「各国のトピック、最新の法令等の紹介」TNY Group Newsletter No.71
1.日本
(1) 改正下請法の施行開始
2026年1月1日より、下請法が改正され、名称を新たに中小受託取引適正化法(以下「取適法」といいます)として施行されています。
原材料費や労務費の高騰の中、中小の事業者が賃上げの原資を確保するための適切な価格転嫁の実現を図ることが今回の改正の意図となっています。
(1) 改正点
ア 用語の変更
「下請け」という言葉は、委託者と受託者の間に上下関係があるというイメージにつながるという考慮から「下請事業者」は「中小受託事業者」という用語に変更されます。また、「親事業者」は「委託事業者」に、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されます。
イ 適用対象の拡大
(ア)対象取引
従来の下請法が対象としていた製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに特定運送委託が対象取引に追加されました。
特定運送委託とは、事業者が販売、製造、修理をする物品等を、取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引をいいます。
(イ)対象事業者
また、適用対象となる事業者についても、従来は委託事業者(親事業者)と中小受託事業者(下請事業者)の資本金規模によって定めていましたが、新しい取適法では、これに加えて従業員の人数規模の基準も導入されます。
取適法の適用対象となる事業者は以下のとおりです。
| ・製造委託・修理委託・特定運送委託 ・情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る) | |
| 委託事業者側 | 中小受託事業者側 |
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 資本金1000万円超3億円以下 | 資本金1000万円以下 |
| 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託(ログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く) | |
| 委託事業者側 | 中小受託事業者側 |
| 資本金5000万円超 | 資本金5000万円以下 |
| 資本金1000万円超5000万円以下 | 資本金1000万円以下 |
| 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下 |
ウ 禁止行為の追加
取適法では、新たに、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」と「手形払等の禁止」が定められています。
まず、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」について、材料費や労務費等の費用が高騰した場合に、中小受託事業者が製造等委託代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定することは禁止されます。
また、中小受託事業者の資金繰りの安定のために、手形支払いは禁止となります。
2.タイ
(1) 会社設立登記に関する法令の施行
事業開発局(DBD)は、外国人株主が関与する事業、または外国人がサイン権者に任命される事業におけるパートナーシップまたは非公開会社の登記の規則と手続きを強化するため、本規則を施行しました
(2) 概要及び留意点
会社設立登記時、申請者は、以下の状況において、タイ人株主全員について追加の証明書類を提出する必要があります。
- 外国人株主が登録資本金の50%未満を保有するパートナーシップまたは非公開会社
- 外国人株主はいないが、外国人がサイン権者に任命されている非公開会社
各タイ人株主は、株式払込または出資日以前3か月分の銀行取引明細書を提出する必要があります。当該明細書には、引受株式の価値に相当する金額の引き出しまたは送金、および当該支払いが行われた日付が明記されていることが求められます。
3.マレーシア
(1) 概要
Ministry of Home Affairs (MOHA)が2026年1月14日付で発出したプレスリリースによれば、外国人駐在員(Expatriate)に関する最低給与要件および雇用期間の枠組みが改定され、2026年6月1日より施行されます。就労パス(Employment Pass:EP)には、カテゴリーI、II、IIIがあり、それぞれの取得要件が異なっています。今回の改訂によりいずれカテゴリーにおいても最低給与基準が改定され、あわせて雇用期間の枠組みが導入されます。2026年6月1日以降に提出される、すべての新規申請および更新(renewal)申請は、当該改訂後の要件に従って審査されることになります。MOHAは、今後詳細なガイドラインを公表するとしていますので、今後の動向を注視する必要があります。
(2) 各カテゴリーの改訂内容
(ア)カテゴリーⅠ
従来の給与基準はRM10,000~RM19,999でしたが、RM20,000以上に変更されます。期間は最長10年です。
(イ)カテゴリーⅡ
従来の給与基準はRM5,000~RM9,999でしたが、RM10,000~RM19,999に変更されます。期間は最長10年です。また、現地ローカルへの職務承継計画書の提出が求められます。
(ウ)カテゴリーⅢ
従来の給与基準はRM3,000~RM4,999でしたが、RM5,000~RM9,999に変更されます。期間は最長5年です。また、Ⅱと同様、現地ローカルへの職務承継計画書の提出が求められます。扶養家族の同伴については、これまでカテゴリーⅢについては原則認められていませんでしたが、改定後は、これが認められることとなりました。ただしFAQによれば、駐在員の給与基準、保険付与状況、法令遵守等を考慮して可否判断が行われるようです。
4.ミャンマー
(1) サイバーセキュリティ法の施行
2025年1月、ミャンマーにおいて新たなサイバー規制の枠組みとしてサイバーセキュリティ法(Cybersecurity Law)が施行されました。本法は、国家安全や社会秩序の維持を目的として、オンライン通信、デジタルプラットフォーム及びデータ管理に対する統制を大幅に強化する内容となっています。
(2) 概要及び留意点
通信事業者やオンラインサービス提供者に対して、利用者情報や通信ログの一定期間保存義務が課されるほか、当局からの要請に基づく情報提供やコンテンツ削除への対応義務が明記されており、企業のITガバナンス体制への影響は小さくありません。また、無許可のVPN利用や禁止コンテンツの流通に関する規制も強化されており、従業員の通信手段や社内システムの運用についても慎重な管理が求められます。さらに、当局はウェブサイトやオンラインサービスへのアクセス制限措置を講じる権限を有するとされ、クラウドサービスや越境データ移転の実務にも影響が及ぶ可能性があります。日系企業にとっては、個人情報管理、内部通報制度、データ保管場所、ITセキュリティポリシーの見直しが重要な対応課題となり、現地法令と本社ポリシーとの整合性確保が一層求められる点に留意が必要です。
5.メキシコ
(1) 連邦経済競争法の概要
昨年改正のあった連邦経済競争法(Ley Federal de Competencia Económica:LFCE)について、その概要を記載します。同法は、憲法第28条に基づく競争法制として、自由競争・自由参入及び経済上の競争を確保するための規律を定めた法律です。対象としては、競争制限的な行為(反競争的な協定・カルテルを含む)、市場における排除や支配につながる行為などの絶対的及び相対的な独占的行為のほか、違法な企業結合に及びます。そしてそれらの行為について、調査、審理・決定、是正措置、制裁、情報の取扱いの枠組みが規定されています。違反に対しては、行為の中止・排除や是正、結合の解消等の措置に加え、罰金等の制裁が規定されています。
(2) 2025年連邦経済競争法の改正点
①執行機関の再編
従来の競争当局である連邦経済競争委員会(Comisión Federal de Competencia Económica:COFECE)に代わり、国家反独占委員会(Comisión Nacional Antimonopolio:CNA)へ移行する制度が整備されました。CNAは、連邦行政組織に属する分権的公的機関として、経済省(Secretaría de Economía)の所管の下に置かれつつ、法的主体性と独自の財産を有し、意思決定・組織・運営に関して技術的及び運用上の独立性を備えるものとされています。
統治機関として合議体が置かれ、委員長を含む5名の委員で構成され、連邦行政府による指名と上院による承認を段階的に行う仕組み、委員の任期(7年)及び委員長の任期(3年、1回に限り延長可)等が規定されています。
②主な追加及び改正条項
2025年改正では、実体及び手続面でも複数の追加や改定が行われました。企業結合の審査に関し、事前許可が必要となる取引類型の金額基準が定められています。また、予防や検知を目的とするコンプライアンス・プログラムを当局が認証する制度や、反競争的行為について、個別又は集団の損害賠償請求を当局決定後に提起できる制度が盛り込まれました。
さらに、同法に第4編「通信・放送分野」が新設され、全国シェアが50%超であること等を基準に「優越的経済主体」の該当性を判断するための枠組みが規定されています。加えて、周波数の集中、新たな免許の付与、放送・通信間のクロスオーナーシップについて、一定の場合に制限を課す規定が設けられました。
6.バングラデシュ
(1)最近の政情
バングラデシュでは、2024年8月の政変後、ムハマド・ユヌス氏が率いる暫定政権が続いていましたが、2026年2月12日に総選挙(定数350、うち直接選出300)が実施され、憲法に基づく正式政権へ移行しました。選挙監視団も派遣され、投票前日の11日から開票終了まで大きな混乱は確認されませんでした。
選挙の結果、バングラデシュ民族主義党(BNP)が単独で209議席(連合で212議席)を獲得し、3分の2を超える多数を確保して新政権を主導することとなりました。
(2)最新法令の紹介
2025年の労働法改正に続き、2026年2月16日には2015年労働規則も改正されました。主な内容は、石油・ガス業界の基金に関する規定の追加です。
また、生物多様性と野生生物保護の強化を目的として、2026年1月6日に森林・樹木保全条例、1月7日に野生動物(保全および保護)条例が制定されました。これらは環境・森林・気候変動省が所管し、同時に2012年野生生物(保護および保護)法は廃止されています。新条例では、野生動物の保護・管理や森林開発に関する制度を整備するとともに、違反行為に対する罰則が強化されています。
7.フィリピン
(1) はじめに
フィリピン進出を検討する企業にとって、外資規制は最初に確認すべき点です。特に、以下の点に留意する必要があります。
・業種によっては100%外資が認められない
・株主構成に応じて取締役の国籍割合を調整する必要がある
・主要役職に特有の国籍・居住要件がある
(2) 外資規制下での役員構成ルール
①取締役に関する要件
外資規制対象会社では、株主の出資比率と取締役の国籍割合を一致させる必要があります。たとえば、フィリピン人が60%株式を保有している場合、取締役の60%以上をフィリピン人とする必要があります。
なお、取締役の主な要件は以下のとおりです。
・原則2名以上(1名の場合はOPCという異なる会社形態になります。)
・外国人でも就任可能
・フィリピン居住は不要
・株式を保有していることが必要
②主要役職者に関する要件
取締役以外にも、President(社長)、Secretary(秘書役)、Treasurer(財務役)について特有のルールがあります。秘書役・財務役は日本には無いポジションですが、フィリピンでは会社設立時に必須の役職です。
特に重要なのは以下の点です。
・Secretaryはフィリピン国籍・居住者であることが必要
・外資規制下ではPresidentに国籍制限がかかる
・兼任禁止ルールが存在する
(3) 外資規制(ネガティブリスト)
フィリピンの外資規制は、Foreign Investment Negative List(ネガティブリスト)により整理されています。具体的には、以下が整理されています。
・外資が完全に禁止される業種
・外資比率に上限がある業種
外資規制を踏まえて、進出検討時の基本ステップは以下の流れになります。
ⅰ事業内容の整理
ⅱネガティブリストとの照合
ⅲ出資上限の確認
JETROが日本語訳を公開していますが、英語の正式版と併せて確認することが重要です。
(4) 特に注意が必要な業種
①小売業
外国人が小売業(飲食業を含む)の株式を40%超保有する場合、2,500万ペソ以上の資本金が必要です。
② 国内向けビジネス
輸出事業ではなく、国内市場を対象とする事業については、原則として20万米ドル以上の資本金が必要です。
(5) 実務上の留意点
外資規制の難しさとして、以下のような問題があり、「条文を読めば明確」とは限りません。
・事業内容の解釈によって結論が変わり得る
・行政庁の明確なガイドラインが存在しない場合がある
そのため、出資比率の設計段階から専門的な検討が不可欠です。
8.ベトナム
(1) ベトナム投資法の改正に伴う新規制
2025年の投資法である法律第143/2025/QH15号(以下「2025年投資法」といいます。)が2026年3月1日から施行されます。以下は、本改正法のポイントです。
(2) 条件付投資分野の大幅な削減・縮小
2025年投資法では、以下のような事業が条件付投資分野から除外されます。この除外に関する規定は、2026年7月1日から施行されます。
- 税務手続業、通関手続サービス業、保険補助サービス業、労働者派遣サービス業、保管サービス業
- 留学コンサルティングサービス業、美容整形サービス業
- 商業検査サービス業、冷凍食品の一時輸入・再輸出業、使用済み物品リストに属する物品等の一時輸入・再輸出業 など
(3) 外国投資家は、法人設立前に投資プロジェクトを有する必要がなくなりました
2025年投資法第19条第2項は、外国投資家が、事前の投資プロジェクトを要することなく法人を設立できることを認めましたが、市場アクセス条件を満たさなければなりません。具体的には、次の通り規定されています。「外国投資家は、投資登録証明書の交付又は調整の手続を行う前に、投資プロジェクトを実施するための経済組織を設立することができ、経済組織の設立手続を行う際には、本法第8条に定める外国投資家に対する市場アクセス条件を満たさなければなりません。」
したがって、法人設立前に投資プロジェクトを要するとしていた旧規定と比較すると、取扱いが異なります。
(4) 海外投資手続の簡素化
2025年投資法では、海外投資政策の承認手続を廃止し、海外投資登録証明書を必要とするプロジェクトの範囲を縮小しました。政府は、許認可手続が免除されるプロジェクトについて詳細規定を定める一方、外国為替管理及び国家の財政安全保障に関する監督措置を追加します。
(5) 投資プロジェクトの運営期間に関する規定の調整
2025年投資法は、経済特区以外のプロジェクトについて最長50年、同区内のプロジェクトについて最長70年という上限を引き続き維持します。もっとも、本法は、70年の期間が適用される範囲を、ハイテクパーク、集中型デジタル技術パーク、及び特別投資優遇の対象となるプロジェクトにまで拡大します。また、2025年投資法は、プロジェクトの期間満了時に、運営期間を延長する仕組みを設けています。すなわち、投資家が法令上の条件を満たし、かつ、当該プロジェクトが旧式技術を使用しておらず、環境汚染のリスクを生じさせず、また、国家への無償資産移転を要する類型に該当しない場合、投資家は延長を申請することができ、各延長期間は上記の最長期間を超えないものとされます。
(6) 投資方針承認の対象となるプロジェクトの範囲の明確化
2020年投資法では、投資方針承認を要するプロジェクト群を直接定義しておらず、各機関の権限に応じて規定するにとどまっていましたが、2025年投資法第24条は、同プロジェクトの類型を20種類、具体的に列挙しています。例えば、以下の通りです。
- 大規模又は配慮を要する土地・資源を使用するプロジェクト:大面積の森林用地(特用林・保護林・生産林)の転用、500ヘクタール以上の稲作地の転用、大規模な再定住を伴うプロジェクト、国防・治安に影響する地域のプロジェクト、海域の割当を求めるプロジェクト。
- 特別かつ配慮を要する分野に属するプロジェクト:原子力発電、カジノ及び賭博、石油・ガス加工、航空運送、ネットワークインフラを伴う電気通信、再植林、外国投資家による出版・報道。
- 文化遺産及び特別級の都市区域に関連するプロジェクト:国家記念物又は世界遺産として保護される区域のプロジェクト、特別級の都市の開発制限区域又は歴史的中心区域のプロジェクト。
- 大規模インフラ及び不動産プロジェクト:住宅建設、都市区域(投資家が既に土地使用権を有する場合)、ゴルフ場、工業団地・輸出加工区・デジタル技術区、大規模港湾、空港及び重要航空インフラ。
- 特別要件を伴うプロジェクト:土地の割当・賃貸又は土地使用目的変更許可の申請(一定の除外事由を除きます)、法令に定めのない特定の制度・政策の適用を要するプロジェクト、法令により首相の承認権限に属すると定められるその他のプロジェクト。
9.インド
(1) 労働法の改正
2025年11月21日、インド政府は突如、改正労働法の施行を発表しました。
インド憲法は、労働に関する事項を連邦政府と州政府の共同管轄事項として定めています(インド憲法 Schedule 7, list III)。
そのため、連邦法から州法にいたるまで無数の労働法令が存在しており、その全体像の把握が難しく、どの場合に、どの法令が適用されるかも分かり辛い等、非常に複雑な構造となっています。
このような複雑な労働法体系を整理するために、モディ政権の下で29の労働法(連邦法)を4つの法典に整理統合することが行われました。
4法典は、それぞれ
(a) 2019年賃金法 (Code on Wages, 2019)(以下、「賃金法」という)
(b) 2020年労使関係法 (Industrial Relations Code, 2020) (以下、「労使関係法」という)
(c) 2020年社会保障法(Code on Social Security, 2020) (以下、「社会保障法」という)
(d) 2020年労働安全衛生法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)(以下、「労働安全衛生法という」)
といい、いずれも2020年9月頃までには成立して、インド官報で公表されていましたが、これまで施行スケジュールが明らかでなく、いつ施行されるのか不明のままでした。しかし、今般、インド政府は2025年11月21日に、同日付でこれら4法典を施行することを発表しております。
(2) 改正労働法の施行状況
新しく施行される4法典は、細部のルール等を施行規則や州が定める州法に委ねている部分がありますが、こうした施行規則や州法は未だ未整備です。
報道等によると、インド政府は、新年度である2026年4月1日を目途に施行規則を整備する方針で検討をしているようです。そのため、施行が発表されたといえども、実質的にはまだ旧法から新法への移行期間であるといえます。
この点、移行期間中は、新しい労働法典と矛盾しない範囲で旧来の法令が引き続き有効であるとの政府の見解も出ております。
しかし、法令の施行スケジュールが不透明なインドでは、この移行期間がいつまで続くのか定かでない部分もあります。
そのため、可能な限り早めに社内の雇用条件の見直し等を進めておく必要があります。
(3) 主な改正点
新しい労働法の改正点は多岐にわたりますが、以下では主なものを簡単に紹介いたします。
ア 賃金法
従来、賃金(Wages)の定義は法令ごとに異なっていましたが、賃金法典により定義が統一されました。給与や手当など支払いの名目にかかわらず、金銭あるいは金銭と同視できる報酬を意味し、基本給、物価調整手当、残留手当を含むものとされています。住居手当や家賃手当等の一定のものについては、賃金の定義から除外されていますが、報酬総額の2分の1、または中央政府が通知するその他のパーセントを超える場合、当該超過額分は報酬とみなされ、賃金に加算されるので注意が必要です。
また、これまで一定の範囲の従業員のみに最低賃金が定められていましたが、賃金法典では中央政府がすべての従業員に適用される最低賃金を定めることとされています。
イ 労使関係法
労使関係法では、ワーカー(worker)の定義が拡大されました。
インドの労働法は労働者をワーカーとノンワーカーに区別しており、ノンワーカーは雇用主と対等に近い関
係としてその労働条件は主に当事者間の雇用契約によって規律される一方、ワーカーは法令上手厚い保護
が与えられます。
この点、従来の法令ではワーカーは、雇用条件が、明示的か黙示的かを問わず、あらゆる産業において、有償又は報酬を得て、未熟練・熟練、技術的、作業的、事務的、監督的業務を行うために雇用されている者と定義されており、監督的(supervisory capacity)な立場として雇用され、月額10,000ルピーまたは中央政府が定める額を超える賃金を得ている者はワーカーに含まれないとされてきました。
しかし、新しい労使関係法では、ワーカーに含まれない者の範囲が監督的な立場として雇用される者のうちで、賃金が月額10,000を超える者から18,000ルピーを超える者に変更され、ワーカーの定義が拡大されました。
ウ 社会保障法
従来、社会保障制度であるEPF(従業員積立基金)への加入義務は、法令で定める一定の産業に属する事業所等に課されていましたが、新しい社会保障法では、20名以上の従業員を雇用するすべての事業所に、加入義務があります。
エ 労働安全衛生法
従来、雇用契約は口頭の成立でも認められ、特定の書面の作成までは求められていませんでしたが、新しい労働安全衛生法では、雇用の際にアポイントメントレターと呼ばれる雇用契約書の作成義務があります。
また、従来、労働時間等の条件は、工場かそれ以外の店舗・オフィス等の施設かによって、適用される法令が異なっていましたが、新しい労働安全衛生法では就労場所の区別なく、1日の労働時間を8時間と定めています。
また、これまで、女性の午前6時前及び午後7時以降の時間の勤務は認められていませんでしたが、新たに、本人の同意があればこの時間帯での勤務も可能となります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)については、2022年12月にジャパンデスクを開設して業務を行っていましたが、この度、フリーゾーンにコンサルタント会社を設立しましたので、お知らせします。
これまでと同様、必要に応じて、複数の現地法律事務所の協力を得つつ、ドバイをはじめとする中東各国に関してのご相談に対応していきます。
会 社 名: TNYKOKUSAI CONSULTING – FZCO
所 在: IFZA Business Park, Dubai Silicon Oasis
お問い合わせ窓口: info@tnygroup.biz
11. インドネシア
(1) 宗教手当(THR)の概要
インドネシアでは、年に1回宗教手当(THR:Tunjagangan)と呼ばれる賞与を付与することが規定されています(従業員のための宗教手当に関する労働大臣令2016年第6号(以下、「THRに関する規則」といいます)。付与する時期は宗教休暇の最低7日前までに支給する必要があると規定されており(THRに関する規則第9条)、従業員が信仰する宗教に応じて、宗教休暇は異なります。法令上においては、ムスリムはイドゥル・フィトリ(レバラン)、カトリック・プロテスタントにはクリスマス、ヒンドゥー教徒にはニュピ、仏教徒にはワイサック(ウェーサーカ)、儒教を信仰する従業員には、旧正月がそれぞれの宗教休暇に当たります(THRに関する規則第2条)。ただし、人口の80%以上がイスラム教徒であるインドネシアでは宗教に関係なくTHRをイドルフィトリ(レバラン)を基準に支給するのが慣行です。今年は、イドゥル・フィトリが2026年3月20日頃と予測されており、法令に基づき、遅くともその7日前までにTHRを支給する必要があります。もっとも、正式なイドリフィトリの日にちは、インドネシア政府により、直前に決定されるため、期限が変動する可能性があり、余裕をもった支給計画を策定することが重要です。
(2) THRの受給
THRの受給資格を持つのは、最低1ヶ月以上連続して勤務しているa) 正社員(Perjanjian Kerja Waktu Tidak Tertentu – PKWTT)及び、b) 有期雇用契約社員(Perjanjian Kerja Waktu Tertetu-PKWT)が該当します(THRに関する規則第2条)。また、宗教休暇前の30日以内に退職した従業員に対しても、支給義務があります(THRに関する規則第7条)。THRの金額は1年以上連続して勤務している従業員には、1ヶ月の固定給分を支給する必要があり、1カ月以上連続して勤務していない従業員には支払いの義務はありません。しかし、1年未満の勤務の場合、勤務月数に応じて、月割計算を行う必要があります。具体的な計算方式としては法令上、下記が規定されています(THRに関する規則第3、5条)。
”THR”=”勤続月数/12 “×”月の固定給”
また、勤続期間は1ヶ月単位とし、1ヶ月に満たない期間は法令上において規定はありませんが、切り捨てて計算するのが慣行です。例えば、2ヵ月10日勤務した従業員の場合は、10日分は切り捨てられ、2ヵ月分の給料に対する割合でTHRが支給されます。
(3) 罰則 使用者が従業員へのTHRの支払いを怠った場合、支払い期限日、つまり宗教休暇の7日前から換算して支払い額の5%の支払い義務が課されます(THRに関する規則第10条)。さらに、THRを支払わなかった場合には、a) 書面による警告、b) 事業活動の制裁、c) 生産設備の一部または全部の一時的な停止、d) 事業活動の停止(営業許可の凍結)のような行政制裁が下される可能性があります(賃金に関する規則2015年第78号)。
1.日本
会社法上、株主総会には定時株主総会と臨時株主総会の2種類があります。
定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければなりません(会社法296条1項)。開催時期は会社の定款で定められますが、一般的に事業年度の終了後3か月後の時期としている会社が多いです。
臨時株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができます(会社法296条2項)。
(2) 株主総会の招集手続き
株主総会の招集手続きは以下のとおりです。
まず、取締役会で、株主総会の日時・場所・目的事項等を決定し(会社法298条)、招集通知を株主に発送します(会社法299条1項)。
招集通知は、公開会社の場合、株主総会の2週間前までに、非公開会社の場合は1週間前までに発しなければなりません(会社法299条1項)。
(3) 株主総会の運用
決議には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があります。
このうち、普通決議は、行使可能な議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行われます(会社法309条1項)。
また、特別決議には、行使可能な議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行われます(会社法309条2項)。
特別決議は、定款変更や組織再編等、会社の重要な問題を決議する際に求められます。
そして、特殊決議とは、特別決議より更に厳しい決議要件が定められているものをいい、例えば、発行株式の全部に譲渡制限を付すためには、議決権を行使することのできる株主の半数以上が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって決議しなければなりません(会社法309条3項)。また、非公開会社において、剰余金の配当を受ける権利等の一定の権利について、株主ごとに異なる内容を定める旨の定款変更をする場合には、総株主の半数以上が出席し、総株主の4分の3以上の多数をもって決議しなければなりません(会社法309条4項)。
2.タイ
(1) 株主総会
民商法典第1171条によると、タイにおける株主総会として、「定時株主総会」と「臨時株主総会」の2種類の総会が定められています。会社設立登記の日から6ヶ月以内に開催する総会及び、その後少なくとも12ヶ月に1度は開催する年次株主総会を「定時株主総会」と呼び、それ以外の総会を、「臨時株主総会」と呼びます。
(2) 決議事項
株主総会において民商法典上決議が必要とされている事項は、以下の通りです。
- 普通決議事項
取締役の選任及び解任(第1151条)、取締役の報酬決定(第1150条)、決算報告書の承認(第1197条)、配当の決定(第1201条)、監査人の選任(第1209条)、監査人の報酬決定(第1210条)
- 特別決議事項
基本定款、附属定款の変更(第1145条)、新株の発行による増資(第1220条)、金銭払込以外の方法による新株発行(第1221条)、減資(第1224条)、解散(第1236条第4号)、合併(第1238条)
上記以外にも、附属定款において株主総会の決議が必要と定められている事項については、当該定めに従い、株主総会における決議が必要となります。
(3) 招集通知
普通決議事項のみの株主総会の場合、総会開催日の7日前までに、株主名簿に記載されている全株主に、配達記録付き郵便により招集通知を郵送する必要があります。
特別決議事項が含まれる株主総会の場合、総会開催日の14日前までに、株主名簿に記載されている全株主に、配達記録付き郵便により招集通知を郵送する必要があります(第1175条)。
(4) 決議方法
株主総会における議決権は、附属定款に別途定めがある場合を除き、原則として、1株主につき1議決権とされ、挙手制による決議方法が定められています(第1190条、第1182条)。ただし、株主総会において少なくとも2名の株主から秘密投票が要求された場合は、秘密投票によることができます(第1190条)。この秘密投票の場合、1株につき1議決権が付与されます(第1182条)。
また、議決権の行使は、代理人により行うことも可能です。しかし、代理人への委任については書面でなされる必要があります(第1187条)。また当該書面は、少なくとも代理を予定する株主総会開催時までに、議長に提出される必要があります(第1189条)。
(5) 定足数・決議要件
定足数としては、少なくとも2名の株主(代理人による出席を含む)の出席、かつ会社資本の4分の1以上を有する株主の出席が必要とされています(第1178条)。
決議要件に関して、普通決議事項については、出席株主の有する議決権の過半数の賛成により可決されます。特別決議事項については、出席株主の有する議決権の4分の3以上の賛成により可決されます(第1194条)。
票数が同数であった場合には、株主総会の議長が決定票を投じることになります(第1193条)。
3.マレーシア
(1) 概要
会社法上、年次株主総会の開催義務があるのは公開会社のみであり(会社法340条⑴)、非公開会社は、定款に特段の記載がない限り、年次株主総会の開催義務はありません。
(2) 株主総会の運用方法
(ア) 招集通知
株主総会を開催する場合、非公開会社においては、普通決議事項については総会開催日の14日前(定款でより長期間の日数を定めた場合はその日数)(会社法316条⑴)、特別決議事項については21日前に招集通知を送付する必要があります(会社法292条⑴)。また、次の事項については、28日前に招集通知を送付する必要があります。
・ 取締役の解任(会社法206条⑶)
・ 会計監査人の解任又は退任する会計監査人に代わる別の会計監査人の選任(会社法277条⑴、280条⑵)
・ 清算人の解任(445条⑶)(イ) 開催方法(物理的・電子的)
(イ) 通知の方法
招集通知は、ハードコピー、電子的方式、又はそれらの併用の形で、文書により行います(会社法319条⑴)。ハードコピーの招集通知については、直接の交付又は株主が指定した住所への郵送により行います。電子的方式の招集通知については、株主が指定した電子メールアドレスへの送信又はウェブサイトへの掲載により行います(会社法319条⑵)。招集通知をウェブサイトへ掲載する方法により行う場合、あらかじめ、株主に対して、ハードコピー又は電子的方式による文書で、招集通知をウェブサイトへ掲載する方法により行う旨を通知しておく必要があります(会社法320条)。
(ウ) 定足数
株主が1名のみの場合:その株主の出席により充足します。それ以外の場合、2名の株主またはその代理人の出席により充足します。ただし、定款で別途の定めを置くことも可能です(会社法328条⑵)
(3) 株主総会の決議要件の種類
(ア) 普通決議
普通決議事項は、議決権を有する株主の過半数が賛成することにより可決されます。書面決議による場合、普通決議事項については議決権割合で過半数以上の株主が賛成の署名を行った場合に、可決されることになります(会社法291条⑴)。普通決議事項は主に次のとおりです。
・ 取締役の選任(会社法202条⑵)、解任(会社法206条⑴)
・ 役員報酬の決定(定款の定めがある場合は取締役会承認で可。会社法230条⑵)
・ 会計監査人の選任(会社法267条⑷)、解任(276条)
・ 新株発行(会社法75条⑴)、増資(会社法84条)
・ 取締役等への会社貸付け(会社法224条⑶)
・ その他株主総会決議事項のうち、会社法において決議の種類が定められていない場合(会社法290条(3))。
ただし、定款で別段の定めが存在する場合は定款に従うこととなります。
(イ) 特別決議(Special resolution)
特別決議事項については議決権割合で75%を超える株主が賛成の署名を行った場合に可決されることになります。特別決議を経る必要がある事項は主に次のとおりです。
・減資(会社法115条等)
・社名の変更(会社法28条)
・定款の作成、変更(会社法32条⑴、36条⑴)
・会社形態(公開会社・非公開会社)の変更(会社法41条)
・株主による任意清算(会社法439条⑵)
(ウ) 書面決議(Written Resolution)
会社法には、株主総会で決議すべきものとして定めた事項(以下「株主総会決議事項」といいます。)が存在します。非公開会社の場合、株主総会決議事項について、株主総会を開催した上での決議ではなく、書面による決議により意思決定を行うことが通常です(会社法297条⑴)。ただし、次の事項については、書面による決議を用いることはできず、株主総会を開催の上で決議を得る必要があります(会社法297条⑵)。
・取締役の解任
・会計監査人の解任
4.ミャンマー
(1) 株主総会の種類
ミャンマー会社法上、株主総会は以下の2種類に大別されます。
(ア) 定時株主総会(Annual General Meeting:AGM)
会社法第146条に基づき、原則としてすべての会社は毎事業年度ごとに1回、定時株主総会を開催しなければなりません。初回の提示株主総会は会社設立後18か月以内、2回目以降は前回の提示株主総会から15か月以内に開催しなければなりません。
(イ) 臨時株主総会(Extraordinary General Meeting:EGM)
提示株主総会以外に、必要に応じて開催される株主総会です。
開催事由は取締役会の決議または議決権の10%以上を有する株主の請求です。
(2) 株主総会の運用方法
(ア) 招集通知
原則として21日前までに書面で通知する必要があります。ただし、全株主の同意がある場合、短縮通知も可能です。
(イ) 開催方法(物理的・電子的)
電子的手段による開催(テレビ会議、ビデオ会議等)が明示的に認められています。
(ウ) 定足数
原則は議決権を有する株主2名以上であり、定款により別途定めることが可能です。
(3)株主総会の決議要件の種類
株主総会の決議は主に以下の3種類に分類されます。
(ア) 普通決議(Ordinary Resolution)
要件は出席株主の過半数(50%超)の賛成です。
(イ) 特別決議(Special Resolution)
要件は出席株主の75%以上の賛成です。招集通知で「特別決議」である旨の明示が必要です。
(ウ) 書面決議(Written Resolution)
株主総会を開催せずに書面または電子的方法で決議することが可能です。要件は、原則として全株主の同意が必要です。
5.メキシコ
(1) 株主総会の運用方法
メキシコの株式会社においては、株主総会は株主によって構成される会社の最高意思決定機関であり、会社の全ての行為および業務について決議の対象とすることができます。株主総会には、通常総会(Asamblea Ordinaria)と特別総会(Asamblea Extraordinaria)が存在し、決議事項により区分され、決議要件等に違いが表れます。
株主総会の招集は、原則として取締役もしくは取締役会または監査役が行います。監査役が欠けた場合は取締役会が3日以内に監査役選任のための株主総会を招集し、期間内に招集しない場合には株主は裁判所に対し招集を請求できます。また、資本金の33%以上に相当する株式を有する株主は、書面により株主総会の招集を取締役会または監査役に請求できます。さらに、2年連続で総会が開催されていない場合等には、1株の株主でも招集を請求できます。総会は、定款に定められた方法による事前通知をもって、経済省の電子システムに公告することにより招集されます。定款に記載がない場合は、総会の15日前までに通知を行います。
株主は代理人(株主であるかを問わない)により議決権を行使でき、代理権は定款所定の方法、定めがない場合は書面で与えられます。取締役および監査役はいずれも代理人になることはできません。株主の種類が複数ある場合は、特定の種類株主の権利を害する可能性のある議案につき、影響を受ける種類株主による特別総会での事前承認が必要となります。自己または他人のために会社の利益に反する利益を有する株主は、その取引についての審議を棄権しなければならず、違反した株主は、その株主の議決権行使がなければ決定に必要な過半数を得られなかった場合には、損害賠償責任を負います。議決権拘束契約も認められますが、裁判所の判決がある場合を除き会社に対して対抗力を有しません。株主総会によって適法に採択された決議は、会社法の規定に基づく異議を申し立てる権利を行使した場合を除き、欠席または反対した者に対しても、拘束力が及びます。
(2)株主総会の決議要件
通常総会の決議事項は、会社法182条に定める特別総会決議事項に該当しない事項です。そのほか、(i) 会社法172条に定める取締役の事業報告について監査役の報告を考慮して審議し、承認または修正し、適切と思われる措置を講じること、(ii) 取締役、取締役会および監査役の選任、(iii) 定款で定められていない場合は、取締役および監査役の報酬の決定が、通常総会決議事項と特に定められています。通常総会における定足数は資本金の2分の1以上に相当する株式を有する株主の出席であり、決議要件は出席した議決権の過半数です。通常総会は、会計年度終了後4か月以内に開催されることが規定されています。
特別総会の決議事項は、会社の存続期間の延長、存続期間前の解散、資本金の増減(ただし可変資本制の場合は不要)、会社の事業目的の変更、会社の国籍変更、会社の組織変更、合併、優先株式の発行、自己株式の消却と享受株式の発行、社債発行、定款の変更、法律または定款で特別定足数を必要とする全ての事項です。特別総会はいつでも開催可能であり、定足数は、定款で別の定めがない限り資本金の4分の3以上に相当する株式を有する株主の出席、決議要件は資本金の2分の1以上に相当する議決権です。
6.バングラデシュ
(1)株主総会の種類
① 定時株主総会
すべての会社は、暦年に一度、かつ前回の定時株主総会から15か月以内に、定時株主総会を開催しなければなりません。初回の定時株主総会は、会社設立日から18か月以内に開催する必要があります。やむを得ない事情がある場合には、所定の手続きを経ることで、一定期間の延期が認められます。規定通り開催されない場合は、株主の申し立てにより裁判所が招集または招集命令をだすことができます。(82条)
② 臨時株主総会
発行済株式総数または議決権の10分の1以上を有する株主から請求があった場合、取締役は臨時株主総会を招集しなければなりません。請求は、目的を明記した書面により行う必要があります。取締役が期限内に対応しない場合には、株主自らが総会を招集することができます。(84条)
(2)株主総会の運用方法
① 招集通知
株主総会の招集通知は、原則として21日前までに、書面により行わなければなりません。ただし、定時株主総会については、議決権を有するすべての株主の同意がある場合、通知期間を短縮することができます。(85条(1))
② 定足数
付属定款に別段の定めがない場合、非公開会社で株主が6名以下の場合は2名、7名以上の場合は3名、その他の会社では5名が定足数となります。(85条)
(3)株主総会の決議要件の種類
① 普通決議(Ordinary Resolution)
取締役の選任、取締役の報酬、配当、監査人の選任、監査人の報酬、決算書の承認等を決議内容とする場合です。出席した株主の過半数の賛成が必要となります。
② 特別決議(Special Resolution)
定款変更、商号の変更、減資、検査役の選任、監査人の解任、会社の解散等が決議内容となる場合です。株主の4分の3以上の賛成により議決し、かつ、特別決議であることを知らせる招集通知を開催日の21日までに通知する必要があります。
③ 特殊決議(Extraordinary Resolution)
株主である取締役の解任、会社清算に伴う債権者と会社間の合意事項の決定等が決議内容となる場合です。株主の4分の3以上の賛成が必要となります。
7.フィリピン
(1) 株主総会の通常決議
①定足数
原則として、株主総会が成立するためには、発行済株式総数(Outstanding Capital Stock)の過半数を有する株主の出席が必要です。もっとも、定款で別途定めることも可能です。
②承認に必要な賛成数
通常決議は、出席している株主が有する株式数の過半数の賛成により可決されます。
つまり、
- 定足数:発行済株式総数ベース
- 決議要件:出席株主の株式数ベース
という2段階構造になっています。
③通常決議で足りる事項の例
- 取締役やその他の役員の選任
- 配当の宣言
- その他、会社運営上の一般的な議題
(2) 株主総会の特別決議
会社の基本的な構造やガバナンスに重大な影響を与える事項については、通常決議よりも厳しい決議要件が課されます。
特別決議の具体例は以下のとおりです。
①発行済株式総数の過半数の賛成が必要なもの
- by lawsの変更
②発行済株式総数の3分の2以上の賛成が必要なもの
- 取締役の解任
- Articles of Incorporation(定款)の変更
- 株式配当の宣言
- 増資・減資
- 合併
※決議事項によっては、「議決権のある株式のみをカウントする」など、賛成数の算定方法が異なる場合があります。
(3) 株主総会の手続があった場合の効果
株主総会で定足数や決議要件などに違反があっても、基本的にその決議は自動的に無効にはなりません。そのため、会社はその決議を前提に動くことが出来ます。決議の無効を主張したい株主等は、無効確認や差止め請求などの法的手続を通じて争う必要があります。
8.ベトナム
(1) 会社形態
ベトナムの現行企業法の下では、設立時に選択可能な企業形態が複数あり、そのうち国内外の投資家により最も一般的に選択されているのは、以下の2つです。
- 有限責任会社(LLC):これには、一人有限責任会社(個人が所有者である一人有限責任会社及び組織が所有者である一人有限責任会社)及び二人以上有限責任会社が含まれます。
- 株式会社(JSC)
企業の最高意思決定機関の有効な会合を招集し、対応する決議を採択するための条件に関しては、企業形態に応じて異なる規定が適用されます。企業は、定款/会社規程(以下「定款等」といいます。)において、会合の招集及び決議の採択に関する独自の条件及び要件を定めることができますが、当該条件及び要件は、適用される法定要件のものより緩やかであってはなりません。なお、各企業形態における最高意思決定機関は、一人有限責任会社の場合は所有者(なお、組織が所有者である一人有限責任会社においては、当該組織がその代理として行動するために代表者のグループを任命することができ、当該グループは社員総会と称されます。)、二人以上有限責任会社の場合は社員総会、株式会社の場合は株主です。
詳細については、以下の法定規定をご参照ください。
(2) 有限責任会社(LLC)という企業形態に関して
① 個人が所有者である一人有限責任会社の場合
個人所有者は、自身の決議の発行を通じて、企業の全ての事項を決定する排他的権限を有します。
② 組織が所有者である一人有限責任会社の場合
現行規定により、組織所有者は、以下を含む2つの組織構造モデルのうちいずれかを適用することが認められています。
(a) 会長及び社長/総社長
会長は、社長/総社長の権利及び義務を除き、決議の発行を通じて、所有者の代理で、所有者のために、全ての事項を決定する排他的権限を有します。
(b) 社員総会及び社長/総社長
3~7名の代表者のグループが社員総会を構成することができます。社員総会の会合は、その構成員の3分の2以上が出席した場合に有効とみなされます。
社員総会は、書面で意見を聴取する方式により、決議及び決定を承認することができます。ただし、当該決議又は決定は、次のとおり承認されることを条件とします。(i) 定款等の改正、会社の再編、又は会社の定款資本の全部又は一部の譲渡の場合には、出席構成員の75%以上又は総議決権の75%を超える議決権を有する出席構成員数による承認。(ii) その他の事項の場合には、出席構成員の50%以上又は総議決権の50%を超える議決権を有する出席構成員数による承認。社員総会のいかなる決議又は決定も、その承認日から、又はそこに定める別の効力発生日から有効になります。
③ 2人以上有限責任会社の場合
社員総会は、少なくとも年1回招集されるものとし、社員総会の会長の要請により、又は定められたとおり社員もしくは社員のグループの要請により招集され得ます。社員総会の会合は、(i) 1回目の会合の場合、定款資本の65%以上を有する社員が出席したとき、(ii) 1回目の会合が招集できなかった場合の2回目の会合において、定款資本の50%以上を有する社員が出席したとき(iii) 2回目の会合が招集できなかった場合の3回目の会合において、定款資本の任意の割合を有する社員が出席したときに、有効とみなされます。
社員総会は、会合での決議、書面で意見を聴取する方式、又は定款等に定める他の方法により、決議及び決定を承認することができます。ただし、当該決議又は決定は、次のとおり承認されることを条件とします。
- 総会での決議による場合:(1) 最新の財務諸表に記載された総資産の50%以上に相当する資産(又は定款等に定められたそれ以下の比率又は価値)の売却、定款等の改正、会社の再編、又は会社の解散の場合には、出席社員全員のうち出資持分の75%以上を有する出席社員数による承認、(2) その他の事項の場合には、出席社員全員の総出資持分の65%以上を有する出席社員数による承認。
- 書面で意見を聴取する方式による場合:定款資本の65%以上を有する出席社員数による承認。
社員総会のいかなる決議又は決定も、その承認日から、又はそこに定める別の効力発生日から有効になります。
(2) 株式会社(JSC)という企業形態に関して
株主総会(GMS)は、少なくとも年1回招集されるものとし、取締役会若しくは監査役会の要請により、又は定められたとおり株主又は株主のグループの要請により招集され得ます。株主総会は、(i) 1回目の会合の場合、50%以上の議決権を有する株主が出席したとき、(ii) 1回目の会合が招集できなかった場合の2回目の会合において、33%以上の議決権を有する株主が出席したとき、(iii) 2回目の会合が招集できなかった場合の3回目の会合において、任意の割合の議決権を有する株主が出席したときに、有効とみなされます。
株主総会は、その決議及び決定を、議決又は書面で意見を聴取する方式により、承認することができます。当該決議又は決定は、以下のとおり承認された場合に、適法に採択されたものとみなされます。
- 累積議決による採択:取締役会及び監査役会の構成員の選任に関する決議及び決定にのみ適用されます。
- 総会での議決による採択:(i) 会社の事業分野の変更、会社の組織構造の変更、最新の財務諸表に記載された総資産の35%以上に相当する資産の投資又は売却、会社の再編又は解散、株式の種類及び各種類の数量、並びに定款等の規定に関する場合には、出席株主全員の議決権総数の65%以上を有する出席株主数による承認、(ii) 優先株主の権利及び義務の変更の場合には、総会に出席し同一種類の優先株式の75%以上を有する優先株主数による承認、(iii) その他の事項の場合には、出席株主全員の議決権総数の50%以上を有する出席株主数による承認。
- 書面で意見を聴取する方式による採択:(i) 優先株主の権利及び義務の変更の場合には、同一種類の優先株式の75%以上を有する優先株主数による承認、(ii) その他の事項の場合には、議決権を有する株主全員の議決権総数の50%以上を有する出席株主数による承認。
9.インド
(1) 株主総会の種類
インドの会社法上、株主総会には定時株主総会(AGM: Annual General Meeting)と臨時株主総会(EGM: Extra-ordinary General Meeting)の2種類があります。
定時株主総会は年1回開催され、前回の株主総会から15か月以内かつ会計年度末から6か月以内に開催する必要があります(インド会社法96条1項)。
また、臨時株主総会は取締役会によって招集され、開催日の21日前までに招集通知を出す必要があります。ただし、株主の頭数の過半数かつ議決権の95%以上の同意があれば、招集期間を短縮できます(インド会社法100条(1))。
(2) 株主総会の運用
株主総会の定足数は非公開会社の場合2名以上です。公開会社の場合、定足数は株主数によって変わり、例えば、株主数が1000人以下であれば、定足数は5名です(インド会社法103条1項)。
決議には、普通決議と特別決議の2種類があります。このうち、普通決議は出席株主の過半数、特別決議は出席株主の4分の3以上の賛成が決議要件となります。
特別決議は定款変更や自己株式の取得等、法令で定められた一定の場合に求められます。
決議方法には、挙手、電磁的方法、投票があります(インド会社法114条)。このうち、挙手は頭数によって行われ、保有株式数に応じて議決権が割り当てられるわけではないので注意が必要です。非公開会社の場合、定款で別段の定めを置くことで、挙手を排除し、決議は投票のみによる旨を定めることも可能です。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)において設立される会社の形態は様々で、有限責任会社(Limited Liability Company)が利用されることが多いですが、以下では、UAE本土の公開株式会社(Public Joint Stock Company)の株主総会の概要を述べます。なお、非公開会社(Private Joint Stock Company)については、上場関連を除き、公開株式会社の規定が準用され(会社法(2021年連邦令第32号)267条)、フリーゾーンで設立された会社については連邦法ではなく、各フリーゾーンで制定された規則が適用されます。
因みに、有限責任会社に関しては、資本持分を有するパートナーによる総会があり、定例総会および臨時総会の招集時期・請求要件(92条)、招集通知発出の期限(93条1項)、定足数の定め(96条1、2項)は、公開株式会社と同様です。決議は、定款に別段の定めがない限り、出席者の持分権の過半数により決せられます(96条3項)が、定款の変更、増資及び減資(増減はパートナーの持分割合による)については、出席したパートナーの持分権の4分の3以上を要し、いずれの場合でもパートナーの財政的義務は全員一致によらなければ増加できません(101条1項)。
(2) 運用方法
株主総会は、少なくとも年に1度、事業会計年度の末日から4か月以内に開催されなければなりません(173条1項)。 株主総会は、取締役会が招集し、株式総数の10%以上を保有する株主(176条1項)および監査役(177条)も株主総会の招集を取締役会に請求することができ、取締役会が株主の請求に応じず株主総会を招集しなかったとき等法定事由がある場合には、証券商品庁が招集を請求することができます(178条1項)。
招集通知は開催日の21日以上前に発出されなければなりません(174条1項)。
定足数は、会社定款で別段の定めがない限り、会社資本の50%以上の株主の出席(委任状を含む)ですが、定足数に満たなかった場合には、最初に招集された総会日から5日以上15日以内に総会が再度開催され、2度目の総会は出席株主数の数に関わらず有効とされます(185条)。
(3) 決議要件
株主総会の決議は、会社定款で別の定めがない限り、出席株式数の過半数によります(190条1項)。
特別決議は、出席した株式の4分の3以上を保有する株主の過半数の賛成によります(1条)。特別決議を要する事項は、商号の変更(12条2項)、会社存続期間の変更(108条)、会社定款の変更(139条)、定款に規定されている又は会社の目的ではない3年超の長期債務、会社財産への抵当権設定等(154条)の他、新株発行(196条1項)、減資(204条)等の資本金関連事項、会社併合(285条1項、288条1項)等の会社組織変更等が挙げられます。ただし、非公開化には、出席した会社資本90%以上の株主による過半数の賛成を要します(276条1項)。
11. インドネシア
(1) 株主総会の種類
会社法上、株主総会は年次株主総会と臨時株主総会に分類されます(会社法第78条)。年次株主総会は会計年度の終了後6カ月以内に、開催しなければならず、臨時株主総会は会社の利益のために必要とみなされる場合には、(2)株主総会の運用方法にて記載しているような法令に定める手続きを経て、年次株主総会の時期に関わらず開催することができます(同条)。
(2) 株主総会の運用方法
株主総会の開催は、議決権付株式総数の10分の1以上を保有する1名以上の株主、もしくは監査役会(Dewan Komisaris)の請求に基づいて行います(会社法第79条)。取締役会は当該請求を受領した日から15日以内、および開催日の14日前までに、書留郵便および/または新聞への公告掲載により通知する必要があります。取締役会が当該期日までに通知を行わない場合には、監査役会が自ら株主総会を招集することが可能です。さらに、取締役会および監査役会が当該期日までに、招集を行わない場合には、株主総会を請求した株主が、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の長に対し、自ら株主総会を招集することについての許可を求める申立てを行うことができます(同条、会社法第80、82条)。申し立てに対し、地方裁判所の長は、申立人ならびに取締役会および/または監査役会から意見を聴取したうえで、株主総会の形式、議題、招集期間、定足数および決議要件等を定めます。また、地方裁判所の長は、必要と認める場合には、取締役会および/または監査役会に対し、当該株主総会への出席を命ずることができます(会社法第80条)。
初回の株主総会にて定足数が満たされなかった場合には、2回目の株主総会を開催することができます(会社法第86条)。2回目の株主総会でも定足数が満たされなかった場合、会社は本店所在地を管轄する地方裁判所の長に対して3回目の株主総会の定足数を定めるよう求めることができます(同条)。
また、株主総会は、電話会議、テレビ会議またはその他の全参加者が直接お互いを見聞きでき会議に参加できるその他の方法によっても開催することが可能です(会社法第77条)。
(3) 決議要件
会社法上、決議要件は普通決議、特別決議、特殊決議の合計3種類に分類されます。
普通決議は、取締役、コミサリスの選任・解任や利益処分の承認等に要求されるものであり、定足数は全議決権株式の過半数を有する株主の出席であり、初回の決議における定足数が満たされなかった場合に開催することができる2回目の普通決議の定足数は、全議決権付株式の3分の1以上を有する株主の出席です(会社法第86条)。株主総会で投票された全議決権の過半数の賛成により可決されます(会社法第87条)。
特別決議は、定款変更等に要求されるものであり、定足数は全議決権付株式の3分の2以上を有する株主の出席であり、初回の決議における定足数が満たされなかった場合に開催することができる2回目の決議の定足数は、全議決権付株式の5分の3以上を有する株主の出席です(会社法第88条)。株主総会で投票された全議決権の3分の2以上の賛成により可決されます(同条)。
特殊決議は、会社の全純資産の50%超を構成する資産の譲渡もしくは担保権、吸収合併、支配権取得、清算の承認などに要求されるものであり、定足数は、全議決権付株式の4分の3以上を有する株主の出席であり、初回の決議における定足数が満たされなかった場合に開催することができる2回目の決議の定足数は全議決権付株式の3分の2以上を有する株主の出席です。特殊決議の株主総会で投票された全議決権の4分の3以上の賛成により可決されます(会社法第89、102条)。
1.日本
(1) 取締役の責任
取締役と会社の関係は委任関係であり(会社法330条)、委任を受けた者(受任者)は委任者に対し、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を負います(民放660条)。
また、取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない義務を負っています(忠実義務)(会社法355条)。
善管注意義務と忠実義務の関係性は、学説上は様々な見解が見られますが、最高裁は、忠実義務とは善管注意義務を一層明確にしたにとどまり、善管注意義務とは別個の高度な義務ではないとしています。
そのため、善管注意義務と忠実義務は同質のものであると一般には理解されています。
(2) 取締役の任務懈怠責任
取締役が、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(任務懈怠責任)(会社法423条)。
取締役の任務懈怠には、法令・定款違反や善管注意義務・忠実義務違反が含まれます。
また、取締役が、会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図る、いわゆる利益相反取引において、当該利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、任務懈怠責任が推定されます。
なお、経営判断の失敗が善管注意義務違反として、任務懈怠責任を構成するかについてですが、これが常に善管注意義務違反になり得るとすると、取締役の経営判断が委縮することとなりかねません。
この点、判例では、判断の過程や内容に著しく不合理な点がないかぎり、取締役としての善管注意義務に違反するものではないといった考え方が示されています。
(3) 取締役の任務懈怠責任の追及方法
取締役が会社に損害を与えた場合、会社は当該取締役に対し、損害賠償請求をすることができます。
提訴権者については、以下のとおりです。
・監査役会設置会社:監査役が会社を代表して提訴(会社法386条1項1号)
・監査役設置会社以外の会社:代表取締役が会社を代表して提訴(会社法349条4項)。会社が取締役に訴えを提起する場合には、株主総会又は取締役会は、当該訴えについて株式会社を代表する者を定めることもできます(会社法353条、364条)。
なお、取締役と会社が馴れ合い、会社が取締役の責任を追及しない場合も考えられます。
そこで、株主(公開会社の場合、6か月前から引き続き株式を有する者に限る。)は、会社に対し提訴請求を
行い、提訴請求の日から60日以内に提訴がないときには、当該株主が、当該取締役を被告として、会社に対
する賠償を求める訴訟を提起できる株主代表訴訟と呼ばれる制度が設けられています(会社法847条)。
(3) 取締役の責任の免除
取締役の任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除できません(会社法424条)。
2.タイ
(1) 取締役の基本的義務
タイでは、民商法典(Civil and Commercial Code:以下「CCC」といいう)により、取締役の義務および責任が規定されています。CCC第1167条以下において、取締役、会社および第三者との関係、ならびに取締役の義務内容が定められています。
CCC第1167条により、取締役、会社および第三者との関係について、代理人の規定を適用すると定められています。すなわち、取締役または代表者がその権限の範囲内で行った行為は、第三者に対して、会社を法的に拘束することとなります。また、取締役の主な義務は、以下のとおりとなります。
- 善管注意義務
取締役は、定款に従い、株主総会の監督の下で会社の業務を管理し、善良な管理者として期待される注意義務をもって職務を遂行しなければなりません(CCC第1168条第1項)。
- 競業避止義務
取締役は、株主の承認がない限り、会社と競合する事業を行ってはなりません(CCC第1168条第3項)。
- 法定管理義務
取締役は、適正な帳簿および会計記録を備え付けること、財務諸表を作成し株主総会の承認に付すこと、ならびに引受済株式の全額が株主により払い込まれていることを確保する義務を負います(CCC第1168条第2項)。
(2) 取締役が会社に対して損害賠償義務を負う場合
取締役は、以下のような場合に、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
- 義務違反による損害発生
取締役が、定款違反、株主総会決議違反、法令違反、会社に対する契約上の義務違反、または経営における過失もしくは不正行為を行い、その結果、会社に損害が生じた場合には、当該損害について責任を負う可能性があります。
- 権限外行為による責任
取締役が権限を有しない行為、または権限の範囲を超えた行為を行った場合、当該行為は会社を法的に拘束せず、取締役が個人的に責任を負う可能性があります。
(3) 取締役責任の追及方法
取締役責任の追及方法としては、主に以下の方法が認められています。
- 会社による直接訴訟
取締役の違法または不当な行為もしくは不作為により会社に損害が生じた場合、会社は、他の取締役を通じて、当該取締役に対し損害賠償請求訴訟を提起することができます(CCC第1169条第1項)。
- 株主代表訴訟
会社が取締役に対する訴訟提起を行わない場合、株主は、会社に代わって取締役の責任を追及する株主代表訴訟を提起することができます(CCC第1169条第1項)。
ただし、株主は、事前に会社に対して訴訟提起を求める書面による請求を行う必要があり、会社が合理的期間内に応答しない場合、または訴訟提起を拒否した場合に限り、訴訟を提起することができます。なお、訴訟により認容された損害賠償金は、株主個人ではなく、会社に帰属します。
- 債権者による責任追及
会社の債務が未履行である場合には、債権者は、その未払債権額を限度として、取締役に対し直接損害賠償を請求することができます(CCC第1169条第2項)。
- 解散後の責任追及
会社が解散した後は、取締役に対する責任追及は、株主ではなく、指名された清算人のみが行う権限を有します。
3.マレーシア
(1) 概要
取締役は、単なる経営の意思決定者ではなく、会社法上、会社および株主に対して一定の行為基準を負う立場にあります。とりわけ重要なのが、会社の利益を最優先に考える信認義務(proper purpose and in good faith in the best interest of the Company)と、職務遂行にあたり合理的な注意・技量・勤勉さを尽くす義務(duty of reasonable care, skill, and diligence)です。これらは取締役の判断や行動の適法性を判断する際の中核となります。
(2) 信認義務
取締役が常に会社法に従い、適切な目的のために、かつ会社の最善の利益のため誠実に行動しなければならないという義務です。会社の利益を最優先に考えていなかった場合、それだけで義務違反と評価される可能性があります。裁判所は、権限行使の性質や取締役の意図、複数の目的がある場合の支配的目的などを踏まえ、当該行為が会社の利益に資するものであったかを判断すると考えられています
(3) 合理的な注意・技量・勤勉さをもって職務を行う義務
さらに取締役には、合理的な注意・技量・勤勉さをもって職務を行う義務があります。具体的には、会社事業の基本的理解や、継続的な情報収集、業務や財務状況の監督が求められます。特に専門性を期待されて就任した取締役については、その分野に応じた高度な技量が要求されます。取締役会での審議に参加するだけでなく、日常的な経営の管理・監督に積極的に関与する姿勢が重要です。
(4) 責任追及の方法
上記義務等に取締役が違反した場合には、会社が当該取締役に対して損害賠償請求を行うことができます。加えて、株主その他の会社法によって原告適格を与えられた当事者は、裁判所の許可を得ることにより、会社を代表して訴えを提起(Derivative Action)することができます。
4.ミャンマー
(1) 取締役の基本的義務
ミャンマーでは、2017年会社法(Myanmar Companies Law 2017(以下「会社法」という) により、取締役の義務および責任が明記されています。
会社法第165条以下では、取締役の義務が明確に規定されており、主な義務は以下のとおりです。
①善管注意義務・忠実義務
②権限の適正行使義務
③利益相反の回避・開示義務
④不正行為・違法行為の禁止
(2) 取締役が会社に対して損害賠償義務を負う場合
取締役は、以下のような場合に会社に対する損害賠償責任を負います。
① 義務違反による損害発生
② 利益の返還義務。損害が立証できない場合でも、取締役が義務違反により 個人的利益を得た場合には、その利益を 会社に返還 する義務を負います。
(3)取締役責任の追及方法
取締役責任の追及方法としては主に以下の方法が考えられます。
①会社による直接訴訟
②株主代表訴訟(Derivative Action)
③差止請求
④ 行政・刑事責任の追及
5.メキシコ
(1) 取締役の責任
会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles)の規定によると、取締役はその職務に固有の責任を負うほか、法令及び定款に課せられた義務から生じる責任を負います。また、証券市場法(Ley del Mercado de Valores)では、取締役は、この法律および定款が当該法人に与える権能を誠実に行使するにあたり、会社およびその支配する法人のために最善の利益を確保するよう誠意をもって行動しなければならないとされており、公開株式会社の取締役は、会社に対する忠実義務を負っていると解されています。
(2) 取締役の責任追及
① 株主総会による責任追及
取締役の責任は、株主総会の決議により追及することが可能であり、株主総会は訴訟を提起する者を指定します。また、責任を果たしていないとして解任された取締役は、当該訴訟において請求に理由がないと判断された場合に限り、再任が可能とされています。なお、株主総会において責任追及の決議がなされた場合、当該取締役は直ちに職務の執行を停止しなければなりません。
② 民事訴訟による責任追及
資本金の少なくとも25%を保有する株主は、以下の要件を満たす場合、取締役に対して直接民事責任訴訟を提起することができます。
- 請求内容が原告の個人的利益にとどまらず、会社の利益となるものである場合
- 原告が、株主総会における「訴訟を提起しない」とする決議に賛成していない場合
なお、訴訟の結果得られた利益は原告ではなく会社が受領します。
(3) 取締役の損害賠償責任
商事破産法(Ley de Concursos Mercantiles)は、会社が同法の適用を受ける状況下の取締役の責任について特別の規定を設けています。取締役が以下のいずれかの行為を行った場合は、これらの規定に基づき損害賠償責任を負うとされています。
- 利益相反のある取締役会において議決権を行使し、または会社資産に関する決定を行った場合
- 他の株主の不利益となることを認識しつつ、特定の株主または株主グループに有利となる行為を故意に行った場合
- 正当な理由なく、雇用・地位・報酬を理由として自己のために経済的利益を得、または特定の株主・株主グループその他第三者の利益のためにそれを求めた場合
- 虚偽であることを認識しながら情報を生成・流布・公表・提供・要求した場合
- 財務諸表に影響を与える会社業務の記録を省略し、またはその本質を隠す目的で記録を変更、または変更を命じた場合
- 会社の会計に虚偽のデータを記録することを命じ、またはこれに同意した場合
- 法定保存期間前に、証拠隠滅を目的として会社の会計システムや記録等を破損・変更した場合
- 勘定科目や契約条件を不当に変更・命令し、実在しない取引・経費を記録するなど、違法行為または禁止行為を故意に行った場合
- 詐欺的行為、悪意ある行為、その他法令に基づく違法行為を行った場合
ただし、いわゆる経営判断原則に相当する考え方として、以下のいずれかに該当する場合には免責が認められます。
- 取締役会の権限内の事項を承認するにあたり、関係法令または定款の要件を遵守した場合
- 合理的な疑義が生じない能力・信頼性を有する従業員、外部監査法人、独立専門家から提供された情報に基づいて意思決定・投票を行った場合
- 判断時に入手可能な情報に基づき最も適切な選択肢を選んだ場合、または会社の財産的損害の可能性を予見できなかった場合
- 法令に違反しない範囲で株主総会の決議に従った場合
6.バングラデシュ
(1) 責任の範囲
バングラデシュでは、取締役は会社に対して受託義務(Fiduciary duty)、すなわち、誠実かつ会社の最善の利益のために行動する義務を負うと理解され、そして本義務に違反する場合、会社は民事上の責任追及ができます。
バングラデシュは英米法体系でコモン・ローであり、同様の法体系を有して影響の強い英国やインドでは、会社法において本義務の定義があります(2006年英国会社法 171条乃至177条、2003年インド会社法166条)。しかし、バングラデシュ会社法では、このような定義がありません。
(2) 会社法上の責任
会社法では、個別の制限について規定があります。
①売買・商品供給契約等の締結 (105条)
取締役の承認を得た場合を除き、取締役は自らまたは自らがパートナー、株主または取締役である他の法人との間で、売買、商品および原材料の購入または供給契約を締結することはできません。
② 利益相反取引に関する情報開示(130条、131条)
会社が締結する契約に直接的または間接的に利害関係がある取締役は、当該契約が承認される際に、取締役会にて、その利害について開示しなければいけません。ただし、取締役が他の特定会社の取締役または構成員であり、当該他の特定の会社との間で継続的に複数の取引が予定されている場合には、包括的な利害関係の開示を行った後は、個別の取引についての利害関係の開示は必要ありません。本義務違反の場合、取締役は5,000 タカ以下の罰金が科せられます。
公開会社または公開会社の子会社である非公開会社の場合、取締役は、自身が直接または間接に利害関係を有する契約の承認については議決権を行使することはできず、定足数にも算入されません。本規定に違反した取締役は、1,000タカ以下の罰金が科せられます。
(3) 会社法以外の責任
取締役の各行為によっては、刑法にて、背信・信託違反(405条、406条)、詐欺(415条)、偽造(463条など)に問われることがあります。
また、税法や金融関連法などでも取締役の義務が定義されています。
(4) 責任の追及方法
会社や株主が行う取締役の責任追及方法については、特別な規定はなく、一般的な訴訟手続きにて行うことになります。
7.フィリピン
(1) 取締役の責任に関する概要
フィリピンにおいて、取締役が経営の過程で行った判断については、原則として個人責任を負いません。この考え方は、日本と同様に経営判断原則(Business Judgment Rule)として整理されています。
経営判断原則が認められる理由は、会社運営を委任された取締役が、事業上の判断を行ううえで最も適切な立場にあるためです。結果が思わしくなかったという理由だけで責任追及を受けることがないようにすることで、取締役が萎縮せず意思決定できる環境を確保しています。
もっとも、経営判断原則があるとしても、取締役が常に責任を免れるわけではありません。たとえば、判例(FILIPINAS PORT SERVICES, INC. v. Go, G.R. No. 161886, March 16, 2007)は、経営判断原則の適用について次のように示しています。
損失が生じたとしても、その原因が単なる判断ミスにとどまり、悪意(Bad Faith)や過失(Negligence)が認められない限り、取締役は責任を負わない。取締役の責任を追及するには、損失の発生に加え、問題となる行為が悪意(Bad Faith)または敵意(Malice)を伴って行われたことを示す必要がある。
つまり、単なる経営判断の誤りでは責任は生じない一方で、悪意などによる行為の場合には責任を負うという整理になります。
(2) 法律により取締役が責任を負う場合
判例に加え、フィリピン会社法第30条は、以下の行為を行った取締役について、会社や株主等に生じた損害に対して連帯して責任を負うと定めています。
- 明白に違法な行為(Patently Unlawful Acts)
- 重大な過失または悪意(Gross Negligence or Bad Faith)
- 利益相反・背信(Conflict of Interest and Disloyalty)
(3) 責任追及を行う主体の例
(ⅰ) 会社による責任追及
取締役が会社に損害を与えた場合、会社は取締役に対して損害賠償請求を行うことができます。
(ⅱ) 株主代表訴訟(Shareholder Derivative Suit)
原則として、取締役に対する損害賠償請求は会社が行います。しかし、取締役の多数が損害に関与している場合など、会社による追及が困難となり得るケースもあります。
そこでフィリピンでも、日本と同様に株主代表訴訟(Derivative Suit)が認められています。株主代表訴訟とは、株主が会社の立場に立ち、取締役等の違法行為によって会社に生じた損害の回復を求めて訴えを提起する制度です。たとえば、取締役の自己取引により会社が損害を被った場合、株主は代表訴訟によって会社の損害回復を求めることができます。
もっとも、フィリピンにおいて、株主代表訴訟はあらゆる場合に認められるわけではありません。取締役会が適法に経営判断を行使できる限りは、経営判断原則(Business Judgment Rule)が優先されるためです。言い換えれば、株主代表訴訟は、取締役会が会社の利益を守るための判断を適法に行使できない場合に、例外的に機能する制度といえます。
(ⅲ) 株主による責任追及
株主が自身に直接損害が生じたことを理由として、取締役に対して責任追及を行うこともあります。この場合、株主代表訴訟と異なり、損害が会社ではなく株主に直接生じていることを主張する必要があります。
8.ベトナム
(1) 機関の種類及び役割
ベトナム企業法では、有限責任会社及び株式会社に共通して、社長又は総社長が会社の業務執行を担う経営責任者として設置されます。一方、取締役は株式会社にのみ設置される機関であり、株式会社の経営及び監督に関与する立場にあります。
(2) 責任内容
ベトナム企業法は、社長・総社長及び取締役(以下「社長ら」といいます。)に対し、主として以下の責任を課しています。
① 法令及び内部規定の遵守義務
社長らは、法令、会社の定款及び株主総会又は会社所有者の決定を遵守し、付与された権限を適切に行使し、義務を履行する責任を負います。
②忠実義務及び善管注意義務
社長らは、会社の利益を保護するため、誠実かつ慎重に職務を遂行する義務を負います。自己又は第三者の利益のために、その地位や権限を濫用し、会社の情報、秘密、事業機会又は資産を利用することは禁止されています。
③利益相反に関する通知義務
社長らは、自己が所有し、若しくは株式/持分を保有する会社、又は自己の関連者が所有し、共同所有し、若しくは個別に支配的持分/株式を有する会社について、会社(一人有限責任会社の場合には会社所有者)に対し、速やかかつ完全に通知する義務を負います。
これらの義務に違反した場合、社長らは、会社に生じた損害について、個人的又は共同して責任を負い、不当に取得した利益を返還するとともに、会社及び第三者に対し損害賠償責任を負います。
なお、複数社員有限責任会社では、会社が弁済期にある債務を支払うことができない場合には、社長又は総社長は、昇給又は賞与を受けることができないとされています。
(3) 法定代表者としての責任
また、社長らが会社の法定代表者を兼ねる場合、当該社長らは、自己の違反行為に起因して会社に生じた損害につき、法令に基づき個人的に責任を負います。
(4) 社長らに対する責任追及の手続
① 有限責任会社の場合
有限責任会社においては、会社とその管理者との間の紛争として、民事訴訟法第30条4項に基づく訴訟手続が認められています。
複数社員有限責任会社では、社員が、単独又は会社を代表して、権限及び義務に違反した社長又は総社長に対し、損害賠償等を求める訴訟を提起することができます。
② 株式会社の場合
株式会社においては、普通株式総数の少なくとも1%を保有する株主又は株主グループが、自己の名義又は会社の名義で、社長らに対し、会社又は第三者のために損害賠償等を請求する訴えを提起することが認められています。
(5) 紛争解決機関及び訴訟費用
社長らに対する責任追及に関する紛争は、原則として会社の本店所在地を管轄する人民裁判所において解決されますが、当事者の合意がある場合には、商事仲裁センターによる解決も可能です。
訴訟費用は原則として会社が負担しますが、複数社員有限会社及び株式会社では、訴えが却下された場合には、会社の費用として取り扱われず、各自の負担となります。
9.インド
(1) 取締役の義務
インドの会社法では、取締役の義務として以下のものを定めています(会社法166条)。
①会社法と会社の定款に従い行動する義務
②会社の目的を促進し、その構成員全体の利益のために、また、会社、従業員、株主、地域社会及び環
境の保護の観点から最善の利益を図るために誠実に行動する義務
③相当かつ合理的な注意、技能および勤勉さをもってその職務を遂行し、独立した判断を下すべき義務
④会社の利益と直接又は間接に相反する、または相反するおそれのある状況に関与してはならない義
務
⑤自身またはその親族、パートナー、関係者に対して、不当な利益や便宜を得たり、得ようとしてはなら
ない義務
⑥その役職を譲渡してはならない義務
(2) 利益相反取引
利益相反取引とは、
①当該取締役が単独で、もしくは他の取締役と共同で、株式の2%以上を保有している法人、または、プロモーターやマネージャー、マネージャー、最高経営責任者である場合の当該法人と取引をする場合
②当該取締役が共同経営者、所有者、社員である会社や団体との取引
を意味します。
取締役が直接、間接を問わず利益相反取引に何らかの形で関与する場合には、当該利益相反取引について議論される取締役会において、自身の利害関係について説明を行わなければならず、また、議決に加わってはなりません(184条2項)。
(3) 取締役に対する責任追及
取締役がその義務に違反して会社に損害を与えた場合には、民事上の損害賠償責任を負うこととなります。
また、インドの会社法にはクラス・アクション(Class Action)と呼ばれる制度があり、
①総株主数の少なくとも5パーセント、または
②株主100名
のいずれか少ない方、または。
④非上場会社の場合、発行済株式資本の5パーセント以上を保有する株主
⑤上場会社の場合、発行済株式資本の2パーセント以上を保有する株主
は、会社の運営が株主の利益を害する方法で行われていると考える場合、裁判所に以下の命令を出すことを求めることができます(会社法245条)。
①会社が基本定款または付属定款上の権限を越える行為を行うことの禁止
②会社が基本定款または付属定款に違反する行為を行うことの禁止
③基本定款または付属定款を変更する決議が重要な事実の隠蔽や虚偽の説明に基づきなされた場合、当該決議を無効とすること
④会社及び取締役が上記③にかかる決議に基づき行動することの禁止
⑤会社の法令違反の行為の禁止
⑥株主が決議した内容に反する行為を会社が行うことの禁止
⑦損害賠償請求またはその他の適切な措置
また、民事上の責任とは別に、インドの会社法は、各種義務違反や手続き違反などに対し罰金を課している場合が多く、刑事罰の対象となり得ることにも注意が必要です。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)において設立される会社の形態は様々で、フリーゾーンで設立される会社については連邦法ではなく、各フリーゾーンで制定された規則が適用されます。本土において設立された会社の取締役(director, manager等)の責任については、会社法(2021年連邦令第32号)の他、民法(2015年連邦法第5号)、破産法(2023年連邦令第51号)等に規定されていて、刑罰も定められています。以下では、有限責任会社(Limited Liability Company)の取締役(manager)の責任の概要を述べます。
(2) 取締役の責任
執行取締役(managing director)は、会社の目的に沿って、会社から与えられた権限内で、相当な注意をもって行動する責任を有しています(会社法第22条)。取締役(manager)は一般的にその権限外の行為により会社に生じさせた損害につき責任を有する(民法第665条3項)他、有限責任会社の取締役は、会社、パートナー及び第三者に対して、その詐欺的行為及び権限濫用または法令・定款・委任契約違反若しくは重過失により生じた損失・経費につき責任を有します(会社法第84条1項)。また、会社の総会決議による承認のない利益相反行為については、解職及び賠償を求められます(会社法第86条)。
破産宣告をされた会社の取締役は、管財人の請求に基づき、破産開始遅延を意図した廉価販売、不当な資産処分、破産債権者を害する意図を持った偏頗弁済につき、その責めを負う過失に比例した会社債務の支払を命じられる場合があり、会社資産が破産債権の20%以下で取締役が財務悪化に責任を有すると証明された場合も同様です(破産法第246条1項)。
更に、法令・定款に反した利益配当、会計書類への虚偽記載、会社の機密の漏洩、故意による事業活動への損害を生じさせた取締役に対して、拘禁または罰金若しくはその併科が科せられます(会社法第348条、349条、354条)。破産に関連した会社書類の作成懈怠・虚偽記載・破毀、資産の隠匿・廉価処分、偏頗弁済、詐害行為、管財人への説明義務違反等をした場合、取締役が潜在的な損害を減少させるためにあらゆる予防手段をとったことを証明できないときには、5年以下の拘禁または100万UAEディルハム以下の罰金若しくはその併科とされます(破産法第269条)。
(3) 免責
会社の役員(officer)の個人的責任を免除する会社の定款の規定は無効とされ(会社法第24条)、上記の有限会社の取締役の責任に関する規定に反する定款又は委任契約の規定も同様に無効とされます(会社法第84条1項)。
11.インドネシア
(1) 取締役の責任
会社法2007年第40号(以下、「会社法」といいます)では、取締役は会社の目的および目標達成のため、会社の利益のために会社を経営する義務を負い、会社経営において誠意をもって行動しなければならないとされており、取締役は会社に対し忠実義務を負っていると解されています(会社法第92、98条)。
また、取締役会は、株主名簿、特別株主名簿、株主総会議事録および取締役会議事録ならびに年次報告書その他財務諸表を作成し、本店所在地に保管する義務があります(会社法第100条)。
(2) 取締役の利益相反
会社法上、取締役が会社と利益相反する行為は禁止されています(会社法第97条)。会社と取締役が利益相反の関係にある場合は、取締役は会社を代表することはできません(会社第99条)。この場合、以下に該当する者が会社を代表することになります(会社法第99条)。
- 会社との間で利益相反の関係にない他の取締役
- 全取締役が会社との間で利益相反の関係にある場合にはコミサリス会、または、
- 全取締役およびコミサリス会が会社との間で利益相反の関係にある場合には株主総会が指定した第三者
(3) 取締役の責任追及
取締役は、義務遂行における過失または故意により会社に損害が生じた場合には、当該損害について完全かつ個人的に責任を負うこととされており、取締役が2名以上で構成される場合には、連帯責任を負います。ただし、以下の事項が証明される場合、取締役は責任を負いません(会社法第97条)。
- 損害が当該取締役の故意または過失によるものではないこと。
- 会社の目的達成のために誠実かつ注意義務を尽くして経営を行ったこと。
- 当該損害発生につながる経営判断について、直接・間接を問わず利益相反が存在しなかったこと。
- 損害を回避するために必要な予防措置を講じていたこと。
また、取締役の故意または過失により会社に損害が生じた場合、議決権を有する株式の少なくとも 10%以上を保有する株主は、会社に代わり、地方裁判所に対して損害賠償請求を提起することができることが規定されています(会社法第97条)。
第1.【お知らせ】ウェビナーのご案内
ウェビナーの開催についてご案内いたします。
インド事務所の松下智宗弁護士、Medhiyaa Ramesh弁護士が、インド進出をご検討中の日本企業様向けにインド法務ウェビナーを行います。
今回のウェビナーでは、インドの労務について現地の法令に基づき説明いたします。
参加は無料となっておりますので、奮ってお申込みください。
本ウェビナーがインドへの進出を検討中の日系企業様のビジネスに少しでも貢献できれば幸甚です。
【日程】
日時:2025年11月26日(水)
12時30分~13時30分(インド時間)、16時~17時(日本時間)
※申込締切は2025年11月19日(水)までとなっております。
※開催方法:オンライン(Zoom)
※ 参加費:無料
申込方法につきましては、下記URLからご確認ください。
第2.製造物責任に関する法制度の概要
1.日本
(1) 製造物責任法
日本における製造物責任については、製造物責任法が規定しています。
同法は、製造物の欠陥が原因で、生命・身体・財産に関する損害が生じた場合における製造業者等の損害賠償責任について定めるものであり、不法行為責任(民法709条)の特則として位置づけられています。
通常、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合には、加害者の過失を立証することが求められますが、製造物責任法では、このような過失の立証を不要とし(無過失責任)、消費者の保護を強化しています。
製造物責任法上、「製造物」とは、「製造又は加工された動産」と定義されています(製造物責任法2条1項)。
また、「欠陥」とは、「製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます(同法2条2項)。
製造物責任に基づく損害賠償を請求する場合には、かかる製造物の欠陥を立証する必要があります。
(2) 責任主体
製造物責任法上、製造物責任を負う者は以下のとおりです(製造物責任法2条3項)。
①当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者
②自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者又は当該
製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
③上記②のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造
物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者
(3) 免責事由
製造物責任法上、製造物責任を負う場合であっても、以下の事由を立証することができる場合には、倍賞
責任は免責されます(製造物責任法4条)。
①当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
②当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。
2.タイ
タイでは、製造物責任に関し、Liability for Damages Arising from Unsafe Products Act B.E. 2551が制定されています。
(1) 対象物
「製造物」とは、販売のために製造または輸入されたあらゆる種類の動産をいい、農作物を含みます。「製造」には、製作、混合、調理、装飾、組立、発明、変形、改造、選別、再包装、冷凍、放射線照射その他これに類する行為が含まれます。また、「農作物」とは、農業(耕作、園芸、畜産、水産、養蚕、きのこの栽培など)によって生産された製品(ただし、天然作物は除く)をいうとされています(同法第4条)。
(2) 責任主体
全ての事業者は、消費者に販売された危険な製造物によって損害が生じた場合、故意または過失の有無を問わず、連帯してその損害を賠償する責任を負うとされています(同法第5条)。「事業者」とは、次のいずれかに該当する者をいうとされています(同法第4条)。
- 製造者または製造を請け負った者
- 輸入者
- 製造者、請負者または輸入者が特定できない製品の販売者
- 自らの名称、商号、商標、表示、またはその他の方法により、製造者、請負者または輸入者であると示している者
このように、単なる販売者であっても、製造者を特定できない場合や、自らを製造者と見せかけるような表示を行っている場合には、責任を問われる可能性があります。
(3) 消費者の立証責任
事業者に対して責任を問うためには、被害を受けた消費者または第10条に定める代理人は、当該製造物を通常の方法で使用・保存していたにもかかわらず損害が生じたことを証明すれば足り、どの事業者によって損害が生じたかを証明する必要はないとされており(同法第6条)、消費者の立証責任が比較的軽減されています。
(4) 免責規定
事業者は、次のいずれかを証明した場合には、責任を免れることができるとされています(同法第7条)。
- 当該製造物が危険な製造物ではないこと
- 被害を受けた消費者が製造物の危険性を認識していたこと
- 製造物に正確かつ明確な使用方法、保存方法、警告または関連情報が表示されているにもかかわらず、不適切な使用または保存によって損害が生じたこと
(5) 懲罰的損害賠償
事業者が製造物の危険性を認識しながら製造・輸入・販売した場合、または重大な過失により認識しなかった場合、または危険性を認識した後に適切な措置を講じなかった場合には、裁判所は懲罰的損害賠償を命ずることができるとされており、注意が必要です。この懲罰的損害賠償は、実際の損害額の2倍を超えないものとされています(同法第11条2項)。
3.マレーシア
⑴ 概要
製造物責任は、1999年消費者保護法(Consumer Protection Act 1999、以下「CPA」といいます。)によって規律されており、同法の第X部(第66条から第72条)がこれを定めています。この部分において、欠陥製品に対する無過失責任(strict liability)制度が導入されています。その中心的な原則は、CPA第68条⑴において「製品の欠陥により損害が全部または一部生じた場合には、責任が課される」と規定されている点にあります。すなわち、請求者が立証すべき事項は、以下の3点のみで、加害者の過失を立証する必要はありません。
- 製品に欠陥があること
- 損害が生じたこと
- 欠陥と損害との間に因果関係があること
なお、ここにいう「損害」とは、CPA第66条⑴において「死亡または人身傷害、または土地を含む財産の喪失または損害」と定義されています。さらに、CPAに基づく責任は、通知や契約によって免除または制限することはできません(CPA第71条)。
⑵ 責任の主体
CPAの下では、次の者が損害に対して責任を負う可能性があります(CPA第68条⑴)。
- 製品の製造業者
- 自己の氏名または商標その他の標章を製品に付することにより、当該製品の製造業業者であることを表示した者
- 業として製品を流通させるために当該製品を輸入した者
この包括的な規定により、いずれの流通段階にある者も責任を免れることができない仕組みとなっています。
4.ミャンマー
(1) 製造物責任の枠組み
ミャンマー法には、製造物責任を独立に定める特別法は存在せず、当該責任は主としてコモンローに基づく不法行為責任等に基づくものです。契約当事者間においては契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。
また、2019年 消費者保護法に基づき、製造者・販売者・輸入業者などが、保証期間内の欠陥商品に対して責任を負い、回収義務・表示義務・補償権などが認められています。
(2) 消費者救済
消費者保護法上は、保証された商品が保証期間内に品質を満たさないまたは商品情報が完全でない場合、消費者は、修理、交換または返品、商品価格の返還、もしくは当該商品と同等の品質の商品との代替を請求できます。また、損害が商品情報の不提供・誤表示による場合は、損害賠償を請求する権利が認められています。
5.メキシコ
(1) 製造物責任の枠組み
メキシコ法には、製造物責任を独立に定める特別法は存在せず、当該責任は主として民法上の不法行為責任等の規定に基づくものです。契約当事者間においては契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。メキシコは連邦制を採用しており、各州において、製品の欠陥に起因する損害について製造者等の民事責任が定められています。
また、連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)には供給者が消費者に対して責任を負う旨の規定が含まれており、消費者と供給者との関係を規律する枠組みを提供しています。同法は消費者の生命・健康・安全の保護や、財産的・精神的損害の防止および救済を基本原則として掲げており、これに基づき連邦消費者保護庁(Procuraduría Federal del Consumidor:PROFECO)が製品安全に関する監督や違反行為への是正措置を担っています。
(2) 責任主体
メーカーのみならず、流通経路に関与した複数の当事者が責任主体となり得ます。製品の製造・流通に関わる者は、その行為または不作為が欠陥や損害の発生につながった場合には責任を問われる可能性が否定できません。例えば部品サプライヤーが提供した部品の欠陥に起因して損害が生じた場合には当該サプライヤーが、流通業者の不適切な表示や指示欠如によって事故が生じた場合には当該業者が、それぞれ責任主体とみなされるのが相当です。なお、行政上は消費者保護法により供給者全般に対し安全な製品を提供する義務が課されており、違反行為は行政処分や制裁の対象ともなります。
(3) 消費者救済
消費者保護法上は、製品またはサービスに、通常の使用目的に適さない隠れた欠陥・瑕疵があり、品質または使用可能性を低下させる、あるいはその性質上期待される安全性を欠く場合に、消費者は、契約物の返還、契約の解除、価格の減額を選択できるとされています。そして、いずれを選んだ場合でも、割増金または補償を請求することが可能です。なお、これらの規定は、損害が発生している場合の損害賠償請求を妨げるものではありません。
また、PROFECOは検査等により、法令違反や危険性が認められた商品・サービスについて消費者に警告を発し、他の当局が発した警告を公表するほか、供給者に対してリコールを命じることがあります。製品等が消費者の生命または健康を脅かすおそれがある場合には、修理や交換を命じ、必要に応じて市場からの撤退や廃棄を指示します。
さらに、集団訴訟(クラスアクション)による救済制度が設けられており、共通の被害を受けた消費者のグループが代表者を通じて訴訟を提起することが可能です。被害者グループ自身による集団訴訟提起のほかに、PROFECO等の行政機関も原告として集団訴訟を提起または支援する仕組みが整えられています。
6.バングラデシュ
(1) 製造物責任の枠組み
バングラデシュでは、製造物責任を独立に定める特別法は存在なく、主としてコモンローに基づく不法行為責任等に基づくものとなります。契約当事者間において生じた場合は、契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。
2009年消費者保護法や2023年医薬品・化粧品法のように、特定の商品又は役務について、消費者が金銭、健康又は生命に損害を受けた場合に、製造者の責任を規定する法律があります。販売に直接起因する製造物責任の請求については、売買取引法(Sale of Goods Act, 1930)および契約法(Contract Act, 1872)が関連します。
(2) 責任主体
2009年消費者保護法では、製造者、販売者、提供者の責任を定め、行政上、刑事上の責任を負うことが定められています。
消費者にとって有害で倫理基準にも反する行為を反消費者的行為として定義しており(2条20項各号)、同行為には次のような行為が例として挙げられます。
- 商品、医薬品、またはサービスを、関連法規で定められた定価を超える価格で販売ないし提供すること
- 不純物が混入した商品や医薬品について、人の健康に極めて有害であり、既存の法によって禁止されている成分が含まれていることを知りながら販売ないし提供すること
- 商品やサービスを販売する目的で虚偽の広告を流すこと
- 合意した価格で商品やサービスの提供をしないこと
- 当初表示した数量または重量より少ない数量または重量で販売すること
- 商取引において計量器を操作して不正確な重量を表示すること
同法4章以下において、反消費者的行為に該当する各違法行為について、罰則が定められています。その中には、過失等により、サービスの利用者の財産、健康、生命等に損害を与える行為(同法53条)もあります。
(3) 消費者救済
2009年消費者保護法では、同一の係争事項について既に刑事訴訟が進行しており、地方管轄権を有する地方裁判所に対し、同法に基づく適切な提訴を行える場合、民事訴訟を提起する権利が認められています。
7.フィリピン
フィリピンでは、消費者法(The Consumer Act of the Philippines)によって、製品の欠陥により消費者(商品を購入する個人等)が損害を受けた場合の製造者等の責任(製造物責任)が定められています。
(1) 責任の主体(消費者法97条)
消費者法により、製造者(manufacturer)や輸入者(importer)等は、製品の欠陥によって消費者に生じた損害について責任を負います。また、製造者や輸入者を特定できない等の場合には、販売者(tradesman or seller)も同様の責任を負います(以下、「製造者等」といいます)。
(2) 過失の必要性(消費者法97条)
この責任は過失の有無に関係なく発生する無過失責任であり、消費者は製造者等の過失を立証する必要がありません。
(3) 欠陥の判断基準(消費者法97条)
製品が「正当に期待される安全性を備えていない」(the safety rightfully expected of it)とき、その製品は欠陥があると判断されます。判断にあたっては、通常想定される使用方法および危険性などが考慮されます。
(4) 免責事由(消費者法97条)
製造者・輸入者等は、「消費者または第三者のみに過失があること」等を証明した場合には、製造物責任を免れることができます。
(5) 消費者が選択できる救済手段(消費者法100条)
製品の品質に欠陥がある場合、製造者等は消費者の請求を受けてから原則として30日以内に欠陥を修理する必要があります。この期間内に修理が行われないときは、消費者は製品の交換や代金返還等を請求することができます。
(6) 免責の禁止(消費者法104条、106条)
消費者法は、製造者等が欠陥を知らなかったことを理由に責任を免れることを認めていません。また、契約書において製造者等の責任を免除・軽減する条項を定めても無効とされます。
(7) 時効(消費者法169条)
製造物責任に関する請求は、取引が完結した日から2年以内に行う必要があります。ただし、隠れた欠陥(hidden defects)がある場合は、欠陥を発見した時点から2年以内に請求することができます。
また、時効の起算点について例外を認めた判例があります(MAZDA Quezon Avenue v. Alexander Caruncho)。この判例では、契約に3年間の保証期間が設けられていたことなどを考慮し、時効の起算点を取引完了時ではなく、保証期間の満了時とする判断が示されました。
8.ベトナム
(1) 商品によって生じた損害に対する責任
2007年製品および商品の品質に関する法律第60条に基づき、定められた品質基準を満たさない商品により生じた損害については、賠償が行われるものとされています。これに該当する損害には、以下のものが含まれます。
- 当該商品の価値に関する損失、およびそれによって損傷または破壊された財産の価値に関する損失
- 人命または健康に対する損害
- 当該商品または関連する財産の使用または利用に関連する利益の喪失
- 損害の防止、軽減、または回復のために要した合理的な費用
一般原則として、製品および商品の品質に関する規制に違反して生じた損害は、十分かつ適時に賠償されなければなりません。損害賠償は、当事者間の合意によって、または管轄権を有する裁判所または仲裁機関の決定に基づいて行われます。
さらに、2023年消費者権利保護法は、事業体または個人が提供した欠陥のある製品または商品によって消費者の生命、健康または財産に損害が生じた場合には、当該事業者または個人がその欠陥の存在を知らなかった場合や、過失がなかった場合であっても、損害を賠償する責任を負うことを規定しています。ただし、(3)③に示されている場合を除きます。
(2) 損害賠償責任を負う主体
製造業者および輸入業者は、当該製造業者または輸入業者の過失により、申告された適用基準または対応する技術規格に適合しない欠陥商品のために損害が生じた場合には、販売業者または消費者に対して損害を賠償する責任を負います。ただし、(3)①に示されている場合を除きます。
販売業者は、商品が申告された基準または適用される技術規格に適合していることを確保しなかった過失により損害が生じた場合には、購入者または消費者に対して損害を賠償する責任を負います。ただし、(3)②に示されている場合を除きます。
消費者権利保護法に基づく事業体および個人は、製品または商品に欠陥がある場合に損害を賠償する責任を負います。この事業体および個人には、製造行為、輸入行為、製品または商品に商号を付す行為、製品および商品の製造業者または輸入業者として識別可能となる商標その他の商業上の標識を使用する行為、製品および商品の商業上の仲介活動を行う行為、消費者に対して製品および商品を直接提供する行為、その他関連法令の規定により製品および商品に関して責任を負うとされる事業体および個人が含まれます。
(3) 損害賠償責任の免除
① 製造業者および輸入業者
製品または商品の製造業者および輸入業者は、損害が次のいずれかの事由に該当することを立証できる場合には、損害賠償責任を負いません。
- 消費者が、有効期限を過ぎた製品または商品を故意に使用した場合、または潜在的なリスクに対する明示的な警告があったにもかかわらず使用したことにより損害が発生した場合
- 苦情の申立てまたは訴訟提起の法定期間が経過している場合
- 損害発生時点における科学技術の水準からみて、当該製品または商品の欠陥を発見することが不可能であり、かつ消費者がその欠陥について十分な情報提供を受けたうえで故意に使用した場合
- 損害が専ら販売業者または消費者の過失により生じた場合
② 販売業者
販売業者は、以下の場合には損害賠償責任を負いません。
- 消費者が、有効期限を過ぎた商品を故意に使用した場合、または既に欠陥があることを認識しながら使用した場合に損害が発生した場合
- 苦情の申立てまたは訴訟提起の法定期間が経過している場合
- 当該商品の欠陥が、製造時または輸入時において、権限を有する国家機関が定めた強制的要件を製造業者または輸入業者が遵守したことにより生じた場合
- 損害が専ら消費者の過失により生じた場合
③ 事業体および個人
事業体および個人は、次の場合には損害賠償責任を免除されます。
- 製品または商品の欠陥が、当該製品または商品によって損害が発生する時点までの世界的な科学技術水準に照らして発見不可能であることが証明された場合
事業体または個人が法令に定める措置をすべて講じ、消費者が十分な情報提供を受けたにもかかわらず、欠陥のある製品または商品を故意に使用して損害を生じさせた場合
9.インド
インドにおける製造物責任については、2019年消費者保護法(Consumer Protection Act, 2019。以下「消費者保護法」といいます)が定めています。
消費者保護法は、製造物責任(product liability)を、製造物またはサービスの製造者または販売者が、製造または販売された製造物またはサービスの欠陥(defect)によって消費者に生じた損害を賠償する責任であると定義しています(消費者保護法2条(34))。
この点、欠陥(defect)とは、法律または(明示・黙示を問わず)契約に基づき維持することが求められている、または、当該製造物について事業者が主張している品質、数量、効力、純度、基準等に関する不備をいいます(消費者保護法2条(10))。
| 製造物製造者 (product manufacturer) | 製造物に関連するサービス の提供者 (product service provider:) | 製造物販売業者 (product seller) |
| ① 製造物に製造上の欠陥がある場合 ② 製造物に設計上の欠陥がある場合 ③ 製造仕様からの逸脱がある場合 ④ 製造物が明示的な保証に適合していない場合 ⑤ 製造物に損害を防止するための適切な使用方法の説明または不適切な使用や誤った使用に関する警告が含まれていない場合 | ① 提供したサービスが、現行法、契約、その他の規定に基づき求められる品質、性質、履行方法において、欠陥等があった場合 ② 作為・不作為、または、故意・過失による情報隠蔽により損害が発生した場合 ③ 損害を防止するための適切な指示または警告を発しなかった場合 ④ サービスが明示的な保証または契約条件に適合していなかった場合 | ① 損害を引き起こした製造物の設計、試験、製造、包装、またはラベル表示について実質的な支配力を行使していた場合 ② 製造物を変更または修正し、当該変更または修正が損害を引き起こす実質的な要因となった場合 ③ 製造物製造者による明示的な保証とは独立して、製造物について明示的な保証を行ったが、当該製造物が製造物販売業者の明示的な保証に適合していなかった場合 ④ 当該製造物の製造物製造者が不明であるか、または判明していても、通知、訴状、令状の送達が当該製造物製造業者に対して実施できないか、またはインドで施行されている法律の対象とならないか、または制定された、または制定される予定の命令が当該製造物製造業者に対して執行できない場合 ⑤ 当該製造物の組み立て、検査、または保守において合理的な注意を払わなかった、もしくは、当該製造物の販売中に、製造物に関連する危険性または適切な使用に関する製造物製造業者の警告または指示を伝えず、かつ、当該不履行が損害の直接の原因であった場合 |
同法のもと、各事業者は、以下の場合に賠償責任を負うことになります(消費者保護法84~86条)。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)では、製造物責任を独立に定める特別法は存在しません。製造物の安全や消費者保護について、製造物安全法(2018年連邦法第10号)、消費者保護法(2020年連邦法第15号)及びこれらの施行令によって規定されています。
(2) 消費者救済
消費者保護法第4条は、購入・使用した商品・役務について正しい情報を得ること、紛争について公正かつ迅速な解決を得ること、商品・役務の購入・使用の結果生じた人的物的損害に対して公正な賠償を得ること等を消費者の権利として規定しています。その上で、商品または役務の利用の結果生じた人的および物的損害について、消費者が既存の法律に従って損害賠償を請求する権利を有する旨を確認するとともに、これに反する合意は無効であることを定めています(第24条第1項)。
(3) 製造者等の責任
消費者保護法は、消費者の行為に起因しない、仕様、製造、供給上の誤りの結果、消費者に損害を与え又はその使用を妨げる、商品・役務の品質、数量、効果、外観の違い、寸法又は構成を欠くことを欠陥(defect)、製造又は提供後に消費者に損害を与え又はその使用を妨げる商品・役務に生じるものを不備(flaw)、と定義し(第1条)、フリーゾーンを含むUAE内のあらゆる商品および役務並びにそれに関連した供給者、広告主、代理店(UAEに登録するeコマース提供者を含む)の行為に対して適用され(第3条)、供給者等には、販売した商品につき特定期間のあらゆる保証を、提供した役務につきその性質に相応した期間中に欠陥・不備がないことの保証を行う義務(第10条)、欠陥・不備が発見されたときには無償で修繕、交換、返金等の救済行為をとる義務(第12条)等が課され、違反者には、2年以下の拘禁刑および1万以上200万UAEディルハム(AED)以下の罰金が課され、再犯の場合にはその2倍とする(第29条)等の罰則が定められています。
また、製造物安全法は、製品の安全性につき定義し(第1条)、フリーゾーンを含むUAE全域で流通するあらゆる物品(医薬品、芸術作品、補修等を要する中古品を除く)に適用され(第3条)、物品の製造者、代理店、輸入者、および物品の安全に責任を有する物品流通に関与する者に、それぞれの物品に適用される法令、安全に関する基準を遵守する義務(第4条)、安全でない物品の国内流入を阻止し、物品が通常の使用において安全であることを保証し、安全でないことが発見された際には予防・是正措置を行う義務(第6条)等を課し、安全性を欠く物品を流通させた場合等には拘禁刑または50万以上300万AED以下の罰金とする(第8条)等の罰則を定めています。
11. インドネシア
(1) 製造物責任の枠組み
インドネシアでの製造物責任は、消費者保護に関する法律1999年第8号(以下「消費者保護法」といいます)によって規定されています。
消費者保護法において、事業者が製造または販売した商品や提供したサービスによって、消費者に対する損害が生じた場合、事業者はその損害を賠償する責任を負います(消費者保護法第19条)。
(2) 責任主体
責任主体は、商品・サービスの製造・販売をする事業者、商品・サービスの輸入者です。ただし、損害が消費者の過失による場合には、免責されますが、事業者が消費者の過失を立証する必要があります(消費者保護法第22条)。
責任主体のうち、他の事業者に販売する者は、①販売先の他の事業者がいかなる変更を加えることもなく、商品および/またはサービスを消費者に販売した場合や、②販売先の他の事業者が、販売者により改編が加えられたことを知らずに、見本と不一致があることや、品質・成分に不一致があるような契約に適合しない、相当でない商品、サービスを消費者に提供し、損害が発生した場合にも、責任を負います(消費者保護法第24条)。
一方、製造事業者は、①商品の流通が意図されていなかった場合、②製品の欠陥が製造事業者の管理を離れた後、新たに生じた場合、③欠陥が品質基準に関する法令を遵守した結果である場合、④商品の購入から4年または、事業者と消費者で合意した期間を経過した場合には、免責されます(消費者保護法第27条)。
(3) 消費者救済
消費者は、受領した商品またはサービスが契約に適合しない、または相当でない場合に、修理、交換または返品、商品価格の返還、もしくは当該商品と同等の品質の商品との代替を請求できます。(消費者保護法第4、7条)。 また、損害が生じた場合には、取引日から7日以内に販売者による返金、交換等の対応が必要となり、本規定に応じない場合、消費者は、地方判所および消費者紛争解決機関(BPSK)に提訴できます(消費者保護法第19、45条)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
2025/10/01
1.日本
日本に住む20歳以上60歳未満の者は全て、国籍を問わず、日本の公的年金制度に加入しなければなり
ません。
公的年金制度には主に、国民年金と厚生年金保険の二つがあり、国民年金は、日本に住む20歳以上60
歳未満での全ての者が加入する年金であり、厚生年金は、会社員や公務員等が国民年金に上乗せして加入
する年金となっています。
もっとも、日本に住む外国人にとっては、日本の年金制度に加入すると、自身の母国における年金などの
社会保障と合わせて二重の負担になる可能性があります。
そこで、日本は、韓国、中国、フィリピン、インド等23か国との間で、社会保障協定を締結しています。
社会保障協定では、①二重負担を防止するために二国間で調整を行う制度、②年金受給資格を確保する
ために、両国の年金制度への加入期間を通算する制度が設けられます。ただし、韓国、中国等、一部の国と
の協定については、①二重負担防止のみが定められており、②加入期間の通算が定められていない、といっ
たパターンもあるので注意が必要です。
また、外国人が本国に帰国する際には、脱退一時金という制度もあります。
外国人が、国民年金または厚生年金の被保険者資格を失って、日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金と呼ばれる一定の額を請求することができます。
ただし、脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金の計算の基礎となった期間は年金の加入期間ではなくなり、当該期間を通算することができなくなり、日本や本国で年金を受給できなくなる可能性も生じ得ますの
で、脱退一時金の請求をするか否かは慎重に判断するべきです。
2.タイ
⑴ 概要
タイの社会保障制度は、社会保険法に基づき、社会保険への加入と保険料納付が義務付けられています。保険料は月給の5%を、労働者と使用者がそれぞれ拠出します(合計10%)。算定対象となる月給の上限は15,000バーツであるため、保険料の上限は労使それぞれ750バーツ(合計1,500バーツ)となります。
この制度では、疾病治療、心身障害、死亡、出産、児童手当、老齢年金、失業給付などがカバーされています。また、過去15か月のうち3か月以上保険料を納付していれば、全国の提携病院の中から1か所を指定し、登録病院で診療・治療等の医療サービスを無料で受けることが可能です。
⑵ 外国人(駐在員)の加入義務の有無
駐在員についても、タイ法人と雇用契約を結び、労働者としてタイ法人から給与を受け取る場合は、社会保険への加入が義務付けられています。多くの企業では、この形式を採用して駐在員を社会保険に加入させているものと思われます。
一方、原則として取締役は社会保険に加入できません。そのため、日本本社雇用のままタイに赴任し、タイ法人の取締役に就任した場合(従業員としての給与を受け取っていない場合)には、社会保険への加入対象外となります。
⑶ 社会保障協定の有無
日本とタイとの間には社会保障協定は存在しておらず、日本人駐在員についていわゆる二重加入の問題が生じ得ます。
3.マレーシア
⑴ 概要
マレーシアには、日本の年金に相当する社会保障制度として、EPF(Employees’ Provident Fund)制度が存在しています。EPFに加入する従業員については、雇用者・従業員がそれぞれ拠出を行い、当該労働者が55歳に達した場合、EPFからの承認を得た場合等に引き出しが可能となります。なお、駐在員については当地から離任する場合には、離任の2カ月前から拠出を停止することができ、その後引き出しも可能です。
⑵ 外国人(駐在員)の加入義務の有無
従来、永住権保有者を除く外国人の加入は現行では任意とされていましたが、「1991年従業員積立基金(EPF)法(法律第452号)」が昨今改正され、2025年10月からは、このような外国人であっても、加入及び同月分の給与からの従業員・雇用者双方からの拠出が義務化されることとなりました。
なお、最低拠出率は、雇用主と従業員とでそれぞれ、月額賃金の2%です。
⑶ 社会保障協定の有無
日本とマレーシアとの間には社会保障協定は存在しません。したがって、日本人駐在員について、いわゆる二重加入の問題が生じ得ます。
4.ミャンマー
⑴ 概要
2012年社会保障法に基づき、5名以上の労働者を雇用している会社は原則として社会保障制度に加入する必要があります。社会保障の種類としては、①健康及び社会医療基金、②障害給付、老齢年金、遺族給付基金、③失業給付金基金、④社会保障住宅基金、⑤労災保険基金があります。このうち、②乃至④については運用されていません。
⑵ 外国人(駐在員)の加入義務の有無
外国人も労働者に該当する場合には加入義務があります。
⑶ 社会保障協定の有無
日本とミャンマーとの間には社会保障協定は存在しません。したがって、日本人駐在員について、いわゆる二重加入の問題が生じ得ます。
5.メキシコ
(1) 社会保障制度の概要
メキシコでは、民間部門の労働者に対して、メキシコ社会保険庁(Instituto Mexicano de Seguro Social:IMSS)が社会保障制度を運営しています。この制度は、日本の厚生年金や健康保険に相当する公的保険を包含しており、医療保険、労働災害保険、障害・遺族年金、老齢年金などの給付が提供されます。
メキシコの年金制度は1997年、年金の財政的持続可能性を確保するために、賦課方式から個人積立方式(確定給付〔DB〕から確定拠出〔DC〕)へと移行しました。民間労働者の老齢年金については、民間の退職年金基金運用機関(Administradoras de Fondos para el Retiro:AFORE)が各労働者の個人口座を管理し、企業、従業員および政府が拠出する保険料が積み立てられます。
(2) 外国人(駐在員)の加入義務
メキシコの法律上、国籍に関わらず国内で雇用関係にある労働者は、IMSSの社会保障制度に加入させることが義務付けられています。メキシコ連邦社会保障法(Ley del Seguro Social)第15条は、全ての雇用主に対し、被用者となる者を入社日から5営業日以内にIMSSへ登録し、社会保険料を納付することを規定しています。この「被用者」には外国籍労働者も含まれるため、現地採用された外国人労働者はもちろん、日本からの駐在員であっても、メキシコ国内で企業の指揮命令の下に労務提供を行う場合には、IMSSに加入しなければなりません。仮に民間の海外旅行保険や日本国内の健康保険に加入していても、メキシコで就労する以上は法定の社会保険料の支払いと加入手続きが求められます。
もっとも、社会保障制度への加入は労働者にとって医療サービスや年金給付の受給権を得る重要な権利でもあります。IMSSに加入し保険料を納付することで、労働者本人およびその扶養家族は医療機関での診療を無料または低額で受けられるほか、疾病や労災で働けなくなった場合の所得補償、将来の老齢年金などの保障を受けることができます。外国人労働者であっても、IMSSへの加入によりこれらの社会保障給付を利用する権利が保障されます。
(3) 社会保障協定の有無
現時点で日本とメキシコの間に社会保障協定は締結されていません。社会保障協定とは、二国間で公的年金等の保険料の二重負担防止や加入期間の通算を行うことを目的に締結される協定ですが、日本とメキシコは協議を行っているものの、未だ締結には至っていません。このため、日本人駐在員の場合、一定期間を超えてメキシコで就労する際には日本の社会保険料も引き続き納めつつ、メキシコのIMSS年金への加入と保険料納付義務も生じることになります。結果として、企業と従業員双方に二重の社会保険料負担が発生する点には留意が必要です。
6.バングラデシュ
バングラデシュには、社会保障制度はありません。労働災害保険については、国際労働機関(ILO)との共同事業により、パイロットプランとして輸出加工区などの繊維製造業の一部の工場や事業所が導入している状況です。
年金制度は、2023年設立した国家年金庁(NPA)がユニバーサル年金制度を導入しています。これは、外国人労働者も加入することができます。
そのため、外国人労働者に対する加入義務、日本との間の社会保障協定はいずれもありません。
7.フィリピン
(1) 概要
フィリピンも一般国民向けの社会保険があり、退職年金や障害年金、失業手当、出産休暇手当などの給付を行っています。今回の記事ではフィリピンの社会保障制度についてご説明いたします。
フィリピンの社会保障は以下の3つです。
1.1 Social Security System (SSSと呼ばれる社会保障)
2.2 Philhealth (フィリピン版の国民健康保険)
3.3 Home Development Mutual Fund (通称Pag-IBIG、持家促進相互基金)
Pag-IBIG(持家促進相互基金)については、外国人はフィリピンの土地所有ができないため持家を購入することがほとんどなく、2019年に外国人はPag-IBIGへの納付は免除となりました。
(2) SSS
SSSは退職年金、障害年金、失業手当、労働災害補償、出産休暇手当、葬祭料などを給付する包括的な社会保障です。民間企業の労働者は外国人も含め、SSSへの加入が義務付けられており、毎月、標準月額報酬から算出された保険料を労使間で負担します。通算して120か月の納付期間があればフィリピンで退職年金の受給対象になります。標準月額報酬額は34750ペソが上限として設定されており、賃金が34750ペソを超える場合、労使で負担する保険料は5280ペソとなります。
※2025年時点
駐在員も当然SSS・PhilHealth加入対象となるため、原則、保険料の納付が必要となります。駐在員の場合、通常は日本でも国民年金・厚生年金に加入していますので、日本とフィリピンで二重で保険料を負担することになってしまいます。そこで保険料の二重負担を解消する目的で、2018年に日比社会保障協定が発効されました。この協定により、日本で国民年金・厚生年金に加入している駐在員については、フィリピンにおけるSSSの保険料納付を免除することができます。ただし自動的に免除が適用されるわけではなく、まずは日本の年金機構から「適用証明書」を取得し、それをフィリピンのSSSに提出し受理されることで、免除が適用されます。
(3) Philhealth
フィリピン版の国民健康保険で、入院医療費と特定の外来治療費の一部をカバーします(一般外来や健康診断は適用外)。Philhealthは外国人含め全労働者は加入しなければなりません。
保険料は賃金の5%分(PHP5,000が上限)を労使折半して納付します。例えば、賃金が10,0000PHPの場合、その5%がPHP5,000ですので、これを労使折半するとPHP2,500が労働者側の納税額となります。現状、Philhealthの適用範囲は限られており給付金も少額のため、外国人労働者がその恩恵を受けることはほとんどありません。ほとんどの外国人労働者や民間企業の従業員はHMO(Health Maitenance Organization)という民間保険に加入し、提携先のクリニックで治療や健康診断を受けることが一般的となっています。また、労働市場においてもHMO加入有無が入社企業選択の重要ファクターにもなっています。
(4) おわりに
本記事で説明した社会保険への毎月の保険料納付は必須となります。そのため、これらの制度の概要を知っておくことが重要です。企業によっては、外国人の賃金から社会保障が全く控除されていないケースもあります。
また、納税額は毎年少しずつ引き上げられることが予想されますので最新の情報は各機関のホームページを確認するか、専門家にご相談ください。
8.ベトナム
(1) 制度の概要
ベトナムにおいては、労働者に対して二種類の年金制度が存在しており、i) 国家が提供する強制社会保険制度に基づく年金制度、及び ii) 国家の方針に基づき社会保険当局が実施する補足退職保険(市場原理に基づく任意加入の保険制度であり、その基金は国家予算とは独立した金融基金)に基づく年金制度から構成されています。
本ニュースレターの範囲においては、国家が提供する強制社会保険制度に基づく年金制度に関する規定に限定して取り上げます。
(2) 外国人労働者の加入要件
① ベトナムの強制社会保険制度への加入が義務付けられる外国人労働者
ベトナムにおいて就労する外国人労働者(以下「外国人労働者」といいます。)は、以下の要件を満たす場合、ベトナムの強制社会保険制度に加入しなければなりません(社会保険法〔Law No. 41/2024/QH14〕第2条第2項及び政令〔Decree 158/2025/ND-CP〕第3条第1項)。
- 契約期間が12か月以上の労働契約に基づいて就労していること、及び
- 以下の免除事由に該当しないこと
- 規定された企業内人事異動プログラムに基づく場合
- 労働契約締結時に既に定年に達している場合
- ベトナムが締結国となっている国際条約または二国間協定に基づく場合
上記要件を満たす者を、以下「外国人加入者」といいます。
なお、外国人労働者が、国内外を問わず勉学、研修または就労のために派遣され、その間ベトナムにおいて給与の支払いを受けている場合も、外国人加入者として扱われます。
② 毎月の強制社会保険料の拠出
現行の規定に基づき、外国人加入者に係る退職及び遺族基金の拠出率はベトナム人労働者に適用されるものと同一であり、労働者と使用者との間で以下のとおり分担されます。
- 外国人加入者による毎月の拠出率: 強制社会保険料算定基礎となる給与の8%(社会保険法〔Law No. 41/2024/QH14〕第33条第1項)
- 使用者による外国人加入者に対する毎月の拠出率: 強制社会保険料算定基礎となる給与の14%
(3) 日本との二国間社会保障協定の有無
ベトナムと日本は、2018年以来5回にわたり情報交換及び社会保障協定の内容準備を行ってきました。具体的には、2024年8月に開催された日越協力委員会の会合において、両国は二国間社会保障協定の交渉を開始することを決定しました。本ニュースレターの発行日時点においては、当該二国間社会保障協定に関する最新の進展は公表されておりません。しかし、近い将来、ベトナムと日本との間で社会保障協定が締結されるのではないかと思われます。
9.インド
(1) インドにおけるEPFの概要
インドには、従業員積立基金(EPF:Employee’s Provident Funds)と呼ばれる社会保障制度があります。
20名以上を雇用する組織、及び、当該組織の中で月給15,000ルピー以下の従業員については、それぞれEPFへの加入が必須です(Employees’ Provident Funds Act, 1952(以下「EPF法」といいます)1条(3)、Employees’ Provident Funds Scheme,1952(以下、「EPFスキーム」といいます)2条(f))。
なお、加入義務のない組織及び従業員であっても任意加入が可能です(EPF法1条(4))。
積立金の払戻しについては、58歳に達した場合や職務に復帰できない程度の障害を有した場合等に、申請をすることができます。
(2) 外国人とEPF
外国人については、全ての者にEPFへの加入義務が原則としてあります(EPFスキーム26条)。
もっとも、インドとの間で社会保障協定を締結している国の者については、インド赴任後も母国の社会保障制度に引き続き加入している場合、当該社会保障協定の枠内でEPFへの加入義務が免除されます(EPFスキーム83条)。
この点、日本はインドとの間で日印社会保障協定(India–Japan Social Security Agreement 2016)を締結しており、最大60か月(5年間)にわたりEPFへの加入義務が免除されます。免除を受けるためには、日本年金機構から「適用証明書」の発行を受ける必要があります。
なお、予見できない事情により5年を超えて派遣期間が延長される場合については、申請に基づき、両国で個別に判断の上合意した上で3年まではEPFの加入が引き続き免除されます。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)では、年金及び社会保障に関する1999年連邦法第7号により、政府及び私的企業で働く18歳以上60歳未満のUAE国民は、年金・社会保険局(General Pension and Social Security Authority (GPSSA))に雇用の初月に登録することが義務付けられています。2023年10月31日以降に初めて加入する者については、年金及び社会保障に関する2023年連邦令第57号による改正事項が適用されます。但し、アブダビの私企業で雇用される者については、連邦法の適用は受けずアブダビ首長国の法令に基づくアブダビ年金基金が適用されます。
健康保険については、雇用者による被雇用者の加入が、アブダビ首長国及びドバイ首長国では義務付けられていましたが、2025年1月1日よりUAE全体で強制となり、滞在許可の申請または更新の条件となりました。
(2) 外国人の年金加入義務の有無
上記の社会保障については、湾岸協力会議(「GCC」)構成国(サウジアラビア、クウェート、バハレーン、カタール、オマーン)の国民は加入できますが、保険料はそれぞれの母国の基準によります。GCC以外の国民は、加入することができません。
(3) 社会保障協定の有無
日本との間に社会保障協定はありません。
11.インドネシア
(1) 社会保障制度の概要
インドネシアでの社会保障制度は医療保険と労働者社会保障の2つに区分されており、それぞれBPJS KesehatanとBPJS Ketenagakerjaanという機関が運用しており、この運営機関の名称から2つの社会保障制度を総称して一般的にBPJS(Badan Penyelenggara Jaminan Sosial)と呼びます。
BPJS Kesehatanは医療保険制度であり、加入することで、BPJS Kesehatanと協定を提携している医療機関で診察、治療、医薬品の提供などのサービスを受けることができます(国民健康保障に関する大統領令2018年第82号第67、68条)。一方、BPJS Ketenagakerjaanは労働者社会保障制度であり、①労災補償(JKK:Jaminan Kecelakaan Kerja)、②死亡保障(JKM:Jaminan Kematian)、③老齢保障(JHT:Jaminan Hari Tua)、④年金保障(JP:Jaminan Pensiun)、⑤失業保障(JKP:Jaminan Kehilangan Pekerjaan)の5つで構成され(社会保障に関する法律2011年(以下、「社会保障法令」といいます)第5条)、就労中の事故による疾病や死亡、積み立てた年金、失業後の手当等を受けることができます。
(2) 外国人の加入義務
法令上において、6カ月以上、インドネシアで働く現地採用のスタッフや駐在員などの外国人はBPJSの分類のうち、BPJS KesehatanおよびBPJS Keteagakerjaanにおける①労災補償、②死亡保障、③老齢保障の対象となります(社会保障法令第5、14条)。一方、BPJS Ketenagakerjaanにおける④年金保障、⑤失業保障は外国人には登録資格がないため加入できません(失業保障の実施に関する政令2025年第37号第4条)。なお、より具体的な取り扱いについては、BPJSに問い合わせて確認する必要があります。
(3) 社会保障協定の有無
現時点で日本とインドネシアの間に社会保障協定は締結されていません。このため、日本人駐在員の場合、一定期間を超えてインドネシアで就労する際には日本の社会保険料も引き続き納めつつ、インドネシアのBPJSへの加入と納付義務も生じることになります。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
URL: http://www.tnygroup.biz/
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
URL: https://tny-lawfirm.com
・佐賀(TNY国際法律事務所)
URL: https://tny-saga.com/
・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
URL: http://www.tny-legal.com/
・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
URL: http://www.tny-malaysia.com/
・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
URL: http://tny-myanmar.com
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
URL: http://tny-mexico.com
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
URL: https://www.tny-bangladesh.com/
・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
URL: https://www.kt-vietnam.com/
・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
URL: https://uk.tny-legal.com/
・インド(TNY Services (India) Private Limited)
URL: https://tny-india.com/
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
URL: https://www.tny-indonesia.com/
Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
第1.【お知らせ】ウェビナーの開催について
ウェビナーの開催についてご案内いたします。
インド事務所の松下智宗弁護士が、インド進出をご検討中の日本企業様向けにインド法務ウェビナーを行います。
インドに進出する際のポイントについてインドの法令に基づき説明いたします。
参加は無料となっておりますので、奮ってお申込みください。
本ウェビナーがインドへの進出を検討中の日系企業様のビジネスに少しでも貢献できれば幸甚です。
【日程】
日時:2025年9月3日(水)
12時30分~13時30分(インド時間)、16時~17時(日本時間)
※申込締切は2025年9月2日(火)までとなっております。
開催方法:オンライン(Zoom)
参加費:無料
申込方法につきましては、下記URLからご確認ください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeW7LuWW_Yzun66i1evLzOe1d6S3aqznHsm5_Deap9YBT0N5A/viewform?usp=preview
第2.従業員が不正を行った場合の法的対応について
1.日本
従業員による不正行為が発覚した場合、まずは事実確認や証拠の収集等を行い、実態の把握をすることが重要です。
また、不正行為を働いた従業員への対応は、事案の性質や証拠の収集状況等によっても異なりますが、一般的には、不正の内容・程度に応じた懲戒処分を行うことが一般的です。
懲戒処分を行うにあたっては、判例上、あらかじめ、就業規則で懲戒の種別及び事由を定めておかなければならないとされています。また、当該就業規則の内容が従業員に周知されていなければなりません。
また、労働契約法15条は、懲戒処分が社会通念上相当であると認められない場合には無効であると定めています。
この点、懲戒処分が社会通念上相当であることを担保するために、懲戒処分を行うにあたっては、従業員に対し弁明の機会を付与することが通常です。仮に、弁明の機会を付与していなかった場合には、手続き面において相当性を欠くということで、懲戒処分が無効とされるリスクが高まります。
なお、相当性は手続き面だけでなく、処分の内容面にも求められますので、事案に対し不相当に重い処分は無効となる恐れがあります。
また、懲戒処分の他には、事案の悪質性や会社に生じた損害の程度、証拠の収集状況等個別の事情に応じて民事訴訟による損害賠償請求や刑事告訴等の対応も考えられます。
2.タイ
(1) 事実の調査及び証拠保全対応
まず社内での対応として、事実関係の正確な把握と証拠の保全を最優先で進めるべきです。事案に応じて、関係する会計記録や銀行取引明細、社内メール、監視カメラ映像などのデータを収集し、必要に応じて専門家の協力を得て不正の有無や損害額を明確にします。また不正に関与した可能性がある従業員には、システムアクセス制限などの措置を講じ、証拠隠滅や不正の拡大を防止する対策などが必要です。さらに当該従業員に対しては、就業規則や雇用契約書において調査のための停職の定めがあれば、停職を行うことができますが、その場合でも停職期間は7日以内とする必要があり、また就業規則によって定められた割合の賃金を支給する必要があります。
(2) 懲戒処分および刑事手続き対応
調査の結果、不正が事実と認められた場合には、法および就業規則に基づき懲戒処分を行うことになります。横領や背任など、会社に重大な損害を与えたといえるような事案については「懲戒解雇(解雇補償金不要)」に該当するとして、解雇手続きを進めることが可能です。いずれの懲戒処分を行う場合にも、不当な処分であると後になって従業員から労働裁判所に訴えられないように、慎重に手続を進める必要があります。
さらに、不正行為が詐欺や横領などの場合で従業員に対する刑事責任を追及する場合には期限についての注意が必要です。タイ刑法において横領罪や詐欺罪について、刑事告訴期間は「犯罪行為及び被害者が犯人を知った日から3か月以内」と定められています。このため横領事案などで刑事手続きを進めたい場合には、この期間内に刑事告訴を行う必要があり、内部調査を進める一方で、刑事告訴の要否を早急に判断し、期限内に行動できるように準備を進めることが不可欠です。
3.マレーシア
⑴ 不正発覚時の対応
従業員による不正行為が発覚した場合には、通常は懲戒処分の可否を検討します。懲戒処分の手続においては会社が不正行為の事実を調査し、処分対象となり得る従業員本人から弁明を受け付けるというステップを踏む必要があります。このような調査は法律上求められているのは勿論、会社が不正行為の実態を把握し、再発予防策を講じるためにも重要です。
⑵ 不正行為調査の際の注意点
裁判例によると、使用者が従業員に対して不正行為を追及する場合、労働者が追及されている不正行為の内容を認識し、防御できる程度にその不正行為が特定されている必要があり、具体的事実を特定せずに行った処分は無効となり得ます。使用者としては、少なくとも不正行為の内容、日時、場所等を可能な限り特定すべきであると考えます。
また、裁判例では、懲戒解雇に至るだけの重大な非違行為があったとしても、従業員に対して弁明の機会が形式的にしか行われていなかった、あるいは一切行われていなかったことを理由に、処分が無効とされるケースが多々あります。したがって、不正行為調査を行う際には、まずは客観的証拠等により事実を特定した後、処分対象とする従業員に反論の機会を与えなければならないことに注意が必要です。
4.ミャンマー
⑴ 不正発覚時の対応
従業員の不正が発覚した場合、まずは調査を行い、不正の全体像を把握し、証拠を保全することが重要です。もっとも、不正を行っていることが強く疑われるものの、証拠が残っていないこともあります。
(2) 証拠が十分な場合
証拠が十分な場合、告訴を行ったり、民事訴訟を行うことも可能です。もっとも、いずれも時間や費用を要することから、いきなりそのような手段を採るのではなく、まずは従業員にそのような証拠を示し、返金義務を含めた退職合意書等に署名を取得し、返済が滞った場合に法的措置を採る場合も多いです。また、不正を理由にした懲戒解雇も可能です。その場合には、解雇手当の支払いも不要です。
(2) 証拠が十分ではない場合
証拠が不十分な場合、不正を理由とする解雇は難しいことから、できる限り従業員と交渉して退職合意書に署名を取得し、退職してもらうこととなります。その際の条件については、どれだけ不正を示す関連証拠を事前に収集できるかによっても交渉力が異なります。
5.メキシコ
(1) 証拠保全の重要性と手法
従業員による不正の疑いが生じた場合、まず証拠の収集を行うことが優先事項となります。メキシコでは法的に内部調査の実施が義務付けられていませんが、不正を認知した段階で速やかに内部調査を開始し、関連する証拠を確保することが望ましいです。証拠収集の方法としては、主に以下のものが挙げられます。
- 聞き取り:不正に関与したと疑われる従業員や関係者に対するヒアリングを行います。調査は可能な限り、関係者のプライバシーに配慮する必要があります。
- 監視とログの確認:社内の監視カメラ映像や入退室記録、業務システムのログなど、不正行為の客観的証跡となり得るものを収集します。
- デジタル証拠の保全:不正の証拠が電子データとして存在する場合、専門的なデジタル鑑識手法で保全します。
収集した証拠は不正行為の事実関係を立証する基盤となる事が多いです。なお、調査過程で判明した法令違反行為について、必要に応じ所轄当局への報告や刑事告発を検討します。
(2) 懲戒処分の種類と適用基準
内部調査によって不正が確認できた場合、企業はその悪質性や重大さに応じて懲戒処分を検討します。以下は、労働実務で一般的に認められている懲戒処分の例です。
- 口頭注意:比較的軽微な違反行為や初回の不正行為に対しては、非公式な口頭での注意や指導が行われます。正式な処分記録には残りませんが、再発防止のための警告として位置付けられます。
- 書面注意:規律違反が再度発生した場合や、一定の重大性がある場合には、文書による譴責が行われます。この書面は、将来より重い処分を行う際の前提資料となり、会社が問題行為を把握し是正を指導した実績を示す証拠にもなります。
- 一時的な出勤停止:重大な規律違反や度重なる不正行為に対しては、一定期間就業を停止させる懲戒処分が科されます。なお、停職を命じる前には、従業員に弁明の機会を与え、事情を聴取する手続を踏まねばなりません。
各懲戒手段の適用にあたっては、不正行為の内容と深刻度、従業員の過失の程度、就業規則で定める処分基準などを総合考慮する必要があります。
(3) 解雇の可否と手続き
不正行為の内容が重大で、雇用関係の継続が困難な場合には、懲戒解雇を検討します。連邦労働法では、使用者が従業員を一方的に解雇できるのは法律で定められた正当理由がある場合に限られます。労働法第47条に列挙された正当理由には、「勤務中の不誠実な行為」「使用者や同僚・取引先に対する暴力、脅迫、侮辱」「業務上の重大な背信行為」などが含まれており、従業員による詐欺や横領等の不正行為は正当解雇事由に該当します。また、正当理由による解雇を行う場合、法律上定められた厳格な手続きを遵守しなければなりません。連邦労働法第47条は、正当理由で従業員を解雇する場合、使用者は「解雇の動機となった行為の具体的内容と日付を明記した書面」を作成し、従業員本人に渡すことを義務付けています。
解雇について従業員から労働訴訟が提起された場合、使用者は裁判所で従業員が正当解雇事由に該当する行為を行ったこと、そして先述の解雇通知書を適法に交付または届出したことについて、証拠をもって証明しなければなりません。証拠保全が求められるのは、この立証責任を果たすためでもあります。
6.バングラデシュ
バングラデシュでは、懲戒事由、懲戒処分の種類及び懲戒手続に関して、労働法、EPZ労働法が定めています。
労働法の懲戒手続の場合、会社は、不正行為の容疑を文書で記録し、従業員に対して当該通知書(文書の写し)を交付し、従業員に7日以上の釈明の期間と聴聞の機会を与える必要があります。
その後、使用者側及び従業員側の同数の代表者で構成される審査委員会にて不正行為の有無の審査を行います。審査は60日以内に行う必要があります。そこで不正行為が認められた場合は、会社は懲戒をし実施することができます。(労働法24条)
そのため、不正発覚時には、従業員に対して不正行為の容疑を通知できるよう、不正行為の事実を、日時、場所、具体的な行動で特定する必要があります。
不正行為を裏付ける証拠を確保することは言うまでもありませんが、懲戒手続きが労働法の要件を満たしていると担保する証拠も確保する必要があります。不正行為の内容が認められたとしても、手続きに問題があると懲戒処分が無効になるおそれがあるからです。そのため、文書を交付した際には従業員の署名した受領書を受け取る、聴聞の機会には録音をとる、審査委員会の構成員及び会議内容の記録を残すなど、慎重に進めていく必要があります。
7.フィリピン
フィリピン労働法上、労働者の責めに帰す事由に基づく解雇については、以下の5つに分類されています。
- 重大な不正行為または意図的不服従
- 相当かつ常習的な職務怠慢
- 意図的な詐取、使用者からの信用を損なう行為
- 雇用主に対する犯罪行為
- 上記に関連するそれ以外のケース
従業員が何らかの不正を行ったと想定する場合、1を事由に解雇を進めていくことがほとんどですが、経理や秘書、マネージャーなどの不正行為は3を解雇事由にすることがあります。1を解雇事由にする場合、不正行為であるだけでは十分ではありません。労働法に記されている通り、重大(Serious)な不正行為でなくてはいけません。重大(Serious)と認められないと、解雇権の濫用と判断されます。解雇権の濫用と判断された場合、不当解雇の時点からの未払い賃金、損害賠償や各種付加金の支払命令がくだされることがあり、従業員に非があるにも関わらず、雇用主のほうが不利益を被ってしまうことが往々にしてあるのです。
不正行為を総合的に考慮して重大であると判断した場合、会社としては解雇プロセスに進むことになりますが、フィリピンはDue Processを非常に重んじるので、解雇や停職にあたっては、二段階通知(Twin Notice)が必須となります。
まずは書面により実際に行われた不正行為と解雇事由、処分の内容(例えば解雇)について記された書面を本人に交付します。この書面には、必ず本人に(5日以内に書面によって)反証の機会が与えられている旨を記載されていなければなりません。本人の反証をもとに、弁明の機会(Opportunity to be heard)を行います。この際、従業員は必要であれば代理人(弁護士や家族)等を同席させることが可能です。
最初の通知とそれに対する従業員の反論、そして弁明の機会でのプロセスを経て、依然として解雇相当であると決定した場合、最終通知をし、解雇をします。
フィリピンでは従業員に非がある場合でも、解雇プロセスが不十分な場合、むしろ従業員側の利益となることがあります(金銭支払い・復職等)。だからといってどれだけ不当なことをしても解雇しないという決断を取り続けると、雇用主の姿勢をみて従業員が不当な行為をし続けるといった場合もあり、労働環境を正当に保てなくなりますので、不正行為の従業員への対応については専門家のアドバイスを求めつつ、毅然とした対応をとることを強くおすすめします。
8.ベトナム
(1) 概要
現行のベトナム2015年労働法によれば、従業員の法定義務の一つとして「労働規律および就業規則を遵守し、使用者の管理、運営および監督に従うこと」が規定されています。したがって、従業員による不正行為または違法行為があった場合、必要な要件および条件が完全に満たされることを前提に、労働規律違反処分、労働契約履行の一時的停止、または契約期間満了前の労働契約終了といった措置を適用することが可能です。
(2) 労働規律処分(懲戒処分)
規定されている懲戒処分は、① 譴責、② 最長6か月の昇給延期、③ 降格、④ 解雇の4つです。使用者は、従業員の不正または違法な行為や行動を明示的に記載し、それに対応する懲戒処分を定めた独自の就業規則を策定することが可能です。ただし、この就業規則は現行の労働関連規定に従う必要があります。
具体的には、使用者に10人以上の従業員がいる場合には、法定の必須事項を盛り込んだ就業規則を定め、これを所轄官庁へ就業規則を登録しなければなりません。その上で、解雇の懲戒処分は、以下の法定事由に該当する場合にのみ認められます。
- 職場において、窃盗、横領、賭博、故意の傷害、または薬物使用等の行為を行った場合。
- 技術上または営業上の秘密を開示した場合、使用者の知的財産権を侵害した場合、使用者の資産または利益に重大な損害を与える、またはその重大な損害のおそれを生じさせる行為を行った場合、または職場においてセクシャルハラスメントを行った場合。
- 上記①、②、③に記載された他の懲戒処分を受け、違反を赦免される前に「再犯」した場合。「再犯」とは、懲戒処分を受けた違反行為を、所定の赦免がされる前に再度行うことをいいます。
- 正当な理由なく、初めて出勤しなかった日から起算して、30日のうち合計5日、または365日のうち合計20日欠勤した場合。
(3) 労働契約の一時的停止
この措置は、違反した従業員が以下のいずれかに該当する場合にのみ適用されます。
- 刑事訴訟法に基づき身柄拘束または勾留されている場合。
- 更生保護施設、薬物リハビリセンター、矯正施設に送致された場合。
- その他、使用者と従業員が合意した場合。
(4) 契約期間満了前の労働契約の終了
使用者は、違反した従業員について、以下の場合には締結済みの労働契約を早期に終了させる権利を有します。
- 裁判所の確定判決または裁定により、執行猶予または釈放の対象とならない懲役刑を言い渡された場合、死刑を言い渡された場合、または労働契約で合意した業務の遂行を禁止された場合。
- 裁判所の確定判決や裁定、または管轄当局の決定により国外追放となった場合(ベトナムで勤務する外国人従業員にのみ適用)。
労働契約締結時に、採用に影響を及ぼす形で、規定に従った真実かつ正確な情報を提供しなかった場合。この場合、使用者は違反した従業員に事前に通知することが求められます。労働契約を一方的に早期終了する場合の事前通知期間についても、規定に従って通知しなければなりません。
9.インド
(1) 不正行為の調査
従業員による不正が発覚した場合、まずは、当該不正行為の調査が行い、不正の証拠を可能な限り収集を
することが重要です。
調査を行うことで不正の実態を把握することができ、不正を働いた従業員に対する今後の対応を適切に選択するための判断材料を得ることができます。また、再発防止等の観点からも、事実関係を可能な限り正確に把握しておくことが、実態を踏まえた予防策を検討することにもつながります。
(2) 不正行為を働いた従業員への対応
不正行為を働いた従業員への対応については、調査に基づいて得られた証拠及び事実関係に基づき、個別具体的に判断していくことになります。
一般的には、社内の規則に基づく懲戒処分が検討されるほか、事案によっては、民事訴訟を通じた損害賠償請求や刑事告訴といった対応も考えられます。
なお、懲戒処分の最たるものとして、懲戒解雇がありますが、100人以上の労働者(workman)を雇用する産業施設(工場等)の場合、産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)が適用され、①書面による不正行為の通知、②弁明の機会の付与、③社内調査の実施と結果の通知、が求められます。また、同法の適用対象とならない場合であっても、判例・実務上、懲戒解雇は、これに準じた手続きを踏むべきであるとされています。
懲戒解雇は法令上厳格な手続きが要求され、また、解雇の正当性を巡って従業員との間で紛争となるリスクも考えられます。そのため、可能な限り、懲戒解雇ではなく、合意退職等を促すことが望ましいです。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法の施行に関する内閣令(2022年内閣令第1号。以下「内閣令」と言います。)において、労働者の不正行為に対して雇用主が取りうる懲戒処分について規定されています。なお、連邦労働法は、Abu Dhabi Global MarketおよびDubai International Financial Centerを除くフリーゾーンを含む全域には適用されます。
労働者の不正行為が発覚し、懲戒処分を検討するにあたっては、まず、被疑不正行為に関する調査、当該労働者への書面による通知、弁明の機会の付与、弁明に対する調査、当該労働者への懲戒処分の内容および理由並びに再発時の処罰に関する書面の交付、という手続を踏む必要があります(内閣令第24条第3項)。また、不正発覚から30暦日以内でなければ当該不正に対する非難はできず、懲戒処分は調査終了から60暦日以内に行う必要があります(同4項)。調査実施に必要な場合には、30日を超えない期間、賃金の半額を支払って当該労働者を出勤停止にすることができますが、嫌疑なしまたは処分留保の判断をしたときには賃金全額を支払わなければなりません(連邦労働法第40条1項)。
懲戒処分には、書面通知、書面警告、減給(月5日以上)、無給・出勤停止(14日以内)、賞与剥奪(1年以内)、昇級禁止(2年以内)、解雇の種類があり(連邦法第39条1項)、会社は各懲戒処分の内容を予め定めておく必要があります(内閣令第24条2項)。懲戒処分は、守秘義務違反の程度、従業員の身体・安全への影響、会社に与える経済的影響、会社の信用・名誉棄損の程度、権限踰越の有無、再発性、刑罰的・道徳的性質の項目により判断される不正行為の重大性に鑑みて適切なものでなければなりません(同1項)。
これらの処分に先立つ手続に瑕疵があったときには、処分が無効とされるので、法令や内規に従って慎重に手続きを履行することが肝要です。
11. インドネシア
(1) 懲戒解雇
従業員による不正が発覚した場合、事前に十分な調査を行う必要があります。(労働法2003年第13号(以下「労働法」といいます)。そのうえで、a) 窃盗や横領、b) 会社に対する詐欺、脅迫、c) 秘密漏洩、d)会社の重大な資産の損壊、e) 就業中の飲酒や麻薬などの重大な過失(pelanggaran berat)があった場合には、解雇の過程で必要となる警告書を発行することなく即時解雇が可能と規定されています(労働法2003年第13号(以下「労働法」といいます)労働法第158条)。しかし、本規定は2004年に、最高裁判所により、「即時」に解雇することは違憲と判断されており、従業員に重大な過失があったとしても、労働裁判所の決定がなされた上でないと当該理由による解雇を行うことはできません(2004年10月28日付012/PUU-I/2003号)。また、労働裁判期間中は、従業員を解雇することはできず、休職扱い(skorsing)とすることは可能ですが、その場合にも6カ月間は給与を支払う必要があります(労働法第155条)。
(2) 合意退職
上記に記載の通り、不正行為があったとしても、労働裁判所での手続きを経る必要があり、時間とコストがかかること、労使紛争が解決するまでは従業員に給与を支払わなければならないことから、実務においては、会社と従業員間で、雇用関係の終了の合意とすることが多いです。合意を得られた場合には、当該合意を労働裁判所に登録することにより当該合意に基づき退職した従業員は雇用関係の終了について事後的に争うことが難しくなります。ただし、退職の際には、重大な過失として合意退職する場合にも、権利補償金と解雇金の支払いをする必要があると解されます(判例:9/Pdt.Sus-PHI/2023/PN.Palu)。
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Newsletterの記載内容は2025年8月28日現在のものです。情報の正確性については細心の注意を払っておりますが、詳細については各オフィスにお問合せください。
1.日本
取締役の交代は取締役の任期満了や解任の際に生じ得ます。
株式会社における取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとされています(会社法332条1項。定款又は株主総会の決議によって任期の短縮も可能)。また、公開会社でない株式会社の場合、取締役の任期を、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終了時まで伸長することも可能です(会社法332条2項、336条2項)。
任期満了の際に、取締役を交代したり、当該取締役を重任させる際には、株主総会の普通決議による取締役の選任手続きが必要です(会社法362条2項3号、3項)。
解任の場合についても同様に、株主総会の普通決議によって、取締役の解任及び選任をそれぞれ行うことができます。なお、取締役の解任自体は正当な理由がなくとも可能ですが、正当な理由なく解任した場合には、当該取締役は会社に対し損害賠償請求をすることができるとされています(会社法339条2項)。一般的に、心身の故障や法令違反等については正当な理由ありと認められやすいですが、解任には損害賠償請求のリスクがあるため、注意して行う必要があります。
なお、取締役の変更事由が生じた場合には、当該事由が生じた日から2週間以内に役員変更の手続きが必要となります(会社法915条)。
2.タイ
(1) 定時株主総会での取締役の任免
タイ民商法典(以下、「CCC」)上、取締役の任免は株主総会においてのみすることができるとされています(CCC第1151条)。また、毎年の定時株主総会では、全取締役の3分の1の取締役が退任しなければならないとされています。3分の1に分割できない場合は3分の1に最も近い数の取締役(全取締役が5人であれば2人、全取締役が2人であれば1人)が退任する必要があります(CCC第1152条)。
一般的に、毎年の定時株主総会にて3分の1の取締役が退任し、退任した取締役と同人数の取締役を新たに選任するという手続きが繰り返されることになります。この際、退任した取締役が再任することは可能です。
(2) 任期途中での取締役の解任、新たな取締役の選任
取締役の任期途中で取締役を解任し、新たに取締役を選任する場合には、以下の手続きを行う必要があります。
(a)取締役会決議
CCC上、取締役の選任、解任については、取締役会決議事項とは定められていません。したがって、原則、取締役会決議は不要です。しかし、会社の附属定款において、取締役の選任、解任について取締役会決議事項と定められている場合には、当該附属定款の定めに従い、取締役会決議を経る必要があります。したがって、会社の附属定款の内容を確認する必要があります。
(b)株主総会決議
上述のとおり、取締役の任免は株主総会においてのみすることができるとされており、株主総会の普通決議事項として定められています。したがって、臨時株主総会を開催し、取締役の任免について株主総会決議を経る必要があります。
(c)商務省における登記手続き
取締役に関する情報は会社の登記事項とされ、株主総会で選任された新たな取締役の情報については、商務省事業開発局(DBD)にて登記手続きを行う必要があります。この登記手続きは、当該取締役が選任された日から14日以内に行う必要があります(CCC第1157条)。
DBDにおける登記手続きについては、DBD申請書類に必要事項(新任・前任の取締役の氏名、新任取締役の住所情報等)を記載の上、DBDに提出する必要があります。また、新任取締役のパスポートコピーも提出する必要があります。申請書類は全てタイ語での記載となり、DBDへの申請手続きを代行する会社に申請手続き委任をする場合には、委任状(POA)の作成も必要となります。
(3) 選任された取締役の任期
株主総会において、取締役を任期満了前に解任し、その代わりに別の取締役を選任した場合には、当該新任取締役の任期は、解任された取締役が有していた残りの任期までとなります(CCC第1156条)。
3.マレーシア
取締役は、取締役会における承認により辞任することができます。
(2) 解任
(a) 公開会社の場合
株主総会による普通決議により(第206条第1項(b)、第206条第2項)、解任することができます。
(b) 非公開会社の場合
株主総会における普通決議(第206条第1項(a))により解任できます。なお、非公開会社にのみ認められている書面決議では解任することはできません(第297条第2項(a))。
(3) 任命
(a) 公開会社の場合
株主総会による普通決議により任命(第202条第2項、第291条、第290条第2項、第340条)することができます。ただし、定款の定めにより、取締役会による任命(第202条第3項、第208条第4項)が可能となります。また、取締役の定員補充の必要がある場合には、取締役会で任命可能です。ただし、次回定時株主総会(AGM)の際に再任投票を行う必要があります。
(b) 非公開会社の場合
株主総会の普通決議または書面決議により任命することができます(第202条第2項、第291条、第290条第1項、第297条)。また、定款の定めにより、取締役会による任命(第202条第3項、第208条第4項)も可能となります。取締役の定員補充の必要がある場合には、取締役会で任命可能です。ただし、別途株主による再任投票を行う必要があります。
(4) 任命
変更後14日以内にSSMに通知します(Form Section 58の提出)(第58条第1項)。
4.ミャンマー
ミャンマーでは、取締役の交代は取締役の選任と解任を組み合わせたものです。取締役の選任及び解任はいずれも株主総会の普通決議が必要となります。普通決議は、総会出席者の単純過半数を決議要件としています。
(2) 取締役の交代に関する手続き
取締役等の選解任があった場合、変更から28日以内に届出を行うことで登録する必要があります。登録の方法は、以前は①Form D-1をMyCO 上で提出するのみで足りましたが、2025年1月7日に、Directorate of Investment and Company Administration(投資企業管理局、DICA)からアナウンスメントが発布され、当該アナウンスメントに基づき、現在は②会社の株主総会決議及び③取締役本人が署名した、就任または辞任に同意するレターも提出する必要があります。
5.メキシコ
(1) 取締役の交代に関する法制度
メキシコにおける株式会社(Sociedad Anónima, S.A.)などの企業形態は、主にメキシコ一般会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles、以下「会社法」)によって規定されています。会社法上、取締役はAdministrador(アドミニストラドール)と呼ばれ、取締役が1名のみの場合は唯一代表取締役となり、2名以上いる場合は取締役会が設置されます。取締役就任には、国籍や居住地についての法令上の制限はなく、社員であっても第三者であっても構いません。また、取締役が3名以上の場合には、定款において少数株主の取締役選任権を規定する必要があり、資本金の25%以上の株式を有する株主は、少なくとも1名の取締役を選任できるようにしなければなりません。公開株式会社の場合、この割合は10%に引き下げられます。
取締役の選任および解任の権限は、会社法により株主総会に専属すると定められています。株主総会は原則として出席株主の過半数決議で取締役の選任および解任を行うことができ(定款で別段の定めがある場合を除く)、会社法により、少なくとも年1回、定時株主総会(通常総会)を開催して取締役の選任、再任または交代を行う必要があります。株主総会で選任された取締役の任期は定款により定められます。取締役は、任期が満了した後であっても、新たに任命され選任された者がその職務に就くまでは、その職務を継続します。なお、取締役の解任は株主総会の決議によって行うことができ、法令上は解任に特別な理由や正当事由を要しません。株主総会で解任決議が可決された取締役はその職を失います。ただし、解任の理由が職務上の違法行為等である場合には、会社は株主総会の決議に基づいて、当該取締役に対して責任追及の訴えを提起することもあります。
(2) 取締役の交代に関する手続き
取締役の交代(退任・就任)が生じた際には、以下のような正式な手続きを経る必要があります。
(a) 株主総会での決議:取締役の選解任は株主総会の決議事項です。まず株主総会を招集し、当該取締役の解任承認および新任取締役の選任に関する決議を行います。株主総会は定款および会社法の定める方式(所定の通知期間や公告方法等)で開催され、議事録に決議内容を記載します。
(b) 議事録の認証・取締役変更の登記:株主総会議事録は公証人による認証(公正証書化)を行い、その決議内容にもとづく取締役変更の登記申請を速やかに行います。メキシコでは、議事録の認証を経て商業登記所で登記を完了させることで、取締役の変更が法的効力を持つこととなります。したがって、登記が完了するまでは、新たに選任された取締役の権限行使には制約が生じる可能性があります。
6.バングラデシュ
バングラデシュの取締役の交代は、選任手続と退任手続とをあわせた内容となります。
取締役の選任手続きは、株主総会の普通決議により選任されます(1994年会社法91条1項)。取締役として任命された者は、同意する旨の書面に署名し、任命から30日以内に商業登記所に提出する必要があります。(93条)
取締役の終了事由は、辞任、任期満了のほか、任期時期前の解任があります。
解任手続きは、株主の4分の3以上の賛成を必要とする特殊別決議にて行われます。その場合、後任を普通決議で任命しますが、その任期は、解任となった取締役の任期が基準となります(同法106条(1))。解任された取締役は、取締役会から取締役として再任命はできません(同条(2))。
(2) 商業登記所(RJSC)への申請
取締役の変更が行われた後は、商業登記所に14日以内にForm XIIを提出し変更通知を行う必要があります。これを怠った場合、罰則などがあります。(115条2項)
7.フィリピン
(1) 取締役の資格
フィリピンの会社法では、取締役に就任するための要件が定められています。主な要件は次のとおりです。
・成年であること
・当該会社の株式を保有していること
(2) 取締役の交代手続
取締役が交代する場面は主に3つあります。
(a)任期満了による退任の場合
取締役の任期は1年です(会社法22条)。任期満了後は株主総会で新しい取締役が選任されます。
株主総会において取締役を選出するには、発行済株式の過半数以上を保有する株主が出席している必要があります(会社法23条)。この定足数を満たした上で、株主は累積投票の方法により取締役を選ぶことができます(会社法23条)。
※累積投票とは
累積投票とは、保有株式×選出される取締役人数分の票を自由に配分できる制度です。
【累積投票の例】
・選出される取締役の人数:3人
・株主Aが保有する株式数:80株
・累積投票によるAの議決権数:80株 × 3人 = 240票
この240票を、株主Aは1人の候補者に全て投じることもできますし、複数の候補者に分配して投票することも可能です。
(b)解任の場合
取締役の解任は、原則として、株主総会において発行済株式総数の3分の2以上の株主による承認によって行うことができます。また、解任によって欠員が生じた場合には、同じ株主総会の中で後任の取締役を選任する決議を行うことが可能です。
(c)辞任などの場合
・取締役会が定足数を満たしている場合
⇒取締役会が株主の中から後任を選任することができます。
・取締役会が定足数に達していない場合
⇒株主総会で後任を選任する必要があります。この場合、欠員が生じてから45日以内に株主総会を開催する必要があります。
(3) 新たに選任された取締役の登録
新たに選任された取締役は、選任から30日以内にGIS(General Information Sheet)を通じて登録する必要があります。
8.ベトナム
(1) 任期および要件
ベトナム法によれば、会社の社長、総社長または取締役は経営者(ビジネスマネージャー)とみなされます。社長は、会社の日常的な業務を管理し、その職務遂行について会長、取締役または取締役会に対して責任を負います。取締役会は会社の経営機関であり、株主総会の権限に属する事項を除き、会社を代表して会社の権利義務を決定・行使する完全な権限を有します。
各役職の任期は、以下のとおりです。
- 二人以上社員有限責任会社の社長および総社長:任期の定めなし
- 法人が所有する一人社員有限責任会社の社長および総社長:最長5年(2020年企業法第82.1条)
- 個人が所有する一人社員有限責任会社の社長および総社長:任期の定めなし
- 株式会社の社長および総社長:最長5年とし、再任回数の制限はありません。(2020年企業法第162.2条)
- 株式会社の取締役:最長5年とし、再任回数の制限はありません。ただし、独立取締役として選任される個人は、連続して最大2期までです。(2020年企業法第154.2条)
社長または取締役に就任するための要件は以下の通りです。
- 以下のいずれにも該当しないこと:国家公務員および公的職員、ベトナム人民軍機関および部隊に所属する士官・下士官・職業軍人・軍属および公的職員、警察機関および部隊に所属する士官、下士官および警察職員、国有企業の経営者および管理者、未成年者、法的能力が制限されている者、法的能力喪失者、自己の行為を制御するのが困難な者、刑事訴追を受けている者、拘留中の者、懲役刑の執行中の者、更生施設または矯正施設において処分を受けている者、裁判所によって一定の職務に就くことまたは一定の業務を行うことが禁止されている者。
- 経営管理に関する専門的資格および経験を有し、かつ会社定款で定められたその他の条件を満たしていること。
また、取締役会の独立取締役には以下の基準および条件を満たすことが求められます。(2020年企業法第155.2条)
- 当該会社、親会社または子会社に勤務しておらず、かつ過去3年間以上にわたり当該会社、親会社または子会社に勤務していなかったこと。
- 当該会社から給与を受け取っていないこと。ただし、取締役に対して規定に基づき支給される手当は除く。
- 配偶者、実父母、養父母、実子、養子および兄弟姉妹が当該会社の主要株主、当該会社またはその子会社の経営幹部でないこと。
- 当該会社の議決権付き株式を直接または間接的に1%以上保有していないこと。
- 過去5年間以上にわたり当該会社の取締役または監査役を務めていなかったこと。ただし、2期連続で任命された場合は除きます。
(2) 交代手続
会社の社長または取締役を変更する際には、以下の2つのケースを区別する必要があります。
(a) 社長または取締役が会社の法定代表者を兼ねている場合
社長を交代することは、法定代表者の変更を意味します。したがって、法定代表者の変更は、以下の法的手続とプロセスを遵守する必要があります。
- 管轄当局:省または市の企業登録局
- 手続:企業登録証明書に記載された内容の変更登録
- 期限:法定代表者(会社の社長)の変更日から10日以内
- 必要書類:法定代表者の変更通知書、所有者/社員総会/取締役会の決定書、有効な国民身分証明書または外国パスポートの認証済写し
- 処理期間:有効な書類を受領した日から3営業日以内。
税務当局は公開された企業情報に基づいて自動的に情報を更新するため、会社が税務当局に別途通知をおこなう必要はありません。
(b) 会社の社長が法定代表者を兼ねていない場合
社長を交代する際は、企業登録証明書の変更は不要です。この場合は、社長交代に関する所有者の決定書/社員総会の決定書/取締役会の決定書のみが必要となります。取締役について、必要と認められる場合には、株主総会が当該取締役の交代、解任または罷免を決議することになります。取締役の変更に関する公告の要否は、会社の業種登録の内容、公開会社としての規模、ならびに実質的支配権の所在に応じて判断されます。
9.インド
取締役の交代にあたっては、取締役の選任と退任の二つの手続きが生じます。
取締役の選任は株主総会の普通決議によって行われます(会社法152条2項)。
取締役に就任するにあたっては、まず、DSC(Digital Signature Certificate)と呼ばれる電子署名の証明を取得しなければなりません。DSCとは、USBメモリー等の記録媒体の形式で発行される電子署名の証明書です。インドにおいては、会社法上求められる各種申告や書類提出は企業省(Ministry of Corporate Affairs)のポータルサイトを通じて行うこととなっていますが、書類の提出にあたって電子署名を貼付しなければなりません。DSCは、書類の提出の際に、DSCが記録されているUSBメモリー等をコンピューターに挿入し、署名欄に電子署名のデータを貼付する形で用いられます。
また、取締役の就任にあたっては、DIN(Director Identification Number)と呼ばれる取締役識別番号も取得しなければなりません。DINは、企業省が取締役になる者に割り当てる識別番号で、DINを申請する際には、先述のDSCが必要となります。そのため、まずDSCを取得し、その次にDINの申請手続きを行うこととなります。
また、取締役を選任した際には、30日以内に、DIR-12と呼ばれる書式を用いて、当該取締役を企業省に対して登録しなければなりません。
次に、取締役の退任手続きについてですが、退任にあたっては当該取締役から会社に対し退任届を提出し、取締役会決議でこれを受理した後、当該決議から30日以内に同じくDIR-12によって退任の通知を行うこととなります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、商業会社に関する連邦令2021年第32号(以下「会社法」といいます。)が各種商業会社について規定します。ただし、フリーゾーンで設立された会社には会社法は適用されず(第5条第1項)、各フリーゾーンで制定された規定によります。以下では、UAEでの会社設立によく利用される有限責任会社(Limited Liability Company)の支配人(manager)と株式会社の取締役(director)の交代に関して述べます。なお、株式会社には、公開株式会社(Public Joint Stock Company)と非公開株式会社(Private Joint Stock Company)がありますが、公開株式会社に関する規定は、それに特殊な規定を除き、非公開株式会社にも適用されるため(会社法第267条)、公開株式会社についての規定を引用し、会社法第143条3項に基づき、公開株式会社の取締役会の構成等について規定する証券商品規制局(Securities and Commodities Authority)の理事会議長決定2020年第3号(以下「SCA規則」といいます。)を参照します。
(1) 有限責任会社の支配人の交代
支配人の選出は、設立定款での指名、契約締結、若しくは出資者(partner)総会の指名によります。複数の支配人がいる場合、出資者は支配人会(board of manager)を設置することができます。(会社法第83条1項)
定款または契約で別段の定めがない限り、出資者総会の決定により支配人を解任できます。出資者の求めがあり、その解任が正当と認められる場合には、裁判所が支配人を解任します(会社法第85条1項)。
支配人は出資者総会に辞表を提出することができ、出資者総会は40日以内に辞任の決定をします(同2項)。任期が終了したときには、終了後30日以内に新たな支配人を指名します(同3項)。支配人会の任期が終了したときには、終了後6月以内に出資者総会が新たな支配人会の構成員を形成します(同4項)。
(2) 株式会社の取締役の交代
取締役会(board of directors)の組織、3人以上11人以下の員数、3暦年以下の任期が定款で定められ、取締役は株主総会の秘密累積投票(株式数に応じた投票権)により選任され、または定款で指名します(会社法第143条1項、第144条1項)。取締役の過半数はUAE国民でなければならず(会社法第151条)、1名以上は女性である必要があります(SCA規則第9条3項)。取締役は、UAEに存在する株式会社の5社以上の取締役、2社以上の取締役会議長または副議長を兼任してはならず、UAEに存在する会社の1社以上の業務執行取締役(managing director)となることは禁じられています(第149条1項)。
取締役が欠けたときには、取締役会は30日以内に新たな取締役を任命し、その後最初に開かれる株主総会においてその承認を得るか若しくは別の取締役が選出され、この場合の新取締役の任期は前任の任期の終期までとなります(第145条1項)。取締役会の構成員の4分の1以上が欠けたときは、取締役会は30日以内に株主総会を招集し、欠員を補充する新たな取締役を選出します(同2項)。
取締役は、会社に通知することによりいつでも辞任することができます(SCA規律第21条4項(d))。取締役が正当な理由なく任期中に3回連続または合計5回取締役会を欠席したときは、辞任したものとみなされます(会社法第158条)。
株主総会の決議により、取締役を解任することができ、株式会社は新たな取締役候補を募る手続を行い、選任のための株主総会を招集することができます(SCA規則第22条1項)。取締役が利益相反取引に関与したと裁判所が判断した場合、取締役は解任されます(同2項)。株主の告訴に基づき、取締役に対して懲役または罰金の刑が科された場合も、取締役は職務執行を継続できません(同3項)。裁判所の判断で取締役全員が解任されたときには、株主総会が開催されるまでの間は、SCAまたはその代理人が会社の経営を行います(同2項)。総会決議により解任された取締役は、解任決議後3年間は当該会社の取締役候補になることはできず(同1項)、裁判所の判断または判決により解任された取締役は、判決の日から3年間は、いかなる株式会社の取締役候補にもなれません(同2項、3項)。
11. インドネシア
(1) 取締役の交代に関する法制度
インドネシアでの取締役会の交代は選任と解任の組み合わせによって行われます。取締役の選任および解任いずれも株主総会の普通決議が必要です(2007年会社法第40号(以下、「会社法」といいます))。普通決議は、定款で別途、規定されている場合を除き、出席した議決権の過半数の賛成により、有効となります(会社法第87条)。取締役の交代(選任・解任)に関する株主総会の決議では、当該交代の効力発生日も定める必要があります。ただし、効力発生日が定められていない場合には、当該交代は株主決議の終了時点から有効となります(会社法第94条)。
(2) 取締役交代に関する手続き
取締役の交代(選任・解任)の手続きについては、定款において規定されなければならず、交代が行われた場合には、会社は当該変更を株主総会の決議日から起算して、30日以内に法務人権省に届け出て、会社登記簿への登録を行わなければなりません。届け出はオンラインシステムによって行われますが、当該届け出を怠った場合、会社登記簿への登録ができず、取締役の変更は認められません。ただし、既存の取締役が解任になってしまい、会社による届け出が行われないなどの場合には、例外として、新任の取締役自身による届け出を行うことができ、登録が認められます(会社法第94条)。
また、届け出の際には、取締役の交代に関する決議書を提出する必要がありますが、本決議書は、公証人により、公正証書化される必要があり、公正証書として提出しなかった場合には、会社登記簿に登録されず、新取締役の任命について認められません(会社の設立、変更、解散の登録に関する法務人権省規則2021年第21号第12条)。
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1.日本
日本の会社法上、定款の記載事項には、記載しなければ定款自体が無効となるもの(絶対的記載事項)、記載しなくとも定款の効力に影響はしないが記載がなければ当該事項について効力が生じないもの(相対的記載事項)、記載するか否かが当事者に委ねられているもの(任意的記載事項)の三種類があります。
このうち、絶対的記載事項については、定款の有効性に直接かかわるため、必ず記載しなければなりません。絶対的記載事項は以下のとおりです。
①会社の事業目的
②商号
③本店の所在地
④資本金額
⑤発起人の氏名又及び住所
なお、相対的記載事項の例としては、取締役会、会計参与、監査役等の設置等、任意的記載事項の例としては、株主名簿の基準日や事業年度等が含まれます。
会社が定款を変更するにあたっては、株主総会の特別決議を要し(会社法466条、309条2項11号)、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。
2.タイ
(1) 基本定款の必要的記載事項
タイの実務上、会社は非公開会社の形態をとることが多いところ、非公開会社については民商法典にその規定がなされています。民商法典によれば、基本定款には以下の事項を記載する必要があります(民商法典第1098条)。
・ 会社の名称。(ただし、名称の末尾に必ず「limited」が付いていること。)
・ 会社のタイ国内の所在地。
・ 会社の事業目的。
・ 株主の責任を限定する旨の宣言。
・ 登録される予定の株式資本額、及び、これより分割される株式の額。
・ 全ての発起人の氏名、住所、職業、署名、及び、各発起人が引き受けた株式の数。
(2) 基本定款の変更方法
民商法典上、非公開会社の基本定款を変更するためには、株主総会による特別決議が必要とされています(民商法典第1145条)。
株主総会の特別決議には、株主総会開催日の14日前までに株主に対して招集通知を発送する必要があり(同法1175条1項)、出席株主の議決権の総数の4分の3以上の賛成を得る必要があります(同法1194条)。
3.マレーシア
(1) 概要
株式会社においては、定款の作成は完全に任意とされています(会社法第31条⑴)。定款を作成しない場合には、会社・取締役・株主の権利義務を含む会社運営に関する事項については、会社法の規定に従うこととなります(会社法第31条⑶)。一方で、定款を作成することにより、これらの事項について会社法の規定と異なる定めを置き、独自の会社運営を行うことが可能となります(同第31条⑵)。
また、種類株式の発行など、定款に規定しなければ導入できない制度も存在します。定款により導入可能な独自ルールの例は、以下のとおりです。
① 種類株式の発行(会社法第90条⑴)
② 株券の発行(会社法第97条⑴)
③ 株主総会の決議要件の普通決議から特別決議への加重(会社法第291条⑷)
④ 株主総会の決議方法(会社法第293条⑴)
(2) 定款の導入・変更
定款を作成する場合、株主総会の特別決議を必要とします(会社法第32条⑴)。同様に、定款の変更も株主総会の特別決議によって行うことができますが、定款により変更が禁止されている場合には、変更することはできません(会社法第36条⑴)。
また、取締役または株主の申立てにより、裁判所が必要と認めたときは、裁判所が定款変更を命じることができます(会社法第37条⑴))。定款の導入または変更がなされた場合には、株主総会の決議または裁判所の命令があった日から30日以内に、会社登記所に対して通知を行う必要があります(会社法第32条⑷、第36条⑶、第37条⑵)。
4.ミャンマー
⑴ 基本定款の必要的記載事項
ミャンマーでは、旧会社法(Myanmar Companies Act, 1914)上は、定款は基本定款(memorandum of association)と附属定款(articles of association)の2つに分けられていました。しかし、新会社法(Myanmar Companies Law, 2017)上は、定款(constitution)に一本化されました。新会社法下では、DICAから発表されているモデル定款は165条で構成されており、様々な事項が規定されています。
(2) 定款の変更方法
定款の変更は株主総会の特別決議による必要があります。 特別決議は、議決権を有する株主の75%が賛成することにより可決されると規定されています。
5.メキシコ
(1) 基本定款の必要的記載事項
メキシコの会社設立については、商事会社一般法(Ley General de Sociedades Mercantiles。以下「会社法」)に規定されており、定款に関する事項も同法に定められています。
すべての会社形態で必要となる定款の記載事項は、会社を設立する者の氏名・国籍・住所、会社が営む事業の目的、商号、存続期間(無期限と記載することも可能)、資本金の金額、各出資者(株主または社員)の出資内容(金銭出資または現物出資/その評価額および評価基準)、会社の所在地、会社の管理運営の方法、取締役の権限、取締役の選任および会社の署名権者の指定、株主間の利益および損失の分配の方法、準備金額、会社が存続期間満了前に解散する場合に関する条項、会社の清算を行う基準および清算人を事前に定めていない場合の選任方法です(会社法第6条)。
また、株式会社の定款においては、株式の数、額面価額、分割された株式の性質、監査役の選任、通常総会の権限およびその審議の有効性のための条件、株式の条件(無議決権・拒否権付き等の種類株)、取締役の限定責任等の記載が要求されます(会社法第91条)。
さらに、外資系企業の場合はいわゆるカルボ条項を定款に含めることを要求されます。カルボ条項とは、当該会社の外国人株主等はその出資およびそれから派生する権利一切に関して内国民と同等の扱いを受けること、それに関して自国政府の保護を求めないこと、これに違反した場合には当該権利等をメキシコ国に没収されることに同意するという条項です。
(2) 定款の変更
定款の変更には、社内の決議手続と公的手続の二段階が必要です。
株式会社(S.A.)では、定款の変更は特別株主総会の決議事項とされています(会社法第182条)。臨時総会で定款変更を決議するには、定足数として第1回招集で発行済株式総数の少なくとも75%以上の出資に相当する株主の出席が必要で、議決要件は総株主の株式数の50%以上による承認です。ただし、定款でそれ以上の多数を要求することも可能です。第1回総会が流会した場合、第2回招集では定足数の要件は適用されませんが、総株式数の50%以上の賛成が必要です。
合同会社(S. de R.L.)では、定款の変更は、会社の最高機関である社員総会の決議事項とされています。定足数は資本金の半分に相当する持分の出席で、決議は出席社員の過半数で成立します。第1回総会で可決に至らない場合は再招集ができ、第2回以降の総会では出資額にかかわらず、出席社員の過半数による決議が可能です。ただし、定款で、より厳格な要件を定めることも認められています。
社内で定款変更が決議された後は、その内容を公的に認証する必要があります。設立時と同様に、定款変更も公証人の立ち会いのもとで記録されます(会社法第5条)。
6.バングラデシュ
⑴ 会社の基本定款の必要的記載事項
バングラデシュでは、会社法で、会社設立にあたり基本定款と付属定款を定めることが求められています。
基本定款は所定のひな形に基づいて、次の事項を記載する必要があります。
・ 商号
・ 事務所の登録住所
・ 事業目的
・ 構成員の責任(有限会社の場合は責任が有限であることを記載)
・ 授権資本額および株式の単位
(2) 基本定款の変更
基本定款の内容は、会社法で特に定められている場合を除き、継続して施行されている内容を変更することはできません(同法10条1項)。それ以外の内容は、取締役、支配人などの任命を含めて、付属定款と同様に特別決議で変更することができます。
特別決議は、特別決議であることを記載した招集通知により、開催日の21日前までに通知し、総株主の4分の3以上の賛成を得ることが必要となります(87条1項)。
事業目的に関する基本定款を変更する場合は、特別決議により、以下の理由で変更することができますが、裁判所による承認が必要です。(同法12条1項)
・ 事業をより経済的または効率的に実施するため
・ 新規または改善された方法により主な目的を達成するため
・ 経営の地域の拡大または変更
・ 現状のもとで、会社の事業と便宜上または有利に調和することができる事業の運営
・ 定款に記載されている規定の制限または撤回
・ 会社の全部または一部の売却または処分
・ 他社との合併
7.フィリピン
(1) 定款(Article of Incorporation)に記載すべき事項
会社を設立する際には、以下の項目を定款(Article of Incorporation)に記載する必要があります。
・会社名
・会社の目的(事業内容)
・本社所在地
・存続期間(永久することも可能)
・設立者(発起人)の氏名、国籍及び住所
・取締役の人数
・設立時の取締役の氏名、国籍及び住所
・株式数、1株当たりの金額、払込金額
・その他
(2) 定款(Article of Incorporation)変更手続の概要
定款(Article of Incorporation)の変更を行うためには、基本的に以下の手続が必要となります。
①取締役会の承認
取締役会において、取締役の過半数による承認が求められます。
②株主総会決議
発行済株式の議決権の3分の2以上を有する株主の同意が必要です。
③定款の認証
変更内容を反映した定款の写しを作成し、秘書役および取締役の過半数によって正式に認証します。
④SEC(Securities and Exchange Commission)への申請
SECに定款変更の申請を行います。
8.ベトナム
(1) 概要
定款は、よく会社の「憲法」や「憲章」と呼ばれ、ベトナムの現行の企業法制下では、企業設立登録時に許認可当局に提出する初版と、企業運営中に作成される改定版を含みます。
企業の個人社員/株主や組織社員/株主は、以下の基本原則を満たすことを条件として、自らの定款を作成または改定することが認められています。
- 法律の規定に反したり、第三者の権利や利益を侵害しないこと。
- 自由意思と相互合意に基づき、法律の枠組みの中で行われること。
- 法律で要求される主要な内容が全て含まれていること。
- 企業設立登録の場合には全ての社員/株主の承認があり、定款の改定の場合には法定の比率の持分または株式による承認があること。
(2) 定款の主要な記載事項
ベトナムの現行「企業法」第24.2条の規定により、定款には以下の主要事項が記載されなければなりません。
- 企業の名称、本社、支店、駐在員事務所(該当する場合)の所在地。
- 企業の事業内容。
- 資本金の額、株式会社の場合は発行株式総数、株式の種類および各株式の額面金額。
- 合名会社における無限責任社員、有限責任会社の出資者または社員、株式会社の設立時株主の氏名、連絡先住所、国籍。有限責任会社または合名会社における各社員の出資比率および出資額、株式会社の設立時株主の保有株式数、株式の種類および各株式の額面金額。
- 有限責任会社または合名会社の社員の権利義務、株式会社の株主の権利義務。
- 組織構造。
- 企業の法定代表者の人数、役職、権利および義務。
- 企業の意思決定手続および社内紛争解決の原則。
- 役員および監査役の給与・賞与の決定基準および方法。
- 社員または株主が会社に対して出資持分(有限責任会社の場合)または株式(株式会社の場合)の買取請求ができる事由。
- 税引後利益の分配および事業損失処理の規則。
- 解散事由、解散および資産清算の手続。
- 定款の改定手続。
特に公開会社については、ベトナム財務省が作成・発行したモデル定款のひな型を参照することができます。モデル定款は現行の企業法に抵触しない内容となっています。
(3) 定款変更手続
定款を変更する場合、企業は現行の「企業法」および現行定款に基づき、社員/株主総会の招集および社員/株主による関連決議に関する規定(例えば、正当な社員/株主総会を開催するための社員/株主の比率に関する規定)を遵守しなければなりません。初版の定款とは異なり、変更後の定款については以下の者の署名のみが求められます。
- 合名会社の場合:社員総会の議長。
- 一人有限責任会社の場合:会社の所有者、所有者の法定代表者、または会社の法定代表者。
- 複数社員の有限責任会社および株式会社の場合:会社の法定代表者。
さらに、定款は企業登録証明書の記載内容の一部とは見なされません。したがって、会社は定款の変更を許認可当局に届け出る必要はありません。
9.インド
インドでは、基本定款(Memorandum of Association)に会社の基本的な情報を記載し、付属定款(Articles of Association)で会社内部の運営に関する詳細な規則を定めることとなっています。
このうち、基本定款(Memorandum of Association)には以下の事項を記載する必要があります(会社法4条(1))。
①会社名(非公開会社の場合は末尾にPrivate Limited、公開会社の場合は末尾にLimitedをそれぞれ付す必要がある)
②登録住所の州
③会社の事業目的
④社員の責任の範囲(有限責任か無限責任か等)
⑤授権資本金
基本定款や付属定款を変更するためには、株主総会の特別決議を要し(会社法13条1項)、出席株主の4分の3以上の賛成が求められます(会社法114条2項(c))。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
アラブ首長国連邦(UAE)では、商業会社に関する連邦令2021年第32号(以下「会社法」といいます。)が各種商業会社について規定します。ただし、フリーゾーンで設立された会社には会社法は適用されず(第5条第1項)、各フリーゾーンで制定された規定によります。
(1) 必要的記載事項
基本定款(Memorandum of Association)の必要的記載事項は会社の形態により異なり、合同責任会社(Joint Liability Company)では、(a)各パートナーの氏名、国籍、生年月日及び居住地、(b)会社の名称、所在地、商号及び目的、(c)本店及び支店、(d)資本及び各パートナーの持分とその価額、その評価方法と日付、(e)設立日及び廃業日、(f)経営方法及び署名権限者の氏名とその権限、(g)会計年度の始期と終期、(h)損益の配分比率、(i)所有権の譲渡条件、とされています(第32条1項)。有限責任パートナーシップ会社(Limited Partnership Company)については、有限責任を負うパートナーを区別する他は、合同責任会社に準じ(第65条1項)、有限責任会社(Limited Liability Company)については、会社の業務に関して生じる会社とマネージャーとの間またはパートナー間の紛争の解決方法も定めなければなりません(第73条2項)。公開株式会社(Public Joint Stock Company)については、(a)会社の名称と本店、(b)会社の目的、(c)各発起人の氏名、国籍、生年月日及び居住地、(d)資本金額、株式数、1株当たりの名目額、各株式により支払われた金額、(e) 設立手続における発起人の履行事項、設立時に要する経費等の見積及び会社によるその支払見積、(g)現物支給の内容とその提供者の氏名、当初の評価額、それに付随する担保等とされ(第110条1項)、非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、公開株式会社に準じます(第267条)。
なお、基本定款は、アラビア語で起草され、管轄官庁による証明を受けて登記されなければ有効とはならず、外国語で起草された場合でもアラビア語が優先されます(第14条1項)。
(2) 変更
会社の名称、住所、資本金、株主または組織等の特定事項について基本定款に変更を行ったときには、15営業日以内に管轄官庁に通知して、登記する必要があります(第15条3項)。
基本定款を変更するには、有限パートナーシップ会社では、全ての合同責任及び有限責任パートナーの同意(第66条)、有限責任会社では、総会において4分の3以上の持分を有するパートナーの賛成(第101条1項)、公開株式会社では、特別決議(4分の3以上の株式を保有する株主が出席した株主総会での過半数の賛成)を経た上で、証券商品委員会からの承認を受ける必要があります(第139条)
11. インドネシア
(1) 基本定款の必要的記載事項
インドネシアにおける定款への必須記載事項は、会社法2007年第40号(以下「会社法」といいます)に規定されており、以下の内容を記載する必要があります(会社法第15条第1項)。
a. 会社の名称および住所
b. 会社の事業目的および事業内容
c. 会社の設立期間
d. 授権資本、発行済資本、および払込資本の額
e. 株式数、株式の種類(存在する場合)、各種類ごとの株式数、各株式に付随する権利、および各株式の額面価額
f. 取締役および監査役の役職名、およびその構成員の人数
g. 株主総会の開催場所および開催方法
h. 取締役および監査役の任命、交代、解任の手続
i. 利益の使途および配当の分配手続
上記の規定に加えて、定款には他の法律に抵触しない限り、その他の規定を含めることが可能です(会社法第15条第2項)。また、固定利息の受領に関する規定と、設立者や会社の関係者など、特定の者に対して、個人的利益を供与する内容の規定を設けることは禁止されています(会社法第15条第3項)。
(2) 基本定款の変更方法
(a) 会社の名称や住所、(b) 事業目的および事業内容、(c)設立期間、授権資本、発行済資本および払込資本の減額、ならびに(d) 非公開会社から上場会社への移行またはその逆の変更には、株主総会の特別決議(議決権のうち3分の2以上の出席および出席者のうち4分の3以上の賛成)を経たうえで、法務人権大臣(Menteri Hukum dan HAM)の承認を取得する必要があります(会社法第21条第2項、第88条)。一方、これらに該当しない変更については、大臣への通知のみで足ります(会社法第21条第3項)。
いずれの場合も、変更内容は公証人によりインドネシア語で記載された公正証書(akta notaris)として作成されなければなりません(会社法第21条第4項)。株主総会決議の日から30日以内にこの公正証書を作成し、さらにその作成日から30日以内に承認申請または通知をオンラインで提出する必要があります(会社法第21条第4、5項)。
1.日本
(1) 会社関係者に対する規制
インサイダー取引は金融商品取引法によって禁止されています。
同法は、「会社関係者」が、その業務等に関する「重要事実」を知った場合には、当該重要事実が公表された後でなければ、当該上場会社等の株式の売買等の取引を行ってはならないとしています(金融商品取引法166条1項)。また、「会社関係者」から「重要事実」の伝達を受けた者(情報受領者)についても、同様に、「重要事実」の公表後でなければ、株式の取引を行うことができません(同条3項)。
「会社関係者」の例としては、①上場会社(上場会社の親子会社並びに当該上場会社が上場投資法人等である場合における当該上場会社の資産運用会社及びその特定関係法人を含む)の役職員(役員、従業員、アルバイト等)、②上場会社に対して会計帳簿閲覧請求権を有する株主、③上場会社と契約を締結中又は締結交渉中の者(取引先、顧問弁護士、会計監査を行う公認会計士等)が含まれます。
「重要事実」については、同法166条2項に列挙されており、新株発行や合併等、上場会社の株価に影響を与える情報が含まれます。
(2) 公開買付者等関係者に対する規制
公開買付者等関係者(公開買付者の役員等を含みます)が、公開買付の実施または中止に関する未公表の事実を知った場合には、当該事実が公表された後でなければ、当該公開買付にかかる上場会社の株式の売買等の取引を行ってはなりません(金融商品取引法167条1項)。また、公開買付等関係者から公開買付の実施または中止に関する未公表の事実の伝達を受けた者(情報受領者)についても同様の規制に服します(同条3項)。
(3) 罰則
インサイダー取引を行った者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその両方が科せられ(金融商品取引法197条の2第13号)、また、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業員等がインサイダー取引を行った場合には、当該個人が処罰対象となるほか、法人に対しても5億円以下の罰金が科せられます(同法207条1項2号)。このほか、インサイダー取引で得た財産は没収の対象となります(同法198条の2第1項1号)。
2.タイ
(1) インサイダー取引について
インサイダー取引については、証券取引法にその規定があります。
同法によれば、「インサイダー情報」とは、一般に公に開示されていない情報であって、有価証券の価格または価値の変動に重要な影響を及ぼす情報をいうと規定されています(証券取引法第239条)。
そのうえで、証券取引法は、一定の場合を除き、インサイダー情報を知っている者または保有している者が、自己または他人のために証券の売買やデリバティブ取引を行うことを禁止しています(証券取引法第242条1項)。また、相手方が、インサイダー情報を使って証券取引を行うことを知っている、または合理的に知り得る場合には、当該相手方にインサイダー情報を直接または間接的に伝達することも禁止しています(同条第2項)。
なお、証券取引法によれば、会社の取締役やその他の内部者においては、インサイダー情報を保有している者と推定され(証券取引法第243条)、またその近親者が、通常の取引とは異なる証券取引を行った場合には、インサイダー情報を保有していた者と推定されます(同法244条)。
(2) インサイダー取引を行った場合の罰則
証券取引法上、取締役その他インサイダー情報を開示した者と、当該インサイダー情報を証券取引に利用した者の双方に対して、懲役または罰金刑の刑事罰が存在します(証券取引法第296条)。また、他人に自身の名義の証券口座を使用させる等の名義貸し行為についても同様の刑事罰が課せられています。
その他、裁判所から、証券取引等の停止等の命令がなされることもあります(証券取引法第297/1条)。
3.マレーシア
(1) インサイダー取引について
マレーシアにおけるインサイダー取引は、2007年資本市場・サービス法(Capital Markets and Services Act 2007、以下「CMSA」といいます)によって規制されています。CMSAによれば、インサイダー(insider)とは、以下の条件を満たす者を指します(CMSA188条⑴)。
a. 一般に入手可能でない情報を保有しており、その情報が公に知られるようになった場合に、合理的な一般人をして、当該情報によって証券の価格や価値に重要な影響を及ぼすと考えられる情報であること。
b. 当該情報が一般的に入手不可能であることを知りまたは合理的に知り得べき立場にあること。
なお、インサイダーという用語は、通常、会社や証券取引所の役員、代理人、従業員を指しますが、裁判例(R v Evans & Doyle[1999]VSC 488事件)によれば、会社と無関係の第三者であっても該当する可能性があります。
(2) 規制内容
インサイダーは、当該情報に関連する証券について、次の行為を行うことが禁止されています(CMSA188条⑵)。
当該証券の取得または処分、あるいはそれを目的とした契約の締結
直接的または間接的に、他人による取得や処分、またはそれを目的とした契約の締結をあっせん・助長すること
さらに、当該情報に関連する証券が証券取引所において取引可能なものである場合には、インサイダーは当該情報を他人に伝達したり、そのような伝達を引き起こしたりすることが禁止されています(CMSA188条⑶)。
(3) 罰則
CMSAは、インサイダー取引に対して厳格な罰則を定めており、違反者は、最長10年の懲役および最低100万リンギット(RM1,000,000)の罰金が科される可能性があります(CMSA188条⑷)。
4.ミャンマー
⑴ インサイダーに関する規制の概要
ミャンマーの証券取引法第49条第1項(c)では、以下の行為を禁止しています。
- 未公開の重要な内部情報を基に、自らまたは他者のために証券を売買すること。
- 未公開の重要な内部情報を開示または提供し、他者に証券の売買を助言すること。
また、証券取引規則第183条では、虚偽または誤解を招く情報の拡散や、価格操作を目的とした取引も禁止されています。
5.メキシコ
(1) インサイダーに関する法律の概要
メキシコにおけるインサイダー取引の規制は、主に証券市場法(Ley del Mercado de Valores:LMV)に基づいて行われます。LMVは2005年に制定された連邦法であり、証券市場を公正、効率的かつ透明性の高い方法で発展させること、投資家の利益を保護すること、システミックリスクを最小限に抑えること、および健全な競争を促進することを目的としています。
(2) インサイダー情報の保有者に該当する者
インサイダー情報を保有しているとみなされる者の範囲は、主に以下のとおりです。
・ 株式等の発行元企業の内部関係者(取締役、監査役、CEO、重要役員、外部監査人など)
・ 当該企業の資本の10%(特定の場合は5%)以上を直接的又は間接的に保有する者または、その者が属する法人の内部関係者
・ 発行元企業と密接な関係を有する法人の役員や監査人
・ 発行元企業に対して重要な影響力を持つ者
・ 発行元企業に対して指揮権限を有する者
・ 上記の者と密接な関係を有する配偶者、親族、共同所有者、またはこれらの者と接触があった者
これらの者は、取得した情報について守秘義務を負っており、職務・地位・委任等に基づき正当な理由がある場合を除き、当該情報を使用したり第三者に伝達したりしてはなりません。なお、出資比率を計算する際には、親権下にある者が保有する株式や、信託に帰属し、信託者または受益者として関係する株式も含まれます。
(3) インサイダー取引として禁止される行為
インサイダー情報を保有する者は、以下の行為が禁止されています。
・ 株式等の発行元企業が発行する有価証券や、それを表す証券、またはその価格や相場がインサイダー情報の影響を受ける可能性がある金融派生商品(オプション証券やデリバティブ等)について、当該情報が公開されていない間に、直接または間接に売買やその指示を行うこと。
・ 当該インサイダー情報を職務上知る必要がある場合を除き、他人に提供または伝達すること。
・ 発行元企業が発行する有価証券や、それを表す証券、またはこれらを原資産とする金融派生商品について、情報がインサイダー情報である間に、投資判断に影響を与えるような助言や推奨を行うこと。
インサイダー情報を利用して行われた取引の相手方は、裁判所に対して損害賠償を請求することが可能です。この請求権は、取引が行われた日から5年間で時効となります。なお、メキシコ国外で行われた取引であっても、国内に何らかの影響を及ぼす場合には本法の適用対象となり、処罰の対象となることがあります。
6.バングラデシュ
バングラデシュは、2022年証券取引委員会規則(the Securities and Exchange Commission (Prohibition of Insider Trading) Rules, 2022)によってインサイダー取引が規制されています。同規則は、1969年証券取引条例(the Securities and Exchange Ordinance, 1969)、2012年マネーロンダリング防止法(The Money Laundering Prevention Act, 2012)と関連しています。
⑴ インサイダー取引の定義
インサイダー取引とは、証券取引委員会規則1条1項(n)で定義されており、「未公開の価格に敏感な情報に基づいて、受益者がファンドの証券またはユニットの購入、売却、またはその他の方法で譲渡する」こととされます。ただし、裁判所の命令、相続、または死亡した人からの没収によって行われた譲渡は含まれません。(同号但書)
受益者とは、同項(l)で定義されており、次の4つのカテゴリに該当する者、および、これらの該当する者から地位、関係などを通して価格に敏感な情報を知る機会がある者と定義されます。役員、取締役、従業員、近親者、さらに支配関係のある利害関係人、利害関係機関(同項(p))も含まれるため、定義上はかなり広範な範囲が対象となります。
・ 会社の取締役、スポンサー、大株主、経営代理人、銀行など
・ 会社のファンドマネージャーやファンドの保管などの契約に関する当事者であり、信用格付け会社、コンサルタントなど
・ 一般的な株式ブローカー、株式ディーラー、市場仲介者など
・ 金融商品の規制当局など
「価格に敏感な情報」とは、同規則3条1項で、定義されており、財務諸表や財務結果などの財務の基本的情報、配当に関する情報、合併などの企業構造に関する情報、資本構成の変更に関する情報、事業の拡大に関する情報、ファンド運用の情報、規定された委員会が価格に敏感な情報として定めた情報、および、同委員会が官報に掲載して指定する情報などの8種のカテゴリに含まれる情報が対象となります。
⑵ 禁止される行為
受益者または関連者が、直接的または間接的にインサイダー取引に関与したり、そのような取引を支援する、情報を提供したりすることは禁じられています(同法5条1項)。また、会社のスポンサー、取締役、主要な従業員、監査人、コンサルタント、および関係者などは、会計年度末の2か月前から取締役会による財務諸表の最終承認までの間、会社の株式、ファンドなどの取引はできません。(同法5条2項)
さらに、2012年のマネーロンダリング防止法 第2条(cc)(25)により、インサイダー取引を規制対象としているため、このような行為があった場合、金銭的利益が犯罪収益としてみなされ、調査、資産の差し押さえ、および起訴の対象となります。
7.フィリピン
(1) インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、「インサイダー」(Insider)が「重要な未公表情報」(material nonpublic information)を保有した状態で、証券を売買する行為をいいます。
「重要な未公表情報」とは、以下のいずれかに該当する情報を指します。
・ 一般に公表されておらず、かつ公表された場合に市場が当該情報を消化する合理的な時間を経た後、当該証券の市場価格に影響を及ぼすと合理的に考えられる情報
・ 当該証券の「買い」「売り」または「保有」を判断するにあたり、通常の合理的な投資家であれば重要と判断するであろう情報
また、「インサイダー」とは以下の者を指します。
・ 発行体
・ 発行体の取締役、役員、または発行体を支配している者、発行体によって支配されている者、発行体と共通の支配下にある者
・ 発行体または証券に関する重要な未公表情報にアクセスできる関係者
・ インサイダーから重要な未公表情報を得た者であり、当該情報源がインサイダーであることを知る者
・ インサイダーの配偶者(内縁を含む。)および姻族、または二親等以内の親族
(2) インサイダー取引に関連する規制行為
インサイダー取引に関連して、以下の行為が規制されています。
・ 重要な未公表情報を保有した状態での売買
株主が重要な未公表情報を保有している状態で証券を売買することは違法とされます。ただし、以下のいずれかが証明されれば違法性が否定されます。
- 当該情報がインサイダーから得たものでないことが証明された場合
- 取引相手が特定されており、インサイダーがその相手に当該情報を開示していた等、その相手も当該情報を保有していたことが証明された場合。
・ 重要な未公表情報の伝達(Tipping)
インサイダーが重要な未公表情報を第三者に伝達し、その第三者が当該情報を保有した状態で証券取引を行う可能性があることを知っていた、または予見できた場合、そのような伝達行為は違法とされます。
・ 株式公開買付けに関して未公表情報を利用した取引
株式公開買付けに関連する重要な未公表情報を以下のいずれかの者から取得し、かつ当該情報が未公表であることを知っていた、またはその可能性を認識していた者は、当該証券を売買することは違法とされます。
- 株式公開買付けを行う者
- 株式公開買付けを行う者の代理人
- 発行体
- 発行体のインサイダー
(3) 民事責任
規制行為に違反した者は、その期間に同一の証券を売買した投資家に対して、民事上の賠償責任を負います。ただし、以下の事実を証明できれば責任を免れることができます。
・ 投資家が当該情報を知っていたこと
・ 仮に投資家が当該情報を知らなかったとしても、同じ価格で売買を行っていたであろうこと
また、重要な未公表情報を伝達した者も、当該情報に基づいて取引を行った者と連帯して責任を負います。
⑷ 刑事罰
違反行為をした者は、以下の罰則を受けるおそれがあります。
・ 5万ペソ以上500万ペソ以下の罰金
・ 7年以上21年以下の懲役
なお、違反者が法人である場合、当該法人だけでなく、その違反に関与した役員にも罰則が科される可能性があります。
8.ベトナム
(1) 2019年証券法に基づく法的規定
2019年証券法第12条第2項によると、インサイダー情報を使用して自己または他人のために証券を売買すること、インサイダー情報を開示または提供すること、インサイダー情報に基づいて他人に証券の売買を助言することが、厳格に禁止されています。
また、同法第4条第44項では、インサイダー情報とは、公開会社、上場組織、取引登録組織、公募ファンド、公募証券投資会社に関する情報のうち、公表されておらず、かつ公表された場合に当該組織の証券価格に重大な影響を及ぼす可能性のある情報を指すものと規定されています。
(2) 違反に対する制裁
① 行政責任
政令156/2020/ND-CP第5条第3項および第35条(政令128/2021/ND-CPにより改正)によれば、違法に得た利益額を基準に法人の場合は10倍の、個人の場合は5倍の行政罰金が科されますが、法人に対しては30億VND、個人に対しては15億VNDを超えないものとされています。違法に得た利益が存在しない場合、または算定された罰金額が、法人に対して30億VND、個人に対して15億VND未満である場合には、最大で法人に対して30億VND、個人に対して15億VNDの行政罰金が科されます。その後、違反当事者には、インサイダー取引により得た違法利益の返還という是正措置が適用されることがあります。
さらに、証券会社、ファンド運用会社、およびベトナムにおける外国証券会社またはファンド運用会社の支店に対しては、1か月から3か月の期間、証券業務またはサービスの停止処分が適用されます。
② 刑事責任
2015年刑法(2017年改正)第210条に基づく、証券取引におけるインサイダー情報の使用に対する刑事罰は以下のとおりです。
- 開示されていないインサイダー情報を使用して証券を取引する者、または当該情報を開示・提供する者、他人にその情報に基づいて取引を助言する者で、違法に3億VND以上10億VND未満の利益を得た場合、または投資家に5億VND以上15億VND未満の損失を与えた場合は、5億VND以上20億VND以下の罰金、または6か月以上3年以下の懲役に処されます。
- 加重事由がある場合:違反行為が以下のいずれかに該当する場合、20億VND以上50億VND以下の罰金、または2年以上7年以下の懲役に処されます。加重事由には、組織的に犯行を行った場合、違法利益が10億VND以上である場合、投資家の損害が15億VND以上である場合、再犯または危険な常習犯である場合が含まれます。
違反者には、5,000万VND以上2億VND以下の罰金や、1年から5年の間、一定の職務に就くことや特定の職業を行うことを禁止されるという付加的制裁を受ける場合もあります。
商業法人が当該違反行為を行った場合、(i) の違反に対しては、10億VND以上50億VND以下の罰金、(ii) の違反に対しては、50億VNDから100億VNDの罰金が科されます。さらに、特定の業種での事業活動または資金調達が。1年から3年の間、禁止される可能性があります。
9.インド
⑴ 概要
インサイダー取引については、1992年インド証券取引委員会法(Securities and Exchange Board of India Act,1992。以下「法」といいます。)および2015年インド証券取引委員会(インサイダー取引禁止)規則(Securities and Exchange Board of India (Prohibition of Insider Trading) Regulations, 2015 。以下「規則」といいます。)が規制しています。
規則によると、「インサイダー」(insider)は、正当な目的、職務の遂行、または法的義務の履行を促進する場合を除き、上場会社または上場を予定している会社の「未公表価格感応情報」(unpublished price sensitive information)について、他者に対し、伝達、提供またはアクセスの提供をしたり、未公表価格感応情報を保有した上で株式の取引を行ったりすることが禁じられています(規則3条(1)、4条)。また、いかなる者であっても、正当な目的、職務の遂行、または法的義務の履行を促進する場合を除き、インサイダーから未公表価格感応情報を取得することはできません(規則3条(2))。
同規則上「インサイダー」(insider)とは、会社の関連者(取締役や従業員等、会社とつながりがあり、未公表価格感応情報にアクセスすることが合理的に予測される者)または未公表価格感応情報を保有している者をいいます(規則2条(g))。また、「未公表価格感応情報」(unpublished price sensitive information)とは、会社またはその株式に直接的または間接的に関連する一般に公表されていない情報であり、一般に公表されると株式の価格に重大な影響を及ぼす情報をいい、財務情報、配当に関する情報、資本構成の変更、合併・買収等に関する情報等が含まれます(規則2条(n))。
(2) 罰則
未公表価格感応情報に基づき株式の取引を行ったり、未公表価格感応情報を他者に伝達等した場合には、100万ルピー以上2億5千万ルピー以下または当該取引による利益の3倍のいずれか高い方の罰金が科せられます(法12G条)。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) インサイダー取引について
アラブ首長国連邦(UAE)では、連邦証券商品局及び市場に関する連邦法2000年第4号(以下「証券法」といいます。)に基づき設立された証券商品局(Securities and Commodities Authority:FCA)の下で、アブダビ証券取引所(Abu Dhabi Securities Exchange:ADX)とドバイ金融市場(Dubai Financial Market: DFM)の2つの市場があります。インサイダー取引に関しては、利益を得るために株価に影響を与える非公開情報を利用することを禁じ(第37条)、自らの地位を利用して取得した非公開または秘匿情報に基づき証券取引を行うことを禁じ、特に上場企業の社長、経営陣及び従業員については、市場における株式の売買に関して内部情報を利用することを禁じています(第39条)。また、インサイダー情報に基づく取引は無効とされます。
(2) 違反に対する措置
証券法第37条及び第39条の違反者には、3月以上3年以下の懲役、または10万AED(UAEディルハム)以上1000万AED以下の罰金、若しくはその双方が課されます(第41条)。
11. インドネシア
(1) 定義と対象
インドネシアでのインサイダー取引に関する規定は、1995年資本市場法第8号(以下、「資本市場法」といいます)に記載されています。
資本市場法において、インサイダー情報とは、内部者が保有しており、一般には公開されていない重要情報と定義され、内部者には、(a)上場会社または公開会社の取締役、監査役、または従業員、(b) 上場会社または公開会社の主要株主、(c)上場会社または公開会社との職務・専門職または業務関係により、インサイダー情報を得ることが可能な個人、(d) (a)〜(c)に該当していた者で、過去6か月以内にその地位を退いた者が含まれます(資本市場法第95条)。また、内部者から不正にインサイダー情報を取得した者も禁止規定の対象となります。
(2) 禁止規定と罰則
インサイダー情報を用いて、他者に当該証券の売買を促すこと、インサイダー情報を第三者に提供すること、不正にインサイダー情報を取得し、それを基に取引を行うことは禁止されています。(資本市場法第96、97条)。
上記に違反した場合、最長10年の拘禁および最大150億ルピア(Rp15,000,000,000)の罰金が科される可能性があります(資本市場法第104条)。
1.日本
(1) 概要
日本の意匠制度は意匠法によって規定されています。同法上、「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの、と定義されています(意匠法2条1項)。
意匠権の存続期間は、出願日から25年間です(同法21条1項)。
また、日本はパリ条約に加盟しており、パリ条約締約国で申請してから6か月以内であれば、優先権を主張することもできます。
(2) 登録手続き
意匠権の登録手続きは特許庁に対し行います。
出願を行うと、まず、書類の形式面等を審査する方式審査が行われ、次に、出願にかかる意匠が意匠法上の登録要件を満たしているかを審査する実体審査が行われます。
実体審査において、意匠の登録を認めることのできない拒絶理由が発見されない場合には、特許庁の審査官は、意匠登録をすべき旨の査定をしなければなりません(意匠法18条)。他方、拒絶理由があると判断された場合、審査官は、拒絶理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければなりません(意匠法19条が準用する特許法50条)。拒絶理由が解消されない場合には、拒絶の査定がなされます(意匠法17条)。
(3) 意匠権侵害
意匠権侵害に対しては、民事上の救済策として、侵害行為の差止め(意匠法37条)や損害賠償請求等の措置をとることが可能です。損害賠償請求にあたっては、実際上、損害額の立証が困難な場合も多くあります。
そこで、意匠法では、損害額の算定規定や推定規定等を設け、立証の困難性を緩和することが試みられています(同法39条)。
また、意匠権侵害は刑事罰の対象ともなり得、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金又はその両方が科せられます(同法69条)。
2.タイ
(1) 意匠法の概要
タイにおいて意匠制度は特許法にその規定があります。特許法56条から65条は、意匠についての特別法を規定しており、その他については特許における規定を準用しています。
同法は、「意匠とは、製品に特別な外観を与え,工業製品又は手工芸製品に対する型として役立つ線又は色の形態又は構成をいう」と定義しています(特許法3条)。また、意匠権の保護の客体について、「手工芸意匠を含む新しい工業意匠」(特許法56条)である旨を規定しています。
(2) 登録審査
意匠の出願は、省令に定められる要件および手続に従わなければならず、各意匠出願書類には、意匠の表示、意匠が用いられる製品の表示、明確かつ正確なクレーム、省令に定められるその他の事項が含まれなければなりません(特許法59条)。
その後、商務省知的財産部(DIP) において審査を受け、所定の要件を満たしたとされる意匠のみが特許法上の保護をうけることができます(特許法61条)。
⑶ 意匠権の内容
同法は、「特許権者以外の何人も、調査研究を目的とする意匠の使用を除き、製品の製造において特許 意匠を使用する権利又は特許意匠を具現した製品を販売し、販売のため所持し、販売のため供給し若しくは輸入する権利を有さない。」と規定し(特許法63条)、意匠権者に排他的権利を認めています。
3.マレーシア
(1) 概要
マレーシアにおける意匠制度は、意匠法(Industrial Designs Act 1996)により規律されています。同法は、意匠を「工業的方法または手段により物品に適用される形状、輪郭、模様もしくは装飾の特徴であって、完成した物品において視覚に訴え、視覚によって判断されるもの」と定義しています(意匠法3条1項)。
(2) 登録審査
意匠登録手続は、以下の2段階で進められます。
(a) 方式要件審査
意匠登録出願が意匠法および意匠規則で定められた要件を満たしているかを審査します(意匠法21条1項)。出願が要件を満たしていない場合、出願人に対しその旨の通知がなされ、補正のための期間が与えられます(同条2項)。補正が行われない場合、聴聞の機会が付与された上で出願は拒絶されます(同条3項)。
(b) 新規性審査
意匠の登録を受けるためにはその意匠が登録日において新規の意匠でなければなりません(意匠法12条(1))。そして、出願しようとする意匠が、出願の優先日前に、出願意匠と同一または関係する取引において一般的に使用される、重要でない細部もしくは特徴においてのみ当該意匠と異なる意匠が、以下のいずれかに該当する場合、新規性は認められません(同条12条(2)(a)・(b))。
・ マレーシアのいずれかの場所で公に開示されていた場合
・ 当該意匠が、異なる出願人によって先出願された意匠登録申請の対象となっており、かつその出願に基づいて登録が認められている場合。
(3) 意匠権の内容
意匠権者は、登録意匠が適用されている物品を、①製造、輸入、販売もしくはその申出、賃貸もしくはその申出、陳列することの排他的権利を有します。
そして、上記権利に対する侵害が現に存在するか、またはそのおそれがあることを証明することにより、損害賠償請求、利益返還請求、または差止命令請求を裁判所に対して求めることができます(意匠法34条1項)。
4.ミャンマー
⑴ 概要
2019年1月30日に意匠法は成立しました。意匠権利者と創作者の権利・利益の保護、産業の発展・技術開発、技術の普及促進などを目的としています。管轄の商業省は、2023年9月29日付で意匠登記規則を公布しました。2023年10月18日、国家行政評議会(SAC)は、意匠法が2023年10月31日より施行される旨を通知しました。その後、2024年1月31日、知的財産庁は、意匠の出願を2024年2月1日から受け付けると発表しました。
(2) 登録手続
意匠登録出願の手続は、出願、方式審査、出願公開、実体審査、登録という流れで進められます。願書に添付する意匠の図面や写真、説明文には、所定の要件が定められています。
(3) 意匠権侵害
意匠権の侵害行為には、意匠登録の対象となる製品を、権利者またはライセンス保持者の同意なく製造・制作する行為のほか、登録された意匠が用いられた製品を無断で販売・流通・使用する行為が含まれます。
5.メキシコ
(1) 概要
メキシコにおける意匠制度は、産業財産権法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)によって規定されています。その中で意匠は、「装飾目的で工業製品または手工芸品に用いられ、独特で適切な外観を与える図形、線、または色の任意の組合せである工業図案、および工業製品または手工芸品を製造するための型または図形として機能する任意の立体で構成される工業用型であり、技術的な効果をもたない特別な外観を与えるもの」と定義されています。
意匠権の存続期間は出願日から5年間であり、所定の更新手続および更新料の納付により、5年ごとの延長が可能です。ただし、存続期間の上限は最大25年間とされています。更新は、各存続期間満了の6か月前から行うことができます。
メキシコは、1976年にパリ条約に加盟しており、これに基づく優先権主張が可能です。優先日(基礎出願日)から6か月以内であれば、優先権を主張しての出願が認められます。また、2020年6月にはハーグ協定(ジュネーブ改正協定)がメキシコにおいて発効しており、これにより国際意匠登録出願の指定国としてメキシコを選択することも可能となっています。
(2) 登録手続
意匠登録出願の手続は、原則として特許に関する規定が準用されており、出願、方式審査、出願公開、実体審査、登録という流れで進められます。願書に添付する意匠の図面や写真、説明文には、所定の要件が定められています。特許出願と異なり、方式審査を通過した意匠出願は早期に公開されますが、出願人からの早期公開請求は認められていません。
メキシコでは一意匠一出願制が採用されており、単一の意匠または関連する一つの意匠群として出願する必要があります。仮に一つの出願に複数の意匠が含まれる場合であっても、それらが同じ名称で識別でき、共通して新しい特徴を提示し、全体として同一の一般的印象を与える場合には、単一の意匠とみなされます。
(3) 意匠権侵害
意匠権の侵害行為には、意匠登録の対象となる製品を、権利者またはライセンス保持者の同意なく製造・制作する行為のほか、登録された意匠が用いられた製品を無断で販売・流通・使用する行為が含まれます。また、登録意匠と実質的に同一と認められる意匠を、許諾なく使用する行為も侵害に該当します。
このような権利侵害は行政違反とされており、権利侵害を犯した者には、最大でUMA(罰金等の金額算定にあたり参照する経済的基準)の25万倍の制裁金、最大90営業日の施設の一時閉鎖や恒久的閉鎖といった制裁が科される可能性があります。なお、こうした行政制裁が科された場合でも、権利者は別途、損害賠償を請求することが可能です。
6.バングラデシュ
⑴ 概要
バングラデシュでは、バングラデシュ意匠法(Bangladesh Industrial Design Act, 2023)により、意匠の保護が規定されています。この法律で「意匠」とは、製品の特長的な形状、線、色、視覚的な表面などの美的な視認性と定義されています(以下、断らない限りバングラデシュ意匠法の条文番号を意味します。第2条(m))。
バングラデシュは、パリ条約に加盟しており、これに基づく優先権主張が可能です。
⑵ 保護対象・新規性・申請権
意匠は、新規性と独自性があり、産業的に生産または使用できる場合に登録可能です(第5条第1項)。
ただし、技術的・実用的な側面のみを重視した意匠、公序良俗に反する可能性がある意匠、未登録の意匠、国章などを模した意匠は保護対象外となります(第4条)。
「新規性」は、出願日または優先日前に世界において公開されていない場合、複合製品の場合は通常の使用中に見える部分である必要があります(第5条第3項)。たとえ出願前に公開された場合でも、申請者の許可がない公開の場合は、新規性の判断に影響しません(第5条第4項)。
登録の権利は、原則として意匠の所有者またはデザインをした者に帰属します。共同作成の場合は共同所有となり(第6条第2項)、この権利は譲渡や相続が可能です(第6条第3項)。
⑶ 保護期間
登録された意匠は、出願日または優先日から最長10年間保護されます(第15条第1項)。
この保護は5年ごとの更新が可能で、最大3回まで延長できます(第15条第2項)。登録の有効期限が切れた場合でも、追加料金を支払えば6か月の猶予期間が設けられています。
⑷ 登録手続
申請者は、所定の申請書などを工業省特許意匠商標局(Department of Patents, Designs & Trademarks, Ministry of Industries「DPDT」)に提出して手続きを開始します(第7条第1項)。
また、パリ条約締約国で申請してから6か月以内であれば、優先権を主張することもできます(第8条)。
申請後、その内容はWEB上に30日間掲載され、第三者から異議がないか確認されます(第10条)。
その後、DPDTが、新規性・独自性・産業上の利用可能性について審査を行います(第11条第1項)。不備があった場合、申請者は2か月以内に修正する必要があります(第11条第3項)。
審査基準を満たし、異議もなければ、登録が認められ、証明書が発行されます(第12条第1項)。却下された場合は、申請者に通知されます(第12条第2項)。
⑸ 意匠権侵害
登録された意匠または類似する意匠を、同一または類似の商品・サービスに使用した場合、混同や誤認を引き起こした場合には、侵害と見なされます(第21条)。使用には、製造、販売、輸入などが含まれます。(第2条(p))
侵害が起きた場合、所有者はDPDTに対し行政補償を求めることができ、行政は補償金の支払い命令や、関連製品・材料の没収命令が出すことができます(第22条)。
補償が支払われない場合は、裁判所に訴訟を起こすことが可能です。裁判所は、補償金の支払いや、さらなる侵害を防ぐための差止命令を出すことができます。また、偽造品の破壊や押収、さらには損害賠償も命じることもできます(第23条)。
7.フィリピン
(1) フィリピンで保護される意匠
フィリピンにおいて意匠権の対象となるのは、代工業デザイン(Industrial Designs)です。工業デザインとは、線や色彩の構成、あるいは立体的な形状を指します。
工業デザインが意匠権として保護されるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 特別な外観(special appearance)を持ち、模様としての機能を果たすこと
- 新規性または独創性(new or original)があること
- 技術的結果を得るために本質的(essentially)に技術的・機能的な考慮によってデザインされたものではないこと
- 公序良俗に反したデザインではないこと
(2) 意匠権を保護するための手続
意匠権を保護するには、フィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Philippines)に対して工業デザインの登録申請を行う必要があります。登録されると、第三者による無断の製造や販売等を禁止する権利が付与されます。
(3) 保護期間
工業デザインの保護期間は以下のとおりです。
初回登録:5年間
更新:2回まで可能(1回につき5年間)。更新には所定の更新料の支払いが必要。
最大保護期間:合計15年間
⑷ 意匠権侵害に対する対応
登録された意匠が侵害された場合、権利者は以下のような対応をとることができます。
- 損害賠償請求
- 仮処分や差止命令の申立て
- 刑事罰の追及(繰り返し侵害された場合)
(1) 意匠として保護を受けるための一般的条件
知的財産に関する現行の規定では、工業意匠は「製品または複合製品を構成する部品の外観であって、三次元の形状、線、色彩、またはそれらの要素の組み合わせにより表され、製品または複合製品の使用状態において視認することができるもの」と定義されています。
意匠として保護を受けるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 新規性があること:当該意匠が、当該意匠の登録出願の出願日または優先日(該当する場合)前に、ベトナム国内外において、使用、文書による記載、またはその他のいかなる形式によって公に開示された他の意匠と著しく異なるものであること。
- 創作性があること:当該意匠が、登録出願の出願日または(該当する場合)優先日前に、ベトナム国内外において、使用、文書による記載、またはその他いかなる形式によってすでに公に開示された他の意匠に基づいて、並みの芸術的技能しか持たない者が容易に創作できないほどに複雑であること。
- 産業上の利用可能性があること:当該意匠が、その意匠を具現化した外観を有する製品を、工業的または手工業的手段により大量生産するためのモデルとして使用可能であること。
(2) 意匠として保護を受けることができない対象
以下のいずれかに該当する場合は、意匠として保護を受けることができません。
- 製品の技術的特徴や仕様により必然的に定まる製品の外観
- 土木または工業用の建築物の外観
- 製品の使用状態において視認できない製品の形状
(3) 意匠登録の有効期間
意匠登録は、登録日から起算して、出願日から5年が経過する日まで有効とされます。また、5年ごとの期間で2回、連続して更新することができます。
(4) 意匠登録の基本的な手続き
意匠登録の手続きは、基本的に以下の5つのステップからなります。
- ステップ1:意匠登録のための出願書類を提出します。出願は、ハノイ市の知的財産庁本部、またはホーチミン市およびダナン市の代表事務所に対して、直接提出または郵送により行うことができます。
- ステップ2:方式審査
- ステップ3:工業所有権公報での出願の公開
- ステップ4:実体審査
- ステップ5:意匠特許の付与または拒絶の決定を受け、国家意匠登録簿に記録されるとともに、工業所有権公報に掲載されます。
(5) 意匠侵害の構成要素
製品または製品の一部が、その外観において登録意匠とわずかしか異ならない場合には、当該登録意匠を侵害しているとみなされる可能性があります(例えば、登録意匠または保護されている製品セットのうち少なくとも1つの製品のコピー、あるいは実質的にコピーであり、違いが事実上識別できない程度のものなど)。疑義を避けるために付け加えると、当該意匠登録に記載された意匠の保護範囲が、意匠の侵害構成要素を判断する基礎となります。
9.インド
⑴ 概要
インドにおける意匠制度は、2000年意匠法(Design Act, 2000。以下「意匠法」といいます。)によって規定されています。同法によると、「意匠」とは、二次元、三次元又はその双方の形態かを問わず、手工芸的、機械的、若しくは化学的手段によって、分離若しくは結合の如何にかかわらず、物品に施される線又は色彩の形状、輪郭、模様、装飾又は構成の特徴の特徴に限られるものであって、完成品において視覚に訴え、視覚によってのみ判断されるものと定義されています(意匠法2条(d))。
意匠権の存続期間は出願日から10年間です(同法11条(1))。更新は1回のみ可能で、所定の更新手続を経ることで、前記10年の期間の満了日から更に5年の延長が可能です(同法11条(2))。
また、インドはパリ条約に加盟しており、パリ条約締約国で申請してから6か月以内であれば、優先権を主張することもできます(同法44条(1))。
(2) 登録手続き
出願は特許庁(Patent Office)に対し行われます。
審査の結果、拒絶理由がない場合には、特許庁は意匠の登録を行い当該意匠を官報で公告します(特許法7条)。また、意匠権者に対しては、登録証が発行されます(同法9条)。
一方、審査の結果、拒絶事由が認められる場合には、出願人に対し、書面でその旨が通知されます。この場合、出願人は当該通知の日から3か月以内に当該拒絶理由の解消をするか、聴聞の申請をしなければならず、このような対応がなされない場合には、出願が取り下げられたものとみなされます(意匠法規則(The Design Rules, 2001)18条(1))。
(3) 意匠権侵害
登録された意匠について、無断での販売、販売目的での模倣、輸入等を行うことは意匠権侵害に該当します(意匠法21条(1))。
また、意匠権侵害が生じた場合、意匠権者は侵害者に対し、違反行為ごとに最大で25,000ルピーの支払を求めるか(ただし、1意匠について回収可能な額は最大で合計50,000ルピーまでとされています)、または、意匠権者が違犯に対する損害賠償と差止めを求める訴訟を提起し、判決で命じられた額の賠償金の回収と違反行為の差止めを図ることができます(同法22条(2))。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
(1) 概要
アラブ首長国連邦(UAE)では、産業財産権の規制と保護に関する法(2021年法連邦法第11号)において意匠について規定されています。同法は、フリーゾーンを含むUAE全域に適用されます。
意匠とは、装飾的・審美的な二次元または三次元の創造物で産業または工芸製品に用いられるものと定義されます(第1条)。意匠権として保護されるには、新規性及び公序良俗に反しないことが要件とされ(第43条1項、2項)、経済省所管の登録簿に登録されねばなりません(第40条)。出願前1年以内の公開は新規性があるとみなされ(第43条4項)、UAEと協定・合意を有する国で出願したことによる優先権の主張は、最初に出願した日から6か月間とされます(第42条)。
(2) 登録手続
出願は、意匠の名称等の所定事項を記載した申請書に意匠の図面等の必要書類を添えて提出することにより行います。意匠の説明はアラビア語及び英語で記載されねばならず、出願人が法人の場合の商業登記簿、意匠製作者でない場合の権利譲渡証明書、出願代理人の委任状等には公証を要します(施行規則にかかる閣議決定2022年第6号(以下「施行規則」といいます。)第57条)。出願手数料の支払後、施行規則第63条第1項記載の要件が満たされるかにつき形式審査されます。拒絶のときは理由が示され、再審査の機会が与えられます(施行規則第63条2項、3項)。資料の追加を求める通知から90日以内に出願人が追完しないときは、出願を取り下げたものとみなされます(第49条)。審査通過の通知後60日以内に公開手数料及び権利付与手数料を支払うことにより、意匠の登録は知財公報に掲載され、公報から90日後に登録証明書が発行されます(施行規則第41条、第44条)。
(3) 意匠権の内容
意匠権は、毎年の登録維持料を支払うことにより、出願日から20年間存続します(第45条第1項)。
登録された意匠は、第三者による製品製造における使用並びに意匠に関する商品の輸入、商業的目的の使用のための保管、販売のための展示及び販売が禁止されることにより、保護されます(第46条)。意匠権の侵害に対しては、裁判所における損害賠償(第67条)、侵害した製品等の差押命令(第68条)を請求することができ、裁判所は、差押した製品の他、侵害品及びその製造機具の没収、並びに判決の新聞広告掲載を命ずることができます(第70条)。また、不正確または虚偽の書類を用いて出願をした者や意匠権を侵害した者は、禁固及び10万UAEディルハム以上100万UAEディルハム以下の罰金、またはそのいずれかにより処罰される可能性があります(第69条)。
11. インドネシア
(1) 概要
インドネシアでは、意匠に関する法律2000年第31号(以下、「意匠法」といいます)により、規定されています。この法律で「意匠」とは、3次元又は平面の輪郭、色彩又はこれらの組み合わせによる形状、構造若しくは配置であって、美的印章を与え、一定の生産物、商品、工業製品又は手工芸品に適用できるものと定義されています(意匠法第1条)。
(2) 新規性・保護期間
意匠は、新規性と独自性があり、出願日以前に同一または実質的に同一の意匠が公開・使用されていないことが必要です(意匠法第2条)。ただし、展示会出展による公開や研究目的使用などは6カ月間までは新規制を保持できます(意匠法第3条)。また、意匠権の保護期間は10年間です(意匠法第5条)。
また、出願人がパリ協定に基づきパリ条約加盟国で先に出願していた場合には、優先権(Hak Prioritas)を行使することができ、最初の出願日がインドネシアにおいても実質的な出願日となります(意匠法第9条)。
(3) 申請
申請の際にはa.) 出願の日付、b.)意匠権者(Pendesain)の氏名、住所、および国籍、c.)出願人(Pemohon)の氏名、住所、および国籍、d.)優先権を主張する場合には、代理人の氏名と住所をインドネシア語で記載し、提出する必要があります(意匠法第11条)。また、a.)出願対象の意匠に関する実物、図面、または写真およびその説明書、b.)出願が代理人を通じて行われる場合には、委任状、c.)出願される意匠が出願人または意匠権者本人の所有物であることを証明書する宣誓書を提出する必要があります(意匠法第11条)。インドネシア国外からの出願には、国内での代理人を通じて出願を行わなければなりません(意匠法第14条)。
申請が受理されると3ヶ月以内に意匠広報などにて一般公開され、第三者から異議がないか確認されます(意匠法第26条)。異議申し立てがあった場合、法務人権大臣により任命された審査官(Pemeriksa)により審査が行われ、6カ月以内に異議の是非について判断されます(意匠法第26、27条)。審査基準を満たし、異議もなければ登録が認められ、登録証が発行されます(意匠法第29条)。
(4) 意匠権侵害
意匠権者は排他的権利を有し、研究および教育の目的での使用を除き、自らの同意なく、製造、使用、販売、輸出入、流通を行う者に対して、これを禁止する権利を有します(意匠法第9条)。
意匠権者は、故意かつ無断で、上記に関する行為を行った者に対して、損害賠償請求、該当する行為の差止め請求をすることができます(意匠法第46条)。また、違反した者には最長4年の拘禁および/または最大3億ルピアの罰金が科される可能性があります(意匠法第54条)。
発行 TNY Group
【TNYグループ及びTNYグループ各社】
・TNY Group
・東京・大阪(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所(東京及び大阪)、永田国際特許事務所)
・佐賀(TNY国際法律事務所)
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・タイ(TNY Legal Co., Ltd.)
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・マレーシア(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
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・ミャンマー(TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.)
・メキシコ(TNY LEGAL MEXICO S.A. DE C.V.)
・エストニア(TNY Legal Estonia OU)
URL: http://estonia.tny-legal.com/
・バングラデシュ(TNY Legal Bangladesh)
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・フィリピン(GVA TNY Consulting Philippines, Inc.)
URL: https://gvalaw.jp/offices/philippines
・ベトナム(KAGAYAKI TNY LEGAL (VIETNAM) CO., Ltd.)
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・イギリス(TNY CONSULTING (UK) Ltd.)
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・インド(TNY Services (India) Private Limited)
・インドネシア(PT TNY CONSULTING INDONESIA)
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