「労務紛争解決手段の概要」 TNY Group Newsletter No.43
1.日本
(1) 労働紛争解決手段について
日本において、労働紛争が発生した場合、同紛争の解決のためには、主に、裁判外での交渉(行政機関によるあっせん手続きを含む)、労働審判、民事訴訟の手続きを採ることが考えられます。
(2) 各手続きの概要 ア 行政機関によるあっせん手続きについて
紛争調整委員1名により実施され、事業主と労働者の双方が話し合いによる合意を目指します。もっとも、同話し合いはあくまで当事者の任意によるものであり、片方当事者が不参加の場合には、同手続きは終了することになります。
仮に双方で合意がなされた場合、同合意は法的には民事上の和解契約と位置付けられ、同合意のみを理由に強制執行等を行うことはできません。
- 労働審判について
労働審判とは、労働審判委員会(労働審判官(裁判官)1名、労働審判員(労使)2 名)により実施され、事業主と労働者の双方が、主張・立証をしつつも、話合いによる合意を目指して、3 回以内の期日で終結することを想定した手続きです。民事訴訟に比べて、早期かつ柔軟な解決ができるため、労働者や事業者双方にとって重要な手続きであるといえます。 また、合意内容は裁判上の和解と同じ効力を持ち、強制執行を行うことも可能です。
労働審判手続中に調停が成立しない場合には、労働審判が下されることになり、当事者のどちらかから異議が出される場合には訴訟手続きに移行します。
- 民事訴訟について
労働紛争を最終的に解決する手段として、民事訴訟を提起することが考えられます。
行政機関によるあっせん手続きや労働審判と異なり、両当事者の主張・立証を踏まえて、裁判官による最終的な結論が出されることが大きな特徴といえます。
民事訴訟においては、両当事者が期日までに、準備書面や反論の書面を提出し、場合によっては証人尋問を行うこともあるため、紛争解決が長期化するケースも多いです。
なお、民事訴訟に移行した後であっても、必ずしも判決まで行われるわけではなく、裁判の進行中に裁判から和解勧告を受けることもあります。そのため、この段階に至った場合であっても、当事者間で和解を行うことは可能です。
(3) その他の手続きについて
その他、労働紛争においては、仮処分の申し立てが考えられます。具体例として、労働者から従業員として賃金を受けとることができる地位の申し立てを行うこと、事業主からは元従業員が、競業避止義務に違反して競業行為を行っている場合に、同競業行為を止めるよう仮処分の申し立てを行うこと等が考えられます。
また、労働組合による団体交渉手続きも考えられます。労働組合による団体交渉は、労働者の労働条件の向上を目指して行われることが多く、事業主が正当な理由なく団体交渉を拒否、または不誠実な対応をした
場合には、違法とされます。
2.タイ
(1) 労働紛争解決手段について
タイの労働紛争解決手段のうち、労働者が労働問題に関する申立てを行う手段としては、労働監督官への申立て、労働関係委員会への申立て、労働裁判所への提訴の 3 つが考えられます。
(2) 各手続きの概要
- 労働監督官への申立て
使用者が労働者保護法に定める金銭の受領にかかる権利について違反または履行しなかった場合において、労働者は、労働者の就業場所または使用者の居住地の労働監督官に対し、申し立てを行うことができます。同申立てが行われた後、労働監督官による事実調査が行われ、労働者に金銭を受領する権利があると判断した場合には、監督官は使用者に対し、当該金銭を支払うよう命じることになります。 使用者が同命令に不服がある場合には、命令を知った日から 30 日以内に労働裁判所に訴訟を提起することが可能です。
- 労働関係委員会への申立て
使用者が労働者の労働組合員としての活動を不当に妨害した場合において、労働者は当該行為があった日から 60 日以内に労働関係委員会に申し立てを行うことができます。当該申立てを行った後、労働関係委員会は審理を行い、使用者に命令を下すことになります。
同命令に対し、不服がある場合には、同委員会に異議申し立てを行うことができ、同異議に対する委員会の決定に不服がある場合に、労働裁判所への異議申し立てを行うことが可能です。
- 労働裁判所への提訴
タイでは、一般民事を取り扱う裁判所は別に労働裁判所が設置されています。タイの労働裁判は、裁判官
と補助官によって実施されます。補助官とは、裁判官とともに職務を遂行するため特別に選任された者であり、日本の労働審判員と似た制度です。補助官は使用者側、従業員側に区別され、必ず同数とされます。
したがって、タイの労働裁判は、通常、裁判官 1 名、補助官 2 名(使用者側 1 名、従業員側 1 名)合計 3 名という構成で実施されることが一般的です。訴訟提起後、第 1 回期日では、和解の機会が持たれることが通常であり、和解がまとまりそうであれば、その後、第 3 回期日までは、和解期日として設定されることが一般的です。
なお、タイでは、労働裁判所への提起が無料であり、かつ法律の知識が無い者に対しては、裁判所の職員が訴状作成の手助けをしてくれるため、労働者にとっては労働裁判を提起することへのハードルは低く、使用者にとっては訴訟を提起されるリスクは日本に比べて高いといえます。
(3)その他の手段
その他の労働者が取りうる手段として、団体交渉があります。
同手続きは、労働者または使用者が相手方に対し、要求書を提出することから開始します。その後、3 日以内に交渉が合意に達しなかった場合には、労働争議が発生したとみなされ、労働争議調停官への通知を行います。労働争議調停官は 5 日以内に合意のために調停を行い、調停が成立しない場合には、労働争議仲裁
やストライキやロックアウト等の争議行為に移行することになります。
3.マレーシア
マレーシアにおいて、労務紛争を扱う手続としては、主に、1955 年雇用法(Employment Act 1955)に基づく労働裁判所(Labour Court)、1967 年労使関係法(Industrial Relations Act 1967)に基づく人的資源省労使関係局の斡旋及び産業裁判所(Industrial Court)があります。
(1) 労働裁判所
労働裁判所は、雇用法に基づき、労働者に対する賃金の支払い等を取り扱う、人的資源省労働局が所管する準司法機関です(雇用法 69 条)。労働者は、労働裁判所において、職場における差別に関する請求を行うこともできます(同法 69F 条)。労働裁判所では、労働局担当官が裁判官の役割を果たします。労働裁判所は、労働組合による苦情処理制度を持たない労働者の権利を保護する役割を担っています。
(2) 人的資源省労使関係事務局の斡旋
使用者又は労働組合は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、解決されない場合には労使関係事務局長に報告することができます(労使関係法 18 条(1))。また、労使関係局長は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、公共の利益のために必要と判断した場合には、紛争解決のための必要な手続きをとることができます(同法 18 条(3))。労働関係局長は、紛争が解決できないと思料する場合は、人的資源省相に通知します(同法 18 条(5))。人的資源省相は、適切であると思料する場合には、案件を産業裁判所に付託します(同法 20 条(3))。
(3) 産業裁判所
産業裁判所は、労使関係法 21 条に基づいて設置された、労使間の紛争、労働組合と使用者間の紛争及び同法に基づく権利義務関係違反に関する紛争等の労働紛争を扱う特別裁判所です。産業裁判所の審理においては、個別の案件ごとに、裁判官と労使委員 2 名で構成されます(同法 22 条(1))。
産業裁判所は、下級裁判所としての機能を有しているため、産業裁判所の判決に不服の場合には、高等裁
判所に上訴することができます(同法 33A 条(1))。
4.ミャンマー
(1) 労働紛争解決法の概要
労働紛争法(The Trade Disputes Act, 1929)を改定する形で、2012 年 3 月 28 日に労働紛争解決法が制定されました。その後、2019 年 6 月 3 日、労働紛争解決法第 2 次改正法(以下、「改正法」という。)が成立しました。同法は労働紛争の解決方法や職場調整委員会などについて規定しています。
(2) 労働紛争解決の流れ
30 人以上の労働者がいる事業所の場合、使用者は職場調整委員会を設置しなければなりません。職場調整委員会の構成は労働組合の有無によって異なります。
労働組合が設置されている場合には、組合から 3 名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要があります。
労働組合が設置されていない場合、労働者が選出した労働者代表 3 名及び使用者代表 3 名を選出する必要があります。
労働者が、30 名未満であるために職場調整委員会が設置されていない場合、使用者が労働者の苦情について対応しなければなりません。労働者が、使用者に対し、苦情を申し立てた場合、使用者は 7 日以内に解決しなければなりません。
職場調整委員会において解決できない場合、紛争解決の流れは以下のとおりです(図1参照)。
労働紛争解決法に基づく団体紛争解決の流れ
職場調整委員会設置者:使用者
設置単位:30 人以上の労働者がいる事業場
↓
調停機関設置者:管区または州政府
設置単位:管区または州内のタウンシップ
↓
紛争解決仲裁機関設置者:労働省
設置単位:管区または州
↓
紛争解決仲裁評議会設置者:労働省設置単位:国
当事者は、本法に基づく機関において審理中であっても、刑事または民事裁判を提起することを妨げられま
せん。
5.メキシコ
(1) 概要
メキシコの労働紛争は、原則、連邦労働調停登録センター(Centro Federal de Conciliación y
Registro Laboral; CFCRL)または州の調停センターによる調停を行い、それでも解決できない場合に、労働裁判所にて審判を図り解決します。ただし、以下に関連する事案は、調停を経ることなく、労働裁判所での裁判による解決を図ることとなります。
‧ 妊娠を理由とした雇用や就業に関する差別、性別、性的指向、人種、宗教、民族的出身等による差別や嫌がらせ
‧ 労働者が死亡した場合の受益者の指名
‧ 労災、出産、病気、障害、育児に関する社会保障の利益
‧ 団結の自由、団体交渉権の保障、労働者の人身売買や強制労働、児童労働に関連する基本的権利と公共の自由の保護
‧ 労働協約の所有権をめぐる紛争
‧ 労働組合規約やその修正への異議申立
なお、調停センターには CFCRL と州調停センターがあり、労働裁判所も連邦労働裁判所と州労働裁判所あります。連邦機関が管轄する産業は次のとおりです。
繊維業、電気産業、映画産業、ゴム産業、製糖産業、鉱業、冶金及び鉄鋼業、炭化水素産業、石油化学産業、セメント産業、石灰産業、電子・機械部品を含む自動車産業、製薬化学・医薬品を含む化学産業、紙パルプ産業、植物油脂産業、食品製造・加工業、飲料水製造業、鉄道、製材・合板・集成材の製造を含む伐採産業、鍛造ガラス版やガラス容器製造に係る焼き付けガラス産業、たばこ産業、銀行業、貸付業
このほか、連邦政府が管理する企業や、連邦政府調達先企業等における紛争、上述以外の産業にかかる事案であって 2 つ以上の州にまたがる事案や労働者に対する教育訓練、安全衛生に関する事案は、連邦機関の管轄となります。
(2) 調停
調停は、CFCRLまたは州調停センターへの書面または電子的方法による申立によって開始されます。調停センターは申立の受理から 15 営業日以内に調停を実施しなければならず、調停期日は使用者に対して 5 営業日前までに通知されます。なお、調停が、両当事者によって調停センターに直接申し立てられた場合、調停は即日行われるか、または申立から 5 営業日以内に調停期日が定められ通知されることとなります。
調停では、調停人によって、和解合意案が提案され、これに両者が合意した場合は、和解合意書が作成され、両当事者には認証謄本が渡されます。また、調停議事録の認証謄本も提供されます。両者が合意に至らない場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行されます。
調停期日に当事者の一方または両方が正当な理由によって出席しない場合は、期日はその日から 5 営業日以内の間で延期され、新たな期日が通知されます。正当な理由なく被申立人が欠席した場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行され、正当な理由なく申立人が欠席した場合は、手続が中止されます。いずれの場合も、労働者は再度調停を申し立てる権利を有します。
(3) 労働裁判
労働裁判は、大きく通常手続と特別手続に分けられ、以下に関する紛争は特別手続が、それ以外の紛争は通常手続が取られます。
‧ 非人道的で過度な長時間労働
‧ メキシコ国外での労務の提供においてメキシコ国内で締結された雇用契約書の承認
‧ 使用者が労働者に賃貸する住居、使用者が労働者に提供する教育・訓練、労働者の勤続年数や勤続手当
‧ 船員における予め定めた場所への移送、船舶の押収や毀損等による雇用関係の終了の際の船員の
権利や補償、船舶の残骸や貨物の回収を船員が行う場合の給与等
‧ 航空機乗務員の異動に伴う費用負担や航空機が使用できなくなった場合の移動にかかる賃金や費用
‧ 労働災害による障がいや死亡への補償や産業医の選任に起因する紛争
‧ 給与 3 カ月分を超えない額の給付や福利厚生に関する紛争
‧ 死亡または失踪時の給与等の受取人に関する紛争
‧ 社会保障に関する紛争通常手続は、次の流れで進められます。
- 提起
原告は、原告や被告に関する情報、要求の内容、要求の根拠となる事実等を記した書面を提出します。
なお、一部の例外を除き、当該書面には、調停センターが発行した「十分な調停が尽くされたとする証明書」を添付する必要があります。
- 答弁及び反訴
労働裁判所は、当該書面の受理から 5 営業日以内に被告を召喚し、書面や添付された証拠の写しを提供します。被告は、写しの受領から 15 営業日以内に正確に事実を押さえ原告の主張に全て答える内容の答弁書と十分な証拠を提出しなければなりません。また、被告は、この時、反訴を提起することもでき、労働裁判所は、反訴を認める場合、15 営業日以内に原告を召喚し、反訴原告の反訴状や証拠の写しを提供します。この場合、原告は、15 営業日以内に答弁書と証拠を提出しなければなりません。
- 異議等の申立
提出された答弁書や証拠の写しは、原告に提出され、原告は 8 営業日以内に、これに対する異議やその証拠を書面で提出しなければなりません。提出された異議等は、その写しが被告に提出されます。
被告は、5 営業日以内にこれに対する異議やその証拠を書面で提出します。反訴が提起された場合、その反訴についても同様となります。
- 予備審理
異議や証拠の提出期間を経過すると、10 営業日以内に予備審理の期日が設けられます。予備審理では、手続の正当性の検証や証拠の確定、争いのない事実の確定、審問期日の決定等が行われ、合意書が作成されます。
- 審理
合意書の作成から 20 営業日以内に審理の期日が設けられます。審理では、証拠の開示と確定、当事者の弁論を行い、判決が下されます。
なお、被告が原告の主張を認める場合、その日から 10 営業日以内に審理の期日が設けられ、判決が下されます。
特別手続の流れも、通常手続と同様ですが、答弁書の提出期間は 10 営業日、被告の答弁書に対する原告の異議等の提出は、答弁書等の写しの受領から 3 営業日以内に設定されています。労働裁判所は、異議や証拠の提出期間経過後 15 営業日以内に、証拠や論点を確定するための命令を出します。また、必要がある場合には、10 営業日以内に予備審査を設定することができます。
(4) 経済的性質の集団紛争
労働協約(contrato colectivo や contrato-ley)における新しい労働条件の実施や労働条件の変更(正当化する経済的要因がある場合や、生活費の上昇が収入と労働に不均衡をもたらす場合に認められ)、集団的労働関係の中断や終了(不可抗力や使用者の死亡に起因する場合、使用者に帰責事由のない原材料の不足、資金不足や破産等の事由がある場合に認められる)を目的とする紛争は経済的性質の集団紛争として扱われ、労働協約を締結している労働組合、労働者の過半数または使用者が提起することができます。
この場合の労働裁判は、ⅰ)書面による提起、ⅱ)被告による答弁(15 営業日以内)、ⅲ)原告による応答(答弁から 5 日営業日以内)、ⅳ)審問(25 営業日以内)期日より 10 日前までに専門家による証拠や意見を提出
させることができる。ⅴ)判決(30 営業日以内)と進められます。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、2006 年バングラデシュ労働法(以下「労働法」という)と、EPZ に適用される EPZ 労働法にて、労務紛争解決について定められています。
(1) 2006 年バングラデシュ労働法
労働者・使用者は、労働法に基づく権利について争いがある場合、書面において相手に通知しなければなりません(210条1項)。本通知を受領して15日以内に、使用者と労働者との間で会議を開く必要があります。
(a) 調停・仲裁手続
会議が開かれない場合、又は、最初の会議から1か月経過しても和解に至らない場合は、調停手続きを申し立てることができます(210 条 4 項)。調停に付された場合、10 日以内に調停が開始されます(同条 6 項)。調停による和解が 30 日以内に成立しない場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停を仲裁に付するよう請求します(同条 9 項,同条 12 項)。
仲裁に付された場合は、30 日以内に、仲裁人が裁定を下さなければなりません(同条 14 項)。裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条 16 項)。
(b) 労働裁判所による手続き
各当事者は、労働裁判所に権利の執行を求めて訴えることができます(213 条)。労働裁判所は、訴訟が提起されてから 10 日以内に、相手方に供述書または反論書を提出するよう指示します(216 条 3 項)。相手方が、定められた又は延長された期間内に供述書または反論書を申し立てなかった場合、当事者の一方だけで審問し、処理されます(同条5項)。相手方が審理に欠席した場合も同様です(同条8項)。労働裁判所は、当事者が書面にて延長に合意しない限り、訴訟が提起されてから 60 日以内に判決、決定または裁定をします(同条 12 項)。
労働裁判所の判決に異議がある場合は、60 日以内に労働上訴審判所に訴訟を提起することができ、労働上訴審判所の決定が最終判決となります(217 条)。審理については、民事訴訟法の規定に従います(218 条 7 項)。労働上訴審判所は、申し立てに基づき、労働裁判所の決定を確定、変更、棄却または再審理のために労働裁判所に差し戻すことができます(同条 10 項)。労働上訴審判所は、訴訟が提起されてから 60 日以内に判決を下します(同条 11 項)。
(2) EPZ 労働法
(a) 調停・仲裁手続き
調停・仲裁手続きまで、労働法と同様ですが(124 条 1 項、2 項)、15 日以内に使用者と労働者で和解に至らなかった場合、調停を依頼することができます(126条)。15日以内に調停人による和解が成立しなかった場合、使用者又は団体交渉人は、30 日の事前通知にて、ストライキ又はロックアウトを実施することができます(127 条 1 項)。同通知は、調停人にも送付されるものとし(128 条 1 項)、調停人は、ストライキまたはロックアウトを実施が、法律が定める要件を満たしていると判断した場合(同条(2))、調停を開始します(129 条 1 項)。ストライキ又はロックアウトに記載した期間内に調停による和解に至らなかった場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停人と当事者が仲裁を請求します(130 条 1 項、 2 項)。労働法と同様に、仲裁に付された場合は、30 日以内に、仲裁人が裁定を下さなければならず(同条 3 項)、裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条 5 項)。
(b) EPZ 労働裁判所による手続き
労働法にて、政府は、EPZ の労使紛争に対応する EPZ 労働裁判所を設立することが出来ると規定されていますが(133 条 1 項)、現時点で設立されておらず、EPZ での労使紛争も、上記の労働裁判所と同様の手続きになると解されます。なお、EPZ 裁判所では、申立てが提起されてから、25 日以内の決定、異議がある場合は、
30 日以内に EPZ 労働上訴審判所に訴訟を提起することができます(135 条 2 項、3 項)。
実務では、労働者が、調停・仲裁手続きを経ずに、労働裁判所に訴える例は少なく、基本的に労働雇用省の傘下の工場・事業所監督局(Department of Inspection for Factories and Establishments(DIFE))に相談し、同局による調停手続の通知が来ることになります。なお、通知が発行されてから会社による受領まで数日要することが多く、通知が来てから、必要書類の提出や聴聞の期日まで準備の余裕がない場合が多くみられます。 労働訴訟は非常に件数が多いにもかかわらず裁判所が少ないこと、当事者の欠席、労働裁判所への出席者の欠席で期日が遅延することから、労働法で定められた期間では終わらないことが課題となっています。
7.フィリピン
(1) フィリピンにおける労務紛争解決手段の概要
フィリピンにおいて使用者と労働者の間で紛争が生じた場合は、まず、フィリピン労働雇用省(Department
of Labor and Employment 以下「DOLE」といいます。)における解決を試み、DOLE において解決できない場合は、フィリピンの裁判所で労働裁判を実施するという流れで解決するのが一般的です。以下では、DOLE 及び裁判所における労務紛争の解決手続きについて解説いたします。
(2) DOLE における紛争解決手続
DOLE は、フィリピンにおける雇用関係について規制や監督を行う官庁組織に位置づけられます。DOLE の主要な役割のひとつとして、労働者保護が挙げられており、フィリピンの労働者が権利侵害を主張する窓口としても機能しています。
DOLE においては、シングルエントリーアプローチ(the Single Entry Approach 以下「SEnA」といいます。)と呼ばれる手続から開始されます。SEnA は、労働問題が本格的な紛争に発展するのを防ぐことを目的として、効率的、迅速、安価、かつアクセスしやすい方法で労働問題を解決する仕組みです。 労働者は、最初に SEnAプログラムの目的と手順について面接を受け、必要なRFAフォームに記入します。フォームが提出された後、シングルエントリーアシスタンスデスクオフィサーと呼ばれる職員(以下「SEADO」といいます。)が、論点を整理します。SEADO は、和解合意を促進するために、必須の 30 日以内に必要な数の会議を開催することができ、この 30 日間の期間は、当事者の相互の合意により最大 7 日間延長することが可能となっています。 SEnAにおいて紛争が解決できなかった場合は、次の手段として、労働仲裁人選任を申し立て、解決を図りま
す。仲裁人は、すでに提出された証拠や当事者の主張に基づいて、決定を下すことができます。
労働仲裁人の決定は、受領から 10 日以内に、全国労働関係委員会(National Labor Relations Commission 以下「NLRC」といいます。)に不服申立てをすることができます。不服申立てを行わない場合は、労働仲裁人の決定が確定し、執行力をもつ場合があります。
(3) 裁判手続による紛争解決
DOLEでの判断に不服がある当事者は、訴訟へ移行して紛争解決を図ります。フィリピンにおける裁判所に対して訴えを提起し、高等裁判所において審理されます。通常の訴訟手続と同様に、不服がある場合は上級
審への申立てを行います。
8.ベトナム
(1) ベトナムの法規制における「労働紛争」の定義と分類
労働紛争とは、労働関係の成立、履行又は終了の際に生じる各当事者間の権利、義務、利益に関する紛争や、各労働者代表組織間の紛争、そして労働関係に直接関連する事態に関わる紛争をいいます。ベトナムの労働法規において、労働紛争は以下の 3 つの類型に分類されています。
- 個人労働紛争労働者と使用者、契約により海外へ派遣される労働者と派遣団体、派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争
- 権利に関する集団的労働紛争
労働者代表組織と使用者、又は労働者代表組織同士の間での、(a)集団労働協約、就業規則、その他使用者と労働者間の合意の解釈や履行に関する意見の相違がある場合、(b)労働法規の解釈や運用に関する意見の相違がある場合、又は(c)使用者の労働者に対する差別、労働者代表組織への干渉や影響、交渉の誠実な遂行に対する違反といった違法行為に起因する場合における紛争
- 利益に関する集団的労働紛争
団体交渉の過程で生じる紛争、又は、一方の当事者が交渉を拒否した場合や法定期限内に交渉を行わなかった場合に生じる紛争
(2) 労働紛争の解決手段
① 省レベル人民委員会主席が任命する労働調停人による調停
労働紛争を法的手続により解決しようとする場合、当事者は、まず、労働調停人による調停手続を申し立てなければなりません。但し、以下に該当する場合は、調停手続を申し立てる必要はありません。
・ 懲戒解雇、雇用契約の一方的解除に関する紛争
・ 雇用契約終了時の損害賠償および手当に関する紛争
・ 家事従事者と使用者との間の紛争
なお、家事従事者とは、1 世帯または複数の世帯のために、定期的に仕事(料理、家事、ベビーシッター、
看護、年長者の介護、運転、園芸、その他の家庭のための仕事であって、商業活動に関連しないもの)を行う人のことをいいます。
・ 社会保険、健康保険、失業保険、労働災害保険、職業性疾病保険に関する規定に関する紛争
・ 契約に基づいて海外に派遣された労働者と派遣団体との損害賠償に関する紛争
・ 派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争
- 省レベル人民委員会主席の決定による多数の委員(最少 15 名)からなる労働仲裁評議会への申立て 労働調停人による調停手続を行なっても関係当事者が紛争に関して相互に合意に達することができない場合、又は労働調停人が調停を行うよう要請を受けた日から 5 営業日以内に調停を開始することができない場合には、労働仲裁評議会による決定を求めることができます。
- 人民裁判所を通じた解決
利益に関する集団的労働紛争の場合を除き、当事者は、労働仲裁評議会による解決の代わりとして、又は労働仲裁評議会が定められた期間内に紛争を解決できない場合に、労働紛争について裁判所に訴えを提起することができます。
- ストライキの実施
利益に関する集団的労働紛争が、労働調停人又は労働仲裁評議会によっても解決できない場合、労働者はストライキを行うことができます。合法的なストライキは、労働者代表組織によって組織及び主導され、法定の手続に従う必要があります。
9.インド
(1) 概要
インドにおいて労働紛争手続は、産業紛争法(The Industrial Disputes Act,1947)に規定しています。労働争議(産業紛争)(Industrial dispute)とは、使用者同士、使用者と労働者(ワークマン)、労働者(ワークマン)同士の間での雇用条件等についての争議をいいます(産業紛争法 2 条)。産業紛争法では、解決手段として調停、仲裁、労働審判、労働裁判を規定しています。
なお、経営や監督を行うポジション等のノンワークマンについては、産業紛争法の労働者には該当せず、同法に基づく紛争解決手続は適用されません。
(2) 仲裁手続について
使用者及び労働者は書面での合意により労働争議を仲裁廷に付託することができます(産業紛争法10A条 1 項)。ただし、労働審判又は労働裁判が申立てられた後は、仲裁を行うことができません。一般的に、労働審判や労働裁判は、労働者側に有利な判断がなされやすいといわれており、使用者側としては、これら審判や裁判を避けるために仲裁を選択することも考えられます。
仲裁人は、仲裁において法律上の問題を労働審判所に付託し当該法律上の問題について判断を得ること
ができ、この場合、仲裁廷は当該労働審判所の判断に従う必要があります(産業紛争法 10E 条)。
(3) 労働審判・労働裁判の申立てについて
労働争議の当事者は、共同又は個別に所定の方法で当該紛争を労働裁判所(Labour Court)、労働審判所(Tribunal)又は全国労働審判所(National Tribunal)に申立てることができます(産業紛争法 10 条 2 項)。労働審判の場合、当事者や事業場等が複数の施設にまたがる場合等は、全国労働審判所が利用されます。 労働裁判は、関係当局によって任命される 1 名の裁判官により構成されます(産業紛争法 7 条 2 項)。労働
審判も関係当局により任命される 1 名の審判官により構成されます(産業紛争法 7A 条 2 項)。
(4) 調停について
産業紛争法では、労働争議の解決手段として調停手続における和解を規定しています。調停委員は、委員長 1 名と関係当局が適当と考える員数 2 名又は 4 名で構成されます(産業紛争 5 条 2 項)。
(5) 調停官・労働審判官・労働裁判官の権限について
調停官、労働審判所の審判官、労働裁判所の裁判官は、労働争議に関する調査のために、合理的な通知を行った後に、当該労働争議が関係する事業場に立ち入ることができます(産業紛争法 11 条2 項)。また、調停官、審判官及び裁判官は、民事訴訟法に基づき文書の提出の強制や証人尋問等を行うことができます(産業紛争法 11 条 3 項)。
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発行 TNY Group |
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【TNY グループ及び TNY グループ各社】 ・TNY Group ・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY 国際法律事務所(東 京及び大阪)、永田国際特許事務所) ・佐賀(TNY 国際法律事務所) ・タイ(TNY Legal Co., Ltd.) URL: http://www.tny-legal.com/ ・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.) URL: http://www.tny-malaysia.com/ ・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.) ・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.) ・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.) URL: http://www.tny-israel.com/ ・エストニア(TNY Legal Estonia OU) URL: http://estonia.tny-legal.com/ ・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh) URL: https://www.tny-bangladesh.com/ ・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.) URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines ・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.) URL: https://www.kt-vietnam.com/ ・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.) URL: https://uk.tny-legal.com/ インド(TNY Services (India) Private Limited) URL: https://india.tny-legal.com Newsletter の記載内容は2023 年 10 月 30 日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。 |
1.日本
(1) 名誉毀損の要件について
日本では、名誉毀損(きそん)罪について、刑法230条に規定があります。
同条第1項は「公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万以下の罰金に処する。」と規定しています。そのため、名誉毀損罪が成立するためには、①公然と、②事実を適示して、③人の名誉を毀損することが必要となります。
ア、①公然と
適示した事実について、不特定多数の者が認識できる状態に置くことをいいます。
もっとも、不特定多数でない場合であっても、適示した事実が転々として多数人が了知するに至るおそれがある場合(伝播可能性がある)には、①公然性の要件が認められます。
イ、②事実を適示して
同条にいう「事実」とは、他人の社会的評価を害するに足りる事実をいいます。
また、ここに言う「事実」とは、具体的な事実内容を示す必要があり、事実が真実であるか否かは問いません。
ウ、③人の名誉を毀損すること
名誉とは、世間の評価や名声といった外部的評価を指し、プライドや自尊心などの名誉感情は含まれません。毀損とは社会的評価を低下させるおそれのある行為を指し、実際に社会的評価が低下することまでは求められていません。
また、同条の対象である「人」には法人も含めると解されています。
なお、ブログやネット掲示板などにおける書き込み、X(旧Twitter)やFacebook、Instagram、その他のSNSでの投稿など、不特定または多数が知り得る環境下への発信は、閲覧数が少なくとも、伝播可能性があることを理由に、①の要件を満たすと考えられています。
(2) 名誉毀損の例外について
仮に①~③の要件を満たしたとしても、名誉毀損行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」と規定しており、この場合には例外的に名誉毀損罪として罰せられることはありません。
また、最高裁判決によれば、「たとえ真実性の証明がない場合であっても、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪は成立しない。」とされています。
(3) 名誉毀損の刑事告訴について
名誉毀損罪は、親告罪であり(刑法232条1項)、「告訴がなければ公訴を提起することができない。」と規定されています。
また、「親告罪の告訴は、犯人を知った日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。」(刑事訴訟法235条)と規定されていることから、名誉毀損罪の告訴期限も六箇月となります。
なお、最高裁判決によれば、「犯人を知った」とは、犯人が誰かを知ることをいい、犯人の氏名や住所等の詳細を知る必要はありません。また、「犯人を知った日」とは、犯罪行為終了後の日を指し、告訴権者が犯罪の継続中に犯人を知ったとしても、その日を親告罪の告訴期間の起算日とすることはできません。
2.タイ
(1) 名誉毀損の規定について
タイの刑法典では、名誉毀損罪は326条から333条に規定されています。
326条では、「第三者に対して他人に関する事実の適示をして、人の名誉を傷つけ、憎悪や侮蔑の対象となる可能性を生じさせた者には、名誉毀損罪が成立し、1年以下の懲役若しくは20,000バーツ以下の罰金、又はその両方に処する。」と規定されており、327条では死者への名誉毀損行為についても処罰の対象となりうる旨が規定されています。
(2) SNSでの名誉毀損行為
刑法328条では、「可視化された文書、図面、絵画、映画、画像若しくは文字、音声記録、映像記録又は文字記録を出版することによって、名誉を毀損する行為を行った場合、2年以下の懲役及び20万バーツの罰金に処する」としています。すなわち、タイではメディアを通じて行った名誉毀損行為については、通常の名誉毀損行為よりも厳しく罰せられることになります。
この「可視化された文書、図面、絵画、映画、画像若しくは文字、音声記録、映像記録又は文字記録」にはSNSも含むと考えられており、SNSへの誹謗中傷の投稿も同条により処罰の対象となります。
(3) 名誉毀損の刑事告訴について
タイでは、名誉毀損罪は親告罪であるとされており(刑法333条)、同罪の告訴時効は、被害者が犯行を知り、加害者を知ることができた日から3ヶ月以内とされています(96条)。
また、警察への告訴を行う場合、タイ警察が理解できるように、重要な証拠等についてはタイ語への翻訳を行う必要があるため、注意が必要です。
3.マレーシア
(1) 刑法上の規定等
マレーシアでは、名誉棄損(Defamation)は、刑法(Penal Code)21章、499条~502条に規定されています。刑法499条は、話し言葉若しくは読まれることを意図した言葉、又は標識や目視できる表現によって、その誹謗中傷が人の名誉を傷つけることを意図して、又はその誹謗中傷が人の名誉を傷つけることを知りながら、若しくはそう信じる理由がある者が、誹謗中傷を行い、若しくは公表した者は、原則として、名誉棄損をした者として罰せられる旨規定しています。
また、同条は、故人に対する名誉棄損については、その故人が存命中であったならばその名誉を傷つけ、その家族又は近親者の感情を傷つけることを意図する場合、会社、団体又は個人の集合に対する誹謗中傷、代替案又は皮肉を込めた表現での誹謗中傷は名誉棄損に該当しうる等と規定しています。
名誉棄損を行った者は、2年以下の懲役若しくは罰金、又はその両方が科せられます(刑法500条)。
また、人の名誉を毀損する内容であると知りながら、またはそう信じるに足りる十分な理由がありながら、印刷又は刻印した者は、2年以下の懲役若しくは罰金、又はその両方が科せられます(刑法501条)。
さらに、人の名誉を毀損する内容であると知りながら、その内容が印刷又は刻印された物を販売又は販売のために提供した者は、2年以下の懲役若しくは罰金、又はその両方が科せられます(刑法502条)。
オンライン上のコメントに関する犯罪としては、通信・マルチメディア法(Communications and Multimedia Act 1998)233条が卑猥、虚偽、脅迫的又は攻撃的なコメント等をオンライン上で行った場合には、5万リンギット以下の罰金若しくは1年以下の懲役又はその両方及び判決確定後違反が1日継続するごとに1000リンギットの罰金が科されると規定しています。
(2)刑事訴訟法上の規定
警察署に対する情報提供については、刑事訴訟法(Criminal Procedure Code)107条に規定されています。同条(1)は、犯罪の実行に関するすべての情報は、警察署の担当官に対して口頭で提供された場合、その担当官またはその指示により書面に起こし、情報提供者に読み上げるとされています。作成された報告書には、情報提供者の氏名、住所及び情報を受け取った日時が記録され、情報提供者がこれに署名します。
また、同法107条に基づき、情報を提供した者は、情報を提供した警察署の担当官に対し、捜査状況の報告を求めることができます(同法107A条(1))。
警察官は、不必要な遅滞なく捜査を完了する義務があり、捜査を行った警察官は、検察官が報告する必要がないと指示した犯罪ではない限り、同法107条に基づいて情報が提供された日から3か月が満了した日から1週間以内に、当該捜査に関する捜査書類とともに捜査報告書を提出する義務があります(同法120条(1))。
刑事訴訟手続を開始する条件として、名誉棄損は、被害者又は検察官による申立て(Complaint)が必要であるとされています(同法131条)。申立てを受けた裁判官は、申立人を尋問し、尋問の結果、訴訟手続を行う十分な根拠がないと判断する場合には、その申立てを却下することができるとされています(同法135条(1))。
4.ミャンマー
(1) 刑法上の規定
ミャンマーでは、名誉棄損について刑法21章において規定されており、以下の条文が存在します。
「499. Whoever, by words either spoken or intended to be read, or by signs or by visible representations, makes or publishes any imputation concerning any person, intending to harm, or knowing or having reason to believe that such imputation will harm, the reputation of such person, is said, except in the cases hereinafter excepted, to defame that person.
500. Whoever defames another shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to two years, or with fine, or with both.
501. Whoever prints or engraves any matter, knowing or having good reason to believe that such matter is defamatory of any person, shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to two years, or with fine, or with both. –
502. Whoever sells or offers for sale any printed or engraved substance containing defamatory matter, knowing that it contains such matter, shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to two years, or with fine, or with both. 」
(2) 刑事告訴
刑事告訴について法令上は手続きなどの詳細は規定されていません。警察署に行って犯罪事実を記載した報告書を警察に作成してもらうことになります。しかし、通常は名誉棄損についてミャンマーの警察が積極的に捜査を行うことはないため、告訴する側において十分な証拠を集めた上で警察に行く必要があります。
警察は、証拠が十分にあり、罪を犯したと合理的に認められる場合、この事案を裁判所に起訴します。
裁判所に起訴された後の手続きについて、名誉棄損は法定刑が6か月を超えるため、Warrant Trialとなります。
Warrant TrialにはFraming Chargeがあり、裁判官は、Framing Chargeの前に、被害者の証言を求めたり、原告側からの証拠を採用します。
5.メキシコ
連邦法を前提とすると、かつては、連邦刑法(Código Penal Federal)において、侮辱(Injurias)、名誉棄損(difamación)、中傷(Calumnia)といった規定が設けられていましたが、2007年4月13日に官報公示された連邦刑法改正において、これらが削除されました。従って、連邦法に基づいた刑事告訴は出来ません。
一方、同連邦刑法改正時に、連邦民法(Código Civil Federal)1969条、1969条Bisが改正されました。これにより、i) 真偽、確実・不確実に関わらず、他者の不名誉となる、信用を傷つけ、損害を与え、軽蔑にさらす可能性のある、情報について、1人以上の人々に伝達すること、ii) 虚偽により、他者を犯罪者と訴え、または、そのような告発をされた人が無罪であった場合、iii) 特定の人物に対して、無罪であるか犯罪が行われていないことを知りながら、犯罪者であると理解される中傷的な通報を行う場合、iv) 他者の名誉を傷つけ、また、その私生活やイメージを攻撃する場合、を違反行為とし、道徳的損害(daño moral)の対象と規定されました。
従って、名誉棄損等の行為については、民事措置において解決を図ることとなります。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、2023年8月、デジタルセキュリティ法(DSA法)を廃止し、サイバーセキュリティ法(CSA法)を議決し、同法は、特にインターネット、SNSにおける名誉毀損について定めています。
(1)要件・量刑
CSA法の2(1)(s) によると、「名誉毀損」とは、刑法第499条(1860年法律第XLV) に定義されている名誉毀損を意味します。
刑法第499条において、名誉毀損は、口頭による又は読まれることを意図した言葉、サイン、視覚的な表現により、他人の評価を害する又は害することを知りながら又は害することになると信じる理由がありながら、事実の適示又は公開することと定義されます。公益のための真実の公表、公務員の批判、司法手続きの公表などの、いくつかの除外規定があります。
CSA法に規定される名誉棄損は、250万タカ以下の罰金が科せられます。刑法では、第500条に基づき、2年以下の禁固、罰金、またはその両方で罰せられます。
(2) 手続
刑事告訴について、一般的な手続きは次のとおりです。刑法に基づく名誉棄損は、被害者の告訴が必要な親告罪です。
① 犯罪の特定
表現が、CSA法などのバングラデシュの法律に基づく名誉毀損に該当するかどうかを判断します。名誉毀損には、他人の評判を傷つける虚偽の表現が含まれます。
② 証拠の収集
スクリーンショットやソーシャルメディアの投稿へのリンクなど、名誉棄損の証拠を収集し、名誉毀損によって引き起こされた損害を文書化します。
③ 弁護士への相談
名誉毀損事件を専門とするバングラデシュの弁護士に法的助言を求めます。
④ 告訴状の準備
名誉毀損の疑いに対する正式な刑事告訴状を作成します。名誉棄損に該当する行為が行われた日付、時刻、場所、被疑者の身元、および名誉棄損にあたる虚偽の情報などの詳細を記載します。名誉毀損によって引き起こされた損害の性質と程度も行います。
⑤ 告訴状の提出
バングラデシュの警察署に告訴状を提出します。名誉毀損事件は通常、犯罪が発生した場所または被疑者が住んでいる警察署で提起されます。刑法に基づき、裁判所に申し立てることも可能です。
⑥ First Information Report(FIR) の作成
警察が十分な証拠を見つけた場合、被疑者に対してFIRを登録します。FIRは、申し立てられた犯罪の詳細を記録する正式な文書です。
⑦ 警察の捜査
⑧ 裁判・審議・判決・控訴
7.フィリピン
- フィリピンにおけるインターネット上での名誉毀損
フィリピンにおける刑法において、名誉毀損行為は刑罰の対象として規定されています。刑法上は、印刷物や書面を用いた名誉毀損行為が対象とされていますが、フィリピンでは2012年に可決されたサイバー犯罪に関する法律によって、オンラインの手段を通じて行われる名誉毀損行為も罰則の対象となると明記されました。したがって、インターネットを通じて他人の名誉を毀損するようなコンテンツやコメント等を投稿する行為についても、刑事責任に問われる可能性があります。インターネットを通じた名誉毀損行為を構成する要素は以下のとおりです。
① 犯罪、悪徳または瑕疵に関する発信行為であること
② 公然となされた行為であること
③ 悪意のある行為であること
④ 自然人、法人または死亡した人に向けられた行為であること
⑤ 対象者の名誉を毀損し、信用を失墜させる行為であること
⑥ コンピュータシステムやこれに類する手段で行われたこと
- フィリピンにおける名誉毀損の刑事告訴
フィリピンにおいて名誉毀損の被害に遭った場合、被害者はフィリピンの刑事機関に対して、刑事告訴を行うことが可能とされています。フィリピンにおいては、現行犯逮捕等の場合を除き、被害が報告されてから捜査が開始されることが一般的です。告訴のために必要な証拠を確保することが重要視されています。
また、フィリピンの刑法においては、名誉毀損罪について、懲役、罰金またはその両方が科せられるとされています。さらに、サイバー犯罪に関する法律は、より重い刑罰を定めており、懲役に関しては上限が拡張されています。
8.ベトナム
(1) 名誉毀損罪の概要
ベトナム刑法156条では、名誉毀損に関連する犯罪として、以下の行為を処罰対象としています。
- 情報を捏造したり虚偽の情報を流布して他人の名誉を傷つけたり他人の法的な権利や利益を侵害する行為
- 犯罪を捏造して当局に告訴・告発する行為
このような犯罪に課される刑は、次のとおりです。
i) 通常の場合:1,000万ドン以上5,000万ドン以下の罰金、2年以下の社会内刑罰(刑務所に収容せず社会内で労働等の活動を行わせ、収入の一部を国に納付させる刑罰)または3か月以上1年以下の懲役(刑法156条1項)
ii) 組織化されたグループによる犯罪、2人以上に対する犯罪、コンピュータネットワークや通信ネットワークを利用した場合など:1年以上3年以下の懲役(刑法156条2項)
iii) 卑劣な動機による場合、または被害者が自殺した場合など:3年以上7年以下の懲役(刑法156条3項)
なお、これらの犯罪は、特定の個人に対して行なった場合に成立し、法人や集団を対象とする場合には成立しません。
(2) 被害者による刑事告訴
上記ii)及びiii)に該当しない名誉毀損の場合、被害者による刑事告訴(立件の要請)があった場合のみ刑事事件の立件が行われると規定されています(刑事訴訟法155条1項)。
9.インド
(1) インド刑法における名誉棄損罪
インド刑法(The Indian Penal Code, 1860)第21章499条に名誉棄損罪(Defamation)が規定されています。
同条では、「話し言葉若しくは読まれることを意図した言葉によって、又は標識や目に見える表示によって、人の名誉を傷つけることを意図して、若しくはそのような評判がその人の名誉を傷つけることを知りながら、又はそう信じる理由があるにもかかわらず、そのような評判を作ったり、公表したりした者は、例外とされる場合を除き、その者の名誉を傷つけるものとされる。」と規定しています。また、同条は、会社や組織に対する非難であっても名誉棄損に該当し得ると規定しております。したがって、個人に対してではなく会社等の団体に対する行為であっても名誉棄損が成立する場合があります。例外的に、公表されることが公共の利益のためになる真実の適示であれば、その人物の名誉・評判を傷つけるものであっても名誉棄損とはなりません。
名誉棄損罪が成立する場合、2年以下の禁固若しくは罰金、又はこれら両方が科されます(インド刑法500条)。
また、名誉棄損であると知りながら若しくは名誉棄損と信ずるに足りる相当な理由がありながらそのような事実が記載された文書を印刷等複製した者や当該印刷物を販売した者も同様に2年以下の禁固若しくは罰金、又はこれら両方が科されます(インド刑法501条、同502条)。
(2) 名誉棄損罪の告訴手続
インド刑事訴訟法(The Code of Criminal Procedure, 1973)第14章199条に名誉棄損に対する訴追に関する規定があります。
同条では、インド刑法21章の名誉棄損に関する犯罪については、被害を被った者の告訴によらなければ裁判所は認知してはいけないと規定しています。そのため、基本的には名誉棄損の被害者から告訴することが必要となります。例外的に、被害者が18歳未満の場合、精神病等で告訴できない場合、又は地域の慣習やマナーにより公の場所に出頭することを強制すべきでない女性の場合には、他の者が当該被害者に代わり裁判所に許可を得て告訴することができます(インド刑事訴訟法199条1項)。
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発行 TNY Group |
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1.日本
(1) 日本における合併の概要
日本の会社法上、合併には、吸収合併と新設合併の二種類があります。同法2条によれば、吸収合併とは『会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後承継する会社に承継させるものをいう。』(同条27号)と定義されており、新設合併とは『二以上の会社がする合併であって、合併により設立する会社に承継させるもの』(同条28号)とそれぞれ定義されています。
日本においては、新設合併は、吸収合併に比べ手続やコストがかかるため、実務上は吸収合併を選択することが多いと言われています。
(2) 合併の手続き
ア 吸収合併の場合
吸収合併において、会社を吸収して存続する会社を吸収合併存続会社(存続会社)、消滅する会社を吸収合併消滅会社(消滅会社)といいます。吸収合併の基本的な手続きは以下の通りです。
① 吸収合併契約の締結
存続会社と消滅会社の商号及び住所、吸収合併に関連する事項、吸収合併の効力発生日等を明記する必要があります(同法749条1項各号)。
② 株主総会における承認決議
存続会社と消滅会社はともに上記契約で定めた効力発生日までに合併契約を株主総会にて承認を受ける必要があります。同決議は株主総会の特別決議事項となるため、出席株主の3分の2以上の賛成が必要となります。
③ 反対株主の買取請求権と通知・公告
株主総会の承認決議に先立って反対する旨を通知し、かつ、株主総会においても反対した株主は、消滅会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。これに対応するため、消滅会社等は、合併契約の効力が発生する20日前までに、株主に吸収合併をする旨並びに存続会社の商号及び住所を通知しなければなりません。
④ 債権者に対する公告または催告
消滅会社等は債権者に対し、吸収合併を行う旨や存続会社等の商号及び住所、吸収合併に対し、異議を申し立てることができる旨とその期間(同期間は1ヶ月以上必要とされています)について、官報に公告し、かつ、知れている債権者には格別に催告する必要があるとしています。
債権者に異議を述べられた場合、異議を述べられた会社は同債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供する必要があります。
⑤ 効力発生日と登記
①にて定めた効力発生日に吸収合併の効力が発生し、同日の2週間以内に消滅会社の解散および存続会社の変更登記を行う必要があります。これにより、当該吸収合併に第三者対抗力を持たせることが可能となります。
イ 新設合併の場合
大まかな流れは吸収合併と同様ですが、①および⑤の部分が異なります。
新設合併の場合、新会社の商号及び住所はもちろんのこと、通常の新会社設立と同様に、発行可能株式総数や設立時取締役の氏名等も合併契約に定める必要があります。
また、新設合併においては、新設会社が登記された日に効力が生じる(同法49条)ため、効力発生日は合併契約の必要記載事項ではありません。
(3) 合併に伴う権利関係の承継について
新設合併では、新設会社が消滅会社の権利義務を包括的に引き継ぎます。もっとも、承継会社から免許や許認可等を引き継ぐことは基本的にはできません。他方、吸収合併の場合、権利義務については新設合併と同じく、包括的に承継することができ、かつ、免許や許認可等についても引き継ぐことが可能です。
なお、合併と契約上の地位の承継に関し注意すべき点として、既存の取引先との契約書内に経営権の移動等があった場合について言及した条項(チェンジオブコントロール条項)の有無が挙げられます。これは、合併等の組織変更があった場合には契約の解除事由となるまたは通知する義務を負うといった内容であり、このような条項の有無については充分注意する必要があります。
従業員との関係では、勤務内容は同一であるにも関わらず、存続会社と消滅会社のどちらの出身かによって雇用条件の不公正が生じることがあり、このような事態を防ぐためには、合併後の雇用条件を統一することが望ましいとされています。
また、オフィスや工場の所在地における不動産の契約などにも合併などに言及または関連した条項が存在する可能性があるため、この点にも注意する必要があります。
したがって、合併を行う際には事前の調査や会社間での交渉はもちろんのこと、合併後にどのようなリスクが生じるかについての調査も重要であると言えます。
2.タイ
(1) タイにおける合併の種類
タイでは、以前まで吸収合併は認められておらず、新設合併のみ認められていました。もっとも、近年のタイ民商法改正により、法律上、吸収合併も認められることになりました。
以下ではタイにおける吸収合併の手続及びライセンス関係の承継の可否について、解説いたします。
(2) 吸収合併の手続
タイにおいては、二社間での合併の合意後、以下の2つのステップを経ることで、吸収合併の効力を発生させることができます。
(ア) ステップ1
① 存続会社と消滅会社の双方において、合併を承認する株主総会を開催し、承認を得る。
② 反対株主に対して、株式の買取りを行う。
③ 承認決議後、14日以内に以下を行う。
- DBD(商務省)での承認決議の登記
- 決議日に会社記録に名前が記載されているすべての債権者に、異議申し立て期間を1ヶ月以内とする本件承認決議の通知を送付する。
- 地元紙にて承認決議を行った旨の公告を行う。
④合併に反対する債権者がいる場合には、同債権者に対し、弁済または担保の提供を行う。
その後、ステップ1の完了により、ステップ2に進むことが可能となります。
(イ) ステップ2
① 合併会社の名称や目的、覚書、定款等を決定し、承認の決議を行う。
② 決議後、7日以内に、消滅会社および存続会社の取締役が合併会社の取締役に、事業、財産、会計に関する書類等の引継ぎをする。
③ 同株主総会の日から14日以内に合併を登記し、合併会社の覚書と定款をDBDに提出する。
(3) 許認可や従業員の承継
タイでは、吸収合併が近年まで認められなかったという事情から、吸収合併とライセンスの承継については不透明な部分も多く、同じライセンスであっても、品目等によって承継の可否が異なる場合があります。そのため、自身のライセンスの承継の可否についてはライセンスの所轄官庁に確認する必要があります。
また、従業員については、消滅会社から存続会社へ異動する場合、法律上、各従業員から個別の合意を得る必要があり、得られない場合には、当該従業員に対しては、解雇補償金の支払を行い雇用契約が終了することになります。
3.マレーシア
マレーシアでは、ラブアンに設立された会社に適用されるラブアン会社法(Labuan Companies Act 1990)においては吸収合併に関する規定は存在しますが、一般的な会社に適用される会社法(Companies Act 2016)においては合併に関する規定は存在しません。マレーシアにおける会社の組織再編の方法としては、一般的に以下の方法が挙げられます。
– 対象会社の株式取得
– 対象会社の事業譲渡
– 会社法366条に基づくスキーム・オブ・アレンジメント
(1) 株式取得
株式取得の方法としては、公開買付を行う場合及び既存株主から直接株式を取得する株式譲渡を行う場合があります。
株式取得を規制する法令としては、以下の法令等が挙げられます。
– Malaysian Code on Take-Over and Mergers 2016
– Rules on Take-Over and Mergers and Compulsory Acquisition 2016
– Capital Markets and Services Act 2007(CMSA)
また、マレーシア証券取引所(Bursa Malaysia Berhad)、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)、マレーシア証券委員会(Securities Commission Malaysia)、マレーシア会社委員会(Companies Commission of Malaysia)等の機関によって規制されます。
公開買付は、強制的公開買付及び任意的公開買付に分けられます。強制的公開買付は、一定の要件を満たした場合に実施する義務が生じるものをいい、任意的公開買付は強制的公開買付以外の公開買付をいいます。
強制的公開買付の義務が生じる要件としては、会社の支配権を獲得した場合(会社の議決権付株式の33%超を取得した場合)、Creeping Thresholdとなった場合(議決権付株式の33%超50%以下を保有しており、かつ6か月間に議決権付株式の2%超を取得した場合)等があります。
任意的公開買付は、強制的公開買付の要件を満たさない場合において、対象会社の発行済株式を100%取得する際に用いられ、任意的公開買付のうち、対象会社の発行済株式の100%未満を取得する場合には部分的公開買付と呼ばれます。
既存株主から直接株式を取得する株式譲渡を行う場合においても、一般法である会社法及び契約法を遵守する必要があります。
(2) 事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の全部又は一部の譲渡を行うことをいい、事業譲渡を行うには、譲渡会社において株主総会の普通決議が必要となります。
(3) スキーム・オブ・アレンジメント
スキーム・オブ・アレンジメントとは、一般的に会社再建において用いられる制度で、会社法366条に基づいて対象会社が裁判所の許可を得て行う、会社、株主及び債権者間の合意による手続をいいます。
4.ミャンマー
ミャンマーでは、日本の会社法のような合併に関する規定はありません。したがって、当事者間で締結する契約書において詳細を規定する必要があります。
一般的には株式譲渡か事業譲渡の方法によることとなります。株式譲渡の場合には潜在的リスクも含めて全て承継することとなり、ミャンマーではデューデリジェンスによっても全てのリスク(特に財務)を洗い出すことは難しいため、慎重に対する必要があります。
5.メキシコ
(1) 定義
メキシコにおいて合併は「Fusión」として認識されていますが、その定義は明確に規定されていません。メキシコにおける会社法となるLey General de Sociedades Mercantilesにおいては、222条から226条において合併に関する規定が置かれており、これらから合併には次の2つの種類があると考えられています。
- Fusión por incorporación o absorción(吸収合併)
既存の一つ以上の会社を別の既存の会社に統合し、そこに権利義務を承継させることで構成される。統合された会社は消滅する。
- Fusión por integración o pura(新設合併)
2つ以上の会社が新会社を設立し、各々の権利義務のすべてを当該新設会社に承継させ、各会社は消滅することで構成される。
(2) 合併の流れ
合併は、会社の形態に応じた条件で、それぞれの会社において決定されなければならないとされており、株式会社においては、特別株主総会決議を要することとなります。
合併の合意は、商業登記簿(Registro Público de Comercio)に登記し、経済省(Secretaría de Economía)の電子システムにおいて公表しなければならず、また、合併の対象となる各会社は当該電子システムにおいて最新の貸借対照表を公表し、消滅会社は、債務を消滅するための方法も公表しなければならなりません。
合併の効力は、登記後3か月が経過した後でなければ生じないとされており、この期間中、合併する会社の債権者は、当該合併に対して異議を申し立てる司法手続きをとることができます。異議が申し立てられた場合、当該異議を却下する判決が確定するまで、合併は一時中断されることとなり、異議の申立てがないままにこの期間が経過したときは、合併が成立し、存続会社または合併により生じた会社が消滅会社の権利義務を承継することとなります。
なお、経済競争法(Ley Federal de Competencia Económica)の定めにより、企業再編等グループ企業間で行われる場合といった一部の例外を除き、次の基準に当てはまる合併は、連邦経済競争委員会(Comisión Federal de Competencia Económica: COFECE)に届出を行い事前に承認を得る必要があります。
- UMA*1日額の1,800万倍に相当する額以上の金額をメキシコに投資することを意味する行為又はその原因となる一連の行為
- メキシコでの年間売上高又はメキシコにおける資産が、UMA日額の1,800万倍に相当する額以上である経済主体の資産又は株式の35%以上を併合することを意味する行為又はその原因となる一連の行為
- UMA日額の840万倍を超える資産又は資本のメキシコでの併合で、メキシコで生じる年間売上又はメキシコ国内の資産が、共同又は個別にUMA日額の4,800万倍に相当する額以上で2つ以上の経済主体が関与する企業結合を意味する行為又はその原因となる一連の行為
*1 UMA日額は、2023年度(2023年2月から2024年1月)は103.74ペソ
(3) その他の手続
その他、合併後には、消滅会社の納税者登録(RFC)の抹消や、消滅会社が外資登録(RNIE)のある会社だった場合には、その登録の抹消など、各会社の事情に応じた手続きが必要となります。
また、労働者に係る手続としては、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)において、Sustitución Patronal(雇用主の交代)と呼ばれるものが規定されています。会社の資産等の譲渡と併せて、これまでの使用者に提供されていた労働が譲渡後も継続する場合に活用することができます。従って、消滅会社での経済活動が、存続会社や新設会社において継続される場合であって、同じ労働力が用いられる場合、この手続をとり、雇用関係を継続させることができます。
6.バングラデシュ
バングラデシュには、合併について包括的に定める法律はなく、会社法、証券取引委員会法及びその関連法令、外国為替規定法、競争法などに部分的に規定されるほか、保険業や通信業など特定の業種の合併について、個別の法律で定められています。
会社法は、一般的にすべての会社のM&Aに適用される規定を定めていますが、その内容は限定的です。同法228条は、会社の解散について債権者および株主との妥結に対する裁判所の権限、229 条は、合併による解散を含む解散の取り決めと妥結を促進する裁判所の権限についてそれぞれ定めています。同法230条は、過半数によって承認されたスキームまたは契約に反対する株主から株式を取得する権限(通知や予告期間など)について規定しています。
合併を進める場合は、関連する複数の法令を確認したうえで、当事者間の契約にて詳細を定める必要があります。
7.フィリピン
- フィリピンにおける合併の概要
フィリピンにおける合併は、フィリピンの会社法に準拠して手続が履践されます。大きく分けると2つの合併形態が存在します。一つ目は、吸収合併です。存続会社が対象会社を吸収し、合併します。対象会社の資産や負債を原則として全て引き受けることになります。二つ目は、新設合併です。これは、2社以上の会社が統合され、新たな会社(新設会社)を設立するタイプの合併形態です。新設会社は、原則として対象会社の資産や負債を全て引き受けることになります。
また、フィリピンでは、合併の方法として、対象会社の株式を取得する方法や事業や資産を譲受する方法があります。
選択すべき合併の種類は、各会社の状況によって異なりますので、合併を検討されている会社は、対象企業の規模、対象企業の資産負債状況、規制要件などの要素を考慮して適切な合併形態を選択する必要があります。
- フィリピンにおける合併に必要な手続
フィリピンにおける合併手続において、必要とされる主な手続としては、まず、取締役会決議及び株主総会特別決議(議決権の3分の2の賛成票が必要な決議)を経たうえで、合併計画の承認を得る手続が必要となります。また、この時点で合併に反対である株主については、正当な価格での買取を請求する権利が与えられているため、請求があった場合は買取対応をする必要があります。
さらに、合併に際しては、合併契約を締結する必要があります。その際に、フィリピンにおける証券取引委員会の承認が必要となる場合があるため、適法に締結された合併契約書を同委員会へ提出する手続が発生します。同委員会における承認には、審問が実施される場合もあります。
承認を取得し、必要な手続が全て履践された後、合併はクロージングとなります。これにより、対象会社から存続会社又は新設会社へ資産と負債が継承されます。
- 合併後の取引関係について
最後に、合併後の取引関係について、法的観点から述べます。合併成立後の従業員やサプライヤーとの契約当事者は、存続会社又は新設会社となります。これは、契約関係を含め、対象企業の資産及び負債の全てを存続会社又は新設会社が継承するためです。したがって、事業に必要な取引契約のみならず、従業員との雇用契約や不動産に関する契約についても、存続会社又は新設会社が契約当事者としての地位を承継します。
ただし、合併当事者間において、契約上、合併が生じた場合に契約関係を終了できる条項が存在する可能性に留意する必要があります。これには、合併前にデューデリジェンスを実施し、リスクとして抽出されることが多いため、合併を検討される場合は、対象会社のデューデリジェンスをしっかりと実施することが望ましいといえます。
8.ベトナム
- ベトナムの法規制における「合併」の定義
会社の合併とは、1つまたは複数の会社(以下、「被合併会社」といいます)が、財産、権利、義務およびその他の合法的な利益をすべて別の企業(以下、「合併会社」といいいます)に移転させる行為であり、現行の企業法および競争法に定義されています(企業法第201条第1項及び競争法第29条第2項)。
被合併会社は、合併会社の登録手続が完了した後、その存続を終了します(企業法第201条第2項c)。なお、被合併会社の支店、駐在員事務所や事業拠点は、被合併会社が消滅する前に閉鎖手続をしなければなりません (政令01/2021/ND-CP第73.3条)。
- 被合併会社の権利義務の移転と継承
合併の手続が完了した後、合併会社は、被合併会社と合併会社の合意に基づき、債務、労働契約、その他の資産負債など、被合併会社が合法的に有するすべての権利と義務を承継します(企業法第201条第2項c)。
- 合併手続きの一般的なプロセス
ベトナムでは、多くの場合、以下の手順に従って合併が行われます(企業法第201条第2項)。
① 合併に関する必要書類(合併会社の定款および当事者間の合併契約書)の作成
② 被合併会社および合併会社の所有者や株主の承認
③ 上記②の承認を得た日から15日以内に、全債権者に当事者間の合併契約書を送付し、全従業員に合併について通知
④ 合併に関する登録手続の申請
- 合併手続について特例が適用される場合
以下のいずれかに該当する場合は、合併を行うために特別の手続が必要となります。
① 外国資本が含まれる場合:投資プロジェクトの統合、特定の事業分野に対する投資条件や要件の設定、合併会社の外国人所有比率の変更が伴う場合、投資法に規定する手続を遵守する必要があります。
② 専門業種に関する場合:銀行業、保険業、証券業における合併を行う場合、事前に、特別法による規制(信用機関法、保険業法、証券法など)が適用され、事前にそれぞれの専門当局(ベトナム国家銀行、ベトナム財務省、ベトナム国家証券委員会など)の承認を得る必要があります。
③ 経済集中度の届出基準に達した場合:競争法に基づき、国家競争委員会に経済集中度の届出書類を提出する必要がありますz(競争法第33条および政令35/2020/ND-CP第13条)。経済集中度の届出基準は、以下のいずれかをもとに決定されます。
(a) 合併を行う会社のベトナム市場における総資産
(b) 合併を行う会社のベトナム市場における総売上高
(c) 合併の取引金額
(d) 合併を行う会社の関連市場における合計市場シェア
ベトナム政府は、各時期の社会経済状況に合わせて、経済集中度の届出に関し、正確な基準を設定します。
9.インド
(1) インドにおける合併の概要
インドでは、合併については吸収合併と新設合併があります。吸収合併では、合併によって消滅する対象会社の権利義務を存続会社が包括的に承継することになります。新設合併では、合併によって消滅する会社の権利義務を合併によって新たに設立する会社に承継させるものとなります。
(2) 合併の手続について
合併については、会社法審判所(National Company Law Tribunal)による承認を得なければなりません。会社法審判所は、合併承認の申請に対して、株主総会や債権者集会の招集を命ずる場合があります。
会社法審判所に対して上記申請を行うものは会社の財務状況等を宣誓供述書により開示する必要があります。
上記手続により招集された株主総会及び債権者集会により4分の3以上の賛成(株主総会の場合議決権の4分の3以上、債権者集会の場合総債権額の4分の3以上)により会社法審判所が命令により合併を承認します。
会社は合併の命令を受領してから30日以内に登記官に当該命令を提出しなければなりません。
(3) その他
合併は会社登記所の命令を必要とし完了までに半年から一年程かかるため、当事者同士の合意で行われる事業譲渡の方が多く利用されていると思われます。
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・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所) URL: https://tny-lawfirm.com/index.html ・佐賀(TNY国際法律事務所) URL: http://www.tny-legal.com/ ・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.) URL: http://www.tny-malaysia.com/ ・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.) ・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.) ・イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co.,Ltd.) URL: http://www.tny-israel.com/ URL: http://estonia.tny-legal.com/ ・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh) URL: https://www.tny-bangladesh.com/ ・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.) URL: https://www.tnygroup.biz/pg550.html ・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.) URL: https://www.kt-vietnam.com/ ・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.) URL: https://www.tnygroup.biz/uk.html ・インド(TNY Services (India) Private Limited) URL: https://india.tny-legal.com/index.html Newsletterの記載内容は2023年8月29日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。 |
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1.日本
日本の営業秘密については、不正競争防止法に規定があります。
同法2条6項は、営業秘密について、「この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の秘密であって、公然と知られていないものをいう。」と定義しています。
(1) 営業秘密の3要件
「営業秘密」に該当するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
① 秘密管理性
② 有用性
③ 非公知性
まず、①要件を満たすためには、企業が当該情報を秘密裏に管理しようとする意思が、何らかの措置によって従業員や取引先に対して明確に示されており、かつ、当該意思について従業員等が認識できるような状態にしていなければなりません。
経済産業省の営業秘密指針によれば、具体的に必要な秘密管理措置の内容や程度については、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なり、営業秘密の管理単位(営業秘密の共有をしている企業単位のこと。支店レベルであるか、関連会社も含むのかが異なる。)における従業員がそれを一般的に、かつ容易に認識できる程度のものである必要があるとしています。
秘密管理措置の具体例としては、表紙に「マル秘」や「社外秘」といった文字を明記しておくこと、金庫や施錠可能な容器に保管すること、扉に「関係者以外立ち入り禁止」といった張り紙をしておくことなどが考えられます。
次に、②要件を満たすためには、当該情報が客観的にみて、事業活動に有用であることが必要となります。この点、同要件の趣旨は公序良俗に反する内容の情報(脱税や不正の情報等)を除き、商業的価値が認められる情報を広く保護することに目的があります。同目的からは、①③要件を満たす情報については、有用性が認められることが通常であり、過去に事業活動に使用していた情報や、実験失敗のデータや製品の欠陥情報など間接的な価値が認められる情報についても有用性が認められることになります。
最後に③要件を満たすためには、当該情報が、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要となります。
非公知性が認められる状態とは、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない、公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析されない等、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることをいいます。仮に当該情報が海外の刊行物に掲載されていたとしても、その刊行物の取得に多大な時間やコストを要する場合には、合理的な努力の範囲を超えるものとして公知性が認められることになります。また、当該営業秘密が様々な知見を組み合わせて一つの情報を構成している場合、構成する各情報が様々な刊行物に掲載されており、それらを集めた結果、当該営業秘密に近い情報が得られたとしても、どの情報をどのように組み合わせるか自体に価値が認められる場合には、公知性は否定されません。
(2) 営業秘密が侵害された場合の措置
営業秘密に該当した場合、当該秘密を不正に取得、使用、開示する行為については「不正競争」行為に該当し、民事上、刑事上の措置の対象となりえます。また、当該営業秘密を取得者から得た者についての取得、使用、開示する行為についても一定の要件のもと民事上、刑事上の責任を負うこととなります。
具体的には、営業秘密の漏洩が発覚した場合、会社は、営業秘密の不正開示や利用の停止・予防、侵害に関する物品の破棄等を求めることができます。また、営業秘密の漏洩によって会社に損害が発生した場合には、侵害者に対して損害賠償を請求することができます。なお、損害賠償額については同法に損害額推定規定が設けられています。加えて、同漏洩によって、会社の信用が損なわれた場合には、信用を害した者に対して信用回復措置を取るように請求することも可能です。
2.タイ
タイの営業秘密については、営業秘密法に規定があります。
同法3条は営業秘密について、「営業秘密とは、まだ一般に公表されていない営業情報、またはその情報に通常触れられる者にまだ届いていない営業情報をいう。また、当該情報が秘密であることにより商業的価値をもたらし、営業秘密管理者が機密を保持するために適当な手段を採用していなければならない。」と定義しています。
(1) 営業秘密の要件
タイの営業秘密に該当するためには、以下の3つの要件に該当する必要があります。
① 秘匿性
② 有用性
③ 秘密管理性
まず、①要件を満たすためには、当該情報が一般に知られていないまたは情報を入手できる状況になっていないことが必要であり、日本の営業秘密の要件の一つである「非公知性」に似た概念であるといえます。
次に、②要件を満たすためには、当該情報を秘密に保つことで商業的価値をもたらしていることが必要であり、こちらも日本の有用性要件に似た概念であるといえます。
もっとも、日本においては秘密管理性および非公知性が認められれば、公序良俗に違反する情報等でない限り、有用性要件が認められる一方、タイの裁判においては、当該情報を秘密にしておくことで商業的価値が生じるかどうかを実質的に考慮するなどして、その判断基準に違いがあります。Googleマップの店舗情報について、有用性が認められるかという最高裁判例においては、店舗情報とはむしろ公開されることにより、商業的価値が生じるものであるとして、有用性要件について否定しています。
最後に、③要件を満たすためには、当該営業秘密を保護するために、充分な秘密保護措置が取られている必要があります。タイで裁判の争点になることが多いのは同要件であり、保護したい情報については、社内規定や就業規則などによって事前にルールを作成しておく必要があります。また、ルールを作成しておくだけではなく、従業員への研修や監査を通じてそのルールの運用が正確になされている必要があります。この点については、就業規則に一般的な守秘義務を規定していたとしても、同要件を満たすことにはならないとした最高裁判決も存在しています。
なお、充分な秘密保護措置が取られているか否かについて、絶対的な基準はなく、会社の規模や職種等を総合的に考慮し、相対的に決定されます。
以上のように、営業秘密該当性については、日本とタイは非常に類似した構成をとっています。もっとも、各要件の判断基準については、異なる点も多いため、その取扱いについては注意する必要があります。
(2) 営業秘密侵害行為
営業秘密侵害行為について同法6条は「営業秘密の侵害行為とは、営業秘密を保有する者の許可なく、秘密を開示し、使用する行為であって、不当な商業手法であるものをいう。ただし、侵害者において不当な商業手法であるとの認識または認識することが相当であると認められる事情がなければならない。」と定義しています。
また、同法6条では、契約違反、秘密保持の違反またはその教唆、贈収賄、脅迫、詐欺、窃盗、盗品の譲受、電子その他の手法を使った諜報活動を「不当な商業手法」として、例示列挙しています。
(3) 侵害行為に対する措置
上記のような営業秘密の侵害行為があった場合または現に行われようとしており、かつ明確な証拠がある場合には、差し止め請求や損害賠償請求をすることができます。同請求の中では、侵害組成品の破棄または所有権の移転を求めることができます。
また、侵害者に対しては両罰規定も含む刑事罰も存在しています。
3.マレーシア
マレーシアでは、営業秘密の保護に関する一般的な法は存在せず、営業秘密はコモンロー及びエクイティによって保護されます。営業秘密が不法に開示された場合には、守秘義務違反として民事救済を図ることができます。営業秘密の漏洩に関する直接的な刑事責任を定めた法令等は特段存在せず、救済手段としては基本的には民事救済によることになります。営業秘密には、製法、方法、技術、製造費用、顧客リスト、事業計画等が含まれるとされています。保護の対象となる営業秘密は、原則として秘密となっている情報のみであり、公共財となっている一般的な情報については保護されないものとされています。
(1)守秘義務違反が認められる要件
マレーシアでは、判例上、従業員には使用者に対する忠実及び誠実の義務があるとされており、この義務には、使用者の同意なしに、雇用の過程で得た機密情報を使用または開示しない義務(守秘義務)が含まれています。
次の3つの要件が満たされている場合に、守秘義務違反が認められることがイギリスの判例(Coco 対 AN Clark (Engineers) Ltd事件等)で明示されており、これはマレーシアでも適用されています。
- 機密性のある情報であること
- 守秘義務を負う状況下で情報が伝達されたこと(情報の機密性が従業員に明確に示されている必要があります。)
- 情報の無断使用があったか、それが予期されること
守秘義務は、通常、雇用関係において発生し、この義務は暗示であっても、明示であってもよいとされ、その雇用終了後にまで及ぶとされています。
しかし、使用者は従業員に対し、当該従業員の技術及び知識の一部となったものの使用を禁止できないとされています。
マレーシアの判例により、当該情報が企業秘密であるか又は一般知識及び技術であるかは、以下の要素により判断されます。
- 雇用の性質
- 情報の性質
- 使用者がその情報の機密性を強調したか
- 当該企業秘密が一般知識及び技術と区別できるものであるのか
(2)守秘義務違反が認められる場合の救済方法
守秘義務違反が認められる場合には、損害賠償請求(Damages)(懲罰的損害賠償請求を含む)、差止命令(Injunction)、清算による償還(Account of profit)等が考えられます。
なお、差止命令が認められるためには、回復不能な損害があること、及び損害賠償請求のみでは救済として不十分であることを立証しなければなりません。
4.ミャンマー
ミャンマーでは、営業秘密の保護に関する一般的な法は存在しません。そのため、守秘義務契約等の営業秘密を守る義務を含む契約を締結している場合には、営業秘密が不法に開示された場合には、守秘義務違反として民事救済を図ることができます。営業秘密の漏洩に関する直接的な刑事責任を定めた法令等は特段存在せず、救済手段としては基本的には民事救済によることになります。
したがって、営業秘密を共有する相手方との間でその秘密を保護するための契約を締結することが重要となります。
5.メキシコ
(1) 概要
日本でいう「営業秘密」に近い概念として、メキシコでは連邦産業財産権保護法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial、以下、「産業財産権保護法」という。)に規定される「Secreto Industrial」が挙げられます。その定義や違反行為、罰則等の規定はあるものの、特許や商標といった産業財産権のように、登録制度等はありません。
(2) 定義
産業財産権保護法において、Secreto Industrial(以下、「営業秘密」という。)は、「その法的管理を行使する人が秘密に保つ産業又は商業用途の全ての情報であって、経済活動の遂行において第三者に対して競争的又は経済的優位性をもち、機密性を維持し、アクセスを制限するのに十分な手段又はシステムを採用されている情報」と定義されています。
なお、公知の情報や法令等により開示しなければならない情報は営業秘密に該当しません。また、営業秘密の保有管理者より、ライセンス、許可、承認、登録、又はその他の権限を付与する目的で当該情報が提供された場合には、公知になったとはみなされません。
(3) 営業秘密の保護
先述の定義より、情報が営業秘密とみなされるには、①商業的価値があること、②機密性の維持、③情報に対し機密に保つための合理的措置が施されていることが条件となります。
従って、例えば、競合他社に対して経済的優位性を持つ技術情報がある場合、限られた数の人々だけがその情報を知っていること、そしてそれを知っている人々がその情報が機密情報であることを認識していることが重要となります。更に、そのような情報へのアクセスを制限する措置が取られなければなりません。
また、情報の保有管理者は営業秘密の使用を第三者に許可することができ、この場合は、使用を許可された第三者は、この営業機密を開示してはならない義務を負います。技術提供等の契約書において守秘義務条項を設けることも可能であり、当事者が当該情報を機密であると確認する条項を含める必要があります。更に、雇用や業務委託等の関係において、又は職務に関連し、企業の情報を知り得る者は、秘密である旨を通知された情報については、その保有管理者等の同意を得ずに開示してはならない義務を負います。
従って、営業秘密を機密として保護するためには、機密であることの明示や各種契約書内への秘密保持条項の設定や秘密保持契約書の締結、職場においては、これらに加え就業規則の整備や教育の実施といった措置が必要となります。
(4) 情報漏洩時の措置
営業秘密に関し漏洩が生じた場合、民事的、行政的、刑事的措置をとることができます。
行政的措置については、経済的優位性を獲得するため、又は商慣習に反する行為として、営業秘密を不正に取得することなどについて、利害関係者はメキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial: IMPI)に対し調査を要請でき、違反と判断された場合は、最大25,935,000ペソの制裁金(2023年の場合)、最大90営業日の施設の一時閉鎖や恒久的閉鎖といった制裁が科される恐れがあります。
刑事的措置については、自身又は第三者のために経済的利益を得る目的又は営業秘密の保有者に対し損害を与える目的で、不当に営業秘密を開示し、無権限に秘密情報を取得、使用、流用等行った場合、犯罪となり得え、利害関係者がIMPIに対し申し立てることにより起訴されます。犯罪が確定した場合は、2年から6年の懲役、103,740ペソから31,122,000ペソの罰金(2023年の場合)が科される恐れがあります。
このほか、刑法211条に依れば、専門的・技術的サービスを提供する者や公務員によって営業秘密が開示された場合、1年から5年の懲役や罰金、該当する場合は、2カ月から1年の職務停止処分が科される恐れがあります。
民事的措置として損害賠償請求を行うことも可能です。先述の各事項のほか産業財産権保護法167条は、企業秘密を取得する目的で、その秘密を保有する他者の従業員又は元従業員、当該他者にサービスを提供する、又は過去に提供したことのあるコンサルタント等を雇用し又は業務を委託する者は、法的責任を負うと規定することから、情報漏洩を行った本人のほか、企業秘密を取得する目的で雇用等を行った者に対しても損害の賠償を請求できる可能性があります。
更に、雇用関係において、労働者による情報漏洩が生じた場合、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に基づき、処遇を検討できます。労働者は、技術的秘密や営業上の秘密、製造に直接的又は間接的に関与する場合のその製品の秘密情報、その他業務の遂行上知り得る情報について、その開示が会社に損害を与える可能性がある場合、その情報を機密に保持する義務を負うため、労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合には、使用者は責任を負うことなく、当該労働者を解雇することが可能となります。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、営業秘密の保護を直接規定する法律や政策は制定されておらず、営業秘密侵害に対する苦情を管轄する政府機関も設立されていません。
しかし、営業秘密の法的保護は、いくつかの法律において、例えば、特許意匠法、契約法、競争法、刑法において規定されています。例えば、特許意匠法第49条によれば、意匠に関する情報の悪意の開示を防ぐことができます。ただし、当該規定はすべての営業秘密の場合に適用されるわけではなく対象は限定的です。また、契約法第73条では、機密保持契約を締結した場合、当事者は、契約上の義務違反に対する救済を求めることができます。
7.フィリピン
- フィリピンにおける「営業秘密」の定義
まず、フィリピンにおいて、「営業秘密」を直接定義する法令は見当たらず、非公開情報の一部が、知的財産権に関する法令において、部分的な保護を受けるに留まっています。
他方で、法令において直接定義はされていないものの、フィリピンの最高裁判例には、「営業秘密」に対して保護を与える旨判示したと読めるものが存在します。同判決によれば、「営業秘密」とは、“plan or process, tool, mechanism or compound known only to its owner and those of his employees to whom it is necessary to confide it”であるとされています。これを日本語に訳すると「計画、工程、道具、メカニズム、又は化合物に関する情報であって、所有者又はその従業員のうち、当該情報を開示する必要のある者のみが知っているもの」となります(*筆者訳)が、日本法と比較すれば、やや抽象的な概念に留まっていると考えられます。
もっとも、「所有者又はその従業員のうち、当該情報を開示する必要のある者のみが知っているもの」という部分が示すとおり、当該情報が社内において秘密として扱われている、いわゆる「秘密管理性」の要件については、フィリピン法においても求められていると考えられます。
- 「営業秘密」が侵害された場合の救済措置と対応
次に、「営業秘密」が侵害された場合、どのような救済措置や対応方法が考えられるかについて言及します。
まず、契約上で「営業秘密」について言及がある場合は、同契約の文言に基づき、侵害行為を行なっている相手方に損害賠償請求を行うことが考えられます。加えて、⑴で述べた「営業秘密」の定義に該当するような場合は、知的財産に関する法令に基づき権利侵害を主張したうえで、差止請求の手続をとることも検討できます。
また、従業員が「営業秘密」を漏洩したケースに限定されますが、雇用契約関係がある場合は、従業員に対して情報漏洩行為を指摘し、懲戒処分や懲戒解雇を行うことも考えられます。
- 「営業秘密」の侵害に備えた予防的法務
最後に、「営業秘密」の侵害に備えて企業がとりうる予防的法務対応について述べます。
フィリピンにおいて「営業秘密」を適切に守るためには、情報のやり取り前にNDAを締結すること、取引に関する契約書に営業秘密侵害の場面を想定した条項が入っているか確認すること、従業員との雇用契約に営業秘密についての条項が入っているか確認すること等の対応が挙げられます。また、牽制的な位置付けにはなりますが、従業員の営業秘密漏洩行為は犯罪行為として規定されていますので、この旨を企業内で周知することも予防法務の観点から一定程度効果があるものと考えられます。
8.ベトナム
- 概要
ベトナムの営業秘密については、2005 年に制定され、2009 年、2019 年、2022 年に改正された知的財産法に規定されています。知的財産法によれば、営業秘密とは、金融活動または知的投資活動から得られた情報のうち、未公表で、かつビジネスで利用可能なものをいうとされています(知的財産法第4条第23項) 。
営業秘密とみなされるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 財政的、知的、研究的、創造的な投資活動の結果であること。
- 同業他社、公衆、一般消費者に開示されていないこと。
- ビジネスで使用することができ、所有者に経済的利益をもたらすこと。
- 営業秘密の所有者
営業秘密を合法的に取得し、その機密性を保持する組織または個人が営業秘密の所有者になることができます。企業の従業員が業務の一環として営業秘密を取得した場合には、企業と従業員との間で別段の合意がない限り、営業秘密は企業が所有することになります(知的財産法第121条第3項)。
- 営業秘密が保護されるための要件
営業秘密が法的に保護されるための要件は、次のとおりです(知的財産法第84条)。特許などと異なり登録制度はなく、要件を満たせば自動的に保護されることになります。
- 一般的な知識ではなく、容易に入手できないもの。
- 事業活動で使用される場合、その所有または使用しない者よりも、所有者に対して有利性をもたらす者であること。
- 所有者により秘密が保持され、開示されず、容易に入手できないよう必要な措置が講じられているもの。
なお、上記要件を満たすものであっても、以下に挙げるものは営業秘密として保護されません(知的財産法第85条)。
- 個人を識別するための秘密
- 国家管理の秘密
- 国防および安全保障上の秘密
- 業務に関係のないその他の機密情報
- 営業秘密の所有者の権利制限
営業秘密の所有者の権利は無制限ではありません。以下の場合には、営業秘密の所有者は権利行使することができません(知的財産法第125条3項)。
- 第三者が、不正に取得されたことを知らず、または知る理由がなく、取得した営業秘密を開示または使用する場合。
- 公衆を保護するために営業秘密を開示する場合。
- 非営利目的での秘密データを使用する場合。
- 独自に作成した営業秘密を開示または使用する場合。
- 合法的に販売された製品の分析または評価によって生じた営業秘密を開示または使用する場合。ただし、分析者または評価者と営業秘密の所有者または製品の販売者との間で別段の合意がある場合を除く。
9.インド
インドには、営業秘密の保護に関する法律はありません。したがって、営業秘密の漏洩について、刑事責任を定める特別の法令も存在しません。
営業秘密を保護するための手段として、秘密保持契約、雇用契約、研究開発契約等のそれぞれの契約において秘密保持条項を定めることが重要です。契約に規定された秘密保持条項に反して第三者に営業秘密を開示した場合は、契約法(Contract Act of 1872)に基づいて損害賠償請求をすることが可能です。裁判例では、営業秘密に該当するかどうかの判断において、当該情報が秘密であること(既に公知となっている等の事情がないこと)、情報の開示により損害が生じる又は競争相手が利益を得ること等の事情を考慮しています。
また、裁判例では、営業秘密の漏洩の差止めについても認められています。裁判所は、侵害の事実の有無、回復不能な損害、原告被告間の利益の比較衡量等の事情を考慮して差止を命じるかどうかを判断します。
なお、インド契約法においては、「ある者が合法的な職業、取引、又はあらゆる種類の事業を行うことを拘束されるあらゆる合意は、その限りにおいて無効である。」と規定しており、同法に基づき、原則、雇用契約期間中の競業避止義務は有効であるが雇用契約期間終了後の競業避止義務は原則として無効であると解釈されています。一方、雇用契約期間終了後に元従業員に顧客への連絡を禁ずる条項について適法であると判断した裁判例があることから、雇用契約期間終了後の秘密保持条項については合理的な範囲で認められると考えられます。
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日本
日本の就労ビザには、様々な種類があります。就労ビザ取得に関しては、申請者の国籍や就労目的、滞在期間等によって手続きや要件が異なります。そのため、以下では日本の就労ビザのうち、代表的なものを取り上げ、その取得条件について述べます。
(1) ビザの種類
日本の就労ビザは大まかに分けると16種類あります。
a . 教授(大学教授など)
b . 芸術(音楽家や画家など)
c . 宗教(僧侶や宣教師など)
d . 報道(記者やカメラマンなど)
e . 経営・管理(会社社長や役員など)
f . 法律・会計業務(日本の資格を有する弁護士、公認会計士など)
g . 医療(医師、看護師など)
h . 研究(研究所の研究員など)
I . 教育(小・中・高の教員など)
j . 技術・人文知識・国際業務(技術者、外国語教師、通訳、デザイナーなど)
k . 企業内転勤(同一企業の日本支店に転勤する者など)
l . 介護(介護士など)
m . 興行(演奏家、俳優、歌手、ダンサー、スポーツ選手など)
n . 技能(調理師、パイロット、スポーツトレーナー、ソムリエなど)
o . 特定技能(特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能/熟練した技能を要する産業に従事するもの)
p . 技能実習(海外の子会社等から受け入れる技能実習生、監理団体を通じて受け入れる技能実習生)
(外務省ホームページより引用:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/chouki/index.html)
その他、就労目的での滞在については、高度専門職ビザがあり、学術、技術、経営分野において、高度かつ専門的な活動を行う者に対し、付与されます。同ビザは、申請者の経歴や仕事の内容、年収などをポイント制にして評価し、一定のポイントに達した場合にのみ付与されます。
上記a~pのうち、もっとも代表的なものは、技術・人文知識・国際業務ビザであり、日本で就労する多くの外国人が同ビザを取得しています。
(2) 技術・人文知識・国際業務ビザの取得方法
同ビザの取得要件については、実際に従事する業務によって、学歴・職歴要件が異なります。主に以下の要件が必要となってきます。
① 学歴・職歴要件
a. 技術職 : 従事する予定の業務に関連する専門分野を専攻して大学等を卒業していること、10年以上の実務経験があること、情報処理技術に関する試験の合格または資格を有していることのうち、いずれかの要件を満たしていること。
b. 人文知識 : 従事する予定の業務に関連する専門分野を専攻して大学等を卒業していること、10年以上の実務経験があることのうち、いずれかの要件を満たしていること。
c. 国際業務 : 大学等を卒業していること(選考や専門は問わない)、3年以上の実務経験があることのうち、いずれかの要件を満たしていること。
② 同業界で働く日本人と同等以上の報酬があること
③ 勤務先の経営が安定していること
④ その他要件(仕事内容や職場の環境、申請者の素行などが適当なものであるか)
日本の就労ビザについては様々な種類があり、その手続きや条件は様々です。日本の出入国管理局や日本の外交使節機関(大使館や領事館)に問い合わせすることが確実かと思われます。
2.タイ
(1) タイのビザの概要
タイにおいては、労働者であるかどうかを問わず、外国人が職業的行為を行うためには、就労ビザが必要となります。
そのため、たとえ1日の滞在であっても、ビジネス、教師、スポーツ指導、芸術関連のパフォーマンスまたは興行、インターンシップ(教育機関のプログラム以外(有償))などの目的で入国するためには就労ビザが必要となります。就労ビザは入国日から90日間滞在が可能なシングルビザと、ビザ発行から1年間複数回の出入国が可能なマルチブルビザの2種類があります。通常マルチブルビザの方が取得要件は厳しいとされています。
(2) 就労ビザの取得要件(更新の要件)
タイでは学歴・職歴要件などは特にありませんが、最低給与については申請者の国籍ごとに定められています。申請者が日本人の場合、最低月額5万バーツ以上の給与が当該日本人に支払われている必要があります。
また、タイで就労ビザを取得後、入国管理局で更新するためには、使用者は原則として外国人1人に対してタイ人4人以上を雇用している必要があります(1:4ルール)。この点、2017年3月の日タイ経済連携協定において、日本人である企業内研修生やインターン生については1:4ルールの適用はなく、タイ人の雇用義務を負わないとして、ルールの緩和がなされました。ただし、この場合のビザ延長手続に関して、在タイ日本大使館等が発行したレターをビザ延長申請者が入国管理局に提出することなど所定の手続が必要です。
(3) 就労ビザが不要な場合
2015年にタイ労働省が発表した通達によれば、討論会や講演会、学術講義等への出席、企業視察や商談への出席、会社取締役会への出席等の行為などについては、「就労」行為に該当せず、就労ビザは不要であるとされています。
もっとも、行為者の立場やこれらの行為への関わり方によっては、「就労」行為に該当し就労ビザが要求される可能性があるため、注意が必要です。
3.マレーシア
就労を目的としてマレーシアに来る場合、たとえ短期間でも就労ビザの取得が必要です。就労ビザは、雇用パス、プロフェッショナル・パス、外国人労働者(ワーカー)に対するワークパーミットなどが主なものとして存在します。雇用パス取得後、帯同する家族は、滞在ビザ(ディペンデントパス)を申請し発給を受け、マレーシア滞在が可能になります。当該パスの有効期間は、駐在員の雇用パスの有効期間と一致します。
(1) 雇用パスを取得するための要件
マレーシアで就労する場合に一般的に取得するビザは雇用パス(Employment Pass)です。雇用パスは、通常マレーシアの使用者に雇用される管理職・専門職の外国人に発給されます。
外国人の雇用パスの発給に要する最低月額給与は以下のとおり定められています。
雇用パスを取得するための最低資本金は以下のとおりです。
(2) 雇用パスの申請手続き
オンラインでの申請が導入されており、雇用パス申請は新規、更新のいずれの場合においてもオンラインでの申請が必須です。まず、入国管理局の外国人サービス部門(ESD:Expatriate Service Division)にオンラインで会社を登録し、登録完了後、申請者の雇用パス申請をオンラインで行うことになります。
また、2023年1月より改正雇用法が施行されたことにより、駐在員を含む外国人労働者を雇用する場合には、労働局の事前の承認を得る必要があります。
(3) 雇用パス申請のための必要書類
一般的には以下の書類が必要になります。
- パスポート写真(ライトブルーの背景、サイズは3.5×5.0cmまたは99×142 pixel)
- パスポートのコピー(全ページ、少なくとも6ページの空白のページが必要、有効期限12か月以上)
- 最終学歴の英文卒業証明書
- 履歴書
- 雇用契約書(給与額及び雇用年数の記載が必要であり、申請するカテゴリーの所定の要件を満たす必要があります。)
4.ミャンマー
(1) ビザの概要
日本人がミャンマーに入国する場合、たとえ観光目的であっても観光ビザが必要となります。
ミャンマーで就労する場合には、ビジネスビザが必要となります。通常のビジネスビザは70日間有効であり、当該ビザで入国後、ビジネスビザの延長やstay permitの申請手続きを行います。2022年9月に投資企業管理局(DICA)よりビジネスビザの延長要件が発表されており、内容は以下のとおりです。
(2) ビジネスビザの取得要件
a.外国人ビザの延長のための推薦状を申請する企業は登記期間が1年経過していなければならない。
b.会社法を順守していないことにより、「Suspended」及び「Struck-Off」となっている会社は、是正日から1年経過後でなければビザの延長のための推薦状申請が受理されない。
c.外国人ビザの延長のための推薦状の取得を希望する企業は、満期の90日から120日前に申請しなければならない。外国人のパスポートは少なくとも6か月間有効期間が残っていなければならない。
d.外国人ビザの延長のための推薦状の申請に当たり、会社は以下の書類を提出しなければならない。
e. 最新のCompany Extract
d. 現在の会社運営の証拠(ライセンス/許可/政府機関からの証拠、他の関連機関とのビジネス契約書(もしあれば))
e. 外国人に関する取締役会の宣言書
f. 会社のtax returnまたは監査報告書等
g. 関連する外国人の履歴書(2”×1.5”サイズの6か月以内に撮影された写真、学歴、職歴、外国の居住住所、国内の住所を含む)
h. 外国人労働者の職位及び義務に関する委任事項並びに職務概要
i. 雇用契約書及び学歴または資格証明書
j. 勤務期間中の所得税の支払いの証拠
k. 従業員数(外国人/ミャンマー人)
l. 家族構成の証拠
5.メキシコ
(1) 概要
就労(メキシコにおいて報酬を得ること)を目的としてメキシコに滞在する場合、たとえ短期間でも就労許可を伴う査証(ビザ)の取得が必要となります。180日以内のメキシコ滞在の場合は、報酬を得る場合の訪問者用査証、180日から4年の場合は、報酬を得る場合の一時居住者用査証となります。
(2) 報酬を得る場合の一時居住者用査証
メキシコでの就労を目的とする場合、180日超の滞在となることが多く、報酬を得る場合の一時居住者用査証を取得する場合が一般的です。その査証取得までの流れは次のとおりです。
- メキシコにおいて外国人を雇用する企業等の登録(Constancia de Inscripción de Empleador)
外国人を雇用する(外国人に対して報酬を支払う場合を含む)法人又は自然人は、税務上の住所を管轄する移民庁(Instituto Nacional de Migración:INM)に外国人を雇用する者として登録します。
- INMに対する就労許可を伴う査証の承認申請(Autorización de Visa por Oferta de Empleo)
外国人を雇用しようとするメキシコ人(法人・自然人)は、INMより当該外国人の雇用に際し、就労許可付査証申請の承認を受けなければなりません。
なお、INMは、この申請を受領した場合、当該雇用の信憑性や雇用主の存在、その他提出された情報を確認する目的で、当該雇用主に対して立入調査を実施することがあります。
- 承認の取得(NUTの発行)
ii)の申請が承認されるとNUTと呼ばれる手続管理番号が発行されます。
- 在外メキシコ大使館・領事館での面接・査証の発給
査証を申請する本人は、iii)のNUTを用いて、最寄りのメキシコ大使館又は領事館に予約を入れ、面接を受けなければなりません。面接時には、ii)において提出された査証申請者の情報が確認され、領事の判断により査証が発給されます。
なお、面接において、査証申請者の渡航理由に異常がみられる場合、提出資料が不正に入手されたもの、又は改ざんされたものである場合、査証申請者がメキシコに入国することに支障がある場合には、領事はINMに対し、ii)の承認を再検討するように要求し、INMは7営業日以内に承認の是非を判断することになります。
(3) 査証取得後の手続
報酬を得る場合の一時居住者用査証を取得した外国人は、メキシコ入国後30日以内に、INMに対し一時居住者カード(Tarjeta de Residente Temporal)を申請しなければなりません。
6.バングラデシュ
バングラデシュでの就労ビザ(Eビザ)及び労働許可証(ワークパーミット)の概要について紹介します。なお、政府プロジェクトに従事する駐在員(Aビザ)は個別の規定に従います。経済特区又は輸出加工区の入居企業にて就労する駐在員は、一般的な手続きと同様ですが、担当省庁がそれぞれBEZA、BEPZAとなります。
(1) ビザの概要
バングラデシュでビジネスに従事する場合は、ビジネスビザ(Bビザ)、就労ビザ(Eビザ)、投資家ビザ(PIビザ)のいずれかを取得する必要があります。このうち、ビジネスビザは、現地での情報収集や会議への出席などの目的で、対価があるなしにかかわらず、就労は認められておりません。
(2) 労働許可証発行の要件
BIDAが労働許可証を発行する要件は以下の通りです。
- 就労先が適切な当局によって認可/登録されている産業/事業所であること
- 現地の専門家や技術者が不足している職種は優先される(バングラデシュ国内で人材募集を行ったが、適切な人材が確保できなかったことの証明が必要)
- 18歳以上であること
- 新規採用・雇用延長について当該企業の取締役会の決議があること
- 就労先の支店・駐在員事務所・現地法人が存在すること
- 外国人従業員数が従業員の総数に対して、次の割合を超えないこと(製造業の場合は5%、非製造業の場合は20%)
- 支店・駐在員事務所の場合、初期設立費用として5万ドルの振込及び現金化証明があること
- 労働許可証を付与する外国人の最低給与額が規定額を満たしていること
- 内務省からのセキュリティクリアランスが完了していること
(3) 就労ビザ及び労働許可証の申請手続き
一般的な手続きは、以下の通りです。
- バングラデシュに支店・ 駐在員事務所、現地法人を設立し、BIDAにEビザの推薦状発行を依頼する
- 日本のバングラデシュ大使館にて、Eビザを申請する
- バングラデシュにEビザで入国後、15日以内に労働許可証を申請する
- セキュリティクリアランスが開始される(セキュリティクリアランスには数ヶ月かかるため、完了前に労働許可証は発行されます)
- バングラデシュ国内にてEビザを更新する(セキュリティクリアランスの進捗状況で、当局により、更新されるEビザの有効期限が決められます)
(4) 注意事項
最近、Bビザでの滞在に関し、トラブルとなるケースが増えていますので、ビザの手続きを依頼しているエージェントに確認が必要です。また、必要書類、要件などは随時変わることがあり、在日バングラデシュ大使館や各行政庁の情報に留意する必要があります。一般的にビザ発行に時間がかかることが多く、特に、ラマダン中やイード前は更に時間を要しますので、余裕をもって手続きを行う必要があります。
7.フィリピン
- フィリピンにおける就労ビザの概要
フィリピンで就労を希望する外国人は、「9(G)VISA」や「Pre-arranged Employment VISA」と呼ばれるビザ(以下「フィリピン就労ビザ」といいます。)を取得する必要があります。フィリピン就労ビザを取得すると、ビザ取得の際に申請した企業で働く間は、原則としていつでも出入国する権利が与えられます。 フィリピン就労ビザの最初の有効期間は、1年、2年または3年間となります。その後は雇用契約の期間に応じて、一度の更新で3年まで延長することができます。
- フィリピン就労ビザ取得の流れ
フィリピン就労ビザ取得のためには、大まかに分けて以下の3つのステップを経ることが必要です。
-
- フィリピンで適法に設立している現地企業または現地に拠点をもつ企業において仕事を確保する。
- フィリピン労働雇用省(以下「DOLE」といいます。)から、フィリピン外国人雇用許可証(以下「AEP」といいます。)を取得する。
- 雇用する会社が、フィリピン就労ビザ取得のための必要書類を提出する
②で述べたAEPは、フィリピンで有給の雇用に従事しようとする外国人に必要な最も一般的な就労関係の証明になります。6ヶ月以内の短期就労を希望する場合は、入国管理局に特別就労許可を申請することができる場合があります。
- フィリピン就労ビザ取得に必要な提出書類
フィリピン就労ビザの取得に必要な提出書類は、以下のとおりです。
-
- 申請書提出
- AEP
- コミッショナー宛のジョイントレター
- 入国管理局からの証明書
- 委任状
- 従業員数についての証明書
- 保証書
- 申請者のパスポート
- 外国人の登録証明書
- 雇用契約書のコピー
- フィリピン就労ビザ取得にかかる時間
フィリピン就労ビザの取得には、2~3ヶ月かかると言われています。フィリピン就労ビザの承認を待っている間にフィリピンに入国を希望する外国人は、観光ビザを申請し承認前に入国することも可能です。また、一定の条件のもとではフィリピン就労ビザの申請中に暫定的な就労許可を申請することにより、直ちに就労を開始することができる場合があります。
8.インド
外国人がインドで就労するためには雇用ビザ(Employment Visa)を取得する必要があります。その他の在留資格としては、インド到着時に空港で取得することも可能な観光ビザ(Tourist Visa)や拠点設立の準備等の目的で取得するビジネスビザ(Business Visa)等があります。以下では、雇用ビザの取得手続等について説明します。
(1) 雇用ビザ取得の要件
以下が雇用ビザ取得のための要件となります。
- 高度な技能や資格を有する専門家でありインド国内の会社等に雇用されている者であること
- ルーティーンワーク、一般的業務、秘書業務等の適任のインド人がいる業務ではないこと
- インド国内の会社で雇用される又はインド国内で実施されるプロジェクトに従事する外国企業に雇用されることを目的とした入国であること
- 一部の業種を除き、年間の給与が25,000米ドルを超えていること
- 納税義務等の全ての法律上の義務を遵守していること
- 出身国のインド大使館(領事館)又は2年以上居住する国のインド大使館(領事館)から雇用ビザが発給されること
- 会社の登記等の就労に関する書類は、徹底的に確認されビザの種類を判断される
- 使用者の名称はビザのシールに印字される
(2) 雇用ビザを申請できるその他の資格
上記(1)の要件を充足した上で、以下に該当する外国人も雇用ビザを申請することができます。
- 月給ではない固定の報酬をインド企業から得る契約に基づきコンサルタントとして入国する者
- ホテルやクラブ等で定期的にパフォーマンスを行うことを目的とした外国人アーティスト
- 国/州レベルのチーム又は著名なスポーツクラブでコーチとして雇用されることを目的として入国する者
- インドのクラブ/組織と特定の期間の契約がある外国人スポーツ選手
- 独立したコンサルタントとしてエンジニアリング、医療、会計、法律のサービスを提供するために入国する自営業の外国人
- 外国語講師/通訳
- 外国の専門シェフ
- 設備や機械等の設置のための契約で設備や機械の設置等のために入国した外国のエンジニアや技師
- 外国企業に手数料やロイヤルティを支払うインド企業にテクニカルサービス、ノウハウの移転等の提供を行うために委任された外国人
(3) 雇用ビザ申請のための必要書類
以下が雇用ビザ申請のための必要書類となります。
- 履歴書
- 日本の会社からの推薦状(無職の場合は自己推薦状)
- インドの雇用会社からのアポイントメントレター
- インドの雇用会社のプロフィール
- 雇用契約書
- インドでは得ることのできない技能を有することの証明書
- インドの雇用会社の登記証明書
- 申請者の住居(ホテル可)が確保されていることを示す書類
(4) 雇用ビザの申請手続
申請者は、オンラインシステム(Indianvisaonline.gov.in)を通じて申請書を作成し提出します。また、申請者は印刷した申請書と必要書類をインド大使館に提出する必要があります。申請が承認された後、申請者は大使館でビザを受領するか、大使館が申請者に郵送で送付します。就労ビザを得てインドに入国した後、14日以内に外国人地域登録局(FRRO)、外国人登録事務所(FRO)に登録する必要があります。
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