した場合には、当該新任取締役の任期は、解任された取締役が有していた残りの任期までとなります(CCC第1156条)。
3.マレーシア
取締役は、取締役会における承認により辞任することができます。
(2) 解任
(a) 公開会社の場合
株主総会による普通決議により(第206条第1項(b)、第206条第2項)、解任することができます。
(b) 非公開会社の場合
株主総会における普通決議(第206条第1項(a))により解任できます。なお、非公開会社にのみ認められている書面決議では解任することはできません(第297条第2項(a))。
(3) 任命
(a) 公開会社の場合
株主総会による普通決議により任命(第202条第2項、第291条、第290条第2項、第340条)することができます。ただし、定款の定めにより、取締役会による任命(第202条第3項、第208条第4項)が可能となります。また、取締役の定員補充の必要がある場合には、取締役会で任命可能です。ただし、次回定時株主総会(AGM)の際に再任投票を行う必要があります。
(b) 非公開会社の場合
株主総会の普通決議または書面決議により任命することができます(第202条第2項、第291条、第290条第1項、第297条)。また、定款の定めにより、取締役会による任命(第202条第3項、第208条第4項)も可能となります。取締役の定員補充の必要がある場合には、取締役会で任命可能です。ただし、別途株主による再任投票を行う必要があります。
(4) 任命
変更後14日以内にSSMに通知します(Form Section 58の提出)(第58条第1項)。
4.ミャンマー
ミャンマーでは、取締役の交代は取締役の選任と解任を組み合わせたものです。取締役の選任及び解任はいずれも株主総会の普通決議が必要となります。普通決議は、総会出席者の単純過半数を決議要件としています。
(2) 取締役の交代に関する手続き
取締役等の選解任があった場合、変更から28日以内に届出を行うことで登録する必要があります。登録の方法は、以前は①Form D-1をMyCO 上で提出するのみで足りましたが、2025年1月7日に、Directorate of Investment and Company Administration(投資企業管理局、DICA)からアナウンスメントが発布され、当該アナウンスメントに基づき、現在は②会社の株主総会決議及び③取締役本人が署名した、就任または辞任に同意するレターも提出する必要があります。
5.メキシコ
(1) 取締役の交代に関する法制度
メキシコにおける株式会社(Sociedad Anónima, S.A.)などの企業形態は、主にメキシコ一般会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles、以下「会社法」)によって規定されています。会社法上、取締役はAdministrador(アドミニストラドール)と呼ばれ、取締役が1名のみの場合は唯一代表取締役となり、2名以上いる場合は取締役会が設置されます。取締役就任には、国籍や居住地についての法令上の制限はなく、社員であっても第三者であっても構いません。また、取締役が3名以上の場合には、定款において少数株主の取締役選任権を規定する必要があり、資本金の25%以上の株式を有する株主は、少なくとも1名の取締役を選任できるようにしなければなりません。公開株式会社の場合、この割合は10%に引き下げられます。
取締役の選任および解任の権限は、会社法により株主総会に専属すると定められています。株主総会は原則として出席株主の過半数決議で取締役の選任および解任を行うことができ(定款で別段の定めがある場合を除く)、会社法により、少なくとも年1回、定時株主総会(通常総会)を開催して取締役の選任、再任または交代を行う必要があります。株主総会で選任された取締役の任期は定款により定められます。取締役は、任期が満了した後であっても、新たに任命され選任された者がその職務に就くまでは、その職務を継続します。なお、取締役の解任は株主総会の決議によって行うことができ、法令上は解任に特別な理由や正当事由を要しません。株主総会で解任決議が可決された取締役はその職を失います。ただし、解任の理由が職務上の違法行為等である場合には、会社は株主総会の決議に基づいて、当該取締役に対して責任追及の訴えを提起することもあります。
(2) 取締役の交代に関する手続き
取締役の交代(退任・就任)が生じた際には、以下のような正式な手続きを経る必要があります。
(a) 株主総会での決議:取締役の選解任は株主総会の決議事項です。まず株主総会を招集し、当該取締役の解任承認および新任取締役の選任に関する決議を行います。株主総会は定款および会社法の定める方式(所定の通知期間や公告方法等)で開催され、議事録に決議内容を記載します。
(b) 議事録の認証・取締役変更の登記:株主総会議事録は公証人による認証(公正証書化)を行い、その決議内容にもとづく取締役変更の登記申請を速やかに行います。メキシコでは、議事録の認証を経て商業登記所で登記を完了させることで、取締役の変更が法的効力を持つこととなります。したがって、登記が完了するまでは、新たに選任された取締役の権限行使には制約が生じる可能性があります。
6.バングラデシュ
バングラデシュの取締役の交代は、選任手続と退任手続とをあわせた内容となります。
取締役の選任手続きは、株主総会の普通決議により選任されます(1994年会社法91条1項)。取締役として任命された者は、同意する旨の書面に署名し、任命から30日以内に商業登記所に提出する必要があります。(93条)
取締役の終了事由は、辞任、任期満了のほか、任期時期前の解任があります。
解任手続きは、株主の4分の3以上の賛成を必要とする特殊別決議にて行われます。その場合、後任を普通決議で任命しますが、その任期は、解任となった取締役の任期が基準となります(同法106条(1))。解任された取締役は、取締役会から取締役として再任命はできません(同条(2))。
(2) 商業登記所(RJSC)への申請
取締役の変更が行われた後は、商業登記所に14日以内にForm XIIを提出し変更通知を行う必要があります。これを怠った場合、罰則などがあります。(115条2項)
7.フィリピン
(1) 取締役の資格
フィリピンの会社法では、取締役に就任するための要件が定められています。主な要件は次のとおりです。
・成年であること
・当該会社の株式を保有していること
(2) 取締役の交代手続
取締役が交代する場面は主に3つあります。
(a)任期満了による退任の場合
取締役の任期は1年です(会社法22条)。任期満了後は株主総会で新しい取締役が選任されます。
株主総会において取締役を選出するには、発行済株式の過半数以上を保有する株主が出席している必要があります(会社法23条)。この定足数を満たした上で、株主は累積投票の方法により取締役を選ぶことができます(会社法23条)。
※累積投票とは
累積投票とは、保有株式×選出される取締役人数分の票を自由に配分できる制度です。
【累積投票の例】
・選出される取締役の人数:3人
・株主Aが保有する株式数:80株
・累積投票によるAの議決権数:80株 × 3人 = 240票
この240票を、株主Aは1人の候補者に全て投じることもできますし、複数の候補者に分配して投票することも可能です。
(b)解任の場合
取締役の解任は、原則として、株主総会において発行済株式総数の3分の2以上の株主による承認によって行うことができます。また、解任によって欠員が生じた場合には、同じ株主総会の中で後任の取締役を選任する決議を行うことが可能です。
(c)辞任などの場合
・取締役会が定足数を満たしている場合
⇒取締役会が株主の中から後任を選任することができます。
・取締役会が定足数に達していない場合
⇒株主総会で後任を選任する必要があります。この場合、欠員が生じてから45日以内に株主総会を開催する必要があります。
(3) 新たに選任された取締役の登録
新たに選任された取締役は、選任から30日以内にGIS(General Information Sheet)を通じて登録する必要があります。
8.ベトナム
(1) 任期および要件
ベトナム法によれば、会社の社長、総社長または取締役は経営者(ビジネスマネージャー)とみなされます。社長は、会社の日常的な業務を管理し、その職務遂行について会長、取締役または取締役会に対して責任を負います。取締役会は会社の経営機関であり、株主総会の権限に属する事項を除き、会社を代表して会社の権利義務を決定・行使する完全な権限を有します。
各役職の任期は、以下のとおりです。
- 二人以上社員有限責任会社の社長および総社長:任期の定めなし
- 法人が所有する一人社員有限責任会社の社長および総社長:最長5年(2020年企業法第82.1条)
- 個人が所有する一人社員有限責任会社の社長および総社長:任期の定めなし
- 株式会社の社長および総社長:最長5年とし、再任回数の制限はありません。(2020年企業法第162.2条)
- 株式会社の取締役:最長5年とし、再任回数の制限はありません。ただし、独立取締役として選任される個人は、連続して最大2期までです。(2020年企業法第154.2条)
社長または取締役に就任するための要件は以下の通りです。
- 以下のいずれにも該当しないこと:国家公務員および公的職員、ベトナム人民軍機関および部隊に所属する士官・下士官・職業軍人・軍属および公的職員、警察機関および部隊に所属する士官、下士官および警察職員、国有企業の経営者および管理者、未成年者、法的能力が制限されている者、法的能力喪失者、自己の行為を制御するのが困難な者、刑事訴追を受けている者、拘留中の者、懲役刑の執行中の者、更生施設または矯正施設において処分を受けている者、裁判所によって一定の職務に就くことまたは一定の業務を行うことが禁止されている者。
- 経営管理に関する専門的資格および経験を有し、かつ会社定款で定められたその他の条件を満たしていること。
また、取締役会の独立取締役には以下の基準および条件を満たすことが求められます。(2020年企業法第155.2条)
- 当該会社、親会社または子会社に勤務しておらず、かつ過去3年間以上にわたり当該会社、親会社または子会社に勤務していなかったこと。
- 当該会社から給与を受け取っていないこと。ただし、取締役に対して規定に基づき支給される手当は除く。
- 配偶者、実父母、養父母、実子、養子および兄弟姉妹が当該会社の主要株主、当該会社またはその子会社の経営幹部でないこと。
- 当該会社の議決権付き株式を直接または間接的に1%以上保有していないこと。
- 過去5年間以上にわたり当該会社の取締役または監査役を務めていなかったこと。ただし、2期連続で任命された場合は除きます。
(2) 交代手続
会社の社長または取締役を変更する際には、以下の2つのケースを区別する必要があります。
(a) 社長または取締役が会社の法定代表者を兼ねている場合
社長を交代することは、法定代表者の変更を意味します。したがって、法定代表者の変更は、以下の法的手続とプロセスを遵守する必要があります。
- 管轄当局:省または市の企業登録局
- 手続:企業登録証明書に記載された内容の変更登録
- 期限:法定代表者(会社の社長)の変更日から10日以内
- 必要書類:法定代表者の変更通知書、所有者/社員総会/取締役会の決定書、有効な国民身分証明書または外国パスポートの認証済写し
- 処理期間:有効な書類を受領した日から3営業日以内。
税務当局は公開された企業情報に基づいて自動的に情報を更新するため、会社が税務当局に別途通知をおこなう必要はありません。
(b) 会社の社長が法定代表者を兼ねていない場合
社長を交代する際は、企業登録証明書の変更は不要です。この場合は、社長交代に関する所有者の決定書/社員総会の決定書/取締役会の決定書のみが必要となります。取締役について、必要と認められる場合には、株主総会が当該取締役の交代、解任または罷免を決議することになります。取締役の変更に関する公告の要否は、会社の業種登録の内容、公開会社としての規模、ならびに実質的支配権の所在に応じて判断されます。
9.インド
取締役の交代にあたっては、取締役の選任と退任の二つの手続きが生じます。
取締役の選任は株主総会の普通決議によって行われます(会社法152条2項)。
取締役に就任するにあたっては、まず、DSC(Digital Signature Certificate)と呼ばれる電子署名の証明を取得しなければなりません。DSCとは、USBメモリー等の記録媒体の形式で発行される電子署名の証明書です。インドにおいては、会社法上求められる各種申告や書類提出は企業省(Ministry of Corporate Affairs)のポータルサイトを通じて行うこととなっていますが、書類の提出にあたって電子署名を貼付しなければなりません。DSCは、書類の提出の際に、DSCが記録されているUSBメモリー等をコンピューターに挿入し、署名欄に電子署名のデータを貼付する形で用いられます。
また、取締役の就任にあたっては、DIN(Director Identification Number)と呼ばれる取締役識別番号も取得しなければなりません。DINは、企業省が取締役になる者に割り当てる識別番号で、DINを申請する際には、先述のDSCが必要となります。そのため、まずDSCを取得し、その次にDINの申請手続きを行うこととなります。
また、取締役を選任した際には、30日以内に、DIR-12と呼ばれる書式を用いて、当該取締役を企業省に対して登録しなければなりません。
次に、取締役の退任手続きについてですが、退任にあたっては当該取締役から会社に対し退任届を提出し、取締役会決議でこれを受理した後、当該決議から30日以内に同じくDIR-12によって退任の通知を行うこととなります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、商業会社に関する連邦令2021年第32号(以下「会社法」といいます。)が各種商業会社について規定します。ただし、フリーゾーンで設立された会社には会社法は適用されず(第5条第1項)、各フリーゾーンで制定された規定によります。以下では、UAEでの会社設立によく利用される有限責任会社(Limited Liability Company)の支配人(manager)と株式会社の取締役(director)の交代に関して述べます。なお、株式会社には、公開株式会社(Public Joint Stock Company)と非公開株式会社(Private Joint Stock Company)がありますが、公開株式会社に関する規定は、それに特殊な規定を除き、非公開株式会社にも適用されるため(会社法第267条)、公開株式会社についての規定を引用し、会社法第143条3項に基づき、公開株式会社の取締役会の構成等について規定する証券商品規制局(Securities and Commodities Authority)の理事会議長決定2020年第3号(以下「SCA規則」といいます。)を参照します。
(1) 有限責任会社の支配人の交代
支配人の選出は、設立定款での指名、契約締結、若しくは出資者(partner)総会の指名によります。複数の支配人がいる場合、出資者は支配人会(board of manager)を設置することができます。(会社法第83条1項)
定款または契約で別段の定めがない限り、出資者総会の決定により支配人を解任できます。出資者の求めがあり、その解任が正当と認められる場合には、裁判所が支配人を解任します(会社法第85条1項)。
支配人は出資者総会に辞表を提出することができ、出資者総会は40日以内に辞任の決定をします(同2項)。任期が終了したときには、終了後30日以内に新たな支配人を指名します(同3項)。支配人会の任期が終了したときには、終了後6月以内に出資者総会が新たな支配人会の構成員を形成します(同4項)。
(2) 株式会社の取締役の交代
取締役会(board of directors)の組織、3人以上11人以下の員数、3暦年以下の任期が定款で定められ、取締役は株主総会の秘密累積投票(株式数に応じた投票権)により選任され、または定款で指名します(会社法第143条1項、第144条1項)。取締役の過半数はUAE国民でなければならず(会社法第151条)、1名以上は女性である必要があります(SCA規則第9条3項)。取締役は、UAEに存在する株式会社の5社以上の取締役、2社以上の取締役会議長または副議長を兼任してはならず、UAEに存在する会社の1社以上の業務執行取締役(managing director)となることは禁じられています(第149条1項)。
取締役が欠けたときには、取締役会は30日以内に新たな取締役を任命し、その後最初に開かれる株主総会においてその承認を得るか若しくは別の取締役が選出され、この場合の新取締役の任期は前任の任期の終期までとなります(第145条1項)。取締役会の構成員の4分の1以上が欠けたときは、取締役会は30日以内に株主総会を招集し、欠員を補充する新たな取締役を選出します(同2項)。
取締役は、会社に通知することによりいつでも辞任することができます(SCA規律第21条4項(d))。取締役が正当な理由なく任期中に3回連続または合計5回取締役会を欠席したときは、辞任したものとみなされます(会社法第158条)。
株主総会の決議により、取締役を解任することができ、株式会社は新たな取締役候補を募る手続を行い、選任のための株主総会を招集することができます(SCA規則第22条1項)。取締役が利益相反取引に関与したと裁判所が判断した場合、取締役は解任されます(同2項)。株主の告訴に基づき、取締役に対して懲役または罰金の刑が科された場合も、取締役は職務執行を継続できません(同3項)。裁判所の判断で取締役全員が解任されたときには、株主総会が開催されるまでの間は、SCAまたはその代理人が会社の経営を行います(同2項)。総会決議により解任された取締役は、解任決議後3年間は当該会社の取締役候補になることはできず(同1項)、裁判所の判断または判決により解任された取締役は、判決の日から3年間は、いかなる株式会社の取締役候補にもなれません(同2項、3項)。
11. インドネシア
(1) 取締役の交代に関する法制度
インドネシアでの取締役会の交代は選任と解任の組み合わせによって行われます。取締役の選任および解任いずれも株主総会の普通決議が必要です(2007年会社法第40号(以下、「会社法」といいます))。普通決議は、定款で別途、規定されている場合を除き、出席した議決権の過半数の賛成により、有効となります(会社法第87条)。取締役の交代(選任・解任)に関する株主総会の決議では、当該交代の効力発生日も定める必要があります。ただし、効力発生日が定められていない場合には、当該交代は株主決議の終了時点から有効となります(会社法第94条)。
(2) 取締役交代に関する手続き
取締役の交代(選任・解任)の手続きについては、定款において規定されなければならず、交代が行われた場合には、会社は当該変更を株主総会の決議日から起算して、30日以内に法務人権省に届け出て、会社登記簿への登録を行わなければなりません。届け出はオンラインシステムによって行われますが、当該届け出を怠った場合、会社登記簿への登録ができず、取締役の変更は認められません。ただし、既存の取締役が解任になってしまい、会社による届け出が行われないなどの場合には、例外として、新任の取締役自身による届け出を行うことができ、登録が認められます(会社法第94条)。
また、届け出の際には、取締役の交代に関する決議書を提出する必要がありますが、本決議書は、公証人により、公正証書化される必要があり、公正証書として提出しなかった場合には、会社登記簿に登録されず、新取締役の任命について認められません(会社の設立、変更、解散の登録に関する法務人権省規則2021年第21号第12条)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
1.日本
日本の会社法上、定款の記載事項には、記載しなければ定款自体が無効となるもの(絶対的記載事項)、記載しなくとも定款の効力に影響はしないが記載がなければ当該事項について効力が生じないもの(相対的記載事項)、記載するか否かが当事者に委ねられているもの(任意的記載事項)の三種類があります。
このうち、絶対的記載事項については、定款の有効性に直接かかわるため、必ず記載しなければなりません。絶対的記載事項は以下のとおりです。
①会社の事業目的
②商号
③本店の所在地
④資本金額
⑤発起人の氏名又及び住所
なお、相対的記載事項の例としては、取締役会、会計参与、監査役等の設置等、任意的記載事項の例としては、株主名簿の基準日や事業年度等が含まれます。
会社が定款を変更するにあたっては、株主総会の特別決議を要し(会社法466条、309条2項11号)、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。
2.タイ
(1) 基本定款の必要的記載事項
タイの実務上、会社は非公開会社の形態をとることが多いところ、非公開会社については民商法典にその規定がなされています。民商法典によれば、基本定款には以下の事項を記載する必要があります(民商法典第1098条)。
・ 会社の名称。(ただし、名称の末尾に必ず「limited」が付いていること。)
・ 会社のタイ国内の所在地。
・ 会社の事業目的。
・ 株主の責任を限定する旨の宣言。
・ 登録される予定の株式資本額、及び、これより分割される株式の額。
・ 全ての発起人の氏名、住所、職業、署名、及び、各発起人が引き受けた株式の数。
(2) 基本定款の変更方法
民商法典上、非公開会社の基本定款を変更するためには、株主総会による特別決議が必要とされています(民商法典第1145条)。
株主総会の特別決議には、株主総会開催日の14日前までに株主に対して招集通知を発送する必要があり(同法1175条1項)、出席株主の議決権の総数の4分の3以上の賛成を得る必要があります(同法1194条)。
3.マレーシア
(1) 概要
株式会社においては、定款の作成は完全に任意とされています(会社法第31条⑴)。定款を作成しない場合には、会社・取締役・株主の権利義務を含む会社運営に関する事項については、会社法の規定に従うこととなります(会社法第31条⑶)。一方で、定款を作成することにより、これらの事項について会社法の規定と異なる定めを置き、独自の会社運営を行うことが可能となります(同第31条⑵)。
また、種類株式の発行など、定款に規定しなければ導入できない制度も存在します。定款により導入可能な独自ルールの例は、以下のとおりです。
① 種類株式の発行(会社法第90条⑴)
② 株券の発行(会社法第97条⑴)
③ 株主総会の決議要件の普通決議から特別決議への加重(会社法第291条⑷)
④ 株主総会の決議方法(会社法第293条⑴)
(2) 定款の導入・変更
定款を作成する場合、株主総会の特別決議を必要とします(会社法第32条⑴)。同様に、定款の変更も株主総会の特別決議によって行うことができますが、定款により変更が禁止されている場合には、変更することはできません(会社法第36条⑴)。
また、取締役または株主の申立てにより、裁判所が必要と認めたときは、裁判所が定款変更を命じることができます(会社法第37条⑴))。定款の導入または変更がなされた場合には、株主総会の決議または裁判所の命令があった日から30日以内に、会社登記所に対して通知を行う必要があります(会社法第32条⑷、第36条⑶、第37条⑵)。
4.ミャンマー
⑴ 基本定款の必要的記載事項
ミャンマーでは、旧会社法(Myanmar Companies Act, 1914)上は、定款は基本定款(memorandum of association)と附属定款(articles of association)の2つに分けられていました。しかし、新会社法(Myanmar Companies Law, 2017)上は、定款(constitution)に一本化されました。新会社法下では、DICAから発表されているモデル定款は165条で構成されており、様々な事項が規定されています。
(2) 定款の変更方法
定款の変更は株主総会の特別決議による必要があります。 特別決議は、議決権を有する株主の75%が賛成することにより可決されると規定されています。
5.メキシコ
(1) 基本定款の必要的記載事項
メキシコの会社設立については、商事会社一般法(Ley General de Sociedades Mercantiles。以下「会社法」)に規定されており、定款に関する事項も同法に定められています。
すべての会社形態で必要となる定款の記載事項は、会社を設立する者の氏名・国籍・住所、会社が営む事業の目的、商号、存続期間(無期限と記載することも可能)、資本金の金額、各出資者(株主または社員)の出資内容(金銭出資または現物出資/その評価額および評価基準)、会社の所在地、会社の管理運営の方法、取締役の権限、取締役の選任および会社の署名権者の指定、株主間の利益および損失の分配の方法、準備金額、会社が存続期間満了前に解散する場合に関する条項、会社の清算を行う基準および清算人を事前に定めていない場合の選任方法です(会社法第6条)。
また、株式会社の定款においては、株式の数、額面価額、分割された株式の性質、監査役の選任、通常総会の権限およびその審議の有効性のための条件、株式の条件(無議決権・拒否権付き等の種類株)、取締役の限定責任等の記載が要求されます(会社法第91条)。
さらに、外資系企業の場合はいわゆるカルボ条項を定款に含めることを要求されます。カルボ条項とは、当該会社の外国人株主等はその出資およびそれから派生する権利一切に関して内国民と同等の扱いを受けること、それに関して自国政府の保護を求めないこと、これに違反した場合には当該権利等をメキシコ国に没収されることに同意するという条項です。
(2) 定款の変更
定款の変更には、社内の決議手続と公的手続の二段階が必要です。
株式会社(S.A.)では、定款の変更は特別株主総会の決議事項とされています(会社法第182条)。臨時総会で定款変更を決議するには、定足数として第1回招集で発行済株式総数の少なくとも75%以上の出資に相当する株主の出席が必要で、議決要件は総株主の株式数の50%以上による承認です。ただし、定款でそれ以上の多数を要求することも可能です。第1回総会が流会した場合、第2回招集では定足数の要件は適用されませんが、総株式数の50%以上の賛成が必要です。
合同会社(S. de R.L.)では、定款の変更は、会社の最高機関である社員総会の決議事項とされています。定足数は資本金の半分に相当する持分の出席で、決議は出席社員の過半数で成立します。第1回総会で可決に至らない場合は再招集ができ、第2回以降の総会では出資額にかかわらず、出席社員の過半数による決議が可能です。ただし、定款で、より厳格な要件を定めることも認められています。
社内で定款変更が決議された後は、その内容を公的に認証する必要があります。設立時と同様に、定款変更も公証人の立ち会いのもとで記録されます(会社法第5条)。
6.バングラデシュ
⑴ 会社の基本定款の必要的記載事項
バングラデシュでは、会社法で、会社設立にあたり基本定款と付属定款を定めることが求められています。
基本定款は所定のひな形に基づいて、次の事項を記載する必要があります。
・ 商号
・ 事務所の登録住所
・ 事業目的
・ 構成員の責任(有限会社の場合は責任が有限であることを記載)
・ 授権資本額および株式の単位
(2) 基本定款の変更
基本定款の内容は、会社法で特に定められている場合を除き、継続して施行されている内容を変更することはできません(同法10条1項)。それ以外の内容は、取締役、支配人などの任命を含めて、付属定款と同様に特別決議で変更することができます。
特別決議は、特別決議であることを記載した招集通知により、開催日の21日前までに通知し、総株主の4分の3以上の賛成を得ることが必要となります(87条1項)。
事業目的に関する基本定款を変更する場合は、特別決議により、以下の理由で変更することができますが、裁判所による承認が必要です。(同法12条1項)
・ 事業をより経済的または効率的に実施するため
・ 新規または改善された方法により主な目的を達成するため
・ 経営の地域の拡大または変更
・ 現状のもとで、会社の事業と便宜上または有利に調和することができる事業の運営
・ 定款に記載されている規定の制限または撤回
・ 会社の全部または一部の売却または処分
・ 他社との合併
7.フィリピン
(1) 定款(Article of Incorporation)に記載すべき事項
会社を設立する際には、以下の項目を定款(Article of Incorporation)に記載する必要があります。
・会社名
・会社の目的(事業内容)
・本社所在地
・存続期間(永久することも可能)
・設立者(発起人)の氏名、国籍及び住所
・取締役の人数
・設立時の取締役の氏名、国籍及び住所
・株式数、1株当たりの金額、払込金額
・その他
(2) 定款(Article of Incorporation)変更手続の概要
定款(Article of Incorporation)の変更を行うためには、基本的に以下の手続が必要となります。
①取締役会の承認
取締役会において、取締役の過半数による承認が求められます。
②株主総会決議
発行済株式の議決権の3分の2以上を有する株主の同意が必要です。
③定款の認証
変更内容を反映した定款の写しを作成し、秘書役および取締役の過半数によって正式に認証します。
④SEC(Securities and Exchange Commission)への申請
SECに定款変更の申請を行います。
8.ベトナム
(1) 概要
定款は、よく会社の「憲法」や「憲章」と呼ばれ、ベトナムの現行の企業法制下では、企業設立登録時に許認可当局に提出する初版と、企業運営中に作成される改定版を含みます。
企業の個人社員/株主や組織社員/株主は、以下の基本原則を満たすことを条件として、自らの定款を作成または改定することが認められています。
- 法律の規定に反したり、第三者の権利や利益を侵害しないこと。
- 自由意思と相互合意に基づき、法律の枠組みの中で行われること。
- 法律で要求される主要な内容が全て含まれていること。
- 企業設立登録の場合には全ての社員/株主の承認があり、定款の改定の場合には法定の比率の持分または株式による承認があること。
(2) 定款の主要な記載事項
ベトナムの現行「企業法」第24.2条の規定により、定款には以下の主要事項が記載されなければなりません。
- 企業の名称、本社、支店、駐在員事務所(該当する場合)の所在地。
- 企業の事業内容。
- 資本金の額、株式会社の場合は発行株式総数、株式の種類および各株式の額面金額。
- 合名会社における無限責任社員、有限責任会社の出資者または社員、株式会社の設立時株主の氏名、連絡先住所、国籍。有限責任会社または合名会社における各社員の出資比率および出資額、株式会社の設立時株主の保有株式数、株式の種類および各株式の額面金額。
- 有限責任会社または合名会社の社員の権利義務、株式会社の株主の権利義務。
- 組織構造。
- 企業の法定代表者の人数、役職、権利および義務。
- 企業の意思決定手続および社内紛争解決の原則。
- 役員および監査役の給与・賞与の決定基準および方法。
- 社員または株主が会社に対して出資持分(有限責任会社の場合)または株式(株式会社の場合)の買取請求ができる事由。
- 税引後利益の分配および事業損失処理の規則。
- 解散事由、解散および資産清算の手続。
- 定款の改定手続。
特に公開会社については、ベトナム財務省が作成・発行したモデル定款のひな型を参照することができます。モデル定款は現行の企業法に抵触しない内容となっています。
(3) 定款変更手続
定款を変更する場合、企業は現行の「企業法」および現行定款に基づき、社員/株主総会の招集および社員/株主による関連決議に関する規定(例えば、正当な社員/株主総会を開催するための社員/株主の比率に関する規定)を遵守しなければなりません。初版の定款とは異なり、変更後の定款については以下の者の署名のみが求められます。
- 合名会社の場合:社員総会の議長。
- 一人有限責任会社の場合:会社の所有者、所有者の法定代表者、または会社の法定代表者。
- 複数社員の有限責任会社および株式会社の場合:会社の法定代表者。
さらに、定款は企業登録証明書の記載内容の一部とは見なされません。したがって、会社は定款の変更を許認可当局に届け出る必要はありません。
9.インド
インドでは、基本定款(Memorandum of Association)に会社の基本的な情報を記載し、付属定款(Articles of Association)で会社内部の運営に関する詳細な規則を定めることとなっています。
このうち、基本定款(Memorandum of Association)には以下の事項を記載する必要があります(会社法4条(1))。
①会社名(非公開会社の場合は末尾にPrivate Limited、公開会社の場合は末尾にLimitedをそれぞれ付す必要がある)
②登録住所の州
③会社の事業目的
④社員の責任の範囲(有限責任か無限責任か等)
⑤授権資本金
基本定款や付属定款を変更するためには、株主総会の特別決議を要し(会社法13条1項)、出席株主の4分の3以上の賛成が求められます(会社法114条2項(c))。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、商業会社に関する連邦令2021年第32号(以下「会社法」といいます。)が各種商業会社について規定します。ただし、フリーゾーンで設立された会社には会社法は適用されず(第5条第1項)、各フリーゾーンで制定された規定によります。
(1) 必要的記載事項
基本定款(Memorandum of Association)の必要的記載事項は会社の形態により異なり、合同責任会社(Joint Liability Company)では、(a)各パートナーの氏名、国籍、生年月日及び居住地、(b)会社の名称、所在地、商号及び目的、(c)本店及び支店、(d)資本及び各パートナーの持分とその価額、その評価方法と日付、(e)設立日及び廃業日、(f)経営方法及び署名権限者の氏名とその権限、(g)会計年度の始期と終期、(h)損益の配分比率、(i)所有権の譲渡条件、とされています(第32条1項)。有限責任パートナーシップ会社(Limited Partnership Company)については、有限責任を負うパートナーを区別する他は、合同責任会社に準じ(第65条1項)、有限責任会社(Limited Liability Company)については、会社の業務に関して生じる会社とマネージャーとの間またはパートナー間の紛争の解決方法も定めなければなりません(第73条2項)。公開株式会社(Public Joint Stock Company)については、(a)会社の名称と本店、(b)会社の目的、(c)各発起人の氏名、国籍、生年月日及び居住地、(d)資本金額、株式数、1株当たりの名目額、各株式により支払われた金額、(e) 設立手続における発起人の履行事項、設立時に要する経費等の見積及び会社によるその支払見積、(g)現物支給の内容とその提供者の氏名、当初の評価額、それに付随する担保等とされ(第110条1項)、非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、公開株式会社に準じます(第267条)。
なお、基本定款は、アラビア語で起草され、管轄官庁による証明を受けて登記されなければ有効とはならず、外国語で起草された場合でもアラビア語が優先されます(第14条1項)。
(2) 変更
会社の名称、住所、資本金、株主または組織等の特定事項について基本定款に変更を行ったときには、15営業日以内に管轄官庁に通知して、登記する必要があります(第15条3項)。
基本定款を変更するには、有限パートナーシップ会社では、全ての合同責任及び有限責任パートナーの同意(第66条)、有限責任会社では、総会において4分の3以上の持分を有するパートナーの賛成(第101条1項)、公開株式会社では、特別決議(4分の3以上の株式を保有する株主が出席した株主総会での過半数の賛成)を経た上で、証券商品委員会からの承認を受ける必要があります(第139条)
11. インドネシア
(1) 基本定款の必要的記載事項
インドネシアにおける定款への必須記載事項は、会社法2007年第40号(以下「会社法」といいます)に規定されており、以下の内容を記載する必要があります(会社法第15条第1項)。
a. 会社の名称および住所
b. 会社の事業目的および事業内容
c. 会社の設立期間
d. 授権資本、発行済資本、および払込資本の額
e. 株式数、株式の種類(存在する場合)、各種類ごとの株式数、各株式に付随する権利、および各株式の額面価額
f. 取締役および監査役の役職名、およびその構成員の人数
g. 株主総会の開催場所および開催方法
h. 取締役および監査役の任命、交代、解任の手続
i. 利益の使途および配当の分配手続
上記の規定に加えて、定款には他の法律に抵触しない限り、その他の規定を含めることが可能です(会社法第15条第2項)。また、固定利息の受領に関する規定と、設立者や会社の関係者など、特定の者に対して、個人的利益を供与する内容の規定を設けることは禁止されています(会社法第15条第3項)。
(2) 基本定款の変更方法
(a) 会社の名称や住所、(b) 事業目的および事業内容、(c)設立期間、授権資本、発行済資本および払込資本の減額、ならびに(d) 非公開会社から上場会社への移行またはその逆の変更には、株主総会の特別決議(議決権のうち3分の2以上の出席および出席者のうち4分の3以上の賛成)を経たうえで、法務人権大臣(Menteri Hukum dan HAM)の承認を取得する必要があります(会社法第21条第2項、第88条)。一方、これらに該当しない変更については、大臣への通知のみで足ります(会社法第21条第3項)。
いずれの場合も、変更内容は公証人によりインドネシア語で記載された公正証書(akta notaris)として作成されなければなりません(会社法第21条第4項)。株主総会決議の日から30日以内にこの公正証書を作成し、さらにその作成日から30日以内に承認申請または通知をオンラインで提出する必要があります(会社法第21条第4、5項)。
1.日本
(1) 会社関係者に対する規制
インサイダー取引は金融商品取引法によって禁止されています。
同法は、「会社関係者」が、その業務等に関する「重要事実」を知った場合には、当該重要事実が公表された後でなければ、当該上場会社等の株式の売買等の取引を行ってはならないとしています(金融商品取引法166条1項)。また、「会社関係者」から「重要事実」の伝達を受けた者(情報受領者)についても、同様に、「重要事実」の公表後でなければ、株式の取引を行うことができません(同条3項)。
「会社関係者」の例としては、①上場会社(上場会社の親子会社並びに当該上場会社が上場投資法人等である場合における当該上場会社の資産運用会社及びその特定関係法人を含む)の役職員(役員、従業員、アルバイト等)、②上場会社に対して会計帳簿閲覧請求権を有する株主、③上場会社と契約を締結中又は締結交渉中の者(取引先、顧問弁護士、会計監査を行う公認会計士等)が含まれます。
「重要事実」については、同法166条2項に列挙されており、新株発行や合併等、上場会社の株価に影響を与える情報が含まれます。
(2) 公開買付者等関係者に対する規制
公開買付者等関係者(公開買付者の役員等を含みます)が、公開買付の実施または中止に関する未公表の事実を知った場合には、当該事実が公表された後でなければ、当該公開買付にかかる上場会社の株式の売買等の取引を行ってはなりません(金融商品取引法167条1項)。また、公開買付等関係者から公開買付の実施または中止に関する未公表の事実の伝達を受けた者(情報受領者)についても同様の規制に服します(同条3項)。
(3) 罰則
インサイダー取引を行った者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその両方が科せられ(金融商品取引法197条の2第13号)、また、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業員等がインサイダー取引を行った場合には、当該個人が処罰対象となるほか、法人に対しても5億円以下の罰金が科せられます(同法207条1項2号)。このほか、インサイダー取引で得た財産は没収の対象となります(同法198条の2第1項1号)。
2.タイ
(1) インサイダー取引について
インサイダー取引については、証券取引法にその規定があります。
同法によれば、「インサイダー情報」とは、一般に公に開示されていない情報であって、有価証券の価格または価値の変動に重要な影響を及ぼす情報をいうと規定されています(証券取引法第239条)。
そのうえで、証券取引法は、一定の場合を除き、インサイダー情報を知っている者または保有している者が、自己または他人のために証券の売買やデリバティブ取引を行うことを禁止しています(証券取引法第242条1項)。また、相手方が、インサイダー情報を使って証券取引を行うことを知っている、または合理的に知り得る場合には、当該相手方にインサイダー情報を直接または間接的に伝達することも禁止しています(同条第2項)。
なお、証券取引法によれば、会社の取締役やその他の内部者においては、インサイダー情報を保有している者と推定され(証券取引法第243条)、またその近親者が、通常の取引とは異なる証券取引を行った場合には、インサイダー情報を保有していた者と推定されます(同法244条)。
(2) インサイダー取引を行った場合の罰則
証券取引法上、取締役その他インサイダー情報を開示した者と、当該インサイダー情報を証券取引に利用した者の双方に対して、懲役または罰金刑の刑事罰が存在します(証券取引法第296条)。また、他人に自身の名義の証券口座を使用させる等の名義貸し行為についても同様の刑事罰が課せられています。
その他、裁判所から、証券取引等の停止等の命令がなされることもあります(証券取引法第297/1条)。
3.マレーシア
(1) インサイダー取引について
マレーシアにおけるインサイダー取引は、2007年資本市場・サービス法(Capital Markets and Services Act 2007、以下「CMSA」といいます)によって規制されています。CMSAによれば、インサイダー(insider)とは、以下の条件を満たす者を指します(CMSA188条⑴)。
a. 一般に入手可能でない情報を保有しており、その情報が公に知られるようになった場合に、合理的な一般人をして、当該情報によって証券の価格や価値に重要な影響を及ぼすと考えられる情報であること。
b. 当該情報が一般的に入手不可能であることを知りまたは合理的に知り得べき立場にあること。
なお、インサイダーという用語は、通常、会社や証券取引所の役員、代理人、従業員を指しますが、裁判例(R v Evans & Doyle[1999]VSC 488事件)によれば、会社と無関係の第三者であっても該当する可能性があります。
(2) 規制内容
インサイダーは、当該情報に関連する証券について、次の行為を行うことが禁止されています(CMSA188条⑵)。
当該証券の取得または処分、あるいはそれを目的とした契約の締結
直接的または間接的に、他人による取得や処分、またはそれを目的とした契約の締結をあっせん・助長すること
さらに、当該情報に関連する証券が証券取引所において取引可能なものである場合には、インサイダーは当該情報を他人に伝達したり、そのような伝達を引き起こしたりすることが禁止されています(CMSA188条⑶)。
(3) 罰則
CMSAは、インサイダー取引に対して厳格な罰則を定めており、違反者は、最長10年の懲役および最低100万リンギット(RM1,000,000)の罰金が科される可能性があります(CMSA188条⑷)。
4.ミャンマー
⑴ インサイダーに関する規制の概要
ミャンマーの証券取引法第49条第1項(c)では、以下の行為を禁止しています。
- 未公開の重要な内部情報を基に、自らまたは他者のために証券を売買すること。
- 未公開の重要な内部情報を開示または提供し、他者に証券の売買を助言すること。
また、証券取引規則第183条では、虚偽または誤解を招く情報の拡散や、価格操作を目的とした取引も禁止されています。
5.メキシコ
(1) インサイダーに関する法律の概要
メキシコにおけるインサイダー取引の規制は、主に証券市場法(Ley del Mercado de Valores:LMV)に基づいて行われます。LMVは2005年に制定された連邦法であり、証券市場を公正、効率的かつ透明性の高い方法で発展させること、投資家の利益を保護すること、システミックリスクを最小限に抑えること、および健全な競争を促進することを目的としています。
(2) インサイダー情報の保有者に該当する者
インサイダー情報を保有しているとみなされる者の範囲は、主に以下のとおりです。
・ 株式等の発行元企業の内部関係者(取締役、監査役、CEO、重要役員、外部監査人など)
・ 当該企業の資本の10%(特定の場合は5%)以上を直接的又は間接的に保有する者または、その者が属する法人の内部関係者
・ 発行元企業と密接な関係を有する法人の役員や監査人
・ 発行元企業に対して重要な影響力を持つ者
・ 発行元企業に対して指揮権限を有する者
・ 上記の者と密接な関係を有する配偶者、親族、共同所有者、またはこれらの者と接触があった者
これらの者は、取得した情報について守秘義務を負っており、職務・地位・委任等に基づき正当な理由がある場合を除き、当該情報を使用したり第三者に伝達したりしてはなりません。なお、出資比率を計算する際には、親権下にある者が保有する株式や、信託に帰属し、信託者または受益者として関係する株式も含まれます。
(3) インサイダー取引として禁止される行為
インサイダー情報を保有する者は、以下の行為が禁止されています。
・ 株式等の発行元企業が発行する有価証券や、それを表す証券、またはその価格や相場がインサイダー情報の影響を受ける可能性がある金融派生商品(オプション証券やデリバティブ等)について、当該情報が公開されていない間に、直接または間接に売買やその指示を行うこと。
・ 当該インサイダー情報を職務上知る必要がある場合を除き、他人に提供または伝達すること。
・ 発行元企業が発行する有価証券や、それを表す証券、またはこれらを原資産とする金融派生商品について、情報がインサイダー情報である間に、投資判断に影響を与えるような助言や推奨を行うこと。
インサイダー情報を利用して行われた取引の相手方は、裁判所に対して損害賠償を請求することが可能です。この請求権は、取引が行われた日から5年間で時効となります。なお、メキシコ国外で行われた取引であっても、国内に何らかの影響を及ぼす場合には本法の適用対象となり、処罰の対象となることがあります。
6.バングラデシュ
バングラデシュは、2022年証券取引委員会規則(the Securities and Exchange Commission (Prohibition of Insider Trading) Rules, 2022)によってインサイダー取引が規制されています。同規則は、1969年証券取引条例(the Securities and Exchange Ordinance, 1969)、2012年マネーロンダリング防止法(The Money Laundering Prevention Act, 2012)と関連しています。
⑴ インサイダー取引の定義
インサイダー取引とは、証券取引委員会規則1条1項(n)で定義されており、「未公開の価格に敏感な情報に基づいて、受益者がファンドの証券またはユニットの購入、売却、またはその他の方法で譲渡する」こととされます。ただし、裁判所の命令、相続、または死亡した人からの没収によって行われた譲渡は含まれません。(同号但書)
受益者とは、同項(l)で定義されており、次の4つのカテゴリに該当する者、および、これらの該当する者から地位、関係などを通して価格に敏感な情報を知る機会がある者と定義されます。役員、取締役、従業員、近親者、さらに支配関係のある利害関係人、利害関係機関(同項(p))も含まれるため、定義上はかなり広範な範囲が対象となります。
・ 会社の取締役、スポンサー、大株主、経営代理人、銀行など
・ 会社のファンドマネージャーやファンドの保管などの契約に関する当事者であり、信用格付け会社、コンサルタントなど
・ 一般的な株式ブローカー、株式ディーラー、市場仲介者など
・ 金融商品の規制当局など
「価格に敏感な情報」とは、同規則3条1項で、定義されており、財務諸表や財務結果などの財務の基本的情報、配当に関する情報、合併などの企業構造に関する情報、資本構成の変更に関する情報、事業の拡大に関する情報、ファンド運用の情報、規定された委員会が価格に敏感な情報として定めた情報、および、同委員会が官報に掲載して指定する情報などの8種のカテゴリに含まれる情報が対象となります。
⑵ 禁止される行為
受益者または関連者が、直接的または間接的にインサイダー取引に関与したり、そのような取引を支援する、情報を提供したりすることは禁じられています(同法5条1項)。また、会社のスポンサー、取締役、主要な従業員、監査人、コンサルタント、および関係者などは、会計年度末の2か月前から取締役会による財務諸表の最終承認までの間、会社の株式、ファンドなどの取引はできません。(同法5条2項)
さらに、2012年のマネーロンダリング防止法 第2条(cc)(25)により、インサイダー取引を規制対象としているため、このような行為があった場合、金銭的利益が犯罪収益としてみなされ、調査、資産の差し押さえ、および起訴の対象となります。
7.フィリピン
(1) インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、「インサイダー」(Insider)が「重要な未公表情報」(material nonpublic information)を保有した状態で、証券を売買する行為をいいます。
「重要な未公表情報」とは、以下のいずれかに該当する情報を指します。
・ 一般に公表されておらず、かつ公表された場合に市場が当該情報を消化する合理的な時間を経た後、当該証券の市場価格に影響を及ぼすと合理的に考えられる情報
・ 当該証券の「買い」「売り」または「保有」を判断するにあたり、通常の合理的な投資家であれば重要と判断するであろう情報
また、「インサイダー」とは以下の者を指します。
・ 発行体
・ 発行体の取締役、役員、または発行体を支配している者、発行体によって支配されている者、発行体と共通の支配下にある者
・ 発行体または証券に関する重要な未公表情報にアクセスできる関係者
・ インサイダーから重要な未公表情報を得た者であり、当該情報源がインサイダーであることを知る者
・ インサイダーの配偶者(内縁を含む。)および姻族、または二親等以内の親族
(2) インサイダー取引に関連する規制行為
インサイダー取引に関連して、以下の行為が規制されています。
・ 重要な未公表情報を保有した状態での売買
株主が重要な未公表情報を保有している状態で証券を売買することは違法とされます。ただし、以下のいずれかが証明されれば違法性が否定されます。
- 当該情報がインサイダーから得たものでないことが証明された場合
- 取引相手が特定されており、インサイダーがその相手に当該情報を開示していた等、その相手も当該情報を保有していたことが証明された場合。
・ 重要な未公表情報の伝達(Tipping)
インサイダーが重要な未公表情報を第三者に伝達し、その第三者が当該情報を保有した状態で証券取引を行う可能性があることを知っていた、または予見できた場合、そのような伝達行為は違法とされます。
・ 株式公開買付けに関して未公表情報を利用した取引
株式公開買付けに関連する重要な未公表情報を以下のいずれかの者から取得し、かつ当該情報が未公表であることを知っていた、またはその可能性を認識していた者は、当該証券を売買することは違法とされます。
- 株式公開買付けを行う者
- 株式公開買付けを行う者の代理人
- 発行体
- 発行体のインサイダー
(3) 民事責任
規制行為に違反した者は、その期間に同一の証券を売買した投資家に対して、民事上の賠償責任を負います。ただし、以下の事実を証明できれば責任を免れることができます。
・ 投資家が当該情報を知っていたこと
・ 仮に投資家が当該情報を知らなかったとしても、同じ価格で売買を行っていたであろうこと
また、重要な未公表情報を伝達した者も、当該情報に基づいて取引を行った者と連帯して責任を負います。
⑷ 刑事罰
違反行為をした者は、以下の罰則を受けるおそれがあります。
・ 5万ペソ以上500万ペソ以下の罰金
・ 7年以上21年以下の懲役
なお、違反者が法人である場合、当該法人だけでなく、その違反に関与した役員にも罰則が科される可能性があります。
8.ベトナム
(1) 2019年証券法に基づく法的規定
2019年証券法第12条第2項によると、インサイダー情報を使用して自己または他人のために証券を売買すること、インサイダー情報を開示または提供すること、インサイダー情報に基づいて他人に証券の売買を助言することが、厳格に禁止されています。
また、同法第4条第44項では、インサイダー情報とは、公開会社、上場組織、取引登録組織、公募ファンド、公募証券投資会社に関する情報のうち、公表されておらず、かつ公表された場合に当該組織の証券価格に重大な影響を及ぼす可能性のある情報を指すものと規定されています。
(2) 違反に対する制裁
① 行政責任
政令156/2020/ND-CP第5条第3項および第35条(政令128/2021/ND-CPにより改正)によれば、違法に得た利益額を基準に法人の場合は10倍の、個人の場合は5倍の行政罰金が科されますが、法人に対しては30億VND、個人に対しては15億VNDを超えないものとされています。違法に得た利益が存在しない場合、または算定された罰金額が、法人に対して30億VND、個人に対して15億VND未満である場合には、最大で法人に対して30億VND、個人に対して15億VNDの行政罰金が科されます。その後、違反当事者には、インサイダー取引により得た違法利益の返還という是正措置が適用されることがあります。
さらに、証券会社、ファンド運用会社、およびベトナムにおける外国証券会社またはファンド運用会社の支店に対しては、1か月から3か月の期間、証券業務またはサービスの停止処分が適用されます。
② 刑事責任
2015年刑法(2017年改正)第210条に基づく、証券取引におけるインサイダー情報の使用に対する刑事罰は以下のとおりです。
- 開示されていないインサイダー情報を使用して証券を取引する者、または当該情報を開示・提供する者、他人にその情報に基づいて取引を助言する者で、違法に3億VND以上10億VND未満の利益を得た場合、または投資家に5億VND以上15億VND未満の損失を与えた場合は、5億VND以上20億VND以下の罰金、または6か月以上3年以下の懲役に処されます。
- 加重事由がある場合:違反行為が以下のいずれかに該当する場合、20億VND以上50億VND以下の罰金、または2年以上7年以下の懲役に処されます。加重事由には、組織的に犯行を行った場合、違法利益が10億VND以上である場合、投資家の損害が15億VND以上である場合、再犯または危険な常習犯である場合が含まれます。
違反者には、5,000万VND以上2億VND以下の罰金や、1年から5年の間、一定の職務に就くことや特定の職業を行うことを禁止されるという付加的制裁を受ける場合もあります。
商業法人が当該違反行為を行った場合、(i) の違反に対しては、10億VND以上50億VND以下の罰金、(ii) の違反に対しては、50億VNDから100億VNDの罰金が科されます。さらに、特定の業種での事業活動または資金調達が。1年から3年の間、禁止される可能性があります。
9.インド
⑴ 概要
インサイダー取引については、1992年インド証券取引委員会法(Securities and Exchange Board of India Act,1992。以下「法」といいます。)および2015年インド証券取引委員会(インサイダー取引禁止)規則(Securities and Exchange Board of India (Prohibition of Insider Trading) Regulations, 2015 。以下「規則」といいます。)が規制しています。
規則によると、「インサイダー」(insider)は、正当な目的、職務の遂行、または法的義務の履行を促進する場合を除き、上場会社または上場を予定している会社の「未公表価格感応情報」(unpublished price sensitive information)について、他者に対し、伝達、提供またはアクセスの提供をしたり、未公表価格感応情報を保有した上で株式の取引を行ったりすることが禁じられています(規則3条(1)、4条)。また、いかなる者であっても、正当な目的、職務の遂行、または法的義務の履行を促進する場合を除き、インサイダーから未公表価格感応情報を取得することはできません(規則3条(2))。
同規則上「インサイダー」(insider)とは、会社の関連者(取締役や従業員等、会社とつながりがあり、未公表価格感応情報にアクセスすることが合理的に予測される者)または未公表価格感応情報を保有している者をいいます(規則2条(g))。また、「未公表価格感応情報」(unpublished price sensitive information)とは、会社またはその株式に直接的または間接的に関連する一般に公表されていない情報であり、一般に公表されると株式の価格に重大な影響を及ぼす情報をいい、財務情報、配当に関する情報、資本構成の変更、合併・買収等に関する情報等が含まれます(規則2条(n))。
(2) 罰則
未公表価格感応情報に基づき株式の取引を行ったり、未公表価格感応情報を他者に伝達等した場合には、100万ルピー以上2億5千万ルピー以下または当該取引による利益の3倍のいずれか高い方の罰金が科せられます(法12G条)。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) インサイダー取引について
アラブ首長国連邦(UAE)では、連邦証券商品局及び市場に関する連邦法2000年第4号(以下「証券法」といいます。)に基づき設立された証券商品局(Securities and Commodities Authority:FCA)の下で、アブダビ証券取引所(Abu Dhabi Securities Exchange:ADX)とドバイ金融市場(Dubai Financial Market: DFM)の2つの市場があります。インサイダー取引に関しては、利益を得るために株価に影響を与える非公開情報を利用することを禁じ(第37条)、自らの地位を利用して取得した非公開または秘匿情報に基づき証券取引を行うことを禁じ、特に上場企業の社長、経営陣及び従業員については、市場における株式の売買に関して内部情報を利用することを禁じています(第39条)。また、インサイダー情報に基づく取引は無効とされます。
(2) 違反に対する措置
証券法第37条及び第39条の違反者には、3月以上3年以下の懲役、または10万AED(UAEディルハム)以上1000万AED以下の罰金、若しくはその双方が課されます(第41条)。
11. インドネシア
(1) 定義と対象
インドネシアでのインサイダー取引に関する規定は、1995年資本市場法第8号(以下、「資本市場法」といいます)に記載されています。
資本市場法において、インサイダー情報とは、内部者が保有しており、一般には公開されていない重要情報と定義され、内部者には、(a)上場会社または公開会社の取締役、監査役、または従業員、(b) 上場会社または公開会社の主要株主、(c)上場会社または公開会社との職務・専門職または業務関係により、インサイダー情報を得ることが可能な個人、(d) (a)〜(c)に該当していた者で、過去6か月以内にその地位を退いた者が含まれます(資本市場法第95条)。また、内部者から不正にインサイダー情報を取得した者も禁止規定の対象となります。
(2) 禁止規定と罰則
インサイダー情報を用いて、他者に当該証券の売買を促すこと、インサイダー情報を第三者に提供すること、不正にインサイダー情報を取得し、それを基に取引を行うことは禁止されています。(資本市場法第96、97条)。
上記に違反した場合、最長10年の拘禁および最大150億ルピア(Rp15,000,000,000)の罰金が科される可能性があります(資本市場法第104条)。
1.日本
(1) 概要
日本の意匠制度は意匠法によって規定されています。同法上、「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの、と定義されています(意匠法2条1項)。
意匠権の存続期間は、出願日から25年間です(同法21条1項)。
また、日本はパリ条約に加盟しており、パリ条約締約国で申請してから6か月以内であれば、優先権を主張することもできます。
(2) 登録手続き
意匠権の登録手続きは特許庁に対し行います。
出願を行うと、まず、書類の形式面等を審査する方式審査が行われ、次に、出願にかかる意匠が意匠法上の登録要件を満たしているかを審査する実体審査が行われます。
実体審査において、意匠の登録を認めることのできない拒絶理由が発見されない場合には、特許庁の審査官は、意匠登録をすべき旨の査定をしなければなりません(意匠法18条)。他方、拒絶理由があると判断された場合、審査官は、拒絶理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければなりません(意匠法19条が準用する特許法50条)。拒絶理由が解消されない場合には、拒絶の査定がなされます(意匠法17条)。
(3) 意匠権侵害
意匠権侵害に対しては、民事上の救済策として、侵害行為の差止め(意匠法37条)や損害賠償請求等の措置をとることが可能です。損害賠償請求にあたっては、実際上、損害額の立証が困難な場合も多くあります。
そこで、意匠法では、損害額の算定規定や推定規定等を設け、立証の困難性を緩和することが試みられています(同法39条)。
また、意匠権侵害は刑事罰の対象ともなり得、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金又はその両方が科せられます(同法69条)。
2.タイ
(1) 意匠法の概要
タイにおいて意匠制度は特許法にその規定があります。特許法56条から65条は、意匠についての特別法を規定しており、その他については特許における規定を準用しています。
同法は、「意匠とは、製品に特別な外観を与え,工業製品又は手工芸製品に対する型として役立つ線又は色の形態又は構成をいう」と定義しています(特許法3条)。また、意匠権の保護の客体について、「手工芸意匠を含む新しい工業意匠」(特許法56条)である旨を規定しています。
(2) 登録審査
意匠の出願は、省令に定められる要件および手続に従わなければならず、各意匠出願書類には、意匠の表示、意匠が用いられる製品の表示、明確かつ正確なクレーム、省令に定められるその他の事項が含まれなければなりません(特許法59条)。
その後、商務省知的財産部(DIP) において審査を受け、所定の要件を満たしたとされる意匠のみが特許法上の保護をうけることができます(特許法61条)。
⑶ 意匠権の内容
同法は、「特許権者以外の何人も、調査研究を目的とする意匠の使用を除き、製品の製造において特許 意匠を使用する権利又は特許意匠を具現した製品を販売し、販売のため所持し、販売のため供給し若しくは輸入する権利を有さない。」と規定し(特許法63条)、意匠権者に排他的権利を認めています。
3.マレーシア
(1) 概要
マレーシアにおける意匠制度は、意匠法(Industrial Designs Act 1996)により規律されています。同法は、意匠を「工業的方法または手段により物品に適用される形状、輪郭、模様もしくは装飾の特徴であって、完成した物品において視覚に訴え、視覚によって判断されるもの」と定義しています(意匠法3条1項)。
(2) 登録審査
意匠登録手続は、以下の2段階で進められます。
(a) 方式要件審査
意匠登録出願が意匠法および意匠規則で定められた要件を満たしているかを審査します(意匠法21条1項)。出願が要件を満たしていない場合、出願人に対しその旨の通知がなされ、補正のための期間が与えられます(同条2項)。補正が行われない場合、聴聞の機会が付与された上で出願は拒絶されます(同条3項)。
(b) 新規性審査
意匠の登録を受けるためにはその意匠が登録日において新規の意匠でなければなりません(意匠法12条(1))。そして、出願しようとする意匠が、出願の優先日前に、出願意匠と同一または関係する取引において一般的に使用される、重要でない細部もしくは特徴においてのみ当該意匠と異なる意匠が、以下のいずれかに該当する場合、新規性は認められません(同条12条(2)(a)・(b))。
・ マレーシアのいずれかの場所で公に開示されていた場合
・ 当該意匠が、異なる出願人によって先出願された意匠登録申請の対象となっており、かつその出願に基づいて登録が認められている場合。
(3) 意匠権の内容
意匠権者は、登録意匠が適用されている物品を、①製造、輸入、販売もしくはその申出、賃貸もしくはその申出、陳列することの排他的権利を有します。
そして、上記権利に対する侵害が現に存在するか、またはそのおそれがあることを証明することにより、損害賠償請求、利益返還請求、または差止命令請求を裁判所に対して求めることができます(意匠法34条1項)。
4.ミャンマー
⑴ 概要
2019年1月30日に意匠法は成立しました。意匠権利者と創作者の権利・利益の保護、産業の発展・技術開発、技術の普及促進などを目的としています。管轄の商業省は、2023年9月29日付で意匠登記規則を公布しました。2023年10月18日、国家行政評議会(SAC)は、意匠法が2023年10月31日より施行される旨を通知しました。その後、2024年1月31日、知的財産庁は、意匠の出願を2024年2月1日から受け付けると発表しました。
(2) 登録手続
意匠登録出願の手続は、出願、方式審査、出願公開、実体審査、登録という流れで進められます。願書に添付する意匠の図面や写真、説明文には、所定の要件が定められています。
(3) 意匠権侵害
意匠権の侵害行為には、意匠登録の対象となる製品を、権利者またはライセンス保持者の同意なく製造・制作する行為のほか、登録された意匠が用いられた製品を無断で販売・流通・使用する行為が含まれます。
5.メキシコ
(1) 概要
メキシコにおける意匠制度は、産業財産権法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)によって規定されています。その中で意匠は、「装飾目的で工業製品または手工芸品に用いられ、独特で適切な外観を与える図形、線、または色の任意の組合せである工業図案、および工業製品または手工芸品を製造するための型または図形として機能する任意の立体で構成される工業用型であり、技術的な効果をもたない特別な外観を与えるもの」と定義されています。
意匠権の存続期間は出願日から5年間であり、所定の更新手続および更新料の納付により、5年ごとの延長が可能です。ただし、存続期間の上限は最大25年間とされています。更新は、各存続期間満了の6か月前から行うことができます。
メキシコは、1976年にパリ条約に加盟しており、これに基づく優先権主張が可能です。優先日(基礎出願日)から6か月以内であれば、優先権を主張しての出願が認められます。また、2020年6月にはハーグ協定(ジュネーブ改正協定)がメキシコにおいて発効しており、これにより国際意匠登録出願の指定国としてメキシコを選択することも可能となっています。
(2) 登録手続
意匠登録出願の手続は、原則として特許に関する規定が準用されており、出願、方式審査、出願公開、実体審査、登録という流れで進められます。願書に添付する意匠の図面や写真、説明文には、所定の要件が定められています。特許出願と異なり、方式審査を通過した意匠出願は早期に公開されますが、出願人からの早期公開請求は認められていません。
メキシコでは一意匠一出願制が採用されており、単一の意匠または関連する一つの意匠群として出願する必要があります。仮に一つの出願に複数の意匠が含まれる場合であっても、それらが同じ名称で識別でき、共通して新しい特徴を提示し、全体として同一の一般的印象を与える場合には、単一の意匠とみなされます。
(3) 意匠権侵害
意匠権の侵害行為には、意匠登録の対象となる製品を、権利者またはライセンス保持者の同意なく製造・制作する行為のほか、登録された意匠が用いられた製品を無断で販売・流通・使用する行為が含まれます。また、登録意匠と実質的に同一と認められる意匠を、許諾なく使用する行為も侵害に該当します。
このような権利侵害は行政違反とされており、権利侵害を犯した者には、最大でUMA(罰金等の金額算定にあたり参照する経済的基準)の25万倍の制裁金、最大90営業日の施設の一時閉鎖や恒久的閉鎖といった制裁が科される可能性があります。なお、こうした行政制裁が科された場合でも、権利者は別途、損害賠償を請求することが可能です。
6.バングラデシュ
⑴ 概要
バングラデシュでは、バングラデシュ意匠法(Bangladesh Industrial Design Act, 2023)により、意匠の保護が規定されています。この法律で「意匠」とは、製品の特長的な形状、線、色、視覚的な表面などの美的な視認性と定義されています(以下、断らない限りバングラデシュ意匠法の条文番号を意味します。第2条(m))。
バングラデシュは、パリ条約に加盟しており、これに基づく優先権主張が可能です。
⑵ 保護対象・新規性・申請権
意匠は、新規性と独自性があり、産業的に生産または使用できる場合に登録可能です(第5条第1項)。
ただし、技術的・実用的な側面のみを重視した意匠、公序良俗に反する可能性がある意匠、未登録の意匠、国章などを模した意匠は保護対象外となります(第4条)。
「新規性」は、出願日または優先日前に世界において公開されていない場合、複合製品の場合は通常の使用中に見える部分である必要があります(第5条第3項)。たとえ出願前に公開された場合でも、申請者の許可がない公開の場合は、新規性の判断に影響しません(第5条第4項)。
登録の権利は、原則として意匠の所有者またはデザインをした者に帰属します。共同作成の場合は共同所有となり(第6条第2項)、この権利は譲渡や相続が可能です(第6条第3項)。
⑶ 保護期間
登録された意匠は、出願日または優先日から最長10年間保護されます(第15条第1項)。
この保護は5年ごとの更新が可能で、最大3回まで延長できます(第15条第2項)。登録の有効期限が切れた場合でも、追加料金を支払えば6か月の猶予期間が設けられています。
⑷ 登録手続
申請者は、所定の申請書などを工業省特許意匠商標局(Department of Patents, Designs & Trademarks, Ministry of Industries「DPDT」)に提出して手続きを開始します(第7条第1項)。
また、パリ条約締約国で申請してから6か月以内であれば、優先権を主張することもできます(第8条)。
申請後、その内容はWEB上に30日間掲載され、第三者から異議がないか確認されます(第10条)。
その後、DPDTが、新規性・独自性・産業上の利用可能性について審査を行います(第11条第1項)。不備があった場合、申請者は2か月以内に修正する必要があります(第11条第3項)。
審査基準を満たし、異議もなければ、登録が認められ、証明書が発行されます(第12条第1項)。却下された場合は、申請者に通知されます(第12条第2項)。
⑸ 意匠権侵害
登録された意匠または類似する意匠を、同一または類似の商品・サービスに使用した場合、混同や誤認を引き起こした場合には、侵害と見なされます(第21条)。使用には、製造、販売、輸入などが含まれます。(第2条(p))
侵害が起きた場合、所有者はDPDTに対し行政補償を求めることができ、行政は補償金の支払い命令や、関連製品・材料の没収命令が出すことができます(第22条)。
補償が支払われない場合は、裁判所に訴訟を起こすことが可能です。裁判所は、補償金の支払いや、さらなる侵害を防ぐための差止命令を出すことができます。また、偽造品の破壊や押収、さらには損害賠償も命じることもできます(第23条)。
7.フィリピン
(1) フィリピンで保護される意匠
フィリピンにおいて意匠権の対象となるのは、代工業デザイン(Industrial Designs)です。工業デザインとは、線や色彩の構成、あるいは立体的な形状を指します。
工業デザインが意匠権として保護されるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 特別な外観(special appearance)を持ち、模様としての機能を果たすこと
- 新規性または独創性(new or original)があること
- 技術的結果を得るために本質的(essentially)に技術的・機能的な考慮によってデザインされたものではないこと
- 公序良俗に反したデザインではないこと
(2) 意匠権を保護するための手続
意匠権を保護するには、フィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Philippines)に対して工業デザインの登録申請を行う必要があります。登録されると、第三者による無断の製造や販売等を禁止する権利が付与されます。
(3) 保護期間
工業デザインの保護期間は以下のとおりです。
初回登録:5年間
更新:2回まで可能(1回につき5年間)。更新には所定の更新料の支払いが必要。
最大保護期間:合計15年間
⑷ 意匠権侵害に対する対応
登録された意匠が侵害された場合、権利者は以下のような対応をとることができます。
- 損害賠償請求
- 仮処分や差止命令の申立て
- 刑事罰の追及(繰り返し侵害された場合)
(1) 意匠として保護を受けるための一般的条件
知的財産に関する現行の規定では、工業意匠は「製品または複合製品を構成する部品の外観であって、三次元の形状、線、色彩、またはそれらの要素の組み合わせにより表され、製品または複合製品の使用状態において視認することができるもの」と定義されています。
意匠として保護を受けるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 新規性があること:当該意匠が、当該意匠の登録出願の出願日または優先日(該当する場合)前に、ベトナム国内外において、使用、文書による記載、またはその他のいかなる形式によって公に開示された他の意匠と著しく異なるものであること。
- 創作性があること:当該意匠が、登録出願の出願日または(該当する場合)優先日前に、ベトナム国内外において、使用、文書による記載、またはその他いかなる形式によってすでに公に開示された他の意匠に基づいて、並みの芸術的技能しか持たない者が容易に創作できないほどに複雑であること。
- 産業上の利用可能性があること:当該意匠が、その意匠を具現化した外観を有する製品を、工業的または手工業的手段により大量生産するためのモデルとして使用可能であること。
(2) 意匠として保護を受けることができない対象
以下のいずれかに該当する場合は、意匠として保護を受けることができません。
- 製品の技術的特徴や仕様により必然的に定まる製品の外観
- 土木または工業用の建築物の外観
- 製品の使用状態において視認できない製品の形状
(3) 意匠登録の有効期間
意匠登録は、登録日から起算して、出願日から5年が経過する日まで有効とされます。また、5年ごとの期間で2回、連続して更新することができます。
(4) 意匠登録の基本的な手続き
意匠登録の手続きは、基本的に以下の5つのステップからなります。
- ステップ1:意匠登録のための出願書類を提出します。出願は、ハノイ市の知的財産庁本部、またはホーチミン市およびダナン市の代表事務所に対して、直接提出または郵送により行うことができます。
- ステップ2:方式審査
- ステップ3:工業所有権公報での出願の公開
- ステップ4:実体審査
- ステップ5:意匠特許の付与または拒絶の決定を受け、国家意匠登録簿に記録されるとともに、工業所有権公報に掲載されます。
(5) 意匠侵害の構成要素
製品または製品の一部が、その外観において登録意匠とわずかしか異ならない場合には、当該登録意匠を侵害しているとみなされる可能性があります(例えば、登録意匠または保護されている製品セットのうち少なくとも1つの製品のコピー、あるいは実質的にコピーであり、違いが事実上識別できない程度のものなど)。疑義を避けるために付け加えると、当該意匠登録に記載された意匠の保護範囲が、意匠の侵害構成要素を判断する基礎となります。
9.インド
⑴ 概要
インドにおける意匠制度は、2000年意匠法(Design Act, 2000。以下「意匠法」といいます。)によって規定されています。同法によると、「意匠」とは、二次元、三次元又はその双方の形態かを問わず、手工芸的、機械的、若しくは化学的手段によって、分離若しくは結合の如何にかかわらず、物品に施される線又は色彩の形状、輪郭、模様、装飾又は構成の特徴の特徴に限られるものであって、完成品において視覚に訴え、視覚によってのみ判断されるものと定義されています(意匠法2条(d))。
意匠権の存続期間は出願日から10年間です(同法11条(1))。更新は1回のみ可能で、所定の更新手続を経ることで、前記10年の期間の満了日から更に5年の延長が可能です(同法11条(2))。
また、インドはパリ条約に加盟しており、パリ条約締約国で申請してから6か月以内であれば、優先権を主張することもできます(同法44条(1))。
(2) 登録手続き
出願は特許庁(Patent Office)に対し行われます。
審査の結果、拒絶理由がない場合には、特許庁は意匠の登録を行い当該意匠を官報で公告します(特許法7条)。また、意匠権者に対しては、登録証が発行されます(同法9条)。
一方、審査の結果、拒絶事由が認められる場合には、出願人に対し、書面でその旨が通知されます。この場合、出願人は当該通知の日から3か月以内に当該拒絶理由の解消をするか、聴聞の申請をしなければならず、このような対応がなされない場合には、出願が取り下げられたものとみなされます(意匠法規則(The Design Rules, 2001)18条(1))。
(3) 意匠権侵害
登録された意匠について、無断での販売、販売目的での模倣、輸入等を行うことは意匠権侵害に該当します(意匠法21条(1))。
また、意匠権侵害が生じた場合、意匠権者は侵害者に対し、違反行為ごとに最大で25,000ルピーの支払を求めるか(ただし、1意匠について回収可能な額は最大で合計50,000ルピーまでとされています)、または、意匠権者が違犯に対する損害賠償と差止めを求める訴訟を提起し、判決で命じられた額の賠償金の回収と違反行為の差止めを図ることができます(同法22条(2))。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)では、産業財産権の規制と保護に関する法(2021年法連邦法第11号)において意匠について規定されています。同法は、フリーゾーンを含むUAE全域に適用されます。
意匠とは、装飾的・審美的な二次元または三次元の創造物で産業または工芸製品に用いられるものと定義されます(第1条)。意匠権として保護されるには、新規性及び公序良俗に反しないことが要件とされ(第43条1項、2項)、経済省所管の登録簿に登録されねばなりません(第40条)。出願前1年以内の公開は新規性があるとみなされ(第43条4項)、UAEと協定・合意を有する国で出願したことによる優先権の主張は、最初に出願した日から6か月間とされます(第42条)。
(2) 登録手続
出願は、意匠の名称等の所定事項を記載した申請書に意匠の図面等の必要書類を添えて提出することにより行います。意匠の説明はアラビア語及び英語で記載されねばならず、出願人が法人の場合の商業登記簿、意匠製作者でない場合の権利譲渡証明書、出願代理人の委任状等には公証を要します(施行規則にかかる閣議決定2022年第6号(以下「施行規則」といいます。)第57条)。出願手数料の支払後、施行規則第63条第1項記載の要件が満たされるかにつき形式審査されます。拒絶のときは理由が示され、再審査の機会が与えられます(施行規則第63条2項、3項)。資料の追加を求める通知から90日以内に出願人が追完しないときは、出願を取り下げたものとみなされます(第49条)。審査通過の通知後60日以内に公開手数料及び権利付与手数料を支払うことにより、意匠の登録は知財公報に掲載され、公報から90日後に登録証明書が発行されます(施行規則第41条、第44条)。
(3) 意匠権の内容
意匠権は、毎年の登録維持料を支払うことにより、出願日から20年間存続します(第45条第1項)。
登録された意匠は、第三者による製品製造における使用並びに意匠に関する商品の輸入、商業的目的の使用のための保管、販売のための展示及び販売が禁止されることにより、保護されます(第46条)。意匠権の侵害に対しては、裁判所における損害賠償(第67条)、侵害した製品等の差押命令(第68条)を請求することができ、裁判所は、差押した製品の他、侵害品及びその製造機具の没収、並びに判決の新聞広告掲載を命ずることができます(第70条)。また、不正確または虚偽の書類を用いて出願をした者や意匠権を侵害した者は、禁固及び10万UAEディルハム以上100万UAEディルハム以下の罰金、またはそのいずれかにより処罰される可能性があります(第69条)。
11. インドネシア
(1) 概要
インドネシアでは、意匠に関する法律2000年第31号(以下、「意匠法」といいます)により、規定されています。この法律で「意匠」とは、3次元又は平面の輪郭、色彩又はこれらの組み合わせによる形状、構造若しくは配置であって、美的印章を与え、一定の生産物、商品、工業製品又は手工芸品に適用できるものと定義されています(意匠法第1条)。
(2) 新規性・保護期間
意匠は、新規性と独自性があり、出願日以前に同一または実質的に同一の意匠が公開・使用されていないことが必要です(意匠法第2条)。ただし、展示会出展による公開や研究目的使用などは6カ月間までは新規制を保持できます(意匠法第3条)。また、意匠権の保護期間は10年間です(意匠法第5条)。
また、出願人がパリ協定に基づきパリ条約加盟国で先に出願していた場合には、優先権(Hak Prioritas)を行使することができ、最初の出願日がインドネシアにおいても実質的な出願日となります(意匠法第9条)。
(3) 申請
申請の際にはa.) 出願の日付、b.)意匠権者(Pendesain)の氏名、住所、および国籍、c.)出願人(Pemohon)の氏名、住所、および国籍、d.)優先権を主張する場合には、代理人の氏名と住所をインドネシア語で記載し、提出する必要があります(意匠法第11条)。また、a.)出願対象の意匠に関する実物、図面、または写真およびその説明書、b.)出願が代理人を通じて行われる場合には、委任状、c.)出願される意匠が出願人または意匠権者本人の所有物であることを証明書する宣誓書を提出する必要があります(意匠法第11条)。インドネシア国外からの出願には、国内での代理人を通じて出願を行わなければなりません(意匠法第14条)。
申請が受理されると3ヶ月以内に意匠広報などにて一般公開され、第三者から異議がないか確認されます(意匠法第26条)。異議申し立てがあった場合、法務人権大臣により任命された審査官(Pemeriksa)により審査が行われ、6カ月以内に異議の是非について判断されます(意匠法第26、27条)。審査基準を満たし、異議もなければ登録が認められ、登録証が発行されます(意匠法第29条)。
(4) 意匠権侵害
意匠権者は排他的権利を有し、研究および教育の目的での使用を除き、自らの同意なく、製造、使用、販売、輸出入、流通を行う者に対して、これを禁止する権利を有します(意匠法第9条)。
意匠権者は、故意かつ無断で、上記に関する行為を行った者に対して、損害賠償請求、該当する行為の差止め請求をすることができます(意匠法第46条)。また、違反した者には最長4年の拘禁および/または最大3億ルピアの罰金が科される可能性があります(意匠法第54条)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年4月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
第1. 各国における倒産法制度に関する法令の概要
1.日本
(1) 会社倒産制度の概要
会社の倒産手続きには、法人破産、特別清算、民事再生、会社更生があります。このうち、法人破産と特別清算では法人を消滅させますが、民事再生と会社更生では法人を存続させたまま再建を図っていきます。
(2) 法人破産
法人破産の申立ての要件は、法人が支払不能(支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)または債務超過(債務者がその債務につき、その財産をもって完済することができない状態のこと)であることです(破産法15条1項、16条1項)。また、法人破産の申立権者は、債権者または債務者です(同法18条1項)。なお、債権者が申立てを行うにあたっては、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければなりません(同条2項)。
裁判所が申立てを受理し、破産開始決定をする際には、破産管財人が選任されます(同法31条1項)。破産管財人は、法人の資産を調査し、財産を換価処分する等の役割を担い、破産開始決定がされると、破産者の財産、相続財産、信託財産の管理・処分をする権利は、破産管財人に専属することとなり、破産者は管理・処分権を失います(同法2条14項、78条1項)。
換価処分によって配当できる財産がある場合には、債権者に対し配当が行われます。
配当手続きが終了し、または、配当できる財産がないことが確定した場合には、破産手続きの終結決定がなされます。破産手続きの終結決定をもって、法人は消滅し、債務も消滅します。
(3) 特別清算
特別清算は、会社が債務超過に陥っている場合等に利用される手続きで、法人破産同様、法人の消滅を伴います。特別清算は会社法に定められる手続きであり、特別清算の対象となるのは株式会社のみです。特別清算の申立権者は債権者、清算人、監査役または株主です(会社法511条)。
法人破産の場合、手続きは、裁判所が選任した破産管財人によって進められますが、特別清算の場合、株主総会で選任された清算人によって手続きが進められます。
特別清算は、法人破産に比べて、簡易迅速な手続きであることがメリットとされています。他方、対象となるのが株式会社に限定されていることや、特別清算に先立って、株主総会で会社の解散を決議しなければならず、当該決議は株主の議決権数の3分の2以上の賛成が必要となる特別決議でなければならない(同法309条2項11号)といったデメリットもあります。
(4) 民事再生
民事再生は、法人を消滅させることなく、存続させながら、再建を図っていく手続きです。
破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき、債務者または債権者は民事再生の申立てをすることができます(民事再生法21条1項、2項)。また、債務者については、事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときも申立てができます(同条1項)。
民事再生においては、債権者によって可決され、裁判所によって認可された再生計画案に基づき、債務が圧縮され、同計画に基づく弁済が行われることとなります。
(5) 会社更生
会社更生は、民事再生と同様、法人を消滅させることなく、存続させながら、再建を図っていく手続きで、更生計画に基づき債務が圧縮され、同計画に基づき弁済が行われます。
民事再生との違いとしては、会社更生は、多数の債権者や多額の債務を抱える大規模な会社を想定した制度であり、対象は株式会社に限られています。また、民事再生では、経営陣は引き続き経営を行うことが可能ですが、会社更生の場合、経営陣は退任し、管財人に経営権や会社財産の処分権が専属する(会社更生法72条1項)等、民事再生よりも厳格な手続きとなっています。
2.タイ
(1) 倒産法の概要
タイでは、債務超過にある個人や法人を清算するための手続き(破産手続き)と、債務者である法人の事業の再建・更生を目的とする手続き(事業更生手続き)が存在します。
タイにおける倒産制度の特徴として、破産手続きにおいては、債務者自身からの破産宣告の申立てが認められていない点や、管財人が民事執行局という公務員から選任されるという点が挙げられます。
(2) 倒産手続きの主な流れ
ア 破産手続きについて
タイの破産手続きついては、破産法にその定めがあり、主に以下のような流れを経て、破産手続きが進行します。
まず、同法においては、債務者が、①債務超過であること、②債権者に対する債務の合計額が、債務者が自然人の場合は100万バーツ超、法人の場合は200万バーツ以上であること、③債務額を確定できることが破産宣告原因と規定されています(破産法9条)。
その後、裁判所において破産宣告の原因が存在すると判断された場合、裁判所は財産保全命令を発令し(同法14条)、管財人を選任します。選任を受けた管財人は、速やかに債権者集会を招集し(同法31条1項)、同集会において、裁判所に対して破産の申立てを行うか否かを検討します。同集会において、破産宣告を求める決議がなされれば(同法61条)、その結果を踏まえ、裁判所が破産宣告をします。
破産宣告後、管財人は、債権者への配当を行い(破産法124条)、債権者は破産手続き内で弁済請求を行ったうえ破産配当を受けることになります。
イ 事業更生手続きについて
事業更生手続きについても、破産法に定めがあり、主に以下のような流れを経て、事業更生手続きが進行します。
まず、同法においては、債務者(非公開会社、公開会社およびその他規則により規定された法人)が、①債務超過であること、②債権者に対する債務の合計額が、1,000万バーツ以上であること、③事業更生の合理的な見込みがあることの要件を満たす場合には、債権者、債務者または監督庁が、裁判所に対して、事業更生の申立てを行うことが可能です。(破産法90/4条)。この点、事業更生手続きにおいては、破産手続きと異なり、債務者自身による申立ても可能とされています。
裁判所が申立てを受理した後、裁判所は、事業更生手続開始の要件が充足されているか審理し、理由があると認められる場合には、事業手続開始決定を行います(破産法90/10条)。開始決定時または開始決定後の一定の手続を経たのち、裁判所は更生計画作成者を選任し(破産法90/17条)、更生計画の提出を受けた管財人が更生計画の承認を判断するため債権者集会を招集することになります(破産法第90/44条)。債権者集会の承認を受けた更生計画は、裁判所が当該計画を承認するか否かを決定し、更生計画を実行することになります。更生計画の遂行予定期間が経過し、計画が遂行されたと判断された場合には、更生手続廃止決定がなされることになり(破産法90/70条)、これにより更生手続きが終了します。
3.マレーシア
(1) 清算型の倒産手続
マレーシアでは、会社が事業を閉鎖し、かつ債務の弁済が不可能な場合、清算型の倒産手続が適用されます。この手続には、裁判所の関与なしに清算を進める①債権者による自主清算手続(Creditor’s Voluntary Winding Up)と、裁判所の命令により清算を行う②強制清算手続(Compulsory Winding Up)の2種類があります。手続の進行中は、支払不能の状況下で行われた取引の一部を無効とすることで債権者の保護が図られ、債権者平等の原則に基づき債権者への配当が実施されます。
(2) 再建型の倒産手続
会社の事業継続が可能な場合、再建型の倒産手続が適用されます。これには、以下の方法があります。
(a) スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement: SOA)
申立人が提案する再生計画案をもとに会社再建を図る手続きであり、返済猶予を内容とするもの(Moratorium Scheme of Arrangement)と、債権カット等の和議を内容とするものがあります(Compromise Scheme of Arrangement)。提案されたスキーム・オブ・アレンジメントは、債権者集会に出席した債権者の債権合計額の75%以上の同意を得た場合、裁判所の許可を条件に債権変更の効果が生じます。
(b) ジュディシャル・マネジメント手続(Judicial Management)
裁判所の命令によりジュディシャル・マネージャー(Judicial Manager)を選任し、その管理のもとで会社再建を進める手続です。ジュディシャル・マネージャーが作成した再建案について、承認された債権額ベースで75%以上の債権者が同意した場合、当該再建案に基づき債権変更の効果が生じます。
(c) 会社任意整理手続(Corporate Voluntary Arrangement: CVA)
以上のほか、裁判所を経由せず、専門家(Insolvency Practitioner)の監督のもとで実施される会社任意整理手続(Corporate Voluntary Arrangement: CVA)もあります。この手続では、提案された会社任意整理案が、株主の過半数の賛成および債権額ベースで75%の債権者の同意を得た場合、当該整理案に基づき債権変更の効果が生じます。
4.ミャンマー
⑴ 倒産法の運用状況
倒産法は2020年2月14日に公布され、同年3月25日に施行されました。倒産法施行規則は最高裁判所より2020年4月に公布されました。しかし、倒産法の施行後も、倒産法に基づく手続きを進めるための倒産実務家の登録ができず、倒産法の実務的運用がなされていない状況が続いていました。その後、最高裁判所は2024年1月31日に倒産実務家の登録に関する通知が発布されました。
もっとも、現時点においても倒産法に基づく更生手続き等は運用されていない状況です。
5.メキシコ
⑴ 倒産に関する法律と制度の概要
メキシコの倒産制度は主に商業倒産法(Ley de Concursos Mercantiles:LCM)によって規定されており、企業の財務的困難や倒産に対応するための法的枠組みを提供しています。LCMは、財政的に困難な状況にある企業の存続を図りながら、債権者の公平な取り扱いを確保することを目的としています。
メキシコシティには、倒産事件を管轄する特別連邦裁判所が2か所あり、LCMに基づき手続きを監督します。また、連邦商業倒産専門機関(Instituto Federal de Especialistas en Concursos Mercantiles:IFECOM)は、倒産手続の円滑な運営を支援するため、専門家の認定や技術的監督を行い、公正な倒産手続きを促進します。
⑵ 倒産手続の段階
企業は、支払い義務を履行できなくなった場合、倒産状態にあるとみなされます。LCMの規定では、企業が以下の条件を満たした場合、倒産状態(concursos mercantiles)であると判断されます。
・ 企業が支払不能の状態にあり、総債務の35%以上について30日以上の延滞がある場合。
・ 申請時点で、負債の80%以上を支払うのに十分な資産を有していない場合。
LCMでは、倒産手続について、2つの主要な段階を定めています。
① 再生手続(Conciliación)段階
この段階の主な目的は、企業の債務を再構築し、債務者と債権者の間で合意を交渉して財政的安定を回復することです。裁判所に任命された調停人が債権者と債務者の交渉を仲介します。交渉が成功し、裁判所の承認を得られた場合、企業は倒産手続から抜け出すことが可能です。和解手続の期間は通常185日間ですが、最大365日まで2回の90日延長が認められています。
② 清算手続(Quiebra)段階
和解が成立しない場合、裁判所は企業を倒産と宣告し、清算手続が開始されます。裁判所が任命した管財人が資産の売却を監督し、法律で定められた優先順位に基づいて債権者への分配を行います。企業の資産は清算され、労働債権(従業員への賃金や福利厚生の未払い分)、担保付債権者(抵当権や質権を有する債権者)、無担保債権者の順に返済されます。
⑶ 倒産手続の影響
倒産が宣言されると、債務者に対するすべての司法執行や債権回収行為が一時的に停止されます。また、和解手続き中は、企業の経営陣はそのまま存続できますが、財務運営については調停人の監督下に置かれることがあります。進行中の契約は、裁判所の承認を得て再交渉、解除、または継続される場合があります。
6.バングラデシュ
バングラデシュの企業の倒産は、1994年会社法によって定められており、1997年倒産法は個人に適用されます。清算は、商業登記所(RJSC)が会社名を登記簿から削除し、会社の法的存在を終了させたときに確定します。会社の清算は、裁判所による清算、任意清算、裁判所の監督下での清算の3つの方法が規定されています。
⑴ 裁判所による清算
裁判所による清算は、バングラデシュ最高裁判所高等裁判所部への申立てから始まります。申立書は、会社自身、債権者、株主、場合によっては商業登記所の登記官によって提出されます。裁判所は、会社が支払い不能で債務を返済できないと判断した場合又は清算が正義と公平の利益のために必要であると判断した場合に、会社の解散を命じ、清算人を任命してその手続きを監督することができるとされています。清算命令は、法的承認を受けるために30日以内に商業登記所に提出する必要があり、通知は官報に掲載されます。裁判所による清算は、1994年会社法第241条に規定されており、法定報告書の提出又は法定会議の開催の不履行、債務の返済不能、清算特別決議の可決、設立後 1 年以内に事業を開始しないこと、1年間の事業停止、法定最小人数を下回る株主数の減少(非公開会社の場合は 2人未満、その他の会社の場合は7人未満)、及び裁判所が、会社を解散することが公正かつ公平であると判断した状況などが含まれます。
⑵ 任意清算
任意清算は、会社が株主の決議により清算を決定した場合、通常、会社が事業目的を達成した場合、財政的に存続不可能になった場合又は再編を希望する場合に行われます。清算手続きは決議の日から開始され、清算を管理するために清算人が任命され、残りの資産を株主に分配する前にすべての負債が確実に清算されるようにします。任意清算は一般に内部手続きですが、特に債権者の権利を保護するために、必要に応じて裁判所が介入して裁判所の監督下に置くことがあります。
⑶ 裁判所の監督下での清算
会社がすでに任意清算を行っているが、公正で透明な手続きを確実に行うために司法の監督が必要な場合に裁判所の監督下での清算が必要になることがあります。裁判所は、利害関係者の利益を保護するために条件を課し、指示を出すことがあります。これにより、法令の遵守が確保され、清算手続きにおける不正行為の可能性が防止されます。
⑷ 株主の責任
清算手続き中、会社の株主及び元株主は、未払いの債務、清算費用及びその他の義務を果たすために資金を拠出することが求められる場合があります。ただし、有限責任会社の場合、財務面の責任は、株式の未払い額に限定されます。株主が亡くなった場合、その法定代理人および相続人が未払いの義務の責任を負います。株主が破産宣告を受けた場合、その譲受人が財務の責任を引き継ぎ、当該株主に代わって支払われた金額は破産者の財産から差し引かれます。
7.フィリピン
(1) 倒産制度の概要
フィリピンにおける倒産・再生制度は、以下の法令・規則に基づいています。
・企業倒産法(Financial Rehabilitation and Insolvency Act)
・大統領令第902-A号(Presidential Decree No. 902-A)
・金融再生手続規則(Financial Rehabilitation Rules of Procedure)
企業が財政的に困難な状況に陥った場合、対応としては主に次の2つの方法があります。
企業再生(Rehabilitation):会社を存続させることを目的とした手続です。債務を再構築し、経営を立て直します。
清算(Liquidation):会社の資産を処分し、債務の返済に充てたうえで、会社を終了させる手続です。
(2) 再生手続
再生にはいくつかの方法がありますが、ここで裁判所を通じた再生手続(judicial rehabilitation)について説明します。再生手続は、以下のいずれかの方法で始まります。
①会社からの申立て(任意的再生)
会社から再生を申し立てる場合には、取締役会における過半数の同意に加え、発行済株式の3分の2以上を有する株主の賛成が必要です。申立てには、債務者が破産状態であり再生の見込みがあることを示すために、支払不能の事実や再生計画案などを提出する必要があります。
②債権者からの申立て(強制的再生)
債権者も、一定の条件を満たせば、会社に対して再生手続の開始を裁判所に申し立てることができます。会社からの申立てと同様に、再生計画案などを提出する必要があります。
【申立てが可能な債権者の条件】
(ⅰ)100万ペソ以上、(ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上相当する金額のうち、いずれか高い方の債権を有していること
【申立てが認められる条件】
・債務者が支払期日から60日以上にわたり支払を行っておらず、その債務について法律上の実質的な争いがない
・他の債権者によって差押え等の手続が始まり、その影響で債務者が支払不能になる可能性がある
債権者や裁判所によって再生計画が承認されると、会社はその計画に従って債務の支払いや業務の再構築を進めていきます。ただし、再生が難しいと判断された場合には、裁判所の判断により清算手続に移行することもあります。
(3) 清算
再生手続と同様に、清算にも2つの申立方法があります。
①会社からの申立て(任意的清算)
②債権者からの申立て(強制的清算)
一定の条件を満たす債権者は、裁判所に対して債務者の清算を申し立てることができます。
【申立条件】
以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります:
・債権者が3人以上であること
・債権者の会社に対する債権の合計額が、(ⅰ)100万ペソ以上、または (ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上に相当する金額のいずれか高い方に相当していること
【申立の根拠となる事情】
申立ての際には、債務者が支払期日から180日以上にわたり債務を履行していないことや、債務者に再生の見込みがないことなどを示す必要があります。
8.ベトナム
(1) 倒産法および制度の概要
「企業法」第59/2020/QH14号の第214条では、企業の倒産は倒産に関する法律の規定に従って行われると規定しています。2014年「破産法」第4条第2項によると、倒産とは、企業が支払い不能に陥り、人民裁判所によって破産を宣告された状態を指します。倒産状態にある企業とは、支払期日から3か月以内に債務を履行できない企業であることに注意が必要です。
⑵ 倒産手続開始の申立をする権利および義務を有する者
倒産手続開始の申立をする権利および義務を有する者には、以下が含まれます。
- 無担保債権者、支払期日から3ヶ月経過後の一部有担保債権者
- 従業員、労働組合
- 企業の法定代理人
- 個人事業主、株式会社の取締役会長、2名以上の有限責任会社の社員総会会長など
- 普通株式の20%以上を連続して6か月以上所有する株主または株主グループなど
⑶ 管轄機関
地区レベルの人民裁判所は、その省または市の地区に本社を置く企業の倒産処理を行う権限を有します。省レベルの人民裁判所は、その省で事業登録をし、以下のいずれかに該当する企業の倒産処理を行う権限を有します。
- 海外に資産がある、または倒産手続に参加する者が海外にいる場合
- 企業が複数の地区、町、市に支店や代表事務所を持つ場合
- 企業が複数の地区、町、市に不動産を所有している場合
- 事件が複雑であるため、省レベルの人民裁判所が処理を引き受ける場合
⑷ 手続
①倒産手続開始の申立:倒産手続開始の申立を行うことができるのは、上記の関連権利および義務を持つ者に限られます。
②裁判所による申立の受領:倒産手続開始の申立を受領後、裁判所は申立内容を審査します。申立が有効であれば、申立者に対し、手数料の支払いおよび倒産手数料の前払いを通知します。
③裁判所による申立の正式受理:人民裁判所は、倒産手数料の支払いの受領および倒産費用の前払いの受領後、倒産手続開始の申立を正式に受理します。その後、裁判所は倒産手続を開始するか否かの決定を下します。
④倒産手続の開始:倒産手続の開始または不開始についての裁判所の決定は、関係者に通知しなければなりません。
⑤債権者会議:債権者会議は、倒産手続の中止、事業再建策の提案、破産宣告の提案のうち、いずれかの結論を下す権利があります。
⑥企業の破産を宣告する決定書の発行:企業が事業再建計画を実施できない場合、または事業再建計画の実施期限が過ぎても支払い不能状態が続く場合、裁判官は企業の破産を宣告する決定書を発行します。⑦倒産処理の執行:倒産処理には、倒産資産の清算、企業資産の売却による収益の対象者への分配(資産分配の優先順位に従う)が含まれます。
9.インド
⑴ 倒産手続き申立ての要件
インドでは、破産倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)が倒産手続きについて定めています。
同法上、倒産手続き申立ての要件として、債務者が10万ルピー以上の支払不履行(デフォルト)に陥っていることが必要とされています。
申立てができるのは、①金融債権者(Financial Creditor)、②取引債権者(Operational Creditor)、③債務者自身であり、会社法審判所(National Company Law Tribunal)に対し申立てを行います。
(2) 倒産手続きの流れ
会社法審判所は、手続きを開始する場合、モラトリアムを発令します。モラトリアム発令中は、債務者の資産を保全するために、債務者に対する訴訟手続き、担保権の実行、債務者による資産の処分等が禁止されます。
また、会社法審判所は、手続開始決定から14日以内に暫定再建専門家(Interim Resolution Professional)を選任します。暫定再建専門家の役割は会社資産の保全であり、その任期は30日間とされています。暫定再建専門家が選任されると、債務者である会社の取締役会の権限は停止され、暫定再建専門家が経営権を獲得します。暫定再建専門家は、債権者からの債権届を受理し、債権者リストを作成し、債権者委員会を組成します。
債権者委員会は、全ての金融債権者を構成員とし、最初の会議で、暫定再建専門家の職務を引き継ぐ再建専門家を選任し、再建専門家は、債務者の債権債務関係等の情報をまとめたインフォーメーション・メモランダムを作成し、これに基づき再建計画が策定されます。
債権者委員会が再建計画を承認した場合、同計画に基づいて会社再建が行われます。他方、債権者委員会が再建計画を承認しなかった場合は、清算手続きに移行します。
(3) 清算手続き
会社を清算する場合、以下の債権については優先弁済を受けられます。具体的な優先順位は以下のとおりです。
①清算費用
②清算手続開始日から24か月前までのワークマンに対する債務、担保権を放棄した担保付債権者に対する債務
③清算手続開始日から12か月前までの従業員(ワークマンを除く)に対する債務
④金融債権者の無担保債務
⑤清算手続開始日から2年前までの中央政府または州政府に対する債務、担保権を有する債権者に対する担保権実行後の残債務
⑥その他の債務
⑦優先株主に対する残余財産配分債務
⑧株主及び共同経営者に対する残余財産配分債務
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・TNY Group
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・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
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・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
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・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
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Newsletterの記載内容は2025年3月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
第1.各国における内部通報者保護制度の概要 |
1.日本
(1) 公益通報者保護法の概要
公益通報者保護法は、国民生活の安全や社会経済の健全な発展の観点から、公益のために事業者の法令違反行為を通報した当該事業者内の労働者、退職者、役員の保護を図っています。
労働者、退職者、役員は、不正の目的でなく、自身の勤務先における不正行為を、一定の要件の下で通報することができます。また、同法は、公益通報をしたことを理由とした解雇の無効、降格・減給等の不利益取扱いの禁止する等して、通報者を保護しています。
公益通報者保護法上の通報先と要件は以下のとおりです(同法3条1項)。
| 通報先 | 要件 |
| 事業者(内部通報) | 通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合 |
| 行政機関 | 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合、もしくは、まさに生じようとしていると思料し、かつ、当該通報対象事実の内容等の所定の事項を記載した書面を提出する場合 |
| 報道機関 | 通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、内部通報では解雇や不利益取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある場合等の一定の事由に該当する場合 |
また、公益通報者保護法は、事業者に対し、公益通報を受け、当該通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(次条においてに従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めることや公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を義務付けています(同法11条1項、2項)。なお、この義務は、常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については努力義務とされています(同条3号)。
(2) 会社法上の内部統制システム構築義務
また、上記内部通報者保護法の規定のほかに、会社法上、大会社(資本金が5億円以上または負債の額が200億円以上の会社)の取締役設置会社については、内部統制システム構築義務があり、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備が求められます(会社法362条4項6号、5項)。
取締役が内部統制システムの構築を怠るなどした場合には、任務懈怠として会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
2.タイ
(1) 内部通報者保護法の有無
タイにおいて、民間企業や公的機関による不正行為等について内部通報者を保護することを目的とした法律はありません。他方、贈収賄の疑いがある場合に通報を推奨する旨のガイドラインは存在します。
(2) 内部通報者の保護
タイでは、内部通報したことを理由に従業員を解雇した場合には、不当解雇とみなされる可能性が高く、労働法など個別の規定によって内部通報者の保護が図られているといえます。また、多くのタイ企業において、自主的に内部通報制度を設けているケースが見受けられます。
3.マレーシア
マレーシアには、内部通報者保護法(Whistleblower Protection Act 2010[Act 711]、以下「法」といいます。)が制定されており、内部通報者の保護を図っています。この法律は、公益通報者を保護することで、不正行為の報告を促し、腐敗や不正を防止することを目的としており、内部通報者からの情報非開示義務や法的責任の免責措置により、内部通報者の保護を図っています。
(2) 内部通報者保護法による内部通報者保護の内容
内部通報者の情報は、「秘密情報(confidential information)」として保護されます。具体的には、内部通報者の身元や通報内容に関する情報は秘密情報とされ(法2条)、いかなる者もその情報を他人に開示することは禁止されています(法7条第1項(a)、8条1項)。これに違反した場合、RM50,000以下の罰金や最大10年の拘禁刑が科される可能性があります。また、民事訴訟や刑事訴訟においても、原則として秘密情報は開示されることはありません(法8条2項)。
さらに、内部通報者は、原則として、懲戒処分、その他民事的責任および刑事的責任からも免責されます(法7条1項(b)、9条)。
報復としての不利益取扱いの禁止(protection against detrimental action)も禁止されています(法10条)。不利益取扱いには、身体的・財産的侵害行為、威圧的行為、ハラスメント行為、さらには雇用に関連する差別、解雇、降格、停職、その他内部通報者の生計に対する干渉が含まれます(法第2条)。また、これらのいずれかの行為を行う旨の害悪告知も禁止されています。
(3) 会社による内部通報者保護制度の構築について
マレーシアの内部通報者保護法は、会社に対して正式な内部告発者保護制度の確立を明確に義務付けてはいません。そのため、すべての会社において内部告発者保護制度が構築されているわけではないのが現状です。他方で、不正行為の早期発見の観点からは、会社が独自に内部通報者保護制度を構築することには大きな意義があります。そのため、マレーシアにおいては、会社が内部通報者保護制度を整備することが一般的になりつつあると思われます。
4.ミャンマー
ミャンマーでは、内部通報者保護法または類似の法令は制定されていません。もっとも、腐敗や不正行為の防止または早期発見の観点から、独自の内部通報者保護制度を構築している会社は存在します。
5.メキシコ
⑴ 内部通報者保護の概要
メキシコでは、公的部門においては内部通報者を保護するための法制度が整備されていますが、民間部門には十分な法的枠組みが存在していません。
公的部門については、2017年7月に施行された行政責任一般法(Ley General de Responsabilidades Administrativas)が、公務員による不正行為の取り締まりを目的としており、内部通報者の保護措置を含んでいます。同法では、内部通報者の匿名性を確保し、通報の調査過程においてその身元を守ることが規定されています。また、善意で不正を報告した通報者に対する報復行為を禁止する規定も設けられています。
さらに、2019年9月には、汚職に対する内部・外部通報システムの運用と推奨に関するガイドラインが制定されました。これにより、贈収賄や公金の不正使用に関する通報を受け付けるプラットフォームの運営が確立されました。このガイドラインでは、汚職、人権侵害、ハラスメントなどの違反行為を報告する通報者の保護を目的とした施策を推進しています。2020年10月には、汚職通報者保護に関するプロトコルが策定され、通報者を保護する体制が強化されています。
⑵ 民間企業での内部通報者保護制度の構築について
現時点では、メキシコには民間企業向けの包括的な内部通報者保護法は存在しません。しかし、企業が自主的に内部通報制度を設けることは可能であり、行政責任一般法においても、企業に対し、内部統制およびコンプライアンスプログラムの一環として、内部通報制度の導入を勧めています。内部通報制度の設置は義務ではありませんが、企業の倫理的行動を促進し、不正行為を防ぐために推奨されています。
6.バングラデシュ
(1) 公的機関に対する通報制度
公的機関に対する内部通報者の権利利益保護については、2011年6月22日、2011年公益情報開・保護法(Public Interest Information Disclosure (Provide Protection) Act)が制定されています。
この法律は、公的機関の職員が、公的資金の不正利用や不適切管理、権力の濫用、犯罪行為、汚職などを行っている場合、所属する所轄官庁に対して通報しても、通報した者は法的保護を受けられると定めています。(2条)
適切な公益通報を行った場合、本人の同意なく身元が明かされることはなく、公益通報を行ったことによる民事・刑事責任を免れるほか、降格・ハラスメント・差別的な扱いが禁止されています。(5条)
公益通報者の身元を開示したり、差別的に扱うなど、通報者の権利を侵害した場合、2年以上5年以下の懲役または罰金が科されます。(9条)
ただし、通報者が、通報内容が虚偽であること、真実性が確認されていないこと、公益に反する根拠がないことなどを認識した上で通報した場合、虚偽の通報とみなされ、処罰される可能性があります。(11条)
もっとも、この法律は、保護を受ける対象の範囲が限定されており、公益通報者に対する保護も十分ではなく、運用においても多くの問題が指摘されています。バングラデシュは、2024年の腐敗認識指数(トランスペアレンシー・インターナショナル)で180か国・地域のうち151位に位置しており、汚職対策は十分に機能していると言えません。
(2) 民間企業に関する通報制度
民間企業における内部通報者の権利や利益の保護を定める法律はありません。しかし、進出されている日本企業では、日本のコンプライアンス基準に合わせて内部通報窓口を設ける例が見受けられます。
7.フィリピン
(1) 内部通報者保護に関する法律
フィリピンの法律において、内部通報者に関する規定は、会社法(Revised Corporation Code)とマハルリカ投資ファンド法(Maharlika Investment Fund Act)に定められています。
これらの法律では、内部通報者とは、その法律違反に関する情報を提供する者と定義されています。そして、これらの法律は、内部通報者に対する解雇などの報復行為を故意に行った者に対し、以下の罰則を定めています。
・会社法:罰金10万ペソ~100万ペソ
・マハルリカ投資ファンド法:罰金100万ペソ~200万ペソ、最長6年の禁錮刑
(2) 内部通報者保護ポリシー
フィリピンの会社法は、上記の罰則を除き、企業に対して内部通報者保護に関する義務を課していません。他方で、企業は裁量の範囲内で、独自の内部通報者保護ポリシーを策定することが可能です。
以下の企業は、内部通報者保護に関する独自のポリシーを策定・公開しています。
・San Miguel Corporation
・Del Monte Philippines
https://www.delmontephil.com/hubfs/corporate-governance/Whistle_blower.pdf
・Metro Pacific Investments
8.ベトナム
内部通報及びそれに関連する規定は、ベトナムの法制度の下で、刑法、告発法、腐敗防止法、その他政府の専門的な政令(労働規則違反における苦情及び通報の解決に関する政令No. 24/2018/ND-CPなど)を含む多くの法的文書に概説されています。しかし、内部通報の規定に関連する重要な法的文書は、2018年6月12日に国会によって制定され、2019年1月1日に施行された、告発法という名称の法律No. 25/2018/QH14です。(以下、「告発法」といいます。)
国家機関は、内部通報には以下の2種類の状況があると認識しています。
(1)国家利益・組織や個人の正当な権益に損害を与え、又は与える恐れのある組織や個人の違反行為を、所轄組織や個人(通常は国の機関)に通報・通知・苦情を通じて内部通報すること。このような状況は告発法の規定により、正式に定義されています。
(2)企業の規則、規定、方針に違反する企業関係者の違反行為を、企業の内部通報・告発・苦情処理制度を通じて内部通報すること。現行の告発法は、このような状況を具体的に取り上げていませんが、企業は通常、告発法及びその法的指針文書に定められている規定を利用して、内部通報の手順及び方針を構築及び策定しています。
通報者及びその関係者(配偶者、実親、養親、継父、継母、実子、養子を含む)の地位、職務、生命、健康、財産、名誉、尊厳が侵害されている、又は直ちに侵害されるおそれがあると信じるに足りる根拠がある場合には、告発法上の保護対象者となります。その判断は、通報者本人又は通報を解決・処理する権限を有する組織や個人が行うことができます。それに伴い、適用される通報者保護のための措置は以下の通りです。(告発法第56条、第57条、第58条)
(ⅰ)情報の機密性を保護するための措置
・通報者から提供された情報や文書を使用する際、通報者の氏名、住所、自筆の署名、その他の個人情報を秘密にすること。
・通報者の氏名、住所、直筆サイン、その他の個人情報を、通報書類やその他の同封書類、証拠書類から削除や検閲した上で、他部署に転送し、検証すること。
・通報者、関連組織、 個人と協働する際は、時間と場所を調整し、適切な方法で通報者の情報を保護すること。
・その他法令に定める措置を実施すること。
・通報者の情報を保護するために必要な措置を講じるよう、関係機関及び個人に要請すること。
(ⅱ)労働者の地位と雇用を保護するための措置
労働契約の下で働く保護対象者の雇用を保護するための措置には、以下のものが含まれます。
・雇用主に違反行為の停止を要求し、保護対象者に職位、収入、その他の雇用による合法的な利益を回復させること。
・法律に従って違反行為を処理するために、権限に従って処理するか、権限を有する機関、組織、個人を提案すること。
(ⅲ)生命、健康、財産、名誉及び尊厳を保護するための措置
・保護対象者を安全な場所に連れて行くこと。
・必要な場所において、保護対象者の生命、健康、財産、名誉及び尊厳の安全を直接保護するための力、手段及び用具を手配すること。
・保護対象者の生命、健康、財産、名誉、尊厳を侵害する行為、又は侵害するおそれのある行為を防止し、対処するために、法令に基づき必要な措置を講じること。
・保護対象者の生命、健康、財産、名誉及び尊厳を侵害する行為を行う者、又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止を求めること。
・その他法令に定める措置。
9.インド
インド会社法上、全ての上場会社、銀行等からの借入額が5億ルピー以上である会社、公衆からの預託(預金、貸付、その他の形式で金銭を受け取ること)を受け入れている会社については、内部通報制度(vigil mechanism)を構築する義務があります(会社法177条9項)。
内部通報制度を構築するにあたっては、当該制度を利用する従業員等が不利益を被らないよう十分な保護策を講じ、監査委員会(Audit Committee)の委員長に直接連絡できるようにしなければなりません(同条10項)。
なお、インド会社法上の内部通報制度構築義務がない会社であっても、不正の防止や発見のため自主的に内部通報制度を導入する例も見られ、日本企業のインド子会社の場合にも、現地から日本本社の統一窓口に対し直接通報することができるグローバルな通報制度をインド子会社内に構築する例があります。
10. インドネシア
(1) 内部通報者保護の概要
インドネシアでは、内部通報者保護に関して、民間部門においては、法的枠組みは存在しておりませんが、公的部門において、関係する法制度が存在します。
内部通報者に関する定義においては、最高裁判所通達2011年第4号では、通報者(whistleblower)とは、組織または個人によって行われた特定の犯罪行為に関する活動について、自発的に情報を提供する個人を指すとされています。
(2) 内部通報者保護
証人および被害者の保護に関する法律2014年第31号(以下、「証人および被害者の保護に関する法律」といいます。)第5条の下、通報者は以下の権利が保証されています。
・証言を行う、または行ったことに関連する脅迫に対して、個人、家族、および財産の安全を確保するための保護を受ける権利
・保護および安全支援の形式の選択、決定する権利
・いかなる圧力も受けずに情報を提供する権利
・通訳を得る権利
・誤解を招くような質問を受けない権利
・裁判手続きの進捗について知らされる権利
・裁判の判決について知らされる権利
・被告人の釈放について知らされる権利
・身元を秘密にする権利
・新しい身元を取得する権利
・一時的な移転を受ける権利
・新たな居住地への移転を受ける権利
・必要に応じた交通費の補償を受ける権利
・法律相談を受ける権利
・保護が終了するまでの間、一時的な生活費を受ける権利
また、通報者を保護する権限を持つ機関としてLPSK(Lembaga Perlindungan Saksi dan Korban)が設置されており、LPSKは、a. )法律および規制に従い、保護対象者の身元を変更する、b.) 安全な避難施設を管理する、c.) 保護対象者をより安全な場所へ移動または再配置する、d.) 警備および護衛サービスを提供する、e.)裁判手続きにおいて証人及び/又は被害者を支援する権限を有しています(証人および被害者に関する法律第11条)。
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第1.各国における海外からの借入に関する規制の概要 |
1.日本
外国為替及び外国貿易法(「外為法」)は、対外取引が自由に行われることを基本としており(同法1条)、海外からの借入についても、原則は自由です。
ただし、貸付を行う側が規制を受ける場合があります。外為法上の「外国投資家」(同法 26 条 1 項)が、国内法人に対し、1年を超える金銭の貸付を行う場合で以下のいずれにも該当する場合には(外為法26条2項7号、対内直接投資等に関する政令2条14項)、財務大臣及び事業所管大臣に対し、当該取引前に届け出る(「事前届出」)か、当該取引後に報告する(「事後報告」)必要があります(同法 27 条 1 項、55 条の 5 第1 項)。事前届出や事後報告は当該外国投資家によって行われ、特定の書式にしたがって、貸付額や借入期間、金利、貸付金の使途等、所定の事項を記入しなければなりません。
(対象となる貸付)
1.当該貸付け後における貸付けの残高が1億円に相当する額を超えること
2.当該貸付け後における貸付けの残高と、当該外国投資家が所有する当該国内法人が発行した社債との残高の合計額が、当該貸付け後における当該国内法人の負債の額として省令が定める額の50%に相当する額を超えること
事前届出を要するものについては、政令や省令等で定めがあり、一定の国・地域の外国投資家からの借入や指定の業種を営む日本企業に対する貸付については、安全保障等の観点から事前届出の対象となります。事前届出を要するものに該当しない場合であっても、事後報告を行うこととなりますが、政令で事後報告が不要とされる例外が定められている場合もあります。
2.タイ
タイでは、海外からの借入を受ける場合に規制はなく、自由に行うことができます。
もっとも、日本の親会社がタイの会社に対して貸付を行う場合、日本の親会社が外国人事業法上の規制を受ける可能性があります。外国人事業法上、貸付行為が「その他サービス業」と判断された場合、外国人事業許可が必要となります。タイ国内の「グループ会社」への貸付については、「その他サービス業」には含まないとする商務省令がある一方、同省令に規定する「グループ会社」の定義に含まれない場合には、外国人事業法上の規制を受けることになります。
3.マレーシア
マレーシアでは、マレーシア中央銀行(Central Bank of Malaysia)が、市場で取引される通貨、証券、その他の金融商品に関連するデリバティブ市場の秩序ある状況または完全性を規制等することを目的として、規則その他ガイドラインを発行する権限を有しています(金融サービス法140条⑴、マレーシア中央銀行法43条⑴参照)。そして、マレーシア中央銀行は、以下に述べるとおり、一定の条件のもとで海外からの借入(オフショアローン)を認めています。
(2) 居住者と非居住者の別
後述⑶以下で述べるとおり、海外からの借入については、居住者とそうでない者(非居住者)とで、取扱いを別にしています。
「居住者」とは、次に掲げるいずれかに該当する者をいいます。
(a) マレーシア国民(マレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住する者を除く)
(b) マレーシアの永住権を所持し、定住する非マレーシア国民
(c) マレーシアで設立、登録、または認可された企業(法人・非法人、本社・支店を問わない)
「非居住者」とは次のいずれかに該当する者をいいます。
(a) 居住者以外の個人
(b) 居住者である会社の海外の支店、子会社、地域事務所、営業所、駐在員事務所
(c) 大使館、領事館、高等弁務官事務所、超国家機関、国際機関、またはマレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住するマレーシア国民
(3) 居住者に対する外貨建て信用供与
(a) 居住者である個人による借入れ
居住者である個人は、1,000万リンギを上限として、非居住者から外貨建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与には金額の制限はありません。
(b) 居住者である企業による借入れ
居住者である企業は、合計で1億リンギ相当額を上限として、非居住の金融機関または同一企業グループではない非居住者から、外貨建て信用供与を得ることができます。外貨建て借入れの元本および利息についても、認可額を超えない範囲で借換えが可能となっています。
(4) 居住者に対するリンギ建て信用供与
(a) 居住者である個人
居住者である個人は、マレーシア国内での使用を目的として、非居住者の企業(金融機関を除く)または個人から、100万リンギを上限とするリンギ建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与について、金額の制限はありません。
(b) 居住者である企業
居住者である企業は、マレーシア国内の実需に基づく活動のために、同一企業グループ内の非居住者の他社(非居住者金融機関を除く)または非居住者の直接株主から、金額の制限なく自由にリンギ建て信用供与を得ることができます。さらに、合計で100万リンギ相当額を上限として、マレーシア国内での使用を目的として、同一企業グループ以外の非居住者企業からリンギ建て信用供与を得ることができます。
4.ミャンマー
2020年はじめに、ミャンマー中央銀行よりオフショアローン承認申請に関する基準を変更する内容の告知が発布されました。ミャンマーでは、外国から借入れを行う場合、事前に中央銀行より当該借入れの承認を得なければならず、承認を得ずに送金を行うと、返済時に貸主への海外送金が認められません。
(2) 中央銀行の承認基準
ミャンマー中央銀行は、申請者から提出された所定の書類を基に以下の事実を検討及び精査し、申請を承認又は拒否します。
- 申請者がMIC許可会社の場合、資本金がUSD500,000を超えているか否か
- 申請者が投資企業管理局(DICA)で登記された会社の場合、資本金がUSD50,000を超えているか否か
- 申請者(借用人)の外国為替収入が一致しているかどうか
- 借用人が、ミャンマー国内事業から生じた通常収入から融資の返済が可能かどうか、及び、申請者が外国為替の収入を有する場合は、為替リスクを軽減する見通しがあるかどうか
- 借用人が既にMIC許可で約束された資本金の80%を送金しているか否か
- 申請者の企業がMIC許可会社の場合、負債比率が最大4対1以内か否か
- 申請者の企業がDICA登録会社の場合、負債比率が最大3対1以内か否か
- 融資契約及び書類に記載されている取引条件が正確に作成されているか否か
- 融資額保有期間が中期及び長期の場合も、返済計画が融資契約と一致しているか否か
5.メキシコ
メキシコでは、海外からの借入(オフショアローン)について、規制する法律はありません。
そのため、事前に特定のライセンスの取得や承認取得手続き等を経ることなく、現地法人が日本の親会社等から直接借入れを行うことも可能です。
6.バングラデシュ
(1) 法規制
バングラデシュにて海外からの借入(オフショアローン)を行う場合は、1947年外国為替規制法のほか、2018年外国為替取引ガイドラインにて規定されています。民間企業が海外からの借り入れを行う場合、原則として、バングラデシュ投資開発庁(BIDA)の許可とバングラデシュ中央銀行の許可の双方が必要となります。
以下の内容は、2018年外国為替取引ガイドラインに基づいておりますが、オフショアローンについては、運用や規定の変更が頻繁に行われますので、確認と調査が必要となります。
(2) 2018年外国為替取引ガイドラインの規制
(a) 外資系企業の海外の親会社、株主から無利子ローン
外資系企業は、次の要件を満たす場合、親会社、株主からの無利子ローンが認められます。
- バングラデシュ内で運転資金の資金調達が準備されていない
- 資材調達以外のビジネスニーズのために短期借入金が緊急に必要とされる
この場合、バングラデシュ銀行からの事前の承認なしに最大 1年間利用することができます。ただし、ローンを利用してから1週間以内に、公認為替取引銀行を通じてバングラデシュ銀行本部の外国為替運用部に事後報告することが必要になります。
(b) 輸出加工区・経済特区の工業企業の中長期の対外借入
輸出加工区などにある工業企業は、次の点を審査の上でオフショアローンが認められます。
- プロジェクトの工業的実行可能性
- 収益から提案された債務を返済するプロジェクトの能力
- 国内外の市場におけるプロジェクトのアウトプットのコスト競争力
- 借入提案のプロジェクトの潜在的な国内および外部需要
- 銀行及びバングラデシュ銀行のCIB報告書によって裏付けられたプロジェクトスポンサーの債務状況
7.フィリピン
フィリピンにおける外国ローンや外国通貨建てローンに関する規制の概要を紹介します。外国ローンや外国通貨建てローンは、主にフィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas)によって規制されています。この規制の詳細は、フィリピン中央銀行が発行している「外国為替取引規制マニュアル」(Manual of Regulations for Foreign Exchange Transactions)で確認することができます。
「外国ローン」とは、フィリピン居住者がフィリピン非居住者に対して負うローンを指します。国内ローンか外国ローンかを判断する基準は、債権者がフィリピンに居住しているかによって決まります。そのため、フィリピン通貨でのローンであっても、債権者がフィリピン国外に居住している場合は「外国ローン」に該当します。
他方で、「外国通貨建てローン」とは、たとえば、フィリピン居住者またはフィリピン非居住者の民間セクターが、フィリピン国内で営業する銀行に対して負うローンを指します。
そして、企業などが借入れを受ける際に、政府機関などの公的セクターから保証を受ける場合には、ローン契約を締結する前にフィリピン中央銀行から事前の承認を受ける必要があります。また、ローンを外貨で返済する場合は、別途フィリピン中央銀行への登録が求められます。
公的セクターの保証がない場合でも、ローンや利息などを外貨で返済するためにフィリピン国内の銀行から外貨を購入する際には、原則としてフィリピン中央銀行への登録が必要となります。
8.ベトナム
ベトナムの法律によれば、「オフショアローン」または「外国ローン」とは、金銭消費貸借契約、後払い輸入契約、貸付信託契約、金融リース契約、または借主による国際市場での債務証書の発行を通じた、あらゆる形式の外国からの借入れにおいて、政府保証のない外国ローン(いわゆる「自己借入・自己返済ローン」)と、政府保証付きの外国ローンを総称する用語です。
外国ローンを実施できる対象は、ベトナム国内で設立・営業している企業、協同組合、協同組合連合会、金融機関等の信用機関、外国銀行の支店などです。外国からの借り入れや債務返済を行う場合、借主は、ベトナム国家銀行の規定に従って、借入れの登録、口座の開設と使用、資本金の引き出しおよび債務返済のための送金、借入れの実施に関する報告を行うなど、外国からの借り入れや債務返済に関する条件を遵守しなければなりません。
外国ローンの契約書は、貸主が借主に対し、一定の期間内に元本と利息(利息に関する合意がある場合)の両方を返済することを原則とし、特定の目的のために使用する金銭または資産(金融リース契約の形態の外国ローンの場合)を送金する、または送金することを約束する、当事者間の合意を記録した1つまたは一連の文書です。外国ローンの契約書は書面で作成する必要があり、電子データメッセージ形式の契約の場合は、電子取引に関する法律の規定を遵守しなければなりません。
外国ローンの通貨は外貨です。ベトナム・ドンによる外国ローンは、一定の場合にのみ可能です。
外国ローンの期間は以下のように分類されます。1年未満の短期ローン、5年未満の中期ローン、5年以上の長期ローンです。中長期ローンについては、国家銀行(SBV)への登録と定期報告書の提出が、短期ローンの場合は定期報告書が義務付けられています。
借主は、外国からの短期ローンを、借主の外国債務のリストラクチャリングおよび現金で支払う短期債務(国内ローンの主債務を除く)の支払いの目的でのみ、利用することができます。借主は、外国からの中期および長期ローンを、借主の投資プロジェクトの実施、借主の生産・事業計画その他のプロジェクトの実施、借主の外国債務のリストラクチャリングの目的でのみ、借り入れることができます。借主の外国ローン利用は、国家機関の認可を受けた書類の事業範囲と活動範囲に合致していなければなりません。
9.インド
⑴ 規制の概要について
インド法人が海外の銀行や企業などから借入を受けることは、「対外商業借入」(External Commercial Borrowing。以下「ECB」といいます。)と呼ばれます。ECBを実施するにあたっては、1999年外国為替管理法及びインド準備銀行が定めるECB規制に従う必要があります。
ECBには、「外貨建て」と「ルピー建て」の二つの枠組みがあり、借入人の資格、貸付人の資格、借入期間、金利等に関する要件が定められています。
借入が、所定の要件を満たす場合には、自動承認となり、口座を管理する銀行の審査のみで借入が可能です。他方で、借入が所定の要件を満たさない場合には、事前にインド準備銀行の承認を得なければなりません。
⑵ ECB規制の要件について
| 外貨建てECB | ルピー建てECB | |
| 借入人 | 外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)を受け入れることができる事業体 | |
| 貸付人 | インド国外の親会社などの法人や銀行等 ただし、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)または 証券監督者国際機構(International Organisation of Securities Commission’s:IOSCO) 加盟国の居住者である必要がある。 *日本はいずれにも加盟している。 |
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| 平均借入期間 | 原則3年 *製造業における1会計年度当たり5000万米ドル相当額までのECBの場合には1年等、 一定の場合には例外あり。 |
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上限金利
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・新規のECBの場合:ベンチマークレート+ 500ベーシスポイント ・既存のECBの場合:ベンチマークレート+ 550ベーシスポイント |
ベンチマークレート+450ベーシスポイント |
| *ベンチマークレートとは、外貨建てECBの場合、借入通貨に適用されるインターバンク・レートまたは6か月間の 代替参照レートを指す。ルピー建てECBの場合、対応する期間の国債の金利を指す。 *ベーシスポイントとは、金利の表示単位で、1ベーシスポイント=0.01%を意味する。 |
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| 資金使途 | 以下の使途には資金利用できない 1.不動産事業 2.資本市場への投資 3.運転資金(外国株主からの借入れの場合等は除く) 4.一般的な事業資金(外国株主からの借入れの場合等は除く) 5.ルピー建ての借入の返済 ⑥上記1.~⑥を使途とする再融資 |
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10. インドネシア
(1) 海外からの借り入れに関する規制
インドネシアでは海外からの借り入れ(オフショアローン)について、対象を➀銀行以外の法人と2.銀行に区分し、それぞれ規制されています。
(2) 銀行以外の法人による海外からの借り入れ
銀行以外の法人による海外からの借り入れについては、オフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2014年第16号(以下、「インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号」といいます。)において規制されています。
インドネシアにおいて海外からの借り入れを行う際には、➀四半期末から3か月以内および6カ月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、それぞれ25%以上の外貨建て資産を保有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第3条)、2.流動性比率に関して、四半期末から3か月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、70%以上の外貨建て資産を保有すること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第4条)、さらに、3.海外もしくは国内における格付け機関(Lembaga Pemeringkat)によって認定された、最低「BB」に相当する信用格付け(Peringkat Utang)を有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第5条)が義務付けられています。3.の信用格付けについては、債務残高の総額が増加しない、またはその増加が一定の限度内であるリファイナンスの場合や一定の要件を満たすインフラプロジェクトの資金調達の場合には、適用除外されます。さらに、(a) 親会社から外貨建て債務を借り入れる場合、(b) 親会社が外貨建て債務を保証している場合、(c) 商業活動開始後3年以内の会社の場合には親会社の信用格付けを利用することができます(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第7条)。また、上記3つの基準を満たしていることに関して、四半期ごとに、インドネシア中央銀行に報告する義務があり(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第8、9条)、遵守状況について、インドネシア中央銀行は監視および調査を実施する権限を有しています(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第10条)。
(3) 銀行による海外からの借り入れ
銀行による海外からの借り入れにおいては、上記(2)において記述した3つの規制が適用されることに加えて、1日あたりの短期負債の残高を資本の最大30%に制限する義務があり、長期負債の借り入れの際には、事前に、満期や借り入れ金額などの債務の条件や計画について、インドネシア中央銀行から承認を得る必要があります。また、長期負債の借り入れ取引後は、完了日から7営業日以内に取引内容をインドネシア中央銀行に、報告しなければなりません。(銀行によるオフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2019年第21号第4、5、9、14条)。
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1.日本
(1) 配当決定の手続き
株式会社が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、①配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額、②株主に対する配当財産の割当てに関する事項、③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日、をそれぞれ定めなければなりません(会社法454条)。
もっとも、㋐会計監査人設置会社であり、㋑取締役の任期が1年を超えず、㋒監査役会設置会社または委員会設置会社である場合には、取締役会の決議をもって剰余金の配当を行うことができる旨を定款で定めることができます(同法459条)。
また、 取締役会設置会社は、一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができます(同法454条5号)。
(2) 配当の支払に関する規制
まず、会社の純資産の額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当ができません(会社法458条)。
また、剰余金の配当は、株主に交付される財産の帳簿価額の総額が、当該行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(同法461条1項)。
分配可能額の計算方法としては、446条各号に従って分配時点での剰余金を算定し、当該剰余金の額を基に461条2項に従って、分配可能額を算出することとなります。
分配可能額を超えて配当が行われた場合、当該配当を提案した取締役および当該配当を受け取った株主は、会社に対し連帯して、当該配当額相当の金銭を支払う義務を負います(同法462条1項)。
2.タイ
(1) 配当決定の手続き
配当は、株主総会の決議に基づいて行われなければなりません(民商法1201条1項)。
ただし、取締役が、中間配当を行うための利益があることが明らかであると判断したときは、取締役の判断で中間配当を行うことができます(同条2項)。
また、配当の支払は、配当決定の決議から1か月以内に行われる必要があります(同条4項)。
(2) 配当の支払に関する規制
配当の原資は利益のみであり、また、会社に累積赤字がある場合には、当該累積赤字がなくなるまでは配当ができません(民商法1201条条3項)。
また、配当を実施する都度に会社は、会社の資本額の10分の1以上に達するまで、利益の20分の1を利益準備金として積み立てる必要があります(同法1202条1項)。
会社が、これらの規制に違反して配当を行った場合、会社の債権者は株主に対し、配当を受けた金額を会社へ返還するよう請求することができます。ただし、配当が規制に違反していることを知らなかった株主については、返還を強制されません(同法1203条)。
3.マレーシア
会社が株主に対して配当を実施するためには、会社が支払能力を有している必要があります(会社法131条⑴)。会社法によれば、少なくとも、会社が配当実行直後から12か月以内に支払期限が到来する債務を履行することができる状態にある場合には、その会社は支払能力があるとみなされます(同条⑶)。
加えて、会社による配当は、会社が得た利益からのみ実施できるとされています(同条⑴)。法律上、利益(profit)の内容について特段の定義は存在しませんが、裁判例によれば、ここにいう利益には子会社の利益は含まないことが確認されています。
利益が存在する時期について、会社法の文言上、その基準時は配当時であると考えられます。ただし、過去の裁判例には、その基準時について、配当宣言時に存在する必要があるものの、支払時に存在する必要はない旨判示したものが存在します。
(2) 配当規制違反の場合の効果
仮に、会社が支払能力要件を満たすことなく配当を実施し又は会社の利益以外から配当を実施した場合、会社は配当を受けた株主に対して、超過配当額相当の金額の返還を求めることができます(133条⑴)。ただし、株主が超過配当であることについて知らなかった場合や会社に支払能力がなかったことを知らなかった場合には、当該株主は、会社からの返還請求を拒絶することができます(同項(a)・(b))。
4.ミャンマー
会社法第107条及び第109条及び定款に従い、会社の取締役会は、その株主に対して配当を支払う旨を決議し、その金額、支払時期及び支払方法を定めることができます(会社法106条(a))。配当の支払方法は、現金、株式発行、オプション授与又は資産の譲渡によることができます(同条(b))。
会社は、以下の場合を除き、配当の支払を行うことはできません(会社法107条(a))。
- 配当支払の直後において会社が支払能力検査を充足すること
- 配当の内容が、株主に対して全体として公平かつ合理的であること、及び
- 配当金の支払が、債権者に対する会社の支払能力に重大な影響を与えないこと。
(2) 配当規制違反
会社が第107条の要件を遵守しなかった場合、会社は、50万チャットの罰金に処され、当該違反を認識しながら意図的に違反を許した全ての取締役又は役員も同じ罰金が科せられます(会社法108条(a))。
会社が配当の支払の後にそれと関連して支払い不能となった場合、第107条に違反していることを認識しながら意図的に配当の支払いを許した全ての取締役は、各債権者に対する弁済期が到来した負債の額が会社の責任財産を超過している限度において、会社の債権者に対しても責任を負います(同条(b))。
5.メキシコ
⑴ 配当の手続きについて
メキシコでは、配当金の支払いは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ行うことができるとされています(会社法第19条)。
配当は、株式の出資の履行の金額に比例して行われ(同法第117条1段落)、株式の発行日から3年を超えない期間は、年率9%を超えない配当を付す旨を定款で定めることができるとされています。定款で定められた場合、配当の額は一般経費に計上する必要があります(同法第123条)。
また、株券発行会社においては、株券に「クーポン」が添付されており、切り離して会社に示すことで配当をうけることができます(同法第127条)。
⑵ 違法配当について
前述のようにメキシコでは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ配当を行うことができます。
このような事情が無いにもかかわらず、会社が配当を行った場合、当該配当は法的効力を持たず、会社および債権者は、配当を受け取った者に対して訴訟を提起するか、支払った役員等に対して弁済を求めることができます。また、配当を受け取った者と支払った役員等は連帯して責任を負うことになります(会社法第19条)。
6.バングラデシュ
(1) 配当の方法
配当は、会社の利益から支払われ、利益の金額とは、会計年度の利益から減価償却を控除して算出されるものとされています。
会社は、定款で別段の定めがない限り、出席した株主の過半数の賛成で可決する普通決議(Ordinary Resolution)を行い、株式の配当を決定します。株主総会に提出される取締役会の貸借対照表には、i) 会社の状況、ii) 取締役が提案する貸借対照表に計上される準備金額(もしあれば)、iii) 取締役が推奨する配当金額(もしあれば)、iv) 貸借対照表が対象とする年度の最終日から報告日の間に生じた、会社の財務状況に影響する実質的な変化および義務に関する取締役会による報告書が添付されます(会社法184条1項)。
(2) 配当金の海外送金
配当金については、外国為替取引ガイドライン第10章「31.(a)非居住者の株主への配当金」により、海外送金する手続きが定められています。必要な書類を提出すれば、バングラデシュ銀行の事前の承認なしで送金することができます。また、配当金は、非居住者が管理する外貨口座に対する送金も可能です。
(3) 上場企業
上場企業は、配当に関して、バングラデシュ証券取引委員会(The Bangladesh Securities and Exchange Commission :BSEC) と、バングラデシュ中央銀行からの規制が定められています。
7.フィリピン
- 概要
フィリピンの会社法では、会社は留保利益(unrestricted retained earnings)から配当を行うことができます。支払額は、原則として株主が保有する発行済株式に基づいて決定されます。
配当の決定権は基本的に取締役会にあります。例外として、配当を株式で行う場合には、株主総会で発行済株式の3分の2以上の賛成を得る必要があります。さらに、取締役は、実務上、定時株主総会で配当方針や配当の有無を株主に説明し、配当を行わない場合にはその理由を説明することが求められます。
2. 配当の要件
配当を行うための基本的な要件をまとめると以下のとおりです。
- 留保利益があること。
- 取締役会で配当の決議を行うこと(配当を株式で行う場合、発行済株式の3分の2以上の賛成を得ること。)
- SEC(証券取引委員会)が出すその他の要件を遵守すること。
3.株主の配当受領に関する制限
株主が配当を受け取る権利には制限があります。株式の払い込みが未払いの株主については、配当金は未払いの株式引受金額および関連費用に充当され、残額のみが配当金として支払われます。また、配当を株式で行う場合は、株主が未払いの引受金額を全額支払うまで配当が保留されます。
4. 配当の義務
基本的に、配当を行うかは取締役会の裁量に委ねられています。そのため、留保利益があっても配当は会社の義務ではありません。ただし、例外として、保留利益が払込資本金を超える場合で、払込資本金を超える保留利益の保持が許可されない場合は、会社は配当を行う必要があります。
8.ベトナム
(1) ベトナムの企業規制における会社の種類
ベトナムの現行の企業規制では、複数の企業形態があり、それぞれ固有の法的特性と組織構造を持っています。その中で、国内および外国の企業家や投資家は、通常、有限責任会社(一人社員または複数社員で構成されます)または株式会社という企業形態を選択して、ベトナムで事業を立ち上げます。そこで、本ニュースレターでは、これらの種類の企業に関連する情報のみを取り上げます。
法律により、株式を発行し配当を受け取ることが認められているのは株式会社のみです。一方で、有限責任会社、特に複数社員で構成される有限責任会社は、対応する出資額に応じた割合で利益分配を受けなければなりません。
(2) 有限責任会社と利益分配
有限責任会社の社員の法定権利として認められ規制される利益分配を受ける権利は、現行の企業法に規定されています。有限責任会社の利益分配の計画は、社長または総社長が提案し、社員総会の承認を得る必要があります。有限責任会社に現金またはその他の財産で資本金を拠出した個人社員および組織社員の委任代表者全てが、事業の最高決定機関である社員総会を構成します。
有限責任会社が利益を分配するための条件には以下が含まれます。
- 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
- 利益分配を実施した後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。
上記の条件のいずれかが満たされない場合、有限責任会社の社員が利益分配として会社から受け取った金銭や財産は、違法な利益分配とみなされます。この場合、社員は受け取った全ての金額や財産の全額を返還しなければなりません。また、社員は、返還されていない現金や財産の割合に応じて、それらが全額返還されるまで、会社の債務や負債について共同で責任を負う義務があります。
(3) 株式会社と配当
現行の企業法では、配当とは、1株当たりの現金またはその他の財産に対する純利益と定義されています。株式会社の株式は普通株式と各種優先株式(配当優先株式、償還優先株式など)に分けられます。優先株式の配当は、それぞれの優先株式に記載された条件に従って支払われます。そこで、本ニュースレターでは、普通株式の配当に適用される条件のみを概説します。
普通株式の配当は、以下の条件を満たす場合に限り、法定の支払方法によるベトナムドン(現金)での支払い、または株式や株式会社の会社定款に規定されたその他の財産での支払いが可能です。
- 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
- 法律および当該会社の定款に従って、会社の資金への拠出を完了し、過去の損失を補填した後であること。
- 配当後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。
株式会社が株式による配当を選択する場合、株式の募集手続きではなく、定款資本を増加させる手続を行う必要があります。
定時株主総会終了後6か月以内に、配当は株主に支払われます。取締役会は、配当を受ける株主の名簿、株式ごとの配当額、配当の支払時期および支払方法を、毎回の配当支払日の遅くとも30日前までに作成する責任を負います。配当支払日の遅くとも15日前までには、株主の登録住所に配当支払通知書を速達で送付しなければならず、その通知には、最低でも法律で定められた5項目の情報が記載されている必要があります。また、株主名簿の作成日から配当支払日までの間に株式を譲渡した場合は、譲渡人が配当を受け取ります。なお、ベトナムの株式会社の取締役会は、例えば英国や米国の法律に基づいて設立された会社の取締役会と多くの点で類似しています。
配当が前述の要件や規制に違反する場合、配当は違法とみなされます。この場合、株主は受け取った金額や財産を全額返還する義務があります。もし返還が行われない場合、取締役会の全メンバーは、未回収の金銭または財産の価値に相当する会社の債務および負債について共同責任を負うことが求められます。
9.インド
⑴ 配当の手続きについて
インド会社法では、配当とは中間配当を含むとしています(会社法2条(35))。したがって、中間配当と期末の配当を行うことが可能です。
会社は減価償却後の利益から、若しくは減価償却後の未配当の過去の会計年度の利益から、又はその両方から適当と認められる配当率及び配当額を決定して配当の宣言を行うことができます(会社法123条(1)(a))。いずれかの会計年度において利益が不十分な会社については、配当の宣言及び支払に関する会社規則(Companies (Declaration and Payment of Dividend)Rules 2014)に規定する以下の条件従うことを条件として配当を行うことが可能です。
- 配当金の率が直前の3年間の平均を超えないこと
- 配当額が払込資本金及び準備金の合計額の10分の1を超えないこと
- 引き出された金額は、配当が宣言される前に配当を宣言する会計年度に発生した損失を相殺するために使用される
- 配当支払後の準備金が払込資本金の15%を下回ってはならない
取締役会で配当額や年次株主総会の日付等が決議され、配当の宣言は年次株主総会の普通決議の議題となります(会社法102条(2))。
中間配当については、取締役会は、会計年度中に、損益勘定の剰余金及び中間配当を宣言しようとする会計年度の利益から中間配当を宣言することができます。ただし、中間配当の宣言日の直前四半期末までの当会計年度に損失が発生した場合、当該中間配当は、直前3会計年度に会社が宣言した平均配当率を上回る率で宣言してはなりません(会社法123条3項)。
⑵ 配当期間の規制について
会社によって配当が宣言されたにもかかわらず、宣言の日から30日以内に配当が行われなかった場合、配当金の不支給について故意の取締役は2年以下の禁固刑、および違反が継続する期間につき1日当たり1,000ルピー以上の罰金に処せられ、会社は違反が継続する期間中、年18%の単利を支払う義務を負います(会社法127条)。
10. インドネシア
(1) 配当金の支払い
インドネシアにおける配当金について、株式会社は、各会計年度の純利益の一部を準備金として積み立てる義務があり、資本金額の20%を超えるまで積み立てる必要があります。純利益の配当は、定款で別段の定めがない限り、及び/又は、株主総会における配当額などに関する普通決議がない限り、準備金控除後の純利益を株主に配当金として支払わなければなりません(2007年第40号(以下、「会社法」といいます。)70条、71条)。
株主が受け取る配当金の金額は、保有する株式の割合に比例し、会社が利益残高を有する場合にのみ配当が可能です。なお、5年以上、未払いとなっている配当金は特別準備金(cadangan khusus)として保管され、10年間未払いのままである場合、それらの配当金は会社の収益の一部として引き継がれます(会社法73条)。
(2) 中間配当
インドネシアでは、中間配当の支払いも可能ですが、会社の定款に定める必要があります。また、中間配当は監査役会での承認を得た後、取締役会決議に基づき決定され、①会社の純資産額が発行済みおよび払込済みの資本金と準備金を下回らない場合、②債権者への義務や会社の活動の妨げにならない場合に限り配当が可能です。なお、会計年度の終了後に、会社が損失を被った場合、すでに分配された中間配当は、株主によって会社に返還されなければならない義務があり、返還できない場合には、取締役およびコミサリス(監査役)は会社が被った損失に対して連帯責任を負います(会社法72条)。
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1.日本
(1) 懲戒処分の種類
懲戒処分の種類は会社ごとに様々ですが、一般的には、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等が挙げられます。
(2) 懲戒処分に関する規制
懲戒処分にあたっては、あらかじめ、就業規則において懲戒処分の種類と懲戒事由を定めてくことが必要とされます(フジ興産事件。最高裁昭和平成15年10月10日)。なお、就業規則は、労働者への周知と内容の合理性を要件にその有効性が認められるため(労働契約法7条)、懲戒に関する就業規則の規定についても、その内容が合理的であることが求められます。
また、懲戒処分を行うにあたっては、対象となる労働者に対し懲戒事由を告知し弁明の機会を与える等適正な手続きが履践されていることが必要であり、そのような手続きを就業規則中に定めておくべきです。
なお、懲戒権の行使が権利の濫用とならないよう注意が必要です。この点、懲戒処分の内容が不相当に重い場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できず、権利の濫用と判断される可能性があります(ネスレ(日本)懲戒事件。最高裁平成18年10月6日)。
2.タイ
(1) 懲戒処分の種類
労働者の懲戒処分に関しては、労働者保護法に規定があります。同法には懲戒解雇等の規定はあるものの、懲戒処分の種類や手続き等に関して法令上の明確な定めはありません。そのため、タイの実務上は、懲戒処分の種類や手続きに関して、自社の就業規則において記載するケースが多く見られます。
タイの実務上、一般的に行われている懲戒処分として、口頭または書面による警告、停職、普通解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いを伴う解雇)、懲戒解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いなく行う解雇)が挙げられます。その他、会社内の就業規則において、懲戒処分としての減給を定めている会社も見受けられますが、減給処分については、労働者保護法に反するという見解もあり、注意が必要です。
(2) 懲戒処分の手続きについて
前述のように、労働者保護法上、懲戒処分の手続き等を定めた明文規定は存在しません。そのため、懲戒処分の手続きは、会社と労働者間の契約内容や就業規則の定めによることとなるため、就業規則中では、何が懲戒事由にあたるかを具体的に定め、懲戒を行う際の手続きも明確化しておくことが大切です。
(3) 懲戒解雇について
通常、労働者を解雇するにあたっては、事前の解雇予告(労働者保護法17条2項)と解雇補償金の支払い(同法118条)が必要です。もっとも、解雇理由が、労働者保護法119条1項所定のいずれかに該当する場合には、事前の解雇予告と解雇補償金は不要とされています。同条の定める非違行為は以下のとおりです。
① 職務上の不正または使用者に対する故意の犯罪行為。
② 故意に使用者に損害を与えた場合。
③ 過失により使用者に重大な損害を与えた場合。
④ 使用者が文書で警告したにもかかわらず就業規則、社内規定、使用者の合法的な命令に違反した場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。文書の有効期限は、労働者が違反行為を行った日から1年間である。
⑤ 正当な理由なく、間に休日を挟むか否かを問わず、三日間連続して職務を放棄した場合。
⑥ 最終判決で禁固刑を受けた場合。(ただし、過失犯や軽犯罪の場合は使用者に損害を与えた場合に限る。(同条2項))
なお、労働裁判においては、タイの裁判所は労働者側に有利に判断する傾向にあり、労働者側が不当解雇であると主張するケースは少なくありません。労働者側から、後に、不当解雇であると主張されるリスクを減らすためにも、懲戒解雇を行うにあたっては慎重に準備を進めておくことが必要です。
3.マレーシア
従業員の懲戒処分について規定する法令は雇用法(Employment Act 1955)です。同法14条によれば、従業員が非違行為(misconduct inconsistent)を行った場合、使用者は、当該非違行為の事実について適正な調査を行った上、当該従業員に対して、懲戒処分を行うことができます。
雇用法上想定されている懲戒処分には、①予告期間を設けない解雇、②降格、③2週間を超えない無給停職その他の適切な処分(ただし、解雇・降格より緩やかな処分)があります(雇用法14条⑴(a)~(c))。
(2) 適切な懲戒処分の選択
どのような懲戒処分が当該従業員にとって適切であるのか、使用者は慎重に検討する必要があります。とりわけ、懲戒解雇を選択するような場合には、より慎重な判断が必要となります。すなわち、マレーシアにおいても、従業員に対する解雇が有効となるためには、解雇することについて正当な事由(just cause or excuse)が必要であるとされています。
また、非違行為には、犯罪行為のほか、職務命令違反、常習的な遅刻・欠席、セクシュアルハラスメント等多岐にわたり、会社に対する不利益の程度も様々です。使用者としては、従業員の非違行為の内容、動機、当該非違行為により会社が被った不利益等事情を総合考慮した上、適切な懲戒処分を選択する必要があります。これらの事情に比して懲戒処分の内容が重すぎる場合、当該懲戒処分が無効となる可能性があります。
(3) 懲戒処分を行うために必要な手続
使用者が懲戒処分を実施するためには、当該処分の前に、due inquiryと呼ばれる社内審問手続を実施しなければなりません(雇用法14条⑴柱書)。ところが、会社がdue inquiryとして、具体的にどのような手続を実施すればよいかについては、雇用法上明確に規定されてはいません。
実務上は、当該非違行為の有無を調査のうえ、当該従業員に問題となっている非違行為の具体的内容を通知するとともに、理由提示命令書を送付する等により、当該従業員に対して弁明の機会を付与すべきとされています。
このような手続に瑕疵があると、懲戒処分自体が無効となる場合があります。裁判例には、懲戒解雇を正当化できるだけの重大な非違行為があったとしても、適切な時期に警告等を行わなかったことを理由として、または、due inquiryが適切に行われなかったことを理由として、当該解雇の効力を否定したものがあります。
(4) 解雇手当について
雇用法上、従業員を解雇する場合には、使用者は12か月以上継続して雇用した労働者との間の雇用契約を終了させる場合、原則として勤務年数に応じた解雇手当を支払う必要があります(雇用規則3条1項)。もっとも、適切なdue inquiryを行った上、雇用契約の明示又は黙示の条件に反する労働者の不正行為に基づき使用者が雇用契約を終了させた場合には、当該解雇手当の支払は免除されます(雇用規則4条以下)。
4.ミャンマー
ミャンマーでは、懲戒処分の種類・内容・手続きに関して法令上規定されておらず、各会社の就業規則等で詳細を定める運用となっております。懲戒解雇についても特段の法令上の規定は存在しません。
(2) 減給
労働者が引き起こした損害又は不履行を保証するために罰金として賃金から控除する場合、賃金支払法に基づき、控除額は月給の5%を超えてはならない旨規定されています。
5.メキシコ
⑴ 懲戒処分の種類
同法によれば、懲戒処分としての停職は8日間を超えてはならない旨や、懲戒処分を受けようとする労働者は事前に意見を述べる権利を有する旨が規定されています(連邦労働法第423条)。
他方、使用者が労働者の給与を減額した場合、労働者は雇用契約を終了させることが可能であり、補償金を受け取る権利があるとされています(同法51条)。
⑵ 懲戒解雇について
使用者は、以下の正当な事由がある場合は、いつでも雇用関係を終了させることが可能とされています(同法47条)。
- 労働者が就労の際に虚偽を用いた場合(ただし、就労の開始から30日以内に限る)
- 自衛行為を除き、労働者が業務中に不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
- 労働者が同僚に対し職場の規律を乱すような不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
- 業務時間外において、労働者が使用者、顧客や取引先、またはその家族に対する正当な理由のない脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行い、その結果、雇用関係を維持することが困難となった場合
- 労働者が、業務中、故意に建物、機械、原材料等業務に関する物体に被害を与えた場合
- 労働者が重大な過失によって建物、機械、原材料等業務に関する物体に影響を与えた場合
- 労働者に不注意による職場の安全を脅かす行為があった場合
- 労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントやいじめ等の非道徳的行為を行った場合
- 労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合
- 労働者に30日間のうち4日以上の正当な理由のない欠勤があった場合
- 労働者が正当な理由なく業務命令に従わない場合
- 労働者が職場における安全規則に従わない場合
- 労働者に職場での酩酊または薬物の使用があった場合(ただし、薬物の使用について、労働者が事前に使用者に対して医師の診断書をもって使用を申請していた場合を除く)
- 労働者が懲役刑に処された場合
- 労働者に起因する事由によって、就労に必要な書類が欠如しており、使用者がこれを知ってから2か月を経過しても改善されない場合
- その他これらに類する重大な行為があった場合
使用者は当該労働者に対して、当該事由およびその事由が発生した日付や期間を記した書面によって解雇を即日かつ直接通知するか、解雇日から5営業日以内に管轄の労働裁判所に当該労働者の住所とあわせて届け出る必要があります。この場合、使用者に代わって当該労働裁判所が労働者に当該解雇通知を送達することとなり、労働者が通知を受け取った時にこの解雇の効果が生じることになります。
6.バングラデシュ
バングラデシュ労働法及びEPZ労働法において、懲戒の種類、懲戒の理由、手続きが定められています。
(1) 懲戒処分の種類(労働法23条2項)
① 退職(懲戒解雇と異なり、勤務年数に応じた補償金が支払われます)
② 1年を超えない期間の降格・減給
③ 1年を超えない期間の昇進の保留
④ 1年を超えない期間の昇給の保留
⑤ 罰金
⑥ 7日を超えない期間の賃金または特別手当なしの停職
⑦ 厳重注意および警告
(2) 懲戒の理由(労働法23条1項、4項)
使用者は、労働法で定められた懲戒処分の対象となる不正行為が、労働法24条の手続きで認められた場合、懲戒理由とすることができます。また、懲戒解雇に限り、犯罪行為で有罪になった場合も懲戒理由とすることができます。
懲戒処分の対象となりうる不正行為は次のとおりです。(労働法23条4項)
① 上長からの適法又は正当な指示に対して、個人又は複数で故意に従わないこと
② 事業や使用者の資産に関連した窃盗、横領、詐欺、不正行為
③ 業務に関連した贈収賄
④ 常習的及び一度に10日を超える無断欠勤
⑤ 常習的な遅刻
⑥ 常習的なルール違反や規則違反
⑦ 事業所における無秩序、暴動、放火、破壊行為
⑧ 常習的な職務怠慢
⑨ DIFEから承認を受けた、業務遂行や規律を含む雇用に関するルールの常習的な違反
⑩ 使用者の公的な記録の改変、偽造、不当な変更、損傷、損害をもたらすこと
(3) 懲戒の手続き(労働法24条)
まず、使用者は、不正行為と思料される事実を記載した書面を作成します。(労働法24条1項a)。次に、労働者に対して同書面を交付して7日以上の釈明する期間を与えます(同項b)。その期間内に、労働者に聴聞の機会を与えます(同項c)。労働者の釈明により不正行為がないと使用者が判断した場合はその時点で手続きは終了し、本行為について以後不問とされます。釈明しても疑義が解消されない場合は、同数の使用者代表者及び労働者代表者で構成された調査委員会を立ち上げて、60日以内で調査を行います(労働法24条1項d、労働規則25条1項)。
調査委員会の調査の結果、不正行為が認められた場合、使用者は、懲戒処分の決定を行うことができ(労働法24条1項e)、懲戒処分の決定を労働者に対して書面にて通知します(労働法24条8項)。
(4) EPZ労働法及びEPZ労働規則
EPZ内で適用されるEPZ労働法及びEPZ労働規則においても、懲戒についてはおおむね同様の内容が定めらています(EPZ労働法21条、EPZ労働規則23条乃至26条)。
懲戒の対象となる不正行為には、(2)の①乃至⑩に加えて次の項目が追加され、より具体的かつ詳細になっている点が特徴です(EPZ労働規則23条j乃至r)。
① 使用者の公式記録を改ざん、不当に改変、損傷、または紛失させること
② 工場の禁止区域での喫煙
③ 会社、企業、工場、またはEPZ内で薬物を摂取または消費し、秩序を乱す行為
④ 性的嫌がらせまたは身体的暴行
⑤ 使用者の同意なしに、会社、企業、または工場の敷地内で何らかの目的で募金活動またはキャンペーンを行うこと
⑥ 氏名、年齢、学歴、前職について虚偽の情報を提供すること
⑦ 求人応募に虚偽の情報を提供し、証明書を偽造すること
⑧ 会社、企業、または工場の敷地内で金銭を貸し借りしたり、金融業務を行ったりすること
⑨ 適切な当局の承認なしに、会社、企業、または工場の敷地内でチラシ、パンフレット、またはポスターを配布または掲示すること
7.フィリピン
(1) フィリピンにおける懲戒処分の概要
フィリピンでは、日本と同様に従業員に対して懲戒処分を行うことができます。処分の内容は基本的に会社の裁量に任されており、訓告、減給、降格、解雇など日本と類似の処分を下すことができます。
会社は就業規則などで懲戒処分について定めることができますが、処分の内容は合理的である必要があります。不合理に重い罰則は無効とされる可能性があります。特に解雇に関しては、適用条件や手続が労働法によって規定されており、会社はこれらの規定を遵守する必要があります。
従業員が会社からの懲戒に対して納得ができない場合、労働関係委員会(National Labor Relations Commission)などに対して異議を申し立てることができます。
(2) 懲戒に関する判例
懲戒に関する判例を紹介します。最高裁で問題になるケースの多くは、不適切な行為を行った従業員に対する解雇に関するものです。
・Perez v. Philippine Telegraph and Telephone Company, G.R. No. 152048, April 7, 2009
フィリピン法上、従業員は解雇される際に聴聞と弁明の機会を与えられる必要があります。この点について、判例は、解雇手続において必ずしも正式な聴聞会を実施する必要はないことを判示しています。従業員に対して聴聞および弁明の機会を提供することが必要ですが、これには正式な聴聞会を通じて行う場合だけではなく、解雇に関する通知後に書面で説明を提出する方法も認められています。
他方で、判例は、例えば以下の場合において正式な聴聞会が例外的に必要とされる場合があることも認めています。
・従業員が書面で要求した場合
・根拠に関して争いがある場合
・会社の規則や慣行で義務付けられている場合
・その他の状況で正当化される場合
・Malcaba, et al, v. ProHealth Pharma Philippines, Inc., G.R. No. 209085, June 06, 2018
この判例は、解雇が最後の手段であるべきであることから、会社は解雇を行う際は状況を十分に把握して評価したうえで、解雇の理由が事実かつ重大なものであることを確認する必要があることを判示しています。
8.ベトナム
ベトナムの労働法において、懲戒処分は、使用者が、法令で認められている範囲内で、就業規則において定めるべきものとされています。就業規則で定めることができる懲戒処分の内容としては、譴責、最長6か月の昇給猶予、降格、解雇の4つがありますが、1つの違反行為に対して複数の懲戒処分を課すことは禁止されています。懲戒処分の時効期間は、違反行為が行われた日から6か月、財務、資産、技術・営業秘密の漏洩に直接関係する違反の場合は12か月です。懲戒処分の手続の概要は次のとおりです。
- 使用者は、従業員に対して懲戒処分を行う場合、労働規律処分会議を開催しなければなりません。
- 労働規律処分会議には、懲戒処分を受ける従業員が所属する基礎レベル労働者代表組織を参加させなければなりません。
- 使用者は、労働規律処分会議を開催する少なくとも5営業日前までに、その会議の内容、日時、場所、懲戒処分の対象となる者の氏名、懲戒処分の対象となる違反行為について、会議の参加者に通知し、会議開催前に参加者が確実にその通知を受け取ることができるようにしなければならなりません。
- 従業員は、弁護士又は労働者代表組織に弁護を依頼する権利があります。
- 労働規律処分会議の内容については議事録を作成し、会議終了前に確認された上で、出席者が署名しなければなりません。
9.インド
インド労働法は、懲戒処分の規定を設けていません。1947年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)(以下、「産業雇用(就業規則)法」)4条及び同法スケジュールでは、解雇、停職に関する懲戒処分及び当該懲戒処分の対象となる非違行為を構成する作為又は不作為を就業規則の必要的記載事項としています。したがって、懲戒処分は就業規則に記載された事由に基づいて行われる必要があります。懲戒処分は、使用者から労働者へ書面による非違行為の通知、労働者の防御のための聴聞の機会が与えられ、記録された証拠に基づいて処分の正当性が決定される必要があります。こうした手続は、判例法に基づく原則 (Principles of Natural Justice) からの要請であり、非違行為の存在を認識したからといって手続を経ずに懲戒処分を行った場合、当該懲戒処分が違法無効となる可能性があります。
もっとも、産業雇用(就業規則)法は、 100人以上のワークマンを雇用している事業場に適用されます(マハラシュトラ州、グジャラート州、カルナータカ州、ハリヤナ州では、州法により50人以上のワークマンが雇用されている産業施設に適用されます)。ワークマンとは、雇用又は報酬を得るため、肉体労働、非熟練労働、熟練労働、技術労働、作業労働、事務労働、又は監督労働を行うために雇用される者(見習いを含む)をいい、主に1万ルピー以上の賃金を得て管理・監督の立場で雇用されている者は含みません(1947年産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)2条)。
産業雇用(就業規則)法上、就業規則の作成が義務ではない事業場であっても非違行為を理由に労働者に不利益を科す処分については、判例法上の原則が適用されると考えられます。したがって、法令上の就業規則の作成義務に関わらず、全ての会社において、就業規則を策定し、懲戒処分に関する規定を定め、当該規定に従って懲戒処分を行うべきといえます。
10.インドネシア
(1) 懲戒処分の種類
インドネシアの懲戒処分については、①警告、②減給、出勤停止、③懲戒解雇の種類があります。懲戒処分に関する法制には、労働法2003年第13号(2022年の雇用創出に関する政府規則に関する法律第2号を改正した労働法2003年第6号)、労使関係紛争解決法2004年第2号、および年政府規則2021年第35号(期間契約労働契約、アウトソーシング、労働時間および休憩時間、解雇に関する政府規則)、2023年法律第6号に定められており、規則と手順に従って実施しなければなりません。
(2) 懲戒処分のための手続き
警告書に関しては、労働法第161条第1項で規定されています。インドネシアでは、従業員が就業規則、雇用契約書などに違反したとしても、すぐに解雇することは難しく、警告書を3回発行する必要があります。3回目の警告書を発行してから6カ月以内に、再度従業員が違反した場合に、初めて解雇することができ、3回目までに発行された、それぞれの警告書の有効期間は6カ月間です。
3回目の警告書を発行した後に解雇となった場合、雇用主と従業員が支払額やその他の権利や義務について合意し、雇用主と従業員は合意契約書(Perjanjian Bersama)を作成する必要があります。その後、雇用主は合意契約と雇用契約解除の理由をインドネシアの労使関係裁判所(Pengadilan Hubungan Industrial Indonesia)に登録し、合意契約登録証明書(Akta Pendaftaran Perjanjian Bersama)を取得する必要があります。
(3) 解雇手当
会社が従業員を解雇することになると、①退職金、②功労金、③権利補償手当など、企業に対する特定の義務が生じます。解雇は雇用主と従業員の合意の下で決定され、規定としては以下があります。
①退職金は、勤続期間が1年未満で固定給の1ヶ月分、2年未満で2ヵ月分、3年未満 で3ヶ月分と勤続年数に比例して増えていき、8年以上からは9ヵ月分で一定です。 ②功労金は、3年以上6年未満で固定給の2ヵ月分、6年以上9年未満で3ヶ月分、9年以上12年未満で4ヵ月分と勤続年数に比例して増えていき、24年以上は10ヶ月分で一定です。 ③権利補償手当には、未消化分の有給休暇の買取など、勤務期間に受けられるはずだった権利を補償する義務を指します。
警告書を発行した懲戒解雇の場合、①退職金については計算した金額の0.5倍、②功労金、③権利補償手当は計算金額をそのまま支給する必要があります。(法律2023年第6号)
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