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「各国における倒産法制度に関する法令の概要」 TNY Group Newsletter No.60 

第1. 各国における倒産法制度に関する法令の概要

1.日本

(1) 会社倒産制度の概要

 会社の倒産手続きには、法人破産、特別清算、民事再生、会社更生があります。このうち、法人破産と特別清算では法人を消滅させますが、民事再生と会社更生では法人を存続させたまま再建を図っていきます。

(2) 法人破産

 法人破産の申立ての要件は、法人が支払不能(支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)または債務超過(債務者がその債務につき、その財産をもって完済することができない状態のこと)であることです(破産法15条1項、16条1項)。また、法人破産の申立権者は、債権者または債務者です(同法18条1項)。なお、債権者が申立てを行うにあたっては、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければなりません(同条2項)。

 裁判所が申立てを受理し、破産開始決定をする際には、破産管財人が選任されます(同法31条1項)。破産管財人は、法人の資産を調査し、財産を換価処分する等の役割を担い、破産開始決定がされると、破産者の財産、相続財産、信託財産の管理・処分をする権利は、破産管財人に専属することとなり、破産者は管理・処分権を失います(同法2条14項、78条1項)。

 換価処分によって配当できる財産がある場合には、債権者に対し配当が行われます。

 配当手続きが終了し、または、配当できる財産がないことが確定した場合には、破産手続きの終結決定がなされます。破産手続きの終結決定をもって、法人は消滅し、債務も消滅します。

(3) 特別清算

 特別清算は、会社が債務超過に陥っている場合等に利用される手続きで、法人破産同様、法人の消滅を伴います。特別清算は会社法に定められる手続きであり、特別清算の対象となるのは株式会社のみです。特別清算の申立権者は債権者、清算人、監査役または株主です(会社法511条)。

 法人破産の場合、手続きは、裁判所が選任した破産管財人によって進められますが、特別清算の場合、株主総会で選任された清算人によって手続きが進められます。

 特別清算は、法人破産に比べて、簡易迅速な手続きであることがメリットとされています。他方、対象となるのが株式会社に限定されていることや、特別清算に先立って、株主総会で会社の解散を決議しなければならず、当該決議は株主の議決権数の3分の2以上の賛成が必要となる特別決議でなければならない(同法309条2項11号)といったデメリットもあります。

(4) 民事再生

 民事再生は、法人を消滅させることなく、存続させながら、再建を図っていく手続きです。

 破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき、債務者または債権者は民事再生の申立てをすることができます(民事再生法21条1項、2項)。また、債務者については、事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときも申立てができます(同条1項)。

 民事再生においては、債権者によって可決され、裁判所によって認可された再生計画案に基づき、債務が圧縮され、同計画に基づく弁済が行われることとなります。

(5) 会社更生

 会社更生は、民事再生と同様、法人を消滅させることなく、存続させながら、再建を図っていく手続きで、更生計画に基づき債務が圧縮され、同計画に基づき弁済が行われます。

 民事再生との違いとしては、会社更生は、多数の債権者や多額の債務を抱える大規模な会社を想定した制度であり、対象は株式会社に限られています。また、民事再生では、経営陣は引き続き経営を行うことが可能ですが、会社更生の場合、経営陣は退任し、管財人に経営権や会社財産の処分権が専属する(会社更生法72条1項)等、民事再生よりも厳格な手続きとなっています。

2.タイ

(1) 倒産法の概要

 タイでは、債務超過にある個人や法人を清算するための手続き(破産手続き)と、債務者である法人の事業の再建・更生を目的とする手続き(事業更生手続き)が存在します。

 タイにおける倒産制度の特徴として、破産手続きにおいては、債務者自身からの破産宣告の申立てが認められていない点や、管財人が民事執行局という公務員から選任されるという点が挙げられます。

(2) 倒産手続きの主な流れ

ア 破産手続きについて

 タイの破産手続きついては、破産法にその定めがあり、主に以下のような流れを経て、破産手続きが進行します。

 まず、同法においては、債務者が、①債務超過であること、②債権者に対する債務の合計額が、債務者が自然人の場合は100万バーツ超、法人の場合は200万バーツ以上であること、③債務額を確定できることが破産宣告原因と規定されています(破産法9条)。

 その後、裁判所において破産宣告の原因が存在すると判断された場合、裁判所は財産保全命令を発令し(同法14条)、管財人を選任します。選任を受けた管財人は、速やかに債権者集会を招集し(同法31条1項)、同集会において、裁判所に対して破産の申立てを行うか否かを検討します。同集会において、破産宣告を求める決議がなされれば(同法61条)、その結果を踏まえ、裁判所が破産宣告をします。

 破産宣告後、管財人は、債権者への配当を行い(破産法124条)、債権者は破産手続き内で弁済請求を行ったうえ破産配当を受けることになります。

イ  事業更生手続きについて

 事業更生手続きについても、破産法に定めがあり、主に以下のような流れを経て、事業更生手続きが進行します。

 まず、同法においては、債務者(非公開会社、公開会社およびその他規則により規定された法人)が、①債務超過であること、②債権者に対する債務の合計額が、1,000万バーツ以上であること、③事業更生の合理的な見込みがあることの要件を満たす場合には、債権者、債務者または監督庁が、裁判所に対して、事業更生の申立てを行うことが可能です。(破産法90/4条)。この点、事業更生手続きにおいては、破産手続きと異なり、債務者自身による申立ても可能とされています。

 裁判所が申立てを受理した後、裁判所は、事業更生手続開始の要件が充足されているか審理し、理由があると認められる場合には、事業手続開始決定を行います(破産法90/10条)。開始決定時または開始決定後の一定の手続を経たのち、裁判所は更生計画作成者を選任し(破産法90/17条)、更生計画の提出を受けた管財人が更生計画の承認を判断するため債権者集会を招集することになります(破産法第90/44条)。債権者集会の承認を受けた更生計画は、裁判所が当該計画を承認するか否かを決定し、更生計画を実行することになります。更生計画の遂行予定期間が経過し、計画が遂行されたと判断された場合には、更生手続廃止決定がなされることになり(破産法90/70条)、これにより更生手続きが終了します。

3.マレーシア

(1) 清算型の倒産手続

 マレーシアでは、会社が事業を閉鎖し、かつ債務の弁済が不可能な場合、清算型の倒産手続が適用されます。この手続には、裁判所の関与なしに清算を進める①債権者による自主清算手続(Creditor’s Voluntary Winding Up)と、裁判所の命令により清算を行う②強制清算手続(Compulsory Winding Up)の2種類があります。手続の進行中は、支払不能の状況下で行われた取引の一部を無効とすることで債権者の保護が図られ、債権者平等の原則に基づき債権者への配当が実施されます。

(2) 再建型の倒産手続

 会社の事業継続が可能な場合、再建型の倒産手続が適用されます。これには、以下の方法があります。

(a) スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement: SOA)

 申立人が提案する再生計画案をもとに会社再建を図る手続きであり、返済猶予を内容とするもの(Moratorium Scheme of Arrangement)と、債権カット等の和議を内容とするものがあります(Compromise Scheme of Arrangement)。提案されたスキーム・オブ・アレンジメントは、債権者集会に出席した債権者の債権合計額の75%以上の同意を得た場合、裁判所の許可を条件に債権変更の効果が生じます。

(b) ジュディシャル・マネジメント手続(Judicial Management)

 裁判所の命令によりジュディシャル・マネージャー(Judicial Manager)を選任し、その管理のもとで会社再建を進める手続です。ジュディシャル・マネージャーが作成した再建案について、承認された債権額ベースで75%以上の債権者が同意した場合、当該再建案に基づき債権変更の効果が生じます。

(c) 会社任意整理手続(Corporate Voluntary Arrangement: CVA)

 以上のほか、裁判所を経由せず、専門家(Insolvency Practitioner)の監督のもとで実施される会社任意整理手続(Corporate Voluntary Arrangement: CVA)もあります。この手続では、提案された会社任意整理案が、株主の過半数の賛成および債権額ベースで75%の債権者の同意を得た場合、当該整理案に基づき債権変更の効果が生じます。

4.ミャンマー

⑴ 倒産法の運用状況

 倒産法は2020年2月14日に公布され、同年3月25日に施行されました。倒産法施行規則は最高裁判所より2020年4月に公布されました。しかし、倒産法の施行後も、倒産法に基づく手続きを進めるための倒産実務家の登録ができず、倒産法の実務的運用がなされていない状況が続いていました。その後、最高裁判所は2024年1月31日に倒産実務家の登録に関する通知が発布されました。

 もっとも、現時点においても倒産法に基づく更生手続き等は運用されていない状況です。

5.メキシコ

⑴ 倒産に関する法律と制度の概要

 メキシコの倒産制度は主に商業倒産法(Ley de Concursos Mercantiles:LCM)によって規定されており、企業の財務的困難や倒産に対応するための法的枠組みを提供しています。LCMは、財政的に困難な状況にある企業の存続を図りながら、債権者の公平な取り扱いを確保することを目的としています。

 メキシコシティには、倒産事件を管轄する特別連邦裁判所が2か所あり、LCMに基づき手続きを監督します。また、連邦商業倒産専門機関(Instituto Federal de Especialistas en Concursos Mercantiles:IFECOM)は、倒産手続の円滑な運営を支援するため、専門家の認定や技術的監督を行い、公正な倒産手続きを促進します。

⑵ 倒産手続の段階

 企業は、支払い義務を履行できなくなった場合、倒産状態にあるとみなされます。LCMの規定では、企業が以下の条件を満たした場合、倒産状態(concursos mercantiles)であると判断されます。

・ 企業が支払不能の状態にあり、総債務の35%以上について30日以上の延滞がある場合。

・ 申請時点で、負債の80%以上を支払うのに十分な資産を有していない場合。

LCMでは、倒産手続について、2つの主要な段階を定めています。

① 再生手続(Conciliación)段階

 この段階の主な目的は、企業の債務を再構築し、債務者と債権者の間で合意を交渉して財政的安定を回復することです。裁判所に任命された調停人が債権者と債務者の交渉を仲介します。交渉が成功し、裁判所の承認を得られた場合、企業は倒産手続から抜け出すことが可能です。和解手続の期間は通常185日間ですが、最大365日まで2回の90日延長が認められています。

② 清算手続(Quiebra)段階

 和解が成立しない場合、裁判所は企業を倒産と宣告し、清算手続が開始されます。裁判所が任命した管財人が資産の売却を監督し、法律で定められた優先順位に基づいて債権者への分配を行います。企業の資産は清算され、労働債権(従業員への賃金や福利厚生の未払い分)、担保付債権者(抵当権や質権を有する債権者)、無担保債権者の順に返済されます。

⑶ 倒産手続の影響

 倒産が宣言されると、債務者に対するすべての司法執行や債権回収行為が一時的に停止されます。また、和解手続き中は、企業の経営陣はそのまま存続できますが、財務運営については調停人の監督下に置かれることがあります。進行中の契約は、裁判所の承認を得て再交渉、解除、または継続される場合があります。

6.バングラデシュ

 バングラデシュの企業の倒産は、1994年会社法によって定められており、1997年倒産法は個人に適用されます。清算は、商業登記所(RJSC)が会社名を登記簿から削除し、会社の法的存在を終了させたときに確定します。会社の清算は、裁判所による清算、任意清算、裁判所の監督下での清算の3つの方法が規定されています。

⑴ 裁判所による清算

 裁判所による清算は、バングラデシュ最高裁判所高等裁判所部への申立てから始まります。申立書は、会社自身、債権者、株主、場合によっては商業登記所の登記官によって提出されます。裁判所は、会社が支払い不能で債務を返済できないと判断した場合又は清算が正義と公平の利益のために必要であると判断した場合に、会社の解散を命じ、清算人を任命してその手続きを監督することができるとされています。清算命令は、法的承認を受けるために30日以内に商業登記所に提出する必要があり、通知は官報に掲載されます。裁判所による清算は、1994年会社法第241条に規定されており、法定報告書の提出又は法定会議の開催の不履行、債務の返済不能、清算特別決議の可決、設立後 1 年以内に事業を開始しないこと、1年間の事業停止、法定最小人数を下回る株主数の減少(非公開会社の場合は 2人未満、その他の会社の場合は7人未満)、及び裁判所が、会社を解散することが公正かつ公平であると判断した状況などが含まれます。

⑵ 任意清算

 任意清算は、会社が株主の決議により清算を決定した場合、通常、会社が事業目的を達成した場合、財政的に存続不可能になった場合又は再編を希望する場合に行われます。清算手続きは決議の日から開始され、清算を管理するために清算人が任命され、残りの資産を株主に分配する前にすべての負債が確実に清算されるようにします。任意清算は一般に内部手続きですが、特に債権者の権利を保護するために、必要に応じて裁判所が介入して裁判所の監督下に置くことがあります。

⑶ 裁判所の監督下での清算

 会社がすでに任意清算を行っているが、公正で透明な手続きを確実に行うために司法の監督が必要な場合に裁判所の監督下での清算が必要になることがあります。裁判所は、利害関係者の利益を保護するために条件を課し、指示を出すことがあります。これにより、法令の遵守が確保され、清算手続きにおける不正行為の可能性が防止されます。

⑷ 株主の責任

 清算手続き中、会社の株主及び元株主は、未払いの債務、清算費用及びその他の義務を果たすために資金を拠出することが求められる場合があります。ただし、有限責任会社の場合、財務面の責任は、株式の未払い額に限定されます。株主が亡くなった場合、その法定代理人および相続人が未払いの義務の責任を負います。株主が破産宣告を受けた場合、その譲受人が財務の責任を引き継ぎ、当該株主に代わって支払われた金額は破産者の財産から差し引かれます。

7.フィリピン

(1) 倒産制度の概要

フィリピンにおける倒産・再生制度は、以下の法令・規則に基づいています。

・企業倒産法(Financial Rehabilitation and Insolvency Act)

・大統領令第902-A号(Presidential Decree No. 902-A)

・金融再生手続規則(Financial Rehabilitation Rules of Procedure)

企業が財政的に困難な状況に陥った場合、対応としては主に次の2つの方法があります。

企業再生(Rehabilitation):会社を存続させることを目的とした手続です。債務を再構築し、経営を立て直します。

清算(Liquidation):会社の資産を処分し、債務の返済に充てたうえで、会社を終了させる手続です。

(2) 再生手続

再生にはいくつかの方法がありますが、ここで裁判所を通じた再生手続(judicial rehabilitation)について説明します。再生手続は、以下のいずれかの方法で始まります。

①会社からの申立て(任意的再生)

 会社から再生を申し立てる場合には、取締役会における過半数の同意に加え、発行済株式の3分の2以上を有する株主の賛成が必要です。申立てには、債務者が破産状態であり再生の見込みがあることを示すために、支払不能の事実や再生計画案などを提出する必要があります。

②債権者からの申立て(強制的再生) 

 債権者も、一定の条件を満たせば、会社に対して再生手続の開始を裁判所に申し立てることができます。会社からの申立てと同様に、再生計画案などを提出する必要があります。

【申立てが可能な債権者の条件】

(ⅰ)100万ペソ以上、(ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上相当する金額のうち、いずれか高い方の債権を有していること

【申立てが認められる条件】

・債務者が支払期日から60日以上にわたり支払を行っておらず、その債務について法律上の実質的な争いがない

・他の債権者によって差押え等の手続が始まり、その影響で債務者が支払不能になる可能性がある

 債権者や裁判所によって再生計画が承認されると、会社はその計画に従って債務の支払いや業務の再構築を進めていきます。ただし、再生が難しいと判断された場合には、裁判所の判断により清算手続に移行することもあります。

(3) 清算

 再生手続と同様に、清算にも2つの申立方法があります。

①会社からの申立て(任意的清算)

②債権者からの申立て(強制的清算)

一定の条件を満たす債権者は、裁判所に対して債務者の清算を申し立てることができます。

【申立条件】

 以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります:

・債権者が3人以上であること

・債権者の会社に対する債権の合計額が、(ⅰ)100万ペソ以上、または (ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上に相当する金額のいずれか高い方に相当していること

【申立の根拠となる事情】

 申立ての際には、債務者が支払期日から180日以上にわたり債務を履行していないことや、債務者に再生の見込みがないことなどを示す必要があります。

8.ベトナム

(1) 倒産法および制度の概要

 「企業法」第59/2020/QH14号の第214条では、企業の倒産は倒産に関する法律の規定に従って行われると規定しています。2014年「破産法」第4条第2項によると、倒産とは、企業が支払い不能に陥り、人民裁判所によって破産を宣告された状態を指します。倒産状態にある企業とは、支払期日から3か月以内に債務を履行できない企業であることに注意が必要です。

⑵  倒産手続開始の申立をする権利および義務を有する者

 倒産手続開始の申立をする権利および義務を有する者には、以下が含まれます。

  • 無担保債権者、支払期日から3ヶ月経過後の一部有担保債権者
  • 従業員、労働組合
  • 企業の法定代理人
  • 個人事業主、株式会社の取締役会長、2名以上の有限責任会社の社員総会会長など
  • 普通株式の20%以上を連続して6か月以上所有する株主または株主グループなど

⑶ 管轄機関

 地区レベルの人民裁判所は、その省または市の地区に本社を置く企業の倒産処理を行う権限を有します。省レベルの人民裁判所は、その省で事業登録をし、以下のいずれかに該当する企業の倒産処理を行う権限を有します。

  • 海外に資産がある、または倒産手続に参加する者が海外にいる場合
  • 企業が複数の地区、町、市に支店や代表事務所を持つ場合
  • 企業が複数の地区、町、市に不動産を所有している場合
  • 事件が複雑であるため、省レベルの人民裁判所が処理を引き受ける場合

⑷ 手続

①倒産手続開始の申立:倒産手続開始の申立を行うことができるのは、上記の関連権利および義務を持つ者に限られます。

②裁判所による申立の受領:倒産手続開始の申立を受領後、裁判所は申立内容を審査します。申立が有効であれば、申立者に対し、手数料の支払いおよび倒産手数料の前払いを通知します。

③裁判所による申立の正式受理:人民裁判所は、倒産手数料の支払いの受領および倒産費用の前払いの受領後、倒産手続開始の申立を正式に受理します。その後、裁判所は倒産手続を開始するか否かの決定を下します。

④倒産手続の開始:倒産手続の開始または不開始についての裁判所の決定は、関係者に通知しなければなりません。

⑤債権者会議:債権者会議は、倒産手続の中止、事業再建策の提案、破産宣告の提案のうち、いずれかの結論を下す権利があります。

⑥企業の破産を宣告する決定書の発行:企業が事業再建計画を実施できない場合、または事業再建計画の実施期限が過ぎても支払い不能状態が続く場合、裁判官は企業の破産を宣告する決定書を発行します。⑦倒産処理の執行:倒産処理には、倒産資産の清算、企業資産の売却による収益の対象者への分配(資産分配の優先順位に従う)が含まれます。

9.インド

⑴ 倒産手続き申立ての要件

 インドでは、破産倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)が倒産手続きについて定めています。

 同法上、倒産手続き申立ての要件として、債務者が10万ルピー以上の支払不履行(デフォルト)に陥っていることが必要とされています。

 申立てができるのは、①金融債権者(Financial Creditor)、②取引債権者(Operational Creditor)、③債務者自身であり、会社法審判所(National Company Law Tribunal)に対し申立てを行います。

(2) 倒産手続きの流れ 

 会社法審判所は、手続きを開始する場合、モラトリアムを発令します。モラトリアム発令中は、債務者の資産を保全するために、債務者に対する訴訟手続き、担保権の実行、債務者による資産の処分等が禁止されます。

 また、会社法審判所は、手続開始決定から14日以内に暫定再建専門家(Interim Resolution Professional)を選任します。暫定再建専門家の役割は会社資産の保全であり、その任期は30日間とされています。暫定再建専門家が選任されると、債務者である会社の取締役会の権限は停止され、暫定再建専門家が経営権を獲得します。暫定再建専門家は、債権者からの債権届を受理し、債権者リストを作成し、債権者委員会を組成します。

 債権者委員会は、全ての金融債権者を構成員とし、最初の会議で、暫定再建専門家の職務を引き継ぐ再建専門家を選任し、再建専門家は、債務者の債権債務関係等の情報をまとめたインフォーメーション・メモランダムを作成し、これに基づき再建計画が策定されます。

 債権者委員会が再建計画を承認した場合、同計画に基づいて会社再建が行われます。他方、債権者委員会が再建計画を承認しなかった場合は、清算手続きに移行します。

(3) 清算手続き 

 会社を清算する場合、以下の債権については優先弁済を受けられます。具体的な優先順位は以下のとおりです。

 ①清算費用

 ②清算手続開始日から24か月前までのワークマンに対する債務、担保権を放棄した担保付債権者に対する債務

 ③清算手続開始日から12か月前までの従業員(ワークマンを除く)に対する債務

 ④金融債権者の無担保債務

 ⑤清算手続開始日から2年前までの中央政府または州政府に対する債務、担保権を有する債権者に対する担保権実行後の残債務

 ⑥その他の債務

 ⑦優先株主に対する残余財産配分債務

 ⑧株主及び共同経営者に対する残余財産配分債務

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

(1) 倒産に関する法律と対象

 アラブ首長国連邦(UAE)では、財務再編および倒産法(2023年連邦令第51号)によって、財務再編手続(Financial Restructuring)および倒産手続(Bankruptcy)が規定されています。

 適用となるのは、会社法の対象となる法人および事業者としての自然人です。独自の倒産手続の規定を有する連邦若しくは地方政府が全部または一部を所有する会社または中央銀行により許可を受けている銀行、保険会社等の金融機関は除外される他、生活費に関する債務等債務者の個人または家庭の目的のために生じた債務も対象外とされます(第3条)。また、フリーゾーンで設立された会社に関しては、各フリーゾーンの倒産手続に関する規則によるため、同法の対象とはなりません。

(2) 手続

 財務再編手続は、予防的和解(Preventive Settlement)の計画に基づき、業務を遂行しつつ債務の支払を行うもので、会社更生または民事再生に類似するものです。破産裁判所の監督の下、債務者の和解計画は、債務総額の過半数を有する債権者が出席する債権者集会において、当該債務の3分の2以上を有する債権者の賛成によって承認された後に(第72条)、破産裁判所により法定の要件の具備が確認されて認可されなければなりません(第75条)。債権者集会で否決された場合は、手続終了が決定されますが、破産裁判所の裁量により破産手続の開始を決定することもあります(第74条5項、6項)。

 破産手続は、債務者の財産と事業を清算することを通じて債権者に対して債務を弁済するものです。債務者について、債務の履行不能、財務状況の債務超過および事業の存続不能が確認されれば、破産裁判所は破産手続開始を決定し(第120条)、管財人が破産者の財産を掌握し、法定の要件に従って管財人が立案し、債権者集会で承認された清算および配当計画に基づき、財産の換価と配当が行われます。

 いずれの手続も、債務者、債権者または監督官庁が申立てることができます。債務者申立は、支払停止または債務者が支払期限に弁済することができないことを確知した日から60日以内にしなければなりません(第16条1項)。なお、支払停止とは、債務者が支払期限の到来した債務について10日経過後も弁済していないことを指し、債務者が弁済するに十分な財産を有していることや当該債務に十分な価値の担保が付されていることは問いません。

11. インドネシア

 インドネシアの会社に対する倒産手続きは、破産及び債務の支払い停止に関する法律2004年第37号(以下「破産法」といいます)において規定されています。破産法において、清算型の破産手続きと、再生型の支払い猶予手続きが規定されています。以下の手続きにおいて、➀和議案が提示されなかった場合、②提案された和議案が受理されなかった場合、③和議案の承認が判決に基づき拒否された場合に、破産財産(Harta Pailit)は法的に倒産状態(keadaan insolvensi)にあると判断されます(破産法第178条)。

(1) 清算型の破産手続き

 2名以上の債権者を有する債務者が、期限が到来した債務を履行することができない場合、債務者、債権者、公益を代表する検察官などは破産申立を行うことができます(破産法第2条)。破産申立は債務者の居住地を管轄する商事裁判所に対して行われます(破産法第3条)。 裁判所は破産申立の受理から60日以内に、破産宣告をするか否かの決定をします(破産法第8条)。2名以上の債権者が存在しており、支払い期日が到来している債権の1つが不履行で、裁判所が、当該債務者に対して、破産を宣告した場合には、破産管財人及び監督裁判官を指名し、また、債権者3名を選任して債権者委員会を組織することができます(破産法第13条)。

 破産宣告がされた場合に、30日以内に債権者集会を開催する必要があります(破産法第15条)。集会では債務者は和議案を作成し、集会に出席した無担保債権者の過半数及び総債権額の3分の2以上の債権を有する者の同意によって、和議案の承認を得ることができ、破産手続きを終了させ、和議案の履行へと移行することが可能です(破産法第281条)。和議案が取り消された場合には、破産手続きが再開され、再提出は認められておりません(破産法291、292条)。

(2) 再生型の破産手続き

 債務者及び債権者は、裁判所に債務者によるその全債務の支払いに関する支払猶予(PKPU: Penundaan Kewajiban Pembayaran Utang)を申し立てることができます(破産法222条)。支払猶予の決定がなされると、債務者及び債権者は、裁判所に和議案を提出することができます(破産法228条)。和議案が債権者集会の同意を得て裁判所によって承認された場合、和議案は全債権者を拘束します(破産法第286条)。和議案が債権者集会での同意を270日以内に得られなかった場合、裁判所が和議案を承認しなかった場合、また債務者が和議案を履行しなかった場合、裁判所は債務者に対して破産を宣告します(破産法第228、285、291条)。ただし、2021年の憲法裁判所の決定に基づき、➀PKPUが債権者によって開始された場合、②債務者の提案が却下された場合の二つを満たす決定については、債務者は最高裁判所に異議申し立てをすることが可能です(破産法に関する決定2021年第23号)。

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・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

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Newsletterの記載内容は2025年3月25日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。

第1.各国における内部通報者保護制度の概要

1.日本

(1) 公益通報者保護法の概要

公益通報者保護法は、国民生活の安全や社会経済の健全な発展の観点から、公益のために事業者の法令違反行為を通報した当該事業者内の労働者、退職者、役員の保護を図っています。

労働者、退職者、役員は、不正の目的でなく、自身の勤務先における不正行為を、一定の要件の下で通報することができます。また、同法は、公益通報をしたことを理由とした解雇の無効、降格・減給等の不利益取扱いの禁止する等して、通報者を保護しています。

 公益通報者保護法上の通報先と要件は以下のとおりです(同法3条1項)。

通報先 要件
事業者(内部通報) 通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合
行政機関 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合、もしくは、まさに生じようとしていると思料し、かつ、当該通報対象事実の内容等の所定の事項を記載した書面を提出する場合
報道機関 通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、内部通報では解雇や不利益取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある場合等の一定の事由に該当する場合

また、公益通報者保護法は、事業者に対し、公益通報を受け、当該通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(次条においてに従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めることや公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を義務付けています(同法11条1項、2項)。なお、この義務は、常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については努力義務とされています(同条3号)。

(2) 会社法上の内部統制システム構築義務

また、上記内部通報者保護法の規定のほかに、会社法上、大会社(資本金が5億円以上または負債の額が200億円以上の会社)の取締役設置会社については、内部統制システム構築義務があり、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備が求められます(会社法362条4項6号、5項)。

 取締役が内部統制システムの構築を怠るなどした場合には、任務懈怠として会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

 

2.タイ

(1) 内部通報者保護法の有無

 タイにおいて、民間企業や公的機関による不正行為等について内部通報者を保護することを目的とした法律はありません。他方、贈収賄の疑いがある場合に通報を推奨する旨のガイドラインは存在します。

(2) 内部通報者の保護

タイでは、内部通報したことを理由に従業員を解雇した場合には、不当解雇とみなされる可能性が高く、労働法など個別の規定によって内部通報者の保護が図られているといえます。また、多くのタイ企業において、自主的に内部通報制度を設けているケースが見受けられます。

 

3.マレーシア

(1) 内部通報者保護法の概要

マレーシアには、内部通報者保護法(Whistleblower Protection Act 2010[Act 711]、以下「法」といいます。)が制定されており、内部通報者の保護を図っています。この法律は、公益通報者を保護することで、不正行為の報告を促し、腐敗や不正を防止することを目的としており、内部通報者からの情報非開示義務や法的責任の免責措置により、内部通報者の保護を図っています。

(2) 内部通報者保護法による内部通報者保護の内容

内部通報者の情報は、「秘密情報(confidential information)」として保護されます。具体的には、内部通報者の身元や通報内容に関する情報は秘密情報とされ(法2条)、いかなる者もその情報を他人に開示することは禁止されています(法7条第1項(a)、8条1項)。これに違反した場合、RM50,000以下の罰金や最大10年の拘禁刑が科される可能性があります。また、民事訴訟や刑事訴訟においても、原則として秘密情報は開示されることはありません(法8条2項)。

さらに、内部通報者は、原則として、懲戒処分、その他民事的責任および刑事的責任からも免責されます(法7条1項(b)、9条)。

報復としての不利益取扱いの禁止(protection against detrimental action)も禁止されています(法10条)。不利益取扱いには、身体的・財産的侵害行為、威圧的行為、ハラスメント行為、さらには雇用に関連する差別、解雇、降格、停職、その他内部通報者の生計に対する干渉が含まれます(法第2条)。また、これらのいずれかの行為を行う旨の害悪告知も禁止されています。

(3) 会社による内部通報者保護制度の構築について

マレーシアの内部通報者保護法は、会社に対して正式な内部告発者保護制度の確立を明確に義務付けてはいません。そのため、すべての会社において内部告発者保護制度が構築されているわけではないのが現状です。他方で、不正行為の早期発見の観点からは、会社が独自に内部通報者保護制度を構築することには大きな意義があります。そのため、マレーシアにおいては、会社が内部通報者保護制度を整備することが一般的になりつつあると思われます。

 

4.ミャンマー

⑴ 内部通報者保護法の概要

ミャンマーでは、内部通報者保護法または類似の法令は制定されていません。もっとも、腐敗や不正行為の防止または早期発見の観点から、独自の内部通報者保護制度を構築している会社は存在します。

 

5.メキシコ

⑴ 内部通報者保護の概要

メキシコでは、公的部門においては内部通報者を保護するための法制度が整備されていますが、民間部門には十分な法的枠組みが存在していません。

公的部門については、2017年7月に施行された行政責任一般法(Ley General de Responsabilidades Administrativas)が、公務員による不正行為の取り締まりを目的としており、内部通報者の保護措置を含んでいます。同法では、内部通報者の匿名性を確保し、通報の調査過程においてその身元を守ることが規定されています。また、善意で不正を報告した通報者に対する報復行為を禁止する規定も設けられています。

さらに、2019年9月には、汚職に対する内部・外部通報システムの運用と推奨に関するガイドラインが制定されました。これにより、贈収賄や公金の不正使用に関する通報を受け付けるプラットフォームの運営が確立されました。このガイドラインでは、汚職、人権侵害、ハラスメントなどの違反行為を報告する通報者の保護を目的とした施策を推進しています。2020年10月には、汚職通報者保護に関するプロトコルが策定され、通報者を保護する体制が強化されています。

⑵ 民間企業での内部通報者保護制度の構築について

 現時点では、メキシコには民間企業向けの包括的な内部通報者保護法は存在しません。しかし、企業が自主的に内部通報制度を設けることは可能であり、行政責任一般法においても、企業に対し、内部統制およびコンプライアンスプログラムの一環として、内部通報制度の導入を勧めています。内部通報制度の設置は義務ではありませんが、企業の倫理的行動を促進し、不正行為を防ぐために推奨されています。

 

6.バングラデシュ

(1) 公的機関に対する通報制度

公的機関に対する内部通報者の権利利益保護については、2011年6月22日、2011年公益情報開・保護法(Public Interest Information Disclosure (Provide Protection) Act)が制定されています。

この法律は、公的機関の職員が、公的資金の不正利用や不適切管理、権力の濫用、犯罪行為、汚職などを行っている場合、所属する所轄官庁に対して通報しても、通報した者は法的保護を受けられると定めています。(2条)

適切な公益通報を行った場合、本人の同意なく身元が明かされることはなく、公益通報を行ったことによる民事・刑事責任を免れるほか、降格・ハラスメント・差別的な扱いが禁止されています。(5条)

公益通報者の身元を開示したり、差別的に扱うなど、通報者の権利を侵害した場合、2年以上5年以下の懲役または罰金が科されます。(9条)

ただし、通報者が、通報内容が虚偽であること、真実性が確認されていないこと、公益に反する根拠がないことなどを認識した上で通報した場合、虚偽の通報とみなされ、処罰される可能性があります。(11条)

 もっとも、この法律は、保護を受ける対象の範囲が限定されており、公益通報者に対する保護も十分ではなく、運用においても多くの問題が指摘されています。バングラデシュは、2024年の腐敗認識指数(トランスペアレンシー・インターナショナル)で180か国・地域のうち151位に位置しており、汚職対策は十分に機能していると言えません。

(2) 民間企業に関する通報制度

 民間企業における内部通報者の権利や利益の保護を定める法律はありません。しかし、進出されている日本企業では、日本のコンプライアンス基準に合わせて内部通報窓口を設ける例が見受けられます。

 

7.フィリピン

(1) 内部通報者保護に関する法律

フィリピンの法律において、内部通報者に関する規定は、会社法(Revised Corporation Code)とマハルリカ投資ファンド法(Maharlika Investment Fund Act)に定められています。

これらの法律では、内部通報者とは、その法律違反に関する情報を提供する者と定義されています。そして、これらの法律は、内部通報者に対する解雇などの報復行為を故意に行った者に対し、以下の罰則を定めています。

・会社法:罰金10万ペソ~100万ペソ

・マハルリカ投資ファンド法:罰金100万ペソ~200万ペソ、最長6年の禁錮刑

(2) 内部通報者保護ポリシー

フィリピンの会社法は、上記の罰則を除き、企業に対して内部通報者保護に関する義務を課していません。他方で、企業は裁量の範囲内で、独自の内部通報者保護ポリシーを策定することが可能です。

以下の企業は、内部通報者保護に関する独自のポリシーを策定・公開しています。

・San Miguel Corporation

https://sanmiguel.com.ph/storage/page-assets/30/2/gFjGxIj1o3ruIv2riiZkw09gdj61Q9IfHijAbOM5mkNsGLgxj5jWJckeZQ2Z/orig/SMC_Amended_Whistleblowing_Policy_Final.pdf

・Del Monte Philippines

https://www.delmontephil.com/hubfs/corporate-governance/Whistle_blower.pdf

・Metro Pacific Investments

https://www.mpic.com.ph/wp-content/uploads/2023/07/MPIC-Revised-Whistleblowing-Policy-approved-04-Aug-2021.pdf

 

8.ベトナム

内部通報及びそれに関連する規定は、ベトナムの法制度の下で、刑法、告発法、腐敗防止法、その他政府の専門的な政令(労働規則違反における苦情及び通報の解決に関する政令No. 24/2018/ND-CPなど)を含む多くの法的文書に概説されています。しかし、内部通報の規定に関連する重要な法的文書は、2018年6月12日に国会によって制定され、2019年1月1日に施行された、告発法という名称の法律No. 25/2018/QH14です。(以下、「告発法」といいます。)

国家機関は、内部通報には以下の2種類の状況があると認識しています。

(1)国家利益・組織や個人の正当な権益に損害を与え、又は与える恐れのある組織や個人の違反行為を、所轄組織や個人(通常は国の機関)に通報・通知・苦情を通じて内部通報すること。このような状況は告発法の規定により、正式に定義されています。

(2)企業の規則、規定、方針に違反する企業関係者の違反行為を、企業の内部通報・告発・苦情処理制度を通じて内部通報すること。現行の告発法は、このような状況を具体的に取り上げていませんが、企業は通常、告発法及びその法的指針文書に定められている規定を利用して、内部通報の手順及び方針を構築及び策定しています。

通報者及びその関係者(配偶者、実親、養親、継父、継母、実子、養子を含む)の地位、職務、生命、健康、財産、名誉、尊厳が侵害されている、又は直ちに侵害されるおそれがあると信じるに足りる根拠がある場合には、告発法上の保護対象者となります。その判断は、通報者本人又は通報を解決・処理する権限を有する組織や個人が行うことができます。それに伴い、適用される通報者保護のための措置は以下の通りです。(告発法第56条、第57条、第58条)

(ⅰ)情報の機密性を保護するための措置

・通報者から提供された情報や文書を使用する際、通報者の氏名、住所、自筆の署名、その他の個人情報を秘密にすること。

・通報者の氏名、住所、直筆サイン、その他の個人情報を、通報書類やその他の同封書類、証拠書類から削除や検閲した上で、他部署に転送し、検証すること。

・通報者、関連組織、 個人と協働する際は、時間と場所を調整し、適切な方法で通報者の情報を保護すること。

・その他法令に定める措置を実施すること。

・通報者の情報を保護するために必要な措置を講じるよう、関係機関及び個人に要請すること。

(ⅱ)労働者の地位と雇用を保護するための措置

労働契約の下で働く保護対象者の雇用を保護するための措置には、以下のものが含まれます。

・雇用主に違反行為の停止を要求し、保護対象者に職位、収入、その他の雇用による合法的な利益を回復させること。

・法律に従って違反行為を処理するために、権限に従って処理するか、権限を有する機関、組織、個人を提案すること。

(ⅲ)生命、健康、財産、名誉及び尊厳を保護するための措置

・保護対象者を安全な場所に連れて行くこと。

・必要な場所において、保護対象者の生命、健康、財産、名誉及び尊厳の安全を直接保護するための力、手段及び用具を手配すること。

・保護対象者の生命、健康、財産、名誉、尊厳を侵害する行為、又は侵害するおそれのある行為を防止し、対処するために、法令に基づき必要な措置を講じること。

・保護対象者の生命、健康、財産、名誉及び尊厳を侵害する行為を行う者、又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止を求めること。

・その他法令に定める措置。

 

9.インド

 インド会社法上、全ての上場会社、銀行等からの借入額が5億ルピー以上である会社、公衆からの預託(預金、貸付、その他の形式で金銭を受け取ること)を受け入れている会社については、内部通報制度(vigil mechanism)を構築する義務があります(会社法177条9項)。

 内部通報制度を構築するにあたっては、当該制度を利用する従業員等が不利益を被らないよう十分な保護策を講じ、監査委員会(Audit Committee)の委員長に直接連絡できるようにしなければなりません(同条10項)。

 なお、インド会社法上の内部通報制度構築義務がない会社であっても、不正の防止や発見のため自主的に内部通報制度を導入する例も見られ、日本企業のインド子会社の場合にも、現地から日本本社の統一窓口に対し直接通報することができるグローバルな通報制度をインド子会社内に構築する例があります。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)では、内部通報者保護に関する特別法は制定されていません。

UAEで内部通報者を保護する機能がある法律としては、ドバイ首長国における、ドバイ経済安全保障センター(DESC)設立に関する2016年法律第4号が、ドバイ首長国の経済安全保障を脅かす事項につきDESCに通報する者に対して、住居の保護、通報者の特定や所在に関する情報の非開示、職場での保護と差別や虐待の対象とならないことを確保することを含む必要な保護を提供し、通報が通報者の就業先又は取引先の秘密情報保護義務に関する法律および私的契約の違反とみなされることないことを明示し、虚偽の通報でない限り、通報者の首長国内での自由、安全および保護が保証されると規定しています(第19条)。

連邦法の適用外で独自の法体系を持つ2つのフリーゾーンについては、Dubai International Financial Center(DIFC)では2022年に運営法の改正によって、Abu Dhabi Global Market(ADGM)では2024年に内部通報者保護規則の制定によって、両フリーゾーン内で設立された企業または同企業との取引に関する通報について、内部通報者保護が図られています。UAEの政府機関の一部でも、文化省(Ministry of Culture)や中央銀行(Central Bank)等、内部通報ポリシーを策定して、自己組織内での不正等についての通報制度を設けて、通報者への保護措置について規定しているように、UAEでは内部通報制度の整備が拡充してきています。このような状況を背景として、DIFCおよびADGMにおいて設立された会社に限らず、内部通報制度を設ける会社が増加傾向にあります。

 

11. インドネシア

(1) 内部通報者保護の概要

 インドネシアでは、内部通報者保護に関して、民間部門においては、法的枠組みは存在しておりませんが、公的部門において、関係する法制度が存在します。

内部通報者に関する定義においては、最高裁判所通達2011年第4号では、通報者(whistleblower)とは、組織または個人によって行われた特定の犯罪行為に関する活動について、自発的に情報を提供する個人を指すとされています。

(2) 内部通報者保護

 証人および被害者の保護に関する法律2014年第31号(以下、「証人および被害者の保護に関する法律」といいます。)第5条の下、通報者は以下の権利が保証されています。

・証言を行う、または行ったことに関連する脅迫に対して、個人、家族、および財産の安全を確保するための保護を受ける権利

・保護および安全支援の形式の選択、決定する権利

・いかなる圧力も受けずに情報を提供する権利

・通訳を得る権利

・誤解を招くような質問を受けない権利

・裁判手続きの進捗について知らされる権利

・裁判の判決について知らされる権利

・被告人の釈放について知らされる権利

・身元を秘密にする権利

・新しい身元を取得する権利

・一時的な移転を受ける権利

・新たな居住地への移転を受ける権利

・必要に応じた交通費の補償を受ける権利

・法律相談を受ける権利

・保護が終了するまでの間、一時的な生活費を受ける権利

 また、通報者を保護する権限を持つ機関としてLPSK(Lembaga Perlindungan Saksi dan Korban)が設置されており、LPSKは、a. )法律および規制に従い、保護対象者の身元を変更する、b.) 安全な避難施設を管理する、c.) 保護対象者をより安全な場所へ移動または再配置する、d.) 警備および護衛サービスを提供する、e.)裁判手続きにおいて証人及び/又は被害者を支援する権限を有しています(証人および被害者に関する法律第11条)。

 

発行 TNY Group

 

【TNYグループ及びTNYグループ各社】

・TNY Group

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・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)

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・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/

・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)

 URL: http://www.tny-legal.com/

・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)

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・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)

URL: http://tny-myanmar.com

・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)

 URL: http://tny-mexico.com

・エストニア(TNY Legal Estonia OU)

URL: http://estonia.tny-legal.com/

・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)

 URL: https://www.tny-bangladesh.com/

・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)

 URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines

・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)

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・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)

 URL: https://uk.tny-legal.com/

・UAE(ドバイ)(Hussain Lootah & Associatesジャパンデスク設置)

 URL: https://dubai.tny-legal.com/

・インド(TNY Services (India) Private Limited)

 URL:  https://tny-india.com/

・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)

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第1.各国における海外からの借入に関する規制の概要

1.日本

外国為替及び外国貿易法(「外為法」)は、対外取引が自由に行われることを基本としており(同法1条)、海外からの借入についても、原則は自由です。

ただし、貸付を行う側が規制を受ける場合があります。外為法上の「外国投資家」(同法 26 条 1 項)が、国内法人に対し、1年を超える金銭の貸付を行う場合で以下のいずれにも該当する場合には(外為法26条2項7号、対内直接投資等に関する政令2条14項)、財務大臣及び事業所管大臣に対し、当該取引前に届け出る(「事前届出」)か、当該取引後に報告する(「事後報告」)必要があります(同法 27 条 1 項、55 条の 5 第1 項)。事前届出や事後報告は当該外国投資家によって行われ、特定の書式にしたがって、貸付額や借入期間、金利、貸付金の使途等、所定の事項を記入しなければなりません。

(対象となる貸付)

1.当該貸付け後における貸付けの残高が1億円に相当する額を超えること

2.当該貸付け後における貸付けの残高と、当該外国投資家が所有する当該国内法人が発行した社債との残高の合計額が、当該貸付け後における当該国内法人の負債の額として省令が定める額の50%に相当する額を超えること

事前届出を要するものについては、政令や省令等で定めがあり、一定の国・地域の外国投資家からの借入や指定の業種を営む日本企業に対する貸付については、安全保障等の観点から事前届出の対象となります。事前届出を要するものに該当しない場合であっても、事後報告を行うこととなりますが、政令で事後報告が不要とされる例外が定められている場合もあります。

2.タイ

タイでは、海外からの借入を受ける場合に規制はなく、自由に行うことができます。

もっとも、日本の親会社がタイの会社に対して貸付を行う場合、日本の親会社が外国人事業法上の規制を受ける可能性があります。外国人事業法上、貸付行為が「その他サービス業」と判断された場合、外国人事業許可が必要となります。タイ国内の「グループ会社」への貸付については、「その他サービス業」には含まないとする商務省令がある一方、同省令に規定する「グループ会社」の定義に含まれない場合には、外国人事業法上の規制を受けることになります。

3.マレーシア

(1) 規制の概要

マレーシアでは、マレーシア中央銀行(Central Bank of Malaysia)が、市場で取引される通貨、証券、その他の金融商品に関連するデリバティブ市場の秩序ある状況または完全性を規制等することを目的として、規則その他ガイドラインを発行する権限を有しています(金融サービス法140条⑴、マレーシア中央銀行法43条⑴参照)。そして、マレーシア中央銀行は、以下に述べるとおり、一定の条件のもとで海外からの借入(オフショアローン)を認めています。

(2) 居住者と非居住者の別

後述⑶以下で述べるとおり、海外からの借入については、居住者とそうでない者(非居住者)とで、取扱いを別にしています。

「居住者」とは、次に掲げるいずれかに該当する者をいいます。

(a) マレーシア国民(マレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住する者を除く)

(b) マレーシアの永住権を所持し、定住する非マレーシア国民

(c) マレーシアで設立、登録、または認可された企業(法人・非法人、本社・支店を問わない)

「非居住者」とは次のいずれかに該当する者をいいます。

(a) 居住者以外の個人

(b) 居住者である会社の海外の支店、子会社、地域事務所、営業所、駐在員事務所

(c) 大使館、領事館、高等弁務官事務所、超国家機関、国際機関、またはマレーシア国外の領域の永住権を所持し、国外に居住するマレーシア国民

(3) 居住者に対する外貨建て信用供与

(a) 居住者である個人による借入れ

居住者である個人は、1,000万リンギを上限として、非居住者から外貨建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与には金額の制限はありません。

(b) 居住者である企業による借入れ

居住者である企業は、合計で1億リンギ相当額を上限として、非居住の金融機関または同一企業グループではない非居住者から、外貨建て信用供与を得ることができます。外貨建て借入れの元本および利息についても、認可額を超えない範囲で借換えが可能となっています。

(4) 居住者に対するリンギ建て信用供与

(a) 居住者である個人

居住者である個人は、マレーシア国内での使用を目的として、非居住者の企業(金融機関を除く)または個人から、100万リンギを上限とするリンギ建て信用供与を得ることができます。ただし、非居住者である家族からの信用供与について、金額の制限はありません。

(b) 居住者である企業

居住者である企業は、マレーシア国内の実需に基づく活動のために、同一企業グループ内の非居住者の他社(非居住者金融機関を除く)または非居住者の直接株主から、金額の制限なく自由にリンギ建て信用供与を得ることができます。さらに、合計で100万リンギ相当額を上限として、マレーシア国内での使用を目的として、同一企業グループ以外の非居住者企業からリンギ建て信用供与を得ることができます。

4.ミャンマー

(1) 規制の概要

2020年はじめに、ミャンマー中央銀行よりオフショアローン承認申請に関する基準を変更する内容の告知が発布されました。ミャンマーでは、外国から借入れを行う場合、事前に中央銀行より当該借入れの承認を得なければならず、承認を得ずに送金を行うと、返済時に貸主への海外送金が認められません。

(2)  中央銀行の承認基準

ミャンマー中央銀行は、申請者から提出された所定の書類を基に以下の事実を検討及び精査し、申請を承認又は拒否します。

  1. 申請者がMIC許可会社の場合、資本金がUSD500,000を超えているか否か
  2. 申請者が投資企業管理局(DICA)で登記された会社の場合、資本金がUSD50,000を超えているか否か
  3. 申請者(借用人)の外国為替収入が一致しているかどうか
  4. 借用人が、ミャンマー国内事業から生じた通常収入から融資の返済が可能かどうか、及び、申請者が外国為替の収入を有する場合は、為替リスクを軽減する見通しがあるかどうか
  5. 借用人が既にMIC許可で約束された資本金の80%を送金しているか否か
  6. 申請者の企業がMIC許可会社の場合、負債比率が最大4対1以内か否か
  7. 申請者の企業がDICA登録会社の場合、負債比率が最大3対1以内か否か
  8. 融資契約及び書類に記載されている取引条件が正確に作成されているか否か
  9. 融資額保有期間が中期及び長期の場合も、返済計画が融資契約と一致しているか否か

5.メキシコ

メキシコでは、海外からの借入(オフショアローン)について、規制する法律はありません。

そのため、事前に特定のライセンスの取得や承認取得手続き等を経ることなく、現地法人が日本の親会社等から直接借入れを行うことも可能です。

6.バングラデシュ

(1) 法規制

バングラデシュにて海外からの借入(オフショアローン)を行う場合は、1947年外国為替規制法のほか、2018年外国為替取引ガイドラインにて規定されています。民間企業が海外からの借り入れを行う場合、原則として、バングラデシュ投資開発庁(BIDA)の許可とバングラデシュ中央銀行の許可の双方が必要となります。

以下の内容は、2018年外国為替取引ガイドラインに基づいておりますが、オフショアローンについては、運用や規定の変更が頻繁に行われますので、確認と調査が必要となります。

(2) 2018年外国為替取引ガイドラインの規制

(a) 外資系企業の海外の親会社、株主から無利子ローン

外資系企業は、次の要件を満たす場合、親会社、株主からの無利子ローンが認められます。

  • バングラデシュ内で運転資金の資金調達が準備されていない
  • 資材調達以外のビジネスニーズのために短期借入金が緊急に必要とされる

この場合、バングラデシュ銀行からの事前の承認なしに最大 1年間利用することができます。ただし、ローンを利用してから1週間以内に、公認為替取引銀行を通じてバングラデシュ銀行本部の外国為替運用部に事後報告することが必要になります。

(b) 輸出加工区・経済特区の工業企業の中長期の対外借入

輸出加工区などにある工業企業は、次の点を審査の上でオフショアローンが認められます。

  • プロジェクトの工業的実行可能性
  • 収益から提案された債務を返済するプロジェクトの能力
  • 国内外の市場におけるプロジェクトのアウトプットのコスト競争力
  • 借入提案のプロジェクトの潜在的な国内および外部需要
  • 銀行及びバングラデシュ銀行のCIB報告書によって裏付けられたプロジェクトスポンサーの債務状況

7.フィリピン

フィリピンにおける外国ローンや外国通貨建てローンに関する規制の概要を紹介します。外国ローンや外国通貨建てローンは、主にフィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas)によって規制されています。この規制の詳細は、フィリピン中央銀行が発行している「外国為替取引規制マニュアル」(Manual of Regulations for Foreign Exchange Transactions)で確認することができます。

「外国ローン」とは、フィリピン居住者がフィリピン非居住者に対して負うローンを指します。国内ローンか外国ローンかを判断する基準は、債権者がフィリピンに居住しているかによって決まります。そのため、フィリピン通貨でのローンであっても、債権者がフィリピン国外に居住している場合は「外国ローン」に該当します。

他方で、「外国通貨建てローン」とは、たとえば、フィリピン居住者またはフィリピン非居住者の民間セクターが、フィリピン国内で営業する銀行に対して負うローンを指します。

そして、企業などが借入れを受ける際に、政府機関などの公的セクターから保証を受ける場合には、ローン契約を締結する前にフィリピン中央銀行から事前の承認を受ける必要があります。また、ローンを外貨で返済する場合は、別途フィリピン中央銀行への登録が求められます。

公的セクターの保証がない場合でも、ローンや利息などを外貨で返済するためにフィリピン国内の銀行から外貨を購入する際には、原則としてフィリピン中央銀行への登録が必要となります。

8.ベトナム

ベトナムの法律によれば、「オフショアローン」または「外国ローン」とは、金銭消費貸借契約、後払い輸入契約、貸付信託契約、金融リース契約、または借主による国際市場での債務証書の発行を通じた、あらゆる形式の外国からの借入れにおいて、政府保証のない外国ローン(いわゆる「自己借入・自己返済ローン」)と、政府保証付きの外国ローンを総称する用語です。

外国ローンを実施できる対象は、ベトナム国内で設立・営業している企業、協同組合、協同組合連合会、金融機関等の信用機関、外国銀行の支店などです。外国からの借り入れや債務返済を行う場合、借主は、ベトナム国家銀行の規定に従って、借入れの登録、口座の開設と使用、資本金の引き出しおよび債務返済のための送金、借入れの実施に関する報告を行うなど、外国からの借り入れや債務返済に関する条件を遵守しなければなりません。

外国ローンの契約書は、貸主が借主に対し、一定の期間内に元本と利息(利息に関する合意がある場合)の両方を返済することを原則とし、特定の目的のために使用する金銭または資産(金融リース契約の形態の外国ローンの場合)を送金する、または送金することを約束する、当事者間の合意を記録した1つまたは一連の文書です。外国ローンの契約書は書面で作成する必要があり、電子データメッセージ形式の契約の場合は、電子取引に関する法律の規定を遵守しなければなりません。

外国ローンの通貨は外貨です。ベトナム・ドンによる外国ローンは、一定の場合にのみ可能です。

外国ローンの期間は以下のように分類されます。1年未満の短期ローン、5年未満の中期ローン、5年以上の長期ローンです。中長期ローンについては、国家銀行(SBV)への登録と定期報告書の提出が、短期ローンの場合は定期報告書が義務付けられています。

借主は、外国からの短期ローンを、借主の外国債務のリストラクチャリングおよび現金で支払う短期債務(国内ローンの主債務を除く)の支払いの目的でのみ、利用することができます。借主は、外国からの中期および長期ローンを、借主の投資プロジェクトの実施、借主の生産・事業計画その他のプロジェクトの実施、借主の外国債務のリストラクチャリングの目的でのみ、借り入れることができます。借主の外国ローン利用は、国家機関の認可を受けた書類の事業範囲と活動範囲に合致していなければなりません。

9.インド

⑴ 規制の概要について

インド法人が海外の銀行や企業などから借入を受けることは、「対外商業借入」(External Commercial Borrowing。以下「ECB」といいます。)と呼ばれます。ECBを実施するにあたっては、1999年外国為替管理法及びインド準備銀行が定めるECB規制に従う必要があります。

ECBには、「外貨建て」と「ルピー建て」の二つの枠組みがあり、借入人の資格、貸付人の資格、借入期間、金利等に関する要件が定められています。

借入が、所定の要件を満たす場合には、自動承認となり、口座を管理する銀行の審査のみで借入が可能です。他方で、借入が所定の要件を満たさない場合には、事前にインド準備銀行の承認を得なければなりません。

⑵ ECB規制の要件について

外貨建てECB ルピー建てECB
借入人 外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)を受け入れることができる事業体
貸付人 インド国外の親会社などの法人や銀行等
ただし、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)または
証券監督者国際機構(International Organisation of Securities Commission’s:IOSCO)
加盟国の居住者である必要がある。
*日本はいずれにも加盟している。
平均借入期間 原則3年
*製造業における1会計年度当たり5000万米ドル相当額までのECBの場合には1年等、
一定の場合には例外あり。
上限金利
・新規のECBの場合:ベンチマークレート+
500ベーシスポイント
・既存のECBの場合:ベンチマークレート+
550ベーシスポイント
ベンチマークレート+450ベーシスポイント
*ベンチマークレートとは、外貨建てECBの場合、借入通貨に適用されるインターバンク・レートまたは6か月間の
代替参照レートを指す。ルピー建てECBの場合、対応する期間の国債の金利を指す。
*ベーシスポイントとは、金利の表示単位で、1ベーシスポイント=0.01%を意味する。
資金使途 以下の使途には資金利用できない
1.不動産事業
2.資本市場への投資
3.運転資金(外国株主からの借入れの場合等は除く)
4.一般的な事業資金(外国株主からの借入れの場合等は除く)
5.ルピー建ての借入の返済
⑥上記1.~⑥を使途とする再融資

10. インドネシア

(1) 海外からの借り入れに関する規制

インドネシアでは海外からの借り入れ(オフショアローン)について、対象を➀銀行以外の法人と2.銀行に区分し、それぞれ規制されています。

(2) 銀行以外の法人による海外からの借り入れ

銀行以外の法人による海外からの借り入れについては、オフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2014年第16号(以下、「インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号」といいます。)において規制されています。

インドネシアにおいて海外からの借り入れを行う際には、➀四半期末から3か月以内および6カ月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、それぞれ25%以上の外貨建て資産を保有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第3条)、2.流動性比率に関して、四半期末から3か月以内に期限が到来する外貨建ての負債に対して、70%以上の外貨建て資産を保有すること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第4条)、さらに、3.海外もしくは国内における格付け機関(Lembaga Pemeringkat)によって認定された、最低「BB」に相当する信用格付け(Peringkat Utang)を有していること(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第5条)が義務付けられています。3.の信用格付けについては、債務残高の総額が増加しない、またはその増加が一定の限度内であるリファイナンスの場合や一定の要件を満たすインフラプロジェクトの資金調達の場合には、適用除外されます。さらに、(a) 親会社から外貨建て債務を借り入れる場合、(b) 親会社が外貨建て債務を保証している場合、(c) 商業活動開始後3年以内の会社の場合には親会社の信用格付けを利用することができます(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第7条)。また、上記3つの基準を満たしていることに関して、四半期ごとに、インドネシア中央銀行に報告する義務があり(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第8、9条)、遵守状況について、インドネシア中央銀行は監視および調査を実施する権限を有しています(インドネシア銀行令No.16/21/PBI/2014号第10条)。

(3) 銀行による海外からの借り入れ

銀行による海外からの借り入れにおいては、上記(2)において記述した3つの規制が適用されることに加えて、1日あたりの短期負債の残高を資本の最大30%に制限する義務があり、長期負債の借り入れの際には、事前に、満期や借り入れ金額などの債務の条件や計画について、インドネシア中央銀行から承認を得る必要があります。また、長期負債の借り入れ取引後は、完了日から7営業日以内に取引内容をインドネシア中央銀行に、報告しなければなりません。(銀行によるオフショアローンに関するインドネシア中央銀行令2019年第21号第4、5、9、14条)。

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1.日本

(1) 配当決定の手続き

  株式会社が剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、①配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額、②株主に対する配当財産の割当てに関する事項、③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日、をそれぞれ定めなければなりません(会社法454条)。

 もっとも、㋐会計監査人設置会社であり、㋑取締役の任期が1年を超えず、㋒監査役会設置会社または委員会設置会社である場合には、取締役会の決議をもって剰余金の配当を行うことができる旨を定款で定めることができます(同法459条)。

また、 取締役会設置会社は、一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができます(同法454条5号)。

(2) 配当の支払に関する規制

まず、会社の純資産の額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当ができません(会社法458条)。

  また、剰余金の配当は、株主に交付される財産の帳簿価額の総額が、当該行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(同法461条1項)。

 分配可能額の計算方法としては、446条各号に従って分配時点での剰余金を算定し、当該剰余金の額を基に461条2項に従って、分配可能額を算出することとなります。 

分配可能額を超えて配当が行われた場合、当該配当を提案した取締役および当該配当を受け取った株主は、会社に対し連帯して、当該配当額相当の金銭を支払う義務を負います(同法462条1項)。

 

2.タイ

(1) 配当決定の手続き

配当は、株主総会の決議に基づいて行われなければなりません(民商法1201条1項)。

ただし、取締役が、中間配当を行うための利益があることが明らかであると判断したときは、取締役の判断で中間配当を行うことができます(同条2項)。

  また、配当の支払は、配当決定の決議から1か月以内に行われる必要があります(同条4項)。

(2) 配当の支払に関する規制

配当の原資は利益のみであり、また、会社に累積赤字がある場合には、当該累積赤字がなくなるまでは配当ができません(民商法1201条条3項)。

また、配当を実施する都度に会社は、会社の資本額の10分の1以上に達するまで、利益の20分の1を利益準備金として積み立てる必要があります(同法1202条1項)。

会社が、これらの規制に違反して配当を行った場合、会社の債権者は株主に対し、配当を受けた金額を会社へ返還するよう請求することができます。ただし、配当が規制に違反していることを知らなかった株主については、返還を強制されません(同法1203条)。

 

3.マレーシア

(1) 会社が配当を実施するための要件

会社が株主に対して配当を実施するためには、会社が支払能力を有している必要があります(会社法131条⑴)。会社法によれば、少なくとも、会社が配当実行直後から12か月以内に支払期限が到来する債務を履行することができる状態にある場合には、その会社は支払能力があるとみなされます(同条⑶)。

加えて、会社による配当は、会社が得た利益からのみ実施できるとされています(同条⑴)。法律上、利益(profit)の内容について特段の定義は存在しませんが、裁判例によれば、ここにいう利益には子会社の利益は含まないことが確認されています。

利益が存在する時期について、会社法の文言上、その基準時は配当時であると考えられます。ただし、過去の裁判例には、その基準時について、配当宣言時に存在する必要があるものの、支払時に存在する必要はない旨判示したものが存在します。

(2) 配当規制違反の場合の効果

仮に、会社が支払能力要件を満たすことなく配当を実施し又は会社の利益以外から配当を実施した場合、会社は配当を受けた株主に対して、超過配当額相当の金額の返還を求めることができます(133条⑴)。ただし、株主が超過配当であることについて知らなかった場合や会社に支払能力がなかったことを知らなかった場合には、当該株主は、会社からの返還請求を拒絶することができます(同項(a)・(b))。

 

4.ミャンマー

⑴ 配当の決定及び要件

会社法第107条及び第109条及び定款に従い、会社の取締役会は、その株主に対して配当を支払う旨を決議し、その金額、支払時期及び支払方法を定めることができます(会社法106条(a))。配当の支払方法は、現金、株式発行、オプション授与又は資産の譲渡によることができます(同条(b))。

会社は、以下の場合を除き、配当の支払を行うことはできません(会社法107条(a))。

  1. 配当支払の直後において会社が支払能力検査を充足すること
  2. 配当の内容が、株主に対して全体として公平かつ合理的であること、及び
  3. 配当金の支払が、債権者に対する会社の支払能力に重大な影響を与えないこと。

(2)  配当規制違反

会社が第107条の要件を遵守しなかった場合、会社は、50万チャットの罰金に処され、当該違反を認識しながら意図的に違反を許した全ての取締役又は役員も同じ罰金が科せられます(会社法108条(a))。

会社が配当の支払の後にそれと関連して支払い不能となった場合、第107条に違反していることを認識しながら意図的に配当の支払いを許した全ての取締役は、各債権者に対する弁済期が到来した負債の額が会社の責任財産を超過している限度において、会社の債権者に対しても責任を負います(同条(b))。

 

5.メキシコ

⑴ 配当の手続きについて

メキシコでは、配当金の支払いは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ行うことができるとされています(会社法第19条)。

配当は、株式の出資の履行の金額に比例して行われ(同法第117条1段落)、株式の発行日から3年を超えない期間は、年率9%を超えない配当を付す旨を定款で定めることができるとされています。定款で定められた場合、配当の額は一般経費に計上する必要があります(同法第123条)。

また、株券発行会社においては、株券に「クーポン」が添付されており、切り離して会社に示すことで配当をうけることができます(同法第127条)。

⑵ 違法配当について

 前述のようにメキシコでは、財務諸表が株主総会によって承認され、利益があった場合にのみ配当を行うことができます。

このような事情が無いにもかかわらず、会社が配当を行った場合、当該配当は法的効力を持たず、会社および債権者は、配当を受け取った者に対して訴訟を提起するか、支払った役員等に対して弁済を求めることができます。また、配当を受け取った者と支払った役員等は連帯して責任を負うことになります(会社法第19条)。

 

6.バングラデシュ

(1) 配当の方法

 配当は、会社の利益から支払われ、利益の金額とは、会計年度の利益から減価償却を控除して算出されるものとされています。

 会社は、定款で別段の定めがない限り、出席した株主の過半数の賛成で可決する普通決議(Ordinary Resolution)を行い、株式の配当を決定します。株主総会に提出される取締役会の貸借対照表には、i) 会社の状況、ii) 取締役が提案する貸借対照表に計上される準備金額(もしあれば)、iii) 取締役が推奨する配当金額(もしあれば)、iv) 貸借対照表が対象とする年度の最終日から報告日の間に生じた、会社の財務状況に影響する実質的な変化および義務に関する取締役会による報告書が添付されます(会社法184条1項)。

(2) 配当金の海外送金

 配当金については、外国為替取引ガイドライン第10章「31.(a)非居住者の株主への配当金」により、海外送金する手続きが定められています。必要な書類を提出すれば、バングラデシュ銀行の事前の承認なしで送金することができます。また、配当金は、非居住者が管理する外貨口座に対する送金も可能です。

(3) 上場企業

上場企業は、配当に関して、バングラデシュ証券取引委員会(The Bangladesh Securities and Exchange Commission :BSEC) と、バングラデシュ中央銀行からの規制が定められています。

 

7.フィリピン

  1. 概要

フィリピンの会社法では、会社は留保利益(unrestricted retained earnings)から配当を行うことができます。支払額は、原則として株主が保有する発行済株式に基づいて決定されます。

配当の決定権は基本的に取締役会にあります。例外として、配当を株式で行う場合には、株主総会で発行済株式の3分の2以上の賛成を得る必要があります。さらに、取締役は、実務上、定時株主総会で配当方針や配当の有無を株主に説明し、配当を行わない場合にはその理由を説明することが求められます。

    2. 配当の要件

配当を行うための基本的な要件をまとめると以下のとおりです。

  • 留保利益があること。
  • 取締役会で配当の決議を行うこと(配当を株式で行う場合、発行済株式の3分の2以上の賛成を得ること。)
  • SEC(証券取引委員会)が出すその他の要件を遵守すること。

     3.株主の配当受領に関する制限

株主が配当を受け取る権利には制限があります。株式の払い込みが未払いの株主については、配当金は未払いの株式引受金額および関連費用に充当され、残額のみが配当金として支払われます。また、配当を株式で行う場合は、株主が未払いの引受金額を全額支払うまで配当が保留されます。

      4. 配当の義務

基本的に、配当を行うかは取締役会の裁量に委ねられています。そのため、留保利益があっても配当は会社の義務ではありません。ただし、例外として、保留利益が払込資本金を超える場合で、払込資本金を超える保留利益の保持が許可されない場合は、会社は配当を行う必要があります。

 

8.ベトナム

(1) ベトナムの企業規制における会社の種類

ベトナムの現行の企業規制では、複数の企業形態があり、それぞれ固有の法的特性と組織構造を持っています。その中で、国内および外国の企業家や投資家は、通常、有限責任会社(一人社員または複数社員で構成されます)または株式会社という企業形態を選択して、ベトナムで事業を立ち上げます。そこで、本ニュースレターでは、これらの種類の企業に関連する情報のみを取り上げます。

法律により、株式を発行し配当を受け取ることが認められているのは株式会社のみです。一方で、有限責任会社、特に複数社員で構成される有限責任会社は、対応する出資額に応じた割合で利益分配を受けなければなりません。

(2) 有限責任会社と利益分配

有限責任会社の社員の法定権利として認められ規制される利益分配を受ける権利は、現行の企業法に規定されています。有限責任会社の利益分配の計画は、社長または総社長が提案し、社員総会の承認を得る必要があります。有限責任会社に現金またはその他の財産で資本金を拠出した個人社員および組織社員の委任代表者全てが、事業の最高決定機関である社員総会を構成します。

有限責任会社が利益を分配するための条件には以下が含まれます。

  1. 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
  2. 利益分配を実施した後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。

上記の条件のいずれかが満たされない場合、有限責任会社の社員が利益分配として会社から受け取った金銭や財産は、違法な利益分配とみなされます。この場合、社員は受け取った全ての金額や財産の全額を返還しなければなりません。また、社員は、返還されていない現金や財産の割合に応じて、それらが全額返還されるまで、会社の債務や負債について共同で責任を負う義務があります。

(3) 株式会社と配当

現行の企業法では、配当とは、1株当たりの現金またはその他の財産に対する純利益と定義されています。株式会社の株式は普通株式と各種優先株式(配当優先株式、償還優先株式など)に分けられます。優先株式の配当は、それぞれの優先株式に記載された条件に従って支払われます。そこで、本ニュースレターでは、普通株式の配当に適用される条件のみを概説します。

普通株式の配当は、以下の条件を満たす場合に限り、法定の支払方法によるベトナムドン(現金)での支払い、または株式や株式会社の会社定款に規定されたその他の財産での支払いが可能です。

  1. 納税義務および法律に基づくその他の財務上の義務を果たした後であること。
  2. 法律および当該会社の定款に従って、会社の資金への拠出を完了し、過去の損失を補填した後であること。
  3. 配当後に、支払期限が到来する債務およびその他の負債を完全に支払う能力が確保されていること。

株式会社が株式による配当を選択する場合、株式の募集手続きではなく、定款資本を増加させる手続を行う必要があります。

定時株主総会終了後6か月以内に、配当は株主に支払われます。取締役会は、配当を受ける株主の名簿、株式ごとの配当額、配当の支払時期および支払方法を、毎回の配当支払日の遅くとも30日前までに作成する責任を負います。配当支払日の遅くとも15日前までには、株主の登録住所に配当支払通知書を速達で送付しなければならず、その通知には、最低でも法律で定められた5項目の情報が記載されている必要があります。また、株主名簿の作成日から配当支払日までの間に株式を譲渡した場合は、譲渡人が配当を受け取ります。なお、ベトナムの株式会社の取締役会は、例えば英国や米国の法律に基づいて設立された会社の取締役会と多くの点で類似しています。

配当が前述の要件や規制に違反する場合、配当は違法とみなされます。この場合、株主は受け取った金額や財産を全額返還する義務があります。もし返還が行われない場合、取締役会の全メンバーは、未回収の金銭または財産の価値に相当する会社の債務および負債について共同責任を負うことが求められます。

 

9.インド

⑴ 配当の手続きについて

 インド会社法では、配当とは中間配当を含むとしています(会社法2条(35))。したがって、中間配当と期末の配当を行うことが可能です。

 会社は減価償却後の利益から、若しくは減価償却後の未配当の過去の会計年度の利益から、又はその両方から適当と認められる配当率及び配当額を決定して配当の宣言を行うことができます(会社法123条(1)(a))。いずれかの会計年度において利益が不十分な会社については、配当の宣言及び支払に関する会社規則(Companies (Declaration and Payment of Dividend)Rules 2014)に規定する以下の条件従うことを条件として配当を行うことが可能です。

  • 配当金の率が直前の3年間の平均を超えないこと
  • 配当額が払込資本金及び準備金の合計額の10分の1を超えないこと
  • 引き出された金額は、配当が宣言される前に配当を宣言する会計年度に発生した損失を相殺するために使用される
  • 配当支払後の準備金が払込資本金の15%を下回ってはならない

 取締役会で配当額や年次株主総会の日付等が決議され、配当の宣言は年次株主総会の普通決議の議題となります(会社法102条(2))。

 中間配当については、取締役会は、会計年度中に、損益勘定の剰余金及び中間配当を宣言しようとする会計年度の利益から中間配当を宣言することができます。ただし、中間配当の宣言日の直前四半期末までの当会計年度に損失が発生した場合、当該中間配当は、直前3会計年度に会社が宣言した平均配当率を上回る率で宣言してはなりません(会社法123条3項)。

⑵ 配当期間の規制について

 会社によって配当が宣言されたにもかかわらず、宣言の日から30日以内に配当が行われなかった場合、配当金の不支給について故意の取締役は2年以下の禁固刑、および違反が継続する期間につき1日当たり1,000ルピー以上の罰金に処せられ、会社は違反が継続する期間中、年18%の単利を支払う義務を負います(会社法127条)。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、株主総会において、法定準備金及び任意準備金を控除した後に、株主に配当する純利益の割合を定めるものとされています(会社法第243条1項)。通期、半期または四半期の利益に応じた配当について、社則で定めることができます(同第3項)。法定準備金を配当の原資とすることは原則できませんが、社則で定めた割合の純利益がなかった年には、法定準備金のうち資本の50%を超過した部分については、社則で定めた割合に従って配分することができます(会社法第241条1項、3項)。なお、毎年の純利益の10%は法定準備金とする必要があり、法定準備金の額が資本金の50%を超えたときには、株主総会決議によって純利益からの法定準備金の積み増しを中止することができます(会社法第241条2項)。

非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて(会社法第267条)、有限会社(Limited Liability Company)については、毎年の純利益の5%を法定準備金とする必要がある(会社法第103条)他、その性質に矛盾しない限り、証券商品庁を所管官庁と読み替えて(会社法第104条1項)、適用されます。

上記は本土で設立された会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、各フリーゾーンの規則によって規定されます

 

11. インドネシア

(1) 配当金の支払い

 インドネシアにおける配当金について、株式会社は、各会計年度の純利益の一部を準備金として積み立てる義務があり、資本金額の20%を超えるまで積み立てる必要があります。純利益の配当は、定款で別段の定めがない限り、及び/又は、株主総会における配当額などに関する普通決議がない限り、準備金控除後の純利益を株主に配当金として支払わなければなりません(2007年第40号(以下、「会社法」といいます。)70条、71条)。

株主が受け取る配当金の金額は、保有する株式の割合に比例し、会社が利益残高を有する場合にのみ配当が可能です。なお、5年以上、未払いとなっている配当金は特別準備金(cadangan khusus)として保管され、10年間未払いのままである場合、それらの配当金は会社の収益の一部として引き継がれます(会社法73条)。

(2) 中間配当

 インドネシアでは、中間配当の支払いも可能ですが、会社の定款に定める必要があります。また、中間配当は監査役会での承認を得た後、取締役会決議に基づき決定され、①会社の純資産額が発行済みおよび払込済みの資本金と準備金を下回らない場合、②債権者への義務や会社の活動の妨げにならない場合に限り配当が可能です。なお、会計年度の終了後に、会社が損失を被った場合、すでに分配された中間配当は、株主によって会社に返還されなければならない義務があり、返還できない場合には、取締役およびコミサリス(監査役)は会社が被った損失に対して連帯責任を負います(会社法72条)。

 

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1.日本

(1) 懲戒処分の種類

懲戒処分の種類は会社ごとに様々ですが、一般的には、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等が挙げられます。

(2) 懲戒処分に関する規制

懲戒処分にあたっては、あらかじめ、就業規則において懲戒処分の種類と懲戒事由を定めてくことが必要とされます(フジ興産事件。最高裁昭和平成15年10月10日)。なお、就業規則は、労働者への周知と内容の合理性を要件にその有効性が認められるため(労働契約法7条)、懲戒に関する就業規則の規定についても、その内容が合理的であることが求められます。

また、懲戒処分を行うにあたっては、対象となる労働者に対し懲戒事由を告知し弁明の機会を与える等適正な手続きが履践されていることが必要であり、そのような手続きを就業規則中に定めておくべきです。

なお、懲戒権の行使が権利の濫用とならないよう注意が必要です。この点、懲戒処分の内容が不相当に重い場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できず、権利の濫用と判断される可能性があります(ネスレ(日本)懲戒事件。最高裁平成18年10月6日)。

 

2.タイ

(1) 懲戒処分の種類

労働者の懲戒処分に関しては、労働者保護法に規定があります。同法には懲戒解雇等の規定はあるものの、懲戒処分の種類や手続き等に関して法令上の明確な定めはありません。そのため、タイの実務上は、懲戒処分の種類や手続きに関して、自社の就業規則において記載するケースが多く見られます。

タイの実務上、一般的に行われている懲戒処分として、口頭または書面による警告、停職、普通解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いを伴う解雇)、懲戒解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いなく行う解雇)が挙げられます。その他、会社内の就業規則において、懲戒処分としての減給を定めている会社も見受けられますが、減給処分については、労働者保護法に反するという見解もあり、注意が必要です。

(2) 懲戒処分の手続きについて

前述のように、労働者保護法上、懲戒処分の手続き等を定めた明文規定は存在しません。そのため、懲戒処分の手続きは、会社と労働者間の契約内容や就業規則の定めによることとなるため、就業規則中では、何が懲戒事由にあたるかを具体的に定め、懲戒を行う際の手続きも明確化しておくことが大切です。

(3) 懲戒解雇について

通常、労働者を解雇するにあたっては、事前の解雇予告(労働者保護法17条2項)と解雇補償金の支払い(同法118条)が必要です。もっとも、解雇理由が、労働者保護法119条1項所定のいずれかに該当する場合には、事前の解雇予告と解雇補償金は不要とされています。同条の定める非違行為は以下のとおりです。

① 職務上の不正または使用者に対する故意の犯罪行為。

② 故意に使用者に損害を与えた場合。

③ 過失により使用者に重大な損害を与えた場合。

④ 使用者が文書で警告したにもかかわらず就業規則、社内規定、使用者の合法的な命令に違反した場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。文書の有効期限は、労働者が違反行為を行った日から1年間である。

⑤ 正当な理由なく、間に休日を挟むか否かを問わず、三日間連続して職務を放棄した場合。

⑥ 最終判決で禁固刑を受けた場合。(ただし、過失犯や軽犯罪の場合は使用者に損害を与えた場合に限る。(同条2項))

なお、労働裁判においては、タイの裁判所は労働者側に有利に判断する傾向にあり、労働者側が不当解雇であると主張するケースは少なくありません。労働者側から、後に、不当解雇であると主張されるリスクを減らすためにも、懲戒解雇を行うにあたっては慎重に準備を進めておくことが必要です。

 

3.マレーシア

(1) 懲戒処分の種類

従業員の懲戒処分について規定する法令は雇用法(Employment Act 1955)です。同法14条によれば、従業員が非違行為(misconduct inconsistent)を行った場合、使用者は、当該非違行為の事実について適正な調査を行った上、当該従業員に対して、懲戒処分を行うことができます。

雇用法上想定されている懲戒処分には、①予告期間を設けない解雇、②降格、③2週間を超えない無給停職その他の適切な処分(ただし、解雇・降格より緩やかな処分)があります(雇用法14条⑴(a)~(c))。

(2) 適切な懲戒処分の選択

どのような懲戒処分が当該従業員にとって適切であるのか、使用者は慎重に検討する必要があります。とりわけ、懲戒解雇を選択するような場合には、より慎重な判断が必要となります。すなわち、マレーシアにおいても、従業員に対する解雇が有効となるためには、解雇することについて正当な事由(just cause or excuse)が必要であるとされています。

また、非違行為には、犯罪行為のほか、職務命令違反、常習的な遅刻・欠席、セクシュアルハラスメント等多岐にわたり、会社に対する不利益の程度も様々です。使用者としては、従業員の非違行為の内容、動機、当該非違行為により会社が被った不利益等事情を総合考慮した上、適切な懲戒処分を選択する必要があります。これらの事情に比して懲戒処分の内容が重すぎる場合、当該懲戒処分が無効となる可能性があります。

(3) 懲戒処分を行うために必要な手続

使用者が懲戒処分を実施するためには、当該処分の前に、due inquiryと呼ばれる社内審問手続を実施しなければなりません(雇用法14条⑴柱書)。ところが、会社がdue inquiryとして、具体的にどのような手続を実施すればよいかについては、雇用法上明確に規定されてはいません。

実務上は、当該非違行為の有無を調査のうえ、当該従業員に問題となっている非違行為の具体的内容を通知するとともに、理由提示命令書を送付する等により、当該従業員に対して弁明の機会を付与すべきとされています。

このような手続に瑕疵があると、懲戒処分自体が無効となる場合があります。裁判例には、懲戒解雇を正当化できるだけの重大な非違行為があったとしても、適切な時期に警告等を行わなかったことを理由として、または、due inquiryが適切に行われなかったことを理由として、当該解雇の効力を否定したものがあります。

(4) 解雇手当について

雇用法上、従業員を解雇する場合には、使用者は12か月以上継続して雇用した労働者との間の雇用契約を終了させる場合、原則として勤務年数に応じた解雇手当を支払う必要があります(雇用規則3条1項)。もっとも、適切なdue inquiryを行った上、雇用契約の明示又は黙示の条件に反する労働者の不正行為に基づき使用者が雇用契約を終了させた場合には、当該解雇手当の支払は免除されます(雇用規則4条以下)。

 

4.ミャンマー

⑴ 懲戒処分の種類・内容・手続きに関する法規制

ミャンマーでは、懲戒処分の種類・内容・手続きに関して法令上規定されておらず、各会社の就業規則等で詳細を定める運用となっております。懲戒解雇についても特段の法令上の規定は存在しません。

(2)  減給

労働者が引き起こした損害又は不履行を保証するために罰金として賃金から控除する場合、賃金支払法に基づき、控除額は月給の5%を超えてはならない旨規定されています。

 

5.メキシコ

⑴ 懲戒処分の種類

メキシコでは、連邦労働法に懲戒処分の規定があります。

同法によれば、懲戒処分としての停職は8日間を超えてはならない旨や、懲戒処分を受けようとする労働者は事前に意見を述べる権利を有する旨が規定されています(連邦労働法第423条)。

他方、使用者が労働者の給与を減額した場合、労働者は雇用契約を終了させることが可能であり、補償金を受け取る権利があるとされています(同法51条)。

⑵ 懲戒解雇について

使用者は、以下の正当な事由がある場合は、いつでも雇用関係を終了させることが可能とされています(同法47条)。

  1. 労働者が就労の際に虚偽を用いた場合(ただし、就労の開始から30日以内に限る)
  2. 自衛行為を除き、労働者が業務中に不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
  3. 労働者が同僚に対し職場の規律を乱すような不正行為または脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行った場合
  4. 業務時間外において、労働者が使用者、顧客や取引先、またはその家族に対する正当な理由のない脅迫、侮辱等を含む暴力的行為を行い、その結果、雇用関係を維持することが困難となった場合
  5. 労働者が、業務中、故意に建物、機械、原材料等業務に関する物体に被害を与えた場合
  6. 労働者が重大な過失によって建物、機械、原材料等業務に関する物体に影響を与えた場合
  7. 労働者に不注意による職場の安全を脅かす行為があった場合
  8. 労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントやいじめ等の非道徳的行為を行った場合
  9. 労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合
  10. 労働者に30日間のうち4日以上の正当な理由のない欠勤があった場合
  11. 労働者が正当な理由なく業務命令に従わない場合
  12. 労働者が職場における安全規則に従わない場合
  13. 労働者に職場での酩酊または薬物の使用があった場合(ただし、薬物の使用について、労働者が事前に使用者に対して医師の診断書をもって使用を申請していた場合を除く)
  14. 労働者が懲役刑に処された場合
  15. 労働者に起因する事由によって、就労に必要な書類が欠如しており、使用者がこれを知ってから2か月を経過しても改善されない場合
  16. その他これらに類する重大な行為があった場合

使用者は当該労働者に対して、当該事由およびその事由が発生した日付や期間を記した書面によって解雇を即日かつ直接通知するか、解雇日から5営業日以内に管轄の労働裁判所に当該労働者の住所とあわせて届け出る必要があります。この場合、使用者に代わって当該労働裁判所が労働者に当該解雇通知を送達することとなり、労働者が通知を受け取った時にこの解雇の効果が生じることになります。

 

6.バングラデシュ

バングラデシュ労働法及びEPZ労働法において、懲戒の種類、懲戒の理由、手続きが定められています。

(1) 懲戒処分の種類(労働法23条2項)

① 退職(懲戒解雇と異なり、勤務年数に応じた補償金が支払われます)

② 1年を超えない期間の降格・減給

③ 1年を超えない期間の昇進の保留

④ 1年を超えない期間の昇給の保留

⑤ 罰金

⑥ 7日を超えない期間の賃金または特別手当なしの停職

⑦ 厳重注意および警告

(2) 懲戒の理由(労働法23条1項、4項)

使用者は、労働法で定められた懲戒処分の対象となる不正行為が、労働法24条の手続きで認められた場合、懲戒理由とすることができます。また、懲戒解雇に限り、犯罪行為で有罪になった場合も懲戒理由とすることができます。

懲戒処分の対象となりうる不正行為は次のとおりです。(労働法23条4項)

① 上長からの適法又は正当な指示に対して、個人又は複数で故意に従わないこと

② 事業や使用者の資産に関連した窃盗、横領、詐欺、不正行為

③ 業務に関連した贈収賄

④ 常習的及び一度に10日を超える無断欠勤

⑤ 常習的な遅刻

⑥ 常習的なルール違反や規則違反

⑦ 事業所における無秩序、暴動、放火、破壊行為

⑧ 常習的な職務怠慢

⑨ DIFEから承認を受けた、業務遂行や規律を含む雇用に関するルールの常習的な違反

⑩ 使用者の公的な記録の改変、偽造、不当な変更、損傷、損害をもたらすこと

(3) 懲戒の手続き(労働法24条)

まず、使用者は、不正行為と思料される事実を記載した書面を作成します。(労働法24条1項a)。次に、労働者に対して同書面を交付して7日以上の釈明する期間を与えます(同項b)。その期間内に、労働者に聴聞の機会を与えます(同項c)。労働者の釈明により不正行為がないと使用者が判断した場合はその時点で手続きは終了し、本行為について以後不問とされます。釈明しても疑義が解消されない場合は、同数の使用者代表者及び労働者代表者で構成された調査委員会を立ち上げて、60日以内で調査を行います(労働法24条1項d、労働規則25条1項)。

調査委員会の調査の結果、不正行為が認められた場合、使用者は、懲戒処分の決定を行うことができ(労働法24条1項e)、懲戒処分の決定を労働者に対して書面にて通知します(労働法24条8項)。

(4) EPZ労働法及びEPZ労働規則

EPZ内で適用されるEPZ労働法及びEPZ労働規則においても、懲戒についてはおおむね同様の内容が定めらています(EPZ労働法21条、EPZ労働規則23条乃至26条)。

懲戒の対象となる不正行為には、(2)の①乃至⑩に加えて次の項目が追加され、より具体的かつ詳細になっている点が特徴です(EPZ労働規則23条j乃至r)。

① 使用者の公式記録を改ざん、不当に改変、損傷、または紛失させること

② 工場の禁止区域での喫煙

③ 会社、企業、工場、またはEPZ内で薬物を摂取または消費し、秩序を乱す行為

④ 性的嫌がらせまたは身体的暴行

⑤ 使用者の同意なしに、会社、企業、または工場の敷地内で何らかの目的で募金活動またはキャンペーンを行うこと

⑥ 氏名、年齢、学歴、前職について虚偽の情報を提供すること

⑦ 求人応募に虚偽の情報を提供し、証明書を偽造すること

⑧ 会社、企業、または工場の敷地内で金銭を貸し借りしたり、金融業務を行ったりすること

⑨ 適切な当局の承認なしに、会社、企業、または工場の敷地内でチラシ、パンフレット、またはポスターを配布または掲示すること

 

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける懲戒処分の概要

フィリピンでは、日本と同様に従業員に対して懲戒処分を行うことができます。処分の内容は基本的に会社の裁量に任されており、訓告、減給、降格、解雇など日本と類似の処分を下すことができます。

会社は就業規則などで懲戒処分について定めることができますが、処分の内容は合理的である必要があります。不合理に重い罰則は無効とされる可能性があります。特に解雇に関しては、適用条件や手続が労働法によって規定されており、会社はこれらの規定を遵守する必要があります。

従業員が会社からの懲戒に対して納得ができない場合、労働関係委員会(National Labor Relations Commission)などに対して異議を申し立てることができます。

(2) 懲戒に関する判例

懲戒に関する判例を紹介します。最高裁で問題になるケースの多くは、不適切な行為を行った従業員に対する解雇に関するものです。

・Perez v. Philippine Telegraph and Telephone Company, G.R. No. 152048, April 7, 2009

フィリピン法上、従業員は解雇される際に聴聞と弁明の機会を与えられる必要があります。この点について、判例は、解雇手続において必ずしも正式な聴聞会を実施する必要はないことを判示しています。従業員に対して聴聞および弁明の機会を提供することが必要ですが、これには正式な聴聞会を通じて行う場合だけではなく、解雇に関する通知後に書面で説明を提出する方法も認められています。

他方で、判例は、例えば以下の場合において正式な聴聞会が例外的に必要とされる場合があることも認めています。

・従業員が書面で要求した場合

・根拠に関して争いがある場合

・会社の規則や慣行で義務付けられている場合

・その他の状況で正当化される場合

・Malcaba, et al, v. ProHealth Pharma Philippines, Inc., G.R. No. 209085, June 06, 2018

この判例は、解雇が最後の手段であるべきであることから、会社は解雇を行う際は状況を十分に把握して評価したうえで、解雇の理由が事実かつ重大なものであることを確認する必要があることを判示しています。

 

8.ベトナム

ベトナムの労働法において、懲戒処分は、使用者が、法令で認められている範囲内で、就業規則において定めるべきものとされています。就業規則で定めることができる懲戒処分の内容としては、譴責、最長6か月の昇給猶予、降格、解雇の4つがありますが、1つの違反行為に対して複数の懲戒処分を課すことは禁止されています。懲戒処分の時効期間は、違反行為が行われた日から6か月、財務、資産、技術・営業秘密の漏洩に直接関係する違反の場合は12か月です。懲戒処分の手続の概要は次のとおりです。

  • 使用者は、従業員に対して懲戒処分を行う場合、労働規律処分会議を開催しなければなりません。
  • 労働規律処分会議には、懲戒処分を受ける従業員が所属する基礎レベル労働者代表組織を参加させなければなりません。
  • 使用者は、労働規律処分会議を開催する少なくとも5営業日前までに、その会議の内容、日時、場所、懲戒処分の対象となる者の氏名、懲戒処分の対象となる違反行為について、会議の参加者に通知し、会議開催前に参加者が確実にその通知を受け取ることができるようにしなければならなりません。
  • 従業員は、弁護士又は労働者代表組織に弁護を依頼する権利があります。
  • 労働規律処分会議の内容については議事録を作成し、会議終了前に確認された上で、出席者が署名しなければなりません。
 

9.インド

インド労働法は、懲戒処分の規定を設けていません。1947年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)(以下、「産業雇用(就業規則)法」)4条及び同法スケジュールでは、解雇、停職に関する懲戒処分及び当該懲戒処分の対象となる非違行為を構成する作為又は不作為を就業規則の必要的記載事項としています。したがって、懲戒処分は就業規則に記載された事由に基づいて行われる必要があります。懲戒処分は、使用者から労働者へ書面による非違行為の通知、労働者の防御のための聴聞の機会が与えられ、記録された証拠に基づいて処分の正当性が決定される必要があります。こうした手続は、判例法に基づく原則 (Principles of Natural Justice) からの要請であり、非違行為の存在を認識したからといって手続を経ずに懲戒処分を行った場合、当該懲戒処分が違法無効となる可能性があります。

もっとも、産業雇用(就業規則)法は、 100人以上のワークマンを雇用している事業場に適用されます(マハラシュトラ州、グジャラート州、カルナータカ州、ハリヤナ州では、州法により50人以上のワークマンが雇用されている産業施設に適用されます)。ワークマンとは、雇用又は報酬を得るため、肉体労働、非熟練労働、熟練労働、技術労働、作業労働、事務労働、又は監督労働を行うために雇用される者(見習いを含む)をいい、主に1万ルピー以上の賃金を得て管理・監督の立場で雇用されている者は含みません(1947年産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)2条)。

産業雇用(就業規則)法上、就業規則の作成が義務ではない事業場であっても非違行為を理由に労働者に不利益を科す処分については、判例法上の原則が適用されると考えられます。したがって、法令上の就業規則の作成義務に関わらず、全ての会社において、就業規則を策定し、懲戒処分に関する規定を定め、当該規定に従って懲戒処分を行うべきといえます。

 

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における懲戒については、労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および同施行規則(2022年内閣令第1号)が以下の通り規定しています。なお、2つのフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社には、連邦労働法の適用が除外されていますので、各フリーゾーンの規定によります。

(1)懲戒処分の種類

懲戒の種類は、①書面による通知、②書面による警告、③月5日以上の減給、④14日以内の出勤停止および停止期間の給与不支払、⑤1年以下の期間の定期賞与の剥奪(定期賞与システムがあり、雇用契約または会社内規で定期賞与の対象となる場合)、⑥2年以下の期間の昇級の剥奪(昇級システムがある場合)、⑦退職時手当の権利を温存しつつの雇用解除、とされます(連邦労働法第39条第1項)。

会社は、(i)業務関連情報の秘匿違反の程度、(ii)労働者の健康および安全への影響、(iii)財務上の影響、(iv)会社の評判およびその労働者への影響、(v) 労働者の権限濫用、(vi)再犯率、(vii)違反行為の刑事または道徳上の側面、の基準に基づき、違反行為の重大性を考慮して懲戒の種類を選択しなければならず(施行規則第24条1項)、各懲戒の内容を明らかとする表を作成しなければなりません(施行規則第24条第2項)。

(2) 懲戒対象

雇用者は、連邦労働法、同施行規則および決定に違反した労働者を懲戒に付すことができますが(連邦労働法第39条第1項)、業務に関連しない限り職場外での行為について懲戒することはできず、1つの違反行為に対しては、1つの懲戒しかできません(連邦労働法第41条)。

(3) 懲戒手続

懲戒を行うにあたって、まず、対象となる労働者に書面で対象となる行為を通知し、労働者を聴聞し、その申し開きについて調査し、これらを報告書にまとめて、最終的な処分とともに労働者のファイルに保管して、労働者に懲戒処分の種類と金額、その理由、再発時のありうべき懲戒につき書面で通知しなければなりません(施行規則第24条第3項)。発見されてから30日を経過した違反行為は懲戒対象にはできず、懲戒処分は、調査が終了して違反の認定後60日以内に課されなければなりません(同第4項)。

懲戒事由の調査のため必要がある場合、30日以内の範囲で労働者を暫定的な出勤停止、同期間中の給与半減にすることができます。ただし、調査が事件保存で終了、または違法性なしと判明、若しくは懲戒処分が警告となったときには、停止期間中の未払給与を支払わなければなりません(連邦労働法第40条第1項)。

(4) 不服申立

労働者は、懲戒処分に関し、労働審判を提起することの他、会社に不服申立をすることができ、会社はその結果を通知しなければならず、不服申立に対して不利益を与えてはなりません(施行規則第24条第5項)。

(5) 即時解雇

上記の懲戒処分の他、労働者が安全に関する会社の内規に違反する等の法定事由に該当した場合、会社は、労働者への書面調査の実施後に事前通知なく解雇することができます。即時解雇に当たっては、理由を付した解雇決定書を、雇用主またはその代理が労働者に手交しなければなりません(連邦労働法第44条)。

 
 

11.インドネシア

(1) 懲戒処分の種類

インドネシアの懲戒処分については、①警告、②減給、出勤停止、③懲戒解雇の種類があります。懲戒処分に関する法制には、労働法2003年第13号(2022年の雇用創出に関する政府規則に関する法律第2号を改正した労働法2003年第6号)、労使関係紛争解決法2004年第2号、および年政府規則2021年第35号(期間契約労働契約、アウトソーシング、労働時間および休憩時間、解雇に関する政府規則)、2023年法律第6号に定められており、規則と手順に従って実施しなければなりません。

(2) 懲戒処分のための手続き

警告書に関しては、労働法第161条第1項で規定されています。インドネシアでは、従業員が就業規則、雇用契約書などに違反したとしても、すぐに解雇することは難しく、警告書を3回発行する必要があります。3回目の警告書を発行してから6カ月以内に、再度従業員が違反した場合に、初めて解雇することができ、3回目までに発行された、それぞれの警告書の有効期間は6カ月間です。

3回目の警告書を発行した後に解雇となった場合、雇用主と従業員が支払額やその他の権利や義務について合意し、雇用主と従業員は合意契約書(Perjanjian Bersama)を作成する必要があります。その後、雇用主は合意契約と雇用契約解除の理由をインドネシアの労使関係裁判所(Pengadilan Hubungan Industrial Indonesia)に登録し、合意契約登録証明書(Akta Pendaftaran Perjanjian Bersama)を取得する必要があります。

(3) 解雇手当

会社が従業員を解雇することになると、①退職金、②功労金、③権利補償手当など、企業に対する特定の義務が生じます。解雇は雇用主と従業員の合意の下で決定され、規定としては以下があります。

①退職金は、勤続期間が1年未満で固定給の1ヶ月分、2年未満で2ヵ月分、3年未満 で3ヶ月分と勤続年数に比例して増えていき、8年以上からは9ヵ月分で一定です。 ②功労金は、3年以上6年未満で固定給の2ヵ月分、6年以上9年未満で3ヶ月分、9年以上12年未満で4ヵ月分と勤続年数に比例して増えていき、24年以上は10ヶ月分で一定です。 ③権利補償手当には、未消化分の有給休暇の買取など、勤務期間に受けられるはずだった権利を補償する義務を指します。

警告書を発行した懲戒解雇の場合、①退職金については計算した金額の0.5倍、②功労金、③権利補償手当は計算金額をそのまま支給する必要があります。(法律2023年第6号)

 

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